(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
分離間葉系幹細胞の集団が一酸化窒素シンターゼ(iNOS)及びインドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)の二重欠損間葉系幹細胞である、請求項1記載の組成物。
分離間葉系幹細胞の集団が一酸化窒素シンターゼ(iNOS)及びインドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)の二重欠損間葉系幹細胞である、請求項6記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0015】
特に定義しない限り、本願で用いるすべての技術用語および学術用語は、本発明が属する技術に精通した者によって一般的に理解される意味と同じ意味であり、かつ以下に記載する意味を有すると理解される。本願に言及されるすべての刊行物および特許はその全文を参照文献として本願に援用する。矛盾する場合は、定義を含めて本願が制限する。さらに材料、方法および実施例は例示的であるのみであり、制限的であることを意図しない。
【0016】
本願で用いる用語「約」は、特定の用語の+または−5%までを意味する。
【0017】
本願で用いる語句「〜からほぼ構成される」は、他の有効成分または組成物、製剤または構造の基本的特性に実質的に影響することのできる他のあらゆる成分を除外するが、一般的に賦形剤を含むことを意味する。
【0018】
本発明で用いる「有効量」は、対象において免疫応答を調節、減衰または誘導し(すなわちT細胞応答の抑制または免疫応答の促進)、それにより治療中の疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状を軽減するのに十分である幹細胞、サイトカイン、または両者を含有する治療組成物のその量を意味する。
【0019】
本願で用いる用語「治療する」、「治療すること」または「治療」などは、そのような治療を必要とする患者に組成物を投与することによって達成される、疾患の徴候または症状を緩和することを意味する。そのような緩和は疾患の徴候または症状が出現する前に、さらにはその出現後にも発生することがあるので、予防的および積極的治療を包含する。さらに「治療する」、「治療すること」または「治療」は徴候または症状の完全な緩和または治癒を必要としない。細胞レベルでは、未処理細胞または対照または比較物質で処理した細胞と比較した、罹患または標的細胞集団の少なくとも10%、25%、50%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%の減少を含みうる。
【0020】
本願で用いる、本発明の範囲内の用語「投与」または「投与すること」または「投与レジメン」は、本発明の個々の成分のいずれかまたは組み合わせの単回の治療的送達、または複数回または反復送達、または制御送達治療を含む。そのような用語は、局所、全身、血管内、筋肉内、腹腔内、血液脳幹門内、臓器特異的介入注射または他の様々な経路からなどの送達の様態を含むことをさらに意味する。
【0021】
一般的に言って、本発明は、多発性硬化症、関節炎、狼瘡、敗血症、肝炎、肝硬変、パーキンソン病、慢性感染症、GvHD、およびさらには癌および固形腫瘍などの多様な疾患の予防および治療において、IL−1α、インターロイキンベータ(IL−1β)、TNFα、IL−17A、IFN−I、TGFβ、FGFなどの炎症性サイトカインを用いてMSCを前処理し、免疫抑制または免疫誘導作用などのその免疫調節作用を増強する組成物、方法、およびキットを記載する。
【0022】
免疫抑制は、免疫応答時に産生される炎症性サイトカインによって誘発される。炎症性サイトカインの非存在下では、MSCはその免疫抑制特性を獲得しない。本願の少なくとも1つの態様は、免疫応答に向けて強力かつ長時間持続する阻害機能を達成するためにMSCを初回刺激し、かつ訓練するための炎症性サイトカインの添加を記載する。そのような効果は、特に活性化T細胞の増殖、または活性化マクロファージおよび他の免疫細胞、IFNγまたはTNFαなどの炎症性サイトカインの血清レベルを含む他の免疫応答パラメータによって顕在化することも可能である。
【0023】
炎症性サイトカインの決定的な役割は、移植片対宿主病(GvHD)、実験的自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性肝炎、慢性感染症、肝硬変、肺硬変、および関節リウマチについてのインビボ研究によるものとなっている。本発明の少なくとも1つの態様においては、遺伝子操作されたMSCは、NOまたはIDOの非存在下または減少におけるMSCによる大量のサイトカインおよび成長因子の分泌によって、免疫応答を逆転的に増強できると記載される。したがって、本発明は免疫応答を制御するための強力な抑制および増強戦略を提供する。
【0024】
本発明の少なくとも1つの態様は、(i)細胞源から多能性前駆細胞を得ること、(ii)前記多能性細胞を適切な培地で培養すること、(iii)前記培地中の分化細胞から間葉系幹細胞を分離すること、(iv)前記の分離された間葉系幹細胞の少なくとも1つのサブセットをIFNγおよびIL−1α、IL−1β、IL−17A、TGFα、FGF、IFN−I(IFNα、β)、TNFαおよびその任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの有効量のサイトカインで活性化することというプロセスによって得られる、初回刺激されたかまたは訓練された幹細胞集団に向けられる。本発明の1つの実施形態においては、そのようなプロセスによって作製されるこれらの訓練された幹細胞のサブセットは、それを必要する対象に投与されるとき、免疫応答を促進、増強、改善または誘導する。少なくとも1つの実施形態においては、対象は哺乳類、好ましくはヒト、または疾患を患うヒト患者である。他の実施形態においては、訓練された幹細胞の他のサブセットは目的の部位において免疫応答を抑制、減少または減衰することができる。
【0025】
本発明の少なくとも1つの態様は、(i)細胞源から多能性前駆細胞を得ること、(ii)前記多能性細胞を適切な培地で培養すること、(iii)前記培地中の分化細胞から間葉系幹細胞を分離すること、(iv)前記の分離された間葉系幹細胞の少なくとも1つのサブセットをIFNγおよびIL−1α、IL−1β、IL−17A、TGFα、FGF、IFN−I(IFNα、β)、TNFαおよびその任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの有効量のサイトカインで活性化することという段階にしたがって初回刺激されたかまたは訓練された幹細胞の集団を作製するプロセスである。本発明の1つの実施形態においては、プロセスは最適なMSC特性を達成することができる特定の培地を用いる。他の実施形態においては、プロセスはすべての残留サイトカインが作製された訓練された幹細胞からほぼ分離されることを特徴とする濾過または抽出段階を含む。本願で用いる訓練された幹細胞は、本願に記載されたプロセスによって作製された幹細胞を意味しかつクローン、非クローン、または両種類の幹細胞からなることができる。少なくとも1つの実施形態においては、培地は低酸素である。
【0026】
1つの実施形態においては、訓練された幹細胞のサブセットは目的の部位において免疫応答を抑制、減少または減衰することができる。他の実施形態においては、本発明は他の治療またはインターフェロンまたはワクチンといった生物学的レジメンの免疫抑制特性を遮断する医薬品試薬を記載する。他の実施形態においては、本発明は腫瘍随伴MSCの免疫抑制特性を遮断して癌などの免疫抑制性疾患に対する免疫を促進する組成物を記載する。したがって、MSC訓練細胞は他の標準的な腫瘍免疫療法プロトコルに付属するかまたはこれと組み合わせて用いてストレス下の免疫応答を増強することができる。そのような免疫療法はワクチン、および遺伝子的、生物学的、および医薬品として修飾されたMSC、ワクチン、タンパク質または免疫アジュバントとしての遺伝子療法を用いた癌免疫療法を含むことができる。
【0027】
本発明の他の態様において、(a)誘導型一酸化窒素シンターゼの阻害剤、インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼの阻害剤、誘導型一酸化窒素シンターゼ(iNOS)欠損間葉系幹細胞集団、インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)欠損間葉系幹細胞集団、またはその任意の組み合わせを含有する組成物の有効量を対象に投与することおよび(b)一酸化窒素(NO)、インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)、またはプロスタグランジンE2(PGE2)のうち1つまたはそれ以上の産生を阻害することという段階にしたがって、それを必要とする対象において免疫応答を刺激するための方法が記載される。1つの実施形態において、
【0028】
本発明の少なくとももう1つの態様は(a)分離された間葉系幹細胞集団であって:(i)細胞源から多能性前駆細胞を得ること;(ii)前記多能性細胞を培地で培養して間葉系幹細胞の亜集団および分化細胞の亜集団を作製すること;(iii)前記培地において分化細胞から間葉系幹細胞を分離すること、(iv)前記の分離された間葉系幹細胞の少なくとも1つのサブセットをIFNγおよびIL−1α、IL−1β、TGFβ、FGF、IFN−I(IFNα、β)、TNFαおよびその任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの有効量のサイトカインで活性化することという段階を含む方法によって作製される分離された間葉系幹細胞集団;および任意に(b)医薬品として許容できる担体を含む組成物に向けられる。本発明のこの態様において、得られた組成物はそのような組成物を投与される対象の免疫応答を誘導する。他の実施形態においては、そのような組成物は拡大相において用いられるサイトカインのいずれもほとんど含まないことがある。本願で用いられる用語ほとんど含まないは、組成物の重量につき5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.25%または0.1%未満を有することを意味する。他の実施形態においては、細胞集団はさらにクローン化または非クローン化間葉系幹細胞、分化細胞、またはその混合物をさらに含みうる。
【0029】
他の実施形態においては、MSCの活性化段階は、MSCの少なくとも1つのサブセットをIFNγおよびIL−1α、IL−1β、IL−17A、TNFα、およびその任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの有効量のサイトカインに十分な時間提示して所望の免疫抑制特性を誘発することにより達成される。この実施形態においては、得られた組成物はそのような組成物を全身的にも局所的にも投与される対象において免疫応答を抑制または減衰する分離MSCを含む。他の実施形態においては、組成物はいずれの残留サイトカインもほとんど含まない。そのような実施形態においては、組成物は局所免疫T細胞増殖を抑制する。他の実施形態においては、細胞集団は、前記細胞集団の少なくとも50%、60%、70%、75%、80%または90%がクローン化MSCから作製されることを特徴とするクローン化または非クローン化間葉系幹細胞、分化細胞、またその混合物をもさらに含みうる。
【0030】
本発明の他の態様においては、本発明者らはそれを必要とする患者において免疫応答を活性化、促進、増強または誘導するための方法であって、分離MSC集団が(a)分離IFNγおよび(b)IL−1α、IL−1β、TGFβ、FGF、IFN−I(IFNα、β)、TNFα、およびその任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの有効量のサイトカインへの十分な時間の曝露によって初回刺激されるかまたは訓練されることを特徴とする方法を記載する。本願で用いる、本発明の範囲内の語句「十分な時間」は、MSCを訓練して所望の特性を呈するのに必要な時間を含む。そのような時間は、12時間、24時間、36時間、48時間、72時間などを含む、少なくとも1時間から約4週間の範囲である。他の実施形態においては、細胞集団は、前記細胞集団の少なくとも50%、60%、70%、75%、80%または90%がクローン化MSCから作製されることを特徴とする、クローン化または非クローン化間葉系幹細胞、分化細胞、またその混合物をもさらに含みうる。
【0031】
他の実施形態においては、分離MSCの集団は個別に、または分離IFNγおよび/または他のサイトカインとの混合物として投与される。少なくとも1つの他の実施形態においては、必要とする患者は自己免疫障害、アレルギー、敗血症、肝硬変、癌、ウイルス感染症および臓器移植のいずれか1つを患うことがある。
【0032】
本発明の他の態様においては、免疫抑制を誘導する方法は(i)骨髄などの細胞源から多能性前駆細胞を得ること、(ii)分化および多能性幹細胞を含むそのような細胞を適切な培地で培養すること、(iii)前記培地中の分化細胞から間葉系幹細胞を分離すること、(iv)前記の分離された間葉系幹細胞の少なくとも1つのサブセットをIFNγおよびIL−1α、IL−1β、IL−17A、およびTNFαからなる群から選択される少なくとも1つのサイトカインに十分な時間曝露することにより活性化することという具体的プロセスによって得られる訓練された間葉系幹細胞集団を用いる。少なくとも1つの実施形態においては、間葉系幹細胞を活性化するのに用いられる培地は他のサイトカイン源のいずれもほとんど含まない。
【0033】
好ましい実施形態においては、必要とする対象を治療する方法は、訓練された間葉系細胞を含有する組成物の有効量を治療対象の疾患に罹患した部位に局所投与することを含む。
【0034】
本発明の他の態様は、前記間葉系幹細胞の少なくとも1つのサブセットにおいてNOシンターゼ(iNOS)、インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)の発現を誘導する方法に向けられる。本発明のこの態様においては、治療部位においてNO、IDO代謝物の濃度を高めることで臨床転帰が改善される。
【0035】
本発明の他の態様においては、MSC集団は良好に形質導入されて機能的IFNαを放出する。少なくとも1つの実施形態においては、IFNα分泌MSCを用いる方法は癌を治療しかつ腫瘍の成長を抑制するために記載される。
【0036】
