(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6654845
(24)【登録日】2020年2月4日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】自動車内装材向け繊維用水性難燃性組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 21/14 20060101AFI20200217BHJP
C09K 21/10 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
C09K21/14
C09K21/10
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-196445(P2015-196445)
(22)【出願日】2015年10月2日
(65)【公開番号】特開2017-66333(P2017-66333A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年9月7日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 良太朗
(72)【発明者】
【氏名】常岡 秀典
【審査官】
井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05631047(US,A)
【文献】
特開2004−027079(JP,A)
【文献】
特開昭54−043941(JP,A)
【文献】
特表2002−529571(JP,A)
【文献】
特開2005−008733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 21/00− 21/14
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
C09D 1/00−201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリリン酸アンモニウム粒子100重量部に対して、尿素を20〜50重量部(ただし、20重量部を除く。)、および分散剤を含有することを特徴とする自動車内装材向け繊維用水性難燃性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン系ガスやホルムアルデヒドを発生せず、高い難燃性を発揮するとともに、高温下においても変色を抑制できる難燃性組成物およびその調製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂、エラストマーやコーティング剤に難燃性を付与する目的で種々の難燃性添加剤が使用されてきた。例えばハロゲン含有化合物は高い難燃性を有することから、単独、もしくは酸化アンチモン等のアンチモン化合物と組み合わせて使用されてきた。一方、これらを樹脂やエマルジョンに配合した難燃組成物は火災時にハロゲン系ガスや一酸化炭素を発生するおそれがあることから、使用が避けられるようになりつつある。
また、金属水酸化物を用いた場合はこのような問題はないものの、難燃性を発現させるためには大量に配合する必要があり、そのため、配合物本来の加工性や機械的強度が損なわれるといった問題点がある。
【0003】
そこで、各種リン化合物が有力な選択肢として注目され、実際広く用いられている。中でも、ポリリン酸アンモニウムは難燃性に優れ、他のリン化合物よりも安全性が高く、ブリードアウトにしくいといった特長があり、自動車のシートやカーペット等の内装材織物用難燃剤(バッキング剤)等に添加されている。
【0004】
一方、シート織物が高温多湿の条件下におかれたり、水や温水をシート織物上にこぼしたりした場合、ポリリン酸アンモニウムが水溶性のため表面に溶出しやすく、シミやぬめりを生じることがある。
また、内装材を製造する際、ポリリン酸アンモニウムをアクリル樹脂などのバインダー成分とともに織物繊維の裏地にコーティングしてウレタン製のシート基盤に貼り合わせるが、ポリリン酸アンモニウムが表面に溶出しているとぬめりによりシートと織物がずれて貼り合わさったり、乾燥後にシミが発生(きわ付き)したりすることにより、外観不良になる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許文献1には、熱可塑性樹脂で被覆されたポリリン酸アンモニウム含有物質が開示されているが、溶出による影響として難燃性低下のみが評価されており、わずかな溶出でも問題となる外観不良については十分に検討されていない。また、熱可塑性樹脂で被覆されることにより、水性溶媒中での保存安定性は低下傾向にある。
これに対して、本発明者らは特許文献2および3において、ハロゲン系ガスを発生せず、高い難燃性を発揮するとともに、疎水性樹脂で被覆することにより水や温水への溶出を抑制し、配合物の保存安定性にも優れたポリリン酸アンモニウムを提案している。
一方、ポリリン酸アンモニウムを難燃剤として用いた場合、特に高温下において変色しやすいという外観上の問題があった。
【特許文献1】特開2001−262466号公報
【特許文献2】特願2014−77345号
【特許文献3】特願2014−221918号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ハロゲン系ガスやホルムアルデヒドを発生せず、高い難燃性を発揮するとともに、高温下においても変色を抑制できる
自動車内装材向け繊維用水性難燃性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリリン酸アンモニウム粒子100重量部に対して、尿素を
20〜50重量部
(ただし、20重量部を除く。)、および分散剤を含有することを特徴とする
