(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記駆動路は、前記本体に設けられ、前記圧接体の基部を収容する筒状の中空部と、前記中空部に連通し、前記第1軸部及び前記第2軸部を内挿して前記圧接体の前後方向の移動をガイドする案内溝と、を備え、
前記係合部材が前記案内溝の少なくとも一部に重合するように配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧接工具。
前記係合部材は、前記案内溝に交差するように延在して前記第1軸部をスライド可能に内挿する第1ガイド溝、及び、前記案内溝に交差するように延在して前記第2軸部をスライド可能に内挿する第2ガイド溝を備え、
前記第1ガイド溝の前記回動軸側の端面に前記第1押圧部が形成され、前記第2ガイド溝の前記回動軸側の端面に前記第2押圧部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の圧接工具。
前記第1地点は、前記駆動路において前記圧接体の前記圧接部が前記対象に当接して圧接を開始する位置に定められていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の圧接工具。
前記本体には、前記圧接体の前記圧接部と協働して対象を挟圧するための受け部が設けられ、前記受け部は前記圧接部に対向配置されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の圧接工具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の貫通孔加工装置では、下地材(100)を穿孔刃(6)と筒刃(5)で挟むようにして咥えさせた状態で、保持ハンドル(2)に近接させるように可動軸(12)を中心に可動ハンドル(7)を強い力で回動させることにより、可動ハンドル(7)と穿孔刃(6)の進退部(8)との連結軸を介して穿孔方向に力を伝達して、下地材(100)に貫通孔(110)を穿孔加工する。さらに、同様に可動軸(12)を中心に可動ハンドル(7)を強い力で引き続き回動させることにより、該連結軸を介してプレス方向に力を伝達して、貫通孔(110)周縁をプレス加工する。一般的に、可動軸(12)と連結軸との間隔が小さいほど、可動ハンドル(7)の回動操作が、より大きい圧接力(穿孔力又は押圧力)に変換され得る。換言すると、可動軸(12)と連結軸との間隔が大きいと、連結軸の軸方向への移動距離は大きくなるが、回動操作の圧接力への変換が非効率的となる。よって、穿孔刃(6)が対象に圧接するときなど、大きい圧接力が必要なタイミングで、可動軸(12)と連結軸との間隔が最小となることが望ましい。これに対し、特許文献1の貫通孔加工装置では、下地材(100)の穿孔加工及び貫通孔(110)周縁のプレス加工の2つのタイミングで大きな圧接力が必要となる。しかしながら、該貫通孔加工装置では、連動軸における穿孔位置とプレス位置とが必然的に異なるので、穿孔加工及びプレス加工の両方の圧接工程において、可動軸(12)と連結軸との間隔を最小化することができない。つまり、力の伝達効率に関して、いずれか一方の圧接工程を最適化(圧接時に連結軸と可動軸(12)との間の距離を略最小化すること)したとしても、他方の力の伝達効率を犠牲にせざるをえない。それ故、特許文献1の貫通孔加工装置では、穿孔加工及びプレス加工時に余分な力が必要となることから、貫通孔形成及び貫通孔加工において容易性及び迅速性が損なわれる虞があった。よって、より効率的に対象に圧接加工を施すことが可能な穿孔工具が求められている。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、より効率的な圧接加工を可能とする圧接工具を提供し、且つ、より容易且つ迅速に、保護具で端面が保護された貫通孔を板材に形成することを可能とする貫通孔加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の圧接工具は、前端から後端まで延びる駆動路を備えた本体と、
前記駆動路に沿って前後方向に進退可能に配置された基部、及び、対象に圧接加工を施すべく前記基部先端に設けられた圧接部を備えた圧接体と、
前記本体に可動式に支持されるとともに、前記圧接体を前進及び後退操作するための操作部材と、
前記圧接体と前記操作部材との間に介在し、前記操作部材に加わった力を前記圧接体に伝達するリンク機構と、を備え、
前記リンク機構は、
前記圧接体に形成された第1軸部と、
前記第1軸部から前記駆動路に沿って離隔し、前記第1軸部の後方に位置するように前記圧接体に形成された第2軸部と、
前記操作部材に連結されるとともに前記本体に回動軸を介して軸支され、回動動作に伴って前記第1軸部又は前記第2軸部の少なくとも一方に摺接して前記圧接体を進退方向に移動させる係合部材と、を備え、
前記係合部材は、前記第1軸部に対して前進方向に作用可能な第1押圧部、及び、第2軸部に対して前進方向に作用可能な第2押圧部を有し、
前記圧接体が前記駆動路の第1地点に前進したときに前記第1押圧部が前記第1軸部に係合し、前記係合部材のさらなる回動動作によって前記第1押圧部が前記第1軸部を前進方向に押圧可能であり、さらに、前記圧接体が前記駆動路の前記第1地点を越えて第2地点に前進したときに前記第2押圧部が前記第2軸部に係合し、前記係合部材のさらなる回動動作によって前記第2押圧部が前記第2軸部を前進方向に押圧可能であることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の圧接工具は、請求項1に記載の圧接工具において、前記圧接体の前進及び後退移動に伴って前記回動軸と前記第1軸部との間隔w1及び前記回動軸と前記第2軸部との間隔w2が変位するように構成されており、
前記圧接体が前記駆動路の後端から前記第1地点に近接するにつれて前記間隔w1が減少し、前記圧接体が前記第1地点にほぼ到達したときに前記間隔w1が略最小となって前記第1押圧部が前記第1軸部に係合するとともに前記第1軸部を前進方向に押圧可能であり、
前記圧接体が前記第1地点を越えて前記第2地点に向けて移動すると前記第1軸部と前記第1押圧部とが離隔して前記間隔w1が増加し、
前記圧接体が前記駆動路の後端から前記第2地点に近接するつれて前記間隔w2が減少し、前記圧接体が前記第2地点にほぼ到達したときに前記間隔w2が略最小となって前記第2押圧部が前記第2軸部に係合するとともに前記第2軸部を前進方向に押圧可能であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の圧接工具は、請求項1又は2に記載の圧接工具において、前記駆動路は、前記本体に設けられ、前記圧接体の基部を収容する筒状の中空部と、前記中空部に連通し、前記第1軸部及び前記第2軸部を内挿して前記圧接体の前後方向の移動をガイドする案内溝と、を備え、
前記係合部材が前記案内溝の少なくとも一部に重合するように配置されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の圧接工具は、請求項3に記載の圧接工具において、前記係合部材は、前記案内溝に交差するように延在して前記第1軸部をスライド可能に内挿する第1ガイド溝、及び、前記案内溝に交差するように延在して前記第2軸部をスライド可能に内挿する第2ガイド溝を備え、
前記第1ガイド溝の前記回動軸側の端面に前記第1押圧部が形成され、前記第2ガイド溝の前記回動軸側の端面に前記第2押圧部が形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の圧接工具は、請求項1から4のいずれか一項に記載の圧接工具において、前記リンク機構は、前記圧接体の前記基部の前記第1軸部と前記第2軸部との間に1又は複数の第3軸部を備え、
前記係合部材は、前記1又は複数の第3軸部を前進方向に押圧可能な第3押圧部をさらに有し、
前記駆動路の前記第1地点と前記第2地点の間に位置する第3地点に前記圧接体が前進したときに前記第3押圧部が前記第3軸部に係合し、前記係合部材のさらなる回動動作によって前記第3押圧部が前記第3軸部を前進方向に押圧可能であることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の圧接工具は、請求項1から5のいずれか一項に記載の圧接工具において、前記第1地点は、前記駆動路において前記圧接体の前記圧接部が前記対象に当接して圧接を開始する位置に定められていることを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の圧接工具は、請求項1から6のいずれか一項に記載の圧接工具において、前記本体には、前記圧接体の前記圧接部と協働して対象を挟圧するための受け部が設けられ、前記受け部は前記圧接部に対向配置されていることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の圧接工具は、請求項7に記載の圧接工具において、前記圧接体の前記圧接部は、前進して板材を打ち抜き可能な穿孔刃であり、
前記受け部は、前記穿孔刃に対向するように前記本体に形成され、前記穿孔刃を受け入れ可能な開口を備え、
