特許第6653916号(P6653916)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6653916
(24)【登録日】2020年1月31日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】位相検出回路及び弾性表面波センサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/02 20060101AFI20200217BHJP
   H04L 27/38 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
   G01N29/02 501
   H04L27/38
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-50894(P2016-50894)
(22)【出願日】2016年3月15日
(65)【公開番号】特開2017-166905(P2017-166905A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 治
【審査官】 村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−245011(JP,A)
【文献】 特開平03−136638(JP,A)
【文献】 特開2015−087271(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0327644(US,A1)
【文献】 特開2012−049768(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/122098(WO,A1)
【文献】 特開2008−258741(JP,A)
【文献】 特開2011−055271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
H03H 9/68
H04L 27/00−27/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IチャネルとQチャネルとの2チャネルの入力信号の特性が、I軸及びQ軸の座標系に表現されるIQコンスタレーション形状を補正することで位相検出特性を改善する位相検出回路であって、
前記Iチャネルから入力され、A/D変換されたIチャネル信号を2つ以上のIチャネルパラレル信号に変換する第1のシリアルパラレル変換部と、
前記Qチャネルから入力され、A/D変換されたQチャネル信号を2つ以上のQチャネルパラレル信号に変換する第2のシリアルパラレル変換部と、
前記2つ以上のIチャネルパラレル信号及び前記2つ以上のQチャネルパラレル信号を、それぞれ所定の位相角度だけシフトさせる1つ以上の位相シフト部と、
前記位相シフト部によりシフトされた1つ以上の前記Iチャネルパラレル信号、及び前記位相シフト部によりシフトされていない前記Iチャネルパラレル信号を合成する第1の合成部と、
前記位相シフト部によりシフトされた1つ以上の前記Qチャネルパラレル信号、及び前記位相シフト部によりシフトされていない前記Qチャネルパラレル信号を合成する第2の合成部と、
を備えたことを特徴とする位相検出回路。
【請求項2】
入力信号が直交検波されてIチャネルとQチャネルとの2チャネルに変換された信号の特性が、I軸及びQ軸の座標系に表現されるIQコンスタレーション形状を補正することで位相検出特性を改善する位相検出回路であって、
A/D変換された前記入力信号を2つ以上のパラレル信号に変換するシリアルパラレル変換部と、
前記2つ以上のパラレル信号を直交検波して2つ以上のIチャネルパラレル信号及び2つ以上のQチャネルパラレル信号に変換する複数の直交検波部と、
前記2つ以上のIチャネルパラレル信号及び前記2つ以上のQチャネルパラレル信号を、それぞれ所定の位相角度だけシフトさせる1つ以上の位相シフト部と、
前記位相シフト部によりシフトされた1つ以上の前記Iチャネルパラレル信号、及び前記位相シフト部によりシフトされていない前記Iチャネルパラレル信号を合成する第1の合成部と、
前記位相シフト部によりシフトされた1つ以上の前記Qチャネルパラレル信号、及び前記位相シフト部によりシフトされていない前記Qチャネルパラレル信号を合成する第2の合成部と、
を備えたことを特徴とする位相検出回路。
【請求項3】
前記直交検波部が出力するIチャネルパラレル信号及びQチャネルパラレル信号の出力周波数は、前記入力信号のサンプルレートの1/m(mは整数)である、
ことを特徴とする請求項2に記載の位相検出回路。
【請求項4】
所定の周波数の連続信号を出力する信号発生器と、
前記連続信号を断続したバースト信号に変換して出力するバースト回路と、
前記バースト信号の入力により弾性表面波を発生させ、測定対象物が滴下され、前記弾性表面波を伝搬させて電気信号に変換して測定信号を出力する弾性表面波素子と、
