特許第6654483号(P6654483)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6654483航空機の防氷システム、それを備えた航空機、防氷システム制御プログラム、および防氷システムの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6654483
(24)【登録日】2020年2月3日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】航空機の防氷システム、それを備えた航空機、防氷システム制御プログラム、および防氷システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B64D 15/04 20060101AFI20200217BHJP
【FI】
   B64D15/04
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-59330(P2016-59330)
(22)【出願日】2016年3月24日
(65)【公開番号】特開2017-171106(P2017-171106A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】508208007
【氏名又は名称】三菱航空機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】上藤 陽一
(72)【発明者】
【氏名】森下 昌俊
(72)【発明者】
【氏名】石田 寿幸
(72)【発明者】
【氏名】市川 玄人
【審査官】 諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−510861(JP,A)
【文献】 米国特許第04320872(US,A)
【文献】 米国特許第04482114(US,A)
【文献】 米国特許第03487993(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 13/00
B64D 13/06
B64D 15/00−15/04
B64D 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気と熱交換された抽気を用いて航空機への着氷を防止する防氷システムであって、
抽気と外気との間で熱交換させる熱交換器と、
前記熱交換器を経た抽気が供給される供給先と、
前記供給先に供給される抽気の流量を調節する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記供給先に供給される抽気の流量を調節する抽気流量調節部を有し、
前記抽気流量調節部は、
高度、および抽気の圧力の上限である圧力上限値の関係である第1関係と、
抽気が流れる部材に許容される許容温度にまで抽気の温度が達するときの外気温、および抽気の圧力の上限である圧力上限値との関係であり、高度に応じて与えられる第2関係とを使用し、
前記第1関係と前記第2関係との交点の外気温に対して外気温が低ければ、抽気の圧力を前記第1関係の前記圧力上限値以下に収めるように、抽気の流量を調節し、
前記交点の外気温に対して外気温が高ければ、抽気の圧力を前記第2関係の前記圧力上限値以下に収めるように、抽気の流量を調節する、
ことを特徴とする航空機の防氷システム。
【請求項2】
前記抽気流量調節部は、
高度および外気温の関数である前記圧力上限値が与えられたマップデータを使用し、
前記マップデータにおける前記圧力上限値は、
前記第1関係および前記第2関係に基づいて定められている、
ことを特徴とする請求項1に記載の航空機の防氷システム。
【請求項3】
外気と熱交換された抽気を用いて航空機への着氷を防止する防氷システムであって、
抽気と外気との間で熱交換させる熱交換器と、
前記熱交換器を経た抽気が供給される供給先と、
前記供給先に供給される抽気の流量を調節する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記供給先に供給される抽気の流量を調節する抽気流量調節部を有し、
前記抽気流量調節部は、
高度、および抽気の圧力の上限である圧力上限値の関係である第1関係と、
抽気の流れる部材に許容される許容温度よりも所定の値だけ低く設定された温度閾値と、
を使用し、
抽気の温度が前記温度閾値に対して低ければ、抽気の圧力を前記第1関係の前記圧力上限値以下に収めるように、抽気の流量を調節し、
抽気の温度が前記温度閾値に対して高ければ、抽気の温度を前記許容温度以下に収めるように、抽気の流量を調節する、
ことを特徴とする航空機の防氷システム。
【請求項4】
着氷が生じうる、高度および外気温の範囲である着氷条件と、
前記着氷条件を包含し、航空機の飛行可能な高度および外気温の範囲である運用条件とが想定され、
抽気が流れる前記部材は、
