(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る車両用クラッチユニットの実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る車両用クラッチユニットを車両用シートリフタに適用した状態を示す側面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る車両用クラッチユニット100は、車両用シート40に用いられる。車両用シート40は、着座シート40aと背もたれ40bと、シートフレーム40cを有している。車両用クラッチユニット100は、着座シート40aのシートフレーム40cに固定される。車両用シート40には、車両用シートリフタ41が搭載されている。車両用シートリフタ41は車両用クラッチユニット100を備えている。
【0018】
車両用シートリフタ41は、セクターギヤ41fと、リンク機構と、を備えている。車両用クラッチユニット100は、正逆に回転操作される操作レバー21を備えている。この操作レバー21によって正逆に回転駆動される出力軸部材30と一体のピニオンギヤ31が、車両用シートリフタ41のセクターギヤ41fと噛み合っている。
【0019】
リンク機構は、略上下方向に延びる第一リンク部材41c、略上下方向に延びる第二リンク部材41dと、略横方向に延びる第三リンク部材41eとを備えている。
第一リンク部材41cの上部と第二リンク部材41dの上部はそれぞれ、シートフレーム40cにそれぞれ軸部材41c1,41d1で回転自在に連結されている。第一リンク部材41cの下部と第二リンク部材41dの下部は、それぞれシートスライドアジャスタ41bのスライド可動部材41b1にそれぞれ軸部材41c2,41d2で回転自在に連結されている。
第三リンク部材41eの一端は、軸部材41c1より上方で第一リンク部材41cと軸部材41e1により連結されている。第三リンク部材41eの他端は、セクターギヤ41fと軸部材41e2で回転自在に連結されている。
【0020】
図1に示すように、操作レバー21を反時計方向(上側)に回転させると、その回転方向の入力トルク(回転力)がクラッチユニット100を介してピニオンギヤ31に伝達され、ピニオンギヤ31が反時計方向に回転する。すると、ピニオンギヤ31と噛合するセクターギヤ41fが時計方向に回転して、第三リンク部材41eが第一リンク部材41cの上部を上方に引っ張る。その結果、第一リンク部材41cと第二リンク部材41dが共に起立して、着座シート40aの座面が高くなる。
【0021】
このようにして、操作者が、着座シート40aの高さHを調整した後、操作レバー21に入力していた力を開放すると、操作レバー21が時計方向に回転して元の位置(以降の説明において、中立位置または中立状態と呼ぶ)に戻る。
また、操作レバー21を時計方向(下側)に回転操作した場合は、上記とは逆の動作によって、着座シート40aの座面が低くなる。また、高さ調整後に操作レバー21を開放すると、操作レバー21が反時計方向に回転して元の位置(中立位置、中立状態)に戻る。
そして、操作レバー21を開放した状態では、車両用クラッチユニット100が出力軸部材30(ピニオンギヤ31)の回転にブレーキを掛け、着座シート40aに上下方向の力が加わってもその移動を阻止している。
【0022】
<車両用クラッチユニット>
次に、本実施形態に係る車両用クラッチユニット100を説明する。以下に説明するクラッチユニット100の構成部品は、特に断らない限り基本的に金属製である。
【0023】
図2は車両用クラッチユニット100の分解斜視図である。
図3は車両用クラッチユニット100の軸方向に沿う断面図である。
図2及び
図3に示すように、車両用クラッチユニット100は、操作レバー21と、出力軸部材30と、入力側クラッチ50と、出力側クラッチ60と、ハウジング11を備えている。
【0024】
入力側クラッチ50は、操作レバー21によって駆動(作動)して、操作レバー21の回転を出力軸部材30に伝達する。出力側クラッチ60は、着座シート40aに上下方向の力が加わっても出力軸部材30の回転を阻止する。入力側クラッチ50と出力側クラッチ60は、ハウジング11に収容されている。
【0025】
出力軸部材30は、
