特許第6654780号(P6654780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6654780
(24)【登録日】2020年2月4日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】磁気抵抗素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/39 20060101AFI20200217BHJP
   H01L 43/10 20060101ALI20200217BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
   G11B5/39
   H01L43/10
   H01L43/08 Z
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-229532(P2015-229532)
(22)【出願日】2015年11月25日
(65)【公開番号】特開2017-97935(P2017-97935A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年9月21日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、内閣府、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)、産業技術力強化法第19条の規定の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】鄭 鎮源
(72)【発明者】
【氏名】桜庭 裕弥
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 泰祐
(72)【発明者】
【氏名】宝野 和博
【審査官】 斎藤 眞
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−190914(JP,A)
【文献】 特開2010−212631(JP,A)
【文献】 特開2011−035336(JP,A)
【文献】 特開2010−080650(JP,A)
【文献】 特開2010−140524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/39
H01L 43/00−43/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板上に、第1の非磁性材料を成膜する工程と、
前記第1の非磁性材料を成膜した前記シリコン基板に、下部強磁性材料の層、第1のB2構造の挿入層、第2の非磁性材料の層、第2のB2構造の挿入層及び上部強磁性材料の層をこの順で有する巨大磁気抵抗効果層を成膜する工程であって、前記第1及び第2の挿入層の膜厚が0.15nm以上0.8nm未満であり、
前記巨大磁気抵抗効果層を成膜した前記シリコン基板を200℃以上600℃以下で熱処理する工程と、
を有することを特徴とする磁気抵抗素子の製造方法。
【請求項2】
MgO基板の表面洗浄をする工程と、
前記MgO基板の基板温度を300℃以上で加熱洗浄する工程と、
前記加熱洗浄したMgO基板上に、第1の非強磁性材料を前記基板温度で成膜する工程と、
前記第1の非強磁性材料を成膜した前記MgO基板に、下部強磁性材料の層、第1のB2構造の挿入層、第2の非強磁性材料の層、第2のB2構造の挿入層及び上部強磁性材料の層をこの順で有する巨大磁気抵抗効果層を成膜する工程であって、前記第1及び第2のB2構造の挿入層の膜厚が0.15nm以上0.8nm未満であり、
前記巨大磁気抵抗効果層を成膜した前記MgO基板を300℃以上600℃以下で熱処理する工程と、
を有することを特徴とする磁気抵抗素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面直電流巨大磁気抵抗素子(CPP−GMR)等の電極材料として用いて好適な強磁性薄膜を有する磁気抵抗素子に関し、特に次世代HDD用リードヘッド等に用いるのに好適な低抵抗・高磁気抵抗比の磁気抵抗素子に関する。
また、本発明は、上記の磁気抵抗素子の製造方法及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
