特許第6653731号(P6653731)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6653731
(24)【登録日】2020年1月30日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】香箱アセンブリ、ムーブメント及び時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 1/16 20060101AFI20200217BHJP
【FI】
   G04B1/16
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-112650(P2018-112650)
(22)【出願日】2018年6月13日
(65)【公開番号】特開2019-215259(P2019-215259A)
(43)【公開日】2019年12月19日
【審査請求日】2018年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 久
(72)【発明者】
【氏名】伊東 賢吾
【審査官】 吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭50−122264(JP,U)
【文献】 特開平11−183644(JP,A)
【文献】 特開平11−84027(JP,A)
【文献】 特開2005−156344(JP,A)
【文献】 特開2017−161327(JP,A)
【文献】 特開2017−83335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00−99/00
G04C 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にぜんまいを収容するとともに、前記ぜんまいの一端部が取り付けられ、前記ぜんまいの巻き解けに伴って軸線回りに回転する香箱車と、
前記軸線と同軸に配置され、前記香箱車を相対回転可能に支持するとともに前記ぜんまいの他端部が取り付けられた中空の香箱真と、
上ほぞ及び下ほぞを有し、前記軸線と同軸に配置された状態で前記香箱真の内側に挿入された角穴車真と、
前記上ほぞと前記下ほぞとの間で前記軸線と同軸に配置された角穴車と、
前記香箱真と前記角穴車との相対回転を係合によって直接的または間接的に規制する相対回転規制部と、
を備え
前記角穴車真は、前記香箱真に螺入されている、
ことを特徴とする香箱アセンブリ。
【請求項2】
内部にぜんまいを収容するとともに、前記ぜんまいの一端部が取り付けられ、前記ぜんまいの巻き解けに伴って軸線回りに回転する香箱車と、
前記軸線と同軸に配置され、前記香箱車を相対回転可能に支持するとともに前記ぜんまいの他端部が取り付けられた中空の香箱真と、
上ほぞ及び下ほぞを有し、前記軸線と同軸に配置された状態で前記香箱真の内側に挿入された角穴車真と、
前記上ほぞと前記下ほぞとの間で前記軸線と同軸に配置された角穴車と、
前記香箱真と前記角穴車との相対回転を係合によって直接的または間接的に規制する相対回転規制部と、
を備え
前記角穴車真は、前記香箱真に圧入されている、
ことを特徴とする香箱アセンブリ。
【請求項3】
内部にぜんまいを収容するとともに、前記ぜんまいの一端部が取り付けられ、前記ぜんまいの巻き解けに伴って軸線回りに回転する香箱車と、
前記軸線と同軸に配置され、前記香箱車を相対回転可能に支持するとともに前記ぜんまいの他端部が取り付けられた中空の香箱真と、
上ほぞ及び下ほぞを有し、前記軸線と同軸に配置された状態で前記香箱真の内側に挿入された角穴車真と、
前記上ほぞと前記下ほぞとの間で前記軸線と同軸に配置された角穴車と、
前記香箱真と前記角穴車との相対回転を係合によって直接的または間接的に規制する相対回転規制部と、
を備え
前記角穴車真には、前記軸線の軸方向から見て前記香箱真及び前記角穴車のうち少なくともいずれか一方に重なる位置に、前記軸方向に貫通する貫通孔が形成されている、
ことを特徴とする香箱アセンブリ。
【請求項4】
内部にぜんまいを収容するとともに、前記ぜんまいの一端部が取り付けられ、前記ぜんまいの巻き解けに伴って軸線回りに回転する香箱車と、
前記軸線と同軸に配置され、前記香箱車を相対回転可能に支持するとともに前記ぜんまいの他端部が取り付けられた中空の香箱真と、
上ほぞ及び下ほぞを有し、前記軸線と同軸に配置された状態で前記香箱真の内側に挿入された角穴車真と、
前記上ほぞと前記下ほぞとの間で前記軸線と同軸に配置され、前記角穴車真に取り付けられた角穴車と、
前記香箱真と前記角穴車との相対回転を前記香箱真と前記角穴車真との係合によって間接的に規制する相対回転規制部と、
を備えることを特徴とする香箱アセンブリ。
【請求項5】
前記角穴車真は、前記香箱真に嵌合された嵌合部を有する、
ことを特徴とする請求項に記載の香箱アセンブリ。
【請求項6】
前記角穴車には、前記香箱真が挿入される挿入部が形成され、
前記角穴車は、前記香箱真に対して前記軸線回りの周方向に係合している、
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の香箱アセンブリ。
【請求項7】
前記角穴車真は、前記軸線に直交する方向に突出する突出部を備え、
前記角穴車は、前記軸線の軸方向から見て、前記軸線を囲う少なくとも3点以上で前記突出部に接触している、
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の香箱アセンブリ。
【請求項8】
前記角穴車は、前記突出部及び前記香箱真に挟持されている、
ことを特徴とする請求項に記載の香箱アセンブリ。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の香箱アセンブリを備えることを特徴とするムーブメント。