本発明のさらなる他の実施形態においては、訓練された幹細胞集団は臨床環境における使用のための治療キットにおいて記載される。少なくとも1つの実施形態においては、治療キットはIFNγおよびIL−1α、IL−1β、IL−17A、IFN−I、TGFβ、FGF、TNFαおよびその任意の組み合わせなどの少なくとも1つのサイトカインをさらに含む。具体的な実施形態においては、治療キットを組み立て、免疫抑制または免疫促進を開始させるため適切な指示によって、そのような免疫応答のためにそれぞれ用いてもよい。1つの実施形態においては、キットは訓練されたMSC、IFNγおよび少なくとももう1つの第2のサイトカインからほぼ構成されるが、訓練されたMSCの挙動を実質的に変化させるであろう他の有効成分はほとんど含まない。
【0037】
1つの実施形態においては、免疫抑制のための治療キットは訓練された幹細胞集団、IFNγおよびIL−1α、IL−1β、IL−17A、TNFαおよびその任意の組み合わせなどの少なくとも1つのサイトカインを含む。他の実施形態においては、免疫促進のための治療キットは訓練されたクローン化幹細胞集団、IFNγおよびIL−1α、IL−1β、IFN−I、TGF、TNFαおよびその任意の組み合わせなどの少なくとも1つのサイトカインを含む。他の実施形態においては、サイトカインは分離型である。他の実施形態においては、キットを用いるための指示は所望の臨床転帰を開始させるための段階を明確に示す。
【0038】
さらに他の実施形態においては、たとえば癌またはウイルス感染症などを患う必要とする患者において免疫応答を刺激するための方法が記載される。そのような実施形態においては、患者は誘導型一酸化窒素シンターゼの阻害剤、インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼの阻害剤、誘導型一酸化窒素シンターゼ(iNOS)欠損間葉系胚細胞集団、インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)欠損間葉系胚細胞集団またはその任意の組み合わせを含む組成物の有効量を投与される。好ましい実施形態においては、本方法は一酸化窒素(NO)、インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)、またはプロスタグランジンE2(PGE2)、1−MT、1400W、L−NMMAまたは他の適切な物質のうち1つまたはそれ以上の産生の阻害を引き起こす。この実施形態においては、上述のiNOSまたはIDO阻害剤は個別にまたは混合物として投与される。本発明のこの態様において、患者の状態は、本願に記載された訓練されたまたは初回刺激されたMSCを含むレジメンを含む免疫療法のレジメン、または適応のインターフェロン、抗体、細胞療法または免疫応答を調節する他の療法による治療を含むことのできる他の免疫療法レジメンを受けた後である。
【0039】
本発明の他の態様は、IDOタンパク質がマウスiNOSプロモーターの制御下でヒトIDO遺伝子によりコードされるアミノ酸配列からなり、それによりMSCの免疫抑制機能が改善するヒトIDO発現マウスiNOS欠損細胞の構築によって、ヒトまたはマウスMSCを含む哺乳類MSCにおけるIDO活性を阻害するかまたは上昇させる試薬または薬剤をスクリーニングするための方法を記載する。本発明のこの態様は、特に免疫療法と組み合わせて、前記投与がIDO活性を制御し、それにより癌または感染症におけるIDOの異常発現が関与する疾患を治療するよう、マウスiNOSプロモーターによって制御されるヒトIDO発現を有するマウスモデルにおいてIDO活性を亢進または阻害する試薬または薬剤をスクリーニングする方法を記載する。
【0040】
ヒト間葉系胚細胞は、たとえば胎盤派生物または骨髄などの数多くの細胞源に由来することも、あるいは大腿骨等海綿骨片プラグを含む他の多くの細胞源から得ること、変性関節疾患の患者から人工股関節または膝関節置換術の際に得ること、および正常ドナーおよび将来の骨髄移植のために骨髄を採取した腫瘍患者から得た吸引骨髄から得ることも可能である。一般的には、採取された骨髄は採取骨髄源に応じて(すなわち骨片、末梢血などの有無)数多くの異なる間葉系分離プロセスによる細胞培養分離のために調製されるものの、分離プロセスに関与する決定的な段階は、分化のない間葉系幹細胞の成長のみならず、間葉系幹細胞のみの培養皿のプラスチックまたはガラス表面への直接接着を可能にする物質を含有する特別に調製された培地の使用である。
【0041】
骨髄サンプル中に非常に微細な量で存在する所望の間葉系胚細胞の選択的接着および生存を可能にする培地を作製することにより、間葉系胚細胞を骨髄中に存在する他の細胞(すなわち赤血球および白血球、線維芽細胞、他の分化間葉系細胞)から分離することが可能である。他のヒトMSC源は臍帯、脂肪組織および歯根を含む。MSCは、骨、軟骨、脂肪、腱、神経組織、線維芽細胞および筋細胞を含む間葉系細胞系統の多様な細胞種に対する多能性始原細胞である。間葉系幹細胞は骨髄、血液(末梢血を含む)、骨膜および真皮、および中胚葉起源を有する他の組織などの組織から分離および精製することができる。この点で、これらの始原細胞は、通常は骨髄にたとえば非常に微細な量などで存在し、かつこれらの量は年齢と共に大きく低下するものの(すなわち比較的若い患者における1/10,000細胞から高齢患者では1/2,000,000と少ない)、ヒト間葉系幹細胞は多様な組織から分離することが可能であり、かつ特別な培地で培養する場合には基板に対する「接着性」と命名されたその選択的接着により精製することが可能であることが確認されている。
【0042】
間葉系胚細胞は、典型的には特定のマーカーの発現または発現の欠如に基づいて同定される。たとえば、MSCはCD34−、CD11b、CD11c−、CD45−、MHCクラスII、CD44+、Sca−1+、およびMHCクラスIlowである。さらに、MSCは多様な間葉系細胞型に分化するその能力によって同定することができる。インビトロ実験により、培養条件、添加剤、成長因子およびサイトカインでMSCを正確に誘導して選択された間葉系細胞に発達させることができることが実証されている。たとえば、イソブチルメチルキサンチンまたはインスリンと組み合わせたデキサメタゾンまたはイソブチルメチルキサンチン、インスリンおよびインドメタシンの混合物は、MSCを脂肪細胞に分化させることが示されている。同様に、MSCは5−アザシチジンで刺激されるとき骨格筋細胞に分化することができる。13−VGFは間葉系胚細胞を心筋細胞に分化させることが示されている。
【0043】
本発明は何らかの具体的な方法で得られたMSCの使用に限定されないものの、MSCは技術上許容される任意の方法論によって骨髄および臍帯から分離し、精製しかつ培養によって拡大することができる。骨髄細胞のプラグまたは吸引物(主として赤血球および白血球および非常に微細な量の間葉系胚細胞からなる)はシリンジ内を通過させられ、組織が単一細胞に解離させられる。好ましい実施形態においては、多能性始原細胞集団は骨髄、臍帯または脂肪組織などの適切な細胞源から得られ、さらに典型的にはグルタミンを含有する適切な培地において培養および拡大される。次に、間葉系胚細胞を同定しかつ分化細胞からIFNγおよびIL−1α、IL−1β、IL−17A、IFN−I、TGF、FGF、TNFαおよびその任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのサイトカインを含有する培地においてまたさらに拡大する。他の実施形態においては、クローン間葉系胚細胞を同定し、かつ分化細胞からIFNγおよびIL−1α、IL−1β、IL−17A、IFN−I、TGF、FGF、TNFαおよびその任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのサイトカインを含有する培地においてまたさらに拡大する。いずれかの場合において、そのような培地で拡大される間葉系胚細胞は特定の臨床環境において免疫応答を抑制または亢進するよう訓練およびプログラムされる。
【0044】
1つの実施形態においては、万能性始原細胞は完全培地(例:10%ウシ胎児血清を含有するMEM培地)などの適切な培地、および好ましくは低酸素の加湿雰囲気で培養される。細胞を培養皿に接着させるために培地は少なくとも1日交換しない。培地はその後3〜4日に1回交換する。細胞が成長して集密化したならば、好ましくはトリプシンを用いて細胞を培養皿から剥がす。細胞は、トリプシンを除去または不活化した後に無血清培地で継代培養することができる。間葉系胚細胞を分離および培養するためのさらなる方法は、その全文を本願に参照文献として援用する米国特許出願第20070160583号および第20070128722号に提供される。MSCは臍帯のワルトン膠質から同様の方法を用いて分離することもできる。
【0045】
1つの実施形態においては、本発明の分離された間葉系幹細胞は、一定の分化細胞を含む不均一な細胞集団のサブセットであることが可能である。他の実施形態においては、分離された間葉系幹細胞は訓練されたクローンMSCのみを含有する均一な組成物である。他の実施形態においては、MSCはMSCを濃縮した混合細胞集団であることが可能である。この点で、分離されたMSC集団は少なくとも約75%のMCS、または少なくとも約83%、84%、88%、89%、90%、91%、93%、95%、96%、97%、または98%のクローン化MSCから構成される一方で、残りは分化細胞、始原細胞、血球、または臨床的転帰を促進するような他の任意の適切な細胞を含むことができる。
【0046】
有効量の、は対象において免疫応答を減衰し(すなわちT細胞応答の抑制)、それにより疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状を減少するのに十分であるMSCおよびサイトカインのその量を意味する。
【0047】
本発明にしたがって用いられる間葉系幹細胞は、優先度の順に、自己由来、同種異型または異種であり、かつ選択は治療の必要性の緊急度にほぼ依存する。
【0048】
本発明のサイトカインは従来の精製法によって、組換え技術によって、または販売元から得ることができる。たとえば、インターフェロンガンマ(IFNγ)のアミノ酸配列はGENBANK受託番号第NP000610号(ヒト)および第NP032363号(マウス)の下で提供される。IFNタンパク質の販売元は、たとえばINTERMUNE(カリフォルニア州ブリスベーン)およびペプロテック社(ニュージャージー州ロッキーヒル)などを含む。同様に、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα、カケキシンまたはカケクチン)はGENBANK受託番号第NP000585号(ヒト)および第NP038721号(マウス)の下で提供されかつProSpec Bio(レホボート、イスラエル)およびペトロテック社などの販売元から市販されている。同様に、ヒトインターロイキン1−アルファ(IL1α)およびインターロイキン1−ベータ(IL1β)は、それぞれ受託番号第P01583号および第P01584号の下で知られ、かつProSpec Bioおよびペプロテック社などの販売元から入手できる。インターロイキン17A(IL17A)は受託番号第BC067505号(ヒト)および第NM010552号(マウス)の下で知られる。本発明にしたがって用いるとき、サイトカインは「分離され」、すなわち均一(100%)またはほぼ均一(90から99%)である。具体的な実施形態においては、サイトカインは組換えサイトカインである。
【0049】
インターロイキン17Aは主要な炎症性サイトカインの1つであり、主にIL−17産生CD4
+T細胞(Th17)細胞によって産生され、炎症および自己免疫反応におけるその炎症促進性機能についてよく知られたサイトカインである。IL−17Aは、化学構造の異なる受容体複合体であるIL−17RAおよびIL−17RCを介してシグナルを伝導する。IL−17Aが結合すると、IL17RAはIL−17A−誘導型シグナル伝導プロセスの重要な下流メディエーターであるAct1を動員する。IL−17A誘導型シグナル伝導経路、および炎症性および自己免疫疾患におけるIL−17Aの役割については多くのことが知られているものの、その細胞標的および作用の様態は未だに理解しにくい。
【0050】
本発明はIL−17Aを単独または他のサイトカインと組み合わせて用い、免疫抑制を引き起こす訓練されたMSCを促進する。上述のMSCおよびサイトカインは、たとえばこれによる治療を必要とする対象への投与に適した医薬組成物などの、組成物の形態であることができる。本発明の組成物は、非経口(例:皮下または筋肉内)または静脈内注射、静脈内点滴、特定臓器介入または局所適用を含む任意の従来法によって投与することができる。治療は単回投与またはある期間にわたる複数回投与から構成することができる。
【0051】
医薬組成物は、典型的には少なくとも1つの許容できる担体を含有する。担体は、MSCおよびサイトカインと適合しかつそのレシピエントにとって有害でないという意味で「許容でき」なければならない。典型的には、担体はリン酸緩衝化食塩水などの適切な等張溶液、DMEM、アルブミンを含有するかあるいは含有しない生理食塩水、5%デキストロース水溶液、および/またはその混合物などの培地、および当業者に既知である他の適切な液状物であることが可能である。
【0052】
治療的に用いるための好ましい実施形態においては、本発明の医薬組成物はキットとして提供することもできる。本発明のキットは医薬品として許容できる担体;分離IFNγ分離IL−1αで刺激または訓練された分離間葉系幹細胞集団;および分離IL17Aおよびさらに免疫応答を減衰するための方法でキットを用いるための指示のみを含むことができる。発明のこの態様において、キットのサイトカインコンポーネントによって刺激された細胞を投与することができる。キットは、たとえば注射によるなどの、細胞を投与する手段も任意に含みうる。1つの任意の実施形態においては、非経口投与に適した本発明の組成物は、1つまたはそれ以上の医薬品として許容できる無菌等張水性または非水性の溶液、懸濁液と組み合わせた、または使用の直前に溶解して抗酸化剤、無機塩類およびビタミン類、緩衝化剤、最終製剤を等張とする溶質の組み合わせを含みうる無菌注射溶液または分散剤とすることのできる無菌凍結乾燥粉末の形態の抗酸化剤をさらに含むことができる。
【0053】
本発明は、分離クローン化MSC集団、分離IFNγ、分離IL−1αまたはβ、および分離IL−17を医薬品として許容できる担体と混合して含む組成物をさらに提供する。他の実施形態においては、本発明は、分離MSC集団、分離IFNγ、分離TNFα、および分離IL−17を医薬品として許容できる担体と混合して含む組成物を提供する。1つの実施形態においては、組成物は分離IL−1αまたはβも含む。そのようなキットの使用の方法は、MSC、分離IFNγ、分離IL−1α、TNFα、および分離IL−17Aの有効量を治療を必要とする対象に投与し、それにより対象の免疫応答を減弱する段階にしたがって、免疫応答を減衰するために提供する。
【0054】
