(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6654052
(24)【登録日】2020年1月31日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】インクジェット式記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 15/16 20060101AFI20200217BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20200217BHJP
B41J 15/04 20060101ALI20200217BHJP
B65H 23/038 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
B41J15/16
B41J2/01 305
B41J2/01 401
B41J15/04
B65H23/038 Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-8547(P2016-8547)
(22)【出願日】2016年1月20日
(65)【公開番号】特開2017-128024(P2017-128024A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2018年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】酒井 千陽
【審査官】
佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−254215(JP,A)
【文献】
特開2011−057353(JP,A)
【文献】
特開2012−223946(JP,A)
【文献】
特開2001−113766(JP,A)
【文献】
特開平2−108576(JP,A)
【文献】
実開昭60−14952(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 11/00
B41J 15/00
B41J 2/01
B65H 23/00
B65H 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷時に前方に搬送されるシート状の記録媒体を支持するプラテンと、
ローラの駆動により前記記録媒体を前方に搬送する記録媒体搬送部と、
印刷前の前記記録媒体が巻き取られ、回転自在の巻き取り軸と、
前記巻き取り軸に接続され、前記記録媒体が巻き取られる方向に前記巻き取り軸を回転させる巻取用モータと、
前記巻取用モータの回転動作および前記記録媒体搬送部の動作をそれぞれ制御する制御装置と、を備え、
前記記録媒体搬送部は、前記プラテンに設けられ、前記記録媒体を下方から支持するグリッドローラと、前記記録媒体を介して前記グリッドローラと対向し、前記記録媒体に押し当てられるピンチローラと、を備え、
前記ピンチローラは、昇降自在に構成され、
前記ピンチローラを昇降させる第1昇降駆動部と、
前記記録媒体の巻き戻し時に前記記録媒体の斜行補正動作を補助する斜行補正補助部と、をさらに備え、
前記斜行補正補助部は、前記記録媒体に上方から接触するボール部と前記ボール部を回転可能に支持する本体部とを有するボールローラと、前記ボールローラを昇降させる第2昇降駆動部と、を含み、
前記制御装置は、前記巻取用モータを停止させた状態で前記記録媒体搬送部を制御することにより前記記録媒体を前方に所定量送り出した後、前記巻取用モータを制御することにより前記記録媒体を後方に巻き戻す斜行補正処理を実行するように構成され、
前記制御装置は、前記記録媒体の巻き戻し時に、前記第1昇降駆動部により前記ピンチローラを上昇させて前記ピンチローラによる前記記録媒体への押し当てを解除するように構成され、
前記制御装置は、前記記録媒体の巻き戻し時に、前記ボール部が前記記録媒体に上方から接触するように前記第2昇降駆動部により前記ボールローラを下降させるように構成されている、インクジェット式記録装置。
【請求項2】
前記プラテンは、下方に向かって湾曲したエプロンガイドを前方に備え、
前記ボールローラよりも前方にかつ前記エプロンガイドの下方に設けられ、前記記録媒体の有無を検知するセンサをさらに備え、
