【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年3月3日 公益社団法人 応用物理学会発行 「2014年 第61回応用物理学会春季学術講演会「講演予稿集」 ,03−148(17p−E6−14)」にて公開 平成26年3月17日 公益社団法人 応用物理学会主催 「2014年 第61回応用物理学会春季学術講演会」にて公開
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基板と前記発光薄膜との間に、前記貫通孔を覆って形成されるとともに、前記第2の主面側から前記貫通孔を通って照射される電子ビームを透過するウィンドウ薄膜をさらに有する
請求項1または請求項2に記載の光源生成薄膜。
【背景技術】
【0002】
光学顕微鏡は、生きた生物試料をそのまま観察できるため、生命現象の解明において、非常に有効なツールとして用いられている。様々な機能を有する蛍光プローブが開発されており、位相差光学系、共焦点光学系、全反射蛍光観察法など様々な光学系を利用することによって、細胞機能の解明、単一分子の観察などが実現されてきた。光を用いた生体試料の観察については、これまでの長い歴史によって、多くの実績と技術の蓄積がある。
【0003】
生命現象の解明におけるターゲットの一つとして、細胞やたんぱく質など最小構成要素一つの機能解明ではなく、複数の構成要素における相互作用、情報伝達のメカニズム、エネルギー伝達のメカニズム、細胞内の情報分子のダイナミクスなどを明らかにすることが期待されている。生体の器官、臓器などの働きは、生体の最小構成要素である細胞間の相互作用によって決定されるものである。従って、器官・臓器の詳細なメカニズムの解明には、細胞間の相互作用を明らかにすることが必要である。また、実時間観察を行うことによって、複数の生体分子のダイナミクスを理解することが必要である。
【0004】
一方、光学顕微鏡の空間分解能は、光の波としての性質により制限され、たかだかサブミクロン程度の分解能しか実現できない。したがって、複数の分子間または微小器官の間における相互作用、情報の伝達機構を解明するには、より高い空間分解能を有する光学顕微鏡を開発することが必要である。
【0005】
光の回折限界を超えた微小領域を光学的に観察する顕微鏡として、近接場(ニアフィールド)顕微鏡が知られている。
図15に近接場顕微鏡の光学的観察の原理を示す。
図15に示すように、金属(
図15では「Metal coating」と表記)で遮蔽されたプローブの先端部にレーザ光(
図15では「Laser Light」と表記)が導入される。プローブの先端部には数nm〜数10nm(
図15では「a」と表記)の開口部が形成されている。前記開口部は光の波長(
図15では「λ」と表記)に比べて非常に小さいので、プローブ先端部に導入されたレーザ光は前記開口部を通過できない。しかしながら、いわゆる近接場(ニアフィールド)効果によりレーザ光の一部が開口部から外部にしみ出す(エバネッセント波)。近接場顕微鏡では、このプローブ先端からしみ出した近接場光と測定対象物との相互作用が観察される。
【0006】
この近接場顕微鏡を用いれば、光の波長未満の微小領域を観察することができる。しかしながら、近接場顕微鏡では、プローブの先端を測定対象物に近接させて観察する必要があり、プローブを走査して測定対象物を観察するので、2次元の像を観察するのに非常に時間がかかる。また、生体のダイナミクスを観察するためには、実時間観察が必要であるが、従来型の近接場顕微鏡では、上記の理由により実時間観察は困難である。
【0007】
本発明に関連する先行技術としては、以下の特許文献1および特許文献2が挙げられる。特許文献1には、近接場光を用いた近接場顕微鏡において、複数のナノスケールの孔から光を照射して、近接場を生成する技術が開示されている。また、光を電子ビームにより励起することが示唆されている。この近接場顕微鏡では、微小光源はナノスケールの孔により生成されている。
【0008】
特許文献2には、光の回折限界を越えた分解能の近接場情報を高速で取得することにより、実時間観察を可能とした光学顕微鏡が開示されている。
図16に、特許文献2に開示された真空容器の隔壁114aと蛍光薄膜113との配置関係を表した図を示す。
図16で「真空」と表記された側に真空容器が配置されており、当該真空容器内で電子ビームを発生させる。また、
図16で「大気圧」と表記された側には光学顕微鏡部が配置されており、当該光学顕微鏡部により試料130からの光を観察するように構成されている。そして、真空容器の隔壁114aには貫通孔114bが設けられており、該貫通孔114bを覆って形成された蛍光薄膜113が真空側と大気圧側を隔離している。
【0009】
図16に示すように、特許文献2に開示された光学顕微鏡では、数10nmに集束された電子ビームを蛍光薄膜113に照射し数10nm以下の微小光源を生成する。そして、当該微小光源と試料との相互作用により生成した光を対物レンズを通して集光し、光検出部で検出することにより試料130の画像情報を取得する。特許文献2に開示された光学顕微鏡によれば、電子ビームの照射方向を制御することにより微小光源の位置を変えることができるので、2次元走査などが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の一例について詳細に説明する。
