(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6654405
(24)【登録日】2020年2月3日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】チャック装置
(51)【国際特許分類】
B23B 31/177 20060101AFI20200217BHJP
【FI】
B23B31/177
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-218030(P2015-218030)
(22)【出願日】2015年11月6日
(65)【公開番号】特開2017-87323(P2017-87323A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 哲也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 学
(72)【発明者】
【氏名】高山 遼
【審査官】
久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−264703(JP,A)
【文献】
特開昭63−216606(JP,A)
【文献】
国際公開第03/008135(WO,A1)
【文献】
特開2015−058529(JP,A)
【文献】
特開平11−090708(JP,A)
【文献】
米国特許第04696513(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/12 − 31/19,31/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側にジョウガイド溝を設けたチャックボデーと、前記ジョウガイド溝に係合されチャック半径方向に摺動自在なマスタージョウと、該マスタージョウに締結されたトップジョウと、前記チャックボデー内でチャック軸線方向に摺動自在なプランジャと、を備えるチャック装置であって、
前記プランジャはブッシュと係合し第1の楔作用を行うブッシュ孔を有し、
前記チャックボデーの他端の内方側に前記ブッシュを付勢する付勢手段を有し、
前記ブッシュと前記プランジャの前記ブッシュ孔との係合面はチャック軸線に対して傾斜角θ1を有し、
前記マスタージョウの後端は断面T字状の突起部を有し、
前記ブッシュは一端側に前記マスタージョウの前記突起部と係合し第2の楔作用を行う断面T字状の凹部を有し、
該突起部と前記ブッシュの前記凹部との係合面はチャック軸線に対して傾斜角θ2を有し、
前記傾斜角θ1は前記傾斜角θ2より大きい構成であることを特徴とするチャック装置。
【請求項2】
前記付勢手段は、前記チャックボデーの後端の内方側に設けた板バネであることを特徴とする請求項1に記載のチャック装置。
【請求項3】
前記ブッシュは、チャック軸線との成す傾斜方向を反転可能であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のチャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジョウで被切削物を把持するための工作機械用のチャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械で被切削物を加工する際、旋盤等の主軸に取り付けられたチャック装置に被切削物を開閉可能なジョウで把持している。
一般的に工作機械に搭載するチャック装置は、ユーザ要求による可能な限りのコンパクト化という制約の中で、把持力を高める技術やジョウの開閉ストローク量を大きくする技術など様々な技術が知られている。把持力を高める技術としては、例えば特許文献1(
図1)に開示されるものがある。特許文献1(
図1)は、ウェッジプランジャー6とマスタジョー4が楔部で摺動するようになっており、回転軸に対する楔部の傾斜角度を小さくすることで把持力を高めている。
【0003】
一方、ジョウの開閉ストローク量を大きくする技術としては、例えば特許文献2に開示されるものがある。特許文献2は、リンク機構40を有することで、ドローバー20の軸方向の移動ストロークを直接的にクランプ爪50の径方向の移動に変換している。すなわち、ドローバーの移動ストロークに対するクランプ爪の開閉ストロークを、容易に大きく確保することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−86005号公報(
