(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記センサが、低電圧範囲内の印加電圧に対しては、応答電流値が印加電圧の上昇に伴いほぼ第1上昇率で上昇し、前記低電圧範囲よりも高い高電圧範囲内の印加電圧に対しては、応答電流値が前記第1上昇率よりも小さな第2上昇率で上昇するセンサであり、
前記第1の電圧及び第2の電圧の少なくとも一方が、前記高電圧範囲内の電圧である
ことを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
前記センサが、低電圧範囲内の印加電圧に対しては、応答電流値が印加電圧の上昇に伴いほぼ第1上昇率で上昇し、前記低電圧範囲よりも高い高電圧範囲内の印加電圧に対しては、応答電流値が前記第1上昇率よりも小さな第2上昇率で上昇するセンサであり、
前記第1の電圧及び第2の電圧の少なくとも一方が、前記高電圧範囲内の電圧である
ことを特徴とする請求項3に記載の測定装置。
前記センサが、低電圧範囲内の印加電圧に対しては、応答電流値が印加電圧の上昇に伴いほぼ第1上昇率で上昇し、前記低電圧範囲よりも高い高電圧範囲内の印加電圧に対しては、応答電流値が前記第1上昇率よりも小さな第2上昇率で上昇するセンサであり、
前記第1の電圧及び第2の電圧の少なくとも一方が、前記高電圧範囲内の電圧である
ことを特徴とする請求項5に記載の検知方法。
前記センサが、低電圧範囲内の印加電圧に対しては、応答電流値が印加電圧の上昇に伴いほぼ第1上昇率で上昇し、前記低電圧範囲よりも高い高電圧範囲内の印加電圧に対しては、応答電流値が前記第1上昇率よりも小さな第2上昇率で上昇するセンサであり、
前記第1の電圧及び第2の電圧の少なくとも一方が、前記高電圧範囲内の電圧である
ことを特徴とする請求項8に記載の検知方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
尚、以下で説明する本発明の一実施形態に係る測定装置1は、作用極上に酵素試薬層が設けられ、当該酵素試薬層が基質の拡散を制限する外層膜にて覆われている皮下留置型のセンサ4の状態を検知する装置である。ただし、本発明は、皮下留置型の、外層膜により拡散が制限されているセンサのみならず、皮下留置型ではない、外層膜がない状態で拡散が制限されているセンサにも適用することが出来るものである。さらに、本発明は、連続測定、繰り返し測定、単発測定のいずれを行うためのセンサにも適用することが出来るものである。
【0020】
図1に、本発明の一実施形態に係る測定装置1の構成及び使用形態を示す。本実施形態に係る測定装置1は、血中または皮下の間質液中のブドウ糖(グルコース)の濃度を持続的に測定するために、人体の腹部や肩等の皮膚6に取り付けられるCGM(Continuous Glucose Monitoring)装置である。
【0021】
端部40が測定装置1内に収容されているセンサ4は、皮下留置型の、交換可能なブドウ糖センサである。既に説明したように、センサ4の作用極上には、酵素試薬層が設けられており、センサ4の酵素試薬層は、基質の拡散を制限する外層膜にて覆われている。このセンサ4としては、具体的な構成の異なる様々なものを使用することが出来る。
【0022】
例えば、センサ4は、
図2に模式的に示したように、細長い基材41の先端部分に、対極42、作用極43及び参照極44が基材41の長さ方向に並んだものであっても良い。尚、この
図2に示したセンサ4の対極42は、基材41上に形成された金属パターン45aの先端部分である。参照極44は、基材41上に形成された金属パターン45cの先端部分上に設けられた、例えばAg/AgCl層である。作用極43は、基材41上に形成された金属パターン45bの先端部分上に設けられた、例えばカーボン層である。この作用極43上には、酵素試薬層46が設けられている。
【0023】
また、センサ4は、対極42、作用極43及び参照極44が基材41の幅方向に並んだ
ものであっても、2電極(作用極43と、参照極44又は対極42)しか有さないものであっても良い。
