(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の心電図信号が、心起電力の変化のX軸、Y軸、およびZ軸方向の成分のうち、第1の方向の成分を表す第1の心電図信号と、第2の方向の成分を表す第2の心電図信号と、第3の方向の成分を表す第3の心電図信号とのうち、2つ以上を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の心電図解析装置。
前記抽出手段は、前記複数の心電図信号に低域遮断処理を適用することにより、前記筋電図信号を抽出することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の心電図解析装置。
前記合成手段が、前記複数の筋電図信号の2乗和の平方根を算出することによって、前記合成マグニチュード信号を生成することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の心電図解析装置。
前記生成手段が、前記合成マグニチュード信号に高域遮断処理を適用して前記呼吸信号を生成することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の心電図解析装置。
前記生成手段が、前記合成マグニチュード信号に時定数減衰積分および平滑化処理を適用して前記呼吸信号を生成することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の心電図解析装置。
前記差分信号が、前記第2の合成マグニチュード信号に所定の定数を乗じて前記第1の合成マグニチュード信号から減じることによって得られることを特徴とする請求項9に記載の心電図解析装置。
前記抽出手段は、前記複数の心電図信号のそれぞれに第1の通過周波数帯域を有するフィルタ処理を適用することにより前記筋電図信号を抽出し、前記複数の心電図信号のそれぞれに第2の通過周波数帯域を有するフィルタ処理を適用することにより前記QRS信号を抽出し、
前記所定の定数が、前記複数の心電図信号における前記第1の通過周波数帯域と前記第2の通過周波数帯域との強度の差を補償するための定数であることを特徴とする請求項10に記載の心電図解析装置。
前記複数の心電図信号から、前記第1の合成マグニチュード信号に関する第1の周波数の信号強度と、前記第2の合成マグニチュード信号に関する第2の周波数の信号強度とを検出し、前記第1の周波数の信号強度と、前記第2の周波数の信号強度とから前記所定の定数を求める定数算出手段をさらに有することを特徴とする請求項10に記載の心電図解析装置。
前記抽出手段は、前記複数の心電図信号に低域遮断処理を適用することにより前記筋電図信号を抽出し、前記複数の心電図信号に帯域通過処理または高域遮断処理を適用することにより前記QRS信号を抽出し、
前記第1の周波数が前記低域遮断処理における遮断周波数であり、前記第2の周波数が前記帯域通過処理における中心周波数であることを特徴とする請求項12に記載の心電図解析装置。
前記差分信号が、前記第2のマグニチュード信号に所定の定数を乗じて前記第1のマグニチュード信号から減じることによって得られることを特徴とする請求項14に記載の心電図解析装置。
前記抽出手段は、前記心電図信号に第1の通過周波数帯域を有するフィルタ処理を適用することにより前記筋電図信号を抽出し、前記心電図信号に第2の通過周波数帯域を有するフィルタ処理を適用することにより前記QRS信号を抽出し、
前記所定の定数が、前記心電図信号における前記第1の通過周波数帯域と前記第2の通過周波数帯域との強度の差を補償するための定数であることを特徴とする請求項15に記載の心電図解析装置。
前記心電図信号から、前記第1のマグニチュード信号に関する第1の周波数の信号強度と、前記第2のマグニチュード信号に関する第2の周波数の信号強度とを検出し、前記第1の周波数の信号強度と、前記第2の周波数の信号強度とから前記所定の定数を求める定数算出手段をさらに有することを特徴とする請求項15に記載の心電図解析装置。
前記抽出手段は、前記心電図信号に低域遮断処理を適用することにより前記筋電図信号を抽出し、前記心電図信号に帯域通過処理または高域遮断処理を適用することにより前記QRS信号を抽出し、
