(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記下部部材の設置面側には前記下限値調整ナットの周囲を囲うように複数個の脚部がそれぞれ離間させて形成され、これらの脚部間の開口空間を利用して、前記上部部材と前記下部部材間の隙間は外部から工具で調節可能であることを特徴とする請求項1記載の減震ユニット。
前記ボードの前記減震ユニットが搭載される側を表面、その反対側を前記ボードの裏面として、前記ボードの前記表面と前記裏面を利用して、前記減震ユニットを留め具で締結したことを特徴とする請求項6記載の減震システム。
前記弾性支持部材は上端部と下端部にスプリングコイルの金属表面の露出部分を有し、この露出部分で上部部材と下部部材の軸芯が一致した状態を保つための上部部材と下部部材に形成された位置決め部と嵌合する構成であることを特徴とする請求項13記載の減震ユニット。
前記保護対象機器を搭載された平常状態において、前記上限値規制部と前記下限値規制部の軸方向隙間は非接触の状態を保ち、2.5mm以下になるように構成したことを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の減震ユニット。
保護対象機器と設置面の間に剛体支持部材Aと上下方向の変位規制手段を有する支持部材Bが並列に複数組配置されており、平常時には前記支持部材Bは前記保護対象機器を支持する機能が無効で、かつ前記支持部材Aが前記保護対象機器を支持して、地震発生などの非常時に前記支持部材Aが前記保護対象機器を支持出来ない場合において、前記支持部材Bが前記保護対象機器を支持する構成であることを特徴とする減震システム。
前記ボードの一部、もしくは全体を収納する外枠と、この外枠と前記ボードの間で、前記ボードが前記外枠に対して水平方向に移動可能することで、前記ボードに滑り免震作用を与えるように構成されていることを特徴とする請求項6記載の減震システム。
保護対象機器を搭載する側に設けられた上部部材と、設置床面側に設けられた下部部材と、前記上部部材と前記下部部材の間に設けられた前記保護対象機器の荷重を支持する弾性支持部材と、前記上部部材の上方向の移動量を規制する上限値規制部と、前記上部部材の下方向の移動量を規制する下限値規制部と、前記弾性支持部材、前記上限値規制部、前記下限値規制部から前記保護対象機器の荷重を支える擬似剛体化ユニットを構成し、保護対象機器であるオーディオ機器と、前記上部部材の間に、前記オーディオ機器から前記上部部材に至る振動伝播経路ΦZから分岐した振動伝播経路ΦRを有し、かつこの振動伝播経路ΦRは概略筒型形状部材で構成される共振部材を装着したことを特徴とする減震ユニット。
前記共振部材と前記上部部材の間に介在して設けられた中間部材と、この中間部材と前記共振部材の間、もしくは前記中間部材と前記上部部材の間は点接触、あるいは線接触で密着する複数個の部材が介在して装着されていることを特徴とする請求項25記載の減震ユニット。
保護対象機器を搭載する側に設けられた上部部材と、設置床面側に設けられた下部部材と、前記上部部材と前記下部部材の間に設けられた前記保護対象機器の荷重を支持する弾性支持部材と、前記上部部材の上方向の移動量を規制する上限値規制部と、前記上部部材の下方向の移動量を規制する下限値規制部と、前記弾性支持部材、前記上限値規制部、前記下限値規制部から前記保護対象機器の荷重を支える擬似剛体化ユニットを構成し、保護対象機器であるオーディオ機器を支持するスパイク先端部を、前記上部部材に形成された窪み部、もしくは、前記上部部材上に配置したスペーサに形成された窪み部で支持し、
前記上部部材は
前記保護対象機器を搭載する上部ベース部と、
この上部ベース部から下方向に伸びた中心部材と、を具備し、
前記上限値規制部は、
この中心部材に形成された中心側ねじ部と、
この中心側ねじ部と螺合する上限値調整ナットと、を具備し、
上限値調整ナットと前記下部部材間における上下方向の隙間の設定により前記上部部材の上方向の移動量を設定可能に構成されており、
前記下限値規制部は、
前記下部部材に形成された外周側ねじ部と、
この外周側ねじ部と螺合する下限値調整ナットと、を具備し、
この下限値調整ナットと前記上部ベース間における上下方向の隙間の設定により前記上部部材の下方向の移動量を設定可能に構成されていることを特徴とする減震ユニット。
スピーカーと設置面の間に上下方向の変位規制手段を有する支持部材を介在させて、前記スピーカーの底面部と前記支持部材間、及び、この支持部材と前記設置面間をねじ等で締結すると共に、前記スピーカー底面部を材質Aの部材で構成し、前記スピーカーの前記底面部以外の壁面を材質Bの部材で構成し、かつロッキング振動時の引き抜き荷重に耐えるように、材質Aの引張り強度は材質Bよりも大であることを特徴とする請求項6記載の減震システム。
スピーカーと設置床面の間に上下方向の変位規制手段を有する支持部材を介在させて、前記スピーカーの底面部と前記支持部材間、及び、この支持部材と前記設置床面間をねじで締結すると共に、前記スピーカー底面部は多層構造になっており、この各層の間にロッキング振動時の引き抜き荷重を受ける平板部を有する締結部材が装着されたことを特徴とする減震システム。
オーディオボード上でオーディオ機器は硬質式インシュレータによって支持されており、非常時にオーディオ機器の移動を規制する変位規制機構と、この変位規制機構を固定する変位規制ボードから構成され、前記オーディオボードと前記変位規制ボードを分離して配置したことを特徴とする減震システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前述したように、減震構造が適用された防振架台は、(1)上枠と下枠、(2)上枠移動量規制部、(3)吸振体より構成される。上記上枠移動量規制部に設定される上限値隙T
m、下限値隙間T
nは、減震構造を効果的に機能させる上で極めて重要な役割を担っている。その理由は、地震波によるロッキング振動発生時において、ロッキング振動の振幅(最大傾斜角)は上記隙間T
m、T
nの大きさに依存し、この隙間T
m、T
nの設定値が、保護対象機器に加わる衝撃荷重(ダメージの大きさ)に多大な影響を与えるからである。ちなみに、ロッキング振動とはブロック型構造物の両端を2つの支点として、各支点を中心に、回転運動を交互に繰り返す振動をいう。前述した防振架台(
図88、
図89)において、パイプ状部材606に締結されたコーナー部607に対して、規制ボルト611は垂直に固定される。かつこの規制ボルト611を貫通するように、コーナー部609がパイプ状部材608に締結される。これらの溶接複合部材から構成される上枠移動量規制部において、上限値隙間T
m、下限値隙間T
nを、高い精度で、かつ狭い隙間で設定するのが重要な課題であった。
前述したように、免震構造は装置が大掛かりとなり、設置スペースが大きく、高額な投資を必要とする。この免震構造と比べて、簡素な構造で地震対策を施せる減震構造を、オフィス空間、一般住宅などで使用される機器を保護対象として、広く適用できないかという要望も強い。
【0017】
一方、民生用として、オーディオ分野に再度眼を転ずれば、2度にわたる大震災、すなわち、1995年阪神・淡路大震災、2011年東日本大震災において、スピーカーを主体とする高価なオーディオ機器に甚大な被害が発生した。しかし、共鳴体としてのスピーカーのデリケートな音響特性を劣化させないで、地震対策が図れる抜本的手段は、スピーカーの支持方法に関わり無く、今日に至るまで見出されていない。前述したように、フローティング式インシュレータは、振動遮断による音質向上の代償として、剛体支持と比べて設置安定性の点で不利となる。特許文献5の開示技術において、前記フローティング式インシュレータに支持されたスピーカー(保護対象機器)に衝撃的外力が加わったときに、前記インシュレータ本体部はスピーカーに対して水平・垂直方向移動が拘束されて設置されるために、前記インシュレータはスピーカーから容易には離脱しない。しかし、上記開示技術は、硬質式インシュレータ(剛体支持式)と比較した場合のフローティング式の欠点を低減させる範囲にとどまり、地震波によるロッキング振動がもたらすスピーカー本体の転倒防止までは考慮されていない。
【0018】
昨今のトレンドにより多くのスピーカーの形態は、従来のフロア型から、設置面積が小さく背の高いトールボーイ型になっている。トールボーイ型への移行は、スピーカーが設置される住宅環境によるものであり、スピーカーの設置安定性対策はますます厳しくなっている。詳細は後述するが、スピーカーの場合、音響特性上の理由から床面に対してアンカー固定(床面に完全締結)は難しい。スピーカーに限らず、多くの機器を保護対象として、簡素・設置容易な構造で、アンカーボルト施工が難しいオフィス空間、一般住宅などへ広く適用できる地震対策の要望は強い。
【課題を解決するための手段】
【0019】
具体的に、請求項1の発明は、保護対象機器を搭載する側に設けられ、当該保護対象機器を搭載する上部部材と、設置床面側に設けられた下部部材と、前記上部部材と前記下部部材の間に設けられた前記保護対象機器の荷重を支持する弾性支持部材と、前記上部部材の上方向の移動量を規制する上限値規制部と、前記上部部材の下方向の移動量を規制する下限値規制部と、を備え、前記上限値規制部、又は、下限値規制部は前記保護対象機器を搭載した状態で前記上部部材の移動可能範囲を調節可能に構成されていることを特徴とする減震ユニットである。
【0020】
すなわち、本発明においては、(i)保護対象機器の荷重を支持する弾性支持部材、(ii)弾性支持部材の移動量を狭い隙間で規制する手段、上記(i)(ii)を一個のユニットに内蔵した「擬似剛体化ユニット」(減震ユニット)を構成している。かつ保護対象機器を搭載した状態で、保護対象機器の上下方向の移動量を規制する上限値と下限値の調整を行うことができる。たとえば、保護対象機器を設置後、前記保護対象機器に部分改造がなされて搭載重量が変化した場合、あるいは重心位置が変化した場合でも、上限値と下限値の値の再調整が容易にできる。また、上枠移動量規制部と荷重支持部(吸振体)が分離していた従来防振架台と比べて、上記(iii)が一体化した本ユニットは、上限値と下限値を高い精度で、かつ狭い隙間に設定できる。その結果、地震波によるロッキング振動発生時において、保護対象機器に加わる衝撃力の低減効果を向上させ、転倒・破損に対する裕度を高めることができる。
【0021】
具体的に、請求項2の発明は、前記上部部材は、前記保護対象機器を搭載する上部ベース部と、この上部ベース部から下方向に伸びた中心部材と、を具備し、前記上限値規制部は、この中心部材に形成された中心側ねじ部と、この中心側ねじ部と螺合する上限値調整ナットと、を具備し、上限値調整ナットと前記下部部材間における上下方向の隙間の設定により前記上部部材の上方向の移動量を設定可能に構成されており、前記下限値規制部は、前記下部部材に形成された外周側ねじ部と、この外周側ねじ部と螺合する下限値調整ナットと、を具備し、この下限値調整ナットと前記上部ベース間における上下方向の隙間の設定により前記上部部材の下方向の移動量を設定可能に構成したものである。
【0022】
すなわち、本発明においては、上部ベース部から下方向に伸びた中心部材に上限値調整ねじを構成し、下部部材の外周側近傍に下限値調整ねじを構成することで、上限値と下限値を容易に調節できる。
【0023】
具体的に、請求項3の発明は、前記下部部材の設置面側には前記下限値調整ナットの周囲を囲うように複数個の脚部がそれぞれ離間させて形成され、、これらの脚部間の開口空間を利用して、前記上部部材と前記下部部材間の隙間は外部から工具で調節可能に構成したものである。
【0024】
すなわち、本発明においては、前記下部部材をたとえば2脚、3脚などの複数の脚からなる支持構造で構成し、この脚部間の開口空間を利用することで、この開口空間に外部から工具を挿入して、前記上限値規制部に設けられたねじ部を調節できる。
【0025】
具体的に、請求項4の発明は前記上部部材は、前記保護対象機器を搭載する上部ベース部と、この上部ベース部から前記弾性支持部材の下端部側よりも下方向に伸びた中心部材と、この中心部材の前記下端部側に形成された中心側ねじ部と、を備え、前記上限値規制部が、前記中心側ねじ部と螺合する上限値調整ナットを具備し、前記下限値規制部が、前記中心側ねじ部と螺合し、前記中心部材において前記上限値調整ナットよりも上側に配置された下限値調整ナットを具備し、前記下部部材の一部が前記上限値調整ナットと前記下限値調整ナットとの間に配置されており、前記上限値規制部が、前記上限値調整ナットと前記下部部材間における上下方向の隙間の設定により前記上部部材の上方向の移動量を設定可能に構成されており、前記下限値規制部が、前記下限値調整ナットと前記下部部材間における上下方向の隙間の設定により前記上部部材の下方向の移動量を設定可能に構成したものである。
【0026】
すなわち、本発明においては、スプリングコイル下端面よりも下方の空間を利用して、上限値・下限値を設定する箇所を設けたものである。細い中心部材と螺合する上限値調整ナット、下限値調整ナットの外径を小さくできるために、上限値、下限値の隙間を狭く、かつ精度良く設定できる。
【0027】
具体的に、請求項5の発明は、前記下部部材の外周側近傍に形成された外周側ねじ部と、この外周側ねじ部と螺合する調整ナットと、をさらに備え、前記調整ナットと前記上部部材との間に凹型の空隙部と前記空隙部に対して上下方向に所定の隙間を保って挟み込まれる凸型の突出部がそれぞれ水平方向に形成された形成してあり、前記上限値規制部が、前記突出部の下側部分と前記空隙部との間における上下方向の隙間の設定により前記上部部材の上方向の移動量を設定可能に構成されており、前記下限値規制部が、前記突出部の上側部分と前記空隙部との間における上下方向の隙間の設定により前記上部部材の下方向の移動量を設定可能に構成したものである。
【0028】
すなわち、本発明においては、前記下部部材の外周側ねじ部と螺合した前記調整ナットと前記上部部材間は、軸方向の相対移動が拘束されるように、例えば、前記隙間調整ナットを上下で挟みこむコの字型の窪み部を上部ベースに設けたものである。上限値と下限値の調整を上下2箇所に設けた前述した実施形態と比べて、隙間調整工程が一回でよく、ユニットの大幅な薄型化が実現できる。
【0029】
具体的に、請求項6の発明は、前記上限値調整ナットは前記弾性支持部材の下端面よりも前記上部部材側に位置するように設けられたものである。
【0030】
すなわち、本発明においては、(i)例えば弾性支持部材をスプリングで構成した場合において当該スプリング内部空間を利用して、上限値調整手段を設ける、(ii)例えば上部部材をフラットな円盤形状にして、下部部材の側面に形成したねじ部と螺合する下限値調整ナットを前記下部部材の上部部材側端面より突出する構成にする。上記(i)(ii)を組み合わせることにより、スプリングコイル(弾性支持部材)単体の全長H
sに対して、上限値と下限値の調節機能を内蔵させても、ユニット本体の全長H
uは僅かにしか増加しない。保護対象機器の足部となるユニットを大幅に薄型化することで、システム全体の設置安定性を一層向上できる。
【0031】
具体的に、請求項7の発明は、本発明に係る複数の減震ユニットと、前記保護対象機器の底面よりも面積が大きく、前記複数の減震ユニットが締結されるボードと、を備え、前記保護対象機器が、前記ボードに締結された前記複数の減震ユニットのそれぞれに搭載される構成であることを特徴とする減震システムである。
【0032】
すなわち、本発明においては、複数組の前記減震ユニットと、前記保護対象機器の底面よりも設置面積の大きなボードの組み合わせにより、ボードを床面にアンカー固定できない場合でも、(i)保護対象機器を床面から離脱して、かつ転倒しないように床面に安定設置し、(ii)保護対象機器の振動遮断性能を劣化させない。すなわち、上記(i)(ii)を同時に満足させることができる。また、前記支持機構は上限値・下限値の隙間を充分に小さく設定できる点を利用することで、ロッキング振動による発生荷重を低減できる。そのため、転倒に対する十分な裕度を確保できる。また、本実施形態を産業機器に適用した場合でも、従来の架台式と比べて、より簡素な構成で防振・除振システムを構成できる。
【0033】
具体的に、請求項8の発明は、前記保護対象機器の定常作動時において前記ボードは設置面に対して離脱可能に配置されており、前記保護対象機器の質量をm、前記保護対象機器の重心高さをH、前記保護対象機器の左右支持部の距離をB
0、前記保護対象機器の前記支持部と重心位置の距離をR、角度φ=tan
-1 (B
0/2H)、重力加速度をg、前記ボードの質量をm
b、前記ボードの前記重心位置と前記ボードのコーナー部間の距離をB
G、前記支持部と前記ボードの前記コーナー間の距離をB
1、前記保護対象機器に水平方向の静荷重が加わったときの最大傾斜角をθ
rとして、下式でηを定義したとき
【0034】
【数1】
η≧1となるように構成したものである。
【0035】
すなわち、本発明においては、幾何学的形状がRとΦで構成される機器を保護対象として、η≧1となるように、変位抑制値θr、ボード幅B
1、ボード質量m
bを設定すれば、(i)剛体支持の場合と同等、あるいはそれ以上の静的転倒裕度を得ることができて、剛体支持式の欠点である設置不安定性を改善できる。(ii)剛体支持であるが故の効果、即ち、徐振・防振効果、オーディオ機器の場合における床面との相互干渉による混変調歪みの発生を回避する効果が得られる。即ち、上記(i)(ii)を同時に実現することができる。
【0036】
具体的に、請求項9の発明は、前記ボードの前記減震ユニットが搭載される側を表面、その反対側を前記ボードの裏面として、前記ボードの前記表面と前記裏面を利用して、前記減震ユニットをボルトとナットなどの留め具で締結したものである。
【0037】
すなわち、本発明においては、前記減震ユニットをボード材に直接固定するのではなく、ボードの表面と裏面を利用して前記減震ユニットを挟み込む形で固定することにより、強大なロッキング振動の引き抜き荷重に耐えると共に、ボードの薄型化が図れる。
【0038】
具体的に、請求項10の発明は、前記ナットは複数個のネジ穴を有し、かつ平板形状で構成したものである。
【0039】
すなわち、本発明においては、前記ナットを平板形状で構成することにより、ロッキング振動時の強大な引き抜き荷重を面で受けるため、ボードに高い強度を必要とせしない。ボルトとナットの各一個の組み合わせでも、ユニットとボードの締結は可能であるが、ボードの材質が脆弱な場合はナットが空転して締結が無効になる場合が多い。本発明の平板形状ナットを適用すれば、ボルト締結時のナットの空転防止の効果も有する。
【0040】
具体的に、請求項11の発明は、前記ボードの前記裏面に滑り止め部材を設けたものである。
【0041】
すなわち、本発明においては、保護対象機器、擬似剛体化ユニット、ボードが一体化しており、前記ボードの裏面に滑り止め部材を設けることで、システム全体の設置安定性を充分に向上できる。
【0042】
具体的に、請求項12の発明は、上限値隙間δV
2、下限値隙間δV
1が調整目標であって、前記保護対象機器を前記上部部材上に搭載した状態で前記下限値調整ナットにより前記δV
1を設定する工程と、前記保護対象機器を前記上部部材からら取り外して、前記上限値調整ナットにより前記下限値規制部における前記上部ベース部と前記下部ベース部間の上下方向の隙間をδV
1+δV
2に設定する工程を備えたことを特徴とする請求項6記載の減震ユニットの調整方法である。
【0043】
すなわち、本発明においては、保護対象機器を搭載した状態では、上限値の設定はできない薄型構造ユニットの場合、下限値の隙間δV
1の設定が完了すれば、次のステップで、この下限値規制部の隙間部を再利用して、上限値の隙間δV
2の設定も可能であるという点を利用したものである。
【0044】
具体的に、請求項13の発明は、前記保護対象機器の底面に前記減震ユニットを固定する工程と、前記減震ユニットの固定後、前記保護対象機器の床面の一箇所もしくは全底面を浮上させて、前記弾性支持部材の水平方向復元力による自動調芯作用を利用して前記上部部材と下部部材の水平方向隙間を全周で均一化する工程と、前記上部部材と下部部材の水平方向隙間を全周で均一化した後、前記減震ユニットを前記ボードに締結する工程と、を備えた減震システムの調整方法である。
【0045】
すなわち、本発明においては、弾性支持部材の移動を前記上限値規制部及び前記下限値規制部における狭い隙間で規制して「擬似剛体化」すると、振れやすいがゆえに倒れ易いフローティング式の欠点を補うだけではなく、フローティング式の長所(自動調芯作用・自動隙間均一化作用)を逆に活かして、剛体支持式では出来なかった狭い隙間の上下・水平方向隙間の調節が容易に可能という点に着目したものである。即ち本発明では、フローティング式の短所が逆に長所として活用できる。
【0046】
具体的に、請求項14の発明は、保護対象機器を搭載する側に設けられた上部部材と、設置床面側に設けられた下部部材と、前記上部部材と前記下部部材の間に設けられた前記保護対象機器の荷重を支持する弾性支持部材と、前記上部部材の上方向の移動量を規制する上限値規制部と、前記上部部材の下方向の移動量を規制する下限値規制部から構成され、前記弾性支持部材は粘弾性材料を加硫接着したスプリングコイルで構成したものである。
【0047】
すなわち、本発明においては、ゴム(粘弾性材料)を加硫(高温処理)接着したスプリングコイルを本ユニットに内蔵することで、ユニットの構造、外形寸法などを大きく変えることなく、水平方向・垂直方向に充分な減衰作用を持たせることができる。
【0048】
具体的に、請求項15の発明は、前記弾性支持部材は上端部と下端部にスプリングコイルの金属表面の露出部分を有し、この露出部分で上部部材と下部部材の軸芯が一致した状態を保つための上部部材と下部部材に形成された位置決め部と螺合する構成にしたものである。
【0049】
すなわち、本発明においては、ゴムを加硫接着したスプリングコイルの上下端に金属露出部分を形成して、上部部材と下部部材の位置決め部にこの金属露出部分を装着することで、上限値隙間δV
2、上限値隙間δV
1を、及び、水平方向の隙間δHを高い精度で得られる。
【0050】
