(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記結合材が、更に、非晶質コージェライト、アルミナ、ムライト、スピネル、サフィリン、及び、クリストバライトから構成される群より選択される少なくとも1種を含む請求項3に記載の多孔質材料。
珪素を含む非酸化物からなる骨材粉体に、コージェライト化原料を含む結合材用原料と有機バインダとを添加して混合して混合物を得た後、前記混合物を成形して成形体を得る成形工程と、
得られた前記成形体を、酸素を含有する雰囲気下で仮焼して前記成形体中の有機バインダを除去し、その後、1370〜1450℃の温度範囲で本焼成を行って、前記骨材粉体同士を酸化物セラミックによって結合させた多孔質の焼成体を得る焼成工程と、
得られた前記焼成体を、酸素を含有する雰囲気下、1000〜1400℃の温度範囲で1〜20時間熱処理をすることにより、前記骨材粉体における前記酸化物セラミックとの境界面を含む表面に、膜厚が0.2〜3.0μmの酸素を含む相を形成させて、多孔質材料を得る多孔質材料形成工程と、を有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の多孔質材料の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0026】
(1)多孔質材料:
本発明の多孔質材料の一実施形態は、
図1に示すように、珪素を含む非酸化物からなる骨材30と、この骨材30同士を、複数の細孔37を保持した状態で結合させた酸化物セラミックからなる結合材32と、により構成されている。そして、本実施形態の多孔質材料は、骨材30における結合材32との境界面を含む表面に、酸素を含む相35を有するものである。
図1は、本発明の多孔質材料の一の実施形態を拡大して模式的に示す断面図である。
【0027】
このような多孔質材料は、骨材における結合材との境界面を含む表面に酸素を含む相(以下、「酸化膜」と記す場合がある)を有しているので、低酸素雰囲気下で高温に晒された場合においても損傷し難く、耐熱性が向上されたものである。
【0028】
ここで、従来、炭化珪素を骨材とし、結合材として金属珪素を用いて構成される多孔質体においては、その表面の酸化を防止するために、外気に曝される表面を酸化膜で覆うことがある。このように、外気に曝される表面を酸化膜で覆うことにより多孔質体の表面の酸化を防止すること自体は知られている。しかし、本発明においては、骨材と結合材との境界面を含む表面にも酸化膜が形成されており、この酸化膜が形成されることにより、多孔質材料において優れた耐熱性が発揮されることになる。
【0029】
(1−1)骨材:
骨材は、珪素を含む非酸化物からなるものである。この骨材としては、炭化珪素(SiC)粒子、窒化珪素(Si
3N
4)粒子、ムライト(Al
6Si
2O
13)粒子等を挙げることができる。これらの中でも、炭化珪素(SiC)粒子又は窒化珪素(Si
3N
4)粒子が好ましく、炭化珪素(SiC)粒子が更に好ましい。炭化珪素(SiC)粒子を骨材として使用することにより、熱伝導率が増加するという利点がある。
【0030】
骨材中の酸素の含有割合は、骨材の質量の2〜25質量%であることが好ましく、7〜17質量%であることが更に好ましい。上記範囲とすることにより、耐熱性と耐熱衝撃性が両立する。骨材中の酸素の含有割合が上記下限値未満であると、骨材であるSiCが酸化するため、低酸素雰囲気下でフィルターが損傷するおそれがある。骨材中の酸素の含有割合が上記上限値超であると、熱膨張が増加するため、耐熱衝撃性が低下するおそれがある。なお、「骨材中の酸素の含有割合」は、X線回折を用いリートベルト解析にて算出した値である。得られた回折パターンを各結晶における結晶構造パラメータを用いて精密化する手法がリートベルト解析法である。
【0031】
骨材の平均粒子径は、8〜52μmであることが好ましく、10〜45μmであることが更に好ましく、13〜35μmであることが特に好ましい。骨材の平均粒子径が上記下限値未満であると、圧力損失が大きくなることがある。骨材の平均粒子径が上記上限値超であると、ハニカム構造体を成形する場合には、口金の目詰まりの原因となり成形不良を起こすことがある。なお、「骨材の平均粒子径」は、レーザー回折法を用いて測定した値である。
