(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記負極は、SiとOとを構成元素に含む材料(ただし、Siに対するOの原子比xは、0.5≦x≦1.5である)と、黒鉛とを負極活物質として含有する負極合剤層を有している請求項4に記載の非水電解質二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の非水電解質二次電池用正極(以下、単に「正極」という)は、正極活物質、導電助剤およびバインダを含有する正極合剤層を有しており、例えば、前記正極合剤層が集電体の片面または両面に形成された構造を有している。
【0017】
本発明の正極は、正極活物質として、前記一般式(1)で表され、かつ特定の粒度を有するリチウム含有金属酸化物(A)を使用する。これにより、本発明の正極では、充電時の上限電圧を高めても、優れた充放電サイクル特性〔特に高温(40〜60℃程度)下での充放電サイクル特性〕を発揮し得る非水電解質二次電池を構成可能としている。
【0018】
リチウム含有金属酸化物(A)は、Ni、Co、Mnおよび元素M
1の全元素量を1としたときに、Coの割合bおよびMnの割合cを、それぞれ、0.1≦b≦0.2、0≦c≦0.2とし、かつ0.1≦b+c≦0.25として、その結晶格子中に、Coを存在させるか、または、CoおよびMnを存在させている。これにより、Liの脱離および挿入によってリチウム含有金属酸化物(A)の相転移が起こる際に、構造変化による不可逆反応がCoやMnの作用によって緩和されることから、空間群R3−mとして表されるリチウム含有金属酸化物(A)の層状の結晶構造の可逆性が向上する。
【0019】
また、リチウム含有金属酸化物(A)において、Coは、特に上限電圧を4.3V以上とする充電時において高温下での充放電サイクル特性向上に寄与する成分である。前記一般式(1)において、Coの量bは、前記の各効果を良好に確保する観点から、0.1以上、好ましくは0.12以上である。ただし、リチウム含有金属酸化物(A)中のCoの量が多すぎると、他の元素の量が少なくなって、これらによる効果を良好に確保し得ないため、前記一般式(1)におけるCoの量bは、0.2以下である。
【0020】
更に、リチウム含有金属酸化物(A)にはMnを含有させなくてもよいが、含有させる場合には、前記の効果を良好に確保する観点から、前記一般式(1)におけるMnの量cは、0.005以上であることが好ましい。ただし、リチウム含有金属酸化物(A)中のMnの量が多すぎると、他の元素の量が少なくなって、これらによる効果を良好に確保し得ないため、前記一般式(1)におけるMnの量bは、0.2以下であり、0.15以下であることが好ましい。
【0021】
また、リチウム含有金属酸化物(A)は、元素M
1として、Al、Ti、Sr、Zr、Nb、AgおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有しており、これらの元素を含有することによっても、その安定性を高めて、充放電サイクル特性や安全性が高い電池を構成可能な正極を得ることができる。元素M
1によるこのような効果を良好に確保する観点から、前記一般式(1)における元素M
1の量dは、0.003以上、好ましくは0.01以上である。ただし、リチウム含有金属酸化物(A)中の元素M
1の量が多すぎると、他の元素の量が少なくなって、これらによる効果を良好に確保し得ないため、前記一般式(1)における元素M
1の量dは、0.06以下であり、0.04以下であることが好ましい。
【0022】
更に、リチウム含有金属酸化物(A)は、Niを含有している。リチウム含有金属酸化物(A)の結晶格子中にNiを存在させると、電池の充放電でのLiの脱離および挿入がしやすくなり、リチウム含有金属酸化物(A)の容量を高めることができる。
【0023】
リチウム含有金属酸化物(A)を表す前記一般式(1)において、Niの量は、Coの量b、Mnの量cおよび元素M
1の量dを用いて「1−b−c−d」で表されるが、このNiの量「1−b−c−d」は、具体的には、0.69以上であることが好ましく、また、0.897以下であることが好ましい。
【0024】
また、リチウム含有金属酸化物(A)はMgを含有していてもよいが、Mgはリチウム含有金属酸化物(A)の容量減少を引き起こす作用が他の金属元素よりも強いため、その量を制限することが好ましい。具体的には、リチウム含有金属酸化物(A)を表す前記一般式(1)において、Mgの量eは、0.003以下であり、0.002以下であることが好ましい。また、リチウム含有金属酸化物(A)はMgを含有していなくてもよいため、前記一般式(1)におけるMgの量eの下限値は0である。
【0025】
リチウム含有金属酸化物(A)は、特に化学量論比に近い組成のときに、真密度と可逆性とを高めて、より高容量の材料とすることが可能となる。よって、リチウム含有金属酸化物(A)を表す前記一般式(1)において、Liの量aは、0.9以上1.10以下であり、これにより、リチウム含有金属酸化物(A)の真密度と可逆性とを高めることができる。
【0026】
リチウム含有金属酸化物(A)は、その全量100質量%中に、一次粒子径が0.5μm以上の粒子を50質量%以上、好ましくは70質量%以上、特に好ましくは100質量%含んでいる。一次粒子径が前記のように比較的大きな粒子を前記の量で含むリチウム含有金属酸化物(A)を使用することで、電池の高温下での充放電サイクル特性を高めることができる。なお、本発明の正極の製造に供されるリチウム含有金属酸化物(A)は、一次粒子径が0.5μm以上の粒子を前記特定量で含んでいれば、一次粒子の状態であってもよく、一次粒子が凝集した二次粒子の状態であってもよく、一次粒子と二次粒子とが混在した状態であってもよい。
【0027】
ただし、リチウム含有金属酸化物(A)の一次粒子径が大きすぎると、負荷特性が悪くなり、容量が低下する虞があることから、リチウム含有金属酸化物(A)中に含まれる粒子(一次粒子)のうちの、粒子径の最大値(一次粒子径の最大値)は、5μmであることが好ましい。
【0028】
本明細書でいうリチウム含有金属酸化物(A)の一次粒子径は、以下の方法(a)によって測定される値である。
【0029】
(a)正極合剤層内に存在するリチウム含有金属酸化物(A)の一次粒子径の測定方法
イオンミリングによって加工した正極(正極合剤層)の断面について、EDX装置を備えた走査型電子顕微鏡を用い、観察倍率500倍の条件でEDX装置によりマッピングを行い、Ni濃度の高い粒子について、更に元素分析によってリチウム含有金属酸化物(A)であることを特定する。そして、その視野に存在するリチウム含有金属酸化物(A)の粒子について、倍率5000倍の条件で拡大したときに、一次粒子の短径(一次粒子中の最大径となる部分に直交する部分の径)の長さを測定することによって一次粒子径を求める。ここで、リチウム含有金属酸化物(A)中の一次粒子径が0.5μm以上である粒子の割合は、前述の方法で測定したリチウム含有金属酸化物(A)の0.5μm以上の粒子の個数を、視野中の一次粒子の総個数で割ったものを百分率で表わして求め、また、一次粒子径の最大値は、その中で最も大きい一次粒子の径とする。なお、後述する実施例では、前記の走査型電子顕微鏡として日立ハイテクノロジーズ社製「S−3400N型走査電子顕微鏡」を用い、マッピング時の加速電圧を15kVとし、視野中のリチウム含有金属酸化物(A)の粒子の倍率5000倍での観察時の加速電圧を2kVとして、正極合剤層中のリチウム含有金属酸化物(A)の一次粒子径を求めた。
【0030】
なお、一次粒子径が0.5μm以上の粒子を50質量%以上含むリチウム含有金属酸化物(A)や、更には一次粒子径の最大値が前記好適値を満たすリチウム含有金属酸化物(A)を含有する正極合剤層は、下記(b)の方法により測定される一次粒子径が0.5μm以上の粒子を50質量%以上含むリチウム含有金属酸化物(A)や、更には下記(b)の方法により測定される一次粒子径の最大値が前記好適値を満たすリチウム含有金属酸化物(A)を使用することで、形成することができる。
【0031】
(b)正極合剤層の形成に使用するリチウム含有金属酸化物(A)の一次粒子径
リチウム含有金属酸化物(A)の粉体を一次粒子になるまで解砕し、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定することにより、正極合剤層の形成に使用するリチウム含有金属酸化物(A)中の一次粒子径が0.5μm以上である粒子の割合、およびリチウム含有金属酸化物(A)の一次粒子径の最大値を求める。なお、後述する実施例では、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置として日揮装社製の「マイクロトラックHRA」を使用し、リチウム含有金属酸化物(A)の粉体の解砕回数は、誤差を低減するために20回とした。
