(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や携帯電話などの駆動電源として、燃料電池が注目されている。燃料電池は、燃料に含まれる水素(H2)と空気中の酸素(O2)との電気化学反応によって電力を作り出す発電システムである。燃料電池は、他の電池と比べて、発電効率が高く環境への負荷が小さいという特長を有する。
【0003】
燃料電池には、使用する電解質によって幾つかの種類が存在する。そのうちの1つが、電解質としてイオン交換膜(電解質膜)を用いた固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer electrolyte fuel cell)である。固体高分子形燃料電池は、常温での動作および小型軽量化が可能であるため、自動車や携帯機器への適用が期待されている。
【0004】
固体高分子形燃料電池は、一般的には複数のセルが積層された構造を有する。1つのセルは、膜・電極接合体(MEA:Membrane-Electrode-Assembly)の両側を一対のセパレータで挟み込むことにより構成される。膜・電極接合体は、電解質の薄膜(高分子電解質膜)の両面に触媒層を形成した膜・触媒層接合体(CCM:Catalyst-coated membrane)の両側に、さらにガス拡散層を配置したものである。高分子電解質膜を挟んで両側に配置された触媒層とガス拡散層とで、一対の電極層が構成される。一対の電極層の一方はアノード電極であり、他方がカソード電極である。アノード電極に水素を含む燃料ガスが接触するとともに、カソード電極に空気が接触すると、電気化学反応によって電力が作り出される。
【0005】
上記の膜・触媒層接合体は、典型的には、電解質膜の表面に、白金(Pt)を含む触媒粒子をアルコールなどの溶媒中に分散させた触媒インク(電極ペースト)を塗工し、その触媒インクを乾燥させることによって作成される。固体高分子形燃料電池の触媒インクの塗工に際しては、高価な白金触媒のロスを無くすために、電解質膜の表面に触媒インクを間欠的に塗工する間欠塗工が行われる。また、間欠塗工を行うときには、触媒インクを塗工すべき塗工領域に対して過不足無く触媒インクを塗工する必要がある。
【0006】
このような、間欠塗工技術については、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1に開示の技術では、電解質膜をロールトゥロール方式にて一定速度で連続して走行させつつ、その電解質膜の表面に塗工ノズルから触媒インクを間欠塗工する。塗工の間欠時には、塗工ノズルの先端に触媒インクの液溜まりを形成する。そして、塗工の開始時には、塗工ノズルの先端と電解質膜の表面との間隔が塗工ギャップとは異なる接触ギャップとなるように塗工ノズルが移動して液溜まりを塗工領域の塗工開始端に接触させることにより、塗工領域に過不足無く触媒インクを塗工する。このとき、接触ギャップは電解質膜の表面に形成する塗膜の膜厚が厚いほど大きくなり、その膜厚が所定値よりも厚くなると塗工ギャップよりも大きくなる。これにより、塗工開始時に均一な塗工形状を得ることができる旨が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、基材の搬送速度および塗工ノズルの移動速度と、塗工開始端や塗工終端における塗工形状の乱れとの関係については、着目されていなかった。
図13は、従来の塗工装置における、搬送される基材90Aに塗工された触媒インク9Aの形状を示す図である。
図13の矢印は、基材90Aの搬送方向を示す。また、
図13のA1は、搬送される基材90Aに塗工された、塗工インクの塗工開始端を示し、A2は、搬送される基材90Aに塗工された、塗工インクの塗工終端を示す。
【0009】
図13(a)に示すように、基材90Aの搬送速度に対して、塗工ノズルの近接速度および離間速度が適切である場合は、触媒インク9Aが略矩形状に塗工される。一方で、
