特許第6653496号(P6653496)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6653496ビニル側基含有アイオノマー及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6653496
(24)【登録日】2020年1月30日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】ビニル側基含有アイオノマー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08C 19/24 20060101AFI20200217BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20200217BHJP
   C08K 5/3415 20060101ALI20200217BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20200217BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
   C08C19/24
   C08K5/14
   C08K5/3415
   C08K5/3492
   C08L15/00
【請求項の数】35
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-548120(P2015-548120)
(86)(22)【出願日】2013年12月18日
(65)【公表番号】特表2016-501308(P2016-501308A)
(43)【公表日】2016年1月18日
(86)【国際出願番号】CA2013001044
(87)【国際公開番号】WO2014094121
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2016年12月12日
【審判番号】不服2018-9699(P2018-9699/J1)
【審判請求日】2018年7月13日
(31)【優先権主張番号】61/739,875
(32)【優先日】2012年12月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514078911
【氏名又は名称】アーランクセオ・シンガポール・ピーティーイー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100093919
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 義道
(72)【発明者】
【氏名】ダナ・ケー.・アドキンソン
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・ジェー.・イ−.・デヴィッドソン
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブ・ラウスキー
(72)【発明者】
【氏名】ショーン・マルムバーグ
【合議体】
【審判長】 佐藤 健史
【審判官】 武貞 亜弓
【審判官】 井上 猛
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/083419(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/019301(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C19/00-19/44
C08F8/00-8/50
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応混合物中での
a)アリル性ハライド部分を含有すると共に、少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位及び1種以上の共役ジエンモノマーから誘導された繰返し単位を含有するハロゲン化イソオレフィン共重合体の前記アリル性ハライド部分と、
b)ビニル側基を持たない第一求核剤又は少なくとも1種のビニル側基を含有する第二求核剤が表される下記化学式;
【化1】


(式中Aは窒素又は燐であり、R、R及びRは独立に;任意に1種以上のヘテロ原子を含有する直鎖又は分枝鎖のC〜C18アルキル基;C〜C10アリール;C〜Cヘテロアリール;C〜Cシクロアルキル;C〜Cヘテロシクロアルキル又はそれらの組合わせである。)
の第一及び第二の両求核剤(但し、第一求核剤:第二求核剤の比が4:1〜100:1の範囲であり、且つ反応混合物中での前記2種の求核剤の合計量がハロゲン化イソオレフィン共重合体100部当たり5部未満である。と、
の反応の反応生成物を含むアイオノマー(ionomer)。
【請求項2】
第一求核剤:第二求核剤の比が4:1〜50:1の範囲である請求項1に記載のアイオノマー。
【請求項3】
反応混合物中の前記2種の求核剤の合計量が、ハロゲン化イソオレフィン共重合体100部当たり1〜4部の範囲である請求項1に記載のアイオノマー。
【請求項4】
前記1種以上の共役ジエンモノマーから誘導された繰返し単位がアリル性(allylic)ハロゲン部分を含む請求項1〜のいずれか1項に記載のアイオノマー。
【請求項5】
前記ハロゲン化イソオレフィン共重合体が、1種のコ(co-)モノマーから誘導された繰返し単位を更に含む請求項1〜のいずれか1項に記載のアイオノマー。
【請求項6】
コモノマーがC〜C置換又はハロゲン置換スチレンである請求項に記載のアイオノマー。
【請求項7】
前記1種以上の共役ジエンモノマーが、C〜C16共役ジエンから選ばれる請求項のいずれか1項に記載のアイオノマー。
【請求項8】
前記共役ジエンモノマーがイソプレンである請求項のいずれか1項に記載のアイオノマー。
【請求項9】
前記少なくとも1種のイソオレフィンモノマーがC〜Cソオレフィンモノマーを含む請求項1〜のいずれか1項に記載のアイオノマー。
【請求項10】
前記イソオレフィンモノマーがイソブチレンを含む請求項に記載のアイオノマー。
【請求項11】
前記ハロゲン化イソオレフィン共重合体がハロブチルゴムを含む請求項1に記載のアイオノマー。
【請求項12】
前記ビニル側基を持たない第一求核剤が、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、又はトリフェニルホスフィンである請求項1〜11のいずれか1項に記載のアイオノマー。
【請求項13】
第一求核剤がトリエチルホスフィンである請求項12に記載のアイオノマー。
【請求項14】
前記ビニル側基を含有する第二求核剤が、ジフェニルホスフィノスチレン、アリルジフェニルホスフィン、ジアリルフェニルホスフィン、ジフェニルビニルホスフィン、トリアリルホスフィン、及びそれらの混合物よりなる群から選ばれる請求項1〜13のいずれか1項に記載のアイオノマー。
【請求項15】
第二求核剤がジフェニルホスフィノスチレンである請求項14に記載のアイオノマー。
【請求項16】