具体的に、請求項16の発明は、保護対象機器を搭載する側に設けられた上部部材と、設置床面側に設けられた下部部材と、前記上部部材と前記下部部材の間に設けられた前記保護対象機器の荷重を支持する弾性支持部材と、前記上部部材の上方向の移動量を規制する上限値規制部と、前記上部部材の下方向の移動量を規制する下限値規制部から構成され、前記上限値規制部、及び、又は前記下限値規制部を構成する前記上部部材と前記下部部材の軸方向相対移動面のいずれかに衝撃緩衝部材を装備したものである。
【0051】
すなわち、本発明においては、上限値規制部、及び、又は下限値規制部を構成する上部部材と下部部材の軸方向相対移動面に衝撃緩衝部材を装着する。平常時は非接触で、非常時に前記衝撃緩衝部材が作用するように装着することで、ロッキング振動時における衝撃緩和を図ることができる。
【0052】
具体的に、請求項17の発明は、軸方向に伸縮可能な防塵皮膜により前記上部部材と前記下部部材の間を遮蔽する構造にしたものである。
【0053】
すなわち、本発明においては、本ユニットを例えば蛇腹状に形成された外囲部で覆うことにより、密閉構造にしたものである。この密閉構造により、吸振体の内部に収納した圧縮コイルばね、サージング防止部材を、風雨や紫外線によって劣化するのを防止すると共に、上下と水平方向の位置規制部を塵埃の影響を受けないで、狭い隙間δV
1、δV
2を維持できる。
【0054】
具体的に、請求項18の発明は、前記上部部材と前記下部部材の間を遮蔽する構造であり、軸方向に伸縮可能な防塵皮膜をさらに備え、前記上部部材側に設けられた前記防塵皮膜の上部固定部と、前記下部部材側に設けられた前記防塵皮膜の下部固定部と、前記下部固定部と前記下部固定部の間で前記防塵皮膜を仮固定するための中間固定部を設けたものである。
【0055】
すなわち、本発明においては、上限値と下限値を設定する際に、前記防塵皮膜を前記中間固定部に仮固定することにより、防塵皮膜の影響を受けないで、上限値と下限値を容易に調節できる。
【0056】
具体的に、請求項19の発明は、保護対象機器を支持する各減震ユニットに加わる荷重が予め決められた減震システムであって、前記保護対象機器を搭載する側に設けられた上部部材と、設置床面側に設けられた下部部材と、前記上部部材と前記下部部材の間に設けられた前記保護対象機器の荷重を支持する弾性支持部材と、この上部部材から下方向に伸びた中心軸と、この中心軸と前記上部部材間に設けられた上限値規制部と、前記上部部材と前記下部部材間に設けられた下限値規制部から構成され、前記保護対象機器を搭載された平常状態において、前記上限値規制部と前記下限値規制部の隙間は2.5mm以下になるように構成したものである。
【0057】
すなわち、本発明においては、搭載される保護対象機器の荷重が予め定められている場合には、上限値と下限値を調節する手段(ねじ部とナット)を省略して構造の大幅な簡素化を図ることができる。
【0058】
具体的に、請求項20の発明は、前記上部部材から前記下部部材を貫通して下方向に伸びた中心軸と、この中心軸に形成されたねじ部に装着されて前記上部部材側に設けられた下限値調整ナットと、前記中心軸に形成されたねじ部に装着されて前記設置床面側に設けられた上限値調整ナットと、前記上限値調整ナットと前記下部部材の間で上限値隙間を設定する上限値規制部と、前記下限値調整ナットと前記下部部材の間で下限値隙間を設定する下限値規制部から構成したことを特徴とするものである。
【0059】
すなわち、本発明においては、弾性支持部材(スプリングコイル)の内部空間を利用して、下限値隙間δV
1、上限値隙間δV
2、水平方向移動量δHを設定される箇所が近接して設けられているためユニット構造の簡素化が図れる。
【0060】
具体的に、請求項21の発明は、保護対象機器と設置面の間に剛体支持部材Aと上下方向の変位規制手段を有する支持部材Bが並列に複数組配置されており、平常時には前記支持部材Bは前記保護対象機器を支持する機能が無効で、かつ前記支持部材Aが前記保護対象機器を支持して、地震発生などの非常時に前記支持部材Aが前記保護対象機器を支持出来ない場合において、前記支持部材Bが前記保護対象機器を支持する構成にしたものである。
【0061】
すなわち、本発明においては、剛体支持部材と変位規制手段を有する支持部材を並列に複数組配置することで、平常時フローティング(弾性)支持することが不必要、あるいは不具合をもたらす保護対象機器に対して、地震対策として適用できる。
【0062】
具体的に、請求項22の発明は、複数組の前記減震ユニットに保護対象機器を搭載して、前記弾性支持部材による前記保護対象機器の荷重支持が平衡状態になったときの前記減震ユニットの高さをH
0、剛体支持部材の高さHとして、H>H
0となるように、前記剛体支持部材を前記減震ユニットと並列かつ離脱可能に配置したことを特徴とするものである。
【0063】
すなわち、本発明においては、平常時には減震ユニット(擬似剛体化ユニット)と剛体支持部材が並列に配置されて保護対象機器を支持している。前記擬似剛体化ユニットは上限値・下限値と水平方向の狭い隙間を維持しているが、弾性支持作用が無効の状態となっている。前記保護対象機器に外力が加わった非常時において、前記擬似剛体化ユニットの変位抑制機能により、前記保護対象機器の転倒あるいは破損を防止することができる。
【0064】
具体的に、請求項23の発明は、前記ボードと前記設置面を締結する手段として、前記ボードと前記設置面間で、限定されたストローク内で伸縮可能なアンカーを装着したものである。
【0065】
すなわち、本発明においては、地震波によるロッキング振動発生時において、前記スライド式アンカーユニットのストローク限界内で、前記ボードはスプリングコイル958に抗して浮上する。その結果、前記ボードを設置面に完全固定した場合と比較して、保護対象機器に与える衝撃力を低減できる。
【0066】
具体的に、請求項24の発明は、前記ボードの一部、もしくは全体を収納する外枠と、この外枠と前記ボードの間で、前記ボードが前記外枠に対して水平方向に移動可能することで、前記ボードに滑り免震作用を与えるように構成したものである。
【0067】
すなわち、本発明においては、地震波によるロッキング振動が発生した場合、前記ボードは底板に対して、XY方向に摺動可能であり、かつ実施例では、Z軸方向にも浮上可能に構成されている。XY方向の摺動が「すべり免震」の効果となり、平常時に除振・防振の機能を維持したままで、非常時に剛体支持以下の衝撃力軽減を図ることができる。
【0068】
具体的に、請求項25の発明は、前記保護対象機器をオーディオ用スピーカーとして、擬似剛体化システムを構成したものである。
【0069】
すなわち、本発明においては、産業用の防振技術、あるいは従来地震対策では実現できなかったオーディオ用スピーカーの永年の課題、「平常時にスピーカーの音響特性を劣化させないで、非常時に地震対策を図る抜本的解決手段」を提供することができる。また、本発明の適用により、(1)床面とスピーカー間は振動遮断されているために、床面とスピーカーの振動の相互干渉による音質の劣化を回避できる。(2)スプリングの自動調芯作用により、限られた設置スペース内で、擬似剛体化ユニットの設置作業が容易である。(3)ボードを床面に対してアンカー施工を施さなくてもよいために、スピーカー設置後、位置・角度の再調整が容易である。(4)ボードを薄くできるために、設置面積の小さなトールボーイ型の利点を失わない、などの適用効果が得られる。これらの効果を要約すれば、振れやすいがゆえに倒れ易いフローティング式の欠点を補うだけではなく、フローティング式の特徴(自動調芯作用)を逆に活かして、剛体支持式では出来なかった地震対策が図れる。
【0070】
具体的に、請求項26の発明は、保護対象機器を搭載する側に設けられた上部部材と、設置床面側に設けられた下部部材と、前記上部部材と前記下部部材の間に設けられた前記保護対象機器の荷重を支持する弾性支持部材と、前記上部部材の上方向の移動量を規制する上限値規制部と、前記上部部材の下方向の移動量を規制する下限値規制部と、前記弾性支持部材、前記上限値規制部、前記下限値規制部から前記保護対象機器の荷重を支える擬似剛体化ユニットを構成し、保護対象機器であるオーディオ機器と、前記上部部材の間に、前記オーディオ機器から前記上部部材に至る振動伝播経路Φ
Zから分岐した振動伝播経路Φ
Rを有し、かつこの振動伝播経路Φ
Rは概略筒型形状部材で構成される共振部材を装着したものである。
【0071】
すなわち、本発明においては、振動伝播経路Φ
Rを有する前記共振部材は、上記Φ
Zに対して並列に配置されている。スピーカーのボイスコイル反力によって、前記共振部材には高周波数における様々な振動モードが励起される。これらの共振モードに加えて、余韻・ゆらぎなどを有する風鈴の音響振動特性が、既提案と同様、「風鈴効果」(Wind Bell Effect)と呼ばれる音響効果、すなわち、音像の定位感、分解能、透明感、スケール感などの音響特性向上効果をもたらすのである。すなわち、本発明においては、擬似剛体化ユニットの上部に風鈴効果をもたらす共振部材を配置することで、音響特性の向上と、擬似剛体化ユニットが有する前述した様々な特徴、たとえば、設置安定性の両方の向上を図ることができる。
【0072】
具体的に、請求項27の発明は、前記共振部材の中央部近傍に形成されたボルト貫通穴により、前記共振部材を介在して、前記上部部材とオーディオ機器をボルト締結したものである。
【0073】
すなわち、本発明においては、(1)振動遮断効果のみ、(2)振動遮断効果+風鈴効果、上記(1)の振動遮断効果により、混変調歪の発生を回避することでオーディオ再生音の物理特性を改善し、上記(2)により、音楽的表現力を高める風鈴効果を付加することができる。上記(1)(2)を容易に選択できるという効用は、既提案では得られなかったものである。
【0074】
具体的に、請求項28の発明は、前記共振部材の1次の共振周波数は8000Hz以上となるように構成したものである。
【0075】
すなわち、本発明においては、人の可聴域を超えた12000Hz以上、あるいは20000Hz以上の領域でも楽器の倍音成分を正確に再生することで、オーディオ再生音の音響特性向上に多大な影響を与えることに着目したものである。昨今のハイレゾ音源の普及により、スピーカーなどのオーディオ機器は、より高い周波数域までフラットな再生音が得られるようになっており、本実施例インシュレータを適用すれば、聴感上は風鈴効果の有無はほとんど聴き分けられないにもかかわらず、空気感、臨場感等を効果的に再現することができる。
【0076】
具体的に、請求項29の発明は、前記共振部材と前記上部部材の間に介在して設けられた中間部材と、この中間部材と前記共振部材の間、もしくは前記中間部材と前記上部部材の間は点接触、あるいは線接触で密着する複数個の部材が介在して装着したものである。
【0077】
すなわち、本発明においては、前記共振部材は前記中間部材に対して、中心部を除いて点接触、あるいは線接触で密着しており、両部材間の接触面積が小さいため、共振部材の振動減衰は小さく、風鈴効果をおおいに向上させることができる。
【0078】
具体的に、請求項30の発明は、保護対象機器を搭載する側に設けられた上部部材と、設置床面側に設けられた下部部材と、前記上部部材と前記下部部材の間に設けられた前記保護対象機器の荷重を支持する弾性支持部材と、前記上部部材の上方向の移動量を規制する上限値規制部と、前記上部部材の下方向の移動量を規制する下限値規制部と、前記弾性支持部材、前記上限値規制部、前記下限値規制部から前記保護対象機器の荷重を支える擬似剛体化ユニットを構成し、保護対象機器であるオーディオ機器を支持するスパイク先端部を、前記上部部材に形成された窪み部、もしくは、前記上部部材上に配置したスペーサに形成された窪み部で支持したものである。
【0079】
すなわち、本発明においては、上限値と下限値の狭い隙間を設定できる擬似剛体化ユニットの特徴を活かし、設置不安定であるがゆえに、従来困難とされたフローティング式のスパイク受けが実現できる。
【0080】
具体的に、請求項31の発明は、スピーカーと設置面の間に上下方向の変位規制手段を有する支持部材を介在させて、前記スピーカーの底面部と前記支持部材間、及び、この支持部材と前記設置面間をねじ等で締結すると共に、前記スピーカー底面部を材質Aの部材で構成し、前記スピーカーの前記底面部以外の壁面を材質Bの部材で構成し、かつロッキング振動時の引き抜き荷重に耐えるように、材質Aの引張り強度は材質Bよりも大となるように構成したものである。
【0081】
すなわち、従来のスピーカーの設置方法では、スピーカー自身の荷重を床面に支持する圧縮荷重しか考慮する必要がない場合が多く、ロッキング振動による強大な引き抜き荷重対策は、スピーカーと設置面(ボード)を固定する本発明から生まれた新しいニーズである。前記スピーカー底面部を材質Aの引張り強度を、前記底面部以外の壁面を材質Bより大となるように構成することで、擬似剛体化システムを効果的に適用できる。
【0082】
具体的に、請求項32の発明は、スピーカーと設置床面の間に上下方向の変位規制手段を有する支持部材を介在させて、前記スピーカーの底面部と前記支持部材間、及び、この支持部材と前記設置床面間をねじ等で締結すると共に、前記スピーカー底面部は多層構造になっており、この各層の間にロッキング振動時の引き抜き荷重を広い面積で受ける平板部を有する締結部材を装着したものである。
【0083】
すなわち、本発明においては、前記スピーカー底面部を多層構造にして、この各層の間に荷重を広い面積で受ける締結部材を装着することで、ロッキング振動時の引き抜き荷重に耐える擬似剛体化システムを適用できる。
【0084】
具体的に、請求項33の発明は、前記ボードを壁面近傍の床面に設置して、前記床面上にアンカーなどで設けられた留め具Aと、前記ボード上に設けられた留め具Bと、前記留め具Aと前記留め具Bを繋ぐ連結部材から構成され、かつ前記保護対象機器の転倒時の衝撃を緩和するような衝撃緩衝材が前記保護対象機器近傍の前記壁面に形成したものである。
【0085】
すなわち、本発明においては、前記ボード近傍で前記床面上にアンカーなどで設けられた留め具Aと、前記ボード上に設けられた留め具Bの間を、引張強度が高く、伸縮あるいは長さ調節ができる連結部材(金属製ワイヤ、チェーン、ベルト等)で繋ぐ構成にする。巨大な地震発生時において、前記保護対象機器が壁面側に転倒したときは、衝撃緩衝材が保護して、壁面と反対側の転倒は前記連結部材が防止することができる。平常時において、前記保護対象機器はボードに対して前記減震ユニットを介してフローティングしているために、前記保護対象機器を拘束せず、除振・防振性能を維持できる。
【0086】
具体的に、請求項34の発明は、前記保護対象機器をオーディオ機器として、かつ衝撃緩衝材は吸音材を兼ねて装備したものである。
【0087】
すなわち、本発明においては、オーディオ機器をたとえばスピーカーとした場合、(i)スピーカーは通常部屋の壁面近傍に設置される。(ii)スピーカーの背面には吸音材の設置が音響特性上有効である。(iii)吸音材は衝撃緩衝材を兼ねることができる。上記(i)〜(iii)に着目することで、前記スピーカーが設置された近傍の壁面に吸音材を装備したものである。
【0088】
具体的に、請求項35の発明は、オーディオボード上でオーディオ機器は硬質式インシュレータによって支持されており、非常時にオーディオ機器の移動を規制する変位規制機構と、この変位規制機構を固定する変位規制ボードから構成され、前記オーディオボードと前記変位規制ボードを分離して配置したものである。
【0089】
すなわち、本発明においては、オーディオ機器をオーディオボード上で剛体支持した場合、ボードには音響特性を考慮した素材の選択が必要である。一方、変位規制機構を固定する変位規制ボードは、ロッキング振動による引き抜き荷重を考慮した強度を有する材料が必要である。上記2つのボードを分離して配置することで、それぞれに要求される最適な素材と構成を選択できる。
【0090】
具体的に、請求項35の発明は、前記上限値規制部と前記下限値規制部値の隙間を2.5mm以下に設定したものである。
【0091】
すなわち、本発明においては、擬似剛体化ユニットは様々な用途に数多く使用されるため、その量産性とコストを考慮したとき、前記下限値隙間δV
1、及び前記上限値規隙間δV
2を2.5mm以下に設定できるようにユニットを構成する部品を製作すれば、地震対策として充分な性能が得られる。
【0092】
具体的に、請求項36の発明は、解析対象である剛体ブロックはばね定数Kの弾性部材で支持され、かつこの弾性部材の変位yはy
b<y<y
aの範囲で規制されており、y
b<y<y
aの範囲ではばね定数Kに線形比例した反力、y≦y
b及びy≧y
aの範囲では変位に対して絶対値が急峻に増大する非線形ばね剛性による反力を前記剛体ブロックの運動方程式に与えることにより、前記剛体ブロックのロッキング振動が発生したときの動的挙動を求める数値解析方法を提案するものである。
【0093】
すなわち、本発明においては、従来研究例の無かった下記条件下におけるロッキング振動発生時における剛体の動的挙動、すなわち、(i)剛体ブロックはバネで支持されている。(ii)剛体ブロックの変位は、 狭い隙間の範囲で規制されている。 上記(i)(ii)の条件下で、剛体ブロックの動的挙動(ダイナミクス)を理論的に解明して、保護対象機器である剛体ブロックの平常時の除振・防振性能と、非常時の地震対策を同時に実現する条件を見出すことができる。
【発明の効果】
【0094】
本発明による「擬似剛体化ユニット」の適用により、保護対象機器の移動量を規制する上限値・下限値の狭い隙間の調整を高精度、かつ簡便に行うことができる。システム全体の大幅な簡素化を図ると共に、地震波によるロッキング振動発生時において、保護対象機器に与えるダメージの大きさを大幅に低減できる。
【0095】
また、床面のアンカーボルト施工が難しいオフィス空間、一般住宅などでも、簡素・設置容易な構造で地震対策が図れる。たとえば、本発明による「減震ユニット(擬似剛体化ユニット)」をオーディオ用スピーカーに適用すれば、永年の未解決課題、すなわち、(i)スピーカーが床面から離脱して、かつ転倒しないように床面に安定設置する、(ii)スピーカーの音響特性を劣化させない。上記(i)(ii)を同時に満足させる抜本的解決手段を提供することができる。その効果は顕著である。
【発明を実施するための形態】
【0097】
さて、本発明を次の2つのステップに分けて説明する。
[1] 一般産業用への適用事例
[2] オーディオ用スピーカーへの適用事例
以下、(i)保護対象機器の荷重を支持する弾性支持部材(スプリングコイル)、(ii)弾性支持部材の移動量を狭い隙間で規制する手段、上記(i)(ii)を一個のユニットに内蔵した減震構造を、技術の特徴を明確に表現するために、フローティング式の「擬似剛体化ユニット」と呼ぶことにする。最初に上記[1]について説明する。
【0098】
[1-1] 本発明の一般産業用への適用事例
[第1実施形態]
以下説明する本発明の産業機器への適用事例では、保護対象機器を搭載した擬似剛体化ユニット(減震ユニット)を薄いボードに装着して、かつ、ボードと床面間をアンカー施工などにより完全固定した場合を示す。ここで、減震とは防振、除振、免震等の概念を含むものである。
図1〜
図4は、本発明の実施形態1に係るフローティング式の「擬似剛体化ユニット」を示すもので、平常時に本ユニットで支持された保護対象機器の防振、あるいは除振を図ると共に、Z軸方向の上限値と下限値を、保護対象機器を搭載した状態で調節できる機能をユニット内部に内蔵させたものである。この機能により、平常時に防振・除振の機能を維持したままで、地震波によるロッキング振動発生の非常時において、保護対象機器に加わる衝撃力を低減して、転倒・破損防止を図るための上限値・下限値の隙間を狭く、高精度、かつ簡易に行うことができる。ちなみに、ロッキング振動とは、前述したように、ブロック型構造物の両端を2つの支点として、各支点を中心に、回転運動を交互に繰り返す振動をいう。また、溶接複合部材から構成される従来防振架台と比べて、システム全体の大幅な構造の簡素化を図ることができる。
【0099】
図1は
図2の上面図、
図2は
図1のE-E断面図(後述する脚部18Cは省略して図示)、
図3は正面図、
図4は外観図である。10はユニット本体部、11は上部ベース(上部部材)、12は下部ハウジング(下部部材)、13は上部ベース10の中央部に形成され、下端部に開口部を有する筒部(中心部材)である。14は弾性支持部材であるスプリングコイル、15、16はスプリングコイル14を装着した状態で、下部ハウジング12と上部ベース11の軸芯が一致した状態を保つための両部材に形成された位置決め部である。17はサージング防止部材(サージング共振防止手段)であり、このサージング防止部材は、スプリングコイル14の内周面に、変形して常に接触した状態を保っている。下部ハウジング12の下端部は3脚構造であり、18aは脚部A、18bは脚部B、18cは脚部C(
図2に想像線で図示)である。19a、19b、19cは本ユニットを床面上に設置されたボード(後述)に締結するボルトである。20a、20bは上部ベース11の上面部で、20aはこの上面部における上面凸部、20bは外周部である。上面凸部20a上に保護対象機器21(想像線で示す)が搭載されて、筒部13内に収納されたボルト22により、上部ベース11と締結される。23は上限値調整ナット、24はこの上限値調整ナットの内面と筒部13の外周面に形成されたねじ部である。25は下限値調整ナット、26はこの下限値調整ナットの内面と下部ハウジング12の外周面に形成されたねじ部である。上限値調整ナット23の軸方向高さを調整することにより、上部ベース11の上方向の移動限界量δV
2を設定できる。また、下限値調整ナット25の軸方向高さを調整することにより、上部ベース11の下方向の移動限界量δV
1を設定できる。
【0100】
すなわち、筒部13(中心部材)に形成されたねじ部24(中心側ねじ部)と、このねじ部と勘合する上限値調整ナット23と、この上限値調整ナットと下部ハウジング12(下部部材)間の隙間の設定により上部部材11の上方向の移動量(上限値隙間δV
2)を調節可能に設定できる上限値規制部(鎖線円bb)を構成している。
【0101】
また、下部ハウジング12(下部部材)の外周側に形成されたねじ部26(外周側ねじ部)と、このねじ部と勘合する下限値調整ナット25と、この下限値調整ナットと上部ベース11間の隙間の設定により、前記上部ベースの下方向の移動量を調節可能に設定できる下限値規制部(鎖線円aa)を構成している。
【0102】
