特許第6654727号(P6654727)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6654727
(24)【登録日】2020年2月3日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】潤滑油用エステル基油
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/34 20060101AFI20200217BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20200217BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20200217BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20200217BHJP
【FI】
   C10M105/34
   C10N20:00 A
   C10N20:02
   C10N40:20 Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-84729(P2019-84729)
(22)【出願日】2019年4月25日
(65)【公開番号】特開2019-194186(P2019-194186A)
(43)【公開日】2019年11月7日
【審査請求日】2019年5月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591066362
【氏名又は名称】築野食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】築野 卓夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 弥
【審査官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/008442(WO,A1)
【文献】 特開2002−206094(JP,A)
【文献】 特開平05−255679(JP,A)
【文献】 特開2008−179773(JP,A)
【文献】 特開2001−107066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00− 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、
は、炭素数15〜21の直鎖又は分鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、
は、炭素数9〜12の直鎖又は分鎖状のアルキル基であり、
Aは、炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基であり、
nは、アルキレンオキシドの平均付加モル数を示し、0.1〜.0である。)
で表されるエステルを含むこと、及び引火点が256℃以上であることを特徴とする、潤滑油用エステル基油。
【請求項2】
-CO-残基がオレイン酸であることを特徴とする、請求項1に記載のエステル基油。
【請求項3】
が分岐ノニル基又は分岐デシル基であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のエステル基油。
【請求項4】
動粘度が40℃で14.0mm/s未満であり、かつ、引火点が25〜265℃であり、かつ、流動点が−10℃以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエステル基油。
【請求項5】
金属加工用であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエステル基油。
【請求項6】
が、不飽和の脂肪族炭化水素基であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエステル基油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油用エステル基油及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、トリメチロールプロパンを90重量%以上含むアルコール成分と、エナント酸、カプリル酸及びカプリン酸を含み、かつ、エナント酸、カプリル酸及びカプリン酸を総量で90重量%以上含むカルボン酸成分とを反応させて得られる合成エステルからなる潤滑油基油が記載されているが、当該基油の動粘度は40℃で16mm/s程度である。また、特許文献2には、分岐トリデシルアルコールとオレイン酸との反応により得られる潤滑油用基油が記載されているが、アルコールの炭素数は13(トリデシルアルコール)に特定されており、当該基油の動粘度は40℃で14mm/s以上である。また、特許文献1〜2には、アルキレンオキシド構造を含む基油は記載されていない。
