特許第6653663号(P6653663)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6653663
(24)【登録日】2020年1月30日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】無機有機ハイブリッド化合物
(51)【国際特許分類】
   C07J 7/00 20060101AFI20200217BHJP
   C07D 475/14 20060101ALI20200217BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20200217BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20200217BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20200217BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20200217BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200217BHJP
   A61P 33/06 20060101ALI20200217BHJP
   A61P 31/06 20060101ALI20200217BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20200217BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20200217BHJP
   A61K 31/661 20060101ALI20200217BHJP
   A61K 31/662 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/675 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/7076 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/663 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/65 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/704 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/427 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/7008 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/4985 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/665 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/6615 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/7024 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/708 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/7072 20060101ALN20200217BHJP
   C07H 15/252 20060101ALN20200217BHJP
   C07H 5/06 20060101ALN20200217BHJP
   C07D 501/54 20060101ALN20200217BHJP
   C07J 9/00 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/519 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/575 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/546 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/185 20060101ALN20200217BHJP
   A61K 31/57 20060101ALN20200217BHJP
   C07F 9/09 20060101ALN20200217BHJP
   C07F 9/6524 20060101ALN20200217BHJP
【FI】
   C07J7/00
   C07D475/14CSP
   A61P29/00
   A61P11/06
   A61P29/00 101
   A61P19/02
   A61P25/00
   A61P35/00
   A61P33/06
   A61P31/06
   A61K9/14
   A61K49/00
   A61K31/661
   !A61K31/662
   !A61K31/675
   !A61K31/7068
   !A61K31/7076
   !A61K31/663
   !A61K31/65
   !A61K31/704
   !A61K31/427
   !A61K31/7008
   !A61K31/4985
   !A61K31/665
   !A61K31/6615
   !A61K31/7024
   !A61K31/708
   !A61K31/7072
   !C07H15/252
   !C07H5/06
   !C07D501/54
   !C07J9/00
   !A61K31/519
   !A61K31/575
   !A61K31/546
   !A61K31/185
   !A61K31/57
   !C07F9/09 K
   !C07F9/6524
【請求項の数】9
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2016-558186(P2016-558186)
(86)(22)【出願日】2015年2月26日
(65)【公表番号】特表2017-513820(P2017-513820A)
(43)【公表日】2017年6月1日
(86)【国際出願番号】EP2015000454
(87)【国際公開番号】WO2015144282
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2017年9月6日
(31)【優先権主張番号】102014004512.9
(32)【優先日】2014年3月28日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】519114579
【氏名又は名称】フェルドマン クラウス
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘック ヨアヒム
(72)【発明者】
【氏名】ポス マリーケ
(72)【発明者】
【氏名】ライヒャルト ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】ナップ ジョアンナ
(72)【発明者】
【氏名】アルベス フラウケ
(72)【発明者】
【氏名】シュトゥーマー ヴォルター
(72)【発明者】
【氏名】フェルドマン クラウス
【審査官】 三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−517696(JP,A)
【文献】 特開昭59−067294(JP,A)
【文献】 特開平11−001487(JP,A)
【文献】 特表2005−516003(JP,A)
【文献】 特表2014−508027(JP,A)
【文献】 特表2009−518300(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0198538(US,A1)
【文献】 特表2006−521367(JP,A)
【文献】 特表2011−501739(JP,A)
【文献】 アイソボリン点滴静注用25mg, 100mg 添付文書,2008年
【文献】 Materials Letters,2013年,Vol.110,pp.134-136
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07J 1/00− 75/00
C07D201/00−521/00
C07F 9/00− 19/00
C07H 1/00− 99/00
A61K 31/33− 33/44
A61P 1/00− 43/00
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00− 47/69
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2+、Ba2+、Z4+、[ZrO]2+、[HfO]2+、Sc3+、Y3+、Gd3+、La3+、Fe3+、Bi3+又はランタノイドから選択される無機金属陽イオンと、官能基として少なくとも1つのリン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、スルホン酸基、炭酸基、又はカルボン酸基を含む有機有効成分陰イオンとで構成され、
