【文献】
BARR, Roger C.,19 Basic Electrophysiology ,The Biomedical Engineering Handbook Biomedical Engineering Fundamentals,2006年,Third Edition,19-1〜19-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
絶縁シートの体表面に対向する側の裏面を測定する筋の体表面上に位置決めして、測定する筋の近傍の体表面に電気刺激信号を加え、その筋の近傍の体表面に表れる筋活動電位から筋の活動状態を評価する評価システムに用いられる筋状態測定シートであって、
筋の体表面上に位置決めされ、陽極と陰極間に電気刺激信号が出力される一組の刺激電極と、
電気刺激信号により誘発される筋活動電位を検出する1又は2以上の筋電検出電極と、
裏面に露出する前記刺激電極の前記陽極と少なくともいずれかの前記筋電検出電極との間隔が、筋活動電位から活動状態を評価する筋の筋線維の長さより短くなるように、一組の前記刺激電極と1又は2以上の前記筋電検出電極を裏面に臨ませた絶縁シートと、
前記絶縁シートに配線され、一組の前記刺激電極と全ての前記筋電検出電極をそれぞれ外部回路へ引き出す引き出しパターンとを備え、
前記刺激電極の陰極を、前記刺激電極の陽極と前記1又は2以上の筋電検出電極の間に配設し、一組の前記刺激電極と全ての前記筋電検出電極を互いに所定の間隔を隔てて体表面に密着させたことを特徴とする筋状態測定シート。
一組の前記刺激電極と複数の前記筋電検出電極を、前記絶縁シートの裏面の平面上に分散する各位置にそれぞれ臨ませたことを特徴とする請求項1に記載の筋状態測定シート。
前記複数の筋電検出電極にそれぞれ接続する引き出しパターンは、引き出しパターンの長さに比例してその横断面積を増加させた形状としたことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の筋状態測定シート。
絶縁シートの体表面に対向する側の裏面を測定する筋の体表面上に位置決めして、測定する筋の近傍の体表面に電気刺激信号を加え、その筋の近傍の体表面に表れる筋活動電位から筋の活動状態を評価する評価システムであって、
電気刺激信号を出力する刺激発生手段と、
陽極と陰極間に前記電気刺激信号が出力される一組の刺激電極と、
電気刺激信号により誘発される筋活動電位を検出する1又は2以上の筋電検出電極と、
前記刺激電極の陰極を、前記刺激電極の陽極と前記1又は2以上の筋電検出電極の間に配設し、一組の前記刺激電極と全ての前記筋電検出電極を互いに所定の間隔を隔てて前記裏面に臨ませ、筋の体表面に密着させた絶縁シートと、
前記1又は2以上の各筋電検出電極の電位を所定電位と比較し、前記各筋電検出電極に表れる筋活動電位を出力する比較回路と、
前記1又は2以上の各筋電検出電極が電気刺激信号により誘発される筋活動電位を検出するまでの潜時から筋活動電位の伝搬速度を求め、伝搬速度をもとに筋の疲労度を評価する疲労評価手段と、
を備えたことを特徴とする評価システム。
【背景技術】
【0002】
骨格筋は、脳からの神経刺激によって伸縮する際に活動電位を生じ、従来からこの活動電位を検出し、活動電位の波形である筋電図(electromyogram:EMG)から筋の異常や疲労の状態を評価する評価システムが知られている。しかしながら、骨格筋を伸縮させながら活動電位を検出する際には、脳からの刺激による電気信号や運動負荷時の筋が発生する活動電位がノイズとして含まれ、安定して筋の活動状態を評価することができなかった。
【0003】
そこで、骨格筋に電気刺激信号を加え、骨格筋の体表面に密着させた検出電極から電気刺激信号の神経刺激で誘発される筋活動電位を検出して筋の活動状態を評価する評価システムが提案されている。評価する筋の末梢神経を電気刺激信号で刺激すると、運動神経を介して興奮が筋に達して筋に筋を収縮させようとする筋活動電位が生じる。この筋活動電位の波形は、M波とよばれ、筋の体表面から筋活動電位を検出することによって、M波の誘発筋電図が得られる。一方、末梢神経が刺激されると、感覚神経を経て興奮が脊髄にも達し、単シナプス反射を介してα細胞を興奮させ、そこから運動神経を経て筋を収縮させようとする筋活動電位が生じる。このM波に遅れて生じる筋活動電位の波形は、H波とよばれ、従来の筋評価システムでは、M波若しくはH波の振幅から筋の活動状況を評価している。
【0004】
このうち、特開2005−144108号(特許文献1)により開示された誘発筋電装置100は、
図15に示すように、膝窩部の脛骨神経走行部位の体表面に刺激電極101を密着させる刺激端子固定用ベルト102と活動状態を評価するヒラメ筋に沿った体表面の異なる位置にそれぞれ複数の筋電検出電極103、103・・を密着させる記録端子固定用ベルト104と、刺激電極101へ電気刺激信号を出力する刺激発生装置105と、筋電検出電極103、103・・が検出する筋活動電位を記録する記録装置106と、誘発筋電図からヒラメ筋の活動状況を評価する処理装置107とを備えている。
【0005】
誘発筋電装置100では、刺激電極101に電気刺激信号を出力して、筋電検出電極103、103・・からH波の振幅を検出している。H波の振幅は、ヒラメ筋に対する脊髄運動ニューロンからの刺激量である筋活動量を表すので、安静時と運動時に検出されるH波の振幅を比較し、ヒラメ筋の活動状態を評価している。
【0006】
また、特開2001−276005号(特許文献2)により開示された筋の活動度の評価装置は、電気刺激信号を測定する筋の体表面に加え、筋線維の方向に沿った別の体表面に密着させた筋電検出電極からM波の誘発筋電図を測定し、M波の振幅から筋の活動度や疲労度を評価している。
【0007】
更に、特開2015−66401号(特許文献3)により開示された興奮収縮関連の障害の有無の判定補助方法は、電気刺激信号を加えることにより、体表面から検出される誘発筋電
図EMGに、電気刺激信号で誘発される誘発筋音図(mechanomyogram:MMG)を組み合わせて筋の障害を評価している。誘発筋音
図MMGは、電気刺激に伴って誘発される収縮に伴う筋の長軸方向の機械的変量を体表から記録した振動波形であり、誘発筋電
図EMGの周波数帯域に比べて一桁低い100Hz以下の周波数帯域で振動する一種の圧波と考えられている。特許文献3では、測定する筋の体表面に筋電検出電極を、筋の振幅が最大となる筋腹部の体表面に加速度センサーをそれぞれテープで固定し、筋の近傍の体表面に1Hzの単発の電気刺激信号を加えて、筋電検出電極から誘発筋電
図EMGを検出するとともに、加速度センサーから誘発筋音
図MMGを検出している。
【0008】
検出した誘発筋電
図EMGと誘発筋音
図MMGの両者の遠位潜時の差を求め、正常時と比較して遠位潜時の差が増大した場合や誘発筋電
図EMGの振幅が一定であるにもかかわらず、誘発筋音
図MMGの振幅が漸減する場合に、興奮収縮関連に障害があると評価する。特許文献3の発明によれば、誘発筋電
図EMGと誘発筋音
図MMGを併用するので、正確で再現性に優れた興奮収縮関連の障害を判定できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、従来は、誘発筋電
図EMGの振幅や誘発筋電
図EMGと誘発筋音
図MMG遠位潜時の差から筋の活動状態を評価しているが、誘発筋電
図EMGの振幅や誘発筋電
図EMGと誘発筋音
図MMG遠位潜時は、電気刺激信号を加える刺激位置や、刺激位置と筋電検出電極若しくは誘発筋音を検出する加速度センサーとの距離により異なる。
【0011】
しかしながら、特許文献1乃至特許文献3に記載のいずれの評価システムにおいても、評価する筋に対する電気刺激信号を加える刺激位置が明確ではなく、また、刺激位置と予め定めた間隔を隔てた体表面の位置に筋電検出電極や誘発筋音を検出する加速度センサーを密着させるものではないので、誘発筋電
図EMG若しくは誘発筋音
図MMGの振幅や遠位潜時を定量的に検出して正確な筋の活動状態を評価することはできない。
【0012】
特に特許文献3の評価システムでは、運動中に一定位置に電気刺激信号を加えることができないので、筋に負荷を与えながら負荷と筋の活動状態を評価することができず、運動中にリアルタイムで筋の活動状態の経時変化を観察することができない。
【0013】