前記対象としての板材に貫通孔を穿設するように構成されたことを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載の貫通孔加工装置は、前記対象としての板材に貫通孔を穿設するための請求項8に記載の圧接工具、及び、前記貫通孔に圧入される環状の保護具を備え
、前記圧接工具で前記板材に貫通孔を穿孔するとともに前記保護具で前記貫通孔周縁を保護するように前記板材を加工するための貫通孔加工装置であって、
前記圧接工具は、前記穿孔刃と連動して進退し、前記保護具先端が前記穿孔刃の剪断部よりも後方に位置するように前記保護具を前記穿孔刃に外装保持する保持部を備え、
前記受け部の前記開口は、前記穿孔刃とともに前記保持部に保持された前記保護具を受け入れ可能であり、
前記穿孔刃が前記板材を貫通し、前記受け部の前記開口に前記穿孔刃とともに前記保護具が圧入されることにより、前記貫通孔の周縁に前記保護具が取着されることを特徴とする。
【0016】
請求項10に記載の貫通孔加工装置は、請求項9に記載の貫通孔加工装置において、前記第1地点は、前記駆動路において前記穿孔刃が前記板材に当接して剪断を開始する位置に定められ、
前記第2地点は、前記駆動路において前記保持部に保持された前記保護具が前記貫通孔の周縁に当接して前記保護具の前記貫通孔への圧入を開始する位置に定められていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の圧接工具によれば、リンク機構は、圧接体に形成されて駆動路に沿って整列した第1及び第2軸部と、操作部材の操作に連動し、該第1及び第2軸部に作用して圧接体を駆動する係合部材とを備えてなる。そして、圧接体が駆動路の第1地点を越えて前進したときに係合部材の第1押圧部が第1軸部に作用し、該第1押圧部によって第1軸部が圧接方向に押圧される。この第1地点において、第1軸部と回動軸との位置関係(間隔)に基づいて、操作部材へ付加された力が回動軸及び第1軸部を介して圧接力に変換される。他方、圧接体が駆動路の第2地点を越えて前進したときに係合部材の第2押圧部が(第1軸部とは異なる位置にある)第2軸部に作用し、該第2押圧部によって第2軸部が圧接方向に押圧される。第1地点よりも前進側にある第2地点において、第2軸部と回動軸との位置関係(間隔)に基づいて、操作部材へ付加された力が回動軸及び第2軸部を介して圧接力に変換される。このように、駆動路における圧接体の異なる位置に応じて、(操作部材に連動する)係合部材の各押圧部が異なる軸部にそれぞれ作用することから、各位置において力の伝達効率を最適化可能である。すなわち、圧接体と操作部材とを連結するリンク機構によって、圧接部による対象への多段階の圧接力の付加が必要である場合でも、各段階(駆動路における圧接体の各位置)において操作部材に加えられた力を対象への圧接力に効率的に変換することが可能となる。したがって、本発明の圧接工具は、より効率的な圧接加工を可能とするものである。
【0018】
請求項2に記載の圧接工具によれば、請求項1の発明の効果に加えて、圧接体が第1地点に略到達したときに係合部材の回動軸と圧接体の第1軸部との間隔w1が略最小となることから、第1地点において、操作部材を通じて付加された係合部材の回動力が、第1軸部を介して圧接体の圧接力へと効率的に変換される。また、圧接体が第2地点に略到達したときに係合部材の回動軸と圧接体の第2軸部との間隔w2が略最小となることから、第2地点において、操作部材を通じて付加された係合部材の回動力が、第1軸部を介して圧接体の圧接力へと効率的に変換される。すなわち、圧接体が基部の第1地点及び第2地点に位置するときに、強い圧接力が必要なタイミングに合わせて選択的に圧接力を最大限に発揮させることが可能となる。
【0019】
請求項3に記載の圧接工具によれば、請求項1又2の発明の効果に加えて、本体の中空部に圧接体の基部が移動可能に収容され、案内溝を貫通する第1軸部及び第2軸部に係合部が作用することによって、操作部材による圧接体の進退操作が正確にガイドされる。
【0020】
請求項4に記載の圧接工具によれば、請求項3の発明の効果に加えて、係合部材の第1ガイド溝及び第2ガイド溝に第1軸部及び第2軸部がスライド可能に内挿されていることにより、第1及び第2ガイド溝の端面を第1及び第2軸部に摺接させて圧接体を前後方向に駆動可能である。また、操作部材に連動して係合部材が回動すると第1軸部が第1ガイド溝内で相対移動して、第1地点において、第1ガイド溝の回動軸側の端面(第1押圧部)に係合することで、圧接体を前方に力強く駆動可能である。同様に、操作部材に連動して係合部材が回動すると第2軸部が第2ガイド溝内で相対移動して、第2地点において、第2ガイド溝の回動軸側の端面(第2押圧部)に係合することで、圧接体を前方に力強く駆動可能である。すなわち、本発明の圧接工具は、簡易な構造で、より効率的な圧接加工を可能とする。
【0021】
請求項5に記載の圧接工具によれば、請求項1から4のいずれかの発明の効果に加えて、圧接体が駆動路の第3地点を越えて前進したときに係合部材の第3押圧部が(第1、2軸部とは異なる位置にある)第3軸部に作用し、該第3押圧部によって第3軸部が圧接方向に押圧される。すなわち、第1地点と第2地点の間にある第3地点において、第3軸部と回動軸との位置関係に基づいて、操作部材へ付加された力が回動軸及び第3軸部を介して圧接力に変換される。このように、駆動路における圧接体の異なる位置に応じて、(操作部材に連動する)係合部材の各押圧部が異なる軸部にそれぞれ作用することから、各位置において力の伝達効率を最適化可能である。
【0022】
請求項6に記載の圧接工具によれば、請求項1から5のいずれかの発明の効果に加えて、圧接部が対象に当接して圧接を開始する位置で、操作部材に付加された力を圧接力に効率的に変換することが可能である。
【0023】
請求項7に記載の圧接工具によれば、請求項1から5のいずれかの発明の効果に加えて、受け部と圧接部との間に対象を挟圧することにより、対象に圧接加工を容易に実施することが可能である。
【0024】
請求項8に記載の圧接工具によれば、請求項7の発明の効果に加えて、受け部と圧接部との間に対象を挟み込んだ上で、穿孔刃が受け部の開口に進入することによって板材を簡単に打ち抜くことが可能である。
【0025】
請求項9に記載の貫通孔加工装置によれば、請求項8の発明の効果に加えて、保持部は、穿孔刃と連動して進退するように設けられ、保護具先端が穿孔刃の剪断部よりも後方に位置するように保護具を外装保持する。また、受け部には、保持部に保持された状態の保護具を穿孔刃とともに受け入れ可能な第1開口が開口している。そして、基部が板材に対して前進することにより、穿孔刃が先行して板材に貫通孔を穿設し、続いて、保持部に保持された保護具先端が貫通孔に圧入されて保護具が貫通孔周縁に取着される。すなわち、穿孔工具の基部を一方向に前進駆動させるという一前進動作によって、貫通孔穿孔及び保護具取着の2つの工程を連続的に実行することが可能である。
【0026】
請求項10に記載の貫通孔加工装置によれば、請求項9の発明の効果に加えて、穿孔刃が板材に当接して剪断を開始する第1地点において、効率的に圧接力を発揮させ、且つ、保護具の貫通孔への圧入を開始する第2地点において、効率的に圧接力を発揮させることが可能である。すなわち、貫通孔形成工程及び保護具圧入工程といった強い圧接力が必要なタイミングに合わせて、高い効率で圧接力を発揮させることができる。したがって、本発明の貫通孔加工装置は、保護具で端面が保護された貫通孔を板材に効率的に形成することが可能である
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において参照する各図の形状は、好適な形状寸法を説明する上での概念図又は概略図であり、寸法比率等は実際の寸法比率とは必ずしも一致しない。つまり、本発明は、図面における寸法比率に限定されるものではない。なお、実施形態の説明では、便宜上、図面の記載に合わせて、穿孔刃の前進方向を「上方」又は「前方」と称し、後退方向を「下方」又は「後方」と称する。
【0029】
本実施形態の貫通孔加工装置10は、板材(加工対象)である下地材Tに貫通孔Hを穿設するとともに、貫通孔H端面から配線・配管材を保護する保護具150を貫通孔Hに取り付けることに用いられる。貫通孔加工装置10は、下地材Tに貫通孔Hを穿設するための穿孔工具100、及び、貫通孔Hに圧入される環状の保護具150(
図10参照)を備えてなる。後述するように、穿孔工具100の受け部130と穿孔刃121との間に下地材Tが挟み込まれ、受け部130の第1開口132に穿孔刃121とともに保護具150が進入することにより、下地材Tに貫通孔Hを形成するとともに保護具150が貫通孔Hに取着される。本実施形態では、下地材Tは、壁や天井の裏面に下地として設置される断面視略コ字状の長尺の鋼板である。該下地材Tは、底壁及び該底壁の幅方向両側から立設した側壁を備える。さらに、側壁先端が内方及び下方に略直角に折り曲げられている。
【0030】
まず、
図1乃至
図9を参照して、本実施形態の穿孔工具100を詳細に説明する。
図1は、穿孔工具100の穿孔刃121が後退した姿勢の概略斜視図である。
図2は、(a)、(b)、(c)は、後退姿勢の穿孔工具100の正面図、側面図及び平面図である。
図3は、
図2のA−A断面図である。
図4は、