水に10−2mol/l以下のモル溶解度を有し、
1nm〜100nmの範囲の粒子径を有し、
X線非晶質形態であり、
前記有機有効成分が、ヒト又は動物の疾患を治癒又は予防する薬剤として示される物質、またヒト若しくは動物の身体において若しくはそれらに対して医学的診断を提供すること、又はヒト若しくは動物の身体機能の回復、増強若しくは調節が意図される物質である、
イオン化合物としての無機有機ハイブリッド化合物(但し、乳酸− グリコール酸共重合体または乳酸重合体ナノ粒子に封入された無機有機ハイブリッド化合物を除く)。
【請求項2】
官能基としてリン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、スルホン酸基、炭酸基、又はカルボン酸基を持つ蛍光色素陰イオンを更に含む、請求項1に記載の無機有機ハイブリッド化合物。
【請求項3】
Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb若しくはLuから選択されるランタノイド、Cr、Mn、Cu、Zn、Y、Ag若しくはCdから選択される遷移金属、Sn、Sb、Pb若しくはBiから選択される典型元素、又は[VO3−、[MoO3−若しくは[WO3−から選択される錯陰イオンでドープされる、請求項1又は2に記載の無機有機ハイブリッド化合物。
【請求項4】
有効成分陰イオンが慢性炎症、喘息、リウマチ、関節炎、多発性硬化症、炎症、腫瘍障害、マラリア、結核、狭心症、又は冠動脈沈着に対するものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の無機有機ハイブリッド化合物。
【請求項5】
前記有効成分陰イオンがリン酸アセトアミノフェン、リン酸ベタメタゾン、リン酸デキサメタゾン、ウリジン一リン酸、5’−フルオロ−2’−デオキシウリジン5’−一リン酸、リン酸メチル−プレドニゾロン、リン酸トリアムシノロン、リン酸エストロン、リン酸テストステロン、リン酸エストラムスチン、リン酸コデイン、リン酸クリンダマイシン、ピロリン酸チアミン、リン酸チアミン;アラシチジン一リン酸、サイクリック3’,5’−アデノシン一リン酸、リン酸ビダラビン、9−[9−(ホスホノメトキシ)エトキシ]アデニン、フォスプロポフォール、ホスフェニトイン、ホスホリルオキシメチルオキシメチルフェニトイン、ホスホリルオキシメチルフェニルブタゾン、ホスホリルオキシメチルオキシメチルフェニルブタゾン、ホスホリルオキシメチルフェニンジオン、ホスホリルオキシメチルオキシメチルフェニンジオン、N−ホスホノオキシメチルシンナリジン、N−ホスホノオキシメチルロキサピン、N−ホスホノオキシメチルアミオダロン、アレンドロネート、カンレノエート、ドキシサイクリン水和物、塩酸ドキソルビシン、アズトレオナム、チゲモナム、6−硫酸D−グルコサミン、硫酸コリスチンメタン、セフスロジン、ホサンプレナビル、テノホビル、アデホビル、リン酸コンブレタスタチンA−4、葉酸、2−メルカプトエタンスルホン酸/メスナ、ホスホマイシン、グリホセート、グルホシネート、ゾレドロネート、アミノトリメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、フォスブレタブリン、リン酸α−トコフェロール、VAPOLリン酸水素、ピリドキサール5’−リン酸6−2’−ナフチルアゾ−6’−ニトロ−4’,8’−ジスルホン酸)、(11bR)−2,6−ジ−9−フェナントレニル−4−ヒドロキシ−ジナフト[2,1−d:1’,2’−f][1,3,2]ジオキサホスフェピン4−オキシド、8−ブロモサイクリックアデノシン二リン酸リボース、フィチン酸、グルコース6−リン酸及び他の糖リン酸エステル、又はアデノシン一リン酸(AMP)、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン三リン酸(ATP)、グアノシン一リン酸(GMP)、グアノシン二リン酸(GDP)、グアノシン三リン酸(GTP)、シチジン一リン酸(CMP)、シチジン二リン酸(CDP)、シチジン三リン酸(CTP)、ウリジン一リン酸(UMP)、ウリジン二リン酸(UDP)、ウリジン三リン酸(UTP)、デオキシアデノシン一リン酸(dAMP)、デオキシアデノシン二リン酸(dADP)、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)、デオキシグアノシン一リン酸(dGMP)、デオキシグアノシン二リン酸(dGDP)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)、デオキシシチジン一リン酸(dCMP)、デオキシシチジン二リン酸(dCDP)、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)、デオキシチミジン一リン酸(dTMP)、デオキシチミジン二リン酸(dTDP)、若しくはデオキシチミジン三リン酸(dTTP)を含む天然及び合成ヌクレオチド由来である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の無機有機ハイブリッド化合物。
【請求項6】
抗体、ペプチド又はオリゴヌクレオチドで更に官能化される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の無機有機ハイブリッド化合物。
【請求項7】
前記有機蛍光色素陰イオンが1,1’−ジエチル−2,2’−シアニンヨージド、1,2−ジフェニルアセチレン、1,4−ジフェニルブタジエン、1,6−ジフェニルヘキサトリエン、2,5−ジフェニルオキサゾール、2−メチルベンゾオキサゾール、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)、4−ジメチルアミノ−4’−ニトロスチルベン、5,10,15−トリフェニルコロール、5,10,15−トリス(ペンタフルオロフェニル)コロール、5,10−ジアリールクロリン、5,10−ジアリール銅クロリン、5,10−ジアリール銅オキソクロリン、5,10−ジアリールマグネシウムオキソクロリン、5,10−ジアリールオキソクロリン、5,10−ジアリール亜鉛クロリン、5,10−ジアリール亜鉛オキソクロリン、7−ベンジルアミノ−4−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール、7−メトキシクマリン−4−酢酸、9,10−ビス(フェニルエチニル)アントラセン、9,10−ジフェニルアントラセン、アクリジンオレンジ、アクリジンイエロー、アデニン、アントラセン、アントラキノン、オーラミンO、アゾベンゼン、バクテリオクロロフィルA、ベンゾキノン、ベータ−カロテン、ビリルビン、ビリベルジンジメチルエステル、ビフェニル、ビス(5−メシチルジピリナト)亜鉛、ビス(5−フェニルジピリナト)亜鉛、ホウ素サブフタロシアニンクロリド、クロリンE6、クロロフィルA、クロロフィルB、シス−スチルベン、クマリン及びその誘導体、クレシルバイオレット過塩素酸、クリプトシアニン、クリスタルバイオレット、シトシン、ダンシルグリシン、二プロトン化テトラフェニルポルフィリン、エオシン及びその誘導体、(p−ジメチルアミノ)安息香酸エチル、フェロセン、フルオレセイン及びその誘導体、例えばメチルフルオレセイン、レゾルフィン、アマランス、アルミニウム(III)−フタロシアニンクロリドテトラスルホン酸、トリパンブルー、グアニン、ヘマチン、ヒスチジン、ヘキスト33258、インドカルボシアニン及びその誘導体、ルシファーイエローCH、マグネシウムオクタエチルポルフィリン、マグネシウムフタロシアニン、マグネシウムテトラメシチルポルフィリン、マグネシウムテトラフェニルポルフィリン、マラカイトグリーン、メロシアニン、N,N’−ジフルオロボリル−1,9−ジメチル−5−(4−ヨードフェニル)ジピリン、N,N’−ジフルオロボリル−1,9−ジメチル−5−[(4−(2−トリメチルシリルエチニル)、N,N’−ジフルオロボリル−1,9−ジメチル−5−フェニルジピリン、テトラフェニルポルフィリン、ナフタレン、ナイルブルー、ナイルレッド、オクタエチルポルフィリン、オキサカルボシアニン及びその誘導体、オキサジン及びその誘導体、p−クアテルフェニル、p−テルフェニル、ペリレン及びその誘導体、フェノール、フェニルアラニン、フェニルジピリン、フェオホルビド、フタロシアニン、ピナシアノールヨージド、ピロキシカム、ポルフィン、プロフラビン、プロトポルフィリンIXジメチルエステル、ピレン、ピロフェオホルビド及びその誘導体、ピロール、キニーネ、ローダミン及びその誘導体、リボフラビン、ベンガルレッド、スクアリリウム色素III、TBPベータ−オクタ(COOBu)−Fb、TBPベータ−オクタ(COOBu)−Pd、TBPベータ−オクタ(COOBu)−Zn、TBPメソ−テトラフェニル−ベータ−オクタ(COOMe)−Fb、TBPメソ−テトラフェニル−ベータ−オクタ(COOMe)−Pd、TBPメソ−テトラフェニル−ベータ−オクタ(COOMe)−Zn、TCPHメソ−テトラ(4−COOMe−フェニル)−Fb、TCPHメソ−テトラ(4−COOMe−フェニル)−Pd、TCPHメソ−テトラ(4−COOMe−フェニル)−Zn、テトラ−tert−ブチルアザポルフィン、テトラ−tert−ブチルナフタロシアニン、テトラキス(2,6−ジクロロフェニル)ポルフィリン、テトラキス(o−アミノフェニル)ポルフィリン、テトラメシチルポルフィリン、テトラフェニルポルフィリン、テトラフェニルサフィリン、チアカルボシアニン及びその誘導体、チミン、トランス−スチルベン、トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム(II)、トリプトファン、チロシン、ウラシル、ビタミンB12、亜鉛オクタエチルポルフィリン、フタロシアニン及びその誘導体、テトラ(o−アミドホスホナトフェニル)ポルフィリンを含むポルフィリン及びその誘導体、並びにウンベリフェロンからなる群から選択される蛍光色素由来であり、
