特許第6654496号(P6654496)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6654496
(24)【登録日】2020年2月3日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】被膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20200217BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20200217BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20200217BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20200217BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
   B05D1/36 Z
   B05D7/24 303E
   B05D7/24 302U
   C09D163/00
   C09D7/41
   C09D201/00
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-75127(P2016-75127)
(22)【出願日】2016年4月4日
(65)【公開番号】特開2017-185437(P2017-185437A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2018年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】599071496
【氏名又は名称】ベック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】川原 道生
【審査官】 市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−334759(JP,A)
【文献】 特開2003−138719(JP,A)
【文献】 特開2006−306994(JP,A)
【文献】 特開平05−228426(JP,A)
【文献】 特開平02−108533(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/025918(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00−7/26
C09D1/00−10/00
101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に対し、第1被膜形成材、及び第2被膜形成材を順に塗付する被膜形成方法であって、
前記第1被膜形成材は、エポキシ樹脂とアミン硬化剤を含有し、
前記エポキシ樹脂のエポキシ当量が600g/eq以上2000g/eq以下であり、
前記アミン硬化剤の活性水素当量が50g/eq以上150g/eq以下であり、
前記アミン硬化剤の活性水素当量と前記エポキシ樹脂のエポキシ当量が、[アミン硬化剤の活性水素当量/エポキシ樹脂のエポキシ当量]で0.4未満であり、
前記第2被膜形成材は、顔料容積濃度が20%以上80%以下、20℃雰囲気下での伸び率が30%以上800%以下の被膜を形成するものであることを特徴とする被膜形成方法。
【請求項2】
前記アミン硬化剤の活性水素当量と前記エポキシ樹脂のエポキシ当量が、[アミン硬化剤の活性水素当量/エポキシ樹脂のエポキシ当量]で0.25以下であることを特徴とする請求項1に記載の被膜形成方法。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂と前記アミン硬化剤の配合比率[(アミン硬化剤の配合量/アミン硬化剤の活性水素当量)/(エポキシ樹脂の配合量/エポキシ樹脂のエポキシ当量)]が、1.2以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の被膜形成方法。
【請求項4】
前記第1被膜形成材がシラン化合物を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の被膜形成方法。
【請求項5】
前記シラン化合物が、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランからなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項に記載の被膜形成方法。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂が、フェノールノボラック型エポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の被膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物や土木構造物の壁面等に適用可能な被膜形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物、土木構造物等の壁面には、コンクリート、モルタル、各種の板状壁材等、あるいはその表面に被膜を有するもの等が使用されている。
