特許第6654940号(P6654940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6654940
(24)【登録日】2020年2月4日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】神経刺激電極
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/05 20060101AFI20200217BHJP
【FI】
   A61N1/05
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-52715(P2016-52715)
(22)【出願日】2016年3月16日
(65)【公開番号】特開2017-164309(P2017-164309A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】519093207
【氏名又は名称】アドリアカイム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】新井 豪
【審査官】 白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−188483(JP,A)
【文献】 特表2013−526346(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0255364(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/00−1/44
A61M 25/00−29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺激電極と、
弾性変形可能な付勢部材を用いて構成され、前記刺激電極を血管内に保持する留置部と、
電気刺激を発生する刺激発生装置と前記留置部とを接続するリード部と、
を備え、
前記リード部は、
前記留置部と接続される第一硬性部と、
前記第一硬性部よりも柔軟に構成され、前記第一硬性部の基端部に接続された、血流により形状変化する柔軟部と、
前記柔軟部よりも硬質に構成され、前記柔軟部の基端部に接続された第二硬性部と、を有し、
前記柔軟部は、たるんだ状態になることで、神経刺激電極に作用する外力を吸収する、
血管内神経刺激電極。
【請求項2】
前記柔軟部の長さは前記第一硬性部の長さの2倍以下である、請求項1に記載の血管内神経刺激電極。
【請求項3】
前記柔軟部の長さは前記第一硬性部の長さ以下である、請求項2に記載の血管内神経刺激電極。
【請求項4】
前記第一硬性部と前記柔軟部の境界部、および前記柔軟部と前記第二硬性部との境界部の少なくとも一方が、X線透視下で認識可能に構成されている、請求項1に記載の血管内神経刺激電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経刺激電極、より詳しくは、血管内に留置されて神経刺激治療に使用される神経刺激電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、神経組織に電気刺激を与えることによる治療法の研究が行われてきた。その神経刺激用デバイスの一つとして、血管内に電極を備えるデバイスを挿入し、当該電極により血管に隣接する神経を血管壁越しに刺激することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このようなデバイスは、血管内での位置ずれのない固定が重要であり、ステントのような網状あるいはかご状の付勢部材を用いて血管内に留置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2010−516405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のデバイスは、通常二点で身体に固定される。一点は、付勢部材と血管壁との接触部位である。ここでは、拡張した付勢部材が血管壁に突っ張ることで固定が行われる。もう一点は、デバイスの基端部が血管から出る部位である。ここでは、デバイスの基端部が皮膚または皮下組織に縫合固定される。
【0005】
上述した二点における固定方法では、患者の体動などの動きが直接付勢部材に伝わることにより、付勢部材が血管内で移動して位置ずれを引き起こす可能性がある。
これに対し、付勢部材に接続されたリードを柔軟に構成することにより、体動等を吸収させることが考えられる。しかし、柔軟なリードが血流等によって付勢部材の内部に移動すると、付勢部材の部分において、線状の部材が複雑に走行することになり、血流の妨げになる可能性がある。
【0006】