a)アリル性ハライド部分を含有すると共に、少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位及び1種以上の共役ジエンモノマーから誘導された繰返し単位を含有するハロゲン化イソオレフィン共重合体を用意する(provide)工程、
b)ビニル側基を持たない第一求核剤又は少なくとも1種のビニル側基を含有する第二求核剤が表される下記化学式;
【化1】


(式中Aは窒素又は燐であり、R、R及びRは独立に;任意に1種以上のヘテロ原子を含有する直鎖又は分枝鎖のC〜C18アルキル基;C〜C10アリール;C〜Cヘテロアリール;C〜Cシクロアルキル;C〜Cヘテロシクロアルキル又はそれらの組合わせである。)
の第一及び第二の両求核剤を第一求核剤:第二求核剤の比が4:1〜100:1の範囲で、且つ反応混合物中での前記2種の求核剤の合計量がハロゲン化イソオレフィン共重合体100部当たり5部未満で用意する工程、
c)反応混合物中で前記ハロゲン化共重合体のアリル性ハロゲン部分を第一及び第二求核剤と反応させてアイオノマーを形成する工程、
を含むアイオノマーの製造方法。
【請求項17】
前記ハロゲン化イソオレフィン共重合体は、第一求核剤と、引続き第二求核剤と順次反応される請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ハロゲン化イソオレフィン共重合体と第一及び第二求核剤との反応が異なる条件で行われる請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ハロゲン化イソオレフィン共重合体と第一及び第二求核剤との反応が異なる温度で行われる請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記ハロゲン化イソオレフィン共重合体と第一求核剤との反応が130℃の温度で10分間行われる請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記ハロゲン化イソオレフィン共重合体と第二求核剤との反応が90℃の温度で35分間行われる請求項17に記載の方法。
【請求項22】
ハロゲン化イソオレフィン共重合体が、1種のコモノマーから誘導された繰返し単位を更に含む請求項16〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
コモノマーがC〜C置換又はハロゲン置換スチレンである請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ハロゲン化イソオレフィン共重合体がハロブチルゴムを含む請求項16に記載の方法。
【請求項25】
前記ビニル側基を持たない第一求核剤が、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、又はトリフェニルホスフィンである請求項1624のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記ビニル側基を含有する第二求核剤が、ジフェニルホスフィノスチレン(DPPS)、アリルジフェニルホスフィン、ジアリルフェニルホスフィン、ジフェニルビニルホスフィン、トリアリルホスフィン、及びそれらの混合物よりなる群から選ばれる請求項1625のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
a)アリル性ハライド部分を含有すると共に、少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位及び1種以上の共役ジエンモノマーから誘導された繰返し単位を含有するハロゲン化イソオレフィン共重合体を用意する工程、
b)ビニル側基を持たない第一求核剤又は、少なくとも1種のビニル側基を含有する第二求核剤として、前記ビニル側基を含有する燐求核剤(以下、「燐求核剤型第二求核剤」という)が表される下記化学式;
【化1】


(式中Aは窒素又は燐であり、R、R及びRは独立に;任意に1種以上のヘテロ原子を含有する直鎖又は分枝鎖のC〜C18アルキル基;C〜C10アリール;C〜Cヘテロアリール;C〜Cシクロアルキル;C〜Cヘテロシクロアルキル又はそれらの組合わせである。)
の第一求核剤及び前記燐求核剤型第二求核剤を、第一求核剤:前記燐求核剤型第二求核剤の比が4:1〜100:1の範囲で、且つ反応混合物中での第一求核剤及び前記燐求核剤型第二求核剤の合計量がハロゲン化イソオレフィン共重合体100部当たり5部未満用意する工程、及び
c)反応混合物中で前記ハロゲン化イソオレフィン共重合体のアリル性ハロゲン部分を第一求核剤及び前記燐求核剤型第二求核剤と反応させてアイオノマーを形成する工程、及び
d)該アイオノマーを好適な硬化温度に加熱して、アイオノマーを硬化する工程、
を含む硬化重合体の製造方法。
【請求項28】
前記硬化温度が80〜250℃の範囲である請求項27に記載の方法。
【請求項29】
硬化工程が過酸化物硬化剤を添加する工程を含む請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
過酸化物硬化剤が、ジクミルパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、2,2’−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ベンゾイルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、又は2,5−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサンを含む請求項29に記載の方法。
【請求項31】
過酸化物硬化剤が、ハロゲン化イソオレフィン共重合体100部当たり0.01〜7部の量で添加される請求項29又は30に記載の方法。
【請求項32】
前記方法が、過酸化物硬化剤及びアイオノマーを過酸化物硬化助剤と混合する工程を更に含む請求項2731のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記助剤が、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、N,N’−m−フェニレンジマレイミド、トリアリルシアヌレート(TAC)又は液体ポリブタジエンを含む請求項32に記載の方法。
【請求項34】
請求項1626のいずれか1項に記載の方法で得られたアイオノマー。
【請求項35】
請求項2733のいずれか1項に記載の方法で得られた硬化重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は硬化性ブチルゴム誘導体に関する。特に本発明は、少なくとも1種のビニル側基を含有するアイオノマーに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
ポリ(イソブチレン−コ(co)−イソプレン)又はIIRは、1940年代からイソブチレンと、少量の(通常2.5モル%以下)イソプレンとのランダムカチオン共重合により製造されている、通常ブチルゴム(又はブチル重合体)として知られた合成エラストマーである。その分子構造の結果として、IIRは優れた空気不透過性(impermeability)、高い損失モデュラス、酸化安定性及び長期の耐疲労性を有している。
