【文献】
WASHBURN, Robert M. et al.,Benzeneboronic anhydride,Organic Syntheses,1959年,39,3-6
【文献】
Journal of the American Chemical Society,1972年,94(12),4374−4376
【文献】
SHOSTAKOVSKII, M. F. et al.,Reaction between sodium acetylide and Grignard reagent,Doklady Akademii Nauk SSSR,1966年,167(2),365-8
【文献】
中島啓貴 外2名,ナトリウム分散体を用いる塩化アリールからのアリールナトリウム化合物の調製とクロスカップリング反応への,日本化学会第98春季年会講演予稿集,2018年 3月 6日,講演番号 2H2-02,全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る有機マグネシウム化合物の合成方法、並びに、有機マグネシウム化合物を用いる有機ボロン酸化合物の合成方法及びカップリング方法について詳細に説明する。ただし、本発明は、後述する実施形態に限定されるものではない。
【0016】
(有機マグネシウム化合物の合成方法)
本実施形態に係る有機マグネシウム化合物の合成方法は、グリニャール試薬として利用可能な有機マグネシウムハロゲン化物の合成方法である。反応溶媒中で、一般式I(R
a-X
a)に示す有機ハロゲン化物とナトリウムを分散溶媒に分散させた分散体を反応させて、一般式II(R
a-Na)に示す有機ナトリウム化合物を得る(工程1)。続いて、得られた有機ナトリウム化合物と一般式III(Mg-(X
b)
2)に示すハロゲン化マグネシウムとを反応させて、一般式IV(R
a-Mg-X
b)示す有機マグネシウム化合物を得る(工程2)ものである。
【0017】
(工程1)
工程1は、反応式I(R
a-X
a +2Na(SDとして)→ R
a-Na+Na-X
a)に示す通り、反応溶媒中で、一般式I(R
a-X
a)に示す有機ハロゲン化物とナトリウムを分散溶媒に分散させた分散体を反応させて、一般式II(R
a-Na)に示す有機ナトリウム化合物を得る工程である。一般式I(R
a-X
a)に示す有機ハロゲン化物は、共有結合したハロゲン原子を含む有機化合物であり、本実施形態に係る有機マグネシウム化合物の合成方法おいて、出発化合物となる。本実施形態の有機マグネシウム化合物の合成方法は、従来において、グリニャール試薬の調製が困難であった、芳香族、特に嵩高い置換基を有する芳香族やアルケニルグリニャール試薬の調製にも好適に利用可能であることから、芳香族やアルケニルのハロゲン化物を出発化合物とすることができる。
【0018】
一般式I(R
a-X
a)に示す有機ハロゲン化物において、R
aは、ナトリウムと反応しない置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、又は、芳香族炭化水素基である。ナトリウムと反応性を有する置換基を有すると、当該置換基とナトリウムを分散溶媒に分散させた分散体が反応し、副反応を誘発するため好ましくない。したがって、R
aとしてナトリウムと反応性を有する置換基を有する化合物を出発化合物とする場合には、当該置換基を適切な保護基等で保護することが必要となる。
【0019】
脂肪族炭化水素基は、直鎖及び分枝の別を問わず、飽和及び不飽和の別も問わない。また、その鎖長についても特に制限はない。置換基を有する場合、当該置換基は、ナトリウムと反応しないものである限り特に制限はない。また、置換基の数及び導入位置についても特に制限はない。脂肪族炭化水素基としては、これらに限定するものではないが、好ましくは炭素原子数1〜50個、又は、1〜30個、特に好ましくは炭素原子数3〜20個のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基が例示される。具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、s-ペンチル基、2-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、2-エチルプロピル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、ネオヘキシル基、t-ヘキシル基、2,2-ジメチルブチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1-プロピルプロピル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、s-ヘプチル基、t-ヘプチル基、2,2-ジメチルペンチル基、3,3-ジメチルペンチル基、1-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、4-メチルヘキシル基、1-エチルペンチル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、1-プロピルブチル基、2-プロピルブチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、t-オクチル基、ネオオクチル基、2,2-ジメチルヘキシル基、3,3-ジメチルヘキシル基、4,4-ジメチルヘキシル基、1-メチルヘプチル基、2-メチルヘプチル基、3-メチルヘプチル基、4-メチルヘプチル基、5-メチルヘプチル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、1-プロピルペンチル基、2-プロピルペンチル基、3-プロピルペンチル基、n-ノニル基、イソノニル基、t-ノニル基、1-メチルオクチル基、2-メチルオクチル基、3-メチルオクチル基、4-メチルオクチル基、5-メチルオクチル基、6-メチルオクチル基、n-デシル基、イソデシル基、t-デシル基、1-メチルノニル基、2-メチルノニル基、3-メチルノニル基、4-メチルノニル基、5-メチルノニル基、6-メチルノニル基、7-メチルノニル基等が挙げられるが、これらに限定するものではない。