図13(b)に示すように、基材90Aの搬送速度に対して、塗工ノズルの離間速度が適切な速度よりも遅い場合、触媒インク9Aの塗工終端A2には、搬送方向と逆方向に向けて凸となるような湾曲部が発生する。また、
図13(c)に示すように、基材90Aの搬送速度に対して、塗工ノズルの離間速度が適切な速度よりも速い場合、触媒インク9Aの塗工終端A2において、触媒インク9Aの糸引き現象により、搬送方向逆側に部分的に伸びるような塗工残りが発生する。
【0010】
また、
図13(d)に示すように、基材90Aの搬送速度に対して、塗工ノズルの近接速度が適切な速度よりも遅い場合、触媒インク9Aの塗工開始端A1には、搬送方向に向けて凸となるような湾曲部が発生する。また、
図13(e)に示すように、基材90Aの搬送速度に対して、塗工ノズルの近接速度が適切な速度よりも速い場合、触媒インク9Aの塗工開始端A1には、搬送方向と垂直な幅方向(以下、単に「幅方向」と記載する)に凸となるような部分が発生する。このように、触媒インク9Aの塗工開始端A1および塗工終端A2における塗工形状の乱れは、基材90Aの搬送速度および塗工ノズルの移動速度と相関する。したがって、基材90Aの搬送速度に対して、塗工ノズルの移動速度を適切に設定することができれば、より高品質な膜・触媒層接合体を製造することができる。また、基材の搬送速度を速くした場合においても、基材90Aに安定して触媒インク9Aを塗工できれば、塗工装置の生産性を向上させることも可能となる。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、塗工装置において、搬送される基材の塗工開始端および塗工終端において、塗工形状の乱れを抑制し、基材に安定的に塗工液を塗工できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、長尺帯状体の基材に塗工液を塗工する塗工装置であって、前記基材を、その長手方向に搬送する搬送機構と、スリット状の吐出口を備え、前記吐出口から前記基材に塗工液を吐出する塗工ノズルと、前記塗工ノズルによる塗工液の吐出動作を、実行および停止させる切替部と、前記塗工ノズルを、前記基材に対して近接および離間させる移動機構と、を有し、前記基材の搬送速度に応じて、前記移動機構による前記塗工ノズルの近接速度および離間速度の少なくとも一方を変更可能である。
【0013】
本願の第2発明は、第1発明の塗工装置であって、前記移動機構による前記塗工ノズルの移動速度を制御する制御部をさらに有し、前記制御部が、前記基材の搬送速度に応じて、前記塗工ノズルの近接速度および離間速度の少なくとも一方を変更する。
【0014】
本願の第3発明は、第2発明の塗工装置であって、前記制御部は、前記基材の搬送速度が速いほど、前記塗工ノズルの近接速度および離間速度の少なくとも一方を速くする。
【0015】
本願の第4発明は、第1発明から第3発明までのいずれか1発明の塗工装置であって、
前記移動機構は、前記切替部が、前記塗工液の吐出を停止した後に、前記塗工ノズルを離間させる。
【0016】
本願の第5発明は、第1発明から第4発明までのいずれか1発明の塗工装置であって、前記塗工ノズル内部の前記塗工液を吸引する、吸引部をさらに有する。
【0017】
本願の第6発明は、第5発明に記載の塗工装置であって、前記移動機構は、前記吸引部が、前記塗工液を吸引すると同時に、または、前記塗工液を吸引した後に、前記塗工ノズルを離間させる。
【0018】
本願の第7発明は、第1発明から第6発明までのいずれか1発明の塗工装置であって、前記基材の搬送速度に応じて、前記移動機構による前記塗工ノズルの離間速度を変更可能である。
【0019】
本願の第8発明は、第1発明から第7発明までのいずれか1発明の塗工装置であって、前記基材の搬送速度に応じて、前記移動機構による前記塗工ノズルの近接速度を変更可能である。
【0020】
本願の第9発明は、第1発明から第8発明までのいずれか1発明の塗工装置であって、前記塗工ノズルは、前記吐出口から前記基材に、前記塗工液を間欠的に吐出する。
【0021】