また、本願発明者は、運動にともなって筋疲労が亢進すると、電気刺激信号によるM波の伝搬速度が低下し、筋疲労と伝搬速度に相関があることを見出したが、M波の伝搬速度は、電気刺激信号を加えてから筋電検出電極でM波を検出するまでの時間(潜時)と、刺激位置と筋電検出電極若しくは筋電検出電極間の間隔とから得るので、これらの間隔が不明な従来の評価システムでは、M波の伝搬速度から運動による筋の疲労度を評価できない。
【0014】
更に、測定する筋は体表面下にあるので、筋線維に沿った体表面の位置に筋電検出電極を密着させることができず、正確な誘発筋電図を得られなかった。
【0015】
本発明は、このような従来の問題点を考慮してなされたものであり、誘発筋電
図EMG若しくは誘発筋音
図MMGの振幅や潜時を定量的に検出して正確に筋の活動状態を評価できる
評価システムと評価システムに用いられる筋状態測定シートを提供することを目的とする。
【0016】
また、筋に負荷を与える運動中であっても、リアルタイムで筋の活動状態を評価できる
評価システムと評価システムに用いられる筋状態測定シートを提供することを目的とする。
【0017】
筋電検出電極で検出する潜時から、筋の疲労度を評価する
評価システムと評価システムに用いられる筋状態測定シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述の目的を達成するため、請求項1に記載の筋状態測定シートは、絶縁シートの体表面に対向する側の裏面を測定する筋の体表面上に位置決めして、測定する筋の近傍の体表面に電気刺激信号を加え、その筋の近傍の体表面に表れる筋活動電位から筋の活動状態を評価する評価システムに用いられる筋状態測定シートであって、筋の体表面上に位置決めされ、陽極と陰極間に電気刺激信号が出力される一組の刺激電極と、電気刺激信号により誘発される筋活動電位を検出する1又は2以上の筋電検出電極と、裏面に露出する刺激電極
の陽極と少なくともいずれかの筋電検出電極との間隔が、
筋活動電位から活動状態を評価する筋の筋線維の長さより短くなるように、一組の刺激電極と1又は2以上の筋電検出電極を裏面に臨ませた絶縁シートと、絶縁シートに配線され、一組の刺激電極と全ての筋電検出電極をそれぞれ外部回路へ引き出す引き出しパターンとを備え、
刺激電極の陰極を、刺激電極の陽極と1又は2以上の筋電検出電極の間に配設し、一組の刺激電極と全ての筋電検出電極を互いに所定の間隔を隔てて体表面に密着させたことを特徴とする。
【0019】
一組の刺激電極と全ての筋電検出電極が所定間隔を隔てて体表面に密着するので、いずれかの筋電検出電極の一組の刺激電極との間隔や他の筋電検出電極との間隔が測定可能な一定の間隔であり、誘発筋電
図EMGの振幅や潜時が電気刺激信号の刺激位置に依存せずに定量的に検出できる。
【0020】
また、刺激電極と少なくともいずれかの筋電検出電極との間隔が、測定する筋の筋線維の長さより短くなるように絶縁シートの裏面に臨ませるので、測定する筋の体表面から刺激電極若しくは筋電検出電極のいずれかが外れることなく、確実に筋を電気刺激信号で刺激し、刺激を受けて筋を伝搬する筋活動電位を筋電検出電極により検出できる。
【0021】
一組の刺激電極や筋電検出電極が振動しても、絶縁シートを筋の体表面に位置決めして体表面へ密着させるので、体表面から離れることがなく、運動中でもリアルタイムに同じ位置で誘発筋電
図EMGの経時変化を検出できる。
【0022】
請求項2に記載の筋状態測定シートは、
絶縁シートの裏面に臨む複数の筋電検出電極の測定する筋に沿った間隔が15mm未満であることを特徴とする。
【0023】
M波の伝搬速度は少なくとも3m/s以上で、筋活動電位の中心周波数は、最大で350Hzであるので、伝搬するM波の波長は8.571mm以上の長さである。この波長について通常の筋活動電位の中心周波数である200Hz以下の場合には、波長は15mm以上であり、複数の筋電検出電極の測定する筋に沿った間隔を15mm未満とすれば、複数の筋電検出電極で検出する潜時の差からM波の伝搬速度が得られる。
【0024】
請求項3に記載の筋状態測定シートは、絶縁シートが、測定する筋に沿って体表面に位置決めされる細長帯状のシート本体であり、一組の刺激電極を、シート本体の裏面の長手方向の一端側に臨ませ、複数の筋電検出電極を、それぞれシート本体の裏面の一端側から他端側に向かって長手方向に沿った異なる位置に臨ませることを特徴とする。
【0025】
絶縁シートは、細長帯状のシート本体であるので、測定する筋の体表面に沿って位置決めすることにより、筋を伸縮させる運動中であっても、一端側の一組の刺激電極と一端側から他端側に向かって複数の筋電検出電極とは、測定する筋の細長の筋線維に沿った体表面の異なる位置に密着する。
【0026】
電気刺激信号により誘発される筋活動電位のM波は、測定する筋の筋線維の方向に沿って伝搬し、筋線維に沿った体表面の異なる位置に密着する複数の筋電検出電極でそれぞれ検出される。一組の刺激電極と複数の筋電検出電極間の相互の間隔は既知であるので、運動中であっても各筋電検出電極で検出する潜時から、リアルタイムにM波の伝搬速度を検出できる。
【0027】
請求項4に記載の筋状態測定シートは、一組の刺激電極と複数の筋電検出電極を、絶縁シートの裏面の平面上に分散する各位置にそれぞれ臨ませたことを特徴とする。
【0028】
絶縁シートが測定する筋に沿って体表面に位置決めされない場合であっても、平面上に分散する各位置に臨むいずれかの筋電検出電極は、測定する筋に沿った付近に臨むので、その筋電検出電極が検出する潜時から筋に沿ったM波の伝搬速度が検出される。
【0029】
測定する筋が筋線維方向の中央が太く両側が細い紡錘状であっても、紡錘状の筋の体表面の各位置に複数の筋電検出電極が密着するので、いずれかの筋電検出電極が筋の異なる位置で伝搬するM波を検出する。
【0030】
測定する筋の体表面は、筋の中央で膨らんだ湾曲面となっているが、平面上に分散する各位置に臨むいずれかの筋電検出電極は体表面に密着し、高い検知レベルでM波を検出する。
【0031】
請求項5に記載の筋状態測定シートは、一組の刺激電極を絶縁シートの裏面の一端側に臨ませ、複数の筋電検出電極を、絶縁シートの裏面の格子状に分散する各位置にそれぞれ臨ませたことを特徴とする。
【0032】
複数の筋電検出電極が格子状に分散する各位置に臨むので、直線上の各位置に臨む複数の筋電検出電極のうちいずれかは、評価する筋の筋線維方向に近接するので、筋線維方向に近接する筋電検出電極から検出されるM波の潜時により、筋線維方向に沿って伝搬するM波の伝搬速度が得られる。
【0033】
請求項6に記載の筋状態測定シートは、
一組の刺激電極の一方の陽極が絶縁シートの裏面に臨む位置を中心として、
他方の陰極を中心周りの位置に円環状に臨ませ、複数の筋電検出電極を、中心で同心円となる複数の円上の各位置にそれぞれ分散して臨ませたことを特徴とする。
【0034】
一対の一方の刺激電極が臨む位置を中心として、複数の筋電検出電極がその中心で同心円となる複数の円上の各位置に分散して臨むので、中心に位置する刺激電極に対して、同心円上の複数の筋電検出電極のうちのいずれかが評価する筋の筋線維の方向とほぼ平行に位置し、その筋電検出電極から電気刺激信号により誘発される筋活動電位が検出される。
【0035】
また、複数の筋電検出電極は、電気刺激信号による刺激位置と同心円上の各位置に分散して臨むので、同一円上に臨む複数の筋電検出電極の刺激位置との距離は等しく、同一円上に臨む複数の筋電検出電極から検出されるM波の潜時を比較して、各筋電検出電極が密着する体表面内の筋の活動状態を比較できる。
【0036】
請求項7に記載の筋状態測定シートは、少なくとも一方の刺激電極の絶縁シートの裏面に露出する露出面積が100mm
2以上であることを特徴とする。
【0037】
露出面積を100mm
2以上とすることによって、体表面に加えられる電気刺激信号の単位面積当たりの電流値が低下し、刺激の痛みを感じにくい。
【0038】
請求項8に記載の筋状態測定シートは、一組の刺激電極を、絶縁シートの裏面から突出させて裏面に臨ませたことを特徴とする。
【0039】
絶縁シートを体表面に位置決めした状態で、刺激電極が体表面を押し込むので、振動などの外力を受けても体表面への密着状態を維持する。
【0040】
請求項9に記載の筋状態測定シートは、複数の筋電検出電極にそれぞれ接続する引き出しパターンは、引き出しパターンの長さに比例してその横断面積を増加させた形状としたことを特徴とする。
【0041】