面直電流巨大磁気抵抗(CPP−GMR;current perpendicular to plane−Giant magneto resistance)素子は強磁性層/非磁性層/強磁性層の積層膜をサブμm以下のサイズのピラー化させた構造を持つ。ピラーに対して電流を流した際、2つ強磁性層の磁化の相対角度によって電気抵抗が変化するため、磁場を電気的に検出することができる。そこで、面直通電巨大磁気抵抗(CPP−GMR)素子は、素子抵抗が小さいことから次世代HDD用リードヘッドなどへの応用が期待されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、CoFeなど一般的な強磁性体を利用した場合においては磁気抵抗(MR;magnetoresistance)比が3%程度であり(非特許文献1参照)、センサとしての感度が低いことが課題であった。ところが近年、高いスピン偏極率を有するCo基ホイスラー合金(CoMnSi、Co(Fe0.4Mn0.6)Si、CoFe(Ga0.5Ge0.5)など)を強磁性層とし、格子整合性の良いAg非磁性層を用いた(001)配向ホイスラー/Ag/ホイスラーエピタキシャルCPP−GMR素子で、30−60%ものMR比とΔRA=10mΩμmが実現された(非特許文献2−4参照)。このような低抵抗・高磁気抵抗比を有する磁気抵抗素子は他に例がなく、2Tbit/inch以上の面記録密度を有する次世代のハードディスクドライブ(HDD)用のリードヘッドなど様々な低抵抗スピントロニクスデバイスへ応用が大きな期待を集めている(特許文献2参照)。
【0004】
しかし、ホイスラー合金は体心立方格子(bcc;body-centered cubic lattice)構造、Agは面心立方格子(fcc;face-centered cubic lattice)構造であることに起因し、波数ベクトル(001)方向の電子構造の整合性が悪いという課題があると共に、ホイスラー合金電極の多数スピンバンドの電子がAg層界面で界面抵抗を受けやすいという課題がある(非特許文献5参照)。CPP−GMR素子における磁気抵抗特性は、素子を流れる多数スピン電子と少数スピン電子の受ける電気抵抗の差が大きいほど大きくなるため、多数スピン電子が大きな界面抵抗を受けることは磁気抵抗特性を下げる原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5245179号公報
【特許文献2】WO2012/093587A1
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yuasa et al., J. Appl. Phys. 92, 2646 (2002)
【非特許文献2】Y. Sakuraba, et al., Appl. Phys. Lett. 101, 252408 (2012)
【非特許文献3】Li et al., Appl. Phys. Lett. 103, 042405 (2013)
【非特許文献4】Du et al., Appl. Phys. Lett. 107, 112405 (2015)
【非特許文献5】Sakuraba et al., Phys. Rev. B 82, 094444 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するもので、ホイスラー合金を用いた巨大磁気抵抗素子を磁気ハードディスクの読取ヘッド等の実デバイスへ応用するのに必要とされる磁気抵抗特性が良好な巨大磁気抵抗素子を提供することを目的とする。
さらに本発明は、上記の巨大磁気抵抗素子の製造方法及びその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の磁気抵抗素子は、例えば図1に示すように、MgO基板またはシリコン基板(11)と、この基板11に積層された第1の非磁性層13と、当該基板11に積層されたCo基ホイスラー合金、Fe、CoFeから選ばれる一種からなる群から選ばれた少なくとも一種からなる下部強磁性層14及び上部強磁性層16、並びに下部強磁性層14と上部強磁性層16の間に設けられた第2の非磁性層15を有する巨大磁気抵抗効果層17とを備えると共に、巨大磁気抵抗効果層17は、下部強磁性層14と第2の非磁性層15の間に設けられた第1のB2構造の挿入層15aと、第2の非磁性層15と上部強磁性層16の間に設けられた第2のB2構造の挿入層15bとの少なくとも一方を有し、第1及び第2のB2構造挿入層(15a、15b)は、膜厚が0.15nm以上0.8nm未満であることを特徴とする。
