(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6654877
(24)【登録日】2020年2月4日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】締結部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16B 33/06 20060101AFI20200217BHJP
F16B 35/00 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
F16B33/06 Z
F16B35/00 J
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-233918(P2015-233918)
(22)【出願日】2015年11月30日
(65)【公開番号】特開2017-101718(P2017-101718A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227467
【氏名又は名称】日東精工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上羽 政志
(72)【発明者】
【氏名】上嶋 伸宏
(72)【発明者】
【氏名】手島 政和
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩二
【審査官】
熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−263208(JP,A)
【文献】
特開2013−040635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00−43/02
C23C 2/00− 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属から成るブランク材を所定の形状に成形する成形工程と、
この成形工程により成形した成形品を電気めっきして、亜鉛又は亜鉛およびニッケルの成分を含む第1被覆層を前記成形品の外周に形成する第1めっき工程と、
この第1めっき工程により前記第1被覆層を形成した被覆成形品を190℃から210℃の範囲で加熱するとともにこの加熱時間を少なくとも2時間以上保つベーキング工程と、
このベーキング工程により加熱した前記被覆成形品をめっきして、錫又は錫および亜鉛の成分を含む第2被覆層を前記被覆成形品の外周に形成する第2めっき工程とを含むことを特徴とする締結部品の製造方法。
【請求項2】
前記第2めっき工程の後に、クロムを主成分とする溶液へ前記締結部品を浸して処理するクロメート処理工程を追加することを特徴とする請求項1に記載の締結部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周に被覆層を備えた締結部品
の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の締結部品は、特許文献3に示すように所定の長さに切断された金属から成るブランク材を所定の形状に成形されており、前記ブランク材の直径よりも大径の頭部と、この頭部よりも小径の軸部とを一体に備える。さらに、従来の締結部品は、前記頭部および軸部の外周に特許文献1および特許文献2に示す錫成分を含む被覆層を備える。これにより、従来の締結部品は、放熱性および耐腐食性に優れたボルト又はねじ或いはリベットとして広く活用されている。
【0003】
また、前記被覆層を形成する方法としては、所謂電気めっきが広く用いられている。つまり、従来の締結部品の製造方法は、
図3に示すように、前記頭部および前記軸部を成形する成形工程120、この成形工程120によって成形された成形品を脱脂・酸洗して洗浄する洗浄工程130、この洗浄工程130を経過した前記成形品の外周に前記被覆層を形成する電気めっき工程140、後述するベーキング工程150を含む。
【0004】
前記ベーキング工程150は、特許文献4に記載されているように、前記洗浄工程130(特に酸洗の時)や電気めっき工程140の際に発生する水素が前記成形品の内部へ侵入することから、この水素を成形品から取り除く工程となっている。具体的に、ベーキング工程150は、電気めっき工程140等により被覆層が形成された被覆成形品を約200℃に加熱し、この加熱温度を数時間保つ工程である。よって、従来の締結部品の製造方法は、締結部品の所謂水素脆性による遅れ破壊の発生を低減できるという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-257323号公報
【特許文献2】特許4454640号公報
【特許文献3】特許2909892号公報