図1)
【特許文献2】特開2014−140935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示されるような楔機構を設ける技術では、把持力を高めるには、回転軸に対する楔部の傾斜角度を小さくすればするほど良い。しかしながら、傾斜角度を小さくすればするほど、ジョウの開閉ストローク量は小さくなってしまう。一方、同じ把持力(傾斜角度)でジョウの開閉ストローク量を大きくしようすると、チャック装置自体が大型化になってしまう。
【0006】
また、特許文献2に示されるようなリンク機構を設ける技術では、チャックのジョウの開閉ストローク量を大きくすることは可能であるが、特許文献1の楔機構に比べると把持力が低いという問題がある。
【0007】
すなわち、従来のコンパクトなチャック装置において、把持力が高く、且つジョウの開閉ストローク量も大きくすることは難しい問題であった。
【0008】
従って、本発明は、コンパクトなチャック装置において、把持力が高く、且つジョウの開閉ストローク量を大きくすることができるチャック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のチャック装置は、一端側にジョウガイド溝を設けたチャックボデーと、ジョウガイド溝に係合されチャック半径方向に摺動自在なマスタージョウと、このマスタージョウに締結されたトップジョウと、チャックボデー内でチャック軸線方向に摺動自在なプランジャと、を備えており、プランジャは
ブッシュと係合し第1の楔作用を行うブッシュ孔を有し、チャックボデーの他端の内方側にブッシュを付勢する付勢手段を有し、
ブッシュとプランジャのブッシュ孔との係合面はチャック軸線に対して傾斜角θ1を有し、マスタージョウの後端は断面T字状の突起部を有し、ブッシュは一端側にマスタージョウ
の突起部と係合し第2の楔作用を行う断面T字状の凹部を有し、
突起部とブッシュの凹部との係合面はチャック軸線に対して傾斜角θ2を有し、傾斜角θ1は前記傾斜角θ2より大きい構成であることを特徴とする。
上記構成によれば、第1の楔作用と傾斜角θ1の関係よりジョウの開閉ストローク量を長くすることが可能である。また、第2の楔作用と付勢手段と傾斜角θ2との関係より把持力を高めることが可能である。
第二の発明は、付勢手段は、チャックボデーの後端の内方側に設けた板バネであることを特徴とする。
上記構成によれば、変形には大きな力が必要だが、強い付勢力を発生させることが可能となる。
第三の発明は、ブッシュは、チャック軸線との成す傾斜方向を反転可能であることを特徴とする。
上記構成によれば、ワークの内径把握が可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コンパクトなチャック装置において、把持力が高く、且つジョウの開閉ストローク量を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】
図2のチャック装置のマスタージョウとブッシュとプランジャとの展開斜視図である。
【
図5】チャック装置の動作状態を説明しており、ワークを把持していない状態を示す部分断面図である。
【
図6】チャック装置の動作状態を説明しており、ワークとトップジョウが接触した瞬間の状態を示す部分断面図である。
【
図7】チャック装置の動作状態を説明しており、ワークを把持した状態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、適宜、図面を参照しながら説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0013】
(実施形態)
本発明に係る実施形態を
図1〜
図3を用いて説明する。
図1は、本発明に係るチャック断面図、
図2は、チャック装置を構成する展開斜視図、
図3はマスタージョウと該マスタージョウに把持動作を行わせるための楔作用の構成部分であるブッシュ及びプランジャとの展開斜視図である。
【0014】
図1〜
図3に示すように、チャックボデー10は、収容部11と蓋部12とを有し、収容部11と蓋部12はボルトB1で固定されている。収容部11の前盤部13には、断面T字状のジョウガイド溝15が設けられており、このジョウガイド溝15にマスタージョウ50が、チャック半径方向に摺動自在に係合されている。一方、収容部11の円筒部14内には、プランジャ20がチャック軸線J方向に摺動自在に備えられている。