前記測定信号から前記測定対象物の特性を算出する受信回路と、を備え、
前記受信回路は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の位相検出回路を備えた、
ことを特徴とする弾性表面波センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)センサ等の出力信号のIQコンスタレーション形状を補正することで位相検出特性を改善する位相検出回路及び弾性表面波センサに関する。
【背景技術】
【0002】
SAWセンサは、水晶などの圧電性基板の表面上に、櫛型電極(InterDigital Transducer:IDT)及び弾性表面波素子が配置されたセンサであり、例えば、液体の濃度、粘性率、導電率、誘電率等の特性を測定するために用いられるものである。すなわち、対象物である液体をSAWセンサの弾性表面波素子に滴下し、SAWセンサに入力信号を入力して、SAWセンサからの出力信号の振幅および位相を検出することで、液体の特性を測定する。
【0003】
このようなSAWセンサでは、ベースバンド信号がバースト回路にてバースト信号に変換されてSAWセンサに入力され、SAWセンサから出力された信号に対して、受信回路にてアナログ/デジタル(A/D)変換を行い、その後に直交検波されて2チャネルの信号として出力される位相検出回路が用いられている。
【0004】
例えば、図4に示す位相検出回路100は、入力されたRF信号をローカル信号の周波数に従って直交検波を行う直交検波器101と、Iチャネル信号及びQチャネル信号に対して所定の周波数帯域の信号を通過させるフィルタ102,103と、Iチャネル信号及びQチャネル信号のアナログ/デジタル変換を行うA/D変換器104,105とを備えている。この位相検出回路100では、SAWセンサから出力されたRF信号が直交検波され、所定の周波数帯域の信号のみ通過されたIチャネル信号、Qチャネル信号がそれぞれA/D変換され、出力されている。
【0005】
また、図5に示す位相検出回路200は、入力されたRF信号とローカル信号とに対して乗算処理を行うミキサ201と、所定の周波数帯域の信号を通過させるフィルタ202と、入力信号のアナログ/デジタル変換を行うA/D変換器203と、A/D変換された信号を直交検波する直交検波回路204とを備えている。この位相検出回路200では、SAWセンサから出力されたRF信号が乗算処理により差分が検出され、所定の周波数帯域の信号のみ通過された入力信号がA/D変換され、変換後の信号が直交検波されてIチャネルとQチャネルとの2チャネルの出力信号としてそれぞれ出力されている。
【0006】
ここで、このような位相検出回路100,200のA/D変換におけるサンプルレートは、通常、入力信号の2倍以上必要とされている。しかし、サンプルレートが高くなると回路構成が複雑になり、低消費電力化及び小型化が出来なくなる。そのため、アンダーサンプリングすることで出力信号の周波数よりも低いサンプルレートでデジタル変換を行うことが可能な弾性表面波センサの特性測定装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
この弾性表面波センサの特性測定装置では、アンダーサンプリングを行う際に、直交検波回路の出力周波数がサンプルレートの1/4に設定されている。すなわち、図5において、直交検波回路204の出力周波数がfs/4になるように構成されている。この直交検波回路204は、一定周期ごとに出力される制御信号に従って、位相が0°の場合に正の同相成分に、90°の場合に正の直交成分に、180°の場合に負の同相成分に、270°の場合に負の直交成分にそれぞれ分け、それぞれの制御信号のときの出力値を用いて直交検波を行うものである。これにより、演算精度の低下を招くことなく数値制御発信器や乗算器を省略することが可能になり、簡易な構成の直交検波回路を実現するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015−087271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、図4及び図5に示すような位相検出回路100,200では、例えば、図6に示すようなI軸とQ軸とを有する座標系において、Iチャネル信号がI軸に、Qチャネル信号がQ軸にそれぞれ表現されるIQコンスタレーションL10のように、45°の箇所と225°の箇所において強くなり、135°の箇所と315°の箇所において弱くなり、全体として斜めに偏りのある楕円形の形状に出力されることがある。また、図7に示すようなIQコンスタレーションL20のように、90°の箇所と270°の箇所において強くなり、0°の箇所と180°の箇所において弱くなり、全体として縦方向に偏りのある楕円形の形状に出力されることがある。これらのようなIQコンスタレーション形状の歪みは、例えば、直交度誤差、IQゲインアンバランス、及びDCオフセット等の劣化要因によるものである。