前記制御装置は、前記記録媒体を、前記センサよりも後方の位置から当該センサよりも前方の位置まで送り出すように構成されている、請求項1に記載のインクジェット式記録装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記記録媒体を、前記センサよりも前方の位置から少なくとも前記センサに検知される位置まで巻き戻すように構成されている、請求項2に記載のインクジェット式記録装置。
【請求項4】
印刷時に前方に搬送されるシート状の記録媒体を支持するプラテンと、
ローラの駆動により前記記録媒体を前方に搬送する記録媒体搬送部と、
印刷前の前記記録媒体が巻き取られ、回転自在の巻き取り軸と、
前記巻き取り軸に接続され、前記記録媒体が巻き取られる方向に前記巻き取り軸を回転させる巻取用モータと、
主走査方向に延び、前記記録媒体に下方から接触することにより前記記録媒体を上下方向に揺動させる回転自在のカムと、前記カムに設けられた回転軸と、前記回転軸に接続された揺動用モータと、を有する揺動機構と、
前記巻取用モータの回転動作および前記記録媒体搬送部の動作をそれぞれ制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記巻取用モータを停止させた状態で前記記録媒体搬送部を制御することにより前記記録媒体を前方に所定量送り出した後、前記巻取用モータを制御することにより前記記録媒体を後方に巻き戻す斜行補正処理を実行するように構成され、
前記制御装置は、前記記録媒体の巻き戻し時に、前記揺動用モータを駆動することにより前記カムを回転させるように構成されている、インクジェット式記録装置。
【請求項5】
前記プラテンには、主走査方向に延びる矩形状の孔部が設けられており、
前記揺動機構の前記カムは、回転角度によって前記カムの少なくとも一部が前記孔部から上方に突出するように設けられている、請求項4に記載のインクジェット式記録装置。
【請求項6】
前記プラテン上の前記記録媒体にインクを吐出するインクヘッドと、
前記インクヘッドを保持するキャリッジと、
前記キャリッジに設けられ、前記記録媒体の単位送り出し量当たりの斜行量を検出する斜行検知装置と、をさらに備え、
前記制御装置は、前記斜行検知装置により検出された前記斜行量が0でないときに前記斜行補正処理を実行するように構成されている、請求項1から5までの何れか1つに記載のインクジェット式記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に印刷を行うインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、繰り出しローラ(送り出しローラとも呼ぶ)にロール状に巻き取られた記録媒体を用いて印刷を行うインクジェットプリンタが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなインクジェットプリンタにおいては、印刷を行う前に、ユーザによって記録媒体がプラテン上にセットされる。この際に、記録媒体が適切にセットされていないときには、記録媒体を送り出すと、当該記録媒体が斜行してしまう。斜行した記録媒体に印刷すれば、画像にゆがみが生じ、印刷品質が低下する。また、記録媒体の斜行が悪化すると、記録媒体にシワが生じたりする場合もある。そこで、記録媒体の斜行やシワを抑制するために、特許文献1のインクジェットプリンタにおいては、記録媒体の搬送経路にテンションローラを設け、記録媒体をこのテンションローラにより押さえ付けることにより、当該記録媒体にテンションを付加するような構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−11889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のインクジェットプリンタでは、テンションローラ等を設けることによって構成が大掛かりとなる問題がある。また、記録媒体にテンションを付加するため、記録媒体に損傷を与える恐れもある。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単な構成で、記録媒体に損傷を与える可能性を低減しつつ当該記録媒体の斜行を抑制または防止することができるインクジェット式記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインクジェット式記録装置は、印刷時に前方に搬送されるシート状の記録媒体を支持するプラテンと、ローラの駆動により前記記録媒体を前方に搬送する記録媒体搬送部と、印刷前の前記記録媒体が巻き取られ、回転自在の巻き取り軸と、前記巻き取り軸に接続され、前記記録媒体が巻き取られる方向に前記巻き取り軸を回転させる巻取用モータと、前記巻取用モータの回転動作および前記記録媒体搬送部の動作をそれぞれ制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記巻取用モータを停止させた状態で前記記録媒体搬送部を制御することにより前記記録媒体を前方に所定量送り出した後、前記巻取用モータを制御することにより前記記録媒体を後方に巻き戻す斜行補正処理を実行するように構成されている。
