(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1継手部の収容部に収容されて、前記第1継手部とフォークを有する第2継手部とを連結する、圧延ロールの駆動に用いられるスピンドルカップリング用ジョイントであって、
前記フォークに挟まれる支持ピンと、
前記支持ピンの両端に取り付けられ、前記フォークがその間に挿入される一対のスリッパメタルと、を備え、
前記スリッパメタルは、アーチ状の摺動面と、前記摺動面を中央部において区画し、前記第1継手部の前記収容部の突起に係合する溝と、を有し、
前記スリッパメタルは、本体部と、前記本体部を被覆する被覆層と、を有しており、
前記本体部は、前記被覆層よりも高い強度を有し、
前記被覆層は、銅又は銅合金で構成される、スピンドルカップリング用ジョイント。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
厚さの異なる種々の鋼板を圧延する圧延機の操業を継続して行うため、圧延ロール駆動装置は、長期間安定的にロール駆動を行うことが求められる。近年、圧下量を一層大きくするためにミルモータの容量が大きくなっており、これに伴って圧延に必要なトルクも上がりつつある。このため、圧延ロール駆動装置に備えられるスピンドルカップリングにかかる負荷も大きくなりつつあり、耐久性を向上することが求められている。しかしながら、特許文献1の技術では、鰐口部に形成された溝に応力が集中してしまい、これが耐久性向上のネックになっていることが分かった。
【0006】
そこで、本発明は、一つの側面において、長期間に亘って安定的に圧延ロールを駆動することが可能なスピンドルカップリングを備える圧延ロール駆動装置を提供することを目的とする。本発明は、別の側面において、長期間に亘って安定的に圧延ロールを駆動することが可能なスピンドルカップリング及びスピンドルカップリング用ジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、支持ピン及びその両端に取り付けられている一対のスリッパメタルを有するジョイントと、ジョイントを収容する収容部を有する第1継手部と、支持ピンを挟むとともに一対のスリッパメタルの間に挿入されて収容部に収容されるフォークを有する第2継手部と、を備える、圧延ロール駆動用のスピンドルカップリングを提供する。一対のスリッパメタルは、アーチ状の摺動面と、摺動面を中央部において区画する溝と、をそれぞれ有する。収容部は、一対のスリッパメタルを摺動可能に保持し、互いに対向して配置される一対の凹部と、一対の凹部のそれぞれを中央部において区画し、溝に係合する突起とを有する。
【0008】
上記スピンドルカップリングは、ジョイントと、ジョイントを介して連結される第1継手部と第2継手部とを備える。第1継手部の収容部に収容されたジョイントの一対のスリッパメタルの間には、第2継手部のフォークが挿入されている。第1継手部はスリッパメタルを摺動可能に保持し、互いに対向して配置される一対の凹部と、一対の凹部のそれぞれを中央部において区画する突起を有する。
【0009】
一方、ジョイントにおける一対のスリッパメタルは、アーチ状の摺動面と、摺動面を中央部において区画する溝と、をそれぞれ有する。第1継手部の収容部の突起をスリッパメタルの溝に係合させて、第1継手部と第2継手部とを連結することによって、回転時に第1継手部に生じる応力集中を緩和するとともに応力を低減することができる。また、第1継手部に突起を設けることによって、第1継手部の断面係数を大きくすることができる。すなわち、耐久性向上の支障となっていた第1継手部の強度を高くすることができる。これによって、第1継手部の耐久性を向上することができる。したがって、長期間に亘って安定的に圧延ロールを駆動することができる。
【0010】
第1継手部は、上記突起の側面に潤滑油の供給孔を有することが好ましい。供給孔から潤滑油を供給すれば、スピンドルカップリングの回転の遠心力によって、潤滑油が収容部内に供給される。これによって、収容部内の各界面での摩耗が低減され、耐久性を向上することができる。
【0011】
上記スリッパメタルは、本体部と、本体部を被覆する被覆層と、を有しており、本体部は、被覆層よりも高い強度を有することが好ましい。これによって、スリッパメタル自体の強度を維持しつつ、スリッパメタルと接触する第1継手部及び第2継手部の接触面の摩耗を抑制することができる。これによって、第1継手部及び第2継手部の耐久性をより向上することができる。
【0012】