【0032】
リチウム含有金属酸化物(A)は、Li含有化合物(水酸化リチウムなど)、Ni含有化合物(硫酸ニッケルなど)、Co含有化合物(硫酸コバルトなど)、Mn含有化合物(硫酸マンガンなど)、元素M
1やMgを含有する化合物(酸化物、水酸化物、硫酸塩など)を混合し、この原料混合物を焼成するなどして製造することができる。
【0033】
なお、より高い純度でリチウム含有金属酸化物(A)を合成するには、Ni、Co、Mn、元素M
1およびMgのうちの複数の元素を含む複合化合物(水酸化物、酸化物など)と、他の原料化合物(Li含有化合物など)とを混合し、この原料混合物を焼成することが好ましい。
【0034】
リチウム含有金属酸化物(A)を合成するための原料混合物の焼成条件は、例えば、800〜1050℃で1〜24時間とすることができるが、一旦焼成温度よりも低い温度(例えば、250〜850℃)まで加熱し、その温度で保持することにより予備加熱を行い、その後に焼成温度まで昇温して反応を進行させることが好ましい。予備加熱の時間については特に制限はないが、通常、0.5〜30時間程度とすればよい。また、焼成時の雰囲気は、酸素を含む雰囲気(すなわち、大気中)、不活性ガス(アルゴン、ヘリウム、窒素など)と酸素ガスとの混合雰囲気、酸素ガス雰囲気などとすることができるが、その際の酸素濃度(体積基準)は、15%以上であることが好ましく、18%以上であることが好ましい。
【0035】
なお、リチウム含有金属酸化物(A)は、Niの含有量が多いことから、混入するアルカリ成分〔リチウム含有金属酸化物(A)の合成原料であるアルカリ成分のうちの未反応物やリチウム含有金属酸化物(A)の合成時に副生するアルカリ成分〕も多く、これが高温下や充電時に分解してガスを発生させ、電池を膨れさせて容量低下や高温下での充放電サイクル特性の低下を引き起こす虞がある。よって、本発明の正極においては、正極合剤層が含有する正極活物質の全量を100質量%としたとき、リチウム含有金属酸化物(A)の含有量が、80質量%以下、好ましくは40質量%以下であり、これにより、正極に含まれる前記のアルカリ成分の総量を減らして、高温下での充放電サイクル特性や容量の低下を抑えることを可能としている。
【0036】
また、本発明の正極においては、正極合剤層が含有する正極活物質の全量を100質量%としたとき、リチウム含有金属酸化物(A)の含有量が、5質量%以上、好ましくは10質量%以上であり、これにより、リチウム含有金属酸化物(A)の使用による前記の効果を良好に確保している。
【0037】
本発明の正極において、リチウム含有金属酸化物(A)と併用する正極活物質としては、LiCoO
2などのリチウムコバルト酸化物;LiMnO
2、Li
2MnO
3などのリチウムマンガン酸化物;リチウムニッケル酸化物〔前記一般式(1)で表されるもの、および前記一般式(1)で表されるものと、Ni含有量が同等以上のものを除く〕;LiMn
2O
4、Li
4/3Ti
5/3O
4などのスピネル構造のリチウム含有複合酸化物;LiFePO
4などのオリビン構造のリチウム含有金属酸化物;前記の酸化物を基本組成とし各種元素で置換した酸化物;などが挙げられる。
【0038】
このような正極活物質の中でも、下記一般式(2)で表されるリチウム含有金属酸化物(B)を、リチウム含有金属酸化物(A)と併用することが好ましい。リチウム含有金属酸化物(A)と下記一般式(2)で表されるリチウム含有金属酸化物(B)とを正極活物質として併用した正極を用いた非水電解質二次電池であれば、リチウム含有金属酸化物(A)を単独で使用した場合や、リチウム含有金属酸化物(B)を単独で使用した場合に比べて、上限電圧を4.3V以上とした場合の高温下での充放電サイクル特性が特に良好となる。
【0039】
Li
fCo
1−g−hM
2gM
3hO
2 (2)
【0040】
前記一般式(2)中、M
2は、Al、MgおよびErよりなる群から選択される少なくとも1種の元素で、M
3は、Zr、Ti、Ni、Mn、Na、Bi、Ca、F、P、Sr、W、Ba、Mo、V、Sn、Ta、NbおよびZnよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0.9≦f≦1.10、0.010≦g≦0.1、0≦h≦0.05、g+h≦0.12である。
【0041】
リチウム含有金属酸化物(B)において、元素M
2であるAl、MgおよびErは、電池の充放電に伴うCoの溶出を抑制して、特に上限電圧を4.3V以上とする充電時において高温下での充放電サイクル特性向上に寄与する成分である。リチウム含有金属酸化物(B)は、元素M
2としてAl、MgおよびErのうちの少なくとも1種を含有していればよいが、複数種含有していてもよい。
【0042】
元素M
2による前記の効果を良好に確保する観点から、前記一般式(2)における元素M
2の量gは、0.010以上であることが好ましく、0.014以上であることがより好ましい。ただし、リチウム含有金属酸化物(B)中の元素M
2の量が多すぎると、他の元素の量が少なくなって、これらによる効果を良好に確保し得ないため、前記一般式(2)における元素M
2の量gは、0.1以下であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましい。
【0043】
また、リチウム含有金属酸化物(B)には、元素M
3として、Zr、Ti、Ni、Mn、Na、Bi、Ca、F、P、Sr、W、Ba、Mo、V、Sn、Ta、NbおよびZnよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有させることもできる。これらの元素M
3も、特に上限電圧を4.3V以上とする充電時において高温下での充放電サイクル特性向上に寄与する。
【0044】
ただし、リチウム含有金属酸化物(B)中の元素M
3の量が多すぎると、他の元素の量が少なくなって、これらによる効果を良好に確保し得ないため、前記一般式(2)における元素M
3の量hは、0.05以下であることが好ましく、0.01以下であることがより好ましい。なお、リチウム含有金属酸化物(B)は元素M
3を含有していなくてもよいが、これらを含有させる場合には、元素M
3による前記の効果をより良好に確保する観点からは、前記一般式(2)における元素M
3の量hは、0.0005以上であることが好ましい。
【0045】
また、リチウム含有金属酸化物(B)において、Coは容量向上に寄与する成分であるため、元素M
2や元素M
3の量を制限し十分な量のCoを含有できるようにして、リチウム含有金属酸化物(B)の容量を大きく保つ観点から、前記一般式(2)における元素M
2の量gと元素M
3の量hとの合計g+hは、0.12以下であることが好ましい。
【0046】
リチウム含有金属酸化物(B)もリチウム含有金属酸化物(A)と同様に、特に化学量論比に近い組成のときに、真密度と可逆性とを高めて、より高容量の材料とすることが可能となる。よって、リチウム含有金属酸化物(B)を表す前記一般式(2)において、Liの量fは、0.9以上1.10以下であることが好ましく、これにより、リチウム含有金属酸化物(B)の真密度と可逆性とを高めることができる。
【0047】
リチウム含有金属酸化物(B)は、Li含有化合物(水酸化リチウムなど)、Co含有化合物(硫酸コバルトなど)、および元素M
2や元素M
3を含有する化合物(酸化物、水酸化物、硫酸塩など)を混合し、この原料混合物を焼成するなどして製造することができる。
【0048】
なお、より高い純度でリチウム含有金属酸化物(B)を合成するには、Co、元素M
2および元素M
3のうちの複数の元素を含む複合化合物(水酸化物、酸化物など)と、他の原料化合物(Li含有化合物など)とを混合し、この原料混合物を焼成することが好ましい。
【0049】
リチウム含有金属酸化物(B)を合成するための原料混合物の焼成条件は、例えば、800〜1050℃で1〜24時間とすることができるが、一旦焼成温度よりも低い温度(例えば、250〜850℃)まで加熱し、その温度で保持することにより予備加熱を行い、その後に焼成温度まで昇温して反応を進行させることが好ましい。予備加熱の時間については特に制限はないが、通常、0.5〜30時間程度とすればよい。また、焼成時の雰囲気は、酸素を含む雰囲気(すなわち、大気中)、不活性ガス(アルゴン、ヘリウム、窒素など)と酸素ガスとの混合雰囲気、酸素ガス雰囲気などとすることができるが、その際の酸素濃度(体積基準)は、15%以上であることが好ましく、18%以上であることが好ましい。
【0050】
正極合剤層における正極活物質の含有量は、94〜98質量%であることが好ましい。
【0051】
