(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6653733
(24)【登録日】2020年1月30日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】カウンターボアのデザインを有するスチール製ピストン
(51)【国際特許分類】
F02F 3/00 20060101AFI20200217BHJP
【FI】
F02F3/00 G
F02F3/00 B
F02F3/00 Z
【請求項の数】5
【外国語出願】
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-133893(P2018-133893)
(22)【出願日】2018年7月17日
(62)【分割の表示】特願2015-532162(P2015-532162)の分割
【原出願日】2013年9月18日
(65)【公開番号】特開2018-200050(P2018-200050A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2018年8月8日
(31)【優先権主張番号】61/702,549
(32)【優先日】2012年9月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518372567
【氏名又は名称】テネコ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TENNECO INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マトゥソ,エドゥアルド
(72)【発明者】
【氏名】マーティンズ,アイルトン
【審査官】
首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−191779(JP,A)
【文献】
特開平06−193733(JP,A)
【文献】
特開2006−022957(JP,A)
【文献】
実開昭56−132348(JP,U)
【文献】
実開平04−115536(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチール製のピストン本体を備え、
前記ピストン本体は、上方燃焼面を有する冠状部と、前記冠状部から垂下し、スカート下端に軸方向に延びる一対のスカートと、リストピンを受けるための一対のピンボスと、前記ピンボスから前記スカートに延びる複数のピンボスブリッジと、を有し、
各前記ピンボスブリッジは、リブを提示するピンボスブリッジ下端に向かって軸方向に延び、各リブが前記ピンボスブリッジの長手方向隣接部に対して増加させた壁厚を有し、
前記ピンボスブリッジの少なくとも1つは、前記ピストン本体の加工のための基準位置を提供するための、前記スカート下端およびピンボス下端の上方に長手方向に離間される概ね平坦なカウンターボア面を有する、内燃機関用ピストン。
【請求項2】
各前記スカートは、前記冠状部から前記スカート下端に概ね連続する壁厚を有する、請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記ピストン本体は1つのスチール製の一体部品からなる、請求項1に記載のピストン。
【請求項4】
前記冠状部は、複数のピストンリングを受けるための複数の軸方向に離間したリング溝を含む、請求項1に記載のピストン。
【請求項5】
前記リング溝から軸方向に離間するオイル排出溝をさらに含む、請求項4に記載のピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2012年9月18日に出願された米国仮出願第61/702,549号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の背景
1.発明の属する技術分野
本発明は、概してスチール製ピストンと、スチール製ピストンを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術
多くの従来の一体鋳造のピストン本体はアルミニウム製であり、冠状部と、一対のスカート部と、一対のピンボスと、複数のピンボスブリッジと、を含み、複数のピンボスブリッジは、スカート部とピンボスとの間に延びる。このような一体鋳造のピストン本体は、典型的には、最初に鋳造または鍛造プロセスによって大まかな形状に形成され、続いてその最終形状に機械加工される。機械加工操作は、通常、ピストン上に鋳放または鍛造後のものにデータムまたは基準点を位置決めすることと、概ね平らな表面を有するカウンタボアを提供するために、各ピストンのスカートの下端(下端全体ではない)内部を機械加工することと、によって開始する。一旦これらのカウンターボアが形成されると、それらは、すべてではないが多くのその後のピストン本体の加工工程、およびピストン本体がその意図された機能を実行可能であることを保証するためのピストン本体の最終検査のためのデータムおよび/または基準点としても使用される。