本発明は、免疫応答を減衰するための方法であって、分離間葉系幹細胞、分離IFNγ、分離IL−1α、および分離IL−17Aの有効量を治療を必要とする対象に投与し、それにより対象の免疫応答を減衰することを含む方法を提供する。1つの実施形態においては、方法は分離TNF−αをさらに含む。
【0055】
他の実施形態においては、治療は多発性硬化症、関節炎、狼瘡、敗血症、肝炎、肝硬変、パーキンソン病、慢性感染症および移植片対宿主病に向けられる。他の実施形態においては、MSCは医薬組成物として提供され、MSCが投与の前にサイトカインカクテルと共に配合されることを特徴とする。他の実施形態においては、MSCおよびサイトカインは個別の成分として投与される。治療を必要とする対象は、有害な免疫応答に随伴する特定の疾患または障害を有する哺乳類(例:ヒト、サル、ネコ、イヌ、ウマなど)であることができる。具体的な実施形態においては、対象はヒトである。
【0056】
有効性はiNOS、IDOおよび/またはケモカイン発現をモニタリングすることによって判定することもできる。有害な免疫応答の減衰によって利益を受ける対象は、自己免疫障害(例:関節リウマチ、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス、強皮症、GvHD、肝硬変または乾癬)、アレルギー(例:枯草熱)、または敗血症を有するかまたは有することが疑われる対象を含む。さらに、炎症は腫瘍の周囲の微小環境を調節して増殖、生存および遊走に寄与するので、一部の癌患者も本組成物から利益を受けうる。
【0057】
臓器移植片および骨髄移植片においては、ドナー起源のT細胞はレシピエントのMHCを認識しかつGvHDの発症をもたらすことがある。このしばしば致死的となる疾患は、多様な免疫抑制療法に反応しないことが多いが、免疫調節分子を標的とした新たな手法はGvHDを治療する際に大きな可能性を示す。ごく最近では、MSCは前臨床および臨床試験でGvHDの治療に効果が高いことが示されている。本願に提示する分析は、MSC活性が炎症促進性サイトカインによる刺激後にNOまたはIDOの産生によって媒介されることをさらに実証する。したがって、本発明の組成物は臓器移植またはGvHDの治療における使用を見いだす。
【0058】
インビボでの適切な用量の判定は、本願に記載するDTHおよびGvHDモデルなどの技術上許容できる動物モデルを用いて遂行することができる。しかし、本願は医師または獣医師の診療の下での治療を包含するので、治療の有効性の評価に基づき、対象ごとに異なることがある投与クール中の投与の量およびタイミングを調節することができる。さらに、医師または獣医師によって報告される患者における免疫応答の特定の段階において、治療を提供することができる。
【0059】
本発明は、免疫療法を受ける対象に治療およびNOSおよび/またはIDO阻害剤の有効量を投与することにより、癌の免疫療法の有効性を高めるための方法も提供する。具体的な実施形態においては、阻害剤は、たとえば本願に開示されるようなIDOおよびiNOS選択的阻害剤である。そのような阻害剤の有効量は、免疫療法実施時のNO産生量および/またはIDO活性に、阻害剤を投与されない対象と比較して少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、または97%の低下を提供する量である。具体的な実施形態においては、本方法はIDOおよび/またはiNOS選択的阻害剤を用いてインターフェロン投与(例:IFNγ)の治療的有効性を促進することを提供する。
【0060】
本発明は、患者に投与する前にMSCを炎症性サイトカインで修飾するための方法を提供する。この方法は、臨床環境におけるMSCの有効性を劇的に高めるであろう。少なくとも1つの態様においては、要件としてIFNγおよびTNFα、IL−1αまたはIL−1βのいずれかである他のサイトカインの共存による、MSCの免疫抑制作用におけるiNOSおよびケモカインの決定的な役割が記載される。他の実施形態においては、MSCは、炎症性サイトカインIFNγおよびTNFαが十分な免疫抑制を誘導するのに不十分である場合、免疫応答を促進するよう切り替わることが示されている。
【0061】
少なくとも1つの実施形態において、MSCと炎症性サイトカインの間の相互作用のダイナミクスを変えるIL−17Aの役割が記載される。本発明者らは、炎症性サイトカインIFNγおよびTNFαの低用量の存在下であっても、IL−17AがMSCの免疫抑制機能を促進することを発見している。従来の免疫応答を促進する役割とは異なり、本願に示すように、IL−17AはMSCの存在下で免疫抑制において重要な役割を果たす。したがって、一定の環境においては、IL−17Aの活性を遮断することで免疫応答を誘導または促進することができる。少なくとも1つの実施形態においては、IL−17Aの病態生理学的役割が記載される。
【0062】
IL−17Aは炎症および自己免疫を促進する上で決定的である。当業者は、MSCにおいて免疫抑制を促進する際のIL−17Aの役割が始めて立証されることを認識することができる。これまでIL−17Aは、IL−17Aレベルが劇的に上昇する関節リウマチ(RA)、多発性硬化症(MS)および炎症性腸疾患(IBD)を含む複数の自己免疫疾患において疾患の進行を悪化させると幅広く報告されている。さらに、疾患の進行はIL−17Aが遺伝子的に除去されるかまたはIL−17A遮断抗体が投与されると緩徐化する。
【0063】
しかし、過去の報告でIL−17Aが腸炎症性障害において防御的機能を有することが示唆されているので、IL−17Aは常に免疫応答を促進するわけではない。IL−17Aの遺伝子的除去または中和は、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性腸炎モデルにおいて、実際に疾患の進行を悪化させることがある。そのような状況においては、当業者は、IL−17AがMSCの免疫抑制特性を促進することが、本発明の少なくとも1つの態様によって規定されると認識することができる。少なくとも1つの実施形態において、MSCはIL−17Aがないと免疫応答を効果的に抑制しないことがあると想定される。
【0064】
本発明のさらなる他の態様においては、発明者らは、新規の細胞標的である間葉系幹細胞による免疫抑制を促進する上でのIL−17Aの新たな機能を実証した。同様に、mRNA崩壊因子AUF1によって付与される遺伝子発現の抑制を逆転することによりIL−17Aがこれらの効果を発揮することが示されている。
【0065】
本発明の少なくとも1つの実施形態では、肝臓障害を媒介する上でT細胞応答が中心的な役割を果たす、自己免疫性またはウイルス性劇症肝炎の病態生理学的プロセスを検討するために、マウスにおけるコンカナバリンA(「ConA」)誘導性肝損傷を用いる。T細胞応答の抑制がConA誘導性肝損傷を劇的に減衰することができ、かつ脂肪組織由来ストローマ細胞がConA誘導性肝損傷を軽減することが示されているので;本発明者らは骨髄由来MSCを用いかつMSC媒介肝損傷治療を調節する上でのIL−17Aの役割を検討した。したがって、本発明の少なくとも1つの態様は、IL−17AがMSCの免疫抑制作用を劇的に促進することができると規定する。
【0066】
本発明は、MSCの免疫抑制能力が炎症性サイトカインによる刺激を必要とするので、MSCがConA誘導性肝損傷の進行にわずかにのみ作用できるとさらに規定する。インビボではConA投与後に多くのサイトカインを産生することができるものの、これらのサイトカインは短時間のみ高レベルにとどまり、かつその後投与された場合MSCを有効に刺激できない。したがって、未刺激MSCはConA誘導性肝損傷を減衰する上で有効ではない。
【0067】
このため、本発明の少なくとも1つの態様は、新規の細胞標的である間葉系幹細胞により免疫抑制を促進する上でのIL−17Aの新たな新規の機能を提供する。mRNA崩壊因子AUF1によって付与される遺伝子発現の抑制を逆転することによりIL−17Aがこれらの効果を発揮することがさらに想定されている。本願に記載するように、IL−17AはMSCが媒介する免疫抑制を促進するための因子である。
【0068】
一定の例においては、発明者らはそのような免疫抑制効果を、インビトロおよびインビボで正または負のいずれかに制御するニーズを確認している。1つの実施形態においては、発明者らは利用可能な成長因子およびサイトカインをスクリーニングし、その中で、MSC媒介免疫抑制を著しくダウンレギュレートする2つの因子:I型インターフェロンおよび線維芽細胞増殖因子(FGF−2)があることを確認した。
【0069】
インターフェロン(IFN)1型が宿主免疫にウイルスおよび他の細胞内感染を根絶させるサイトカインファミリーである一方、FGF−2(FGF−β、塩基性線維芽細胞増殖因子)は成長、抗アポトーシス、および分化活性を有するヘパリン結合タンパク質をコードする遺伝子のファミリーに属する。しかし、これら2つのサイトカインを免疫抑制の制御と関係づけた研究はない。I型インターフェロンおよび線維芽細胞増殖因子(FGF−2)は、MSC媒介性免疫抑制に対し、iNOS発現のダウンレギュレーションによって負の制御因子として作用する。本願に記載するように、発明者らはこれら2つの因子が、T細胞増殖に向けられたMSCの免疫抑制作用を潜在的に阻害する可能性があることを確認した(
図16)。さらなる分析により、これらのサイトカインのいずれかの添加は、iNOSタンパク質の発現およびNO産生を著しく減少させることができたことが明らかとなった(
図17)。
【0070】
以下の非制限的な実施例は、本発明をさらに例示するために提供される。
【実施例1】
【0071】
(材料と方法)
(マウス)
雄性C57BL/6、C3H/HeJCrおよびF1(C57BL/6×C3H)マウス、6〜8週齢は米国国立癌研究所(メリーランド州フレデリック)に由来する。IFNγ−R1
−/−マウスおよびiNOS
−/−マウスはジャクソン研究所(メリーランド州バーハーバー)に由来する。マウスはロバートウッドジョンソン医科大学動物施設で維持した。動物は実験ごとに年齢および性別でマッチングし、いずれも施設内動物実験委員会から承認された。
【0072】
(試薬)
組換えIFNγおよびマウスTNFα、IL−1α、IL−1βに対するTNFα、IL−1α、およびIL−1βモノクローナル抗体、およびCCR5、FITCコンジュゲート抗マウスCD11b、およびPEコンジュゲート抗マウスF4/80はeBiosciences(カリフォルニア州ラホーヤ)に由来する。組換えマウスM−CSF、およびIL−10およびTGF−βに対する抗体はR&Dシステムズ(ミネソタ州ミネアポリス)に由来する。抗IFNγはハーラン(インディアナ州インディアナポリス)に由来する。抗CXCR3はインビトロジェン(カリフォルニア州カールズバッド)に由来する。インドメタシン、1−メチル−DL−トリプトファン(1−MT)、およびNG−モノメチル−L−アルギニン(L−NMMA)はシグマアルドリッチ(ミズーリ州セントルイス)に由来する。
【0073】
(細胞)
MSCは6〜10週齢のマウスの脛骨および大腿骨の骨髄から作製した。10%FBS、2mMグルタミン、100U/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン(いずれもインビトロジェン由来)を添加したαMEM培地で細胞を培養した。24時間後に非接着性細胞を除去し、接着性細胞を3日おきに培地を補充しながら維持した。MSCクローンを得るために、集密状態の細胞を回収し、96ウェルプレートに限定希釈によって播種した。次に、個々のクローンを選別および拡大した。細胞は5から20継代で用いた。
【0074】
T細胞芽球は、CD4
−/−T細胞サブセット分離キット(R&Dシステムズ)を用いてネガティブセレクションにより精製したCT4
+T細胞から作製した。細胞(1×10
6個/mL)をプラスチック結合抗CD3および可溶性抗CD28で48時間活性化した後、IL−2(200U/mL)単独で48時間培養した。すべてのT細胞培養は、10%熱不活化FBS、2mMグルタミン、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンおよび50mMβ−MEを添加したRPMI−1640培地(完全培地)で維持した。
【0075】
プラスチック結合抗CD3で活性化した脾細胞(2×10
6/mL)の48時間培養から活性化脾細胞上清を回収した後、0.1μmフィルターで濾過して凍結した。
【0076】
(サイトカイン、ケモカインおよびNOの検出)
ルミネックテクノロジー(バイオプレックスシステム、バイオラッド、カリフォルニア州ハーキュリーズ)を用いて、マルチプレックスビーズアレイキット(インビトロジェン、カリフォルニア州カールズバッド)により培養上清を20種類のサイトカインおよびケモカインについて測定した。IFNγはELISA(BDバイオサイエンス、カリフォルニア州サンホゼ)で測定した。NOは修飾グリース試薬(シグマ−アルドリッチ)を用いて検出した。簡単に述べると、すべてのNO3を硝酸レダクターゼでNO2に変換し、総NO2をグリース試薬で検出した(Miranda, et al.(2001)Nitric Oxide 5:62-71)。
【0077】
(リアルタイムPCR)
RNEASYミニキットを用いて細胞ペレットからRNAを分離した。ファーストストランドcDNA合成は、ランダム6量体プライマーによるSENSISCRIPT RTキットを用いて実施した(すべてのキットはキアゲン、カリフォルニア州バレンシアに由来)。目的の遺伝子のmRNAは、SYBRグリーンマスターミックス(アプライドバイオシステムズ、カリフォルニア州フォスターシティ)を用いて、リアルタイムPCR(ストラタジーン(カリフォルニア州ラホーヤ)由来のMX−4000)により定量した。mRNAの総量は、内因性ベータアクチンmRNAに対して正規化した。iNOSについてのプライマー配列は:順方向5’−CAG CTG GGC TGT ACA AAC CTT−3’(配列番号:1);逆方向5’−CAT TGG AAG TGA AGC GTT TCG−3’(配列番号:2)であった。他のプライマーはRT2 PROFILER.TM.PCRアレイマウスケモカイン&受容体キット(スーパーアレイ、メリーランド州フレデリック)に由来した。
【0078】
(化学走性分析)
化学走性は、報告に従い(Shi, et al. (1993) J. Immunol. Meth. 164:149-154)、ニューロプローブCHEMOTX化学走性システム(ニューロプローブ、メリーランド州ゲーサーズバーグ)で試験した。96ウェルプレートの下部チャンバーにIFNγ+TNFα(各20ng/mLまたはSup.CD3−act(1:2希釈)で刺激したMSC由来の上清を充填した。次にポリビニルピロリドンを含有しない孔径5μのポリカーボネート膜でその上を覆った。T細胞芽球(1.25×10
5)を上部チャンバーに加えた。3時間インキュベートした後、MTT分析を用いて小孔を経て下部ウェルに遊走した細胞を定量した(Shi, et al. (1993)上に同じ)。化学走性指数は、培地単独に向かう遊走数と比較した、MSCに応答して遊走したT細胞芽球数の比率として算出した。