正極の導電助剤には、例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛などのグラファイト類;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカ−ボンブラック類;炭素繊維;などの炭素材料を用いることが好ましく、また、金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウムなどの金属粉末類;酸化亜鉛;チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料;などを用いることもできる。
【0052】
正極合剤層における導電助剤の含有量は、充電時における正極でのリチウムイオンの脱離スピードを抑制して、負極でのリチウムイオンの受け入れスピードとのバランスをより良好にし、電池の充放電に伴う負極表面でのリチウムデンドライトの発生を高度に抑制して、電池の充放電サイクル特性をより高める観点から、2.0質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましい。ただし、正極合剤層中の導電助剤の量が少なすぎると、正極合剤層中の導電性が低下して、電池の容量低下などを引き起こす虞があることから、正極合剤層における導電助剤の含有量は、0.5質量%を超えていることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。
【0053】
正極のバインダとしては、例えば、アクリロニトリル、アクリル酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2エチルヘキシルなど)およびメタクリル酸エステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなど)よりなる群から選択される少なくとも1種のモノマーを含む2種以上のモノマーにより形成されるコポリマー;水素化ニトリルゴム;PVDF;フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレンコポリマー(VDF−TFE);フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレンコポリマー(VDF−HFP−TFE);フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー(VDF−CTFE);などが挙げられ、これらのうちの1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
正極合剤層におけるバインダの含有量は、正極合剤層における正極活物質や導電助剤を良好に結着できるようにして、これらの正極合剤層からの脱離を防止し、この正極が用いられる電池の信頼性をより良好に高める観点から、1質量%以上であることが好ましい。ただし、正極合剤層中のバインダの量が多すぎると、正極活物質の量や導電助剤の量が少なくなって、高容量化の効果が小さくなる虞がある。よって、正極合剤層におけるバインダの含有量は、1.6質量%以下であることが好ましい。
【0055】
正極を作製するにあたっては、前記の正極活物質、導電助剤およびバインダなどを含む正極合剤を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの溶剤を用いて均一に分散させたペースト状やスラリー状の組成物を調製し(バインダは溶剤に溶解していてもよい)、この組成物を正極集電体表面に塗布して乾燥し、必要に応じてプレス処理により正極合剤層の厚みや密度を調整する方法が採用できる。ただし、本発明の正極の作製方法は前記の方法に限られず、他の方法を採用しても構わない。
【0056】
正極集電体の材質は、電池内において化学的に安定な電子伝導体であれば特に限定されない。例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、炭素、導電性樹脂などの他に、アルミニウム、アルミニウム合金またはステンレス鋼の表面に炭素層またはチタン層を形成した複合材などを用いることができる。このような材質で構成される正極集電体の中でも、アルミニウムやアルミニウム合金で構成された箔、フィルムなどが好ましい。
【0057】
正極集電体は、その厚みが、11μm以下、好ましくは10μm以下である。正極集電体を薄くすることで、非水電解質二次電池の内容積のうち、正極集電体によって占有される割合を可及的に小さくすることができるため、このような正極を用いて形成される非水電解質二次電池では、内部への非水電解質の導入量をより多くすることが可能となる。
【0058】
充電の上限電圧を4.3V以上に設定することで高容量化を図った場合には、非水電解質二次電池が充電された状態での正極の電位が非常に高くなるため、非水電解質の酸化分解が起こり、正極中の非水電解質が不足することにより、正極中に含まれる正極活物質の表層に分解生成物が堆積したり、粒子間のイオン伝導経路が減少したりし、これらが電池の充放電サイクル特性の低下の原因となる虞がある。しかしながら、前記のような薄い正極集電体を使用し、非水電解質二次電池の内部への非水電解質の導入量を多くした場合には、前記の問題の発生を抑えて、この問題の発生に起因する充放電サイクル特性の低下を抑制することができる。
【0059】
ただし、正極集電体が薄すぎると、強度が不足して正極や電池の生産性が損なわれる虞があることから、正極集電体の厚みは、6μm以上であることが好ましい。
【0060】
正極合剤層の厚みは、集電体の片面あたり、30〜80μmであることが好ましい。また、正極合剤層においては、より高容量とする観点から、充填率が75%以上であることが好ましい。ただし、正極合剤層の充填率が高すぎると、正極合剤層中の空孔が少なくなりすぎて、正極合剤層中への非水電解質(非水電解液)の浸透性が低下する虞があることから、その充填率は、83%以下であることが好ましい。正極合剤層の充填率は、下記式により求められる。
【0061】
充填率(%) = 100×(正極合剤層の実密度/正極合剤層の理論密度)
【0062】
正極合剤層の充填率を算出するための前記式における「正極合剤層の理論密度」とは、正極合剤層の各構成成分の密度と含有量とから算出される密度(正極合剤層中に空孔が存在しないものとして求めた密度)であり、「正極合剤層の実密度」とは、以下の方法により測定されるものである。まず、正極を1cm×1cmの大きさに切り取り、マイクロメータで厚み(l
1)を、精密天秤で質量(m
1)を測定する。次に、正極合剤層を削り取り、集電体のみを取り出して、その集電体の厚み(l
c)と質量(m
c)を正極と同様に測定する。得られた厚みと質量から、以下の式によって正極合剤層の実密度(d
ca)を求める(前記の厚みの単位はcm、質量の単位はgである)。
d
ca=(m
1−m
c)/(l
1−l
c)
【0063】
また、正極には、必要に応じて、非水電解質二次電池内の他の部材と電気的に接続するためのリード体を、常法に従って形成してもよい。
【0064】
本発明の非水電解質二次電池は、正極、負極、セパレータおよび非水電解質を備えており、正極として本発明の正極を有していればよく、その他の構成および構造については特に制限はなく、従来から知られている非水電解質二次電池に採用されている各構成および構造を適用することができる。
【0065】
本発明の非水電解質二次電池に係る負極には、例えば、負極活物質やバインダ、更には必要に応じて導電助剤などを含有する負極合剤層を、集電体の片面または両面に有する構造のものを使用することができる。
【0066】
負極活物質としては、例えば、黒鉛〔鱗片状黒鉛などの天然黒鉛;熱分解炭素類、メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などの易黒鉛化炭素を2800℃以上で黒鉛化処理した人造黒鉛;など〕、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、リチウムと合金化可能な金属(Si、Snなど)またはその合金、酸化物などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
【0067】
前記の負極活物質の中でも、特に非水電解質二次電池の高容量化を図るには、SiとOとを構成元素に含む材料(ただし、Siに対するOの原子比xは、0.5≦x≦1.5である。以下、当該材料を「SiO
x」という)を用いることが好ましい。また、このような高容量の負極活物質を使用することで、負極合剤層を薄くしつつ、電池の容量を大きくすることができる。
【0068】
SiO
xは、Siの微結晶または非晶質相を含んでいてもよく、この場合、SiとOの原子比は、Siの微結晶または非晶質相のSiを含めた比率となる。すなわち、SiO
xには、非晶質のSiO
2マトリックス中に、Si(例えば、微結晶Si)が分散した構造のものが含まれ、この非晶質のSiO