上記事情を踏まえ、本発明は、留置後の電極の位置ずれを抑制しつつ、血流を妨げにくい神経刺激電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、刺激電極と、弾性変形可能な付勢部材を用いて構成され、前記刺激電極を前記生体内に保持する留置部と、電気刺激を発生する刺激発生装置と前記留置部とを接続するリード部とを備え、前記リード部は、前記留置部と接続される第一硬性部と、前記第一硬性部よりも柔軟に構成され、前記第一硬性部の基端部に接続された柔軟部と、前記柔軟部よりも硬質に構成され、前記柔軟部の基端部に接続された第二硬性部とを有する神経刺激電極である。
【0008】
前記柔軟部の長さは前記第一硬性部の長さの2倍以下であってもよい。
また、前記柔軟部の長さは前記第一硬性部の長さ以下であってもよい。
【0009】
前記第一硬性部と前記柔軟部の境界部、および前記柔軟部と前記第二硬性部との境界部の少なくとも一方が、X線透視下で認識可能に構成されてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の神経刺激電極によれば、留置後の電極の位置ずれを抑制しつつ、血流を妨げることも防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第一実施形態に係る神経刺激システムの全体構成を示す図である。
図2】同神経刺激システムの神経刺激電極を示す図である。
図3】同神経刺激電極の留置時の形状の一例を示す図である。
図4】同神経刺激電極の留置時の形状の一例を示す図である。
図5】本発明の第二実施形態に係る神経刺激電極を示す図である。
図6】X線透視下における同神経刺激電極のリード部を示す模式図である。
図7】本発明の変形例に係る神経刺激電極を示す図である。
図8】本発明の変形例に係る神経刺激電極を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第一実施形態について、図1から図4を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る神経刺激システム1の全体構成を示す図である。神経刺激システム1は、血管内に挿入されて神経を電気的に刺激して各種治療を行うものである。以下の各実施形態では、迷走神経を刺激することにより頻脈や慢性心不全の治療に用いられる例を示すが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば心臓ペーシング等にも適用可能である。
神経刺激システム1は、神経刺激信号を発生する刺激発生装置10と、刺激発生装置10に接続されて血管内に留置される神経刺激電極20と、神経刺激電極20が挿通された操作シース40および抜去シース50の2本のシースとを備えている。本実施形態の神経刺激電極20は、本発明の神経刺激電極である。
【0013】
図2は、神経刺激電極20を示す図である。神経刺激電極20は、患者等の血管内に留置されて、刺激発生装置10で発生された神経刺激信号を生体組織に印加し、神経への電気刺激を行う。
神経刺激電極20は、血管内に保持される留置部21と、留置部21と刺激発生装置10とを接続するリード部25とを備えている。
【0014】
留置部21は、屈曲する3本の付勢部材22と、付勢部材22の一つに取り付けられた一対の刺激電極23A、23Bとを備えている。
各付勢部材22は、図1および図2に示す初期形状から弾性変形可能であり、かつ留置される血管壁の変形に抗して一定の形状を保持可能な程度の剛性を有している。付勢部材22は、超弾性ワイヤや形状記憶合金等を用いて好適に形成することができる。付勢部材22は、例えばニッケルチタン等の生体適合性を有する材料で形成されるのが好ましい。付勢部材22の径方向における最大寸法は、例えば0.2〜0.5ミリメートル(mm)とすればよく、断面形状は円形、楕円形、四角形など特に制限はない。
【0015】
付勢部材22の表面には被膜を設けてもよい。被膜により付勢部材22の外周面を滑らかにして血栓発生を抑制する効果を得たり絶縁性を付与したりすることができる。被膜の材料としては、例えばポリウレタン樹脂やポリアミド樹脂、フッ素樹脂などを用いることができ。被膜厚は例えば50〜500マイクロメートル(μm)とすればよい。
【0016】
3本の付勢部材22で構成される留置部21の、略バスケット状の初期形状における径方向の寸法は、例えば一般的な上大静脈の径を上回る20〜40mm程度とすることができる。留置部21は、血管内に挿入されると血管壁により圧縮され、元の形状に戻ろうとする復元力が血管壁に対して押圧力として作用する。この押圧力及び押圧によって血管壁との間に生じる摩擦力により、留置部21は血管内の所望の位置で保持される。各付勢部材22は、神経刺激電極20の軸まわりに均等または略均等に(例えば3本の付勢部材の場合、回転角として120度ごとに)配置すると、後述する留置操作を行いやすいが、例えば留置部位の生体組織の構造によりフィットさせる等の目的で均等でない配置とすることも可能である。