【0003】
このような壁面が長期間屋外に曝されると、その表面において、太陽光、降雨、粉塵等の影響によって劣化が進行し、当初の美観性は経年により低下してしまう。さらに、このような壁面では、表面劣化に伴って遮水性低下が生じ、内部に水が浸入しやすくなり、劣化が助長され、ひび割れ等の不具合が生じるおそれもある。
【0004】
また、一つの壁面の中でも、太陽光の当り方、降雨の流れ具合等が異なると、劣化の状態に差異が生じやすくなる。このような場合は、外観や強度等が不均一となり、様々な表面劣化状態の領域が混在することとなりやすい。
【0005】
特開平11−192454号公報には、コンクリート板等の無機質基材に対し、エポキシ硬化アクリル樹脂系のシーラーを塗装し、次いで特定ビニル樹脂系の仕上材を塗装する方法が記載されている。また、特開平11−286646号公報には、建築物外装用シーラーとして、エポキシ樹脂、ケチミン、固形樹脂、脱水剤等を含むものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−192454号公報
【特許文献2】特開平11−286646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述のような劣化壁面に対し、上記特許文献の技術を用いて被膜を形成させても、表面のひび割れを十分に埋めることは困難であり、仕上材を塗付した後の仕上り性についても、満足な結果は得られにくい。また、仕上材の塗付によって、却って割れが顕在化する場合もある。
【0008】
また、上記特許文献では、不均一に劣化した壁面の表面状態を均質化することが困難な場合がある。その場合は、仕上材塗装後の外観にムラが生じ、仕上り性が不十分となったり、あるいは密着性の不具合によって、被膜に剥れ、膨れ等が生じたりするおそれがある。さらに、塗装対象となる壁面が既存被膜を有するものであれば、その種類や劣化状態等によって、十分な密着性が確保され難い場合もある。
【0009】
本発明は、上述のような問題点に鑑みなされたものであり、建築物、土木構造物等の壁面等を構成する基材に対し、その表面劣化を修復し、仕上り性に優れた外観を得るとともに、膨れ、剥れ、割れ等の不具合発生を抑制することができる被膜形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、基材に対し、特定の第1被膜形成材及び第2被膜形成材を塗付する方法に想到し、本発明を完成させるに到った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の特徴を有するものである。
1.基材に対し、第1被膜形成材、及び第2被膜形成材を順に塗付する被膜形成方法であって、
前記第1被膜形成材は、エポキシ樹脂とアミン硬化剤を含有し、
前記エポキシ樹脂のエポキシ当量が500g/eq以上2000g/eq以下であり、
前記アミン硬化剤の活性水素当量が50g/eq以上200g/eq以下であり、
前記アミン硬化剤の活性水素当量と前記エポキシ樹脂のエポキシ当量が、[アミン硬化剤の活性水素当量/エポキシ樹脂のエポキシ当量]で0.4未満であり、
前記第2被膜形成材は、顔料容積濃度が20%以上80%以下、20℃雰囲気下での伸び率が30%以上800%以下の被膜を形成するものである
ことを特徴とする被膜形成方法。
2.第2被膜形成材の上に、さらに第3被膜形成材を塗付することを特徴とする1.に記載の被膜形成方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の被膜形成方法によれば、仕上り性に優れた外観が得られるとともに、膨れ、剥れ、割れ等の不具合発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、基材に対し、第1被膜形成材、及び第2被膜形成材を順に塗付する被膜形成方法に関するものである。
【0014】
<基材>
本発明で使用する基材は、建築物、土木構造物等に適用できるものであれば特に限定されないが、例えば、コンクリート、モルタル、スレート板、珪酸カルシウム板、ALC板、押出成型板、スレート瓦、セメント瓦、新生瓦、磁器タイル、サイディングボード、金属、ガラス、木材、合板等、あるいはこれらの上に旧塗膜が形成されたもの等が挙げられる。
【0015】