【請求項10】
請求項9に記載のムーブメントを備えることを特徴とする時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香箱アセンブリ、ムーブメント及び時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機械式時計のムーブメントは、動力ぜんまいが収容された香箱車と、香箱車を回転可能に支持する香箱真と、香箱真に固定され、ぜんまいを巻き上げ可能に設けられた角穴車と、を備える(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1には、地板と香箱受との間に配置された香箱車と、香箱車の内部に配置され、外周端部で香箱車の内周面に係止されたぜんまい体と、地板及び香箱受に回転自在に支持され、ぜんまい体の内周端が取り付けられた香箱真と、香箱受を挟んで香箱車とは反対側において香箱真の突出端部に角穴ねじにより取り付けられた角穴車と、を備える時計のムーブメントが記載されている。
【0004】
特許文献2には、軸線の周りで枢動する香箱真を含む時計の香箱アセンブリであって、香箱真は、受けにおける香箱真の枢動をガイドするための第1の肩部と、地板における香箱真の枢動をガイドするための第2の肩部との間に、第1の端部が第1の肩部上、第2の端部が第2の肩部上にあるように延在し、香箱真は、第1の肩部と第2の肩部との間に、コアが嵌め込まれる中間肩部を含み、香箱アセンブリは香箱用ゼンマイを含み、ゼンマイは、軸線の周りを枢動する香箱ドラムと、コアの受承表面との間に、第1の外側端部が香箱ドラム上、第2の内側端部が受承表面上にあるように設置され、香箱真は、第1の肩部とコアとの間に、香箱真と一体の、角穴車を嵌め込む又は固定するための肩部を含む角穴車ホルダを含む、時計の香箱アセンブリが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−32299号公報
【特許文献2】特表2014−526688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、香箱車と角穴車との間に香箱受が配置されるので、香箱車と香箱受との間、及び角穴車と香箱受との間の両方に隙間を設ける必要がある。このため、香箱車と角穴車との間隔が大きくなり、ムーブメントが厚くなる場合がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の技術では、香箱真とコアとの相対的な滑りを規制する構造、または香箱真と角穴車ホルダとの相対的な滑りを規制する構造が設けられていない。このため、角穴車とコアとの間で部材同士の滑りが生じて角穴車とコアとの相対変位し、歯車の噛み合わせの悪化等の破損が生じる可能性がある。さらに、ムーブメントのメンテナンス性を向上させるためには、香箱車と角穴車とを分離可能とする必要がある。しかしながら、角穴車とコアとの間で滑りが生じないように部材同士を強固に固定すると、分解時に破損しやすくなる。このため、香箱車と角穴車とを分離可能としつつ、角穴車の滑りを抑制する必要がある。
【0008】
そこで本発明は、角穴車の滑りを抑制しつつメンテナンス性の向上が図られ、かつ薄型化された香箱アセンブリ、ムーブメント及び時計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の香箱アセンブリは、内部にぜんまいを収容するとともに、前記ぜんまいの一端部が取り付けられ、前記ぜんまいの巻き解けに伴って軸線回りに回転する香箱車と、前記軸線と同軸に配置され、前記香箱車を相対回転可能に支持するとともに前記ぜんまいの他端部が取り付けられた中空の香箱真と、上ほぞ及び下ほぞを有し、前記軸線と同軸に配置された状態で前記香箱真の内側に挿入された角穴車真と、前記上ほぞと前記下ほぞとの間で前記軸線と同軸に配置された角穴車と、前記香箱真と前記角穴車との相対回転を係合によって直接的または間接的に規制する相対回転規制部と、を備え、前記角穴車真は、前記香箱真に螺入されている、ことを特徴とする。
本発明の香箱アセンブリは、内部にぜんまいを収容するとともに、前記ぜんまいの一端部が取り付けられ、前記ぜんまいの巻き解けに伴って軸線回りに回転する香箱車と、前記軸線と同軸に配置され、前記香箱車を相対回転可能に支持するとともに前記ぜんまいの他端部が取り付けられた中空の香箱真と、上ほぞ及び下ほぞを有し、前記軸線と同軸に配置された状態で前記香箱真の内側に挿入された角穴車真と、前記上ほぞと前記下ほぞとの間で前記軸線と同軸に配置された角穴車と、前記香箱真と前記角穴車との相対回転を係合によって直接的または間接的に規制する相対回転規制部と、を備え、前記角穴車真は、前記香箱真に圧入されている、ことを特徴とする。
本発明の香箱アセンブリは、内部にぜんまいを収容するとともに、前記ぜんまいの一端部が取り付けられ、前記ぜんまいの巻き解けに伴って軸線回りに回転する香箱車と、前記軸線と同軸に配置され、前記香箱車を相対回転可能に支持するとともに前記ぜんまいの他端部が取り付けられた中空の香箱真と、上ほぞ及び下ほぞを有し、前記軸線と同軸に配置された状態で前記香箱真の内側に挿入された角穴車真と、前記上ほぞと前記下ほぞとの間で前記軸線と同軸に配置された角穴車と、前記香箱真と前記角穴車との相対回転を係合によって直接的または間接的に規制する相対回転規制部と、を備え、前記角穴車真には、前記軸線の軸方向から見て前記香箱真及び前記角穴車のうち少なくともいずれか一方に重なる位置に、前記軸方向に貫通する貫通孔が形成されている、ことを特徴とする。