また、特許文献3には、後述する本発明のエステルと類似の構造を有する脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを50質量%以上含有する金属加工用不水溶性切削油基油が記載されているが、当該基油に含まれるエステルにおいて、アルコール残基側のアルキル基の炭素数は1〜8である。また、当該基油のアルキレンオキシドの平均モル数は1〜6であるが、モル数が多ければ多いほど、当該使用用途では、経時でエステル中の水分量が多くなり、加水分解などの劣化が起こりやすくなり、加工油としての寿命が縮むため、好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許5480079号
【特許文献2】特許6191188号
【特許文献3】特許5879263号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、低い動粘度(例えば、40℃で14mm/s未満)であり、かつ、引火点が高く(例えば、250℃以上)、かつ、流動点が低い(例えば、−10℃以下である)、性能バランスがよい潤滑油用エステル基油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の脂肪酸残基(後述の、式(1)中のR-CO-部)と、オキシアルキレン基を有し、かつ、炭素数が9〜12であるアルコール残基(後述の、式(1)中の-(OA)-OR基)を有するエステルを含むことによって、低い動粘度(例えば、40℃で14.0mm/s未満)であり、かつ、引火点が高く(例えば、250℃以上)、かつ、流動点が低い(例えば、−10℃以下である)、性能バランスがよい潤滑油用エステル基油を提供できることを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の発明に関する。
[1] 下記式(1)
【化1】
(式中、
は、炭素数15〜21の直鎖又は分鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、
は、炭素数9〜12の直鎖又は分鎖状のアルキル基であり、
Aは、炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基であり、
nは、アルキレンオキシドの平均付加モル数を示し、0.1〜3.0である。)
で表されるエステルを含むことを特徴とする、潤滑油用エステル基油。
[2] R-CO-残基がオレイン酸であることを特徴とする、前記[1]に記載のエステル基油。
[3] Rが分岐ノニル基又は分岐デシル基であることを特徴とする、前記[1]又は[2]に記載のエステル基油。
[4] 動粘度が14.0mm/s未満であり、かつ、引火点が250℃以上であり、かつ、流動点が−10℃以下であることを特徴とする、前記[1]〜[3]のいずれかに記載のエステル基油。
[5] 金属加工用であることを特徴とする、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のエステル基油。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低い動粘度(例えば、40℃で14mm/s未満)であり、かつ、引火点が高く(例えば、250℃以上)、かつ、流動点が低い(例えば、−10℃以下である)、性能バランスがよい潤滑油用エステル基油を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔潤滑油用エステル基油〕
本発明の潤滑油用エステル基油は、下記式(1)
【化2】
(式中、
は、炭素数15〜21の直鎖又は分鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、
は、炭素数9〜12の直鎖又は分鎖状のアルキル基であり、
Aは、炭素数2〜4の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基であり、
nは、アルキレンオキシドの平均付加モル数を示し、0.1〜3.0である。)
で表されるエステル(以下、「本発明のエステル」とも呼ぶ。)を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明のエステルにおいて、脂肪酸側の脂肪族炭化水素基、すなわち、式(1)中のRは直鎖でも分鎖状でもよく、また、飽和炭化水素基であってもよく、不飽和炭化水素基であってもよいが、Rの脂肪族炭化水素基は、原料の入手しやすさの観点から直鎖であることが好ましく、また、不飽和であることが、低動粘度、低流動点の基油が得られる観点からより好ましい。
【0010】