【0009】
本発明の磁気抵抗素子において、好ましくは、第1の非磁性層13は、Ag、Cr、Fe、W、Mo、Au、Pt、Pd、Rh、Ta、NiFe及びNiAlからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。下部強磁性層14は、Co基ホイスラー合金、Fe、CoFeから選ばれる一種からなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。第2の非磁性層15はAg、Cu、Al、AgZnの一種からなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。第1及び第2のB2構造挿入層(15a、15b)はNiAl、CoAl、FeAlの一種からなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。上部強磁性層16は、Co基ホイスラー合金、Fe、CoFeの一種からなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。
本発明の磁気抵抗素子において、好ましくは、前記Co基ホイスラー合金は、式CoYZで表されると共に:式中、YはTi、V、Cr、MnおよびFeからなる群から選ばれた少なくとも一種からなり、ZはAl、Si、Ga、GeおよびSnからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。
【0010】
本発明の磁気抵抗素子において、好ましくは、下部強磁性層14は、膜厚が1nm以上10nm未満であり、第2の非磁性層15は、膜厚が1nm以上20nm未満であり、上部強磁性層16は、膜厚が1nm以上10nm未満であるとよい。
本発明の磁気抵抗素子において、好ましくは、MR比は20%以上であり、抵抗変化面積積(ΔRA)は10mΩμm以上であるとよい。
【0011】
本発明の磁気抵抗素子の製造方法は、例えば図2に示すように、Si基板上に第1の非磁性材料を成膜する工程と(S100)、前記第1の非磁性材料を成膜したSi基板に、下部強磁性材料の層14、第1のB2構造の挿入層15a、第2の非磁性材料の層15、第2のB2構造の挿入層15b及び上部強磁性材料の層16をこの順で有する巨大磁気抵抗効果層17を成膜する工程であって、第1及び第2の挿入層(15a、15b)の膜厚が0.15nm以上0.8nm未満であり(S102)、巨大磁気抵抗効果層17を成膜したSi基板を200℃以上600℃以下で熱処理する工程(S104)を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の磁気抵抗素子の製造方法は、例えば図3に示すように、MgO基板の表面洗浄をする工程と(S200)、MgO基板の基板温度を300℃以上で加熱洗浄する工程と(S202)、加熱洗浄したMgO基板上に、第1の非強磁性材料を前記の基板温度で成膜する工程と(S204)、第1の非強磁性材料を成膜したMgO基板に、下部強磁性材料の層14、第1のB2構造の挿入層15a、第2の非磁性材料の層15、第2のB2構造の挿入層15b及び上部強磁性材料の層16をこの順で有する巨大磁気抵抗効果層17を成膜する工程であって、第1及び第2のB2構造の挿入層(15a、15b)の膜厚が0.15nm以上0.8nm未満であり(S206)、巨大磁気抵抗効果層17を成膜したMgO基板を300℃以上600℃以下で熱処理する工程と(S208)を有することを特徴とする。
上記の磁気抵抗素子の製造方法であって、巨大磁気抵抗効果層17は第1のB2構造の挿入層、第2のB2構造の挿入層、又は第1のB2構造の挿入層と第2のB2構造の挿入層の両方を成膜するものであってもよい。
【0013】
本発明の磁気抵抗素子の使用方法は、上記の磁気抵抗素子を、記憶素子上で使用される読み出しヘッドに使用する方法である。
本発明の磁気抵抗素子の使用方法は、上記の磁気抵抗素子を、磁界センサとして使用する方法である。
本発明の磁気抵抗素子の使用方法は、上記の磁気抵抗素子を、スピン電子回路で使用する方法である。
