【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
【0037】
(実施例1)
scFvライブラリーの調整
(1−1)ラットへの免疫
本実施例では、免疫動物種として良く用いられるラットを、各抗原に対して3匹使用した。初めに結核死菌が含まれたadjuvantと共に抗原を免疫し、次に結核死菌が含まれなadjuvantと共に抗原の免疫を行いた。2回免疫を行うことで、充分免疫反応を促した。
具体的には、Rabbit IgG又はLysozymeを各々FREUND Complete ADJUVANT(シグマ社)と混合し、Wstarラット(雌)の腹腔に抗原100μg/匹となるよう投与し、一次免疫を2週間行った。続いて、抗原とFREUND Incomplete ADJUVANT(シグマ社)を混合し、一次免疫と同様に二次免疫を行った。最後の免疫から2週間後にラットの腹腔に抗原100μgを投与しブーストした。
【0038】
(1−2)リンパ組織の摘出
リンパ節は肥大の見られた、膝下リンパ節・腸管リンパ節を、他の組織や細胞を出来る限り除き、PBS中で保持し、その後、速やかにRNAlaterで保存した。
免疫が終了したラットより、リンパ節を摘出後、RNAlater(ライフテクノロジー社)で処理し、RNAを安定化した。
【0039】
(1−3)V
H(抗体可変領域重鎖)及びV
L(抗体可変領域軽鎖)の増幅
抗体遺伝子を増幅して得るための鋳型となるcDNAを合成するために、RNA精製キットを用いてtotal RNAを精製し、ランダムヘキサマーとオリゴdTのプライマーを使用して、total RNAの全長を合成し、抗体遺伝子増幅のための鋳型とした。具体的には、RNAlaterで処理したリンパ節より、RNeasy(キアゲン社)を用いてTotal RNAを精製し、トランスクリプターファーストストランドcDNA合成キット(ロシュ社)を用いて、cDNAを合成した。
本実施例では、PCRを用いた抗体軽鎖V
L、抗体重鎖V
H遺伝子増幅には、PCRエラーを防ぎ、scFvの正確な構造を維持するために、正確性の高いPolymeraseであるKOD-FX polymerase(東洋紡社)を使用した。
合成したcDNAを鋳型にラットのV
H(抗体可変領域重鎖)遺伝子及びV
L(抗体可変領域軽鎖)遺伝子のプライマーセットを用い、KOD-FX polymerase(東洋紡社)によって、94℃ 2min, (98℃ 10sec, 58℃ 30sec 68℃ 1min)×5, (98℃ 10sec, 63℃ 30sec 68℃ 1min)×5, (98℃ 10sec, 68℃ 1.5min)×5, 68℃ 7minの条件で、PCRを行い、V
H遺伝子及びV
L遺伝子を増幅した。増幅した各遺伝子は1.5%アガロースゲルで電気泳動し、増幅を確認した。
【0040】
本実施例で用いた各遺伝子のプライマーセットは、以前に公表されているV
H遺伝子及びV
L遺伝子のプライマーセット(Jorg Burmester, Andreas Pluckthun., Antibody Engineering Volume 1: 19-39,Springer)の塩基配列を元に、 V
HセンスプライマーにはNcoI、V
HアンチセンスプライマーにはKpnI、V
LセンスプライマーにはNheI、V
LアンチセンスプライマーにはNotIを加えたプライマーを合成してモデルプライマーセットとして使用した。各プライマーは抗体遺伝子の多様性を確保するために、いくつかの位置で縮重している。
用いたプライマー配列は以下の通りである。
【0041】
V
Hセンスプライマー
V
H S1 ATGCCCATGGGAKTRMAGCTTCAGGAGTC (配列番号1)
V
H S2 ATGCCCATGGGAGGTBCAGCTBCAGCAGTC (配列番号2)
V
H S3 ATGCCCATGGCAGGTGCAGCTGAAGSARTC (配列番号3)
V
H S4 ATGCCCATGGGAGGTCCARCTGCAACARTC (配列番号4)
V
H S5 ATGCCCATGGCAGGTYCAGCTBCAGCARTC (配列番号5)
V
H S6 ATGCCCATGGCAGGTYVARCTGCAGCARTC (配列番号6)
V