図2のB−B断面図である。
図5(a)、(b)は、穿孔工具100の受け部130及び部分的に前進した穿孔刃121の部分拡大斜視図である。
図6は、一実施形態の穿孔工具100の穿孔刃121が前進した姿勢の概略斜視図である。
図7(a)、(b)、(c)は、前進姿勢の穿孔工具100の正面図、側面図及び平面図である。
図8は、
図7のC−C断面図である。
図9は、
図7のD−D断面図である。
【0031】
図1乃至
図4に示すように、本実施形態の穿孔工具100は、穿孔工具本体110と、該穿孔工具本体110に対して上下(前後)方向に相対移動可能に保持された圧接体120と、該圧接体120と対向するように穿孔工具本体110に固定された受け部130と、圧接体120を駆動操作するように穿孔工具本体110に支持された可動ハンドル140と、圧接体120と可動ハンドル140との間に介在し、該可動ハンドル140に加わった力を圧接体120に効率的に伝達するリンク機構と、を備える。後述するとおり、リンク機構は、複数の部材及び構成要素(第1軸部125、第2軸部126、係合部材141)によって集合的に構成された機構である。
【0032】
穿孔工具本体110は、支持フレーム111と、該支持フレーム111から下方に延設された保持ハンドル118とからなる。支持フレーム111は、圧接体120、受け部130及び可動ハンドル140を支持するように構成されている。支持フレーム111は、
図2(a)の正面視において、板状の矩形部分と、該矩形部分の右側上端から左側に湾曲して延びるアーム部分とが組み合わさってなる。
【0033】
図3に示すとおり、支持フレーム111の矩形部分には、該支持フレーム111を上下方向に貫通して延びる駆動路としての中空部112が穿設されている。該中空部112は、前後に延びる筒状の中空空間である。該中空部112には、圧接体120の基部(又は基軸)122が支持フレーム111に対して上下(軸方向)に相対移動可能に挿通されている。中空部112は、正面方向及び背面方向に部分的に開放されている。すなわち、穿孔工具本体110の正面及び裏面の両側において、中空部112に沿って該中空部112の径よりも細幅の案内溝113が延在している。該案内溝113は、中空部112の幅方向略中央に位置するように該中空部112に連通している。そして、該案内溝113は、圧接体120の第1軸部125及び第2軸部126を内挿して圧接体120の前後方向の移動をガイドするように機能する。また、この案内溝113を介して基部122の一部を正面及び背面から視認することができる。
【0034】
また、
図3に示すように、中空筒部112の内壁には、上下方向(中空筒部112の延伸方向)に直交するように収容凹部114が凹設されている。該収容凹部114は、中空筒部112側に開口し、その開口の反対端に底面を有する。そして、収容凹部114には、バネ部材115が収容されて該バネ部材115の基端が底面に接している。さらに、収容凹部114には、バネ部材115の先端に接するように略球状の係止体116が収容されている。該係止体116は、バネ部材115を収縮方向に弾性変形するように作用する。すなわち、係止体116は、バネ部材115の弾性力によって、収容凹部114の開口を介して中空部112に出没可能に配置されている。
【0035】
そして、支持フレーム111の矩形部分には、可動ハンドル140を回動式に軸支するための回動軸117が設けられている。この回動軸117は、穿孔工具本体110内で動かない(相対移動しない)ように位置している。該回動軸117は、中空部112(案内溝113)から側方に離隔して位置し、穿孔工具本体110を正面から背面に貫通している。
【0036】
さらに、保持ハンドル118は、支持フレーム111の下端に固定され、下方に直状に延び出ている。保持ハンドル118の下端近傍には、作業者が把持可能なグリップが設けられている。作業者は、この保持ハンドル118のグリップを把持しながら、可動ハンドル140を操作することにより、下地材Tへの加工作業を行うことができる。
【0037】
圧接体120は、その先端に配置された穿孔刃121と、該穿孔刃121を前進及び後退させるように前後方向に駆動される軸状の基部122と、該穿孔刃121と連動して進退し、保護具150を保持する保持部(柱状部121c,鍔部121d)とを備えてなる。
【0038】
穿孔刃121は、下地材Tを表面から打ち抜き可能に構成されている。該穿孔刃121は、
図5(b)に示すように、平面視円形状を有するとともにその先端が尖った円柱体である。すなわち、穿孔刃121は、二股に尖った鋭利な先端部121a及び該先端部121aの間の溝部121bからなる剪断部と、これら先端部121a及び溝部121bに連設された円柱状の柱状部121cと、該柱状部121c基端で側方に張り出した鍔部121dと、鍔部121dの裏面から突出する連結部121eと、を備えてなる。すなわち、穿孔刃121の先端部121a及び溝部121bによって、下地材Tを直接打ち抜く剪断部が定められる。この剪断部の溝部121bは、略中央の直径上に形成されて略半円状に凹んでいる。この溝部121bによって、下地材Tに貫通孔Hを穿孔する際に切断片が折り曲げられるように下地材Tから切り取られる。そして、
図3に示すように、穿孔刃121基端の鍔部121d裏面から突出した連結部121eが基部122先端に埋設されることにより、穿孔刃121が基部122先端に固定されている。本実施形態では、穿孔刃121は、基部122先端面に穿設されたネジ孔に連結部121eを介して螺着されている。これにより、穿孔刃121が欠けたり、その切れ味が落ちた場合など、穿孔刃121のみを交換可能である。
【0039】
また、穿孔刃121の基端側には、環状の保護具150(
図10参照)を保持可能な保持部が一体的に形成されている。該保持部は、穿孔刃121の柱状部121c及び鍔部121dから構成されている。そして、保持部は、穿孔刃121と連動して進退し、保護具150先端(圧入部152)が穿孔刃121の剪断部121a,121bよりも後方に位置するように保護具150を穿孔刃121に一体的に外装保持する。すなわち、保護具150が鍔部121dに当接するまで柱状部121cに外挿されることで、保護具150が保持部によって保持される(
図11参照)。
【0040】
圧接体120(又は穿孔刃121)の基部122は、その先端に穿孔刃121を固定し、該穿孔刃121を前進及び後退させるように前後方向に駆動する。該基部122は、穿孔工具本体110の中空部112を貫通し、穿孔工具本体110に対して上下方向に相対移動可能に保持されている。つまり、基部122の長さが中空部122の貫通深さよりも長く、その先端及び/又は基端が中空部122の外側に延出可能である。そして、穿孔刃121の先端部121aが受け部130の内方に進入するまで、基部122が前進可能に構成されている(
図6乃至
図9参照)。
【0041】
また、圧接体120の基部122の外面には、
図3に示すように、係止凹部127が凹設されている。該係止凹部127は、凹曲状の窪みであり、収容凹部114から中空部112内に突出(又は出現)した球状の係止体116を受容可能に構成されている。係止凹部127の窪みの深さは係止体116の径よりも小さい。本実施形態では、
図5に示すように、係止体116は基部122の縮径部位として窪み状に設けられている。
図3のような穿孔刃121が完全に後退した姿勢において、係止凹部127と収容凹部114とが合致し、これらが協働して係止体116を収容している。このとき、バネ部材115が弾性復帰により伸長し、係止体116が係止凹部127に付勢されている。当該弾性力による係止体16及び係止凹部127の係合によって、基部122が当該位置で係止されている。その結果、可動ハンドル140は、保持ハンドル118に対して最大限離反した静止位置に仮止めされている。すなわち、収容凹部114、バネ部材115、係止体116及び係止凹部127が協働して可動ハンドル140の仮保持手段を構成している。当該静止位置では、穿孔刃121先端と受け部103端面との間隔が保護具150の厚みよりも大きい。よって、穿孔刃121と受け部103との間に側方から保護具150を配置して、穿孔刃121の先端部121aから保護具150を容易に外装させることが可能である。つまり、該可動ハンドル140の静止位置は、保護具150の装填位置としても定められている。
【0042】
そして、当該静止位置にある可動ハンドル140を保持ハンドル118に対して近接方向に回動操作することにより、圧接体120が前進するとともに係合凹部127が前方(
図3の上方)にスライドし、バネ部材115が弾性的に収縮しつつ係合凹部127から離脱する(例えば、
図8参照)。このとき、該係止体116が球状であることから、係止体116は基部122外面を転がるように滑らかに前後方向に相対移動する。つまり、静止位置以外の箇所では、可動ハンドル140は、(穿孔工具100の姿勢に応じて)その自重で鉛直下方に自由落下するように回動する。そして、基部122外面と係止体116との間の摩擦力が非常に小さいので、バネ部材115の弾性力が仮止めを解除するために必要な力を主に決定する。換言すると、バネ部材115の強度(弾性係数)が強い程、この仮止めが強力なものとなる。本実施形態では、静止位置において、少なくとも可動ハンドル140の自重による回動を規制し、且つ、当該規制を超える力が可動ハンドル140に加わった場合に、バネ部材115が収縮して係止体116が係合凹部127から離脱するように、バネ部材115の強度が定められている。ただし、バネ部材115の強度は任意に設定可能であり、保持ハンドル118の自重や穿孔工具100に自重に耐えるように仮止め力を決定してもよい。なお、本実施形態では、バネ部材115の背部のねじ蓋を螺進退させることでバネ部材115が係止体116に作用する力の強度を調整することが可能である。