本発明の磁気抵抗素子の使用方法は、上記の磁気抵抗素子を、TMRデバイスを製造するために使用する方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、巨大磁気抵抗効果層における二層のホイスラー合金強磁性層の間に位置する中間層として、B2構造挿入層と非磁性中間層で構成される非磁性の中間層が得られる。この非磁性の中間層では、ホイスラー合金の多数スピンバンドのバンド分散と類似した電子構造を有するbcc型の非磁性体金属が非磁性の中間層の両界面側に位置する。そこで、多数のスピンバンド電子が下部強磁性層と第1のB2構造の挿入層の界面、並びに第2のB2構造の挿入層と上部強磁性層の界面で、大きな界面抵抗を受けずに、巨大磁気抵抗効果層の両側の接合層の間で伝導できる。そこで、本発明の磁気抵抗素子によれば、CPP−GMR素子のMR特性を大きくすることができ、例えば次世代HDD用リードヘッド等に用いるのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の第1の実施形態を示す巨大磁気抵抗効果層を有する磁気抵抗素子の構成断面図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態を示すシリコン基板を用いた巨大磁気抵抗効果層を有する磁気抵抗素子の製造方法を説明するフローチャートである。
図3図3は、本発明の第2の実施形態を示すMgO基板を用いた巨大磁気抵抗効果層を有する磁気抵抗素子の製造方法を説明するフローチャートである。
図4図4は、本発明の一実施例を示すCPP−GMR素子の積層構造を示す構成図である。NiAl/Ag/NiAl 3層積層の中間層を用いた。
図5図5は、本発明の一実施例を示すCPP−GMR素子のRAのNiAl(tNiAl)膜厚依存性を示す図で、(A)はRA、(B)はΔRA、(C)はMR比を示している。
図6図6は、作製した素子の抵抗面積積(RA)と磁気抵抗(MR)比の説明図である。
図7図7は、本発明の一実施例を示すCPP−GMR積層膜の断面透過電子顕微鏡像と組成マッピングの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態を示す巨大磁気抵抗効果層を有する磁気抵抗素子の構成断面図である。図において、本実施形態の巨大磁気抵抗効果層を有する磁気抵抗素子10は、基板11、この基板11に積層された第1の非磁性層13、巨大磁気抵抗効果層17、及びキャップ層18を有している。巨大磁気抵抗効果層17は、下部強磁性層14及び上部強磁性層16、並びに当該下部強磁性層14と当該上部強磁性層16の間に設けられた第2の非磁性層15を有すると共に、第2の非磁性層15の下部強磁性層14側には第1のB2構造の挿入層15aが設けられ、第2の非磁性層15の上部強磁性層16側には第2のB2構造の挿入層15bが設けられている。なお、第1のB2構造の挿入層15aと第2のB2構造の挿入層15bは、両方設けられていても良く、また片方のみでもよい。
【0017】
基板11は、MgO基板またはシリコン基板であるとよい。基板11がシリコン基板の場合には、汎用の8インチのような大口径のSi基板を用いることができる。基板11がシリコン基板の場合には、第1の非磁性層13との間に、B2構造のB2構造の下地層12を設けるとよい。下地層12は、例えばNiAl、CoAl、FeAlの一種からなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。基板11がMgO基板の場合には、下地層12を設ける必要はないが、設けてもよい。
【0018】
第1の非磁性層13は、下部電極層としても作用するもので、Ag、Cr、Fe、W、Mo、Au、Pt、Pd、Rh、Ta、NiFe及びNiAlからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。第1の非磁性層13は、膜厚が0.5nm以上100nm未満であるとよい。第1の非磁性層13が100nm以上である場合、表面ラフネスが悪化し、また0.5nm未満の場合、連続的な膜を成さず下地層としての効果が得られず、本用途での必要な磁気抵抗比が得られない。
下部強磁性層14は、Co基ホイスラー合金、Fe、CoFeからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。下部強磁性層14は、膜厚が1nm以上10nm未満であるとよい。下部強磁性層14が10nm以上の場合、強磁性層中でのスピン緩和の影響が大きく、また1nm未満の場合、強磁性層中でのスピン非対称散乱の効果小さく、本用途での必要な磁気抵抗比が得られない。
【0019】