アルケニル基としては、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基等が挙げられるが、これらに限定するものではない。アルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘプチニル基、オクチニル基等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0020】
脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。置換基は、1個又は複数個を有していてよく、複数個の置換基を有する場合には、互いに同一又は異なっていてもよい。置換基としては、置換基を有してもよい脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基等が例示されるが、これらに限定するものではない。なお、脂肪族炭化水素基は上記で示されるものと同様なものを、脂環式炭化水素基、及び、芳香族炭化水素基は、下記で示されるものと同様なものが挙げられる。
【0021】
脂環式炭化水素基は、環構成原子間の結合は飽和及び不飽和の別は問わず、環員数についても特に制限はない。また、単環だけでなく、縮合環やスピロ環等の環集合を持つものも含まれる。脂環式炭化水素基としては、これらに制限するものではないが、好ましくは炭素原子数3〜10個、特に好ましくは3〜7個のシクロアルキル基、及び、シクロアルケニル基、好ましくは炭素原子数4〜10個、特に好ましくは4〜7個のシクロアルケニル基等が例示される。具体的には、シクロアルキル基として、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられるが、これらに限定するものではない。シクロアルケニル基としては、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、シクロオクテニル基等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0022】
脂環式炭化水素基は、置換基を有していてもよい。置換基は、1個又は複数個を有していてよく、複数個の置換基を有する場合には、互いに同一又は異なっていてもよい。また、置換基の位置についても特に制限はない。置換基は、脂肪族炭化水素基の置換基として例示したものと、同様のものが挙げられる。
【0023】
芳香族炭化水素基は、芳香環を有する限り特に制限はない。単環だけでなく、縮合環やスピロ環等の環集合を持つものも含まれる。環員数についても特に制限はない。例えば、炭素原子数が、好ましくは6〜22個、特に好ましくは、6〜14個である芳香族炭化水素基が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、単環式の六員環フェニル基等、二環式のナフチル基、ペンタレニル基、インデニル基、アズレニル基等、三環式のビフェニレニル基、インダセニル基、アセナフチレニル基、フルオレニル基、フェナレニル基、フェナントリル基、アントリル基等、四環式のフルオランテニル、アセアントリレニル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、ナフタセニル基等、五環式のペリレニル基、テトラフェニレニル等、六環式のペンタセニル基等、七環式のルビセニル基、コロネニル基、ヘプタセニル基等が挙げられるが、これらに限定するものではない。特に好ましくは、フェニル基である。
【0024】
芳香族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。置換基は、1個又は複数個を有していてよく、複数個の置換基を有する場合には、互いに同一又は異なっていてもよい。また、置換基の位置についても特に制限はない。置換基は、脂肪族炭化水素基の置換基として例示したものと、同様のものが挙げられる。
【0025】
X
aは、ハロゲン原子であり、具体的には、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、又は、フッ素原子であるが、好ましくは、塩素原子である。出発化合物として安価な有機塩化物を使用することにより経済的に更に有利となる。また、有機塩化物を利用することにより、有機臭化物を利用する場合に生じる原料である臭素の産地の偏在や入手の困難性等の問題もなく、工業化に際しての高負荷な廃棄処理施設の必要性等の問題もない。
【0026】
したがって、出発物質である一般式I(R
a-X
a)に示す有機ハロゲン化物として、特に好ましくはクロロベンゼンである。有機ハロゲン化物は、市販されているものを使用してもよいし、当該技術分野で公知の方法により製造されたものを使用してよい。
【0027】