図3の左右方向に延びる軸部材である。以降の説明において、「軸方向」とは出力軸部材30の延びる方向を意味する。
図3に示したように、
図3の左方から右方に向かって、出力軸部材30は出力側クラッチ60と入力側クラッチ50とをこの順に貫通している。以降の説明において、
図3における左方を軸方向の出力側、
図3における右方を軸方向の入力側と呼ぶことがある。出力軸部材30の軸方向における出力側の端部に、ピニオンギヤ31が設けられている。出力軸部材30の軸方向における出力側に車両用シート40の車両用シートリフタ40(変位装置)に連結されるピニオンギヤ31(連結部)が設けられている。出力軸部材30の入力側に後述する操作板(操作レバー連結部)が相対回転可能に連結されている。
【0026】
出力軸部材30には、ピニオンギヤ31と、大径円柱部32と、スプライン部33と、小径円柱部34とが、軸方向の出力側から入力側に向かってこの順に設けられている。
【0027】
大径円柱部32は、後述する出力側クラッチ60の出力側外輪部材62に固定されたメタルブッシュ13に回転可能に支持されている。小径円柱部34は、後述する入力側クラッチ50の入力側内輪部材51、入力側外輪部材52、ハウジング11に回転可能に支持されている。スプライン部33の外周面には複数の溝部が形成されている。スプライン部33は、後述する出力側クラッチ60の出力側内輪部材61にスプライン結合している。
【0028】
出力軸部材30の小径円柱部34には、ストッパリング36が装着されている。ストッパリング36は、円筒状の嵌合部36aと、嵌合部36aよりも軸方向の出力側に位置する円板状のフランジ部36bとを有している。嵌合部36aに出力軸部材30の小径円柱部34が嵌め込まれる。フランジ部36bは後述する操作板22(操作レバー連結部)に当接し、操作板22やハウジング11、入力側クラッチ50、出力側クラッチ60が出力軸部材30から抜け出ることを防止する。
【0029】
ハウジング11はカップ状の部材であり、底部11aと筒状部11bとを有している。筒状部11bの底部11aよりも軸方向の出力側の端部に、径方向に突出する2個の固定フランジ11cが形成されている。固定フランジ11cには、固定ボルト挿通孔11dが設けられている。この固定ボルト挿通孔11dに挿し込んだボルト(図示略)をシートフレーム40cのネジ孔にねじ込むことで、ハウジング11がシートフレーム40cに固定される。あるいは、ハウジング11にかしめ部を設けて、該かしめ部をシートフレーム40cにかしめることで、ハウジング11をシートフレーム40cに固定してもよい。
一方の固定フランジ11cに、バネ係止片24aを有するバネ係止部24が固定されている。バネ係止部24は、ハウジング11の固定フランジ11cに固定されている。バネ係止片24aは筒状部11bに沿って軸方向に延びている。
【0030】
また、底部11aの径方向の中心部には、バーリング加工によって、筒状の軸受11gが形成されている。軸受11gは底部11aから軸方向の入力側に向かって延びている。底部11aには、円弧状の長孔からなる3つの窓部11hと、この窓部11hの縁部から軸方向の出力側に向かって延びる3つの突出片11iとが形成されている。
【0031】
操作レバー21は、例えば、合成樹脂から成形されたもので、操作板22が固定される固定部21aと、固定部21aから径方向外方へ延びる棒状の把持部21bと、を有している。操作レバー21は操作板22に固定されている。
操作板22は、操作者が操作レバー21の把持部21bを把持して操作レバー21を正逆に回転操作すると、操作レバー21と一体に正逆に回転する。操作板22は、軸方向について、ハウジング11と操作レバー21の間に設けられている。操作板22は、操作レバー21に固定されている。操作板22はハウジング11に回転可能に支持されている。
【0032】
操作板22(操作レバー連結部)は、操作レバー21に連結される部材である。操作板22は、径方向の中央に挿通孔22aを有している。この挿通孔22aには、出力軸部材30の小径円柱部34が挿通されている。操作板22は出力軸部材30の軸方向の入力側に相対回転可能に連結されている。操作板22は、挿通孔22aの周りに、矩形状の3つの係合孔22bと、円形の固定孔22cとを有している。固定孔22cに挿通させたネジ(図示略)を操作レバー21にねじ込むことで操作板22が操作レバー21に固定される。