H S7 ATGCCCATGGCAGGTCCACGTGAAGCARTC (配列番号7)
V
H S8 ATGCCCATGGGAGGTGAASSTGGTGGARTC (配列番号8)
V
H S9 ATGCCCATGGGAVGTGAWGSTGGTGGAGTC (配列番号9)
V
H S10 ATGCCCATGGGAGGTGCAGSTGGTGGARTC (配列番号10)
V
H S11 ATGCCCATGGGAKGTGCAMCTGGTGGARTC (配列番号11)
V
H S12 ATGCCCATGGGAGGTGAAGCTGATGGARTC (配列番号12)
V
H S13 ATGCCCATGGGAGGTGCARCTTGTTGARTC (配列番号13)
V
H S14 ATGCCCATGGGARGTRAAGCTTCTCGARTC (配列番号14)
V
H S15 ATGCCCATGGGAAGTGAARSTTGAGGARTC (配列番号15)
V
H S16 ATGCCCATGGCAGGTTACTCTRAAASARTC (配列番号16)
V
H S17 ATGCCCATGGCAGGTCCAACTVCAGCARCC (配列番号17)
V
H S18 ATGCCCATGGGATGTGAACTTGGAASARTC (配列番号18)
V
H S19 ATGCCCATGGGAGGTGAAGGTCATCGARTC (配列番号19)
【0042】
V
Hアンチセンスプライマー
V
H AS1 ATGCGGTACCCGAGGAAACGGTGACCGTGGT (配列番号20)
V
H AS2 ATGCGGTACCCGAGGAGACTGTGAGAGTGGT (配列番号21)
V
H AS3 ATGCGGTACCCGCAGAGACAGTGACCAGAGT (配列番号22)
V
H AS4 ATGCGGTACCCGAGGAGACGGTGACTGAGGT (配列番号23)
【0043】
V
Lセンスプライマー
V
L Sκ1 ATGCGCTAGCGAYATCCAGCTGACTCAGC (配列番号24)
V
L Sκ2 ATGCGCTAGCGAYATTGTTCTCWCCCAGTC (配列番号25)
V
L Sκ3 ATGCGCTAGCGAYATTGTGMTMACTCAGTC (配列番号26)
V
L Sκ4 ATGCGCTAGCGAYATTGTGYTRACACAGTC (配列番号27)
V
L Sκ5 ATGCGCTAGCGAYATTGTRATGACMCAGTC (配列番号28)
V
L Sκ6 ATGCGCTAGCGAYATTMAGATRAMCCAGTC (配列番号29)
V
L Sκ7 ATGCGCTAGCGAYAYYCAGATGAYDCAGTC (配列番号30)
V
L Sκ8 ATGCGCTAGCGAYATYCAGATGACACAGAC (配列番号31)
V
L Sκ9 ATGCGCTAGCGAYATTGTTCTCAWCCAGTC (配列番号32)
V
L Sκ10 ATGCGCTAGCGAYATTGWGCTSACCCAATC (配列番号33)
V
L Sκ11 ATGCGCTAGCGAYATTSTRATGACCCARTC (配列番号34)
V
L Sκ12 ATGCGCTAGCGAYRTTKTGATGACCCARAC (配列番号35)
V
L Sκ13 ATGCGCTAGCGAYATTGTGATGACBCAGKC (配列番号36)
V
L Sκ14 ATGCGCTAGCGAYATTGTGATAACYCAGGA (配列番号37)
V
L Sκ15 ATGCGCTAGCGAYATTGTGATGACCCAGWT (配列番号38)
V
L Sκ16 ATGCGCTAGCGAYATTGTGATGACACAACC (配列番号39)
V
L Sκ17 ATGCGCTAGCGAYATTTTGCTGACTCAGTC (配列番号40)
V
L Sλ ATGCGCTAGCGATGCTGTTGTGACTCAGGAATC (配列番号41)
【0044】
V
Lアンチセンスプライマー
V
L ASκ1 ATGCGCGGCCGCTACGTTTKATTTCCAGCTTGG (配列番号42)
V
L ASκ2 ATGCGCGGCCGCTACGTTTTATTTCCAACTTTG (配列番号43)
V
L ASκ3 ATGCGCGGCCGCTACGTTTVAGCTCCAGCTTGG (配列番号44)
