【実施例1】
【0023】
まず、本発明であるターゲット損耗検出機構を備えたスパッタ装置について説明する。
図1は、ターゲット損耗検出機構を備えたスパッタ装置を示す図である。
図2は、ターゲット損耗検出機構を備えたスパッタ装置で使用するターゲットを示す斜視図である。
【0024】
図1に示すように、スパッタ装置100は、スパッタリングを行うための容器であるチャンバ110、チャンバ110内を減圧するための真空ポンプ120、チャンバ110内に注入される希ガス130、チャンバ110内の希ガス130をプラズマ状態にすべく放電させるための電源140、スパッタリングの材料210としてチャンバ110内に設置されるターゲット200、材料210の薄膜を形成するためにチャンバ110内に載置される基板150等を有する。
【0025】
チャンバ110内にCuやAl等のターゲット200を取り付け、ターゲット200の反対側に半導体やガラス等の基板150を載置した上で、チャンバ110を密閉して真空ポンプ120で減圧することによりチャンバ110内を真空状態にする。チャンバ110内にAr等の希ガス130を導入し、DCやRF等の電源140によりターゲット200側を陰極として電圧を印加することで、希ガス130のプラズマ330を発生させ、イオン化した希ガス130をターゲット200に衝突させる。ターゲット200から弾き出されたCuやAl等の材料210が基板150に堆積されていき、薄膜が形成される。
【0026】
ターゲット200は、表面を基板150に対向させ、裏面をチャンバ110内に設けたバックプレート300に取り付ければ良い。バックプレート300は、ターゲット200をチャンバ110内に支持するだけでなく、スパッタされることで温度が上昇したターゲット200を冷却(水冷など)する手段を備える。なお、マグネトロンスパッタリングの場合は、複数のマグネット310も配置される。
【0027】
マグネトロンスパッタリングにおいては、N極のマグネット310とS極のマグネット310aとを同心円状に配置することにより放射状の磁界(磁場)が発生し、磁力線320に沿って移動する電子の周りにプラズマ330が発生する。プラズマ330における荷電粒子(電子と陽イオン)をターゲット200の近くに集めることにより、希ガス130の陽イオンを陰極であるターゲット200へ向けて加速させやすくするとともに、反対側にある基板150へのダメージを抑制させる。
【0028】
図2に示すように、マグネトロンスパッタリングにおけるターゲット200は、円環状のプラズマ330により材料210が削り取られていくので、円環状に溝が形成されたようなエロージョン領域220となる。長時間スパッタリングを継続してターゲット200の損耗が進むと、エロージョン領域220が表面から裏側まで円環状に貫通し、中央部分が円板状に抜け落ちることになる。
【0029】
また、プラズマ330は、励起された原子が安定の状態に戻る際にエネルギーを放出することにより発光する。プラズマ330の光は、エネルギー準位の差に対応した波長で放出されるため、分光して波長ごとのスペクトルを得ることで、元素を特定することが可能である。すなわち、希ガス130とスパッタされている材料210のスペクトルが得られる。
【0030】
スパッタ装置100は、スパッタリングによってターゲット200のエロージョン領域220の全部又は一部が貫通したことを、プラズマ330の光がターゲット200を通過したことを以って検出するターゲット損耗検出機構を備える。
【0031】
次に、本発明であるターゲット損耗検出機構について説明する。
図3は、ターゲット損耗検出機構の第1実施例について説明する図である。なお、(a)はターゲットが損耗する前の状態であり、左側の図はターゲットを縦にして裏側から見た背面図であり、右側の図は縦にしたターゲット及びバックプレートを側方から見た断面図である。また、(b)はターゲットが損耗した後の状態である。
【0032】
図3(a)に示すように、損耗検出機構400は、裏面に背面溝230を形成したターゲット200、ターゲット200の裏面を検出対象としてバックプレート300に取り付けられた光検出器410等の光検出手段などを有する。
【0033】