【0024】
センサ4の基材41の構成材料としては、適当な絶縁性及び可撓性を有する、人体への害がない材料、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)のような熱可塑性樹脂を用いることができる。また、基材41の構成材料として、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂を用いることもできる。
【0025】
作用極43上に設けられる酵素試薬層46は、グルコース酸化還元酵素を固定した層である。グルコース酸化還元酵素としては、GOD(グルコースオキシダーゼ)、GDH(グルコースデヒドロゲナーゼ)を用いることができる。また、グルコース酸化還元酵素の固定法としては、公知の手法を用いることができる。具体的には、グルコース酸化還元酵素の固定法としては、重合可能なジェル、ポリアクリルアミド、またはリンのようなポリマーを用いた方法、シランカップリング剤によりリン脂質ポリマーを結合させたMPCポリマーを用いた方法、またはたん白皮膜による方法を用いることができる。
【0026】
センサ4の酵素試薬層46を覆う外層膜は、基質の拡散を制限する機能を有していれば、単一物質からなる層であっても複数の層を重ねたものであっても良い。また、外層膜は、酵素試薬層46のみを覆うものでなくても良い。例えば、
図3に模式的に示したように、外層膜47を、センサ4の全体を覆う形状の膜としておくことが出来る。
【0027】
図1に戻って、測定装置1について説明する。図示してあるように、測定装置1は、ハウジング2と、ハウジング2内に収容されたプリント回路3とを備える。ハウジング2は、センサ4が通る開口部が設けられているベース21とカバー20とにより構成された、プリント回路3やセンサ4の端部40を保護するためのケースである。プリント回路3やセンサ4の端部40が水や汗により劣化/ショートするのを防ぐために、ハウジング2(カバー20、ベース21)の構成材料としては、水分透過率が低い材料、例えば、金属またはポリプロピレン樹脂を用いておくことが好ましい。
【0028】
プリント回路3は、プリント配線板上に各種デバイスを搭載したユニットである。このプリント回路3は、
図4に示したように、接続部30、測定部31、通信部32、制御部33、各部の電源としての電池34を備えている。
【0029】
接続部30は、センサ4とプリント回路3とを電気的に接続するための部材である。
【0030】
具体的には、センサ4の端部40には、センサ4の先端部に設けられているN(センサ4が
図2に示したものである場合には、N=3)個の電極とそれぞれ電気的に接続されたN個のコンタクトパッドが設けられている。一方、接続部30には、プリント回路3と電気的に接続されたN個のコンタクトパッドが設けられている。接続部30のN個のコンタクトパッドは、センサ4の端部40を、接続部30とベース21との間に挟み込むと、それぞれ、端部40のN個のコンタクトパッドと接触する位置に設けられている。そして、測定装置1(
図1参照)は、センサ4の端部40が接続部30とベース21との間に挟み込まれ、センサ4の先端側がベース21の開口部を通って測定装置1外に突出するように、センサ4が装着される(各部が組み立てられる)装置であると共に、ベース21の外面に貼り付けられている接着フィルム(両面テープ)5の粘着力により皮膚6に貼り付けられて使用される装置となっている。
【0031】
プリント回路3が備える測定部31(
図4)は、接続部30に接続されているセンサ4に電圧を印加して応答電流値を測定する回路(いわゆるポテンショスタット)である。通
信部32は、外部装置との間で無線又は有線による通信(情報交換)を行うための回路である。ここで、外部装置とは、測定装置1に対する各種の設定処理や測定装置1から測定結果を取得して記録・表示する処理を行えるように構成された専用の装置や、そのような処理をCPUに行わせるためのプログラムがインストールされたコンピュータのことである。
【0032】
制御部33は、測定部31や通信部32を制御する、CPU、ROM、RAM等からなるユニットである。