前記有機蛍光色素自体は、リン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、スルホン酸基、炭酸基、又はカルボン基を有しておらず、これらの官能基の少なくとも1つで修飾されている、請求項〜6のいずれか一項に記載の無機有機ハイブリッド化合物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の無機有機ハイブリッド化合物を作製する方法であって、
(a)リン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、スルホン酸基、炭酸基又はカルボン酸基から選択される1又は複数の官能基を有する有機有効成分化合物の溶液を準備する工程であって、前記溶液が任意にリン酸イオン、ホスホン酸イオン、硫酸イオン、スルホン酸イオン、炭酸イオン又はカルボン酸イオンから選択される少なくとも1つの陰イオンを更に含む工程と、
(b)S2+、Ba2+、Z4+、[ZrO]2+、[HfO]2+、Sc3+、Y3+、Gd3+、La3+、Fe3+、Bi3+又はランタノイドから選択される金属陽イオンを含む可溶性金属塩の溶液を準備する工程と、(c)撹拌によって前記2つの溶液を合わせ、前記ハイブリッド化合物を沈殿させる工程と、
(d)沈殿した前記ハイブリッド化合物を単離及び/又は精製する工程と、
を含む、方法。
【請求項9】
工程(a)において準備される前記溶液をリン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、スルホン酸基、炭酸基又はカルボン酸基から選択される1又は複数の官能基を有する有機蛍光色素と更に混和する、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機陽イオン及び有機有効成分陰イオン、また任意に有機蛍光色素陰イオンからなるイオン化合物としての無機有機ハイブリッド化合物に関する。単純な水系合成に基づいて、幅広い有効成分と治療の基礎(例えば、リウマチ、関節炎、骨粗鬆症、多発性硬化症等の炎症性障害又は免疫障害、てんかん又は統合失調症等の神経障害、腫瘍障害、マラリア、結核、又は真菌症等の感染性疾患(細菌、ウイルス、寄生虫)、狭心症又は冠動脈沈着等の循環器障害、疼痛療法)により、本発明の無機有機ハイブリッド化合物質の幅広いパレットが利用可能である。さらに、有効成分の放出と光学的検出との組合せが容易に可能である。本発明の無機有機ハイブリッド化合物は、治療法(有効成分の放出)と診断(該ハイブリッドの光学的検出、またCTに基づく又はMRIに基づく検出)とを兼ね備えるものである。生理学的条件下において、上記有効成分は数時間から最大数日の期間に亘って非常にゆっくりと放出され、該ハイブリッド化合物の完全な分解により作用位置において標的化された方法でその効果を発現することができる。
【背景技術】
【0002】
ナノ粒子による薬物の標的化送達は、今日の学際的な科学に対する主な挑戦である。この分野では、現在多様な臨床像に対して多くの異なる材料アプローチ及び治療的アプローチが追い求められている。小胞、メソスケール若しくはナノスケールの中空ビーズ、又はポリマーカプセルへの有効成分のカプセル化が普及している。さらに、有効成分はSiO、Au、量子ドット、又はポリマーナノ粒子等のナノ粒子に結合されている。また、代替的には、有効成分をナノ粒子に包埋することができ、SiO及びポリマーは最もありふれたマトリクス材料である。現在検討されている上記材料及び解決策の不利益は、幾つかの場合では、ナノ粒子全体に対して非常に少量の有効成分(例えば、ナノ粒子マトリクスとしてのSiO 99%中にカプセル化された1%の有効成分)であり、上記有効成分が放出された後(例えば、SiOナノ粒子が残る)の上記ナノ粒子の不完全な分解性及び/又は潜在的毒性である。さらに、上記材料アプローチ及び該材料の合成は複雑で、非常に難解である。これは、特に有効成分の放出に加えて分析のための検出をも可能とする多機能性ナノ粒子の場合に顕著である。
【0003】
特許文献1は、亜鉛塩(例えば、硝酸亜鉛)及び配位リガンドとしての1,4−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)ベンゼン(Bix)からなる有機金属配位化合物への、ナノ粒子(例えば、実施例1のFe)、又は有機蛍光色素分子(例えば、実施例2又は実施例3のフルオレセイン)、又は有機有効成分分子(例えば、実施例4のドキソルビシン)のカプセル化を記載している。記載される化合物は、例えば無水(すなわち、純)エタノールにおいて作製される。
【0004】
特許文献2は、有効成分分子を含有する水溶性配位錯体を記載している。
【0005】
特許文献3は、式M2+1−x3+(OH)(Zn−x/nの層形成金属水酸化物の層に結合されている分子陰イオンを開示している。その構造を与える金属水酸化物は、蛍光を発せず、有効成分を構成しない、陽イオンM2+/3+及び水酸化物イオン(OH)から形成される。
【0006】
要約すると、以下の点が従来技術の薬物送達システム及び材料の不利益として挙げられ得る。
【0007】
化学合成、多段階プロセスを含む。
【0008】
コア/シェル構造等の複合体材料系、及び粒子表面の複雑な修飾。
【0009】
ナノ粒子の全体質量に対して少量の有効成分。
【0010】
毒性及び/又は生理学的条件下で不完全な又は専ら非常に遅い排泄性/分解性の構成成分。
【0011】
1つの臨床像のみに対する複合体系の材料の活性。
【0012】
ナノ粒子に表面的にのみ結合した有効成分のため、粒子衝突の結果、懸濁物中で容易に摩耗し得る。
【0013】
副作用の発生。
【0014】
過剰に速い又は過剰に遅い特定の薬物の放出。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/0064775号
【特許文献2】米国特許第8,779,175号
【特許文献3】独国特許出願公開第202006024289号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
この背景に対し、本発明の目的は、非常に幅広い応用範囲と併せて、非常に単純な合成によって得ることができ、1ナノ粒子当たり多量の有効成分を可能とし、同時に光学的検出を可能とする単純な材料コンセプトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、特許請求の範囲に規定される実施の形態によって達成される。
【0018】
特に、無機陽イオン及び有機有効成分陰イオン、また任意に有機蛍光色素陰イオンで構成され、水に10−2mol/l以下のモル溶解度を有する、イオン化合物としての無機有機ハイブリッド化合物を提供する。有効成分陰イオンと、存在する場合蛍光色素陰イオンとは各々、官能基として少なくとも1つのリン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、スルホン酸基、炭酸基又はカルボン酸基を含有し、無機陽イオンとともに、水に難溶性の化合物を形成することで、ナノ粒子の形成を可能とする。本発明の無機有機ハイブリッド化合物は、有効成分陰イオンと蛍光色素陰イオンとを含むことが好ましく、該無機有機ハイブリッド化合物が、有効成分を放出するとともに、蛍光色素陰イオンの発光に起因して光の放射によって細胞、組織及び器官において位置を示すことを可能とする。上記ハイブリッド化合物は可視光によって励起されることが好ましい。上記ハイブリッド化合物の発光は、可視光から赤外線スペクトルの範囲の光であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】[ZrO]2+[BMP]2−0.9[FMN]2−0.1(BMP:リン酸ベタメタゾン、FMN:フラビンモノヌクレオチド)の例を使用する有効成分陰イオン及び蛍光色素陰イオンを有する無機有機ハイブリッド化合物の合成及び使用の略図である。
図2】[ZrO]2+[BMP]2−0.9[FMN]2−0.1(緑色)及び[ZrO]2+[BMP]2−0.9[RRP]2−0.1(赤色)(BMP:リン酸ベタメタゾン、FMN:フラビンモノヌクレオチド、RRP:リン酸レゾルフィン)の例を使用して、蛍光色素陰イオンの蛍光発光に基づいてマクロファージにおける有効成分陰イオン及び蛍光色素陰イオンを有する無機有機ハイブリッド化合物の光学顕微鏡写真(light micrographs)を示す図である。細胞核はDAPI(青色)で染色される。