第1のB2構造の挿入層15aはNiAl、CoAl、FeAlの一種からなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。第1のB2構造の挿入層15aは、膜厚が0.15nm以上0.8nm未満であるとよい。膜厚が0.15nm未満の場合は、原子層の厚さとして1個分(ML)に相当するため、連続的な膜を成さず、膜厚が0.8nm超の場合は、原子層の厚さとして5個分(ML)に相当して、スピン緩和の影響が大きく、本用途での必要な磁気抵抗比が得られない。
第2の非磁性層15はAg、Cu、Al、AgZnの一種からなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。第2の非磁性層15は、膜厚が1nm以上20nm未満であるとよい。第2の非磁性層15の膜厚が20nm以上の場合、非磁性層中でのスピン緩和の影響が大きく、また1nm以下の場合、上部強磁性層16と下部強磁性層14の磁気的な結合が生まれ磁化相対角度が小さくなり、本用途での必要な磁気抵抗比が得られない。
第2のB2構造の挿入層15bはNiAl、CoAl、FeAlの一種からなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。第2のB2構造の挿入層15bは、膜厚が0.15nm以上0.8nm未満であるとよい。膜厚が0.15nm未満の場合は、原子層の厚さとして1個分に相当するため、連続的な膜を成さず、膜厚が0.8nm超の場合は、原子層の厚さとして5個分に相当して、スピン緩和の影響が大きく、本用途での必要な磁気抵抗比が得られない。
【0020】
上部強磁性層16は、Co基ホイスラー合金、FeおよびCoFeの一種からなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。上部強磁性層16は、膜厚が1nm以上10nm未満であるとよい。上部強磁性層16が10nm以上の場合、強磁性層中でのスピン緩和の影響が大きく、また1nm未満の場合、強磁性層中でのスピン非対称散乱の効果小さく、本用途での必要な磁気抵抗比が得られない。
上記のCo基ホイスラー合金は、式CoYZで表されると共に、式中、YはTi、V、Cr、MnおよびFeからなる群から選ばれた少なくとも一種からなり、ZはAl、Si、Ga、GeおよびSnからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。
キャップ層18は、Ag、Cr、W、Mo、Au、Pt、Pd、Ta、RuおよびRhからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。キャップ層18は、膜厚が1nm以上20nm未満であるとよい。
【0021】
次に、このように構成された装置の製造工程について説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態を示すシリコン基板を用いた巨大磁気抵抗効果層を有する磁気抵抗素子10の製造方法を説明するフローチャートで、(A)は全体の概括工程図、(B)は巨大磁気抵抗効果層の成膜工程の詳細図である。図において、シリコン基板11上に第1の非磁性材料を成膜する(S100)。次に、第1の非磁性材料を成膜したシリコン基板11に、下部強磁性材料の層14、第1のB2構造の挿入層15a、第2の非磁性材料の層15、第2のB2構造の挿入層15b及び上部強磁性材料の層16をこの順で有する巨大磁気抵抗効果層17を成膜する(S102)。この工程において、第1及び第2のB2構造の挿入層15a、15bの膜厚は0.15nm以上0.8nm未満とするのがよい。また、巨大磁気抵抗効果層17の積層体は単一でも良く、また複数個設けても良い。次に、巨大磁気抵抗効果層17を成膜したシリコン基板の上にキャップ層18を成膜する。最後に、巨大磁気抵抗効果層17とキャップ層18を成膜したシリコン基板を200℃以上600℃以下でポストアニールとして熱処理する(S104)。ポストアニールはキャップ層18を成膜する前に成膜装置内で行ってもよい。
【0022】
続いて、図2(B)を参照して、巨大磁気抵抗効果層の成膜工程の詳細を説明する。巨大磁気抵抗効果層17の成膜工程では、最初に下部強磁性材料の層14を成膜する(S122)。次に、第1のB2構造の挿入層15aを成膜する(S124)。そして、第2の非強磁性材料の層15を成膜する(S126)。続いて、第2のB2構造の挿入層15bを成膜する(S128)。最後に、上部強磁性材料の層16を成膜する(S130)。このようにして積層体としての巨大磁気抵抗効果層17の成膜が完了する。なお、巨大磁気抵抗効果層17を複数個設ける場合には、図2(B)の工程を適宜に繰り返すとよい。