【0033】
この制御部33は、以下のように動作する。尚、以下で説明する制御部33の動作は、制御部33内のCPUが、制御部33内のROM(例えば、フラッシュROM)に記憶されたプログラムを実行することにより実現されるものである。
【0034】
制御部33は、外部装置を利用してユーザが設定した測定周期で、測定部31を制御することによりセンサ4に所定の電圧を印加してセンサ4の応答電流値を測定する。また、制御部33は、測定結果に基づきブドウ糖濃度を算出して内部に記憶する。さらに、制御部33は、外部装置が接続されている場合には、算出したブドウ糖濃度を通信部32を利用して外部装置に通知する処理を行う。
【0035】
制御部33は、外部装置から情報(ブドウ糖濃度の測定結果及び測定日時等)を要求された場合には、要求された情報を外部装置に返送する。
【0036】
上記のような機能に加えて、制御部33は、ユーザが外部装置を利用して設定した種類の状態検知処理を、ユーザが外部装置を利用して設定した周期で繰り返す機能を有している。
【0037】
制御部33が実行可能な状態検知処理には、第1状態検知処理と、第2状態検知処理と、第3状態検知処理とがある。
【0038】
第1状態検知処理は、センサ4の酵素試薬層の状態が正常状態、劣化状態のいずれであるかを検知(判定)する処理である。第2状態検知処理は、センサ4の酵素試薬層の状態が正常状態、前劣化状態のいずれであるかを検知する処理である。また、第3状態検知処理は、センサ4の酵素試薬層の状態が、正常状態、前劣化状態、劣化状態のいずれであるかを検知する処理である。ここで、劣化状態とは、酵素試薬層が劣化している状態(センサ4が正常に機能しなくなっている状態)のことである。また、前劣化状態とは、一定時間(例えば、2〜3日)経過すると酵素試薬層が劣化状態となる状態(換言すれば、劣化状態の前駆状態)のことである。正常状態とは、劣化状態でも前劣化状態でもない状態のことである。
【0039】
以下、第1〜第3状態検知処理の内容を順に説明する。尚、以下の説明において、或る印加電圧に対するセンサ4の応答電流値とは、当該印加電圧を印加することにより得られるセンサ4の応答電流値のことである。また、測定した2応答電流値の差とは、"高い方
の印加電圧に対するセンサ4の応答電流値−低い方の印加電圧に対するセンサ4の応答電流値"のことである。
【0040】
第1の印加電圧とは、通常のブトウ糖濃度の測定時におけるセンサ4への印加電圧のことである。第2の印加電圧とは、第1の印加電圧より大きくなるように、且つ、その印加により発生する基質非依存電流量(水の電気分解等により発生する電流量等)が無視できるレベルの電圧となるように、予め定められている印加電圧のことである。第3の印加電圧とは、第1の印加電圧よりも小さくなるように、予め定められている印加電圧のことで
ある。尚、第1〜第3の印加電圧として適切な値は、センサ4の仕様(使用されている酵素の量、採用されている酵素の固定方法、電極の材料、反応領域等)により異なる。従って、第1〜第3の印加電圧は、センサ4の仕様を考慮して定められる。
【0041】
《第1状態検知処理》
第1状態検知処理は、
図5に示した手順の処理である。
【0042】
すなわち、ユーザによる設定に従って、この第1状態検知処理を開始した制御部33は、まず、測定部31を制御することにより、第1の印加電圧に対するセンサ4の応答電流値と第2の印加電圧に対するセンサ4の応答電流値とを測定する(ステップS101)。
【0043】
ステップS101の処理を終えた制御部33は、測定した2応答電流値の差が、劣化状態判定用閾値よりも大きな値であるか否かを判断する(ステップS102)。ここで、劣化状態判定用閾値とは、予め定められている値のことである。この劣化状態判定用閾値としては、酵素試薬層が正常な場合の上記2応答電流値の差に測定誤差を何倍かした値を加算した値を採用することが出来る。
【0044】