自動車内装材向け繊維用水性難燃性組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる難燃性組成物はハロゲン系ガスやホルムアルデヒドを発生しないため、自動車改質された自動車シート等の内装材の樹脂バインダーに難燃性を付与する用途に適する。また、高温下においても変色しにくいため、長期間外観を維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は難燃性組成物およびその製造方法を提供するものである。なお、本発明における難燃性とは、火炎に対する抵抗性によって例えば燃焼量や燃焼速度を抑制する機能を意味するものであり、特定の規格に適合することや、全く燃焼しないことを意味するものではない。
【0010】
ポリリン酸アンモニウム
本発明においてポリリン酸アンモニウムとは、下記一般式(1)又は(2)で示される構造を有するリン酸アンモニウムの重合体であり(式中、nは10〜2000程度)、特に限定するものではない。
【化1】
【化2】
2
【0011】
ポリリン酸アンモニウムは製造方法によりその結晶構造としてはI型、II型、III型、IV型、V型があるが、それらのいずれも使用することができる。
ポリリン酸アンモニウムの粒子径はMicrotrac社MT3000IIのレーザ回析(散乱法による)による平均粒子径が1〜100μmであるものが好ましい。平均粒子径がこの範囲外の場合、被覆された粒子が粗大粒子となるため実用上不適当である。
【0012】
また、ポリリン酸アンモニウム粒子の表面を処理した表面処理ポリリン酸アンモニウムも広く市販されており、このような市販品を用いることもできる。
【0013】
尿素
本発明において、尿素はポリリン酸アンモニウムが高温下で変色しにくくする効果を有する。なお、尿素とホルムアルデヒドを反応させることによって得られる尿素樹脂では同様の効果は得られず、かつホルムアルデヒドを発生するため本願発明には適さない。
難燃性樹脂組成物において、ポリリン酸アンモニウム100重量部に対して尿素を1〜50重量部含有していることが好ましく、10〜30重量部がより好ましい。尿素を1重量部以上含有することで高温下での変色が顕著に改善し、50重量部以下とすることで難燃性能を維持することができる。
【0014】
本発明の難燃性組成物はポリリン酸アンモニウムおよび尿素を含有するものであるが、水性樹脂エマルジョンに直接ポリリン酸アンモニウムおよび尿素を添加、混合すると分散不良となり、難燃性能が低下したり、高温下で変色したりするおそれがある。そこで、予め分散剤を含有する水性溶媒中においてポリリン酸アンモニウムおよび尿素を混合して分散液を調製し、分散液と水性樹脂エマルジョンを混合することにより難燃性樹脂バインダーを得る方法が好ましい。
【0015】
分散剤
分散剤としては界面活性剤が挙げられ、具体的にはポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルフェノールエーテル類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー等の非イオン性界面活性剤、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸エステル塩類及びその誘導体類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルアリルエーテル硫酸エステル類等の陰イオン性界面活性剤、アルキルアミン塩、4級アンモニウム塩、ポリオキシエチルアルキルアミン等の陽イオン性界面活性剤、アルキルベタイン等の両性界面活性剤が挙げられる。また反応性界面活性剤を使用することもできる。
【0016】
前記分散剤に加えて粘度調整剤を添加することにより、分散液の貯蔵安定性および樹脂エマルジョンへの混和性をさらに高めることができる。粘度調整剤としてはポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガムなどの水溶性高分子や、ベントナイトなどの無機系化合物などが挙げられる。
【0017】
本発明の難燃性組成物には前記各成分の他、本発明の効果を損なわない範囲においてポリリン酸アンモニウム以外の難燃剤、顔料、染料、可塑剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、pH調整剤等を使用できる。また、水性樹脂エマルジョンとしては特に限定されず、アクリル系樹脂エマルジョンやスチレン−ブタジエン系樹脂エマルジョンなどを用いることができる。
【0018】
以下、実施例及び比較例にて本出願に係る難燃性組成物およびその製造方法について具体的に説明する。
【実施例】
【0019】
参考例1
容器に水を100重量部、ラウリル硫酸アンモニウム5重量部、尿素10重量部、ポリリン酸アンモニウム100重量部を添加し、混合撹拌した。増粘剤としてキタンサンガムを添加し、さらにアンモニア水溶液(25%)を加えてpHを8−9に調整することによって粘度を3,000〜5,000mPa・sの範囲に調整することにより、
参考例1の難燃性組成物を調製した。
【0020】
実施例1〜3、参考例1〜2、比較例1〜7
参考例1で用いた原材料の他、メラミンを用いて配合を表1のように変更した他は
参考例1と同様に実施し、実施例
1〜
3、参考例1
〜2、比較例1〜7の各難燃性組成物を調製した。
【0021】
【表1】
【0022】
変色試験
実施例1〜
3、参考例1
〜2、比較例1〜7の各分散溶液4gをアルミ皿に乗せ、105℃の乾燥機に1時間入れて分散液を乾燥させた後、得られた乾燥固形物をアルミ皿から取り出して乳鉢ですりつぶす。再度アルミ皿に乗せ200℃の乾燥機に20分間入れ、加熱後に取り出した。測色色差計(ZE 6000:日本電色工業社製、測定条件:反射、観測光源:C/2°)を用いて、200℃加熱を行う前後の乾燥固形物のE値の差(ΔE値)を測定し、評価を行う。
【0023】
難燃性
実施例1〜
3、参考例1
〜2、比較例1の各分散液を水で10倍希釈し、100mm×350mmに裁断したろ紙(ADVANTEC社、No.2)に5g/m
2含浸させ、110℃雰囲気下で10分間乾燥を行う。作製した試料について、自動車内装分野向け難燃規格であるFMVSS?302に基づき、水平法により難燃試験を行う。試験は4点行い、平均燃焼速度および標準偏差(σ)を評価する。燃焼速度が80mm/min以下、且つ燃焼速度+4σ<100を合格とする。