旧塗膜としては、上記基材の上に適用されるもので、たとえば、建築用耐候性上塗り塗料(JISK5658:2010)、鋼構造物用耐候性塗料(JISK5659:2008)、つや有合成樹脂エマルションペイント(JISK5660:2008)、建築用防火塗料(JISK5661:1970)、合成樹脂エマルションペイント(JISK5663:2008)、路面標示用塗料(JISK5665:2011)、多彩模様塗料(JISK5667:2003)、合成樹脂エマルション模様塗料(JISK5668:2010)、アクリル樹脂系非水分散形塗料(JISK5670:2008)、鉛・クロムフリーさび止めペイント(JISK5674:2008)、屋根用高日射反射率塗料(JISK5675:2011)、建物用床塗料(JISK5970:2008)、建築用塗膜防水材(JISA6021:2011)、建築用仕上塗材(JISA6909:2014)等により形成された塗膜が挙げられる。特に本発明では、フッ素樹脂塗膜、シリコン樹脂塗膜等にも適用できる。
【0016】
<第1被膜形成材>
本発明で使用する第1被膜形成材は、上記基材の上に塗付されるもので、エポキシ樹脂とアミン硬化剤を含有するものである。
エポキシ樹脂は、エポキシ当量(固形分当たり)が500g/eq以上2000g/eq以下、好ましくは600g/eq以上1500g/eq以下であるものを使用する。
また、アミン硬化剤は、活性水素当量(固形分当たり)が50g/eq以上200g/eq以下、好ましくは60g/eq以上150g/eq以下であるものを使用する。
さらにエポキシ樹脂とアミン硬化剤において、アミン硬化剤の活性水素当量とエポキシ樹脂のエポキシ当量が、[アミン硬化剤の活性水素当量/エポキシ樹脂のエポキシ当量]で0.4未満、好ましくは0.01以上0.3以下、より好ましくは0.03以上0.25以下、さらに好ましくは0.05以上0.2以下の組み合わせになるように各材料を設定して使用することを特徴とするものである。
【0017】
なお、エポキシ当量とは、エポキシ樹脂の分子量をエポキシ基の数で除した値である。また、活性水素当量とは、アミン硬化剤の分子量をアミノ基の水素原子数で除した値である。
【0018】
一般に、エポキシ樹脂とアミン硬化剤の混合は、エポキシ樹脂のエポキシ当量を基準に、アミン硬化剤の活性水素当量はエポキシ当量の0.5倍から2倍程度のものを組み合わせることが多く、また、当量比率でも約1付近に設定することが通常である。
しかし本発明では、エポキシ当量が500g/eq以上2000g/eq以下という特定のエポキシ樹脂と、活性水素当量が50g/eq以上200g/eq以下という特定のアミン硬化剤を、[アミン硬化剤の活性水素当量/エポキシ樹脂のエポキシ当量]で0.4未満となるように選定し、これらを組み合わせることによって、広範囲な基材や、後述する第2被膜形成材に対し、優れた密着性を示すことを初めて見出したものである。
特に、最近採用の多い高耐久性や汚染防止性等の高機能を有するものが、基材の旧塗膜や、後述する第2被膜形成材であったとしても、優れた密着性を示すことができるものである。
このようなメカニズムは、詳細は不明であるが、エポキシ樹脂とアミン硬化剤の分子量バランスと、エポキシ‐アミンの強靭な架橋構造との両立によるものと考えられる。
【0019】
[アミン硬化剤の活性水素当量/エポキシ樹脂のエポキシ当量]が、0.4以上の場合は、広範囲な基材、塗膜面に対して優れた密着性を示すことが困難となる。
また、エポキシ樹脂のエポキシ当量、アミン硬化剤の活性水素当量が、上記範囲より大きすぎる場合、あるいは小さすぎる場合、密着性に劣るおそれがある。
【0020】
また、エポキシ樹脂とアミン硬化剤の配合比率は、特に限定されないが、[(アミン硬化剤の配合量/アミン硬化剤の活性水素当量)/(エポキシ樹脂の配合量/エポキシ樹脂のエポキシ当量)]で、好ましくは0.1以上10以下、より好ましくは0.3以上2以下、さらに好ましくは0.6以上1.2以下であればよい。
【0021】
エポキシ樹脂としては、上記条件を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型ビスフェノールAエポキシ樹脂、フェノールノボラック型ビスフェノールFエポキシ樹脂等のフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とフェノールノボラック樹脂との共重合型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテル、モノ(ジ)ヒドロキシナフタレンノボラックのポリグリシジルエーテル、フェノール−ジビニルベンゼン架橋型フェノール樹脂のポリグリシジルエーテル、ビスフェノールA−ジビニルベンゼン架橋型フェノール樹脂のポリグリシジルエーテル、モノ(ジ)ヒドロキシナフタレン−ジビニルベンゼン架橋型フェノール樹脂のポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
本発明では、特に、フェノールノボラック型ビスフェノールAエポキシ樹脂、フェノールノボラック型ビスフェノールFエポキシ樹脂から選ばれる1種以上のフェノールノボラック型エポキシ樹脂を好適に使用することができる。
【0022】
アミン硬化剤としは、上記条件であれば特に限定されないが、例えば、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン、複素環状アミン、脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミド、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミドアミン、脂環式ポリアミドアミン、芳香族ポリアミドアミン等が挙げられる。