本願の第10発明は、長尺帯状体の基材に塗工液を塗工する塗工方法であって、a)前記基材を、その長手方向に搬送する工程と、b)スリット状の吐出口を備える塗工ノズルを、前記基材に対して近接させる工程と、c)前記塗工ノズルから前記基材に、塗工液を吐出する工程と、d)前記塗工ノズルを、前記基材から離間させる工程と、を有し、前記工程a)における前記塗工ノズルの近接速度および前記工程d)おける前記塗工ノズルの離間速度の少なくとも一方を、前記基材の搬送速度に応じて変更する。
【0022】
本願の第11発明は、第10発明の塗工方法であって、前記基材の搬送速度が速いほど、前記塗工ノズルの前記近接速度および前記塗工ノズルの前記離間速度の少なくとも一方を速くする。
【0023】
本願の第12発明は、第10発明または第11発明の塗工方法であって、前記工程d)では、前記塗工ノズルからの前記塗工液の吐出を停止した後に、前記塗工ノズルを離間させる。
【0024】
本願の第13発明は、第10発明から第12発明までのいずれか1発明の塗工方法であって、前記工程d)は、前記塗工液を吸引すると同時に、または、前記塗工液を吸引した後に、前記塗工ノズルを離間させる。
【0025】
本願の第14発明は、第10発明から第13発明までのいずれか1発明の塗工方法であって、前記基材の搬送速度に応じて、前記塗工ノズルの前記離間速度を変更する。
【0026】
本願の第15発明は、第10発明から第14発明までのいずれか1発明の塗工方法であって、前記基材の搬送速度に応じて、前記塗工ノズルの前記近接速度を変更する。
【0027】
本願の第16発明は、第10発明から第15発明までのいずれか1発明の塗工方法であって、前記工程b)、前記工程c)、および前記工程d)を繰り返す。
【発明の効果】
【0028】
第1発明〜第16発明によれば、搬送される基材において、塗工形状の乱れを抑制し、安定的に塗工液を塗工できる。
【0029】
特に、本願の第3発明または第11発明によれば、基材の搬送速度を速くした場合であっても、搬送される基材において、塗工形状の乱れを抑制し、安定的に塗工液を塗工できる。これにより、塗工装置の生産性を向上できる。
【0030】
特に、本願の第4発明、第5発明、第6発明、第12発明または第13発明によれば、搬送される基材において、塗工形状の乱れをより抑制し、より安定的に塗工液を塗工できる。
【0031】
特に、本願の第7発明または第14発明によれば、塗工終端における塗工形状の乱れを抑制することができる。
【0032】
特に、本願の第8発明または第15発明によれば、塗工開始端における塗工形状の乱れを抑制することができる。
【0033】
特に、本願の第9発明または第16発明によれば、搬送される基材に対して、塗工形状の乱れを抑えつつ、安定的に塗工液を間欠塗工できる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0036】
<1.塗工装置の構成について>
図1は、本発明の一実施形態に係る塗工装置1の構成を示した図である。この塗工装置1は、固体高分子形燃料電池用の膜・触媒層接合体の製造工程において、長尺帯状の基材90を長手方向に搬送しつつ、基材90の一方の面に、電極となる触媒層を形成する装置である。
図1中に拡大して示したように、基材90は、支持フィルム91および電解質膜92の2層が積層された構造を有する。塗工装置1は、電解質膜92の支持フィルム91に覆われていない面(以下、「表面」と称する)に、塗工液である触媒インクを塗工し、当該触媒インクを乾燥させることによって、触媒材料層9を形成する。
【0037】
電解質膜92には、例えば、フッ素系または炭化水素系の高分子電解質膜が用いられる。電解質膜92の具体例としては、パーフルオロカーボンスルホン酸を含む高分子電解質膜(例えば、米国DuPont社製のNafion(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)、ゴア(Gore)社製のGoreselect(登録商標))を挙げることができる。電解質膜92の膜厚は、例えば、5μm〜30μmとされる。電解質膜92は、大気中の湿気によって膨潤する一方、湿度が低くなると収縮する。すなわち、電解質膜92は、大気中の湿度に応じて変形しやすい性質を有する。