【0022】
図1を参照して、本実施の形態に係る光学顕微鏡について説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る光学顕微鏡1は、電子顕微鏡結像系10と光学顕微鏡部20とを備えている。
【0023】
電子顕微鏡結像系10は、電子ビーム(
図1では「EB」と表記)を射出する電子源11と、電子源11から射出された電子ビームEBを所定位置に集束させる電子レンズ12と、電子ビームEBが照射される光源生成薄膜50と、内部が真空状態になっている真空容器14と、を備えている。電子源11および電子レンズ12は、真空容器14内に設けられている。光源生成薄膜50は、真空容器14の隔壁14aに設けられた貫通孔14bを塞ぐように隔壁14a上に載置され、隔壁の一部を構成している。そして、試料30は、貫通孔14bの上で且つ光源生成薄膜50の上に配置されている。なお、光源生成薄膜50は、隔壁14aに貼り付けて固定してもよい。
【0024】
また、
図1に示すように、光学顕微鏡部20は、試料30からの光を集光する対物レンズ21と、対物レンズ21からの光を検出する光検出器22と、光検出器22で検出された信号を記録する信号記録部23と、を備えている。なお、
図1では、光源生成薄膜50の大きさを誇張して大きく描いているが、実際には大気圧に耐えられるように、真空容器14の上面の隔壁14aに形成された直径100μm程度の微小の貫通孔14bを塞ぐのに十分な程度の大きさ(具体的には、5mm×5mm程度)で構成されている。
【0025】
つぎに、
図2を参照して、本実施の形態に係る光源生成薄膜50についてより詳細に説明する。
図2(a)は光源生成薄膜50の斜視図を、
図2(b)は光源生成薄膜50の
図2(a)におけるA−A’断面図を、
図2(c)は光源生成薄膜50を真空容器14の隔壁14a上に載置した状態を示している。
【0026】
図2(a)および
図2(b)に示すように、本実施の形態に係る光源生成薄膜50は、基板52、基板52の主面上に形成されたウィンドウ薄膜54、ウィンドウ薄膜54上に形成された蛍光体薄膜56、および蛍光体薄膜56上に形成された金属薄膜58を含んで構成されている。基板52の、ウィンドウ薄膜54、蛍光体薄膜56、および金属薄膜58が形成された主面とは反対側の主面には、ウィンドウ部60が設けられている。該ウィンドウ部60は、後述するように、基板52に設けられた貫通孔である。
【0027】
本実施の形態に係る光源生成薄膜50においては、基板52の形状は平面視略正方形とされ、その一辺の長さLsubは、一例としてLsub=5mmである。また、ウィンドウ部60も平面視略正方形に形成されており、その一辺の長さLwinは、一例としてLwin=100μmである。なお、本実施の形態では、基板52およびウィンドウ部60の形状を略正方形とした形態を例示して説明するが、これに限られず、たとえば円形状としてもよい。さらに、基板52の形状とウィンドウ部60の形状とが同じ形状である必要もない。
【0028】
本実施の形態に係る光源生成薄膜50の基板52は、蛍光体薄膜56および金属薄膜58を支持する支持体であり、基板52の材料としては、たとえばシリコン(Si)、酸化シリコン(SiO
2)等を用いることができる。
【0029】
ウィンドウ薄膜54は、電子顕微鏡結像系10の真空側と光学顕微鏡部20の大気側とを直接的に隔離するための部材であり、ウィンドウ薄膜54の材料としては、たとえば、SiN
x膜(シリコン窒化膜)、SiO
2(シリコン酸化膜)等を用いることができる。
図2(c)に示すように、電子ビームEBはウィンドウ薄膜54を通して蛍光体薄膜56に照射されるため、ウィンドウ薄膜54が厚いと電子ビームEBが蛍光体薄膜56に到達できず、また、到達できても散乱して収束スポットが大きくなってしまう。したがって、ウィンドウ薄膜54の膜厚は、大気圧以上の圧力に耐え得る膜厚とすることが必要である一方、極力薄く(本実施の形態では、50nm程度)する必要がある。
【0030】
蛍光体薄膜56は、後述するように、電子ビームEBの照射を受けて微小光源LSを生成する部材であり、蛍光体薄膜56の材料としては、たとえば、Y
2O
3:Eu
3+(ユーロピウム賦活酸化イットリウム)、ZnO(酸化亜鉛)等を用いることができる。
【0031】
金属薄膜58は、後述するように、電子ビームEBを遮蔽するための部材である。また、本実施の形態に係る金属薄膜58では、金属薄膜58の表面に表面プラズモンを発生させ、微小光源LSの光強度を増強させる場合もある。金属薄膜58の材料としては、たとえば、Au(金)、Ag(銀)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)等を用いることができる。
【0032】
図2(c)に示すように、光源生成薄膜50は、光源生成薄膜50のウィンドウ部60の位置と隔壁14aの貫通孔14bの位置とを位置合わせして、隔壁14a上に載置される。上述したように、その際接着剤等を用いて光源生成薄膜50を隔壁14aに貼り付けてもよい。
【0033】
また、
図2(c)に示すように、電子源11で発生された電子ビームEBは、電子レンズ12により光源生成薄膜50の蛍光体薄膜56内に、たとえば、数nm〜数10nmの大きさで集束される。このため、集束された電子ビームEBにより蛍光体薄膜56内で光が励起され、数10nm程度の大きさの微小光源LSが生成される。