【0043】
さらに、圧接体120の基部122の央部には、可動ハンドル140に該圧接体120を回動式に連結すべく、中空部112の外方に案内溝113を介して突出する(リンク機構の一部を構成する)第1軸部125及び第2軸部126が形成されている。第1軸部125及び第2軸部126は、基部122の延伸方向に直交するように該穿孔具100の正面側及び背面側の両方にそれぞれ延伸している。第1軸部125及び第2軸部126は、駆動路(基部122)の中心線上に整列し、駆動路に沿って所定の間隔で互いに離隔している。第2軸部126は、第1軸部125の後方(
図3の下方)に位置している。本実施形態では、第1軸部125は、穿孔刃121が下地材T表面に当接するまで前進した際に回動軸117との間隔w1が最小となる基部122の位置に形成されている(
図12及び
図13参照)。他方、第2軸部125は、穿孔刃121に外装された保護具150先端が下地材Tの貫通孔H周縁に当接するまで前進した際に回動軸117との間隔w2が最小となる基部122の位置に形成されている(
図12及び
図14参照)。そして、第1軸部125及び第2軸部126の間隔は、穿孔刃121の先端(先端部121a)から基端(鍔部121d表面)までの距離に保護具150の厚みを差し引いたものである。つまり、第1軸部125と第2軸部126との間隔が穿孔刃121先端から保護具150先端までの距離と同じである。
【0044】
そして、圧接体120の穿孔刃121外周を(部分的に)包囲するように、筒体129が外挿されている。筒体129は、
図5(b)に示すように、前後方向の両側に開口した周壁129aと、該周壁129a外面に一体的に形成されたガイド片129fとを備えてなる。
【0045】
周壁129aは、略円筒形状を有し、その両開口端部に前端面129b及び後端面129cを有する。該周壁129aの先端面129bは、穿孔刃121と受け部130との間で対象(下地材T表面)に係合可能である。他方、周壁129aの後端面129cは、穿孔刃121の下方で支持フレーム111の矩形部分上面(穿孔工具本体110)に係合可能である。そして、周壁129aは、穿孔刃121の鍔部121dの外周面に摺接するように外挿支持されている。これら周壁129a及び鍔部121dは互いに上下方向(進退方向)に摺動可能である。
図3に示すように、周壁129の前端面129b近傍の内周面が僅かに縮径し、前端側の開口の径が鍔部121dの径よりも小さくなっている。これにより、周壁129の前端側の開口端縁と鍔部121d表面とが互いに係合(又は係止)可能である。すなわち、筒体129は、上記鍔部121dとの係合関係により穿孔刃121とともに進退方向に移動可能である。他方、穿孔刃121の後退時に筒体129が穿孔工具本体110に係止された場合には、筒体129及び穿孔刃121が互いに相対移動する。換言すれば、穿孔刃121は、筒体129から出没可能に配置されている。
【0046】
そして、周壁129aの上下長さは、穿孔刃121の長さよりも長い。よって、
図3に示すような穿孔刃121が後退した姿勢では、周壁129aの後端面129cが支持フレーム111上面に当接し、且つ、前端面129bが穿孔刃121先端よりも前方に位置する。すなわち、穿孔刃121が後退した姿勢では、穿孔刃121全体(先端部121a〜鍔部121d)が周壁129aによって包囲されている。よって、該周壁129aによって、穿孔刃121の刃先が不意に対象(下地材T)に当接しないように保護されている。
【0047】
また、周壁129aには、前端面129bから軸方向下方に切り欠かれた切り欠き部129dが形成されている。該切り欠き部129は、手指が入る程度の大きさを有し、保護具150を穿孔刃121の保持部に外装する際に役に立つ。さらに、周壁129aには、その軸方向に沿って該周壁129aを切断する切断部129eが形成されていることから、該切断部129eを介して周壁129aは拡径方向に弾性変形可能である。切断部129eを開放して周壁129eを拡径させることにより、筒体129を穿孔刃121に対して着脱することが可能である。
【0048】
ガイド片129fは、一対の挟持板を有する。該ガイド片129fの挟持板で支持フレーム111のアーム部分を挟み込むことによって、ガイド片129fが穿孔工具本体110にスライド可能に支持されている。すなわち、穿孔刃121の進退に伴ってガイド片129fが支持フレーム111のリブに沿って上下にスライドする。つまり、ガイド片129fは、筒体129の上下方向の直進移動をガイドし、筒体129が穿孔刃121から外れたり、穿孔刃121を軸に回転することを抑えるように機能する。
【0049】
より詳細に後述するが、該筒体129は、穿孔刃121とともに前進可能であり、且つ、穿孔刃121で下地材Tを打ち抜いた後の穿孔刃121の後退移動の際、下地材T表面に係合し、穿孔刃121の貫通孔Hからの後退を補助する後退補助部として機能する。
【0050】
受け部130は、軸方向に沿って前進する穿孔刃121を受け入れ可能な位置で穿孔工具本体110の支持フレーム111のアーム部分の上端に一体的に固定されている。受け部130は、
図3及び
図5(a)に示すように、中空の筒体であり、下地材Tの裏面側に配置される。該受け部130は、下地材Tの裏面を支持する筒状の受け部本体131を備える。受け部本体131は、基部122の同軸上に配置されている。換言すると、受け部本体131中心と基部122中心とが平面視において合致する。また、受け部本体131の軸方向両端が開放されており、受け部本体131の下端には、穿孔刃121に対向して下方に開口する第1開口132が形成されている。
図3に示すように、筒状の受け部本体131の下端で、内壁が径方向の内側に張り出し、受け部本体131の下端面に第1開口132の周縁が定められている。他方、受け部本体131の上端には上方に開口した蓋体133が固定されている。
【0051】
第1開口132は、穿孔刃121とともに保持部(柱状部121c)に保持された保護具150を受け入れ可能な大きさで構成されている。より具体的には、本実施形態では、第1開口132の径は、穿孔刃121の柱状部121c及び鍔部121dでの外径よりも大きく、尚且つ、保護具150の最大外径よりも大きい。しかしながら、本発明は本実施形態に限定されず、第1開口は穿孔刃及び保護具を少なくとも部分的に受け入れ可能であればよい。
【0052】
また、受け部130は、受け部本体131に対して軸方向に摺動可能であるように、受け部本体131内部に配置された摺動体135を備える。該摺動体135は、中空の筒状体であり、その内径が一様となるように軸方向に延伸している。この摺動体135は、受け部本体131内部に入れ子式に収容されている。また、摺動体135の中心軸が受け部本体131(基部122)の中心軸と同軸上に配置されている。そして、摺動体135の軸方向の移動が蓋体133と第1開口132周縁をなす壁部との間に制限されている。また、摺動体135の軸方向両端が開放されており、摺動体135の下端には、穿孔刃121と対向する第2開口136が形成されている。第2開口136は、第1開口132の内側で開口している。本実施形態では、第2開口136の内径は、穿孔刃121の外径とほぼ同一かそれよりも僅かに大きくなるように定められている。また、後述するように、摺動体135が保護具150とともに前進可能であるように、第2開口136の内径は、保護具150(圧入部152)の外径よりも小さい。
【0053】
さらに、該受け部130では、摺動体135上面と受け部本体131の蓋体133の下面との間に付勢部材として付勢バネ137が配置されている。付勢バネ137は、摺動体135の拡径部分(段差)が第1開口132周縁壁部に当接するように、摺動体135を後方(穿孔刃121の後退方向)に付勢している。また、摺動体135の第2開口136の周縁面と、受け部本体131の第1開口132の周縁面とで略同一平面を構成している。つまり、摺動体135が下方に付勢された状態では、見かけ上、受け部本体131の下端面において第2開口136のみが下方に開口している。そして、摺動体135の端面に上方(穿孔刃121の前進方向)への力を加えることにより、付勢バネ137が収縮し、摺動体135が受け部本体131内部を軸方向に沿って摺動可能である。なお、付勢バネ137の硬さ(反発力)は、後述するとおり、保護具150に先行して穿孔刃121が貫通孔Hを形成するときに弾性変形せず、尚且つ、(より高い押圧力で)保護具150が貫通孔Hに圧入するときに弾性変形して収縮するように定められることが好ましい。
【0054】
可動ハンドル140は、
