特許第6654561号(P6654561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6654561食品及び飲料で生じる凝集・沈殿を抑制する酵母抽出物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6654561
(24)【登録日】2020年2月3日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】食品及び飲料で生じる凝集・沈殿を抑制する酵母抽出物
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/3571 20060101AFI20200217BHJP
   C12N 1/16 20060101ALI20200217BHJP
   A23L 3/365 20060101ALI20200217BHJP
   A23L 3/37 20060101ALI20200217BHJP
   A23L 2/70 20060101ALI20200217BHJP
   A23L 2/38 20060101ALI20200217BHJP
   A23C 11/10 20060101ALI20200217BHJP
   A23C 9/152 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
   A23L3/3571
   C12N1/16 Z
   A23L3/365 Z
   A23L3/37 Z
   A23L2/00 K
   A23L2/38 G
   A23C11/10
   A23C9/152
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-517922(P2016-517922)
(86)(22)【出願日】2015年5月7日
(86)【国際出願番号】JP2015063222
(87)【国際公開番号】WO2015170714
(87)【国際公開日】20151112
【審査請求日】2018年4月9日
(31)【優先権主張番号】特願2014-96469(P2014-96469)
(32)【優先日】2014年5月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160978
【弁理士】
【氏名又は名称】榎本 政彦
(72)【発明者】
【氏名】中尾 英二
(72)【発明者】
【氏名】安松 良恵
(72)【発明者】
【氏名】阿孫 健一
【審査官】 北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/065732(WO,A1)
【文献】 特開2012−055278(JP,A)
【文献】 特表2010−524445(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/150683(WO,A1)
【文献】 LOMOLINO G. et al.,Protein Haze Formation in White Wines: Effect of Saccharomyces cerevisiae Cell Wall Components Prepa,Journal of Agricultural and Food Chemistry,2007年,Vol.55,p.8737-8744
【文献】 YEH S. W. et al.,Freeze-Thaw Stability of Illinois Soybean Beverage,Journal of Food Science,1981年,Vol.47,p.299-302
【文献】 ITURMENDI N. et al.,Fining of red wines with gluten or yeast extract protein,International Journal of Food Science and Technology,2010年,Vol.45,p.200-207
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00−2/84