【0010】
そこで本発明は、上述のようなIQコンスタレーション形状の歪みを補正することにより、位相検出特性を改善する位相検出回路及び弾性表面波センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、IチャネルとQチャネルとの2チャネルの入力信号の特性が、I軸及びQ軸の座標系に表現されるIQコンスタレーション形状を補正することで位相検出特性を改善する位相検出回路であって、前記Iチャネルから入力され、A/D変換されたIチャネル信号を2つ以上のIチャネルパラレル信号に変換する第1のシリアルパラレル変換部と、前記Qチャネルから入力され、A/D変換されたQチャネル信号を2つ以上のQチャネルパラレル信号に変換する第2のシリアルパラレル変換部と、前記2つ以上のIチャネルパラレル信号及び前記2つ以上のQチャネルパラレル信号を、それぞれ所定の位相角度だけシフトさせる1つ以上の位相シフト部と、前記位相シフト部によりシフトされた1つ以上の前記Iチャネルパラレル信号、及び前記位相シフト部によりシフトされていない前記Iチャネルパラレル信号を合成する第1の合成部と、前記位相シフト部によりシフトされた1つ以上の前記Qチャネルパラレル信号、及び前記位相シフト部によりシフトされていない前記Qチャネルパラレル信号を合成する第2の合成部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、入力信号が直交検波されてIチャネルとQチャネルとの2チャネルに変換された信号の特性が、I軸及びQ軸の座標系に表現されるIQコンスタレーション形状を補正することで位相検出特性を改善する位相検出回路であって、A/D変換された前記入力信号を2つ以上のパラレル信号に変換するシリアルパラレル変換部と、前記2つ以上のパラレル信号を直交検波して2つ以上のIチャネルパラレル信号及び2つ以上のQチャネルパラレル信号に変換する複数の直交検波部と、前記2つ以上のIチャネルパラレル信号及び前記2つ以上のQチャネルパラレル信号を、それぞれ所定の位相角度だけシフトさせる1つ以上の位相シフト部と、前記位相シフト部によりシフトされた1つ以上の前記Iチャネルパラレル信号、及び前記位相シフト部によりシフトされていない前記Iチャネルパラレル信号を合成する第1の合成部と、前記位相シフト部によりシフトされた1つ以上の前記Qチャネルパラレル信号、及び前記位相シフト部によりシフトされていない前記Qチャネルパラレル信号を合成する第2の合成部と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の位相検出回路において、前記直交検波部が出力するIチャネルパラレル信号及びQチャネルパラレル信号の出力周波数は、前記入力信号のサンプルレートの1/m(mは整数)である、ことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、所定の周波数の連続信号を出力する信号発生器と、前記連続信号を断続したバースト信号に変換して出力するバースト回路と、前記バースト信号の入力により弾性表面波を発生させ、測定対象物が滴下され、前記弾性表面波を伝搬させて電気信号に変換して測定信号を出力する弾性表面波素子と、前記測定信号から前記測定対象物の特性を算出する受信回路と、を備え、前記受信回路は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の位相検出回路を備えた、ことを特徴とする弾性表面波センサである。
【0015】
本願発明者は、上述の位相検出回路のシミュレーション解析及び実験によって、入力信号を2つ以上のパラレル信号に変換し、所定の位相角度だけシフトし、位相角度がシフトされた1つ以上の入力信号とシフトされていない入力信号とを合成することにより、IQコンスタレーション形状の歪みを補正することで位相検出特性を改善することが可能であることを確認した。
【発明の効果】
【0016】
請求項1、及び請求項2に記載の発明によれば、シリアルパラレル変換部により入力信号が2つ以上の信号に変換され、1つ以上の位相シフト部により所定の位相角度だけシフトされ、位相角度がシフトされた1つ以上の入力信号とシフトされていない入力信号とが第1の合成部及び第2の合成部により合成される。