2と、その中に分散しているSiを合わせて、前記の原子比xが0.5≦x≦1.5を満足していればよい。例えば、非晶質のSiO
2マトリックス中に、Siが分散した構造で、SiO
2とSiのモル比が1:1の材料の場合、x=1であるので、構造式としてはSiOで表記される。このような構造の材料の場合、例えば、X線回折分析では、Si(微結晶Si)の存在に起因するピークが観察されない場合もあるが、透過型電子顕微鏡で観察すると、微細なSiの存在が確認できる。
【0069】
そして、SiO
xは、炭素材料と複合化した複合体であることが好ましく、例えば、SiO
xの表面が炭素材料で被覆されていることが望ましい。SiO
xは導電性が乏しいため、これを負極活物質として用いる際には、良好な電池特性確保の観点から、導電性材料(導電助剤)を使用し、負極内におけるSiO
xと導電性材料との混合・分散を良好にして、優れた導電ネットワークを形成する必要がある。SiO
xを炭素材料と複合化した複合体であれば、例えば、単にSiO
xと炭素材料などの導電性材料とを混合して得られた材料を用いた場合よりも、負極における導電ネットワークが良好に形成される。
【0070】
SiO
xと炭素材料との複合体としては、前記のように、SiO
xの表面を炭素材料で被覆したものの他、SiO
xと炭素材料との造粒体などが挙げられる。
【0071】
また、前記の、SiO
xの表面を炭素材料で被覆した複合体を、更に導電性材料(炭素材料など)と複合化して用いることで、負極において更に良好な導電ネットワークの形成が可能となるため、より高容量で、より電池特性(例えば、充放電サイクル特性)に優れたリチウム二次電池の実現が可能となる。炭素材料で被覆されたSiO
xと炭素材料との複合体としては、例えば、炭素材料で被覆されたSiO
xと炭素材料との混合物を更に造粒した造粒体などが挙げられる。
【0072】
また、表面が炭素材料で被覆されたSiO
xとしては、SiO
xとそれよりも比抵抗値が小さい炭素材料との複合体(例えば造粒体)の表面が、更に炭素材料で被覆されてなるものも、好ましく用いることができる。前記造粒体内部でSiO
xと炭素材料とが分散した状態であると、より良好な導電ネットワークを形成できるため、SiO
xを負極活物質として含有する負極を有する非水電解質二次電池において、重負荷放電特性などの電池特性を更に向上させることができる。
【0073】
SiO
xとの複合体の形成に用い得る前記炭素材料としては、例えば、低結晶性炭素、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維などの炭素材料が好ましいものとして挙げられる。
【0074】
前記炭素材料の詳細としては、繊維状またはコイル状の炭素材料、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラックを含む)、人造黒鉛、易黒鉛化炭素および難黒鉛化炭素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の材料が好ましい。繊維状またはコイル状の炭素材料は、導電ネットワークを形成し易く、かつ表面積の大きい点において好ましい。カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラックを含む)、易黒鉛化炭素および難黒鉛化炭素は、高い電気伝導性、高い保液性を有しており、更に、SiO
x粒子が膨張収縮しても、その粒子との接触を保持しやすい性質を有している点において好ましい。
【0075】
負極活物質としてSiO
xを使用する場合、後述するように黒鉛も負極活物質として併用することが好ましいが、この黒鉛を、SiO
xと炭素材料との複合体に係る炭素材料として使用することもできる。黒鉛も、カーボンブラックなどと同様に、高い電気伝導性、高い保液性を有しており、更に、SiO
x粒子が膨張収縮しても、その粒子との接触を保持し易い性質を有しているため、SiO
xとの複合体形成に好ましく使用することができる。
【0076】
前記例示の炭素材料の中でも、SiO
xとの複合体が造粒体である場合に用いるものとしては、繊維状の炭素材料が特に好ましい。繊維状の炭素材料は、その形状が細い糸状であり柔軟性が高いために電池の充放電に伴うSiO
xの膨張収縮に追従でき、また、嵩密度が大きいために、SiO
x粒子と多くの接合点を持つことができるからである。繊維状の炭素としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブなどが挙げられ、これらの何れを用いてもよい。
【0077】
繊維状の炭素材料は、例えば、気相法にてSiO
x粒子の表面に形成することもできる。
【0078】
SiO
xの比抵抗値が、通常、10
3〜10
7kΩcmであるのに対して、前記例示の炭素材料の比抵抗値は、通常、10
−5〜10kΩcmである。また、SiO
xと炭素材料との複合体は、粒子表面の炭素材料被覆層を覆う材料層(難黒鉛化炭素を含む材料層)を更に有していてもよい。
【0079】
負極にSiO
xと炭素材料との複合体を使用する場合、SiO
xと炭素材料との比率は、炭素材料との複合化による作用を良好に発揮させる観点から、SiO
x:100質量部に対して、炭素材料が、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましい。また、前記複合体において、SiO
xと複合化する炭素材料の比率が多すぎると、負極合剤層中のSiO
x量の低下に繋がり、高容量化の効果が小さくなる虞があることから、SiO
x:100質量部に対して、炭素材料は、50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましい。
【0080】
前記のSiO
xと炭素材料との複合体は、例えば下記の方法によって得ることができる。
【0081】
まず、SiO
xを複合化する場合の作製方法について説明する。SiO
xが分散媒に分散した分散液を用意し、それを噴霧し乾燥して、複数の粒子を含む複合粒子を作製する。分散媒としては、例えば、エタノールなどを用いることができる。分散液の噴霧は、通常、50〜300℃の雰囲気内で行うことが適当である。前記の方法以外にも、振動型や遊星型のボールミルやロッドミルなどを用いた機械的な方法による造粒方法においても、同様の複合粒子を作製することができる。
【0082】
なお、SiO
xと、SiO
xよりも比抵抗値の小さい炭素材料との造粒体を作製する場合には、SiO
xが分散媒に分散した分散液中に前記炭素材料を添加し、この分散液を用いて、SiO
xを複合化する場合と同様の手法によって複合粒子(造粒体)とすればよい。また、前記と同様の機械的な方法による造粒方法によっても、SiO
xと炭素材料との造粒体を作製することができる。
【0083】
次に、SiO
x粒子(SiO
x複合粒子、またはSiO
xと炭素材料との造粒体)の表面を炭素材料で被覆して複合体とする場合には、例えば、SiO
x粒子と炭化水素系ガスとを気相中にて加熱して、炭化水素系ガスの熱分解により生じた炭素を、粒子の表面上に堆積させる。このように、気相成長(CVD)法によれば、炭化水素系ガスが複合粒子の隅々にまで行き渡り、粒子の表面や表面の空孔内に、導電性を有する炭素材料を含む薄くて均一な皮膜(炭素材料被覆層)を形成できることから、少量の炭素材料によってSiO
x粒子に均一性よく導電性を付与できる。
【0084】
炭素材料で被覆されたSiO
xの製造において、気相成長(CVD)法の処理温度(雰囲気温度)については、炭化水素系ガスの種類によっても異なるが、通常、600〜1200℃が適当であり、中でも、700℃以上であることが好ましく、800℃以上であることが更に好ましい。処理温度が高い方が不純物の残存が少なく、かつ導電性の高い炭素を含む被覆層を形成できるからである。
【0085】
炭化水素系ガスの液体ソースとしては、トルエン、ベンゼン、キシレン、メシチレンなどを用いることができるが、取り扱いやすいトルエンが特に好ましい。これらを気化させる(例えば、窒素ガスでバブリングする)ことにより炭化水素系ガスを得ることができる。更に、メタンガスやアセチレンガスなどを用いることもできる。
【0086】
また、気相成長(CVD)法にてSiO
x粒子(SiO
x複合粒子、またはSiO
xと炭素材料との造粒体)の表面を炭素材料で覆った後に、石油系ピッチ、石炭系のピッチ、熱硬化性樹脂、およびナフタレンスルホン酸塩とアルデヒド類との縮合物よりなる群から選択される少なくとも1種の有機化合物を、炭素材料を含む被覆層に付着させた後、前記有機化合物が付着した粒子を焼成してもよい。
【0087】
具体的には、炭素材料で被覆されたSiO
x粒子(SiO
x複合粒子、またはSiO
xと炭素材料との造粒体)と、前記有機化合物とが分散媒に分散した分散液を用意し、この分散液を噴霧し乾燥して、有機化合物によって被覆された粒子を形成し、その有機化合物によって被覆された粒子を焼成する。