A23L 3/00−3/54
A23L 11/00−11/30
A23C 9/00−11/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母抽出物からなる、水溶液の凍結融解により生じる凝集及び/又は沈殿を抑制する凝集・沈殿抑制剤であって、
前記酵母抽出物が酵母から酸抽出した後の酵母菌体残渣を利用して得られ、
分子量50,000以下成分を取り除いたものであり、
前記酵母抽出物の固形分当たりのRNA含量が15重量%以上、食物繊維含量が10重量
%以上、かつ蛋白質含量が15重量%以上であることを特徴とする凝集・沈殿抑制剤。
【請求項2】
酵母抽出物からなる、食品又は飲料の凍結融解により生じる凝集及び/又は沈殿を抑制する凝集・沈殿抑制剤であって、
前記酵母抽出物が酵母から酸抽出した後の酵母菌体残渣を利用して得られ、
分子量50,000以下成分を取り除いたものであり、
前記酵母抽出物の固形分当たりのRNA含量が15重量%以上、食物繊維含量が10重量%以上、かつ蛋白質含量が15重量%以上であることを特徴とする凝集・沈殿抑制剤。
【請求項3】
酵母抽出物からなる、pH3.5〜5.0の酸性乳飲料中または酸性豆乳飲料中の蛋白質の凝集及び/又は沈殿を抑制する凝集・沈殿抑制剤であって、
前記酵母抽出物が酵母から酸抽出した後の酵母菌体残渣を利用して得られ、
分子量50,000以下成分を取り除いたものであり、
前記酵母抽出物の固形分当たりのRNA含量が15重量%以上、食物繊維含量が10重量%以上、かつ蛋白質含量が15重量%以上であることを特徴とする凝集・沈殿抑制剤。
【請求項4】
前記食物繊維中に占めるマンナン含量が50重量%以上であることを特徴とする請求項1〜3記載の凝集・沈殿抑制剤。
【請求項5】
前記酵母がキャンディダ・ユティリスである請求項1〜4のいずれか一項に記載の凝集・沈殿抑制剤。
【請求項6】
食品又は飲料に請求項1〜5のいずれか一項に記載の凝集・沈殿抑制剤を0.01〜3
重量%含有させることを特徴とする、前記食品又は飲料の凝集・沈殿を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、酵母菌体残渣から取得される、飲食品等の凝集・沈殿抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流動性の食品や飲料において、成分の凝集や沈殿は、外観、舌触り、成分不均一などの点から嫌われることが多い。
飲食品の凝集・沈殿が起こりやすいケースの一つに、冷凍保存がある。
食品・飲料において、冷凍保存は非常に有効な方法であり、生鮮食料品や加工食品の長期保存方法として一般的に用いられているが、流動性の食品・飲料の中にはいったん冷凍保存すると、解凍した際に凝集・沈殿を生じるものが多く、食感、外観などにかかる品質が低下してしまう。
【0003】
食品・飲料の冷凍による品質低下を防ぐ手法としてたとえば、不凍タンパク質(AFP)を食品に添加することで氷結晶の生成を抑制し、食品の冷凍変性を防止できることが見出されている。AFPの取得方法として、遺伝子組み換え菌体からとる方法(特許文献1)や、ワカサギやカイワレなどの天然物から抽出する方法が報告されている(特許文献2)。
【0004】
特許文献3には、酵母菌体等を培養して得られる代謝物を添加することで、冷凍そばなどの冷凍食品の保存性が高められること、このような代謝組成物は旨味を有する有機酸を含むため、添加した食品に旨味も付与できることが報告されている。
特許文献4には、植物性の飲食品にセロオリゴ糖を添加する方法により、穀物、野菜、フルーツからなる冷凍飲食品の冷凍保存性が向上することが報告されている。
また、ガラクトマンナンを酵素又は微生物により低分子化させたものを食品に添加することで、タンパク質の冷凍変性を防止できることも報告されている(特許文献5)。
【0005】