【0079】
炎症性サイトカイン活性化MSCに向かうT細胞の遊走によって引き起こされる免疫抑制を同様の条件で検討した。MSC(2×10
4)を下部チャンバーに添加し、IFNγおよびTNFα(各20ng/mL)で24時間刺激したかまたは刺激しなかった。次に、活性化T細胞芽球を上述のように上部チャンバーに添加した。IL−2を両チャンバーに添加した。3時間後、両チャンバーに
3H−チミジンをパルス添加し、6時間後に細胞増殖を評価した。
【0080】
(GvHD誘導およびMSCによる調節)
C57BL/6×C3Hの8週齢F1マウスに致死線量(13Gy)を照射し、24時間後に、C57BL/6親マウスより分離した有核骨髄細胞(5×10
6)および脾細胞(5×10
6)を、尾静脈注射により点滴した。骨髄移植より3および7日後、レシピエントに、C57BL/6野生型、IFNγR1
−/−、またはiNOS
−/−マウスに由来するMSC 0.5×10
6個を尾静脈より投与した。一部の野生型MSC群にも、iNOS阻害剤、NG−モノメチルL−アルギニン(L−NMMA、500μg/マウス)、抗IFNγ(400μg/マウス)、またはTNFα、IL−1αおよびIL−1βに対する3抗体のカクテル(各200μg/マウス)を、初回のMSC投与の直後に開始して7日間連日腹腔内注射した。ネガティブコントロールとして、F1マウスにF1骨髄細胞を注射した。マウスのGvHD徴候を連日観察し(衰弱、毛の乱れ、および円背)、また瀕死状態になった時点で安楽死させ、これにより生存期間を記録した。14日目に様々な組織を採取し、5μmパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン/エオシン(H&E)で染色した。
【0081】
(DTH応答の誘導および組織学的分析)
C57BL/6マウス(6〜8週齢)を、50μLの完全フロイントアジュバントで乳化した卵白アルブミン(OVA、5μL食塩水中10μg)の尾根部注射により免疫した。5日後に、30μL食塩水中の凝集OVA200μgを右後足蹠に注射して誘発することによりDTHを試験した。ネガティブコントロールとして左足蹠に食塩水30μLを注射した。24時間後、ノギスを用いて抗原誘導足蹠厚増加を測定し、RおよびLを右および左足蹠の厚さとし、(Rimm−Limm)−(R.unimm−L.unimm)として算出した。
【0082】
(統計解析)
有意性は対応のない両側スチューデントt検定または分散分析(ANOVA)によって評価した。
【実施例2】
【0083】
(MSCの免疫抑制機能は炎症促進性サイトカインによって誘導される)
背景メカニズムを特定するため、マウスMSCのクローンを用いた。これらのクローンの幹細胞特性は、その脂肪細胞または骨芽細胞への分化能およびその表面マーカー:CD34;CD11b;CD11c;CD45;MHCクラスII;CD44
+;Sca−1
+;MHCクラスIl
owの発現によって定義した。本願に示すすべての結果は、少なくとも異なる3つのMSCクローンを用いて再現された。
【0084】
MSCによる免疫抑制の研究報告の大半は、そのT細胞増殖およびサイトカイン産生に対する作用に基づいているので、始めにT細胞芽球のIL−2駆動性増殖に対するMSCの作用を検討した。新鮮なCD4
+T細胞芽球は、脾細胞から抗CD3を用いた活性化とその後数日間のIL−2を用いた拡大によって作製した(Devadas, et al. (2006) Immunity 25:237-247; Radvanyi, et al. (1996) Cell Immunol. 170:260-273)。T細胞芽球を、IL−2(200U/mL)と共に1:20の比率(MSC:T細胞)で添加した。8時間後に
3H−Tdr取り込みにより細胞増殖を評価した。驚くべきことに、これらのT細胞芽球のIL−2駆動性増殖はMSCの添加によって影響されなかった。MSCはTハイブリドーマA1.1細胞の増殖にも影響しなかった。しかし、これらのT細胞芽球およびTハイブリドーマ細胞は、TCRで再活性化しなければサイトカインを産生しなかった(Fotedar, et al.(1985)J. Immunol. 135(5):3028-33)。したがって、T細胞サイトカインの不在下で、MSCはT細胞増殖を抑制できなかった。
【0085】
サイトカインがMSCの免疫抑制能力を誘導する可能性を検討するために、抗CD3の存在下でMSCと新鮮脾細胞を段階的な比率で合わせることによってこれらの培養条件を再現した。この分析の結果より、MSCを1:60(MSC対脾細胞)と低比率で添加するとき、T細胞増殖が完全に阻止されることが示された。興味深いことに、MSCはその免疫抑制作用を発揮するために同系でなくともよい。5から20継代の間のMSCを用いてプラスチック結合抗CD3抗体および抗CD28により活性化した精製CD4
+またはCD8
+T細胞に対しても同様の作用が認められた。したがって、T細胞活性化時にMSCとT細胞が共培養される条件下では、結果として生じるT細胞応答はMSCによって強力に抑制され、T細胞産生サイトカインが役割を有する可能性があることが示された。種々のマウス系統から作製したMSCクローンの免疫抑制能力も検討した。よりすぐれた分化能を示したクローンは免疫抑制に対して優れた能力を示すことが確認された。
【0086】
活性化T細胞によって分泌されたサイトカインがMSCによる免疫抑制の誘導の原因であるか判定するため、MSCのT細胞芽球との混合共培養(上述)に、抗CD3活性化脾臓の培養に由来する上清を添加した。その結果生じたT細胞増殖は大きく阻害された。MSCと共培養したA1.1細胞の増殖が活性化脾細胞上清の添加によって阻害されたことも確認された。これらの実験は、活性化T細胞産生物の一部がMSCの免疫抑制を誘導するために必要とされることを示す。要因となるサイトカインを特定するために、共培養に添加する前に、活性化脾細胞上清を、様々なサイトカインに対する中和抗体で処理した。この分析より、抗CD3活性化脾細胞上清を添加しMSCと共培養したT細胞芽球の増殖の阻害が、IFNγの中和によって完全に逆転されたことが示された。これらの結果より、IFNγがこのプロセスにおける重用なサイトカインとして意味づけられ、かつ一定の条件下でこの主要な炎症促進性サイトカインがその代わりに免疫抑制を媒介することがあることが判明した。
【0087】
次に、活性化脾細胞上清の代わりに分離組換えIFNγ(20ng/mL)をMSC+T細胞芽球またはMSC+A1.1細胞の混合共培養に添加することにより、IFNγの作用を直接試験した。驚くべき事に、IFNγ単独では免疫抑制を誘導しなかった。次に、いくつかの他の炎症促進性サイトカインを添加し(各20ng/mL)、またMSCとの共培養(MSC:T細胞比率1:20)におけるT細胞増殖の抑制を達成するためにはTNFα、IL−1α、またはIL−1βのIFNγとの同時添加が必要であることが確認された(
図1)。したがって、抗CD3活性化脾細胞上清によるMSCの免疫抑制機能の誘導は、MSCに対してTNFα;IL−1α;またはIL−1βのいずれかと協同して作用するIFNγによる可能性がある。ゆえに、IFNγが絶対的に必要とされる一方で、このサイトカイン単独では十分でなく;MSCにおける適切な免疫抑制シグナル伝導はIFNγと他の3つのサイトカインのいずれかとの協同作用を必要とする。
【0088】
TNFα;IL−1α;またはIL−1βに対する中和抗体を、MSCとT細胞芽球の混合共培養に添加する前に、活性化脾細胞上清に個別にまたは同時に添加した。個々の抗体は効果がなかったものの、3つのサイトカインすべての同時的遮断により、T細胞増殖の阻害が完全に逆転された。GM−CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)およびIL−6(インターロイキン−6)などの他のサイトカインは効果がなかった。本願のデータは、IFNと他の3つの炎症促進性サイトカインTNFα、IL−1αまたはIL−1βのいずれかとの組み合わせが、MSCがT細胞増殖を阻害する能力を誘導することの完全な原因になっていること、およびTNFα、IL−Iα、およびIL−IβがIFNγと共に作用する際に互換的であることを示す。
【0089】
MSCは、初期のT細胞活性化により生じるあるレベルのIFNγレベルと遭遇しなければならないことが想定される。実際、CD69発現の正常な上昇によって実証されるように、MSCはその抗CD3誘導性活性化の際に存在するときT細胞の初期応答に影響しないことが確認された。初期活性化後に脾細胞から放出されるIFNγがMSCの免疫抑制を誘導する上できわめて重要であるというさらなるエビデンスとして、IFNγ受容体1欠損マウス(IFNγR1
−/−)に由来するMSCは免疫抑制能力がないことが確認された。これらのIFNγR1
−/−MSCのクローンがいくつか誘導され(いずれも脂肪細胞および骨芽細胞様細胞に分化可能)、かつ試験した5つのクローンのいずれも抗CD3誘導脾細胞増殖を抑制することができず、IFNγがMSCの免疫抑制機能の誘導において必須であるという理解を裏付けた。
【0090】
これらの結果より、MSCのごく近傍にある細胞によるIFNγおよび他のサイトカインの初期産生は、免疫抑制能力を誘導する上で決定的であることが示される。実際、抗IFNγ(20μg/mL)も、この条件でのMSCの抑制作用を完全に阻止した。さらに、TNFα、IL−1α、およびIL−1βに対する抗体(各20μg/mL)は個別には有効でないものの、活性化脾細胞上清に添加したときのその作用と同様に、3つの抗体すべてを同時に添加すると免疫抑制が阻止された。したがって、TNFα、IL−1α、およびIL−1βと共に局所的に産生されるIFNγの併用作用は、MSCを誘導して免疫抑制性とするのに十分である。
【実施例3】
【0091】
(MSCによる免疫抑制は一酸化窒素を必要とする)
それによりサイトカイン曝露MSCによる免疫抑制がもたらされるメカニズムを特定するために、TRANSWELLシステムにおいてMSCと共培養した抗CD3活性化脾細胞(MSC:脾細胞1:20)の反応を、多様な設定で検討した。ウェルの2つのチャンバーで透過性膜(孔径0.4μm膜)により分離されるとMSCはT細胞増殖にほとんど影響せず、細胞膜タンパク質または他の局所作用因子がサイトカイン初回刺激MSCによるT細胞増殖の抑制にとって決定的であることを示す。最近の報告(Sato, et al.(2007)上に同じ)でPGE−2が必要とされるがIDOは必要とされないことが示されたのに対し、PGE−2は関与していないことが確認されている。事実、インドメタシン(10μM、PDE−2遮断剤)、抗IL−10(20μg/mL)、抗TGFβ(20μg/mL)または1メチル−DL−トリプトファン(1−MT、1mM、IDO阻害剤)によるMSCによる免疫抑制への影響は認められないので、これらの因子は除外される。
【0092】
高濃度の一酸化窒素(NO)はT細胞応答を阻害することが知られている。その発生源から迅速に拡散するが、活性型の濃度は約100μm以内で低下する。したがって、NOはそれを産生する細胞のごく近傍でのみ作用することが可能であり、これはMSCによる免疫抑制を媒介する因子の予測された特徴と一致する。NOがそのような役割を有するか判定するために、選択的iNOS活性阻害剤NG−モノメチル−L−アルギニン(L−NMMA)を用いてその産生を遮断した。抗CD3の存在下でMSCと脾細胞の混合共培養に添加されると、L−NMMAは正常な脾細胞増殖を完全に回復する。1400WおよびL−NAMEなどの他のiNOS阻害剤も同じ効果を示した。さらに、iNOS欠損マウス(iNOS
−/−)に由来するMSCは脾細胞増殖にほとんど影響がなかった。さらに、iNOS
−/−MSC由来の5つのクローン(すべて脂肪細胞および骨芽細胞様細胞に分化することが可能)のいずれも免疫抑制性でなかった。これらの結果は、MSCがサイトカイン誘導に応答して産生するNOの活性はそのT細胞応答の抑制を媒介することを示す。
【0093】
本願の分析は、MSCによる免疫抑制がIFNγおよび炎症促進性サイトカインによって誘導され、かつNOによって媒介されることを示す。したがって、MSCはこれらのサイトカインへの曝露後にそのiNOS発現をアップレギュレートし、かつNOを産生する可能性もあることが想定される。これを検討するために、MSCを活性化脾細胞上清で処理し、さらにiNOS mRNAのレベルをリアルタイムPCRで測定しかつβ−アクチンと比較した。この分析の結果は、刺激より4時間後にMSCにおけるiNOSが有意にアップレギュレートされ、高レベル発現が少なくとも48時間維持されることを示した。刺激より12時間後、iNOS mRNAのレベルはβ−アクチンメッセージの7倍高く、極めて高い発現を示した。IFNγおよびTNFα(各20ng/mL)を同時に添加するとき同様の効果が確認された一方で、いずれかの単独は効果がなかった。
【0094】
さらに、IL−1αおよびIL−1βはこの点でもやはりTNFαと互換的であった。抗CD3活性化脾細胞上清中で抗体を添加してサイトカイン活性を中和したところ、抗IFNγ単独またはTNFα、IL−1α、およびIL−1βに対する3つの抗体の組み合わせは、MSCによるiNOSのアップレギュレーションを阻止することが確認された。TNFα、IL−1αまたはIL−1βに対する抗体を単独または2つ組み合わせて用いたところ、効果がなかった。したがって、免疫抑制を誘導する同じサイトカインはMSCによるiNOS発現の強力な誘導剤でもある。
【0095】
サイトカイン処理MSCにおけるiNOS発現が実際にNO産生をもたらすか判定するために、2つの安定したNO分解産物である硝酸(NO3)および亜硝酸(NO2)を、抗CD3活性化脾細胞上清で処理したMSCに由来する調整培地中で測定した。処理後にMSCによって産生されたNO2の量は、NOを大量に産生する細胞であることが知られているCD11b
+F4/80
+マクロファージを同様に処理したものからの産生量より、少なくとも10倍高かった。これらの結果は、本願に記載する高レベルiNOS mRNA発現と一致する。したがって、炎症促進性サイトカインに反応したMSCのiNOS発現のアップレギュレーションはNO産生をもたらし、これはごく近傍でT細胞に作用することが可能である。
【0096】
本試験においては、T細胞活性化によるかまたは外因性炎症性サイトカインが添加されるとき、T細胞は始めに細胞周期停止に入り、その後24時間以内に細胞死する。iNOS阻害剤を用いる場合にはT細胞アポトーシスが認められないので、このアポトーシスはNO依存性であることも確認された。iNOS
−/−またはIFNγR1