本発明の香箱アセンブリは、内部にぜんまいを収容するとともに、前記ぜんまいの一端部が取り付けられ、前記ぜんまいの巻き解けに伴って軸線回りに回転する香箱車と、前記軸線と同軸に配置され、前記香箱車を相対回転可能に支持するとともに前記ぜんまいの他端部が取り付けられた中空の香箱真と、上ほぞ及び下ほぞを有し、前記軸線と同軸に配置された状態で前記香箱真の内側に挿入された角穴車真と、前記上ほぞと前記下ほぞとの間で前記軸線と同軸に配置され、前記角穴車真に取り付けられた角穴車と、前記香箱真と前記角穴車との相対回転を前記香箱真と前記角穴車真との係合によって間接的に規制する相対回転規制部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、角穴車真が香箱真の内側に挿入されるので、香箱真、及び香箱真に支持された香箱車は、角穴車真の上ほぞと下ほぞとの間に配置される。さらに、角穴車も角穴車真の上ほぞと下ほぞとの間に配置されているので、上ほぞを軸支する部材と下ほぞを軸支する部材との間に角穴車及び香箱車が配置される。これにより、従来技術のように角穴車と香箱車との間に受が配置される場合と比較して、角穴車と香箱車との間隔を小さくできる。したがって、香箱アセンブリを薄型化することができる。
また、香箱真と角穴車との相対回転が係合によって規制されているので、圧入等の摩擦力によって香箱真と角穴車との相対回転を規制する構成と比較して、角穴車と香箱真に支持された香箱車とを容易に分離できる。したがって、角穴車の滑りを抑制しつつメンテナンス性の向上が図られた香箱アセンブリを提供できる。
さらに、香箱真が角穴車真に強固に固定される。このため、香箱真に支持された香箱車が角穴車真に対して変位して、香箱車が軸線と同軸に配置された状態から傾くことを抑制できる。これにより、香箱車が傾き、角穴車真を軸支する部材に接触することが抑制されるので、香箱車と角穴車真を軸支する部材との間隔をより小さくできる。したがって、香箱アセンブリを薄型化することができる。
また、香箱車の接触に伴う回転負荷の増加を抑制できる。
また、角穴車真と香箱真とを容易に分離できる。したがって、メンテナンス性の向上が
図られた香箱アセンブリを提供できる。
また、貫通孔を通じて香箱真及び角穴車のうちいずれか一方の部材を押圧することで、一方の部材を角穴車真に対して軸線の軸方向に変位させることができる。これにより、一方の部材と角穴車真とを容易に分離できる。したがって、メンテナンス性の向上が図られた香箱アセンブリを提供できる。
【0011】
上記の香箱アセンブリにおいて、前記角穴車には、前記香箱真が挿入される挿入部が形成され、前記角穴車は、前記香箱真に対して前記軸線回りの周方向に係合している、ことが望ましい。
【0012】
本発明によれば、摩擦力を用いずに角穴車と角穴車の挿入部に挿入された香箱真との相対回転を規制できる。このため、角穴車を香箱真から取り外すことができる程度に組み付けることができる。よって、角穴車と香箱真に支持された香箱車とを容易に分離できる。したがって、メンテナンス性の向上が図られた香箱アセンブリを提供できる。
【0013】
上記の香箱アセンブリにおいて、前記角穴車真は、前記軸線に直交する方向に突出する突出部を備え、前記角穴車は、前記軸線の軸方向から見て、前記軸線を囲う少なくとも3点以上で前記突出部に接触している、ことが望ましい。
【0014】
本発明によれば、角穴車が軸線と同軸に配置された状態から傾くことを突出部によって抑制できる。これにより、角穴車が傾き、香箱車、または角穴車真を軸支する部材に接触することが抑制されるので、角穴車と香箱車との間隔、及び角穴車と角穴車真を軸支する部材との間隔をより小さくできる。したがって、香箱アセンブリを薄型化することができる。
また、角穴車の接触に伴う回転負荷の増加を抑制できる。
【0015】
上記の香箱アセンブリにおいて、前記角穴車は、前記突出部及び前記香箱真に挟持されている、ことが望ましい。
【0016】
本発明によれば、角穴車の軸方向の移動を突出部及び香箱真によって規制できる。これにより、角穴車が香箱車、または角穴車真を軸支する部材に接触することが抑制されるので、角穴車と香箱車との間隔、及び角穴車と角穴車真を軸支する部材との間隔をより小さくできる。したがって、香箱アセンブリを薄型化することができる。
また、角穴車の接触に伴う回転負荷の増加を抑制できる。
【0019】
上記の香箱アセンブリにおいて、前記角穴車真は、前記香箱真に嵌合された嵌合部を有する、ことが望ましい。
【0020】
本発明によれば、香箱真と嵌合部との嵌合によって、香箱真と角穴車真とが同軸に配置された状態を維持することができる。このため、角穴車真のおねじ、および香箱真のめねじの製造ばらつき(偏心)により、香箱真と角穴車真との同軸度が悪化することを抑制できる。したがって、高精度に組み立てられた香箱アセンブリを提供できる。
【0025】
本発明のムーブメントは、上記の香箱アセンブリを備えることを特徴とする。
本発明の時計は、上記のムーブメントを備えることを特徴とする。
【0026】
本発明によれば、薄型かつ優れたメンテナンス性を有するムーブメント及び時計を提供できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、角穴車の滑りを抑制しつつメンテナンス性の向上が図られ、かつ薄型化された香箱アセンブリ、ムーブメント及び時計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第1実施形態のムーブメントの平面図である。
図2】第1実施形態の香箱アセンブリの断面図である。
図3】第1実施形態の角穴車、香箱車及び香箱真を示す平面図である。
図4】第2実施形態の香箱アセンブリの断面図である。
図5】第3実施形態の香箱アセンブリの断面図である。
図6】第4実施形態の香箱アセンブリの断面図である。