【0015】
収容部11には、前盤部13側から内方に向けて、チャックボデー10内への切粉の侵入を防ぐカバー80が備えられ、そのカバー80はボルトB4で固定されている。
マスタージョウ50の前方面には、トップジョウ60がボルトB5で固定されている。
このようなチャックボデー10の収容部11と蓋部12と収容部11内に支持されているプランジャ20は、旋盤の図示しないスピンドルに対して、例えば6本のボルトB2により一体的に固定されている。
【0016】
プランジャ20のプランジャ後部21には、ドローバー連結部30がボルトB3で固定されており、そのドローバー連結部30は従来公知のチャックと同様に、例えば図示しないシリンダにより駆動されるドローバーに連結される。
プランジャ20には、第1の楔作用の主要構成の1つであるブッシュ孔22が設けられており、このブッシュ孔22は、チャック軸線Jに対して外向きに傾斜角θ1で傾斜して貫通されている。尚、本実施形態では、傾斜角θ1は、40度としている。
【0017】
ブッシュ40は、前述のブッシュ孔22にマスタージョウ50と係合して収容されている。ブッシュ40はブッシュ孔22内を摺動可能となっており、ブッシュ40の外周は、摺動面43を有している。また、ブッシュ40の収容角度は、ブッシュ孔22の貫通穴と同様に、チャック軸線に対して傾斜角θ1(40度)を有して収容されている。
ブッシュ40は略円柱部材であり、マスタージョウ50と係合する前方面に断面T字状の凹部41が設けられている。この凹部41には、後述のマスタージョウ50の噛合面54と噛合う噛合面42が設けられている。
一方、ブッシュ40は、後方面に接触面44を有しており、接触面44は後述する付勢手段である板バネ70と接している。すなわち、ブッシュ40は、ブッシュ孔22と板バネ70とマスタージョウ50とで支持されるように備えられている。
【0018】
蓋部12は、板バネ70が収納される溝16が設けられている。
板バネ70は、一端側は前述の蓋部12の溝16に収納されており、他端側はブッシュ40と接触している。板バネ70を使用することで、変形には大きな力が必要だが、強い付勢力を発生させることを可能としている。すなわち、容易には変形しがたい付勢手段を選定している。
【0019】
図4に示すように、マスタージョウ50は、その後方内方寄りに突出部51を設けてある。この突出部51はブッシュ40の断面T字状の凹部41と噛合するときに第2の楔作用を発生する楔部52と、この楔部52に直交しこれを力学的に補強する補強部53とからなる切断端面形状T字形に形成されている。楔部52の上端面には、ブッシュ40の凹部41と噛合する噛合面54が設けられている。
このブッシュ40の噛合面42およびマスタージョウ50の噛合面54は、夫々チャック軸線Jに対して外向きに傾斜角θ2で形成されている。尚、本実施形態では、傾斜角θ2は、15度としている。
【0020】
以下に、動作の説明を
図5〜
図7を用いて説明をする。
図5は
図1のチャック装置の動作状態を説明しており、ワークを把持していない状態、
図6はワークとトップジョウが接触した瞬間の状態、
図7はワークを把持した状態、を夫々示している。
なお、以下では、図面の左側を後方、右側を前方、そして図面の下側を径方と定義し、左側の方向を後方向、右側の方向を前方向、下側の方向を径方向とする。
チャック装置1のワーク把持動作は、例えば、
図5から、
図6、さらに
図7といった流れで行われている。実際には、把持までは一連の動作で瞬時に行われている。
【0021】
本実施形態のチャック装置1は、
図5の状態で図示しないシリンダからの推力Qによりドローバーを後方へ引くと、ドローバーに連結されたドローバー連結部30と、このドローバー連結部30にボルトB3で締結されているプランジャ20とが後方へ移動する。この時、プランジャ20のブッシュ孔22に摺動しているブッシュ40の摺動面43に、第1の楔作用によってプランジャ20がブッシュ40を後方へ押す力である力P1が発生する。この力P1がチャック軸線J方向から径方向の力F1に変換されることによって、ブッシュ40は径方向へ移動する。
【0022】
ここで、マスタージョウ50の前方はチャックボデー10に形成されたジョウガイド溝15に係合されており、一方後方の突出部51は、ブッシュ40の凹部41と係合している。
すなわち、ブッシュ40が径方向へ移動すると、ブッシュ40の凹部41に係合されているマスタージョウ50も、チャックボデー10に形成されたジョウガイド溝15に沿って径方向へ移動する。