制御部33は、測定した2応答電流値の差が劣化状態判定用閾値以下の値であった場合(ステップS102;NO)には、センサ4の酵素試薬層の状態が正常状態であると判定(ステップS103)して、この第1状態検知処理を終了する。尚、本実施形態に係る第1状態検知処理のステップS103にて行われる処理は、酵素試薬層の状態の判定結果が正常状態であったことを、判定を行った日時と共に記憶する処理である。ただし、ステップS103にて何も行われないようにしておいても良い。
【0045】
制御部33は、測定した2応答電流値の差が劣化状態判定用閾値よりも大きな値であった場合(ステップS102;YES)には、センサ4の酵素試薬層の状態が劣化状態であると判定する(ステップS104)。そして、制御部33は、ステップS104にて、酵素試薬層の状態の判定結果が劣化状態であったことを、判定を行った日時と共に記憶する処理を行う。その後、制御部33は、外部装置が接続されていない場合には、この第1状態検知処理を終了する。
【0046】
一方、外部装置が接続されている場合、制御部33は、ステップS104にて、今回の酵素試薬層の状態の判定結果が劣化状態であったことを示す情報を外部装置に送信してから、この第1状態検知処理を終了する。そして、上記情報を受信した外部装置は、ディスプレイに、酵素試薬層が劣化した旨のメッセージを表示する。すなわち、外部装置は、酵素試薬層が劣化したことを、測定装置1のユーザに通知する。
【0047】
《第2状態検知処理》
第2状態検知処理は、
図6に示した手順の処理である。
すなわち、ユーザによる設定に従って、この第2状態検知処理を開始した制御部33は、まず、測定部31を制御することにより、第1の印加電圧に対するセンサ4の応答電流値と第3の印加電圧に対するセンサ4の応答電流値とを測定する(ステップS201)。
【0048】
次いで、制御部33は、測定した2応答電流値の差(=第1の印加電圧に対するセンサ4の応答電流値−第3の印加電圧に対するセンサ4の応答電流値)が、前劣化状態判定用閾値よりも大きな値であるか否かを判断する(ステップS202)。ここで、前劣化状態判定用閾値とは、予め定められている値のことである。この前劣化状態判定用閾値としては、上記した劣化状態判定用閾値と同様に、酵素試薬層が正常な場合の上記2応答電流値の差に測定誤差を何倍かした値を加算した値を採用することが出来る。
【0049】
制御部33は、測定した2応答電流値の差が前劣化状態判定用閾値以下の値であった場合(ステップS202;NO)には、センサ4の酵素試薬層の状態が正常状態であると判定(ステップS203)して、この第2状態検知処理を終了する。
【0050】
一方、測定した2応答電流値の差が前劣化状態判定用閾値よりも大きな値であった場合(ステップS202;YES)、制御部33は、センサ4の酵素試薬層の状態が前劣化状態であると判定する(ステップS204)。そして、制御部33は、ステップS104と同様の処理を、ステップS204にて行う。すなわち、制御部33は、ステップS204にて、酵素試薬層の状態の判定結果が前劣化状態であったことを、判定を行った日時と共に記憶する。そして、制御部33は、外部装置が接続されていない場合には、ステップS204の処理及び第2状態検知処理を終了する。
【0051】
また、制御部33は、外部装置が接続されている場合には、酵素試薬層が前劣化状態となったことをユーザに通知させるための情報を外部装置に送信する。その後、制御部33は、ステップS204の処理及び第2状態検知処理を終了する。
【0052】
《第3状態検知処理》
第3状態検知処理は、
図7に示した手順の処理である。すなわち、この第3状態検知処理を開始した制御部33は、まず、測定部31を制御することにより、第1の印加電圧に対するセンサ4の応答電流値と第2の印加電圧に対するセンサ4の応答電流値と第3の印加電圧に対するセンサ4の応答電流値とを測定する(ステップS301)。
【0053】
次いで、制御部33は、第2の印加電圧、第1の印加電圧の印加により測定された2応答電流値の差である第1電流差が、劣化状態判定用閾値よりも大きな値であるか否かを判断する(ステップS301)。
【0054】