【0038】
支持フィルム91は、電解質膜92の変形を抑制するためのフィルムである。支持フィルム91の材料には、電解質膜92よりも機械的強度が高く、形状保持機能に優れた樹脂が用いられる。支持フィルム91の具体例としては、PEN(ポリエチレンナフタレート)やPET(ポリエチレンテレフタレート)のフィルムを挙げることができる。支持フィルム91の膜厚は、例えば25μm〜100μmとされる。
【0039】
図1に示すように、塗工装置1は、搬送機構10、塗工部20、乾燥部30および制御部40を備えている。
【0040】
搬送機構10は、基材90をその長手方向に沿う搬送方向に搬送する機構である。本実施形態の搬送機構10は、基材巻出ローラ11、複数の搬送ローラ12および基材巻取ローラ13を有する。基材90は、基材巻出ローラ11から繰り出され、複数の搬送ローラ12により規定される搬送経路に沿って搬送される。各搬送ローラ12は、水平軸を中心として回転することによって、基材90を搬送経路の下流側へ案内する。搬送後の基材90は、基材巻取ローラ13へ回収される。なお、搬送ローラ12の位置や数は、必ずしも
図1の通りでなくてもよい。
【0041】
塗工部20は、搬送機構10により搬送される基材90の表面に、触媒インクを塗工するための機構である。触媒インクには、触媒材料(例えば、白金(Pt))を含む粒子をアルコールなどの溶媒中に分散させた電極ペーストが用いられる。触媒材料には、高分子形燃料電池のアノードまたはカソードにおいて燃料電池反応を起こす材料が用いられる。具体的には、白金(Pt)、白金合金、白金化合物等を、触媒材料として用いることができる。白金合金の例としては、例えば、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)等からなる群から選択された少なくとも1種の金属と白金との合金を挙げることができる。一般的には、カソード用の触媒材料には白金が用いられ、アノード用の触媒材料には白金合金が用いられる。なお、塗工部20の詳細については、後述する。
【0042】
基材90は、乾燥部30よりも搬送経路の上流側において、搬送ローラ12の役割も兼ねたバックアップローラ14に支持される。バックアップローラ14は、円柱状または円筒状のローラであり、外周面が基材90の支持フィルム91に接触しながら、水平軸を中心として回転する。
【0043】
乾燥部30は、塗工部20よりも搬送経路の下流側に配置されている。乾燥部30は、触媒インクを乾燥させるための乾燥炉31を有する。乾燥炉31内では、搬送機構10により搬送される基材90の電解質膜92に、加熱された気体(熱風)が吹き付けられる。そうすると、電解質膜92の表面に塗工された触媒インクが加熱され、触媒インク中の溶剤が気化する。これにより、触媒インクが乾燥して、電解質膜92の表面に触媒材料層9が形成される。ただし、触媒インクを乾燥させるための方法は、必ずしも熱風の供給でなくてもよい。乾燥部30は、光照射や減圧などの他の方法で、触媒インクを乾燥させるものであってもよい。
【0044】
このように、塗工装置1では、基材巻出ローラ11からの基材90の繰り出し、電解質膜92の表面への触媒インクの塗工、乾燥炉31による乾燥、の各工程が、順次に実行される。これにより、固体高分子形燃料電池に用いられる膜・触媒層接合体の一方の触媒材料層9が、電解質膜92の表面に形成される。なお、この塗工装置1では、電解質膜92は、支持フィルム91に常に保持されている。これにより、電解質膜92の膨潤・収縮等の変形が抑制される。
【0045】
制御部40は、塗工装置1内の各部を動作制御するための手段である。
図2は、制御部40と、塗工装置1内の各部との接続を示したブロック図である。