の炭素数は、15〜21であり、Rの炭素数が15以上であれば、高い引火点が得られ、Rの炭素数が21以下であれば、動粘度が大きくなりすぎることを防止できる。また、高い引火点が得られる観点からは、Rの炭素数が17〜21であることがより好ましく、低い動粘度が得られる観点からは、Rの炭素数が15〜17であることがより好ましい。高い引火点、低い動粘度がバランスよく得られ、原料の入手しやすさの観点からは、炭素数は17であることが特に好ましい。
【0011】
本発明のエステルにおける脂肪酸残基(すなわち、脂肪酸からOHを除いて形成される基、すなわち、式(1)中のR-CO-部)に対応する脂肪酸(R-CO-OH)の具体的な例としては、例えば、炭素数15〜21の飽和脂肪酸としては、ペンタデカン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、アラキジン酸等が挙げられるが、これらに限定されない。また、炭素数15〜21の1価の不飽和脂肪酸としては、ペンタデセン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、イソオレイン酸、シス−バクセン酸、エイコセン酸等が挙げられ、炭素数15〜21の多価の不飽和脂肪酸としては、ヘキサデカジエン酸、ヘキサデカジエン酸、ヘキサデカトリエン酸、ヘキサデカテトラエン酸、ヘプタデカジエン酸、リノール酸、イソリノール酸、オクタデカトリエン酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、オクタデカテトラエン酸、エイコサジエン酸、エイコサトリエン酸、エイコサテトラエン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ヘンイコサペンタエン酸等又はこれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、高い引火点が得られる観点及び低い動粘度が得られる観点から、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸や、あるいは、オレイン酸とステアリン酸、リノール酸などとの混合物等が好ましく、低い流動点が得られることや原料の入手しやすさに優れることから、オレイン酸又はオレイン酸を含む脂肪酸の混合物がより好ましい。
【0012】
上記脂肪酸の混合物として、オレイン酸を主成分とするものを好ましく使用することができるが、オレイン酸成分が約70質量%以上(約70〜100質量%程度)のものをより好ましく、オレイン酸成分が約80質量%以上(約80〜100質量%程度)のものを更に好ましく、使用することができる。オレイン酸としては、工業品グレードのものも便宜に使用できる。エステルを構成する脂肪酸として、オレイン酸が多いほど引火点が高くなり、流動点が低くなり得る。
エステルを構成する脂肪酸中のオレイン酸以外の他の成分として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等の炭素数が17以下である脂肪酸を用いてもよい。本発明のエステル基油においては、エステルを構成する脂肪酸の炭素数が17以下であるエステルの割合が、潤滑油全体に対して約0〜17.0(GC%)程度であり、約0〜16.0(GC%)程度であることがより好ましく、約0〜15.0(GC%)程度であることがより好ましい。本発明の潤滑油中のエステルを構成する脂肪酸の炭素数が17以下であるエステルの割合が、上記範囲内であることにより、本発明の所望の効果を得ることができる。
なお、潤滑油におけるエステルを構成する脂肪酸の炭素数が17以下であるエステルの含有割合を測定する方法は、例えば、ガスクロマトグラフ(GC)又はガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)等が挙げられる。
また、このような脂肪酸の混合物としては、好ましくは、市販品を用いることが出来る。
【0013】
本発明のエステルにおける、アルコール残基側のアルキル基(すなわち、式(1)中の-(OA)-OR基におけるR)は、飽和であってもよく、不飽和であってもよいが、酸化安定性に優れることから、飽和のアルキル基であることが好ましい。また、Rは直鎖でも分枝状であってもよいが、低い流動点が得られる観点から分岐が好ましい。Rの炭素数は9〜12であるが、好ましくは、9〜11であり、より好ましくは9又は10である。これは、分岐アルコールの入手が、炭素数9又は10であれば容易なことによる。このようなRの具体例としては、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基等が挙げられるが、これらに限定されない。これらは、1種又は2種以上を好ましく用いることが出来るが、好ましくは1種が用いられる。
【0014】
〔水酸基価:遊離アルコール〕