複数の筋電検出電極が絶縁シートの異なる位置に配置され、各引き出しパターンの長さが異なっても、同一抵抗値の引き出しパターンを介して検出した筋活動電位が出力される。
【0042】
請求項10に記載の筋状態測定シートは、引き出しパターンは、絶縁間隔を隔ててその周囲が接地導体で囲われることを特徴とする。
【0043】
引き出しパターンが接地導体で外部から遮蔽され、筋電検出電極で検出した筋活動電位に外部からのノイズが重畳することなく、引き出しパターンを介して出力される。
【0044】
請求項11に記載の筋状態測定シートは、電気刺激信号により誘発される筋の微細振動を検出する筋音センサーを更に備え、絶縁シートは、刺激電極と筋電検出電極に干渉しない裏面の位置に筋音センサーの検知面を臨ませ、一組の刺激電極から所定間隔を隔てた体表面に筋音センサーの検知面を密着させたことを特徴とする。
【0045】
測定する筋の体表面に一組の刺激電極から電気刺激信号が加えられると、筋がその筋線維方向に直交する側方に微細振動して一種の圧波が生じ、筋音センサーは、その振動波を誘発筋音
図MMGとして検出する。筋音センサーの検知面と一組の刺激電極による刺激位置との間隔は一定なので、筋音センサーは誘発筋音
図MMGの振幅や潜時を定量的に検出する。
【0046】
筋音センサーの検知面は、体表面に密着するので、筋を伸縮させる運動中であってもリアルタイムに電気刺激により誘発される誘発筋音
図MMGを検出できる。
【0047】
筋が疲労すると微細振動の振幅が減少するので、誘発筋音
図MMGの振幅から筋の疲労度を評価できる。
【0048】
請求項12に記載の筋状態測定シートは、一組の刺激電極を、絶縁シートの裏面の筋音センサーの検知面を隔てた両側に円環状に臨ませ、測定する筋の筋線維方向に直交する側方変位が最大となる体表面に筋音センサーの検知面が密着するように、絶縁シートの裏面を体表面に位置決めすることを特徴とする。
【0049】
筋音センサーの検知面は、一組の刺激電極の間で絶縁シートの裏面に臨むので、電気刺激位置の体表面に検知面が密着する。また、その密着する位置は、測定する筋の筋線維方向に直交する側方変位が最大となる位置なので、最大振幅の微細振動による誘発筋音
図MMGを検出する。
【0050】
請求項13に記載の評価システムは、絶縁シートの体表面に対向する側の裏面を測定する筋の体表面上に位置決めして、測定する筋の近傍の体表面に電気刺激信号を加え、その筋の近傍の体表面に表れる筋活動電位から筋の活動状態を評価する評価システムであって、電気刺激信号を出力する刺激発生手段と、陽極と陰極間に電気刺激信号が出力される一組の刺激電極と、電気刺激信号により誘発される筋活動電位を検出する1又は2以上の筋電検出電極と、刺激電極の陰極を、刺激電極の陽極と1又は2以上の筋電検出電極の間に配設し、一組の刺激電極と全ての筋電検出電極を互いに所定の間隔を
隔てて裏面に臨ませ、筋の体表面に密着させた絶縁シートと、1又は2以上の各筋電検出電極の電位を所定電位と比較し、各筋電検出電極に表れる筋活動電位を出力する比較回路と、1又は2以上の各筋電検出電極が電気刺激信号により誘発される筋活動電位を検出するまでの潜時から筋活動電位の伝搬速度を求め、伝搬速度をもとに筋の疲労度を評価する疲労評価手段と、を備えたことを特徴とする。
【0051】
一組の刺激電極と各筋電検出電極の間隔や各筋電検出電極間の間隔は、測定可能な距離であり、筋電検出電極が検出する潜時から筋活動電位を表すM波の伝搬速度が得られる。筋が疲労するほどM波の伝搬速度は遅くなるので、M波の伝搬速度から筋の疲労度を定量的に評価できる。
【0052】
請求項14に記載の評価システムは、
筋の体表面に密着する2以上の筋電検出電極間の筋に沿った間隔が15mm未満であることを特徴とする。
【0053】
M波の伝搬速度は少なくとも3m/s以上で、筋活動電位の中心周波数は、最大で350Hzであるので、伝搬するM波の波長は8.571mm以上の長さである。この波長について通常の筋活動電位の中心周波数である200Hz以下の場合には、波長は15mm以上であり、複数の筋電検出電極の測定する筋に沿った間隔を15mm未満とすれば、複数の筋電検出電極で検出する潜時の差からM波の伝搬速度が得られる。
【0054】
請求項15に記載の評価システムは、
定電位としたリファレンス電極を更に備え、絶縁シートは、リファレンス電極を一組の刺激電極と全ての筋電検出電極と所定の間隔を隔てて裏面に臨ませ、比較回路は、1又は2以上の各筋電検出電極の電位をリファレンス電極の定電位と比較し、各筋電検出電極に表れる筋活動電位を出力することを特徴とする。
【0055】
定電位とするリファレンス電極の電位と筋電検出電極との電位差から筋活動電位が検出される。
【発明の効果】
【0056】
請求項1の発明によれば、いずれかの筋電検出電極で電気刺激信号により誘発される誘発筋電
図EMGを確実に検出でき、誘発筋電
図EMGの振幅や潜時が電気刺激信号の刺激位置により変化しないので、筋の疲労状態や動員数の増減などの活動状態を正確に検出できる。
【0057】
特に、刺激電極の陰極を、刺激電極の陽極と1又は2以上の筋電検出電極の間に配設するので、筋繊維若しくは筋繊維上の神経筋接合部へ電気刺激信号による刺激を加えることができる。
【0058】
また、筋を伸縮させる運動中であっても、リアルタイムで筋の活動状態を評価できる。
【0059】
また、電気刺激信号が加えられる刺激位置に対して相対位置が特定された体表面の位置に密着する筋電検出電極で誘発筋電
図EMGを検出できるので、筋の種類や活動内容に応じた筋活動電位の伝搬方向、伝搬速度を検出できる。
【0060】
請求項2と請求項14の発明によれば、複数の筋電検出電極が検出する潜時の差から確実に筋活動電位の伝搬速度を検出できる。
【0061】
請求項3の発明によれば、誘発される筋活動電位の伝搬方向に沿って細長帯状のシート本体を位置決めすることができる。
【0062】
また、測定する筋を伸縮させる運動中に、リアルタイムに電気刺激信号により誘発される筋活動電位の伝搬速度を検出することができるので、連続して検出する筋活動電位の伝搬速度から測定する筋の疲労度の変化を検出できる。
【0063】
請求項4の発明によれば、絶縁シートが測定する筋に沿って体表面に位置決めされない場合であっても、筋に沿って伝搬する筋活動電位の伝搬速度を検出できる。
【0064】
測定する筋が筋線維方向の中央が太く両側が細い紡錘状であっても、紡錘状の筋の体表面の各位置に複数の筋電検出電極が密着するので、筋の異なる位置で伝搬する筋活動電位を検出できる。
【0065】
測定する筋の体表面は、筋の中央で膨らんだ湾曲面となっていても、いずれかの筋電検出電極が体表面に密着して高い検知レベルで筋活動電位を検出するので、筋活動電位の伝搬速度や振幅を確実に検出できる。
【0066】
請求項5の発明によれば、測定する筋の筋線維方向に沿った体表面に密着する筋電検出電極を容易に判別することができ、その筋電検出電極から精度よく筋活動電位のレベルや潜時を検出できる。
【0067】
請求項6の発明によれば、いずれかの筋電検出電極が測定する筋の近傍の体表面に密着するので、その筋電検出電極から精度よく筋活動電位のレベルや潜時を検出できる。
【0068】
更に、請求項6の発明によれば、電気刺激信号による刺激位置と同心円上の各位置に分散して臨む筋電検出電極との距離は、その円の半径で表されるので、誘発される筋活動電位を検出した潜時から、筋活動電位の伝搬速度を容易に検出できる。
【0069】
更に、請求項6の発明によれば、同一円上の各位置に分散して臨む複数の筋電検出電極から検出されるM波の潜時を比較して、電気刺激位置周りの体表面内の筋の活動状態を比較できる。
【0070】
請求項7の発明によれば、電気刺激信号を体表面へ加えても被験者に不快感を与えない。
【0071】
請求項8の発明によれば、運動などで刺激電極が振動しても、体表面に密着して確実に体表面へ電気刺激信号を加えることができる。
【0072】
請求項9の発明によれば、複数の筋電検出電極が絶縁シートの異なる位置に配置されて、それぞれ引き出しパターンの長さが異なるものであっても、検出される筋活動電位は同一抵抗値の引き出しパターンを介して出力され、引き出しパターンの長さが異なることによる誤差の影響を受けない。
【0073】
請求項10の発明によれば、数mVと微小電位の絶縁シートの裏面の筋活動電位をノイズの影響を受けずに引き出しパターンを介して出力できる。
【0074】