【0017】
刺激電極23Aおよび23Bは、刺激発生装置10から出力された電気パルス(神経刺激信号)を神経に印加する。刺激電極は二対以上設けられてもよく、それぞれ別の付勢部材上に配置されてもよい。刺激電極と付勢部材との間には絶縁被膜が存在し、電気的に絶縁されている。前述のように付勢部材に被膜が設けられている場合は刺激電極上の被膜は除去され、電極が血管内に露出される。刺激電極は、付勢部材の周方向にわたって設けられてもよいし、被覆を一部残す等により血管壁に接触する側のみを露出する等して方向性を持たせてもよい。
【0018】
刺激電極23A、23Bの材質としては、生体適合性に優れる白金や白金イリジウム合金などの貴金属材料が好ましい。刺激電極の露出面積は例えば1〜5平方ミリメートル(mm)程度とすることができる。一対の刺激電極は、例えば3〜20mm程度の間隔をあけて配置される。刺激電極には、それぞれ導体からなる図示しない配線が電気的に接続されている。配線の材質としては、耐屈曲性を有するニッケルコバルトクロム合金(35NLT25%Ag材、35NLT28%Ag材または35NLT41%Ag材など)からなる撚り線を、電気的絶縁材(例えば厚さ20μmのETFEやPTFEなど)で被覆したものを好適に用いることができる。配線は、リード部25内を通り、リード部基端のコネクタ29まで達している。
【0019】
リード部25は、生体適合性を有する材料(例えばポリウレタン樹脂やポリアミド樹脂)などを用いた絶縁性のチューブと、チューブ内を延びる上述の配線とを有する。リード部25の遠位端部は留置部21と接続されている。リード部25の近位端部には、刺激発生装置10と接続するためのコネクタ29が取り付けられている。コネクタ29としては、例えば公知のIS−1コネクタやその他の防水型コネクタなどを用いることができるが、コネクタ29は必須の構成ではなく、リード部25と刺激発生装置10とが直接接続されてもよい。また、リード部25のチューブ内には、リード部25の引っ張り強度を高めるために金属ワイヤ等の補強部材を挿通配置してもよい。このようにすると、リード部に引張り力が作用した際に、補強部材が当該引張り力を受けることで、配線の断線等を防止することができる。リード部25の寸法は、例えば外径0.8〜2mm程度、長さ500〜1000mm程度とすることができる。また、付勢部材と同様に、表面に任意の被膜を設けることで、抗血栓性や摺動性を付与したり向上させたりしてもよい。
【0020】
リード部25は、留置部21と接続される遠位端25aから一定の長さの範囲が、第一硬性部26とされ、第一硬性部26の基端26aから一定の長さの範囲が、第一硬性部26よりも柔軟な柔軟部27とされている。柔軟部27の基端からリード部25の近位端25bまでの領域は、柔軟部27よりも硬質な第二硬性部28とされている。
【0021】
第一硬性部26および第二硬性部28は、リード部の軸線方向に加えた力を長手方向に伝達することができる程度の剛性を有する。本実施形態において、第一硬性部26と第二硬性部28とは、同一の剛性であってもよいし、異なる剛性であってもよい。
柔軟部27は、リード部の軸線方向に加えた力を長手方向に伝達しない程度の剛性を有して外力で容易に撓む程度の柔軟性を有する。
【0022】
上記構成により、リード部25は、遠位端25a側から順に、第一硬性部26、柔軟部27、および第二硬性部28が順に接続された構成を有している。したがって、第一硬性部26と柔軟部27との境界部、および柔軟部27と第二硬性部28との境界部の2点で剛性が変化している。
【0023】
リード部25において、剛性が異なる複数の領域を構成するための具体的方法には特に制限はない。例えば、より剛性の高い第一硬性部26および第二硬性部28のみに上述の補強部材を配置する、第一硬性部26および第二硬性部28に柔軟部27よりも多く補強部材を配置する。第一硬性部26および第二硬性部28において、絶縁性チューブの肉厚をより大きくする、などが挙げられる。これらの方法を適宜組み合わせて領域ごとの剛性を異ならせてもよい。
【0024】
柔軟部27の長さは適宜設定できるが、体動などにより発生する外力を吸収する(後述)観点からは、50mm以上であることが好ましい。柔軟部27の長さは、第一硬性部26の長さL2の2倍以下に設定されている。
【0025】
操作シース40は、神経刺激電極20の留置操作時に使用するものであり、神経刺激電極20と係合することにより、神経刺激電極20の進退及び回転操作を行うことができる。操作シース40は、筒状の本体41と、本体41の基端部に設けられたハブ42とを備えている。本体41は留置操作時に血管内に挿入されるため、生体適合性に優れた上述の樹脂等で形成される。ハブ42は生体内に挿入されないため、かならずしも生体適合性に優れた樹脂で形成される必要はなく、本体と異なる樹脂で形成されてもよい。
