特許第6653713号(P6653713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6653713不飽和ポリエステル樹脂組成物および硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6653713
(24)【登録日】2020年1月30日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】不飽和ポリエステル樹脂組成物および硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08F 283/01 20060101AFI20200217BHJP
【FI】
   C08F283/01
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-561785(P2017-561785)
(86)(22)【出願日】2017年6月9日
(86)【国際出願番号】JP2017021481
(87)【国際公開番号】WO2017213254
(87)【国際公開日】20171214
【審査請求日】2017年11月27日
【審判番号】不服2019-8186(P2019-8186/J1)
【審判請求日】2019年6月19日
(31)【優先権主張番号】特願2016-116355(P2016-116355)
(32)【優先日】2016年6月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109634
【弁理士】
【氏名又は名称】舛谷 威志
(72)【発明者】
【氏名】小川 泰史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 哲志
【合議体】
【審判長】 大熊 幸治
【審判官】 井上 猛
【審判官】 武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−151243(JP,A)
【文献】 特開2015−147918(JP,A)
【文献】 特開2000−348920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 283/01
REGISTRY(STN)
CAPLUS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族カルボン酸、脂肪族不飽和カルボン酸および脂環式不飽和カルボン酸を含む酸成分とグリコール類からなるアルコール成分との重縮合物からなる不飽和ポリエステルと、
(B)反応性希釈剤と、
(C)重合禁止剤と、
(D)t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカルボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカルボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、及び、t−ブチルパーオキシベンゾエートからなる群から選ばれるアルキルパーエステルと、
を含有し、金属石鹸を含まない不飽和ポリエステル樹脂組成物を硬化してなり、二酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、またはタルクである無機充填材を含まない硬化物
【請求項2】
前記脂環式不飽和カルボン酸が、テトラヒドロ無水フタル酸であること特徴とする請求項1に記載の硬化物
【請求項3】
前記アルキルパーエステルが、t−ブチルパーオキシベンゾエートであること特徴とする請求項1または2に記載の硬化物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和ポリエステル樹脂を主成分とする樹脂組成物および硬化物に関し、特に、自動車部品や電子部品の電気絶縁用途に好適に用いられる樹脂組成物および硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和ポリエステル樹脂は、取り扱いが比較的容易であり、その硬化物が電気絶縁性、耐熱性、耐薬品性、機械強度、耐久性等に優れることから、例えば塗料、接着剤、注型材料、絶縁ワニス、繊維強化プラスチック(FRP)等で広く用いられている。
【0003】
電気・電子部品用の絶縁ワニスとして広く用いられている不飽和ポリエステル樹脂組成物は、不飽和ポリエステルをスチレンに溶解したワニスに、過酸化物硬化剤を添加混合したものを用いるのが一般的である。
【0004】
不飽和ポリエステル樹脂組成物は、ワニスに硬化剤を添加混合した時点より反応が開始するため、硬化剤を添加混合した状態では保存安定性が悪く、可使時間が短いという問題点があった。そのため、不飽和ポリエステル樹脂組成物は二液型または三液型であり、最低限の使用量だけをその都度配合混合しなければならず、作業性が悪い。また、反応が進み粘度が高くて使用不能になったワニスが多量に発生するという問題などを抱えている。
この不飽和ポリエステル樹脂組成物の保存安定性を向上させる方法として、単純に硬化剤量を減らすことが考えられるが、その場合には、硬化時間が長くなるという問題が生じてしまうため、保存安定性と硬化性を両立させるような改良技術が求められている。
【0005】
保存安定性と硬化性を両立させる改良技術として、以下のようなものがある。
特許文献1には、(A)酸成分中に、ヨウ素価が100以上の不飽和脂肪酸を所定量含む酸成分とアルコール成分とから合成された不飽和ポリエステル樹脂と、(B)重合性単量体と、(C)メタノールと、を必須成分とすることを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂組成物が開示されている。
特許文献2には、固体の有機過酸化物を2層から成る膜物質で覆ったマイクロカプセル化硬化剤を含む不飽和ポリエステル樹脂組成物が開示されている。