飲食品の凝集・沈殿が起こりやすいもう一つのケースは、酸性乳飲料や酸性豆乳飲料である。 近年、健康志向の高まりとともに、酸性乳飲料が注目を集めている。しかし、乳成分はその等電点付近(pH4.6付近)において水に溶けにくくなり、凝集・沈殿を生じやすいという問題がある。また、乳成分は殺菌などで加熱されると凝集・沈殿が加速し、さらに等電点付近で加熱されるとよりいっそう凝集・沈殿が促進される。そのため、多くの酸性乳飲料は等電点付近のpHを避けて設計されているが、等電点を避けてpHを下げると酸味が強くなり、またpHを上げると清涼感が失われる。豆乳飲料においても同様である。したがって、乳飲料や豆乳飲料において、好ましい味と清涼感が得られるpH3.5〜pH5.0の範囲で、凝集・沈殿を抑制することが課題であった。
【0006】
酸性乳飲料中の乳成分の凝集・沈殿を抑制する手法として、アミノ酸、グルコサミノグリカン及びコラーゲンを酸性乳飲料に添加する方法、アルギン酸、ハイメトキシペクチン及びカリウムイオンを酸性乳飲料に添加する方法、水溶性ヘミセルロースを酸性乳飲料に添加する方法、ポリグリセリン脂肪酸エステルとペクチンを酸性乳飲料に添加する方法、カルボキシメチルセルロースを酸性乳飲料に添加する方法、水溶性大豆多糖類を酸性乳飲料に添加する方法、多糖類を酸性乳飲料に添加する方法が報告されている(特許文献6)。これらの報告で使用されている物質などでは乳成分の完全な沈殿、凝集の抑制する事はできず、また添加量が多くなると粘度が高くなり、のど越しなどが悪くなるなどの問題がある。さらに、これらのいずれの報告でも乳成分の均質化処理を必要としている。
【0007】
一方、酵母には核酸、アミノ酸、ペプチドなどの成分が含まれており、その抽出物は医薬品であるグルタチオンの原料や、天然の調味料である酵母エキスとして用いることができる。
酵母エキスの製造方法としては、抽出する酵素や媒体などにより種々の方法が知られており、たとえば特許文献7が挙げられる。
【0008】
酵母から酵母エキス等を抽出した後の菌体残渣はグルカン、マンナン、マンノプロテイン、タンパク質、脂質、核酸を主要な成分とするものである。
このような酵母菌体残渣を処理する方法、有効利用する方法については複数の公知文献があり、たとえば、特許文献8には、酵母エキス残渣を特定の酵素で可溶化して排水処理する方法が記載されている。特許文献9には酵母エキス残渣を微生物に資化させてマンノースを製造する方法、特許文献10には酵母エキス残渣をアルカリ処理後洗浄して薬理用組成物を得る方法、特許文献11には酵母エキス残渣に細胞壁溶解酵素等を作用させて微生物培養基材を得る方法が記載されている。
このような状況の中で、酵母菌体残渣のさらなる有効活用方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO94/03617、特表平10−508759号公報
【特許文献2】特表2000−515751号公報、特開2003−250572号公報、特開2007−153834号公報
【特許文献3】特開2003−144118号公報
【特許文献4】特開2010−226995号公報
【特許文献5】特開2008−143986号公報、特開2012−224650号公報
【特許文献6】特開2011−200119号公報、特開2009−159819号公報、特開2008−011719号公報、特開2006−006276号公報、特開2006−006275号公報、特開2004−229566号公報、特開2002−300849号公報、特開平10−286061号公報、特開平10−014547号公報、特開平09−094060号公報、特開平08−280366号公報、特開平08−154652号公報、特開平05−219884号公報
【特許文献7】特開平5−252894号公報、特開平6−113789号公報、特開平9−56361号公報
【特許文献8】特開平7−184640号公報
【特許文献9】特開平10−57091号公報
【特許文献10】特開2001−55338号公報
【特許文献11】特開2007−006838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする課題は、流動性の食品及び飲料の凝集・沈殿を抑制して品質を維持することである。そこで用いるものは、食品・飲料として安全性が高く、かつ呈味性が無いものであり、また低コストかつ環境負荷の少ない方法で製造できるものである。さらに、酵母抽出物の副産物として生成する酵母菌体残渣の有効利用である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題の解決につき鋭意研究の結果、酵母菌体残渣からの熱抽出物に食品及び飲料の凝集・沈殿を抑制する効果があることを見出した。