27は下部ハウジング12の中心部に形成された変位規制部である。下部ハウジング12の左断面に注目すれば、左断面の形状は右上がりの概略階段形状をしている。その階段の最上段が、上限値と水平方向隙間を規制する変位規制部である。同様に、右断面は左上がりの概略階段形状をしている。28は筒部13の下端部と上限値調整ナット23を収納する変位規制空間である。筒部13の外周面29と変位規制部27の内周面は、狭い隙間δHが維持されており、このδHが上部ベース11の水平方向移動量と傾斜量を規制する。
【0103】
さて下部ハウジング12は3脚(18a、18b、18c)で支持されるため、その下端中央部は変位規制空間28となっている。この変位規制空間28内に上限値調整ナット23が収納される構成のため、本実施例ユニットでは、保護対象機器21を搭載した状態で、上限値隙間δV
2を精度良く調節できる。すなわち、
図1に示すように、2つの脚部間に工具30(想像線で示す)を挿入する。たとえば薄いシート(図示せず)を上限値調整ナット23とその対向面(変位規制部27)の間に装着後、上限値調整ナット23を回転して軽く締結状態にする。その後、このシートを抜けばよい。下限値隙間δV
1の設定も同様である。保護対象機器21を搭載した状態で、下限値隙間δV
1だけではなく、上限値隙間δV
2も調節できる本実施例ユニットにより、次の効果が得られる。
【0104】
(1)保護対象機器の設置・調整作業が容易にできる。
たとえば、特許文献5で開示されているユニット構造(
図96)では、保護対象機
器を搭載状態では、上限値隙間δV
2の調整はできない。
(2)保護対象機器を設置後、たとえば、前記保護対象機器に部分改造がなされて搭載重量が変化した場合、あるいは重心位置が変化した場合でも、前記保護対象機器を搭載状態で、上限値・下限値隙間の再調整が容易にできる。
【0105】
[1-3]節の理論解析で示すように、ロッキング振動発生時において、隙間δV
1及びδV
2を狭くする程、保護対象機器に加わる衝撃荷重を低減できる。また[2−3]節で後述するように、ボードを床面にアンカー固定しない場合、転倒に対する裕度は上記隙間δV
1及びδV
2に大きく依存する。
【0106】
図5は、実施例ユニットを床面に設置したボード上に締結する構造例を示すものである。31はボード、32は床面、33はボードの底面に形成した空隙部、34はこの空隙部を利用して、ボード31の底面に装着されるディスク型ナットである。
【0107】
本実施形態における擬似剛体化ユニットは、このユニットが設置されるボード31面に対する前記保護対象機器が搭載される上面凸部20aの高さHuの平行度を充分に高い精度で確保できる。上部ベース11の上面に、径小の上面凸部20aを形成した理由は、前記保護対象機器の底面が必ずしも高い面精度で加工されているとは限らない場合を想定している。本発明の擬似剛体化ユニットは変位規制機構(隙間δV
1及びδV
2を調整する箇所)と、荷重を支持するスプリングコイル14を同軸上で、かつ両者を近接した位置に配置している。その他の実施例も同様であるが、高い精度を必要とする箇所はすべて軸対称部品であり、旋盤加工で製作できるため、高い加工精度が得られる。高精度部品を組み合わせることで、変位規制部の隙間(δV
1及びδV
2)を精度よく、かつ狭く設定できる。また、筒部13の外周面29と前記変位規制部の内周面の隙間δHを狭い間隙で設定できる。
【0108】
図6は前記ディスク型ナット34の構造を示すもので、
図6(a)は上面図、
図6(b)は側面断面図である。35はプレート部、36a、36b、36c、36dは円周上の4箇所に形成された凸形状のナット部である。
図5において、37a、37b、37c、37dはボード31に形成された貫通穴であり、ディスク型ナット34の凸形状のナット部36a、36b、36c、36dは、前記貫通穴に挿入されて固定される。ディスク型ナット34で擬似剛体化ユニット10をボード31の裏面から固定するため、ロッキング振動による大きな引き抜き荷重をディスク型ナット34の面全体で受けることができる。そのため、板厚が薄く、剛性の低いボード31でも十分な強度で本システムを構成できる。ボルトとナットの各一個の組み合わせでも、ユニットとボードの締結は可能であるが、ボードの材質が脆弱な場合はナットが空転して締結が無効になる場合が多い。本実施形態のディスク型ナット34を適用すれば、ボルト締結時のナットの空転防止の効果も有する。
【0109】
図7は、前記ディスク型ナットが装着されたボード31の構造全体を示すもので、
図7(a)は上面図、
図7(b)はA-A断面図である。38a、38b、38c、38dはボード31を床面32に固定するためのアンカー(鎖線で示す)である。
【0110】
本実施形態で示した擬似剛体化ユニットでは、下部ハウジング12の外周面にねじ部を形成して、下限値調整ナット25と組み合わせることで下限値規制部を構成した。この構成ではなく、上部ベース11の外径を下部ハウジング12のそれよりも十分に小さくして、前記上部ベースの外周面にねじ部を形成してナットを装着する。このナットの下端面と下部ハウジングの間で下限値規制部を構成してもよい。この場合、前記上部ベースの形状を筒状にして、この筒部の外周部にねじ部を形成してもよい。ちなみに、本実施形態と異なる下限値規制部の上記構成は、本発明の他の実施形態にも適用できる(図示せず)。
【0111】
後述する他の実施形態も同様であるが、本実施形態ではスプリングコイル14の図形中心(ばね重心)を軸芯として、この軸芯上、もしくは、この軸芯を囲む円周上(本実施例では軸芯の同芯円上)に前記上限値規制部と前記下限値規制部は配置されている。前記軸芯上の任意の一点を本発明では「ばね重心」と呼ぶことにする。ばね重心とは、スプリングコイルの反力によるモーメントがゼロとなる線上の一点である。スプリングコイルの円周方向の弾性係数が軸非対称の場合は、スプリングコイルの「図形中心≠ばね重心」となる。本発明は、たとえば、複数の小径スプリングコイルが円周上に等角で配置されている場合でも適用できる。この場合は、「ばね重心=前記円周の中心」となる。(図示せず)
【0112】
[1-2] ロッキング振動に関する従来研究例
地震時に発生する構造物のロッキング振動に関する研究例は多い。たとえば、文献7において、小林らは剛体を2つ積み重ねた2自由度ロッキング系の地震時における構造物の転倒条件を、数値シュミュレーションにより求めている。文献8において、鄭らは構造物とベース(設置面)間に滑り運動を考慮した非線形ロッキングモデルを提案し、その力学モデルの妥当性を実験により評価している。文献9において、古川らは最大加速度に対して転倒する墓石の高さ幅比の最小値を振動数毎に求め、転倒基準を作成している。上記研究はいずれも拘束の無い剛体ブロックに、外力が加わったときの動力学的な特性を求めるものであった。
【0113】
但し、剛体ブロックを保護対象機器として 平常時の除振・防振性能と、非常時の地震対策を同時に実現するために(i)剛体ブロックはバネで支持されている。(ii)剛体ブロックの変位は、 狭い隙間の範囲で規制されている。
上記(i)(ii)の条件下で、剛体ブロックの動的挙動(ダイナミクス)を理論的に解明した研究例は、現段階では本発明の研究以外には見当たらない。
【0114】
[1-3] 衝撃荷重を求める理論解析
[1-3-1] 基礎式
ボードに締結された擬似剛体化ユニット(減震ユニット)に保護対象機器を搭載して、かつボードと床面間がアンカーなどにより完全固定された場合において、前記保護対象機器の支持部に加わる衝撃荷重を求める解析を行う。以下、上限値・下限値の変位規制機構を組み入れて、スプリング支持された剛体ブロック重心の垂直方向変位と、ブロックのコーナーを支点とする傾斜角θに関する基礎式を導出する。
図8は、床面32にアンカー固定されたボード31上に擬似剛体化ユニット10a〜10dを締結して、その上部に保護対象機器21(以下、剛体ブロックと呼ぶ)を搭載した状態を示す。
図9は、前記剛体ブロックにロッキング振動が発生した状態(剛体ブロックは角度θで傾斜)を示す解析モデル図である。
【0115】
ここで、mは剛体ブロックの質量、Rはブロック底面コーナーと重心位置G間の距離、B
0はブロック左右支持部間の距離、I
0は底面コーナーを支点とする剛体ブロックの回転モーメント、剛体ブロックの重心高さをHとして、tan(φ)=B
0/2Hである。鎖線円BBで示す箇所が、上限値と下限値を調整する変位規制機構とスプリングで構成される。
図9において、剛体ブロック重心の変位をY、静的釣合点からの左右コーナー部の変位をy
1、y
2とおくと
【0117】
【数3】
ここで変位y
1、y
2と速度dy
1/dt、dy
2/dt与えて、左右支持部の反力を求める下記の非線形隙間関数を導入する。
【0118】
【数4】
ブロックの重心Gに作用する左右支持部からの反力F
sは
【0119】
【数5】
したがって、右コーナーを支点とする回転方向と、重心Gにおける垂直方向の運動方程式は
【0120】
【数6】
したがって、上記微分方程式(8)(9)を連立して解くことにより、ロッキング振動における角度θと変位Yが求められる。ここで非線形隙間関数F
Φ(Narrow Gap Function)は、微小隙間内で衝突を伴う振動現象を解くために導入したものである。
図10にその解析モデルを示す。支持部からの反力を求めるために、上記隙間関数を導入することにより、衝突前後の運動方程式を不連続に切り替えることなく、過渡応答解析により連続的に解が求められる。
【0121】
【数7】
衝突の無いy
b<y
1<y
a及びy
b<y
2<y
aの範囲では、左右支持部のばね剛性をK
1、K
2 とし
て、各支持部のスプリング反力と変位y
1、y
2の関係は線形である。
【0122】
【数8】
y≦y
a及びy≧y
bの範囲では、変位に対して絶対値が急峻に増大する非線形ばね剛性による反力、及び、変位と速度に対して非線形の減衰を式(8)、式(9)の運動方程式に与える。但しy=y
a及びy=y
bにおいて、変位に対する反力の特性は連続的に繋がっている。
図11にスプリング反力K
Φ(y)・yの一例を示す。
【0123】
[1-3-2] 回転角と衝撃荷重の解析結果
以下、剛体ブロックに水平方向加速度が加わった場合、ロッキング振動の回転角と支持部の発生力を求める解析を行う。解析条件は、ブロック支持幅B
0=282mm、重心高さH=710mm、R=0.274m、ブロック質量m=30Kg、ブロックの慣性モーメント I
0=21.0Nms
2、支持部ばね剛性K
1=K
2=5.92×10
4N/m、上記mとK
1、K
2で決まる垂直方向の共振周波数f
0H =10Hz、回転方向の共振周波数f
0R=1.3Hzである。剛体ブロックにロッキング振動を与える水平方向加速度を
図12(a)、
図12bに示す。すなわち、時間30秒の間で、一定振幅a=3m/s
2、周波数f=6Hz→0.4Hzの範囲で変化するSweep波形を床面に与えた場合を仮定する。
【0124】
図13は、下限値隙間δV
1 、上限値隙間δV
2として、変位規制δV
1=δV
2=1.5mmを施した場合について、ロッキング振動の回転角の応答特性を求めたものである。変位規制が無い場合の応答特性を同グラフに鎖線で示す。変位規制が無い場合、時間t=25s近傍でロッキング振動の回転角θは共振ピーク値(θ
max=17deg)を示す。この共振ピーク値を示す時間tは、Sweep加速度形(
図12b)の周波数が剛体ブロックの回転方向共振周波数f
0R=1.3Hzに一致した時間に相当する。変位規制を施した場合、回転角θは上記共振点近傍で一定値を保っている。
【0125】
図14は、
図13と同一条件で、擬似剛体化ユニット支持部の発生力F
1(ブロック底面左コーナー)の応答特性を求めたものである。剛体ブロックの底面に擬似剛体化ユニットを4個配置した場合は、本グラフにおける発生荷重はユニット2個分に相当する。F
1>0の波形が圧縮荷重で、F
1<0の波形が引き抜き荷重である。ボードをアンカー固定しない場合は、この引き抜き荷重が剛体ブロックを浮上させる転倒作用になる。
【0126】
変位規制を施した場合、上記共振点近傍で保護対象機器の支持部に加わる圧縮荷重、引き抜き荷重共にピークとなる。すなわち、上限値隙間δV
2と下限値隙間δV
1を共に1.5mmに設定すると、最大圧縮荷重は1/5(F
1=2800N→600N)に低減する。
図15、
図16は、ユニット支持部の発生力F
1の応答特性を、剛体支持の場合と比較して求めたものである。
図15において隙間δは±1.5mm(δV
1=δV
2=1.5mm)、
図16において隙間δは±0.5mm(δV
1=δV
2=0.5mm)である。
図16の解析結果から、「物体が衝突を伴いながら、1mmの狭い隙間内を移動しても共振現象は存在する」という驚くべき知見が得られる。隙間±1.5mmを隙間±0.5mmに小さくすると、最大圧縮荷重F
max =600N→390Nに低減する。また最大引き抜き荷重は、F
max=250N→90Nに低減する。
図15において、時間0<t<16.5sの区間、すなわち、入力加速度の周波数が3〜6Hzの区間では、ばねと質量で決まる除振特性により、発生力は剛体支持の場合と比べて低減する。
【0127】
図17は、変位規制部の片側隙間δV(=δV
1=δV
2)に対する支持部の最大圧縮荷重F
maxを求めたものである。図中のグラフから、隙間δV→0 にすれば、最大圧縮荷重F
maxは剛体支持の発生力に漸近して、剛体支持に近いレベルまで、衝撃荷重を低減できることがわかる。
【0128】
以上の解析結果から、変位規制部の隙間δ(=δV
1=δV
2)を小さくする程、ロッキング振動時における衝撃を伴う支持部の発生力F
maxを低減することができる。たとえば、保護対象機器に精密部品が搭載された場合において、上記発生力F
maxの大きさは、精密部品に加わるダメージの大きさを示す重要な評価指標となる。
【0129】
前述したように、本発明の擬似剛体化ユニットは変位規制機構(隙間δV
1とδV
2を調整する箇所)と、荷重を支持するスプリングを同軸上で、かつ両者を近接した位置に配置している。高精度を必要とする箇所はすべて軸対称部品であり、この軸対称部品を組み合わせることで、変位規制部の隙間(δV
1及びδV
2)を精度よく、かつ狭く設定できる。その結果、搭載機器に加わる衝撃荷重を大幅に低減できる。また、後述する実施例の様にボードを床面にアンカー固定しない場合は、この衝撃荷重と引き抜き荷重の低減効果は、転倒に対する裕度の大きさ(転倒防止効果)を示す評価指標となる。
【0130】
[第2実施形態]
図18は、本発明の実施形態2に係るフローティング式の「擬似剛体化ユニット」を示すもので、平常時に本ユニットで支持された保護対象機器の防振、あるいは除振を図ると共に、Z軸方向の上限値と下限値を、実施形態1同様に、保護対象機器を搭載した状態で調節できる機能をユニット内部に内蔵させたものである。実施形態1が3脚構造であるのに対して、本実施例は2脚構造である。
図18(a)は
図18(b)のB-B断面図、
図18(b)は正面断面図、
図18(c)は側面図である。50はユニット本体部、51は上部ベース、52は下部ハウジング、53は上部ベース10の中央部に形成され、下端部に開口部を有する筒部である。下部ハウジング52内部に、実施形態1同様にスプリングコイル、サージング防止部材が収納されており、また上部ベース51内部に保護対象機器と上部ベース51を締結するボルトが装着できる構造になっている。(図示せず)
【0131】
下部ハウジング52の下端部は2脚構造であり、54aは脚部A、54bは脚部Bである。55a、55b、55c、55dは本ユニットを床面上に設置されたボード(図示せず)に締結するボルトである。56は上限値調整ナット、57は下限値調整ナットである。上限値調整ナット56の軸方向高さを調整することにより、上部ベース51の上方向の移動限界量δV
2を設定できる。下限値調整ナット57の軸方向高さを調整することにより、上部ベース51の下方向の移動限界量δV
1を設定できる点は、実施形態1と同様である。
【0132】
下部ハウジング12は2脚(54a、54b)で支持されるため、その下端中央部は空洞部である変位規制空間58である。この変位規制空間58内に上限値調整ナット56が収納される構成のため、第1実施形態同様に、保護対象機器を搭載した状態で、上限値δV
2を調節できる。すなわち、
図18(a)に示すように、2つの脚部間に工具59(想像線で示す)を挿入することにより、上限値調整ナット56を回転・締結できる。
【0133】
[第3実施形態]
図19は、本発明の実施形態3に係るフローティング式の「擬似剛体化ユニット」を示すもので、実施形態1、もしくは、実施形態2が有する機能に加えて、ユニット全体の軸方向高さを微調製できる構造にしたものである。たとえば、各ユニットを保護対象機器の4隅に設置した場合、保護対象機器の重心位置が図形中心に無い場合でも、各ユニットの軸方向高さHの調節により、保護対象機器を床面に対して水平になるように設定できる。480はユニット本体部、481は上部ベース、482は下部ハウジング、483は上部ベース481に形成された筒部、484はスプリングコイル、485はサージング防止部材(サージング共振防止手段)である。下部ハウジング482の下端部は、実施形態1同様に3脚構造であるが、図面後方にある脚部Cは図示していない。486は上限値調整ナット、487は下限値調整ナットであり、前記上限値調整ナットの軸方向高さと、前記下限値調整ナットの軸方向高さを調整することにより、上部ベース481の上方向の移動限界量δV
1とδV
2を設定できる点は、前述した実施例同様である。488は上部ハウジング、489はこの上部ハウジングの内面と前記上部ベース側面に形成されたねじ部、490は上部ハウジング488とこの上部ハウジングの上側に搭載された保護対象機器491を締結するボルトである。
【0134】
保護対象機器の重心位置が図形中心に無い場合、4箇所もしくは3箇所で荷重支持するスプリングコイルのばね剛性が異なるように選択して、保護対象機器を床面に対して水平になるように設定できる。しかし、本実施形態を適用すれば、同一のばね剛性のスプリングコイルを用いても、保護対象機器を床面に対して水平になるように設定できて、かつ微調整が可能である。
【0135】
[第4実施形態]
図20は、本発明の実施形態4に係るフローティング式の「擬似剛体化ユニット」を示すもので、上部ベースの上下方向の移動を規制する上限値・下限値規制部と水方向の移動を規制する水平方向規制部に衝撃緩衝材を装着したものである。410はユニット本体部、411は上部ベース、412は下部ハウジング、413は上部ベース411に形成された筒部、414はスプリングコイル、415はサージング共振防止手段である。下部ハウジング412の下端部は、実施形態1同様に3脚構造であるが、図面後方にある脚部Cは図示していない。416は上限値調整ナット、417は下限値調整ナットであり、前記上限値調整ナットの軸方向高さと、前記下限値調整ナットの軸方向高さを調整することにより、上部ベース411の上方向の移動限界量δV
1とδV
2を設定できる点は、前述した実施例同様である。418は上部ベース411とこの上部ベースの上側に搭載された保護対象機器419を締結するボルトである。
420は衝撃緩衝材Aであり、上限値調整ナット416に形成された溝部421に装着される。422は衝撃緩衝材Bであり、下限値調整ナット417に形成された溝部423に装着される。424は衝撃緩衝材Cであり、前記筒部外表面の対向面である前記下部ハウジング側内面側に装着される。ロッキング振動発生時において、上部ベース411及び筒部413は上下動すると共に揺動運動する。このとき、低反発ゴムなどで構成された前記衝撃緩衝材A、B,Cが対向面との衝突時の衝撃を緩和することで、保護対象機器419に加わる衝撃荷重を低減する。前記衝撃緩衝材としては、ハネナイト等の低弾性ゴム、低反発ウレタン、衝撃吸収ジェル、あるいは、高減衰金属材料などが適用対象に合せて選択できる。
【0136】
[第5実施形態]
図21、及び
図22は、本発明の実施形態5に係るフローティング式の「擬似剛体化ユニット」を示すものである。
図21(b)は本ユニットを保護対象機器に装着した状態を示す図で、
図21(a)は
図21(b)のAA矢視図、
図21(b)は正面図である。
図22(a)は上面図、
図22(b)は正面断面図である。本実施例は、実施形態1、もしくは、実施形態2が有する機能に加えて、本ユニットを伸縮自在の防塵皮膜(たとえば、蛇腹状に形成された外囲部)で覆うことにより、密閉構造にしたものである。この密閉構造により、吸振体の内部に収納した圧縮コイルばね、サージング防止部材等を、風雨や紫外線によって劣化するのを防止すると共に、上下と水平方向の位置規制部を塵埃の影響を受けないで、狭い隙間を恒久的に維持できる。
【0137】
図21において、200はユニット本体部、201は上部ベース部、202はスペーサ、203は保護対象機器、204a〜204dはスペーサ202と保護対象機器203を締結するボルト、205は保護対象機器203を搭載する径大部、206は径小部、207は本ユニットを密閉する蛇腹部、208a、208bは径大部205に形成された溝部(
図21(a))、209a、209bはスペーサ202に形成された突出部、210は床面である。保護対象機器に装着されたスペーサ202にユニット本体部200を軸方向に挿入し、挿入後90度回転させることで、ユニット本体部200はスペーサ202に対して離脱不可の状態で螺合される。
【0138】
図22において、211は上部ディスク、212は下部ハウジング、213はスプリングコイル、214はサージング防止部材(サージング共振防止手段)である。215aは脚部A、215bは脚部B、215cは脚部C(
図22には図示せず)である。216a、216b、216c(
図22には図示せず)は本ユニットを床面上に設置されたボード(後述)に締結するボルトである。下部ハウジング212の下端部は、実施形態1同様に3脚構造であるが、図面後方にある脚部Cは図示していない。217は中心軸、218はこの中心軸の下端部に設けられた上限値調整ナット、219は下限値調整ナットであり、前記上限値調整ナットの軸方向高さと、前記下限値調整ナットの軸方向高さを調整することにより、上部ベース部201の上方向の移動限界量δV
1とδV
2を設定できる点は、前述した実施例同様である。220は下部ディスク、221は下部ハウジング212の中間部に形成された中間突出部である。上部ディスク211、中間突出部221、下部ディスク220のそれぞれに、蛇腹部207を装着する上部溝部222、中間溝部223、下部溝部224が形成されている。この中間溝部223は、後述するように、上限値・下限値の隙間設定の際に、蛇腹を仮固定するために用いる。