−/−MSCを用いる場合もアポトーシスが存在しない。したがって、NO誘導性細胞周期停止およびT細胞のアポトーシスは、炎症性サイトカイン活性化MSCに媒介される免疫抑制のメカニズムの一部である。マクロファージにおいて炎症性サイトカイン誘導性iNOS発現における種間差が認められている(Schneemann & Schoedon. 2002)Nat. Immunol. 3(2):102)。マウス、ラットおよびウシ由来のマクロファージにおいてはNOが炎症性サイトカインによって誘導されることが確認されたが、ヤギ、ウサギ、ブタおよびヒトマクロファージでは確認されていない(Schneemann & Schoedon (2002)上に同じ;Jungi, et al.(1996)Vet. Immunol. Immunopathol. 54:323-330)。したがって、マウスおよびヒト由来のMSCによるT細胞増殖の阻害におけるIDOおよびNOの役割は、並列比較によって分析される。L−NMMAによるNOの阻害はマウスMSCによる免疫抑制を完全に逆転したのに対し、ヒトMSCによる末梢血単核球増殖の阻害は1−MTによって逆転することが確認され、NOを利用するマウスMSCと比較して、ヒト由来のMSCはIDOを免疫抑制の主要なエフェクターとして利用することを示した(Ren G, Su J, Zhang L, Zhao X, Ling W, L'huillie A, Zhang J, Lu Y, Roberts AI, Ji W, Rabson AB, Shi Y. 間葉系幹細胞の媒介による免疫抑制のメカニズムにおける種間変動. Stem Cells 2009, 27:1954-1962)。
【実施例4】
【0097】
(MSCの化学誘引特性は炎症促進性サイトカインによって誘導される)
数件の研究において、インビボで、体細胞100万個に対して1から5個と少数のMSCによりMSCによる有効な免疫抑制が達成され、その多くが数ヶ月間持続し、一部の例では免疫障害が完全に治癒した。MSCは組織に定着した後は移動せず、また免疫抑制はその発生源付近できわめて局所的にのみ作用するNOによって媒介されると考えると、この免疫抑制作用は意外である。サイトカイン誘導性MSCはその近傍に免疫細胞を誘引するメカニズムを有し、そこで局所的に高濃度のNOが標的T細胞に有効に作用する可能性があることが想定される。これを探索するため、MSCと脾細胞の共培養を鏡検下で経時的にモニタリングした。
【0098】
脾細胞は抗CD3刺激時に紡錘型MSCに向かって活発に遊走することが確認された。対照的に、抗CD3刺激が存在しないと遊走は発生しなかった。脾細胞の生存能力は限られているので、刺激の非存在下でのMSCに向かう運動の欠如はこれらの細胞がインビトロで健康度が低いことによるかもしれない。これを除外するため、活性化脾細胞上清で初回刺激したMSCを、IL−2の非存在下でも良好に生存するA1.1Tハイブリドーマ細胞を誘引するその能力について検討した。これらの条件下で、経時的顕微動画撮影により共培養開始より1.5時間以内のT細胞のMSCへの活発な遊走が明らかとなった。しかしMSCを初回刺激しないと、T細胞のMSCへの有効な移動はなかった。したがって、MSCが炎症促進性サイトカインに曝露された後にのみMSCはT細胞の遊走を促進する。
【0099】
MSCがT細胞を誘引することを可能とする上での様々なサイトカインの役割を検討するため、組換えサイトカインの様々な組み合わせによりMSCを前処理し、さらにその結果として起こる、共培養中での事前活性化したT細胞の遊走を観察した。この分析により、MSCの免疫抑制機能を誘導した同じT細胞サイトカインの対(すなわちIFNγとTNFα;IFNγとIL−1αまたはIFNγとIL−1β)がMSCにT細胞を誘引させることが示された。同様に、特定のサイトカインの抗体中和を用い、活性化脾細胞上清で誘導したMSCのT細胞増殖抑制に対するその効果と同じく、MSCへの遊走が抗IFNγ単独、またはTNFα、IL−1αおよびIL−1βの3つ同時の遮断によって阻止されることが確認された。したがって、MSCのサイトカイン誘導性免疫抑制機能は、NOレベルが最も高いMSCの近傍へのリンパ球の遊走に依存する可能性が高い。
【実施例5】
【0100】
(炎症促進性サイトカインはMSCを誘導して免疫抑制にとって決定的であるサイトカインを産生させる)
サイトカインで初期刺激されたMSCに対する活性化T細胞の堅牢な遊走は、MSCがケモカインなどの強力な化学誘引性物質を分泌することを示した。したがって、多様な条件下で培養されたMSCによる白血球ケモカインの産生を、上清を測定することにより判定した。サイトカインを添加せずに単独で培養されたMSCについては有意なサイトカイン産生は認められず、その生得的形態にあるMSCはT細胞を誘引することができないという所見を実証した。しかし抗CD3活性化脾細胞と共培養したところ、MSCは、MSC:脾細胞比率1:60でのCXCL−9(MIG)1.5ng/mL(他の実験では12ng/mL)およびCXCL−10(IP−10)50ng/mLを含む数種類のケモカインを大量に産生した。これらは強力なT細胞特異的ケモカインであり;いずれのケモカインもインビトロにおいて単独でわずか1から10ng/mLの濃度で有意な化学走性を駆動することが示されている(Loetscher, et al. (1998) Eur. J. Immunol. 28:3696-3705; Meyer, et al.(2001)Eur. J. Immunol. 31:2521-2527)。CXCL−9およびCXCL−10の産生は、免疫抑制の誘導に対する効果と同様に、IFNγ単独、または3つのサイトカインTNFα;IL−1α、およびIL−1βすべての抗体中和によって阻害された。ケモカイン産生は、組換えIFNγおよびTNFα(各20ng/mL)をMSC単独に添加することによって同様に誘導され、TNFαはやはりIL−1αおよびIL−1βと互換的であった。したがってこれらのサイトカインは、T細胞のMSCへの化学走性を駆動する原因となる可能性が高い、MSCのケモカイン発現を誘導するのに十分である。これによって、一旦MSCのごく近傍に遊走したならば、活性化T細胞はMSCによるさらなるケモカインの産生を誘導するサイトカインを分泌し、これによりさらに多くのT細胞をMSCの近傍に誘引する正のフィードバックループを生成すると予測されるであろう。
【0101】
MSCのケモカイン発現プロファイルを体系的に検討するために、未処理または抗CD3活性化脾細胞に由来する上清で処理したMSCにおいてケモカインおよびその受容体をコードする84種類の異なる遺伝子の発現を検討した。マウスケモカインおよび受容体RT2 PROFILER.TM.PCRアレイキットを用いてリアルタイムPCRにより総RNAを分析し、さらにケモカインmRNAレベルをβ−アクチンのそれと比較した(表1)。ヒトMSCにおいて一部のヒトサイトカインの組み合わせも同様のケモカイン産生を誘導した。
【0102】
(表1.活性化T細胞に由来する上清で処理されたMSCにおけるケモカインおよび関連遺伝子の発現の誘導(β−アクチンは1×10
7単位と定義))
【表1】
MSC(5mL完全培地中で1×10
6/T−25フラスコ)を未処理または活性化T細胞に由来する上清(最終体積の50%)で12時間刺激した。ケモカインおよびケモカイン受容体遺伝子発現はリアルタイムPCRで測定した。
【0103】
CX3CL−1(フラクタルカイン)およびCXCL13(ケモカイン(C−X−C)リガンド13、BCA−1)の低レベルを除き、未処理脾細胞上清に曝露したMSCのmRNAレベルは有意でなかった。印象深いことに、活性化脾細胞上清によるMSCの処理は、CXCL2(ケモカイン(C−X−C)リガンド2、Groβ)、CXCL5(ケモカイン(C−C)リガンド5、RANTES)、CXCL9(ケモカイン(C−X−C)リガンド9、MIG)、CXCL10(ケモカイン(C−X−C)リガンド10、IP−10)およびCCL7(ケモカイン(C−C)リガンド7、MCP−3)などの一部のケモカインにおいて100万倍以上の増加をもたらした。絶対的には、一部のケモカインはβ−アクチンの発現と同レベルかまたはそれより高いレベルにさえ達した。たとえば、CXCL10はβ−アクチンの2倍のmRNAコピー数を示した。最も高く誘導されたケモカインは白血球化学遊走のきわめて強力な誘導物質であり、かつMSCによる免疫抑制において重要な役割を果たす可能性が高い。事実、MSCにおいていずれも高く誘導されていたT細胞ケモカインCXCL9、CXCL10およびCXCL11の受容体であるCXCR3(Lazzeri & Romagnani,(2005)Curr. Drug Targets Immune Endocr. Metabol. Disord. 5:109-118)の抗体遮断により、T細胞芽球のMSCへの化学走性が阻害されかつその増殖の抑制が逆転されることが確認された。
【0104】
炎症促進性サイトカインによって誘導されたMSC上清の化学走性駆動能力を直接検討するため、CHEMOTX化学走性システム(ニューロプローブ)を用いた。このシステムは、ポリビニルピロリドン非含有ポリカーボネート膜(孔径5μm)で隔てられた上部および下部チャンバーより構成される。MSC培養に由来する上清を下部チャンバーに入れ、また活性化CD4
+またはCD8
+T細胞芽球をIL−2の存在下で上部チャンバーに添加した。3時間後に化学走性を定量した。IFNγ+TNFαまたはIFNγ+IL−1で処理したMSCに由来する培養上清に反応して、CD4
+T細胞によってもCD8
+T細胞によっても劇的な化学走性が発生することが確認された。活性化脾細胞によって調整された培地で処理されたMSCに由来する上清でも同様の結果が得られた。
【0105】
対照的に、未処理MSCまたは活性化脾細胞のみに由来するネガティブコントロール上清は、MSCを含まないIFNγ+TNFαの直接添加の場合と同様に、化学走性がなかった。重要なことは;2つの最も重要なT細胞特異的サイトカイン受容体であるCXCR3およびCCR5に対する抗体は、特に両抗体が同時に添加された場合、この化学走性活性を遮断することが可能であったことである。サイトカイン活性化MSCは、T細胞を動員することに加えて骨髄由来樹状細胞、マクロファージおよびB細胞も動員する。
【0106】
CHEMOTXシステムは、T細胞増殖の阻害における化学走性の役割を検討するためにも用いた。この測定においては、IFNγ+TNFαを添加するかまたは添加せずにMSCを下部ウェルに加え、またT細胞芽球(IL−2を添加)を上部ウェルに加えた。この条件においては、下部ウェルでMSCにより産生されたケモカインは膜を経て下部ウェルへのT細胞遊走を誘導するはずであり、これによりMSCによって産生されたNOが下部ウェルでT細胞の増殖を阻害した可能性もあった。3時間インキュベートした後、上部ウェルおよび下部ウェルに3H−チミジンをさらに6時間パルス添加し、さらに両ウェルの細胞を増殖の判定のために回収した。CD4
+およびCD8
+T細胞芽球の増殖レベルは、いずれもINFγおよびTNFαの存在下でMSCによって有意に阻害された。ここでも、T細胞ケモカイン受容体CXCR3およびCCR5に対する遮断抗体はこの作用を有意に逆転した。これらのデータは、T細胞化学走性がMSCの媒介による免疫抑制において非常に重要であることをさらに示す。
【0107】
合わせて考えると、これらの結果は、MSCが免疫応答時に炎症促進性サイトカインに曝露すると、数種類のケモカイン、特にT細胞に特異的なケモカインを大量に産生するので、これがMSCのごく近傍にT細胞を誘引し、ここで高濃度のNOがT細胞機能を抑制するよう作用することを示す。
【実施例6】
【0108】
(MSCによる遅延型過敏症(DTH)および移植片対宿主病(GvHD)の予防は炎症性サイトカインおよびNO産生に依存的である)
マウスの足蹠にOVA単独またはOVAおよびiNOS欠損または野生型マウス由来のMSCを注射した。次にマウスの足蹠をOVAで誘発し、その結果生じたDTH反応を足蹠浮腫により測定した。この分析の結果より、野生型MSCの投与によりDTH反応における炎症の軽減がもたらされることが示された。これと鋭く対照的に、iNOS欠損MSCは炎症を軽減しなかっただけでなく、実際にはMSCを注射しなかった誘発マウスと比較してDTH反応を亢進した(
図2)。足蹠の組織学的分析では、野生型MSCを同時注射した動物由来の皮膚では炎症指標の減少が示されたが、iNOS
−/−MSCを同時注射したマウスでは炎症部位における体液および白血球浸潤の増加が示された。この実験は、免疫応答の抑制におけるNOの必要性を実証しただけでなく、NO産生の非存在下においてMSC媒介化学走性が炎症を促進し、かつiNOSおよびIDOの阻害剤を用いてワクチンの効力を高めたりあるいは腫瘍に対する有効な免疫応答を惹起したりするなどの局所免疫応答の増強に用いることも可能であることを示した。
【0109】
MSCによる免疫抑制の特筆すべき作用の1つは、移植片対宿主病(GvHD)を抑制する能力である(Le Blanc, et al.(2004)上に同じ;Le Blanc & Ringden(2006)上に同じ)。MSCによるサイトカイン誘導性NO産生がインビボで免疫抑制をもたらすか検討するために、有核骨髄細胞5×10
6個およびC57BL/6マウス由来の脾細胞5×10
6個を、致死線量を照射したF1(C57BL/6×C3H)マウスに注射してマウスGvHDモデルを確立した。レシピエントポジティブコントロールマウスは15日目と22日目の間にいずれも広汎なGvHD(衰弱、毛並みの乱れ、および円背)を発症した一方、同系F1骨髄を投与されたネガティブコントロールは罹患しなかった。
【0110】
骨髄移植後にF1マウスにMSCを投与したところ(3日目および7日目に静脈内注射したドナーマウス由来細胞0.5×106個)GvHDからの有意な防禦があり;MSCを投与したマウスはいずれも少なくとも33日間、一部は75日以上生存した。対照的に、iNOS
−/−またはIFNγR1
−/−マウスに由来するMSCを投与したF1マウスは、未投与陽性対照と生存に違いがなかったので、防禦されなかった(
図3)。このIFNγR1またはiNOS欠損MSCによる防禦の欠如は、IFNγおよびNO産生がインビボでのMSCを介した免疫抑制にとって必須であることを示す。
【0111】
インビトロの結果から、IFNγがTNFα、IL−1α、またはIL−1βの3つのサイトカインのうちいずれか1つと共に作用してMSCの免疫抑制機能を誘導することが示されたので、MSCを介したGvHDからの防禦におけるこれらのサイトカインの役割を検討した。野生型MSC注入後に、マウスにこれらのサイトカインまたはL−NMMAに対する中和抗体を7日間注射し、そしてGvHDを発症させた。抗IFNγおよびL−NMMAのいずれもMSCの媒介によるGvHDからの防禦の有意な反転を引き起こしたが(
図3)、ネガティブコントロールマウスはこれらの投与に対応した有害効果を示さなかった。
【0112】
TNFα、IL−1α、およびIL−1βに対する3抗体カクテルの作用はより劇的でなく、統計的有意差に達しなかった(