【0003】
このようなブチルゴムをハロゲン化すると、エラストマー中に反応性に富んだハロゲン化アリル性(allylic halide)官能基を生ずる。従来のブチルゴムハロゲン化方法は、例えばUllumann’s Encyclopedia of lndustrical Chemistry,(第5完全改訂版、第A231巻、Elvers他編著)及び/又はMaurice Mortonによる“Rubber Technology”第3版、第10章(Van Nostrand Reinhold社1987年発行)の特に第297〜300頁に記載されている。
【0004】
ハロゲン化ブチルゴム(ハロブチル)の発展により、非常に高い硬化速度が得られ、また天然ゴムやスチレン−ブタジエンゴム(SBR)のような一般目的のゴムとの共加硫が可能になり、こうしてブチルの有用性は大きく広がった。ブチルゴム及びハロブチルゴムは高価値の重合体である。これは、両ゴムの独特な特性の組合わせ(ハロブチルゴムの場合は、優れた不透過性、良好な可撓性、良好な耐候性、高不飽和ゴムとの共加硫)により、タイヤチューブやタイヤインナーライナーの製造用等、各種の用途に好ましい材料となるからである。
【0005】
ハロゲン化アリル性(allylic)官能基(functionalities)が存在すると、求核的アルキル化反応が起こる。最近になって、臭素化ブチルゴム(BIIR)を窒素及び/又は燐系(based)の求核剤で固体の状態で(in solid state)処理すると、興味深い物理的及び化学的性質を有するIIR系アイオノマーを生じることが判った (以下の文献参照:Parent, J.S.; Liskova, A.; Whitney, R. A; Resendes, R. Journal of Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry 43, 5671-5679, 2005; Parent,J. S.; Liskova, A.; Resendes, R. Polymer 45 ,8091-8096,2004 ; Parent ,J. S.; Penciu, A. ; Guillen-Castellanos, S. A. ; Liskova, A. ; Whitney, R. A. Macromolecules 37, 7477-7483,2004)。このアイオノマー官能基は、窒素又は燐系求核剤とハロゲン化ブチルゴムのハロゲン化アリル性部分との反応でそれぞれアンモニウム又はホスホニウムイオン基を生成することから生じるものである。
【0006】
殆どの用途ではブチルゴムは、他のゴムと同様、有用で耐久性の最終用途製品を得るため、配合し(compound)、加硫(化学的に架橋)しなければならない。ブチルゴムのグレードは特定の加工及び性能要件、並びに分子量、不飽和及び硬化速度の範囲に合わせるために、発展してきた。前記最終用途属性(end use attributes)及び加工設備の両方とも特定の用途に使用するためのブチルゴムの正しいグレードを決める際に重要である。
【0007】
過酸化物硬化性ブチルゴムコンパウンドは従来の硫黄硬化システムに比べて幾つかの利点がある。通常、この種のコンパウンドは、極めて速い硬化速度を示し、また得られた硬化物品は優れた耐熱性を示す傾向がある。更に、過酸化物硬化性配合物は抽出可能な無機不純物(例えば硫黄)を全く含有しない点で“クリーン”であるとみなされる。したがって、このクリーンなゴム物品は例えばコンデンサーキャップ、医用(biomedical)装置、薬用(pharmaceutical)装置(薬瓶の栓、注射器のピストン棒)に使用できるし、また恐らく燃料電池のシールに使用できる。
【0008】
過酸化物硬化性ブチル系配合物を得るための一方法は、従来のブチルゴムを、ジビニルベンゼン(DVB)のようなビニル芳香族化合物及び有機過酸化物(特開平06−107738号公報)と併用することである。DVBの代わりに電子吸引基含有多官能モノマー(エチレンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、N,N’−m−フェニレンジマレイミド)も使用できる(特開平06−172547号公報)。
【0009】
イソブチレン(IB)、イソプレン(IP)及びDVBをベースとする市販の三元共重合体XL−10000は過酸化物単独で硬化可能である。しかし、この材料は著しいレベルのDVBを持っている。更に、DVBは重合過程中に取り込まれるので、製造中、著しい量の架橋が起こる。得られた高いムーニー粘度(60〜75MU,ML1+8@125℃)及びゲル粒子の存在により、この材料は加工困難となる。
【0010】
カナダ特許CA 2,418,884及びカナダ特許出願2,458,741には、高マルチオレフィン含有量のブチル系過酸化物硬化性コンパウンドの製造法が記載されている。特にCA 2,418,884には、3〜8モル%の範囲のイソプレンレベルを有するIIRの連続製造法が記載されている。重合体主鎖中の高レベルのイソプレンにより、コンパウンドは過酸化物硬化性となる。このような高マルチオレフィンブチルゴムのハロゲン化は、この不飽和の若干を消費し、該エラストマー内に反応性のハロゲン化アリル性官能基を生成する。高レベルのイソプレンにより、3〜8モル%の範囲の臭化アリル性官能基を有するBIIR類似体を生じることが可能である。この場合、重合体主鎖中に残留二重結合が存在することが多い。以上のような求核的置換反応を用いて、これらのハロゲン化アリル性部位からアイオノマー性(ionomeric)部分を創作できる。この場合、残留不飽和は過酸化物硬化を行うのに十分な量である。高レベルのイソプレンを含む過酸化物硬化性ブチルゴムアイオノマー組成物は、PCT国際公開No.WO2007/022618及びWO2007/022619に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
動的用途におけるエラストマーコンパウンドの重要な特徴の一つは亀裂(crack)成長である。ブチルアイオノマーは、不飽和の他にイオン性官能基を持っている。このようなコンパウンドを硬化する際、可逆的なイオン性架橋及び非可逆的な化学架橋の両方が起こる。可逆的なイオン性架橋は、重合体鎖が或る程度、流動できるか、移動(mobilize)できる“自己回復”状に(in a “self-healing”manner)ブチルアイオノマーを行動させる。
したがって、一層良好な動的性能及び物性を有するブチルゴムアイオノマー組成物を得ることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
本発明の目的は、ハロゲン化イソオレフィン共重合体と、ビニル側基を持たない第一求核剤と、少なくとも1種のビニル側基を含有する第二求核剤との反応の反応生成物を含むアイオノマー(ionomer)を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