ナトリウムを分散溶媒に分散させた分散体(以下、Sodium Dispersionの略号である「SD」と略する場合がある。)は、ナトリウムを微粒子として不溶性溶媒に分散させたもの、又は、ナトリウムを液体の状態で不溶性溶媒に分散させたものである。ナトリウムとしては、金属ナトリウムのほか、金属ナトリウムを含む合金などが挙げられる。微粒子の平均粒子径として、好ましくは、10μm未満であり、特に好ましくは、5μm未満のものを使用することができる。平均粒子径は、顕微鏡写真の画像解析によって得られた投影面積と同等の投影面積を有する球の径で表した。
【0028】
分散溶媒としては、ナトリウムを微粒子として分散、又はナトリウムを液体の状態で不溶性溶媒に分散でき、かつ、出発化合物である有機ハロゲン化物とSDとの反応を阻害しない限り、当該技術分野で公知の溶媒を使用することができる。例えば、キシレン、トルエン等の芳香族系溶媒や、ノルマルデカン等のノルマルパラフィン系溶媒、テトラヒドロチオフェン等の複素環化合物溶媒、又はそれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0029】
SDは、クロロベンゼンに対して2.1モル当量以上でヘキサン等の反応溶媒中で反応させた場合に、添加したクロロベンゼンに対するフェニルナトリウムの収率が99.0%以上となる活性を有するものを使用することが好ましい。このような高活性なSDを使用することにより、更に効率的に有機マグネシウム化合物を合成することができる。SDの活性を高く維持するためには、好ましくは、ガラスバイアル等のガスバリア性の高い容器に保管することが好ましい。しかしながら、ガスバリア性の低い容器に保管することを排除するものではなく、その場合には、SDの製造後、速やかに、例えば数週間内、好ましくは3週間内に使用する。
【0030】
工程1の反応溶媒としては、出発化合物である有機ハロゲン化物とSDとの反応を阻害しない限り、当該技術分野で公知の溶媒を使用することができる。詳細には、有機ハロゲン化物及びSDと反応性が低く、極性の低い公知の溶媒を使用することができる。例えば、ノルマルパラフィン系やシクロパラフィン系等のパラフィン系溶媒を特に好ましく使用できる。エーテル系溶媒やアミン系溶媒、複素環化合物溶媒、芳香族系溶媒であるベンゼン等の利用を排除するものではないが、有機ハロゲン化物及びSDと反応性が比較的高い溶媒を反応溶媒として使用する場合には、反応温度を、例えば0℃付近の温度にする等の温度制御を行うことにより使用することができる。パラフィン系溶媒としては、ノルマルヘキサン、ノルマンペンタン、ノルマルへプタン、ノルマルデカン、及びシクロヘキサン等が好ましく、特には、安価であり、かつ、沸点が低く蒸留により回収しやすいノルマルヘキサンを特に好ましく使用することができる。エーテル系溶媒としては、環状エーテル溶媒が好ましく、テトラヒドロフラン等を好ましく使用することができる。アミン系溶媒としては、エチレンジアミン等を好ましく使用することができる。複素環化合物溶媒としては、テトラヒドロチオフェン等を利用することができる。また、これらは1種類のみを使用してもよいし、2種以上を併用し混合溶媒として使用することもできる。ここで、前述の分散溶媒と反応溶媒とは同一の種類のものを使用してもよいし、異なる種類のものを使用してもよい。
【0031】
工程1の反応温度は、反応溶媒としてパラフィン系溶媒を使用する場合は特に限定されず、出発化合物である有機ハロゲン化物、SD及び反応溶媒の種類や量、並びに反応圧力等により適宜設定することができる。具体的には、反応温度は、反応溶媒の沸点を越えない温度に設定することが好ましい。加圧下では大気圧下での沸点よりも高くなるため反応温度を高い温度で設定することができる。反応は、室温で行うこともでき、好ましくは0〜100℃であり、特に好ましくは20〜80℃、更に好ましくは室温〜60℃、更には40〜60℃、40℃〜50℃である。反応温度が低くなりすぎると反応速度が遅くなり好ましくなく、一方、反応温度が高くなりすぎるとウルツ反応を誘発するため好ましくない。特段の加熱や冷却等のための温度制御手段を設ける必要はないが、必要に応じて、温度制御手段を設けても良い。一方、パラフィン系以外の溶媒を反応溶媒として使用する場合は、工程1の反応で生成する一般式II(R
a-Na)の好適例であるフェニルナトリウム等と反応溶媒との反応を防止するため、低温、好ましくは0℃付近で行うことが好ましい。ここで、一般式I(R
a-X
a)に示す有機ハロゲン化物として、好適例であるクロロベンゼンを用いる場合等にクロロベンゼンと等モル当量のTHFを添加することで、ビフェニルの生成を効果的に抑制できると共に、良好な反応速度を維持することができる。したがって、反応溶媒の種類及び添加量を適切に制御することで、効率的に目的化合物を合成することができる。
【0032】
工程1の反応時間についても、特に限定されず、出発化合物である有機ハロゲン化物、SD、及び反応溶媒の種類や量、並びに反応圧力や反応温度等に応じて適宜設定すればよい。通常は、15分間〜24時間、好ましくは20分間〜6時間で行われる。
【0033】
工程1におけるSDの添加量は、特に制限されず、出発化合物である有機ハロゲン化物、SD、及び反応溶媒の種類や量、並びに反応圧力や反応温度等に応じて適宜設定することができる。しかしながら、SDの添加量が、出発物質である有機ハロゲン化物に対して2.0モル当量より少なくとなると出発物質同士が結合するウルツ反応等が生じることから、2.0モル当量以上、2.5モル当量以下で添加することが好ましい。
【0034】
工程1は、SD、及び、反応溶媒等の試薬類は大気下で安定して扱うことができることから、大気下の常圧条件下で行うことに適している。しかしながら、生成するR