図3(b)に示すように、背面溝230は、エロージョン領域220と重なる部分が存在するように切削される。また、背面溝230は、ターゲット200の裏面をバックプレート300に接触させて取り付けたときに、その間隙に外部から光が侵入しないように、ターゲット200の裏面の外周側(側面側)に出ない範囲で切削される。
【0034】
ターゲット200に背面溝230がない場合、エロージョン領域220が裏面まで到達して損耗孔240が空いた時点で、バックプレート300までスパッタされて材料210以外の異物が基板150に付着するおそれが生じる。そこで、ターゲット200の表面側から損耗していくエロージョン領域220の深さが所定の位置まで到達したらスパッタリングを停止させる。そのため、背面溝230は、ターゲット200の裏面側から、スパッタリングを停止させるエロージョン領域の深さ位置まで切削する。
【0035】
ターゲットの厚さをT、背面溝230の深さをd(例えば、数10〜100μm)、スパッタレートをsとしたとき、スパッタリングを停止させる深さ位置は(T−d)となり、スパッタリングを開始してから(T−d)/sの時間が経過した後に損耗孔240が空く。この時点でプラズマ330はバックプレート300まで到達しておらず、先に届く損耗孔240を通過した光を検知して、バックプレート300がスパッタされる前にスパッタ装置100を停止させる。
【0036】
光検出器410は、バックプレート300側にプローブ420を埋め込み、ターゲット200に空いた損耗孔240を通過した光をプローブ420で捕集し、プローブ420から光ファイバ等の光伝送路430を介して入力させれば良い。そして、光検出器410にプラズマ330による強力な光が入力され、急峻なインパルス電圧(サージ電圧)が発生したら、その電気信号をスパッタ装置100の制御機構に伝達し、即座に電源140を遮断させれば良い。
【0037】
光検出器410は、光伝導効果や光起電力効果を利用して光などの電磁気的エネルギーを検出する光センサである。光検出器410としては、例えば、アバランシェ増倍により受光感度を向上させたフォトダイオード(APD)や、発光ダイオード(発光素子)とフォトトランジスタ(受光素子)により信号を伝達するフォトカプラ(スイッチ)などを使用すれば良い。なお、光検出器410は、少なくとも、光が有るか(1)無いか(0)の二値を検出できれば良い。
【0038】
ターゲット200の損耗孔240は、エロージョン領域220と背面溝230が重なった位置で先に貫通する。損耗孔240を通過した光は、背面溝230に拡がるので、光検出器410のプローブ420は、背面溝230が形成された範囲内に配置される。
【0039】
エロージョン領域220については、過去のスパッタリングにおけるターゲット200の状態や、配置したマグネット310の磁場強度分布などから推測することが可能である。例えば、マグネトロンスパッタリングの場合は、
図3(b)の点線で示すような円環状のエロージョン領域220となる。
【0040】
そのため、光検出器410のプローブ420は、推測したエロージョン領域220の範囲に合わせて配置されるのが好ましい。なお、ターゲット200に損耗孔240が空けば、背面溝230に入り込んだ光が検出されるが、損耗孔240とプローブ420の離れている分だけ検出時間が遅延することになる。
【0041】
背面溝230は、ターゲット200の縁部から側面側に出ない範囲で切削されるが、ターゲット200を後から加工しても良いし、予め背面溝230を有するようにターゲット200を成形しても良い。なお、
図3(b)に示すように、中央を通りターゲット200を縦断又は横断するような細長い形状の背面溝230にすれば、エロージョン領域220と重なりやすくなる。
【実施例3】
【0045】
図5は、ターゲット損耗検出機構の第3実施例について説明する図である。ターゲットに損耗孔が空いたことを検出する代わりに、予めターゲットに導光路を空けておき、導光路を通過したプラズマの光を分析することでターゲットの損耗を含むスパッタリングの状況を監視する。なお、(a)はターゲットに空ける導光路が直線状の場合であり、(b)は導光路が直線状ではない場合である。
図6(a)は、スパッタリングに伴うターゲット厚さと透過光強度の時間変化(全て規格化量)を示すグラフである。
【0046】