前記第1の周波数が前記低域遮断処理における遮断周波数であり、前記第2の周波数が前記帯域通過処理における中心周波数であることを特徴とする請求項17に記載の心電図解析装置。
前記呼吸信号の波形を、呼気時相および吸気時相の指標の少なくとも一方とともに提示する提示手段をさらに有することを特徴とする請求項1から18のいずれか1項に記載の心電図解析装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明をその例示的な実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る心電図解析装置の一例としての、ホルタ心電計100の機能構成例を示すブロック図である。なお、本実施形態の心電図解析装置は、心電図(誘導信号)を被検者から取得するための構成を有しているが、本発明において心電図を被検者から取得するための構成は必須でない。本発明に係る心電図解析装置は、予め測定された心電図データを、直接またはネットワークを介して接続された記憶装置や記憶媒体から取得するなど、任意の方法で取得可能であればよい。
【0013】
(第1の実施形態)
図1において、CPU1はROM2に格納されている制御プログラムをRAM3に読み出して実行することにより、ホルタ心電計100全体の制御を司る。ROM2はCPU1が実行するプログラムや、メニュー画面などを表示するためのGUIデータ、ユーザ設定データ、初期設定データなど、処理に必要なパラメータ等を記憶する不揮発性メモリであり、少なくとも一部が書き換え可能であってよい。RAM3はCPU1が実行するプログラムを展開する領域や、変数やデータ等の一時記憶領域として用いられる。メモリカード4は生体電極から入力される心電図そのもの、もしくは生体電気信号を処理することで得られる別の生体電気信号やデータをデジタルデータの形式で記憶する記憶装置である。メモリカード4は、カードスロット5に対して着脱可能に装着される。
【0014】
表示部6は例えば液晶表示装置である。操作部8は電源のオン、オフや測定の開始、停止、各種イベント入力などを行ったり、各種の設定を行なったりするためのスイッチ、ボタンなどからなる。操作部8は表示部6に設けられたタッチパネルを含んでもよい。
【0015】
また、アナログ−デジタル変換器(A/D変換器)9は心電図電極12から入力されるアナログ信号をデジタル信号に変換する。センサ用I/F10は、心電図電極12からの誘導信号を取得するためのインターフェースである。なお、センサ用I/F10は心電図電極12以外にも、SpO2(動脈血酸素飽和度)センサや血圧・脈波測定用のカフなどを接続可能であってもよい。
通信インターフェース20は例えばホストコンピュータやプリンタ等の外部機器40と通信を行うための通信インターフェースであり、有線および/または無線通信規格に準拠した構成を有する。
【0016】
このような構成を有するホルタ心電計100を用いて心電図(誘導信号)の取得及び記録を行う場合、被検者の体表面の所定の位置に心電図電極12の遠端に設けられた複数の電極パッドを取り付け、心電図電極12の近端に設けられたコネクタをセンサ用I/F10のコネクタに接続する。
【0017】
なお、後述するように、本発明においては呼吸運動に伴う筋肉の活動電位変化を精度良く検出するため、少なくとも2つの、互いに異なる方向における心起電力の変化を表す心電図信号を測定する誘導法を用いる。互いに異なる方向であればその関係に制限は無いが、3つ以上の方向成分を測定する場合、2つの方向を表すベクトルが張る面に直交する方向の成分を含むように測定することが好ましい。典型的には、互いに直交する2方向または3方向を含むように測定する。
【0018】
具体的には、左右(X軸)、上下(Y軸)、および前後(Z軸)方向における心起電力成分を表すX、Y、Z誘導もしくは同等の誘導の少なくとも2つを測定することが好ましい。XYZ誘導と同等の誘導法の例としては以下のものがある。X誘導(CM5,mCM5,CC5)、Y誘導(NASA,双極aVF,CMf)、Z誘導(NASA,mV1,CM2,CB2,双極V3)。また、標準12誘導や、ベクトル心電図誘導法(例えばFrank誘導法)を用いることもできる。2つの誘導を用いる場合、X軸とY軸方向の組み合わせとして、例えばCC5とNASA誘導の組み合わせを好適に用いることができる。