a -Naの好適例であるフェニルナトリウム等は高活性であり少しでも空気が混入すると水分によりプロトン化されることから、必要に応じて、アルゴンガスや窒素ガス等を充填した不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0035】
工程1によって得られる一般式II(R
a-Na)に示す有機ナトリウム化合物は、出発化合物である一般式I(R
a-X
a)に示す有機ハロゲン化物のハロゲン原子がナトリウムに置換されたものである。したがって、一般式II(R
a-Na)において、R
aは、上記した一般式IのR
aと同様であり、Naは、ナトリウム原子である。
【0036】
得られた有機ナトリウム化合物は、カラムクロマトグラフィー、蒸留、再結晶等、当該技術分野で公知の精製手段により精製してもよい。また、未反応で残存した出発化合物である有機ハロゲン化物を回収し、再度、工程1の反応に供するように構成してもよい。また、生成時と同様にアルゴンガスや窒素ガスなどを充填した不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0037】
(工程2)
工程2は、反応式II(R
a-Na
+Mg-(X
b)
2 → R
a-Mg-X
b+NaX
b)に示す通り、工程1によって得られた一般式II(R
a-Na)に示す有機ナトリウム化合物と一般式III(Mg-(X
b)
2)に示すハロゲン化マグネシウムを反応させて、最終目的化合物の一般式IV(R
a-Mg-X
b)に示す有機マグネシウム化合物を得る工程である。
【0038】
一般式III(Mg-(X
b)
2)に示すハロゲン化マグネシウムにおいて、X
bは、ハロゲン原子であり、具体的には、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、又は、フッ素原子であり、一般式III(Mg-(X
b)
2)に示すハロゲン化マグネシウムは、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウムを好適に利用できる。特に、好ましくは無水塩化マグネシウムである。入手容易で安価な無水塩化マグネシウムを使用することにより、経済的かつ工業的にも非常に有利である。更に、無水塩化マグネシウムを利用することにより、グリニャール反応において反応性の高い有機マグネシウム化合物を得ることができるとの利点もある。
【0039】
ハロゲン化マグネシウムは、市販されているものを使用してもよいし、当該技術分野で公知の方法により製造されたものを使用してよい。
【0040】
また、金属マグネシウムを利用する場合は、反応容器底部に金属マグネシウムが堆積するため、反応が局所的に進行することとなり、反応の制御が難しく、安全面でスケールアップが困難となる問題がある。一方、無水ハロゲン化マグネシウムは、金属マグネシウムよりも微粉末化することが容易であり、微粉末化することで、反応容器内全体で反応が進行する。よって、反応を穏やか、かつスムーズに進められ、更に安全にスケールアップすることが可能である。
【0041】
工程2は、工程1によって得られた反応物にハロゲン化マグネシウムを添加することにより行ってもよいし、工程1によって得られた反応物を当該技術分野で公知の精製手段により精製した後、反応溶媒の存在下でハロゲン化マグネシウムを添加することによって行ってもよい。反応溶媒としては、工程1と同様のものを使用することができる。
【0042】
工程2の反応温度は、反応溶媒としてパラフィン系溶媒を使用する場合は特に限定されず、有機ナトリウム化合物、SD及び反応溶媒の種類や量、並びに反応圧力等により適宜設定することができる。具体的には、反応温度は、反応溶媒の沸点を越えない温度に設定することが好ましい。加圧下では大気圧下での沸点よりも高くなるため反応温度を高い温度で設定することができる。反応は、室温で行うこともでき、好ましくは0〜100℃であり、特に好ましくは20〜80℃、更に好ましくは室温〜60℃、更には40〜60℃、40℃〜50℃である。特段の加熱や冷却等のための温度制御手段を設ける必要はないが、必要に応じて、温度制御手段を設けても良い。一方、パラフィン系以外の溶媒を反応溶媒として使用する場合は、工程1の反応で生成するR
a-Naの好適例であるフェニルナトリウム等と反応溶媒との反応を防止するため、低温、好ましくは0℃付近で行うとよい。
【0043】
工程2の反応時間についても、特に限定されず、有機ナトリウム化合物、SD、及び反応溶媒の種類や量、並びに反応圧力や反応温度等に応じて適宜設定すればよい。通常は、5分〜2時間、好ましくは10分〜1時間で行われる。
【0044】
また、工程2は、ハロゲン化マグネシウム、及び、反応溶媒等の試薬類は大気下で安定して扱うことができることから、大気下の常圧条件下で行うことに適している。しかしながら、有機ナトリウム化合物の種類等の必要に応じて、アルゴンガスや窒素ガス等を充填した不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0045】
工程2の反応によって、所望の最終目的化合物の一般式IV(R
a-Mg-X
b)に示す有機マグネシウム化合物を得ることができる。工程2において、R
a-Na + Mg-(X
b)
2 → R
a-Mg-X
b + NaX
b、又は、2R
a-Na + Mg-(X
b)
2 → R
a-Mg-R
a + 2NaX
bの反応が起こり、R
a-Mg-X
b、又はR
a-Mg-R