【0008】
本発明に係るインクジェット式記録装置によれば、記録媒体搬送部によって記録媒体を所定量前方に送り出す。その後、巻取用モータを制御することにより記録媒体を後方に巻き戻すようにする。このような斜行補正処理を実行することによって、記録媒体が適切に配置された状態、すなわち、巻き取り軸に巻かれたロール状の記録媒体において当該記録媒体の一端側に弛みが生じていない状態となる。このことによって、印刷時に斜行補正処理後の記録媒体を搬送したときに、当該記録媒体が斜行することが抑制または防止される。詳細には、記録媒体が斜行するのは、巻き取り軸に巻かれているロール状の記録媒体において当該記録媒体の一端側に弛みが生じているためである。このように弛みが生じた状態の記録媒体を前方に所定量送り出した後、当該記録媒体を後方に巻き戻す際に、記録媒体の他端側、つまり弛みが生じていない側の記録媒体の部分が、弛みが生じている一端側の部分よりも先に巻き戻される現象が起こる。これは、記録媒体の上記他端側の部分には、上記一端側の部分よりも大きなバックテンション(つまり、後方に向けて作用するテンション)が生じるためであると考えられる。これによって、上記弛みが解消され、記録媒体が適切に配置された状態に補正することができる。この結果、記録媒体の斜行を抑制または防止することができる。また、テンションローラ等の部材を用いて記録媒体にテンションを付加することがないので、当該記録媒体に損傷を与える可能性を低減することができる。以上により、テンションローラ等の大掛かりな構成部材を用いることなく簡単な構成で、記録媒体に損傷を与える可能性を低減しつつ当該記録媒体の斜行を抑制または防止することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡単な構成で、記録媒体に損傷を与える可能性を低減しつつ当該記録媒体の斜行を抑制または防止することができるインクジェット式記録装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタの斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタにおいて記録紙がセットされた状態の図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタにおいて記録紙が送り出された状態の図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタにおいて記録紙が巻き戻された状態の図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る斜行検知装置の平面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタで用いる記録紙の弛みを示す図である。
【
図7】(a)は本発明の他の実施形態に係る揺動機構の平面図であり、(b)は揺動機構の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態に係るインクジェット式記録装置は、記録媒体としての記録紙Kに印刷を行うインクジェットプリンタ100である。本明細書においては、後述するインクヘッド107が移動する方向を「主走査方向」と適宜に称することとする。主走査方向は記録紙Kの幅方向に対応する。また、主走査方向と垂直な方向を「副走査方向」と適宜に称することとする。図面中の符号Yは主走査方向を表す。本実施形態では、主走査方向Yは左右方向である。図面中の符号Xは副走査方向を表す。本実施形態では、副走査方向Xは前後方向である。以下の説明では、左、右、上、下とは、インクジェットプリンタ100の正面にいる作業者から見た左、右、上、下をそれぞれ意味することとする。また、インクジェットプリンタ100から上記作業者に近づく方を前方、遠ざかる方を後方とする。