V
L ASλ ATGCGCGGCCGCTACCTAGGACAGTCAGTTTGG (配列番号45)
【0045】
(1−4)V
H遺伝子ライブラリー及びV
L遺伝子ライブラリーの調製
Rabbit IgG又はLysozymeで免疫したラットのリンパ節由来RNAから(1−3)で調製された合成cDNAを鋳型として前記V
H遺伝子プライマーセット(配列番号1〜23)及びV
L遺伝子プライマーセット(配列番号24〜45)を用いて増幅された抗Rabbit IgG抗体又は抗Lysozyme抗体のV
H遺伝子ライブラリーと同V
L遺伝子ライブラリーのそれぞれのプールを作製した。
【0046】
(1−5)scFvライブラリー発現ベクターの構築
予め、NcoI-KpnI-Linker(GGGGSGGGGSGGGGS)-NheI-NotI-Hisタグを組込んだpET-22b(+)(ノバジェン社)を用意し、(1−4)においてPCRで増幅した抗Rabbit IgG抗体及び抗Lysozyme抗体それぞれのV
L遺伝子ライブラリーをNheIとNotIで切断し、上記、pET-22b(+)に組込みV
L遺伝子ベクターライブラリーを作製した。作製した各V
L遺伝子ベクターでDH5α competent cell(日本ジーン社)を形質転換し、アンピシリン含有のLB agar培地に播種し、Colonyを形成させた。Colonyは全て回収、混合し、プラスミド精製キット(キアゲン社)にて、V
L遺伝子ベクターを精製した。
次いで、作製したV
L遺伝子ベクターライブラリーと、PCRで増幅したV
H遺伝子ライブラリーとをNcoIとKpnIで切断し、V
L遺伝子ベクターにV
H遺伝子を組込み、scFvライブラリー発現ベクターを構築した。
【0047】
(実施例2)
IPTG濃度勾配プレートの作製
LB 培地に1.5% agarを添加しオートクレーブで、滅菌及びagarを溶解する。オートクレーブ処理後、agarを45℃に冷やし、アンピシリンと100mM となるようIPTGを添加し、10cm シャーレにLB agar の厚さ1mmとなるよう、6.4mL注ぎ、37℃で1時間保温する。上記と同様にLB agarをオートクレーブ処理し、アンピシリンと10mM となるようIPTGを添加し、37℃で保温したシャーレに6.4mL重層し、37℃で1時間保温する。さらに上記と同様にLB agarをオートクレーブ処理し、アンピシリンのみ加えたIPTG無添加のLB agarを厚さ2mmとなるよう、16.8mL重層し、室温で1時間凝固させ、IPTG濃度勾配プレートを作成した。作製したIPTG濃度勾配プレートの模式図を(
図3)に示す。
【0048】
(実施例3)
One-step colony assayによる陽性クローンの樹立
(3−1) プレート上のコロニー形成
実施例(1−5)で作製したscFvライブラリー発現ベクターを用いて、BL21(DE3) competent cell(日本ジーン社)を形質転換し、回復培地でOD
600が0.2に達した培養液を10
5倍希釈した。当該希釈液を、(実施例2)で調製したIPTG濃度勾配プレート、IPTG無添加プレート、及びIPTG濃度を100mMとなるように調製したIPTG濃度固定プレート上に、免疫に用いたRabbit IgG又はLysozyme PBSで100ug/mLに希釈し、室温で2h抗原をコートした抗原フィルター、さらにその上にコロニーフィルターを重ね、当該コロニーフィルター上に播種した。その後、30℃で一晩保温し、コロニーを形成させた。フィルター上にコロニーが形成されているコロニーフィルターをLB agarプレートに移し4℃保存する。
(
図4)にIPTG濃度勾配プレート及び他のプレートを用いた場合のコロニー形成数、形成率を示す。IPTG濃度固定プレートでは殆どコロニーが形成されなかったが、IPTG濃度勾配プレートではIPTG無添加プレートとほぼ同等のコロニー形成が認められた。
【0049】
(3−2) 陽性クローンの検出
コロニーフィルターを除いた下層の抗原フィルターをPBSで2回洗浄し、HRP標識抗His抗体(ロシュ社)を2% skim mike/PBSで5000倍希釈し、室温で1時間反応させた。0.05% Tween-PBSで5回洗浄、PBSで3回洗浄し、HRP発光基質(メルク社)で6mLを加え、室温で発光反応を行い、発光検出器(ケミステージ, 倉敷紡績社)にて、陽性クローンを発光スポットとして検出した。(