【0139】
図23、及び、
図24は、蛇腹付きユニットを設置面210に固定して、かつ保護対象機器203を搭載した状態で、下限値を設定後に上限値を設定する方法を示す。
図23は下限値を設定する方法を示し、このとき蛇腹209は下部溝部224と中間溝部223に仮固定されている。この状態で、蛇腹の影響を受けないで、下限値調整ナット219により下限値を設定できる。
図24は上限値を設定する方法を示し、このとき蛇腹209は上部溝部222と中間溝部223に仮固定されている。この状態で、蛇腹の影響を受けないで、
図1に前述したように、工具(図示せず)を用いて、上限値調整ナット218により上限値を設定できる。
【0140】
[2] オーディオ用スピーカーへの適用事例
前述した本発明の適用事例では、保護対象機器を搭載した擬似剛体化ユニットを薄いボードに装着して、かつ、ボードと床面間をアンカーボルト施工などにより完全固定した場合を示した。しかし、多くの機器を保護対象として、簡素・設置容易、かつ保護対象機器を任意の場所に移動可能な構造で、アンカーボルト施工が難しいオフィス空間、一般住宅などへ広く適用できる地震対策の要望は強い。以下、本発明をオーディオ用スピーカーに適用した事例を説明する。
【0141】
[2-1] 従来の地震対策
オーディオ用スピーカーの地震対策を図る場合、前述した産業用で用いられる対象機器の地震対策には無い固有の未解決課題がある。それは、保護対象機器である「スピーカーの音質(品質)を平常時に劣化させないで、いかにして非常時の地震対策を図るか」ということである。
【0142】
さて、1995年阪神・淡路大震災における地震による家具の転倒・破損では、スピーカーを主体とする高価なオーディオ機器に甚大な被害が発生した。それから16年後の2011年、東日本大震災においても、同様に甚大な被害が発生した。阪神・淡路大震災以降、幾度にわたる震災の教訓は遂に活かされることはなかったのである。一見容易に思われるスピーカーの地震対策が困難な理由は、次の二つの条件(i)(ii)を、「同時に満足させる技術的手段」が今日に至るまで見出されていないからである。
(i)スピーカーが床面から離脱して、かつ転倒しないように床面に安定設置する。
(ii)スピーカーの音響特性を劣化させない。
従来、以下示すようなスピーカーの転倒対策が、地震対策用品として市販されており、ユーザーサイドでの工夫も盛り込まれて実施されている。
【0143】
(i) チューニングベルトを床面固定する方法
図91は、スピーカーをチューニングベルトを床面固定する方法を示す図である。500はスピーカー、501はスピーカーを支持するスパイク、502は床面、503は転倒防止用チューニングベルト、504はこのチューニングベルトを床面に固定するボルトである。この方法により、上記(i)のスピーカーの転倒防止は図ることはできるが、しかし、上記(ii)の再生音のクオリティー(品質)は確実に劣化する。スピーカーの場合、コーンを駆動するボイスコイルの反力がスピーカー・エンクロージャー(筺体)本体を振動させる。すなわち、スピーカーはボイスコイルで駆動されるコーンだけが音源ではなく、筺体全体が音の発生源である。スピーカーの筺体は、多くの高調波の共振周波数を有する、バイオリン、チェロなどの楽器同様の共鳴体である。これらの楽器は、演奏時においてスパイク状のエンドピンで床面に一点で支持される。その理由は共鳴体である楽器の音響特性を損なわないためである。スピーカーの筺体をチューニングベルトで拘束すれば、楽器同様の共鳴体としての特性は失われて、上記(ii)の条件は満足できない。
【0144】
(ii) 機器と壁面を弾性部材で連結する方法
図92は、耐震グッスとして市販されている地震対策用品を用いて、スピーカーの上部側面と壁面を弾性部材で連結する方法である。
図92(a)は上面図、
図92(b)は正面図である。510はスピーカー、511はスピーカーを支持するスパイク、512は床面、513は壁面、514は転倒防止用耐震グッスである。この場合も同様に、スピーカーの転倒防止を図るためには、耐震グッスは十分な強度(剛性)を保たねばならず、スピーカーの共鳴体としてのデリケートな性能は維持できない。
【0145】
(iii) 剛体部材を介在して機器と床面間を固定する方法
図93は、スピーカー底面部と床面間に剛体部材を介在して、スピーカー本体を床面に完全固定する方法である。520はスピーカー、521はスピーカーのコーン、522はスピーカー・エンクロージャー(筺体)、523は床面、524はスピーカーと床面間に設置された剛体部材、525はスピーカーの筺体522と前記剛体部材を連結するボルト、526は前記剛体部材と床面523を連結するボルトである。この方法により、上記(i)のスピーカーの転倒防止は図ることはできるが、しかし、前述した方法と同様に再生音のクオリティー(品質)も確実に劣化する。コーン521を駆動するボイスコイルの反力がスピーカーの筺体522を振動させると、この振動527a、527bは前記剛体部材を介して床面523に伝達される。床面523に伝達されたスピーカーの振動は、床面を含む部屋全体の持つ複雑な固有振動モードを励起させて、再びスピーカーの筺体522を振動させる。すなわち、低周波の床面振動とスピーカー本体の振動の相互干渉がもたらす音質の劣化は、スピーカーを剛体支持する限り基本的に回避できない。
【0146】
(iv) 防振架台を適用する方法
さて前述したように、産業機器分野では、振動発生源である圧縮機、トランス、エアコン、発電機などの振動を外部に伝達させないために、防振架台が広く用いられてきた。対象機器の振動を床面に伝えないようにするのが防振であり、床面の振動を対象機器へ伝えないようにするのが除振である。ばねと質量とダンパーで構成される防振と除振は同一の解析モデルで表現できる。そのため、防振と除振の作用を併せ持つ防振架台をスピーカーの支持に使えないかというのは、極めて自然な発想である。
【0147】
図94(a)はスピーカーの正面図、
図94(b)は防振架台の正面図である。530はスピーカー本体、531はスピーカーのコーン、532はスピーカー・エンクロージャー(筺体)、533a、533bはスピーカー筺体の足部である。534は防振架台、535は上部架台、536は下部架台、537a、537bはスプリングコイルで構成された吸振体、図中のA部(左右に配置)は変位規制機構である。ここで、足部533a、533bを利用して、上部架台535上にスピーカー本体530を設置・固定する場合を想定する。前述したように、変位規制機構は平常状態では非接触であるために、防振架台534は防振と除振の2つの機能を併せ持つことができる。しかし、通常金属板材で構成される上部架台535は、民間住宅の床面と比べて、より高い周波数の複雑な共振モードを有する。したがって、この場合も上部架台535とスピーカー本体の振動の相互干渉がもたらす音質の劣化は回避できない。
【0148】
また防振架台の場合、架台はアンカーボルト施工により基礎コンクリートと緊結する必要がある。
図25はスピーカーを部屋にステレオで配置した場合を示すモデル図である。670aは左側スピーカーシステム、670bは右側スピーカーシステム、671はリスナー、672は部屋の壁面である。通常、スピーカーは部屋のコーナーで、壁面672に近接して配置される場合が多い。また限られたスペース内での設置が前提となる。スピーカーが部屋に設置される位置Gと傾斜角度θは、部屋全体の固有の音響特性によって、音楽のジャンル、あるいはリスナーの好みなどによって、日常的に変更されて、微調整される場合が多い。この点は、空調器、発電機、変圧器のように、一度アンカー施工により設置すれば、配置変更がほとんど無い産業用の防振架台と根本的に異なる点である。したがって、オーディオ用スピーカーの場合は、産業用機器のように床面に完全固定するのは、位置Gと傾斜角度θ(
図25参照)の調整が随時必要なことから現実的ではない。スピーカーの場合は、転倒を完璧に防止するのではなく、地動外乱に対して、「転倒に至る裕度」をいかに大きくできるかが重要なポイントである。
【0149】
以上要約すれば、オーディオ分野における特有の課題、「スピーカーの音響特性を平常時に劣化させないで、非常時の地震対策を図る抜本的解決策」は、現段階ではまだ見出されていない。
【0150】
[2-2] 本発明の具体的な適用事例と効果
[第6実施形態]
図26は本発明の第6実施形態である、以下示す薄型構造の擬似剛体化ユニットをオーディオ用スピーカーに適用した場合を示す。150はスピーカー、151はスピーカーを搭載するボード、152a〜152dは薄型ユニット(
図27のユニット100に相当)である(152cは図示せず)。前記薄型ユニットとボード151は、このボードの裏面に装着されたディスク型ナット(
図27の122)により締結されている。
【0151】
図27は、本発明の実施形態6に係るフローティング式の「擬似剛体化ユニット」を示すもので、平常時に本ユニットで支持された保護対象機器と床面間の振動遮断を図ると共に、Z軸方向の上限値と下限値を調節できる機能をユニット内部に内蔵させたものである。さらに、前述した実施例と比べて、スプリングコイルの軸方向高さの範囲内で上限値と下限値隙間を調節できる構造等の工夫により、ユニット本体の高さH
uを大幅に薄型化している。すなわち、スプリングコイル単体の全長H
sに対して、上限値と下限値を調節できる機能を内蔵させても、ユニット本体の全長H
uは僅かにしか増加しないというのが本実施形態のポイントである。保護対象機器の足部となるユニットを大幅に薄型化することで、システム全体の設置安定性を一層向上できる。
【0152】
100はユニット本体部、101は上部ベース(上部部材)、102は下部ハウジング(下部部材)、103は上部ベース101の中央部に形成され、下端部に開口部を有する筒部である。104は弾性支持部材であるスプリングコイル、105、106はスプリングコイル104を装着した状態で、下部ハウジング102と上部ベース101の軸芯が一致した状態を保つための両部材に形成された位置決め部である。107はサージング防止部材(サージング共振防止手段)であり、このサージング防止部材は、スプリングコイル104の内周面に、変形して常に接触した状態を保っている。
108a、108b、108c、108dは本ユニットを床面上に設置されたボード(後述)に締結するボルト(108b、108dは図示せず)である。109は上部ベース101の上面部で、この上に保護対象機器110(
図26のスピーカー150に相当)が搭載されて、筒部103内に収納されたボルト111により、上部ベース101と締結される。
【0153】
112は上限値調整ナット、113はこの上限値調整ナットの内面と筒部103の外周面に形成されたねじ部である。114は下限値調整ナット、115aと115bは下部ハウジング102の外周面と前記下限値調整ナットの内面に形成されたねじ部である。上限値調整ナット112の軸方向高さを調整することにより、上部ベース101の上方向の移動限界量δV
2を設定できる。また、下限値調整ナット114の軸方向高さを調整することにより、上部ベース101の下方向の移動限界量δV
1を設定できる。
【0154】
116は下部ハウジング102の中心部に形成された変位規制部、117は筒部103の下端部と上限値調整ナット112を収納する変位規制空間である。筒部103の外周面118と、その対抗面である変位規制部116の内周面は、狭い隙間δHが維持されており、このδHが上部ベース101の水平方向移動量と傾斜量を規制する。
さて本実施例では、前述したように、上部ベース101の上限値は上限値調整ナット112の上端面と、下部ハウジング102の中心部で軸芯方向に突出した変位規制部116の下端面の間の隙間δV
2を調整することにより規制できる。この上限値調整ナット112と変位規制部116は、スプリングコイル104の下端部(スプリングコイル位置決め部105)よりも上部で、かつ変位規制部116と筒部103で形成される空洞部である変位規制空間117内に収納されている。それゆえに、スプリングコイル104の全長の範囲内で、前記上限値調整手段を設けることができて、ユニット本体の高さH
uの大幅な薄型化に寄与している。119はボード(
図26の151に相当)、120は床面、121は前記ボードの底面に形成した空隙部、122はこの空隙部を利用して、前記ボードの底面に装着されるディスク型ナット、123は下部ハウジング102、すなわち、ユニット本体部100の底面、124は下部ハウジング102の上部ベース側端面である。
【0155】
本実施形態の疑似剛体化ユニットとボードの組み合わせにより、前述したオーディオ機器永年の課題、すなわち、[i]スピーカーが床面から離脱して、かつ転倒しないように床面に安定設置する。[ii]スピーカーの音響特性を劣化させない。上記[i][ii]を同時に満足させることができる。スピーカー自身は振動源(ボイスコイル)を有しているが、その振動レベルは産業用(圧縮機、エアコン等)と比較して極めて微弱である。この点を利用すれば、保護対象機器であるスピーカーの転倒・破損防止を図るための上限値・下限値の隙間を充分に小さく設定できる。さらに、上記[i][ii]に加えて、
[iii]ボード、ユニット、スピーカーの設置・組立調整作業が容易である。
[iv]スピーカーを設置後、スピーカーを搭載したボードは床面上で移動できるため、スピーカーの位置G、傾斜角度θ(
図25参照)の再調整が容易である。
[v]ボードの厚みを薄くできるため、インテリア性(美観)を失わず、また設置面積の
小さなトールボーイ・スピーカーの利点を損なわない。またボードの材質、形状が
音響特性に影響与えない。
などの効果が得られる。以下、上記[i]〜[v]について、詳細を説明する。
【0156】
(1)転倒に至る安全裕度を充分に高くできる
本実施形態では、フローティング式ユニットをスピーカー底面とボード間に固定することにより、地震時に発生するロッキング振動を大幅に抑制することができる。その理由は、上限値と下限値の隙間を充分に小さく設定することで、従来設置不安定が課題であったフローティング式(スプリング式)を「擬似剛体化」できるからである。かつ、
【0157】
本実施形態の構造では、下記(i)〜(iii)を同時に満足できる。
(i)上限値と下限値の調整ができる
(ii)ユニットをスピーカーのスパイクねじ部などを利用して、スピーカー底面に締結
できる。
(iii)ユニット本体を大幅薄型化できるため、スピーカーの設置安定性に有利である。
上記(ii) (iii)が可能となる理由は、本実施形態のユニット構造に依存する。
【0158】
本実施形態のユニットが薄型化を図れた理由について、既提案である特許文献5(
図96)と比較して説明する。本実施形態の
図27において、上部ベース101をフラットな円盤形状にして、下部ハウジング102の側面を利用してねじ部115aを形成した。かつ下限値調整ナット114の軸方向寸法を充分に長くして、下限値調整ナット114の上端面125を下部ハウジング102の上部ベース側端面124の高さHbより上部にΔHだけ突出する構成にした。この構成により、下部ハウジング102のねじ部115aと下限値調整ナット114のねじ部115bの噛み合せ部分の長さを大きくできる。そのため、ユニット全体の高さHuの薄型化を維持したままで、搭載荷重の大きさによって調整が必要な突出量ΔHを広い範囲で設定できる。またナット位置調整部126を操作容易な上部に設置できる。さらに、本実施形態ではスプリングコイルの中心部に形成された変位規制部116の左断面はL字を上下反転させた形状、前記変位規制部の右断面は前記左断面を左右反転させた形状をしている。この変位規制部の底面と内面を利用して、上限値隙間δV
2と水平方向隙間δHを規制する手段を設けることができる。かつ、この変位規制部の中心部の空間を利用して、ユニットをスピーカー底面に締結するボルト111を、ユニットの薄型化を損ねることなく配置している。
【0159】
以上、本実施形態のユニットが大幅な薄型化を図れた理由を要約すれば、スプリングコイルの軸方向高さをHsとして、この高さHsの範囲内で上限値と下限値隙間を調節できるように構造を工夫したという点である。
【0160】
(2)保護対象機器の設置・調整作業が容易・・・自動調芯作用の利用
以下、上記[iii][iv]の効果をもたらす疑似剛体化ユニットの自動調芯作用・自動隙間均一化作用について説明する。この内容は、前述した産業用機器を保護対象とした場合も同様である。
【0161】
前述したように、振動遮断による品質向上(音質向上、除振・防振効果)の代償として、弾性支持された保護対象機器(スピーカー)は外力に対して振れ易く、設置が不安定になるという課題があった。しかし弾性支持部材の移動を狭い隙間で規制して「擬似剛体化」すると、振れやすいがゆえに倒れ易いフローティング式の欠点を補うだけではなく、フローティング式の長所(自動調芯作用・自動隙間均一化作用)を逆に活かして、剛体支持式では出来なかった狭い隙間の上下・水平方向隙間の調節が容易に可能となる。即ち、フローティング式の短所が逆に長所として活用できるのである。
【0162】
図28は擬似剛体化ユニットをモデル化して図示しており、スピーカーの底面にこのユニットを固定して、床面から浮上させた状態を示す図である。171はスピーカー、172は上部部材(
図27の上部ベース101に相当)、173は下部部材(下部ハウジング102に相当)、174はスプリングコイル、175は設置面(ボード119に相当)である。176、177はスプリングコイル174を装着した状態で、上部部材172と下部部材173の軸芯が一致した状態を保つための両部材に形成された位置決め部である。
図28の状態において、下部部材173はスプリングコイル174の垂直方向反力fzを受けて、上部部材172に対して下方向に移動する力を受ける。その結果、上部部材172の上面178と、その対抗面である下部部材の下面179は、密着状態となる。しかし、この状態でも、スプリングコイル174の水平方向剛性による復元力frが「自動調芯作用」となり、上部部材172と下部部材173の水平方向隙間δHは、全周で均一に保つことができる。
【0163】
図29は、上部部材172と下部部材173が自動調芯された状態で、下部部材173を設置面175に設置した場合を示す。この段階で、ボルト180により、下部部材173を設置面175に締結する。上部部材172の下方向移動量限界値δV
1と上方向移動量限界値δV
2が既に設定されているとすれば、スピーカー171の重量とスプリングコイル174の垂直方向反力fzは平衡して、自動隙間均一化作用により、δV
1とδV
2は浮上状態で一定に保たれる。
【0164】
図30(a)は本実施形態における上記[iii][iv]の効果を説明するモデル図である。すなわち、各擬似剛体化ユニットをボルトでボードに締結する前に、あるいは、スピーカーを設置後、スピーカーの位置、傾斜角度の再調整するために、ユニットの一個分(152b)だけをボード119から浮上させた状態を示す。同図には、重量物の保護対象機器であるスピーカー110を持ち上げる手段として、一般に市販されているリフター153を用いる方法を図示している。この場合、スピーカー床面の一箇所もしくは全底面を浮上させてもよい。
【0165】
図30(b)は、擬似剛体化ユニット153bをボード119から浮上させた状態を示す正面断面図である。上部ベース101の上方向の移動限界量δV
2、及び、上部ベース101の下方向の移動限界量δV
1は既に設定済みの状態にある。また、ユニット本体は浮上状態であるため、スプリングコイル104の反力により、上限値調整ナット112とその対向面は密着状態(
図AAに示す)にある。このとき、下限値調整ナット114とその対抗面の隙間は、δV
1+δV
2である。
【0166】
前記下部ハウジングの底面123が、ボード119から少しでも浮上していれば、スプリングコイルの前述した「自動調芯作用」により、上部ベース101と下部ハウジング102は同軸となり、隙間δHは円周方向で均一となる。したがって、下部ハウジング底面123の設置面からの浮上量は僅かでよい。全ユニットの「自動調芯」が終了した段階で、全ユニットは隙間δHを維持した状態で、垂直方向の隙間δV
1とδV
2は所定の設定値となる。この後に、全ユニットをボルトで前記ボードに締結する。
【0167】
(3)ボード厚みを薄くできるため、トールボーイ・スピーカーの利点を損なわない
本実施例において、ボードの厚みを薄くできる理由は、ボードの強度面では、次のようである。ディスク型ナットにより、ロッキング振動時の強力な引き抜き荷重を面で受けるため、ボードに高い強度を必要としない。また音響特性面では、本実施例では、スローティング式ユニットでスピーカーが支持されるために、スピーカーと設置面は振動遮断されており、スピーカーと設置面間の振動の相互干渉がない。ボードの音響振動特性が再生音に与える影響が小さく、ボードの形状・材質などを広い範囲で選択できる。
【0168】
[2-3] 静的転倒基準を求める理論解析
ボードに固定された擬似剛体化ユニットに保護対象機器(スピーカー)を搭載して、かつボードと床面間がアンカーなどにより固定されない場合において、前記保護対象機器の静的転倒基準を求める解析を行う。以下、示す内容は、ボードと床面間にアンカー施工を施さない産業用機器を対象にした場合も同様である。
【0169】
(1)静的転倒基準
図31、
図32はスピーカーを剛体ブロックとみなして、その転倒限界を求めるモデル図である。
図31は従来スピーカーの場合、
図32は本発明の擬似剛体化ユニットを適用した場合を示す。
図31において、161は床面、162はスピーカー150の底面右端部、163は底面左端部である。支持幅がB
0、重心高さがH、重量がWの物体の重心に水平力F
αが作用した場合、この水平力によって生じる転倒モーメントはF
α×Hである。これに対して、重力は転倒モーメントを打ち消す方向に抵抗モーメントW×B
0/2を生じる。物体の転倒は、転倒モーメントが抵抗モーメントを上回ったときに生じるとすれば、静的な転倒条件は
【0170】
【数9】
但し、式(13)において、スピーカーの図形中心に重心位置があると仮定する。F
α=mα、W=mgとすれば、従来から良く知られているように、物体が転倒する最小の水平方向加速度は
【0171】
【数10】
前述したように、昨今のスピーカーの形態は、従来のフロア型からトールボーイ型へ移行している。式(14)から、幅B