【0004】
多くの現代のエンジンメーカは、直接噴射やターボチャージングなどの高度な技術を、燃費を向上させるために採用する。結果として、これらのおよびその他の高度な技術は、しばしば、アルミピストンを損傷する可能性のある、燃焼温度および圧力の増加をもたらす。これらの増加された燃焼温度および圧力に耐久するために、いくつかのピストンメーカーはアルミニウムではなくスチールのピストンの製造を始めている。スチールの強度はアルミニウムと比較して増加するため、軽量化の目的にはより薄いスカートと壁厚のピンボスブリッジを有するピストンを形成することが望ましい。しかし、スカートの壁厚の減少は典型的には、そこからカウンタボア面の機械加工を行うべき材料を削減し、それによって特定の機械加工作業をより困難にするという、マイナスの効果を有する。いくつかのピストンメーカーが、壁厚が減少したスカートにカウンターボア面を機械加工することを試みてきた。
図1及び
図2に、スカートに機械加工されたカウンターボア面を有するようなピストン本体を図示する。しかしこのアプローチは、非常に薄く、脆く、鋭い、外側の未加工部分をもたらす可能性があり、その後の機械加工作業中または機械加工作業の前後での取り扱い中に容易に破損しうる。これらの欠点を回避するために、他のピストンの製造業者は、そこから機械加工するのに十分な厚さのカウンタボア面とスカートを提供するためだけに、スカート上に薄く脆く鋭い外側の未加工の面を作成することなく、構造的に必要であるよりも厚いスカートのスチールピストンを製造する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、内燃機関用ピストンを提供する。ピストンは、スチール製ピストン本体を含む。ピストン本体は、上方燃焼面を有する冠状部と、冠状部から垂下する一対のスカートと、リストピンを受けるための一対のピンボスと、ピンボスからスカートに延び
て、冠状部と対向する下端に軸方向に延びる複数のピンボスブリッジと、を有する。各ピンボスブリッジは、それぞれの下端に厚さを増加させたリブを有する。ピンボスブリッジの少なくとも1つは、ピストン本体の加工のための基準位置を提供するための概ね平坦なカウンターボア面を有する。
【0006】
ピンボスブリッジの下端のリブ上にカウンターボア面を配置することは、多くの理由で有利である。たとえば、スカートの厚さは、それらがカウンターボア面を有するのに十分な厚さである必要はないため、最適化されてもよい。このため、他の既知のスチールピストンに比べて、ピストン本体の総重量または質量を減少させることができる。 さらに、
ピンボスブリッジの厚みを増した領域(すなわちリブ)は、ピンボスブリッジのブリッジ下端のみに局在する。このため、リブによってピストン本体に追加される重量または質量は、特にスカートの壁厚を最適化することによって節約された重量または質量と比較した場合、非常に小さい。このように、ピストン本体は、他の公知のスチールピストン本体よりも軽量である。これは、内燃機関の性能向上だけでなく、製造中に削減された材料費を提供するので、有益である。
【0007】
本発明の別の態様は、ピストンの製造方法を提供する。この方法は、冠状部と、一対のスカートと、一対のピンボスと、ピンボスとスカートとを相互に接続する一対のピンボスブリッジと、を有する非最終形状にピストン本体を形成する工程を含む。方法は、カウンターボア表面をピンボスブリッジのブリッジ下端に機械加工する工程に進む。方法は、カウンタボア面の少なくとも1つを参照する工程に続く。方法は、カウンターボア面の少なくとも1つを参照または配置するステップに進む。方法は、参照したカウンタボア表面に基づいてピストン本体を機械加工する工程に続く。
【0008】
図面の簡単な説明
本発明のこれらおよび他の特徴および利点が、以下に容易に理解されるだろう。また同じく、以下の図面と説明を参照することによってより容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ある既知の種類のスチール製の一体鋳造ピストンの底面図である。
【
図2】
図1の従来の一体鋳造ピストンの正面斜視図である。
図2は、
図1のピストンの底面図である。
【