請求項11の発明によれば、誘発筋音
図MMGの振幅や潜時が電気刺激位置が異なることによって変化せず、誘発筋音
図MMGの振幅や潜時から筋の活動状態を評価できる。
【0075】
また、筋を伸縮させる運動中であっても、リアルタイムで検出する誘発筋音
図MMGから筋の活動状態を評価できる。
【0076】
また、筋電検出電極が検出する潜時と併用して誘発筋音
図MMGの振幅とからより正確に筋の疲労度を検出できる。
【0077】
請求項12の発明によれば、電気刺激信号を加えて微細振動の振幅が最大となる位置の体表面に筋音センサーの検知面を密着させるので、確実に誘発筋音
図MMGの振幅や振動周波数を検出できる。
【0078】
請求項13の発明によれば、筋電検出電極で検出される潜時から筋の疲労度を定量的に評価できる。
【0079】
特に、筋繊維若しくは筋繊維上の神経筋接合部へ電気刺激信号による刺激を加えることができるので、筋の疲労度を正確に評価できる。
【0080】
請求項15の発明によれば、コモンモードノイズの影響を受けずに筋電検出電極で筋活動電位を検出できる。
【発明を実施するための形態】
【0082】
本発明の第1実施の形態に係る筋状態測定シート1は、
図1に示すように、筋50に電気刺激信号を加えることにより、刺激位置から筋50の筋線維に沿って伝搬される筋活動電位の伝搬速度を検出し、伝搬速度から筋50の疲労度を評価する評価システム10に用いられる。この筋50の評価のために評価システム10は、筋状態測定シート1の一組の刺激電極2の陽極2aと陰極2b間に、アイソレータ11を介して後述する電気刺激信号を出力する刺激発生装置12と、筋状態測定シート1の4個の筋電検出電極3a、3b、3c、3dの電位をリファレンス電極と兼ねる陰極2bの接地電位と比較し、筋電検出電極3a、3b、3c、3dが検出した筋活動電位を出力する4つの比較回路13a、13b、13c、13dと、隣り合う筋電検出電極3a、3b、3c、3dが検出した筋活動電位の差分(V3a−V3b、V3b−V3c、V3c−V3d)をロガー15へ出力する3つの比較回路14a、14b、14cと、比較回路14から出力される筋活動電位の差分(V3a−V3b、V3b−V3c、V3c−V3d)を経過時間と共に記録するロガー15と、ロガー15に記録された結果から筋50の疲労度を評価するデータ処理装置16とを備えている。
【0083】
筋状態測定シート1は、活動状態を評価する筋50の筋線維の筋線維方向に沿った体表面に位置決めされるように、外形が細長帯状のフレキシブル印刷配線板(FPC)で形成され、
図2乃至
図4に示すように、PET等からなる可撓性の絶縁シート本体4に、一組の刺激電極2a、2bと、グランド電極5と、4個の筋電検出電極3a、3b、3c、3dと、各筋電検出電極3を外部に引き出す4本の引き出しパターン6a、6b、6c、6dとが互いに絶縁して一体に形成されている。絶縁シート本体4の体表面に対向する裏面となる底面には、後述する一組の刺激電極2a、2bと筋電検出電極3a、3b、3c、3dと引き出しパターン6a、6b、6c、6dの外部接続端子が露出する部位を除いたほぼ全面に図示しない両面テープが貼り付けられ、両面テープの剥離紙を剥離して表れる粘着層を、活動状態を評価する筋50に沿った体表面に粘着し、筋状態測定シート1を位置決めしている。そして、筋状態測定シート1を体表面に位置決めすることにより、一組の刺激電極2a、2bと筋電検出電極3a、3b、3c、3dとが対向する体表面に密着する。
【0084】
一組の刺激電極の陽極2aと陰極2bは、それぞれ小判型の輪郭で絶縁シート本体4の厚さ方向に貫通して一体に形成され、体表面に接する底面側の接触面2a1、2b1は、
図4に示すように、絶縁シート本体4の底面からわずかに突出した状態で臨んでいる。これにより、筋状態測定シート1を体表面に位置決めする際に、陽極2aと陰極2bが体表面を押し込み、所定の接触圧で体表面に確実に密着する。また、陽極2aと陰極2bが体表面に密着する際に、更にその表面抵抗を低下させる為、接触面2a1、2b1を金メッキで覆っている。
【0085】
小判型の輪郭で、絶縁シート本体4の底面に臨む接触面2a1、2b1の大きさは、陽極2aと陰極2b間に加えられる電気刺激信号の電流値に応じて一定の面積以上の大きさとし、単位面積当たりの電気刺激信号の電流値が刺激の痛みを感じさせない程度の電流値となるようにしている。本実施の形態では、電気刺激信号の電流値が5mA以上であるので、接触面2a1、2b1の面積がそれぞれ少なくとも100mm
2以上となる大きさとしている。
【0086】
一組の刺激電極の陽極2aと陰極2bは、細長帯状の絶縁シート本体4の長手方向の一端側(
図2乃至
図4で右端側)に形成され、陽極2aを外側に、陰極2bをその内側に配設している。筋50の体表面に密着する陽極2aと陰極2b間に電気刺激信号を流すと、電気刺激信号の通電中は、陽極2aを内向きに、神経線維を長手方向に、陰極2bを外向きに電気刺激信号が流れる。外向きの電流が興奮を引き起こすため一般に通電開始時は陰極2b付近で筋活動電位が発生し、その後の陽極2a付近で筋活動電位が発生するが、電気刺激信号は、後述するように0.5msecの短い刺激であるので、通電開始時の陰極2bのみが刺激効果を持ち、その付近に刺激により誘発される筋活動電位が発生するものと考えられる。そこで、筋状態測定シート1を活動状態を評価する筋50の体表面に沿って位置決めする際に、より確実に陰極2bと各筋電検出電極3a、3b、3c、3dが筋50の体表面に密着されるように、一組の刺激電極の陰極2bを陽極2aの内側に配設している。
【0087】
一組の刺激電極の陽極2aは、絶縁シート本体4の平面側に露出する面に半田接続する電線17aを介してアイソレータ11の+出力に接続している。また、陰極2bは、絶縁シート本体4の平面側に露出する面に半田接続する電線17bを介して、定電位に、ここでは接地電位に設定されたアイソレータ11の−出力と、各比較回路13a、13b、13c、13dの反転入力に接続し、筋電検出電極3a、3b、3c、3dの電位と比較するリファレンス電極を兼ねている。
【0088】
一組の刺激電極2a、2bから活動状態を評価する筋50へ一定周期で電気刺激を加えることによって、運動中など筋に負荷を与えながら筋活動電位を検出する場合であっても、脳からの神経刺激によって伸縮する際に発生する不安定な筋活動電位と識別して、電気刺激で誘発される筋活動電位を検出できる。また、一組の刺激電極の陽極2aと陰極2bは、測定する筋50の体表面に位置決めされる筋状態測定シート1の絶縁シート本体4に一体に形成されるので、運動中であっても電気刺激位置が位置ずれすることがなく、筋活動電位の伝搬速度や伝搬方向をリアルタイムに正確に検出できる。
【0089】
刺激発生装置12から一組の刺激電極2a、2b間に出力される電気刺激信号は、最大電流値が10mAで、パルス幅が0.5msec、電圧が50V乃至100Vの矩形波で、1秒の周期で刺激電極2a、2b間に出力される。電気刺激信号を、変化率の大きい矩形波とすることによって、低電流値であっても、緩やかに増加する漸増刺激波形に比べて高い刺激効果で神経線維を刺激できる。また、1秒の周期で単一の矩形波の刺激を加えることによって、筋50に沿って伝搬する筋活動電位の伝搬速度の検出が容易になる。
【0090】
尚、上述の一組の刺激電極2a、2b間に出力される電気刺激信号は、筋50へ電気刺激を加えて伸縮させることにより筋50をトレーニングする目的で一組の刺激電極2a、2b間に出力する電気刺激信号を利用することもできる。例えば、筋50をトレーニングする目的で刺激発生装置12から出力する電気刺激信号は、20Hz前後の周波数の電気刺激信号が好適であり、この電気刺激信号を出力して誘発される筋活動電位を筋電検出電極3a、3b、3c、3dにおいて検出してもよい。また、刺激発生装置12から筋50の活動状態を評価する目的で出力する電気刺激信号と、筋50をトレーニングする目的で出力する電気刺激信号の2種類の電気刺激信号を選択的に出力可能とし、その目的に応じていずれかの電気刺激信号を一組の刺激電極2a、2b間へ出力するようにしてもよい。
【0091】