制御部33は、第1電流差が劣化状態判定用閾値よりも大きな値であった場合(ステップS302;YES)には、センサ4の酵素試薬層の状態が劣化状態であると判定する(ステップS303)。このステップS303にて、制御部33は、上記したステップS103と同様の処理を行う。そして、制御部33は、第3状態検知処理を終了する。
【0055】
一方、第1電流差が劣化状態判定用閾値以下の値であった場合(ステップS302;NO)、制御部33は、第1の印加電圧、第3の印加電圧の印加により測定された2応答電流値の差である第2電流差が、前劣化状態判定用閾値よりも大きな値であるか否かを判断する(ステップS304)。
【0056】
第2電流差が前劣化状態判定用閾値よりも大きな値であった場合(ステップS304;YES)、制御部33は、ステップS204(
図6)の処理と同様の処理をステップS305にて行う。また、制御部33は、第2電流差が前劣化状態判定用閾値以下の値であった場合(ステップS304;NO)には、ステップS103(
図5)及びS203(
図6)の処理と同様の処理をステップS306にて行う。
【0057】
そして、ステップS305又はS306の処理を終えた制御部33は、この第3状態検知処理を終了する。
【0058】
以下、上記内容の状態検知処理により、センサ4の酵素試薬層の状態が検知(判定)できる理由を説明する。
【0059】
発明者が鋭意検討した所、センサ4の印加電圧・応答電流値特性は、
図8及び
図9に示したようなものとなることが分かった。尚、
図9は、参照極としてAg/AgCl電極を
備えたセンサ4の、600mg/dLのブドウ糖溶液中での印加電圧・応答電流値特性を24時間毎に測定した結果を示したグラフである。
図8は、168時間経過時の印加電圧・応答電流値特性のみを示したグラフである。
【0060】
図8に示してあるように、センサ4の応答電流値は、印加電圧を上昇させていくと、或る印加電圧(
図8では、約400mV)までは、印加電圧の上昇に伴いほぼ一定の第1上昇率で上昇する。さらに印加電圧を上昇させていくと、センサ4の応答電流値が、印加電圧の上昇に伴い第1上昇率よりも小さな第2上昇率で上昇するようになる(印加電圧を上昇させてもあまり変わらなくなる)。尚、センサ4がこのような印加電圧・応答電流値特性を示すのは、センサ4が、基質濃度に比例した応答を示すため、酵素から電極への電子の伝達より外層膜による物質の拡散が律速するように設計されているためである。
【0061】
さらに具体的に説明すると、
図8に示してあるように、センサ4には、応答電流値が印加電圧の上昇に伴いほぼ一定の第1上昇率で上昇する印加電圧範囲R1と、応答電流値が印加電圧の上昇に伴い第1上昇率よりも極めて小さな第2上昇率で上昇する印加電圧範囲R2とがある。尚、
図8に示した印加電圧・応答電流値特性は、印加電圧範囲R1、R2間の境界電圧が、およそ400mVとなっているものであるが、センサ4の具体的な構成によっては、印加電圧範囲R1、R2間の境界電圧が、400mV以上の電圧となることも、400mV以下の電圧となることもある。
【0062】
センサ4の応答電流値の印加電圧依存性が、印加電圧範囲R1と印加電圧範囲R2とで大きく異なるのは、センサ4の酵素試薬層が、基質の拡散を制限する外層膜にて覆われているためである。具体的には、基質の拡散を制限する外層膜で酵素試薬層が覆われているが故に、センサ4は、電荷移動律速となることも拡散律速となることもある。ここで、「電荷移動律速となる」とは、「酵素から電極への電荷の移動反応の速度により応答電流値が定まる状態となる」となるということであり、「拡散律速となる」とは、「外層膜による基質の拡散量により応答電流値が定まる状態となる」ということである。
【0063】
拡散律速となっている場合、センサ4の応答電流値は、印加電圧に殆ど依存しなくなる。従って、印加電圧範囲R2内の印加電圧が印加されている場合、センサ4は、拡散律速となっている状態で機能していることになる。一方、電荷移動律速となっている場合、センサ4の応答電流値は印加電圧に依存して変化する。従って、印加電圧範囲R1内の印加電圧が印加されているセンサ4は、電荷移動律速となっている状態で機能していることになる。