【0026】
留置操作の詳細については後述するが、本体41には留置操作時に長手方向への進退操作および軸線まわりの回転操作が加えられるため、これらの操作を長手方向に伝達可能な程度の剛性(例えばショア硬度で55D〜70D程度)を有するように構成される。このような硬度を実現するために、必要に応じてステンレスやタングステン等で形成した網状の金属ブレードを樹脂と組み合わせて本体41を構成してもよい。また、付勢部材等と同様に、表面に被膜を設けて抗血栓性や摺動性を向上させてもよい。
【0027】
本体41の寸法は適宜設定されてよい。例えば、外径2.0〜2.9mm程度、内径1.0〜2.5程度、長さ300〜400mm程度とすることができる。
【0028】
本体41の遠位端部における開口は、例えば円形の周縁の4か所が径方向外側に張り出した非円形の形状となっている。神経刺激電極20における、留置部21とリード部25との接続部位29(図2も参照)は、この非円形に対応した断面形状を有しており、接続部位29が本体41の遠位端部開口に進入すると、神経刺激電極20と操作シース40とが、軸線まわりに相対移動できないように係合する。非円形の開口を有する本体の遠位端部は、一体成型により本体の他の部分と同時に形成してもよいし、別途形成したものを取りつけて本体を構成してもよい。また、遠位端部開口の非円形形状は、神経刺激電極20と操作シース40とが係合したときに軸線まわりの相対移動を十分規制できれば特に制限はない。
【0029】
ハブ42は、略円筒状の部材であり、軸線方向に延びて本体41の内部空間と連通する貫通孔と、貫通孔から分岐する側孔(いずれも不図示)とを有する。貫通孔には、図示しないOリング等のシール部材が配置されており、操作シースに挿通されたリード部25の周囲を水密に封止して血液等の漏れを防止する。側孔には、チューブ46が接続されており、チューブ46からヘパリン加生理食塩水等の薬液を操作シース40内に供給することができる。なお、チューブ46は必須ではなく、市販の投薬用チューブ等が接続可能なコネクタ等を側孔に直接設けてもよい。
【0030】
本体41およびハブ42は、手で軸線方向に裂くことにより、神経刺激電極20から取り外せるように構成されるのが好ましい。このような構成としては、公知のピールオフイントロデューサーと同様の構成を例示することができる。例えば、操作シースを構成する樹脂の配向を所定の状態として引き裂き容易としたり、引き裂きのきっかけとなる溝等を操作シースの軸線方向にわたり外周面に形成したりすればよい。
【0031】
抜去シース50は、図1に示すように、操作シース40よりも近位端側に配置されている。抜去シース50の構成は、操作シースと概ね同様であり、筒状の本体51と、ハブ52とを備える。本体51およびハブ52は、それぞれ操作シース40の本体41およびハブ42と同様の材料で形成することができる。
後述するように、神経刺激電極20の抜去時に留置部21が抜去シース50内に収容される。抜去シース50は、神経刺激電極20の留置時に少なくとも一部が体外に出た状態で保持されるため、本体51の長さは100mm以下とされるのが好ましく、留置部21を完全に収容させる観点からは、50〜100mm程度がより好ましい。本体51の剛性は、留置部21の収容時に本体51が軸線方向に圧縮変形せず、留置部21を良好に収容できる程度(例えばショア硬度で55D〜70D程度)に設定される。
後述するように抜去シースは使用時頚部に穿刺されるが、穿刺部位付近での折れを防止するために、抜去シース本体の近位端を肉厚にし、折れに対する耐性を向上させてもよい。
【0032】
ハブ52は、ハブ42同様、貫通孔、側孔、シール部材(いずれも不図示)、およびチューブ56を備えている。さらに、ハブ52は、糸掛け穴を有する羽部57と、近位端部に設けられた締め込みノブ58とを備えている。
羽部57は、患者の皮膚に通した糸を糸掛け穴に通すことで抜去シース50の体表面への固定に用いる。面状の羽部57をテープ等で患者の皮膚に固定することで、神経刺激電極20による治療期間に抜去シース50が軸線まわりに回転することが防止される。
締め込みノブ58は、ハブ52にネジ嵌合されている。締め込みノブ58をハブ52に螺入すると、ハブ52内のシール部材が圧縮される。シール部材の圧縮の度合いを調節することで、貫通孔に挿通されたリード部25と抜去シース50との摺動抵抗を調節することができ、リード部25と抜去シース50とが相対移動可能な状態と相対移動不能な状態とを切り替えることができる。
【0033】