そのため、信号の偏りが均一化されてIQコンスタレーション形状の歪みが補正されることにより、位相検出特性を改善することが可能になる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、例えば、0°〜360°の位相内において、バースト回路にて位相が0°、(360/m)°、2*(360/m)°、・・・、(m−1)*(360/m)°(mは整数)のときにバースト信号を送信し、受信回路にてm個のバースト信号を1セットにして直交検波を行い、または1つのバースト信号の中で(360/m)°ごとにサンプリングを行って直交検波を行ったり、1つのバースト信号の中で任意の周期ごとに0°、(360/m)°、2*(360/m)°、・・・、(m−1)*(360/m)°のサンプリングを行って直交検波を行ったりすることで、最終的に位相を算出することにより、出力周波数をサンプルレートの1/mにし、演算精度の低下を招くことなく数値制御発信器や乗算器を省略することが可能になるので、簡易な構成にてIQコンスタレーション形状の歪みが補正することが可能になる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、入力信号のIQコンスタレーション形状の歪みを補正することで位相検出特性を改善することが可能になるので、精度の高い測定を行える弾性表面波センサを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の実施の形態1に係る弾性表面波センサ1の概略を示す構成図である。
図2図1の位相検出回路61として使用される位相検出回路10を示す構成図(a)、及び出力信号のIQコンスタレーションL1を示すグラフ(b)である。
図3】この発明の実施の形態2に係る、図1の位相検出回路61として使用される位相検出回路20を示す構成図(a)、及び出力信号のIQコンスタレーションL2を示すグラフ(b)である。
図4】従来例に係る位相検出回路100を示す構成図である。
図5】従来例に係る位相検出回路200を示す構成図である。
図6】従来例に係る出力信号のIQコンスタレーションL10を示すグラフである。
図7】従来例に係る出力信号のIQコンスタレーションL20を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0021】
(実施の形態1)
この発明の実施の形態1に係る弾性表面波センサ1は、SAWを利用して、例えば液体の濃度、粘性率、導電率、誘電率等の特性を測定するために使用される装置であり、測定対象物である液体を滴下し、入力信号を入力して出力信号の振幅および位相を検出することで、液体の特性を測定するセンサである。このような弾性表面波センサ1は、図1に示すように、主として信号発生器2と、増幅器3と、バースト回路4と、弾性表面波素子5と、受信回路6とを備えている。
【0022】
信号発生器2は、正弦波の高周波信号のように所定周波数の連続する信号を発生し、この信号を電気信号として出力する装置である。増幅器3は、信号発生器2からの電気信号を増幅して出力する装置であり、信号発生器2の出力方向に接続されている。バースト回路4は、増幅器3から電気信号を受け取ると、連続する電気信号を断続した電気信号に変換し、バースト信号として出力する回路であり、増幅器3の出力方向に接続されている。
【0023】
弾性表面波素子5は、バースト回路4からバースト信号が入力されるとSAWが発生し、SAWの伝搬路に液状の検体を滴下するとSAWの表面波速度や位相が変化するので、この値を検出することで検体の抗原の濃度等を測定することが可能な装置である。このような弾性表面波素子5は、2つのIDT及び伝搬路を備え、バースト回路4の出力方向に接続されている。
【0024】
受信回路6は、弾性表面波素子5から出力された、正弦波の高周波信号のような所定周波数の連続する測定信号から、表面波速度の速度変化や位相の変化を検出し、液体の濃度、粘性率、導電率、誘電率等の特性を算出する装置である。この受信回路6は、位相検出回路61を有している。位相検出回路61は、入力信号に対してA/D変換を行い、入力信号を2つ以上の信号に変換して所定の位相角度だけシフトし、2つ以上の信号を合成して出力する回路である。
【0025】
このような位相検出回路61として、例えば、図2(a)に示す位相検出回路10が使用される。この位相検出回路10は、SAWセンサから出力されたRF信号を直交検波し、フィルタリング及びA/D変換、2つ以上の信号への変換、所定の位相角度のシフトを行い、それぞれ合成してIチャネルとQチャネルとの2チャネル信号を出力する回路であり、主として直交検波器11と、フィルタ121,122と、A/D変換器131,132と、シリアルパラレル(S/P)変換器(第1のシリアルパラレル変換部)141及びS/P変換器(第2のシリアルパラレル変換部)142と、位相シフト回路(位相シフト部)152,・・・,15n(nは整数)と、合成回路(第1の合成部)161と、合成回路(第2の合成部)162と、乗算器171,172とを備えている。
【0026】
直交検波器11は、弾性表面波素子5から出力されたRF信号をローカル信号のサンプルレートに従って直交検波して、IチャネルとQチャネルとの2チャネルからなる複素ベースバンド信号に変換する回路である。フィルタ121,122は、Iチャネル信号及びQチャネル信号に対して所定の周波数帯域の信号のみ通過させる回路であり、直交検波器11の出力側に、フィルタ121にはIチャネル信号が入力され、フィルタ122にはQチャネル信号が入力されるように配置されている。