図7図6のVII−VII線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0030】
[第1実施形態]
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。時計の基板を構成する地板の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側(すなわち、文字板のある方の側)をムーブメントの「裏側」と称する。また、地板の両側のうち、時計ケースのケース裏蓋のある方の側(すなわち、文字板と反対の側)をムーブメントの「表側」と称する。
なお本実施形態では、文字板からケース裏蓋に向かう方向を上側、その反対側を下側として説明する。
【0031】
図1は、第1実施形態のムーブメントの平面図である。
図1に示すように、本実施形態の時計1は、機械式時計であって、ムーブメント2、及びムーブメント2を収容する図示しない時計ケースを備えている。
【0032】
時計ケースは、図示しないケース裏蓋及びガラスを備え、その内部には少なくとも時に関する情報を示す目盛りを有する図示しない文字板と、目盛りを指す図示しない指針(すなわち時を示す時針、分を示す分針、及び秒を示す秒針)が設けられている。
【0033】
ムーブメント2は、基板を構成する地板10と、地板10よりも上側に配置された香箱受11、輪列受12及びてんぷ受13と、を備えている。香箱受11、輪列受12及びてんぷ受13と、地板10との間には、表輪列14、表輪列14の回転を制御する脱進機15、及び脱進機15を調速する調速機16が主に配設されている。なお、地板10の裏側には、図示しない文字板が配置されている。
【0034】
地板10には、巻真案内穴20が形成されており、巻真案内穴20に巻真21が回転可能に組み込まれている。巻真21は、おしどり22、かんぬき23、かんぬきばね24及び裏押さえ25を有する切換装置により、軸方向の位置が決められている。さらに巻真21の案内軸部には、図示しないきち車が回転可能に設けられている。
【0035】
巻真21を回転させると、図示しないつづみ車の回転を介してきち車が回転する。きち車が回転することにより、これと噛合う丸穴車26が回転する。丸穴車26が回転することにより、これと噛合う角穴車27が回転する。角穴車27が回転することにより、香箱車28に収容された動力源であるぜんまい80(図2参照)が巻き上げられる。
【0036】
表輪列14は、上述した香箱車28、二番車30、三番車35、及び四番車36を主に備えている。二番車30、三番車35及び四番車36は、巻き上げられたぜんまい80の弾性復元力によって回転する香箱車28の回転に伴って順に回転する。
【0037】
なお、秒針は、四番車36の回転に基づいて回転すると共に脱進機15及び調速機16によって調速された回転速度、すなわち1分間で1回転する。分針は、二番車30の回転、または二番車30の回転に伴って回転する図示しない分車の回転に基づいて回転すると共に、脱進機15及び調速機16によって調速された回転速度、すなわち1時間で1回転する。時針は、図示しない日の裏車を介して、二番車30の回転に伴って回転する図示しない筒車の回転に基づいて回転すると共に、脱進機15及び調速機16によって調速された回転速度、すなわち12時間または24時間で1回転する。
【0038】
脱進機15は、四番車36に噛み合うと共にぜんまい80から伝達される動力によって回転するがんぎ車37と、がんぎ車37を脱進させて規則正しく回転させるアンクル38と、を備え、てんぷ39からの規則正しい振動で表輪列14を制御する。
調速機16は、主に図示しないひげぜんまいを動力源として、香箱車28の出力トルクに応じた定常振幅(振り角)で往復回転(正逆回転)するてんぷ39を備えている。
【0039】
香箱車28は、地板10及び香箱受11に対して第1軸線O1回りに回転可能に設けられている。なお、第1軸線O1方向から見た平面視において、第1軸線O1に交差する方向を径方向といい、第1軸線O1回りに周回する方向を周方向という。香箱車28の外周縁部には、径方向外側に向けて突出する香箱歯部28aが全周に亘って形成されている。香箱歯部28aは、二番車30における二番かな31の歯部31aに噛合している。これにより、二番車30は、香箱車28の回転に伴って第2軸線O2回りに回転する。
【0040】
角穴車27は、第1軸線O1と同軸に配置されている。角穴車27の外周は、丸穴車26に噛み合う角穴歯部27aが全周に亘って形成されている。角穴車27は、丸穴車26の回転に伴って第1軸線O1回りに第1回転方向M1に回転することによって、ぜんまい80を巻き上げることが可能とされている。なお、角穴車27には、ぜんまい80が巻き解ける際の弾性復元力によって、第1回転方向M1とは反対の第2回転方向M2に向けて、ぜんまい80が蓄えている動力が作用する。
【0041】
角穴車27には、巻き上げたぜんまい80の巻き解けを防止するために、角穴車27の逆転を規制するこはぜ90が係合している。こはぜ90は、角穴車27に対して上下方向に重ならない位置に配置されると共に、例えば第3軸線O3回りに揺動可能に香箱受11に軸支され、角穴歯部27aに係合する係合歯部90aを有している。こはぜ90は、角穴車27が第1回転方向M1に回転したときに、係合歯部90aが角穴歯部27aに対して係合する係合位置(図1に示す位置)から、第3軸線O3を中心として第3回転方向M3に回転して角穴歯部27aに対する係合歯部90aの係合が解除される解除位置に揺動可能とされている。
【0042】
こはぜ90は、図示しないこはぜばねからのばね力によって、上記解除位置から上記係合位置に向けて第3軸線O3回りに付勢されている。これにより、角穴車27は、こはぜ90の係合歯部90aに角穴歯部27aを1つずつ乗り越えさせるように、こはぜばねのばね力(弾性力)に抗しつつ第1回転方向M1に回転可能とされている。