【特許文献4】特開2009-062616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の締結部品
に係る製造方法は、ベーキング工程150において締結部品が錫の融点に近い温度まで加熱されるため、前記被覆層の錫成分が溶解する。これにより、前記被覆層の表面が滑らかな状態から凹凸状態へ変化するため、締結部品の製品価値が失われるという問題があった。また、このように、締結部品の表面が凹凸状態へ変化するので、被覆層の厚みを均一に仕上げ難いという問題もあった。さらに、このような均一でない厚みの被覆層となるので、薄い被覆層の箇所から錆等の発生し易く耐腐食性が低減するという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明
に係る締結部品の製造方法は、金属から成るブランク材を所定の形状に成形する成形工程と、この成形工程により成形した成形品を電気めっきして、亜鉛又は亜鉛およびニッケルの成分を含む第1被覆層を前記成形品の外周に形成する第1めっき工程と、この第1めっき工程により前記第1被覆層を形成した被覆成形品を190℃から210℃の範囲で加熱するとともにこの加熱時間を少なくとも2時間以上保つベーキング工程と、このベーキング工程により加熱した前記被覆成形品をめっきして、錫又は錫および亜鉛の成分を含む第2被覆層を前記被覆成形品の外周に形成する第2めっき工程とを含むことを特徴とする。なお、前記第2
めっき工程の後に、クロムを主成分とする溶液へ前記締結部品を浸して処理するクロメート処理工程を追加することが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明
に係る締結部品の製造方法は、前記被覆成形品の内部に侵入した水素を除去できるため、水素脆性による締結部品の遅れ破壊を低減できるという利点がある。また、前記締結部品
に係る製造方法は、当該締結部品の最表面に前記第2被覆層が形成されるため、放熱性および耐腐食性に優れかつ水素脆性による遅れ破壊を低減できるという利点もある。さらに、本発明の締結部品
の製造方法は、錫成分を含む第2被覆層を形成した後の工程では、錫の融点に近い190℃から210℃の範囲で加熱する工程が存在しないので、締結部品の最表面が滑らかに形成できるという利点もある。また、本発明
に係る締結部品の製造方法は、締結部品の最表面がクロメート処理による被膜で覆われるので、第2被覆層や第1被覆層をより強固に保護できるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る締結部品の斜視図である。また、(a)はリベット、(b)はねじ、(c)は六角ボルトであり、(d)は(a)ないし(c)の要部一部切欠き拡大断面図である。
【
図2】本発明に係る締結部品の製造方法を示す製造工程図である。
【
図3】従来の締結部品の製造方法を示す製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明
に係る締結部品およびその製造方法を
図1および
図2に基づき説明する。まず、本発明
に係る締結部品1は、金属製の線材が所定の長さに切断されたブランク材(図示せず)を所定の形状に成形したものであり、前記ブランク材の直径よりも大径の頭部2と、この頭部2よりも小径の軸部3とを一体に備え、この頭部2および軸部3の表面に積層された被覆層10を備えて成る。また、本発明
に係る締結部品1は、所謂リベット、ねじ、ボルトであり、それぞれ利用用途に合わせて
図1(a)ないし(c)に示すような前記頭部2および前記軸部3の形状が成形されている。
【0011】
具体的には、本発明
に係る締結部品1が
図1(a)に示すリベットとして利用される場合であれば、前記軸部3には軸方向に延びる中空穴5が成形される。また、
図1(b)に示すねじとして利用される場合であれば、軸部3にはおねじが成形され、頭部2には十字形状の駆動穴6が成形される。さらに、
図1(c)に示すボルトとして利用される場合であれば、前記軸部3にはおねじが成形され、前記頭部2は多角形状の外周に成形される。
【0012】
前記被覆層10は、少なくとも成分の異なる2層で構成されており、前記頭部2および前記軸部3を成形した成形品の素地4の表面に形成された第1被覆層11と、この第1被覆層11の外側に形成された第2被覆層12とから構成される。なお、前記被覆層10は、
図1(d)に示すように、前記第2被覆層12の外側に前記第1被覆層11又は前記第2被覆層12の厚みよりも薄い第3被覆層13が形成されていてもよい。
【0013】
前記第1被覆層11は、亜鉛又は亜鉛およびニッケルの成分を含んで成り、前記成形品に電気めっきを施すことで形成されている。また、この第1被覆層11は、1μmから10μmの厚みに設定されており、好ましくは2μmから3μmの厚みで構成されている。
【0014】