第1継手部の一対の凹部は、収容部の凹部を区画する突起との境界部に溝部を有し、回転軸に垂直な断面でみたときに、上記溝部はR形状を有することが好ましい。このような溝部を有することによって、突起の根元における応力の集中を緩和して、第1継手部の耐久性を一層向上することができる。
【0013】
本発明は、別の側面において、第1継手部の収容部に収容されて、第1継手部とフォークを有する第2継手部とを連結する、圧延ロールの駆動に用いられるスピンドルカップリング用ジョイントであって、フォークに挟まれる支持ピンと、支持ピンの両端に取り付けられ、フォークがその間に挿入される一対のスリッパメタルと、を備える、スピンドルカップリング用ジョイントを提供する。上記スリッパメタルは、アーチ状の摺動面と、摺動面を中央部において区画し、第1継手部の収容部の突起に係合する溝と、を有する。
【0014】
上記スピンドルカップリング用ジョイントは、アーチ状の摺動面を中央部において区画する溝を有する。このようなジョイントと、この溝に係合する突起を有する第1継手部を用いることによって、第1継手部に生じる応力集中を緩和するとともに応力を低減することができる。また、第1継手部に突起を設けることによって、第1継手部の断面係数を大きくすることができる。すなわち、耐久性向上の支障となっていた第1継手部の強度を高くすることができる。これによって、第1継手部の耐久性を向上することができる。したがって、長期間に亘って安定的に圧延ロール駆動を行うことができる。
【0015】
上記スリッパメタルは、本体部と、本体部を被覆する被覆層と、を有しており、本体部は、被覆層よりも高い強度を有することが好ましい。これによって、スリッパメタル自体の強度を維持しつつ、スリッパメタルに接触する第1継手部及び第2継手部の接触面の摩耗を抑制することができる。したがって、第1継手部及び第2継手部の耐久性をより向上することができる。
【0016】
本発明は、さらに別の側面において、回転軸を有するミルモータと、圧延ロールを有し、鋼板を圧延する圧延機と、ミルモータの動力を圧延ロールに伝達するミルスピンドルと、を備える圧延ロール駆動装置を提供する。ミルスピンドルと圧延ロール、及び、ミルスピンドルと前記ミルモータの回転軸、の少なくとも一方は、上述のスピンドルカップリングによって連結されている。
【0017】
上記スピンドルカップリングでは、第1継手部の突起を係合する溝を有するスリッパメタルを備えるジョイントを介して、第1継手部と第2継手部を連結している。このようにして連結することによって、回転時に第1継手部に生じる応力集中を緩和するとともに応力を低減することができる。また、第1継手部に突起を設けることによって、第1継手部の断面係数を大きくすることができる。すなわち、耐久性向上の支障となっていた第1継手部の強度を高くすることができる。これによって、第1継手部の耐久性を向上することができる。このようなスピンドルカップリングを備える圧延ロール駆動装置は、長期間に亘って安定的に圧延ロールを駆動することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、一つの側面において、長期間に亘って安定的に圧延ロールを駆動することが可能なスピンドルカップリングを備える圧延ロール駆動装置を提供することができる。本発明は、別の側面において、長期間に亘って安定的に圧延ロールを駆動することが可能なスピンドルカップリング及びスピンドルカップリング用ジョイントを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、場合により図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0021】
図1は、一実施形態に係る圧延ロール駆動装置の概要を示す図である。
図1の圧延ロール駆動装置は、鋼板65を上下方向に挟むように回転可能に支持される一対の圧延ロール62を備え、鋼板65を圧延する圧延機60と、圧延ロール62を回転駆動するための回転軸72を有するミルモータ70と、ミルモータ70の動力を圧延ロール62に伝達するミルスピンドル50と、ミルスピンドル50と圧延ロール62、及び、ミルスピンドル50とミルモータ70の回転軸72とをそれぞれ連結するスピンドルカップリング100を備える。
【0022】
図1に示される圧延機60は、鋼板65の流通方向の下流側から上流側に向かってみたときの図である。鋼板65を上下から挟む一対の圧延ロール62は、対向方向に圧下することによって鋼板65を圧延する。圧延機60は、一対の圧延ロール62を上下から挟むように一対のバックアップロール63を備える。このような対をなす圧延ロール62及びバックアップロール63は、鋼板65の流通方向に沿って、複数並んで配置される。