図1において、符号F、Re、L、R、U、Dは、それぞれ前、後、左、右、上、下を表している。但し、これらは説明の便宜上の方向に過ぎず、本実施形態に係るインクジェットプリンタ100の設置態様を何ら限定するものではない。なお、上記の記録媒体は、他のシート状の記録媒体、例えば、樹脂製のシート等であってもよい。また、記録媒体は、可撓性を有するシート状のものに限らず、ガラス基板等の硬い記録媒体であってもよい。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係るインクジェットプリンタ100は、本体部101と、側方部102、103と、プラテン104と、脚部105、106と、インクヘッド107と、を備えている。本体部101は、左右方向に延びた筐体である。プラテン104は、本体部101の内方に設けられ、印刷時に記録紙Kを支持する。本体部101の左部には筐体の側方部102が取り付けられている。本体部101の右部には側方部103が取り付けられている。プラテン104は、下方に向かって湾曲して形成されたエプロンガイド104aを前方に備えている。本体部101の下部には、当該本体部101を支持する脚部105、106が取り付けられている。脚部106は、脚部105の右方に位置している。記録紙Kは、プラテン104上を前方に搬送される。なお、インクジェットプリンタ100は、インクヘッド107に加え、紫外線を照射する照射装置を備えていてもよい。また、インクジェット100は、記録媒体をカットするカッティングヘッドを備えていてもよい。
【0013】
インクヘッド107は、本体部101の内方に配置されている。インクヘッド107は、プラテン104よりも上方に配置されている。図示は省略するが、インクヘッド107は、下方に開いた複数のノズルを備えており、それらのノズルからインクを吐出する。インクの種類は何ら限定されず、紫外線が照射されると硬化するインク(いわゆるUVインク)、溶剤インク等であってもよい。インクヘッド107は、当該インクヘッド107の後方に設けられたキャリッジ108に保持されている。キャリッジ108は、左右方向に延びるガイドレール109に係合されている。キャリッジ108は、左方または右方に移動するように構成されている。キャリッジ108の移動に伴って、インクヘッド107も左方または右方に移動する。インクヘッド107は、左右に移動しながらインクを吐出する。
【0014】
インクジェットプリンタ100は、記録紙Kを搬送する搬送装置の一例として、円筒状のグリッドローラ1を備えている。グリッドローラ1は主走査方向Yに延びている。グリッドローラ1はプラテン104に設けられている。グリッドローラ1はプラテン104に埋設されている。グリッドローラ1の上部は、プラテン104から露出している。グリッドローラ1は、印刷時に記録紙Kを下方から支持する。グリッドローラ1は、ローラ駆動部3(
図2参照)によって駆動される。ローラ駆動部3は例えばモータである。グリッドローラ1は、記録紙Kを前方に搬送する。グリッドローラ1の上方には、複数のピンチローラ2が配置されている。各ピンチローラ2は、互いに所定間隔を空けて左右方向に並設されている。ピンチローラ2は、グリッドローラ1に対向して配置されている。ピンチローラ2には、当該ピンチローラ2を昇降させる昇降駆動部4(
図2参照)が接続されている。昇降駆動部4は例えばモータである。ピンチローラ2は、昇降可能に構成されている。ピンチローラ2が下方に移動すると、記録紙Kはピンチローラ2とグリッドローラ1との間に挟まれる。記録紙Kがピンチローラ2とグリッドローラ1とに挟まれた状態でグリッドローラ1が回転することにより、記録紙Kは前方に搬送される。
【0015】
図2に示すように、プラテン104の後方には、記録紙Kを供給する回転自在の巻き取り軸5が設けられている。巻き取り軸5には、印刷前の記録紙Kがロール状に巻かれている。グリッドローラ1が記録紙Kを前方に搬送することにより、記録紙Kは巻き取り軸5から送り出される。ここで、本実施形態では、巻き取り軸5には、巻取用モータ6が接続されている。巻き取り軸5は、巻取用モータ6によって記録紙Kが巻き戻される方向に回転するようになっている。巻き取り軸5は、記録紙Kが巻き戻される方向に対して垂直である。なお、厳密に言えば、巻き取り軸5の「垂直」は、記録紙Kが巻き戻される方向である後ろ方向Reに対して垂直を成すだけでなく、主走査方向Yの辺と副走査方向Xの辺とで構成される平面に対して垂直な方向である上下方向(つまり符号UとDの方向)に対しても垂直であることが求められる。実際には、インクジェットプリンタ100は、機体設置時に巻き取り軸5が上下方向に対して垂直となるように微調整が行われる。本実施形態では、巻き取り軸5を上下方向に対して垂直とするための調整は理想的に行われているものとする。巻き取り軸5によって巻き戻される記録紙の移動方向は後方、すなわち前述のピンチローラ2とグリッドローラ1とにより前方に移動する記録紙Kの移動方向と逆方向である。なお、巻き取り軸5による記録紙Kの巻き戻しについては後述する。