本発明のエステル基油において、水酸基価が、約0〜2.0mgKOH/g程度であり、約0〜1.0mgKOH/g程度であることがより好ましい。本発明の潤滑油中の水酸基価の割合が、上記範囲内であることにより、本発明のエステル基油における遊離アルコールの含有割合がより小さく、より本発明の課題を解決することができ、又はより本発明の効果を奏することができる。
エステル基油における遊離アルコールの含有割合を測定する方法として、例えば、当該技術分野で常用されるJIS K 0070等に記載された水酸基価測定等が挙げられるが、その他にガスクロマトグラフ(GC)又はガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)等も挙げられる。これらのGC又はGC-MSの方法により遊離アルコールの含有割合を測定した場合、エステル基油における遊離アルコールの含有割合は可及的に検出されないことが好ましい。
【0015】
本発明のエステルにおけるAO基は、直鎖又は分岐鎖状の炭素数2〜4のアルキレンオキシドが付加されることで形成されるオキシアルキレン基であり、例えば、オキシエチレン基(EO基)、オキシプロピレン基(PO基)、オキシブチレン基(BO基)が挙げられるが、これらに限定されない。
なかでも、低い動粘度と高い引火点を実現させやすい点から、オキシエチレン基(EO基)又はオキシプロピレン基(PO基)がより好ましく、オキシエチレン基(EO基)がさらに好ましい。AOは、オキシアルキレン基が1種のみであってもよく、オキシアルキレン基が2種以上含まれていてもよい。また、2種以上のオキシアルキレン基が含まれる場合、各オキシアルキレン基は、ブロック状に付加されていてもよく、ランダムに付加されていてもよい。
【0016】
なお、AO基の平均付加モル数nは0.1〜3.0である。低い動粘度と高い引火点を実現させやすい点から、nは0.1以上であることが好ましく、低い動粘度と経時での水分量の観点から、nは3.0以下であることが好ましく、nが1.0〜2.0であることがより好ましいが、これらに限定されない。なお、上記した経時での水分量は、少ないほうが好ましい。一般的にエステル結合が、水によって酸とアルコールに分解されることは知られているが、系中の水分量が少ないほうが、加水分解などの劣化現象が起こりにくくなり、エステル基油としての寿命が長くなるためと考えられる。
【0017】
本発明の潤滑油用エステル基油は、常法に従って、上記したエステル構成成分の他に、さらに所望により適宜、公知の添加剤、例えば、フェノール系の酸化防止剤、ベンゾトリアゾ−ル、チアジアゾール又はジチオカーバメート等の金属不活性化剤;エポキシ化合物又はカルボジイミド等の酸補足剤;リン系の極圧剤;ポリアルキルメタクリレート(例えば、アクルーブ132又はアクルーブ146)の流動点降下剤等の添加剤を配合することができる。
【0018】
また、本発明の潤滑油用エステル基油は、例えば、金属加工油として有用である。例えば、本発明の潤滑油用エステル基油が、添加剤を実質的に含まず、実質的にエステルからなる場合、潤滑油基油又は金属加工油基油等として有用である。添加剤を実質的に含まない潤滑油とは、例えば、添加剤の含有量が約0〜5質量%程度である潤滑油のことをいう。
なお、実質的にエステルからなるエステル基油とは、例えば、エステルを約95〜100質量%程度含むエステル基油のことをいう。
【0019】
本開示において、「約」及び「程度」とは、例えば少々範囲を逸脱した場合も含ませる意図で使用する用語である。これらの用語は、例えば、±5%以内、±2%以内、±1%以内、±0.5%以内、±0.2%以内、±0.1%以内又は±0.05%以内を指すことがある。このような範囲は、所与の値又は範囲の測定及び/又は定量に使用される標準の方法に特有である実験誤差内の場合も含まれる。
【0020】
〔潤滑油用エステル基油の製造方法〕
本発明の潤滑油用エステル基油の製造方法は、式 H-(OA)-OR で表されるオキシアルキレン基(AO)を有する炭素数9〜12のアルコールと、式 R-COOHで表される炭素数15〜21の脂肪酸とを反応させて、上記した式(1)で表されるエステルを得る工程を含む。当該エステル基油は、通常のエステル化反応又はエステル交換反応によって製造することができる。
【0021】
オキシアルキレン基(AO)を有する炭素数9〜12のアルコールと、炭素数15〜21の脂肪酸とを反応させてエステルを得る工程は、より具体的には、(1)混合工程、(2)加熱工程、(3)常圧反応工程、(4)減圧反応工程、及び(5)水酸基価の確認工程から選択される1又は2以上の工程を含むことが好ましい。工程の順序に関して、本発明の効果を失しない限り、上記順序を入れ替えたり、一部同時に行ったりすることも可能であるが、上記順序に従うことがより好ましい。
【0022】
(1)混合工程