【0033】
操作板22の外周縁には、一対の規制片部22eと、操作片部22dが設けられている。操作片部22dは、一対の規制片部22eの間に設けられている。一対の規制片部22eと操作片部22dは軸方向の出力側に向かって延びている。
【0034】
ハウジング11の外周には戻しばね23が設けられている。戻しばね23は、操作レバー21に操作力が加わらないとき(操作力を開放したとき)、操作レバー21(および操作板22)を中立位置に復帰させるばねである。戻しばね23は、両自由端部23aを互いに接近させた円弧状をなす板ばねである。戻しばね23の両自由端部23aの間には、ハウジング11に固定されたバネ係止部24のバネ係止片24aと操作板22の操作片部22dとが配置されている。
【0035】
図4は、操作板22の動きを説明する図である。
図4は
図3におけるA矢視図である。
図4の(a)は中立状態、
図4の(b)は駆動状態を示す。
図4の(a)に示すように、操作者が操作レバー21に操作力を加えない状態(中立状態)では、操作レバー21は、戻しばね23の一対の自由端部23aが共にバネ係止片24a及び操作片部22dに当接する中立位置に支持されている。
【0036】
図4の(b)に示すように、操作者が操作レバー21を正逆のいずれかに回転操作して駆動状態とすると、操作レバー21とともに操作板22がハウジング11に対して回転する。すると、一対の自由端部23aのうちの一方の自由端部23aがハウジング11に固定されたバネ係止片24aとの係合状態を維持する一方、他方の自由端部23aが操作板22の操作片部22dに係合して一方の自由端部23aから離反する方向に移動する。したがって、戻しばね23が撓んで中立位置への復帰力が作用した状態となる。
【0037】
操作レバー21の回転量が所定量に達すると、操作板22の規制片部22eが、バネ係止片24aに当接している他方の自由端部23aに当接し、操作レバー21のそれ以上の回転が規制される。
【0038】
<入力側クラッチ>
図2および
図3に戻り、入力側クラッチ50は、入力側内輪部材51と、入力側外輪部材52と、操作ブラケット54と、入力側クラッチコロ(入力側伝達部材)55と、入力側コロ付勢バネ56とを備えている。
【0039】
入力側内輪部材51は、軸方向に延びる円柱状の部材である。入力側内輪部材51は、中心に出力軸部材30の小径円柱部34が挿通される挿通孔51aを有している。入力側内輪部材51の軸方向の入力側の面には、3つの突起部51bが形成されている(
図2参照)。入力側内輪部材51の外周縁の3箇所に、外方へ膨出する楔カム部51cが等間隔に設けられている。この入力側内輪部材51の軸方向の入力側の面に操作ブラケット54が固定されている。
【0040】
操作ブラケット54は板状の部材である。操作ブラケット54は、径方向の中心に出力軸部材30の小径円柱部34が挿通される挿通孔54aを有している。操作ブラケット54は、入力側内輪部材51の突起部51bが嵌合される3つの嵌合孔54bを有している。
【0041】
操作ブラケット54の外周縁に、3つの爪部54cが設けられている。これらの爪部54cは、ハウジング11の底部11aに形成された窓部11hを貫通し、操作板22の係合孔22bに嵌合されている。これにより、入力側内輪部材51は、操作ブラケット54を介して操作板22と固定されている。
【0042】
入力側外輪部材52は、底部52bと、外輪部52cと、固定部52dと、を有している。底部52bは円板状の部位である。底部52bの径方向の中心に出力軸部材30の小径円柱部34が挿通される挿通孔52aが設けられている。外輪部52cは、底部52bの外縁部に形成された円筒状の部位である。外輪部52cの軸方向の出力側の端部に底部52bが設けられている。固定部52dは、挿通孔52aの外縁から軸方向の出力側へ突出されている。固定部52dの外周面にはスプライン溝が形成されている。固定部52dは、後述する出力側クラッチ60の解除ブラケット63とスプライン結合する。
【0043】
図5は、
図4の(a)に示した中立状態における車両用クラッチユニット100を示す図である。
図5の(a)は
図3におけるB−B断面図であり、中立状態における出力側クラッチ60を示している。
図5の(b)は