【0016】
図2に示すように、プラテン104の上方に、記録紙Kの巻き戻し時に、プラテン104上で記録紙Kの斜行補正動作を補助する斜行補正補助部10が設けられている。本実施形態では、斜行補正補助部10として、ボールローラ8および昇降駆動部9を採用する。ボールローラ8は、記録紙Kに上方から接触する球体のボール部8aと、当該ボール部8aの上部を覆い、ボール部8aを回転可能に支持する本体部8bとを備えている。昇降駆動部9は、ボールローラ8を昇降させる。昇降駆動部9は例えばモータである。ボールローラ8は、前後方向に並んで2つ設けられていると共に左右方向に並んで2つ設けられている。本実施形態では、ボールローラ8は計4つ設けられている。ボールローラ8は、後で詳述する記録紙Kの巻き戻し時に、ボール部8aが記録紙Kに上方から接触するように昇降駆動部9により下降されるように構成されている。昇降駆動部9により下降されたボールローラ8は、プラテン104上に記録紙Kを所定の力で押し当てながら、記録紙Kの前後左右方向の動きを可能にする。なお、ボールローラ8および昇降駆動部9はなくてもよい。この場合、記録紙Kの斜行補正は、ピンチローラ2が昇降駆動部4によりグリッドローラ1の上方に持ち上げられた状態で、斜行補正が実施されることになる。また、ボールローラ8よりも前方にかつプラテン104のエプロンガイド104aの下方にペーパーセンサ11が設けられている。ペーパーセンサ11は、記録紙Kの有無を検知する。ペーパーセンサ11は、例えば超音波センサである。なお、ペーパーセンサ11として、超音波センサ以外のセンサを用いてもよい。
【0017】
インクジェットプリンタ100(
図1参照)は、制御装置7を備えている。制御装置7は、コンピュータで構成されている。図示は省略するが、制御装置7は、中央演算処理装置(CPU)と、当該中央演算処理装置が実行するプログラムを格納したROM、RAM等とを備えている。制御装置7は、ローラ駆動部3の動作、巻取用モータ6の動作、および昇降駆動部4,9の動作をそれぞれ制御する。
【0018】
次に、記録紙Kの斜行を補正するための斜行補正処理について説明する。インクジェットプリンタ100において印刷を開始する前に、作業者により記録紙Kがプラテン104上に配置される。このとき、ピンチローラ2およびボールローラ8は、それぞれ記録紙Kに接触しないようプラテン104の上方に配置される。プラテン104には、記録紙Kの位置決めを行うための図示しない目印が設けられている。前記目印は例えばプラテン104の上面の右端に設けられている。作業者は、記録紙Kの前端Kfの右端が目印に合うように当該記録紙Kをセットする。なお、記録紙Kのセット時に当該記録紙Kの位置決めを行うための目印の位置は特に限定されるものではなく、プラテン104の上面の左端に設けるようにしてもよい。
図2に示すように、作業者は、記録紙Kの前端Kfがプラテン104のエプロンガイド104a上の位置でかつペーパーセンサ11よりも後方の位置P1に配置されるように記録紙Kをセットする。ここで、上記のように記録紙Kを目印に合わせてセットする際に、
図6に示すように、巻き取り軸5に巻き取られている記録紙Kの右端に弛みTが生じることがある。右端の弛みTとは、巻き取り軸5に巻き取られている記録紙Kの最外面に接触せずに当該最外面から浮いている部分のことをいう。このような弛みTが生じた状態の記録紙Kを搬送すると、当該記録紙Kは斜行してしまう。すなわち、このような弛みTが、記録紙Kが斜行してしまう原因となる。そこで、本実施形態では、以下のような斜行補正処理を行う。
【0019】
図2の状態から、まず、
図3に示すように、昇降駆動部4によりピンチローラ2を記録紙Kに接触する位置まで下降させる。そして、巻取用モータ6を停止させた状態でローラ駆動部3によりグリッドローラ1を回転させて、
図3に示すように、記録紙Kを前方に所定量送り出す。この場合、記録紙Kは、当該記録紙Kの前端Kfがペーパーセンサ11よりも前方の位置P2まで送り出される。なお、ボールローラ8は、記録紙Kに接触しないように待機している。
【0020】
次に、
図4に示すように、昇降駆動部4によりピンチローラ2を上方に移動させて退避させると共に、昇降駆動部9によりボールローラ8を記録紙Kに接触する位置まで下降させる。この状態で、巻取用モータ6により巻き取り軸5を回転(