前記運用条件下、前記許容温度以下に維持されるように設計されている、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の航空機の防氷システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の防氷システムを備える、
ことを特徴とする航空機。
【請求項6】
外気と熱交換された抽気を用いて航空機への着氷を防止する防氷システムを制御するコンピュータプログラムであって、
供給先へと供給される抽気の流量を調節する抽気流量調節部を有し、
前記抽気流量調節部は、
高度、および抽気の圧力の上限である圧力上限値の関係である第1関係と、
抽気が流れる部材に許容される許容温度にまで抽気の温度が達するときの外気温、および抽気の圧力の上限である圧力上限値との関係であり、高度に応じて与えられる第2関係とを使用し、
前記第1関係と前記第2関係との交点の外気温に対して外気温が低ければ、抽気の圧力を前記第1関係の前記圧力上限値以下に収めるように、抽気の流量を調節し、
前記交点の外気温に対して外気温が高ければ、抽気の圧力を前記第2関係の前記圧力上限値以下に収めるように、抽気の流量を調節する、ことを特徴とする航空機の防氷システム制御プログラム。
【請求項7】
外気と熱交換された抽気を用いて航空機への着氷を防止する防氷システムを制御するコンピュータプログラムであって、
供給先へと供給される抽気の流量を調節する抽気流量調節部を有し、
前記抽気流量調節部は、
高度、および抽気の圧力の上限である圧力上限値の関係である第1関係と、
抽気の流れる部材に許容される許容温度よりも所定の値だけ低く設定された温度閾値と、を使用し、
抽気の温度が前記温度閾値に対して低ければ、抽気の圧力を前記第1関係の前記圧力上限値以下に収めるように、抽気の流量を調節し、
抽気の温度が前記温度閾値に対して高ければ、抽気の温度を前記許容温度以下に収めるように、抽気の流量を調節する、
ことを特徴とする航空機の防氷システム制御プログラム。
【請求項8】
外気と熱交換された抽気を用いて航空機への着氷を防止する防氷システムを制御する方法であって、
高度、および供給先へと供給される抽気の圧力の上限である圧力上限値の関係を第1関係と称し、抽気が流れる部材に許容される許容温度にまで抽気の温度が達するときの外気温、および抽気の圧力の上限である圧力上限値との関係を第2関係と称し、
前記第1関係と、高度に応じて与えられる前記第2関係との交点の外気温に対して外気温が低ければ、抽気の圧力を前記第1関係の前記圧力上限値以下に収めるように、抽気の流量を調節し、
前記交点の外気温に対して外気温が高ければ、抽気の圧力を前記第2関係の前記圧力上限値以下に収めるように抽気の流量を調節する、
ことを特徴とする航空機の防氷システムの制御方法。
【請求項9】
外気と熱交換された抽気を用いて航空機への着氷を防止する防氷システムを制御する方法であって、
高度、および供給先へと供給される抽気の圧力の上限である圧力上限値の関係を第1関係と称し、抽気の流れる部材に許容される許容温度よりも所定の値だけ低く設定された温度を温度閾値と称し、
抽気の温度が前記温度閾値に対して低ければ、抽気の圧力を前記第1関係の前記圧力上限値以下に収めるように、抽気の流量を調節し、
抽気の温度が前記温度閾値に対して高ければ、抽気の温度を前記許容温度以下に収めるように、抽気の流量を調節する、
ことを特徴とする航空機の防氷システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外気との熱交換により抽気を適温に冷却して翼等の防氷に用いる航空機の防氷システムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機のエンジンや補助動力装置からの抽気を外気により予冷し、翼の防氷装置や空調装置等へと供給するシステムが知られている。
特許文献1の抽気供給システムでは、抽気が流れるラインの漏洩などによって生じる機体およびその構成要素への影響を最小限にするため、近傍の温度を測定し、測定された温度に基づいてラインからの抽気の漏洩が検出されると、漏洩位置に近いバルブを閉じることで漏洩した区画を他の区画から分離する。そうすると、漏洩した区画に関係する装置へのそれ以上の抽気の供給が遮断される。つまり、エンジンや補助動力装置からの抽気は高温であるため、その管理が必要となる。