図3】本発明の一態様に従って構成されたピストンの正面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施可能とするための実施の形態の記述
図中の同様の番号は複数の図面を通して対応する部分を示す。内燃機関(図示せず)のための一体鋳造ピストン本体20の例示的な実施形態を、一般に
図3から
図5に示す。ピストン本体20の例示的な実施形態は、スチール製であり、鋳造および/または鍛造操作後にピンボスブリッジ22へと機械加工される概ね平坦なカウンターボア面24を有する複数のピンボスブリッジ22を有する。ピンボスブリッジ22上の概ね平坦なカウンターボア面24は、ピストン本体20上への後続の機械加工作業のためのデータムおよび/または基準位置として使用することができる。さらに、概ね平坦なカウンターボア面24が、ピストン本体20のスカート26ではなく、ピンボスブリッジ22上に形成されるため、スカート26は、スチール製の他の公知のピストン本体と比較して削減または最適化された壁厚で形成することができる。
【0011】
ここで
図3を参照すると、例示的な実施形態のピストン本体20は、上方燃焼面を有す
る冠状部28とリング状ベルト30とを含む。リング状ベルト30は、ピストン本体20の外側リング状面に凹設され、複数のピストンリング(図示せず)を収容するために互いから軸方向に離間する複数のリング状溝を含む。上方のリング状溝は、好ましくは、ピストン本体20の上方の燃焼室の燃焼ガスを封入するための圧縮リング(図示せず)を収容するように構成され、また、最下部のリング状溝は、好ましくは、潤滑と冷却オイルを、ピストン本体20の下方のクランクケース(図示せず)とオイルパン(図示せず)内に密封するために、オイルスクラッパーリングまたはリングの組(図示せず)を収容するように構成されている。
図5に最もよく示されるように、ピストン本体20はまた、オイル排出溝34を有して形成され、オイル排出溝34はリング状溝の下に軸方向に離間しており、ピストンリングを超えるオイルの通過を最小限にするために、内燃機関におけるシリンダ壁から廃棄されるオイルの流れを管理するように構成される。このオイル排出溝34は、スカート26の外周面に延び、ピンボスブリッジ22を外側の平坦面に開口する。
【0012】
図3を再び参照すると、ピストン本体20のスカート26は、直径方向に互いに対向し、冠状部28から垂下し、冠状部28からそれぞれスカートの下端36に軸方向に延びる。各スカート26は、冠状部28からスカート下端部36までの実質的に高さ全体に概ね均一な壁厚を有する。ピストン本体20はまた、直径方向に対向する一対のピンボス38を含み、ピンボス38は、内燃機関のコネクティングロッド(図示せず)とピストン本体20とを接続するリストピン(図示せず)を受けるための互いに整列した開口部を有する。各ピンボスブリッジ22は、ピンボス38の一方とスカート26の一方との間で一体に接続され、延在する。スカート26は内燃機関におけるシリンダ壁の形状に対応するように丸くなっているが、リブ40(以下でさらに詳細に説明する)を除いて、ピンボスブリッジ22は、概ね平面または平坦である。
【0013】
ピストン本体20の例示的な実施形態では、ピンボスブリッジ22は、冠状部28から垂下し、そこから軸方向にそれぞれブリッジ下端まで延びる。各ピンボスブリッジ22はリブ40を有する。リブ40は、そのそれぞれのブリッジ下端で壁厚が増加する、すなわちブリッジ下端がピンボスブリッジ22の他の部分よりも大きな厚みを有する。例示的な実施形態では、各ピンボスブリッジ22のリブ40は、実質的にそれぞれのスカート26とそれぞれのピンボス38との間の全距離だけ延在する。しかし、ピストン本体は代替的に、実質的にそれぞれのスカート26とそれぞれのピンボス38との間の全距離より短く延在するリブを用いて形成可能であることを理解すべきである。
【0014】
ここで
図4の底面図を参照すると、リブ40の下面は、複数の平坦なカウンターボア面24を提示するために機械加工される。複数の平坦なカウンターボア面24は、ピストン本体20への後続の機械加工工程および最終的な検査工程が適用された場合のための、基準および/またはデータム点/位置としての役目をしてもよい。例示的な実施形態では、機械加工されたカウンターボア面24は、ピンボス38のいずれかの側、すなわち、ピンボスブリッジ22がスカート26に接する遷移領域の4つすべての、ピンボスブリッジ22の底面に配置される。例示的な実施形態に示されるように、カウンタボア面24はスカート26のスカート下端36の鉛直上方に隆起する。すなわち、カウンターボア面24は、スカート下端36とピストン本体20の冠状部28との間に軸方向(又は垂直方向)に配置される。