特許文献3には(a)不飽和ポリエステル樹脂及び/又はビニルエステル樹脂、(b)重合性単量体および(c)有機金属化合物又は金属を含有する結晶性添加剤を必須成分とする成形材料用樹脂組成物が開示されている。
特許文献4には、硬化剤として従来用いられていなかった特定のペルオキシケタールを用いた不飽和ポリエステル樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−116879号公報
【特許文献2】特開平05−078411号公報
【特許文献3】特開平11−335544号公報
【特許文献4】特開平07−041526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の不飽和ポリエステル樹脂組成物は40℃保管で17〜18日、特許文献2の不飽和ポリエステル樹脂組成物は10℃保管で4.5ヶ月、特許文献3の不飽和ポリエステル樹脂組成物は40℃保管で6〜7日、特許文献4の不飽和ポリエステル樹脂組成物は30℃保管で377時間(15日)であり、硬化剤を添加した一液の状態では室温で長期間保管できるほどの十分な保存安定性は得られていない。
【0008】
そこで本発明は、硬化剤を添加混合した状態でも室温で長期保存安定性を有し、一度に多量のワニスを配合混合でき、一液の状態での保管も可能である不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、所定の酸成分とアルコール成分との重縮合物からなる不飽和ポリエステルと、反応性希釈剤と、重合禁止剤と、アルキルパーエステルを含有する不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いることにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、(A)芳香族カルボン酸、脂肪族不飽和カルボン酸および脂環式不飽和カルボン酸を含む酸成分とグリコール類からなるアルコール成分との重縮合物からなる不飽和ポリエステルと、(B)反応性希釈剤と、(C)重合禁止剤と、(D)アルキルパーエステルを含有することを特徴とする。
また、前記脂環式不飽和カルボン酸として、テトラヒドロ無水フタル酸を用いることを特徴とする。
さらに、前記アルキルパーエステルとして、t−ブチルパーオキシベンゾエートを用いることを特徴とする。
また、本発明の硬化物は、(A)芳香族カルボン酸、脂肪族不飽和カルボン酸および脂環式不飽和カルボン酸を含む酸成分とグリコール類からなるアルコール成分との重縮合物からなる不飽和ポリエステルと、(B)反応性希釈剤と、(C)重合禁止剤と、(D)アルキルパーエステルを含有する不飽和ポリエステル樹脂組成物を硬化した不飽和ポリエステル樹脂硬化物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、硬化剤を添加混合した状態でも室温で長期保存安定性を有し、一度に多量のワニスを配合混合でき、一液の状態でも保管することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態を説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0013】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物(以下、単に組成物ともいう)は、(A)芳香族カルボン酸、脂肪族不飽和カルボン酸および脂環式不飽和カルボン酸を含む酸成分とグリコール類からなるアルコール成分との重縮合物からなる不飽和ポリエステルと、(B)反応性希釈剤と、(C)重合禁止剤と、(D)アルキルパーエステルを含有することを特徴とする。
以下に、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物の詳細について説明する。
【0014】
まず、(A)不飽和ポリエステルは、芳香族カルボン酸、脂肪族不飽和カルボン酸および脂環式不飽和カルボン酸を含む酸成分とグリコール類からなるアルコール成分の脱水縮合反応により得られるものである。
【0015】
本発明に用いる芳香族カルボン酸としては、例えば、(無水)フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。これらの芳香族カルボン酸は単独又は2種以上を併用してもよい。
【0016】
本発明に用いる脂肪族不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、クロトン酸、オレイン酸等の脂肪族不飽和モノカルボン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸、シトラコン酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、機械強度の観点から、(無水)マレイン酸が特に好ましい。これらの脂肪族不飽和カルボン酸は単独又は2種以上を併用してもよい。
【0017】
本発明に用いる脂環式不飽和カルボン酸としては、例えば、(無水)ハイミック酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ジメチルブテニルテトラヒドロフタル酸、ナジック酸、メチルナジック酸、メチルハイミック酸等の酸及び酸無水物並びにそれらの異性体(幾何異性体、構造異性体を含む。)等が挙げられる。これらの脂肪族不飽和カルボン酸は単独又は2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、テトラヒドロ無水フタル酸が特に好ましい。テトラヒドロ無水フタル酸を使用することにより、長期保管後の硬化物の物性が低下し難いという特徴がある。
【0018】
本発明に用いるアルコール成分としては、グリコール類を用いる。グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,3−ヘキサンジオール、2−メチルプロパン−1,3−ジオール、ネオペンチルグリコール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール等、が挙げられる。これらのグリコール類は単独又は2種以上を併用してもよい。