4個の筋電検出電極3a、3b、3c、3dは、絶縁シート本体4の底面の一組の刺激電極2a、2bが一体に形成される一端側から他端側に向かって、長手方向に沿った異なる4カ所の位置に印刷形成されている。電気刺激位置が測定する筋50の体表面から外れると、筋50に刺激を与えることができず、また、筋電検出電極3a、3b、3c、3dが測定する筋50の体表面から外れると、電気刺激信号で誘発される筋活動電位を検出できない。そこで、一組の刺激電極2a、2bと全ての筋電検出電極3a、3b、3c、3dが筋50が存在する体表面に密着するように、4個の筋電検出電極3a、3b、3c、3dのうち一組の刺激電極2a、2bから最も離れた筋電検出電極3dは、一組の刺激電極2a、2bとの間隔が、少なくとも活動状態を評価する筋50の筋線維の長さより短くなる位置に印刷形成される。
【0092】
例えば、外側広筋の筋繊維の長さが65.7mm、腓腹筋の長さが35.2mmから50.7mmであるとして、外側広筋の活動状態の評価に用いる筋状態測定シート1では、底面に臨む陽極2aと筋電検出電極3d間の間隔を65.7mm以下と、腓腹筋の活動状態を評価に用いる筋状態測定シート1では、底面に臨む陽極2aと筋電検出電極3d間の間隔は35.2mm以下とする。これにより、細長帯状の筋状態測定シート1を測定する筋50に沿ってその体表面に位置決めすると、自然に一組の刺激電極2a、2bと全ての筋電検出電極3a、3b、3c、3dが、筋50の位置から外れることなく、その体表面に密着し、確実に筋50に電気刺激を加え、電気刺激により誘発される筋活動電位を検出できる。
【0093】
一組の刺激電極2a、2bから筋50の末梢神経を電気刺激信号で刺激すると、運動神経を介して興奮が筋50に達して筋50に筋50を収縮させようとする筋活動電位が生じる。この筋活動電位の波形は、M波とよばれ、電気刺激位置から筋50を伝搬する。筋50の体表面に密着させる筋電検出電極3から検出するM波は、評価する筋50の多数の筋線維の電気的な活動の集合波の波形であり、本実施の形態では、異なる体表面の位置に密着する4個の筋電検出電極3a、3b、3c、3dについての電気刺激信号を加えてからM波の立ち上がりを検出するまでの時間(潜時)の差分からM波の伝搬速度を得て、筋50の疲労度を評価する。
【0094】
ここで、電気刺激信号を加えてM波の伝搬速度を検出するのは、電気刺激により誘発される筋活動電位のM波の伝搬速度が、筋50の疲労などの末梢性の変化のみを反映するためである。すなわち、運動での筋疲労によるM波の伝搬速度の低下は、脳や運動神経等の中枢の中枢性疲労と、末梢の筋細胞の末梢性疲労が関与するが、微弱な電気刺激信号によって誘発される筋活動電位の伝搬速度は、抹消性疲労による変化のみに反映するので、筋細胞を伝搬するM波の伝搬速度を運動前と比較することによって、筋の疲労度を客観的に評価することができる。M波の伝搬速度は、電気刺激位置といずれかの筋電検出電極3との距離を、その筋電検出電極3から検出される潜時で割るか、隣り合う一対の筋電検出電極3、3間の距離を、一対の筋電検出電極3、3から検出される潜時の差分で割ることにより、算出できるが、本実施の形態では、後者の方法でM波の伝搬速度を検出する。尚、電気刺激位置は、一組の刺激電極の陽極2aと陰極2bの間の位置であればいずれの位置でもよいが、上述のように、電気刺激が短時間である場合には、一組の刺激電極2a、2bのうち、陰極2b付近が筋50への電気刺激位置と考えられるので、好ましくは陰極2bの位置とする。
【0095】
いずれの方法であっても、筋50の筋線維方向に沿った異なる位置に形成される一組の刺激電極2a、2bと筋電検出電極3a、3b、3c、3dとは、絶縁シート本体4に一体に形成され、電気刺激位置と筋電検出電極3との距離や隣り合う筋電検出電極3a、3b、3c、3d間の距離が一定であるので、各筋電検出電極3についての潜時からM波の伝搬速度を正確かつ確実に検出できる。
【0096】
筋50が疲労していない状態で、筋50に沿って伝搬するM波の伝搬速度は、神経線維の長径にほぼ比例し、例えば長径が0.6μmである場合には、伝搬速度はその6倍の3.6m/sとなり、一般に3m/s乃至5m/sの範囲である。また、M波の周波数は、100乃至350Hzであるので、その波長は、少なくとも8.571mm以上となる。しかしながら、通常の筋活動電位の中心周波数は200Hz以下で、波長は15mm以上であるので、4個の筋電検出電極3a、3b、3c、3dの隣り合う筋電検出電極3間の間隔を15mm未満とすれば、その間に2以上のM波が存在することがなく、隣り合う筋電検出電極3についての潜時の差分から、確実にM波の伝搬速度を検出できる。このため、本実施の形態では、4個の筋電検出電極3a、3b、3c、3dを10mmの等間隔で筋状態測定シート1の底面に臨ませている。
【0097】
各筋電検出電極3a、3b、3c、3dは、絶縁シート本体4のテール部4aの底面に沿って配線される引き出しパターン6a、6b、6c、6dにより他端側(図中左端側)に引き出され、接続ケーブルを介してそれぞれ4つの比較回路13a、13b、13c、13dの非反転入力に接続している。各筋電検出電極3a、3b、3c、3dで検出する筋活動電位は、数mVと微小電圧であるので、ノイズの侵入を防止するためにテール部4aの平面は接地されたシールド導体(図示せず)で覆われている。また、各筋電検出電極3a、3b、3c、3dは、絶縁シート本体4の異なる位置に形成されているので、他端側まで引き出される引き出しパターン6a、6b、6c、6dの長さも異なるが、その長さに比例してパターン幅を拡大させることによって、全ての引き出しパターン6a、6b、6c、6dを同一の抵抗値としている。これにより、各筋電検出電極3a、3b、3c、3dで検出される筋活動電位に、引き出しパターン6a、6b、6c、6dの抵抗値の差異による誤差が含まれない。
【0098】
尚、引き出しパターン6a、6b、6c、6dは、体表面に対向する絶縁シート本体4の底面に配線されるので、その表面はレジストで覆われ、体表面と絶縁されている。
【0099】
また、
図3に示すように、一組の刺激電極2a、2bと筋電検出電極3a、3b、3c、3dの間の絶縁シート本体4の平面には、絶縁シート本体4に沿って流れるノイズを遮断する接地されたグランド電極5が印刷形成されている。
【0100】
この筋状態測定シート1を用いた評価システム10で、上腕二頭筋50の疲労度を評価する方法を説明する。初めに筋状態測定シート1の底面に粘着させた両面テープの剥離紙をはがし、
図1に示すように、評価しようとする筋50の筋線維方向と細長帯状の筋状態測定シート1の長手方向が一致するように、筋50の体表面に筋状態測定シート1を粘着させて位置決めする。これにより、一組の刺激電極2a、2bと各筋電検出電極3a、3b、3c、3dは、自然に筋50の体表面に筋線維の方向に沿って体表面に密着する。
【0101】
続いて、筋50を伸縮させる運動開始前に、刺激発生装置12からアイソレータ11を介して一組の刺激電極2a、2b間に、1秒の周期でパルス幅が0.5msec、電圧が100Vの矩形波の電気刺激信号を出力し、電気刺激信号を出力してから一定の経過時間中、リファレンス電極2bの接地電位に対する各筋電検出電極3a、3b、3c、3dの電位を、比較回路13a、13b、13c、13dから連続出力する。各比較回路13a、13b、13c、13dの出力波形は、各筋電検出電極3a、3b、3c、3dが検出した電気刺激信号により誘発される筋活動電位の波形であるM波であり、その後段に接続される比較回路14a、14b、14cは、隣り合う筋電検出電極3a、3b、3c、3dから検出されたM波の電位の差分をロガー15へ出力する。
【0102】
比較回路14a、14b、14cにおいて隣り合う各筋電検出電極3a、3b、3c、3dが検出したM波の電位の差分をとるのは、各筋電検出電極3a、3b、3c、3dが検出したM波に共通して重畳するコモンモードノイズの影響を相殺するためである。
【0103】
図5は、筋50を伸縮させる運動開始前に、各比較回路14a、14b、14cからロガー15に出力された出力波形で、各筋電検出電極3a、3b、3c、3dが検出したM波の電位の差分を経過時間と共に表した誘発筋電
図EMGである。すなわち、比較回路14aの出力波形は、筋電検出電極3aが検出したM波の電位V3aと隣り合う筋電検出電極3bが検出したM波の電位V3bの差電圧波形(V3a−V3b)、比較回路14bの出力波形は、筋電検出電極3bが検出したM波の電位V3bと隣り合う筋電検出電極3cが検出したM波の電位V3cの差電圧波形(V3b−V3c)、比較回路14cの出力波形は、筋電検出電極3cが検出したM波の電位V3cと隣り合う筋電検出電極3dが検出したM波の電位V3dの差電圧波形(V3c−V3d)である。
