【0019】
第1のB2構造の挿入層15aはNiAl、CoAl、FeAlの一種からなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。第1のB2構造の挿入層15aは、膜厚が0.15nm以上0.8nm未満であるとよい。膜厚が0.15nm未満の場合は、原子層の厚さとして1個分(ML)に相当するため、連続的な膜を成さず、膜厚が0.8nm超の場合は、原子層の厚さとして5個分(ML)に相当して、スピン緩和の影響が大きく、本用途での必要な磁気抵抗比が得られない。
第2の非磁性層15はAg、Cu、Al、AgZnの一種からなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。第2の非磁性層15は、膜厚が1nm以上20nm未満であるとよい。第2の非磁性層15の膜厚が20nm以上の場合、非磁性層中でのスピン緩和の影響が大きく、また1nm以下の場合、上部強磁性層16と下部強磁性層14の磁気的な結合が生まれ磁化相対角度が小さくなり、本用途での必要な磁気抵抗比が得られない。
第2のB2構造の挿入層15bはNiAl、CoAl、FeAlの一種からなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。第2のB2構造の挿入層15bは、膜厚が0.15nm以上0.8nm未満であるとよい。膜厚が0.15nm未満の場合は、原子層の厚さとして1個分に相当するため、連続的な膜を成さず、膜厚が0.8nm超の場合は、原子層の厚さとして5個分に相当して、スピン緩和の影響が大きく、本用途での必要な磁気抵抗比が得られない。
【実施例】
【0025】
続いて、本発明の実施例について説明する。本発明は巨大磁気抵抗効果層を構成するホイスラー合金強磁性層と非磁性層の間に、ホイスラー合金電極の多数スピンバンドと類似した電子構造を有するB2(bcc)構造の非磁性挿入層を挿入したB2構造挿入層/非磁性中間層/B2構造挿入層で構成される3層構造の非磁性中間層を用いることによりMR比及びΔRAを改善させることを特徴とする。そこで、本発明を実施するに当たっては、非磁性中間層は、B2構造挿入層と高い格子整合性をもつとともに、十分に長いスピン緩和長を有する材料である必要がある。非磁性中間層の格子定数は、B2構造挿入層の格子定数に対して、格子不整合として5%以下がよく、さらに好ましくは3%以下がよく、最も好ましくは1%以下がよい。また非磁性中間層層のスピン緩和長の範囲は、30nm以上がよく、さらに好ましくは100nm以上がよく、最も好ましくは200nm以上がよい。
【0026】
以下、具体例としてB2−NiAl挿入層/Ag中間層/B2−NiAl挿入層の積層中間層を用いた結果を示す。
B2構造のNiAlは格子定数が0.288nmであり、Co
2FeGa
0.5Ge
0.5ホイスラー合金とAg中間層との格子不整合が3%以下と良好であるとともに、(001)方位に対してCoホイスラー合金の多数スピンバンドと類似したバンド分散を持つ。
【0027】
図4に作製したCPP−GMR素子の積層構造を示す。なお、
図4において前記
図1と同様の作用をするものには同一の符号を付して説明を省略する。
図4において、作成した単結晶CPP−GMR素子は、MgO基板/Cr(5nm)/Ag(100nm)/CFGG(10nm)/NiAl(膜厚t
NiAl)/Ag(5nm)/NiAl(膜厚t
NiAl)/CFGG(10nm)/Ag(5nm)/Ru(8nm)と(001)配向したものである。ここで、t
NiAlを0、1.5、3、4.5原子層(ML)で変化させた。単結晶CPP−GMR素子の熱処理は上部CFGG層を積層後に550℃で20分間行った。
ここで、上記のCr(5nm)は下地層12に相当し、Ag(5nm)/Ru(8nm)は二層のキャップ層18a、18bに相当している。
【0028】
図5は、作製した素子の抵抗面積積(RA)、ΔRA、磁気抵抗(MR)比のt