本発明はアイオノマー類、これらアイオノマーの製造方法及びこれらアイオノマーの硬化方法に関する。特に本発明は動的性能及び物性を向上したアイオノマーに関する。ブチルアイオノマーはハロゲン化ブチル重合体から製造される。ブチル重合体は一般に少なくとも1種のイソオレフィンモノマー、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマー及び任意に更に共重合性モノマーから誘導される。
本発明で使用されるハロゲン化共重合体は、少なくとも1種のイソオレフィンモノマー及び1種以上のマルチオレフィンモノマーを含有する。
【0014】
本発明で使用するのに好適なイソオレフィンは、炭素数が4〜16の範囲の炭化水素モノマーである。本発明の一実施形態では炭素数4〜7のイソオレフィンである。本発明で使用されるイソオレフィンの例としては、イソブテン(イソブチレン)、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、4−メチル−1−ペンテン及びそれらの混合物が挙げられる。好ましいイソオレフィンはイソブテン(イソブチレン)である。
【0015】
当業者に知られているように、イソオレフィンと共重合可能なマルチオレフィンは本発明を実施する際に使用できる。一実施形態では、マルチオレフィンモノマーは共役ジエンである。このようなマルチオレフィンの例には例えば炭素数が4〜14の範囲のものが含まれる。好適なマルチオレフィンの例としては、イソプレン、ブタジエン、2−メチルブタジエン、2,4−ジメチルブタジエン、ピペリリン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン、2−ネオペンチルブタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、4−ブチル−1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ペンタジエン、2,3−ジブチル−1,3−ペンタジエン、2−エチル−1,3−ペンタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,6−ヘプタジエン、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、1−ビニル−シクロヘキサジエン及びこれらの混合物が挙げられる。特に好ましい共役ジエンはイソプレンである。
【0016】
ハロゲン化共重合体において、複数のマルチオレフィンモノマーから誘導された複数の繰返し単位の1つ以上はアリル性ハロゲン部分を含む。
本発明に有用なハロゲン化共重合体は、イソオレフィン及びマルチオレフィンと一緒に別のコモノマーを任意に含有してよい。
コモノマーはイソオレフィン及び/又はジエンと共重合可能なモノマーを含む。本発明で使用するのに好適なコモノマーとしては、例えばC〜Cアルキル置換スチレンに限定されるものではないが、アルキル置換ビニル芳香族コモノマーのようなスチレン系(styrenic)モノマーが含まれる。このようなコモノマーの特定例としては、例えばα−メチルスチレン、p−メチルスチレン、クロロスチレン、シクロペンタジエン及びメチルシクロペンタジエンが挙げられる。
【0017】
本発明の一実施形態では本発明の共重合体は、例えばイソブチレン、イソプレン及びp−メチルスチレンのランダム共重合体類を含んでよい。
本発明の更に他の一実施形態では、前述のようなイソオレフィンモノマーは、C〜Cアルキル置換スチレンに限定されるものではないが、スチレン系モノマー、例えばアルキル置換ビニル芳香族コモノマーと重合される。スチレン系モノマーの特定例としては、例えばα−メチルスチレン、p−メチルスチレン、クロロスチレン、シクロペンタジエン及びメチルシクロペンタジエンが挙げられる。この実施形態ではブチルゴム重合体は例えばイソブチレン、イソプレン及びp−メチルスチレンのランダム共重合体類を含んでよい。
【0018】
前述のように、本発明の共重合体は、ここで説明した複数のモノマーの混合物から形成される。一実施形態では、このモノマー混合物はイソオレフィンモノマーを約80〜約99重量%及びマルチオレフィンモノマーを約1〜約20重量%含有する。他の一実施形態では、モノマー混合物はイソオレフィンモノマーを約85〜約99重量%及びマルチオレフィンモノマーを約1〜15重量%含有する。本発明の特定の実施形態では、3つのモノマーが採用できる。このような実施形態ではモノマー混合物は、イソオレフィンモノマーを約80〜約99重量%、マルチオレフィンモノマーを約0.5〜約5重量%、及びイソオレフィン又はマルチオレフィンモノマーと共重合可能な第三のモノマーを約0.5〜約15重量%含有する。一実施形態ではモノマー混合物は、イソオレフィンモノマーを約85〜約99重量%、マルチオレフィンモノマーを約0.5〜約5重量%、及びイソオレフィン又はマルチオレフィンモノマーと共重合可能な第三モノマーを約0.5〜約10重量%含有する。更に他の一実施形態ではモノマー混合物は、イソオレフィンモノマーを約80〜約99重量%及びスチレン系モノマーを約1〜20重量%含有する。
【0019】
一実施形態ではハロゲン化共重合体を得るには、まず、1種以上のイソオレフィン及び1種以上のマルチオレフィンを含有するモノマー混合物から共重合体を製造し、次いで、得られた共重合体をハロゲン化プロセスにかけてハロゲン化共重合体を形成すればよい。ハロゲン化は当業者に公知の方法、例えばMaurice Morton編“Rubber Technology”第3版(Kluwer Academic Publishers発行)第297〜300頁に記載の方法及び更にそこに引用された文献に記載の方法に従って行うことができる。
【0020】
一実施形態では、このマルチオレフィンブチル重合体はマルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位を0.5モル%以上含有する。一実施形態では、マルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位は0.75モル%以上である。一実施形態では、マルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位は1.0モル%以上である。一実施形態では、マルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位は1.5モル%以上である。一実施形態では、マルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位は2.0モル%以上である。一実施形態では、マルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位は2.5モル%以上である。