0が小さく、背Hが高いトールボーイ型スピーカーは、ロッキング振動を開始する加速度α
sは小さいことが分かる。以下、本発明である擬似剛体化ユニットに搭載された剛体ブロックの静的転倒基準を求める基礎式を導出する。
図33は
図32のさらに詳細な解析モデル図である。mは剛体ブロックの質量、Rはブロック底面の支持部と重心位置G間の距離、B
0はブロック左右支持部間の距離、B
1は右側支持部とボード右コーナー間の距離、B
2は左側支持部とボード左コーナー間の距離、B
Gはボードの重心位置とボード右コーナー間の距離、m
bはボードの質量である。また、剛体ブロックの重心高さをHとして、tan(φ)=B
0/2Hである。鎖線円AAで示す箇所が、上限値と下限値を調整する変位規制機構とスプリングで構成される。同図のブロック左側コーナーは、上限値の設定により上方向移動限界量δV
2だけ変位が規制されており、右側コーナーは、下限値の設定により下方向移動限界量δV
1だけ変位が規制されている。そのため、剛体ブロックに水平方向の静荷重が加わったとき、最大傾斜角θ
r=(δV
1+δV
2)/B
0である。
剛体ブロック底面右コーナーの回転モーメントの静的平衡条件から
【0172】
【数11】
式(15)と式(16)から剛体ブロックがボード側から受ける力F
1とF
2は
【0173】
【数12】
ボードの右コーナーを支点とする回転モーメントMは
【0174】
【数13】
剛体ブロックが浮上開始する入力加速度α=α
sは、M>0として
【0175】
【数14】
式(20)を以下の3項に分けると
【0176】
【数15】
式(21)において、右辺第1項のθ
r→0とすれば、g×tan(φ)=B
0×g/2Hとなり、前述した通常の剛体ブロックの静的転倒条件[式(14)]に一致する。また右辺第2項は、ボードを装着したことによる静的転倒裕度の向上効果、右辺第3項はボードの質量m
bを考慮したことによる向上効果に相当する。各項のθ
rは、変位抑制を施すことによる転倒裕度低減をもたらすマイナス要因となる。
【0177】
(2)剛体ブロックの傾斜角に対する浮上開始加速度
図34はボード幅B
Wをパラメータとして、剛体ブロックの傾斜角θ
r [(δV
1+δV
2)/B
0]に対する浮上開始加速度α
sを式(21)により求めたものである。B
1はボード幅B
W(=B
1+B
0+B
2)、B
1=B
2として計算している。剛体ブロックの質量m=30Kg、重心高さH=710mm、φ=5.43deg、R=713mm、剛体ブロックの支持幅B
0=135mmである。但し、ボードの質量m
bは考慮していない。B
W=135mmのグラフは、ボード装着無し(B
W= B
0)の特性であり、α
s≒1m/s
2(100Gal)近傍(鎖線円BB)でブロックは浮上開始する。
【0178】
上記静的転倒基準(浮上開始加速度)は動的な転倒条件とは一致しない。但し、 支持幅B
Wが狭く、重心位置Hが高い対象機器(たとえば、トールボーイ型スピーカー)の場合、静的転倒基準≒動的転倒条件になる。
ここで、擬似剛体化ユニットを装着して、かつボード幅B
W =500mm、上限値と下限値の隙間を共にδV
1=δV
2=2.35mmに設定した場合を想定する。このとき、剛体ブロックの傾斜角θ
r=2degである。浮上開始加速度は、ボードを装着しない場合(BB点)に対して3.2倍(CC点)に向上することが分る。
【0179】
(3)ボードと剛体ブロックの質量比に対する浮上開始加速度
図35はボード幅B
Wをパラメータとして、ボードと剛体ブロックの質量比m
b/m
に対する浮上開始加速度α
sを式(21)により求めたものである。質量比m
b/mに対する浮上開始加速度α
sの勾配は、ボード幅B
Wが大きい程大きい。この理由は、ボードの慣性モーメントはボードの重心位置とボードコーナー間の距離B
Gの2乗に比例するからである。ボード幅B
W=500mmの場合、質量m
b=12Kg(0.4×30)のボードを装着(EE点)すれば、m
b≒0Kgの軽量ボード(DD点)に対して、静的転倒条件は1.6倍向上する。
【0180】
(4)スプリング式の設置不安定性を解消する条件
通常の剛体ブッロクの浮上開始条件α
s0=g×tan(φ)として、式(21)をα
s0で割ると
【0181】
【数16】
式(22)は、本発明の効果を要約するものである。すなわち、幾何学的形状がRとΦで構成される機器を保護対象(
図33参照)として、η≧1となるように、変位抑制値θ
r、ボード幅B
1、ボード質量m
bを設定すれば
(i)剛体支持の場合と同等、あるいはそれ以上の静的転倒裕度を得ることができる。即ち、スプリング式(あるいは、バネなどの弾性体で構成されるフローティング式)の欠点である設置不安定性を改善できる。
(ii)スプリング支持であるが故の効果、すなわち、産業機器の場合の徐振・防振効果、あるいは、オーディオ機器の場合における、床面との相互干渉による混変調歪みの発生を回避する効果が得られる。
【0182】
本発明の適用により、上記(i)(ii)を同時に実現することができる。
図36は剛体ブロック傾斜角θ
r をパラメータとして、ボード幅比B
W/B
0に対する浮上開始加速度の比α
s/α
s0式(22)により求めたものである。擬似剛体化ユニット無し(剛体支持:θ
r =0)の場合(FF点)に対して、 剛体ブロック傾斜角θ
r =3deg、ボード幅比を1.55倍(GG点)とすれば, 静的転倒基準は上記剛体支持の場合と同等にすることができる。
【0183】
例えば断面4角形の剛体ブロックの静的転倒基準を、式(22)を用いて評価する場合、剛体ブロックの前後方向と左右方向は転倒し易い条件を選択すればよい。即ち、ボードの前後・左右の各コーナーを支点とする4つの回転モーメントMを算出して、Mが最も小さくなる条件を選択すればよい。剛体ブロック断面形状が断面4角形ではなく、3角形の場合、あるいは多角形の場合でも、回転モーメントMが最も小さくなる条件を選択すればよい。
【0184】
静的転倒基準を求めた本解析において、たとえば、「スプリング式の設置不安定性を解消する条件」は、ボード上の擬似剛体化ユニットの個数、配置される位置、ボードの形状、構造などに関係なく適用できる。また、第26実施形態で後述するように、弾性支持部材と変位抑制機構を分離した減震システムにも適用できる。
【0185】
[2-4] 薄型ユニットの上限値・下限値調整方法
第6実施形態の薄型ユニットにおいて、保護対象機器110が搭載される上部ベース101の上下方向の移動限界値、すなわち、上限値と下限値の調整方法について、以下説明する。本実施例の薄型ユニットにおいては、第1〜5実施形態の構造と異なり、保護対象機器を搭載した状態では、直接工具により上限値の設定はできない。本提案は下限値の設定が完了すれば、この下限値調節部の隙間を再利用して、上限値隙間の設定も可能であるという点を利用したものである。
【0186】
Step1 ・・・ ボード上にユニットを設置して、保護対象機器を搭載する
図37、
図38は、ボード119上に4個の薄型ユニット100a、100b、100c、100dを設置して、保護対象機器110を搭載した状態(100c、100dは図示せず)を示す。
図37は、この状態における薄型ユニット100a単体の正面断面図、
図38は保護対象機器110全体を含む正面図である。このとき、保護対象機器110の重量と平衡するように、スプリングコイル104は軸方向に変形した状態を保っている。下限値調整ナット114と上部ベース101間(鎖線円BB)は大きな隙間となるように、4個のユニット共に下限値調整ナット114を十分に降下した状態にする。
【0187】
Step2 ・・・ 下限値調整シートにより下限値を設定する
図39、
図40は、ボード119上に前記薄型ユニットを設置して、保護対象機器110を搭載した状態で、上部ベース101の下限値を設定する方法を示す。
図39は、この状態における薄型ユニット100a単体の正面断面図、
図40(a)は保護対象機器110全体を含む正面図、
図40(b)は下限値調整シートの上面図、
図40(c)は下限値調整シートの正面図である。124は下限値調整シートで、上部ベース101の下方向の移動限界量δV
1と同じ厚みを有する。この下限値調整シート124を上部ベース101と下限値調整ナット114の間に挟んだ状態で、矢印(
図40(a))の方向に下限値調整ナット114を上昇させる。上部ベース101、下限値調整シート124、下限値調整ナット114を密着させた状態で、下限値調整シート124を引き抜くと、上部ベース101の下限値が設定できる。本実施形態に限定されないが、下限値調整シート124を挿入する上部ベース101と下限値調整ナット114の対向面のいずれかに、円周上で凹凸面を形成して、狭い隙間の箇所で隙間を設定してもよい。(図示せず)
【0188】
Step3 ・・・ 上限値調整シートにより上限値を設定する
図41は前記薄型ユニットの上限値を設定する方法を示し、
図41(a)は薄型ユニットの正面断面図、
図41(b)は上限値調整シートの上面図である。
【0189】
上記Step2で保護対象機器が搭載された状態(
図41(a))のユニット単体を1セット取り出す。このユニットは下限値が既に調整済みのものである。
図41(b)における125は上限値調整シートで、上部ベース101の下方向の移動限界量をδV
1、上方向の移動限界量をδV
2として、δV
1+δV
2の厚みを有する。この上限値調整シート125を上部ベース101と下限値調整ナット114の間に挟んだ状態で、矢印(
図41(a))の方向に上限値調整ナット112を上昇させる。但し、下限値調整ナット114は上下方向に移動させない。上部ベース101、上限値調整シート125、上限値調整ナット112を密着させた状態で、上限値調整シート125を引き抜くと、上部ベース101と下限値調整ナット114間の隙間(下限値調節部の隙間)は、δV
1+δV
2となる。
【0190】
Step4 ・・・ ユニットを保護対象機器と床面に締結する
図42は上限値と下限値が共に設定されたユニットが保護対象機器110、及びボード119にボルト締結された状態を示す正面断面図である。
【0191】
最初に、上記Step3で上限値、下限値が設定されたすべてのユニットを保護対象機器110の底面にボルト111により締結する。この段階で、保護対象機器110と各ユニットは一体化された状態になる。ボード119にディスク型ナット122が既に装着されていれば、前記ディスク型ナットのねじ穴(
図27参照)の位置に合わせて、保護対象機器110全体の位置を決めればよい。
【0192】
[3] その他の実施形態:擬似剛体化ユニット構造
以下、本発明のその他の擬似剛体化ユニット構造について説明する。以下示す実施形態に盛り込まれた内容は、たとえば、下記(i)(ii)で示す様々なユニット構造に適用できる。
(i)保護対象機器を搭載した状態で、上限値・下限値隙間を調節できる擬似剛体化ユニット(たとえば、第1実施形態)
(ii)保護対象機器を搭載した状態で、上限値・下限値隙間の調節はできないが、薄型・シンプル構造にできる(たとえば、第6実施形態)
上記ユニットは産業用、民生用を問わず適用できる。またボード(架台も含む)等に装着しないで、たとえば、ユニットだけで床面に設置する場合でも適用できる。
以下、擬似剛体化システムに適用できる、その他のユニット構造の実施例について説明する。以下示すユニット構造は、産業用、民生用を問わず様々な用途に適用できる。
【0193】
[第7実施形態]
図43は、本発明の実施形態7に係るフローティング式の「擬似剛体化ユニット」を示すものである。ゴム(粘弾性材料)を加硫(高温処理)接着したスプリングコイルを本ユニットに内蔵して、ユニット本体の水平方向・垂直方向に充分な減衰作用を持たせたものである。ユニットに要求される剛性と減衰が得られるように、スプリングコイルの剛性(線径、巻き数など)とゴムの形状・材質を選択する。
【0194】
400は上部ベース(上部部材)、401は下部ハウジング(下部部材)、402はゴムを金属のスプリングコイルに加硫接着したスプリングコイル部(弾性支持部)、403は上限値調整ナット、404は下限値調整ナットである。上部ベース400の上方向の移動限界量δV
2、及び、上部ベース400の下方向の移動限界量δV
1の設定は、第6実施形態(
図27)と同様である。405、406はスプリングコイル部402を装着した状態で、下部ハウジング401と上部ベース400の軸芯が一致した状態を保つための両部材に形成された位置決め部、407は変位規制部である。スプリングコイル部402は上部金属露出部402a、下部金属露出部402b、ゴムの皮膜部402cから構成される。上部金属露出部402aと下部金属露出部402bが、位置決め部405、406と密着することで、上部ベース400の移動限界量δV
1及びδV
2を、及び、水平方向の隙間δHを第6実施形態(
図27)と同様に、高い精度で確保できる。
【0195】
[第8実施形態]
図44、
図45は、本発明の実施形態8に係るフローティング式の「擬似剛体化ユニット」を示すもので、
図44は正面断面図、
図45は
図44のAA矢視図である。
430は上部ベース、431は下部ハウジング、432はスプリングコイル、433は上限値調整ナット、434は下限値調整ナット、435、436はスプリングコイルの位置決め部である。437a、437bは上部ベース430の上面部で、437aはこの上面部における上面凸部、437bは外周部である。上面凸部437a上に保護対象機器438(想像線で示す)が搭載される。保護対象機器438と上部ベース430は、両端ボルト439(両端がおねじのボルト)により締結される。440は下部ハウジング431の底面側外周端、441はこの底面側外周端440を設置面442に対して挟み込むように固定する円盤状固定部材である。本実施形態では、擬似剛体化ユニットを別部材(円盤状固定部材441)を介在して設置面に固定することで、設置面に対して擬似剛体化ユニットを粗い位置決めで固定できる。上部ベース430の上方向の移動限界量δV
2、及び、上部ベース430の下方向の移動限界量δV
1の設定する構造と方法は第6実施形態(
図27)と同様である(δV
1及びδV
2は図示せず)。
【0196】
443は下限値調整ナット434に設けられた止めネジである。移動限界量δV
1を設定後、下限値調整ナット434が緩まないように、止めネジ443先端を前記下部ハウジング431面に圧着する。また、鎖線円BBに示すように、止めネジ443の先端は、ねじが形成されていない箇所に圧着するように、前記下限値調整ナットと前記下部ハウジングのねじ部が形成されている。同様に、前記上限値調整ナットの緩み止めのために、たとえばダブル・ナット構造にしてもよい。あるいは、中心軸444の設置面側端面を利用して、前記上限値調整ナットに軸方向の予圧を与える構造でもよい(図示せず)。前記下限値調整ナットと前記上限値調整ナットの緩み止めを図る方法は、他の実施形態にも適用できる。
【0197】
本実施形態においては、上部ベース430と保護対象機器438を両端ボルト439により締結している。そのため、中心軸444を細径化できるために上部ベース430の外径も小径化できる。
【0198】
[第9実施形態]
図46、
図47は、本発明の実施形態9に係るフローティング式の「擬似剛体化ユニット」を示すもので、
図46は正面断面図、
図47(a)は
図47(b)のAA矢視図、
図47(b)は正面図である。本実施形態は、隙間調整機構の工夫によりユニットの薄型化を維持したままで、かつ、保護対象機器を搭載した状態で、上限値と下限値を同時に設定可能にしたものである。
【0199】
620は上部ベース(上部部材)、621は下部ハウジング(下部部材)、622はスプリングコイル(弾性支持部材)、623は前記下部ハウジングの外周面に形成されたねじ部(外周側ねじ部)と螺合する隙間調整ナット、624、625はスプリングコイルの位置決め部である。626a、626bは上部ベース620の上面部で、626aはこの上面部における上面凸部、626bは外周部である。上面凸部626a上に保護対象機器627(想像線で示す)が搭載される。保護対象機器627と上部ベース620は、ボルト628により締結されて、このボルトの頭部629は前記上部ベースの中心底部に収納される。630はサージング防止部材、631は下部ハウジング621の中心部に形成された円筒部である。この円筒部に工具を挿入して、前記ボルトの頭部629を回転させて、前記上部ベースと前記保護対象機器を締結できるように、前記円筒部の内径の大きさが設定されている。632はボードなどの設置面、633a〜633d(633b、633dは図示せず)は下部ハウジング621と設置面632を締結するボルトである。634は環状リングであり上部ベース620とボルト635a〜635dにより締結される。本実施形態ユニットの左断面図に注目すれば、環状リング634はL型断面形状をしている。この環状リング634と上部ベース620で形成される凹型形状空隙部(コの字型の窪み部)636に、隙間調整ナット623の凸部637が狭い隙間を介在して、非接触で収納されている。すなわち、隙間調整ナット623の凸部637と上部ベース620の間隙638により、上部ベース620の下方向の移動量(下限値)δV
1が設定される。また隙間調整ナット623の凸部637下端面と環状リング634間の間隙639により、上部ベース620の上方向の移動量(上限値)δV
2が設定される。
【0200】
また、隙間調整ナット623の凸部637外周面とその対向面(環状リング634の内面)間の間隙640により、水平方向移動量δHが設定される。δV
1とδV
2の2つの値は前述した実施例のように独立ではなく、δV
1+δV
2は一定値であり、この一定値の範囲内で2つの値は配分される。たとえば、δV
1+δV
2=3mmとして、下限値δV
1=1.5mmに設定すれば、上限値δV
2=1.5mmは必然的に決定される。
図47(a)において、隙間調整シート641(想像線で示す)を図中の矢印方向に、間隙638に挿入している状態を示す。本実施形態では、隙間調整シート641による隙間の設定が可能なように、環状リング634には円周上2箇所の開口部642、643を軸対称に形成している。この開口部は、軸対称3〜4箇所形成してもよい。
【0201】
以上、本実施形態を要約すれば、前記下部ハウジングの外周側ねじ部644と螺合した前記隙間調整ナットと前記上部ベース間は、軸方向の相対移動が拘束されるように、即ち、前記隙間調整ナットを上下で挟みこむコの字型の窪み部636を、上部ベース及びこの部ベースと一体化した環状リング634に設けたものである。上限値と下限値の調整を2箇所に設けた前述した第1実施形態と比べて、隙間調整工程が一回でよく、設置作業の簡素化が図れる。
【0202】
すなわち、本実施形態における上限値規制部と下限値規制部(鎖線円dd)は、下部ハウジング621(下部部材)の外周側に形成されたねじ部644(外周側ねじ部)と勘合する隙間調整ナット623と、前記上部ベース(上部部材)に形成された凹型形状の空隙部636に、隙間調整ナット623に形成された凸部637(凸型形状の突出部)が所定の隙間を保って上下で挟み込まれるように構成されたものである。本実施形態とは凹凸の配置を逆にして、前記上部ベース側に凸部、前記隙間調整ナット側に凹型形状の空隙部を設けてもよい。
【0203】
上限値と下限値の調整を2箇所に設けた前述した第1実施形態と比べて、隙間調整工程が一回でよく、設置作業の簡素化が図れる。保護対象機器の仕様からユニット一個当たりに加わる荷重の概略値が分っていれば、隙間調整ナット623の軸方向高さを予めに設定しておけば、隙間調整作業は一層簡素化される。即ち、本実施形態のユニットは、「Quick Adjuster機能」とも呼ぶべき効用を有する。
【0204】
本実施形態ユニットが薄型化できるにも関わらず、保護対象機器を搭載した状態で、上限値・下限値を同時に設定可能にできる理由は、第6実施形態と同様の工夫が上記構造に盛り込まれているからである。すなわち、隙間調整ナット623の軸方向寸法を充分に長くして、前記隙間調整ナットの上端面641を前記下部ハウジングの上部ベース側端面642の高さHbより上部にΔHだけ突出する構成にした。このΔHの空間を利用して、前記隙間調整ナットの凸部637を上下で挟みこむ凹型形状の空隙部636を前記上部ベースに設けた。その結果、ユニット全体の高さHuの大幅な薄型化を図ることができた。擬似剛体化ユニットに設定する上限値隙間δV
2、下限値隙間δV
1としたとき、通常はδV
1=δV
2でよい。そのため、適用する用途に合わせて、δV
1+δV
2が所定の値になるように、前記環状リングの寸法(凸部637が収納される部分)を設定すればよい。環状リング634以外の各部品の形状・寸法は同一にして、共用化できるため、前記環状リングだけを用途に合わせて製作すればよい。あるいは、上部ベース620と環状リング634をボルト635a〜635dで固定するのでなく、両者を軸方向に相対移動可能にして、隙間δV1+δV2が調節できるように、ねじで締結してもよい(図示せず)。
【0205】
[第10実施形態]
図48は、本発明の実施形態10に係るフローティング式の「擬似剛体化ユニット」を示す正面断面図で、上限値と下限値を調節する手段を省略して構造の簡素化を図ったものである。擬似剛体化ユニットに搭載される保護対象機器の荷重、及び、上限値と下限値の隙間が予め定められている場合には、本実施例ユニットが適用できる。
【0206】
450は上部ベース、451は下部ハウジング、452はスプリングコイル、453、454はスプリングコイルの位置決め部、455a、455bは上部ベース450の上面部で、455aはこの上面部における上面凸部、455bは外周部である。上面凸部455a上に保護対象機器456(想像線で示す)が搭載される。457は前記上部ベースの中心軸、458はこの中心軸に形成された貫通穴、459はこの貫通穴に挿入されたボルト、460は中心軸457の下端面とボルト459の間に装着されたスペーサである。ボルト459が前記上部ベースの上面部455aから突出した部分で、保護対象機器456と締結される。461は下部ハウジング451の中心部に形成された変位規制部、462は前記ボルトの頭部とスペーサ460を収納する変位規制空間である。変位規制部461の下端面463とスペーサ460の間隙により、上部ベース450の上方向の移動量(上限値隙間)δV
2が設定されている。また下部ハウジング451の外周部464の上端面465と上部ベース450間の間隙により、上部ベース450の下方向の移動量(下限値隙間)δV