ところで、翼の防氷装置は、航空規則(Regulation)で規定されている着氷条件下で、抽気温度が所定値になるように、熱交換器において、抽気を外気により予冷しており、熱交換器の容量も、その条件下で十分能力を出せるように設計されている。しかしながら、更に、防氷性能向上を狙い、航空機の運用範囲で、防氷性能を要求されていなく、着氷が穏やかな範囲、つまり、航空規則(Regulation)で規定されている着氷条件以外の範囲の中で、外気温が高い、あるいは、外気の空気密度が低い空域で、防氷装置を稼働させた場合、外気による抽気の予冷が不十分となり、予冷後の抽気ラインを構成するダクトに影響を与えないようにするため、この空域に限っては抽気の供給が停止してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5122465号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、航空機を運用する外気温と高度等の条件の全領域であっても、航空機の防氷装置の能力が、種々の制約条件の中で、最大限発揮できるように制御するシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、外気と熱交換された抽気を用いて航空機への着氷を防止する防氷システムであって、抽気と外気との間で熱交換させる熱交換器と、熱交換器を経た抽気が供給される供給先と、供給先に供給される抽気の流量を調節する制御部と、を備える。制御部は、供給先に供給される抽気の流量を調節する抽気流量調節部を有する。
抽気流量調節部は、高度、および抽気の圧力の上限である圧力上限値の関係である第1関係と、抽気が流れる部材(以下、抽気ダクト等)に許容される許容温度にまで抽気の温度が達するときの外気温、および抽気の圧力の上限である圧力上限値との関係であり、高度に応じて与えられる第2関係とを使用する。
そして、抽気流量調節部は、第1関係と第2関係との交点の外気温に対して外気温が低ければ、抽気の圧力を第1関係の圧力上限値以下に収めるように、抽気の流量を調節し、交点の外気温に対して外気温が高ければ、抽気の圧力を第2関係の圧力上限値以下に収めるように、抽気の流量を調節する。
【0006】
本発明によれば、詳しくは後述するように、第2関係を用いて抽気圧力が調節されているので、抽気を冷却する外気温が高くとも、その抽気の温度が、抽気ダクト等の許容温度を超えない。そのため、抽気ダクト等の過熱により抽気の供給を遮断する処理が必要となることなく、抽気の供給を継続しながら、防氷性能を担保することができる。
【0007】
本発明の防氷システムにおいて、抽気流量調節部は、高度および外気温の関数である圧力上限値が与えられたマップデータを使用し、マップデータにおける圧力上限値は、第1関係および第2関係に基づいて定められていることが好ましい。
【0008】
また、本発明は、外気と熱交換された抽気を用いて航空機への着氷を防止する防氷システムであって、抽気と外気との間で熱交換させる熱交換器と、熱交換器を経た抽気が供給される供給先と、供給先に供給される抽気の流量を調節する制御部と、を備え、制御部は、供給先に供給される抽気の流量を調節する抽気流量調節部を有し、抽気流量調節部は、高度、および抽気の圧力の上限である圧力上限値の関係である第1関係と、抽気の流れる部材に許容される許容温度よりも所定の値だけ低く設定された温度閾値と、を使用し、抽気の温度が温度閾値に対して低ければ、抽気の圧力を第1関係の圧力上限値以下に収めるように、抽気の流量を調節し、抽気の温度が温度閾値に対して高ければ、抽気の温度を許容温度以下に収めるように、抽気の流量を調節することを特徴とする。
本発明によれば、抽気温度が温度閾値に対して高い場合に、抽気温度に基づいて、抽気ダクト等をより確実に許容温度以下に収め、かつ、抽気流量を大きく確保することができる。
本発明によっても、抽気ダクト等の過熱により抽気の供給を遮断する処理が必要となることなく、抽気の供給を継続しながら、防氷性能を担保することができる。
【0009】
本発明の防氷システムにおいては、着氷が生じうる、高度および外気温の範囲である着氷条件と、着氷条件を包含し、航空機の飛行可能な高度および外気温の範囲である運用条件とが想定され、抽気が流れる部材は、着氷条件下、許容温度以下に維持されるように設計されている。
本発明によれば、ダクト等の過熱による抽気供給の遮断には至らず、着氷条件の範囲以外でも一定の防氷性能を保持することができる。
【0010】
本発明の航空機は、上述の防氷システムを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明は、航空機の防氷システムの制御コンピュータプログラム、あるいは、制御方法に展開することができる。
本発明は、外気と熱交換された抽気を用いて航空機への着氷を防止する防氷システムを制御するコンピュータプログラムであって、供給先へと供給される抽気の流量を調節する抽気流量調節部を有し、抽気流量調節部は、高度、および抽気の圧力の上限である圧力上限値の関係である第1関係と、抽気が流れる部材に許容される許容温度にまで抽気の温度が達するときの外気温、および抽気の圧力の上限である圧力上限値との関係であり、高度に応じて与えられる第2関係とを使用し、第1関係と第2関係との交点の外気温に対して外気温が低ければ、抽気の圧力を第1関係の圧力上限値以下に収めるように、抽気の流量を調節し、交点の外気温に対して外気温が高ければ、抽気の圧力を第2関係の圧力上限値以下に収めるように抽気の流量を調節することを特徴とする。
【0012】