aを得ることができる。ここで合成される一般式IV(R
a-Mg-X
b)に示す有機マグネシウムは、一般式II(R
a-Na)に示す有機ナトリウム化合物のナトリウムが、マグネシウムハライド、又はマグネシウムに置換されたものである。したがって、一般式III(R
a-Mg-X
b)において、R
aは、上記した一般式I(R
a-X
a)及び一般式II(R
a-Na)のR
aと同様であり、X
bはハロゲンの場合、ハロゲン化マグネシウム由来であり、一般式III(Mg-(X
b)
2)のX
bと同様である。
【0046】
本実施形態に係る有機マグネシウム化合物の合成方法において最終的に合成された有機マグネシウム化合物は、再結晶等の当該技術分野で公知の精製手段により精製してもよい。また、未反応で残存した有機ハロゲン化物及び有機ナトリウム化合物等を回収し、再度、当該有機マグネシウム化合物の合成のために利用するように構成してもよい。
【0047】
(有機ボロン酸化合物の合成方法)
本実施形態に係る有機ボロン酸化合物の合成方法は、本実施形態の有機マグネシウム化合物の合成方法で得られた有機マグネシウム化合物と、一般式V(B-(O-R
b)
3)に示すホウ酸エステル化合物とを反応させて、一般式VI(R
a-B(OH)
2)に示す有機ボロン酸化合物を得る(工程3A)ものである。
【0048】
(工程3A)
工程3Aは、反応式IIIa(R
a-Mg-X
b+B-(O-R
b)
3 → R
a-B-(O-R
b)
2+Mg-X
b(O-R
b))、及び、反応式IIIb(R
a-B-(O-R
b)
2+2H
2O → R
a-B(OH)
2+2R
b-OH)に示す通り、SDを用いた上記工程1及び工程2を経て得られた有機マグネシウム化合物と、一般式V(B-(O-R
b)
3)に示すホウ酸エステル化合物とを反応させて、一般式VI(R
a-B(OH)
2)に示す有機ボロン酸化合物を得る工程である。SDを用いて合成されたグリニャール試薬に代表される有機マグネシウム化合物を用いて、鈴木・宮浦カップリング等のカップリング対象化合物となる有機ボロン酸化合物を合成するものである。
【0049】
一般式V (B-(O-R
b)
3)に示すホウ酸エステル化合物において、R
bは、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基である。
【0050】
置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基については、上記で説明した通りで、好ましくは、R
bは、イソプロピル基、メチル基、エチル基等であり、特に好ましくは、R
bは、イソプロピル基である。
【0051】
したがって、一般式V(B-(O-R
b)
3)に示すホウ酸エステル化合物としては、好ましくは、ホウ酸トリイソプロピルを利用することができる。また、当該ホウ酸エステル化合物は、市販されているものを使用してもよいし、当該技術分野で公知の方法により製造したものを使用してもよい。
【0052】
工程3Aは、工程2によって得られた反応物にホウ酸エステル化合物を添加することにより行ってもよいし、工程2によって得られた反応物を当該技術分野で公知の精製手段により精製した後、反応溶媒の存在下で当該ホウ酸エステル化合物を添加することによって行ってもよい。反応溶媒としては、工程1及び工程2と同様のものを使用することができ、工程3Aは無水下で反応を行うことが必要である。
【0053】
工程3Aの反応温度は、溶媒としてパラフィン系溶媒を使用する場合は特に限定されず、有機マグネシウム化合物、ホウ酸エステル化合物及び反応溶媒の種類や量、並びに反応圧力等により適宜設定することができる。具体的には、反応温度は、反応溶媒の沸点を越えない温度に設定することが好ましい。加圧下では大気圧下での沸点よりも高くなるため反応温度を高い温度で設定することができる。反応は、室温で行うこともでき、好ましくは0〜100℃であり、特に好ましくは20〜80℃、更に好ましくは室温〜60℃、更には40〜60℃、40℃〜50℃である。特段の加熱や冷却等のための温度制御手段を設ける必要はないが、必要に応じて、温度制御手段を設けても良い。
【0054】
工程3Aの反応時間についても、特に限定されず、有機マグネシウム化合物、ホウ酸エステル化合物及び反応溶媒の種類や量、並びに反応圧力や反応温度等に応じて適宜設定すればよい。通常は、5分〜2時間、好ましくは10分〜1時間で行われる。
【0055】
また、工程3Aは、ホウ酸エステル化合物、及び、反応溶媒等の試薬類は大気下で安定して扱うことができることから、大気下の常圧条件下で行うことに適している。しかしながら、必要に応じて、アルゴンガスや窒素ガス等を充填した不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0056】
工程3Aの反応によって、所望の最終目的化合物の一般式VI(R
a-B(OH)
2)に示すホウ酸エステル化合物を得ることができる。詳細には、工程3Aの反応によって合成される一般式VI(R
a-B(OH)
2)に示す有機ボロン酸化合物は、一般式IV(R
a-Mg-X
b)に示す有機マグネシウム化合物と一般式V(B-(O-R
b)
3)に示すホウ酸エステル化合物を反応させることで、一般式VII(R
a-B-(O-R
b )
2)に示すボロン酸エステル化合物が合成される。かかるボロン酸エステル化合物が加水分解されることで、一般式VI(R
a-B(OH)
2)に示す有機ボロン酸化合物を得ることができるものであるが、その過程で、有機ボロン酸化合物は、無水溶媒の下で合成されるため、脱水三量化し環状無水物(ボロキシン)を生成している。