【0019】
例えば操作部8の操作によって電源が投入されると、CPU1は初期化処理など、心電図の取得を開始する前のタイミングで、心電図を取得するための動作モードの設定処理を行ことができる。また、CPU1は必要に応じて、心電図の記録動作の開始前に、日時や、被検者を特定可能な情報(例えば患者IDなど)を、ユーザに設定させるための入力画面などを表示してもよい。
【0020】
そして、例えば操作部8からの記録開始指示の入力や、電源投入時からの所定時間経過などに応じて、CPU1は心電図の記録動作を開始する。なお、心電図の取得自体は、記録開始指示より前に実行されてよい。例えば、表示部6に現在の動作モードに応じた波形表示を行うことで、動作モードの設定が正しく行われているかどうかを波形表示からユーザが確認することを可能にする。
心電図信号はA/D変換器9により所定のサンプリングレート(例えば250Hz〜数KHz)でサンプリングされ、デジタル信号の形式でメモリカード4や外部機器40に記録される。なお、心電図の記録動作は本発明と直接関係がなく、また従来と同様であってよいため、これ以上の説明は省略する。
【0021】
(心電図信号の解析処理)
次に、
図2のフローチャートを参照して、本実施形態のホルタ心電計100による心電図信号の解析処理動作について説明する。解析処理は心電図信号の記録時に実施してもよいし、記録済みの心電図信号に対して実施してもよい。また、上述したように、ホルタ心電計100のような測定装置とは別の、測定機能を持たない装置で実施してもよい。以下では、予めROM2に記憶された心電図信号の解析プログラムをRAM3に展開してCPU1が実行することによって解析処理を実行するものとするが、解析処理の少なくとも一部がASIC等の専用ハードウェアによって実現されてもよい。
【0022】
S101でCPU1は、メモリカード4もしくは通信可能に接続された外部機器40からに心電図信号を取得する。取得する心電図信号は、上述の通り、少なくとも2つの、互いに異なる方向における心起電力の変化を表す心電図信号である。ここでは典型例として、X誘導、Y誘導、Z誘導の3つが記録されているものとし、CPU1は予め定められた設定に従ってX誘導、Y誘導、Z誘導の2つもしくは3つ(全部)の心電図信号を取得する。記録されている3つの誘導のうち2つを取得する場合の組み合わせ(XとY、YとZ、またはZとX)は、予め設定されていてもよいし、ユーザに指定させるようにしてもよい。なお、取得する複数の心電図信号は同時に測定された信号であり、測定期間の一部の心電図信号を取得する場合も、同じ測定期間についての心電図信号を取得する。CPU1は読み出した心電図信号をRAM3に記憶する。
【0023】
次にS103でCPU1は、RAM3に記憶されている複数チャンネルの心電図信号のそれぞれに対して低域遮断処理を適用し、心電図信号から心電図成分を除去(減衰)させる。具体的には、ハイパスフィルタ(またはローカットフィルタ)処理を適用することができる。フィルタ処理により、呼吸筋の運動に伴う電気信号成分(呼吸筋電図信号)が抽出される。例えば、X誘導の心電図信号をフィルタ処理することにより、X軸方向における呼吸筋の動きを表す呼吸筋電図信号が得られる。
【0024】
S105でCPU1は、S103で得られた呼吸筋電図信号に対してベクトルマグニチュード演算処理を適用し、2次元または3次元の呼吸筋の動きの大きさを反映した1つのマグニチュード信号に合成する。すなわち、S103で得られた2つまたは3つの軸方向の各々における呼吸筋電図信号を1つに合成し、呼吸筋の2次元または3次元の動きの大きさを表す信号を生成する。
【0025】
S101においてX誘導、Y誘導、Z誘導の3chの心電図信号を取得した場合のベクトルマグニチュード演算処理について説明する。各信号をx(t),y(t),z(t)で表し(ここで、tはサンプリング時刻とする)、S103のフィルタ処理後の各信号をx’(t),y’(t),z’(t)と表すと、ベクトルマグニチュード演算処理で得られる合成マグニチュード信号VM(t)は、
【数1】