【0043】
こはぜ90は、係合歯部90aが角穴歯部27aに対して係合する係合位置から、第3軸線O3を中心として第3回転方向M3とは反対の第4回転方向M4に回転することが規制されている。これにより、角穴車27は、第1回転方向M1への回転については許容されるが、その反対の第2回転方向M2への回転はこはぜ90によって規制されている。これにより、先に述べたように、角穴車27は逆転が防止され、第1回転方向M1のみの回転が許容されている。
【0044】
以下、上述した香箱車28及び角穴車27を含む香箱アセンブリ17について詳述する。
図2は、第1実施形態の香箱アセンブリの断面図である。
図2に示すように、香箱アセンブリ17は、香箱車28と、香箱真50と、角穴車真60と、角穴車27と、を備える。
【0045】
香箱車28は、内部にぜんまい80を収容する。香箱車28は、有底筒状のケース本体45、及びケース本体45を上方から閉塞する香箱蓋46を備え、ケース本体45の内部にぜんまい80を収容している。
【0046】
ケース本体45は、第1軸線O1を中心とする円板状に形成された底壁部45aと、底壁部45aの外周縁部に沿って上方に向けて延びるように形成され、ぜんまい80を径方向外側から囲む周壁部45bと、を備えている。
【0047】
底壁部45aの中央部分には、底壁部45aを上下に貫通する第1嵌合孔47が形成されている。底壁部45aの外周縁部には、上述した香箱歯部28aが形成されている。底壁部45aの内周面には、ぜんまい80の外端部が取り付けられている。
【0048】
香箱蓋46は、第1軸線O1を中心とする円板状に形成され、ケース本体45における周壁部45bの開口部を上方から閉塞している。香箱蓋46の外周縁部は、ケース本体45における周壁部45bの上端部に対して嵌合している。これにより、香箱蓋46及びケース本体45は、互いに一体に組み合わされている。香箱蓋46の中央部分には、香箱蓋46を上下に貫通する第2嵌合孔49が形成されている。
【0049】
香箱真50は、上下に貫通する円筒状に形成されている。香箱真50は、第1軸線O1と同軸に配置されている。香箱真50は、香箱車28の第1嵌合孔47及び第2嵌合孔49に挿通されている。香箱真50の内周面には、めねじ51および嵌合面58が形成されている。めねじ51は、香箱真50の内周面の上下中間部に設けられている。嵌合面58は、香箱真50の内周面の上端部に設けられている。嵌合面58は、第1軸線O1を中心軸線として一定の内径で上下方向に延びている。嵌合面58には、角穴車真60が隙間嵌め(嵌合)される。
【0050】
香箱真50の外周面の上下中間部52は、外周面の上部及び下部よりも径方向外側に膨出している。香箱真50の外周面の上下中間部52には、ぜんまい80の内端部が係止されている。香箱真50の外周面の下部は、第1段差面53を挟んで外周面の上下中間部52に隣接している。第1段差面53は、第1軸線O1の垂直面に沿って延び、下方に向いている。香箱真50の外周面の上部は、第2段差面54を挟んで外周面の上下中間部52に隣接している。第2段差面54は、第1軸線O1の垂直面に沿って延び、上方に向いている。
【0051】
香箱真50の外周面の下部には、香箱車28の第1嵌合孔47が香箱真50に対して第1軸線O1回りに相対回転可能に嵌合している。香箱真50の外周面の上部には、香箱車28の第2嵌合孔49が香箱真50に対して第1軸線O1回りに相対回転可能に嵌合している。これにより、香箱真50は、香箱車28を相対回転可能に支持している。香箱真50の第1段差面53には、第1嵌合孔47の内周部が下方から近接して対向している。香箱真50の第2段差面54には、第2嵌合孔49の内周部が上方から当接している。これにより、香箱真50に対する香箱車28の上下方向の移動が規制されている。
【0052】
香箱真50の外周面の上部には、第3段差面55が形成されている。第3段差面55は、香箱車28よりも上方に形成されている。第3段差面55は、第1軸線O1と同軸の環状に形成されている。第3段差面55は、第1軸線O1の垂直面に沿って延び、上方に向いている。これにより、香箱真50の外周面の上部において、第3段差面55よりも上方の箇所が下方の箇所よりも小径に形成されている。以下では、香箱真50のうち、第3段差面55よりも上方の箇所を小径部56という。小径部56は、香箱真50の上端部である。小径部56の外周面の一部には、平面状のDカット面57(相対回転規制部)が形成されている。Dカット面57については後述する。
【0053】
角穴車真60は、上下に延びる軸部材である。角穴車真60は、第1軸線O1と同軸に配置されている。角穴車真60は、香箱真50の内側に挿入されている。角穴車真60は、上端部に形成された上ほぞ61と、下端部に形成された下ほぞ62と、上ほぞ61と下ほぞ62との間に形成されたおねじ63と、おねじ63と上ほぞ61との間に設けられたフランジ64(突出部)と、おねじ63とフランジ64との間に設けられた嵌合部66と、を有する。上ほぞ61は、香箱真50から上方に突出している。上ほぞ61は、香箱受11(図1参照)に直接、または軸受を介して間接的に軸支されている。下ほぞ62は、香箱真50から下方に突出している。下ほぞ62は、香箱真50よりも下方において、地板10(図1参照)に直接、または軸受を介して間接的に軸支されている。おねじ63は、香箱真50のめねじ51に螺合している。これにより、角穴車真60は、香箱真50に螺入されて、香箱真50に対して固定されている。
【0054】
フランジ64は、径方向の外側に向かって張り出している。フランジ64は、角穴車真60の全周にわたって環状に延びている。フランジ64の上面及び下面は、それぞれ第1軸線O1の垂直面に沿って延びている。フランジ64の外径は、少なくとも香箱真50の上端部の外径よりも大きい。フランジ64の上面には、下方に窪む凹部65が形成されている。本実施形態では、凹部65は、フランジ64を上下に貫通している。