【0027】
A/D変換器131,132は、フィルタ121,122から出力された出力信号を、オーバーサンプリングして所定のサンプルレートでデジタル信号に変換するアナログデジタル変換器であり、A/D変換器131にはIチャネル信号が入力され、A/D変換器132にはQチャネル信号が入力されるように配置されている。S/P変換器141,142は、1つのシリアル信号を複数のパラレル信号に変換するシリアルパラレル変換器である。S/P変換器141は、A/D変換器131の出力側に配置され、Iチャネル信号が入力されて2つ以上のIチャネルパラレル信号が出力する装置である。S/P変換器142は、A/D変換器132の出力側に配置され、Qチャネル信号が入力されて2つ以上のQチャネルパラレル信号が出力する装置である。
【0028】
位相シフト回路152,・・・,15nは、入力された信号を所定の位相角度、例えば、90°だけシフトする回路であり、S/P変換器141,142の出力側に所定の整数n個配置されている。この所定の位相角度は、後述するように、出力されるIQコンスタレーション形状の歪みにより決定される。この位相シフト回路152,・・・,15nは、S/P変換器141が出力する2つ以上のIチャネルパラレル信号のうちの1信号と、S/P変換器142が出力する2つ以上のQチャネルパラレル信号のうちの1信号とがそれぞれ入力されるように配置されている。
【0029】
合成回路161,162は、入力された複数の信号を合成する回路である。合成回路161は、S/P変換器141及び位相シフト回路152,・・・,15nの出力側に配置され、S/P変換器141から出力されたIチャネルパラレル信号のうちの1信号と、位相シフト回路152,・・・,15nからそれぞれ出力されたIチャネルパラレル信号とが入力されて合成されたIチャネル信号を出力する装置である。合成回路162は、S/P変換器142及び位相シフト回路152,・・・,15nの出力側に配置され、S/P変換器142から出力されたQチャネルパラレル信号のうちの1信号と、位相シフト回路152,・・・,15nからそれぞれ出力されたQチャネルパラレル信号とが入力されて合成されたQチャネル信号を出力する装置である。
【0030】
乗算器171,172は、入力された信号の出力を所定の割合(例えば、1/n)で減少させる装置である。乗算器171は、合成回路161の出力側に配置されて合成回路161から出力されたIチャネル信号を1/nに減少させる装置である。乗算器172は、合成回路162の出力側に配置されて合成回路162から出力されたQチャネル信号を1/nに減少させる装置である。なお、この乗算器171,172は必須の構成ではなく、合成回路161,162から出力される合成されたIチャネル信号及びQチャネル信号で問題なければ、なくても良い。
【0031】
次に、この位相検出回路10の作用等について説明する。
【0032】
本願発明者は、上述の位相検出回路10のシミュレーション解析及び実験によって、入力されたIチャネル信号及びQチャネル信号を2つ以上のIチャネルパラレル信号及びQチャネルパラレル信号に変換し、所定の位相角度、例えば90°だけシフトし、位相角度がシフトされた1つ以上のIチャネルパラレル信号及びQチャネルパラレル信号とシフトされていないIチャネルパラレル信号及びQチャネルパラレル信号とをそれぞれ合成することにより、IQコンスタレーション形状の歪みを補正することで位相検出特性を改善することが可能であることを確認した。この結果について、図2(b)を用いて説明する。
【0033】
例えば、図6に示すIQコンスタレーションL10は、45°の箇所と225°の箇所において強くなり、135°の箇所と315°の箇所において弱くなり、全体として右上、左下方向に偏りのある楕円形の形状を有している。このようなIQコンスタレーションL10は、45°の箇所と225°の箇所において弱くなり、135°の箇所と315°の箇所において強くなり、全体として左上、右下方向に偏りのある楕円形の形状の信号と合成することにより、全体として略円形になると考えられる。そこで、図2(a)に示す位相検出回路10のように、S/P変換器141,142を備えることで、入力信号が2つ以上の信号に変換され、位相シフト回路152,・・・,15nを備えることで、45°の箇所と225°の箇所において強くなっている信号と、位相が90°シフトされて45°の箇所と225°の箇所において弱くなっている信号とが出力され、これらの信号が合成回路161,162によって合成されることにより、全体として均一な強さとなり、図2(b)に示すIQコンスタレーションL1のように、略円形に出力されることになる。
【0034】