図2中に概念的に示したように、制御部40は、CPU等の演算処理部41、RAM等のメモリ42およびハードディスクドライブ等の記憶部43を有するコンピュータにより構成されている。記憶部43内には、塗工・乾燥処理を実行するためのコンピュータプログラムP1が、インストールされている。また、
図2に示すように、制御部40は、搬送機構10および乾燥炉31と、それぞれ通信可能に接続されている。また、制御部40は、後述する塗工部20の、切替部の開閉弁22、移動機構23のモータ232および吸引部24のサックバックバルブ242とも、通信可能に接続される。
【0046】
制御部40は、記憶部43に記憶されたコンピュータプログラムP1やデータを、メモリ42に一時的に読み出し、当該コンピュータプログラムP1およびデータに基づいて、演算処理部41が演算処理を行うことにより、塗工装置1内の各部を動作制御する。これにより、塗工装置1における塗工・乾燥処理が進行する。
【0047】
<2.塗工部の構成について>
次に、塗工部20の構成について説明する。
図3は、塗工部20付近の構成を示す拡大図である。塗工部20は、搬送機構10により搬送される基材90の表面に、触媒インクを塗工するための機構である。本実施形態の塗工部20は、塗工ノズル21、切替部である開閉弁22、移動機構23および吸引部24を有する。
【0048】
塗工ノズル21は、基材90の幅方向に沿って延び、バックアップローラ14の外周面に対向するスリット状の吐出口211を有する。塗工ノズル21は、吐出口211の先端に触媒インクの液溜まり93を形成する。そして、搬送される基材90に触媒インクの液溜まり93を接触させる。これにより、搬送される基材90に触媒インクが塗工される。塗工ノズル21は、給液配管212を介して、触媒インク供給源213と流路接続されている。
【0049】
切替部は、塗工ノズル21による触媒インクの吐出動作を、実行または停止させる機構である。本実施形態の切替部は、給液配管212に介挿された、開閉弁22により構成される。開閉弁22を開放すると、触媒インク供給源213から給液配管212を通って塗工ノズル21に触媒インクが供給される。そうすると、吐出口211の先端に、触媒インクの液溜まり93が形成される。これにより、塗工ノズル21による吐出動作が実行可能となる。一方で、開閉弁22を閉鎖すると、塗工ノズル21への触媒インクの供給が停止する。これにより、吐出口211先端での液溜まり93の形成が停止され、塗工ノズル21による吐出動作が停止される。
【0050】
なお、本実施形態の開閉弁22は三方弁であり、触媒インク供給源213と、循環ライン214を介して流路接続されている。また、開閉弁22と触媒インク供給源213との間の給液配管212には、モーノポンプ215が設置されている。そして、開閉弁22が閉鎖されている間は、モーノポンプ215が生じさせる圧力により、触媒インクは、開閉弁22と、触媒インク供給源213との間で循環ライン214を通じて循環する。
【0051】
塗工装置1の稼働時には、塗工ノズル21の吐出口211から、バックアップローラ14に支持された基材90の電解質膜92へ向けて、触媒インクが吐出される。これにより、電解質膜92の表面に、触媒インクが塗工される。また、開閉弁22を閉鎖すると、触媒インク供給源213から塗工ノズル21への触媒インクの供給が遮断され、塗工ノズル21による触媒インクの吐出動作が停止する。
【0052】
本実施形態では、開閉弁22を一定の周期で開閉することによって、塗工ノズル21の吐出口211から、触媒インクを断続的に吐出する。これにより、基材90の表面に、触媒インクを搬送方向に一定の間隔で間欠塗工する。ただし、開閉弁22を連続的に開放して、電解質膜92の表面に、搬送方向に切れ目無く触媒インクを塗工してもよい。
【0053】
なお、塗工ノズル21は、必ずしもバックアップローラ14に支持された基材90の表面に対して、触媒インクを吐出するものでなくてもよい。例えば、隣り合うローラの間に掛け渡された基材90の表面に対して、触媒インクを吐出するものであってもよい。
【0054】
移動機構23は、塗工ノズル21の吐出口211を、バックアップローラ14の外周面に対して、近接移動または離間移動させる機構である。