【0012】
すなわち本発明は、
(1)酵母抽出物からなる、水溶液の凍結融解により生じる凝集及び/又は沈殿を抑制する凝集・沈殿抑制剤、
(2)酵母抽出物からなる、食品又は飲料の凍結融解により生じる凝集及び/又は沈殿を抑制する凝集・沈殿抑制剤、
(3)酵母抽出物からなる、pH3.5〜5.0の酸性乳飲料中または酸性豆乳飲料中の蛋白質の凝集及び/又は沈殿を抑制し、熱安定性を付与する凝集・沈殿抑制剤、
(4)前記酵母抽出物の固形分当たりのRNA含量が15重量%以上、食物繊維含量が10重量%以上、かつ蛋白質含量が15重量%以上であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の凝集・沈殿抑制剤、
(5)前記食物繊維中に占めるマンナン含量が50重量%以上であることを特徴とする上記(4)記載の凝集・沈殿抑制剤、
(6)前記酵母抽出物が酵母菌体残渣を利用して得られる上記(1)〜(5)のいずれかに記載の凝集・沈殿抑制剤、
(7)前記酵母がキャンディダ・ユティリスである上記(1)〜(6)のいずれかに記載の凝集・
沈殿抑制剤、
(8)食品又は飲料に(1)〜(7)のいずれかに記載の凝集・沈殿抑制剤を0.01〜3重量%含有させることを特徴とする、前記食品又は飲料の凝集・沈殿を抑制する方法にかかるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、食経験があり安全性が確認されているトルラ酵母(キャンディダ・ユティリス)から水溶液、流動性食品又は飲料の凝集・沈殿抑制に優れた効果を有する酵母抽出物が得られる。
この酵母抽出物は、各種の水溶液、食品又は飲料に少量添加しておくことで、それらの凍結融解で生じる凝集・沈殿を抑制し、酸性乳飲料の乳成分の沈殿・凝集を抑制し、または乳成分の加熱により凝集・沈殿を抑制し品質を向上させることができるため、凝集・沈殿抑制剤として用いることができる。この酵母抽出物には呈味性がないため、添加した食品・飲料に異味を付与することがない。
また、酵母を原料とするため、動植物を原料とする場合と比較して、供給不安、価格変動、品質変動のリスクが少ない。
さらに、原料として酵母エキス等を抽出した後の菌体残渣を用いることができ、そこから簡単な工程で食品及び飲料で生じる凝集・沈殿を抑制する酵母抽出物を取得できる。トルラ酵母の菌体残渣は、調味料である酵母エキスや他の有用成分の生産に伴って大量に副生しており、本発明はその酵母菌体残渣を有効利用できるため、コスト、廃棄物削減の点でも、きわめて有利である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を具体的に説明する。
本発明でいう酵母とは、遺伝子組み換えを行わず、食品製造用に用いうる酵母であり、具体的にはキャンディダ・ユティリス、サッカロミセス・セレビシエ等が挙げられ、中でもキャンディダ・ユティリスが望ましい。
【0015】
本発明の酵母菌体残渣とは、酵母に熱水、酸・アルカリ性溶液、自己消化、機械的破砕、細胞壁溶解酵素、蛋白質分解酵素、リボヌクレアーゼ、またはデアミナーゼのいずれか一つ以上を用いて抽出処理することにより、酵母エキスまたは有用成分を抜いた後の残渣である。例として、興人ライフサイエンス(株)製の「KR酵母」が挙げられる。
このような残渣は一般的に、グルカン、マンナン、蛋白質、脂質、核酸を主要な成分とするものであるが、構造的にはグルカン、マンナン、蛋白質と他の成分が複合体となって強固に結合していることが推察される。
本発明の凝集・沈殿を抑制する酵母抽出物を製造するために用いる酵母菌体残渣としては、特に酵母から酸抽出した後の残渣の利用が高活性であり好ましい。
【0016】
本発明の凝集・沈殿を抑制する酵母抽出物を取得する工程として、まず上述の酵母菌体残渣を水で洗浄する。具体的には、酵母菌体残渣に水を加えて、乾燥菌体重量で約10重量%濃度の菌体懸濁液を調製し、必要であれば菌体懸濁液のpHを中性付近に調整し、遠心分離で上清液を除去して、洗浄後の酵母菌体残渣を取得する。この洗浄工程を1回、または2回以上行う。