また、図7に示すIQコンスタレーションL20は、90°の箇所と270°の箇所において強くなり、0°の箇所と180°の箇所において弱くなり、全体として縦方向に偏りのある楕円形の形状を有している。このようなIQコンスタレーションL20は、90°の箇所と270°の箇所において弱くなり、0°の箇所と180°の箇所において強くなり、全体として横方向に偏りのある楕円形の形状の信号と合成することにより、全体として略円形になると考えられる。そこで、図2(a)に示す位相検出回路10のように、S/P変換器141,142を備えることで、入力信号が2つ以上の信号に変換され、位相シフト回路152,・・・,15nを備えることで、90°の箇所と270°の箇所において強くなっている信号と、位相が90°シフトされて90°の箇所と270°の箇所において弱くなっている信号とが出力され、これらの信号が合成回路161,162によって合成されることにより、全体として均一な強さとなり、図2(b)に示すIQコンスタレーションL1のように、略円形に出力されることになる。
【0035】
以上のように、この位相検出回路10によれば、S/P変換器141,142によって入力信号が2つ以上の信号に変換され、位相シフト回路152,・・・,15nによって、所定の位相角度、例えば45°の箇所と225°の箇所において強くなっている信号と、位相がシフトされて45°の箇所と225°の箇所において弱くなっている信号とが出力され、これらの信号が合成回路161,162によって合成され、全体として均一な強さとなり、IQコンスタレーションL1のように、略円形の形状に出力される。これにより、IQコンスタレーションL10,L20のような偏りをIQコンスタレーションL1のように補正することが可能になるので、位相検出特性を改善することが可能になる。
【0036】
また、このような位相検出回路10を備えることにより、弾性表面波センサ1は、精度の高い測定を行うことが可能になる。
【0037】
(実施の形態2)
この発明の実施の形態2に係る弾性表面波センサ1は、位相検出回路61として、例えば、図3(a)に示す位相検出回路20が使用される点において、発明の実施の形態1と異なる。この位相検出回路20は、SAWセンサから出力されたRF信号を乗算処理、A/D変換、2つ以上の信号への変換、直交検波、所定の位相角度だけシフトし、それぞれ合成してIチャネルとQチャネルとの2チャネル信号を出力する回路であり、主としてミキサ21と、フィルタ22と、A/D変換器23と、S/P変換器(シリアルパラレル変換部)24と、直交検波器(直交検波部)251,252,・・・,25nと、位相シフト回路(位相シフト部)262,・・・,26nと、合成回路(第1の合成部)271と、合成回路(第2の合成部)272と、乗算器281,282とを備えている。
【0038】
ミキサ21は、弾性表面波素子5から出力されたRF信号とローカル信号とに対して乗算処理を行い差分を検出する回路である。フィルタ22は、検出された信号に対して所定の周波数帯域の信号のみ通過させる回路であり、ミキサ21の出力側に配置されている。
【0039】
A/D変換器23は、フィルタ22から出力された出力信号を、オーバーサンプリングまたはアンダーサンプリングして所定のサンプルレートでデジタル信号に変換するアナログデジタル変換器であり、フィルタ22の出力側に配置されている。S/P変換器24は、1つのシリアル信号を複数のパラレル信号に変換するシリアルパラレル変換器であり、A/D変換器23の出力側に配置され、A/D変換された入力信号が入力されて2つ以上のパラレル信号に変換するシリアルパラレル変換器である。直交検波器251,252,・・・,25nは、入力信号を直交検波してIチャネル信号とQチャネル信号に変換する装置であり、S/P変換器24の出力側に所定の整数n個配置され、S/P変換器24から出力された2つ以上のパラレル信号がそれぞれ入力され、2つ以上のIチャネルパラレル信号及び2つ以上のQチャネルパラレル信号がそれぞれ出力する装置である。
【0040】
なお、この直交検波器251,252,・・・,25nは、直交検波回路の出力周波数がサンプルレートと同一のfsになっているが、前述のように、直交検波回路の出力周波数がサンプルレートの1/m、すなわちfs/m(mは整数)になるように構成しても良い。これは、例えば、0°〜360°の位相内において、図1に示すバースト回路4にて位相が0°、(360/m)°、2*(360/m)°、・・・、(m−1)*(360/m)°のときにバースト信号を送信し、直交検波器251,252,・・・,25nにてm個のバースト信号を1セットにして直交検波を行い、最終的に位相を算出することにより行われる。具体的には、例えば、m=4にし、0°〜360°の位相内において、バースト回路4にて位相が0°、90°、180°、270°のときにバースト信号を送信し、直交検波器251,252,・・・,25nにて4個のバースト信号を1セットにして直交検波を行う。なお、これ以外に、1つのバースト信号の中で(360/m)°ごとにサンプリングを行って直交検波を行っても良く、さらに、1つのバースト信号の中で任意の周期ごとに0°、(360/m)°、2*(360/m)°、・・・、(m−1)*(360/m)°のサンプリングを行って直交検波を行っても良い。これにより、演算精度の低下を招くことなく数値制御発信器や乗算器を省略することが可能になり、簡易な構成にてIQコンスタレーション形状の歪みが補正することが可能になる。