図3】[ZrO]2+[BMP]2−0.95[IRF]2−0.05(BMP:リン酸ベタメタゾン、IRF:IR発光蛍光色素)の例を使用して蛍光色素陰イオンの蛍光発光に基づいて、静脈内投与後のマウスモデルにおける有効成分陰イオン及び蛍光色素陰イオンを有する無機有機ハイブリッド化合物の分布の実証を示す図である。
図4】[ZrO]2+[AAP]2−0.9[UFP]2−0.1(AAP:リン酸アセトアミノフェン、UFP:リン酸ウンベリフェロン)の例を使用して有効成分陰イオン及び蛍光色素陰イオンを有する無機有機ハイブリッド化合物からの有効成分の放出を示す図であり、放出を元素分析による放出された蛍光色素(UFP)の蛍光発光の検出、また残留するナノ粒子中の炭素含有量の減少によって示す。
図5】[ZrO]2+[BMP]2−0.9[FMN]2−0.1(BMP:リン酸ベタメタゾン、FMN:フラビンモノヌクレオチド)の例を使用して有効成分陰イオン及び蛍光色素陰イオンを有する無機有機ハイブリッド化合物からの有効成分の放出を示す図であり、10−10モル〜最大10−5モルの増加する濃度により、デキサメタゾン(DM)と比較した抗炎症としてのBMPの活性をマウスから新鮮単離されたリポ多糖(LPS)刺激腹腔マクロファージ(MF)で示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
「有効成分陰イオン」は、ヒト又は動物の疾患を治癒又は予防する薬剤として示される物質、またヒト若しくは動物の身体において若しくはそれらに対して医学的診断を提供すること、又はヒト若しくは動物の身体機能の回復、増強若しくは調節が意図される物質を意味する。
【0021】
本明細書で、有効成分陰イオンは、多様な種々の臨床像に対して使用され得る。有効成分陰イオンは、慢性炎症/喘息/リウマチ/関節炎/多発性硬化症、一般的な炎症、腫瘍障害、マラリア、結核、狭心症、又は冠状動脈沈着に対して用いられることが好ましい。生理学的条件下で、上記有効成分陰イオンは、数時間から最大数日の範囲に亘る時間遅延で放出され得ることが好ましい。放出は単純に生理学的条件下で加水分解により又はホスファターゼの存在下でエステル開裂によって行われることが好ましい。本発明の無機有機ハイブリッド化合物の特徴は、その構成成分がアレルゲン性ではなく及び/又は毒性ではなく、生理学的条件下で完全に分解され及び/又は排泄されることである。
【0022】
本発明の無機有機ハイブリッド化合物に組み込まれる有機有効成分陰イオンは、官能基として少なくとも1つのリン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、スルホン酸基、炭酸基又はカルボン酸基、好ましくはリン酸基、ホスホン酸基、硫酸基又はスルホン酸基を有し、無機陽イオンとともに水に難溶性の化合物を形成することで、ナノ粒子の形成を可能とする限り、実質的に何ら制限されない。既に上で見られるように、好ましい有効成分陰イオンは、慢性炎症/リウマチ/関節炎/多発性硬化症、一般的な炎症、腫瘍障害、マラリア、結核、狭心症、又は冠状動脈沈着に対して作用するものである。この種の有効成分は当業者に知られている。本発明の目的に合わせて、例としてリン酸アセトアミノフェン、リン酸ベタメタゾン、リン酸デキサメタゾン、ウリジン一リン酸、5’−フルオロ−2’−デオキシウリジン5’−一リン酸(FdUMP)、リン酸メチルプレドニゾロン、リン酸トリアムシノロン、リン酸エストロン、リン酸テストステロン、リン酸エストラムスチン、リン酸コデイン、リン酸クリンダマイシン、ピロリン酸チアミン、リン酸チアミン;アザシチジン一リン酸、サイクリック3’,5’−アデノシン一リン酸、リン酸ビダラビン、9−[9−(ホスホノメトキシ)エトキシ]アデニン、フォスプロポフォール、ホスフェニトイン、ホスホリルオキシメチルオキシメチルフェニトイン、ホスホリルオキシメチルフェニルブタゾン、ホスホリルオキシメチルオキシメチルフェニルブタゾン、ホスホリルオキシメチルフェニンジオン、ホスホリルオキシメチルオキシメチルフェニンジオン、N−ホスホノオキシメチルシンナリジン、N−ホスホノオキシメチルロキサピン、N−ホスホノオキシメチルアミオダロン、アレンドロネート、カンレノエート、ドキシサイクリン水和物、塩酸ドキソルビシン、アズトレオナム、チゲモナム、6−硫酸D−グルコサミン、硫酸コリスチンメタン、セフスロジン、ホサンプレナビル、テノホビル、アデホビル、リン酸コンブレタスタチンA4、葉酸、2−メルカプトエタンスルホン酸/メスナ、ホスホマイシン、グリホセート、グルホシネート、ゾレドロネート、アミノトリメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、フォスブレタブリン、リン酸α−トコフェロール、VAPOLリン酸水素、ピリドキサール5’−リン酸6−(2’−ナフチルアゾ−6’−ニトロ−4’,8’−ジスルホン酸)、(11bR)−2,6−ジ−9−フェナントレニル−4−ヒドロキシジナフト[2,1−d:1’,2’−f][1,3,2]ジオキサホスフェピン4−オキシド、8−ブロモサイクリックアデノシン二リン酸リボース、フィチン酸、グルコース6−リン酸、及び他の糖リン酸エステル、又は天然及び合成ヌクレオチド(例えば、アデノシン一リン酸(AMP)、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン三リン酸(ATP)、グアノシン一リン酸(GMP)、グアノシン二リン酸(GDP)、グアノシン三リン酸(GTP)、シチジン一リン酸(CMP)、シチジン二リン酸(CDP)、シチジン三リン酸(CTP)、ウリジン一リン酸(UMP)、ウリジン二リン酸(UDP)、ウリジン三リン酸(UTP)、デオキシアデノシン一リン酸(dAMP)、デオキシアデノシン二リン酸(dADP)、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)、デオキシグアノシン一リン酸(dGMP)、デオキシグアノシン二リン酸(dGDP)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)、デオキシシチジン一リン酸(dCMP)、デオキシシチジン二リン酸(dCDP)、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)、デオキシチミジン一リン酸(dTMP)、デオキシチミジン二リン酸(dTDP)、又はデオキシチミジン三リン酸(dTTP))を使用することができる。さらに、少なくとも1つのこれらの官能基によって有機有効成分を修飾することにより、それ自体がリン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、スルホン酸基、炭酸基又はカルボン酸基のいずれも有しない有機有効成分を使用することができる。かかる有機有効成分の官能化に対応する方法は当業者に知られている。
【0023】
本発明の目的に合わせて、無機陽イオンは、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Zr4+、[ZrO]2+、[HfO]2+、Sc3+、Y3+、Gd3+、La3+、Fe3+、Bi3+、又はランタノイドから選択される。陽イオンは、Mg2+、Ca2+、[ZrO]2+、又はLa3+が特に好ましい。
【0024】
本発明の目的に合わせて、光学的に蛍光色素陰イオンの蛍光発光によるのみならず、重金属陽イオン又は磁性無機陽イオン(例えば、Ba2+、[ZrO]2+、[HfO]2+、Gd3+、La3+、Fe3+、Bi3+)の存在下でX線吸収又は磁気測定によっても本発明の無機有機ハイブリッド化合物の検出を行うことができる。
【0025】
また、本発明の無機有機ハイブリッド化合物は、無機マトリクス及び有機有効成分化合物を含み、該無機マトリクスは、リン酸水素及びリン酸二水素、金属酸化物リン酸塩(metal oxide phosphates)を含む金属リン酸塩、金属ホスホン酸塩、金属硫酸塩、金属スルホン酸塩、金属炭酸塩、又は金属カルボン酸塩からなる群から選択される無機化合物で構成され、該無機化合物はMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Zr4+、[ZrO]2+、[HfO]2+、Sc3+、Y3+、Gd3+、La3+、Fe3+、Bi3+又はランタノイドから選択される陽イオンを含み、有機有効成分化合物がリン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、スルホン酸基、炭酸基又はカルボン酸基から選択される1又は複数の官能基を有し、有機有効成分化合物がそれらを介して無機マトリクスに組み込まれることが理解され得る。したがって、上記有効成分化合物及び任意の蛍光色素がその官能基を介してイオン結合により無機マトリクスに組み込まれる限り、上記官能基、例えばリン酸基は無機マトリクスの一部とされ、換言すれば、上記有効成分化合物には独立したリン酸基は存在しない。
【0026】
有機有効成分化合物及び有機蛍光色素は、いずれも陰イオン官能基により、換言すればイオン結合によってハイブリッド化合物又は無機マトリクスに組み込まれる。本発明は、モル量の有効成分化合物を含むそれらの無機有機ハイブリッド化合物、また「希釈」バリアント(variants)を包含する。いずれのバリアントも開始材料の水溶液を単に混合することによって得ることができる。
【0027】