図4)。この結果はIFNγおよびNOの産生をさらに暗示したが、他のサイトカインについては疑わしかった。しかし、TNFαおよびIL−1は、IFNγと協同してMSCによる免疫抑制を誘導するほか、GvHDの正常な病因論における重要な因子でもあると認識することは重要である。実際に、TNFαまたはIL−1のいずれかの中和はGvHDの重症度を低下させることができると報告されている(Hattori, et al.(1998)Blood 91:4051-4055; McCarthy, et al.(1991)Blood 78:1915-1918)。したがって、GvHDからの防禦がこれらの抗体によってより大きく逆転されないことが多少期待される。
【0113】
骨髄移植の14日後に、これらのマウスに由来する様々な臓器における炎症の重症度の組織学的検査も検討した。観察された白血球浸潤の程度は生存成績と良好に相関し;GvHD誘導マウスは肝臓、肺および皮膚においてリンパ球数の増加を示したのに対し、MSCを投与したマウスではそれらはほとんどみられなかった。さらに、MSCによる防禦は抗IFNγおよびL−NMMAによってほぼ完全に逆転されたのに対し、TNFα、IL−1αおよびIL−11に対する3抗体カクテルはより効果が低かった。これらのGvHD実験の結果、さらにはDTH試験の結果を合わせると、インビボでのMSCの媒介による免疫抑制におけるIFNγおよびNOに対する役割が明確に示される。
【実施例7】
【0114】
(腫瘍由来MSC様リンパ腫ストローマ細胞は免疫抑制性である)
リンパ腫の腫瘍細胞は接着性でないので、p53+/−マウスに発症したリンパ腫から腫瘍ストローマ細胞を分離することが可能である。これらの細胞は、インビトロで継代してさらに脂肪細胞および骨芽細胞様細胞に分化することができることが確認された。興味深いことに、骨髄由来MSCと同様に、これらの腫瘍ストローマ細胞も免疫抑制性でありかつ抗CD3活性化脾細胞の増殖を有効に阻害することができる。抗IFNγINFγおよびiNOS阻害剤は免疫抑制効果を逆転することができたので、この免疫抑制効果もIFNγ+TNFαおよびNO依存性である。
【実施例8】
【0115】
(リンパ腫ストローマ細胞(LSC)はNO依存的にリンパ腫の発症を促進する)
リンパ腫ストローマ細胞の腫瘍成長に対する作用を検討するために、355B細胞リンパ腫細胞株(C3H−gld/gldバックグラウンド、0.5×10
6個/マウス)をgld/gldマウス由来リンパ腫ストローマ細胞(C3Hバックグラウンド、P5、0.25×10
6個/マウス)と同時に注射した。ストローマ細胞の同時注射によって死亡率が有意に上昇したことが確認された。興味深いことに、1400W(NOS阻害剤、0、2、4、8、12、16、20、24、および28日目に0.1mg/マウス)の投与は当該作用を有意に逆転した(
図4)。したがって、腫瘍ストローマ細胞は腫瘍の成長を有意に促進することが可能であった。
【実施例9】
【0116】
(NOS阻害剤とIFNγの組み合わせはマウスメラノーマ療法を促進する)
腫瘍ストローマ細胞が産生するNOの腫瘍免疫療法に対する役割を検討するために、0日目にB16−F0メラノーマ細胞をC57BL/6マウスに注射した(0.5×10
6個/マウス)。4、8、12、16、20日目に、IFNγ(250ng/マウス)または1400W(NOS阻害剤、0.1mg/マウス)を腹腔内注射により投与した。マウスの生存はマウスの瀕死の時に記録した。複合療法はマウスの生存能力を劇的に高めることが確認された(
図5)。したがって、IFNγは腫瘍の発症において二重の役割を有し;一方は何らかの抗血管新生因子を産生するかまたは何らかの血管新生因子の産生を阻止することにより腫瘍の発症を防止することであり、もう一方はNO、IDOまたはPGE2などの因子を産生することによって腫瘍ストローマまたは他の環境細胞による免疫抑制を誘導することである。このため、NO、IDOまたはPGEのうち1つまたはそれ以上の阻害は癌の治療を劇的に促進することができる。したがって、サイトカイン、ワクチン接種、抗体、樹状細胞、またはT細胞によるものなどの免疫療法を用いて癌を治療する場合、腫瘍ストローマ細胞は、大半の症例でこれらの治療が腫瘍を完全に根絶することが不可能な原因となっているかもしれない。iNOSおよびIDOに対する阻害剤と免疫療法の複合使用は、腫瘍を根絶するための有効な方法を提供する可能性もある。
【実施例10】
【0117】
(マウス骨髄間葉系幹細胞(BM−MSC)においてIL−17AはIFNγおよびTNFαと協同して免疫抑制エフェクター分子iNOSの高度発現を誘導する)
マウスMSC媒介性免疫抑制は炎症性サイトカインに依存する。これらのサイトカインがないと、炎症性サイトカインIFNγとTNFαまたはIL−1が存在しない限りMSCは免疫抑制効果を持たず、MSCは刺激されて免疫抑制エフェクターである一酸化窒素(NO)を発現し、これは誘導型NOシンターゼ(iNOS)および数種類のヘルパー分子−ケモカインおよび接着分子によって触媒される。ケモカインおよび接着分子はT細胞および他の免疫細胞をMSCの近傍に保持し、ここで大量のNOが免疫細胞の機能を抑制する。
【0118】
インビボ炎症性環境は、我々が先に言及した3種類のサイトカインに加えて多様な種類の炎症性サイトカインおよび成長因子を含有するので、組織損傷を有する部位におけるMSCの原位置機能は、個別の微小環境ニッチにおいて多様なサイトカインによる影響を受けるはずであり、本発明者らは他のサイトカイン、特に自己免疫疾患および組織損傷において高レベルで発現するサイトカインを検討した。
【0119】
検討した数種類のサイトカインのうち、IL−17AはINFγおよびTNFαの存在下でiNOS発現を大きく促進することが確認された。IL−17Aは多くの病的条件において認められる非常に重要な炎症促進性サイトカインであるが、MSCの生物学に対してどのように影響するかはほとんど知られていない。
図6に示すように、mRNAおよびタンパク質のいずれのレベルにおいても、IL−17AはiNOSの発現を大きく促進した。この所見は、IL−17Aのさらなる添加が、MSCの免疫抑制作用を促進するための潜在的な戦略となる可能性があることを示す。
【実施例11】
【0120】
(IL−17AはT細胞増殖に対するBM−MSC媒介性免疫抑制を促進する)
IL−17A促進性iNOS発現が機能的であるか否か検討するため、MSC−T細胞共培養系を実施してMSCの免疫抑制活性を評価した。
図7に示すように、IFNγおよびTNFαの添加によってサイトカイン濃度依存的にT細胞増殖を低下させることが可能であった。印象深い事に、IL−17Aの添加はMSCのT細胞増殖に対する抑制を促進した。したがって、IL−17AはMSC媒介性免疫抑制の促進において機能的である。
【実施例12】
【0121】
(材料と方法)
(試薬とマウス)
組換えマウスIFNγ、TNFα、IL−17A、およびIL−17Aに対する抗体はeBiosciences(カリフォルニア州ラホーヤ)に由来した。組換えマウスIL−2はR&Dシステムズ(ミネソタ州ミネアポリス)に由来した。β−アクチン、GAPDH、iNOS、p−IκBα、p−P65、p−JNK、およびp−ERK1/2に対する抗体はセル・シグナリング・テクノロジー(マサチューセッツ州ダンバーズ)に由来した。Act1に対する抗体はサンタクルーズバイオテクノロジー(テキサス州ダラス)に由来した。PMSFおよびアクチノマイシンDはシグマアルドリッチ(ミズーリ州セントルイス)より購入した。
【0122】
C57BL/6マウスは、動物施設において水および飼料を適宜与え、特定の病原体のない条件下で維持した。すべての動物プロトコルは当施設の動物実験委員会によって承認される。
【0123】
(細胞)
MSCは実施例1に記載のプロトコルを用いて作製した。簡単に述べると、6〜8週齢の野生型またはauf1−/−マウスの脛骨および大腿骨骨髄を採取した。10%FBS、2mMグルタミン、100U/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン(完全培地、いずれもインビトロジェン(カリフォルニア州カールズバッド)由来)を添加したDMEM培地で細胞を培養した。24時間後にすべての非接着性細胞を除去し、接着性細胞を維持した。2〜3日おきに培地を交換した。MSCクローンを得るために、集密状態の細胞を回収し、96ウェルプレートに限定希釈によって播種した。次に、個々のクローンを選別および拡大した。MSCは、それぞれの分化条件下において脂肪細胞および骨細胞に分化することが可能であった。細胞は15継代の前に用いた。
【0124】
T細胞芽球はC57BL/6マウスから分離した未処理脾細胞から作製し、さらに10%熱不活化FBS、2mMグルタミン、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンおよび50μMβ−MEを添加したRPMI−1640培地で培養した。抗CD3および抗CD28で脾細胞(1×10
6個/mL)を48時間活性化し、さらに回収し、上清を濾過(0.1μm)して凍結した。その後細胞をIL−2(200U/mL)単独で48時間培養した。
【0125】
(増殖試験)
T細胞増殖を試験するため、凍結により培養を停止させる6時間前に、3H−チミジン0.5μCiを96ウェルプレートの各ウェルに添加した。その後プレートを解凍し、細胞を回収し、さらに取り込まれた3H−Tdrをワラックマイクロベータシンチレーションカウンター(パーキンエルマー、マサチューセッツ州ウォルサム)で分析した。
【0126】
(メッセンジャーRNA崩壊分析)
メッセンジャーRNA崩壊分析を原則的に実施した。MSCをサイトカインの組み合わせで6時間インキュベートした。アクチノマイシンD(ActD)を最終濃度5μg/mLで培地に添加して転写を停止した。ActD添加後の様々な測定時に、総RNAの抽出のため細胞を回収した。
【0127】
各測定時におけるiNOS、CXCL1、CCL2、CXCL10およびIL−6 mRNAレベルを定量的RT−PCRで測定し、β−アクチンmRNAレベルに対して正規化した。各測定時に残留していたmRNAの百分率をActD添加後の時間に対してプロットした。非線形回帰により一次崩壊定数kを算出した。式t1/2=ln2/kにより関連するmRNA半減期、t1/2を算出した。
【0128】
(RNA分離および遺伝子発現分析)
RNAprepピュアセル/バクテリアキットで総RNAを分離した。ファーストストランドcDNA合成はcDNA合成キットで実施した。mRNAレベルは、SYBRグリーンマスターミックスを用いて定量的RT−PCR(7900HT;アプライドバイオシステムズ、カリフォルニア州フォスターシティ)により測定し、β−アクチンmRNAレベルに対して正規化した。順方向および逆方向プライマーのペアの配列は以下の通りである:
iNOS、順方向5’−CAGCTGGGCTGTACAAACCTT−3’および逆方向5’−CATTGGAAGTGAAGCGTTTCG−3’;
β−actin:順方向5’−CCACGAGCGGTTCCGATG−3’および逆方向5’−GCCACAGGATTCCATACCCA−3’;
IL−6:順方向5’−GAGGATACCACTCCCAACAGACC−3’および逆方向5’−AAGTGCATCATCGTTGTTCATACA−3’;
CXCL1:順方向5’−CTGCACCCAAACCGAAGTC−3’および逆方向5’−AGCTTCAGGGTCAAGGCAAG−3’;
CCL2:順方向5’−TCTCTCTTCCTCCACCACCATG−3’および逆方向5’−GCGTTAACTGCATCTGGCTGA−3’;
CCL5:順方向5’−TTTCTACACCAGCAGCAAGTGC−3’および逆方向5’−CCTTCGTGTGACAAACACGAC−3’;
CXCL9:順方向5’−AGTGTGGAGTTCGAGGAACCCT−3’および逆方向5’−TGCAGGAGCATCGTGCATT−3’;
CXCL10:順方向5’−TAGCTCAGGCTCGTCAGTTCT−3’および逆方向5’−GATGGTGGTTAAGTTCGTGCT−3’。
【0129】
(ウェスタンブロッティング分析)
細胞を氷冷PBSで2回洗い、回収し、さらにプロテアーゼ阻害剤カクテル(ロッシェ、ニュージャージー州ナットリー)およびPMSF(シグマ)を含有するRIPAバッファー(ミリポア、カリフォルニア州テメキュラー)中で30分間氷上で溶解した。ライセートを16,000gで15分間の遠心分離により清澄化した。ブラッドフォードアッセイ(バイオラッド、カリフォルニア州ハーキュリーズ)により上清のタンパク質濃度を測定した。
【0130】
タンパク質サンプルを5×SDS装填バッファー(250mM Tris−HCl、pH6.8、10%SDS、0.5%ブロモフェノールブルー、50%グリセロール、5%β−メルカプトエタノール)で希釈し、10%SDSポリアクリルアミドゲルで分画化した。タンパク質をニトロセルロース膜(ワットマン社、ニュージャージー州クリフトン)にエレクトロブロッティングし、TBST(150mM NaCl、50mM Tris−HCl、pH7.5、0.05%Tween20)に溶解した5%脱脂粉乳中で1時間室温でインキュベートした。一次抗体を用いてブロッティング膜を4℃で一晩インキュベートし、TBSTで広範囲に洗浄し、HRPコンジュゲート二次抗体(セル・シグナリング)を用いて室温で1.5時間インキュベートし、再度TBSTで洗浄した。ブロッティング膜は、製造者の提供する指示に従い化学発光試薬(ミリポア、マサチューセッツ州ビルリカ)で現像した。
【0131】
(IL−17A受容体の免疫蛍光検出)
培養したMSCを始めにPBSで洗い、さらに氷冷メタノールを用いて−20℃で10分間固定した。0.3%Triton X−100PBS溶液で10分間インキュベートした後、5%BSAを用いて細胞を室温で1時間ブロッキングし、さらに一次抗体である抗IL−17RA(サンタクルーズ)を用いて4℃で一晩インキュベートした。PBSで洗浄した後、アレクサフルオロ594コンジュゲートヤギ抗ウサギ二次抗体およびDAPI(インビトロジェン)を用いて細胞を室温で1時間インキュベートした。その後細胞を撮影前にPBSで洗浄した。
【0132】
(マウスのConA誘導型肝損傷)
C57BL/6マウス(8〜10週齢)にConA(ベクターラボ、カリフォルニア州バーリンゲーム)のPBA溶液を15mg/kgで静脈内注射して肝損傷を誘導した。野生型マウスまたはauf1−/−マウスに由来するMSC(5×105)を、IL−17Aの存在下または非存在下でIFNγ、TNFαを用いて、または用いずに12時間処理し(各サイトカインにつき10ng/mL)、次にConAを投与したマウスに30分間静脈内投与した。さらに7.5時間後にマウスを安楽死させ、血清および肝組織を採取した。血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)検出によりALT活性を測定した。ホルマリン固定肝組織学切片をヘマトキシリンとエオシン(H&E)で染色した。
【0133】
(肝単核球分離およびフローサイトメトリー分析)