図4に示すとおり、圧接体120の基部122を軸方向に沿って前進及び後退するように回動操作可能である。可動ハンドル140は、正面視略直状に延びる長尺体である。該可動ハンドル140は、回動軸117を介して回動式に穿孔具本体110に軸支されているとともに、リンク機構を介して圧接体120に可動式に接続されている。なお、可動ハンドル140は保持ハンドル118に対する離反方向又は近接方向のいずれの方向にも付勢されていない。可動ハンドル140は、穿孔工具本体110及び圧接体120に可動式に連結される(リンク機構の一部を構成する)係合部材141と、作業者が把持及び操作するための把持部材148とを備える。係合部材141の基端が把持部材148に一体的に結合されており、該係合部材141から把持部材148が直線的に延びている。
【0055】
該係合部材141は、穿孔工具本体110の正面及び背面を両側から挟み込む一対の可動板として構成されている。各可動板は、正面視く字状に屈折している。また、係合部材141は、案内溝113の一部に重合するように配置されている。しかし、係合部材141は、案内溝113の全部に重合するように配置されてもよい。
【0056】
また、該係合部材141の正面視略中央(「く」の字の略中心位置)には軸孔142が形成されている。穿孔工具本体110から突出する回動軸117が該軸孔142を貫通することにより、係合部材141(可動ハンドル140)が穿孔工具本体110に回動可能に軸支されている。さらに、該係合部材141の正面視の基端側(
図4の右端側)には、第1ガイド溝143及び第2ガイド溝144が貫通形成されている。第1ガイド溝143は、第1軸部125をスライド可能に内挿する長孔であり、案内溝113に交差するように延びている。同様に、第2ガイド溝144は、第2軸部126をスライド可能に内挿する長孔であり、上記第1ガイド溝143とほぼ同じ方向で案内溝113に交差するように延びている。第2ガイド溝144は、第1ガイド溝143の下方(後退側)で第1ガイド溝143に添って並設されている。そして、係合部材141の全回動域において、第1ガイド溝143及び第2ガイド溝144は、案内溝113に交差するように配置されている。これら第1ガイド溝143及び第2ガイド溝144は、細い連通路を介して互いに連通し、全体として略エ字形状を形成する。
【0057】
第1ガイド溝143は、
図4に示すとおり、軸孔142(回動軸117)に向けて延びており、その央部が両端よりも幅広に形成されている。第1ガイド溝143は、その上方(前進側)の端面に第1軸部125が摺接可能な第1摺接面143aを有する。該第1摺接面143aは、軸孔142に向けてほぼ直線状に延びており、可動ハンドル140(及び係合部材141)の回動とともに第1軸部125が係合部材141に対して相対移動する方向をガイドする。また、第1ガイド溝143は、第1摺接面143aの軸孔142側のコ字状の端面に第1押圧部143bを有する。該第1押圧部143bは、可動ハンドル140(及び係合部材141)の回動に伴って第1軸部125が軸孔142側に移動したときに、第1軸部125に下方から係合可能である。
【0058】
第2ガイド溝144は、
図4に示すとおり、軸孔142を通る直線から僅かにオフセットして延びている。また、第2ガイド溝144の方が第1ガイド溝143よりも長くなるように形成されている。第2ガイド溝144は、その下方(後退側)の端面に第2軸部126が摺接可能な第2摺接面144aを有する。該第2摺接面144aは、直線状に延びており、可動ハンドル140(及び係合部材141)の回動とともに第2軸部126が係合部材141に対して相対移動する方向をガイドする。そして、第2ガイド溝144は、軸孔142側の端部で軸孔142に向けて屈曲している。該第2ガイド溝144は、この屈曲した端部におけるコ字状の端面に第2押圧部144bを有する。該第2押圧部144bは、可動ハンドル140(及び係合部材141)の回動に伴って第2軸部126が軸孔142側に移動したときに、第2軸部126に下方から係合可能である。
【0059】
図4に示すように、穿孔刃121が最大限後退した姿勢では、第1軸部125及び第2軸部126は、案内溝113の下端(後端)側に位置しているとともに、第1ガイド溝143及び第2ガイド溝144の軸孔142の遠位端(反対側の端部)に位置している。つまり、第1軸部125及び第2軸部126が案内溝113内で後退し、回動軸117と第1軸部125及び第2軸部126とが最大限に離隔している。この姿勢から可動ハンドル140が保持ハンドル118に対して近接操作されると、係合部材141が回動軸117を中心に
図4の反時計回りに回動する。結果として、第1軸部125及び第2軸部126が第1ガイド溝143及び第2ガイド溝144にガイドされて案内溝113内で前方(上方)に移動する。
【0060】
図6乃至
図9は、穿孔刃121(圧接体120)を最大限前進させた姿勢の穿孔工具100を示している。可動ハンドル140が保持ハンドル118に対して近接するように操作されることにより、該穿孔工具100は
図1の姿勢から
図6の姿勢へと変形する。
【0061】
図8に示すように、可動ハンドル140が回動軸117を中心に保持ハンドル118に対して近接する方向に回動し、穿孔刃121及び基部122が前進し、穿孔刃121の一部が受け部130内部に第1開口132を介して収容されている。このとき、筒体129の前端面129bが受け部130に当接し、穿孔刃121の鍔部121dが周壁129a前端に移動することで、穿孔刃121が筒体129から受け部130内に突出している。そして、摺動体135の第2開口136に穿孔刃121の剪断部(先端部121a、溝部121b)及び柱状部121cが進入し、鍔部121dが受け部130の摺動体135に当接している。
【0062】
また、このような穿孔刃121が最大限前進した姿勢では、係止凹部127と収容凹部114とが前後方向にずれており、係止体116が収容凹部114に完全に収容されている。すなわち、係止体116が基部122外面に作用されることで、バネ部材115が弾性収縮し、係止体116が中空部112側に突出(又は出現)しないように収容凹部114に押し込められている。このとき、係止体116が基部112外面に対して弾性力により付勢されている。しかし、前述したとおり、球状の係止体116と基部122外面との間の摩擦力が非常に小さいので、穿孔刃121の前進及び後退移動が係止体116によって妨げられることはない。
【0063】
図9に示すように、穿孔刃121(圧接体120)が最大限前進した姿勢では、第1軸部125及び第2軸部126が案内溝113内で前進して該案内溝113の上端(前端)側に位置している。第1軸部125は、第1ガイド溝143の長手方向の中央近傍で幅方向の連通路側に位置している。つまり、第1軸部125は、第1摺接面143aから離隔して位置している。他方、第2軸部126は、第2ガイド溝144の軸孔142側の端部に位置している。この姿勢から可動ハンドル140が保持ハンドル118に対して離隔操作されると、係合部材141が
図8の時計回りに回動する。その結果、第1軸部125及び第2軸部126が第1ガイド溝143及び第2ガイド溝144にガイドされて案内溝113内で下方に移動する。係止体116が係止凹部127に嵌入するまで、可動ハンドル140の回動操作を継続することにより、穿孔工具100は
図1乃至
図4の姿勢に復帰する。
【0064】
上記のとおり、
図1乃至
図9を参照して、本実施形態の穿孔工具100を説明した。該穿孔工具100は、保持部によって保護具150を保持可能に構成されているが、保護具150を装填せずに、板材に貫通孔を形成する用途のみに使用されてもよいことは言うまでもない。
【0065】
次いで、
図10を参照して、穿孔工具100に装填される環状の保護具150について説明する。
図10(a)〜(d)は、該保護具150の斜視図、正面図、平面図、E−E断面図である。
図10に示すように、保護具150は、円筒状の保護部151、該保護部151の先端に形成された圧入部152、該保護部151基端に形成されたフランジ部153を備える。保護部151は、貫通孔H端面を内側から覆い、配線・配管材と貫通孔H端面とを隔てるように機能する。また、圧入部152は、保護部151から先細りした形状を有し、先端に向けて縮径したテーパー面を形成する。圧入部152の基端が保護部151よりも僅かに拡径し、圧入部152と保護部151との間には、段差状の係止部154が形成されている。そして、フランジ部153は、保護部151基端から張り出し、基端側に向けて拡径した傾斜面を有している。本実施形態では、保護具150(保護部151)の内径は、穿孔刃121の柱状部121cの外径とほぼ等しい。これにより、保護具150が柱状部121cに外挿されたとき、相互間の摩擦力によって容易に抜け落ちることがない。また、本実施形態では、保護具150の最大外径(フランジ部153の径)が受け部本体131の第1開口132の内径よりも小さく、且つ、保護具150の最小外径(圧入部152先端の径)が摺動体135の第2開口136の内径よりも大きい。
【0066】
本実施形態の保護具150は、例えば、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンプラスチック)、ポリエチレン、ポリカーボネート等の硬質な合成樹脂から形成されている。しかしながら、本発明の保護具は上記材質に限定されず、金属等の他の材料で構成されてもよい。また、本実施形態の保護具150は、切れ目のない環状体として構成されているが、本発明の「環状の保護具」は、周方向の一部にスリットが形成され、一部が開いているC字形状やコ字状の環をも含む概念である。