図3に示すように、本実施形態の移動機構23は、移動テーブル231、駆動源であるモータ232、ガイドレール233、ボールねじ234およびベース部235を有する。なお、以下では、塗工ノズル21からの触媒インクの吐出の向きと平行な方向を「接離方向」と称する。
【0055】
塗工ノズル21は、水平に配置された移動テーブル231の上面に固定される。ガイドレール233は、工場の床面に対して固定設置されたベース部235の上面に設けられ、接離方向に延びる。移動テーブル231は、ガイドレール233に沿って接離方向に進退可能に設置される。ボールねじ234は、ガイドレール233の上方に配置されている。ボールねじ234は、ガイドレール233と平行に、接離方向に延びる。ボールねじ234には、移動テーブル231の下面に設けられたナットが、組み付けられている。
【0056】
制御部40からの駆動信号によって、モータ232を駆動させると、ボールねじ234が回転する。これにより、移動テーブル231および塗工ノズル21が、ガイドレール233に沿って接離方向に移動する。また、塗工ノズル21が接離方向に移動すると、バックアップローラ14の外周面に対して、塗工ノズル21の吐出口211が、接離方向に近接または離間する。すなわち、吐出口211からバックアップローラ14の外周面までの接離方向の距離が変化する。
【0057】
吸引部24は、塗工ノズル21の内部空間に充填された触媒インクを吸引する機構である。本実施形態の吸引部24は、切替部の開閉弁22と、塗工ノズル21との間の給液配管212に連結された、吸液配管241およびサックバックバルブ242から構成される。サックバックバルブ242を開放すると、サックバックバルブ242内の容積変化により吸液配管241および塗工ノズル21内部の触媒インクがサックバックバルブ242へ向けて吸引される。これにより、吐出口211の先端に形成された触媒インクの液溜まり93が解消される。
【0058】
<3.塗工処理時の動作について>
続いて、塗工装置1による塗工処理の一例ついて説明する。
図4〜
図6は、塗工処理時の塗工ノズル21とバックアップローラ14との位置関係を示す図である。
図7は、塗工処理の流れを示すフローチャートである。なお、
図7のステップS1〜S6の各動作は、制御部40が、コンピュータプログラムP1に基づいて塗工装置1内の各部を動作させることによって、実現される。
【0059】
塗工装置1において、塗工処理を行うときは、まず、搬送機構10による基材90の搬送を開始する(ステップS1)。これにより、基材90は、バックアップローラ14に支持されつつ回転し、予め定められた搬送速度により、搬送方向に向かって搬送される。このとき、
図4に示すように、塗工ノズル21は、バックアップローラ14から離れた離間位置に配置されている。また、切替部の開閉弁22および吸引部24のサックバックバルブ242は閉鎖されている。
【0060】
次に、制御部40は、切替部の開閉弁22を開放する(ステップS2)。これにより、塗工ノズル21の吐出口211に向けて触媒インクが送られる。そして、吐出口211の先端に触媒インクの液溜まり93が形成される。このとき、サックバックバルブ242を閉鎖することで、吸引部24から触媒インクを吐出口211に送液してもよい。
【0061】
次に、制御部40は、移動機構23を動作させて、塗工ノズル21をバックアップローラ14に向けて近接移動させる(ステップS3)。そして、
図5に示すように、塗工ノズル21がバックアップローラ14と近接する近接位置に移動すると、基材90と触媒インクの液溜まり93とが接触する。これにより、基材90に触媒インクが塗工される。
【0062】
ステップS3では、基材90の搬送速度に対して、塗工ノズル21の近接速度が速すぎると、液溜まり93が搬送される基材90と接触するときに、基材90の幅方向に広がる。このため、
図13(e)に示すような、幅方向に凸となる部分が生じる。一方で、基材90の搬送速度に対して、塗工ノズル21の近接速度が遅すぎると、液溜まり93と基材90とが幅方向に十分に接触する前に、基材90が搬送方向に向けて搬送される距離が長くなる。このため、