1が設定されており、中心軸457の外周面の対向面(変位規制部461の内面)の間の間隙により、水平方向移動量δHが設定されている。
【0207】
[第11実施形態]
図49は、本発明の実施形態11に係るフローティング式の「擬似剛体化ユニット」を示す正面断面図で、上限値と下限値を調節する箇所をスプリングの内部空間を
利用して設けたものである。本実施形態では、擬似剛体化ユニットに搭載される保護対象機器の荷重が異なる場合でも、搭載前に各ユニットに加わる荷重が分かっていれば、上限値と下限値の最適な隙間の設定ができる。かつ構造の大幅な簡素化を図ることができる。
【0208】
470は上部ベース、471は下部ハウジング、472はスプリングコイル、473、474はスプリングコイルの位置決め部、475aは前記上部ベース部上面凸部、475bは外周部である。前記上面凸部上に保護対象機器476(想像線で示す)が搭載される。477は前記上部ベースから上側に突出して、前記保護対象機器側と締結する上部中心軸、478は下部ハウジング側に形成された下部中心軸である。
【0209】
479aと479bは、前記下部中心軸に締結された下限値調整ナット及び下限値調整薄型ナットである。480aと480bは、前記下部中心軸に締結された上限値調整ナット及び上限値調整薄型ナットである。481は前記下部ハウジングの中心部に形成された変位規制部、482はサージング共振防止部材である。変位規制部481の下端面483と上限値調整ナット480aの間隙により、上部ベース470の上方向の移動量(上限値隙間)δV
2が設定されている。また変位規制部481の上端面484と下限値調整ナット479a間の間隙により、上部ベース470の下方向の移動量(下限値隙間)δV
1が設定されており、下部中心軸478の外周面と、その対向面(変位規制部481の内面)の間の間隙により、水平方向移動量δHが設定されている(δV
1、δV
2、δHは図示せず)。 すなわち、スプリングコイル472の内部空間を利用して、上記δV
1、δV
2、δHを設定される箇所が近接して設けられているため、ユニット構造の簡素化が図れる。
【0210】
485は上部ベース470と下部ハウジング471の間に装着された防塵皮膜(蛇腹部)であり、この防塵皮膜により、前記上限値隙間δV
2、前記下限値隙間δV
1、前記水平方向隙間δHを塵埃等の影響なく、恒久的に保つことができる。
【0211】
[第12実施形態]
本発明の実施形態1、あるいは実施形態9において、保護対象機器を搭載した状態で上限値と下限値を調節できる構造を示した。以下示す構造でも、上記実施形態と同様の機能をユニット内部に持たせることができる。
【0212】
図50は、本発明の実施形態12に係るフローティング式の「擬似剛体化ユニット」を示すものである。実施形態1が、スプリングコイル上端面近傍に下限値調整箇所(
図2の下限値調整ナット25)を設けていたのに対して、本実施例は、スプリングコイル下端面よりも下方の空間を利用して、上限値・下限値を設定する箇所を設けたものである。細い中心軸に螺合する上限値調整ナット、下限値調整ナットの外径を小さくできるために、上限値、下限値の隙間を狭く、かつ精度良く設定できる。また、ユニットの全長、保護対象機器との取り付け方法等に大きな制約が無い用途に対して、本実施形態は有効である。本実施形態は、上限値・下限値を設定する狭い隙間の対向面を、前述した実施例同様に、固体表面だけで形成した場合を示す。
図50(a)は
図50(b)のAA矢視図、
図50(b)は正面断面図である。250はユニット本体部、251は上部ベース部、252はスペーサ、253は保護対象機器、254a〜254dはスペーサ252と保護対象機器203を締結するボルトである。(254b、254dは図示せず、252〜254は想像線で示す)
【0213】
255は蛇腹部、256は上部ハウジング、257は下部ハウジング、258はスプリングコイル(弾性支持部材)、259はサージング防止部材(サージング共振防止手段)である。260aは脚部A、260bは脚部B、261は下部ベース、262a〜262dは本ユニットを設置面(図示せず)に締結するボルトである。下部ハウジング257の下端部は、実施形態2同様に、前記脚部Aと前記脚部Bから構成される2脚構造である。263は中心軸(中心部材)、264はこの中心軸の下端部に設けられた上限値調整ナット、265は下限値調整ナットであり、前記上限値調整ナットの軸方向高さと、前記下限値調整ナットの軸方向高さを調整することにより、上部ハウジング256の上方向の移動限界量δV
1とδV
2を設定できる点は、前述した実施例同様である。266は前記中心軸と上部ハウジング256を締結するネジ部(中心側ねじ部)、266は前記中心軸と前記上限値調整ナット、及び前記下限値調整ナットを締結するネジ部である。中心軸263は下部ハウジング257に対して、狭い隙間δHを保って螺合されている。
【0214】
すなわち、本実施形態では、上限値調整ナット264と下部ハウジング257(下部部材)間の隙間の設定により上限値規制部(鎖線円bb)を構成し、下限値調整ナット265と下部ベース261(下部部材)間の隙間の設定により下限値規制部(鎖線円aa)を構成している。
【0215】
[第13実施形態]
図51は、本発明の実施形態13に係るフローティング式の「擬似剛体化ユニット」を示すものである。第12実施形態が上限値・下限値を設定する狭い隙間の対向面を、固体表面だけで形成したのに対して、本実施形態では、上下方向と水平方向に衝撃緩衝材を装着した場合を示す。270はユニット本体部、271は蛇腹部、272は上部ハウジング、273は下部ハウジング、274はスプリングコイル、275はサージング防止部材、276aは脚部A、276bは脚部B、277は下部ベース、278a〜278dは本ユニットを設置面(図示せず)に締結するボルトである(278b、278dは図示せず)。278は中心軸、279はこの中心軸に設けられた下限値調整ナット、280は薄型ナットA、281はこの薄型ナットの下部に装着された中空円盤形状の緩衝材A、282はこの中心軸の下端部に設けられた上限値調整ナット、283は薄型ナットB、284はこの薄型ナットの上部に装着された中空円盤形状の緩衝材Bである。285は前記緩衝材Aと前記緩衝材Bの間で、前記中心軸に装着された円筒形状の緩衝材Cであり、下部ベースに対して、狭い半径方向の隙間δHを保って螺合されている。前記上限値調整ナットの軸方向高さと、前記下限値調整ナットの軸方向高さを調整することにより、上部ハウジング272の上方向の移動限界量δV
1とδV
2を設定できる点は、前述した実施例同様であるが、ロッキング振動時に、前記緩衝材A、緩衝材B、緩衝材Cにより、ロッキング振動時の衝撃荷重を緩和することができる。
【0216】
すなわち、本実施形態では、上限値規制部と下限値規制部(鎖線円cc)は、以下のように構成される。緩衝材B284が装着された上限値調整ナット282と下部ベース277(下部部材)間の隙間の設定により前記上限値規制部を構成し、緩衝材A281が装着された下限値調整ナット279と下部ベース277(下部部材)間の隙間の設定により前記下限値規制部を構成している。
【0217】
[第14実施形態]
図52は、本発明の実施形態14を示す擬似剛体化システムであり、実施形態2に係るフローティング式2脚構造の「擬似剛体化ユニット」を防振架台に適用した場合を示し、
図52(a)は上面図、
図52(b)は正面図、
図53は
図52(b)のAA矢視図である。前述したように、従来防振架台は、(1)上枠と下枠、(2) 上枠移動量規制部、(3) 吸振体、の上記3つの機構要素により構成されるが、本実施形態では、上記(2)(3)が一体化した「擬似剛体化ユニット」が適用される。すなわち、設置面71に設置される下枠72と、保護対象機器73が載置される上枠74と、下枠72と上枠74の間に配置されて上枠74の荷重を支えると共に、地震のような大きな振動が入力した場合に、下枠72に対する上枠74の上下方向及び水平方向の相対移動量を規制する擬似剛体化ユニット75a〜75dで大略構成されている。
図53において、76は上部ベース、77は下限値調整ナット、78は下部ハウジング、79は前記上部ベースの上側に形成された上部スライド部、80は下部ハウジング78の下側に形成された下部スライド部である。前記上枠、及び、前記下枠には前記上部スライド部と前記下部スライド部を、
図52(b)の矢印に示すように、摺動可能に収納する上枠ガイド部81と下枠ガイド部82が形成されている。
【0218】
さて、前述した従来防振架台(
図88、
図89)においては、保護対象機器の荷重を支持する吸振体604と上枠移動量規制部605は、独立したユニットとして別箇所に配置される。また上枠移動量規制部605において、パイプ状部材606に締結されたコーナー部607に対して、規制ボルト611は垂直に固定される。かつこの規制ボルト611を貫通するように、コーナー部609がパイプ状部材608に締結される。これらの溶接複合部材から構成される上枠移動量規制部において、上限値隙間T
m、下限値隙間T
nを、高い精度で、かつ狭い隙間で設定するには限界があった。
【0219】
本実施形態における防振架台では、擬似剛体化ユニットが有する自動調芯作用・自動隙間均一化作用(これらの作用については第6実施形態参照)により、下部ハウジング78に対する上部ベース76間の上限値隙間、下限値隙間、水平方向隙間を高い精度で確保できる。これらの隙間を小さく設定できる程、ロッキング振動をもたらす地動外乱発生時において、ロッキング振動の振幅を小さくできるため、保護対象機器73に与えるダメージを低減できる。
【0220】
また、本実施形態の擬似剛体化システムは、下枠72を設置面71にアンカーボルト施工で固定せず、保護対象機器73の定常作動時において設置面71に対して離脱可能に配置した構成でもよい。あるいは、下枠72よりも大きな面積のボードの上部に下枠72を締結する構成でもよい。この場合、ボードは設置面に対して離脱可能に配置する。上記構成にすれば、転倒に対する裕度を向上させると共に、ボードを含む保護対象機器を床面上で自在に移動させて再設置が容易である。(図示せず)
【0221】
[4] 補足:オーディオ機器への適用
[第15実施形態]
図54は、第6実施形態で示した擬似剛体化ユニットに、風鈴部材と呼ばれる上部スリーブを配置したものである。風鈴部材による高周波振動のアシスト効果を利用して、音響特性を向上させるオーディオ用インシュレータは、本発明者らの既提案によるもので、特許文献4により既に公知のものである。
【0222】
以下、特許文献4で開示されているオーディオ用インシュレータについて、
図95を用いて説明する。
図95(a)は上面図、
図95bは正面断面図である。550は風鈴部材である上部スリーブ、551は下部ハウジング、552はスプリングコイル、553、554は前記スプリングコイルの位置決め部、556はサージング防止部材である。前記上部スリーブの上部に装着されるスピーカー(図示せず)のボイスコイル反力は、前記上部スリーブを加振する。ここで、「スピーカー→上部スリーブ550→スプリングコイル552→下部ハウジング551→床面(図示せず)」に至る振動の経路を振動伝播経路Φ
Zとする。ちなみに、太い線径を有するスプリングコイル552は、オーディオ機器が発生する振動を床面に伝播する「音響管」(Sound tube)としての役割を担う。このΦ
Zから分岐した振動伝播経路Φ
Rを有する共振部材(上部スリーブ550)は、上記Φ
Zに対して並列に配置されている。前述したスピーカーのボイスコイル反力によって、上部スリーブ550には高周波数における様々な振動モードが励起される。これらの共振モードに加えて、余韻・ゆらぎなどを有する風鈴の音響振動特性が、「風鈴効果」(Wind Bell Effect)と呼ばれる音響効果、すなわち、音像の定位感、分解能、透明感、スケール感などの音響特性向上効果をもたらすとしている。
【0223】
本実施例は、
図54に示すように、薄型の擬似剛体化ユニットの上部に風鈴部材を固定配置することにより、音響特性の向上と地震による転倒防止対策の両方を図ることができる。300は擬似剛体化ユニットで、第6実施形態(
図27)で示したユニット100に相当する。301は風鈴部材である上部スリーブ、302は上部スリーブ301の中心部に形成された円筒部、303はこの円筒部を介在して擬似剛体化ユニット300とスピーカーを締結するボルトである。304はこの上部スリーブの凸部でこの上面にスピーカー305が搭載される。306は擬似剛体化ユニット300の上部ベース、307は下部ハウジング、308は筒部、309はスプリングコイル、310、311は前記スプリングコイルの位置決め部、312はサージング防止部材、313a〜313dはボード締結ボルト(313b、313dは図示せず)である。314は上限値調整ナット、315は上限値調整ねじ部、316は下限値調整ナット、317は下限値調整ねじ部である。上限値調整ナット314の軸方向高さを調整することにより、上部スリーブ301(及び上部ベース306)の上方向の移動限界量δV
2を設定できる。また、下限値調整ナット316の軸方向高さを調整することにより、上部スリーブ301(及び上部ベース306)の下方向の移動限界量δV
1を設定できる。筒部308の外周面と下部ハウジング307の内周面は、狭い隙間δHが維持されており、このδHが上部ベース306(及び上部スリーブ301)の水平方向移動量と傾斜量を規制する点は、第6実施形態と同様である。
前記上部スリーブの凸部304の上部に装着されるスピーカー305のボイスコイル反力は、前記上部スリーブを加振する。ここで、「スピーカー305→上部スリーブの凸部304→円筒部302→上部ベース306→スプリングコイル309→床面(図示せず)」に至る振動の経路が振動伝播経路Φ
Zとなる。
【0224】
図55は擬似剛体化ユニット300に風鈴部材である上部スリーブ301を装着する方法を示す図である。擬似剛体化ユニット300は、実施形態6(
図27)で示したユニットと同一のものでよく、円筒部302の軸方向長さを考慮して、実施形態6の場合よりもオーディオ機器(
図54の305相当)に締結するボルト303を長くすればよい。
【0225】
したがって、本実施形態により
(1)振動遮断効果のみ
(2)振動遮断効果+風鈴効果
上記(1)の振動遮断効果により、前述したように、混変調歪の発生を回避することでオーディオ再生音の物理特性を改善し、上記(2)により、音楽的表現力を高める風鈴効果を付加することができる。上記(1)(2)を容易に選択できるという効用は、既提案(特許文献4)では得られなかったものである。また、風鈴部材(上部スリーブ301)の材質・形状によって共振特性を変えられるために、音楽ジャンル、オーディオ機器の音響特性、リスナーの好み等によって、擬似剛体化ユニット300を共通のままで、音響特性のチューニングが容易に図れる。
【0226】
[第16実施形態]
図56は、風鈴部材と擬似剛体化ユニットを上下分離して配置して、擬似剛体化ユニットの上部の広い空間を利用すれば、風鈴部材の形状(厚み)を広い範囲で選択できるという点に注目したものである。本実施形態では、風鈴部材の半径方向厚みを充分に大きく設定することで、その1次共振点を可聴域限界値に近い周波数帯域、あるいは可聴域を超えた周波数帯域に設けることができる。
【0227】
370は擬似剛体化ユニットで、前述した実施形態で示したユニット300に相当する。371は風鈴部材である上部スリーブ、372は円筒部、373は締結ボルト、374は前記上部スリーブの凸部、375はオーディオ機器、376は擬似剛体化ユニット370の上部ベース、377は下部ハウジング、378は筒部、379はスプリングコイル、380、381は前記スプリングコイルの位置決め部、382はサージング防止部材、383a〜383dはボード締結ボルト(383b、383dは図示せず)である。384は上限値調整ナット、385は上限値調整ねじ部、386は下限値調整ナット、387は下限値調整ねじ部、388は前記上部スリーブの内部空間である。
【0228】
前述したように、風鈴効果は3000Hz以上の高周波音である楽器の倍音成分をアシストすることで、音楽的表現力を高めて、ステレオ音像の定位感を向上させる等の効果を有する。楽器には基本となる周波数(基音)の他に、その整数倍の周波数の振動がいくつも含まれている。この倍音を充分に再生することで、楽器の音色に深みと豊かさ、 きらめき、つまり味わいのある音楽的表現力を与えることができる。既提案(特許文献4)における風鈴部材である上部スリーブ(
図95(a)の550)の一次の共振周波数(基音)は、3500〜4000Hzの範囲で設定していた。その理由は、人間の耳(外耳道)は一端が開放端、もう一方が閉じられた音響管(チューブ)であり、その共鳴周波数は3000Hz〜4000Hzの範囲にあるとされている。この周波数域は人の聴覚に最も敏感な領域である。風鈴効果が音圧特性に与える影響は極めて微弱であることを考慮して、聴覚が最も敏感な上記領域に風鈴の基音周波数を設定していた。
【0229】
さて、一般人の可聴域は8000〜12000Hzとされているが、可聴域を超えた12000Hz以上、あるいは20000Hz以上の領域でも楽器の倍音成分を正確に再生することで、オーディオ再生音の音響特性向上に多大な影響を与えることが知られている。
【0230】
本実施形態では、風鈴部材の半径方向厚み(rw
1-rw
2)を充分に大きく設定することで、その1次共振点を可聴域限界値に近い周波数帯域、あるいは可聴域を超えた周波数帯域に設けることができる。具体的には、スプリングコイルの外半径r
Sに対して、前記上部スリーブの内半径rw
2<r
Sとなる前記上部スリーブの形状から、一次共振周波数を決めればよい。擬似剛体化ユニット上部の広い空間を利用した上記形状の選択は、既提案(特許文献4)のインシュレータでは外径が巨大化することから困難だったものである。
【0231】
昨今のハイレゾ音源の普及により、スピーカーなどのオーディオ機器は、より高い周波数域までフラットな再生音が得られるようになっている。ハイレゾ音源とは、スタジオで録音したマスターが持っている情報量により近い高解像度の音源(データ)のことを指す。CDよりも情報量の多いハイレゾ音源はきめ細やかな音になり、CDでは再生できない空気感と臨場感を表現する事ができる。ハイレゾ音源に対応したスピーカーに、可聴域を超えた風鈴共振点を有する本実施例インシュレータを適用すれば、聴感上は風鈴効果の有無はほとんど聴き分けられないにもかかわらず、空気感、臨場感等をより一層効果的に再現することができる。
【0232】
[第17実施形態]
図57は、風鈴部材と擬似剛体化ユニットを上下分離して配置して、風鈴部材と擬似剛体化ユニットを点接触で密着する複数個の部材を介在して装着したものである。
【0233】
すなわち、本発明においては、前記風鈴部材と支持側の接触条件を、複数個の部材を介在させて、「面接触→点接触」にすることで、両部材間の接触面積を低減して、オーディオ機器の設置安定性を維持した状態で、前記風鈴部材に働く振動減衰作用が低減し、風鈴効果を向上させることができる。
【0234】
さて本発明者らは、特許文献6において、スプリングコイルと風鈴部材(上部スリーブ)間を点接触で密着する複数個の部材を介在して装着することにより、風鈴効果を向上させる構造を既に提案している。以下、特許文献6で開示されている内容を説明する。
図97(a)は
図97(b)のAA矢視図、
図97(b)は正面断面図である。911は上部スリーブ(風鈴部材)、912は下部スリーブ、913はサージング防止部材、914はスプリングコイル、915は中間スペーサ、916a、916b、916cは球状部材(点接触部材)である。917a、917b、917cは前記中間スペーサの上面に形成された前記球状部材を収納する窪み部、918a、918b、918cは組み立て時の前記球状部材の離脱を防止するための外壁部である。919は上部スリーブ911の内面底部の形成されたテーパ部であり、常時前記球状部材と点接触している。922は締結ボルトである。前述した特許文献4(
図95)の場合、上部スリーブ550の底面はスプリングコイル552上面の円形全周面で密着しており、上部スリーブ550はスプリングコイルから大きな振動減衰作用を受ける。特許文献6における主伝播経路は、
図109bにおいて、「オーディオ機器(図示せず)→上部スリーブのテーパ部919→球状部材916→中間スペーサ915→スプリングコイル914→床面(図示せず)」である。但し、「上部スリーブのテーパ部919→球状部材916」の振動伝達経路は点接触であり、上部スリーブの底面がスプリングコイル上面の円形全周面と密着していた特許文献4と比べて、上部スリーブ911がスプリングコイル914から受ける振動減衰作用は大幅に低減する。
【0235】
本発明の第17実施形態である
図57において、
図57(a)は
図57(b)のAA矢視図、
図57(b)は正面断面図である。225は擬似剛体化ユニット、226は風鈴部材である上部スリーブ、227は筒部、228は締結ボルト、229は前記上部スリーブの凸部、230はオーディオ機器、231は前記擬似剛体化ユニットの上部ベース、232は下部ハウジング、233は筒部、234はスプリングコイル、235、236は前記スプリングコイルの位置決め部、237はサージング防止部材、238a〜238dはボード締結ボルト(238b、238dは図示せず)である。239は上限値調整ナット、240は上限値調整ねじ部、241は下限値調整ナット、242は下限値調整ねじ部、243は前記上部スリーブの内部空間である。244a、244b、244cは球状部材であり、筒部227の上端面245において、窪み部246a、246b、246cに収納されている。
【0236】
擬似剛体化ユニットと風鈴部材を組み合わせた本実施例インシュレータは、上部ベース231、筒部227、上部スリーブ226に形成された貫通穴247、248、249を貫通して、締結ボルト228によりオーディオ機器230に締結される。上部スリ−ブ226は筒部227に対して、中心部を除いて点接触であり、前述した実施形態16(筒部372と上部スリーブ371が一体化構造)と比較して風鈴部材の振動減衰は小さく、風鈴効果をおおいに向上させることができる。また、特許文献6で開示されている構造(
図109)と本実施形態を比較すると、点接触を保ちつつ上部スリーブ911を軸芯に対して自動調芯させるのに必要なテーパ部919などの高精度で複雑な加工が不要であり、窪み部246a〜246cに球状部材を植え込むだけでよい。