本発明は、外気と熱交換された抽気を用いて航空機への着氷を防止する防氷システムを制御するコンピュータプログラムであって、供給先へと供給される抽気の流量を調節する抽気流量調節部を有し、抽気流量調節部は、高度、および抽気の圧力の上限である圧力上限値の関係である第1関係と、抽気の流れる部材に許容される許容温度よりも所定の値だけ低く設定された温度閾値と、を使用し、抽気の温度が温度閾値に対して低ければ、抽気の圧力を第1関係の圧力上限値以下に収めるように、抽気の流量を調節し、抽気の温度が温度閾値に対して高ければ、抽気の温度を許容温度以下に収めるように、抽気の流量を調節することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、外気と熱交換された抽気を用いて航空機への着氷を防止する防氷システムを制御する方法であって、高度、および供給先へと供給される抽気の圧力の上限である圧力上限値の関係を第1関係と称し、抽気が流れる部材に許容される許容温度にまで抽気の温度が達するときの外気温、および抽気の圧力の上限である圧力上限値との関係を第2関係と称し、第1関係と高度に応じて与えられる第2関係との交点の外気温に対して外気温が低ければ、抽気の圧力を第1関係の圧力上限値以下に収めるように、抽気の流量を調節し、交点の外気温に対して外気温が高ければ、抽気の圧力を第2関係の圧力上限値以下に収めるように抽気の流量を調節することを特徴とする。
【0014】
本発明は、外気と熱交換された抽気を用いて航空機への着氷を防止する防氷システムを制御する方法であって、高度、および供給先へと供給される抽気の圧力の上限である圧力上限値の関係を第1関係と称し、抽気の流れる部材に許容される許容温度よりも所定の値だけ低く設定された温度のことを温度閾値と称し、抽気の温度が温度閾値に対して低ければ、抽気の圧力を第1関係の圧力上限値以下に収めるように、抽気の流量を調節し、抽気の温度が温度閾値に対して高ければ、抽気の温度を許容温度以下に収めるように、抽気の流量を調節することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、抽気の供給を継続しながら、要求される防氷性能を担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態に係る防氷システムの概要の構成を示す図である。
図2】航空機の着氷条件および運用条件を示す図である。
図3】第1実施形態の防氷制御部が用いるデータおよび制御指令を示す図である。
図4】第1実施形態のマップデータを示す図である。
図5】防氷制御に用いられる指標を示す図である。
図6】防氷装置上流の圧力上限値と高度との関係を示す図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る防氷システムの概要の構成を示す図である。
図8】第2実施形態に係る防氷制御部が用いるデータおよび制御指令を示す図である。
図9】第2実施形態のマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
航空機には、抽気を利用して主翼の防氷を図る防氷システム1(図1)が装備されている。
まず、抽気の供給について簡単に説明する。
航空機のエンジンや補助動力装置等の抽気源3から取り出される高温高圧の抽気は、プリクーラ4により適温に冷却された後、抽気を利用する複数の装置2,8等へと分配される。
抽気を過剰に取り出すと、エンジン推力及び燃費に影響があるため、複数の装置2,8等への抽気の流量は各々制限されている。
防氷装置2は、プリクーラ4を経た抽気が流れる主ライン5に、供給ライン6によって接続されている。
空調装置8は、プリクーラ4を経た抽気が流れる主ライン5に、供給ライン7によって接続されている。
【0018】
主ライン5および供給ライン6,7はいずれも、適宜な材料を用いて形成されたダクトやカップリング等を含んで構成されている。
供給ライン6,7にはそれぞれ、抽気の流量を調節可能な流量バルブ61,71が備えられている。
航空機に備えられた空調システムは、抽気源3と、プリクーラ4と、空調装置8と、流量バルブ71とを備えて構成されている。
【0019】
さて、防氷システム1は、抽気源3と、プリクーラ4と、防氷装置2と、流量バルブ61と、圧力センサ10と、防氷制御部11と、プリクーラ制御部14とを備えて構成されている。
防氷システム1によれば、着氷を防止する防氷性能、航空機の飛行性能、および抽気のラインの構成部材の機械的な強度保持のそれぞれの観点から、防氷装置2に抽気が適切に供給される。
【0020】
プリクーラ4は、機外の空気(外気)の風路と、抽気源3からの抽気の風路との間で熱交換を行わせる熱交換器である。
プリクーラ4は、取り入れられる外気の風量(流量)が調節可能に構成されている。
外気との熱交換により冷却された抽気は、主ライン5を流れ、流量バルブ61,71の開度に応じた流量だけ供給ライン6,7に流入し、装置2,8へと供給される。
装置2,8等へと供給される抽気の合計の流量の分だけ、抽気源3から抽気が取り出される。
【0021】