【0088】
前記ピッチとしては等方性ピッチを、熱硬化性樹脂としてはフェノール樹脂、フラン樹脂、フルフラール樹脂などを用いることができる。ナフタレンスルホン酸塩とアルデヒド類との縮合物としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物を用いることができる。
【0089】
炭素材料で被覆されたSiO
x粒子と前記有機化合物とを分散させるための分散媒としては、例えば、水、アルコール類(エタノールなど)を用いることができる。分散液の噴霧は、通常、50〜300℃の雰囲気内で行うことが適当である。焼成温度は、通常、600〜1200℃が適当であるが、中でも700℃以上が好ましく、800℃以上であることが更に好ましい。処理温度が高い方が不純物の残存が少なく、かつ導電性の高い良質な炭素材料を含む被覆層を形成できるからである。ただし、処理温度はSiO
xの融点以下であることを要する。
【0090】
負極活物質にSiO
x(好ましくはSiO
xと炭素材料との複合体)を使用する場合には、黒鉛も併用することが好ましい。SiO
xは、非水電解質二次電池の負極活物質として汎用されている炭素材料に比べて高容量である一方で、電池の充放電に伴う体積変化量が大きいため、SiO
xの含有量の高い負極合剤層を有する負極を用いた非水電解質二次電池では、充放電の繰り返しによって負極(負極合剤層)が大きく体積変化して劣化し、容量が低下する(すなわち充放電サイクル特性が低下する)虞がある。黒鉛は、非水電解質二次電池の負極活物質として汎用されており、比較的容量が大きい一方で、電池の充放電に伴う体積変化量がSiO
xに比べて小さい。よって、負極活物質にSiO
xと黒鉛とを併用することで、SiO
xの使用量の低減に伴って電池の容量向上効果が小さくなることを可及的に抑制しつつ、電池の充放電サイクル特性の低下を良好に抑えることができることから、より高容量であり、かつ充放電サイクル特性に優れた非水電解質二次電池とすることが可能となる。
【0091】
前記のSiO
xと共に負極活物質として使用する黒鉛としては、例えば、鱗片状黒鉛などの天然黒鉛;熱分解炭素類、メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などの易黒鉛化炭素を2800℃以上で黒鉛化処理した人造黒鉛;などが挙げられる。
【0092】
負極活物質にSiO
xと炭素材料との複合体と、黒鉛とを併用する場合、SiO
xを使用することによる高容量化の効果を良好に確保する観点から、全負極活物質中におけるSiO
xと炭素材料との複合体の含有量が、0.01質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。また、充放電に伴うSiO
xの体積変化による問題をより良好に回避する観点から、全負極活物質中におけるSiO
xと炭素材料との複合体の含有量が、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
【0093】
負極のバインダには、正極に使用し得るものとして先に例示したものと同じものや、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレン−アクリル酸共重合体または該共重合体のNa
+イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸共重合体または該共重合体のNa
+イオン架橋体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体または該共重合体のNa
+イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体または該共重合体のNa
+イオン架橋体などが使用できる。また、負極の導電助剤には、正極に使用し得るものとして先に例示したものと同じものが使用できる。
【0094】
負極は、例えば、負極活物質およびバインダ、更には必要に応じて使用される導電助剤を、NMPや水などの溶剤に分散させたペースト状やスラリー状の負極合剤含有組成物を調製し(ただし、バインダは溶剤に溶解していてもよい)、これを集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダー処理などのプレス処理を施す工程を経て製造される。ただし、負極は、前記の製造方法で製造されたものに限定される訳ではなく、他の方法で製造したものであってもよい。
【0095】
また、負極には、必要に応じて、非水電解質二次電池内の他の部材と電気的に接続するためのリード体を、常法に従って形成してもよい。
【0096】
負極合剤層の厚みは、例えば、集電体の片面あたり10〜100μmであることが好ましい。また、負極合剤層の組成としては、例えば、負極活物質を80.0〜99.8質量%とし、バインダを0.1〜10質量%とすることが好ましい。更に、負極合剤層に導電助剤を含有させる場合には、負極合剤層における導電助剤の量を0.1〜10質量%とすることが好ましい。
【0097】
負極の集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、銅箔が用いられる。この負極集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は30μmであることが好ましく、機械的強度を確保するために下限は5μmであることが望ましい。
【0098】
非水電解質としては、例えば、下記の溶媒中に、リチウム塩を溶解させることで調製した溶液(非水電解液)が使用できる。
【0099】
溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、γ−ブチロラクトン(γ-
BL)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、燐酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、ジエチルエーテル、1,3−プロパンサルトンなどの非プロトン性有機溶媒を1種単独で、または2種以上を混合した混合溶媒として用いることができる。
【0100】
非水電解液に係るリチウム塩としては、例えば、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiSbF
6、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、Li
2C
2F
4(SO
3)
2、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiC
nF
2n+1SO3(n≧2)、LiN(RfOSO
2)
2〔ここでRfはフルオロアルキル基〕などのリチウム塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらのリチウム塩の非水電解液中の濃度としては、0.6〜1.8mol/lとすることが好ましく、0.9〜1.6mol/lとすることがより好ましい。
【0101】
非水電解質二次電池に使用する非水電解質には、充放電サイクル特性の更なる改善や、高温貯蔵性や過充電防止などの安全性を向上させる目的で、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、無水酸、スルホン酸エステル、ジニトリル、1,3−プロパンサルトン、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、t−ブチルベンゼンなどの添加剤(これらの誘導体も含む)を適宜加えることもできる。
【0102】
更に、非水電解質二次電池の非水電解質には、前記の非水電解液に、ポリマーなどの公知のゲル化剤を添加してゲル化したもの(ゲル状電解質)を用いることもできる。
【0103】
本発明の非水電解質二次電池内では、前記正極と前記負極との間に、前記の非水電解質を含ませたセパレータが配される。セパレータとしては、大きなイオン透過度および所定の機械的強度を有する絶縁性の微多孔性薄膜が用いられる。また、一定温度以上(例えば100〜140℃)で構成材料の溶融によって孔が閉塞し、抵抗を上げる機能を有するもの(すなわち、シャットダウン機能を有するもの)が好ましい。
【0104】
このようなセパレータの具体例としては、耐有機溶剤性および疎水性を有するポリエチレン、ポリプロピレンなどポリオレフィン系ポリマー、またはガラス繊維などの材料で構成されるシート(多孔質シート)、不織布若しくは織布;前記例示のポリオレフィン系ポリマーの微粒子を接着剤で固着した多孔質体;などが挙げられる。
【0105】