【0034】
電子ビームは、電場や磁場などにより制御可能であるので、電場や磁場などにより電子ビームの照射方向を制御することにより蛍光体薄膜56内の任意の場所に微小光源LSを励起させることができ、その結果2次元走査などが可能になる。本実施の形態に係る光学顕微鏡1も図示しない電子ビーム制御部を備えており、電子源11および電子レンズ12は該電子ビーム制御部によって制御される。そして、電子源11、電子レンズ12、光源生成薄膜50および該電子ビーム制御部を含んで、本実施の形態に係る微小光源励起装置が構成されている。
【0035】
微小光源の大きさは、微小光源LSの形状が球状(略球状を含む)であれば、直径が可視光波長未満であり、微小光源LSの形状が球形以外であれば、最短軸の長さが可視光波長未満である。
【0036】
微小光源LSと試料30との相互作用により生成された光は、対物レンズ21を通して光検出器22で検出される。すなわち、可視光波長未満の大きさの微小光源LSにより、微小光源LS周辺の試料30(測定対象物)の近接場効果が測定され、測定対象物により近接場効果の影響を受けた光は光検出器22により検出される。
【0037】
蛍光体薄膜56内に生じた微小光源は、近接場光学顕微鏡において、微小開口によって生じたエバネッセント波を利用して試料を照明することと原理的に等価である。試料30と蛍光体薄膜56との距離が十分小さい場合、電子ビームEBによる励起によって生じた微小蛍光光源のエバネッセント波で試料を観察することができ、回折限界を超えた分解能を実現することが可能となる。以上により測定対象物の可視光波長未満の近接場効果が観察される。
【0038】
対物レンズ21からの光により光検出器22で生成された信号は、信号記録部23で記録される。
【0039】
本実施の形態に係る光源生成薄膜50の金属薄膜58は、先述したように、基板52のウィンドウ部60を通して蛍光体薄膜56に入射した電子ビームEBが、蛍光体薄膜56を透過して試料30に照射されないように遮蔽する機能を有している。なお、本実施の形態において「遮蔽する」とは、電子ビームEBの全部を遮蔽する場合のみならず、試料に対して許容される損傷の程度等に応じて、電子ビームEBの一部を遮蔽し、一部を透過する場合も含む。
【0040】
つぎに、
図3ないし
図14を参照して、本実施の形態に係る光源生成薄膜の金属薄膜の構成および効果についてより詳細に説明する。
図4ないし
図8、
図11ないし
図14は、
図3に示す光源生成薄膜50のシミュレーションモデルを用い、FDTD(Finite Difference Time Domain)法を用いてシミュレーションした結果を示している。FDTD法とは、解析する空間を細かいメッシュで切り、各メッシュポイントの電磁界の各成分を、マクセル方程式に基づいて時間的に解いていく手法である。
また、
図9は、本実施の形態に係る光源生成薄膜の製造方法を、
図10は、本実施の形態に係る光源生成薄膜を用いて実際に細胞を観察した実施例をそれぞれ示している。
【0041】
[解析モデル]
図3(a)に示すように、本実施の形態に係る光源生成薄膜50のシミュレーション用のモデルは、膜厚dSのウィンドウ薄膜54、膜厚dFの蛍光体薄膜56、および膜厚dMの金属薄膜58の積層体とされている。ウィンドウ薄膜54の、蛍光体薄膜56および金属薄膜58が積層された面とは反対側の面から、電子ビームEBが蛍光体薄膜56内で集束されるように入射される。蛍光体薄膜56内に集束された電子ビームEBによって蛍光体薄膜56内にカソードルミネセンスが発生し、微小光源LSが形成される。
【0042】
図3(b)は、光源生成薄膜50を構成する各薄膜の材料、膜厚等の条件を示している。
図3(b)に示すように、本実施の形態に係る光源生成薄膜50の、ウィンドウ薄膜54の材料はSi
3N
4(シリコン窒化膜)、膜厚はdS=50nmとしている。蛍光体薄膜56の材料はY
2O
3:Eu
3+、膜厚はdF=50nmとしている。金属薄膜58の材料はAu(一部、Ag、Cu、Alを含む)とし、膜厚dMは、0nm〜25nmの範囲で変化させている。また、電子ビームEBの加速電圧Vaは5kVとしている。
【0043】
[金属薄膜の電子ビーム透過抑制効果]
光源生成薄膜50に向けて照射された電子ビームEBの散乱過程をモンテカルロ法を用いて解析することにより求めた、電子ビームEBの透過率の、金属薄膜58の膜厚に対する依存性を
図4に示す。
図4は、金属薄膜58の材料を、Au、Ag、Cu、およびAlとし、各々の薄膜の膜厚dMを変化させて電子ビームEBの透過率をシミュレーションした結果である。
【0044】
図4において、膜厚0nmにおける電子ビームEBの透過率は、金属薄膜58がない場合の透過率(すなわち、ウィンドウ薄膜54および蛍光体薄膜56を透過した透過率)であり、本実施の形態では70%となっている。
図4に示すように、Au、Ag、Cu、Alのいずれについても、膜厚dMが増加するにしたがい電子ビームEBの透過率が減少し、電子ビームEBの遮蔽効果が確認された。
【0045】
また、遮蔽効果の大きさはAu、Ag、Cu、Alの順に大きくなっており、Auの遮蔽効果が最も大きい。Au薄膜についての数値をみると、膜厚dM=10nmで電子ビームEBの透過率が20%となっており、膜厚dM=10nmのAu薄膜により電子ビームEBを約70%((70%−20%)/70%)遮蔽していることがわかる。さらに、Au薄膜の膜厚dMを25nm以上とした場合には、電子ビームEBの透過率はほぼ0%となっている。