【0023】
鋼板65の厚さは、仕様に応じて変わるため、圧延ロール62及びバックアップロール63は、上下に移動可能に支持される。一方、ミルモータ70は、地上に固定されている。このため、鋼板65の厚さに応じて、ミルスピンドル50の水平方向に対する傾斜角θが変化する。スピンドルカップリング100が、自在継手であることによって、鋼板65の厚さが変化しても鋼板65の圧延を継続して行うことができる。
【0024】
図2は、スピンドルカップリング100の分解斜視図である。圧延ロール駆動用のスピンドルカップリング100は、第1継手部10と第2継手部40とジョイント30とを備え、ジョイント30を介して、第1継手部10と第2継手部40が連結される。スピンドルカップリング用であるジョイント30は、支持ピン32と、その両端(
図2では上下端)に取り付けられている一対のスリッパメタル34を有する。
【0025】
一対のスリッパメタル34は、アーチ状の摺動面34aをそれぞれ有している。一方のスリッパメタル34は、他方のスリッパメタル34側とは反対側に突出するようにアーチが形成されている。一方のスリッパメタル34の摺動面34aは、他方のスリッパメタル34の摺動面34aとは反対方向を向いている。スリッパメタル34は、摺動面34aの反対側に平坦面34bを有する。一対のスリッパメタル34の平坦面34bは、互いに対向している。
【0026】
スリッパメタル34は、摺動面34aを中央部において2つに区画する溝35を有する。このような溝35を有することによって、第1継手部10に突起14を設けることが可能となり、第1継手部10の断面係数を大きくすることができる。したがって、スリッパメタル34は、耐久性向上の観点から、スピンドルカップリング100用に好適に用いることができる。溝35は、支持ピン32の端部が嵌合する穴を有している。すなわち、スリッパメタル34は、スリッパメタル34の中央部に設けられた溝35の穴に支持ピン32を嵌合することによって、支持ピン32に取り付けられている。支持ピン32へのスリッパメタル34の取り付け方法はこれに限定されない。
【0027】
第1継手部10は、ジョイント30を収容する収容部11を有し、メスカップリングともいわれる。第1継手部10は、いわゆる鰐口形状を有する、スピンドル側カップリングである。収容部11は、上顎部10aと下顎部10bとで形成されている。収容部11は、上顎部10aと下顎部10bのそれぞれに、スリッパメタル34を摺動可能に保持する一対の凹部12と、一対の凹部12のそれぞれを中央部において区画し、溝35に係合する突起14を有する。すなわち、上顎部10aと下顎部10bには、凹部12と凹部12を中央部において2つに区画する突起14がそれぞれ形成されている。
【0028】
第2継手部40は、円柱状の支持ピン32を挟むとともに一対のスリッパメタル34の間に挿入された状態で収容部11に収容されるフォーク42を有する。第2継手部40は、オスカップリングともいわれる。フォーク42は、スリッパメタル34のアーチ状の摺動面34aの底面をなす平坦面34bに当接する。第2継手部40におけるフォーク42は、U字溝によって形成されている。
【0029】
第1継手部10と第2継手部40がジョイント30を介して連結された状態において、第2継手部40とジョイント30は、支持ピン32の円周方向に沿って相対的に揺動可能である。第1継手部10とジョイント30は、スリッパメタル34の摺動面34aのアーチに沿って相対的に揺動可能である。したがって、第1継手部10と第2継手部40は、相対的に揺動可能であり、
図1における傾斜角θが変わっても、圧延ロールを継続して駆動することができる。
【0030】
図3は、第1継手部10の軸方向に沿った断面図である。
図3に示されるとおり、上顎部10a及び下顎部10bの形状は、回転軸を対称軸として線対称である。すなわち、一対の凹部12が、上顎部10a及び下顎部10bにそれぞれ形成されている。同様に、一対の突起14が、上顎部10a及び下顎部10bにそれぞれ形成されている。
【0031】
第1継手部10は、収容部11よりもミルスピンドル50側に、逃がし用の穴16を有する。穴16は、側面からみたときに半円状を呈している。この穴16を有することによって、第1継手部10に対して、第2継手部40が大きい角度で揺動することができる。また、収容部11へのジョイント30の収容作業を容易にすることができる。
【0032】