NiAl依存性を示すもので、(A)はRA、(B)はΔRA、(C)はMR比を示している。第1のB2構造の挿入層15aと第2のB2構造の挿入層15bからなるt
NiAlを挿入することにより、ΔRAが増大し、4.5ML挿入の素子において23mΩμm
2が得られた。これはNiAl挿入のない試料(t
NiAl=0ML)の2倍以上の値である。
【0029】
図6は、作製した素子の抵抗面積積(RA)と磁気抵抗(MR)比の説明図で、(A)は室温、(B)は10Kという低温側の測定値を示していると共に、横軸は磁場(mT)、縦軸は抵抗面積積(RA)と磁気抵抗(MR)比を示している。MR比は1.5MLで最大値をとり、室温で71%、10Kという低温側で285%が得られた。
【0030】
図7にNiAlを4.5ML挿入した試料の断面透過電子鏡像とEDSによる組成分析の結果を示すもので、(A)は断面透過電子鏡像、(B)はAgとCo、(C)はGe、(D)はGa、(E)はNi、(F)はAl、(G)は各組成元素Ag、Co、Ge、Ga、Ni及びAlの組成比率をグラフ化してある。
図7(B)〜(F)では、各組成元素Ag、Co、Ge、Ga、Ni及びAlの分布を濃淡で表している。挿入したNiAl層はほぼ設計した膜厚で界面に存在しており、Ag中間層との大きな拡散も確認されなかった。従って、NiAl/Ag/NiAlの3層構造中間層が大きなΔRAとMR比に寄与していることが確認された。
【0031】
本発明の巨大磁気抵抗効果層は、B2構造挿入層15a、15bと非磁性中間層15で構成される非磁性層が二層のホイスラー合金強磁性層の間に位置している。そこで、本発明の巨大磁気抵抗効果層では、B2構造挿入層(A)と中間層(B)に関して以下の代替性が考えられる。
【0032】
B2構造挿入層はCo基ホイスラー合金の多数スピンバンドのバンド分散と類似した電子構造を有する非磁性体で代替が可能である。従って、NiAlと同様にB2構造を有する2元非磁性金属を用いることで代替可能であり、例えばFeAlやCoAlがある。
B2構造挿入層の膜厚t
Aはレイヤー構造が得られる限界の膜厚が下限となり、およそ0.15nm(1ML)となる。一方、膜厚の上限はスピン拡散長I
SFによる緩和の影響が顕著にならない程度となる。スピン緩和の影響で磁気抵抗特性はexp(-t
A/I
SF)で減衰する。そこで、例えばNiAlのI
SFが8nmであるから、B2構造挿入層として有効に働く上限はexp(-t
A/I
SF)〜0.9程度となる0.8nm(〜5ML)である。従ってB2構造挿入層15a、15bの膜厚上限は、挿入材料のスピン拡散長I
SFに依存し、t
A/I
SFが0.1になる膜厚である。
これらのbcc型非磁性体(B2構造NiAl、FeAl、CoAl)などは電子スピンが緩和する距離が3〜8nm程度と短いため、単体の中間層として3nm以上の膜厚にしてしまうと非磁性体中におけるスピン緩和が著しくMR特性を劣化させる。なお、Ag、Cuは電子スピンが緩和する距離が200nm以上である。
【0033】
非磁性中間層15はB2構造挿入層15a、15bと良好な格子整合性を有するとともに、スピン緩和が小さな材料系(スピン拡散長が100nm以上)であれば代替が可能である。例えば、Cu、Al、AgZn、などである。
具体例は(001)配向した素子の結果であるが、上記条件を満たす挿入層(A)、中間層(B)であれば素子の成長結晶方位に依存せず(110)、(211)方位などでも同様の効果が得られることが期待できる。
【0034】
なお、本発明の実施の形態では単結晶CPP−GMR素子を製作した場合を説明しているが、本発明はこれに限られるものではなく、CPP−GMR素子は単結晶ばかりでなく多結晶でも同様な効果が得られる。また、CPP−GMR素子の非磁性中間層としてAg層を用いる場合を示しているが、本発明はこれに限られるものではなく、汎用のCu層やAl層等の非磁性金属層でもよい点は上述したとおりである。