図3におけるC−C断面図であり、中立状態における入力側クラッチ50を示している。
【0044】
図5の(b)に示すように、入力側外輪部材52の内周面と入力側内輪部材51の外周面との間には、隙間が設けられている。入力側外輪部材52の内周面は円周面である一方で、入力側内輪部材51の外周面には外方へ膨出する3つの楔カム部51cが設けられている。このため、入力側外輪部材52の内周面と入力側内輪部材51の外周面との間の隙間には、径方向の両端が楔状に先細りになった部分が3つ形成されている。この隙間に、ハウジングの3つの突出片11iが突出している。操作レバー21によって入力側内輪部材51が回転されると、突出片11iが入力側クラッチコロ55の動きを規制する。
【0045】
入力側クラッチ50は、6個の入力側クラッチコロ55と、3個の入力側コロ付勢バネ56とを有している。入力側クラッチコロ55及び入力側コロ付勢バネ56は、入力側内輪部材51の外周面と、入力側外輪部材52の外輪部52cの内周面との間に配置されている。
【0046】
入力側コロ付勢バネ56は、径方向について、入力側内輪部材51の楔カム部51c同士の間に配置されている。また、入力側クラッチコロ55は、入力側内輪部材51の楔カム部51cの両側に一対ずつ配置されている。これらの一対の入力側クラッチコロ55の間に、ハウジング11の突出片11iが配置されている。
【0047】
<出力側クラッチ>
図2および
図3に戻り、出力側クラッチ60は、出力側内輪部材61と、出力側外輪部材62と、解除ブラケット(回転伝達部)64と、出力側クラッチコロ(出力側伝達部材)65と、出力側コロ付勢バネ(弾性部材)66とを備えている。
【0048】
出力側外輪部材62は、略円筒状の部材である。出力側外輪部材62の内側穴の内周面は、メタルブッシュ13の円筒部13bを介して出力軸部材30の大径円柱部32を回転可能に支持している。メタルブッシュ13のフランジ部13aは出力側内輪部材61に摺接し、出力側内輪部材61が出力軸部材30から抜け出ることを防止している。メタルブッシュ13の円筒部13bは樹脂製である。メタルブッシュ13は出力軸部材30に摩擦力を作用させて、車両用シート40を下降させる際の出力軸部材30の回転速度を抑制する。
【0049】
出力側外輪部材62は、円板状の底部62aと、底部62aから軸方向の入力側に延びる筒状の第一円筒部62bと、底部62aから軸方向の出力側に延びる第二円筒部62cとを備えている。第二円筒部62cは第一円筒部62bよりも小径である。
出力側外輪部材62の外周縁には、2か所にテーパ部62dが設けられている。ハウジング11に設けられたかしめ部11fを径方向内側に折り曲げてこの出力側外輪部材62の外周縁にかしめることにより、出力側外輪部材62はハウジング11に対して回転不能に固定されている。
【0050】
出力側内輪部材61は、略円筒状の部材である。出力側内輪部材61は、出力側外輪部材の第一円筒部62よりも小径の部材である。出力側内輪部材61の内側穴の内周面には複数の溝部が設けられ、出力軸部材30のスプライン部33が結合されるスプライン部61aとされている。出力側内輪部材61の軸方向の入力側の面には、6つの突起部61bが形成されている(
図3参照)。出力側内輪部材61の外周部には、外方へ膨出する6つの楔カム部61cが等間隔に形成されている。
【0051】
解除ブラケット64は板状の部材である。解除ブラケット64の内周面には、複数の溝部を有する第一係合穴64aが形成されている。第一係合穴64aは、入力側外輪部材52の固定部52dとスプライン結合する。これにより、解除ブラケット64は、入力側外輪部材52とともに回転可能とされている。
【0052】
解除ブラケット64は、出力側内輪部材61の突起部61bが挿入される複数の第二係合孔64bを有している。これらの第二係合孔64bは、それぞれ周方向に延びる長孔である。この第二係合孔64b内で突起部61bが周方向へ僅かに変位可能とされている。つまり、解除ブラケット64と出力側内輪部材61とは、第二係合孔64b内で突起部61bが変位する範囲で相対的に回転可能とされている。解除ブラケット64の外周縁には、6つの突出片64cが設けられている。
【0053】