一実施形態ではマルチオレフィンブチル重合体はマルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位を3.0モル%以上含有する。一実施形態では、マルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位は4.0モル%以上である。一実施形態では、マルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位は5.0モル%以上である。一実施形態では、マルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位は6.0モル%以上である。一実施形態では、マルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位は7.0モル%以上である。
【0021】
本発明の一実施形態ではアイオノマーは、マルチオレフィンモノマーを0.5〜2.2モル%の範囲有するハロゲン化ブチルゴム重合体から製造してよい。本発明で使用されるハロゲン化ブチルゴムとしては、例えばイソブチレンと2.2モル%未満のイソプレンを含むハロゲン化ブチルゴムが挙げられる。これはLANXESS Deutschland GmbHから商品名BB2030(登録商標)で市販されている。本発明の他の一実施形態ではアイオノマーは、高マルチオレフィン含有量、例えば2.5モル%を超える高マルチオレフィン含有量のハロゲン化ブチルゴム重合体から製造してよい。本発明の更に他の一実施形態ではアイオノマーは、高マルチオレフィン含有量、例えば3.5モル%を超える高マルチオレフィン含有量のハロゲン化ブチルゴム重合体から製造してよい。本発明の更に他の一実施形態ではハロゲン化ブチルゴム重合体のマルチオレフィン含有量は4.0モル%を超える。本発明の更に他の一実施形態ではハロゲン化ブチルゴム重合体のマルチオレフィン含有量は7.0モル%を超える。本発明で使用される好適な高マルチオレフィンブチルゴム重合体は、同時係属出願のCA2,418,884に記載されている。この文献は参考のため、ここに援用する。
【0022】
ハロゲン化中、共重合体中のマルチオレフィン含有量の若干又は全部はアリル性ハライド(allylic halide)含有単位に転化する。したがって、ハロブチル重合体中のアリル性ハライド部位は、ブチル重合体中に本来存在するマルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位になる。ハロゲン化重合体中のアリル性ハライドの合計含有量は、親のブチル重合体の出発マルチオレフィン含有量を超えることはできない。アリル性ハライド部位は1種以上の求核剤と反応して、ハロブチル重合体に求核剤を付着させる。
本発明のアイオノマーは、ハロゲン化イソオレフィン共重合体をビニル側基を持たない第一の求核剤及びビニル側基を含有する第二の求核剤と反応させて得られる。
【0023】
ハロゲン化イソオレフィン共重合体と、特定量及び/又は特定相対比の、ビニル側基を持たない第一求核剤及びビニル側基を含有する第求核剤との反応により形成されたアイオノマーは、他の物性を犠牲にすることなく、亀裂成長耐性(resistance)のような有益な物性を向上することが意外にも見出された。
本発明アイオノマーの製造に好適な求核剤(ビニル側基を持つか、持たない)は、求核置換反応に関与するのに電子的にも立体的にも適用可能な孤立電子対を持った少なくとも1つの中性の窒素又は燐センターを有する。
【0024】
本発明の一実施形態では、本発明ハロブチル重合体のアリル性ハライド部位は下記基本式の求核剤:
【化1】

(式中Aは窒素又は燐であり、R、R及びRは独立に;任意に1種以上のヘテロ原子を含有する直鎖又は分枝鎖のC〜C18アルキル基;C〜C10アリール;C〜Cヘテロアリール;C〜Cシクロアルキル;C〜Cヘテロシクロアルキル又はそれらの組合わせである。)
と反応させる。
【0025】
本発明で使用される求核剤には、例えば、求核置換反応に関与するのに電子的にも立体的にも適用可能な孤立電子対を持った少なくとも1つの中性の窒素又は燐センターを有する求核剤が含まれる。
本発明に従って使用されるビニル側基を有する好適な燐求核剤としては、限定されるものではないが、ジフェニルホスフィノスチレン、アリルジフェニルホスフィン、ジアリルフェニルホスフィン、ジフェニルビニルホスフィン、トリアリルホスフィン又はそれらの混合物が挙げられる。
【0026】
一実施形態では、本発明に従って使用されるビニル側基を有する好適な燐求核剤は、下記式で示されるジフェニルホスフィノスチレン(DPPS)である。
【化2】
【0027】
ビニル側基を持たない好適な求核剤としては、限定されるものではないが、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、2−ジメチルアミノエタノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール、2−(イソプロピルアミノ)エタノール、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、N−メチルジエタノールアミン、2−(ジエチルアミノ)エタノール、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール、4−(ジメチルアミノ)−1−ブタノール、N−エチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、3−ジエチルアミノ−1−プロパノール、3−(ジエチルアミノ)−1,2−プロパンジオール、2−{[2−(ジメチルアミノ)エチル]メチルアミノ}エタノール、4−ジエチルアミノ−2−ブチン−1−オール、2−(ジイソプロピルアミノ)エタノール、N−ブチルジエタノールアミン、N−tert−ブチルジエタノールアミン、2−(メチルフェニルアミノ)エタノール、3−(ジメチルアミノ)ベンジルアルコール、2−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]エタノール、2−(N−エチルアミノ)エタノール、N−ベンジル−N−メチルエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、2−(ジブチルアミノ)エタノール、2−(N−エチル−N−m−トルイジノ)エタノール、2,2’ −(4−メチルフェニルアミノ)−ジエタノール、トリス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]アミン、3−(ジベンジルアミノ)−1−プロパノール、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルフタルイミド、9−ビニルカルバゾール、又はN−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0028】
前述のように、求核剤はハロゲン化共重合体上に存在するアリル性ハライド基(functionality)と反応して、アイオノマー部分の単位となる。したがって、ブチルアイオノマー中のアイオノマー部分の合計含有量は、ハロゲン化共重合体中のアリル性ハライドの出発量を超えることはできない。しかし、残留アリル性ハライド及び/又は残留マルチオレフィンは存在してよい。
本発明アイオノマーの形成に使用される第一求核剤:第二求核剤の比は4:1〜100:1の範囲である。一実施形態では第一求核剤:第二求核剤の比は4:1〜50:1の範囲である。