【0057】
一般式VI(R
a-B(OH)
2)に示す有機ボロン酸化合物は、一般式IV(R
a-Mg-X
b)に示す有機マグネシウム化合物のマグネシウムハライド基が、ボロン酸基に置換されたものである。したがって、一般式VI(R
a-B(OH)
2)において、R
aは、上記した一般式I(R
a-X
a)、一般式II(R
a-Na)及び一般式IV(R
a-Mg-X
b)のR
aと同様である。
【0058】
一般式VI(R
a-B(OH)
2)に示す有機ボロン酸化合物は、一般式IV(R
a-Mg-X
b)に示す有機マグネシウム化合物のマグネシウムハライド基(-Mg-X
b基)が、ボロン酸基(-B(OH)
2基)に置換されたものである。したがって、一般式VI(R
a-B(OH)
2)において、R
aは、上記した一般式I(R
a-X
a)、一般式II(R
a-Na)及び一般式IV(R
a-Mg-X
b)のR
aと同様である。
【0059】
本実施形態に係る有機ボロン酸化合物の合成方法において最終的に合成された有機ボロン酸化合物は、再結晶等の当該技術分野で公知の精製手段により精製してもよい。また、未反応で残存した有機ハロゲン化物及び有機ナトリウム化合物、有機マグネシウム化合物、ハロゲン化マグネシウム、ホウ酸エステル化合物等を回収し、再度、有機マグネシウム化合物や有機ボロン酸化合物の合成のために利用するように構成してもよい。
【0060】
(カップリング反応)
本実施形態に係るカップリング反応は、本実施形態の有機マグネシウム化合物の合成方法で得られた有機マグネシウム化合物と、一般式VIII(R
c-X
c)に示す有機ハロゲン化物とを鉄触媒、ニッケル触媒、パラジウム触媒、クロム触媒、マンガン触媒、コバルト触媒又は銅触媒下で反応させて、一般式IX(R
a-R
c)に示すカップリング化合物を得る(工程3B)ものである。
【0061】
(工程3B)
工程3Bは、反応式IV(R
a-Mg-X
b+R
c-X
c→ R
a-R
c+Mg-X
bX
c)に示す通り、SDを用いた上記工程1及び工程2を経て得られた有機マグネシウム化合物と、一般式VIII(R
c-X
c)に示す有機ハロゲン化物とを鉄触媒、ニッケル触媒、パラジウム触媒、クロム触媒、マンガン触媒、コバルト触媒又は銅触媒下で反応させて、一般式IX(R
a-R
c)に示すカップリング化合物を得る工程である。つまり、SDを用いて合成されたグリニャール試薬に代表される有機マグネシウム化合物を用いて、熊田・玉尾・コリューカップリング反応に利用するものである。
【0062】
一般式VIII(R
c-X
c)に示す有機ハロゲン化物において、R
cは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又はアリル基である。
【0063】
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基については、上記で説明した通りである。置換基を有していてもよいアリル基において、アリル基は、プロピレンCH
2=CH-CH
3のメチル基の水素1原子を除いて得られる1価の不飽和炭化水素基CH
2=CH-CH
2-である。置換基についても、上記で説明した通りである。
【0064】
X
cは、ハロゲン原子であり、具体的には、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、又は、フッ素原子である。
【0065】
一般式VIII(R
c-X
c)に示す有機ハロゲン化物は、市販されているものを使用してもよいし、当該技術分野で公知の方法により製造したものを使用してもよい。
【0066】
鉄触媒、ニッケル触媒、パラジウム触媒、クロム触媒、マンガン触媒、コバルト触媒又は銅触媒は、熊田・玉尾・コリューカップリング反応に使用可能なものであれば、特に制限はなく、公知の触媒を使用することができる。例えば、FeF
3・3H
20、FeF
2・4H
20、FeF
3、FeCl
3、Fe(acac)
3等の鉄触媒、NiCl
2(dppp)、Ni(acac)
2、Ni(MeCN)
2Cl
2、NiF
2、NiF
2・4H
20、NiCl
2、NiCl
2・6H
2O等のニッケル触媒、Pd(PPh
3)
4、Pd(OAc)
2、Pd(MeCN)
2Cl
2等のパラジウム触媒、CrCl
2等のクロム触媒、MnCl
2等のマンガン触媒、CoF
2・H
20、CoF
2・4H
20、CoF
2、CoF
3、CoCl
2・6H
20等のコバルト触媒、CuCl
2、CuI、CuBr、CuTc、Cu(OTf)
2等の銅触媒が挙げられる。
【0067】
工程3Bは、工程2によって得られた反応物に有機ハロゲン化物を添加することにより行ってもよいし、工程2によって得られた反応物を当該技術分野で公知の精製手段により精製した後、反応溶媒の存在下で当該有機ハロゲン化物を添加することによって行ってもよい。反応溶媒としては、工程1及び工程2と同様のものを使用することができ、工程3Bは無水下で反応を行うことが好ましい。
【0068】
工程3Bの反応温度は、溶媒としてパラフィン系溶媒を使用する場合は特に限定されず、有機マグネシウム化合物、有機ハロゲン化物及び反応溶媒の種類や量、並びに反応圧力等により適宜設定することができる。具体的には、反応温度は、反応溶媒の沸点を越えない温度に設定することが好ましい。加圧下では大気圧下での沸点よりも高くなるため反応温度を高い温度で設定することができる。反応は、室温で行うこともでき、好ましくは0〜100℃であり、特に好ましくは20〜80℃、更に好ましくは室温〜60℃、更には40〜60℃、40℃〜50℃である。特段の加熱や冷却等のための温度制御手段を設ける必要はないが、必要に応じて、温度制御手段を設けても良い。