混合工程において、オキシアルキレン基(AO)を有するアルコールと脂肪酸とを混合する。オキシアルキレン基(AO)を有するアルコールと脂肪酸との当量比は、ポリオキシアルキレンエーテルに対し、脂肪酸が好ましくは0.8〜1.5当量であり、生産効率と経済性の点からさらに好ましくは0.9〜1.2当量であり、このような当量比に調整し、必要に応じて触媒を加えて反応を行なう。触媒としては、例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、スズ、亜鉛等のルイス酸触媒や硫酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などのブレンステッド酸を使用できるが、これらに限定されない。
【0023】
(2)加熱工程
窒素気流下、オキシアルキレン基(AO)を有するアルコールと脂肪酸との混合物を約160℃以上(好ましくは約210〜230℃程度、より好ましくは約220℃程度)に加熱し、エステル化反応を進める。加熱時間は約1〜3時間程度が好ましく、約2時間程度がより好ましい。加熱工程は常圧下で行うことが好ましい。
【0024】
(3)常圧反応工程
加熱工程中、又は加熱工程後、油水分離器に溜まる反応水を、適宜除去することが好ましい。
【0025】
(4)減圧反応工程
エステル化反応を進めるために、例えば、約100〜150Torrに減圧する。当該減圧工程1は、好ましくは約210〜230℃程度、より好ましくは約220℃程度下で行う。時間は約3〜8時間程度が好ましく、約5〜6時間程度がより好ましい。
【0026】
(5)水酸基価の確認工程
反応液の水酸基価が約5以下、例えば約3〜4程度になっていることを確認する。
【0027】
〔その他の任意の工程〕
エステル粗生成物中の余剰の脂肪酸を除去するために、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウム等のアルカリによる脂肪酸の中和精製を行ってもよいが、行わなくてもよい。このようなアルカリとの中和による脂肪酸除去工程を行わなくても低い動粘度かつ高引火点の潤滑油を製造できる点で、本発明の潤滑油の製造方法は優れている。
【0028】
〔潤滑油用エステル基油の特徴〕
本発明の潤滑油用エステル基油の引火点は高い。本発明の潤滑油の引火点は、より具体的には例えば250℃以上であることが好ましく、約256℃〜265℃程度であることがより好ましく、約260〜265℃程度であることがさらに好ましい。本発明のエステル基油の引火点の範囲が上記範囲であることにより、使用時において揮発する油による汚れや臭気などの作業環境の悪化を改善でき、保管時において消防法では指定可燃物に分類され、さらには作業の安全性が確保される。
引火点は、例えば、JIS K−2265に従い、クリーブランド式オープンカップ法にて測定することができる。
【0029】
本発明の潤滑油用エステル基油は、低い動粘度である。より具体的には、例えば40℃で約14mm/s未満であることが好ましく、約12〜13mm/s程度であることがより好ましい。本発明のエステル基油の動粘度の範囲が上記範囲であることにより、金属加工における作業性及び冷却性を改善できる。
動粘度は、例えば、JIS K−2283に従って測定することができる。
【0030】
本発明のエステル基油は、好ましくは、流動点が約5℃〜−30℃程度であり、より好ましくは、流動点が−10℃以下である。本発明のエステル基油の範囲が当該範囲であることにより、低温環境下においても固化し難く、加熱用の設備を設置しなくても使用することができる。
流動点は、例えば、JIS K−2269に従って測定することができる。
【0031】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例】
【0032】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0033】
実施例及び比較例で得られたエステル基油の各種分析は、以下の方法に従って実施した。
水酸基価:JIS K 0070に従って測定した。
動粘度:JIS K−2283に従って測定した。
引火点:JIS K−2265に従い、クリーブランド式オープンカップ法にて測定した。
流動点:JIS K−2269に従って測定した。
経時での水分量:エステル基油20gをφ34mmの試験管にいれ、常温で72時間攪拌した後の水分量をカールフィッシャーで測定した。
【0034】
[実施例1]