【0055】
図1に示すように、凹部65は、複数(図示の例では2つ)形成されている。複数の凹部65は、周方向に等角度間隔で配置されている。凹部65は、上下方向から見て円形状に形成されている。角穴車真60を香箱真50(図2参照)に螺入する際、及び角穴車真60と香箱真50とを分解する際、複数の凹部65には、治具が同時に挿入される。これにより、角穴車真60及び治具が互いに周方向に係合し合い、治具によって角穴車真60を回転させることができる。
【0056】
図2に示すように、嵌合部66は、フランジ64に対して下方に隣接している。嵌合部66の外周面は、第1軸線O1を中心軸線として一定の外径で上下方向に延びている。嵌合部66は、角穴車真60のうち嵌合部66に対して下方に隣接する箇所よりも大径に形成されている。嵌合部66は、香箱真50の嵌合面58に隙間嵌めされる。
【0057】
角穴車27の中心には、上下に貫通し、香箱真50の小径部56が挿入される軸孔71(挿入部)が形成されている。角穴車27は、香箱真50の小径部56に上方から外挿されている。角穴車27は、上下方向において、角穴車真60の上ほぞ61と下ほぞ62との間に配置されている。角穴車27は、香箱車28と角穴車真60のフランジ64との間に配置されている。角穴車27の上面及び下面は、それぞれ第1軸線O1の垂直面に沿って延びている。角穴車27の上面は、角穴車真60のフランジ64の下面に面接触している。これにより、角穴車27は、第1軸線O1を囲うようにフランジ64に接触している。角穴車27の下面は、香箱真50の第3段差面55に面接触している。これにより、角穴車27は、角穴車真60のフランジ64及び香箱真50に挟持されている。角穴車27の下面は、香箱車28の上面に対して離間している。
【0058】
図3は、第1実施形態の角穴車、香箱車及び香箱真を示す平面図である。
図3に示すように、軸孔71の内周面には、平面状のDカット面72(相対回転規制部)が形成されている。角穴車27のDカット面72、及び香箱真50のDカット面57は、互いに周方向に係合し合っている。これにより、角穴車27のDカット面72、及び香箱真50のDカット面57は、香箱真50と角穴車27との相対回転を規制している。すなわち、角穴車27は、香箱真50に直接係合して相対回転を規制されている。また、角穴車27は、角穴車真60(図2参照)に対して、香箱真50を介して間接的に固定されている。
【0059】
以上に説明したように、本実施形態の香箱アセンブリ17は、中空の香箱真50と、上ほぞ61及び下ほぞ62を有し、第1軸線O1と同軸に配置された状態で香箱真50の内側に挿入された角穴車真60と、上ほぞ61と下ほぞ62との間で第1軸線O1と同軸に配置された角穴車27と、香箱真50と角穴車27との相対回転を係合によって直接的に規制する香箱真50のDカット面57、及び角穴車27のDカット面72と、を備える。
【0060】
この構成によれば、角穴車真60が香箱真50の内側に挿入されるので、香箱真50、及び香箱真50に支持された香箱車28は、角穴車真60の上ほぞ61と下ほぞ62との間に配置される。さらに、角穴車27も角穴車真60の上ほぞ61と下ほぞ62との間に配置されているので、上ほぞ61を軸支する香箱受11と、下ほぞ62を軸支する地板10と、の間に角穴車27及び香箱車28が配置される。これにより、従来技術のように角穴車と香箱車との間に受が配置される場合と比較して、角穴車27と香箱車28との間隔を小さくできる。したがって、香箱アセンブリ17を薄型化することができる。
【0061】
さらに、香箱真50と角穴車27との相対回転が係合によって規制されているので、圧入等の摩擦力によって香箱真と角穴車との相対回転を規制する構成と比較して、角穴車27と香箱真50に支持された香箱車28とを容易に分離できる。したがって、香箱真50に対する角穴車27の滑りを抑制しつつメンテナンス性の向上が図られた香箱アセンブリ17を提供できる。
【0062】
また、角穴車27には、香箱真50が挿入される軸孔71が形成され、角穴車27は香箱真50に対して周方向に係合している。この構成によれば、摩擦力を用いずに角穴車27と角穴車27の軸孔71に挿入された香箱真50との相対回転を規制できる。このため、角穴車27を香箱真50から取り外すことができる程度に組み付けることができる。よって、角穴車27と香箱真50に支持された香箱車28とを容易に分離できる。したがって、メンテナンス性の向上が図られた香箱アセンブリ17を提供できる。
【0063】
また、角穴車真60は、第1軸線O1に直交する径方向に突出するフランジ64を備え、角穴車27は、第1軸線O1を囲うようにフランジ64に接触している。この構成によれば、角穴車27が第1軸線O1と同軸に配置された状態から傾くことをフランジ64によって抑制できる。これにより、角穴車27が傾き、香箱車28、または角穴車真60を軸支する香箱受11に接触することが抑制されるので、角穴車27と香箱車28との間隔、及び角穴車27と香箱受11との間隔をより小さくできる。したがって、香箱アセンブリ17を薄型化することができる。さらに、角穴車27と香箱車28または香箱受11との接触に伴う回転負荷の増加を抑制できる。
なお、角穴車27は、上下方向から見て第1軸線O1を囲う少なくとも3点以上でフランジ64に接触していれば、上述した効果を奏することができる。
【0064】
また、角穴車27は、香箱車28に対して離間している。この構成によれば、角穴車27が香箱車28に接触することが抑制される。したがって、角穴車27と香箱車28との接触に伴う回転負荷の増加を抑制できる。
【0065】