【0104】
筋電検出電極3a、3b、3c、3dは、一組の刺激電極2a、2bとの距離が最も近い筋電検出電極3aから筋電検出電極3dまで、筋50の筋線維の方向に沿って等間隔の体表面の位置に密着しているので、電気刺激信号により陰極2b付近に発生するM波は、筋50の筋線維に沿って伝搬し、密着位置の順である筋電検出電極3a、3b、3c、3dの順にM波の立ち上がりが検出される。例えば、筋電検出電極3aの位置にM波が到達してV3aが上昇する時点で、M波が到達していない筋電検出電極3bの電位V3bは一定であるので、比較回路14aの出力である差電圧波形(V3a−V3b)は上昇する。すなわち、差電圧波形(V3a−V3b)の立ち上がりを観測した時tlaを、筋電検出電極3aでM波の立ち上がりを検出した時とみなすことができ、電気刺激信号を出力してからtlaまでの経過時間が筋電検出電極3aについての潜時となる。同様に、電気刺激信号を出力してから差電圧波形(V3b−V3c)の立ち上がりを観測した時tlbまでの経過時間が筋電検出電極3bについての潜時、電気刺激信号を出力してから差電圧波形(V3c−V3d)の立ち上がりを観測した時tlcまでの経過時間が筋電検出電極3cについての潜時となる。
【0105】
図5は、筋電検出電極3a、3b、3cが等間隔に配設されることに対応させて、各比較回路14a、14b、14cの出力波形を縦軸に等間隔に表しているので、立ち上がりを観測した時点tlaでの差電圧(V3a−V3b)、時点tlbでの差電圧(V3b−V3c)及び時点tlcでの差電圧(V3c−V3d)を結ぶ直線の傾きは、M波の伝搬速度を表し、データ処理部16は、ロガー15に記録された差電圧波形(V3a−V3b)、(V3b−V3c)、(V3c−V3d)と、筋電検出電極3a、3b、3c間の間隔とから、M波の伝搬速度を算出する。本実施の形態では、
図5に表れされる差電圧波形(V3a−V3b)、(V3b−V3c)、(V3c−V3d)と実測した筋電検出電極3a、3b、3c間の間隔とから、筋50を伸縮させる運動開始前のM波の伝搬速度を4.77m/sと算定した。
【0106】
次に、上腕二頭筋50の筋力を5秒間発揮させた後に5秒間安静させる運動を11回繰り返した後に、同様に、同一の電気刺激信号を出力して各筋電検出電極3a、3b、3c、3dの電位から電気刺激信号により誘発されるM波を検出し、
図6に示す各比較回路14a、14b、14cの出力波形についてM波の立ち上がりが検出される時点tla’、tlb’、tlc’から、各筋電検出電極3a、3b、3cについて潜時を得て、運動後に筋疲労した筋50のM波の伝搬速度を算定する。
【0107】
図6において、時点tlaでの差電圧(V3a−V3b)、時点tlbでの差電圧(V3b−V3c)及び時点tlcでの差電圧(V3c−V3d)を結ぶ直線のM波の伝搬速度を表す傾きは、
図5に比べて緩やかな傾斜となり、時点tla’、tlb’、tlc’での差電圧(V3a−V3b)、(V3b−V3c)、(V3c−V3d)と実測した筋電検出電極3a、3b、3c間の間隔とから、筋50が筋疲労した状態でのM波の伝搬速度は3.77m/sと算定された。このように筋50が一定時間の運動で収縮と伸張を繰り返えすと、酸素の供給不足によって筋50の一部に乳酸が発生し、筋50の収縮力が低下する筋疲労の状態に至り、M波の伝搬速度も低下する。
【0108】
従って、本実施の形態に係る筋状態測定シート1を用いて、筋50に負荷を加える運動中に、リアルタイムに算定するM波の伝搬速度から筋50の筋疲労度を数値評価することができる。
【0109】
本発明の第2の実施の形態に係る筋状態測定シート20は、複数の筋電検出電極21(m,n)が絶縁シート本体22の底面の分散した異なる位置に一体に形成されたもので、以下、この筋状態測定シート20と筋状態測定シート20を用いた評価システム18について
図7乃至
図11を用いて説明する。筋状態測定シート20と評価システム18の各部について、上述の筋状態測定シート1と評価システム10と同一若しくは同様に作用する構成には、同一の番号を用いてその詳細な説明を省略する。
【0110】
筋状態測定シート20を用いた評価システム18は、筋線維が異なる方向に走行する僧帽筋50の活動状態を評価するものであり、
図9に示すように、筋状態測定シート20の一組の刺激電極2の陽極2aと陰極2b間に、アイソレータ11を介して電気刺激信号を出力する刺激発生装置12と、筋状態測定シート20の64個の筋電検出電極21(m,n)の各電位をリファレンス電極2bの接地電位と比較し、各筋電検出電極21(m,n)から検出した筋活動電位をそれぞれロガー15へ出力する出力する64個の比較回路13、13・・と、各比較回路13、13・・から出力される筋活動電位を経過時間と共に記録するロガー15と、ロガー15に記録された結果から筋50の疲労度や筋活動電位の伝搬方向を評価するデータ処理装置16とを備えている。
【0111】
筋状態測定シート20は、
図7、
図8に示すように、PET等からなる可撓性の絶縁シート本体22の底面側に、陽極2aと陰極2bとからなる一組の刺激電極2と、グランド電極5と、64個の筋電検出電極21(m,n)と、各筋電検出電極21(m,n)にそれぞれ接続する64本の引き出しパターン6とを印刷形成したフレキシブル印刷配線板で形成され、64個の筋電検出電極21(m,n)は、絶縁シート本体22の底面の左上隅の1行1列の位置を除き、底面の平行な左右の輪郭に沿った15行5列のマトリックス状の各位置に臨んでいる。64本の引き出しパターン6は、それぞれ各筋電検出電極21(m,n)から絶縁シート本体22の四隅のテール部22aにかけて配線され、接続ケーブルを介してそれぞれ64個の比較回路13、13・・の非反転入力に接続している。引き出しパターン6の体表面と対向する面もレジストで覆われ、体表面と絶縁されている。
【0112】
図示するように、一組の刺激電極2の陽極2aは小判型の輪郭で、陰極2bは長方形の輪郭で、絶縁シート本体22の底面に露出しているが、いずれも裏面に露出する露出面積を100mm
2以上として、電気刺激信号の電流値が5mA以上の電気刺激信号を加えても、電気刺激の痛みが伝わらない。
【0113】
また、本実施の形態では、グランド電極5が絶縁シート本体22の底面側の陰極2bと筋電検出電極21(m,n)の間で臨んでいる。これにより、刺激電極2と筋電検出電極21(m,n)間の体表面に沿って流れるノイズが遮断される。
【0114】
絶縁シート本体22は、僧帽筋50の主要部分の体表面を覆う形状に形成され、一組の刺激電極2a、2bとグランド電極5と、64個の筋電検出電極21(m,n)が露出する部位を除いた底面の全体に貼り付けられた図示しない両面テープの剥離紙を剥離して表れる粘着層を、僧帽筋50の体表面に粘着させて、僧帽筋50の体表面に筋状態測定シート20を位置決めする。
【0115】
筋状態測定シート20を僧帽筋50の体表面に位置決めすることによって、一組の刺激電極の陽極2aと陰極2bが僧帽筋50の一方側の体表面に密着すると共に、64個の筋電検出電極21(m,n)が僧帽筋50の体表面の分散した異なる位置に密着し、僧帽筋50の異なる方向に走行する多数の筋線維の体表面にいずれか1又は2以上の筋電検出電極21(m,n)が密着する。
【0116】
本実施の形態に係る筋状態測定シート20は、可撓性の絶縁シート本体22の底面に多数の筋電検出電極21(m,n)を平面上の異なる位置に分散させて臨ませているので、筋線維が異なる方向に走行する僧帽筋50の活動状態を評価する場合であっても、湾曲する体表面に沿って絶縁シート本体22が撓み、多数の筋電検出電極21(m,n)を僧帽筋50全体の湾曲する体表面に沿って密着させることができる。
【0117】
一組の刺激電極2a、2bと全ての筋電検出電極21(m,n)が僧帽筋50の体表面に密着するように、一組の刺激電極2a、2bから最も離れた筋電検出電極21(13,n)は、一組の刺激電極2a、2bとの間隔が、僧帽筋50の筋線維の長さより短くなる位置に印刷形成され、これにより全て筋電検出電極21(m,n)が僧帽筋50の位置から外れることなく、その体表面に密着し、確実に僧帽筋50に電気刺激を加え、電気刺激により誘発される筋活動電位を検出できる。
【0118】
一般の筋50は、筋線維の方向に沿った筋線維方向の中央が太く、その体表面が複雑な湾曲面となっているので、筋50の湾曲した体表面に沿ってより多くの筋電検出電極21(m,n)を密着させるために、一組の刺激電極2a、2bと同様に、筋電検出電極21(m,n)も絶縁シート本体22の底面から突出するように形成してもよい。