【0032】
(1−2)酸素を含む相:
酸素を含む相は、骨材と結合材との境界面を含む表面に形成される相である。この酸素を含む相が境界面を含む表面にも形成されることにより、上述の通り、多孔質材料において優れた耐熱性が発揮されることになる。
【0033】
酸素を含む相(酸化膜)は、骨材と結合材との境界面を含む表面にも形成されていればよい。即ち、骨材の表面(骨材と結合材との境界面を含む)の全部に酸化膜が形成されていてもよいし、骨材における上記境界面の少なくとも一部を含む表面に酸化膜が形成されていてもよい。なお、骨材の表面の全部に酸化膜が形成されている場合とは、EPMA(X線マイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer))を用いて、酸化膜を確認するための任意の視野(200倍〜5000倍)において、この視野内の全ての骨材が酸化膜によって覆われていることが確認された場合を意味する。
【0034】
酸素を含む相は、クリストバライト(結晶性シリカ)を含むものであ
る。このような相であると、エンジン運転環境下でも安定的に存在しSiCのアクティブ酸化による発熱を抑制できる。なお、酸素を含む相がクリストバライトを含むことは、X線回折を用いて確認することができる。
【0035】
酸素を含む相中のクリストバライトの含有割合は、5〜25質量%であ
り、8〜21質量%であること
が好ましい。上記範囲とすることにより、SiCの酸化による発熱を抑制できる。酸素を含む相中のクリストバライトの含有割合が上記下限値未満であると、SiCのアクティブ酸化による発熱が起きるため、フィルターが損傷するおそれがある。酸素を含む相中のクリストバライトの含有割合が上記上限値超であると、熱膨張が大きくなるため、耐熱衝撃性が低下するおそれがある。なお、「酸素を含む相中のクリストバライトの含有割合」は、X線回折を用いて測定した値である。
【0036】
酸素を含む相には、クリストバライト以外に、Ce、Na、Mg、Al、Feが含まれていてもよい。
【0037】
酸素を含む相の膜厚は、0.2〜3.0μmであ
り、0.5〜2.5μmであること
が好ましく、0.6〜2.0μmであることが
更に好ましい。酸素を含む相の膜厚を上記範囲とすることにより、SiCのアクティブ酸化による発熱を抑制できる。酸素を含む相の膜厚が上記下限値未満であると、SiCのアクティブ酸化による発熱が起きるため、フィルターが損傷するおそれがある。酸素を含む相の膜厚が上記上限値超であると、熱伝導率が低下するため、フィルター内で温度差が生じやすく耐熱衝撃性が低下するおそれがある。なお、酸素を含む相の膜厚は、SEM(走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope))やEPMAを用いて、SiC周囲に存在する酸素相の位置を複数回測定し、その平均値のことである。
【0038】
なお、酸素を含む相の膜厚は、熱処理温度や熱処理時間を調整することにより調整することができる。
【0039】
(1−3)結合材:
結合材は、骨材同士を、複数の細孔を保持した状態で結合させた酸化物セラミックからなるものである。このように結合材が、骨材同士を複数の細孔を保持した状態で結合させるため、複数の気孔が形成された多孔質材料を得ることができる。
【0040】
酸化物セラミックとしては、具体的には、コージェライト、ムライト、アルミナなどがある。
【0041】
結合材は、結晶質のコージェライトを、結合材全体に対して50質量%以上含有することが好ましく、70〜95質量%含有することが更に好ましい。結合材中の結晶質のコージェライトの含有割合を上記範囲とすることにより、熱膨張を小さくし熱応力を抑制することができる。結合材中の結晶質のコージェライトの含有割合が50質量%未満であると、熱膨張が大きくなるため、耐熱衝撃性が悪化し、フィルターが損傷するおそれがある。なお、「結合材中の結晶質のコージェライトの含有割合」は、X線回折を用いて測定した値である。