【0046】
[光源生成薄膜における微小光源の生成]
図5を参照して、光源生成薄膜50における微小光源LSの生成について説明する。
図5は、光源生成薄膜50に向けて照射された電子ビームEBにより蛍光体薄膜56内で励起される光の分布を解析して求めた、カソードルミネセンスの状態を示すシミュレーション結果である。
【0047】
図5においては、金属薄膜58としてAu薄膜を用い、該Au薄膜の膜厚をdM=10nmとしている。また、蛍光体薄膜56としては、Y
2O
3:Eu
3+を用い、当該Y
2O
3:Eu
3+の発光波長λ
0を350nm、500nm、610nmと変えている。
図5(a)はAu薄膜がない場合(
図5(a)では、「Reference」と表記。λ
0=610nm。以下、金属薄膜がない場合の光源生成薄膜50を「基準薄膜」という場合がある)の、
図5(b)はλ
0=350nmの場合の、
図5(c)はλ
0=500nmの場合の、
図5(d)はλ
0=610nmの場合のカソードルミネセンスのシミュレーション結果を示している。なお、電子ビームEBの加速電圧Vaは5kVである。また、Y
2O
3:Eu
3+固有の発光波長は610nmに近い値であるが、本実施の形態では該固有の発光波長が他の値(350nm、500nm)であると仮定してシミュレーションしている。
【0048】
図5(a)に示すように、基準薄膜では電子ビームEBによって蛍光体薄膜56内に光が励起されており、これが本実施の形態における微小光源LSを形成する。また、
図5(b)、(c)に示すように、発光波長λ
0が350nm、500nmの場合にも蛍光体薄膜56内で光が励起されている。しかしながら、λ
0が350nm、500nmの場合には、Au薄膜の表面に特段の変化はない。
【0049】
それに対し、
図5(d)に示すように、λ
0が610nmの場合にはAu薄膜の表面に光が誘起され、微小光源LSの発光強度が増強されることがわかった。以下に述べるように、このAu薄膜の表面に誘起された光は表面プラズモン共鳴によって誘起された光(
図5(d)で「SP」と表記された部分)と考えられる。610nmの発光波長λ
0で発光強度が増強されるのは、610nmという波長が、金の表面において表面プラズモンが励起される波長に近い波長であるからと考えられる。
【0050】
[金属薄膜表面における電場強度分布]
図6を参照して、電場強度のラインプロファイルにより金属薄膜表面における電場強度分布について説明する。
【0051】
図6に「Refeence」、「350nm」、「500nm」、および「610nm」と表記されたグラフは、各々
図5(a)、(b)、(c)、および(d)のシミュレーションにおけるy方向の電場強度のラインプロファイルである。すなわち、Au薄膜(またはY
2O
3:Eu
3+薄膜)の表面のy方向に200nmの長さの直線上での電場強度を算出した結果を示している。本実施の形態では、Au薄膜(またはY
2O
3:Eu
3+薄膜)の表面からZ方向に10nmの位置での電場強度を算出している。
【0052】
図6から、発光波長λ
0が350nmの場合の電場強度は、基準薄膜の電場強度、すなわちAu薄膜がない場合の電場強度よりも小さい。λ
0が500nmの場合の電場強度は、基準薄膜の電場強度と同程度の電場強度となっている。λ
0が500nmの場合、Au薄膜を設けても基準薄膜の電場強度と同程度の電場強度となっているので、Au薄膜により電場強度の増強が発生していると考えられる。そして、λ
0が610nmの場合の電場強度は、基準薄膜の電場強度に対して約3倍の電場強度となっている。λ
0が610nmの場合の電場強度と基準薄膜の電場強度との差分が表面プラズモンの励起に起因する発光強度、すなわち微小光源LSの強度の増加分と考えられる。
【0053】
したがって、本実施の形態では、蛍光体薄膜56の発光波長λ
0をたとえば610nmに設定し、表面プラズモンによって強度が増強された微小光源LSを用いることにより、よりS/N比が向上した光学顕微鏡1を実現することが可能である。
【0054】
しかしながら、表面プラズモンの励起がほとんど認められないλ
0が500nmの場合でも、基準薄膜と同程度の強度の光が生成される、すなわち従来技術に係る蛍光薄膜と同程度の強度の微小光源LSが生成されるので、光学顕微鏡1の光源として使用することが可能である。さらに、必要とされる電子ビームEBの遮蔽効果と微小光源の強度によっては、λ
0が350nmの場合であっても光学顕微鏡1の光源として使用することができる。したがって、本実施の形態における微小光源LSの生成においては、表面プラズモンの励起は必須ではない。
【0055】
一方、光が金属に侵入する場合の深さには限界があるので、金属薄膜の膜厚が一定以上となった場合には、光が金属薄膜を透過できず原理的に微小光源LSは得られない。したがって、金属薄膜の膜厚は、少なくとも、当該波長における表皮深さ(電界強度が1/eとなる深さ)未満であることが必要である。
【0056】
[金属薄膜表面における電場強度の金属薄膜の膜厚に対する依存性]
図7を参照して、金属薄膜表面における電場強度の金属薄膜の膜厚に対する依存性について説明する。
図7は、Au薄膜の膜厚に対する電場強度のシミュレーション結果を示している。なお、
図7のシミュレーション条件は、λ