本発明では、特に、脂肪族ポリアミン、脂肪族ポリアミド、脂肪族ポリアミドアミンから選ばれる1種以上の脂肪族アミン硬化剤を好適に使用することができる。
【0023】
また、本発明の第1被膜形成材には、シラン化合物を含むことが好ましい。
シラン化合物としては、例えば、
テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラブトキシシラン等の4官能アルコキシシラン化合物、
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリブトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリブトキシシラン等の3官能アルコキシシラン化合物、
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジブチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジブトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン等の2官能アルコキシシラン化合物、
テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、メチルフェニルジクロロシラン等のクロロシラン化合物、
テトラアセトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、ジフェニルジアセトキシシラン等のアセトキシシラン化合物、
γ−グリシドキシプロピルトリメキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロペニルオキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイミノオキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリイソプロペニルオキシシランとグリシドールとの付加物等のエポキシ基を含有するシラン化合物、
N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を含有するシラン化合物、
γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリロキシ基を含有するシラン化合物
等が挙げられる。
これらシラン化合物を含むことにより、さらに密着性を高めることができる。
本発明では、特に、エポキシ基を含有するシラン化合物、アミノ基を含有するシラン化合物から選ばれる1種以上を好適に使用することができる。
【0024】
シラン化合物の混合比率は、特に限定されないが、エポキシ樹脂(固形分)100重量部に対し、0.1重量部以上30重量部以下(さらには0.3重量部以上10重量部以下、0.5重量部以上3重量部以下)であることが好ましい。
このような範囲であることにより、より密着性を高めることができるとともに、エポキシ樹脂、アミン硬化剤の混合直後に塗装する場合だけでなく、混合して時間経過した後に塗装する場合でも、優れた密着性を示すことができる。
【0025】
また、本発明の第1被膜形成材で用いる溶剤としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、n−ペンタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、テルピン油、ミネラルスピリット、ソルベッソ等の炭化水素溶剤、
エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、デカノール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等のアルコール溶剤、
酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、酢酸メチルアミル、酢酸エチレングリコールモノブチルエーテル等のエステル溶剤、
メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、エチルn−アミルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン溶剤等が挙げられる。
【0026】
本発明では、溶剤として、炭化水素溶剤とアルコール溶剤を含むことが好ましい。特に、アルコール溶剤として、溶解度パラメータ(SP値)が、10以上15以下(好ましくは12以上14以下)のアルコール溶剤を用いることが好ましい。このような溶剤を用いることにより、10℃以下のような低温環境下でも、優れた性能を発揮することができる。また、沸点として100℃以上260℃以下(さらには150℃以上230℃以下)のアルコール溶剤を用いることが好ましく、10℃以下のような低温環境下でも、優れた性能を発揮することができる。特に、基材や塗膜面に対し、より優れた密着性を示すことができる。