セパレータの孔径は、正負極より脱離した正負極の活物質、導電助剤およびバインダなどが通過しない程度であることが好ましく、例えば、0.01〜1μmであることが望ましい。セパレータの厚みは、8〜30μmとすることが一般的であるが、本発明では、10〜20μmとすることが好ましい。また、セパレータの空孔率は、構成材料や厚みに応じて決定されるが、30〜80%であることが一般的である。
【0106】
本発明の非水電解質二次電池において、本発明の正極と前記の負極とは、前記のセパレータを介して積層した積層電極体、または前記のセパレータを介して積層した後、渦巻状に巻回して形成した巻回電極体として使用される。
【0107】
本発明の非水電解質二次電池は、例えば、積層電極体や巻回電極体を外装体内に装填し、更に外装体内に非水電解質を注入して非水電解質中に電極体を浸漬させた後、外装体の開口部を封止することで製造される。外装体には、スチール製やアルミニウム製、アルミニウム合金製の筒形(角筒形や円筒形など)の外装缶や、金属を蒸着したラミネートフィルムで構成される外装体などを用いることができる。
【0108】
本発明の非水電解質二次電池は、従来の非水電解質二次電池と同様に、充電時の上限電圧を4.2V程度に設定して使用することも可能であるが、これより高い4.3V以上を上限電圧とする充電を行う方法で使用してもよく、このような方法で使用しても、良好な充放電サイクル特性(特に高温下での充放電サイクル特性)を発揮できる。よって、本発明の非水電解質二次電池は、充電時の上限電圧を高めて高容量化を図りつつ、このような条件での充電と放電とを繰り返し実施しても、長期にわたって大きな容量を維持することが可能である。なお、本発明の非水電解質二次電池の充電の上限電圧は、4.7V以下であることが好ましい。
【0109】
本発明の非水電解質二次電池のシステムは、本発明の非水電解質二次電池と充電装置とを備えており、前記非水電解質二次電池に対し、前記充電装置により加えられる電圧の上限値が4.3V以上(好ましくは4.7V以下)となる条件で充電するものである。かかるシステムによって、本発明の非水電解質二次電池のより大きな容量での使用が可能となる。本発明の非水電解質二次電池のシステムに係る充電装置については、上限電圧を4.3V以上(好ましくは4.7V以下)とする条件で本発明の非水電解質二次電池の充電を実施可能なものであればよく、従来から知られている非水電解質二次電池用の充電装置、例えば、定電流充電後に定電圧充電を行うことのできる充電装置や、パルス充電を行うことのできる充電装置などを使用することができる。
【0110】
本発明の非水電解質二次電池は、高容量であり、充放電サイクル特性(特に高温下での充放電サイクル特性)が優れていることから、こうした特性が特に要求される用途をはじめとして、従来から知られている非水電解質二次電池が採用されている各種用途に好ましく適用することができる。
【実施例】
【0111】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0112】
実施例1
<正極の作製>
正極活物質であるLiNi
0.78Co
0.20Al
0.02O
2〔リチウム含有金属酸化物(A)、前記(b)の測定方法で求めた一次粒子径が0.5μm以上の粒子の割合が50質量%で、最大の一次粒子の粒子径が2μm〕とLiCo
0.984Al
0.008Mg
0.006Ti
0.001Zr
0.001O
2〔リチウム含有金属酸化物(B)〕との混合物(質量比20:80):97.3質量部、導電助剤(カーボンブラックおよび黒鉛で、使用比率が質量比で80:20):1.5質量部およびバインダであるPVDF:1.2質量部を混合して正極合剤とし、この正極合剤に、溶剤であるNMPを加え、エム・テクニック社製の「クレアミックス CLM0.8(商品名)」を用いて、回転数:10000min
−1で30分間処理を行い、ペースト状の混合物とした。この混合物に、溶剤であるNMPを更に加えて、回転数:10000min
−1で15分間処理を行い、正極合剤含有組成物を調製した。
【0113】
前記の正極合剤含有組成物を、集電体であるアルニミウム合金箔(厚み:10.0μm)の両面に塗布し、80℃で12時間真空乾燥を施し、更にプレス処理を施して、集電体の両面に、厚みが56μmの正極合剤層を有する正極を作製した。前記の方法によって求めたプレス処理後の正極合剤層の密度(実密度)は3.85g/cm
3であり、充填率は77.7%であった。
【0114】
なお、得られた正極の一部からリチウム含有金属酸化物(A)の一次粒子径測定用のサンプルを取り、前記(a)の方法で、リチウム含有金属酸化物(A)中の一次粒子径が0.5μm以上の粒子の割合、および最大の一次粒子の粒子径(一次粒子径の最大値)を求めた。
【0115】
<負極の作製>
天然黒鉛:97.5質量%、SBR:1.5質量%、およびカルボキシメチルセルロース(CMC、増粘剤):1質量%を、水を用いて混合してスラリー状の負極合剤含有組成物を調製した。この負極合剤含有組成物を、集電体である銅箔(厚み:8μm)の両面に塗布し、120℃で12時間真空乾燥を施し、更にプレス処理を施して、集電体の両面に、厚みが63μmの負極合剤層を有する負極を作製した。
【0116】
<電極体の作製>
前記の正極と負極とをセパレータ(厚みが17μmで、透気度が300秒/100cm
3のポリエチレン製多孔膜)を介して重ね合わせ、渦巻状に巻回した後、横断面が扁平状になるように押しつぶして扁平状巻回電極体を作製した。
【0117】
<非水電解液の調製>
メチルエチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチレンカーボネートとの混合溶媒(体積比 0.5:2:1)に、1.2mol/lの濃度でLiPF
6を溶解し、これにLiBF
4:0.05質量%、ビニレンカーボネート:2質量%、プロパンスルトン:0.2質量%を加えて非水電解液(非水電解質)を調製した。
【0118】
<電池の組み立て>
外寸が厚さ3.75mm、幅52.8mm、高さ61.3mmのアルミニウム合金製の角形の電池ケースに前記の電極体を挿入し、リード体の溶接を行うとともに、アルミニウム合金製の蓋板を電池ケースの開口端部に溶接した。その後、蓋板に設けた注入口から前記の非水電解液を注入し、1時間静置した後注入口を封止して、
図1に示す構造で、
図2に示す外観の角形非水電解質二次電池を作製した。
【0119】
図1はその部分断面図であって、正極1と負極2はセパレータ3を介して渦巻状に巻回した後、扁平状になるように加圧して扁平状巻回電極体6として、角形(角筒形)の外装缶4に非水電解液共に収容されている。ただし、
図1では、煩雑化を避けるため、正極1や負極2の作製にあたって使用した集電体としての金属箔や非水電解液などは図示していない。
【0120】
電池ケース4はアルミニウム合金製で電池の外装体を構成するものであり、この外装缶4は正極端子を兼ねている。そして、電池ケース4の底部にはポリエチレンシートからなる絶縁体5が配置され、正極1、負極2およびセパレータ3からなる扁平状巻回電極体6からは、正極1および負極2のそれぞれ一端に接続された正極リード体7と負極リード体8が引き出されている。また、電池ケース4の開口部を封口するアルミニウム合金製の封口用蓋板9にはポリプロピレン製の絶縁パッキング10を介してステンレス鋼製の端子11が取り付けられ、この端子11には絶縁体12を介してステンレス鋼製のリード板13が取り付けられている。
【0121】
そして、この蓋板9は電池ケース4の開口部に挿入され、両者の接合部を溶接することによって、電池ケース4の開口部が封口され、電池内部が密閉されている。また、
図1の電池では、蓋板9に非水電解液注入口14が設けられており、この非水電解液注入口14には、封止部材が挿入された状態で、例えばレーザー溶接などにより溶接封止されて、電池の密閉性が確保されている。更に、蓋板9には、電池の温度が上昇した際に内部のガスを外部に排出する機構として、開裂ベント15が設けられている。
【0122】
この実施例1の電池では、正極リード体7を蓋板9に直接溶接することによって電池ケース4と蓋板9とが正極端子として機能し、負極リード体8をリード板13に溶接し、そのリード板13を介して負極リード体8と端子11とを導通させることによって端子11が負極端子として機能するようになっているが、電池ケース4の材質などによっては、その正負が逆になる場合もある。
【0123】
図2は前記
図1に示す電池の外観を模式的に示す斜視図であり、この
図2は前記電池が角形電池であることを示すことを目的として図示されたものであって、この
図1では電池を概略的に示しており、電池の構成部材のうち特定のものしか図示していない。また、
図1においても、電極体の内周側の部分は断面にしていない。
【0124】
実施例2
リチウム含有金属酸化物(A)を、LiNi
0.82Co
0.15Al
0.03O