【0042】
結合材は、更に、非晶質コージェライト、アルミナ、ムライト、スピネル、サフィリン、及び、クリストバライトから構成される群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。結合材がこれらの成分を更に含有することにより、結合部分へのクラックの進展を抑制できる。結合材がこれらの成分を含有する否かの確認は、SEMやX線回折を用いて行うことができる。
【0043】
本発明の多孔質材料は、気孔率が35〜75%であることが好ましく、40〜72%であることが更に好ましく、50〜70%であることが特に好ましい。多孔質材料の気孔率が上記下限値未満であると圧力損失が大きくなるおそれがある。多孔質材料の気孔率が上記上限値超であると強度が低くなり、本発明の多孔質材料によってハニカム構造体を成形して、このハニカム構造体を缶体に収納する際にハニカム構造体が破損するおそれがある。なお、「多孔質材料の気孔率」は、水銀圧入法(JIS R 1655準拠)による全細孔容積(単位:cm
3/g)と水中アルキメデス法による見掛け密度(単位:g/cm
3)から、算出した値である。
【0044】
本発明の多孔質材料は、平均細孔径が8〜32μmであることが好ましく、10〜27μmであることが更に好ましく、12〜23μmであることが特に好ましい。多孔質材料の平均細孔径が上記下限値未満であると、圧力損失が大きくなるおそれがある。多孔質材料の平均細孔径が上記上限値超であると、本実施形態の多孔質材料をDPF等として用いたときに、排ガス中の粒子状物質の一部が捕集されずにDPF等を透過するおそれがある。本明細書において、平均細孔径は、水銀圧入法(JIS R 1655準拠)で測定した値である。
【0045】
本発明の多孔質材料は、曲げ強度が5MPa以上であることが好ましく、7MPa以上であることが更に好ましく、9MPa以上であることが特に好ましい。多孔質材料の曲げ強度が上記下限値未満であると、耐熱衝撃性が低下するおそれがある。本実施形態の多孔質材料の構成上、50MPa程度が上限となる。本明細書において、曲げ強度は、JIS R1601に準拠した「曲げ試験」により測定した値である。
【0046】
本発明の多孔質材料は、熱膨張係数が5.5×10
−6/K以下であることが好ましく、2.0×10
−6〜5.3×10
−6/Kであることが更に好ましく、2.0×10
−6〜5.0×10
−6/Kであることが特に好ましい。なお、熱膨張係数は小さいほど好ましいが、本発明の構成上、2.0×10
−6/Kが下限となる。多孔質材料の熱膨張係数が上記上限値超であると、耐熱衝撃性が低下するため、フィルターが損傷するおそれがある。なお、「熱膨張係数」は、JIS R 1618に準拠する方法で、測定した値である。具体的には、例えば多孔質材料がハニカム構造体である場合、ハニカム構造体から縦3セル×横3セル×長さ20mmの試験片を切り出し、40〜800℃のA軸方向(ハニカム構造体のセルの延びる方向)の熱膨張係数を測定した値である。
【0047】
(2)ハニカム構造体:
本発明のハニカム構造体の一の実施形態は、
図2、
図3に示すハニカム構造体100である。このハニカム構造体100は、上述した本発明の多孔質材料により構成されている。そして、ハニカム構造体100は、一方の端面である第一端面11から他方の端面である第二端面12まで延びる複数のセル2を区画形成する隔壁1を備える形状のものである。
【0048】
ハニカム構造体100は、上述した本発明の多孔質材料により構成されているため、低酸素雰囲気下で高温に晒された場合においても損傷し難く、耐熱性が向上されたものである。
【0049】
隔壁1の厚さは、100〜500μmであることが好ましく、125〜400μmであることが更に好ましい。上記隔壁1の厚さが
上記下限値未満であると、強度が低下するため、ハニカム構造体を缶体に収納する時にハニカム構造体が破損するおそれがある。上記上限値超であると、圧力損失が上昇するおそれがある。