図13(d)に示すような、搬送方向に凸となるような湾曲部が発生する。そこで、本実施形態の塗工装置1では、制御部40が、基材90の搬送速度に応じて、塗工ノズル21の近接速度を制御する。具体的には、制御部40は、基材90の搬送速度が速いほど、塗工ノズル21の近接速度を速くする。これにより、塗工開始端での塗工形状の乱れを抑制できる。
【0063】
次に、制御部40は、切替部の開閉弁22を閉鎖する(ステップS4)。これにより、吐出口211先端の液溜まり93の形成が停止され、塗工ノズル21による触媒インクの吐出動作が停止する。そして、基材90への触媒インクの塗工が終了すると、制御部40は、吸引部24のサックバックバルブ242を開放する(ステップS5)。これにより、吸液配管241および塗工ノズル21内部の触媒インクがサックバックバルブ242へ向けて吸引される。その結果、吐出口211先端の液溜まり93も吸引される。
【0064】
その後、制御部40は、移動機構23を動作させる。そして、
図6に示すように、塗工ノズル21を離間位置に離間移動させる(ステップS6)。これにより、搬送される基材90に対する触媒インクの塗工処理が完了する。なお、制御部40は、ステップS2〜S6の処理を繰り返すことで、搬送される基材90に触媒インクの塗工処理を間欠的に行う。
【0065】
ステップS6では、基材90の搬送速度に対して、塗工ノズル21の離間速度が速すぎると、基材90と吐出口211との間で、触媒インクの糸引き現象が発生する。その結果、
図13(c)に示すように、塗工終端において、搬送方向と逆方向に部分的に凸となるような塗工残りが発生する。一方で、基材90の搬送速度に対して、塗工ノズル21の近接速度が遅すぎると、液溜まり93と基材90とが完全に引き離される前に、基材90が搬送方向に向けて搬送される距離が長くなる。このため、
図13(b)で示すように、塗工終端において、搬送方向と逆方向に向けて凸となるような湾曲部が発生する。そこで、本実施形態の塗工装置1では、制御部40が、基材90の搬送速度に応じて、塗工ノズル21の離間速度を制御する。具体的には、制御部40は、基材90の搬送速度が速いほど、塗工ノズル21の離間速度を速くする。これにより、塗工終端の塗工形状の乱れを抑制できる。
【0066】
図8は、ステップS3において、基材90の搬送速度と塗工ノズル21の近接速度とを変化させたときの、塗工開始端での塗工形状の変化の例を示した図である。
図8の例では、基材90の搬送速度が0.1〜2.0m/分のときには、塗工ノズル21の近接速度を10〜30mm/秒とすれば、塗工開始端での塗工形状が良好となっている。また、基材90の搬送速度が2.0〜5.0m/分のときには、塗工ノズル21の近接速度を30〜60mm/秒とすれば、塗工開始端での塗工形状が良好となっている。この結果から、基材90の搬送速度が速いほど、塗工ノズル21の近接速度を速くすることで、塗工開始端での塗工形状の乱れを抑制できることが分かる。
【0067】
図9は、ステップS6において、基材90の搬送速度と塗工ノズル21の離間速度とを変化させたときの、塗工終端での塗工形状の変化の例を示した図である。
図9の例では、基材90の搬送速度が0.1〜2.0m/分のときには、塗工ノズル21の離間速度を10〜30mm/秒とすれば、塗工終端での塗工形状が良好となっている。また、基材90の搬送速度が2.0〜5.0m/分のときには、塗工ノズル21の離間速度を30〜60mm/秒とすれば、塗工終端での塗工形状が良好となっている。この結果から、基材90の搬送速度が速いほど、塗工ノズル21の離間速度を速くすることで、塗工終端での塗工形状の乱れを抑制できることが分かる。
【0068】
このように、本実施形態の塗工装置1では、制御部40が、塗工ノズル21の近接速度および離間速度を、基材90の搬送速度に応じて変更することで、塗工開始端および塗工終端の塗工形状の乱れを抑制できる。また、基材90の搬送速度を速めた場合であっても、安定的に触媒インクを塗工できるため、塗工装置1の生産性を向上できる。