0=610nm、Va=5kVである。
【0057】
図7、および
図7に基づく外挿から、Au薄膜の膜厚が無い(dM=0)ときの電場強度の1倍以上の電場強度が得られるAu薄膜の膜厚は、およそ30nm以下であり、Au薄膜の膜厚が無い(dM=0)ときの電場強度の2倍以上の電場強度が得られるAu薄膜の膜厚は、およそ2nm〜21nmである。また、Au薄膜の膜厚が6nm〜8nmでの範囲に電場強度のピークが存在することがわかる。つまり、本実施の形態では、Au薄膜が存在しても、Au薄膜が無いときの電場強度と同程度、またはそれ以上の電場強度が得られるという優位な効果を有し、Au薄膜が無いときの電場強度と同程度のAu薄膜の膜厚は、およそ30nm以下である。また、Au薄膜の膜厚が6nm〜8nmの範囲で表面プラズモンの励起効率が最大となることがわかる。これは、Au薄膜の膜厚dMが薄いと表面プラズモンが発生しにくく、Au薄膜の膜厚dMが厚くなると光が透過しにくくなるためと考えられる。
【0058】
[金属薄膜の表面における微小光源のスポットサイズの、金属薄膜の膜厚に対する依存性]
図8を参照して、金属薄膜の表面における微小光源LSのスポットサイズの、金属薄膜の膜厚に対する依存性について説明する。
図8は、蛍光体薄膜56内で生成された微小光源LSに起因してAu薄膜の表面に現出する発光スポットのスポットサイズと、Au薄膜の膜厚dMとの関係をシミュレーションした結果を示している。スポットサイズは、電場強度の半値全幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)で算出している。金属薄膜の表面における発光スポットからの光が試料30に照射されるので、金属薄膜の表面におけるスポットサイズにより光学顕微鏡1の分解能が定まる。なお、
図8のシミュレーションにおけるシミュレーション条件は、λ
0=610nm、Va=5kVである。
【0059】
図8に示すように、Au薄膜を追加した場合でも、微小光源LSのAu薄膜の表面におけるスポットサイズは100nm以下となっており、可視域における回折限界(200nm程度)以下を達成していることがわかる。また、
図8に示すように、Au薄膜の膜厚が20nm程度以上となると、スポットサイズは100nm未満の値(
図8では、約92nm)でほぼ一定値となることがわかる。
【0060】
また、
図8から、上述した表面プラズモンの励起効率が最大となるAu薄膜の膜厚である6nm〜8nmの範囲における、Au薄膜の表面に現出するスポット光のスポットサイズは70nm〜80nmである。つまり、Au薄膜を形成した本実施の形態に係る光源生成薄膜50によっても、Au薄膜の表面におけるスポット光のスポットサイズを、可視域における回折限界に比べて十分に小さな値とすることが可能であることがわかる。
【0061】
[まとめ]
以上のシミュレーション結果をまとめると、本実施の形態に係るシミュレーションによって、以下のことが明らかとなった。
(1)蛍光体薄膜(本実施の形態では、Y
2O
3:Eu
3+薄膜)上に金属薄膜(本実施の形態では、Au、Ag、Cu、Al)を成膜することにより、電子ビームの透過を抑制することと、電子ビームの透過を有効に抑制可能な膜厚において、金属薄膜の表面から出射する微小光源を得ることとを両立させることが可能である。金属薄膜の膜厚の上限は、当該金属の当該波長における表皮深さである。
(2)金属薄膜の表面プラズモン励起波長に対応させて微小光源の波長を選定することにより、金属薄膜の表面に表面プラズモンを励起させることができ、その結果微小光源の強度を増強させ、観察像のS/N比を向上させることが可能である。
(3)金属薄膜の膜厚に対する表面プラズモンの励起強度にはピーク値が存在する。したがって、金属薄膜の膜厚を最適化することにより表面プラズモンの励起効率をより高め、観察像のS/N比をより向上させることが可能である。
(4))蛍光体薄膜上に金属薄膜を成膜した場合でも、微小光源から発生した光により金属薄膜の表面に形成されるスポット光のスポットサイズ、すなわち、試料に照射される光の直接の光源のスポットサイズを、可視域の回折限界より十分に小さな値とすることが可能である。
【0062】
ここで、本実施の形態に係る光学顕微鏡1における微小光源LSの波長は、200nm以上であることが好ましい。200nm未満の波長では、光の散乱等の影響により大気中での観測が困難であり、観測系の周囲を真空に保つ必要が生ずる。また、200nm未満の波長では、たとえば生体に対する損傷が発生しやすくなる。むろん、これらの条件が問題とならない場合には、200nm未満の波長で本実施の形態に係る光学顕微鏡1を構成しても差し支えない。
【0063】
また、本実施の形態において、金属薄膜の表面における表面プラズモンの励起を積極的に利用する場合には、微小光源の波長との関係において、金属薄膜を構成する金属が表面プラズモンを励起することが可能な金属であることが必要である。金属が表面プラズモンを励起するための一般的な条件は、当該金属の誘電率の実部が負であることであり、そのような金属を選定すればよい。また、上記の200nm以上という微小光源の波長の条件と併せると、励起される表面プラズモンの波長(金属によって固有の波長範囲が定まっている)が200nm以上であることが必要となる。本実施の形態において検討した金属、Au、Ag、Cu、およびAlは、いずでも上記条件を充足している。