また、角穴車27は、フランジ64及び香箱真50に挟持されている。この構成によれば、角穴車27の上下方向の移動をフランジ64及び香箱真50によって規制できる。これにより、角穴車27が香箱車28、または角穴車真60を軸支する香箱受11に接触することが抑制されるので、角穴車27と香箱車28との間隔、及び角穴車27と香箱受11との間隔をより小さくできる。したがって、香箱アセンブリ17を薄型化することができる。さらに、角穴車27と香箱車28または香箱受11との接触に伴う回転負荷の増加を抑制できる。
【0066】
また、角穴車真60は、香箱真50に螺入されている。この構成によれば、香箱真50が角穴車真60に強固に固定される。このため、香箱真50に支持された香箱車28が角穴車真60に対して変位して、香箱車28が第1軸線O1と同軸に配置された状態から傾くことを抑制できる。これにより、香箱車28が傾き、角穴車真60を軸支する地板10に接触することが抑制されるので、香箱車28と地板10との間隔をより小さくできる。したがって、香箱アセンブリ17を薄型化することができる。さらに、香箱車28と地板10との接触に伴う回転負荷の増加を抑制できる。さらに、角穴車真60と香箱真50とを容易に分離できる。したがって、メンテナンス性の向上が図られた香箱アセンブリ17を提供できる。
【0067】
また、角穴車真60は、香箱真50に嵌合された嵌合部66を有する。この構成によれば、香箱真50と嵌合部66との隙間嵌めによって、香箱真50と角穴車真60との同軸度を、香箱真50の嵌合面58と嵌合部66との隙間未満に抑制し、香箱真50と角穴車真60とが同軸に配置された状態を維持することができる。このため、香箱真50のめねじ51、および角穴車真60のおねじ63の製造ばらつき(偏心)により、香箱真50と角穴車真60との同軸度が悪化することを抑制できる。したがって、高精度に組み立てられた香箱アセンブリ17を提供できる。
【0068】
そして、本実施形態のムーブメント2及び時計1は、上述した香箱アセンブリ17を備えるので、薄型かつ優れたメンテナンス性を有するムーブメント及び時計とすることができる。
【0069】
[第2実施形態]
次に、図4を参照して、第2実施形態について説明する。第1実施形態は、角穴車真60が香箱真50に螺入されている。これに対して、第2実施形態は、角穴車真160が香箱真150に圧入されている点で、第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0070】
図4は、第2実施形態の香箱アセンブリの断面図である。
図4に示すように、第2実施形態の香箱真150の内周面には、第1実施形態の香箱真50のめねじ51に替えて、角穴車真160が圧入される圧入面151が形成されている。第2実施形態の角穴車真160の外周面には、第1実施形態の角穴車真60のおねじ63に替えて、香箱真150が圧入される圧入面163が形成されている。これにより、角穴車真160は、香箱真150に圧入されて、香箱真150に対して固定されている。
【0071】
角穴車真160のフランジ64には、第1実施形態の凹部65に替えて、上下に貫通する貫通孔165が形成されている。貫通孔165は、上下方向から見て角穴車27に重なる位置に形成されている。また、角穴車真160のフランジ64の外周面には、径方向の内側に窪むノッチ166が形成されている。ノッチ166は、フランジ64の外周面及び下面の両方に跨って開口している。角穴車真160と香箱真150とを分解する際、貫通孔165に第1の治具を上方から挿入して角穴車27を介して香箱真150を押圧するとともに、ノッチ166に第2の治具を引っ掛けてフランジ64を角穴車27から離間させる。これにより、角穴車真160を香箱真150の内側から抜き取ることができる。
【0072】
このように、本実施形態では、角穴車真160は、香箱真150に圧入されている。この構成によれば、香箱真150が角穴車真160に強固に固定される。このため、香箱真150に支持された香箱車28が角穴車真160に対して変位して、香箱車28が第1軸線O1と同軸に配置された状態から傾くことを抑制できる。これにより、香箱車28が傾き、角穴車真160を軸支する地板10に接触することが抑制されるので、香箱車28と地板10との間隔をより小さくできる。したがって、香箱アセンブリ117を薄型化することができる。さらに、香箱車28と地板10との接触に伴う回転負荷の増加を抑制できる。さらに、角穴車真160と香箱真150とを容易に分離できる。したがって、メンテナンス性の向上が図られた香箱アセンブリ117を提供できる。
【0073】
また、角穴車真160には、上下方向から見て角穴車27に重なる位置に、上下方向に貫通する貫通孔165が形成されている。この構成によれば、貫通孔165を通じて角穴車27を押圧することで、角穴車27を角穴車真160に対して上下方向に変位させることができる。これにより、角穴車27と角穴車真160とを容易に分離できる。したがって、メンテナンス性の向上が図られた香箱アセンブリ117を提供できる。
【0074】
[第3実施形態]
次に、図5を参照して、第3実施形態について説明する。第3実施形態は、角穴車真160のフランジ64の貫通孔165にピン273が挿入されている点で、第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第2実施形態と同様である。
【0075】
図5は、第3実施形態の香箱アセンブリの断面図である。