で表される。すなわち、ベクトルマグニチュード演算は、各信号のサンプルの2乗和の平方根を算出する処理であり、得られる合成マグニチュード信号は、呼吸筋電図信号の各方向成分の大きさを合成した値を有する。CPU1は算出した合成マグニチュード信号を、RAM3に保存する。
【0026】
このように、本発明においては少なくとも2つの、異なる方向成分についての筋電図信号の大きさを合成して、呼吸筋の2次元又は3次元的な動きの大きさを表す1つのマグニチュード信号を生成する。主な呼吸筋は胸郭の肋間に分布するため、筋線維は3次元的に多方向に分布し、脱分極も様々な方向で発生する。従って、1軸方向の心電図信号に基づく方法よりも、2軸方向や3軸方向の心電図信号に基づく方法の方が、呼吸筋の筋繊維の多くの方向についての活動電位の変化を検出することができ、精度の良い呼吸信号の検出が可能となる。
【0027】
S107でCPU1は、合成マグニチュード信号から呼気時相と吸気時相とを表す呼吸信号を生成し、処理を終了する。また、CPU1は、生成した呼吸信号を提示してもよい。例えば、呼吸信号波形を、吸気時相および呼気時相の指標の少なくとも一方とともに表示部6に表示したり、外部に接続されたプリンタで印刷出力したり、画像データ等の形式で記録してもよい。なお、呼吸信号の極大値が吸気時相、極小値が呼気時相である。指標はどのようなものであってもよいが、極大値部分の近傍に「I」、極小値部分の近傍に「E」等のマークを付加するなどが考えられる。
【0028】
図3は、S107における呼吸信号生成処理の具体例を説明するフローチャートである。
図3(a)の例では、CPU1は合成マグニチュード信号に高域遮断処理を適用し(S201)、呼吸信号を生成する。CPU1は生成した呼吸信号をRAM3に保存する。
【0029】
一方、
図3(b)の例では、CPU1はまず合成マグニチュード信号に時間積分処理を適用する(S203)。
本実施形態では、時間積分処理として時定数減衰積分を適用する。時定数減衰積分は、一般的な積分処理と同様、特定の窓幅内の入力サンプルの和を累積する演算であるが、新しい和が加算されるごとに、時定数τで定まる減衰関数を乗じる。従って、V
in(t)を合成マグニチュード信号の時刻tのサンプル、窓幅(サンプル数)をwinとすると、時定数減衰積分で得られる信号V
out(t)は以下の様に表すことができる。
【数2】
時定数τが大きくなると、入力信号の上昇および下降に対する積分出力の追従遅れが大きくなる。例えば矩形波が入力した場合、時定数減衰積分結果はリーキー(不完全)なアナログ積分器に似た挙動を示す。
【0030】
次いでS205でCPU1は、積分信号に対して平滑化処理を適用し、呼吸波形とする。平滑化処理の方法に特に制限は無いが、例えばメディアンフィルタ処理、スプライン処理、移動平均処理などであってよい。CPU1は生成した呼吸信号をRAM3に保存する。
【0031】
(実施例1)
予め記録された、双極XYZ誘導(サンプリングレート1KHz)の心電図信号を用い、上述の方法で呼吸信号を得るまでの過程を、
図4を用いて説明する。なお、心電図信号の記録時には、メトロノームを40回/分で動かし、拍子ごとに呼気・吸気を繰り返し行うようにして、呼吸回数を20回/分となるように調整している。
【0032】
図4において、C1〜C3はそれぞれX誘導、Y誘導、Z誘導の心電図信号であり、C4〜C6はC1〜C3に対して遮断周波数120Hzのハイパスフィルタ処理(ローカット処理)を適用して得られた呼吸筋電図信号である。
【0033】
C7は、C4〜C6をベクトルマグニチュード演算して得られた合成マグニチュード信号である。C8は、C7に遮断周波数1Hzのローパスフィルタ処理を適用する高域遮断処理により抽出した呼吸波形である。
【0034】
(比較例1)
図4のC9は、C1〜C3と同時に、同一条件(感度、サンプリングレートなど)で記録されたCM5誘導の心電図信号である。C10はC9に対して遮断周波数120Hzのハイパスフィルタ処理(ローカット処理)を適用して得られた呼吸筋電図信号である。
【0035】
C11は、C10に絶対値化処理(各サンプルを2乗して平方根を算出する処理)を適用して得られた呼吸筋電図信号である。C12は、C11に遮断周波数1Hzのローパスフィルタ処理を適用する高域遮断処理により抽出した呼吸波形である。