図4において反時計回りに回転)させて記録紙Kを後方に巻き戻す。この場合、記録紙Kは、当該記録紙Kの前端Kfがペーパーセンサ11に検知される位置P3まで巻き戻される。このとき、記録紙Kは、当該記録紙Kの上面がボールローラ8のボール部8aに接触しながら巻き戻される。このように記録紙Kを後方に巻き戻す際には、
図6に示すように、記録紙Kの左端Kl側の部分が、弛みTが生じている右端Kr側の部分よりも先に巻き戻される現象が起こる。記録紙Kの左端Kl側の部分には、右端Kr側の部分よりも大きなバックテンション(つまり、後方に向けて作用するテンション)が生じると考えられるためである。記録紙Kの左端Kl側の部分に生じたバックテンションが記録紙Kにかかると、巻き取り軸5に巻き取られる際に、記録紙Kは巻き取り方向に移動しながら、左方向に徐々に移動を始める。これによって、上記弛みTが解消され、記録紙Kが適切に配置された状態に補正することができる。なお、記録紙Kの巻き戻し時には、当該記録紙Kがペーパーセンサ11により検知されればよく、記録紙Kを当該記録紙Kの前端Kfよりも後方の部分がペーパーセンサ11に検知されるように巻き戻してもよい。
【0021】
ここで、上述の
図3のように記録紙Kを前方に送り出す際に、記録紙Kが斜行しているか否かを検知するようにする。
図5に示すように、キャリッジ108には、記録紙Kの斜行を検知する斜行検知装置12が設けられている。斜行検知装置12は例えば光学センサである。ただし、斜行検知装置12は光学センサに特に限定されるわけではなく、他のセンサを用いてもよい。斜行検知の際には、まず、斜行検知装置12によって、記録紙Kの前端Kfの右端Kfrの位置を検出する。次に、記録紙Kを一定量G1だけ送り出した後に、斜行検知装置12によって記録紙Kの右端Krの位置を検出する。上記2つの検出結果の差に基づいて単位送り量当たりの斜行量G2を検出する。なお、斜行検知の際に記録紙Kの左端を検出するようにしてもよい。斜行検知装置12により検出された斜行量G2が0でないとき、つまり弛みT(
図6参照)が生じているときに、上述の斜行補正処理を実行すればよい。
【0022】
以上のように、本実施形態によれば、グリッドローラ1によって記録紙Kを所定量前方に送り出す。その後、巻取用モータ6を制御することにより記録紙Kを後方に巻き戻すようにする。このような斜行補正処理を実行することによって、記録紙Kが適切に配置された状態、すなわち、巻き取り軸5に巻かれたロール状の記録紙Kにおいて当該記録紙Kの一端側に弛みTが生じていない状態となる。このことによって、印刷時に斜行補正処理後の記録紙Kを搬送したときに、当該記録紙Kが斜行することが抑制または防止される。詳細には、記録紙Kが斜行するのは、巻き取り軸5に巻かれているロール状の記録紙Kにおいて当該記録紙Kの一端側に弛みTが生じているためである。このように弛みTが生じた状態の記録紙Kを前方に所定量送り出した後、当該記録紙Kを後方に巻き戻す際に、記録紙Kの他端側、つまり弛みTが生じていない側の記録紙Kの部分が、弛みTが生じている一端側の部分よりも先に巻き戻される現象が起こる。記録紙Kの上記他端側の部分には、上記一端側の部分よりも大きなバックテンション(つまり、後方に向けて作用するテンション)が生じるためであると考えられる。これによって、上記弛みTが解消され、記録紙Kが適切に配置された状態に補正することができる。この結果、斜行補正処理後において記録紙Kの斜行を抑制または防止することができる。また、テンションローラ等の部材を用いて記録紙Kにテンションを付加することがないので、当該記録紙Kに損傷を与える可能性を低減することができる。以上により、テンションローラ等の大掛かりな構成部材を用いることなく簡単な構成で、記録紙Kに損傷を与える可能性を低減しつつ当該記録紙Kの斜行を抑制または防止することができる。
【0023】
また、本実施形態によれば、斜行検知装置12により記録紙Kの斜行量が検知されたときに、斜行補正処理を実行するようにする。これにより、記録紙Kが斜行していないときには、斜行補正処理の実行が不要となるので、当該記録紙Kの搬送を迅速に行うことができる。
【0024】
また、本実施形態によれば、記録紙Kの巻き戻し時に、ピンチローラ2による記録紙Kの押し当てが解除されると共に、プラテン104の記録紙Kに対する摩擦力が斜行補正補助部10により低減される。これにより、記録紙Kの巻き戻し時における当該記録紙Kに対する負荷を低減することができる。これによって、巻き戻し時に記録紙Kにシワや損傷等が生じることを回避することができる。