図5(a)に示すように、スパッタ監視機構600では、ターゲット200bの任意の位置に導光路610を貫通させる。導光路610は、直径0.1〜0.5mm程度の細い孔であり、例えば、プローブ420が取り付けられる位置に合わせてターゲット200bに空けられれば良い。すなわち、背面溝230の範囲内であって、エロージョン領域220と重なる位置が好ましい。
【0047】
プローブ420には、スパッタリングを開始してプラズマ330により発光した時点から光が入力される。光を分光器620で波長ごとに分析することにより、プラズマ330中の元素が特定される。例えば、開始直後は、Ar等の希ガス130の波長が現れ、スパッタリングが進むに連れてターゲット200から飛び出した材料210の波長も現れ、ターゲット200に損耗孔240が空いてバックプレート300等までスパッタされるとさらに異物(バックプレート300の構成元素)の波長も現れる。すなわち、ターゲット200の損耗状況を監視することが可能である。
【0048】
ここで、異物の波長の光を観測したときには、すでにプラズマ330が汚染され、同時にバックプレート300にダメージが発生していることになるため、好ましくない。より好ましくは、(1)導光路610からのプラズマ光の分析によって、ターゲット200の損耗の時間変化を連続的に監視し、バックプレート300にダメージが発生する手前でスパッタ源を停止できることである。さらには、(2)ターゲット200から放出され成膜に供されるターゲット材料210由来の粒子の密度の時間変化を連続的に監視できれば、結果として成膜レートを監視することになるので、品質管理のために一層好ましい。本発明によって上記(1)(2)が実現可能である。
【0049】
まず、本発明によって(1)導光路610からのプラズマ330の光の分析によって、ターゲット200損耗の時間変化を連続的に監視できることを示す。損耗によって時間tとともに短縮する導光路210の長さはターゲット200の厚さTに等しく、初期の厚さT
0とスパッタレートsを用いて、T(t)=T
0−stと表せる。また、孔の断面積は一定でSとする。ターゲット200の表面から垂直外向きの距離をx、プラズマ330中の電子密度の分布をn
e(x)、電子の速さをv
eとする。分析対象はスパッタリングで多用されるArガス(原子密度n
0)の原子スペクトル光で、その波長をλ
ij、周波数をν
ij(=1/λ
ij)とする。ここで添え字のiは、Ar原子が電子衝突で励起される励起準位、jは、光(波長λ
ij)を放出して脱励起する下準位である。r
ijは、分岐比(準位iからjに遷移する割合)を表す。Ar原子の励起断面積をσ
i、プランク定数をh=6.626×10
−34Jsと表すと、光検出器410に到達するスペクトル光の強度I[W]は、(1)式で表される。
【0050】
ここで、l(エル)は、ドーナツ状のプラズマ330の半値幅、<n
e>は、半値幅内の平均電子密度であり、∫n
e(x)dx(積分範囲:0〜∞)=<n
e>lの関係にある。<σ
iv
e>は、σ
iv
eをプラズマ330中の電子の速度分布で平均することを表す。なお、プラズマ330中の電子は熱運動により様々な速度v
eを持つため、統計平均値を求める必要がある。
【0051】
(1)式において、スパッタ電力を一定に保てば、係数hν
ij<σ
iv
e>r
ijn
0<n
e>l(S/T
0)
2は一定値とみなすことができるので、これをKとすると、(1)式は(2)式のように表せる。
【0052】
ここで、t
F=T
0/sは、損耗によってターゲット200に穴が空くまでの時間を表す。スパッタを開始したt=0における光強度をI
0とすれば、(2)式は(3)式に変形できる。(3)式を計算すると
図6(a)のようになる。
【0053】
図6(a)より、規格化損耗時間t/t
F=0.5のとき、ターゲット厚さは初期値の半分になり、光強度は4倍に増加する。また、t/t
F=0.8では、ターゲット厚さは20%まで減少し、光強度は25倍に増加する。すわなち、光強度の変化を観測すれば、(3)式に基づきターゲット200の厚さの時間変化を監視できることになる。光強度が4倍になった時、ターゲット厚さは初期値の半分であり、25倍になった時には、厚さは20%まで減少している。ここで、ターゲット200に背面溝230を設ければ、バックプレート300がスパッタされる前に放電を停止させることができる。
【0054】
ここで、(3)式及び