図5の(a)に示すように、出力側外輪部材62の内周面と出力側内輪部材61の外周面との間には、隙間が設けられている。出力側外輪部材62の内周面は円周面である一方で、出力側内輪部材61の外周面には外方へ膨出する6つの楔カム部61cが設けられている。このため、出力側外輪部材62の内周面と出力側内輪部材61の外周面との間の隙間には、径方向の両端が楔状に先細りになった形状となった部分が6つ形成されている。この隙間に、解除ブラケット64の6つの突出片64cが突出している。解除ブラケット64が回転されると、突出片64cが隙間の内部を移動する。
【0054】
出力側クラッチ60は、12個の出力側クラッチコロ65と、6個の出力側コロ付勢バネ66とを有している。出力側クラッチコロ65及び出力側コロ付勢バネ66は、出力側内輪部材61の外周面と、出力側外輪部材62の外輪部62cの内周面との間の隙間に配置されている。
【0055】
出力側コロ付勢バネ66は、径方向について、出力側内輪部材61の楔カム部61c同士の間に配置されている。また、出力側クラッチコロ65は、出力側内輪部材61の楔カム部61cの両側に一対ずつ配置されている。これらの一対の出力側クラッチコロ65の間に、解除ブラケット64の突出片64cが配置されている。これらの出力側クラッチコロ65は、出力側コロ付勢バネ66によって楔カム部61cの頂部へ向かって付勢されている。
【0056】
次に、上記構成の車両用クラッチユニット100の動作について説明する。なお、以降の説明では、操作レバー21を反時計回りに回転させる場合を説明する。操作レバー21を時計回りに回転させる場合は、以降の説明と回転方向が逆になるだけであるので、その説明を省略する。
【0057】
<操作レバーの回転操作>
図4の(a)に示すように、車両用クラッチユニット100は、中立状態において、戻しばね23の一対の自由端部23aがバネ係止片24a及び操作片部22dに当接されている。
【0058】
図4の(b)に示すように、中立位置から、操作レバー21が反時計方向に回転角度αだけ回転されると、一対の自由端部23aのうちの一方の自由端部23aがバネ係止片24aとの係合状態を維持する一方、他方の自由端部23aが操作板22の操作片部22dに係合して一方の自由端部23aから離反する方向に移動する。
そして、操作板22の規制片部22eが、バネ係止片24aに当接している他方の自由端部23aに当接すると、操作レバー21の回転が規制される。この操作レバー21の回転が規制された状態が操作レバー21の最大操作状態となる。つまり、操作レバー21は、中立状態から最大操作状態までの回転角度が最大操作角αmaxとなるまでの範囲で回転可能とされている。また、操作レバー21が回転されることで、戻しばね23が撓んで中立位置へ戻す方向へ復帰力が作用した状態となる。
【0059】
次に、中立状態から最大操作状態までの動作について説明する。
【0060】
<中立状態>
図5の(a)は、中立状態における出力側クラッチ60を示している。
図5の(a)に示すように、中立状態において、出力側クラッチ60では、出力側クラッチコロ65が出力側コロ付勢バネ66によって楔カム部61cの頂部へ向かって付勢されている。これにより、出力側クラッチコロ65が、楔カム部61cと外輪部62bの内周面との間の楔状の隙間に食い込んでいる。
【0061】
より具体的には、第一出力側クラッチコロ65aが位置している隙間は、反時計方向に向かって先細りの楔形状である。第一出力側クラッチコロ65aは出力側コロ付勢バネ66によって反時計方向に付勢されている。このため、第一出力側クラッチコロ65aは反時計方向に出力側内輪部材61と出力側外輪部材62とに食い込んでいる。
第二出力側クラッチコロ65bが位置している隙間は、時計方向に向かって先細りの楔形状である。第二出力側クラッチコロ65bは出力側コロ付勢バネ66によって時計方向に付勢されている。このため、第二出力側クラッチコロ65bは時計方向に出力側内輪部材61と出力側外輪部材62とに食い込んでいる。
出力側外輪部材62はハウジング11に対して移動不可能であり、かつ、第一出力側クラッチコロ65aおよび第二出力側クラッチコロ65bが出力側内輪部材61と出力側外輪部材62の両者に反時計方向および時計方向に食い込んでいるので、出力側内輪部材61および出力側外輪部材62は回転できない。この結果、出力側内輪部材61にスプライン結合されている出力軸部材30も回転できない。
【0062】