2〔一次粒子径が0.5μm以上の粒子の割合が50質量%で、最大の一次粒子の粒子径が2μm〕に変更した以外は、実施例1と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。
【0125】
実施例3
リチウム含有金属酸化物(A)を、LiNi
0.75Co
0.10Mn
0.14Al
0.01O
2〔一次粒子径が0.5μm以上の粒子の割合が50質量%で、最大の一次粒子の粒子径が2μm〕に変更した以外は、実施例1と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。
【0127】
実施例5
リチウム含有金属酸化物(A)を、LiNi
0.80Co
0.10Mn
0.097Nb
0.003O
2〔一次粒子径が0.5μm以上の粒子の割合が50質量%で、最大の一次粒子の粒子径が2μm〕に変更した以外は、実施例1と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。
【0128】
実施例6
リチウム含有金属酸化物(A)を、一次粒子径が0.5μm以上の粒子の割合が80質量%で、最大の一次粒子の粒子径が3μmのものに変更した以外は、実施例1と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。
【0129】
実施例7
リチウム含有金属酸化物(A)を、一次粒子径が0.5μm以上の粒子の割合が100質量%で、最大の一次粒子の粒子径が4μmのものに変更した以外は、実施例1と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。
【0130】
実施例8
リチウム含有金属酸化物(A)を、一次粒子径が0.5μm以上の粒子の割合が100質量%で、最大の一次粒子の粒子径が5μmのものに変更した以外は、実施例1と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。
【0131】
実施例9
リチウム含有金属酸化物(A)とリチウム含有金属酸化物(B)との混合比を、質量比で5:95に変更した以外は、実施例1と同様にして正極を作製した。また、負極合剤層の厚みを72μmに変更した以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。そして、前記の正極と前記の負極とを用いた以外は、実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。前記の方法によって求めたプレス処理後の正極合剤層の密度(実密度)は3.90g/cm
3であり、充填率は78.4%であった。
【0132】
実施例10
リチウム含有金属酸化物(A)とリチウム含有金属酸化物(B)との混合比を、質量比で40:60に変更し、正極合剤層の厚みを57μmにした以外は実施例1と同様にして正極を作製した。また、負極合剤層の厚みを72μmに変更した以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。そして、前記の正極と前記の負極とを用いた以外は、実施例1と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。前記の方法によって求めたプレス処理後の正極合剤層の密度(実密度)は3.80g/cm
3であり、充填率は77.3%であった。
【0133】
実施例11
正極合剤含有組成物の調製に使用する正極活物質の量を96.5質量部とし、導電助剤の量を2質量部とし、バインダの量を1.5質量部とした以外は、実施例1と同様にして正極を作製した。また、負極合剤層の厚みを72μmに変更した以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。そして、前記の正極と前記の負極とを用いた以外は、実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。前記の方法によって求めたプレス処理後の正極合剤層の密度(実密度)は3.83g/cm
3であり、充填率は77.8%であった。
【0134】
実施例12
正極合剤含有組成物の調製に使用する正極活物質の量を98.7質量部とし、導電助剤にカーボンブラックのみを使用して、その量を0.5質量部とし、バインダの量を0.8質量部とした以外は、実施例1と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。前記の方法によって求めたプレス処理後の正極合剤層の密度(実密度)は3.87g/cm
3であり、充填率は77.3%であった。
【0135】
実施例13
負極活物質である平均粒子径d
50が8μmであるSiO表面を炭素材料で被覆した複合体(複合体における炭素材料の量が10質量%。以下、SiO/炭素材料複合体という。)と、平均粒子径d
50が16μmである黒鉛とを、SiO/炭素材料複合体の量が1.5質量%となる量で混合した混合物:97.5質量部と、結着剤であるSBR:1.5質量部と、増粘剤であるCMC:1質量部とに、水を加えて混合し、スラリー状の負極合剤含有組成物を調製した。この負極合剤含有組成物を、集電体である銅箔(厚み:8μm)の両面に塗布し、120℃で12時間真空乾燥を施し、更にプレス処理を施して、集電体の両面に、厚みが72μmの負極合剤層を有する負極を作製した。
【0136】
また、集電体の片面あたりの正極合剤層の厚みを58μmに変更した以外は、実施例1と同様にして正極を作製した。そして、この正極と前記の負極を用いた以外は、実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。
【0137】
実施例14
負極活物質として使用する混合物を、SiO/炭素材料複合体の量が3.0質量%のものに変更し、集電体の片面あたりの負極合剤層の厚みを71μmに変更した以外は、実施例13と同様にして負極を作製した。また、集電体の片面あたりの正極合剤層の厚みを59μmに変更した以外は、実施例1と同様にして正極を作製した。そして、この正極と前記の負極とを用いた以外は、実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。
【0138】
実施例15
正極合剤層の厚みを58μmにした以外は実施例10と同様にして正極を作製した。そして、この正極を用いた以外は実施例14と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。
【0139】
実施例16
リチウム含有金属酸化物(A)を、一次粒子径が0.5μm以上の粒子の割合が100質量%で、最大の一次粒子の粒子径が4μmのものに変更し、このリチウム含有金属酸化物(A)とリチウム含有金属酸化物(B)との混合比を質量比で60:40に変更し、正極合剤層の厚みを58μmにした以外は、実施例1と同様にして正極を作製した。また、負極合剤層の厚みを72μmに変更した以外は、実施例14と同様にして負極を作製した。そして、前記の正極と前記の負極とを用いた以外は、実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。前記の方法によって求めたプレス処理後の正極合剤層の密度(実密度)は3.75g/cm
3であり、充填率は76.9%であった。
【0140】
実施例17
リチウム含有金属酸化物(A)を、一次粒子径が0.5μm以上の粒子の割合が100質量%で、最大の一次粒子の粒子径が5μmのものに変更し、このリチウム含有金属酸化物(A)とリチウム含有金属酸化物(B)との混合比を質量比で80:20に変更し、正極合剤層の厚みを58μmにした以外は実施例1と同様にして正極を作製した。また、負極合剤層の厚みを72μmに変更した以外は、実施例14と同様にして負極を作製した。そして、前記の正極と前記の負極とを用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。前記の方法によって求めたプレス処理後の正極合剤層の密度(実密度)は3.70g/cm
3であり、充填率は75.9%であった。
【0141】
比較例1
リチウム含有金属酸化物(A)に代えてLiNi
0.47Co
0.019Mn
0.29Mg
0.05O
2を用い、集電体の片面あたりの正極合剤層の厚みを58μmに変更した以外は、実施例1と同様にして正極を作製した。また、集電体の片面あたりの負極合剤層の厚みを72μmに変更した以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。そして、この負極と前記の正極とを用いた以外は、実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。前記の方法によって求めたプレス処理後の正極合剤層の密度(実密度)は3.80g/cm