次いで、洗浄後の酵母菌体残渣に、水を加えて乾燥菌体重量で約10重量%濃度の菌体懸濁液を調製し、それを80〜100℃で10分以上、望ましくは15〜30分加熱処理を行う。次いで、遠心分離機にて沈殿物を除去し、上清液として、食物繊維と蛋白質を含有する画分を取得する。この画分をそのまま、又は乾燥して本発明の酵母抽出物とする。また、本発明の酵母抽出物をさらに限外濾過膜(分画分子量50,000)により分子量50,000以下成分を取り除いて得られた酵母抽出物は凝集・沈殿を抑制する効果が高い。
【0017】
この酵母抽出物の固形分あたりのRNA含量が15重量%以上、望ましくは20重量%以上で、食物繊維含量が10重量%以上、望ましくは25重量%以上で、かつ蛋白質含量が15重量%以上、望ましくは20重量%以上のものは、高い凝集・沈殿抑制効果を有する。さらに、該食物繊維中に占めるマンナン含量が50重量%以上、望ましくは70重量%以上であれば、より効果が高い。一方、強い呈味成分であるイノシン酸、グアニル酸、グルタミン酸の含量は低いことが望ましい。
【0018】
本発明において、RNA含量の測定にはHPLC法を用いた。分離カラムはGS−320HQ、移動相は0.1Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)を使用した。検出はUV260nmで行った。酵母抽出物を注入して得られたピークの面積からRNA含量を求めた。
酵母抽出物に含まれるタンパク質含量測定には加水分解法を用いた。酵母抽出物を6N 塩化水素にて110℃、24時間加水分解したのち前処理を行い全自動アミノ酸分析計(日立社製)にて測定して求めた。
食物繊維含量測定には加水分解法を用いた。酵母抽出物を1N硫酸にて110℃、3.5時間加水分解して中和後、加水分解生成物であるマンノース、グルコースを液体クロマトグラフィーにて測定し、グルカン・マンナンへ換算して求めた。検出にはRI検出器、分離カラムはSP810(Shodex)、移動相は超純水を使用した。
【0019】
酵母菌体残渣を原料として上記の製法により得られた酵母抽出物は、そのまま、水溶液や飲食品の凝集・沈殿抑制剤として用いることができる。あるいは、必要に応じて、他の水溶性成分とブレンドして、凝集・沈殿抑制剤としてもよい。使用分野としては冷凍保存する飲食品の品質保持、及び酸性乳飲料の品質保持に好適に用いうるが、特に食品・飲料限定されるものではなく、広い用途に使用することができる。
【0020】
本発明の水溶液は、特に限定は無いが、具体的には色素水溶液、食品添加物の水溶液、食品原料の水溶液、薬品の水溶液などである。
本発明の食品は、流動性を有する食品で、スープ、シェイク、ヨーグルト、その他の流動食などである。
本発明の飲料は、特に限定は無いが、具体的にはジュース類、清涼飲料、お茶類、コーヒー、ココア、乳飲料、アルコール飲料などである。
本発明の酸性乳飲料とは、乳蛋白質を含有するpH3.5〜5.0の飲料を言う。
本発明の酸性豆乳飲料とは、大豆蛋白質を含有するpH3.5〜5.0の飲料を言う。
【0021】
本発明の凝集・沈殿抑制剤は、水溶液、食品又は飲料に添加することにより、それらの凝集及び/又は沈殿を抑制することができる。
本発明の凝集・沈殿抑制剤の効果の強さは、水溶液、食品又は飲料の種類やpH、基質の濃度によって異なる。
従って、望ましい配合量は、水溶液、食品又は飲料の種類やpH、濃度によって異なるが、概ね0.01〜3重量%(酵母抽出物乾燥物として)であり、望ましくは0.01〜1重量%、さらに望ましくは0.5〜1重量%である。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。
<製造例>