図4は、ジョイント30を介して第1継手部10と第2継手部40とが連結されているスピンドルカップリング100の側面図である。第2継手部40のフォーク42は、支持ピン32を挟んだ状態で収容部11に挿入されている。第2継手部40は、挿入方向に沿って揺動可能であり、例えば、U字溝の底に支持ピン32が当接する位置まで挿入されてもよい。凹部12は、スリッパメタル34のアーチ状の摺動面34aに沿うようにR形状を有している。スリッパメタル34の摺動面34aと収容部11の凹部12は、スピンドルカップリング100の回転時に互いに摺動する。
【0033】
収容部11を形成する上顎部10aと下顎部10bの先端部は、それぞれが対向する方向に向かって突出するように形成されている。この先端部は、スピンドルカップリング100の回転軸方向に沿った第2継手部40側へのジョイント30の移動を規制する。これによって、ジョイント30が収容部11内に保持される。
【0034】
図5は、
図4のV−V線断面図である。すなわち、
図5は、スピンドルカップリング100の径方向断面図である。第1継手部10の収容部11内には、ジョイント30が収容されている。ジョイント30の一対のスリッパメタル34の間には、第2継手部40のフォーク42が挿入されている。すなわち、ジョイント30は、一対のスリッパメタル34の間に第2継手部40のフォーク42が挿入された状態で、収容部11内に収容されている。スピンドルカップリング100は、
図5に示すような連結状態で、円周方向に沿って回転する。
【0035】
収容部11を形成する上顎部10a及び下顎部10bは、それぞれ、突起14を備える。突起14は、スリッパメタル34の摺動面34aを2つに区画する溝35に嵌め合わされて係合している。このように突起14と溝35とが係合することによって、スピンドルカップリング100の径方向に沿ったジョイント30の移動が規制され、ジョイント30が収容部11内に保持される。
【0036】
第1継手部10は、突起14の側面14aに供給孔26を有する。供給孔26から供給された潤滑油は、円周方向に沿った回転による遠心力によって、流路18に沿って各界面に供給される。すなわち、突起14の側面14aとスリッパメタル34の溝35との界面、スリッパメタル34の摺動面34aと凹部12との界面、及び、スリッパメタル34の平坦面34bとフォーク42との界面に潤滑油が供給される。これによって、上記界面における摩耗を低減することができる。
【0037】
このように、凹部12を中央部で区画する突起14の側面14aに潤滑油の供給孔26を有することから、遠心力によって上記界面の全体に潤滑油を容易に行き渡らせることができる。これによって、スピンドルカップリング100の耐久性を一層向上することができる。
【0038】
潤滑油は、上顎部10a及び下顎部10bの内部を貫通する貫通孔17によって供給される。なお、潤滑油の供給孔26を設けることは必須ではなく、別の実施形態では、供給孔26はなくてもよい。また、供給孔26及び貫通孔17の位置及び形状は特に限定されない。また、潤滑油を供給孔26から連続的に供給せずに、断続的に供給してもよい。潤滑油の供給量は摩耗の状況に応じて適宜調整することができる。
【0039】
第1継手部10における凹部12は、突起14との境界部に、突起14の突出方向とは逆方向に窪む溝部13を有する。溝部13は、凹部12の他の部分よりも上記突出方向とは逆方向に窪んでいる。溝部13は、突起14の側面14aの外側に隣接して形成されている。溝部13は、
図5のような径方向断面においてR形状を呈している。すなわち、溝部13は、軸方向断面においても径方向断面においてもR形状を呈している。このような溝部13を有することによって、突起14の根元に応力が集中することを抑制している。
【0040】
図6はスリッパメタル34の断面図である。
図6(A)は、スリッパメタル34を回転軸に垂直な断面を示す断面図であり、
図6(B)は、
図6(A)におけるb−b線断面図である。スリッパメタル34の溝35は、突起14と相補的な形状を有する。スリッパメタル34は、本体部52と、本体部52を被覆する、本体部52とは材質の異なる被覆層54とを備えている。被覆層54は、摺動面34a、平坦面34b及び溝35の側面35aに設けられている。
【0041】
本体部52は、被覆層54よりも高い強度を有することが好ましい。ここでいう強度は、疲労限度である。これによって、スリッパメタル34の強度を維持しつつ、摺動面34aに当接する収容部11の凹部12、平坦面34bに当接するフォーク42、及び溝35の側面35aに当接する突起14の側面14aの摩耗を抑制することができる。したがって、第1継手部10及び第2継手部40の耐久性を向上することができる。
【0042】