【0067】
図11は、穿孔工具100の保持部に環状の保護具150を外装した貫通孔加工装置10の斜視図である。すなわち、貫通孔加工装置10は板材Tに貫通孔Hを穿設するための穿孔工具100、及び、貫通孔Hに圧入される環状の保護具150を備える。
図11に示すとおり、保護具150は、穿孔工具100の穿孔刃121の保持部(柱状部121c,鍔部121d)に脱着自在に外挿されて装填されている。該保護具150を穿孔工具100に装填して貫通孔加工装置10を構成するには、
図3に示したように、可動ハンドル140を保持ハンドル118から離反させた静止位置(装填位置)に仮止めする。当該静止位置において、穿孔刃121と受け部103との間に保護具150を側方から配置して、穿孔刃121の先端部121aから保護具150を外装させる。このとき、穿孔刃121と受け部103との間隔が大きく確保された装填位置で可動ハンドル140が静止されるので、作業者は片手で保持ハンドル118を保持しつつ、保護具150を穿孔刃121の先端部121aに外挿する。さらに、ガイド片129fによって穿孔刃121を軸とする筒体129の回動が形成されており、切り欠き部129の向きが一定に保たれて、保護具150の外挿の際に保護具150を把持する手指の向きを外装し易い方向に向けることができる。したがって、保護具150を穿孔工具100に簡単に装填することができる。
【0068】
続いて、
図12乃至
図17を参照し、本実施形態の貫通孔加工装置10を用いて、下地材Tを加工し、加工済下地材(又は加工済板材)T’を製造する方法を説明する。
図12(a)〜(d)は、貫通孔Hに保護具150を圧入するまでの一連の工程の流れを示す模式図である。
図13乃至
図15は、
図12(b)〜(d)の各工程をより詳細に示した概略断面図である。
図16及び
図17は、保護具150を取着した貫通孔Hから穿孔刃121を離脱させる各工程を示す図である。なお、本実施形態では、下地材Tは断面視コ字形状の長手状の鋼材である。
【0069】
まず、穿孔工具100の保持部である穿孔刃121の柱状部121c及び鍔部121dに保護具150を外装保持(つまり、外挿及び装着)し、保護具150を穿孔工具100に保持させることにより、貫通孔加工装置10を準備する。そして、
図12(a)に示すように、穿孔工具100を移動させ、穿孔刃121及び保護具150を下地材Tの表面側に配置するとともに受け部130を下地材Tの裏面側に配置する。さらに、貫通孔Hを形成する位置に位置合わせし、下地材T裏面を受け部本体131(第1開口132周縁)に当接させる。なお、穿孔工具100は、可動ハンドル140を静止位置に仮止めした状態にあることが好ましい。そして、可動ハンドル140を仮止めすることにより、作業者は保持ハンドル118のみを把持して位置合わせの簡単に作業を行うことができる。
【0070】
次いで、圧接体120(穿孔刃121)を駆動路の第1地点(穿孔刃121先端が下地材T表面に当接する位置)まで前進させるべく、可動ハンドル140を保持ハンドル118に近接させるように回動させる。なお、第1地点は、駆動路における圧接体120が到達した地点又は位置を示し、圧接体120及び駆動路の相対的な位置関係を示す概念である。すなわち、本実施形態では、
図12(a)の後退姿勢から第1の距離(穿孔刃121先端と受け部103端面との間隔から実質的に下地材Tの厚みを差し引いた距離)を圧接体120が前進したときの駆動路における圧接体120の位置が第1地点して定義される。
【0071】
回動を開始する際、
図12(a)の状態の穿孔工具100に対して、可動ハンドル140に若干の力を加えると、
図13に示すように、圧接体120の基部112が中空部112(駆動路)内を上方に移動開始し、係止凹部127から係止体116が離脱して可動ハンドル140の仮止めが解除される。本実施形態では、可動ハンドル140には既に鉛直下方に重力が作用しているので、僅かな力を可動ハンドル140に付加するだけで、可動ハンドル140の仮止めを解除可能である。そして、該可動ハンドル140の回動に伴って、係止体116が基部112外面上を相対的に摺動するように圧接体120が上方に引き上げられる。このとき、穿孔刃121が筒体129に対して相対的に前進した後、鍔部121dが筒体129に係合し、穿孔刃121のさらなる前進に伴って筒体129の前端面129bが下地材Tに近接する。
【0072】
該穿孔工具100の上記動作に伴って、係合部材141が反時計回りに回動し、第1軸部125及び第2軸部126が案内溝113内を下端近傍から中央よりも上方に移動する。同時に、第1軸部125及び第2軸部126が第1ガイド溝143及び第2ガイド溝144内を回動軸117の遠位端から近位端に向けてスライドする。すなわち、圧接体120の前進及び後退移動に伴って回動軸117と第1軸部125との間隔w1及び回動軸117と第2軸部126との間隔w2が変位する。
【0073】
この係合部材141の回動に伴って、第2ガイド溝144の第2摺接面144aが案内溝113上で上方に変位する。そして、係合部材141の回動に伴って該第2摺接面144a及び第2軸部126が互いに摺接することにより、第2軸部126が第2ガイド溝144内を軸孔142側に移動するとともに前方に引き上げられる。このとき、回動軸117と第2軸部126との間隔w2が比較的大きいので、可動ハンドル140の操作量(係合部材141の回動量)に対する圧接体120の移動量が比較的大きい。そして、圧接体120が駆動路の後端から第1地点に近接するにつれて間隔w1,w2が減少する。
【0074】
図12(b)に示すように、穿孔刃121先端が下地材T表面に当接する第1地点まで前進したとき、第1軸部125が第1ガイド溝143の軸孔142側の端部に配置され、間隔w1が略最小となって、第1軸部125及び第1押圧部143bが当接(係合)している。この最小の間隔w1は、案内溝113と回動軸117との最短距離に相当する。換言すれば、回動軸117中心を通るとともに案内溝113に直交する直線上に第1軸部125が到達したときに、間隔w1が最小となる。他方、第2軸部126が第2ガイド溝144の軸孔142側に配置されているが、第2押圧部144b(端部)から離隔している。
【0075】
図12(b)の穿孔工具100の状態から可動ハンドル140に瞬間的に強い力を加えることにより、圧接体120を下地材T表面に圧接させ、穿孔刃121の剪断部で下地材Tを突き破って下地材Tに貫通孔Hを形成することができる。一般に、穿孔刃121で下地材Tを突き破る際に瞬間的に大きな力が必要とされる。該第1地点において、可動ハンドル140を操作すると、係合部材141が回動軸117を中心に反時計回りに回動する力が発生し、第1ガイド溝143の第1押圧部143bが第1軸部125を上方(前進方向)に押圧する。そして、当該第1地点では、回動軸117及び第1軸部125の間隔w1が略最小となることから、可動ハンドル140を通じて付加された係合部材141の回動力が、第1軸部125を介して圧接体120の圧接力へと最も効率的に変換される。その結果、穿孔刃121の剪断部で下地材Tを効率的に突き破って貫通孔Hを形成することができる。なお、長尺の保持ハンドル118及び可動ハンドル140の下端を操作できるので、てこの原理を利用して、比較的弱い力でも可動ハンドル140を容易に回動操作することができる。
【0076】
続いて、穿孔刃121(圧接体120)を駆動路の第2地点(保護具150先端が下地材T表面(貫通孔H周縁)に当接する位置)まで前進させるべく、可動ハンドル140を保持ハンドル118に近接させるようにさらに回動させる。なお、第2地点は、駆動路における圧接体120が到達した地点又は位置を示し、圧接体120及び駆動路の相対的な位置関係を示す概念である。すなわち、本実施形態では、
図12(b)の第1地点から第2の距離(第1軸部125と第2軸部126との間の距離)を圧接体120が前進したときの駆動路における圧接体120の位置が第2地点して定義される。なお、第1地点から第2地点までの圧接体120の移動量と、第1軸部125と第2軸部126との間隔が、略同一に設定されている。
【0077】
圧接体120が第1地点から第2地点に移動する際、係合部材141のさらなる回動に伴って、第1軸部125及び第2軸部126が案内溝113を上方に移動する。このとき、第1軸部125は、第1ガイド溝143内で第1押圧部143b及び第1摺接面143aから離隔する方向に移動する。すなわち、第1軸部125は、間隔w1が増加するように回動軸117から離隔する方向に移動する。他方、第2軸部126は、第2ガイド溝144内で第2押圧部144b側に移動する。すなわち、第2軸部126は、間隔w2が減少するように回動軸117に近接する方向に移動する。そして、圧接体120が第2地点に到達すると、第2軸部126が第2ガイド溝144の軸孔142側の端部に配置され、間隔w2が略最小となって、第2軸部126及び第2押圧部144bが当接(係合)している。この間隔w2は、案内溝113と回動軸117中心との最短距離に相当する。換言すれば、回動軸117中心を通るとともに案内溝113に直交する直線上に第2軸部126が到達したときに、間隔w2が最小となる。
【0078】
この段階では、