【0025】
また、本実施形態によれば、記録紙Kの巻き戻し時に、ピンチローラ2による記録紙Kの押し当てが解除され、記録紙Kは巻き取り方向に移動しながら、当該記録紙Kの斜行状態が解消する方向に徐々に移動を始める。これによって、巻き戻し時に記録紙Kにシワや損傷等が生じることを回避することができる。
【0026】
また、本実施形態によれば、斜行補正処理時に、記録紙Kは、ペーパーセンサ11よりも後方の位置P1から当該ペーパーセンサ11よりも前方の位置P2まで送り出される。このため、記録紙Kが確実に前方へ送り出されたか否かをペーパーセンサ11によって検知することができる。
【0027】
また、本実施形態によれば、斜行補正処理時に、ペーパーセンサ11よりも前方の位置P2まで送り出された記録紙Kは、少なくともペーパーセンサ11に検知される位置P3まで巻き戻されるようになっている。これによって、斜行補正終了後に印刷を開始する際に、ペーパーセンサ11に検知される位置まで記録紙Kを再び送り出す処理が不要となり、記録紙Kの搬送処理の迅速化を図ることができる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、上述の実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で以下のように実施することが可能である。
【0029】
上記実施形態の構成に、次のような記録紙Kを揺動させる揺動機構16を付加してもよい。
図7(a),(b)に示すように、揺動機構16は、主走査方向Yに延び、記録紙Kに下方から接触することにより当該記録紙Kを上下方向に揺動させる回転自在のカム13と、カム13に設けられた回転軸14と、回転軸14に接続された揺動用モータ15とを備えている。また、プラテン104には、主走査方向Yに延びる矩形状の孔部104bが設けられている。カム13は、回転角度によって当該カム13の少なくとも一部がプラテン104の孔部104bから上方に突出するように設けられている。このような構成において、制御装置7(
図2参照)は、記録紙Kの巻き戻し時に、揺動用モータ15を駆動することによりカム13を回転させる。記録紙Kの巻き戻し時にカム13を回転させることにより、記録紙Kを上下方向に揺動させるようにする。これにより、記録紙Kの弛みTが解消され易くなり、記録紙Kが適切に配置された状態に補正し易くなる。すなわち、斜行補正を促進することができる。
【0030】
また、上記実施形態では、斜行補正補助部10として、ボールローラ8および昇降駆動部9を用いるようにしたが、これに限定されるものではない。斜行補正補助部10として、例えば空気供給機構などを採用してもよい。この場合、記録紙Kの巻き戻し時に、空気供給機構により記録紙Kに上方から空気を供給することによって当該記録紙Kの巻き戻しを補助するようにする。
【0031】
また、上記実施形態では、斜行検知装置12により検出された斜行量G2が0でないとき、言い換えれば、記録紙Kに弛みTが生じているときに斜行補正処理を実行するようにしたが、これに限定されるものではない。斜行検知装置12により検出された斜行量G2が0であるときにも斜行補正処理を実行するようにしてもよい。これにより、信頼性の向上をより図ることができる。
【0032】
また、上記実施形態では、記録紙Kが当該記録紙Kの前端Kfがペーパーセンサ11に検知される位置P3まで巻き戻されるように構成したが、これに限定されるものではない。ペーパーセンサ11に検知されない位置まで巻き戻すようにしてもよい。
【0033】
また、上記実施形態では、揺動機構16としてカム13を用いるようにしたが、これに限定されるものではない。プラテン104の下方から孔部104bを介して記録紙Kに対し当該記録紙Kを揺動させるための空気を供給するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 グリッドローラ
2 ピンチローラ
3 ローラ駆動部
4 昇降駆動部(第1昇降駆動部)
5 巻き取り軸
6 巻取用モータ
7 制御装置
8 ボールローラ
8a ボール部
8b 本体部
9 昇降駆動部(第2昇降駆動部)
10 斜行補正補助部
11 ペーパーセンサ(センサ)
12 斜行検知装置
13 カム
14 回転軸
15 揺動用モータ
16 揺動機構
100 インクジェットプリンタ
104 プラテン
104a エプロンガイド
104b 孔部
107 インクヘッド
108 キャリッジ
K 記録紙
X 副走査方向
Y 主走査方向