図5)に検出スポットを示す。
IPTG無添加プレートではスポットが認められず、IPTG濃度勾配プレートとIPTG濃度固定プレートの抗原フィルターで陽性クローンのスポットが認められ、特にIPTG濃度勾配プレートで陽性数が多いことが示された。また、IPTG濃度勾配プレートでは陽性率も高いことが明らかとなった。計測値は3回実験を行った平均値を示す(
図6)。
【0050】
(3−3) 陽性クローンの同定
(3−2)の抗原フィルターを下部に、(3−1)の陽性クローンスポット検出画像を上部に重ね合わせ、注射針でスポット部分を刺し、抗原フィルターに穴を開ける。ライトビュアー(ハクバ社)上で穴を開けた抗原フィルター上に、(3−1)で4℃保存したコロニーフィルターを重ね合わせ、シグナルを検出したスポットにより、陽性クローンを同定した。
【0051】
(3−4)従来コロニーリフトアッセイとone-step colony assayの陽性率比較
実施例1で構築した、Anti-rabbit IgG scFvライブラリーを用いて、本発明のone-step colony assay、及び従来コロニーリフトアッセイ法をそれぞれ実施し、その結果のコロニー形成数、陽性数、及び陽性率を比較した(表1)。その際、各プレートにライブラリーを播種する際の前培養液の OD
600を0.2と0.6で実施した。one-step colony assayは(実施例2)で作製した濃度勾配プレートを使用した。
その結果、one-step colony assayの陽性率は、従来コロニーリフトアッセイと比較して、約10倍と飛躍的に向上した。特に、 OD
600が0.2の前培養液を播種した場合、コロニー形成数、陽性率共に最大値を示した。また、(表1)の従来コロニーリフトアッセイ法の陽性率を、(
図6)のone-step colony assay, Rabbit IgG, 100mM IPTG濃度固定プレートの陽性率と比較した場合でも、one-step colony assayの陽性率は、およそ2倍程度向上したことになる。これらの結果から、one-step colony assayは従来法と比較して、リフト工程が省略されて手順が簡便になるだけでなく、陽性クローンの取得においても優れていることが実証された。加えて、大腸菌播種濃度を最適化することにより、さらに陽性率を1.3倍以上も上昇させることができることが実証された(表1)。
【0052】
【表1】
【0053】
(3−5)「λエキソヌクレアーゼ法」により構築したscFvライブラリーを用いたone-step colony assayの実施
scFvライブラリーを、非特許文献6の記載に従って調製した。具体的には、以下に示すとおりである。
scFvライブラリー作製のために、V
H遺伝子・V
L遺伝子をPCRにより増幅する鋳型として用いたcDNAは、実施例1で示したrabbit IgGを免疫したラットリンパ節から調整したcDNA を使用した。PCRに用いた、遺伝子のプライマーセットは、(Jorg Burmester, Andreas Pluckthun., Antibody Engineering Volume 1: 19-39,Springer)に記載のV
H遺伝子及びV
L遺伝子のプライマーセットの塩基配列を基にして、それぞれオーバラップする配列の外側の2つの塩基をS化し、さらに、V
Hアンチセンスプライマーの5’末端と、V
Lアンチセンスプライマーの5’末端をリン酸化した。また、文献に記載されたV
Hセンスプライマー及びV
LアンチセンスプライマーのSfiI配列をNcoI及びNotI配列に変更し、実施例1(1−3)と同数の各プライマーセットを合成した。このプライマーセットを用いて、実施例1(1−3)、(1−4)と同様の条件で、V
H遺伝子・V
L遺伝子をPCRにより増幅し、V
H遺伝子ライブラリー及びV
L遺伝子ライブラリーを調整した。
【0054】
V
H遺伝子ライブラリー及びV
L遺伝子ライブラリーはそれぞれ、1μgを1μLのλエキソヌクレアーゼで37℃、30分間消化 し、75℃、10分処理した。λエキソヌクレアーゼ処理したV
H遺伝子ライブラリー及びV