【0069】
工程3Bの反応時間についても、特に限定されず、有機マグネシウム化合物、有機ハロゲン化物、及び反応溶媒の種類や量、並びに反応圧力や反応温度等に応じて適宜設定すればよい。通常は、5分〜2時間、好ましくは10分〜1時間で行われる。
【0070】
また、工程3Bは、アルゴンガスや窒素ガス等を充填した不活性ガス雰囲気下で行うことに適している。
【0071】
工程3Bの反応によって、所望の最終目的化合物の一般式IX(R
a-R
c)に示すカップリング化合物を得ることができる。一般式IX(R
a-R
c)に示すカップリング化合物は、一般式IV(R
C-Mg-X
b)に示す有機マグネシウム化合物の有機基(-R
a基)と、一般式VIII(R
c-X
c)に示す有機ハロゲン化物の有機基(-R
c基)が連結したものである。したがって、一般式IX(R
a-R
c)において、R
aは、上記した一般式I(R
a-X
a)、一般式II(R
a-Na)及び一般式IV(R
a-Mg-X
b)のR
aと同様であり、R
cは、上記した一般式VIII(R
c-X
c)のR
cと同様である。
【0072】
本実施形態に係るカップリング方法において最終的に合成されたカップリング化合物は、再結晶等の当該技術分野で公知の精製手段により精製してもよい。また、未反応で残存した有機ハロゲン化物及び有機ナトリウム化合物、有機マグネシウム化合物、ハロゲン化マグネシウム等を回収し、再度、有機マグネシウム化合物やカップリング反応のために利用するように構成してもよい。
【0073】
本実施形態に係る有機マグネシウム化合物の合成方法は、SDを利用することにより安定的かつ効率的に有機マグネシウム化合物を合成することができる。取り扱いが容易なSDを使用することにより、温和な条件下で、煩雑な化学的手法を必要とせず、少ない工程数で簡便かつ短時間に有機マグネシウム化合物を安価に合成することができるので、経済的かつ工業的にも非常に有利である。ナトリウムは、地球上に極めて広く分布していることから、サステナビリティーにも優れた技術である。一方、固体の金属ナトリウムを使用した場合には、反応温度が室温では効率が悪く、金属ナトリウムの融点(98℃)以上等の高温で反応を行うことが必要となる。このような高温で反応を行うことで、有機ハロゲン化物同士がカップリングするウルツ反応が誘発され、有機ナトリウム化合物を効率よく合成することができず、有機マグネシウム化合物の収率が低下する。これに対して、SDを使用することにより、温和な条件下で反応を進行させることができるので、ウルツ反応等の副反応を誘発することなく、効率的に有機ナトリウム化合物を得ることができ、ひいては、有機マグネシウム化合物を高収率かつ高純度に合成することができる。更に、本実施形態の有機マグネシウム化合物の合成方法は、従来において、グリニャール試薬の調製が困難であった、芳香族、特に嵩高い置換基を有する芳香族やアルケニルグリニャール試薬の調製にも好適に利用可能である。
【0074】
本実施形態の有機マグネシウム化合物の合成方法で合成された有機マグネシウム化合物は、鈴木・宮浦カップリングや熊田・玉尾・コリューカップリング等に好適に利用することができる。したがって、本実施形態に係る有機マグネシウム化合物の合成方法は、天然物全合成や、医農薬及び電子材料等の機能性材料の合成等、様々な技術分野において利用することができる。
【0075】
さらに、本実施形態に係る有機ボロン酸化合物の合成方法は、本実施形態の有機マグネシウム化合物の合成方法により、SDを利用することで安定的かつ効率的に合成された有機マグネシウム化合物を利用するものである。これにより、鈴木−宮浦クロスカップリング等で好適に利用可能な有機ボロン酸化合物を効率よく合成することができる。したがって、本実施形態に係る有機ボロン酸化合物の合成方法は、天然物全合成や、医農薬及び電子材料等の機能性材料の合成等、様々な技術分野において利用することができる。
【0076】
また、本実施形態に係るカップリング方法は、本実施形態の有機マグネシウム化合物の合成方法により合成された有機マグネシウム化合物を熊田・玉尾・コリューカップリングに利用するものである。つまり、本実施形態に係るカップリング方法は、SDを利用することで安定的かつ効率的に合成された有機マグネシウム化合物を利用してカップリング反応を行うものである。これにより、カップリング反応を効率よく進行させることができる。したがって、本実施形態に係るカップリング方法は、天然物全合成や、医農薬及び電子材料等の機能性材料の合成等、様々な技術分野において利用することができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例により本実施形態を具体的に説明するが、本実施形態は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例におけるSDとしては、金属ナトリウムを微粒子としてノルマルパラフィン油に分散させた分散体を使用し、SDの物質量は、SDに含まれる金属ナトリウム換算での数値である。
【0078】
(事前検討例1)有機ボロン酸化合物の合成条件の検討
本事前検討例1では、有機ハロゲン化合物にホウ酸エステル化合物を反応させることによる有機ボロン酸化合物の合成を試みた。詳細には、
図1のスキーム1に要約する合成条件により、有機ボロン酸化合物としてフェニルボロン酸6の合成を検討した。