【0036】
C8とC12との比較から明らかなように、両者は類似した波形を有しているが、本実施形態の方法で得られた呼吸信号は1つの誘導に基づいて得られた呼吸信号より振幅が2倍程度大きい。従って、SN比に優れ、呼吸状態(呼気時相および吸気時相)をより正確に判別することが可能である。
【0037】
(実施例2)
図5は、合成マグニチュード信号から呼吸波形を生成する方法の違いが呼吸波形に与える影響を示している。C7は実施例1と同様にして得られた合成マグニチュード信号である。C13は、C7に対して時間積分処理、具体的には時定数減衰積分(窓幅1秒(1000サンプル)、時定数τ=0.5秒)を適用して得られた積分信号である。C14は、C13に窓幅1秒のメディアンフィルタ処理を適用して平滑化した呼吸信号である。C15は
図4のC8と同様、C7に遮断周波数1Hzのローパスフィルタ処理を適用する高域遮断処理により抽出した呼吸信号である。
【0038】
C14とC15との比較から分かるように、高域遮断処理よりも、時間積分処理と平滑化処理との組み合わせを適用した場合の方が、質の高い呼吸信号が得られている。高域遮断処理を適用した場合には、
図5に上矢印で示している位置にアーチファクトが存在し、呼吸信号の波形が歪んでいる。このアーチファクトは、心電図信号の残渣である。
【0039】
時定数積分は、心電図信号に含まれるQRS部分やノイズのように、大きなレベルを有する短時間の信号(パルス状、スパイク状の信号)の影響を受けづらいという利点がある。従って、積分後の信号にスパイク状の信号は残存せず、積分後の信号に残った心電図信号成分は、平滑化処理により簡単に除去することができる。
【0040】
一方で高域遮断フィルタや単純な移動平均といった方法では、パルスもしくはスパイク状の信号の影響を受けやすく、十分に除去できないため、
図5で示したようなアーチファクトが残る。移動平均処理などの平滑化をさらに行っても、呼吸信号のダイナミックレンジが低下する一方、アーチファクトの除去効果は期待できない。
【0041】
以上説明したように本実施形態によれば、複数の心電図信号に基づいて、異なる方向における呼吸筋電図信号を抽出し、それらを合成した信号に基づいて呼吸信号を生成することにより、3次元的な運動である呼吸運動に伴う筋肉の活動電位を2次元もしくは3次元的に測定することができる。そのため、1つの方向における呼吸筋電図信号に基づいて呼吸信号を生成する場合よりも、精度がよく、SN比の高い呼吸信号を得ることができる。
【0042】
また、異なる方向における呼吸筋電図信号は一般的な心電図の測定にも使用できる誘導法で得られる心電図信号から抽出することができるため、ホルタ心電計による心電図の測定結果などをSASのスクリーニング検査に利用することが可能である。従って、被検者の負担も従来の簡易PSGと比較して大幅に軽減できる。
【0043】
(第2の実施形態)
上述のように、時間積分処理と平滑化処理との組み合わせは、呼吸波形に重畳する心電図信号、特にQRS区間やノイズのような大きなレベルを有する短時間の信号(パルス状またはスパイク状の信号)の除去において高域遮断処理よりも有利である反面、高域遮断処理よりも演算が複雑である。
本実施形態は、QRS区間やノイズのような大きなレベルを有する短時間の信号を精度良く除去するための、より簡便な方法を提供する。
【0044】
図6のフローチャートを参照して、本実施形態に係る心電図信号の解析処理動作について説明する。本実施形態の解析処理は、第1の実施形態と同様、
図1に示したホルタ心電計100で実施可能である。また、
図6において第1の実施形態と同様の処理を行う工程には同じ参照数字を付し、重複する説明を省略する。なお、
図6においてS102〜S104は並列処理するものとして記載しているが、順次処理してもよい。
【0045】
S102でCPU1は、呼吸筋電図信号を抽出するものと同じ心電図信号から、QRS信号を抽出する。CPU1は、各チャンネル(ここではX誘導、Y誘導、Z誘導)の心電図信号のそれぞれに対して例えば帯域通過処理を適用してチャンネルごとにQRS信号を抽出する。ここで、筋電図に影響されないQRS信号の最大周波数帯域は80Hz程度であるため、80Hz以上をカットするローパスフィルタ(またはハイカットフィルタ)か、80Hzを中心周波数とするバンドパスフィルタを用いて帯域通過処理を行うことができる。