【0029】
一実施形態では第一求核剤:第二求核剤の比は20:1である。他の一実施形態では第一求核剤:第二求核剤の比は4:1である。
一実施形態では本発明アイオノマーの形成に使用される両求核剤の合計量は5phr未満である。他の一実施形態では両求核剤の合計量は約1〜約4phrの範囲である。他の一実施形態では両求核剤の合計量は2.5phrである。更に他の一実施形態では両求核剤の合計量は2.1phrである。
【0030】
一実施形態では第一求核剤:第二求核剤の比は20:1であり、またこれら2種の求核剤の合計量は2.1phrである。
一実施形態では第一求核剤:第二求核剤の比は4:1であり、またこれら2種の求核剤の合計量は2.5phrである。
一実施形態では共重合体は、ビニル側基を持たない求核剤及びビニル側基を有する求核剤と同時に反応させる。
【0031】
他の一実施形態では、共重合体はビニル側基を持たない求核剤(第一求核剤)及び引続きビニル側基を有する求核剤(第二求核剤)と順次反応させる。他の一実施形態ではこのような反応は、第一求核剤及び第二求核剤を共重合体と異なる反応条件で二段階反応で反応させて、行うことができる。
二段階反応の一実施形態ではこれら2種の求核剤と共重合体との反応は異なる温度で及び/又は異なる時間行われる。
【0032】
ビニル側基を持たない求核剤と共重合体との反応は、約60〜約200℃の範囲の温度で行うことができる。一実施形態ではビニル側基を持たない求核剤と共重合体との反応は、約80〜約160℃の範囲の温度で行われる。他の一実施形態ではビニル側基を持たない求核剤と共重合体との反応は、約100〜約140℃の範囲の温度で行われる。
【0033】
一実施形態では共重合体とビニル側基を持たない求核剤は、約0.5〜60分間反応させる。他の一実施形態では共重合体とビニル側基を持たない求核剤は、約1〜30分間反応させる。他の一実施形態では共重合体とビニル側基を持たない求核剤は、約5〜15分間反応させる。
【0034】
ビニル側基を有する求核剤と共重合体との反応は、約60〜約200℃の範囲の温度で行うことができる。一実施形態ではビニル側基を有する求核剤と共重合体との反応は、約70〜約150℃の範囲の温度で行われる。他の一実施形態ではビニル側基を有する求核剤と共重合体との反応は、約80〜約120℃の範囲の温度で行うことができる。他の一実施形態ではビニル側基を有する求核剤と共重合体との反応は、約90〜約100℃の範囲の温度で行うことができる。
【0035】
一実施形態では共重合体とビニル側基を有する求核剤は、約0.5〜120分間反応させる。他の一実施形態では共重合体とビニル側基を有する求核剤は、約5〜50分間反応させる。更に他の一実施形態では共重合体とビニル側基を有する求核剤は、約25〜45分間反応させる。
一実施形態では共重合体とビニル側基を持たない求核剤との反応は、約130℃の温度で10分間行われる。
【0036】
一実施形態では共重合体とビニル側基を有する求核剤との反応は、約90℃の温度で35分間行われる。
本発明のアイオノマーは1種以上の充填剤を含有してよい。本発明で使用される好適な充填剤は、例えばシリカ、シリケート、クレー、ベントナイト、バーミキュライト、ノントロナイト、ベイデライト(beidelite)、ボルコンスコイト(volkonskoite)、ヘクトライト、サポナイト、ラポナイト(laponite)、ソーコナイト、マガジアイト(magadiite)、ケニヤアイト(kenyaite)、レジカイト(ledikite)、石膏、アルミナ、二酸化チタン、タルク及びそれらの混合物等の鉱物の粒子で構成される。
【0037】
好適な充填剤の他の例は以下の通りである。
・ 例えばシリケート溶液の沈殿、又はハロゲン化珪素の火炎加水分解により製造した高分散性シリカで、比表面積(BET比表面積)は、5〜1000m/g、好ましくは20〜400m/gの範囲で、主な粒度は、10〜400nmの範囲である。このシリカは、任意に、Al、Mg、Ca、Ba、Zn、Zr及びTiのような他の金属の酸化物との混合酸化物として存在してもよい。
【0038】
・ 珪酸アルミニウム、アルカリ土類金属シリケートのような合成シリケート。
・ 珪酸マグネシウム又は珪酸カルシウムで、BET比表面積は20〜400m/gの範囲で、主な粒度は10〜400nmの範囲である。
・カオリン及びその他の天然産シリカのような天然シリケート。
・モンモリロナイト及びその他の天然産クレーのような天然クレー。
・親有機的に変性したモンモリロナイトクレー(例えばSouthern Clay Productsから入手できるCloisite(登録商標)ナノクレー)及びその他の親有機的に変性した天然産クレーのような親有機的変性クレー。
・ガラスファイバー及びガラスファイバー製品(マット、押出品)又は微小ガラス球。
・酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムのような金属酸化物。
・炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム及び炭酸亜鉛のような金属炭酸塩。
・ 金属水酸化物、例えば水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びそれらの組合わせ。
【0039】
本発明の一実施形態では無機充填剤はシリカである。他の一実施形態では無機シリカは珪酸ナトリウムの二酸化炭素沈殿で製造されたシリカである。
本発明に従って無機充填剤として使用するのに好適な乾燥非晶質シリカ粒子は、平均凝集物粒度が1〜100μの範囲であってよい。本発明の一実施形態では乾燥非晶質シリカ粒子の平均凝集物粒度は10〜50μの範囲であってよい。本発明の他の一実施形態では乾燥非晶質シリカ粒子の平均凝集物粒度は10〜25μの範囲であってよい。本発明の一実施形態では凝集物粒子の10容量%未満は、5μ未満か、或いは50μを超える粒度であると期待される(contemplate)。好適な非晶質乾燥シリカは、更に通常、DIN(ドイツ工業規格)66131に従って測定したBET表面積が50〜450m/gの範囲であり、DIN 53601に従って測定したDBP吸収量が、150〜400g/100gシリカの範囲であり、またDIN ISO 787/11に従って測定した乾燥減量が、0〜10重量%の範囲である。好適なシリカ充填剤は、PPG Industries Inc.から商品名HiSil 210、HiSil 233及びHiSil 243で得られる。またBayer AGから得られるVulkasil S及びVulkasil Nも好適である。
【0040】
本発明で使用される無機充填剤は単独でも或いは下記のような公知の非無機充填剤も使用できる。
・カーボンブラック。好適なカーボンブラックは、好ましくはランプブラック法、ファーネスブラック法又はガスブラック法で製造され、BET比表面積が20〜200m/gの範囲で、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF又はGPFカーボンブラックである。
・ゴムゲル、好ましくはポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体及びポリクロロプレンをベースとするゴムゲル。