【0050】
ハニカム構造体100のセル形状(セルが延びる方向に直交する断面におけるセル形状)としては、特に制限はない。セル形状としては、三角形、四角形、六角形、八角形、円形、あるいはこれらの組合せを挙げることができる。四角形のなかでは、正方形または長方形が好ましい。
【0051】
ハニカム構造体100のセル密度は、15〜77セル/cm
2であることが好ましく、20〜62セル/cm
2が更に好ましく、23〜54セル/cm
2が特に好ましい。上記セル密度が
上記下限値未満であると、強度が低下するため、ハニカム構造体を缶体に収納する時にハニカム構造体が破損するおそれがある。上記セル密度が
上記上限値超であると、圧力損失が上昇するおそれがある。
【0052】
ハニカム構造体の形状としては、特に限定されず、円筒状、底面が多角形(三角形、四角形、五角形、六角形等)の
柱状等を挙げることができる。
【0053】
ハニカム構造体100は、
図2、
図3に示すように、複数個の柱状のハニカムセグメント17と、これら複数個のハニカムセグメント17の側面同士を接合するように配置された接合層15と、を備えている。このようなセグメント構造とすることにより、ハニカム構造体をフィルターとして使用する際にハニカム構造体が受ける応力を緩和させることができる。
【0054】
ハニカム構造体100は、第一端面11における所定のセル2(流出セル2b)の開口部及び第二端面12における残余のセル2(流入セル2a)の開口部に配設された目封止部8を備えている。本発明のハニカム構造体をDPF等として使用する場合には、このような構造であることが好ましい。即ち、目封止部8を備えることにより、本発明のハニカム構造体に流入した排ガスは、隔壁でろ過されるため、排ガス中の粒子状物質を良好に捕集することができる。なお、ハニカム構造体100において流入セル2aと流出セル2bとは、交互に並んでいる。それによって、ハニカム構造体100の第一端面11及び第二端面12のそれぞれに、目封止部8と「セルの開口部」とにより、市松模様が形成されている。
【0055】
目封止部8の材質とハニカムセグメント17の材質とは、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。
【0056】
ハニカム構造体100は、
図2、
図3に示すように、その外周に外周コート層20を有していてもよい。この外周コート層20は、ハニカムセグメントと同じ材質とすることができる。外周コート層20を形成することにより、ハニカム構造体100の搬送中などに外力を受けたとしても欠けなどの欠陥を生じ難くなる。
【0057】
(3)多孔質材料の製造方法:
本発明の多孔質材料は、以下の方法で製造することができる。即ち、本発明の多孔質材料は、成形工程と、焼成工程と、多孔質材料形成工程と、を有する方法により製造できる。成形工程は、珪素を含む非酸化物からなる骨材粉体に、コージェライト化原料を含む結合材用原料と有機バインダとを添加して混合して混合物を得た後、この混合物を成形して成形体を得る工程である。焼成工程は、成形体を、酸素を含有する雰囲気下で仮焼して成形体中の有機バインダを除去し、その後、1370〜1450℃の温度範囲で本焼成を行って、骨材粉体同士を酸化物セラミックによって結合させた多孔質の焼成体を得る工程である。多孔質材料形成工程は、得られた焼成体を、酸素を含有する雰囲気下、1000〜1400℃の温度範囲で
1〜20時間熱処理をすることにより、骨材粉体における酸化物セラミックとの境界面を含む表面に、
膜厚が0.2〜3.0μmの酸素を含む相を形成させて、多孔質材料を得る工程である。
【0058】
本発明の多孔質材料の製造方法によれば、骨材の表面(骨材と結合材との境界面を含む)に酸素を含む相が形成されることになる。その結果、低酸素雰囲気下で高温に晒された場合においても損傷し難く、耐熱性が向上された多孔質材料を製造することができる。
【0059】
なお、本製造方法によれば、結合材がコージェライトからなる場合、この結合材に含まれるナトリウムなどの不純物が、結合材と骨材との境界面の酸化膜に移動する。そのため、コージェライトからなる結合材の純度が高くなり(即ち、結合材の融点が上がり)、耐熱性が向上する。