プリクーラ4、そして、主ライン5および供給ライン6を構成するダクトやバルブ等の部材は、後述する着氷条件C1下で、所定の温度の抽気を所定の流量だけ防氷装置2に供給することによって十分な着氷防止効果が得られるように設計されている。
また、部材の機械的強度を保持する観点より、抽気源3から抽気が流入するプリクーラ4は勿論のこと、ライン5,6を構成するダクトやバルブ等の部材についても、着氷条件C1下、部材のそれぞれに許容される温度AT以下に維持されるように設計されている。
【0022】
防氷装置2は、供給ライン6から抽気が供給されるチューブを備えている。防氷装置2のチューブは、図示しない主翼の前縁に沿って配置されている。主翼の前縁は、高揚力装置であるスラットを含んで構成されている。
防氷装置2のチューブには、長さ方向に間隔をおいて複数の吹き出し孔が形成されている。
各吹き出し孔から前縁の内側に向けて抽気が吹き付けられる。吹き付けられた抽気は、前縁の内周部に沿って後方へと流れ、スラットと母翼との間の隙間等から機外へと流出する。
防氷装置2は、前縁の内側に抽気を吹き付け、前縁およびその周辺の外皮表面の温度を水の凝固点以上に保つことにより、主翼への着氷を防止する。
【0023】
本実施形態では、防氷の制御にあたって、図2に示すように、着氷条件C1と、それよりも広範な運用条件C2とを考慮している。
着氷条件C1(実線の枠内)は、航空規則(Regulation)で規定されている着氷条件の高度および外気温の範囲である。この着氷条件C1において着氷を防止することが要求される。
運用条件C2(破線の枠内)は、本実施形態の航空機の飛行可能な高度および外気温の範囲である。
着氷条件C1の全体が運用条件C2内に包含されている。
着氷防止が要求されるのは着氷条件C1内に留まるが、着氷条件C1外で、かつ運用条件C2内の高度および外気温で運用された際にも防氷装置2を機能させることが性能向上には必要である。
【0024】
防氷制御部11は、航空機の飛行性能を確保し、そして抽気が流れるラインを構成する部材をそれらの許容温度AT以下に維持しつつ、主翼への着氷を十分に防止することができるように、防氷装置2に供給される抽気の流量を制御する。許容温度AT以下では、抽気ラインを構成する部材が確実に機械強度を保持する。
【0025】
図3は、防氷制御部11が用いるデータおよび制御指令を示している。
防氷制御部11は、演算処理装置および記憶装置を備えたコンピュータである。
防氷制御部11による処理は、コンピュータプログラムにより行われる。
防氷制御部11は、供給ライン6を流れる抽気の流量を調節する抽気流量調節部112と、種々の処理に必要なデータやコンピュータプログラムを保持する記憶部113とを備えている。抽気流量調節部112は、コンピュータプログラムを構成するモジュールである。
プリクーラ制御部14は、抽気を冷却するためにプリクーラ4に取り入れられる外気の風量(以下、外気風量)を調節する外気風量調節部111を備えている。
【0026】
着氷をより十分に防止するため、上述した着氷条件C1内の高度および外気温に加え、着氷条件C1外で、かつ運用条件C2内の高度および外気温をも考慮して、種々の制約条件の中でも、最大限の抽気を供給できるよう抽気の上限圧をを定めている。航空機に装備されたエアデータコンピュータ15により取得される高度および外気温のデータと、航空機の実際の高度および外皮表面の実際の外気温との間に誤差があったとしても、その誤差に対して余裕を持ち、防氷を適切に図るようにしている。
【0027】
着氷を防止する基本的な処理としては、プリクーラ制御部14(図1,3)が、プリクーラ4から流出した抽気の温度tを温度センサ9により検知しながら(検知温度sT)、設定温度bTの抽気が得られるように、外気風量調節部111により、プリクーラ4に取り入れられる外気の風量を調節する。そして、防氷制御部11(図1,3)が、防氷対象部位(例えば、スラット)にある温度センサ16による検知温度iTに基づいて、防氷対象部位の温度が設定温度cTになるように、抽気流量調節部112により、供給ライン6を流れる抽気の流量qを調節する。
防氷に適した設定温度cTは防氷制御部11の記憶部113(図3)に保持することができる。
【0028】
着氷を防止する基本的な処理の一例について簡単に説明する。
外気風量調節部111は、温度センサ9による抽気の検知温度sT(図3)が設定温度bTに対して高い場合は、プリクーラ4の外気風量を上げる制御指令D1を発することにより、外気と抽気との熱交換量を増加させる。そうすると、プリクーラ4から流出した抽気の温度が低下する。それでも、抽気の検知温度sTが設定温度bTを上回っていれば、抽気の供給は停止する。尚、着氷条件C1では、すなわち、航空規則(Regulation)で規定されている着氷条件の高度および外気温の範囲では、高度および外気温がいかなる値をとろうとも、プリクーラ4の外気風量を最大にすれば、検知温度sTが設定温度bTに対して低くなるように、防氷装置の抽気供給量を考慮して、プリクーラ4の容量が設計されている。
【0029】