【0041】
本発明で有用な高アスペクト比の充填剤は、アスペクト比が少なくとも1:3の、クレー、タルク、マイカ等が挙げられる。この種の充填剤は平板又は針状構造を有する非円形(acircular)又は非異性(nonisomeric)材料を含有してよい。アスペクト比はプレートの面と同じ領域の円の平均直径:プレートの平均厚さの比として定義される。針状及び繊維状充填剤のアスペクト比は長さ:直径の比である。本発明の一実施形態では、高アスペクト比の充填剤のアスペクト比は少なくとも1:5である。本発明の他の一実施形態では高アスペクト比の充填剤のアスペクト比は1:7である。本発明の更に他の一実施形態では高アスペクト比の充填剤のアスペクト比は1:7〜1:200の範囲である。本発明による充填剤の平均粒度は、0.001〜100μの範囲である。他の一実施形態では充填剤の平均粒度は、0.005〜50μの範囲である。他の一実施形態では充填剤の平均粒度は、0.01〜10μの範囲である。好適な充填剤のBET表面積は、DIN(ドイツ工業規格)66131に従って測定して5〜200m/gの範囲である。
【0042】
本発明の一実施形態では高アスペクト比の充填剤は、ナノクレー、例えば有機的に変性したナノクレーを含む。本発明は特定のナノクレーに限定されるものではないが、出発材料として好適な例はナトリウムモンモリロナイト又はカルシウムモンモリロナイトのような天然の粉末スメクタイトクレー、又はハイドロタルサイトやラポナイトのような合成クレーである。一実施形態では高アスペクト比の充填剤には有機変性モンモリロナイトナノクレーが含まれる。この種のクレーは、当該技術分野で知られているように、一般に疎水性重合体環境内でクレーの分散を促進する界面活性官能基をクレーに付与するため、オニウムイオンに対する遷移金属の置換により変性してよい。本発明の一実施形態ではオニウムイオンは、燐系(例えばホスホニウムイオン)及び窒素系(例えばアンモニウムイオン)であり、炭素数2〜20の範囲の官能基(例えばNR+−MMT)を有する。
【0043】
クレーは25μm容量未満のようなナノメーター規模の粒度で供給してよい。一実施形態では粒度は1〜50μmの範囲である。他の一実施形態では粒度は、1〜30μmの範囲である。他の一実施形態では粒度は2〜20μmの範囲である。
シリカの他、ナノクレーは若干のアルミナ画分(fraction)も含有してよい。一実施形態ではナノクレーはアルミナを0.1〜10重量%の範囲で含有してよい。他の一実施形態ではナノクレーは、アルミナを0.5〜5重量%含有してよい。更に他の一実施形態ではナノクレーは、アルミナを1〜3重量%含有してよい。
【0044】
本発明で高アスペクト比の充填剤として使用するのに好適な市販の有機変性ナノクレーの例は、例えばCloisite(登録商標)クレー10A、20A、6A、15A、30B又は25Aである。一実施形態では、予備成形した(preformed)ブチルゴムアイオノマーに高アスペクト比の充填剤を3〜80phr量添加してナノ複合材料を形成してよい。一実施形態では、ナノ複合材料中の高アスペクト比充填剤量は5〜30phrである。他の一実施形態では、ナノ複合材料中の高アスペクト比充填剤量は5〜15phrである。
本発明のアイオノマーは、硬化しても硬化しなくてもよい。硬化用に好適な硬化システムの選択は特に制限されず、当業者の範囲内である。本発明の特定の実施形態では、硬化システムは硫黄系、過酸化物系、樹脂系又はUV系であってよい。
【0045】
通常の硫黄系硬化システムは(i)金属酸化物,(ii)元素状硫黄及び(iii)少なくとも1種の硫黄系促進剤を含有する。硫黄硬化システムの一成分として金属酸化物を使用することは当業界に周知である。好適な金属酸化物は酸化亜鉛である。酸化亜鉛は約1〜約10の量使用してよい。本発明の他の一実施形態では酸化亜鉛は、ナノ複合材料中のブチル重合体100部当たり約2〜約5重量部の範囲の量で使用してよい。好ましい硬化システムの成分(ii)の元素状硫黄は、通常、該組成物中のブチル重合体100部当たり約0.2〜約2重量部の範囲の量で使用してよい。好適な硫黄系促進剤(好ましい硬化システムの成分(iii))は、該組成物中のブチル重合体100部当たり約0.5〜約3重量部の範囲の量で使用してよい。有用な硫黄系促進剤の非限定例は、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)のようなチウラムスルフィド類、ジメチルジチオカルバメート亜鉛(ZDC)のようなチオカルバメート類及びメルカプトベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)のようなベンゾチアジル化合物類から選択できる。本発明の一実施形態では、硫黄系促進剤はメルカプトベンゾチアジルジスルフィドである。
【0046】
過酸化物系硬化システムは本発明のアイオノマー、例えば約0.2モル%の過剰の残留マルチオレフィン含有量を含むブチルゴムアイオノマーラテックスと併用するのに好適かも知れない。例えば過酸化水素系硬化システムは過酸化物硬化剤、例えばジクミルパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、2,2’−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン(Vulcup(登録商標)40KE)、ベンゾイルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン等を含む。このような過酸化物硬化剤の一つはジクミルパーオキシドを含み、商品名DiCup 40Cで市販されている。
【0047】
一実施形態では、過酸化物硬化剤は、ゴム100部当たり(phr)0.2〜7部の量で使用される。他の一実施形態では、過酸化物硬化剤は1〜6phrの量で使用される。更に他の一実施形態では、過酸化物硬化剤は約4phrの量で使用される。
本発明では過酸化物硬化助剤も使用できる。好適な過酸化物硬化助剤としては、例えばDuPontから商品名DIAK 7で市販されているトリアリルイソシアヌレート(TAIC)、HVA−2(DuPont Dow)として知られているN,N’−m−フェニレンジマレイミド、Ricon D 153(Ricon Resinsから供給される)として知られているトリアリルシアヌレート(TAC)又は液体ポリブタジエンが挙げられる。過酸化物硬化助剤は過酸化物硬化剤量と当量以下で使用してよい。
過酸化物硬化物品の状態は増加量(increased levels)の不飽和を含む、例えばマルチオレフィン含有量が0.5モル%以上のブチル重合体によって高められる。
【0048】
本発明の幾つかの実施形態では、安定剤、酸化防止剤、粘着付与剤、及び/又は当業者に公知のその他の添加剤も常法に従って通常量添加してよい。
更に、充填剤、その他の添加剤もアイオノマーに添加してよい。
【0049】