【0046】
ただし、QRS信号は低周波成分が高周波成分よりも広い時間領域を占め、80Hz以上をカットすると、呼吸筋電図信号からQRS信号成分を除去する処理において、必要以上の帯域成分を除去することになるため、バンドパスフィルタを用いる方が高精度な処理が可能である。
【0047】
S104でCPU1は定数算出処理を行う。ここで算出する定数は、呼吸筋電図信号を抽出する際のフィルタ処理の通過帯域と、QRS信号を抽出する際のフィルタ処理の通過帯域の差による信号強度の差を補償するための定数である。定数算出処理の詳細については後述する。
【0048】
S105’でCPU1は、呼吸筋電図信号と同様にして、QRS信号にベクトルマグニチュード演算処理を適用し、合成マグニチュード信号を生成する。QRS信号から生成した合成マグニチュード信号をVM’(t)とする。
【0049】
S107’でCPU1は、呼吸筋電図信号から生成した合成マグニチュード信号VM(t)と、QRS信号から生成した合成マグニチュード信号をVM’(t)とから呼吸信号を生成し、処理を終了する。詳細は後述するが、CPU1は合成マグニチュード信号VM(t)とVM’(t)との差分信号に基づいて呼吸信号を生成する。
【0050】
図7(a)は、
図6のS104で行う定数算出処理の詳細を示すフローチャートである。なお、定数算出処理はチャンネルごとに実施する。
S301でCPU1は、心電図信号から、例えば特徴点の検出などの公知技術を用いてQRS区間を抽出し、RAM3に格納する。
【0051】
次にS303でCPU1は、QRS区間の信号における、第1の周波数f1と第2の周波数f2の信号強度p1,p2を検出する。CPU1は例えばFFTなどを用いてQRS区間の信号を周波数解析することにより、信号強度p1,p2を検出することができる。ここで、第1の周波数f1は呼吸筋電図信号の抽出に用いられる周波数、具体的には低域遮断処理(ハイパスフィルタ)の遮断周波数である。また、第2の周波数f2はQRS信号の抽出に用いられる周波数、具体的には高域遮断処理(ローパスフィルタ)の遮断周波数または帯域通過処理(バンドパスフィルタ)の中心周波数である。
【0052】
次にS305でCPU1は、信号強度p1,p2の比p1/p2を定数として算出し、処理を終了する。定数を適用することで、周波数f2で抽出したQRS信号の強度を、周波数f1で抽出した呼吸筋電図信号に含まれるQRS信号の強度に変換することができる。
【0053】
図7(b)は、
図6のS107’で行う呼吸信号生成処理の詳細を示すフローチャートであり、第1の実施形態と同様の処理を行う工程については
図3と同じ参照数字を付してある。
第1の実施形態では呼吸筋電図信号から生成した合成マグニチュード信号に対し、時間積分処理と平滑化処理の組み合わせによってQRS信号を除去した呼吸信号を生成していた。これに対し本実施形態では、呼吸筋電図信号から生成した合成マグニチュード信号VM(t)から、QRS信号から生成した合成マグニチュード信号をVM’(t)を減じることによって、呼吸筋電図信号に混入しているQRS波の成分を除去する。
【0054】
より具体的には、S200においてCPU1は、
VM(t)−VM’(t)×k
(k=p1/p2)
で表される減算処理を実行する。これにより、呼吸筋電図信号に混入しているQRS波の成分を除去(削減)することができる。
【0055】
(実施例3)
実施例1と同じ、双極XYZ誘導(サンプリングレート1KHz)の心電図信号を用い、本実施形態の方法で呼吸信号を得るまでの過程を、
図8を用いて説明する。
図8において、C1〜C3はそれぞれX誘導、Y誘導、Z誘導の心電図信号であり、C4〜C6はC1〜C3に対して遮断周波数120Hzの低域遮断処理(ローカット処理)を適用して得られた呼吸筋電図信号である。また、C17〜C19は、C1〜C3に対して中心周波数80Hz、帯域幅±20Hzの帯域通過処理を適用して得られたQRS信号である。
【0056】