【0119】
この筋状態測定シート20を用いた評価システム18では、筋状態測定シート20を
図10に示すように、僧帽筋50の体表面に密着して位置決めし、刺激発生装置12から一組の刺激電極2a、2bに電気刺激信号を出力し、筋疲労や随意筋力の変化に応じた僧帽筋50の活動領域の変化や筋疲労度を評価することができる。
【0120】
僧帽筋50の疲労度に応じた活動領域の変化を評価する場合には、僧帽筋50を持続的に伸縮させながら、一定の経過時間毎に、比較回路13、13・・から出力される全ての筋電検出電極21(m,n)についての筋活動電位をロガー15に記録し、データ処理装置16は、ロガー15に記録された各筋電検出電極21(m,n)の位置での筋活動電位を表す誘発筋電
図EMGを生成する。筋活動電位のレベルは、その筋活動電位を検出した筋電検出電極21(m,n)の密着位置での運動単位の増員数と発火頻度を表すので、生成した誘発筋電
図EMGは、僧帽筋50の多方向に走行する筋線維のうち、筋線維が活動している領域と活動していない領域を表す。一定の経過時間毎に生成される誘発筋電
図EMGを比較すると、僧帽筋50の各位置における運動単位の増員や脱動員の変化し、疲労困憊に至るまでに僧帽筋50の運動単位が交代しながら活動している状況を確認できる。
【0121】
また、僧帽筋50の随意筋力の変化に対する僧帽筋50の活動領域の変化を評価する場合には、例えば、僧帽筋50の運動課題を、安静時から最大随意筋力(MVC;maximal voluntary contraction)まで段階的に変化させ、各随意筋力の状態で、同様に比較回路13、13・・から出力される全ての筋電検出電極21(m,n)についての筋活動電位をロガー15に記録し、データ処理装置16において、ロガー15に記録された各筋電検出電極21(m,n)の位置での筋活動電位から誘発筋電
図EMGを生成する。これにより、随意筋力の変化に応じて、僧帽筋50のどの領域での運動単位が活動しているかを評価できる。
【0122】
僧帽筋50の筋疲労度を評価する場合には、第1実施の形態と同様に、運動の前後で、刺激発生装置12から出力される電気刺激信号によって僧帽筋50に誘発されるM波の筋50に沿った伝搬速度を検出し、M波の伝搬速度から僧帽筋50の筋疲労度を評価する。4個の筋電検出電極3a、3b、3c、3dが直線状に配列された筋状態測定シート1と異なり、この筋状態測定シート20では、一組の刺激電極2a、2bの電気刺激位置から64個の筋電検出電極21(m,n)が多方向の位置に分散して配設されるので、各筋電検出電極21(m,n)についてM波を検出する潜時と、刺激電極2a、2bとの間隔とから、異なる方向に走行する筋線維に沿って伝搬するM波の伝搬速度を検出できる。
【0123】
また、ヒラメ筋や上腕二頭筋のように筋線維方向50Cが明らかな筋50のM波の伝搬速度を検出する場合には、
図11(a)に示すように、m行n列に配設された筋電検出電極21(m,n)の列方向が筋線維方向50Cと一致するように筋状態測定シート20を体表面に位置決めし、各行の筋電検出電極21(m,n)で検出する潜時と行間の間隔とから、筋50の筋線維方向50Cに沿って伝搬するM波の伝搬速度を検出する。
【0124】
しかしながら、筋50の筋線維方向50Cは明瞭ではなく、同図(b)に示すように、筋電検出電極21(m,n)の列方向と筋線維方向50Cが一致しない場合がある。本実施の形態に係る筋状態測定シート20によれば、このような場合であっても、筋線維方向50Cに沿った筋50に対して、各行のいずれかの筋電検出電極21(m,n)が近接して配置されているので、その近接配置される筋電検出電極21(m,n)についての潜時と行毎に近接配置される筋電検出電極21(m,n)間の間隔からM波の伝搬速度を一定の精度で検出できる。筋線維方向50Cに最も近接配置される筋電検出電極21(m,n)は、行毎の各筋電検出電極21(m,n)から検出するM波の潜時や振幅レベルを比較して抽出できる。筋50の筋線維方向50Cに近接する筋電検出電極21(m,n)の抽出が煩雑である場合には、行毎に筋電検出電極21(m,n)の潜時の平均や総和を算定し、算定値と行間の間隔とからM波の伝搬速度を検出してもよい。
【0125】
本発明の第3の実施の形態に係る筋状態測定シート40は、評価システム18に用いられる上述の筋状態測定シート20の変形例であり、絶縁シート本体42の底面に露出する一組の刺激電極43a、43bの一方の陽極43aを中心として同心円となる複数の円上に複数の筋電検出電極41(r,q)が分散して露出している。以下、この筋状態測定シート40を
図12を用いて説明するが、第2実施の形態に係る筋状態測定シート20及び評価システム18と同一若しくは同様に作用する構成には、図中同一の番号を用いてその詳細な説明を省略する。
【0126】
筋状態測定シート40は、
図12に示すように、可撓性の円形の絶縁シート本体42の底面側に、一組の刺激電極43a、43bと複数の筋電検出電極41(r,q)が互いに絶縁された状態で分散して露出している。一組の刺激電極43a、43bのうち陽極43aは、円形の絶縁シート本体42の中心に円形に露出し、他方の陰極43bは、その陽極43a周りに円環状に露出し、それぞれ図示しない電線を介してアイソレータ11に接続している。
【0127】
複数の筋電検出電極41(r,q)は、陽極43aの露出位置を中心とする3種類の仮想同心円r1、r2、r3毎にその円周方向に沿って一定角度間隔を隔ててq個の筋電検出電極41(r,q)が露出し、それぞれ図示しないテール部22aにかけて配線される引き出しパターン6を介して比較回路13、13・・の非反転入力に接続している。本実施の形態では、仮想同心円r1、r2、r3間の間隔を一定としているが、仮想同心円rの数やそれぞれの半径は、任意に設定できる。また、複数の筋電検出電極41(r,q)は、陽極43aの露出位置の中心を通過する直線と各仮想同心円r1、r2、r3とが交差する放射線上の位置に露出させてもよい。
【0128】
筋状態測定シート40は、円形の絶縁シート本体42の中心が評価する筋50の体表面上となるように配置し、図示しない両面テープの剥離紙を剥離して表れる粘着層を体表面に粘着させて、筋50の体表面に位置決めする。これにより、一組の刺激電極43a、43bが評価する筋50の体表面に密着し、陽極43aを中心とする体表面の周囲の各方向に分散する位置に、複数の筋電検出電極41(r,q)がそれぞれ密着する。従って、陽極43aの密着位置から、筋50の筋線維の方向に沿ったいずれか1又は2以上の筋電検出電極41(r,q)が筋50の体表面に密着するものとなる。
【0129】
筋状態測定シート40を用いた評価システム18で筋50の活動状態を評価する場合には、初めに刺激発生装置12から一組の刺激電極43a、43bに電気刺激信号が出力し、全ての筋電検出電極41(r,q)から比較回路13を介して出力される誘発筋電信号のレベルを比較する。電気刺激信号により誘発される誘発筋電信号は、筋線維の長手方向に沿って伝搬するので、同一の仮想同心円r上で露出する筋電検出電極41(r,q)のうち、誘発筋電信号のレベルが比較的高い筋電検出電極(以下、特定筋電検出電極41(r,m)という)が、筋50の近傍の体表面に密着していると推定できる。従って、本実施の形態に係る筋状態測定シート40によれば、筋50の筋線維方向50Cが明瞭ではなくても、一組の刺激電極43a、43bと特定筋電検出電極41(r,m)が筋線維方向50Cに沿って配置されるので、その特定筋電検出電極41(r,m)についての潜時と、その特定筋電検出電極41(r,m)が露出する仮想同心円rの半径、すなわち電気刺激位置の陽極43aと特定筋電検出電極41(r,m)間の間隔からM波の伝搬速度を一定の精度で検出できる。
【0130】
また、この筋状態測定シート40を用いた評価システム18では、一組の刺激電極43a、43bが露出する中心から複数の筋電検出電極41(r,q)が多方向に分散する位置に露出しているので、複数の筋電検出電極41(r,q)から検出される誘発筋電信号を比較して電気刺激位置を中心とする周囲の筋50の有無や筋50の組成を得ることができる。
【0131】
図13、