さらに、抽気流量調整部112は、航空機の飛行性能および抽気が流れる部材の機械的強度保持の観点から、流量バルブ61による抽気流量の調節を行う。
そのために、第1実施形態では、図4に示す圧力上限値Pのマップデータ12を用いる。このマップデータ12も記憶部113(図3)に保持することができる。
【0030】
二次元的なマップデータ12を構成する圧力上限値Pは、供給ライン6を流れる抽気の圧力pの上限値である。供給ライン6を流れる抽気の圧力pは、流量バルブ61の下流で圧力センサ10により検知することができる。供給ライン6を通じて防氷装置2へと至り、主翼前縁の内側に吹き付けられて外気中へと流れ出る抽気の流量qは、流量バルブ61の下流における抽気の圧力pと外気圧Paとの圧力差、およびダクト等による圧力損失そして開口部の面積(一定)から導かれる。したがって、抽気の圧力pの上限値Pを定めることは、抽気の流量qの上限値を定めることに相当する。
【0031】
マップデータ12は、航空機の高度および外気温の2つの因子の関数である圧力上限値Pから構成されている。マップデータ12における高度因子(E1)および外気温因子(E2)はいずれも、適宜な間隔をおいた離散的な値の集合である。高度因子E1には、運用条件C2(図2)の全体に亘る高度値が与えられている。外気温因子E2には、運用条件C2(図2)の全体に亘る外気温の値が与えられている。
これらの因子E1,E2の値のあらゆる組み合わせに対して、それぞれ圧力上限値Pが与えられている。例えば、高度a0および外気温t0の組み合わせに対しては、P(0,0)が与えられ、高度a0および外気温t1の組み合わせに対しては、P(0,1)が与えられている。
【0032】
マップデータ12を構成する圧力上限値Pは、図5に示す制御指標Rに基づいて定められている。
図4の高度因子(E1)の値(a0,a1,・・・an)の各々において、個別の制御指標Rが成立する。図5には、ある特定の高度において成立する制御指標Rを例示している。
制御指標Rは、飛行性能の確保および抽気が流れる部材の強度保持の観点から、着氷条件C1を含み、C1から外れた着氷条件での防氷能力も備える防氷制御に用いられる指標であり、高度(a0,a1,・・・an)に応じて設定された、外気温および圧力上限値の関係を示している。
制御指標Rは、図6に示す高度および圧力上限値の関係r1と、図5に示す各高度における外気温および圧力上限値の関係r2とから得られている。
【0033】
まず、関係r1(図6)について説明する。
高度が上がると外気圧が下がるため、より小さい抽気圧力pにより、必要な抽気流量qを流すための外気圧との圧力差を確保できる。そのため、高度が上がると、必要な抽気圧力pが小さくなる。
このことに基づいて、図6に示す関係r1のように高度に応じて圧力上限値を定めておくと、防氷装置2に供給される抽気の流量qが、ある上限を超えない。そのため、抽気源3から抽気が過大に取り出されないので、エンジンや補助動力装置による推力や、燃費を維持することができる。
航空機が着氷条件C1(図2)で運用されているとき、抽気圧力pは、図6の圧力上限値以下に維持される。
【0034】
図6の関係r1より、ある特定の高度(例えばa1)に対して、圧力上限値(例えばp1)が与えられる。その圧力上限値は、制御指標R(図5)において直線r11で表される。この直線r11が示す圧力上限値は、外気温にかかわらず一定である。
【0035】
次に、関係r2(図5)では、外気温に応じて圧力上限値が変化する。関係r2を示す線は、上述の直線r11に対して交差している。これは、各高度(a0,a1,・・・an)で個別に成立する制御指標Rのいずれにおいても同様である。
関係r2は、プリクーラ4を経た抽気が流れるライン5,6を構成する部材(以下、「ダクト等」と称する)について、機械的強度保持を考慮して許容される温度ATにまで、抽気の温度が到達するときの各高度における外気温と圧力上限値との関係を示している。関係r2の圧力上限値は、外気温に応じて抽気をどれだけ流したならば、ダクト等の温度が許容温度ATに到達するのかを示している。
【0036】
プリクーラ4による冷却能力は、外気温が直線r11と関係r2を示す線の交点を越える辺りから、すなわち、着氷条件C1の範囲を外れると、更に外気温が高くなるに従って、抽気の温度を設定温度bT以下、例えば、許容温度AT以下に維持出来なくなる。これは、プリクーラ4の冷却能力が着氷条件C1の範囲内で防氷能力を満足する仕様になっているためで、冷媒である外気の温度(外気温)が高くなるほど、熱交換後の抽気の温度は上昇してしまう。しかしながら、抽気の温度を設定温度bT以下に維持するように、外気温が高くなるに従って、プリクーラ4により冷却される抽気の流量qを抽気流量調節部112により絞っていくと、冷却対象の絶対量が減少するので、抽気の温度上昇を抑えることが可能となる。
したがって、抽気をどれだけ流したらダクト等の温度が許容温度ATに到達するのかを示す圧力上限値は、外気温が高くなるに従って、低くなってくる。