【0064】
[光源生成薄膜の製造方法]
つぎに、
図9を参照して、本実施の形態に係る光源生成薄膜50の製造方法の一例の概略について説明する。本実施の形態では、基板52の材料としてSi、ウィンドウ薄膜54の材料としてSiN
x、蛍光体薄膜56の材料としてY
2O
3:Eu
3+、金属薄膜58の材料としてAuを用いた形態を例示して説明する。
【0065】
まず、
図9(a)に示すように、CVD法、スパッタ法等により、Si基板52の一主面上にSiN
x膜54を形成する。基板52の厚さは、50μmから300μm程度であり、たとえば100μm〜200μm程度でも良く、SiN
x膜54の膜厚は、たとえば50nm程度とする。
【0066】
つぎに、
図9(b)に示すように、Si基板52のSiN
x膜54が形成された側とは反対側の主面をフォトリソグラフィを用いてマスキングし、アルカリ溶液等によりにエッチングしてウィンドウ部60を形成する。この場合のエッチングは、Si基板52を貫通した後SiN
x膜54で停止するようにする、つまりSi基板52を削り、SiN
x膜54で停止するようなエッチング液を選択する。
【0067】
つぎに、
図9(c)に示すように、SiN
x膜54上にスパッタ法等によりY
2O
3:Eu
3+薄膜を形成する。Y
2O
3:Eu
3+薄膜の膜厚は、たとえば50nmとする。
【0068】
つぎに、
図9(d)に示すように、Y
2O
3:Eu
3+薄膜上にスパッタ法等によりAu薄膜を形成する、Au薄膜の膜厚は、たとえば10nmとする。
【0069】
つぎに、ダイシングして、個々の光源生成薄膜50に分割する。以上の工程により光源生成薄膜50が製造される。
【0070】
なお、本実施の形態のように基板52としてSiを用いる場合には、基板52の表面を面方位(100)とし、ウィンドウ部60の側面を面方位(111)として、KOH(水酸化カリウム)溶液などでエッチングすることにより、ウィンドウ部60を精密に形成する事ができる。この場合、エッチング面の底角はほぼ54.7度であり、このように形成された四角錘の頂角は、ほぼ70.6度となる。
【0071】
[実施例]
つぎに、
図10を参照して、本実施の形態に係る光学顕微鏡1によって細胞を観察した結果について説明する。本実施例では、特に、光学顕微鏡1による長時間観察における試料への損傷の程度を実証することを目的とし、蛍光体薄膜56を用いず、SiN
x薄膜を用いたウィンドウ薄膜54上に金属薄膜58(本実施例では金薄膜としている)を直接形成している。
【0072】
図10(a)は、光学顕微鏡1によって試料としてのMC3T3−E1細胞を観察した結果である画像を、
図10(b)は、
図10(a)に示すA−B間のラインプロファイル(長さ約2μm)を各々示している。
図10(b)では、実線が実測値、点線がラインプロファイルのピーク値およびFWHMを算出するための近似曲線(ガウスフィッティング)を表している。また、
図10(c)は、SiN
x薄膜のみの場合(上段)とSiN
x薄膜上に金薄膜を形成した場合(下段)の、光学顕微鏡1での観察時間の経過に対するMC3T3−E1細胞の状態の変化を示している。なお、MC3T3−E1細胞とは、マウスの頭蓋骨由来細胞株であり、金属薄膜58上に固定、乾燥させている。
【0073】
SiN
xには、電子ビームEBで励起することにより光を発生するという性質がある。本実施例では、SiN
xのこの性質を用いて、SiN
x薄膜によりウィンドウ薄膜54と蛍光体薄膜56とを兼用化している(以下、このような薄膜を「発光薄膜」と称する場合がある)。したがって、電子ビームEBはSiN
x薄膜内で集束させ、発光薄膜(SiNx薄膜)内で微小光源LSが生成されるようにしている。金属薄膜58としては、膜厚15nmのAu薄膜を用い、電子ビームEBの加速電圧Vaは3kVとしている。なお、Au薄膜の膜厚を15nmとし、電子ビームEBの加速電圧Vaを3kVとした場合の、電子ビームの透過率は10%以下である。
【0074】
図10(a)に示すように、本実施の形態に係る光学顕微鏡1によってMC3T3−E1細胞内の顆粒が観察された。また、
図10(b)に示すラインプロファイルから、細胞内の顆粒の大きさが約137nm(FWHM)であることがわかった。したがって、発光薄膜上に電子ビーム遮蔽用の金属薄膜58を成膜した場合でも、回折限界以下の空間分解能で細胞の観察を行えることが実証された。
【0075】
さらに、
図10(c)に示すように、SiN
x薄膜のみの場合には明らかにMC3T3−E1細胞の状態が変化し、細胞の一部が失われているが、SiN
x薄膜上に金薄膜を形成した場合にはほとんど細胞の状態が変化していない。したがって、発光薄膜上に金属薄膜58を形成することにより、試料への損傷が有効に抑制されることがわかる。
【0076】
本実施例のように、ウィンドウ薄膜54自体に電子ビーム励起による発光という特性が備わっていれば、ウィンドウ薄膜54で蛍光体薄膜56を兼ねることが可能である。逆に、蛍光体薄膜56に真空側と大気圧側とを隔離させるだけの強度をもたせれば、蛍光体薄膜56でウィンドウ薄膜54を兼ねることも可能である。つまり、本発明において、ウィンドウ薄膜54と蛍光体薄膜56の2層構成にすることは必須ではなく、双方の特質を備えた1層の薄膜を用いる形態としてもよい。さらには、たとえば、ウィンドウ薄膜54としてのSiN
x薄膜を基板52の上に形成後、該SiN