【0237】
本実施形態では、第16実施形態で示した風鈴部材の形状、即ち風鈴部材の半径方向厚みを充分に大きくして、可聴域限界に近い周波数帯域に共振周波数を設定した風鈴部材(上部スリーブ226)を用いた。周波数が高い程、振動減衰作用が大きくなる欠点を、本実施形態による点接触支持方法で補うことができる。
【0238】
本実施形態の構造において、筒部227と上部スリーブ226間を点接触させる球状部材を取り外せば、風鈴効果を従来のレベルに容易に引き下げることができる。
【0239】
図58は筒部227と球状部材244a、244b、244cを逆配置して設置した場合を示す。球状部材244a〜244cは、窪み部246a〜246cと上部ベース231に形成された窪み部250a〜250c(250cは図示せず)の間に収納される。この場合、筒部227の上端面は上部スリーブ226と密着しており、風鈴部材の振動減衰を低減する作用は得られない。風鈴部材の振動減衰を低減させる作用の有無を容易に選択できる本実施形態の効用は、特許文献6では得られなかったものである。
【0240】
[第18実施形態]
図59は本発明の第18実施形態を示すもので、第6実施形態(
図27)で示した擬似剛体化ユニット100の基本構造を改良して、上部ベースを風鈴部材にすることにより、薄型の風鈴効果付きフローティング式インシュータを構成したものである。
【0241】
320はユニット本体部、321は上部スリ−ブ、322は下部ハウジング、323は上部スリーブ321の中央部に形成され、下端部に開口部を有する筒部である。324はスプリングコイル、325、326はスプリングコイルの位置決め部、327はサージング防止部材、328は上限値調整ナット、329はこの上限値調整ナットのねじ部、330は下限値調整ナット、331はこの下限値調整ナットのねじ部である。332は上部スリ−ブ中心部に形成された貫通穴で、この貫通穴を利用して、オーディオ機器(図示せず)と前記上部スリーブをボルト(図示せず)により締結する。上限値調整ナット328により、上部スリ−ブ321の上方向の移動限界量δV
2を設定でき、下限値調整ナット330により、上部スリ−ブ321の下方向の移動限界量δV
1を設定できる点は前述した実施例同様である。筒部323の外周面とその対抗面は、狭い隙間δHが維持されており、このδHが上部スリ−ブ321の水平方向移動量と傾斜量を規制する点も前述した実施例同様である。
【0242】
[第19実施形態]
図60は、擬似剛体化ユニットをフローティング式スパイク受けとして適用した実施例である。通常、オーディオ機器を支持するスパイク構造は、機器側に装着される円錐形状のスパイクと、このスパイク先端を受けるスパイク受けで構成される。オーディオ機器は3点、もしくは4点で支持されるために、スパイク受けは薄い円盤形状の剛体部材が用いられる。したがって、スプリング式などのフローティング式は、設置不安定さゆえにスパイク受けとしての適用は敬遠される場合が多い。
【0243】
350はユニット本体部、351は上部ベース、352は下部ハウジング、353は上部ベース351の中央部に形成され、下端部に開口部を有する筒部である。354はスプリングコイル、355、356はスプリングコイルの位置決め部、357はサージング防止部材、358は上限値調整ナット、359はこの上限値調整ナットのねじ部、360は下限値調整ナット、361はこの下限値調整ナットのねじ部である。上限値調整ナットにより、上部ベース351の上方向の移動限界量δV
2を設定でき、下限値調整ナット360により、上部ベース351の下方向の移動限界量δV
1を設定できる点は前述した実施例同様である。筒部353の外周面362とその対抗面363は、狭い隙間δHが維持されており、このδHが上部ベース351の水平方向移動量と傾斜量を規制する。
【0244】
364は上部ベース351の上面に形成されたスパイク受け部、365はこのスパイク受け部に収納されるスパイク受け皿である。
【0245】
図61は、前述したフローティング式スパイク受けを適用して、オーディオ機器365をスパイク366で支持した場合を示すものである。350a、350bは
図60で示したユニット本体部である。(4点で支持した場合の350c、350dは図示せず)
【0246】
[第20実施形態]
前述した実施例は、平常時には保護対象機器をフローティング状態で支持することにより、防振・除振の機能を維持して、ロッキング振動発生の非常時には弾性支持部材の上下方向の移動量を規制することにより、保護対象機器の転倒・破損を防止するものであった。しかし、保護対象によっては、平常時には防振・除振の機能を必要とせず、非常時にのみ転倒・破損対策が要求されるものが多い。たとえば、病院内に設置されている薬品保管棚、コンピュータ・サーバのラック、美術展示品などである。本発明は擬似剛体化ユニットの「自動調芯作用」、「自動隙間均一化作用」を利用して、水平方向隙間δH、上下方向の隙間δV1及びδV2を設定後、剛体支持部材を擬似剛体化ユニットと並列に装着すれば、水平方向隙間δHは前段階の状態を保ちつつ、δV1、δV2の再調整は容易にできる点に注目したものである。以下、スパイク方式で支持されたオーディオ用スピーカーを保護対象とした、実施形態について述べる。
【0247】
スプリングコイル方式を含むフローティング方式の場合は、低周波数域(たとえば、数Hz〜数十Hz)における床面とオーディオ機器間の振動遮断が図れる。しかし、スパイク方式を含む硬質インシュレータの場合は、低周波数域での振動遮断は図れず、混変調歪の発生は回避できない。しかしオーディオ機器が再生する音楽のジャンルによっては、たとえばロック音楽にように、床面を鳴らすことで低音域の音響効果を得る場合は、硬質インシュレータ(剛体支持部材)の方がリスナーの好みに合致する場合もある。この場合でも、本実施例の適用により、地震などによるスピーカーの転倒・破損を図ることができる。
【0248】
以下、Step1(
図62)〜Step3(
図64)の図面を用いて、本実施形態の原理、すなわち、平常時にスパイク(剛体)支持、非常時に転倒・破損防止機能が作用するユニットとして適用した場合について、構造と調整方法について説明する。
【0249】
Step1(
図62)は、本実施例ユニットを、前述した実施例同様にフローティング状態でスピーカーを支持している段階を示す。700は本実施形態20に係る擬似剛体ユニットを示し、701は上部ベース、702は下部ハウジング、703はスプリングコイル、704はスプリングコイルの下部位置決め部、705aは上部位置決め部、705bはこの上部位置決め部の下に形成されたテーパ部である。706aは上部ベース701の上面凸部、706bは外周部、707は保護対象機器であるスピーカー(想像線で示す)、708は前記上部ベースの中空軸、709はこの中空軸に形成された貫通穴、710はこの貫通穴に挿入されたボルト、711は中空軸708の下端面とボルト710の間に装着されたスペーサ、712はサージング防止部材である。713は変位規制部、714は前記ボルトの頭部とスペーサ711を収納する変位規制空間である。変位規制部713の下端面715とスペーサ711の間隙により、上部ベース701の上方向の移動量(上限値)δV
2が設定されている点は前述した実施例同様である。716は下限値調整ナット、717はこの下限値調整ナットの内面と下部ハウジング702の外周面に形成されたねじ部である。下限値調整ナット716の軸方向高さを調整することにより、上部ベース701の下方向の移動限界量δV
1を設定できる点、及び、中空軸708の外周面と、その対向面(変位規制部713の内面)の間隙により、水平方向移動量δHが設定されている点も前述した実施例同様である。718はボード、719は床面、720は前記ボードの底面に形成した空隙部、721はディスク型ナット、722a〜722d締結ボルト(722b、722dは図示せず)である。鎖線円AA1に注目すれば、下限値調整ナット716と上部ベース701間は、間隙δV
1が保たれており、またスプリングコイル703の上端面722は、上部ベース701の底面723に密着している。
【0250】
Step2(
図63)は、本実施例ユニットの上部ベース701を上昇させて、スパイク式インシュレータ725をスピーカーの底面に挿入できる状態を示す。
【0251】
725aはスパイク本体部、725bはスパイク受けである。本ユニットで支持されているスピーカー707の一端を持ち上げると同時に、下限値調整ナット716を矢印Bの方向に上昇させる。このとき本ユニットの高さは、スパイク受けを含むスパイクの全長よりも僅かに隙間δHsだけ高く設定する。この状態で、スパイク式インシュレータをスピーカー707の底面とボード718の間に挿入する。鎖線円AA2に注目すれば、下限値調整ナット716と上部ベース701間は密着状態になっている。またスプリングコイル703の上端面722は、上部ベース701の底面723から離脱しており、スプリングコイル703は無負荷で自由長となっている。
【0252】
Step3(
図64)は、下限値調整ナット716をスパイク式インシュレータが完全に装着されるまで、矢印Cの方向に下降させた平常時の状態を示す。鎖線円AA3に注目すれば、上部ベース701の下方向の移動限界量δV
1を設定した状態になっている。またスプリングコイル703の上端面722は、上部ベース701の底面723から離脱しており、スプリングコイル703は、Step2同様に、無負荷で自由長となっている。スピーカー707からボード718→床面719に至る振動伝達経路は、スプリングコイル703と遮断され、スパイク式インシュレータ725のみとなる。したがって、共鳴体であるスピーカーの音響特性は、スパイク支持だけの場合と同等になる。
【0253】
図65はStep3(
図64)で設定されたスピーカーシステムの全体図を示す。
図66は水平方向の地震の振動が加わった場合を示す。スピーカー707にロッキング振動が発生して、スパイク式インシュレータ725は容易にスピーカー底面から離脱する。すなわち、スピーカー707の転倒に繋がる地震の振動に対して、擬似化剛体ユニット700が有効に作用して転倒を防止する。
【0254】
スピーカー707の底面とボード718の間に挿入するスパイク式(剛体ユニット)の高さを調整可能な構造にすれば、設置作業はより簡便となる。たとえば、スパイク受け725bを上下2段構成にして、両者をねじで螺合する構造でもよい。
【0255】
図67は、本実施形態の擬似化剛体ユニットの外観図を示す。下部ハウジング702の外周面に形成されたねじ部717を2色に色分けして、717aをスプリング支持が有効な場合(
図67(a))、717bをスプリング支持が無効な場合(
図67(b))とすれば、Step2とStep3における下限値調整ナット716の調整が容易にできる。
【0256】
転倒防止対策が必要な保護対象機器は、産業用・民生用に限らず平常時フローティング(弾性)支持することが不必要、あるいは不具合をもたらす場合も多く、本実施形態は地震対策として様々な用途に適用できる。
【0257】
以上、本実施形態を要約すれば、複数組の前記減震ユニットに前記保護対象機器を搭載して、前記弾性支持部材による前記保護対象機器の荷重支持が平衡状態になったときの前記減震ユニットの高さをH0、剛体支持部材の高さHとして、H>H0となるように、前記剛体支持部材を前記減震ユニットと並列かつ離脱可能に配置すればよい。たとえばStep3(
図64)の段階で、下限値調整ナット716をさらに大きく下降させる。非常時にスパイク(剛体)725が離脱した場合に、上部ベース701がスプリングコイル703で支持されるまで前記下限値調整ナットを下降すれば、スピーカー707(保護対象機器)は非常時に弾性支持された状態になる。すなわち、「平常時に剛体支持構造、非常時に弾性支持構造」のシステムが実現できる。また、スプリングコイル703の剛性を充分に小さく設定して、「平常時に剛体支持構造、非常時に免震構造」としてもよい。
本実施例では、オーディオ用スピーカーをスパイク方式で支持した事例を説明したが、剛体式インシュレータとして、木材、樹脂、金属、セラミック、石英、等を用いたもの、及びこれらの素材を多層構造にした複合タイプでもよい。この場合でも剛体式インシュレータを2段構成にして、高さを調整可能な構造にすれば、設置作業はより簡便となる。
また、スプリングコイル703の剛性を小さく設定して、この剛性と保護対象機器の質量で決まる共振周波数f
0を、地震波の周波数fに対してf
0≪fとなるように充分に小さく設定する。この場合、「平常時に剛体支持構造、非常時に免震構造」の減震システムが実現できる。
【0258】
[第21実施形態]
図68は本発明の第21実施形態を示すもので、アンカーレス・ボードに擬似剛体化ユニットを介して保護対象機器を搭載し、想定外の強大な地震が発生した場合でも、前記保護対象機器の転倒・破損を防止する方策を示すものである。すなわち、前記ボードを壁面近傍に設置して、かつワイヤーの端部を床面に固定し、ワイヤーのもう一方の端部を前記ボードに固定する。かつ壁面に緩衝材を設ければ、前記保護対象機器の転倒・損傷を防止できることに着目したものである。実施例として、リスニングルーム内に設置されたスピーカーの地震対策を示す。
【0259】
スピーカーシステムを部屋にステレオで配置した場合を示す全体のモデル
図68において、680aは左側スピーカーシステム、680bは右側スピーカーシステム、681はリスナー、682は部屋のリアー側壁面、683はリアー側コーナー、684は部屋のフロント側壁面である。通常、保護対象機器であるスピーカーは部屋のコーナーで、リアー側壁面682、及び、リアー側コーナー683に近接して配置される場合が多く、限られたスペース内での設置が前提となる。685はリアー側壁面682に配備された、衝撃緩衝材を兼ねた吸音材(想像線で示す)である。本実施例では、「デッドエンド・ライブエンド」と呼ばれる、スピーカー側の壁面を吸音(デッド)にした構成を採用している。この構成では、音像定位が良く、リスナー側壁面(フロント側壁面684)からの反射音により音に包まれた感覚を得ることができる。左側スピーカーシステム680aに注目すると、
図69において、686は一部円弧形状のボード、687はスピーカー、688a〜688dは擬似剛体化ユニットである。
図70にスピーカー687の側面図を示す。前述した実施例同様に、前記擬似剛体化ユニットと前記スピーカーは、狭い隙間を介して擬似的に一体化(剛体化)している。また前記ボードと前記擬似剛体化ユニットはボルトにより締結されている。689aと689bは、リアー側コーナー683a近傍の床面に固定されたアンカー、690aと690bはボード686に設けられた止め具である。691aと691bはそれぞれアンカー689a、689bと止め具690a、690bを連結する線状部材である。この線状部材は引張強度が高く、伸縮あるいは長さ調節ができる金属製ワイヤ、チェーン、ベルトなどが適用できる。想定外の強大な地震が発生した場合を仮定する。
図70において、スピーカー687は右側には前記線状部材の拘束作用により転倒は防止できる。左側には、緩衝材を兼ねた吸音材685により、前記スピーカーが前記緩衝材と衝突した場合でも損傷を免れることができる。
【0260】
ちなみに、本実施形態において、スピーカーはボードに対して、前記擬似剛体化ユニットを介してフローティングしているために、スピーカーを拘束せず、音質の劣化は生じない。この点は、スピーカーをチューニングベルト、ワイヤなどで固定する従来例(
図91、
図92)とおおいに異なる。また、本実施例ではオーディオ用スピーカーを部屋内に設置する上での必須条件、スピーカーの位置G、傾斜角度θの再調整(
図25参照)が可能である。すなわち、ボードを移動させた位置に合せて、前記線状部材の長さ、前記ボードに設けられた前記止め具の位置等を選択、調節すればよい。
【0261】
[第22実施形態]
図71〜
図73は本発明の第22実施形態を示すもので、「スライド式アンカーユニット」とも言うべき締結構造を、ボードと床面間を固定する手段に用いたものである。本提案により、地震波におけるロッキング振動発生時において、保護対象機器に加わる衝撃荷重の低減が図れる。
【0262】
図71(a)は
図71(b)の上面図、
図71(b)は
図71(a)のAA断面図である。951は保護対象機器、952a〜953dは擬似剛体化ユニット、953はボード、954は床板(設置面)、955a〜955dはスライド式アンカーユニットである。
【0263】
図72は、前記スライド式アンカーユニットの詳細構造を示すもので、956はピストンであり、このピストンはピストン上部956a、ピストン軸部956b、ピストン下部956cから構成される。957はスリーブ、958はこのスリーブと前記ピストンの間に装着されたスプリングコイル(弾性部材)である。959はスリーブ957の下端部に形成されたねじ部、960、961はこのねじ部で前記スリーブと螺合する締結ボルトとワッシャーである。
【0264】
図73は、地震波によるロッキング振動発生時において、前記ボードと前記スライド式アンカーボルトの浮上状態を示すものである。保護対象機器の支持部における発生荷重F
1のF
2により、前記スライド式アンカーユニットのストローク限界内で、前記ボードはスプリングコイル958に抗して浮上する。
【0265】
さて、[1-3]節において、保護対象機器の支持部に加わる衝撃荷重を求める解析を行った。この場合は、ボードを床面に完全固定した条件での解析であった。変位規制部の片側隙間δVに対する支持部の最大圧縮荷重F
maxを求めたグラフ(
図17)から、隙間δV→0 にすれば、最大圧縮荷重F
maxは剛体支持の発生力に漸近して、剛体支持に近いレベルまで、衝撃荷重を低減できることがわかった。
【0266】
ボードが床面に対して浮上する本実施例の場合は、上記最大圧縮荷重F
maxはさらに低減することができる。平常時(
図71(b))において、本実施例では前記スライド式アンカーユニットのピストン上部956aはスリーブ957内の下方向に収納されているために、ボードを薄型にした場合、i設置空間が小さい、ii周囲の作業環境に影響を与えない、iiiインテリア性に優れるなどの利点は失われることはない。前記スプリングコイルにゴム(粘弾性材料)を加硫接着(第7実施形態参照)したものを用いて、減衰作用を与えれば、衝撃荷重をさらに低減させることができる。あるいは、スプリングコイルは使用せず、粘弾性ゴムに復元力を持たせる構造でもよい(図示せず)。
【0267】
前記スライド式アンカーユニットは、実施例のように前記ボードと前記設置面間をボルト960で固定するのではなく、前記スリーブをコンクリートの床面に植え込む構造でもよい(図示せず)。
【0268】
[第23実施形態]
図74は本発明の第23実施形態を示すもので、「擬似剛体化ユニットによる減震構造」と、水平方向の「すべり免震構造」を組み合わせた「ハイブリッド減震」ともいうべき、支持構造を示すものである。
図74(a)は上面図、
図74(b)は
図74(a)のAA断面図である。931は保護対象機器、932a〜932dは擬似剛体化ユニット、933はボード、934は外枠、935は底板、936a〜936dは前記外枠を床面に固定するアンカーボルト、937a〜937gは細径のスプリングコイルである。このスプリングコイルの両端はボード933と外枠934のそれぞれに形成された円筒部(図示せず)の間に挿入されている。
【0269】
ボード933は底板935に対して、XY方向に摺動可能であり、かつ前記スプリングコイルが細径のため、Z軸方向にも浮上可能に構成されている。
【0270】
図75は、保護対象機器931に地震波によるロッキング振動が発生した場合を示す。本実施例では、図中の矢印に示すように、ボード933はZ軸方向に浮上すると共に、XY方向に摺動する。このXY方向の摺動が「すべり免震」の効果となる。
本実施形態では、第22実施例同様のZ軸方向浮上による衝撃荷重軽減効果に加えて、すべり免震の効果が加わる。その結果、平常時に除振・防振の機能を維持したままで、非常時に剛体支持以下の衝撃力軽減を図ることができる。
【0271】
本実施例では、前記スプリングコイルは前記ボードと前記外枠の各対向面間に、2個×4組=総計8個用いている。スプリングコイルの縦方向と水平方向のばね剛性が等しくなるような仕様のスプリングコイルの組み合わせを選択すれば、たとえば、スプリングコイル937aと937b、及び、937eと937fの2組だけでもよい。
【0272】
前記外枠と前記ボード間を支持する部材は、前記スプリングコイルだけではなく減衰を加えてもよい。この場合、前記スプリングコイルの内部に長い円柱形状、あるいは円筒形状の粘弾性ゴムを挿入した構造でもよい。あるいは、ゴム(粘弾性材料)を加硫接着したスプリングコイルを用いてもよい。あるいは、前述したように、スプリングコイルを937aと937b、及び、937eと937fの2組だけにして、937cと937d、及び、937gと937hの位置に減衰作用を与えるための粘弾性材料を配置してもよい。あるいは、スプリングコイルは使用せず、粘弾性材料だけでもよい(図示せず)。
【0273】
すべり免震効果を一層活用するためには、ボード933を滑り易くするために、前記ボードと底面935の相対移動面に、たとえば球状部材を植え込む構造でもよい。あるいは、所定の水平方向荷重を超えたとき滑りが発生するように、ボード933と底板935間の静摩擦係数を設定する構造でもよい(図示せず)。あるいは、前記ボードと前記外枠間に作用する減衰が極力小さくなるように、ボールスプライン、スライドガイド等を装着する構成でもよい。
【0274】
本実施例では、前記外枠と床面間をアンカー固定した場合を示したが、保護対象機器に要求される耐震性能によっては、アンカーレスで用いてもよい。この場合でも、衝撃荷重軽減効果に加えて、転倒に対する裕度向上を図ることができる。
【0275】
[第24実施形態]
図76は本発明の第24実施形態を示すもので、たとえば、擬似剛体化ユニットを介在してスピーカーと床面側を締結した場合について、スピーカー底面に働くロッキング振動による引き抜き力に耐えるように、スピーカー底部構造に工夫を施したものである。前述した本発明の第6実施形態(
図26)では、擬似剛体化ユニット152を介在してスピーカー150とボード151を締結した場合について示した。
【0276】