キャンディダ・ユティリスCs7529株(FERM BP−1656株)の10%菌体懸濁液を10N硫酸でpH3.5に調整し、60℃、30分間加熱処理した後、遠心分離機で酵母エキスと酵母菌体残渣とに分離した。その後、酵母菌体残渣に水を加え、8重量%(乾燥物換算)の菌体懸濁液を調製した。8%濃度酵母残渣懸濁液18kgをpH7.0に調整後、セパレーター(アルファ・ラバル遠心分離機:LAPX202BGT-24-50/60)にて固形物と上清を分離し、固形物を回収した。固形物を水で懸濁し、8%濃度溶液とした。再びセパレーターで固形物と上清を分離し、固形物を回収した。固形物を水で懸濁し90℃、20分間加熱処理を行い、冷水で冷却した。その後、セパレーターで上清を回収し、大型エバポール及びエバポレーターで濃縮し、凍結乾燥させて約80gの粉末状の酵母抽出物を取得し、これをサンプル1の凝集・沈殿抑制剤とした。
このサンプル1を限外濾過膜(分画分子量50,000)で処理し、分子量50,000以下成分を取り除いたものをサンプル2の凝集・沈殿抑制剤とした。
サンプル1中のRNA含量は17.6%、食物繊維含量は15.0重量%、タンパク含量は23.9重量%であった。また、この食物繊維中に占めるマンナンの量は67.4重量%であった。
サンプル2中のRNA含量は16.7%、食物繊維含量は重量16.1%、タンパク含量は重量19.5%であった。また、この食物繊維中に占めるマンナンの量は重量61.5%であった。
【0023】
<実施例1>ブルーベリージュースの凍結融解試験
ブルーベリーは冷凍したものを使用した。冷凍ブルーベリーを80gと水300gを混合しミルミキサーで破砕した。ブルーベリー破砕液を5000 rpm、10 minで遠心分離して不溶物を除去した。上清をブルーベリージュースとして試験に用いた。このブルーベリージュースに製造例で製したサンプル1の凝集・沈殿抑制剤を全量あたり0.5%溶解させた。溶液を−20 ℃で2日間冷凍後、融解させて沈殿(凝集)を遠心分離操作により確認した。
【0024】
<実施例2>
実施例1において、サンプル1を0.2%添加したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0025】
<比較例1>
実施例1において、サンプル1の代わりに水を添加したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0026】
評価の結果、比較例1は凍結融解後の沈殿が多く見られたのに対し、実施例1、実施例2、この順で凍結融解後の沈殿が抑制されていた。
【0027】
<実施例3>ニンジンジュースの凍結融解試験
ニンジンを120 gと水300 gを混合しミルミキサーで破砕した。ニンジン破砕液を5000 rpm、10 minで遠心分離して不溶物を除去した。上清をニンジンジュースとして試験に用いた。このニンジンジュースにサンプル1を全量あたり0.5%溶解させた。溶液を−20 ℃で2日間冷凍後、融解させて沈殿(凝集)を遠心により確認した。
【0028】
<実施例4>
実施例3において、サンプル1を0.2%添加したこと以外は、実施例3と同様に行った。
【0029】
<実施例5>
実施例3において、サンプル1を0.05%添加したこと以外は、実施例3と同様に行った。
【0030】
<比較例2>
実施例3において、サンプル1の代わりに水を添加したこと以外は、実施例3と同様に行った。
【0031】
評価の結果、比較例2は凍結融解後の沈殿が多く見られたのに対し、実施例3、実施例4、実施例5は、この順で凍結融解後の沈殿が抑制されていた。
【0032】
<実施例6>色素溶液の凍結融解試験
色素としてサンオレンジNo.2(三栄源エフ・エフ・アイ社製)を使用した。サンオレンジNo.2の0.1 %水溶液を色素溶液として、試験に用いた。サンプル1を色素溶液中に0.5%になるように量りとり、色素溶液で溶解させた。溶液を−20度で一晩冷凍した。冷凍後は室温で融解させた。融解後、各種サンプルを濾紙で濾して凝集した色素を回収した。
【0033】
<実施例7>
実施例6において、サンプル1の代わりにサンプル2を添加したこと以外は、実施例6と同様に行った。
【0034】
<比較例3>
実施例6において、サンプル1の代わりに水を添加したこと以外は、実施例6と同様に行った。
【0035】
<比較例4>
実施例6において、サンプル1の代わりにサポニンを添加したこと以外は、実施例6と同様に行った。
【0036】
<比較例5>