このように、中立状態では、出力側内輪部材61と出力側外輪部材62とが、回転不能なロック状態とされているので、車両用シート40側から出力軸部材30に回転力が付与されても出力軸部材30は回転することがない。これにより、車両用シート40は、その高さが保持された状態で固定される。
【0063】
図5の(b)は、中立状態における入力側クラッチ50を示している。
図5の(b)に示すように、中立状態において、入力側クラッチ50では、入力側クラッチコロ55が入力側コロ付勢バネ56に接触しておらず、入力側クラッチコロ55が入力側コロ付勢バネ56によって楔カム部51cの頂部へ向かって付勢されていない。このため、中立状態において、入力側クラッチコロ55が入力側内輪部材51と入力側外輪部材52とに食い込んでいない。これにより、操作レバー21が回転されると、入力側外輪部材52は入力側クラッチコロ55を介して入力側内輪部材51ともに回転することができる。
【0064】
<回転の初期段階>
図6は、操作レバー21を中立位置から微小角度α1だけ反時計方向に回転させた状態を示す図である。
図6の(a)は出力側クラッチ60を示し、
図6の(b)は入力側クラッチ50を示す。
図6の(b)に示すように、中立位置から操作レバー21が反時計方向に角度α1だけ回転されると、その回転が、操作板22及び操作ブラケット54を介して入力側内輪部材51に伝達される。すると、この入力側内輪部材51が操作レバー21とともに角度α1だけ回転され、入力側クラッチコロ55を介して入力側外輪部材52が入力側内輪部材51とともに回転される。
【0065】
入力側クラッチ50の入力側外輪部材52は解除ブラケット64とスプライン結合している。このため、
図6の(a)に示すように、入力側外輪部材52が回転されると、解除ブラケット64も入力側外輪部材52とともに角度β1だけ回転する。
なお、
図6の(a)に示した状態では、解除ブラケット64の第二係合孔64bの内周面が出力側内輪部材61の突起部61bに当接していない。このため、出力側内輪部材61や出力側外輪部材62には入力側外輪部材52からの回転が伝達されず、出力側内輪部材61や出力側外輪部材62は回転しない。
【0066】
<出力側ロック解除>
図7は、
図6の状態からさらに反時計方向へ操作レバー21を回転させた状態を示す図である。
図7の(a)は出力側クラッチ60を示し、
図7の(b)は入力側クラッチ50を示す。
図7(b)に示すように、操作レバー21が反時計方向にさらに回転されると、入力側内輪部材51及び入力側外輪部材52が回転されて入力側内輪部材51及び入力側外輪部材52の回転角度がα2(α2>α1)になる。
【0067】
すると、
図7(a)に示すように、入力側外輪部材52とともに回転する解除ブラケット64が角度β2まで回転される。解除ブラケット64の回転角度がβ2(出力側ロック解除角度)に達すると、解除ブラケット64の突出片64cが、突出片64cの反時計方向に隣接する出力側クラッチコロ65cに当接し、出力側クラッチコロ65cを反時計回転方向へ押圧する。すると、出力側クラッチコロ65cの楔カム部61cと外輪部62bの内周面への食い込みが解除される。これにより、出力側外輪部材62と出力側内輪部材61とが反時計方向へ回転可能な状態となる。
【0068】
<回転力伝達状態>
図8は、
図7の状態からさらに反時計方向へ操作レバー21を回転させた状態を示す図である。
図8の(a)は出力側クラッチ60を示し、
図8の(b)は入力側クラッチ50を示す。
図8の(b)に示すように、操作レバー21が反時計方向へさらに回転されると、入力側内輪部材51及び入力側外輪部材52が回転されて入力側内輪部材51及び入力側外輪部材52の回転角度がα3(α3>α2)となる。
【0069】
すると、
図8の(a)に示すように、解除ブラケット64が反時計方向へ角度β3(β3>β2)まで回転される。そして、この解除ブラケット64の回転角度がβ3に達すると、解除ブラケット64の第二係合孔64bの内周面が、出力側内輪部材61の突起部61bに当接する。これにより、解除ブラケット64の回転が出力側内輪部材61に伝達可能な状態となる。また、
図7で述べたように、出力側内輪部材61および出力側外輪部材62は既に反時計方向へ回転可能となっている。このため、