L遺伝子ライブラリーを混合し、室温で20分間静置後、2μLのBst DNAポリメラーゼを加え、65℃で30分処理し、V
H遺伝子ライブラリーとV
L遺伝子ライブラリーを連結した。Bst DNAポリメラーゼにより連結して作製したscFvライブラリーは、1%アガロースゲルにて電気泳動し、scFvのバンドを精製した。scFvはNcoIとNotIで消化し、同じくNcoIとNotIで消化したpET-22b(+)とligationを行い、scFvライブラリー発現ベクターを構築した。この、λエキソヌクレアーゼを使用した抗体ライブラリー構築法を用いて構築した、scFvライブラリー発現ベクターは、実施例3(3−1)、(3−2)と同様の操作で、one-step colony assayを実施した。その結果、Two-step cloning法を用いた方法で構築した抗体ライブラリーで実施したone-step colony assay(
図6)のRabbit IgGの場合(3.4%)と同程度の陽性率(3.2%)が得られ、無作為にピックアップしたクローンの配列を解析した結果も、設計したscFvの構造を形成していた。
このことから、エキソヌクレアーゼを使用した抗体ライブラリー構築法も、Two-step cloning法と同様に、本発明のone-step colony assayに供する抗体ライブラリー構築法として適していることが実証された
【0055】
(実施例4)
樹立クローンの解析
(4−1) 樹立クローンの遺伝子配列決定
実施例3(3−3)で同定したAnti-rabbit IgG scFv及びAnti-Lysozyme scFv陽性クローンは、個別にアンピシリン含有のLB培地により培養し、DNA Mini prep kit(キアゲン社)によって、クローン中のプラスミドDNAを精製する。精製したプラスミドDNAの遺伝子配列をシークエンスにより遺伝子配列を解析し、scFvの構造を確認する。その結果、全てのクローンで設計通りの構造が確認された。(
図7)には各クローンのうち最も活性の高かったクローンNo.1の配列を示す。(
図7−1)は、Anti-rabbit IgG scFv配列(配列番号46)であり、(
図7−2)は、Anti-Lysozyme scFv配列(配列番号47)である。Anti-rabbit IgG scFv配列中のV
H遺伝子は配列番号48で示され、V
L遺伝子は配列番号49で示される。Anti-Lysozyme scFv配列中のV
H遺伝子は配列番号50で示され、V
L遺伝子は配列番号51で示される。
【0056】
(4−2)ファージディスプレイにより樹立されたscFvとの活性比較
本発明によって得られたscFvと、scFv取得の代表的な方法である、ファージディスプレイ法によって得られたscFvを比較するために、抗原にRabbit IgGを用いて、ファージディスプレイ法により、scFvを樹立する。Rabbit IgGは実施例1−1と同様に免疫を行い、リンパ節を摘出後、実施例1−2、1−3,1−4と同様にV
H 及びV
L遺伝子を増幅した。増幅したV
H 及びV
L遺伝子はGEヘルスケア社のscFvファージディスプレイキットのプロトコールに従い、pCANTAB5Eベクターに挿入し、scFvベクターライブラリーを構築した。scFvベクターライブラリーを大腸菌TG1にエレクトロポレーションを用いて遺伝子導入し、SOBAG プレートに播種した結果、約10
6のコロニーを得た。コロニーを全て回収し、SOBAG液体培地で OD
600が0.5になるまで培養後、M13KO7 ヘルパーファージを添加し、TG1に感染させ、さらに26℃で一晩培養し、scFvをディスプレイしたファージを増殖した。scFvをディスプレイしたファージを精製し、抗原のRabbit IgGをコートしたプレートに注ぎ入れ、scFvと抗原を反応せ、結合しなかったscFvをディスプレイしたファージを除去するパニングを行い、抗原に特異的なscFvをディスプレイしたファージのみを溶出し、回収した。回収したファージを再びTG1に感染させ、増殖後、パニングで選抜する工程を3回繰り返し、3回目に回収したファージを大腸菌HB2151に感染させ、SOBAG プレートに播種し、コロニーを形成させ、陽性クローンを樹立した。得られたコロニーは96クローンを、SOBAG液体培地を分注した96ウェルプレートで OD