【0060】
以下、本発明の多孔質材料の製造方法について、工程毎に説明する。
【0061】
(3−1)成形工程:
まず、骨材粉体に、コージェライト化原料を含む結合材用原料と有機バインダとを添加して混合し、その後、必要に応じて、界面活性剤、造孔材、水等を添加して混合物を得る。その後、得られた混合物を成形して成形体を得る。結合材用原料は、焼成により結合材となるものである。結合材用原料は、コージェライト化原料以外に、希土類元素又はジルコニウム元素が含まれる。
【0062】
珪素を含む非酸化物からなる骨材粉体としては、炭化珪素(SiC)粉末、窒化珪素(Si
3N
4)粉末、ムライト(Al
6Si
2O
13)等を挙げることができる。これらの中でも、炭化珪素(SiC)粉末及び窒化珪素(Si
3N
4)粉末が好ましく、炭化珪素(SiC)粉末が更に好ましい。
【0063】
骨材粉体の平均粒子径は、8〜52μmであることが好ましく、10〜45μmであることが更に好ましい。骨材粉体の平均粒子径は、レーザー回折法で測定した値である。
【0064】
コージェライト化原料とは、焼成によりコージェライトとなる原料を意味する。具体的には、シリカ(SiO
2)が42〜56質量%、アルミナ(Al
2O
3)が30〜45質量%、マグネシア(MgO)が12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように「所定の原料」が混合されたセラミック原料である。「所定の原料」としては、例えば、タルク、カオリン、アルミナ源原料、シリカ等を挙げることができる。尚、アルミナ源原料とは、アルミニウム酸化物、水酸化アルミニウム、ベーマイト等、焼成により酸化物化し、コージェライトの一部を形成する原料のことをいう。
【0065】
有機バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。有機バインダの含有量は、骨材粉体及び結合材用原料の合計100質量部に対して、3〜10質量部であることが好ましい。
【0066】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、骨材粉体及び結合材用原料の合計100質量部に対して、3質量部以下であることが好ましい。
【0067】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0068】
造孔材の含有量は、骨材粉体及び結合材用原料の合計100質量部に対して、0.3〜40質量部であることが好ましい。
【0069】
造孔材の平均粒子径は、10〜70μmであることが好ましい。
【0070】
混合物は、所望の形状に成形することができる。成形する形状や成形方法は、特に限定されず、用途に合わせて適宜決定することができる。
【0071】
なお、多孔質材料用原料(この多孔質材料用原料を特定の形状に成形した場合には、成形された成形体)について、乾燥を行うことが好ましい。乾燥の方法は特に限定されず、例えば、マイクロ波加熱乾燥、高周波誘電加熱乾燥等の電磁波加熱方式と、熱風乾燥、過熱水蒸気乾燥等の外部加熱方式とを挙げることができる。
【0072】
(3−2)焼成工程:
本工程において仮焼は、酸素を含有する雰囲気下において、200〜600℃で、0.5〜20時間行うことができる。「酸素を含有する雰囲気下」とは、大気雰囲気下であることが好ましい。
【0073】
本焼成は、1370〜1450℃の温度範囲で行い、1380〜1420℃の温度範囲で行うことが好ましい。このような温度範囲で本焼成を行うことにより、コージェライト化原料が軟化して骨材と密着し、骨材と結合材の結合が良好になり十分な強度が得られる。本焼成の温度が上記下限値未満であると、骨材と結合材の結合が不十分となり、強度が低下するという不具合が生じる。また、本焼成の温度が上記上限値超であると、結晶質のコージェライトが非晶質化するため、熱膨張係数が大きくなり耐熱衝撃性が低下するという不具合が生じる。