【0079】
ヘキサン2ml中に、出発化合物で有機ハロゲン化物である2mmolのクロロベンゼン1と2.1モル当量のSDを添加し、25℃で15分間反応させ、有機ナトリウム化合物であるフェニルナトリウム2を合成した。ここで、SDのモル当量は、出発物質である化合物であるクロロベンゼン1に対するモル当量である。続いて、ホウ酸エステル化合物であるホウ酸トリイソプロピル4を2.0モル当量加え、上記で合成したフェニルナトリウム2と反応させた。ここで、ホウ酸トリイソプロピル4のモル当量は、クロロベンゼンに対するモル当量である。10分反応後に、1.0mol/Lの塩酸水溶液を加えて加水分解させ、反応液をジエチルエーテルで抽出しGC-MSにより測定した。GC-MSの測定結果、メイン化合物としてターフェニル7が生成し、また、トリフェニルボロン8の生成が確認された。しかしながら、目的化合物であるフェニルボロン酸6を得ることはできなかった。
【0080】
また、有機ナトリウム化合物であるフェニルナトリウム2にホウ酸エステル化合物ではなく、ホウ酸を反応させたが、反応は進行しなかった。
【0081】
(実施例1)有機マグネシウム化合物、及び、有機マグネシウム化合物を用いる有機ボロン酸化合物の合成条件の検討
本実施例では、有機ハロゲン化物を出発物質として、SDによる有機ナトリウム化合物の合成及びハロゲン化マグネシウムによる有機マグネシウム化合物の合成を経由して、有機マグネシウム化合物にホウ酸エステル化合物を反応させることによる有機ボロン酸化合物の合成を試みた。詳細には、
図1のスキーム2に要約する合成条件により、有機マグネシウム化合物としてフェニルマグネシウムクロリド3の合成を検討すると共に、得られたフェニルマグネシウムクロリド3を利用して、有機ボロン酸化合物であるフェニルボロン酸6の合成を検討した。
【0082】
フェニルマグネシウムクロリド3の合成
ヘキサン2ml中に、出発化合物で有機ハロゲン化物である2mmolのクロロベンゼン1と2.1モル当量のSDを添加し、60℃で15分間反応させ、有機ナトリウム化合物であるフェニルナトリウム2を合成した。ここで、SDのモル当量は、出発物質である化合物であるクロロベンゼン1に対するモル当量である。フェニルナトリウム2に2.1モル当量の無水塩化マグネシウムを添加し、25℃で15分間反応させ、有機マグネシウム化合物であるフェニルマグネシウムクロリド3を得た。
【0083】
フェニルボロン酸6の合成
上記合成の反応液を0℃としてから、ホウ酸エステル化合物である2.0モル当量のホウ酸トリイソプロピル4を加え、上記で合成したフェニルマグネシウムクロリド3と反応させた。ここで、ホウ酸トリイソプロピル4のモル当量は、クロロベンゼンに対するモル当量である。10分反応後に1.0mol/Lの塩酸水溶液を加えて加水分解させ、反応液をジエチルエーテルで抽出しGC-MSにより測定した。GC-MSの測定結果、トリフェニルボロキシン5が検出され、これは、生成した有機ボロン酸であるフェニルボロン酸6が平衡状態であるボロキシンとなり検出されたと推定される。なお、加水分解時に白色固体が沈殿したが、水に溶解したことから塩化ナトリウムであると判断した。
【0084】
(実施例2)有機マグネシウム化合物の合成条件の検討、及び、熊田・玉尾・コリューカップリングへの応用
本実施例では、
図2に要約する合成条件により、有機マグネシウム化合物を合成し、得られた有機マグネシウム化合物がニッケル触媒を使用した熊田・玉尾・コリューカップリングに利用できるか否かを検討した。
【0085】
有機マグネシウム化合物として4-メチル-フェニルマグネシウムクロリド3の合成を検討した。ヘキサン1.4ml中に、出発化合物である1.4モル当量の4-メチル-クロロベンゼン1と3.1モル当量のSDを添加し、25℃で1時間反応させ、4-メチル-フェニルナトリウム2を合成した。得られた4-メチル-フェニルナトリウム2に1.4モル当量の塩化マグネシウムを添加し、1.4mLのTHF存在下にて0℃で1時間反応させ、4-メチル-フェニルマグネシウムクロリド3を得た。
【0086】
続いて、得られた4-メチル-フェニルマグネシウムクロリド3が、ニッケル触媒を使用した熊田・玉尾・コリューカップリングに利用できるか否かを検討した。4-メチル-フェニルマグネシウムクロリド3を、ニッケル触媒であるジクロロ[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)(NiCl
2 (dppp)) 5モル%(2-ブロモナフタレンに対し))の存在下で1.0モル当量(0.5 mmol)の2-ブロモナフタレン4と25℃で24時間反応させた。その結果、
図2に示す通り、2-(4-メチルフェニル)ナフタレン5が得られた。
【0087】
合成された2-(4-メチルフェニル)ナフタレン5の評価は、
1H NMRでの測定により行った。収率は、反応系に添加した2-ブロモナフタレン4から理論的に生成することができる、2-(4-メチルフェニル)ナフタレン5に対する、実際に取得できた、2-(4-メチルフェニル)ナフタレン5の割合を百分率で示すことで算出した。収率は94%となった。なお、単離収率は88%であった。これにより、4-メチル-クロロベンゼン1から4-メチル-フェニルナトリウム2を経て、高収率に4-メチル-フェニルマグネシウムクロリド3の合成を行うことができた。また、4-メチル-フェニルマグネシウムクロリド3を用いた熊田・玉尾・コリューカップリングが効率よく進行し、その結果、2-(4-メチルフェニル)ナフタレン5が高収率で得られることが理解できる。