本体部52は、例えば圧延鋼材及び/又は炭素鋼材で構成され、被覆層54は例えば銅又は銅合金等で構成される。スリッパメタル34と同等の形状を有する鋼製の本体部52を作製した後、本体部52に対して銅又は銅合金を肉盛して被覆層54を形成してもよい。また、スピンドルカップリング100に一旦使用したスリッパメタル34に対して、銅又は銅合金の肉盛を行って被覆層54を形成してもよい。
【0043】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、スピンドルカップリング100は、圧延ロール駆動装置150においてミルスピンドル50の両端に設けられていたが、一端にスピンドルカップリング100を設け、他端に別のスピンドルカップリングを設けてもよい。この場合、圧延機60側に配置されるスピンドルカップリングの方が小型化する必要性が高いことから、圧延機60側に耐久性に優れるスピンドルカップリング100を設けることが好ましい。また、スリッパメタルが被覆層54を有することは必須ではなく、本体部52のみで構成されていてもよい。また、被覆層54を有する場合、被覆層54は、互いに材質の異なる複数の層から構成されていてもよい。
【実施例】
【0044】
実施例及び比較例を参照して本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0045】
(比較例1)
図9に示すようなスピンドルカップリング200を準備した。
図9に示すように、ジョイント230を介して、第1継手部210と第2継手部240とを連結した。ここで、ジョイント230は、支持ピン232と、その両端(
図9では上下端)に一対のスリッパメタル234を有していた。スリッパメタル234は、アーチ状の摺動面234aを中央部において2つに区画する突起235を有していた。突起235は、支持ピン232の端部が嵌合する穴を有していた。
【0046】
第1継手部210は、上顎部210aと下顎部210bとで形成される収容部211を有していた。収容部211は、スリッパメタル234を摺動可能に保持する一対の凹部212と、一対の凹部212のそれぞれを中央部において区画し、突起235に係合する溝214を有していた。すなわち、上顎部210aと下顎部210bには、凹部212と凹部212を中央部において2つに区画する溝214がそれぞれ形成されていた。凹部212は、溝214との境界部に深溝部213を有していた。
【0047】
第2継手部240は、円柱状の支持ピン232を挟むとともに一対のスリッパメタル234の間にフォーク242を挿入した状態で収容部211に収容された。このようにして、第2継手部240は、支持ピン232の円周方向に沿って揺動可能に連結された。
【0048】
図10は、スピンドルカップリング200の径方向断面図である。第1継手部210は、凹部212の底部に潤滑油を供給する供給孔226を有していた。貫通孔217を通過し供給孔226から供給された潤滑油は、円周方向に沿った回転による遠心力によって流路218に沿って流れるように構成されていた。
【0049】
スピンドルカップリング200を回転駆動した場合の第1継手部210における荷重分布及び断面係数の計算を行った。
図11は、第1継手部210の径方向断面における荷重分布を示している。すなわち、
図11は、回転によって上顎部210aが受ける荷重の大きさを示している。
図11において、半径φ=900[mm]であり、斜線部で示される断面積S
1は、122908[mm
2]であった。この部分の断面係数Z
x1は、3.5×10
6[mm
3]であった。
【0050】
図11におけるA−A線断面における荷重分布は
図12に示すとおりであった。すなわち、
図12は、回転による捩じれによって、収容部211の溝214が受ける荷重の大きさを示している。
図12の斜線部で示される断面積S
2は、38400[mm
2]であった。この部分の断面係数Z
x2は、1.02×10
6[mm
3]であった。
【0051】
次に、有限要素法(FEM)によって、スピンドルカップリング200を用いて
図1に示すような圧延機60の圧延ロール62を回転駆動した場合に、第1継手部210の収容部211内に生じる応力分布を解析した。具体的には、第1継手部210を固定したときに、スリッパメタル234から受ける応力を計算した。解析の結果、溝214の底部(
図9の測定点1)、逃がし用の穴216の内壁面(
図9の測定点2)、供給孔226(
図10の測定点3)、及び、溝214の先端(
図12の測定点4)に発生する応力は表1に示すとおりであった。この結果から、溝214の側面214a及び供給孔226において、大きな応力が発生することが確認された。