実施例6において、サンプル1の代わりにカラギーナンを添加したこと以外は、実施例6と同様に行った。
【0037】
<比較例6>
実施例6において、サンプル1の代わりにレシチン(太陽化学社製「サンレシチン」)を添加したこと以外は、実施例6と同様に行った。
【0038】
評価の結果、サンプル1を添加した実施例6、サンプル2を添加した実施例7は比較例3、4、5、6に比べて凍結融解後の沈殿が抑制された。また、実施例6より実施例7の方が沈殿は抑制された。
【0039】
<実施例8>全脂粉乳溶液の凍結融解試験
全脂粉乳の5%水溶液を調製して、試験に用いた。サンプル1を前記水溶液に対して0.5%になるように添加し、十分に溶解させてから−20℃で2日間凍結させた。凍結させた溶液は室温で解凍後、1.5mlチューブにサンプリングし10,000 rpmで遠心分離して沈殿(凝集物)を確認した。
【0040】
<比較例7>
実施例8において、サンプル1の代わりにアラビアガムを添加したこと以外は、実施例8と同様に行った。
【0041】
<比較例8>
実施例8において、サンプル1の代わりにレシチン(太陽化学社製「サンレシチン」)を添加したこと以外は、実施例8と同様に行った。
【0042】
<比較例9>
実施例8において、サンプル1の代わりに水を添加したこと以外は、実施例8と同様に行った。
【0043】
評価の結果、サンプル1を添加した実施例8は、比較例7、8、9と比較して凍結融解後の沈殿が抑制された。
【0044】
<実施例9>酸性乳飲料の沈殿・凝集抑制試験(スキムミルクを使用)
ショ糖5g、スキムミルク0.5g、サンプル1の凝集・沈殿抑制剤 0.25 gを量りとり、水でよく溶解して、50gへメスアップした。この溶液にクエン酸を添加してpH4.2に調整して酸性乳飲料とした。さらに、作成した酸性乳飲料をスクリューバイアルに10ml入れて蓋をしっかりしめた後に100℃(沸騰水)で10分間加熱した。加熱後は冷却した。加熱前後の沈殿・分離の様子を確認した。
【0045】
<実施例10>
実施例9において、サンプル1の代わりにサンプル2を添加したこと以外は、実施例9と同様に行った。
【0046】
<比較例10>
実施例9において、サンプル1の代わりに水を添加したこと以外は、実施例9と同様に行った。
【0047】
<比較例11>
実施例9において、サンプル1の代わりにアラビアガムを添加したこと以外は、実施例9と同様に行った。
【0048】
<比較例12>
実施例9において、サンプル1の代わりにサポニンを添加したこと以外は、実施例9と同様に行った。
【0049】
<比較例13>
実施例9において、サンプル1の代わりにレシチン(太陽化学社製「サンレシチン」)を添加したこと以外は、実施例9と同様に行った。
【0050】
評価の結果、加熱前後とも実施例9及び実施例10において酸性乳飲料中の乳成分の沈殿・凝集が抑制された。これらは2週間経っても沈殿がほとんど生じなかった。実施例9、10では増粘がなく、加熱処理をしても沈殿・凝集が抑制されていた。比較例10、11、12、13では酸性にした直後に沈殿・凝集を生じた。
【0051】
<実施例11>酸性乳飲料の沈殿・凝集抑制試験(牛乳を使用)
ショ糖5g、成分無調整牛乳2.5g、サンプル1の凝集・沈殿抑制剤 0.25 gを量りとり、水でよく溶解して50gにメスアップした。この溶液にクエン酸を添加してpH4.2に調整して酸性乳飲料とした。さらに、作成した酸性乳飲料をスクリューバイアルに10ml入れて蓋をしっかりしめた後に100℃(沸騰水)で10分間加熱した。加熱後は冷却した。加熱前後の沈殿・分離の様子を確認した。
【0052】
<実施例12>
実施例11において、サンプル1の代わりにサンプル2を添加したこと以外は、実施例11と同様に行った。
【0053】
<比較例13>
実施例11において、サンプル1の代わりに水を添加したこと以外は、実施例11と同様に行った。
【0054】
評価の結果、実施例11及び実施例12において酸性乳飲料中の乳成分の沈殿・凝集が抑制された。実施例11、12では増粘がなく、加熱処理をしても沈殿・凝集が抑制されていた。比較例13では酸性にした直後に沈殿・凝集を生じた。
【0055】
<実施例13>酸性豆乳飲料の沈殿・凝集抑制試験