肝単核球(MNS)を40%/70%グラジエントで精製し、染色バッファー(PBS、3%FCS)中で抗CD3−PE、抗CD4−PerCP/Cy5.5、および抗−CD8a−APC(eBiosciences)により4℃で30分間染色した。クローン化MSCにおけるIL−17RAの表面発現を検出するために、細胞を抗IL−17RA−PE(eBiosciences)で染色し、FACS Caliburフローサイトメーター(ベクトンディッキンソン、カリフォルニア州サンホゼ)でフローサイトメトリーにより分析した。
【0134】
(統計分析)
非線形回帰および統計分析は、PRISMv5ソフトウェア(グラフパッドソフトウェア社)を用いて実施した。サンプル間の比較は対応のないt検定により実施した。p<0.05の差を有意とみなした。(
*、p<0.05;
**、p<0.01;
***、P<0.001)。
【0135】
(結果:IL−17AはMSCの免疫抑制作用を促進する)
本実施例は、MSCの免疫抑制機能が生得的ではなく、炎症促進性サイトカインにより濃度依存的に誘導されることを規定する。MSCに対する免疫抑制作用を可能とするためにIFNγと他の3つの炎症性サイトカイン−TNFα、IL−1α、またはIL−1β−のうち1つの組み合わせが必要とされる。IF−17Aは、多様な炎症性および自己免疫疾患の病因論におけるその決定的役割で知られた多面発現性炎症促進性サイトカインである。興味深いことに、IL−17Aはいくつかのサイトカインと協同し、炎症に必要とされる遺伝子発現プログラムを促進することも知られている。したがって、本発明者らはIL−17Aが至適濃度に満たないIFNγおよびTNFαと協同してMSCの免疫抑制特性を誘導することが可能か検討した。
【0136】
低濃度(各2ng/mL)の組換えサイトカインIFNγ、TNFα、およびIL−17Aの様々な組み合わせを用いて、MSCを12時間培養し;CD4
+T細胞芽球を1:20の比率(MSC:T細胞)でIL−2と同時に培養に加え、さらにT細胞増殖を
3H−チミジン取り込みで評価した(T細胞芽球はIL−2の存在下で増殖するが、さらなるTCR活性化がなければサイトカインを産生しないことが指摘される)。その後、3つのサイトカインのいずれか単独ではMSCにおいて免疫抑制を誘導することができないと結論づけられた。
【0137】
MSCは始めに表示の組み合わせの組換えサイトカインIFNγ、TNFα、IL−17A(各2ng/mL)で12時間処理し、その後CD4
+T細胞芽球と1:20の比率(MSC:T細胞)で共培養し、さらに12時間後に
3Hチミジン取り込みにより増殖を評価した。したがって、T細胞増殖はIFNγおよびTNFαの存在下で抑制され、かつこの抑制はIF−17Aによって著しく促進することが可能であり(
図9A)、強力な炎症促進性サイトカインIL−17Aの新規免疫調節機能が実証された。
【0138】
次に、MSCまたはRaw264.7(マクロファージ)におけるIL−17受容体ファミリーメンバーのmRNA発現をRT−PCRで検討した。NC:RTなし。このように、IL−17RAおよびIL−17RCを経たIL−17Aシグナルは、MSCにおける両受容体の発現がRT−PCRによって確認され(
図9B)、ここではマウスマクロファージ細胞株Raw264.7をポジティブコントロールとして用い;間接免疫蛍光顕微鏡検査およびフローサイトメトリーによりIL−17RAの細胞表面発現も確認された(
図9C、それぞれ上および下パネル)。
【0139】
炎症性サイトカインの濃度は炎症反応の種々のステージで異なるので、IL−17促進免疫抑制に対するIFNγおよびTNFαの濃度依存性をさらに検討した。表示の濃度のIFNγおよびTNFαを用い、IL−17A10ng/mLを添加してまたは添加せずにMSCを培養した。次に、MSCをCD4
+T細胞芽球またはA1.1T細胞ハイブリドーマと共培養してT細胞増殖に対する作用を評価した。IL−17Aは、それぞれ1〜2ng/mLと低いIFNγおよびTNFα濃度で、MSCのT細胞に対する免疫抑制作用を促進することができた。
【0140】
IL−17Aは、IFNγおよびTNFαの高濃度(すなわち10〜20ng/mL)においてもなお免疫抑制を改善したが、効果はより曖昧であった。しかし、MSCを段階的な濃度のIL−17Aを添加してIFNγおよびTNFα(2ng/mL)で12時間処理し、その後T細胞ハイブリドーマA1.1細胞と1:10の比率で12時間共培養した。したがって、低濃度のIFNγおよびTNFα(各2ng/mL)、T細胞増殖の劇的な低下を誘発するには0.5ng/mLと少量のIL−17Aで十分であった(p<0.05;
図9F)。
【0141】
この所見は、T細胞が分泌する炎症性サイトカインに応じてMSCが活性化一次脾細胞の増殖を抑制できることを規定する。T細胞の活性化は、IL−17Aを含む多くのサイトカインの産生をもたらす。IL−17AがMSCの免疫抑制効果に寄与することを確認するために、IL−17Aに対する抗体を用いてMSC活性化脾細胞共培養系においてこれを中和した。活性化脾細胞の増殖はMSCによって著しく阻害されたものの、IL−17Aに対する抗体の添加時にこの阻害は部分的に逆転され、すなわち抗体の存在下で増殖が増加した(
図9G)。抗体の至適効果はMSC:脾細胞比率が1:40で発生した。MSC:脾細胞比率1:20では、逆転はより曖昧であるもののなお統計的に有意であった(p<0.01)。これらの結果を合わせて考えると、IL−17Aは、特により低濃度のIFNγおよびTNFαにおいて培養されるとき、MSCの免疫抑制作用を促進することが可能であることが示される。
【0142】
(IL−17Aは炎症性サイトカインと協同してMSCの免疫調節遺伝子の発現を誘導する)
一酸化窒素(NO)およびケモカインは、協調的に作用し、MSCの免疫抑制作用を媒介する重要な分子である。MSCのケモカインおよびiNOS遺伝子は、IFNγおよびTNFαによって誘導される。しかし、IL−17AはIFNγおよびTNFαで培養したMSCによる免疫抑制を促進した(
図9D、9E)。その後、IL−17AがINFγおよびTNFαと協同してMSCのiNOSおよびケモカインの発現を誘導することを示すよう、この試験を設計した。この仮説を検討するために、IFNγ、TNFαおよび/またはIL−17Aの様々な組み合わせを用いてMSC集団を培養し、さらに選択した免疫調節遺伝子の発現に対する作用を評価した。
【0143】
サイトカインの単一または2つの組み合わせで培養したMSCと比較すると、IFNγ、TNFα、およびIL−17Aの添加はiNOS、IL−6,およびCXCL1の発現をmRNAレベルで劇的に上昇させ(
図10A);ウェスタンブロッティング分析によりiNOSタンパク質レベルの上昇も確認された(
図10B)。しかし、MSCの免疫抑制作用において中心的な役割を果たすCCL5、CCL2、CXCL9、CXCL10などの他のケモカインの発現は、いずれもIL−17Aの添加によって影響されなかった(
図10C)。
【0144】
遺伝子発現に対する作用がIL−17Aによるものであることを確認するため、抗CD3および抗CD28活性化脾細胞に由来する上清を用い、IL−17Aに対する中和抗体の存在下または非存在下でMSCを培養した。抗IL−17Aの上清への添加によりiNOS、IL−6、およびCXCL1遺伝子発現の誘導が阻止されたが、CCL2、CCL5、CXCL9、またはCXCL10には影響しなかった。(
図10D、10E)。Act1ノックダウンMSCを用いたIL−17Aのシグナル伝導の遮断により、こうした結論がさらに立証された。
【0145】
アダプタータンパク質Act1のIL−17RAへの動員は、IL−17A依存的シグナル伝達と関連付けられる。IκBα、ERK、p65、JNKのリン酸化はこれらのAct1ノックダウンMSCで減衰されるので(
図11A)、IL−17AはAct1ノックダウンMSCにおけるIFNγ+TNFα誘導によるiNOS発現をアップレギュレートすることができなかった(
図11B、11C)。その一方、Act1の非存在下では、MSCにおけるIL−17Aによる免疫抑制の促進もみられなかった(
図11D)。それゆえ、遺伝子発現に対する効果はIL−17Aによるものであった。これらのデータを合わせると、IL−17AがIFNγおよびTNFαと協同し、MSCの免疫抑制機能に寄与する遺伝子の発現を誘導できることが示された。
【0146】
(IL−17AはRNA結合タンパク質AUF1によって課される遺伝子発現の抑制を逆転する)
iNOSおよび多くのサイトカイン/ケモカインをコードするメッセンジャーRNAは速やかに分解され、これはmRNAおよびタンパク質のいずれに対しても量の増加を制限する。シグナル伝達経路の活性化は、特に免疫応答時には、これらのmRNAを安定化してその発現を増加させる。実際、IL−17Aが多くの炎症メディエーター遺伝子の発現を誘導する主なメカニズムは、そのmRNAを安定化させることによる。数多くのタンパク質が、通常は3’−UTRにおいて、特異的なRNA配列と結合しかつRNAを迅速な分解の標的とする。AUリッチ領域(ARE)はそのようなmRNA分解配列のファミリーの1つを含む。AREと結合してそれを内部に持つmRNAの調節発現を誘発するタンパク質は数多い。これらのタンパク質はAUF1、HuR、KSRP、TIA−1/TIAR、およびTTPを含む。これらのタンパク質の標的の一部は、iNOS、IL−6、およびCXCL1をコードするARE−mRNAを含む。ARE結合タンパク質AUF1は、iNOSおよびIL−6 mRNAと結合してその分解を制御する4つのアイソフォーム―p37、p40、p42、およびp45―を含む。したがって、AUF1はiNOSおよびサイトカイン/ケモカインmRNAの発現を制限するよう作用すること、およびIL−17AがAUF1のこの活性を遮断し、これにより遺伝子発現を増加させるという仮説が立てられた。
【0147】
このようにして、auf1
−/−マウスおよび野生型マウスの骨髄に由来するMSCの間で、サイトカイン誘導による遺伝子発現を比較した。これまでのようにサイトカインの組み合わせを用いてIL−17Aを添加するかまたは添加せずに細胞を培養した。野生型MSCではiNOS、IL−6、およびCXCL1 mRNAのレベルが非常に低いことが常であった一方で、IL−17Aの添加(IFNγおよびTNFαと同時)によりこれらのmRNAのレベルの有意な上昇が誘導された(
図12A;p<0.001)。対照的に、これら3つのmRNAのレベルはIFNγ+TNFαで培養したauf1
−/−MSCの方がはるかに高く、またIL−17Aの添加はmRNAレベルにほとんど影響しなかった(すなわちIL−17Aはその量を2倍未満増加させた)。同様に、IFNγおよびTNFαは、auf1
−/−MSCにおいて、野生型と対照的に、IL−17Aを必要とすることなくiNOSタンパク質を最大限に誘導するのに十分であった(
図12B、レーン7および8をレーン5と比較されたい)。
【0148】
AUF1およびIL−17Aの遺伝子発現に対する作用を考慮すると、mRNA安定化の度合い、および通常であればIL−17Aを必要とする遺伝子発現の増大を提供するには、AUF1単独のノックアウトで十分である可能性があった。野生型およびauf1
−/−MSCをIFNγ+TNFαを用いてIL−17Aを添加するかまたは添加せずに培養した。6時間後にActDを添加して転写を停止させた。
【0149】
様々な測定時においてRNAを細胞から分離し、個々のmRNAのレベルを測定してRNA崩壊動態を評価した。野生型MSCにおいては、iNOS、IL−6、およびCXCL1 mRNAは半減期がそれぞれ4.3±1.4時間、0.7±0.1時間、および0.59±0.08時間と比較的不安定であり;IL−17Aは3つのmRNAのすべてに対して2倍の安定化をもたらした(
図13A;それぞれについてp<0.05)。IL−17Aに反応しなかったCCL2およびCXCL10 mRNAは(
図13C参照)、予想されるように、IL−17Aによって安定化されなかった(
図13A;両mRNAについてIL−17Aの有無にかかわらずt1/2=約2時間)。
【0150】
野生型MSCとは対照的に、AUF1のノックアウトはiNOS、IL−6、およびCXCL1 mRNAを強力に安定化した(
図13B;iNOSとIL−6についてはt1/2>10時間;CXCL1についてはt1/2=4.3±0.6時間)。IL−17AはiNOSおよびIL−6 mRNAの半減期に影響しなかったが(
図13B)、その一方でCXCL1 mRNAを少なくとも2倍安定化した(
図13B;t1/2>10時間に対してIL−17Aなしで4.3±0.6時間;考察を参照)。これらのmRNA崩壊データは、(i)AUF1は通常MSCのiNOS、IL−6、およびCXCL1 mRNAの分解を促進しかつIL−17Aはその安定化を引き起こすこと;(ii)AUF1のノックアウトによるこれらのmRNAの安定化は、野生型MSCにおけるmRNAに対するIL−17Aの安定化効果の強度に匹敵すること;および(iii)AUF1ノックアウトはiNOS/ケモカイン遺伝子発現を誘導するためのIL−17Aの必要性を取り除くとみられることを示した。したがって、AUF1は、MSC遺伝子発現に対するその作用、およびおそらくは次に検討する最終的な免疫抑制を誘発するために、そこを経てIL−17Aが作用しなければならない制御点として作用しうる。
【0151】
(インビトロでのMSCの免疫抑制に対するAUF1の作用)
AUF1ノックアウトがIL−17Aを必要とすることなくケモカイン遺伝子発現を誘導したと考えると(
図12および13を参照)、IFNγ+TNFα単独でauf1
−/−MSCを培養することは、3つのサイトカインすべてを用いて培養された野生型MCSの免疫抑制活性を表現型模写するのに十分であろうという仮説が立てられる。この仮説を検討するため、野生型およびauf1
−/−MSCを、IL−17Aを添加してあるいは添加せずにIFNγ+TNFαを用いて培養した後、T細胞増殖の分析のためにA1.1T細胞ハイブリドーマと共培養した。IL−17Aは、添加しないで培養した細胞と比較して、野生型MSCの免疫抑制活性を増加させたが;しかしIFNγ+TNFαはauf1
−/−MSCの最大免疫抑制活性を誘導するのに十分であり、かつIL−17Aは免疫抑制効果をさらに亢進させることはなかった(
図14A、14B)。これらの結果を合わせて考えると、AUF1はiNOSおよびサイトカイン/ケモカイン遺伝子発現を制限するという所見と一致し;IL−17Aはこれらの作用を逆転してMSCによる免疫抑制を促進する。
【0152】
(IL−17Aは、ConA誘導型肝損傷を患うマウスにおけるMSCの治療効果をAUF1依存的に促進する)
次に発明者らは、野生型およびauf1