本発明によれば、無機有機ハイブリッド化合物は、モル量で任意に蛍光色素陰イオンと共に有効成分陰イオンを含んでもよく、有効成分陰イオン及び蛍光色素陰イオンのモル量は各イオン電荷を考慮して無機陽イオンに対する化学量論比である。しかしながら、無機有機ハイブリッド化合物において、蛍光色素陰イオンに対する有効成分陰イオンの比率を変化させることもできる。
【0028】
本発明の別の実施形態では、無機有機ハイブリッド化合物は、例えば、無機有機ハイブリッドナノ粒子及び含有される有効成分をin vivoにおいて特定の作用位置へと運んでそこに蓄積させるため、例えば、抗体及び抗体フラグメント、ナノボディ、ダイアボディ、ペプチドアプタマー等の抗体若しくはペプチド、又はアプタマー若しくは同様の分子等のオリゴヌクレオチドによって更に官能化される。無機有機ハイブリッド化合物の水系合成のため、この抗体又は類似の分子とのカップリングは特に単純で穏やかである。
【0029】
本発明の一つの好ましい実施形態では、既に上で見られる無機有機ハイブリッド化合物は、リン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、スルホン酸基、炭酸基又はカルボン酸基から選択される1又は複数の官能基を有する有機蛍光色素、すなわち対応するその陰イオンを更に含み、それらを介して蛍光色素(陰イオン)がイオン化合物又は無機マトリクスに組み込まれる。有機蛍光色素は、1,1’−ジエチル−2,2’−シアニンヨージド、1,2−ジフェニルアセチレン、1,4−ジフェニルブタジエン、1,6−ジフェニルヘキサトリエン、2,5−ジフェニルオキサゾール、2−メチルベンゾオキサゾール、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)、4−ジメチルアミノ−4’−ニトロスチルベン、5,10,15−トリフェニルコロール、5,10,15−トリス(ペンタフルオロフェニル)コロール、5,10−ジアリールクロリン、5,10−ジアリール銅クロリン、5,10−ジアリール銅オキソクロリン、5,10−ジアリールマグネシウムオキソクロリン、5,10−ジアリールオキソクロリン、5,10−ジアリール亜鉛クロリン、5,10−ジアリール亜鉛オキソクロリン、7−ベンジルアミノ−4−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール、7−メトキシクマリン−4−酢酸、9,10−ビス(フェニルエチニル)アントラセン、9,10−ジフェニルアントラセン、アクリジンオレンジ、アクリジンイエロー、アデニン、アントラセン、アントラキノン、オーラミンO、アゾベンゼン、バクテリオクロロフィルA、ベンゾキノン、ベータ−カロテン、ビリルビン、ビリベルジンジメチルエステル、ビフェニル、ビス(5−メシチルジピリナト)亜鉛、ビス(5−フェニルジピリナト)亜鉛、ホウ素サブフタロシアニンクロリド、クロリンE6、クロロフィルA、クロロフィルB、シス−スチルベン、クマリン及びその誘導体、クレシルバイオレット過塩素酸、クリプトシアニン、クリスタルバイオレット、シトシン、ダンシルグリシン、二プロトン化テトラフェニルポルフィリン、エオシン及びその誘導体、(p−ジメチルアミノ)安息香酸エチル、フェロセン、フルオレセイン及びその誘導体、例えばメチルフルオレセイン、レゾルフィン、アマランス、アルミニウム(III)−フタロシアニンクロリドテトラスルホン酸、トリパンブルー、グアニン、ヘマチン、ヒスチジン、ヘキスト33258、インドカルボシアニン及びその誘導体、ルシファーイエローCH、マグネシウムオクタエチルポルフィリン、マグネシウムフタロシアニン、マグネシウムテトラメシチルポルフィリン、マグネシウムテトラフェニルポルフィリン、マラカイトグリーン、メロシアニン、N,N’−ジフルオロボリル−1,9−ジメチル−5−(4−ヨードフェニル)ジピリン、N,N’−ジフルオロボリル−1,9−ジメチル−5−[(4−(2−トリメチルシリルエチニル)、N,N’−ジフルオロボリル−1,9−ジメチル−5−フェニルジピリン、テトラフェニルポルフィリン、ナフタレン、ナイルブルー、ナイルレッド、オクタエチルポルフィリン、オキサカルボシアニン及びその誘導体、オキサジン及びその誘導体、p−クアテルフェニル、p−テルフェニル、ペリレン及びその誘導体、フェノール、フェニルアラニン、フェニルジピリン、フェオホルビド、フタロシアニン、ピナシアノールヨージド、ピロキシカム、ポルフィン、プロフラビン、プロトポルフィリンIXジメチルエステル、ピレン、ピロフェオホルビド及びその誘導体、ピロール、キニーネ、ローダミン及びその誘導体、リボフラビン、ベンガルレッド、スクアリリウム色素III、TBPベータ−オクタ(COOBu)−Fb、TBPベータ−オクタ(COOBu)−Pd、TBPベータ−オクタ(COOBu)−Zn、TBPメソ−テトラフェニル−ベータ−オクタ(COOMe)−Fb、TBPメソ−テトラフェニル−ベータ−オクタ(COOMe)−Pd、TBPメソ−テトラフェニル−ベータ−オクタ(COOMe)−Zn、TCPHメソ−テトラ(4−COOMe−フェニル)−Fb、TCPHメソ−テトラ(4−COOMe−フェニル)−Pd、TCPHメソ−テトラ(4−COOMe−フェニル)−Zn、テトラ−tert−ブチルアザポルフィン、テトラ−tert−ブチルナフタロシアニン、テトラキス(2,6−ジクロロフェニル)ポルフィリン、テトラキス(o−アミノフェニル)ポルフィリン、テトラメシチルポルフィリン、テトラフェニルポルフィリン、テトラフェニルサフィリン、チアカルボシアニン及びその誘導体、チミン、トランス−スチルベン、トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム(II)、トリプトファン、チロシン、ウラシル、ビタミンB12、亜鉛オクタエチルポルフィリン、フタロシアニン及びその誘導体、ポルフィリン及びその誘導体、例えばテトラ(o−アミドホスホナトフェニル)ポルフィリン、及びウンベリフェロンからなる群から選択されるものが好ましい。本明細書では、それ自体はリン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、スルホン酸基、炭酸基又はカルボン酸基を何ら有しない有機蛍光色素を、少なくとも1つのこれらの官能基で修飾する(例えば、リン酸フェニルウンベリフェロン(PUP)、リン酸メチルフルオレセイン(MFP)、リン酸レゾルフィン(RRP)、Dyomics−647−リン酸ウリジン(DUT))。かかる有機蛍光色素を官能化する適切な方法は当業者に知られている。
【0030】
本発明の別の好ましい実施形態では、有機蛍光色素は、リボフラビン5’−一リン酸ナトリウム塩、フルオレセイン、レゾルフィン、アマランス、ローダミン、ペリレン、クマリン、及びウンベリフェロンからなる群から選択され、後者は少なくとも1つのリン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、スルホン酸基、炭酸基又はカルボン酸基によって官能化される。本明細書に挙げられ得る例は、リン酸フェニルウンベリフェロンである。
【0031】
無機有機ハイブリッド化合物は、難溶性である。本発明の目的に合わせて、難溶性化合物は10−2mol/l以下のモル溶解度を有するものと理解される。該難溶性化合物は、10−4mol/l以下のモル溶解度を有することが好ましい。したがって有効成分化合物、また蛍光色素を含む無機有機ハイブリッド化合物が、その場合には可溶性前駆体化合物から沈殿し得るため、これは、本発明の無機有機ハイブリッド化合物の合成に有利である。
【0032】
無機有機ハイブリッド化合物は、通常、X線非晶質構造を有する。これは、非晶質ナノ粒子が実質的な合成コスト及び複雑さを伴わずに得ることができることから単純化された合成に有利である。
【0033】
本発明の一つの好ましい実施形態では、無機有機ハイブリッド化合物は、1又は複数の陽イオン及び/又は陰イオンで更にドープされる。有機蛍光色素の励起後、ドーパントへの部分的又は完全なエネルギー移動があり、その後に該ドーパントに由来する発光を観察することができることから、ドーピングにより、本発明のハイブリッド化合物の発光特性を修飾することが可能である。さらに、ドーピングにより本発明のハイブリッド化合物の励起を変更することができる。ドーピングは、任意の好適な濃度範囲で行われ得る。ドーピングは、好ましくは5ppm〜50mol%の濃度範囲、より好ましくは0.1mol%〜5.0mol%の濃度範囲で存在する。無機有機ハイブリッド化合物は、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb若しくはLuから選択されるランタノイド、Cr、Mn、Cu、Zn、Y、Ag若しくはCdから選択される遷移金属、Sn、Sb、Pb若しくはBiから選択される典型元素、又は[VO3−、[MoO3−若しくは[WO3−から選択される錯陰イオンでドープされることが好ましい。
【0034】
本発明のハイブリッド化合物は、任意の好適な粒子サイズを有してもよい。一つの好ましい実施形態では、本発明のハイブリッド化合物は、ナノスケールであり、1nm〜100nmの範囲の粒子径を有する。1nm〜20nmの範囲の粒子径が特に好ましい。さらに、本発明のハイブリッド化合物は、好ましくは事実上±30%の範囲、より好ましくは±5%の範囲の単分散サイズ分布を有する。さらに、本発明のハイブリッド化合物は、より好ましくは±30%の範囲、更により好ましくは±5%の範囲のサイズ分布と共に、低い凝集度を有することが好ましい。粒子径及び単分散サイズ分布を特定する好適な方法は、従来技術において知られている。