【0019】
なお、本発明の効果を阻害しない範囲で、グリコール類以外のアルコール成分を添加することもできる。グリコール類以外のアルコール成分としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、t−ブタノール、ネオペンチルアルコール、3−メチル−3−ペンタノール、3−エチル−3−ペンタノール、2,3,3−トリメチル−2−ブタノール、1−デカノール、ノニルアルコール等の1価アルコール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール等のグリセロール化合物、ソルビトール、グルコース、マンニトール、ショ糖、ブドウ糖等の糖類、ジペンタエリスリトール等の3価以上のアルコール等、が挙げられる。これらのアルコール成分は単独又は2種以上を併用してもよい。
【0020】
不飽和ポリエステルは、前記の酸成分及びアルコール成分を原料として、公知の製造方法を適用して製造することができる。例えば、前記したような酸成分と、アルコール成分とを縮合反応させ、両成分が反応するときに生じる縮合水を系外に除きながら反応を進めることで製造することができる。この際、酸成分とアルコール成分とは、酸成分のカルボキシル基とアルコール成分の水酸基とのモル比(COOH基/OH基)が1.0〜2.0となるようにして反応させることが好ましい。
【0021】
縮合水の系外への除去は、好ましくは不活性気体を通じることによる自然留出または減圧留出により行われる。縮合水の留出を促進するため、トルエン、キシレン等の溶剤を共沸成分として系中に添加することもできる。反応の進行は、一般に反応により生成する留出分量の測定、末端の官能基の定量、反応系の粘度の測定等により知ることができる。
【0022】
この合成反応を行うための反応温度は150〜200℃とすることが好ましい。このことから、反応装置として、ガラス、ステンレス製等のものが選ばれ、撹拌装置、水とアルコール成分の共沸によるアルコール成分の留出を防ぐための分留装置、反応系の温度を高める加熱装置、この加熱装置の温度制御装置等を備える反応装置を用いることが好ましい。また、縮合反応を行うための反応装置内圧力は常圧でも全く問題なく反応を進めることができるが、好ましくは加圧し、アルコール成分の沸点を上げることで、反応を効果的に促進することができる。
【0023】
本発明で用いる不飽和ポリエステルの重量平均分子量は、特に制限されないが、例えば、1,000〜50,000、好ましくは2,000〜40,000、特に好ましくは3,000〜30,000である。
【0024】
本発明で用いる反応性希釈剤は、例えば、スチレン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン、ターシャリーブチルスチレン、臭化スチレン等のスチレン誘導体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のメタクリル酸又はアクリル酸のアルキルエステル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のメタクリル酸又はアクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、ジアリルフタレート、アクリルアミド、フェニルマレイミド等が挙げられる。また、エチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等の多官能のメタクリル酸又はアクリル酸のエステル類が挙げられる。これらの中でも、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びジアリルフタレートが好ましい。これらの反応性希釈剤は単独又は2種以上を併用してもよい。
【0025】
反応性希釈剤の使用量は、特に限定されないが、(A)不飽和ポリエステル及び(B)反応性希釈剤の総量100質量部に対して20〜80質量部が好ましく、40〜60質量部の範囲内で用いられるのがより好ましい。
【0026】
本発明で用いる重合禁止剤は、例えば、ハイドロキノン、メトキノン、ベンゾキノン、p−t−ブチルカテコール、ピロガロール等のキノン類、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール等が挙げられる。これらの重合禁止剤は単独又は2種以上を併用してもよい。重合禁止剤の使用量は、特に限定されないが、(A)不飽和ポリエステル及び(B)反応性希釈剤の総量100質量部に対して、0.001〜0.04質量部が好ましく、0.001〜0.02質量部の範囲内で用いられるのがより好ましい。
【0027】
本発明では硬化剤としてアルキルパーエステルを用いる。アルキルパーエステルとしては、例えば、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカルボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカルボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1,1,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等が挙げられる。
【0028】
アルキルパーエステルは、保存安定性維持の観点から、10時間半減期温度が80℃以上であることが好ましい。ここで、10時間半減期温度とは、有機過酸化物0.1モル/リットルのクメン溶液を熱分解させた際に、10時間で有機過酸化物の半減期に達する分解温度のことを意味する。
【0029】