図5に示すように、角穴車227には、上方に突出するピン273が設けられている。ピン273は、角穴車227に形成されたピン挿通孔274に圧入されている。なお、ピン273は、角穴車227の上面に形成された凹部に圧入されていてもよい。また、ピン273は、角穴車227と一体形成されていてもよい。ピン273は、角穴車真160のフランジ64の貫通孔165に下方から挿入されている。これにより、角穴車227及び角穴車真160は、互いに周方向に係合し合い、相対回転を規制されている。ピン273は、上下方向から見てフランジ64の貫通孔165と同径同大、または貫通孔265よりも小さく形成されている。本実施形態では、ピン273は、貫通孔165よりも僅かに小径の円柱状に形成されている。例えば、ピン273の上面は、フランジ64の上面と面一になっている。
【0076】
このように、本実施形態の香箱アセンブリ217では、角穴車227及び角穴車真160は、互いに周方向に係合し合い、相対回転を規制されているので、角穴車227の滑りをより確実に抑制することができる。
【0077】
[第4実施形態]
次に、図6及び図7を参照して、第4実施形態について説明する。第2実施形態では、角穴車27は、香箱真150を介して角穴車真160に間接的に固定されている。これに対して、第4実施形態は、角穴車327は、角穴車真360に直接固定されている点で、第2実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第2実施形態と同様である。
【0078】
図6は、第4実施形態の香箱アセンブリの断面図である。図7は、図6のVII−VII線における断面図である。
図6及び図7に示すように、香箱真350の上端部には、溝部358(相対回転規制部)が形成されている。溝部358は、第1軸線O1に直交する1つの所定の直線に沿って延びている。溝部358は、上方及び径方向外方に開口している。
【0079】
角穴車真360は、大径部367と、嵌合突部368(相対回転規制部)と、を有する。大径部367は、フランジ64に対して下方に隣接している。大径部367は、フランジ64よりも小径、かつ香箱真350の上端部よりも大径の円柱状に形成されている。大径部367の外周面には、角穴車327が圧入される圧入面367aが形成されている。大径部367には、角穴車327の軸孔371が圧入されている。これにより、角穴車327は、角穴車真360に直接固定されている。なお、角穴車327及び角穴車真360は、Dカット面等によって、互いに周方向に係合し合っていてもよい。
【0080】
嵌合突部368は、大径部367の下面から下方に突出している。嵌合突部368は、香箱真350の溝部358に入り込んでいる。これにより、角穴車真360の嵌合突部368、及び香箱真350の溝部358は、香箱真350と角穴車327との相対回転を、角穴車真360を介して間接的に規制している。嵌合突部368は、溝部358の延在方向に沿って延びている。嵌合突部368の幅は、溝部358の幅よりも僅かに狭い。嵌合突部368は、溝部358から径方向の両側に突出している。嵌合突部368の外周面は、大径部367の外周面と面一に形成されている。嵌合突部368は、溝部358の底面に上方から当接している。
【0081】
角穴車真360には、第2実施形態の角穴車真160の貫通孔165に替えて、上下に貫通する貫通孔365が形成されている。貫通孔365は、上下方向から見て香箱真350の上端面に重なる位置に形成されている。貫通孔365は、フランジ64及び大径部367の両方を上下に貫通している。角穴車真360と香箱真350とを分解する際、貫通孔365に治具を上方から挿入して香箱真350の上端部を押圧する。これにより、角穴車真360を香箱真350の内側から抜き取ることができる。
【0082】
このように、本実施形態の香箱アセンブリ317は、香箱真350と角穴車327との相対回転を係合によって間接的に規制する香箱真350の溝部358、及び角穴車真360の嵌合突部368を備える。この構成によれば、香箱真350と角穴車327との相対回転が係合によって規制されているので、圧入等の摩擦力によって香箱真と角穴車との相対回転を規制する構成と比較して、角穴車327と香箱真350に支持された香箱車28とを容易に分離できる。したがって、香箱真350に対する角穴車327の滑りを抑制しつつメンテナンス性の向上が図られた香箱アセンブリ317を提供できる。
【0083】
また、角穴車真360には、上下方向から見て香箱真350に重なる位置に、上下方向に貫通する貫通孔365が形成されている。この構成によれば、貫通孔365を通じて香箱真50を押圧することで、香箱真350を角穴車真360に対して上下方向に変位させることができる。これにより、香箱真350と角穴車真360とを容易に分離できる。したがって、メンテナンス性の向上が図られた香箱アセンブリ317を提供できる。
【0084】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記第1実施形態では、治具によって角穴車真60を回転させる構造として、フランジ64に凹部65を設けているが、これに限定されず、角穴車真及び治具が互いに周方向に係合し合えばよい。治具を角穴車真に対して周方向に係合させる構造として、例えば、フランジにDカット部を設けたり、上ほぞまたは下ほぞにドライバー溝や四角レンチ等を挿入する凹部等を設けたりしてもよい。
【0085】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1…時計 2…ムーブメント 17,117,217,317…香箱アセンブリ 27,227,327…角穴車 28…香箱車 50,150,350…香箱真 57…Dカット面(相対回転規制部) 60,160,360…角穴車真 61…上ほぞ 62…下ほぞ 64…フランジ(突出部) 66…嵌合部 71…軸孔(挿入部) 72…Dカット面(相対回転規制部) 80…ぜんまい 165,365…貫通孔 358…溝部(相対回転規制部) 368…嵌合突部(相対回転規制部) O1…第1軸線(軸線)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7