−/−MSCによるインビボ免疫抑制に対するIL−17Aの作用を検討した。マウスのConA誘導型肝損傷は、主としてT細胞を介する自己免疫性肝炎のインビボモデルにおいて十分に説明されている。先の結果より、IL−17Aはインビトロ系においてMSCの免疫抑制作用を劇的に促進できることが示されているので、マウスにおけるConA誘導型肝損傷を治療する際に、IL−17AがMSCによりすぐれた治療効果を可能とするこができるであろうと予想された。したがって、始めにIL−17Aの存在下または非存在下でIFNγ+TNFαを用いてまたは用いずに野生型およびauf1
−/−MSCを12時間処理し、次に30分前にConA注射を受けたマウスに静脈内注射した。未処理またはIFNγ+TNFα前処理した野生型MSCと比較して、IFNγ+TNFαおよびIL−17Aで前処理した野生型MSCは、血清ALT活性および肝壊死および炎症を鋭く減少させ、肝損傷を相当改善することが可能であった(
図15A、15D)。しかしauf1
−/−MSCについては、IL−17を必要とすることなく、IFNγ+TNFα前処理のみでConA誘導型肝損傷に対する最大治療効果を誘発するであろう(
図15A、15D)。IFNγ+TNFαにIL−17Aを添加して前処理した野生型MSC、またはIL−17Aを添加してあるいは添加せずにIFNγ+TNFαで前処理したauf1
−/−MSCを投与されたマウスでは、血清ALT活性のパターンと一致して、肝臓の単核球、さらにはCD3
+CD4
+およびCD3
+CD8
+T細胞浸潤も劇的に減少した(
図15B、15C)。したがって当業者は、IFNγ+TNFαとIL−17Aで同時に前処理したMSCを利用することによるConA誘導性肝損傷を治療する上での新しい新規の治療法を認識することができ、かつIL−17Aの効果はAUF1依存的に発揮される。
【実施例13】
【0153】
(IL−17AはmRNAの安定性を高めることによりiNOS発現を促進した)
IL−17AがどのようにMSCによるiNOS発現および免疫抑制を促進するかというメカニズムを検討するために、サイトカイン誘導下でのiNOSのRNA安定性を試験した。
図16Aに示すように、IFNγ+TNFα処理群におけるiNOS mRNAの崩壊半減期は約2.5時間であった。興味深いことに、IL−17Aの添加は検討した測定時内でiNOS mRNAを完全に保護した。
【0154】
哺乳類においては、炎症タンパク質をコードするmRNAの多くは、その3’非翻訳領域に存在するAUリッチ領域(ARE)によって不安定化された可能性がある。迅速なmRNA分解は、これらのmRNAを伴うARE結合タンパク質(AUBP)に随伴して発生する。ARE/ポリ(U)−結合/分解因子1であるAUF1は最もよく特性解析されたAUBPの1つであり、多くのARE−mRNAと結合して分解を媒介する。MSCにおけるIL−17A媒介性iNOS過剰発現において指摘された所見に対し、AUFIは決定的であることが疑われる。
【0155】
これを検討するために、MSCにおいてAUF1をsiRNAによりノックダウンし、さらにIL−17Aを添加するかまたは添加せずにIFNγ+TNFαで処理した。IL−17Aは野生型MSCにおいてiNOS発現を著しく誘導したのに対し、AUF1の欠如はこの効果を大きく阻止し、MSCのIL−17A媒介性iNOS発現におけるAUF1の重要性を示した。このように、IL−17AはMSCにおいてiNOS mRNAを安定化させることができ、このことは臨床環境でMSC媒介療法を効果的に促進する新規の方法を提供する。
【0156】
(I型インターフェロンおよび線維芽細胞増殖因子(FGF−2)は、MSC媒介性免疫抑制に対し、iNOS発現のダウンレギュレーションを通じて負の制御因子として作用する)
上述のように、IL−17AはMSC媒介性免疫抑制を促進するための潜在的因子となる可能性もある。しかし多くの場合、そのようなインビトロおよびインビボ免疫抑制作用は正または負のいずれかに調節する必要がある。入手可能な成長因子およびサイトカインをスクリーニングし、2つの因子:I型インターフェロンおよび線維芽細胞増殖因子(FGF−2)がMSC媒介性免疫抑制を著しくダウンレギュレートすることを確認した。
【0157】
これら2つの因子は、T細胞増殖に向けられたMSCの免疫抑制作用を潜在的に阻害する可能性がある(
図16)。さらなる分析により、これらのサイトカインのいずれかの添加によって、iNOSタンパク質の発現およびNO産生を著しく減少させることができたことが明らかとなった(
図17)。
【0158】
これらの所見は、MSC媒介性免疫抑制を負に調節する方法を実証する。したがって、I型インターフェロンおよびFGFに対する抗体を用いてMSCの免疫抑制作用を増強することができる。
【0159】
(ヒトIDO発現マウスiNOS−/−細胞の構築(ヒト化IDO MSC))
MSC媒介性免疫抑制には種間変動があり:NOはマウスMSCに対するエフェクター分子であるのに対し、ヒトおよび霊長類MSCはインドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)を抑制的エフェクター分子として利用する。
【0160】
マウスMSCは炎症性サイトカイン刺激後にインドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)を発現しないので、マウス系でIDOの生物学的役割を検討するのは困難である。この問題を回避するために、マウスiNOSプロモーターの制御の下で、マウスiNOS−/−MSCをヒトIDO遺伝子でトランスフェクトした。これにより、マウスMSCにおいて炎症性サイトカイン刺激時のIDOの発現が可能となった。安定的なヒトIDO発現マウスiNOS−/−MSCは成功裏に作製されており、マウス炎症性サイトカインによる刺激の下で高いIDO発現が確認されている。これらのヒト化IDO MSCにより、IDOがマウスMSCにおいて免疫抑制的であることがインビトロおよびインビボで示された。ヒト化IDOマウスはiNOS−/−マウスから作製された。
【0161】
ヒトIDO遺伝子は、薬理学、癌治療をさらに研究しまた免疫応答および免疫関連病因論を評価するために、正常マウスにおいてマウスiNOS遺伝子を置換するためにも用いられ、そのような場合においてIDOの発現はマウスiNOS遺伝子の制御メカニズムによって制御され、その一方でiNOS遺伝子は発現停止させられる。
【実施例14】
【0162】
(MSC集団に形質導入して機能的IFNαを放出させること)
この実施例において、発明者らはGFPをコードするレンチウイルスをMSCに形質導入するか(MSC−GFP)、またはGFPをマウスIFNαと同時に形質導入した(MSC−IFNα)。フローサイトメトリー上でのGFP発現によって示されるように、90%を超える細胞が良好に形質導入された(
図18A)。MSC−GFPおよびMSC−IFNαの間で形態および増殖率に明らかな変化は認められなかった。MSC−IFNαのINF産生レベルを検討するために、5×105個/mLで48時間培養したMSCの上清中でIFNαのレベルを定量した(
図18B)。
【0163】
ELISA分析により、MSC−IFNαの上清中には19ng/mLのIFNαがあったのに対し、同じ条件で培養したMSC−GFPの上清中ではIFNαが検出されなかったことが示された。MSC−IFNαによって放出されたIFNαが生物学的機能を有するか試験するため、MSC表面のMHC I分子H−2Kbの発現をフローサイトメトリーで評価した。IFNαはH−2Kbの発現レベルを上昇させる。
【0164】
図18Cは、MSC固有の特性である、MSC−GFPにおいてH−2Kbの発現が低いことを説明する。しかし驚くべきことに、MSC−GFPにおけるH−2Kb発現は組換えIFNαによる処理後に劇的に上昇した。MSC−IFNαの上清で処理した細胞上でも、同様なH−2b発現の上昇が認められた。それに対応して、MSC−INFαにおけるH−2Kb表面発現もIFNαで処理したMSC−GFPのそれと同様のレベルまで上昇した。これらのデータは、MSC−IFNαが生物学的機能を有するIFNαを産生したことを実証した。
【0165】
(MSC−IFNαはインビボで強力な抗腫瘍作用を示した)
インビボで腫瘍成長に対するMSC−INFαの作用を検討するために、マウスB16メラノーマモデルを用いた。この系においては、すべての細胞およびマウスはC57BL/6バックグラウンドにあった。1×10
6個のB16メラノーマ細胞を、単独かまたはMSC−GFPまたはMSC−IFNαのいずれか1×106個と同時に筋肉内接種し、さらに12日後に腫瘍を摘出して秤量した。MSC−IFNαが腫瘍成長を完全に停止させた一方で、MSC−GFPは腫瘍成長をわずかに促進したことが予想外に確認された(
図19A)。MSC−IFNαの効力を検討するために、1×10
6個のB16メラノーマ細胞と種々の個数のMSC−INFαを動物に注射した。驚くべきことに、1×10
4個のMSC−IFNα(MSC−IFNα:B16の比率=1:100)であってもなおインビボで腫瘍成長を強力に阻止することができた(
図19B)。さらに、腫瘍細胞を単独接種したマウスはすべて30日以内に死亡したのに対し、腫瘍細胞をMSC−INFIと同時に投与されたマウスのほぼ半数は100日以上生存した(
図19C)。
【0166】
MSC−IFNα細胞をB16メラノーマ細胞接種の3または4日後に注射した場合も、腫瘍成長は有効に阻害された(
図19Dおよび19E)。MSC−IFNαの抗腫瘍能を組換えIFNαと比較するために、B16細胞の接種の3日後に組換えIFNα5μg(50,000U)または1×10
6個のMSC−INFαを有するマウス。我々のインビトロ分析に基づき、我々は注射した1×106個のMSC−IFNα細胞が1日にわずか19ng前後のINFαを産生すると大まかに推定する。これは注射した組換えIFNα 5μgをはるかに下回った。発明者らはこの低いIFNα産生量であっても(注射した組換えIFNαの量の250分の1)、MSC−IFNαが組換えINFαよりもさらに強力な抗腫瘍作用を有したことを確認したので、この所見は有意である(
図19F)。IFNαの繰り返し投与はインビボで強力な抗腫瘍作用をさらに発揮した(追加の
図18)。これらのデータは、IFNαを分泌するMSCがインビボで非常に強力な抗腫瘍活性を有することを明確に実証した。
【0167】
(MSCは腫瘍内に残存し、腫瘍細胞増殖を低下させかつ腫瘍細胞アポトーシスを誘導した)
MSC−IFNαの強力な抗腫瘍作用のメカニズムをさらに検討するために、インビボで投与されたMSC−IFNαの運命を追跡した。このため、MSC−IFNαをルシフェラーゼで標識し、BerthodNC100撮影システムを使用する生体撮影技術でその活性をインビボモニタリングした。
【0168】
B16細胞と同時に注射されると、MSC−INFαは腫瘍内にのみ2週間にわたって残存するとともに徐々に減少した(
図20Aおよび20B)。MSC−IFNαの強力な抗腫瘍効果を考慮すると(MSC−IFNα:B16=1:100の比率でもなお有効)、SC−IFNαは腫瘍内部にとどまり、低いものの有効な濃度のIFNαを腫瘍内で少なくとも2週間持続的に局所分泌すると考えられる。
【0169】
当業者は、組換えIFNαのインビボ投与についての短い半減期および高用量の必要性に対するこの効果の優位性を認識することができる。腫瘍を組織学的に検討すると、B16+MSC−IFNα群では大量のリンパ球浸潤が認められた。
【0170】
MSC−IFNαは、Ki−67陽性細胞の比率の減少によって示されるように腫瘍細胞の増殖を阻害し、かつTUNEL分析で示されるように腫瘍細胞のアポトーシスを増加させた(
図20C)。
【0171】
(MSC−INFαの抗腫瘍活性はほぼ免疫依存性であった)
インビトロでの組換えIFNαの腫瘍成長に対する直接的作用を検討した。組換えINFαは高濃度であってもB16メラノーマ細胞を僅かにに阻害するのみであることが確認された(MSC−IFNαによって産生される19ng/mLと比較して最高100ng/mL)(
図21A)。したがって、MSC−INFαによってインビボで認められた完全な腫瘍成長阻害を考慮し、発明者らは腫瘍成長の直接阻害に追加して関与する他のメカニズムがあるはずであると推測した。
【0172】
MSC−IFNαの抗腫瘍作用において免疫系が何らかの役割を果たすか検討するため、B16メラノーマ細胞を単独で、またはMSC−GFPまたはMSC−IFNαのいずれかと共に、野生型または免疫不全NOD−SCIDマウスに対して同時に投与し、さらにこれらのマウスにおける腫瘍成長を比較した。野生型マウスにおいてはMSF−IFNαが腫瘍成長を完全に阻害した一方で(
図21B)、免疫不全マウスにおいてはMSC−IFNαの腫瘍阻害作用が大幅に無効化された(
図21C)。MSC−IFNαの抗腫瘍作用における免疫系の役割をより明確に分析するために、直接的腫瘍阻害の寄与を最小化するよう、より少ない個数のMSC−IFNαをB16腫瘍細胞と共に注射した。少ない個数のMSC−IFNα(腫瘍細胞の1/100)を用いたところ、野生型マウスでは腫瘍の成長はなお有効に阻害されたが(
図21D);しかし免疫不全マウスにおいてはこの効果は完全に消失した(
図21E)。
【0173】
次に発明者らは、抗アシアロBM1抗体によってNK細胞を枯渇させることにより、NK細胞がMSC−IFNαの抗腫瘍作用に関与しているか検討した。驚くべきことに、腫瘍成長は対照マウスにおいて有効に阻害されたが;しかしこの阻害はNK細胞枯渇抗体を投与されたマウスにおいて大きく逆転された(
図21F)。CD8+T細胞欠損マウスであるβ2mノックアウトマウスにおけるMSC−IFNαによる腫瘍成長の阻害の減少によって示されるように、CD8+T細胞もMSC−INFαの抗腫瘍作用に寄与した(
図21G)。これらのデータより、MSC−IFNαの抗腫瘍効果においては、腫瘍細胞に対するその直接的な効果に加えて免疫系が決定的であることが明確に示された。
【0174】
本試験においては、正常マウスにおいてIFNαはMSCを介して腫瘍内に送達された。そのような免疫適格マウスにおいては,IFNαは遠隔の抗腫瘍免疫を経てその効果を発揮することが確認された。正常マウスにおいては少数のIFNα分泌MSCであっても100倍の腫瘍細胞の成長を阻害する能力を有していたが、免疫不全マウスにおいては有していなかった。さらに、NK細胞およびCD8+T細胞のいずれもINFα分泌MSCのインビボ抗腫瘍作用において重要な役割を果たすことが示された。
【0175】
INFαがMSCの免疫抑制を克服した可能性がある。したがってINFαは、INFγおよびTNFαによって誘導されたMSCの免疫抑制特性を有効に逆転すると想定される。腫瘍内のMSC−INFαの長期的な存在は、INFαでみられたような頻繁な注射を回避した。MSC−INFαによって分泌される低いながらも有効なレベルのINFαは、何らかの副作用を引き起こす可能性が低い。当業者は、免疫刺激因子を発現するよう操作されたMSCが、将来の腫瘍療法にとって大きな可能性を有することを認識することができる。
【0176】
本発明は具体的な実施形態を参照して記載されている一方で、以下の請求項に定義される本発明の範囲から逸脱することなく本発明の変更および変法を解釈することができる。