【0035】
本発明によれば、対応する有機蛍光色素の選択及び組み込みにより、各々の場合に所与のハイブリッド化合物に対して異なる励起特性及び発光特性を設定することができる。本発明のハイブリッド化合物の励起は100nm〜800nmの範囲、発光は200nm〜2000nmの範囲に位置することが好ましい。励起は、一般に、発光ダイオードによって又は可視光〜近赤外線(すなわち、450nm〜800nm)のレーザー発光によって達成され、有機蛍光色素又は本発明のハイブリッド化合物の発光は、青色〜赤外線(すなわち、450nm〜1400nm)の可視スペクトル範囲である。一つの実施形態では、励起はUV光(すなわち、100nm〜450nm)の形態である。本発明のハイブリッド化合物により、結合していない有機蛍光色素と比較して、励起条件下での発光強度は刺激時間に亘ってそれほど減少しないことが好ましく、発光強度は、特に発光ダイオードによる励起の場合は励起時間に亘って減少しないことが特に好ましい。したがって、蛍光強度は、UV光に対する暴露では10%以下、昼光への暴露では1%以下の減少が好ましい。
【0036】
さらに、本発明は、本発明のハイブリッド化合物を作製する方法であって、
(a)リン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、スルホン酸基、炭酸基又はカルボキレート基から選択される1又は複数の官能基を有する有機有効成分化合物の溶液を準備する工程であって、該溶液が任意にリン酸イオン、ホスホン酸イオン、硫酸イオン、スルホン酸イオン、炭酸イオン又はカルボン酸イオンから選択される少なくとも1つの陰イオンを更に含む工程と、
(b)Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Zr4+、[ZrO]2+、[HfO]2+、Sc3+、Y3+、Gd3+、La3+、Fe3+、Bi3+又はランタノイドから選択される金属陽イオンを含む可溶性金属塩の溶液を準備する工程と、
(c)撹拌によって上記2つの溶液を合わせ、ハイブリッド化合物を沈殿させる工程と、(d)沈殿したハイブリッド化合物を単離及び/又は精製する工程と、
を含む、方法に関する。
【0037】
本発明の方法の工程(a)は、有機有効成分化合物の溶液の準備を含む。さらに、この溶液は、任意に、リン酸イオン、ホスホン酸イオン、硫酸イオン、スルホン酸イオン、炭酸イオン又はカルボン酸イオンから選択される少なくとも1つの陰イオンを更に含んでもよい。使用される場合、この陰イオンは、溶解した塩の形態、例えば溶解したアルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ金属炭酸塩の形態で、陽イオンと共に存在してもよい。アルカリ金属は、ナトリウム又はカリウムが好ましい。また、陰イオンは、溶液中の対応する酸の形態で存在してもよい。本発明の一つの実施形態では、上述の陰イオンの1つを供給する溶液は、硫酸、リン酸又はカルボン酸からなる群からの酸を含む。カルボン酸の場合、該酸はギ酸、酢酸、プロピオン酸又はシュウ酸であることが好ましい。カルボン酸塩の場合、カルボン酸塩は、したがってギ酸塩、酢酸塩又はプロピオン酸塩であることが好ましい。上記溶液は、陰イオンとしてリン酸イオンを含むことが特に好ましく、この陰イオンを供給するためリン酸を使用することが好ましい。
【0038】
本発明の一つの好ましい実施形態では、工程(a)で準備される溶液を、リン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、スルホン酸基、炭酸基又はカルボン酸基から選択される1又は複数の官能基を有する有機蛍光色素と更に混合する。
【0039】
溶媒として、任意の好適な溶媒を使用することができる。溶媒としての使用に好ましいものは、水、等張水、生理学的緩衝液、アルコール、又は2以上のこれらの溶媒の混合物である。溶媒としての使用に対する好ましいアルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、及びイソプロパノールである。
【0040】
本発明の方法の工程(b)は、同一でも異なってもよい、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Zr4+、[ZrO]2+、[HfO]2+、Sc3+、Y3+、Gd3+、La3+、Fe3+、Bi3+又はランタノイドから選択される金属陽イオンを含む可溶性金属塩の溶液を準備することを含む。溶媒として、任意の好適な溶媒を使用することができる。ここでも、上に規定される溶媒、すなわち水、等張水、生理学的緩衝液、アルコール、及び2以上のこれらの溶媒の混合物を使用することが好ましい。本発明の一つの特に好ましい実施形態は、溶媒として等張水又は生理学的緩衝液を使用する。金属塩として、使用される溶媒に可溶性の任意の塩を使用することができる。好適な金属塩は当業者に知られている。金属塩として、使用される特定の溶媒に可溶性である限り、上述の金属のハロゲン化物、硝酸塩及び硫酸塩を有利に使用することができる。本発明の一つの特に好ましい実施形態では、金属塩として、二塩化マグネシウム、二塩化カルシウム、三塩化ランタン又は塩化ジルコニルを使用する。
【0041】
本発明の方法の工程(c)は、撹拌することによって2つの溶液を合わせることを含む。この方法では、本発明のハイブリッド化合物を沈殿させる。合わせる工程では、2つの溶液は任意の好適な温度を有してもよい。本発明の一つの好ましい実施形態では、2つの溶液の少なくとも一方又は両方の溶液は、室温〜85℃の範囲の温度、より好ましくは40℃〜75℃の範囲の温度を有する。2つの溶液を迅速に、換言すれば10秒以下の期間内に、好ましくは5秒以下の期間内に合わせることが好ましい。
【0042】
本発明の方法の工程(d)は、沈殿したハイブリッド化合物を単離すること及び/又は精製することを含む。この単離及び/又は精製は、任意の好適な方法によって行われてもよい。かかる方法は従来技術において既知である。
【0043】
上記ハイブリッド化合物粒子の単離及び/又は精製は、遠心分離法、透析法、層移動法、クロマトグラフィー法、限外濾過法、洗浄法、及びそれらの組合せからなる群から選択される方法によって達成されることが好ましい。また、ハイブリッド化合物粒子を単離及び/又は精製する上に言及される方法は、組み合わせて及び/又は複数回(multiply)行われてもよい。
【0044】
生理学的条件下で、上記有効成分は、数時間〜数日の期間に亘って非常にゆっくりと有効成分陰イオンから放出され、その活性を作用位置において発現することができる。これを、実験室の懸濁物中での緩速放出について図4に示す。ここで、有効成分陰イオンは、組成に関して非常に幅広い範囲から選択され、幅広い範囲の可能性のある臨床像を含んでもよい。有効成分の放出に加えて、本発明の無機有機ハイブリッド化合物は、追加で組み込まれた蛍光色素陰イオンの蛍光発光によって場所を示すことができる。図3は、静脈内投与後の無機有機ハイブリッド化合物の分布及び位置を非侵襲性近赤外線イメージングによってin vivoのマウスモデルで示すことができることを示す。図2は、細胞(マクロファージ)における無機有機ハイブリッド化合物の取り込み及び蓄積を示す。図5は、無機有機ハイブリッド化合物から有効成分として放出され、in vitroアッセイによりLPS刺激マクロファージにおける抗炎症活性を有する、リン酸ベタメタゾンの活性を示す。in vivoでナノ粒子を特定の作用位置に運ぶため、無機有機ハイブリッドナノ粒子は、疾患特異的標的に対して向けられたペプチド、抗体又はオリゴヌクレオチドによって更に官能化されてもよい。
【0045】
要約すると、本発明は従来技術に対して以下の利点を有する。
【0046】
有効成分の投与に対する革新的な材料コンセプトとしての無機有機ハイブリッド化合物。
【0047】
無機有機ハイブリッド化合物は、治療に対する有効成分と診断に対する蛍光色素との両方を含有することが好ましい。
【0048】
化学組成は、具体的には、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Zr4+、[ZrO]2+、[HfO]2+、Sc3+、Y3+、Gd3+、La3+、Fe3+、Bi3+又はランタノイドから選択される無機金属陽イオン、及び有機陰イオンを含む幅広い範囲で選択することができ、有効成分及び任意に更に蛍光色素を含み、各々の場合、官能基としてリン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、スルホン酸基、炭酸基又はカルボン酸基を保持する(したがって、それぞれ有効成分陰イオン又は蛍光色素陰イオンとして同定される)。
【0049】
細胞、組織又は器官における蛍光色素陰イオンの蛍光発光を介して簡易な光学的検出によって、無機有機ハイブリッド化合物を認識することができる。さらに、重金属陽イオン又は磁性無機陽イオン(例えば、Ba2+、[ZrO]2+、[HfO]2+、Gd3+、La3+、Fe3+、Bi3+)の存在下でのX線吸収による検出又は磁性測定が可能である。
【0050】
有効成分陰イオン及び蛍光色素陰イオンは、モル量で無機有機ハイブリッド化合物に存在し、有効成分陰イオン及び蛍光色素陰イオンのモル量は、各イオン電荷を考慮して無機陽イオンに対して化学量論比である。さらに、蛍光色素陰イオンに対する有効成分陰イオンの比率は変化し得る。