10時間半減期温度が80℃以上のアルキルパーエステルは、例えば、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカルボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカルボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。
【0030】
これらの中でも、t−ブチルパーオキシベンゾエートが特に好ましい。t−ブチルパーオキシベンゾエートの市販品としては、パーブチルZ(日油株式会社製)、ルペロックスP(アルケマ吉富株式会社製)等が挙げられる。
【0031】
アルキルパーエステルの使用量は、特に限定されないが、(A)不飽和ポリエステル及び(B)反応性希釈剤の総量100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましく、0.5〜3質量部の範囲内で用いられるのがより好ましい。
【0032】
なお、本発明の効果を阻害しない範囲で、不飽和ポリエステル樹脂組成物には、アルキルパーエステル以外の有機過酸化物からなる硬化剤を添加することもできる。例えば、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類等が挙げられる。
これらの硬化剤は単独又は2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じてその他の各種添加剤を添加することができる。前記添加剤としては、硬化促進剤、充填剤、着色剤、難燃剤、増粘剤、紫外線吸収剤、離型剤、密着向上剤、衝撃緩和剤、沈降防止剤、減粘剤、低収縮剤等が挙げられる。
【0034】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、公知の不飽和ポリエステル樹脂組成物と同様の製造方法によって製造することができ、例えば、必須成分である(A)成分の不飽和ポリエステル、(B)成分の反応性希釈剤、(C)成分の重合禁止剤、(D)成分のアルキルパーエステルに加えて、必要に応じて加えられる他の成分を配合した後、均一になるまで十分に撹拌混合することにより製造することができる。
【実施例】
【0035】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、例中の「部」は特に断らない限り「質量部」を意味する。
【0036】
〈不飽和ポリエステル樹脂組成物の構成成分〉
(A)不飽和ポリエステル
(A1)グリコール:プロピレングリコール
(A2)芳香族カルボン酸:イソフタル酸
(A3)芳香族カルボン酸:無水フタル酸
(A4)脂肪族不飽和カルボン酸:無水マレイン酸
(A5)脂環式不飽和カルボン酸:テトラヒドロ無水フタル酸
(A6)脂環式不飽和カルボン酸:3 or 4−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無
水フタル酸(商品名 HN−2000、日立化成株式会社製)
(B)反応性希釈剤
(B1)メタクリル酸2−ヒドロキシエチル
(B2)フタル酸ジアリルエステル
(C)重合禁止剤:ハイドロキノン
(D)硬化剤:t−ブチルパーオキシベンゾエート
(D’)硬化剤:1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン
【0037】
[(A)不飽和ポリエステルの合成]
表1に示す配合比(質量部)で、フラスコ中に芳香族カルボン酸、脂肪族不飽和カルボン酸、脂環式不飽和カルボン酸、グリコール類、(C)重合禁止剤を加え、180〜220℃で8〜12時間加熱縮合し、酸価10mgKOH/gの不飽和ポリエステルを得た。
【0038】
(実施例1〜3 、比較例1〜2)
表1に示す配合比(質量部)で、(A)不飽和ポリエステル、(B)反応性希釈剤、(D)、(D’)硬化剤を配合し、樹脂組成物を作製した。
【0039】
(評価)
実施例及び比較例の不飽和ポリエステル樹脂組成物ついて、粘度、保存安定性、ゲル化時間、曲げ弾性率、曲げ強さを評価した結果を表1に示す。
なお、それぞれの評価は以下のとおり行った。
【0040】
(粘度の測定)
E型粘度計を使用して、25℃において50rpmでの粘度を測定した。
【0041】
(保存安定性の測定)
不飽和ポリエステル樹脂組成物を40℃雰囲気下に放置して粘度を測定し、初期粘度の 2倍の粘度になるまでの日数を測定した。
【0042】
(ゲル化時間の測定)
JIS C 2104に準拠したゲル化板を150℃に保ち、その板上に0.4mlの試料を載置し、載置後かきまぜ棒でかきまぜ、糸がひかなくなるまでの時間、すなわちゲル化までの時間(秒)を測定した。
【0043】
(硬化物の特性:曲げ弾性率及び曲げ強さの測定)
JIS K 7171に準拠した方法により曲げ弾性率及び曲げ強さを測定した。なお、試験片は130℃で30分硬化したものを使用した。
【0044】
【表1】
【0045】
また、表2に示す条件で加熱縮合させて(A)不飽和ポリエステルを得た以外は、実施例1と同様にして、実施例4〜8の不飽和ポリエステル樹脂組成物を作製した。そして、得られた不飽和ポリエステル樹脂組成物について、表1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表1に示すように、実施例1〜3は、いずれも保存安定性が40℃保管で180日以上であり、比較例の2倍以上と非常に優れており、硬化剤を入れた一液の状態でも保管・流通が可能であることがわかる。また、硬化性(ゲル化時間)や硬化物の特性についても良好であることがわかる。
表2に示すように、実施例4〜8は、重合平均分子量及び酸価が異なる(A)不飽和ポリエステルを用いたものであるが、どれも保存安定性が良く、硬化性(ゲル化時間)や硬化物特性も良好であることがわかる。
以上の結果より、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は所定の酸成分とアルコール成分との重縮合物からなる不飽和ポリエステルと、反応性希釈剤と、重合禁止剤と、アルキルパーエステルを含有することにより、硬化剤を添加した一液の状態でも室温での保存安定性が非常に優れることがわかる。