図5中、関係r2の線の下側に位置する外気温および圧力上限値の範囲では、ダクト等の温度が許容温度AT以下に維持される。外気温が高いため、プリクーラ4の外気風量を最大にし、更に、関係r2の圧力上限値以下に抽気圧力pが収められているので、、ダクト等の温度が許容温度ATを超えない。そのため、ダクト等の過熱時に抽気の供給を停止するといった遮断処理には至らない。
【0037】
制御指標Rは、図5に破線により囲んで示すように、直線r11の低温側区間と、関係r2の高温側区間とから構成されている。制御指標Rにおいては、直線r11と関係r2を示す線とが交わる外気温を境に、直線r11と関係r2とが切り替わっている。つまり、直線r11と関係r2を示す線とが交わる外気温においては、直線r11が示す圧力上限値と、関係r2が示す圧力上限値とが同値となることを示している。
制御指標Rによれば、直線r11と関係r2を示す線との交点よりも外気温が低い側では、直線r11に従って圧力上限値が定められ、直線r11と関係r2を示す線との交点よりも外気温が高い側では、関係r2に従って圧力上限値が定められることになる。そうすると、推力や燃費の維持と、ダクト等の機械的強度の保持とを両立させることができる。
【0038】
本実施形態では、制御指標Rに基づいてマップデータ12(図4)を作成している。
制御指標Rにおける関係r2の区間では、離散した高度の値の内のある高度axに対して離散した外気温の値(・・tn−1,tn)の各々に対応する圧力上限値(・・pn−1,pn)をマップデータ12に用いている。
そして、制御指標Rの直線r11の区間においても、離散した高度の値の内のある高度axに対して離散した外気温(t0,t1・・・)の各々の値に対応する圧力上限値(p0,p1・・・)をマップデータ12に用いている。それらの圧力上限値は、外気温によらず一定である。
ある特定の高度において成立する制御指標Rに基づいて求められた圧力上限値の集合は、図4に太線の枠により囲んで示すように、マップデータ12の一列に相当する。
【0039】
各高度(a0,a1,・・・an)について、制御指標Rを用いて、離散的な外気温の値の各々に対応する圧力上限値を導くことにより、マップデータ12を完成することができる。
【0040】
以上によりマップデータ12が得られたならば、それを防氷の制御に用いることができる。
防氷制御部11は、上述した基本的な処理により、エアデータコンピュータ15により得られた高度および外気温でマップデータ12を読みこんで圧力上限値Pを設定し、その上限値P以下となるように、かつ、防氷対象部位の検知温度iTに基づいて流量バルブ61の開度を調節する。この時、読み込まれた圧力上限値P以下の条件では、必ず、抽気の検知温度sTが設定温度bTを越えることは無いので、抽気の供給が停止することは無い。
そして、防氷制御部11は、例えば、高度がanで、外気温がt0のとき、抽気圧力pをマップデータ12の圧力上限値P(n,0)とし、その圧力上限値以下で、防氷対象部位の検知温度iTに基づいて、流量バルブ61の開度を調節する制御指令D2を発する。
【0041】
マップデータ12の圧力上限値Pは、上述の制御指標Rに基づいて定められており、マップデータ12の圧力上限値により抽気流量qを絞っているから、抽気が流れるダクト等の温度が許容温度ATを超えることはない。
圧力上限値により、防氷装置2に供給される抽気の流量が絞られたとしても、本来、防氷能力が確保されている着氷条件C1のみならず、運用条件C2でも、着氷が一定の能力で防止される。
【0042】
関係r2(図5)の圧力上限値は、ダクト等の許容温度ATにまで抽気の温度が到達するときの外気温と圧力上限値との関係を示している。この関係は、ダクト等の温度を許容温度ATあるいはその近傍の値にまで到達させながら、関係r2が示す圧力上限値あるいはその近傍の値にまで抽気圧力pを確保しており、一定の抽気流量を得ることが出来ている。
従って、着氷条件C1の範囲以外で、防氷性能を要求されていなく、着氷が穏やかな条件の範囲、つまり、航空規則(Regulation)で規定されている着氷条件以外の範囲の中で、外気温が高くとも(あるいは、外気の空気密度が低い空域でも)、防氷装置を稼働させた場合、一定の防氷能力を得ることが出来る。
【0043】
関係r2では、外気温が低いほど圧力上限値が高くなり、これは、低温時には抽気流量を増やせることを示しているが、抽気源3から抽気を取り過ぎないための抽気圧力の制限(r11)があり、関係r2と直線r11の交点が切り換え点となる。
【0044】
以上で説明した基本的な処理と、制御指標Rに基づいて抽気流量を制限する処理とを含む一連の防氷制御によれば、航空機の飛行性能を確保し、そして抽気が流れる部材をそれらの許容温度AT以下に維持しつつ、主翼への着氷を十分に防止することができる。
【0045】
本実施形態では、上述の関係r2を用いて抽気圧力pが調節されているので、外気温が高いため抽気が十分に冷却されない場合も抽気の流量を絞っているので、プリクーラ4を経た抽気の温度は許容温度ATを超えず一定である。そのため、ダクト等の過熱による抽気供給の遮断には至らず、着氷条件C1の範囲以外で、着氷が穏やかな条件でも、一定の防氷性能を保持することができる。