x薄膜上に発光薄膜としてのSiN
x薄膜を形成してもよい。
【0077】
以上のような発光薄膜を用いた形態とすることにより、光源生成薄膜50自体の膜厚が薄くなるので、光源生成薄膜50の電子ビーム入射位置から試料までの距離が短くなり、電子ビームの加速電圧がより低い電圧であっても空間分解能の高い観察像が得られる。なお、この場合の光源生成薄膜の製造方法は、たとえば、
図9に示す光源生成薄膜の製造方法において、ウィンドウ薄膜54および蛍光体薄膜56のいずれか一方の形成を省略すればよい。
【0078】
つぎに、金属薄膜58の材料を変えた場合、蛍光体薄膜56の膜厚を変えた場合、蛍光体薄膜56の材料を変えた場合の電場強度分布のシミュレーション結果について説明する。
【0079】
[金属薄膜の材料がAgである場合の電場強度分布]
図11(a)に、金属薄膜58の材料がAgである場合の電場強度分布を示す。
図11(a)において、「Y
2O
3:Eu
3++Ag10nm」と表記されたグラフが金属薄膜58の材料をAgとした場合のグラフであり、「Y
2O
3:Eu
3+」と表記されたグラフが、金属薄膜58がない場合、すなわち基準薄膜の電場強度分布を示すグラフである。11(b)は、
図11(a)に対応するシミュレーション条件を示している。すなわち、シミュレーション条件は以下のとおりである。
ウィンドウ薄膜:Si
3N
4、膜厚dS=50nm
蛍光体薄膜:Y
2O
3:Eu
3+、膜厚dF=50nm
金属薄膜:Ag、膜厚dM=10nm
また、発光波長λ
0は610nm、電子ビームEBの加速電圧Vaは5kV、電場強度の算出位置は、Ag薄膜(またはY
2O
3:Eu
3+薄膜)の表面の表面から10nm離れた位置としている。
【0080】
図11(a)に示すように、金属薄膜58としてAg薄膜を適用した場合にも電場強度の増大が認められ、ピーク値で約2倍となっている。また、Ag薄膜を適用した場合のスポットサイズは84nm(FWHM)であり、基準薄膜の43nm(FWHM)に対して約2倍になってはいるものの回折限界よりも十分小さい値となっている。ただし、本シミュレーションでは、
図7に示すような最適化を行っていないので、Ag薄膜の膜厚の最適化を行うことにより電場強度のピーク値はさらに大きくなる可能性がある。
【0081】
[蛍光体薄膜の膜厚を厚くした場合の電場強度分布]
図12に、蛍光体薄膜56の膜厚をdF=200nmとした場合の電場強度分布の波長に対する依存性を示す。また、
図13(a)に、
図12に対応するシミュレーション条件を、
図13(b)に、
図12の各条件における電場強度のピーク値(
図13(b)では、「ピーク強度」と表記)およびスポットサイズ(
図13(b)では、「FWHM」と表記)を示す。
図13(a)に示すように、シミュレーション条件は以下のとおりである。
ウィンドウ薄膜:Si
3N
4、膜厚dS=50nm
蛍光体薄膜:Y
2O
3:Eu
3+、膜厚dF=200nm
金属薄膜:Au、膜厚dM=20nm
【0082】
また、発光波長λ
0は350nm、515nm、610nm、電子ビームEBの加速電圧Vaは5kV、電場強度の算出位置は、Au薄膜(またはY
2O
3:Eu
3+薄膜)の表面から10nm離れた位置としている。ここで、
図12(a)に示す基準薄膜のグラフにおいて2つの曲線が描かれているが、実線が電場強度のシミュレーション値を、点線がシミュレーション値に対するフィッティングカーブ(ガウス曲線)を示している。
【0083】
図13(b)に示すように、発光波長λ
0=350nmの場合の電場強度のピーク値は基準薄膜(金属薄膜58なし)の電場強度のピーク値より小さいが、λ
0=515nmの場合の電場強度のピーク値は基準薄膜の電場強度のピーク値とほぼ同程度である。λ
0=610nmの場合の電場強度のピーク値は基準薄膜の電場強度のピーク値の約1.8倍となっており、蛍光体薄膜56の膜厚を厚くした場合でも電場強度の増大が確認された。また、図示は省略するが、λ
0=610nmの場合には表面プラズモンが発生していることを確認している。
【0084】
また、
図13(b)に示すように、λ
0=350nm以外のスポットサイズは200nm未満となっており、蛍光体薄膜56の膜厚を厚くした場合でも回折限界以下の分解能を達成可能であることがわかる。蛍光体薄膜56の成膜においては、成膜開始時から一定の膜厚までは欠陥が多く含まれ、その後欠陥の少ない蛍光体薄膜が形成されるような場合もある。かかる場合には一定値以上の膜厚の蛍光体薄膜56を成膜する必要があるが、このような場合でも実用的な微小光源が得られることがわかる。
【0085】
図示は省略するが、本シミュレーション条件において、金薄膜の膜厚を0〜40nm変化させた場合の、電場強度のピーク値、およびスポットサイズ(FWHM)についてもシミュレーションしている。その結果によれば、金薄膜の膜厚が無いときの電場強度の1倍以上の電場強度が得られる金薄膜の膜厚は、およそ30nm以下であり、金薄膜の膜厚が無いときの電場強度の2倍以上の電場強度が得られる金薄膜の膜厚は、およそ4nm〜20nmである。また、電場強度がピークとなる金薄膜の膜厚は、4nm〜9nm程度の範囲であり、
図7に示す蛍光体薄膜の膜厚が50nmの場合の電場強度がピークとなる範囲6nm〜8nmと同様の傾向を示すことがわかった。また、スポットサイズについては、金薄膜の膜厚0〜20nmの範囲で200nm(FWHM)以下となっており、回折限界以下の分解能を達成することが可能であることがわかった。