【0074】
本焼成時の雰囲気は、窒素、アルゴン等の非酸化雰囲気下または酸素分圧10%以下の雰囲気下であることが好ましい。また、本焼成は、常圧で行うことが好ましい。また、焼成時間は、1〜20時間とすることが好ましい。なお、仮焼及び本焼成は、例えば、電気炉、ガス炉等を用いて行うことができる。
【0075】
(3−3)多孔質材料形成工程:
本工程では、焼成体を、酸素を含有する雰囲気下、1000〜1400℃の温度範囲で熱処理をする。この温度範囲は、1050〜1350℃の温度範囲で行うことが好ましい。このような温度範囲で熱処理を行うことにより、骨材の表面(骨材と結合材との境界面を含む)に酸素を含む相が形成されることになる。その結果、低酸素雰囲気下で高温に晒された場合においても損傷し難く、耐熱性が向上した多孔質材料を得ることができる。上記熱処理の温度が上記下限値未満であると、SiC表面の酸素相が不十分となるため、フィルターが損傷するという不具合が生じる。また、上記熱処理の温度が上記上限値超であると、SiC表面に形成されるクリストバライト量が増加し熱膨張係数が大きくなるため、耐熱衝撃性が低下するという不具合が生じる。
【0076】
焼成体の熱処理時間は、1〜20時間とすることが好ましく、2〜10時間とすることが更に好ましい。ここでの熱処理時間は、最高温度の保持時間を意味する。上記熱処理時間が上記下限値未満であると、SiC表面の酸素相が不十分となるため、フィルターが損傷するという不具合が生じるおそれがある。また、上記熱処理時間が上記上限値超であると、SiC表面に形成されるクリストバライト量が増加し熱膨張係数が大きくなるため、耐熱衝撃性が低下するという不具合が生じるおそれがある。
【0077】
本工程において、「酸素を含有する雰囲気下」とは、酸素濃度が0.1%以上の条件下であることが好ましい。
【0078】
なお、上述の通り、本製造方法によれば、結合材がコージェライトからなる場合、この結合材に含まれるナトリウムなどアルカリ金属類からなる不純物が、結合材と骨材との境界面に移動する。そのため、酸素を含む相にはアルカリ金属類などの不純物が含まれることになる。このとき、酸素を含む相は、多孔質材料に対して0.05質量%以上(多孔質材料がハニカム構造体である場合には、ハニカム構造体に対して0.05質量%以上)のアルカリ金属類を含むことが好ましく、0.06〜0.5質量%のアルカリ金属類を含むことが更に好ましく、0.08〜0.3質量%のアルカリ金属類を含むことが特に好ましい。このような範囲を満たすことにより、結合相のアルカリ金属を、酸素を含む相が捕捉(トラップ)することができるため、結合相の軟化温度を向上させることができる。酸素を含む相中のアルカリ金属類の含有割合が0.05質量%未満であると、酸素を含む相でアルカリ金属をトラップしておらず、低温で結合相が軟化してしまうため、所望の形状(例えばハニカム形状)を維持できないおそれがある。
【0079】
(4)ハニカム構造体の製造方法:
本発明のハニカム構造体
の製造方法は、上述した本発明の多孔質材料の製造方法における成形工程において、口金を用いて混合物がハニカム形状となるように押出成形してハニカム成形体を得ること以外は、上述した本発明の多孔質材料の製造方法と同様の方法を採用することができる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を、実施例により更に具体的に説明する。本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0081】
(実施例1)
まず、炭化珪素粉末(骨材粉体)及び結合材用原料を76.5:23.5の質量割合で混合し、これに、有機バインダ、造孔材、界面活性剤及び水を加えて、可塑性の坏土(混合物)を作製した。なお、結合材用原料としては、コージェライト化原料として、タルクを7.8質量%、アルミナを10.0質量%、コロイダルシリカを12.9質量%有するものを用いた。有機バインダとしては、メチルセルロースを用いた。炭化珪素粉末の平均粒子径は、20μmであった。
【0082】