このようなアルコール溶剤としては、イソプロピルアルコール(SP値11.5、沸点82℃)、n−ブチルアルコール(SP値11.4、沸点117℃)、ヘキサノール(SP値10.1、沸点158℃)、オクタノール(SP値10.3、沸点195℃)、エチルアルコール(SP値12.7、沸点78℃)、さらには、ベンジルアルコール(SP値12.1、沸点205℃)等が好適に用いられる。
【0027】
なお、溶解度パラメータ(SP値)は、溶解性の指標となる値であり、ポリマーハンドブック第4版(Polymer Handbook Fourth Edition、ジェー・ブランド(J.Brand)著、ワイリー(Wiley)社1998年発行)、VII−675頁〜VII−711頁に記載された値を採用した。
【0028】
本発明の第1被膜形成材としては、上述の成分の他、必要に応じ着色顔料、体質顔料、防錆顔料、可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、艶消し剤、触媒、硬化促進剤等を、本発明の効果が阻害されない範囲内で混合することができる。
また第1被膜形成材は、以上のような各成分を常法により均一に撹拌・混合して製造することができる。被膜形成材の形態は、流通時にはエポキシ樹脂を含む主剤とアミン硬化剤を含む硬化剤からなる2液型の形態としておき、これらを塗装時に混合して使用することが望ましい。
【0029】
<第2被膜形成材>
本発明で使用する第2被膜形成材は、上記第1被膜形成材面の上に塗付されるもので、顔料容積濃度が20%以上80%以下、好ましくは30%以上70%以下、20℃雰囲気下での伸び率が30%以上800%以下、好ましくは50%以上600%以下の被膜を形成するものである。
このような第2被膜形成材を塗付することによって、基材、第1被膜形成材に追従することができ、膨れ、剥れ、割れ等の不具合発生を抑制することができるとともに、仕上り性に優れた外観を得ることができる。
顔料容積濃度が20%よりも小さい、あるいは、伸び率が800%よりも大きい場合は、仕上り性に優れた外観を形成・維持することが困難な場合がある。また、顔料容積濃度が80%よりも大きい、あるいは、伸び率が30%よりも小さい場合は、膨れ、剥れ、割れ等の不具合が発生する場合がある。
【0030】
なお伸び率は、JIS A6909「7.26伸び試験」の「標準時の伸び試験」の方法によって測定した値(23℃時の伸び率)である。ただし、試験片としては、乾燥膜厚0.3mmのものを使用する。
【0031】
第2被膜形成材は、上記条件を満たすものであれば特に限定されないが、結合材、顔料を含有するものが好ましい。
【0032】
結合材としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、アクリル酢酸ビニル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂等が挙げられ、これらの1種または2種以上が使用できる。
このような樹脂成分のガラス転移温度は、好ましくは−50℃以上60℃以下、より好ましくは−40℃以上50℃以下である。なお、ガラス転移温度は、FOXの計算式により求められる値である。
【0033】
このような結合材としては、特に架橋性反応基を有するものが好ましい。
架橋性反応基として、その組み合わせして、例えば、アルコキシシリル基どうし、カルボキシル基とカルボジイミド基、カルボキシル基とエポキシ基、カルボキシル基とアジリジン基、カルボキシル基とオキサゾリン基、水酸基とイソシアネート基、カルボニル基とヒドラジノ基、エポキシ基とヒドラジノ基、エポキシ基とアミノ基等が挙げられ、これらの架橋性反応基を有するものが好ましく、特に、エポキシ基とアミノ基、カルボキシル基とエポキシ基の組み合わせが好ましい。
【0034】
顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、カーボンブラック、酸化第二鉄(弁柄)、黄色酸化鉄、酸化鉄、群青、コバルトグリーン等の無機着色顔料、アゾ系、ナフトール系、ピラゾロン系、アントラキノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジスアゾ系、イソインドリノン系、ベンゾイミダゾール系、フタロシアニン系、キノフタロン系等の有機着色顔料、パール顔料、アルミニウム顔料、蛍光顔料、また、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、陶土、チャイナクレー、硫酸バリウム、炭酸バリウム、バライト粉、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、シリカ粉、水酸化アルミニウム、寒水石、珪砂、珪石、珪藻土等の体質顔料等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0035】