図8の状態からさらに操作レバー21を反時計方向へ回転させると、出力側内輪部材61および出力側外輪部材62が反時計方向へ回転し、出力側外輪部材62にスプライン結合した出力軸部材30が反時計方向へ回転する。これにより、車両用シート40の着座シート40aの高さが変位される。
【0070】
<最大回転状態>
図9は、最大操作角αmaxまで反時計方向へ操作レバー21を回転させた状態を示す図である。
図9の(a)は出力側クラッチ60を示し、
図9の(b)は入力側クラッチ50を示す。
操作レバー21が最大操作角αmaxに達するまで回転されると、車両用クラッチユニット100は、最大回転状態となる。この状態において、操作板22の規制片部22eが、バネ係止片24aに当接している他方の自由端部23aに当接し、操作レバー21の回転が規制される(
図4(b)参照)。
【0071】
この最大回転状態では、
図9の(b)に示すように、入力側内輪部材51及び入力側外輪部材52の反時計方向への回転角度αも最大回転角度αmaxとなる。また、
図9(a)に示すように、解除ブラケット64の反時計方向の回転角度が最大回転角度βmaxとなる。そして、この解除ブラケット64とともに回転される出力側内輪部材61の反時計方向への回転角度γが最大回転角度γmaxとなる。
【0072】
<中立状態への復帰>
操作レバー21による一度の回転操作が終了し、操作者が操作レバー21に付与していた回転力を解除すると、撓んでいる戻しバネ23による復帰力で操作レバー21が初期の中立位置へ向かって時計回りに回転される。すると、入力側クラッチ50では、操作レバー21が反時計回りに回転されることで、操作板22及び操作ブラケット54を介して入力側内輪部材51が反時計方向へ回転される。
【0073】
ところで、
図6の(b)に示した入力側内輪部材51の回転角度がα1の状態より入力側内輪部材51の回転角度が大きな状態(
図7〜
図9に示した状態)になると、ハウジング11の突出片11iが、ハウジング11の突出片11iに対して時計方向に隣接する入力側クラッチコロ55aに当接し、該入力側クラッチコロ55aを反時計方向へ押圧する。これにより、該入力側クラッチコロ55aの楔カム部51cと外輪部52cへの食い込みが解除される。この状態から入力側内輪部材51が時計方向に回転しようとすると、該入力側クラッチコロ55aは、入力側内輪部材51の時計方向の回転を入力側外輪部材52に伝達することができない。
【0074】
このため、
図6の(b)に示した入力側内輪部材51の回転角度がα1の状態より入力側内輪部材51の回転角度が大きな状態(
図7〜
図9に示した状態)においては、入力側内輪部材51は入力側外輪部材52に対して空転し、入力側内輪部材51のみが時計方向へ回転し、入力側外輪部材52は回転しない。これにより、操作レバー21が中立位置へ戻される際に、入力側内輪部材51だけが操作レバー21とともに中立位置(
図5(b)参照)へ戻され、出力側クラッチ60では、解除ブラケット64が回転されることがなく、結果的に、出力軸部材30は回転位相が維持された状態となる(
図9(a)参照)。
【0075】
このように、上記の車両用クラッチユニット100では、入力側クラッチ50は、操作レバー21が中立位置から駆動する操作時には、入力側内輪部材51が操作レバー21の回転に伴って回転し、入力側クラッチコロ55を介して入力側外輪部材52を回転させることにより、操作レバー21の回転を出力側クラッチ60に伝達する。そして、操作レバー21を操作した後に中立位置へ復帰する復帰動作時には、出力軸部材30の回転位置を保持したまま操作レバー21を中立位置に復帰させる。また、出力側クラッチ60は、車両用シート40側から出力軸部材30に入力された力による出力軸部材30の回転を規制する。
また、本実施形態に係る車両用クラッチユニット100によれば、操作レバー21を回転させるとすぐに入力側クラッチ50の入力側内輪部材51の回転が入力側外輪部材52に伝達されるので、出力軸部材30の応答性が高められている。
【0076】
<ストッパリング>
ところで、