ショ糖5g、調整豆乳(マルサンアイ社製)3.5g、サンプル1の凝集・沈殿抑制剤 0.25 gを量りとり、水でよく溶解して50gにメスアップした。この溶液にクエン酸を添加してpH4.2に調整して酸性豆乳飲料とした。さらに、作成した酸性豆乳飲料をスクリューバイアルに10ml入れて蓋をしっかりしめた後に100℃(沸騰水)で10分間加熱した。加熱後は冷却した。加熱前後の沈殿・分離の様子を確認した。
【0056】
<実施例14>
実施例13において、サンプル1の代わりにサンプル2を添加したこと以外は、実施例13と同様に行った。
【0057】
<比較例14>
実施例13において、サンプル1の代わりに水を添加したこと以外は、実施例13と同様に行った。
【0058】
評価の結果、実施例13及び実施例14において酸性豆乳飲料中の豆乳成分の沈殿・凝集が抑制された。実施例13、14では増粘がなく、加熱処理をしても沈殿・凝集が抑制されていた。比較例14では酸性にした直後に沈殿・凝集を生じた。
【0059】
<実施例15>各pHの酸性乳飲料の沈殿・凝集抑制試験
ショ糖5g、スキムミルク0.5g、サンプル1の凝集・沈殿抑制剤 0.25 gを量りとり、水でよく溶解して50gにメスアップした。この溶液にクエン酸を添加してpH5.0、4.8、4.4.6、4.4、4.2、4.0に調整して酸性乳飲料とした。作成した酸性乳飲料をスクリューバイアルに10ml入れて蓋をしっかりしめた後に100℃(沸騰水)で10分間加熱した。加熱後は冷却した。加熱前後の沈殿・分離の様子を確認した。
【0060】
<実施例16>
実施例15において、サンプル1の代わりにサンプル2を添加したこと以外は、実施例15と同様に行った。
【0061】
<比較例15>
実施例15において、サンプル1の代わりに水を添加したこと以外は、実施例15と同様に行った。
【0062】
評価の結果、実施例15ではpH4.2〜5.0で酸性乳飲料中の乳成分の沈殿・凝集が抑制された。実施例16でpH4.0〜5.0において酸性乳飲料中の乳成分の沈殿・凝集が抑制された。実施例15、16では増粘がなく、加熱処理をしても沈殿・凝集が抑制されていた。比較例15ではすべてのpHにおいて沈殿・凝集を生じた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上説明してきたように、本発明で製造した食品及び飲料で生じる凝集,沈殿を抑制する酵母抽出物を冷凍する物または外気が零度以下の環境下に食品を保管し、凍結が予測される食品・飲料にあらかじめ添加しておくことにより、凍結融解による沈殿・凝集を抑制し品質低下を防ぐことができる。また、酸性(豆)乳飲料作成時にあらかじめ添加する事により、該飲料中の(豆)乳成分が沈殿・凝集する事を抑制する事ができる。本発明の食品及び飲料で生じる凝集,沈殿を抑制する酵母抽出物は、冷凍食品などの加工食品、飲料、生鮮食料品のほか食品以外の物の冷凍保存にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1】ブルーベリージュースの凍結融解試験(右から実施例1、実施例2、比較例1)の結果を示す写真である。
図2】ニンジンジュースの凍結融解試験(右から実施例3、実施例4、実施例5、比較例2)の結果を示す写真である。
図3】色素溶液の凍結融解試験(左上から実施例6、実施例7、比較例3、左下から比較例4、比較例5、比較例6)の結果を示す写真である。
図4】全脂粉乳の凍結融解試験(左から比較例9、実施例8、比較例7、比較例8)の結果を示す写真である。
図5】酸性乳飲料の沈殿・凝集抑制試験(左から比較例10、実施例9、実施例10、比較例11、比較例12、比較例13)の結果を示す写真である。
【符号の説明】
【0065】
1 比較例1
2 実施例2
3 実施例1
4 比較例2
5 実施例5
6 実施例4
7 実施例3
8 実施例6
9 実施例7
10 比較例3
11 比較例4
12 比較例5
13 比較例6
14 比較例9
15 実施例8
16 比較例7
17 比較例8
18 比較例10
19 実施例9
20 実施例10
21 比較例11
22 比較例12
23 比較例13

図1
図2
図3
図4
図5