昨今のトールボーイ型スピーカーのエンクロージャー(スピーカーの筺体)に使用される材料は、木材を単板で用いる場合は少なく、たとえば、MDF(中質繊維板MediumDensityFiberboard)が多用されている。MDFは木材等の植物繊維を取り出し合成樹脂接着剤を加えて成型熱圧したもので、要約すれば、木材等を粉状にしてそれを接着成形した板と考えてよい。スピーカー表面は、美観上の理由から、つき板と呼ばれる非常に薄いシート状になったものが貼られる。MDFが用いられる理由は、音響特性が良い、天然材に比べると均一性に優れるため量産に向いている、利用されない端材なども原材料にできる点で価格的なメリットがある、などによる。
【0277】
さて、本研究開発の過程において、本発明の第6実施形態(
図27)に示したように、スピーカーの底面に常設されているスパイクねじを利用して、擬似剛体化ユニットとスピーカーをボルト111で締結した場合、次のような問題点が生じることが分かった。加震実験台の上に上記スピーカーを搭載して、地震波と等価な模擬波で加振台を励震する。その結果、スパイクねじ部に締結された擬似剛体化ユニットは、スパイクねじ部の破損により、容易にスピーカー本体から離脱してしまうのである。その理由として、
【0278】
(i)昨今のスピーカーは、ロッキング振動による強大な引き抜き荷重の発生は想定されず、スピーカー自身の荷重を床面に支持する圧縮荷重だけしか考慮しない場合が多い。ロッキング振動による強大な引き抜き荷重は、スピーカーと設置面を固定する場合に発生する。しかし、前述したようにスピーカーと床面を完全固定する方策(
図105)は、致命的な音質の劣化をもたらすがゆえに、音響設計上あり得ない
のである。この点は、産業用保護対象機器(空調器、発電機、変圧器等)と異なるオーディオ機器固有の課題である。
(ii)本発明の擬似剛体化ユニットと擬似剛体化システムは新しい概念の提案である。前述したように、スピーカーの地震対策が困難な理由は、次の二つの条件(1)(2)を「同時に満足させる技術的手段」が今日に至るまで見出されていないからである。
【0279】
(1) スピーカーが床面から離脱して、かつ転倒しないように床面に安定設置する。
(2)スピーカーの音響特性を劣化させない
音響特性を維持したままで、強大な引き抜き荷重の発生に耐えるスピーカー底面構造は、上記条件(1)(2)を満足させる本発明の提案により初めて生まれた新しいニーズである。
【0280】
本発明の第24実施形態を示す
図76において、770はスピーカー本体、771はスピーカーの筺体を構成する底部以外の壁面部で材料Aにより構成される。772はスピーカー筺体の底部で、材料Bにより構成される。スピーカー底面の各隅に設置されるユニットのひとつ(擬似剛体化ユニット773a)注目して、774はボード、775は設置床面、776aは底部772に植え込まれるヘリサート、777aは前記ヘリサートを介在して前記擬似剛体化ユニットと前記底部を締結するボルトである。底部772を構成する材料Bは、前記ヘリサートと前記ボルトに強大な引き抜き荷重が加わっても十分に耐える強度を有する材料から選ぶ。たとえば、檜材、アピトン、ブラックチェーリー、カリン材などから選択すればよい。底部772以外で、スピーカー筺体を構成する材料Aは、たとえば、前述したMDFのように音響特性、量産性、価格に重点を置いて選べばよく、引き抜き荷重に耐える強度については、優先順位を下げて、B>Aでよい。
【0281】
[第25実施形態]
図77は本発明の第25実施形態を示すもので、前述した実施形態同様に、たとえば、擬似剛体化ユニットを介在してスピーカーと床面側を締結した場合について、スピーカー底面に働くロッキング振動による引き抜き力に耐えるように、スピーカー底部構造に工夫を施したものである。前述した実施形態が、スピーカー底部に強度の高い材料を用いたのに対して、表面積の大きなディスク型ナットを2層の底板間に介在させることで、充分な引き抜き荷重に耐えることができる。
【0282】
780はスピーカー本体、781はスピーカーの筺体を構成する壁面部で材料AAにより構成される。782は前記壁面部と同一の材料AAで構成される上位底部、783は下位底部で材料BBにより構成される。上位底部782と下位底部783は接着剤あるいはボルト等で締結すればよい。下位底部783の各隅に設置されるユニットのひとつ(擬似剛体化ユニット784a)に注目して、785はボード、786は設置床面、787aは上位底部782と下位底部783の間で下位底部783側に設けられるディスク型ナット、788aはこのディスク型ナットと下位底部783を締結するボルト、789aは前記擬似剛体化ユニットと前記ディスク型ナットを締結するボルトである。本実施形態では、ロッキング振動の引き抜き荷重は、広い面積を有する前記ディスク型ナットで受けるために、下位底部783は高強度の材料BBは必要としない。材料AAと材料BBは同一のものでもよく、あるいは広い範囲で選択すればよい。
【0283】
[第26実施形態]
第6実施形態で前述した本発明のオーディオ機器への適用例は、減震ユニットを構成する弾性支持部材(スプリングコイル)と変位規制機構を一個のユニットに内蔵させて、かつ、複数個の前記ユニットをボード上に固定した構造であった。以下示すように、複数組の弾性支持部材と変位規制機構を独立して複数組ボード上に固定し、かつボードと床面間をアンカー施工しない場合でも、スピーカーの音質(品質)を平常時に劣化させないで、非常時の地震対策を図ることができる。
図78(a)はスピーカーに固定した変位規制部70の正面断面図、
図78(b)は前記変位規制部の上面図である。71は保護対象機器であるスピーカー、72aは位置規制ボルトであり、前記スピーカースパイクネジ部72bに締結されている。73aは下限値調整ナット、73bは下限値調整薄型ナットである。74aは上限値調整ナット、74bは上限値調整薄型ナットである。75は環状部材で、前記位置規制ボルトを貫通した状態で、上限値調整薄型ナット74bと下限値調整薄型ナット73bの間に矜持される。76は固定部材、77はこの固定部材の中央部に形成された貫通穴、78はボード、79は床面、80はボードの底面に形成した空隙部、81はディスク型ナットである。82a〜82dは締結ボルト、83は防滑シートである。上限値調整薄型ナット74bと固定部材76の間隙の調節により、スピーカー71の上方向移動限界量δV
2が規制される。また下限値調整薄型ナット73bと固定部材76の間隙の調節により、スピーカー71の下方向移動限界量δV
1が規制される。環状部材75の外径と貫通穴77の内径の大きさで、水平方向の移動限界量δHが規制される。
【0284】
図79(a)は
図78で前述した変位規制部70と、弾性支持部材(吸振体)を組み合わせてスピーカーを支持した全体図を示し、
図79(b)は
図79(a)の部分拡大図である。弾性支持部材84a〜84dは4セットでスピーカー71を支持している。各変位規制部70a〜70dの間に各弾性支持部材84a〜84dを交互に配置している。たとえば、弾性支持部材84aと変位規制部70aは一組(一対)の減震ユニットとして扱えばよい。本実施形態の構造は、減震ユニットを構成する弾性支持部材と変位規制機構を分離して配置したが、この場合でも[2-3]節で示した静的転倒基準の理論解析結果が適用できる。たとえば、スプリング式の設置不安定性を解消する条件式[22]から、幾何学的形状がRとΦで構成される機器を保護対象として、η≧1となるように、変位抑制値θ
r、ボード幅B
1、ボード質量m
bを設定すれば剛体支持の場合と同等、あるいはそれ以上の静的転倒裕度を得ることができる。この場合、条件式[22]を適用する際、位置規制ボルト71の位置を「支持部」とすればよい。
【0285】
また前記弾性支持部材と前記変位規制部を前記ボードに直接締結するのではなく、第14実施形態で示したように、前記弾性支持部材と前記変位規制部を上枠と下枠の間に挟み込むように構成する。この場合、前記弾性支持部材と前記変位規制部は独立した構造でもよい。上記下枠をボードに締結する構成でもよい(図示せず)。本実施形態の構成は、オーディオ機器に限らず一般の産業用機器にも適用できる。
【0286】
[第27実施形態]
前述した本発明のオーディオ機器への適用例は、すべてオーディオ機器をフローティングさせる構成で、非常時に機器の転倒・破損防止を図るものであった。
図80は本発明の第27実施形態を示すもので、
図80(a)は上面図、
図80(b)は
図80(a)のAA断面図である。本実施形態は、平常時にオーディオ機器を剛体支持する設置面Aと、非常時に転倒・破損防止を図る変位規制部の設置面Bを分離して配置されている。すなわち、音響特性を考慮した設置面Aと、機械強度を考慮した設置面Bを独立してオーディオ・システムを構成する。
【0287】
オーディオ機器を設置面に対して剛体支持(スパイク式も含む)した場合、前述したように、設置面の材質、構造が有する音響特性が再生音に影響を与える。但し、スプリング式などのフローティング式の場合は、オーディオ機器と設置面間は振動遮断されるため、設置面の音響特性が再生音に与える影響は小さい。硬質式シンシュレータでオーディオ機器を支持する場合、従来から様々な工夫を施したオーディオボードが多用されてきた。たとえば、鋳鉄粉入りのハニカムコアを中心とした5層構造、ピュアマグネシウム+MDF+天然チーク材+MDFの4層構造、高分子ハイブリッド型制振シート・ニューセラッミクス+木質系材料の多層構造、等々である。
【0288】
731は前述した素材で構成されるオーディオボード、732は外枠、734はスピーカー等のオーディオ機器、735a〜735dは前記オーディオ機器の底面4隅に締結されたスパイク部である。736は滑り止めシート、737は設置床面、738a〜738dは固定部材である。
図81において、739はスパイクテーパ部、740はスパイク径小部、741はスパイク受けである。742は前記固定部材の上部で、スパイク径小部740を非接触で包み込むように形成された円弧部である。743は固定部材上面、744は固定部材下面であり、固定部材上面743とオーディオ機器底面745の間で下限値隙間δV
1を設定して、固定部材下面744と前記スパイクの間で上限値隙間δV
2を設定している。またスパイク径小部740と円弧部742の間で半径方向隙間δHを規制している。オーディオボード731の外周側に配置された外枠732は、前記オーディオボードよりも十分に強い強度の素材で構成されており、この外枠732に前記固定部材がボルト745a〜745dにより締結される。本実施形態により、地震発生時のロッキング振動による強力な引き抜き荷重にも耐えると共に、音響特性を向上させるオーディオボードを任意の素材で選択できる。実施例では、外枠732の内側にオーディオボード731が収納される一体化構造であるが、任意形状のオーディオボードが選択できるように、前記外枠と前記オーディオボードは完全に分離した構造でもよい。
【0289】
[第28実施形態]
図82、
図83は本発明の第28実施形態を示すものである。前述した第27実施形態同様に、平常時にオーディオ機器を剛体支持する設置面Aと、非常時に転倒・破損防止を図る変位規制部の設置面Bを分離して配置すると共に、スパイク支持部と変位規制機構を分離して配置した場合を示す。
図82aは
図82(b)のBB矢視図、
図82(b)は
図82aのAA矢視図、
図83は
図82aのCC矢視図で、変位規制部の拡大図である。751は前述した素材で構成されるオーディオボード、752は外枠、753はスピーカー等のオーディオ機器、754a〜754dは前記オーディオ機器の底面4隅に締結されたスパイク部である。755は滑り止めシート、756は設置床面、757a〜757dは変位規制部である。
【0290】
図83において、758は円柱部材、759はこの円柱部材の径大部であり、円柱部材758はオーディオ機器753の底面に設けられたネジ部(図示せず)などに締結される。760は固定部材、761はこの固定部材を外枠に締結するボルトである。
【0291】
762は前記固定部材の上部で、円柱部758を非接触で包み込むように形成された円弧部である。763は前記固定部材上面、764は固定部材下面であり、固定部材上面73と前記オーディオ機器底面の間で下限値隙間δV
1を設定して、固定部材下面764と前記円柱部材の径大部759の間で上限値隙間δV
2を設定している。また円柱部758と円弧部762の間で半径方向隙間δHを規制している。オーディオボード751の外周側に配置された外枠752は、前記オーディオボードよりも十分に強い強度の素材で構成されており、この外枠752に前記固定部材がボルト761a〜761dにより締結される。本実施形態により、地震発生時のロッキング振動による強力な引き抜き荷重にも耐えると共に、音響特性を向上させるオーディオボードを任意の素材で選択できる点は、前述した実施例と同様である。
【0292】
本実施形態では、変位規制手段が設けられているにもかかわらず、様々な形態の硬質インシュレータが適用できる。すなわち、前記変位規制部の円柱部758は、一般のスピーカーなど設けられているスパイク用のねじ部を利用して締結する。実施例のスパイク754a〜754dに相当する支持部材は、オーディオ機器に対して着脱可能な硬質インシュレータを適用すればよい。たとえば、円錐形状のスパイクではなく、円錐形の先端がオーディオ機器側に形成した逆スパイク形状でもよい。あるいは円錐形状ではなく、球体などでもよい。あるいは、木材、樹脂、金属、セラミック等で構成される任意の硬質インシュレータが適用できる。
【0293】
[補足]
本発明による擬似剛体化ユニットは、基本構造を同一のままで、(i)床面と機器間の振動遮断を図るための防振・除振機能、(ii)高精度の位置規制ができる変位抑制型の減震機能、あるいは、衝撃緩衝材を装着した振動減衰型の減震機能、(iii)保護対象機器を搭載状態で、上限値隙間と下限値隙間を調節できる機能、(iv)自身は振動を発生しない保護対象の減震機能、たとえば、平常時剛体支持で非常時に変位規制付きの弾性支持構造、(v)アンカーレス・ボード&アンカー固定したボード等々、上記機能・構造を、産業用、民生用を問わず、適用対象のニーズに対応して選択できる。
【0294】
たとえば、高価・重要・貴重品を保護することを目的として、病院内に設置されている医療機器、危険薬品の保管棚、鉄道運行制御盤、消防署・警察の緊急時コンピュータ・システム、半導体向上におけるウエハ関連装置などの地震対策として適用できる。あるいは、5〜10tonの大荷重支持が必要な変圧設備、自家発電装置などに適用できる。また、擬似剛体化ユニットとボードで構成される減震システムが、極めて簡素な構成で実現できるために、オフィス環境に設置されたコンピュータ・サーバのラック、本格免震までは必要としない美術品、キャスタ付き精密機器などを保護対象として、アンカー固定を省略した簡易減震装置として適用できる。
【0295】
実施例では、本発明をスピーカーに適用する場合を示したが、オーディオ機器であるCDプレイヤー、アナログプレイヤー、プリアンプ、パワーアンプ、PCオーディオ用のパソコン、あるいは、これらのオーディオ用コンポーネンツを収納する重量の大きなオーディオラック(棚)、あるいは様々な楽器(たとえば、アコースティック楽器)、ピアノなどの楽器にも適用できる。オーディオ用に提案したユニット、ボードなどの各種構造案は、産業用にも適用可能である。また産業用として提案した内容も、オーディオ用を含む民生用に適用できる。
【0296】
実施例では、弾性支持部材として外径が軸方向で均一なスプリングコイルを用いたが、弾性支持部材は上記形状に限定されるものではない。たとえば、円錐コイルばね、皿バネ、あるいはこの皿ばねを多段に積み重ねた構造、竹の子ばね、輪ばね、渦巻きばね、薄板ばね、重ね板ばね、U字型ばねなど、要求される形状、寸法などを考慮して選択すればよい。スプリングコイル以外には、ワイヤとU字状ばねによるものも適用できる。
【0297】
ディスク型ナットは様々な形状が適用できる。
図84はディスク型ナットの別形態であるリング形状ナットを示し、
図84(a)は上面図、
図84(b)は正面断面図である。
図85は十次形状ナットを示し、
図85(a)は上面図、
図85(b)は正面断面図である。
【0298】
本発明の擬似剛体化ユニットで設定される上限値隙間δV
2と下限値隙間δV
1の性能面とコスト面の両方から、上記隙間の適正値について考察する。
【0299】
[1-3]節において、保護対象機器に加わる衝撃荷重を求める理論解析をおこなった。
剛体支持の場合の圧縮荷重をF
0、変位規制付きスプリング支持の場合の最大圧縮荷重をF
max、変位規制無しのスプリング支持の場合の最大圧縮荷重をF
maxsとして、衝撃荷重低減効果の評価指数ξを定義する。
【0300】
【数17】
たとえば、変位規制の片側隙間δVに対する最大圧縮荷重F
maxを求めた
図17のグラフにおいて、δV=0.5mmの場合、F
0=260N、F
max=400N、F
maxs=2800N(
図14)であり、式(23)からξ=5.5%である。表1に示すように、隙間δV(=δV
1=δV
2)を小さく設定する程、衝撃荷重低減効果ξは向上する。但し、擬似剛体化ユニットを構成する各部品には、高い加工精度が要求されて、コストは上昇する。たとえば、保護対象機器を搭載した状態で、下限値隙間δV
1だけではなく、上限値隙間δV
2も調節できる実施形態1の擬似剛体化ユニット(
図2)を対象におく。狭い隙間δVを維持するためには、スプリングコイル14の下端部に対する上端面の平行度、垂直度に高精度が要求される。ねじ部24、26には、狭ピッチの細目ねじ加工が必要である。また、スプリングコイル14を装着した状態で、下部ハウジング12と上部ベース11の軸芯が一致した状態を保つための両部材に形成する位置決め部15、16には、高精度が必要である。検討結果を要約すると表1のようになる。
【0301】
【表1】
擬似剛体化ユニットは様々な用途に数多く使用されるため、その量産性とコストを考慮したとき、δV
1及びδV
2を2.5mm以下に設定できるようにユニットを構成する部品を製作すれば、地震対策として充分な性能が得られた。さらに、δV
1及びδV
2を1.5mm以下に設定すればベストな性能が得られた。
【0302】
前述した実施形態のほとんどは、保護対象機器と擬似剛体化ユニットをボルトなどで締結した場合を示した。保護対象機器の縦横の幅が充分に長く、転倒に対する裕度が充分に大きい場合は、
図86に示すように、ボード970に固定された擬似剛体化ユニット971a〜971dの上部に保護対象機器972を固定しないで乗せるだけでもよい。あるいは
図87に示すように、ボードを省略して、擬似剛体化ユニット975a〜975dを保護対象機器976に締結するだけの構成でもよい。
【0303】
たとえば、975a〜975dに適用される擬似剛体化ユニットとしては、第1実施形態で示した保護対象機器を搭載状態で上限値・下限値隙間が設定できる構造(
図2)、第6実施形態で示した保護対象機器を搭載状態で上限値隙間の設定はできないが、シンプルな構成で薄型化が図れる構造(
図27)、第10実施形態で示した上限値・下限値隙間の調整はできないものの保護対象機器の重量が予め決まっている場合に適用できる構造(
図48)、第11実施形態で示したスプリングコイル内部に上限値・下限値隙間を設定するねじ部とナットを内蔵させて、かつ防塵皮膜を施した構造(
図49)、などのユニットが適用できる。
【0304】
本発明のたとえば第6実施形態では、下部部材(下部ハウジング)側に下限値調整ねじを形成して下限値調整ナットを螺合させ、上部部材(上部ベース)の中央部に形成した筒部外周側に上限値調整ねじを形成し、上限値調整ナットを螺合させた構造にしている。第6実施形態に限らず、他の各実施形態も同様であるが、ユニットを上下逆配置した構造にしても、擬似剛体化ユニットの基本的な機能に支障はない。この場合は、上部部材を床面側に設置して、下部部材上に保護対象機器が搭載されることになる。
【0305】
[2-3]節における静的転倒基準を求める理論解析において、回転モーメントを求める式(15)、式(16)では、スプリングコイルの反力は無視している。その理由は次のようである。通常、防振・除振装置において重力方向(垂直方向)の共振周波数は4〜6Hz、オーディオ用スピーカーの場合は8〜12Hzの範囲に設定される。ロッキング振動の回転方向の共振周波数はその数分の1の大きさとなる。たとえば、[1-3]節における衝撃荷重の解析条件では、垂直方向の共振周波数f
0H=10Hzに対して、回転方向の共振周波数f
0R=1.3Hzであった。ばね剛性の大きさは共振周波数の2乗に比例する。防振・除振装置において、スプリング支持された保護対象機器の回転方向のばね剛性は小さく、「暖簾に腕押し」の感覚で容易に傾斜する。そのため、静的転倒基準を求める際に、スプリングコイルの反力は考慮しなくてもよい。
【0306】
擬似剛体化ユニットに装着されるスプリングコイル(弾性支持部材)は1個ではなく、たとえば、円周上に複数個配置した構成でもよい。この場合、前記円の中心線上に、すなわち、前記複数個のスプリングコイルの「ばね重心」の軸芯上に、前記位置規制部を設ければよい。
【0307】
ボードを床面にアンカーボルト施工する代わりに、たとえば、粘着性のあるゲル材などでボードを床面に耐震固定してもよい。このゲル材は商品として市販されており、床、保護対象を傷つけないで、簡易に接着固定できる。
本発明の各実施形態では、平板形状のボードを適用したが、適用対象と設置環境の要求に合せて、ボードの形状・重量は任意に選択できる。
【0308】
本発明の各実施形態では、平板形状のボードを適用した場合を示したが、適用対象と設置環境の要求に合せて、ボードの形状・構造・材質は任意に選択できる。たとえば、第14実施形態で示した様に、上面図が「口の字型」の下枠の下部に、面積が前記下枠よりも大きなボードを固定して、この下枠に擬似剛体化ユニット、あるいは、変位規制部を挟み込む構造でもよい。
【0309】
第6実施形態で示した薄型ユニットを適用する場合、下限値設定が保護対象機器を搭載状態で容易であっても上限値設定に手間を要する場合は、対象機器によっては上限値設定の手順を省略してもよい。数tonクラスの大荷重支持が必要な場合もある産業用機器と比べて、たとえば、実施例で説明したオーディオ・スピーカーの場合、その重量は120Kg程度が上限である。比較的軽量スピーカーの場合は、上限値隙間に調整不要な大きさの余裕(たとえば、δV
2=4〜6mm)を持たせて、下限値だけを狭い隙間(たとえば、δV
1=1〜2mm)に設定してもよい。但し、転倒裕度の低下はボード幅で補えばよい。