600が0.5になるまで培養し、0.5mM IPTGを添加し、さらに26℃で一晩培養後、培養上清を回収し、Rabbit IgGをコートしたプレートを用いてELISAにより、親和性を評価した。その結果、最も強い活性を示したscFvをファージディスプレイ法による、Anti-rabbit IgG scFvクローンNo.1として、(4−3)の、本発明によって得られたscFvとの活性比較に用いた。
【0057】
(4−3) 樹立クローンのELISAによる活性測定
本実施例では、本発明の「One-step colony assay」法(実施例3)で得られたscFvの活性をELISAを用いて確認した。また、本発明は従来のコロニーアッセイの発展的手法であることから、取得したscFvの活性は従来法、本発明ともに同程度の可能性が考えられたため、ELISAの比較としてscFvのscFvの代表的な取得法であるファージディスプレイ法で得られたscFvの活性とを比較する。Anti-rabbit IgG scFv クローンNo.1及び、−Anti-rabbit IgG scFvクローンNo.1を使用した。各クローンはアンピシリン含有の10mL LB培地、37℃で OD
600が0.6に達するまで培養し、0.5mM IPTGを添加し、26℃一晩発現誘導する。培養後、大腸菌を遠心により集菌し、菌塊に0.5 mL プロテアーゼインヒビター(ロシュ社)/PBSを加え、懸濁し、大腸菌を超音波破砕する。破砕溶液を20000g 30分間遠心し、上清を回収する。
抗原に用いたRabbit IgGを10μg/mLとなるようコーティングバッファー(Na
2CO
3、 NaHCO
3、 pH9.6)で調整し、96ウェルマイクロタイタープレートに50μL/ウェルで分注後、4℃で一晩コーティングする。コーティング溶液を廃棄し、0.05% Tween/PBSで1回洗浄し、Blocking reagent(ロシュダイアグノスティック社)を250μL/ウェルで分注し、室温で2時間ブロッキングする。ブロッキング溶液を廃棄、0.05% Tween-PBSで1回洗浄し、超音波破砕した上清はPBSを用いて、2倍希釈で希釈系列を作製し、50μL/ウェルで分注後、室温で2時間、反応を行う。反応溶液を廃棄し、0.05% Tween-PBSで5回洗浄し、HRP標識高His抗体を1%BSA/PBSで5000倍希釈し、50μL/ウェルで分注後、室温で1時間、抗体反応を行う。抗体反応溶液を廃棄し、0.05% Tween-PBSで5回洗浄し、HRP発色基質(SIGMAFAST OPD tablets、シグマ社)を100μL/ウェルで分注し、室温で発色させ、マイクロプレートリーダー(バイオラッド社)を使用し、波長450nm吸光度を測定した。結果を(
図8)に示す。計測値は3回実験を行った平均値を示す。
【0058】
本発明の「One-step colony assay」法及び、ファージディスプレイ法それぞれで得られた陽性クローンが産生するAnti-rabbit IgG scFv は共に結合活性を示した。さらに、One-step colony assayで得られたクローンが発現するscFvは、ファージディスプレイ法で得られたクローンが発現するscFvと比較して、約20倍程度高い活性を示した。
比較に用いたファージディスプレイ法でのscFvは10
6のライブラリーから選抜されたものであり、本発明の「One-step colony assay」法でのscFvは10
3のライブラリーから得られたものである。それにもかかわらず、ファージディスプレイ法と比較して「One-step colony assay」法でのscFvの活性が約20倍も高かったことは驚くべきことであり、「One-step colony assay」法が、活性の高いscFvを得易い方法であることを示す。
さらに、ファージディスプレイ法では、パニングの工程で非特異結合によりファージが選抜された場合、疑陽性としてクローンを増幅してしまう。「One-step colony assay」法はパニング工程を含まないため、疑陽性を取得することが無い。
この結果から、One-step colony assayにより多様性を確保した陽性クローンを多数得ることが可能であり、得られたクローンの発現するscFvが、従来法に比べて高い活性を保持することが実証された。