【0023】
図3は、本発明の第2の実施形態を示すMgO基板を用いた巨大磁気抵抗効果層を有する磁気抵抗素子の製造方法を説明するフローチャートで、(A)は全体の概括工程図、(B)は巨大磁気抵抗効果層の成膜工程の詳細図である。図において、まずMgO基板上の表面洗浄をする(S200)。次に、MgO基板の基板温度を300℃以上で加熱洗浄する(S202)。そして、加熱洗浄したMgO基板上に、第1の非強磁性材料を前記の基板温度で成膜する(S204)。
次に、第1の非磁性材料を成膜したMgO基板に、下部強磁性材料の層14、第1のB2構造の挿入層15a、第2の非磁性材料の層15、第2のB2構造の挿入層15b及び上部強磁性材料の層16をこの順で有する巨大磁気抵抗効果層17を成膜する(S206)。この工程において、第1及び第2のB2構造の挿入層15a、15bの膜厚は0.15nm以上0.8nm未満とするのがよい。また、巨大磁気抵抗効果層17の積層体は単一でも良く、また複数個設けても良い。次に、巨大磁気抵抗効果層17を成膜したMgO基板の上にキャップ層18を成膜する。最後に、巨大磁気抵抗効果層17とキャップ層18を成膜したMgO基板を200℃以上600℃以下でポストアニールとして熱処理する(S208)。
【0024】
続いて、図3(B)を参照して、巨大磁気抵抗効果層の成膜工程の詳細を説明する。巨大磁気抵抗効果層17の成膜工程では、最初に下部強磁性材料の層14を成膜する(S222)。次に、第1のB2構造の挿入層15aを成膜する(S224)。そして、第2の非強磁性材料の層15を成膜する(S226)。続いて、第2のB2構造の挿入層15bを成膜する(S228)。最後に、上部強磁性材料の層16を成膜する(S230)。このようにして積層体としての巨大磁気抵抗効果層17の成膜が完了する。なお、巨大磁気抵抗効果層17を複数個設ける場合には、図3(B)の工程を適宜に繰り返すとよい。
【実施例】
【0025】
続いて、本発明の実施例について説明する。本発明は巨大磁気抵抗効果層を構成するホイスラー合金強磁性層と非磁性層の間に、ホイスラー合金電極の多数スピンバンドと類似した電子構造を有するB2(bcc)構造の非磁性挿入層を挿入したB2構造挿入層/非磁性中間層/B2構造挿入層で構成される3層構造の非磁性中間層を用いることによりMR比及びΔRAを改善させることを特徴とする。そこで、本発明を実施するに当たっては、非磁性中間層は、B2構造挿入層と高い格子整合性をもつとともに、十分に長いスピン緩和長を有する材料である必要がある。非磁性中間層の格子定数は、B2構造挿入層の格子定数に対して、格子不整合として5%以下がよく、さらに好ましくは3%以下がよく、最も好ましくは1%以下がよい。また非磁性中間層層のスピン緩和長の範囲は、30nm以上がよく、さらに好ましくは100nm以上がよく、最も好ましくは200nm以上がよい。
【0026】
以下、具体例としてB2−NiAl挿入層/Ag中間層/B2−NiAl挿入層の積層中間層を用いた結果を示す。
B2構造のNiAlは格子定数が0.288nmであり、CoFeGa0.5Ge0.5ホイスラー合金とAg中間層との格子不整合が3%以下と良好であるとともに、(001)方位に対してCoホイスラー合金の多数スピンバンドと類似したバンド分散を持つ。
【0027】
図4に作製したCPP−GMR素子の積層構造を示す。なお、図4において前記図1と同様の作用をするものには同一の符号を付して説明を省略する。図4において、作成した単結晶CPP−GMR素子は、MgO基板/Cr(5nm)/Ag(100nm)/CFGG(10nm)/NiAl(膜厚tNiAl)/Ag(5nm)/NiAl(膜厚tNiAl)/CFGG(10nm)/Ag(5nm)/Ru(8nm)と(001)配向したものである。ここで、tNiAlを0、1.5、3、4.5原子層(ML)で変化させた。単結晶CPP−GMR素子の熱処理は上部CFGG層を積層後に550℃で20分間行った。
ここで、上記のCr(5nm)は下地層12に相当し、Ag(5nm)/Ru(8nm)は二層のキャップ層18a、18bに相当している。
【0028】
図5は、作製した素子の抵抗面積積(RA)、ΔRA、磁気抵抗(MR)比のtNiAl依存性を示すもので、(A)はRA、(B)はΔRA、(C)はMR比を示している。第1のB2構造の挿入層15aと第2のB2構造の挿入層15bからなるtNiAlを挿入することにより、ΔRAが増大し、4.5ML挿入の素子において23mΩμm2が得られた。これはNiAl挿入のない試料(tNiAl=0ML)の2倍以上の値である。