【0051】
無機有機ハイブリッド化合物は、一般に、結晶ではない(すなわち、X線非晶質)。結晶材料の費用がかかり不便な合成、及び/又はコア/シェル構造の発達は必要ではない。これは、合成を非常に単純にする。さらに、合成は、ハイブリッド化合物が水に難溶性であることから、水相における単純な沈殿によって行うことができる。したがって、水中でのシードの形成及びシードの成長もまた、容易に制御することができ、それによって非常に容易に100nm未満の粒子径に近づけることを可能とする。
【0052】
無機有機ハイブリッド化合物は、非常に多様な種々の有効成分陰イオンを含有し、そのため非常に幅広い医学的治療領域(例えば、慢性炎症/リウマチ/関節炎/多発性硬化症、一般の炎症、腫瘍障害、マラリア、結核、狭心症、又は冠状動脈沈着)に対して使用され得る。有効成分は、時間遅延を伴って、数時間から数日の期間に亘り生理学的条件下で無機有機ハイブリッド化合物から放出される。この経路によって、規定の用量の有効成分を延長された期間に亘って、作用位置において直接放出することができる。副作用及び例えば血中における有効成分の望ましくない生理学的分解を低下又は回避することができる。
【0053】
また、無機有機ハイブリッド化合物は、非常に異なる蛍光色素陰イオンを含有してもよい。励起は、典型的には、それぞれ可視光又は赤外線の範囲で発光する適切なレーザー又は発光ダイオード(LED)を使用して可視光のスペクトル範囲で起こる。
【0054】
有効成分に加えて、無機有機ハイブリッド化合物は、生理学的条件下で完全に分解された形態で排泄される、非アレルゲン性及び/又は非毒性の構成要素として有名である。
【0055】
無機有機ハイブリッドナノ粒子をin vivoで特定の作用位置に運び、そこに蓄積させるため、無機有機ハイブリッドナノ粒子を疾患特異的標的に対して向けられる抗体又はペプチドで更に官能化してもよい。無機有機ハイブリッド化合物の水系合成を考慮すると、この抗体又は類似の分子とのカップリングもまた特に単純で穏やかである。
【0056】
上に言及される特許文献1に開示されている化合物は、本発明の無機有機ハイブリッド化合物とは主に2つの点で異なる。
(i)本発明の無機有機ハイブリッド化合物は、陽イオンと少なくとも1つの有効成分陰イオンとで構成される。そこには均質な組成物が存在する。特許文献1に記載される組成物は不均質であり、互いに明確に分離可能な2つの物質を含有することを意味する(特許文献1の図2を参照)。特許文献1は、有機金属配位ポリマー(Zn−Bix)中のナノ粒子及び分子の包含を記載している。この配位ポリマー(Zn−Bix)は蛍光活性(actively fluorescent)はなく、有効成分ではない。したがって、マトリクス(Zn−Bix)は粒子の機能(蛍光、有効成分)に関して無機能である。本発明の無機有機ハイブリッド化合物とは対照的に、上記機能は包含される分子又はナノ粒子によってもたらされる。したがって、全体としての上記システムに対する活性分子の総量は制限される。
(ii)特許文献1に記載されている化合物は水に可溶性であり、したがって、無水エタノール(absolute, anhydrous ethanol)中で作製されなければならない。反対に、本発明のハイブリッド化合物は、水に難溶性である。これは、本発明のハイブリッド化合物を水中で作製及び/又は水系(例えば、医薬、すなわち細胞液又は血液中)で使用し得るために必須である。
【0057】
上に言及される特許文献2に開示されている化合物は、同様に、本発明の無機有機ハイブリッド化合物とは根本的に異なる。
(i)特許文献2に記載されている化合物は、水溶性であり、したがって、例えば、無水メタノール中で作製されなければならない(例えば、21欄、41行目以下のマグネシウムトピラメート)。合成が水中で行われる場合、任意の過剰な開始材料をそれらの低い水溶性に基づいて分離することができる。これに対し標的化合物としての配位複合体は、水溶性であり、(ロータリーエバポレーターで)蒸留による水の除去によってのみ固体として得ることができる(例はカルシウムトピラメートである)。反対に、本発明のハイブリッド化合物は、水に難溶性である。これは、水中に本発明のハイブリッド化合物を作製することを可能とするため、また水系(例えば、医薬、すなわち細胞液又は血液)でそれらを使用するために必須である。
(ii)特許文献2で得られる物質は、構造化されていない固体であってナノ材料ではない。これは、薄層(光透過性なし)及び医薬(静脈内投与なし)におけるそれらの使用を制限する。
【0058】
特許文献3に開示されている金属水酸化物化合物とは対照的に、本発明の無機有機ハイブリッド化合物は、単一及び単独の陰イオンとして有効成分分子を含むことができる。これは、層形成金属水酸化物では化学的に不可能である。その構成(層形成水酸化物)は、物質の機能(蛍光発光、有効成分)に関して無機能である。本発明の無機有機ハイブリッド化合物とは対照的に、その機能は付着した分子又はナノ粒子によってもたらされる。したがって、全体としての該システムに対する活性分子の全体的な量は制限される。
【0059】
上の先行技術文献に関連して、本発明の無機有機ハイブリッド化合物における蛍光陰イオン又は有効成分陰イオンの量は、それぞれ各陽イオンと等モルであってもよく、これは、非常に高レベルの有効成分及び蛍光色素がそれぞれ達成され得ることから有利である(例えば、[ZrO][BMP]は81重量%の有効成分BMPを含有する)。例えば、[ZrO]2+[FdUMP]2−に関して同様のレベルを適用する。
【0060】
本発明の無機有機ハイブリッド化合物を水中で作製することができ、本発明の無機有機ハイブリッド化合物は水に難溶性である。該化合物が水に難溶性でない場合、ナノ粒子は水の存在下で作製又は保存することができない(水性溶解)。該化合物が水性条件下で容易に溶解する場合、細胞内又は血中で使用することができない。
【0061】
本発明を以下の非限定的な実施例によって更に明らかにする。
【実施例】
【0062】
実施例1:[ZrO][BMP]0.9[FMN]0.1
無機有機ハイブリッド化合物ZrO(BMP)0.9(FMN)0.1を、2つの溶液を混合することによって作製する。溶液1は、脱塩水(2.5ml)中にZrOCl・8HO(5mg)を含有する。溶液2は、脱塩水(25ml)中にナトリウムリボフラビン5’−一リン酸二水和物(2.4mg)及びリン酸ベタメタゾンナトリウム(21.6mg)を含有する。溶液2を50℃まで加熱し、激しく撹拌する(約1000rpm)。その後、強く撹拌しながら、シリンジを用いて急速に溶液1を注入した。2分間撹拌した後、黄色固体を遠心分離(22500rev/分で15分間)によって分離する。ナノ粒子を脱塩水(25ml)に2回再懸濁し、再度遠心分離を行って残った全ての塩を除去する。最後に、HEPES緩衝液(12ml、30mmol/l、pH=7.4)にナノ粒子を再懸濁することによって安定な懸濁物を得る。代替的には、上記遠心分離物を脱塩水(3.1ml)に再懸濁する。その後、この懸濁物に撹拌しながらデキストラン40(3ml、1.6mg/ml HO)の溶液を滴加する。全ての場合において、使用された脱塩水は、滅菌シリンジフィルタ(PA、0.20μm)を用いて予め使用前に無塵及び無菌にしておく。これにより、約60nmの直径を有する非晶質ナノ粒子の形態で、無機陽イオンとしての[ZrO]2+と、有効成分陰イオン[BMP]2−と、蛍光色素陰イオン[FMN]2−とを含む無機有機ハイブリッド化合物[ZrO][BMP]0.9[FMN]0.1が生じる。
【0063】
更なる実施例:
実施例1と同様ではあるが、例として以下(化合物1〜45を参照)で示されるように、本発明の無機有機ハイブリッド化合物において有効成分陰イオンとしてのリン酸ベタメタゾン[BMP]2−に代えて、他の有効成分陰イオンを使用することができ、また蛍光色素陰イオンとしてのフラビンモノヌクレオチド[FMN]2−に代えて他の蛍光色素陰イオンを使用することができる。さらに、水に難溶性のハイブリッド化合物を合成するため使用される無機陽イオン及び有機陰イオンと共に、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、[ZrO]2+、[HfO]2+、Sc3+、Y3+、Gd3+、La3+、Fe3+又はBi3+等の[ZrO]2+以外の陽イオンを選択することができる。
【0064】
代替的にいずれも使用することができる各官能性陰イオンの塩又は遊離酸を以下に示す。本発明の無機有機ハイブリッドナノ粒子の合成用開始物質として使用され得ることから、所定の形態は、通例、商業的に入手可能な形態の当該の官能性有機陰イオンに対応する。
1.リン酸アセトアミノフェン
【0065】
【化1】
【0066】
2.リン酸ベタメタゾン
【0067】
【化2】
【0068】
3.リン酸デキサメタゾン
【0069】
【化3】
【0070】
4.リン酸メチルプレドニゾロン
【0071】
【化4】
【0072】
5.リン酸トリアムシノロン
【0073】
【化5】
【0074】
6.リン酸エストロン
【0075】
【化6】
【0076】
7.リン酸テストステロン
【0077】
【化7】
【0078】
8.リン酸エストラムスチン
【0079】
【化8】
【0080】
9.リン酸コデイン