得られた坏土を押出成形して、隔壁の厚さが300μm、セル密度が50セル/cm
2、一辺35mmの正四角形の端面を有し、長さが150mmの四角柱状のハニカム成形体(成形体)を得た。
【0083】
このハニカム成形体について、大気雰囲気下、450℃、10時間の条件で仮焼を行った。その後、1400℃、5時間の条件で本焼成を行って多孔質の焼成体(ハニカム焼成体)を作製した。
【0084】
次に、得られたハニカム焼成体を、酸素を含有する雰囲気下(大気雰囲気下)、1220℃、7時間の条件で熱処理をすることにより、ハニカム構造体(多孔質材料)を作製した。このハニカム構造体は、一方の端面である第一端面から他方の端面である第二端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えていた。そして、得られたハニカム構造体は、骨材粉体における結合材(コージェライト)との境界面を含む表面の全体に、酸素を含む相(12.8質量%のクリストバライトを含む相)が形成されていた。酸素を含む相の厚さは、1.3μmであった。
【0085】
得られたハニカム構造体について、以下の各項目の測定を行った。なお、「軟化温度」は、以下のように測定を行った。結果を表1に示す。
【0086】
気孔率は、水銀圧入法(JIS R 1655準拠)による全細孔容積(単位:cm
3/g)と水中アルキメデス法による見掛け密度(単位:g/cm
3)から、算出した。
【0087】
平均細孔径は、水銀圧入法(JIS R 1655準拠)で測定した。
【0088】
熱膨張係数は、JIS R 1618に準拠する方法で測定した。
【0089】
曲げ強度は、JIS R1601に準拠した「曲げ試験」により測定した。
【0090】
[軟化温度の測定]
まず、得られたハニカム構造体から、一辺6.4mmの正四角形の端面を有し、長さが50mmの四角柱状の試験片
50を切り出した。次に、この試験片50を、
図4に示すように測定具45に設置し、重り(50gの分胴40)を乗せて荷重を加えた。そして、上記試験片50に荷重を加えた状態で、温度上昇速度7.5℃/分の条件で1500℃まで加熱した。このときの試験片50の寸法を随時測定して寸法収縮曲線(
図5参照)を描いた。そして、得られた寸法収縮曲線において、大きな寸法変化が確認された前後における接線A,Bを引き、これらの交わる交点Pの温度を求めた(
図5参照)。この交点Pにおける温度を「軟化温度」とした。
【0091】
[総合評価]
上記各項目の結果から、総合評価を行った。評価基準は、気孔率、平均細孔径、熱膨張係数、曲げ強度、軟化温度がいずれも特に好ましい範囲を十分満たしたときを「A」とした。気孔率、平均細孔径、熱膨張係数、曲げ強度、軟化温度のいずれかが好ましい範囲ではあるが特に好ましい範囲から外れたときを「B」とした。気孔率、平均細孔径、熱膨張係数、曲げ強度のいずれかが好ましい範囲から外れたときを「C」とした。軟化温度が好ましい範囲(1420℃以上)から外れたときを「D」とした。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
(実施例2〜
19,23,25〜28、参考例
20〜22,24、比較例1〜3)
表1に示すように条件を変更した以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製した。作製したハニカム構造体について実施例1と同様にして「軟化温度」の測定及び上記各項目の測定を行った。結果を表2に示す。
【0095】
表1、表2から、実施例1〜
19,23,25〜28の多孔質材料(ハニカム構造体)は、比較例1〜3の多孔質材料(ハニカム構造体)に比べて、低酸素雰囲気下で高温に晒された場合においても損傷し難く、耐熱性が向上されていることが分かる。このとき、軟化温度は、1420℃以上が好ましく、1435〜1475℃が更に好ましく、1440〜1470℃が特に好ましい。このような範囲を満たすことにより、結合相の耐熱性を改善でき、フィルターの熱変形を抑制できる。軟化温度が1420℃未満であると、耐熱性が低下し、フィルターが損傷するおそれがある。