図14に示すとおり、穿孔刃121の剪断部121a,121b及び柱状部121cの一部が(第1開口部132の内側に位置する)摺動体135の第2開口136内に前進することにより、穿孔刃121が下地材Tを貫通している。そして、保持部に保持された保護具150先端(圧入部152)が貫通孔Hの周縁に当接している。換言すると、この貫通孔Hを形成した後、下地材Tの貫通孔H周縁を摺動体135端面(第2開口136周縁)と保護具150先端(圧入部152)とで挟み込んでいる。また、穿孔刃121の外径、第2開口136内径がほぼ等しく、形成される貫通孔Hの径もこれらとほぼ等しい。すなわち、穿孔時において、受け部本体131の第1開口132と穿孔刃121外縁との間に摺動体135(第2開口136周縁)が配置されることにより、下地材T裏面が第1開口132周縁だけでなく第2開口136周縁によっても下支えされる。このように、第1開口132周縁よりも穿孔刃121外縁に近い部分で下地材T裏面が支持されるので、穿孔刃121が下地材Tをより確実に、尚且つ、きれいな形状で打ち抜くことが可能である。特には、付勢バネ137は、穿孔工程において、収縮方向に弾性変形しない硬さ(反発力)を有してることが好ましい。すなわち、穿孔刃121が下地材Tを先んじて穿孔するときに、付勢バネ137の反発力によって下地材T裏面が安定的に支持され、(保護具150に先行する)穿孔刃121の剪断部によって貫通孔H周縁で下地材Tが裏面側に折れ曲がることを防止し、よりきれいな形状の貫通孔Hを形成することができる。また、
図14に示すように、貫通孔Hの形成と同時に下地材Tの切除片T1が生成される。切除片T1は、穿孔刃121の刃形(先端部121a及び溝部121b形状)によって折り曲げられながら下地材Tから分離される。このように切除片T1が折り曲がって、その大きさが貫通孔Hや第2開口136と比べて実質的に小さくなるため、受け部130の内部から簡単に切除片T1を除去することができる。
【0079】
続いて、
図12(d)に示すように、基部122をさらに前進操作し、貫通孔H周縁を押し拡げるように、保持部に外装保持された保護具150の圧入部152を貫通孔Hに圧入し、保護具150を貫通孔H周縁に取着する。すなわち、
図12(c)及び
図14の穿孔工具100の状態から、瞬間的に強い力を可動ハンドル140に付加することにより、圧接体120により保護具150を貫通孔H周縁に圧接させ、保護具150の貫通孔Hへの圧入を開始させることができる。一般に、圧接体120で保護具150を貫通孔Hに圧入する際に瞬間的に大きな力が必要とされる。該第2地点において、可動ハンドル140を操作すると、係合部材141が回動軸117を中心に反時計回りに回動する力が発生し、第2ガイド溝144の第2押圧部144bが第2軸部126を上方(前進方向)に押圧する。そして、当該第2地点では、回動軸117及び第2軸部126の間隔w2が略最小となることから、可動ハンドル140を通じて付加された係合部材141の回動力が、第2軸部126を介して圧接体120の圧接力へと最も効率的に変換される。その結果、圧接体120(保護具150)による圧接力によって貫通孔H周縁を塑性変形させて保護具150を貫通孔Hに効率的に圧入することができる。なお、長尺の保持ハンドル118及び可動ハンドル140の下端を操作できるので、てこの原理を利用して、比較的弱い力でも可動ハンドル140を容易に回動操作することができる。
【0080】
そして、圧接体120に前進方向の力が加わると、鍔部121cが保護具150を下地材Tに対して押圧する。そして、保護具150の圧入部152が下地材Tの貫通孔H周縁を裏面側に折り曲げつつ、受け部本体131の第1開口132内に受け入れられる。ここで、保護具150の圧入部152の先端がテーパー状であることにより、貫通孔H周縁の端縁(エッジ)近傍に押圧力を集中させて効果的に下地材Tを押圧することが可能である。これにより、比較的弱い力でも保護具150(圧入部152)による貫通孔Hの拡径(貫通孔H周縁の折り曲げ)が容易となる。同時に、下地材Tを介して摺動体135が保護具150に押圧されることにより、付勢バネ137が収縮して摺動体135が(前進方向に)押し上げられる。つまり、穿孔刃121及び保護具150の前進に連動して摺動体135が軸方向に沿って摺動する。このように、保護具150及び摺動体135が下地材T(貫通孔H周縁)を挟持しつつ、基部122が前進することにより、下地材Tをより確実且つ安定的に貫通孔Hを押し拡げることができる。
【0081】
最終的に、
図15に示すように、保護具150のフランジ部153端面が下地材T表面とほぼ面一となるように、保護具150基端(フランジ部153)が受け部本体131の第1開口132内に受け入れられるまで、圧接体120を前進させる。
図15では、保護具150周囲に位置する筒体129の前端面129bが加工済下地材T’表面に当接又は近接している。そして、保護具150のフランジ部153の傾斜面が下地材Tの貫通孔H周縁を裏面側に凹ませるように塑性変形させ、フランジ部153端面が下地材T表面と面一となるまで、保護具150が貫通孔Hに押し込まれる。該フランジ部153は、貫通孔H周縁の環状凹部に受け止められるので、裏面側に抜けることはない。特には、本実施形態では、加工済下地材T’の下面(表面)が天井パネルが設置される天井面に配置されるため、下地材T裏面に保護具150に起因する凹凸がない(又は少ない)ことが好ましい。その結果、保護具150を貫通孔Hに嵌め込み、加工済下地材T’(
図18参照)を製造することができる。
【0082】
以上説明したとおり、圧接体120の「一前進動作」によって、下地材Tへの貫通孔H形成から貫通孔Hへの保護具150の取着までの一連の工程を完遂することが可能である。この「一前進動作」とは、穿孔刃121が基部122とともに一方向に前進する動作を意味する。
【0083】
下地材Tの加工後に、
図12(a)〜(d)の手順を逆に行うことによって穿孔工具100を加工済下地材T’から取り外すことができる。すなわち、
図12(d)の姿勢から可動ハンドル140を保持ハンドル118から離反する方向に回動させることで、係合部材141が時計回りに回動し、第1ガイド溝143及び第2ガイド溝144が案内溝113上を下方(後退方向)に変位する。そして、回動に伴って該第1摺接面143a及び第1軸部125が互い摺接することにより、第1軸部125が第1ガイド溝143内を移動するとともに後方に押し下げられる。係止体116が係止凹部127に嵌入するまで、可動ハンドル140の回動操作を継続することにより、穿孔工具100は
図1乃至
図4の当初の姿勢に復帰する。これに伴い、穿孔刃121を保護具150を装着した貫通孔Hから抜き出して、穿孔工具100を加工済下地材T’から離脱させることができる。
【0084】
しかしながら、保護具150を貫通孔Hに圧入する際、保護具150にその径方向内方の大きな力が付加されることから、その内径が僅かに縮径するように変形する。そのため、穿孔刃121に保護具150が嵌り込み、両者を分離させることが容易ではなくなる。本実施形態では、後退補助部としての筒体129が、穿孔刃121が保護具150(加工済下地材T’)から後退し、両者が分離することを補助する。以下、筒体129の作用について
図16及び
図17を参照して説明する。
【0085】
図16に示すように、保護具150を貫通孔Hに取着した後、可動ハンドル140を保持ハンドル118に離反させる方向に回動操作し、穿孔刃121(圧接体120)を後退させる。すると、穿孔刃121が保護具150に嵌着されていることにより、両者が結合した状態で、穿孔工具100に対して相対的に加工済下地材T’が穿孔刃121とともに後退する。つまり、加工済下地材T’が固定されている場合には、穿孔工具100が加工済下地材T’に対して移動する。
図16では、穿孔刃121が筒体129とともに後退し、筒体129の後端面129cが穿孔工具本体110に係合している。同時に、筒体129の前端面129bが加工済下地材T’表面に当接又は近接している。この状態で、圧接体120をさらに後退させると、筒体129が穿孔工具本体110に係止されつつ、穿孔刃121が筒体129の前端面129bから後退するように移動する。つまり、筒体129が穿孔刃121の後退移動に伴って穿孔刃121の先端側に相対移動する。このとき、筒体129の前端面129bと加工済下地材T’(貫通孔H周縁)とが係合している。よって、穿孔刃121の後退に伴って加工済下地材T’のみが係止され、筒体129が加工済下地材T’を穿孔刃121先端側に押し出すように作用する。その結果、
図17に示すように、穿孔刃121が保護具150から完全に抜け出して加工済下地材T’から撤退する。この工程において、てこの原理によって可動ハンドル140の回動操作が圧接体120を後退させる力に効率的に変換されることから、穿孔刃121と加工済下地材T’との結合を比較的弱い力で簡単に解除することが可能である。言うまでもないが、後退補助部(筒体129)は、保護具150を貫通孔Hに取着しない場合(つまり、穿孔のみを行う場合)であって、貫通孔Hを形成する工程においても同様に穿孔刃121の貫通孔Hからの離脱を容易にするように作用する。
【0086】
図18は、下地材Tに保護具150で保護された配線・配管材用挿通孔が形成された加工済下地材T’を示している。