【0069】
図10は、本実施形態における塗工処理の際の、切替部の開閉弁22、吸引部24のサックバックバルブ242および塗工ノズル21の動作状態を示す図である。
図10の横軸は、経過時間を示している。また、
図10のL1は、切替部の開閉弁22の開閉状態を示し、L2は、吸引部24のサックバックバルブ242の開閉状態を示し、L3は、塗工ノズル21の近接位置または離間位置の位置状態を示す。
図10に示すように、本実施形態の塗工処理は、切替部の開閉弁22を開放する工程および塗工ノズル21を近接移動させる工程が同時に実行されてもよく、また、切替部の開閉弁22を閉鎖する工程、塗工ノズル21の内部の触媒インクを吸引する工程および塗工ノズル21を離間移動させる工程が同時に実行されてもよい。
【0070】
また、本実施形態の移動機構23は、塗工ノズル21の近接移動の際の近接速度および離間移動の際の離間速度を切り替えることができる。
図11は、本実施形態に係る塗工装置1における、塗工処理の際の、塗工ノズル21の移動速度を示す図である。
図11の横軸は、経過時間を示し、縦軸は、塗工ノズル21の移動速度を示す。
図11に示すように、塗工ノズル21は、近接移動の際に、加速移動、等速移動および減速移動を順次に行うことによって、近接速度を切り替えつつ、近接位置に到達する。また、塗工ノズル21は、離間移動の際に、加速移動、等速移動および減速移動を順次に行うことによって、移動速度を切り替えつつ、離間位置に到達する。また、
図11の例では、近接速度と、離間速度とは、同一の速度となっている。
【0071】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0072】
上記の実施形態では、切替部の開閉弁を開放する工程(ステップS2)、塗工ノズルを近接移動させる工程(ステップS3)、切替部の開閉弁を閉鎖する工程(ステップS4)、塗工ノズルの内部の触媒インクを吸引する工程(ステップS5)の順で塗工処理がなされていた。しかしながら、本発明の、塗工装置における塗工処理はこれに限られない。
【0073】
また、上記実施形態の塗工ノズルの近接速度および離間速度は同一の速度となっていた。しかしながら、本発明はこれに限られない。
図12は、変形例に係る塗工装置における、塗工処理の際の、塗工ノズルの移動速度を示す図である。
図12の横軸は、経過時間を示し、縦軸は、塗工ノズルの移動速度を示す。
図12に示すように、近接速度および離間速度の各々の最大値(等速移動時の速度)は、基材の搬送速度に応じて変更されてもよい。
【0074】
また、上記の実施形態では、基材の搬送速度に応じて、塗工ノズルの近接速度および離間速度の双方を変更していた。しかしながら、塗工開始端および塗工終端の一方のみに問題が生じる様な場合には、基材の搬送速度に応じて、近接速度および離間速度の一方のみを変更してもよい。
【0075】
また、上記の実施形態では、制御部が、基材の搬送速度に応じて、塗工ノズルの近接速度および離間速度を自動的に変更していた。しかしながら、塗工装置に設けられた操作部を、オペレータが操作することによって、塗工ノズルの近接速度および離間速度の少なくとも一方を、変更してもよい。
【0076】
また、上記の実施形態では、塗工装置は、電解質膜の表面に触媒材料層を形成する装置であった。しかしながら、本発明の塗工装置は、電解質膜の裏面に触媒材料層を形成する装置であってもよく、また、電解質膜の表面および裏面の両面に電解質膜を形成する装置であってもよい。
【0077】
また、上記の実施形態では、基材は、バックアップローラの外周面と接触することで支持されていた。しかしながら、バックアップローラの外周面は、吸着面であってもよく、基材は、バックアップローラの外周面に吸着されることで支持されてもよい。
【0078】
また、塗工装置の細部の構成については、本願の各図と相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。