3であり、充填率は77.3%であった。
【0142】
比較例2
リチウム含有金属酸化物(A)に代えてLiNi
0.91Co
0.03Mn
0.02Al
0.02Mg
0.02O
2を用いた以外は、実施例1と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。
【0143】
比較例3
リチウム含有金属酸化物(A)に代えて、LiNi
0.78Co
0.20Al
0.02O
2で、一次粒子径が0.5μm以上の粒子の割合が30質量%であり、最大の一次粒子の粒子径が1μmのものを使用した以外は、実施例1と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。
【0144】
比較例4
リチウム含有金属酸化物(B)に代えてLiCo
0.992Mg
0.006Ti
0.001Zr
0.001O
2を用いた以外は比較例3と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。
【0145】
比較例5
正極活物質をリチウム含有金属酸化物(B)であるLiCo
0.984Al
0.008Mg
0.006Ti
0.001Zr
0.001O
2のみに変更し、集電体の片面あたりの正極合剤層の厚みを55μmに変更した以外は、実施例1と同様にして正極を作製した。また、集電体の片面あたりの負極合剤層の厚みを72μmに変更した以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。そして、この負極と前記の正極とを用いた以外は、実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。前記の方法によって求めたプレス処理後の正極合剤層の密度(実密度)は3.95g/cm
3であり、充填率は79.0%であった。
【0146】
比較例6
正極活物質を、リチウム含有金属酸化物(A)であるLiNi
0.78Co
0.20Al
0.02O
2のみに変更し、集電体の片面あたりの正極合剤層の厚みを57μmに変更した以外は、実施例1と同様にして正極を作製した。また、集電体の片面あたりの負極合剤層の厚みを76μmに変更した以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。そして、この負極と前記の正極とを用いた以外は、実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。前記の方法によって求めたプレス処理後の正極合剤層の密度(実密度)は3.60g/cm
3であり、充填率は75.1%であった。
【0147】
参考実験例1
集電体の片面あたりの正極合剤層の厚みを60μmに変更した以外は、実施例1と同様にして正極を作製した。また、集電体の片面あたりの負極合剤層の厚みを68μmに変更した以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。そして、この負極と前記の正極とを用いた以外は、実施例1と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。
【0148】
参考実験例2
リチウム含有金属酸化物(A)に代えてLiNi
0.91Co
0.03Mn
0.02Al
0.02Mg
0.02O
2を用いた以外は、参考実験例1と同様にして正極を作製し、この正極を用いた以外は参考実験例2と同様にして角形非水電解質二次電池を作製した。
【0149】
実施例の非水電解質二次電池に使用した正極に係る正極活物質の構成を表1に、実施例の非水電解質二次電池に使用した負極に係る負極活物質の構成を表2に、比較例および参考実験例の非水電解質二次電池に使用した正極に係る正極活物質の構成を表3に、比較例および参考実験例の非水電解質二次電池に使用した負極に係る負極活物質の構成を表4に、それぞれ示す。なお、比較例1の電池に係る正極で使用したLiNi
0.47Co
0.019Mn
0.29Mg
0.05O
2、比較例2および参考実験例2の電池に係る正極で使用したLiNi
0.91Co
0.03Mn
0.02Al
0.02Mg
0.02O
2、および比較例3、4の電池に係る正極で使用したLiNi
0.78Co
0.20Al
0.02O
2は、リチウム含有金属酸化物(A)には該当しないが、表3では、便宜上、これらも「リチウム含有金属酸化物(A)」の欄に記載する。また、比較例4の電池に係る正極で使用したLiCo
0.992Mg
0.006Ti
0.001Zr
0.001O
2は、リチウム含有金属酸化物(B)には該当しないが、表3では、便宜上、これらも「リチウム含有金属酸化物(B)」の欄に記載する。
【0150】
【表1】
【0151】
【表2】
【0152】
【表3】
【0153】
【表4】
【0154】
表1および表3中、リチウム含有金属酸化物(A)およびリチウム含有金属酸化物(B)の「比率」は、正極活物質全量中のこれらの含有量を意味している。また、表1および表2中のリチウム含有金属酸化物(A)の「一次粒子径が0.5μm以上の粒子の割合」および「最大の一次粒子の粒子径」は、前記(a)の方法で求めた値である。
【0155】
また、実施例および比較例の非水電解質二次電池について、下記の各評価を行った。
【0156】
<1C放電容量測定>
実施例1〜16および比較例1〜6の各電池について、25℃の環境下で、4.4Vまで1Cの定電流で充電後、総充電時間が2.5時間となるまで定電圧充電し、続いて1Cで電池電圧が2.75Vになるまで定電流放電を行って、放電容量(1C放電容量)を測定した。また、参考実験例1、2の各電池については、充電電圧を4.2Vにした以外は、実施例1の電池などと同じ条件で、1C放電容量を測定した。
【0157】
<45℃充放電サイクル特性評価>
実施例1〜16および比較例1〜6の各電池について、45℃の環境下で、4.4Vまで1Cの定電流で充電後、総充電時間が2.5時間となるまで定電圧充電し、続いて1Cで電池電圧が3.3Vまで定電流放電を行う一連の操作を1サイクルとして、これらを多数繰り返し、300サイクル目の放電容量を測定した。また、参考実験例1、2の各電池については、充電電圧を4.2Vにした以外は、実施例1の電池などと同じ条件で、300サイクル目の放電容量を測定した。そして、各電池について、300サイクル目の放電容量を、前記の1C放電容量で除した値を百分率で表して、容量維持率を求めた。
【0158】
前記の各評価結果を表5および表6に示す。なお、表5および表6では、各非水電解質二次電池の1C放電容量および45℃充放電サイクル特性評価時の容量維持率を、それぞれ、実施例1の電池の結果を100とした場合の相対値で示す。
【0159】
【表5】
【0160】
【表6】
【0161】
表1〜表6に示す通り、適正な組成を有し、かつ一次粒子径が0.5μm以上の粒子を適正な割合で含むリチウム含有金属酸化物(A)を、適正な量で含有する正極合剤層を備えた正極を用いた実施例1〜16の非水電解質二次電池は、1C放電容量が大きく高容量であり、また、45℃での充放電サイクル特性評価時の容量維持率が高く、高温下での充放電サイクル特性が優れていた。
【0162】
これに対し、リチウム含有金属酸化物(A)に代えてMnおよびMgの量が多い正極活物質を使用した比較例1の電池、リチウム含有金属酸化物(A)に代えてCoの量が少なくMgの量が多い正極活物質を使用した比較例2の電池、リチウム含有金属酸化物(A)に代えて一次粒子径が0.5μm以上の粒子の割合が低いものを使用した比較例3、4の電池、リチウム含有金属酸化物(A)を使用していない比較例5の電池、およびリチウム含有金属酸化物(A)のみを使用した比較例6の電池は、45℃での充放電サイクル特性評価時の容量維持率が低く、高温下での充放電サイクル特性が劣っていた。
【0163】
なお、参考実験例1の非水電解質二次電池は、正極合剤層および負極合剤層の厚みが若干異なる以外は、実施例1の電池と同様の構成を有しており、参考実験例2の非水電解質二次電池は、正極合剤層および負極合剤層の厚みが若干異なる以外は、比較例2の電池と同様の構成を有している。これらの参考実験例1、2の電池については、前記の通り、充電時の上限電圧を4.2Vとして1C放電容量を測定したが、表3に示す通り、容量が小さかった。すなわち、比較例2の電池と参考実験例2の電池との比較から分かるように、充電時の上限電圧を4.2Vから4.3V以上(4.4V)に高めると、1C放電容量を大きくすることが可能となる一方で、高温下での充放電サイクル特性が低下するが、実施例1の電池の評価結果から分かるように、適正な組成を有し、かつ一次粒子径が0.5μm以上の粒子を適正な割合で含むリチウム含有金属酸化物(A)を、適正な量で含有する正極合剤層を備えた正極を用いることで、高温下での充放電サイクル特性の低下を抑制しつつ、高容量化を図ることができた。