【0064】
また、
図9に示してあるように、センサ4の応答電流値の経時変化量(一定時間経過前後の応答電流値の差)は、印加電圧により異なることも分かった。
【0065】
上記した第1〜第3状態検知処理の手順は、上記知見に基づき想到したものである。
【0066】
具体的には、
図9に示してある実験結果から、400mVの電圧印加時の応答電流値の時間変化と、500mVの電圧印加時の応答電流値の時間変化とを示すグラフを作成すると
図10に示したものとなる。
【0067】
このグラフから、以下のことが分かる。
400mVの電圧印加時の応答電流値と500mVの電圧印加時の応答電流値とは、測定開始後、144時間が経過するまでの間は、ほぼ同じ値をとる。
400mVの電圧印加時の応答電流値が下がり始める168時間目に、500mVの電圧印加時の応答電流値が、400mVの電圧印加時の応答電流値から乖離し始める。
【0068】
400mVの電圧印加時の応答電流値と、500mVの電圧印加時の応答電流値とが、上記のように変化するということは、測定初期の拡散律速から電荷移動律速に変化することを示している。そして、電荷移動は、酵素試薬層の反応が影響するものであるため、電荷移動律速になる(500mVの電圧印加時の応答電流値が、400mVの電圧印加時の応答電流値から乖離し始める)という現象は、酵素試薬層が劣化したことを示していることになる。
【0069】
センサ4によるブドウ糖濃度の実際の測定時には、測定対象者の個体差及び測定対象者の状態によって測定対象となるブドウ糖濃度が異なる。そのため、400mVの電圧印加時の応答電流値と、500mVの電圧印加時の応答電流値とが、
図10に示した通りに時間変化することはない。ただし、測定対象のブドウ糖濃度が異なる場合、
図10に示したグラフの縦軸のスケール及び/又は横軸のスケールが変わるだけである。従って、センサ4によるブドウ糖濃度の実際の測定時にも、400mVの電圧印加時の応答電流値が下がり始める日時に、500mVの電圧印加時の応答電流値が、400mVの電圧印加時の応答電流値から乖離し始める。
【0070】
そして、第2の印加電圧(上記説明における500mV)に対するセンサ4の応答電流値が、第1の印加電圧(<第2の印加電圧;上記説明における400mV)に対するセンサ4の応答電流値から乖離するという現象が発生したか否かは、上記した内容のステップS102の判断により判断することが出来る。そのため、酵素試薬層の状態が劣化状態、正常状態のいずれであるかを検知するための第1状態検知処理を、上記手順の処理としているのである。
【0071】
また、
図9に示してある実験結果から、400mVの電圧印加時の応答電流値の時間変化と、300mVの電圧印加時の応答電流値の時間変化と示すグラフを作成すると
図11に示したものとなる。
【0072】
このグラフから、400mVの電圧印加時の応答電流値が下がり始める時間の48時間前に、300mVの電圧印加時の応答電流値が、400mVの電圧印加時の応答電流値から乖離し始めることが分かる。そして、この現象も、酵素試薬層の劣化に起因して生じるものであり、センサ4によるブドウ糖濃度の実際の測定時には、
図11に示したグラフの縦軸のスケール及び/又は横軸のスケールが変わるだけである。従って、センサ4によるブドウ糖濃度の実際の測定時にも、400mVの電圧印加時の応答電流値が下がり始める日時(酵素試薬層の状態が前劣化状態となる日時)に、300mVの電圧印加時の応答電流値が、400mVの電圧印加時の応答電流値から乖離し始める。
【0073】
そして、第3の印加電圧に対するセンサ4の応答電流値が、第1の印加電圧(>第3の印加電圧)に対するセンサ4の応答電流値から乖離するという現象が発生したか否かは、上記した内容のステップS202の判断により判断することが出来る。そのため、酵素試薬層の状態が前劣化状態、正常状態のいずれであるかを検知するための第2状態検知処理を、上記手順の処理としているのである。
【0074】