また、マスタージョウ50の前方には、ワークWを把持するトップジョウ60がボルトB5で締結されており、ワークWに接触するまで移動する。
尚、ブッシュ40は、チャック軸線Jに対しての傾斜角θ1の角度を有しており、この角度が大きければ、その分トップショウ60の開閉ストローク量が大きくなる。
【0023】
次に、
図6を用いてトップジョウ60がワークWに接した瞬間の説明をする。
図6で示すように、
図5と比較すると、ドローバーがドローバー連結部30を後方にひくと、プランジャ20は後方へ移動し、ブッシュ40とマスタージョウ50とトップジョウ60は径方向へ移動している。
この状態で更にブッシュ40に力P1が作用し続けると、ブッシュ40の接触面44が板バネ70を後方へ押圧する。それによって、板バネ70は弾性変形し、変形量分だけドローバー連結部30とプランジャ20とブッシュ40とが後方へ移動する。この時の状態を
図7で示す。
【0024】
図7で示すように、マスタージョウ50は、トップジョウ60がワークWを把持しているため径方向に動くことはできないが、ブッシュ40が板バネ70の変形量分だけ後方に移動し、更に径方向へも移動するため、ブッシュ40の噛合面42とマスタージョウ50の噛合面54とが摺動し、第2の楔作用が発生する。ブッシュ40とマスタージョウ50の夫々の噛合い面は、チャック軸線に対して傾斜角θ2の角度を有しているが、このθ2の角度を小さくすることでチャック軸線J方向の力P2が径方向の力F2に大きく増力される。そして、この力F2が、マスタージョウ50とトップジョウ60を介し、把持力F3となり、ワークWの把持力を高めることが可能となる。
【0025】
以上のように、本実施形態1のチャック装置1によると、コンパクトなチャック装置において、第1の楔作用の主要部材であるブッシュ40の傾斜角θ1を可能な限り大きくすることで、トップジョウ60の開閉ストローク量を大きくでき、第2の楔作用の主要部材であるブッシュ40とマスタージョウ50との夫々の噛合面42、54の傾斜角θ2を可能な限り小さくすることで、トップジョウ60のワーク把持力を高めることができる。
また、傾斜角θ1を傾斜角θ2より大きくすることで、コンパクトなチャック装置1を提供することができる。
【0026】
つまり、コンパクトなチャック装置1で、ワークの把持力が高く、トップジョウ60の開閉ストローク量を大きくできるため、把持できるワークの径と重さの許容範囲が広い汎用性の高いチャック装置1を提供することができる。
【0027】
(その他の実施形態)
以上のように、実施形態を説明したが、本発明は、その目的の範囲を逸脱しない限りにおいて、適宜変更してもよく、この実施形態に限定されるものではない。
例えば、本実施形態は、傾斜角θ1とθ2を夫々40度と15度とで実施しているが、チャックのインチサイズの大小により適宜変更することが可能である。
また、本実施形態では板バネ70を使用しているが、板バネに限定にされるものではなく、変形させるには大きな力が必要だが、強い付勢力を発生させる部材であれば良く、例えば、皿バネなどであっても構わない。
また、本実施形態のプランジャ20の外周は円形となっているが、プランジャ20の外周の一部がチャックボデー10を形成する円筒部に支持される形状であれば良く、例えば、おにぎり形状や円形部の一部を肉抜きした形状であっても構わない。
また、ブッシュ40および、ブッシュ40を収容するブッシュ孔22は、チャック軸線J方向に対して外向きの傾斜角θ1で形成されているが、これに限らず、チャック軸線との成す傾斜方向を反転しても構わない。
【0028】
以上のように、その他の実施形態によると、プランジャ20は形状を肉抜きなどすることにより、チャック装置を軽量化することができる。
また、傾斜方向を反転することで、ワークの内径把握が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上説明したように、本発明にかかるチャック装置は、ワークを把持して旋回する、例えば旋盤機械等に搭載することができ、大径ワークの把握やワークを高い把持力で把持することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 チャック装置
10 チャックボデー
15 ジョウガイド溝
20 プランジャ
40 ブッシュ
41 凹部
50 マスタージョウ
51 突出部
60 トップジョウ
70 板バネ
θ1、θ2 傾斜角
J チャック軸線