C7は、C4〜C6をベクトルマグニチュード演算して得られた呼吸筋電図信号の合成マグニチュード信号、C20は、C17〜C19をベクトルマグニチュード演算して得られたQRS信号の合成マグニチュード信号である。C20は、C7とC20との差分信号(C7−C20×k)である。なお、ここではk=0.95である。
C22は、C21に遮断周波数1.5Hzのローパスフィルタ処理を適用する高域遮断処理により抽出した呼吸信号である。
C23は、C7に遮断周波数1.5Hzのローパスフィルタ処理を適用する高域遮断処理により抽出した呼吸信号であり、
図5におけるC15に相当する。
【0057】
C22とC23との比較から明らかなように、本実施形態の方法によれば、高域遮断処理よりも質の高い呼吸信号が得られていることが分かる。QRS信号の抽出処理と合成マグニチュード信号の生成処理は呼吸筋電図信号と同様に、また並列に実行可能である。そして、合成マグニチュード信号の減算によって呼吸信号を生成することができるため、時間積分処理より簡便に合成マグニチュード信号から呼吸信号を生成できる。
【0058】
(第2の実施形態の変形例)
第2の実施形態で説明したQRS波の除去方法は、1チャンネルの心電図信号に対して適用することも可能である。この場合、
図6のS105’におけるベクトルマグニチュード演算処理が1次元(絶対値化処理)となることを除き、第2の実施形態と同様に処理することができる。
【0059】
すなわち、CPU1は、1チャンネルの心電図信号に対し、
・高域遮断処理または帯域通過処理の適用によるQRS信号の抽出(S102)
・低域遮断処理(ローカット処理)の適用による呼吸筋電図信号の抽出(S103)
・QRS区間の信号の周波数解析に基づく定数kの算出(S104)
を実施する。
【0060】
そして、CPU1は、S105’で、QRS信号と、呼吸筋電図信号とのそれぞれに対し、1次元のベクトルマグニチュード演算処理(絶対値化処理)を適用する。ここで、呼吸筋電図信号をa(t)、QRS信号をb(t)とすると、呼吸心電図信号のマグニチュード信号VM(t)、QRS信号のマグニチュード信号VM’(t)は以下の様に求められる。
【数3】
【0061】
以後、CPU1は、第2の実施形態と同様に呼吸信号生成処理S107を実行する。すなわち、CPU1は
VM(t)−VM’(t)×k
(k=p1/p2)
で表される減算処理を実行して呼吸筋電図信号に混入しているQRS波の成分を除去(削減)した後、さらに高域遮断処理を適用して、呼吸信号を生成する。
【0062】
(実施例4)
CM5誘導(サンプリングレート1KHz)の心電図信号を用い、本変形例の方法で呼吸信号を得るまでの過程を、
図9を用いて説明する。
図9において、C30はCM5誘導の心電図信号であり、C31はC30に対して遮断周波数120Hzの低域遮断処理(ローカット処理)を適用して得られた呼吸筋電図信号である。また、C32は、C30に対して中心周波数80Hz、帯域幅±20Hzの帯域通過処理を適用して得られたQRS信号である。
【0063】
C33は、C31に絶対値化処理を適用して得られた呼吸筋電図信号のマグニチュード信号、C34は、C32に絶対値化処理を適用して得られたQRS信号のマグニチュード信号である。C35は、C33とC34との差分信号(C33−C34×k)である。なお、ここではk=0.25である。
C36は、C33に遮断周波数1.5Hzのローパスフィルタ処理を適用する高域遮断処理により抽出した呼吸信号である。
C37は、C35に遮断周波数1.5Hzのローパスフィルタ処理を適用する高域遮断処理により抽出した呼吸信号である。
【0064】
C36とC37との比較から明らかなように、本変形例の適用により、1つの心電図信号から抽出される呼吸信号に対しても、QRS成分を効果的に削減することができる。
【0065】
なお、本発明に係る心電図解析装置は、一般的に入手可能な、パーソナルコンピュータのような汎用情報処理装置に、上述した動作を実行させるプログラム(アプリケーションソフトウェア)として実現することもできる。従って、このようなプログラムおよび、プログラムを格納した記憶媒体(CD−ROM、DVD−ROM等の光学記録媒体や、磁気ディスクのような磁気記録媒体、半導体メモリカードなど)もまた本発明を構成する。