また、酵素試薬層の状態が正常状態、前劣化状態、劣化状態のいずれであるかを検知できるようにしておくためには、第1状態検知処理に相当する処理と第2状態検知処理に相当する処理とが同時に行われるようにしておけば良い。そのため、酵素試薬層の状態が正常状態、前劣化状態、劣化状態のいずれであるかを検知するための第3状態検知処理を上記手順の処理としているのである。
【0075】
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る測定装置1を用いておけば、センサ4の酵素試薬層が前劣化状態や劣化状態になった場合に、そのことを外部装置を介してユー
ザに通知することが出来る。そして、酵素試薬層が前劣化状態となったことが通知されれば、ユーザは、新たなセンサ4を余裕を持って用意することが出来る。また、酵素試薬層が劣化状態となったことが通知されれば、ユーザは、以降の測定結果が不正確なものである場合があることを把握できるし、センサ4の交換により、測定装置1を正確な測定結果が得られる状態に戻すことが出来る。従って、本実施形態に係る測定装置1は、ユーザが、センサ4の酵素試薬層の劣化に起因する不利益を受けにくい装置となっていると言うことが出来る。
【0076】
《変形例》
上記した実施形態に係る測定装置1は、各種の変形を行うことが出来るものである。例えば、測定装置1による酵素試薬層の状態の検知手法は、皮下留置型ではない、外層膜がない状態で拡散が制限されているセンサにも適用することが出来るものである。従って、測定装置1をそのようなセンサ用の装置に変形することが出来る。また、測定装置1の制御部33を、第1状態検知処理の代わりに、又は、第1〜第3状態検知処理と共に、
図12に示した手順の第4状態検知処理を実行することが可能なユニットに変形することが出来る。
【0077】
この第4状態検知処理のステップS401、S402の処理は、第1状態検知処理のステップS101、S102の処理と本質的には同じものである。ただし、第4状態検知処理では、今回、得られた2応答電流値の差である現電流差が閾値を超えていた場合(ステップS402;YES)、現電流差と、前回、得られた2応答電流値の差である前電流差とが比較される(ステップS403)。そして、現電流差が前電流差よりも大きかった場合(ステップS403;YES)に、酵素試薬層の状態が劣化状態であると判定される(ステップS405)。その後、現電流差を前電流差として記憶する処理(ステップS406)が行われてから、処理が終了される。
【0078】
尚、この第4状態検知処理は、ステップS403の判断で"NO"側への分岐が行われた場合、酵素試薬層の状態が前劣化状態であると判定されるようにしておいても良いものである。また、この第4状態検知処理を実行可能なように制御部33を構成(プログラミング)しておけば、前劣化状態又は正常状態にある酵素試薬層を劣化状態にあると誤判定してしまうことが殆どない測定装置1を実現できることになる。
【0079】
第1状態検知処理のステップS101にて、第2の印加電圧よりも高い第4の印加電圧に対するセンサ4の応答電流値も測定されるようにしておくと共に、ステップS102にて、第4,第2の印加電圧に対するセンサ4の2応答電流値の差と、第2,第1の印加電圧に対するセンサ4の2応答電流値の差の双方が閾値を超えているか否かの判断が行われるようにしておくことも出来る。第2状態検知処理についても、同様の変形を行うことが出来る。
【0080】
上記した第1〜第3状態検知処理における第1の印加電圧は、通常のブドウ糖濃度測定時の印加電圧であったが、第1の印加電圧は、それとは異なる印加電圧にしておいても良い。
【0081】
また、上記した第1〜第3状態検知処理は、通常のブドウ糖濃度の測定処理(以下、通常測定処理と表記する)とは別に行われるものであったが、各状態検知処理を、通常測定処理のために測定された応答電流値を用いて酵素試薬層の状態を検知する処理に変形しておいても良い。さらに、測定装置1、センサ4を、ブドウ糖ではない物質の濃度を測定するための装置、センサに変形しても良いことなどは当然のことである。