顔料としては、特に、平均粒子径0.1μm以上30μm以下の顔料を含むことが好ましい。このような顔料を含むことにより、よりいっそう優れた効果を得ることができる。
【0036】
また顔料として、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウムから選ばれる1種以上の顔料を含むことにより、仕上がり面の不具合発生を抑制する効果が働き、仕上り性に優れた外観を得ることが可能である。
【0037】
本発明の第2被膜形成材としては、上述の成分の他、必要に応じ、可塑剤、防腐剤、防錆剤、防黴剤、防藻剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、艶消し剤、触媒、硬化促進剤等を、本発明の効果が阻害されない範囲内で混合することができる。
また第2被膜形成材は、以上のような各成分を常法により均一に撹拌・混合して製造することができる。
【0038】
<被膜形成方法>
本発明の被膜形成方法は、基材に対し、第1被膜形成材、及び第2被膜形成材を順に塗付することを特徴とするものである。
【0039】
第1被膜形成材を塗付する方法は、例えば、刷毛、ローラー、スプレー等の公知の塗装器具を用いて塗装することができる。また工場等で塗装する場合は、ロールコーター、フローコーター等を用いて塗装することもできる。
第1被膜形成材の塗付け量は、好ましくは0.05kg/m以上0.5kg/m以下、より好ましくは0.07kg/m以上0.3kg/m以下である。
また、塗回数は、基材の表面状態等によって適宜設定すればよいが、好ましくは1〜2回である。本発明の第1被膜形成材は、このような少ない塗回数であっても、シール性に優れた塗膜が形成できる。
また、乾燥時間は、好ましくは1時間以上1週間以内とすればよい。また乾燥温度は、好ましくは−10℃以上50℃以下、より好ましくは−5℃以上40℃以下であればよい。本発明では10℃以下の低温環境下であっても、優れた性能を発揮することができる。
【0040】
第2被膜形成材を塗付する方法は、例えば、刷毛、こて、ローラー、スプレー等の公知の塗装器具を用いて塗装することができる。また工場等で塗装する場合は、ロールコーター、フローコーター等を用いて塗装することもできる。
また、第1被膜形成材の硬化状態に関わらず塗装することができるが、硬化後に塗装することが好ましい。
第2被膜形成材の塗付け量は、好ましくは0.1kg/m以上1kg/m以下、より好ましくは0.15kg/m以上0.5kg/m以下である。塗装時には水等を用いて適宜希釈することもできる。
また、乾燥時間は、例えば常温(0〜40℃)であれば、1時間以上、さらに2〜24時間程度であることが好ましい。
【0041】
<第3被膜形成材>
本発明ではさらに、上記第2被膜形成材面の上に、第3被膜形成材を塗付することができる。第3被膜形成材によって、仕上げ表面の保護、あるいは、美観性の向上等を図ることができる。
【0042】
第3被膜形成材は、特に限定されないが、結合材を含むことが好ましいい。
結合材としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、アクリル酢酸ビニル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂等が挙げられ、これらの1種または2種以上が使用できる。
【0043】
また、第3被膜形成材には、結合材とともに、着色粒子を含有して、美観性を付与することもできる。
着色粒子としては、例えば、上述した顔料の他に、自然石、自然石の粉砕物等の天然骨材、及び着色骨材等の人工骨材から選ばれる少なくとも一種以上を使用することができる。例えば、大理石、御影石、蛇紋岩、花崗岩、蛍石、寒水石、長石、石灰石、珪石、珪砂、砕石、雲母、珪質頁岩、及びこれらの粉砕物、陶磁器粉砕物、セラミック粉砕物、ガラス粉砕物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、樹脂粉砕物、樹脂ビーズ、ゴム粒、プラスチック片、金属粒、植物性粉粒体等や、これらの表面を着色コーティングしたもの等が挙げられる。また、着色樹脂粒子や着色ゲル粒子も使用することができる。
【0044】
また、第3被膜形成材には、上記成分の他に、必要に応じ、増粘剤、造膜助剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、体質顔料、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、吸着剤、繊維、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、触媒、溶剤、水等を、本発明の効果が阻害されない範囲内で混合することができる。
また第3被膜形成材は、以上のような各成分を常法により均一に撹拌・混合して製造することができる。
【0045】
第3被膜形成材を塗付する方法は、例えば、刷毛、こて、ローラー、スプレー等の公知の塗装器具を用いて塗装することができる。