【0041】
位相シフト回路262,・・・,26nは、入力された信号を所定の位相角度、例えば90°だけシフトする回路であり、直交検波器252,・・・,25nの出力側に所定の整数(n−1)個配置されている。この所定の位相角度は、後述するように、出力されるIQコンスタレーション形状の歪みにより決定される。この位相シフト回路262,・・・,26nは、直交検波器252,・・・,25nが出力する2つ以上のIチャネルパラレル信号のうちの1信号と、2つ以上のQチャネルパラレル信号のうちの1信号とがそれぞれ入力されるように配置されている。
【0042】
合成回路271,272は、入力された複数の信号を合成する装置である。合成回路271は、直交検波器251及び位相シフト回路262,・・・,26nの出力側に配置され、直交検波器251から出力されたIチャネルパラレル信号と、位相シフト回路262,・・・,26nからそれぞれ出力されたIチャネルパラレル信号とが入力されて合成されたIチャネル信号を出力する装置である。合成回路272は、直交検波器251及び位相シフト回路262,・・・,26nの出力側に配置され、直交検波器251から出力されたQチャネルパラレル信号と、位相シフト回路262,・・・,26nからそれぞれ出力されたQチャネルパラレル信号とが入力されて合成されたQチャネル信号を出力する装置である。
【0043】
乗算器281,282は、入力された信号の出力を所定の割合(例えば、1/n)で減少させる装置である。乗算器281は、合成回路271の出力側に配置されて合成回路271から出力されたIチャネル信号を1/nに減少させる装置である。乗算器282は、合成回路272の出力側に配置されて合成回路272から出力されたQチャネル信号を1/nに減少させる装置である。なお、この乗算器281,282は必須の構成ではなく、実施の形態1の乗算器171,172と同様に、合成回路271,272から出力される合成されたIチャネル信号及びQチャネル信号で問題なければ、なくても良い。
【0044】
この位相検出回路20の作用等は、実施の形態1に係る位相検出回路10と同様であり、図3(b)に示すIQコンスタレーションL2のように、略円形に出力されることになる。
【0045】
以上のように、この位相検出回路20によれば、S/P変換器24によって入力信号が2つ以上の信号に変換され、直交検波器251,252,・・・,25nによってIチャネル信号とQチャネル信号に変換され、位相シフト回路262,・・・,26nによって、所定の位相角度において強くなっている信号と、位相がシフトされて弱くなっている信号とが出力され、これらの信号が合成回路271,272によって合成され、全体として均一な強さとなり、IQコンスタレーションL2のように、略円形の形状に出力される。これにより、IQコンスタレーションL10,L20のような偏りをIQコンスタレーションL2のように補正することが可能になるので、位相検出特性を改善することが可能になる。
【0046】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、位相シフト回路152,・・・,15nでは位相角度を90°シフトさせ、位相シフト回路262,・・・,26nでも位相角度を90°シフトさせたが、この位相角度に限られない。
【0047】
また、補正可能なIQコンスタレーション形状は、IQコンスタレーションL10,L20のような形状に限られず、所定の整数nと所定の位相角度とを適切に設定することにより、他の形状においても適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 弾性表面波センサ
2 信号発生器
3 増幅器
4 バースト回路
5 弾性表面波素子
6 受信回路
10,20 位相検出回路
11 直交検波器
121,122 フィルタ
131,132 A/D変換器
141 S/P変換器(第1のシリアルパラレル変換部)
142 S/P変換器(第2のシリアルパラレル変換部)
152,・・・,15n 位相シフト回路(位相シフト部)
161 合成回路(第1の合成部)
162 合成回路(第2の合成部)
171、172 乗算器
21 ミキサ
22 フィルタ
23 A/D変換器
24 S/P変換器(シリアルパラレル変換部)
251,252,・・・,25n 直交検波器(直交検波部)
262,・・・,26n 位相シフト回路(位相シフト部)
271 合成回路(第1の合成部)
272 合成回路(第2の合成部)
281、282 乗算器
L1,L2 IQコンスタレーション
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7