【0086】
[蛍光体としてZnOを用いた場合の電場強度分布]
図14(a)に、蛍光体薄膜56を構成する蛍光体としてZnOを用いた場合の電場強度のラインプロファイルを、
図14(b)に、
図14(a)に対応するシミュレーション条件示す。すなわち、シミュレーション条件は以下のとおりである。
ウィンドウ薄膜:Si
3N
4、膜厚dS=50nm
蛍光体薄膜:ZnO、膜厚dF=50nm
金属薄膜:Ag、Al、膜厚dM=10nm
金属薄膜58の材料はAgおよびAlとし、膜厚はいずれも10nmとしている。また、発光波長λ
0は390nm、電子ビームEBの加速電圧Vaは5kV、電場強度の算出位置は、Ag(Al)薄膜(またはZnO薄膜)の表面から10nm離れた位置としている。
【0087】
図14(a)において、「ZnO」と表記されたグラフが基準薄膜の電場強度分布を、「ZnO+Ag」と表記されたグラフが金属薄膜58をAg薄膜とした場合の電場強度分布を、「ZnO+Al」と表記されたグラフが金属薄膜58をAl薄膜とした場合の電場強度分布を各々示している。
【0088】
図14(a)に示すように、金属薄膜58がAlの場合の電場強度のピーク値は基準薄膜(金属薄膜58なし)の電場強度のピーク値よりも小さいが、金属薄膜58がAg薄膜の場合の電場強度のピーク値は基準薄膜の電場強度のピーク値の約1.6倍となっている。したがって、蛍光体薄膜56を構成する薄膜の材料をZnOとした場合についても電場強度の増強が確認された。
【0089】
図14(a)においてかっこ内に示す数値は、FWHMで表した金属薄膜(または蛍光体薄膜)表面におけるスポットサイズを示している。すなわち、基準薄膜のスポットサイズは63nm、Al薄膜の場合には83nm、Ag薄膜の場合には64nmとなっている。したがって、蛍光体薄膜56の材料をZnOとした場合でも十分小さなスポットサイズが得られ、回折限界以下の分解能を達成可能であることがわかる。
【0090】
なお、本シミュレーションにおいては、金属薄膜58の膜厚は10nm一定としており最適化を行っていないので、電場強度のピーク値、あるいはスポットサイズはさらに改善の余地があると考えられる。また、Al薄膜で電場強度のピーク値が小さいのは、主として、Al薄膜の膜厚が最適値となっていないことに起因していると考えられる。
図7に示す金薄膜の膜厚に関する最適化のような最適化を行うことにより、ピーク値はさらに向上すると考えられる。また、発光波長λ
0をAlの表面プラズモン励起波長に近い波長とすることにより、電場強度のピーク値がさらに大きくなるものと予測される。
【0091】
以上、詳述したように、本実施の形態によれば、電子ビームによる試料への損傷を抑制するとともに、観察像のS/N比が向上し、さらに空間分解能の低下が抑制された光源生成薄膜、微小光源励起装置、光学顕微鏡、および光源生成薄膜の製造方法を提供することが可能となる。
【0092】
以上、本発明の実施の形態の一例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇において各種の変更が可能である。
【0093】
たとえば、上記実施の形態では、電子線ビームによるカソードルミネセンスで蛍光体薄膜内に微小光源を生成する形態を例示して説明したが、これに限られず、たとえば、電磁波によって蛍光体薄膜内に微小光源を生成する形態としてもよい。
【0094】
また、上記実施の形態では、ウィンドウ薄膜を用いて電子顕微鏡結像系10の真空側と光学顕微鏡部20の大気側とを隔離する形態を例示して説明したが、これに限られない。
たとえば、蛍光体薄膜あるいは金属薄膜を大気圧以上の圧力に耐え得るように選択し、蛍光体薄膜および金属薄膜を真空容器の隔壁上に直接形成する形態としてもよい。
【0095】
また、上記実施の形態では、金属薄膜の材料として、Au、Ag、Cu、およびAlを用いた形態を例示して説明したが、これに限られず、他の金属、たとえばPt(白金)等を用いた形態としてもよい。
【0096】
また、上記実施の形態では、光源生成薄膜にウィンドウ部を1つ設ける場合を例示して説明したが、これに限られず、複数のウィンドウ部を設けてもよい。
図17に、複数のウィンドウ部60aを有する光源生成薄膜50aの一例を示す(
図17に示す例では、ウィンドウ部60aが3×3のマトリクス状に配置された例を示している)。光源生成薄膜50aの各部サイズは、一例として以下のようになっている。すなわち、略正方形のウィンドウ部60aの一辺の長さd1が約0.1mm、略正方形の光源生成薄膜50aの一辺の長さd2が約5.0mm、ウィンドウ部60a間の間隔d3が約0.85mm、基板52aの厚さd4が約200μm、ウィンドウ薄膜54aの厚さd5が約50nmとなっている。
【0097】
また、上記実施の形態では、表面を特に加工しない金属薄膜上に試料を載置する形態を例示して説明したが、これに限られず、生体観察に適するように細胞の培養が可能なように加工してもよい。たとえば、金属薄膜上にポリスチロール樹脂(細胞培養フラスコなどに使用されるプラスチック)やコラーゲン、ポリリジン、フィブロネクチンなどを、スピンコーティングなどにより数10nm程度の厚さにコートすればよい。これらは、いずれも難接着性や難培養性の細胞を培養する場合に、培養フラスコにコーティングされる材料である。