図6(a)が正しい範囲は限られており、導光路610の長さT(すなわち、ターゲット200の厚さ)が極端に小さい場合には修正が必要になる。プローブ420の受光立体角をΩ
D=2π(1−cosθ
max)(θ
maxは、プローブ420の中心線から測った最大受光角)、導光路610の長さTと断面積Sで決まる立体角をΩ=S/T
2=πr
2/T
2(rは、導光路610の半径)としたとき、Tが非常に小さな値となって条件Ω>Ω
Dを満たすと、(3)式の規格化透過光強度I/I
0はTに依らず一定値になる。条件Ω>Ω
Dを導光路610の長さと半径の比T/rを用いて表すと(4)式になる。
【0055】
(4)式を計算すると、
図6(b)のようになる。通常のガラスファイバーではθmax≒10〜20度であるので、T/r<3〜5となり、例として、導光路610の半径を0.1mm(直径0.2mm)としたときには、T<0.3〜0.5mmとなる。よって、初期ターゲット厚さがT
0=3mmの場合には、約1/10の厚さ(0.3〜0.5mm)に損耗するまで、(3)式によってターゲット厚さの時間変化を監視することができる。
【0056】
次に、本発明によって(2)ターゲット材料210由来の粒子の密度の時間変化を連続的に監視できることを示す。まず、Ar原子からのスペクトル光強度は(1)式で表される。この光強度を改めてI
Ar[W]と表現する。次に、スパッタ粒子、例として、Cuからのスペクトル光強度は(5)式で表せる。
【0057】
(5)式において、n
Cuは、ターゲット200から放出されたCu原子の密度であるが、マグネトロンスパッタリングにおいては、Cu原子はターゲット表面からほぼ垂直に放出され、かつプラズマ領域ではAr原子との間でほぼ無衝突になるので、n
Cuは、空間的に一様と近似できる。I
CuとI
Arの比を取ると、(6)式になる。
【0058】
ここで、比ν
pq/ν
ijおよびr
pq/r
ijは、原子構造にのみ依存する定数である。励起断面積σ
p、σ
iは、電子速度v
eの関数であるが、それぞれの励起エネルギーE
p、E
iがほぼ等しくなるように準位p、iを選べば、σ
p(v
e)とσ
i(v
e)が相似形になるので、比<σ
pv
e>/<σ
iv
e>も一定値となる。よって、一定値Cを用いて、(6)式は(7)式のように変形できる。
【0059】
さらに、7(式)は、(8)式のように変形できる。
【0060】
(8)式において、Ar原子密度n
0は、既知である(容器に導入するArガスの気圧から計算できる)。よって、ArとCuのスペクトル光強度を観測し、比を計算すれば、Cu原子密度の時間変化を連続監視できることになる。すなわち、成膜中のCu堆積レートを光学的に非侵襲で監視できる。
【0061】
分光器620は、光の電磁波スペクトルを測定する機器であり、光をプリズム等で波長ごとに分散させるものや、光の干渉を利用して分光するもの等がある。また、光電効果により光エネルギーを電気エネルギーの変換する光電子増倍管(PMT)などの高感度光検出器を用いても良い。
【0062】
導光路610は、ターゲット200bの面積に対して微小ではあるが、プラズマ330の荷電粒子が通過する可能性がない訳ではない。そのため、
図5(a)に示すように、導光路610が直線状の場合は、希ガス130と材料210以外の異物が検出される可能性もある。
【0063】
そのため、
図5(b)に示すように、導光路610aを折り曲がった状態にするなど、プラズマ330が通り難い形状の通路にすることにより、直進してきたプラズマ330の荷電粒子が導光路610aの壁面に当たってそれ以上奥に進むのを抑制する。なお、導光路610aが折れ曲がっていても、光がプローブ420に入力されるように、回折可能な形状にすれば良い。
【0064】
以上、本発明の実施例を述べたが、これらに限定されるものではない。例えば、実施例2に示すシート500を介在させることと、第3実施例に示す導光路610を空けて光を分析することを組み合わせても良い。
【0065】
また、光検出器410は、ターゲット200のエロージョン領域220が背面溝230に達する直前の貫通していない損耗孔240を透過するプラズマ330の光を検出しても良い。光検出器410は、透過する光の強度を検出し、予め設定した閾値以上になったときにスパッタリングを停止させれば良い。