【0081】
【化9】
【0082】
10.リン酸クリンダマイシン
【0083】
【化10】
【0084】
11.ピロリン酸チアミン
【0085】
【化11】
【0086】
12.リン酸チアミン
【0087】
【化12】
【0088】
13.アラシチジン一リン酸(ara−CMP)
【0089】
【化13】
【0090】
14.サイクリック3’,5’−アデノシン一リン酸
【0091】
【化14】
【0092】
15.リン酸ビダラビン
【0093】
【化15】
【0094】
16.9−[9−(ホスホノメトキシ)エトキシ]アデニン
【0095】
【化16】
【0096】
17.フォスプロポフォール(Lusedra(商標))
【0097】
【化17】
【0098】
18.ホスフェニトイン
【0099】
【化18】
【0100】
19.ホスホリルオキシメチルオキシメチルフェニトイン
【0101】
【化19】
【0102】
20.ホスホリルオキシメチルフェニルブタゾン
【0103】
【化20】
【0104】
21.ホスホリルオキシメチルオキシメチルフェニルブタゾン
【0105】
【化21】
【0106】
22.ホスホリルオキシメチルフェニンジオン
【0107】
【化22】
【0108】
23.ホスホリルオキシメチルオキシメチルフェニンジオン
【0109】
【化23】
【0110】
24.N−ホスホノオキシメチルシンナリジン
【0111】
【化24】
【0112】
25.N−ホスホノオキシメチルロキサピン
【0113】
【化25】
【0114】
26.N−ホスホノオキシメチルアミオダロン
【0115】
【化26】
【0116】
27.アレンドロネート
【0117】
【化27】
【0118】
28.リン酸レゾルフィン
【0119】
【化28】
【0120】
29.ブリリアントブラック
【0121】
【化29】
【0122】
30.リン酸3−フェニルウンベリフェロン
【0123】
【化30】
【0124】
31.リン酸3−O−メチルフルオレセイン
【0125】
【化31】
【0126】
32.アマランス/アシッドレッド27/アゾルビンS
【0127】
【化32】
【0128】
33.シバクロンブリリアントレッド3B−A/リアクティブレッド4
【0129】
【化33】
【0130】
34.アシッドアントラセンレッドG
【0131】
【化34】
【0132】
35.ヌクレアファストレッド/カルシウムレッド
【0133】
【化35】
【0134】
36.カリウムカンレノエート
【0135】
【化36】
【0136】
37.ドキシサイクリン水和物/ドキシサイクリンハイドロクロリドヘミエタノール化ヘミ水和物
【0137】
【化37】
【0138】
38.カルセイン/フルオレキソン/フルオレセイン−ビス(メチルイミノ二酢酸)
【0139】
【化38】
【0140】
39.ニトラジンイエロー
【0141】
【化39】
【0142】
40.ABTS/2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)二アンモニウム塩
【0143】
【化40】
【0144】
41.塩酸ドキソルビシン
【0145】
【化41】
【0146】
42.ANSAマグネシウム塩/8−アニリノ−1−ナフタレンスルホン酸ヘミマグネシウム塩水和物
【0147】
【化42】
【0148】
43.インドシアニングリーン/カルジオグリーン
【0149】
【化43】
【0150】
44.ルシファーイエローCH二リチウム塩
【0151】
【化44】
【0152】
45.蛍光レッド633
【0153】
【化45】
【0154】
46.アルミニウム(III)−フタロシアニンクロリドテトラスルホン酸
【0155】
【化46】
【0156】
47.アズトレオナム
【0157】
【化47】
【0158】
48.チゲモナム
【0159】
【化48】
【0160】
49.6−硫酸D−グルコサミン
【0161】
【化49】
【0162】
50.メタン硫酸コリスチン
【0163】
【化50】
【0164】
51.セフスロジン
【0165】
【化51】
【0166】
52.ホサンプレナビル
【0167】
【化52】
【0168】
53.テノホビル
【0169】
【化53】
【0170】
54.アデホビル
【0171】
【化54】
【0172】
55.リン酸コンブレタスタチンA−4
【0173】
【化55】
【0174】
56.葉酸
【0175】
【化56】
【0176】
57.ホスフェニトイン
【0177】
【化57】
【0178】
58.2−メルカプトエタンスルホン酸塩/メスナ
【0179】
【化58】
【0180】
59.ホスホマイシン
【0181】
【化59】
【0182】
60.グリホセート
【0183】
【化60】
【0184】
61.グルホシネート
【0185】
【化61】
【0186】
62.ゾレドロネート
【0187】
【化62】
【0188】
63.アミノトリメチレンホスホン酸
【0189】
【化63】
【0190】
64.ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)
【0191】
【化64】
【0192】
65.エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)
【0193】
【化65】
【0194】
66.フォスブレタブリン
【0195】
【化66】
【0196】
67.リン酸α−トコフェロール
【0197】
【化67】
【0198】
68.VAPOLリン酸水素
【0199】
【化68】
【0200】
69.ピリドキサール5’−リン酸6−(2’−ナフチルアゾ−6’−ニトロ−4’,8’−ジスルホン酸)
【0201】
【化69】
【0202】
70.(11bR)−2,6−ジ−9−フェナントレニル−4−ヒドロキシ−ジナフト[2,1−d:1’,2’−f][1,3,2]ジオキサホスフェピン4−オキシド
【0203】
【化70】
【0204】
71.8−ブロモサイクリックアデノシン二リン酸リボース
【0205】
【化71】
【0206】
72.フィチン酸
【0207】
【化72】
【0208】
73.トリパンブルー
【0209】
【化73】
【0210】
74.グルコース6−リン酸及び他の糖リン酸エステル
【0211】
【化74】
【0212】
75.天然及び合成ヌクレオチド、例えば
アデノシン一リン酸(AMP)
【0213】
【化75】
【0214】
アデノシン二リン酸(ADP)
【0215】
【化76】
【0216】
アデノシン三リン酸(ATP)
【0217】
【化77】
【0218】
グアノシン一リン酸(GMP)
【0219】
【化78】
【0220】
グアノシン二リン酸(GDP)
【0221】
【化79】
【0222】
グアノシン三リン酸(GTP)
【0223】
【化80】
【0224】
シチジン一リン酸(CMP)
【0225】
【化81】
【0226】
シチジン二リン酸(CDP)
【0227】
【化82】
【0228】
シチジン三リン酸(CTP)
【0229】
【化83】
【0230】
ウリジン一リン酸(UMP)
【0231】
【化84】
【0232】
ウリジン二リン酸(UDP)
【0233】
【化85】
【0234】
ウリジン三リン酸(UTP)
【0235】
【化86】
【0236】
デオキシアデノシン一リン酸(dAMP)
【0237】
【化87】
【0238】
デオキシアデノシン二リン酸(dADP)
【0239】
【化88】
【0240】
デオキシアデノシン三リン酸(dATP)
【0241】
【化89】
【0242】
デオキシグアノシン一リン酸(dGMP)
【0243】
【化90】
【0244】
デオキシグアノシン二リン酸(dGDP)
【0245】
【化91】
【0246】
デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)
【0247】
【化92】
【0248】
デオキシシチジン一リン酸(dCMP)
【0249】
【化93】
【0250】
デオキシシチジン二リン酸(dCDP)
【0251】
【化94】
【0252】
デオキシシチジン三リン酸(dCTP)
【0253】
【化95】
【0254】
デオキシチミジン一リン酸(dTMP)
【0255】
【化96】
【0256】
デオキシチミジン二リン酸(dTDP)
【0257】
【化97】
【0258】
デオキシチミジン三リン酸(dTTP)
【0259】
【化98】
【0260】
さらに、発光ハイブリッド化合物の合成に発光標識ヌクレオチドを使用することもできる。かかるヌクレオチドは、例えばLife Technologies(ALEXAの名のもと)、又はDyomics(DYの名のもと)から商業的に入手可能である。上記色素はIR蛍光色素である。数マイクロメートルの組織の厚みで可視光が非常に迅速に組織に吸収される限り、IR光の低い組織透過を考慮すると、医薬においてIR発光が特に有利である。これらのIR色素は医療用途に標準的な色素である。以下の例として列挙される発光標識ヌクレオチドは、いずれもリン酸基を含有し、本発明のハイブリッド化合物に容易に組み込まれ得る。製品名(例えば、ALEXA又はDY)、励起及び発光の波長、並びに場合によっては上記化合物の実験式を以下に示す。
【0261】
【表1】
【0262】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5