第3被膜形成材の塗付け量は、好ましくは0.05kg/m以上0.5kg/m以下、より好ましくは0.1kg/m以上0.4kg/m以下である。また、着色粒子を含む場合は、好ましくは0.1kg/m以上4kg/m以下、より好ましくは0.3kg/m以上3kg/m以下で塗装すればよい。
【0046】
また第3被膜形成材は、1種または2種以上を使用することができ、2種以上の第3被膜形成材を使用する場合、色調の異なる第3被膜形成材を用いることにより、2色以上の多色の外観に仕上げることも可能である。
【実施例】
【0047】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明の特徴をより明確にする。
【0048】
<第1被膜形成材の製造>
表1に示す比率にて各成分(主剤、硬化剤)を常法にて均一に混合・攪拌して、第1被膜形成材を製造した。なお、原料としては、それぞれ以下に示すものを使用した。
【0049】
・エポキシ樹脂A:フェノールノボラック型ビスフェノールAエポキシ樹脂のミネラルスピリット溶液、固形分50重量%、エポキシ当量(固形分)950g/eq
・エポキシ樹脂B:フェノールノボラック型ビスフェノールAエポキシ樹脂のミネラルスピリット溶液、固形分50重量%、エポキシ当量(固形分)730g/eq
・エポキシ樹脂C:フェノールノボラック型ビスフェノールAエポキシ樹脂のミネラルスピリット溶液、固形分50重量%、エポキシ当量(固形分)550g/eq
・アミン硬化剤A:脂肪族ポリアミドアミン、固形分100重量%、活性水素当量(固形分)80g/eq
・アミン硬化剤B:脂肪族ポリアミドアミン、固形分100重量%、活性水素当量(固形分)230g/eq
・シラン化合物:N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン
・炭化水素溶剤:ミネラルスピリットと芳香族炭化水素の混合物
・アルコール溶剤A:イソプロピルアルコール、SP値11.5
・アルコール溶剤B:n−ブチルアルコール、SP値11.4
・アルコール溶剤C:ベンジルアルコール、SP値12.1
・添加剤:ウレタン系増粘剤、シリコン系消泡剤
【0050】
<第2被膜形成材の製造>
表2に示す比率にて各成分を常法にて均一に混合・攪拌して、第2被膜形成材を製造した。なお、原料としては、それぞれ以下に示すものを使用した。
【0051】
・水性樹脂1:エポキシ架橋性水性樹脂(カルボキシル基・エポキシ基含有コアシェル型アクリルスチレン樹脂エマルション(固形分50重量%、トータルTg−5℃))
・水性樹脂2:エポキシ架橋性水性樹脂(カルボキシル基・エポキシ基含有コアシェル型アクリルスチレン樹脂エマルション(固形分50重量%、トータルTg−52℃))
・水性樹脂3:エポキシ架橋性水性樹脂(カルボキシル基・エポキシ基含有コアシェル型アクリルスチレン樹脂エマルション(固形分50重量%、トータルTg53℃))
・無機質粒子1:酸化チタン(平均粒子径0.3μm、比重4.2)
・無機質粒子2:炭酸カルシウム(平均粒子径1μm、比重2.6)
・無機質粒子3:炭酸カルシウム(平均粒子径4μm、比重2.6)
・添加剤:アルコール系溶剤、グリコール系造膜助剤、ポリカルボン酸系分散剤、ウレタン系増粘剤、シリコン系消泡剤
【0052】
(試験1)
基材(塗装サイディングボード(旧塗膜:シリコン樹脂塗膜))に対し、表3に示す組み合わせにて、第1被膜形成材を塗付け量0.15kg/mでスプレー塗装後、72時間乾燥させ、次に、第2被膜形成材を塗付け量0.3kg/mでローラー塗装後、24時間乾燥させ、試験体を得た。
得られた試験体について、仕上げ外観(膨れ、剥れ、割れ等)を目視にて評価した。評価は、仕上り性に優れるものを「A」、仕上り性に劣るものを「C」とする3段階(優:A>B>C:劣)で行った。結果は表3に示す。
【0053】
(試験2)
試験1で作製した試験体を水中に14日間浸漬した後、JIS K 5600−5−6に準じ、碁盤目テープ法にて密着性を評価した。結果は表3に示す。評価基準は以下の通りである。
5:欠損部なし
4:欠損部の面積が10%未満
3:欠損部の面積が10%以上25%未満
2:欠損部の面積が25%以上40%未満
1:欠損部の面積が40%以上
【0054】
(試験3)
試験1で作製した試験体について、60cmの距離を設けて赤外線ランプを8時間照射した後、23℃の水に16時間浸漬するサイクルを、合計10サイクル行った後、その外観変化を目視にて観察した。評価は、不具合(膨れ、剥れ等)の発生が認められなかったものを「A」、明らかに不具合の発生が認められたものを「D」とする4段階(A>B>C>D)で行った。
【0055】
なお、実施例10については、実施例1で得られた試験体に、第3被膜形成材として、アクリル樹脂系つや有ペイントを、塗付け量0.3kg/mでローラー塗装し、24時間乾燥させ、試験体としたものを使用し、試験1から3を実施した。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】