図18に示すとおり、加工済下地材T’では、下地材Tの貫通孔Hの内側に円環状の保護部151が配置され、保護部151内面が貫通孔H内方に臨むように、貫通孔H周縁を被覆している。つまり、貫通孔Hは、穿孔刃121による穿孔後に保護具150の保護部151外径まで拡張されている。また、保護具150先端の圧入部152が、加工済下地材T’の裏面側に突き抜けている。さらに、保護具150基端のフランジ部153が加工済下地材T’の表面に埋め込まれており、保護具150のフランジ部153端面が加工済下地材T’表面とほぼ面一となっている。つまり、貫通孔H周縁の屈折片が保護具150の保護部151及びフランジ部153の外面形状に沿って屈曲している。このとき、貫通孔H周縁の裏面側に折り曲げられた端面と圧入部152基端の係止部154とが係合することにより、保護具150が加工済下地材T’の表面側に抜け落ちることが規制されている。また、フランジ部153の最大径が拡張した貫通孔Hの径よりも大きいので、保護具150が加工済下地材T’の裏面側に抜け落ちることが規制されている。すなわち、加工済下地材T’において、保護具150が貫通孔H周縁に脱落防止に取着され、配線・配管材用の挿通孔が形成されている。
【0087】
以下、本発明に係る一実施形態の貫通孔加工装置10及び穿孔工具(圧接工具)100における作用効果について説明する。
【0088】
一実施形態の貫通孔加工装置10及び穿孔工具100によれば、リンク機構は、圧接体120に形成され、駆動路に沿って整列した第1軸部125及び第2軸部126と、操作部材としての可動ハンドル140の操作に連動し、該第1軸部125及び第2軸部126に作用して圧接体120を駆動する係合部材141とを備えてなる。第1軸部125及び第2軸部126は係合部材141の第1ガイド溝143及び第2ガイド溝144にそれぞれ内挿されている。そして、圧接体120が駆動路の第1地点(圧接体120が下地材Tへと当接する地点)に前進したときに係合部材141の第1押圧部143b(第1ガイド溝143の回動軸117側の端面)が第1軸部125に作用し、該第1押圧部143bによって第1軸部125が圧接方向に押圧される。この第1地点において、回動軸117と第1軸部125との間隔w1が略最小(=回動軸117と案内溝113との最短距離)となることから、可動ハンドル140へ付加された力が回動軸117及び第1軸部125を介して圧接力に効率的に変換される。他方、圧接体120が駆動路の第2地点(保護具150が貫通孔H周縁に当接する地点)に前進したときに係合部材141の第2押圧部144b(第2ガイド溝144の回動軸117側の端面)が第2軸部126に作用し、該第2押圧部144bによって第2軸部126が圧接方向に押圧される。この第2地点において、回動軸117と第2軸部126との間隔w2が略最小(=回動軸117と案内溝113との最短距離)となることから、可動ハンドル140へ付加された力が回動軸117及び第2軸部126を介して効率的に圧接力に変換される。このように、本実施形態の穿孔工具100では、駆動路における圧接体120の異なる位置に応じて、(可動ハンドル140に連動する)係合部材121の各押圧部143b,144bを異なる軸部125,126にそれぞれ順次的又は段階的に最適な位置関係で作用させることにより、各位置において力の伝達効率の最適化がなされている。すなわち、複数の軸部125,126のそれぞれが回動軸117に近接するタイミングがずれていることによって、被圧接体への強押圧のタイミングをずらし、必要なタイミングで強い圧接力を発揮することができる。したがって、本発明の圧接工具は、より効率的な圧接加工を可能とするものである。
【0089】
[変形例]
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の実施形態や変形例を取り得る。以下、本発明の変形例を説明する。なお、各実施形態において、三桁で示される構成要素において下二桁が共通する構成要素は、特定がない限り、同一又は類似の特徴を有し、その説明を一部省略する。
【0090】
(1)本発明の圧接工具は、上記実施形態の穿孔工具に限定されず、種々の用途・機能に用いられてもよい。例えば、圧接工具は、ケーブルと端子の圧着用やワイヤと金具の圧着などに用いられる対象を圧縮、プレス、圧潰及び変形するための工具であってもよい。あるいは、金属板の打ち抜き(パンチ)、板材や線材等の切断(鋏)等に用いられる対象を剪断するための工具であってもよい。
【0091】
(2)本発明の圧接工具において、操作部材は、上記実施形態の可動ハンドル140の形態に限定されない。例えば、操作ハンドルの回動方向と第1及び第2軸部が上記実施形態のように直交した関係になくてもよく、操作ハンドルの回動方向と同一方向であってもよい。
【0092】
(3)
図19に示す穿孔工具100’のように、上記実施形態の穿孔工具100から筒体129(後退補助部)を省略してもよい。また、穿孔工具から可動ハンドル140の仮保持手段が省略されてもよい。
【0093】
(4)本発明の圧接工具において、リンク機構の構成は上記実施形態に限定されない。例えば、
図20及び
図21は、上記実施形態の第1及び第2押圧部(第1及び第2ガイド溝)の変形例を示す。
図20(a)では、第1ガイド溝243と第2ガイド溝244とが連通していない。
図20(b)では、第1ガイド溝343と第2ガイド溝344が一体的にV字形状を形成している。
図21(a)では、第2ガイド溝444が係合部材441の切り欠きとして形成されている。
図21(b)では、第1押圧部543bが係合部材541の外周端面として形成されている。つまり、第1及び第2押圧部は、第1軸部及び第2軸部を順次的に押圧可能であれば、係合部材の外周端面や切り欠きであってもよい。
【0094】
あるいは、第1軸部及び第2軸部が異なる方向に延在していてもよい。または、上記実施形態では、穿孔工具本体の両側を挟み込む一対の板状の係合部材が用いられるが、穿孔工具本体の片側のみにリンク機構を形成してもよい。または、第1及び第2ガイド溝は、係合部材を貫通しない窪みであってもよい。または、案内溝が中空部から径方向にずれた位置に形成され、そこで第1及び第2軸部が挿入及びガイドされてもよい。
【0095】
(5)上記実施形態では、リンク機構は、第1及び第2軸部の2つの軸部のみを有するが、連続した3以上の圧接のタイミングが必要な場合、第1軸部と第2軸部との間に1又は複数の第3の軸部を有してもよい。例えば、上記実施形態の穿孔工具に対して、係合部材に3つ以上の第1〜第3ガイド溝を前後方向に並設し、第1〜第3軸部を各ガイド溝に挿通させることにより、(3つ以上の)多段階の圧接を考慮したリンク機構を構成することが可能である。ガイド溝の長さは、圧接体の前進側から後退側につれて大きくなる。
【0096】
(6)上記実施形態の穿孔工具100は、受け部130を備えるが、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明の圧接工具から受け部が省略されてもよい。このような最小構成においても、同様に本発明の効果を発揮することができる。
【0097】
(7)本発明の圧接工具は、上記実施形態の形状・寸法に限定されることはない。すなわち、穿孔刃の形状は、板材を打ち抜き可能であれば、他の形状であってもよい。例えば、穿孔刃の剪断部は、溝部を設けない正面視において直線的な刃先を有していてもよい。さらに、穿孔刃や基部の断面形状は多角形、楕円形などであってもよい。これに対応し、保護具の形状も多角形、楕円形のOリング、Cリング等であってもよい。また、上記実施形態では、保持部は、穿孔刃121の柱状部121c、鍔部121dで構成されるが、保護具を保持可能であれば、当該構成に限定されない。例えば、保持部は、穿孔刃でなく、穿孔刃の基端側に別途形成されてもよい。一例として、穿孔刃と基部との間に柱状部及び鍔部を有する保持体(保持部)を設けたり、基部先端に保持部を一体的に形成してもよい。つまり、本発明の「穿孔刃に外装保持する」とは、保持部が穿孔刃と軸方向に離隔した位置で保護具を保持することをも含む概念である。さらに、上記実施形態では、第1開口132は、穿孔刃121の鍔部121d及び保護具150のフランジ部153の径よりも大きく構成されているが、本発明は当該寸法に限定されない。すなわち、保護具の一部を板材に埋め込んで貫通孔端面を保護可能であれば十分であるため、第1開口の径が、穿孔刃の刃先及び保護部の圧入部の径よりも大きければ、穿孔刃の鍔部や保護具のフランジ部の径よりも小さくてもよい。つまり、加工済板材において、保護具の基端(フランジ部)が板材表面から突出していてもよい。
【0098】
(8)上記実施形態では、貫通孔加工装置10は天井や壁裏の下地材Tに配線・配管材用の挿通孔を形成することに用いられる。しかしながら、本発明の貫通孔加工装置は、板材に保護具を取り付けた貫通孔を形成する用途であれば、下地材に配線・配管材用の挿通孔を形成する用途に限定されない。例えば、室内に露出する板材の貫通孔を保護具で保護し、人が貫通孔端面を触って怪我をすることを防止する用途に用いられてもよい。したがって、本発明の貫通孔加工装置は、種々の用途に適用可能である。
【0099】
本発明は上述した実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。