図14は、本発明の第4の実施の形態に係る筋状態測定シート30を示し、筋状態測定シート30を用いた評価システムは、電気刺激により誘発されるM波の伝搬速度とともに、電気刺激により伸縮する筋50の機械的変位で発生する筋音をもとに筋50の疲労度を評価するものであり、筋状態測定シート30は、絶縁シート本体31に、陽極32aと陰極32bからなる一組の刺激電極32と、4個の筋電検出電極33a、33b、33c、33dの他に、筋音センサー34が一体に形成されている。以下、この筋状態測定シート30と筋状態測定シート30を用いた評価システムについて説明するが、筋状態測定シート30を用いた評価システムは、評価システム10にマイクロフォン34の出力をロガー15へ出力する構成を加えただけであるので、上述の筋状態測定シート1及び評価システム10と同一若しくは同様に作用する構成には、同一の番号を用いてその詳細な説明を省略する。
【0132】
図13に示すように、筋状態測定シート30は、PET等からなる可撓性の長方形の絶縁シート本体22の底面側に、陽極32aと陰極32bからなる一組の刺激電極32と、4個の筋電検出電極33a、33b、33c、33dと、各筋電検出電極33にそれぞれ接続する図示しない引き出しパターン6とを印刷形成したフレキシブル印刷配線板で形成され、絶縁シート本体22の陽極32aと陰極32bの間に穿設された取付孔35に、筋音センサーとなるマイクロフォン34が挿通して一体に固定され、その検知面34aが絶縁シート本体22の底面に臨んでいる。
【0133】
疲労度を評価する筋50に電気刺激信号を加えて刺激すると、上述したように筋50に筋活動電位が誘発されるとともに、刺激を受けた筋線維が収縮する際に筋50が側方に拡大し、一種の圧波が発生すると考えられている。筋音センサー34は、この筋50が側方に伸縮する機械的な微振動の変位を筋音として検出し、データ処理装置16が解析可能な電気信号に変換する。筋音の周波数や振幅は、後述するように筋50の活動状態と一定の相関があると考えられ、この筋50の活動状態を評価する目的から、筋音センサーとして、加速度センサーやマイクロフォンを用いることができる。本実施の形態では、筋音センサーを筋状態測定シート30に一体に取り付けて筋50の体表面に密着させるので、運動中に体動による加速度を含んで検出する加速度センサーは適さず、マイクロフォン34を用いる。
【0134】
一組の刺激電極32の陽極32aと陰極32bは、それぞれ長方形の輪郭で、絶縁シート本体22の底面の長手方向で対向する両辺に沿って臨んでいる。本実施の形態においても、刺激発生装置12から陽極32aと陰極32b間に出力される電気刺激信号は、5mA以上であるので、電気刺激信号による痛みを感じないように、陽極32aと陰極32bの絶縁シート本体22の底面に露出する露出面積は、それぞれ100mm
2以上としている。
【0135】
また、筋状態測定シート30は、
図14に示すように、その長手方向が評価する筋50の筋線維の方向に一致するように体表面に位置決めするので、陽極32aと陰極32bがいずれも評価する筋50の体表面上に密着するように、絶縁シート本体22の長手方向の陽極32aと陰極32bの間隔は、少なくとも筋50の筋線維の長さより短い間隔となっている。
【0136】
4個の筋電検出電極33a、33b、33c、33dは、陽極32aと陰極32bの間で、それぞれ絶縁シート本体22の周辺に平行な長方形の四隅の位置で絶縁シート本体22の底面に臨んでいる。このように、筋活動電位を検出する筋電検出電極33a、33b、33c、33dは、一組の刺激電極32a、32b、33c、33dの間に配置してもよい。また、M波の伝搬速度を3m/s乃至5m/s、M波の周波数を、200Hz以下として、絶縁シート本体22の長手方向で離間する筋電検出電極33a、33bと筋電検出電極33c、33dの間隔は少なくとも15mm未満とし、これにより、筋電検出電極33a、33bの潜時の平均と筋電検出電極33c、33dの潜時の平均の差分からM波の伝搬速度を確実に検出できるようにしている。
【0137】
図14に示すように、マイクロフォン34の検知面34aは、絶縁シート本体22の底面からわずかに突出する突曲面に形成され、これにより筋50の体表面に密着して筋50の側方への微振動による筋音を確実に検出することができる。また、検知面34aは、一組の刺激電極32の陽極32aと陰極32bの中間の位置で筋状態測定シート30の底面に臨むので、図示するように、陽極32aと陰極32bを筋50の筋線維の方向の両側の体表面に密着させた場合に、電気刺激位置に近接し、側方に膨らみ、振幅が最も大きい筋50の中央の体表面に密着されるので、筋50に発生する筋音を高い精度で検出できる。
【0138】
マイクロフォン34が検出する筋音から筋50の疲労度を評価するため、評価システムでは、筋50を持続的に伸縮させながら、陽極32aと陰極32bへ電気刺激信号を加えるとともに、一定の経過時間毎にマイクロフォン34が検出する筋音の波形をロガー15で記録し、データ処理装置16は、ロガー15に記録された筋音の波形を表す誘発筋音
図MMGを生成する。
【0139】
運動にともなって筋50の筋疲労が亢進すると、筋線維の側方への広がりが徐々に狭くなっていき、振幅が減少していくので、一定の経過時間毎の誘発筋音
図MMGに表れる筋音の振幅から筋50の筋疲労を評価できる。
【0140】
一方、一定の経過時間毎に筋電検出電極33a、33bと筋電検出電極33c、33dについて電気刺激からM波を検出するまでの潜時の差分と、両者の筋状態測定シート30の長手方向に沿った間隔とからM波の伝搬速度を検出し、M波の伝搬速度の低下からも筋50の筋疲労を評価できる。
【0141】
また、筋50の疲労が亢進すると、筋50の収縮性を補うための運動単位の動員数及び発火頻度が増加し、誘発筋電
図EMGに表れる筋活動電位の振幅も大きくなるので、M波の振幅の変化から筋50の疲労度を評価することもできる。
【0142】
また、筋疲労がすすむにつれて筋50が硬直する凝りの目安である筋硬度は、物質としての密度に依存し、物体の共振周波数は物体の密度に依存するので、電気刺激信号の周波数を徐々に変化させて観測される筋音の共振周波数から筋硬度を定量的に評価することもできる。筋音の周波数は、M波の周波数より一桁低い100Hz以下ではあるので、例えば、1Hzから100Hzで電気刺激信号の周波数を徐々に上げていき、データ処理装置16において、筋音
図MMGの最大振幅が得られた時刻の前後の筋音図信号を抽出し、抽出した筋音図信号をFFT法(フーリエ変換)によりパワースペクトル密度を求め、パワースペクトル密度のピーク値が得られた際の周波数を共振周波数とする。
【0143】
更に、電気刺激信号の周波数に対して、誘発筋音
図MMGの周波数成分が同期しているか否かによって、評価する筋50が速筋であるか遅筋のいずれのタイプであるかを評価できる。例えば遅筋タイプのヒラメ筋は、高頻度刺激に機械的な追従ができないので、電気刺激信号に同期しない。
【0144】
このように、電気刺激を加えることにより発生する筋音や筋活動電位から、筋50の種々の活動状態を客観的に評価できるが、いずれの方法で評価する場合であっても、筋状態測定シート30の絶縁シート本体22に、陽極32aと陰極32bからなる一組の刺激電極32と、4個の筋電検出電極33a、33b、33c、33dと、マイクロフォン34が一体に形成され、相互が固定した間隔で筋状態測定シート30の底面に臨むので、電気刺激位置と筋活動電位や筋音を検出する検出位置が常に一定で、運動中であっても電気刺激位置や検出位置が移動しないので、筋活動電位や筋音から筋50の活動状態を正確に評価できる。
【0145】
上述の実施の形態では、粘着層によって絶縁シートの底面を筋50の体表面に粘着させているが、体表面の所定位置に位置決めできれば、バンドなどで体表面に巻き付けて位置決めしてもよい。
【0146】
また、絶縁シートの底面に一体に取り付けられる複数の筋電検出電極間の間隔は、既知の間隔であれば、かならずしも等距離である必要はない。
【0147】
また、筋状態測定シートに接続する評価システムの各部の構成は、バンドなどで身体に取り付ける装置内に配置し、身につけるものであってもよい。
【0148】
また、リファレンス電極は、刺激電極の陰極と兼ねたが、陰極とは別に絶縁シート本体に取り付けてもよい。
【0149】
また、電気刺激信号を加えてから筋電検出電極でM波の立ち上がりを検出するまでの時間を潜時として、M波の伝搬速度を検出したが、電気刺激信号を加えてからM波の開始時から終了時までのいずれかの時刻を特定できれば、その時刻までの時間を潜時として、M波の伝搬速度を検出してもよい。