【0052】
(実施例1)
図2〜
図5に示すスピンドルカップリング100を準備した。なお、準備したスピンドルカップリング100を構成するスリッパメタル34は、
図6に示すような被覆層を有しておらず、銅又は銅合金のみで形成されていた。なお、比較例1のスリッパメタル234も同一の材質で形成されていた。実施例1のスピンドルカップリング100と、比較例1のスピンドルカップリング200は、収容部11(211)の形状、スリッパメタル34(234)の形状、及び、潤滑油の供給孔26(226)の位置が異なっていた。
【0053】
スピンドルカップリング100の回転駆動を行った場合の第1継手部10における荷重分布及び断面係数の計算を行った。
図7は、第1継手部10の径方向断面における荷重分布の計算結果を示している。すなわち、
図7は、回転によって上顎部10aが受ける荷重の大きさを示している。
図7において、半径φ=900[mm]の場合、斜線部で示される断面積S
1は、138204[mm
2]であった。この部分の断面係数Z
x1は、4.2×10
6[mm
3]であった。
【0054】
これらの結果から、径方向断面の断面積S
1及び断面係数Z
x1は、ともに、比較例1よりも大きくなっていることが確認された。断面係数Z
x1は、比較例1の1.2倍であった。
図13は、比較例1の第1継手部210と実施例1の第1継手部10を、径方向断面で比較したときの断面積の差を示す図である。
図13に示すとおり、領域Bの断面積分、実施例1の方が大きくなっていた。
【0055】
図7におけるA−A線断面における荷重分布は、
図8に示すとおりであった。すなわち、
図8は、回転による捩じれによって、収容部11における突起14が受ける荷重の大きさを示している。
図7の斜線部で示される断面積S
2は、48000[mm
2]であった。この部分の断面係数Z
x2は、1.6×10
6[mm
3]であった。これらの結果から、A−A線断面の断面積S
2及び断面係数Z
x2は、ともに、比較例1よりも大きくなっていることが確認された。断面係数Z
x2は、比較例1の約1.6倍であった。
【0056】
比較例1と同様に、FEMによって、スピンドルカップリング100を用いて
図1に示すような圧延機60の圧延ロール62を回転駆動した場合に、第1継手部10の収容部11内に生じる応力分布を解析した。解析の結果、比較例1に比べて、発生する応力が全体的に低くなり、且つ、応力集中が緩和されていることが確認された。突起14の側面14aの頂部(
図7の測定点1)、逃がし用の穴16の内壁面(
図2の測定点2)、供給孔26(
図7の測定点3)、及び、突起14の先端(
図8の測定点4)に発生する応力は表1に示すとおりであった。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示すとおり、比較例1では、測定点1,3に応力が集中していた。これに対し、実施例1では、応力の集中を緩和することができた。実施例1では、測定点1〜4の全てにおいて、目標値上限である39.6kg/mm
2よりも応力を低くすることができた。
【0059】
上述の結果から、実施例1は、比較例1よりも応力集中を緩和できるとともに、応力を低減できることが確認された。このことから、実施例1は、比較例1よりも耐久性に優れる。また、比較例1では、溝214(測定点1)の応力が高いため、潤滑油の供給孔を中心付近に設けることができない。
【0060】
図10に示す供給孔226から潤滑油を供給すると、回転の遠心力によって、
図10に示す流路218に沿って潤滑油が供給される。この場合、溝214の側面214aと突起235の側面との界面、摺動面234aと凹部212との界面の一部(中央側の界面)、及び平坦面234bとフォーク242との界面の一部(中央側の界面)に、潤滑油を供給することができない。
【0061】
これに対し、実施例1では、応力の集中が緩和され、且つ、応力が低減されているため、
図5及び
図7に示すとおり、凹部12を中央部で区画する突起14の側面14aに潤滑油の供給孔26(測定点3)を設けることができる。実施例1の供給孔26は、比較例1の供給孔226よりも回転軸に近接して設けられていることから、遠心力によって、突起14の側面14aとスリッパメタル34の溝35の側面35aとの界面、スリッパメタル34の摺動面34aと凹部12との界面、及び、スリッパメタル34の平坦面34bとフォーク42との界面の全体に潤滑油を容易に行き渡らせることができる。すなわち、
図5に示す流路18に沿って潤滑油が供給される。これによって、スピンドルカップリング100の耐久性を一層向上することができる。