組成物がアイオノマー、充填剤及び/又はその他の添加剤を含む実施形態では、これら成分は慣用の配合技術を用いて一緒に配合(compound)してよい。好適な配合技術としては、例えばバンバリーミキサーのような密閉型ミキサー、ハーク(Haake)又はブラベンダーミキサーのような小型密閉型ミキサー、又は2本ロールミルミキサーを用いてこの複合物(composite)の成分を一緒に混合することが含まれる。押出機も良好な混合を提供し、また更に短時間の混合を可能にする。混合を2以上の段階で行うことが可能であり、また異なる装置、例えば一段階を密閉型ミキサーで、一段階を押出機で行うことができる。配合技術についての更なる詳細な情報に関しては、Encyclopedia of Polymer Science and Engineering、第4巻、66頁以降の“Compounding(配合)”を参照。他の技術は当業者に公知であり、配合に更に好適である。
【0050】
一実施形態では硬化は、本発明のアイオノマーを過酸化物硬化剤の存在下、好適な硬化温度に加熱して行われる。一実施形態では硬化温度は約80〜約250℃である。他の一実施形態では、硬化温度は約100〜200℃である。他の一実施形態では、硬化温度は約120〜180℃である。
一面では本発明は、前述し定義したような硬化重合体及びアイオノマー含有物品に関する。
【0051】
本発明のアイオノマーは、ベルト、ホース、靴底、ガスケット、Oリング、ワイヤー/ケーブル、膜、ローラー、空気袋等の用途に役立つ可能性がある。
本発明を特定の実施例を参照して説明する。以下の実施例は本発明の実施形態を説明することを意図するもので、本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0052】
材料及び試剤
トリフェニルホスフィン(TPP)は、Alfa Aesarから入手し、受け取った状態で使用した。BB2030(室温で暗色の包袋に保管されたもの)は、サーニア(Sarnia)のLANXESS Inc.から入手し、受け取った状態で使用した。DPPSはHokkoから入手し、受け取った状態で使用した。Irganox 1010は、Cibaから購入し、受け取った状態で使用した。カーボンブラックN330は、Cabotから入手し、受け取った状態で使用した。Di−Cup 40Cは、Struktol Canada Ltd.から入手し、受け取った状態で使用した。HVA−2は、DuPontから入手し、受け取った状態で使用した。ポリエチレンAC−617Aは、Canada Colors & Chemicals Ltd.から入手し、受け取った状態で使用した。
アイオノマー反応の分析
ゴムサンプルについて、Bruker DRX500分光計(500.13MHz H)を使用してH NMRにより、またイオン含有量を測定するため、100走査を用いてテトラメチルシラン(TMS)を基準とする(referenced to)化学シフトにより、CDCl中で分析した。
【0053】
配合手順及び設備
下記処方に従ってサンプルを配合した。
重合体[0〜60秒]: 100phr
カーボンブラック(N330)(60秒): 50phr
ポリエチレンAC−617A(カーボンブラックを含む): 2phr
約145℃になるまで(約5分)混合し、次いでミキサーから取り出した。得られたコンパウンドを40℃で混練した。
Di−Cup 40C: 1.25phr
HVA−2: 1.75phr
ミル上で6×3/4の切断及び6つの末端状パス(endwise passes)を行った。これらの硬化剤を導入する24時間内でサンプルを硬化した。
【0054】
コンパウンド試験設備及び手順
【表1】
【0055】

下記アイオノマーを製造し、過酸化物の存在下で硬化させ、硬化物の物性及び動的性能を表2A及び表2Bに示すように評価した。これらの表から明らかなように、TPP/DPPSアイオノマーは高い引張強度、引裂強度の僅かな増加、亀裂成長耐性の顕著な向上を示す。
【0056】
例1:比較例
この比較例で使用した重合体は市販のLANXESS BB2030(重合体1)である。
【0057】
例2
密閉型ミキサー中のBB2030に130℃、60rpmで10分間に亘ってトリフェニルホスフィン(TPP)を2phr加え、イオン性官能基が0.33モル%のブチルホスホニウムアイオノマー(アイオノマー1)を形成した。次いでこのアイオノマーを前述の手順を用いて配合した。
【0058】
例3
密閉型ミキサー中のBB2030に130℃、60rpmで10分間に亘ってTPP(2phr)を加え、イオン性官能基が0.33モル%のブチルホスホニウムアイオノマーを形成した。密閉型ミキサー中のアイオノマーに90℃、30rpmで35分間に亘ってジフェニルホスフィノスチレン(DPPS)を0.5phr加え、TPPSアイオノマー及びDPPSアイオノマーの両方を含む二重アイオノマー(アイオノマー2)を得た。次いで、得られたアイオノマーを前述の手順を用いて配合した。
【0059】
TPPアイオノマー求核剤及びDPPSアイオノマー求核剤の両方を含むコンパウンドに対して、TPPアイオノマー反応で始まる2段階の混合を終了した。
【表2A】

【0060】
【表2B】
【0061】
発明の詳細な説明に引用した文献は全て関連部分において援用した。何れの文献の引用も本発明に関して先行技術であるとの承認と解釈すべきではない。
以上、説明の目的で本発明を詳細に説明したが、このような詳細な説明は単に説明の目的のためだけであり、本発明は特許請求の範囲により限定可能であることを除いて、当業者ならば、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、詳細な説明中に種々の変化をなし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0062】
【特許文献1】特開平06−107738号公報
【特許文献2】特開平06−172547号公報
【特許文献3】CA 2,418,884
【特許文献4】カナダ特許出願2,458,741
【特許文献5】WO2007/022618
【特許文献6】WO2007/022619
【非特許文献】
【0063】
【非特許文献1】Ullumann’s Encyclopedia of lndustrical Chemistry,(第5完全改訂版、第A231巻、Elvers他編著)
【非特許文献2】Maurice Mortonによる“Rubber Technology”第3版、第10章(Van Nostrand Reinhold社1987年発行)の特に第297〜300頁
【非特許文献3】Parent, J.S.; Liskova, A.; Whitney, R. A; Resendes, R. Journal of Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry 43, 5671-5679, 2005
【非特許文献4】Parent,J. S.; Liskova, A.; Resendes, R. Polymer 45 ,8091-8096,2004
【非特許文献5】Parent ,J. S.; Penciu, A. ; Guillen-Castellanos, S. A. ; Liskova, A. ; Whitney, R. A. Macromolecules 37, 7477-7483,2004