【0046】
また、圧力上限値のマップデータ12を用いることにより、マップデータ12から直ちに圧力上限値を得ることができる。
高度および外気温の関数である圧力上限値を正確に導く数式を設定することに比べて、圧力上限値をマッピングすることは容易である。しかも、マップデータ12を用いれば数式を解く必要がないので、処理の高速化にも寄与することができる。
【0047】
〔第2実施形態〕
次に、図7乃至図9を参照し、本発明の第2実施形態について説明する。
以下、第1実施形態と相違する事項を中心に説明する。第1実施形態と同様の構成には同じ符号を付している。
第2実施形態に係る防氷システムは、図7に示す防氷システム1であり、第1実施形態の図1とは防氷システム1の防氷制御部11が温度センサ9と接続している他は同様に構成されている。
【0048】
第2実施形態における防氷制御では、高度および外気温の関数である圧力上限値のマップデータ12(図4)を用いずに、第1関係r1(図6)と、許容温度ATに関して設定された温度閾値TTとを用いる。
温度閾値TTは、抽気の温度tがダクト等の許容温度ATを超えないように、許容温度ATよりも所定の値だけ低い温度に設定される。
【0049】
本実施形態では、防氷制御部11の記憶部113(図7)に、温度閾値TTと、図8に示すような圧力上限値と高度との対応データ13(図8)とを保持している。
図8に示すように、対応データ13では、圧力上限値Pが高度に応じて与えられており、図6に示す第1関係r1を示している。
【0050】
本実施形態の防氷制御部11の抽気流量調節部112(図7)による処理について説明する。
抽気流量調節部112は、対応データ13において、エアデータコンピュータ15から取得された高度に対応するデータを読み取り、温度センサ9により検知される検知温度sTが温度閾値TTに対して低い場合には、第1実施形態と同様に、高度に応じて一意に与えられている圧力上限値P以下に抽気圧力pを収めながら防氷対象部位の温度により、抽気流量qを調節する。
【0051】
一方、抽気流量調節部112は、検知温度sTが温度閾値TTに対して高い場合には、温度センサ9により検知される検知温度sTを許容温度AT以下に収めるように、流量バルブ61の開度調節により抽気流量qを絞りながら、防氷対象部位の温度により、抽気流量qを調節する。
このように、エアデータの外気温を用いずとも、ダクト等をより確実に許容温度AT以下に収めることができる。
【0052】
抽気の検知温度sTに基づいて抽気流量を絞ることにより、高度および外気温の関数であるマップデータ12(図4)を用いるステップ状の関係(図5)の場合と比べ、予想される外気温と抽気圧力pとの直線関係に基づいて抽気流量が大きく確保されることになる。そのため、防氷装置2により多くの抽気が供給されるので、より十分に着氷防止を図ることができる。
【0053】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
第1実施形態では、マップデータ12を用いる代わりに、関係r1を示す数式と、関係r2を示す数式とを用いることができる。
第2実施形態では、対応データ13を用いる代わりに、関係r1を示す数式と、温度閾値TTとを用いることができる。
【0054】
外気により冷却された抽気が、着氷防止のために尾翼や風防等に供給される場合は、それら尾翼や風防に関しても、本発明の防氷システムを適用することができる。
【0055】
第1実施形態では、第1関係r1の直線r11と第2関係r2との交点において制御を切り替えているが、本発明において、かかる交点で厳密に制御を切り替えることは、必ずしも要求されておらず、交点から若干シフトした点において制御を切り替えることも本発明は包含する。例えば、何らかの補正係数により交点からシフトした点において制御を切り替えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 防氷システム
2 防氷装置(供給先)
3 抽気源
4 プリクーラ(熱交換器)
5 主ライン
6 供給ライン
7 供給ライン
8 空調装置
9,16 温度センサ
10 圧力センサ
11 防氷制御部(制御部)
12 マップデータ
13 対応データ
14 プリクーラ制御部
15 エアデータコンピュータ
61 流量バルブ
71 流量バルブ
111 外気風量調節部
112 抽気流量調節部
113 記憶部
AT 許容温度
TT 温度閾値
C1 着氷条件
C2 運用条件
bT 抽気の設定温度
cT 防氷対象部位の設定温度
D1 制御指令
D2 制御指令
E1 高度因子
E2 外気温因子
P 圧力上限値
p 抽気圧力
Pa 外気圧
q 抽気流量
R 制御指標
r1 関係(第1関係)
r11 直線
r2 関係(第2関係)
sT 検知温度
iT 検知温度
t 抽気温度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9