図3に示したように、操作板(操作レバー連結部)22は、出力軸部材30の軸方向について、ハウジング11に収容された入力側クラッチ50および出力側クラッチ60からなるクラッチ機構と、出力軸部材30の軸方向の一方の端部(入力側端部)との間に位置している。また、この出力軸部材30の軸方向の入力側端部には、ストッパリング(圧入部材)36が圧入されている。出力軸部材30の軸方向の入力側端部には、小径円柱部34よりも小径の小径部34bが設けられている。小径円柱部34と小径部34bとの間に段部34aが形成されている。
【0077】
ストッパリング36は、円筒状の嵌合部36aと、円板状のフランジ部36bとを有している。フランジ部36bは嵌合部36aよりも軸方向の出力側に位置している。ストッパリング36は、出力軸部材30の小径部34bに圧入されている。ストッパリング36は、ハウジング11に収容された入力側クラッチ50および出力側クラッチ60からなるクラッチ機構や操作板22が出力軸部材30から抜け出ることを規制している。
【0078】
ストッパリング36のフランジ部36bが出力軸部材30の段部34aに当接されている。これにより、ストッパリング36は、出力軸部材30の所望の位置に位置決めされている。段部34aは、ストッパリング36を小径部34bに固定した際に、ストッパリング36が操作板22やクラッチ機構と接触しない位置に固定される位置に形成されている。クラッチ機構、ハウジング11、操作レバー21、操作板22は、段部34aより軸方向の出力側で、出力軸部材30に連結されている。
【0079】
このように、本実施形態に係る車両用クラッチユニット100によれば、出力軸部材30の軸方向の入力側の端部に段部34aが設けられており、ストッパリング36が段部34aに当接している。予め、ストッパリング36がクラッチ機構の構成部品と接触しない位置に固定されるように段部34aを設けておくことができる。これにより、ストッパリング36の出力軸部材30の軸方向における圧入精度を管理することなく、ストッパリング36を段部34aに当接するまで圧入するという簡単な工程で車両用クラッチユニット100を組み立てることができる。
【0080】
出力軸部材30には、軸方向の入力側の端部に、軸方向に延びる穴35が形成されている。この穴35は、例えば、鍛造によって形成されたもので、出力軸部材30の入力側の端面で開口している。この穴35は、段部34aよりも出力軸部材30の他方の端部である出力側の端部側に延びている。
【0081】
また、この穴35は、段部34aよりも出力側の端部側で拡径しており、この拡径した部分が拡径部35aとされている。この穴35を形成することで、出力軸部材30は、穴35を囲む外周壁34cの剛性が低減されて容易に弾性変形させることが可能とされている。出力軸部材30へストッパリング36を圧入して装着する際に、穴35が形成された部分の外周壁34cが容易に弾性変形して撓むこととなり、ストッパリング36を圧入しやすくされている。
【0082】
特に、穴35が段部34aよりも出力側の端部側に延びているので、穴35が形成された部分の外周壁34cがより撓みやすくされている。しかも、段部34aよりも出力側の端部側で穴35が拡径していることで、穴35が形成された部分の外周壁34cがさらに撓みやすくされ、ストッパリング36の圧入時における段部34aの周辺への応力集中が緩和されるようになっている。
【0083】
また、本実施形態において、出力軸部材30の入力側の端部に軸方向に延びる穴35が形成されている。この穴35により、出力軸部材30の入力側の端部の穴35を囲む外周壁34cの剛性が低減されている。これにより、容易に外周壁34cを弾性変形させることができる。外周壁34cを弾性変形させることにより、ストッパリング36の圧入がさらに容易になる。また、外周壁34cやストッパリング36の寸法のばらつきを外周壁34cの弾性変形により吸収できるので、部品の製造コストを低減できる。
【0084】
また、本実施形態において、出力軸部材30の入力側の端部の穴35は、段部34aよりも軸方向の出力側に延びている。このため、穴35が形成された部分の外周壁34cがより撓みやすくなり、ストッパリング36をより圧入しやすい。
【0085】
さらに、出力軸部材30に形成した穴35は、
図3に示したように、出力軸部材30の軸方向に沿った断面において、出力軸部材30の外周縁に沿った形状である。このため、穴35が形成された部分の外周壁34cがさらに撓みやすくなり、ストッパリング36を圧入しやすい。また、穴35が同径の場合と比較した場合に段部34a周辺への応力集中が緩和される。