【0029】
図6は、作製した素子の抵抗面積積(RA)と磁気抵抗(MR)比の説明図で、(A)は室温、(B)は10Kという低温側の測定値を示していると共に、横軸は磁場(mT)、縦軸は抵抗面積積(RA)と磁気抵抗(MR)比を示している。MR比は1.5MLで最大値をとり、室温で71%、10Kという低温側で285%が得られた。
【0030】
図7にNiAlを4.5ML挿入した試料の断面透過電子鏡像とEDSによる組成分析の結果を示すもので、(A)は断面透過電子鏡像、(B)はAgとCo、(C)はGe、(D)はGa、(E)はNi、(F)はAl、(G)は各組成元素Ag、Co、Ge、Ga、Ni及びAlの組成比率をグラフ化してある。図7(B)〜(F)では、各組成元素Ag、Co、Ge、Ga、Ni及びAlの分布を濃淡で表している。挿入したNiAl層はほぼ設計した膜厚で界面に存在しており、Ag中間層との大きな拡散も確認されなかった。従って、NiAl/Ag/NiAlの3層構造中間層が大きなΔRAとMR比に寄与していることが確認された。
【0031】
本発明の巨大磁気抵抗効果層は、B2構造挿入層15a、15bと非磁性中間層15で構成される非磁性層が二層のホイスラー合金強磁性層の間に位置している。そこで、本発明の巨大磁気抵抗効果層では、B2構造挿入層(A)と中間層(B)に関して以下の代替性が考えられる。
【0032】
B2構造挿入層はCo基ホイスラー合金の多数スピンバンドのバンド分散と類似した電子構造を有する非磁性体で代替が可能である。従って、NiAlと同様にB2構造を有する2元非磁性金属を用いることで代替可能であり、例えばFeAlやCoAlがある。
B2構造挿入層の膜厚tはレイヤー構造が得られる限界の膜厚が下限となり、およそ0.15nm(1ML)となる。一方、膜厚の上限はスピン拡散長ISFによる緩和の影響が顕著にならない程度となる。スピン緩和の影響で磁気抵抗特性はexp(-t/ISF)で減衰する。そこで、例えばNiAlのISFが8nmであるから、B2構造挿入層として有効に働く上限はexp(-t/ISF)〜0.9程度となる0.8nm(〜5ML)である。従ってB2構造挿入層15a、15bの膜厚上限は、挿入材料のスピン拡散長ISFに依存し、t/ISFが0.1になる膜厚である。
これらのbcc型非磁性体(B2構造NiAl、FeAl、CoAl)などは電子スピンが緩和する距離が3〜8nm程度と短いため、単体の中間層として3nm以上の膜厚にしてしまうと非磁性体中におけるスピン緩和が著しくMR特性を劣化させる。なお、Ag、Cuは電子スピンが緩和する距離が200nm以上である。
【0033】
非磁性中間層15はB2構造挿入層15a、15bと良好な格子整合性を有するとともに、スピン緩和が小さな材料系(スピン拡散長が100nm以上)であれば代替が可能である。例えば、Cu、Al、AgZn、などである。
具体例は(001)配向した素子の結果であるが、上記条件を満たす挿入層(A)、中間層(B)であれば素子の成長結晶方位に依存せず(110)、(211)方位などでも同様の効果が得られることが期待できる。
【0034】
なお、本発明の実施の形態では単結晶CPP−GMR素子を製作した場合を説明しているが、本発明はこれに限られるものではなく、CPP−GMR素子は単結晶ばかりでなく多結晶でも同様な効果が得られる。また、CPP−GMR素子の非磁性中間層としてAg層を用いる場合を示しているが、本発明はこれに限られるものではなく、汎用のCu層やAl層等の非磁性金属層でもよい点は上述したとおりである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の磁気抵抗素子は、磁気ハードディスクの読取ヘッド等の実デバイスへ応用するのに必要とされる磁気抵抗特性が良好なホイスラー合金を用いた巨大磁気抵抗素子であり、磁気ヘッド、磁界センサ、スピン電子回路、トンネル磁気抵抗デバイスのような実用デバイスに用いて好適である。
【符号の説明】
【0036】
11 シリコン基板、MgO基板
13 第1の非磁性層
14 下部強磁性層
15a B2構造の挿入層
15 第2の非磁性層
15b B2構造の挿入層
16 上部強磁性層
17 巨大磁気抵抗効果層
18 キャップ層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7