攪拌器、温度計、冷却管付きディーンスターク管を備えた1Lの4つ口フラスコに、オレイン酸(炭素数:18)397g(1.42モル)、イソノナノールであって、オキシエチレン基(EO基)が平均付加モル数で2.0モル付加したものを300g(1.29モル)、及び触媒として、酸化スズを総量に対し0.1重量%仕込み、窒素雰囲気下で220℃まで昇温した。220℃到達後、減圧し、留出してくる生成水をディーンスターク管で除去しながら、エステル化反応を行った。水酸基価が5.0mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。反応終了後、過剰の酸と低沸点成分を蒸留により除去してエステル化粗物を得た。次いで、得られたエステル化粗物を酸価(すなわち、エステル化粗物中の残オレイン酸量)に対して過剰の苛性ソーダ水溶液で中和後、中性になるまで水洗した。更に、得られたエステル化粗物に対してそれぞれ0.5重量%の活性炭と活性白土を投入し、80℃で30分攪拌した後、1時間減圧下で攪拌した。その後、常圧に戻し、濾過してそれらを除去し、本発明のエステル基油(エステルA)を得た。エステルAの物性値は下記の表1に示す通りである。なお、以下の表1及び表2において、「判定」の基準は、動粘度が14.0mm/s未満であり、かつ、引火点が250℃以上であり、かつ、流動点が−10℃以下である場合のみを「○」とし、動粘度、引火点及び流動点のうち、1つでも基準を下回るものがあれば、「×」とすることとした。
【0035】
[実施例2]
実施例1のイソノナノールの代わりに、炭素数10であるイソデカノールであって、オキシエチレン基(EO基)が平均付加モル数で1.5モル付加したものを289g(1.29モル)使用した以外は、実施例1と同様の方法により、本発明のエステル基油(エステルB)を得た。エステルBの物性値は下記の表1〜3に示す通りである。
【0036】
[実施例3]
実施例1のイソノナノールの代わりに、炭素数12である1−ドデカノールであって、オキシエチレン基(EO基)が平均付加モル数で0.5モル付加したものを269g(1.29モル)使用し、得られたエステルに、流動点降下剤であるアクルーブ132をエステルの総量に対して1.0重量%加えた以外は、実施例1と同様の方法により、本発明のエステル基油(エステルC)を得た。エステルCの物性値は下記の表1に示す通りである。
【0037】
[比較例1]
実施例2のイソデカノールの代わりに、イソデカノールであって、オキシエチレン基(EO基)が付加していないもの、すなわち、平均付加モル数が0であるものを289g(1.29モル)使用した以外は、実施例2と同様の方法により、エステル基油(エステルD)を得た。エステルDの物性値は下記の表2〜3に示す通りである。
【0038】
[比較例2]
実施例2のイソデカノールの代わりに、イソデカノールであって、オキシエチレン基(EO基)が平均付加モル数で平均3.5モル付加したものを374.5g(1.29モル)使用した以外は、実施例2と同様の方法により、エステル基油(エステルE)を得た。エステルEの物性値は下記の表2〜3に示す通りである。
【0039】
[比較例3]
実施例2のイソデカノールの代わりに、イソデカノールであって、オキシエチレン基(EO基)が平均付加モル数で平均6.0モル付加したものを544.8g(1.29モル)使用した以外は、実施例2と同様の方法により、エステル基油(エステルF)を得た。エステルFの物性値は下記の表2〜3に示す通りである。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
表1より明らかなように、本発明のエステル基油(実施例1〜3)は、いずれも動粘度が低く、40℃で14mm/s未満であるため、潤滑油として有用である。
さらに、本発明のエステル基油(実施例1〜3)は、いずれも250℃以上の引火点を有するため、潤滑油として有用である。さらに、実施例3(エステルC)は、265℃という高い引火点であったので、特に好ましいものであった。詳細は不明であるが、Rを含めたエステル全体の分子量が高いことによるものと考えられる。
また、本発明のエステル基油(実施例1〜3)は、いずれも流動点が低く、−10℃以下であるため、寒冷地でも固化せずに使用可能な潤滑油として有用である。
そして、本発明のエステル基油(実施例1〜3)が、特に優れている点は、いずれも、動粘度が14.0mm/s未満であり、かつ、引火点が250℃以上であり、かつ、流動点が−10℃以下であることから、動粘度、引火点及び流動点の性能バランスがよいことである。
【0044】
上記本発明のエステル基油と比較すると、表2より明らかなように、比較例1のエステル基油は、動粘度は14mm/s未満であるが、引火点が250℃以下であり、比較例2〜3のエステル基油は、引火点は250℃以上であるが、動粘度は非常に高かった。そのため、いずれも潤滑油としては有用でないか、少なくとも性能バランスが良くないものと考えられる。
【0045】
また、表3に示した比較例において、経時水分量を比較すると、アルキレンオキシドの平均付加モル数が大きくなるにつれて増加している傾向が見られる。
これらの結果から、本発明のエステル基油は高い引火点を維持したまま、低い動粘度と低い流動点を満足し、経時での水分量の増加も可能な限り抑えられたものであることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、低い動粘度(例えば、40℃で14mm/s未満)であり、かつ、引火点が高く(例えば250℃以上)、かつ、流動点が低い(例えば、−10℃以下である)、性能バランスがよい潤滑油の製造に有用である。