【0015】
ピストン本体20は、好ましくはスチールの一つの一体部品で作られており、鋳造プロセスまたは鍛造プロセスによって大まかな非最終形状に形成される。鋳造または鍛造プロセスの完了後に、カウンタボア面24は、ピンボスブリッジ22のリブ40に機械加工される。次にカウンターボア面24は、例えば、ピンボス38の機械加工、リング溝32の機械加工、および/または冠状部28の上方燃焼面の機械加工といった、その後の加工プロセスのための基準またはデータムの位置として使用される。
【0016】
ピストン本体20が、鋳造工程を経て、大まかな非最終形状に形成される場合には、ピンボスブリッジ22のブリッジ下端のリブ40が、ピストン本体20に直接鋳造されてもよい。代替的に、ピストン本体20が鍛造工程を経て、大まかな非最終形状に形成される場合は、ピンボスブリッジ22は、初期にはより厚く形成して、ピンボスブリッジ22のブリッジ下端で厚みを増したリブ40を残したまま、カウンタボア面24の機械加工の前後いずれかにそれらの最終的な厚さに機械加工されてもよい。
【0017】
ピンボスブリッジ22のリブ40上にカウンターボア面を配置することは、多くの理由のために有利である。例えば、ピストン本体20の総重量又は質量は、他の既知のスチールピストンに比べて低減することができる。これは、カウンターボア面24がスカート26上にあるためにスカート26の厚さを最適化することができるためである。材料の節約に加えて、これは、改善された性能を有する内燃機関を提供することができる。さらに、ピンボスブリッジ22の厚みを増した領域(すなわちリブ40)が、ピンボスブリッジ22のブリッジ下端のみに局在しているので、リブ40によりピストンに追加される重量または質量は、特にスカート26の壁厚を最適化することにより節約された重量または質量と比較した場合に、非常に小さい。
【0018】
ピンボスブリッジ22の下端にカウンターボア面24を形成する別の利点は、ピン方向にピストンをセンタリングする容認角度が最大化されことである。カウンターボア面24がピストンに形成された後、ディスク(図示せず)が典型的には、ピストン本体20へカウンターボア面24に取り付けられる。このディスクは、ピン方向の基準データム点を特定するために使用可能である。ピンの長さを含む様々な要因に依存して、いくつかのピストンではスカートの長さは非常に短いかもしれず、したがって、他の既知のピストン本体のカウンタボア面が延在する角度は、従来の方法(すなわち、スカートの底面上)で形成されるカウンターボアを有するピストン内でピストン本体をピン方向に正確に配置するのに十分な長さではないかもしれない。しかし、例示的な実施形態のピストン本体20のカウンターボア面24は、スカート26内ではなくピンボスブリッジに形成される。このため、カウンターボア面24がスカート26の端部に隣接するよう(または可能には通過して)形成されるので、対抗するカウンターボア面24の間のより広い角度が、ピストン本体20をピン方向により正確に配置するために測定されてもよい。
【0019】
本発明の別の態様は、内燃機関用ピストンの製造方法を提供する。例示的な方法は、ピストン本体20を非最終形状に形成する工程を含み、ピストン本体は、冠状部28と、一対のスカート26と、一対のピンボス38と、ピンボス38にスカート26を相互接続するリブ40を有する複数のピンボスブリッジ22とを有する。形成工程は、たとえば、ピストン本体20の鋳造またはピストン本体20の鍛造を含む。ピストン本体が非最終形状に鋳造されている場合は、リブ40はピストン本体20に直接鋳造してもよい。一方、ピストン本体が非最終形状に鍛造される場合、方法は追加的に、ピンボスブリッジ22をリブ40を提供するよう機械加工する工程を含んでもよい。
【0020】
例示的な方法は、カウンターボア面24をピンボスブリッジ22のブリッジ下端に機械加工する工程に進む。そして例示的な方法は、(たとえば、CNCマシンで)少なくとも1つのピンボスブリッジ22上の少なくとも1つのカウンターボア面24を参照する工程に進む。次に方法は、参照したカウンターボア面24または少なくとも1つのピンボスブリッジ22の上の表面に基づいて、ピストン本体20を機械加工するステップに進む。
参照したカウンターボア面24または表面に基づいてピストン本体を機械加工することは、たとえば、冠状部28にリング溝を加工すること、ピンボス38に開口を加工すること、または冠状部28の上方燃焼面を加工することであってもよい。
【0021】
明らかに、本発明の多くの修正および変形が上記の教示に照らして可能であり、特定的に説明した以外の方法で添付の特許請求の範囲内において実施することができる。