前記第2被覆層12は、錫又は錫及び亜鉛の成分を含んで成り、前記電気めっき或いは溶融めっきを施すことで形成されている。この第2被覆層12は、5μmから20μmの厚みに設定されており、好ましくは10μから15μmの厚みで構成されている。また、この第2被覆層12の成分に含まれる錫は高い放熱性を有することから、最表面が前記第2被覆層12となる締結部品(図示せず)は、放熱機能を有しているので、高温になり易いワークに採用できるという利点がある。
【0015】
前記第3被覆層13は、クロメート処理により薄いクロメート被膜で構成され、その厚みは0.1μm程度に設定されている。
【0016】
よって、本発明
に係る締結部品1は、前記成形品の外周が前記第1被覆層11および第2被覆層12によって保護されるため、耐腐食性に優れるという利点がある。また、本発明の締結部品1は、その最表面が放熱性に優れた錫成分を含む前記第2被覆層12となる場合、高温になり易いワークに締結されていれば放熱部品として機能するという利点もある。さらに、本発明
に係る締結部品1は、その最表面が前記第3被覆層13となる場合、前述した2層の被覆層(第1被覆層11および第2被覆層12)により保護された締結部品に比べて、さらに高い耐腐食性を有する。
【0017】
次に、本発明
に係る締結部品1の製造方法は、
図2に示すように、前記ブランク材を金型(図示せず)等により圧造成形したり、あるいは、前記ブランク材を切削工具(図示せず)等により切削成形して前記成形品を成形する成形工程20と、前記成形品を脱脂及び洗浄する洗浄工程30と、この洗浄工程30により洗浄した成形品を電気めっきして前記第1被覆層11を形成する第1めっき工程40と、この第1めっき工程40により被覆された被覆成形品を所定時間加熱するベーキング工程50と、このベーキング工程50により加熱された前記被覆成形品を電気めっき或いは溶融めっきして前記第2被覆層12を形成する第2めっき工程60と、この第2めっき工程60により2層の被覆が施された2層被覆成形品に前記第3被覆層13を形成するクロメート処理工程70とを含む。
【0018】
前記成形工程20は、上述のようにブランク材を圧造成形あるいは切削成形する工程であり、この工程によって頭部2および軸部3が一体に成形され前記成形品が作り出される。
【0019】
前記洗浄工程30は、前記素地4の表面に付着した潤滑油や塵等を除去する工程であり、前記成形品が酸性の溶液で満たされた槽(図示せず)へ投入されるなどして脱脂・洗浄される工程である。
【0020】
前記第1めっき工程40は、前記洗浄工程30により洗浄された成形品に電気めっきする工程であり、前記成形品が亜鉛又は亜鉛およびニッケルを主成分とするめっき浴(図示せず)へ浸され、前記めっき浴内を通電状態にして前記素地4の表面に前記第1被覆層11を形成する工程である。
【0021】
前記ベーキング工程50は、前記洗浄工程30および前記第1めっき工程40で発生する水素が前記素地4の内部に侵入するため、前記成形品を所定温度に加熱して素地4内の水素を外部へ放出あるいは素地4の内部に残留した流動性水素を固定化するための工程である。具体的には、前記成形品を190℃から210℃の範囲で加熱するとともに、この加熱時間を少なくとも2時間以上保つ工程である。なお、前記加熱時間は、好ましくは4時間ないし6時間の範囲に設定するのがよい。
【0022】
前記第2めっき工程60は、前記ベーキング工程50により水素脆性等の危険性が取り除かれた前記被覆成形品にめっきを施す工程であり、第1めっき工程40と同様の電気めっきが施されるか、或いは、通電しない所謂溶融めっきの何れかであればよい。また、この第2めっき工程60は、錫成分を60%から100%の範囲に設定した錫又は錫および亜鉛のめっき浴(図示せず)へ前記被覆成形品が浸され、この被覆成形品の表面に前記第2被覆層12を形成する工程である。なお、前記めっき浴の錫成分は、70%から80%の範囲に設定されていることが好ましい。
【0023】
前記クロメート処理工程70は、前記第2めっき工程60により前記第2被覆層12を形成した前記2層被覆成形品の表面に前記第3被覆層13を形成する工程であり、前記2層被覆成形品がクロムを5%から30%の範囲に成分設定されたクロメート液に数十秒浸され、前記第2被覆層12の外側にクロメート被膜を形成する工程である。
【0024】
このように本発明
に係る締結部品1の製造方法は、第2めっき工程60の前に190℃から210℃に加熱するベーキング工程50が設定されいるため、比較的融点の低い前記錫が融点近くに達することがない。これにより、締結部品1の最表面が凹凸状態にならないので、商品価値の高い締結部品1を安定して製造できるという利点がある。
【符号の説明】
【0025】
1 締結部品
2 頭部
3 軸部
4 素地
10 被覆層
11 第1被覆層
12 第2被覆層
13 第3被覆層
20 成形工程
40 第1めっき工程
50 ベーキング工程
60 第2めっき工程
70 クロメート処理工程