刺激発生装置10は、図示しない電気刺激供給部を有しており、定電流方式または定電圧方式による神経刺激信号を発生させることができる公知の構成を有する。例えば、定電流方式であって位相が切り替わるバイフェージック波形群を、所定の間隔をあけて発生させてもよい。波形の一例として、例えば周波数10〜20ヘルツ(Hz)、パルス幅50〜400ミリ秒(ms)で、プラスの最大電流0.25〜20ミリアンペア(mA)からマイナスの最大電流−0.25〜−20mAの間で電流が変化するものが挙げられる。刺激発生装置10は、このようなバイフェージック波形を1分間あたり所定の長さ(例えば3〜10秒間)印加する。集中的に印加したい場合には連続印加されてもよい。
刺激発生装置10は、コネクタ29を介して神経刺激電極20と接続される。両者は着脱可能に接続されてもよいし、着脱不能に接続されてもよい。神経に電気刺激が印加される際、対となる刺激電極の一方はプラス電極として作用し、他方はマイナス電極として作用する。
【0034】
上記の構成を備えた神経刺激システム1の使用時の動作について、上大静脈に留置する例を用いて説明する。
留置手技の準備として、神経刺激電極20が操作シース40および抜去シース50に挿通された状態にする。操作シース40を神経刺激電極20の遠位端部側に移動(以下、「前進」と称する。)させて本体41の遠位側端部開口と接続部位29とを係合させる。操作シース40と抜去シース50には、それぞれチューブ46およびチューブ56から内部にヘパリン加生理食塩水等を満たして、シース内の空気を抜いておく。
【0035】
術者は、患者の頚部に小切開を加えて内頚静脈に開口を形成し、公知のイントロデューサーを内頚静脈内に挿入する。このとき、イントロデューサーの先端部が上大静脈に到達するようにイントロデューサーを設置すると、神経刺激電極20を留置する際に静脈内の弁等を回避できるため、留置が簡便になり、好ましい。
【0036】
次に術者は、留置部21および操作シース40の先端側をイントロデューサー内に挿入する。
【0037】
続いて術者が、操作シース40の基端側を把持して、イントロデューサーに対して前進させると、留置部21がイントロデューサーの遠位端部から突出して押し出される。このとき、留置部21を動かさずにイントロデューサーを後退させることで、相対的に留置部21および操作シース40をイントロデューサーに対して前進させてもよい。留置部21をイントロデューサーから突出させた後は、後の手技の妨げにならないよう、イントロデューサーを50mm〜100mm程度後退させる。
刺激発生装置10が神経刺激電極20に対し着脱可能な構成である場合には、ここで神経刺激電極20と刺激発生装置10とを接続する。
イントロデューサー外に移動した留置部21は、付勢部材22の復元力により、血管内で初期形状に復帰しあるいは復帰しようとし、血管の内壁(血管壁)に接触して、刺激電極23A、23Bが血管壁に接触した状態で血管内に保持される。留置部21の突出時にイントロデューサーの先端部が神経刺激電極の目標留置位置から離れている等の場合は、必要に応じてX線透視下で神経刺激電極20を進退させて血管の走行方向における留置部21の大まかな位置調節を行う。神経刺激電極20の前進は上述のように操作シース40を用いて行い、後退はリード部25のみを把持、またはリード部25と操作シース40とを一緒に把持して行う。
留置部21の形状が安定した状態においては、各付勢部材22が上大静脈の内壁に押し当てられ、付勢部材22上の刺激電極23A、23Bも上大静脈の内壁に接触するように配置される。
【0038】
血管の走行方向における留置部21の位置決めが終わったら、次に血管の軸線まわりにおける留置部21の位置調節を行う。これは、上大静脈の周方向において刺激対象の迷走神経が位置する位相と、留置部において刺激電極23A、23Bが位置する位相とを合わせることにより、電気刺激の効果を最適化するとともに、電気刺激による生体の好ましくない反応(咳など)をできるだけ抑えることが目的である。
位置調節は、刺激発生装置10から電気刺激を刺激電極23A、23Bに印加し、別途患者に取り付けた心電計等により患者の心拍数をモニターしながら行う。迷走神経に電気刺激を加えると、心拍数は低下し、低下の度合いは刺激電極23A、23Bが迷走神経に近づくほど大きくなる。術者は、患者の心拍数の変化を見ながら、操作シース40を軸線まわりに回転させて留置部21を回転操作し、留置部21の最適な位置を決定する。この過程においては、必要に応じて留置部21の血管走行方向における位置を再度調節してもよい。
【0039】
留置部21の位置決めが完了したら、術者はリード部25を把持した状態で操作シース40を神経刺激電極20に対して後退させ、接続部位29と操作シース40との係合を解除する。術者はX線透視下でさらに操作シース40を後退させ、操作シース40の遠位端部を留置部21から100mm程度離れた位置まで移動させる。このとき、リード部を前進させる操作を適宜織り交ぜると、留置部21の位置変化を防ぐことができる。
【0040】
続いて、術者は、リード部25近位側の第二硬性部28を把持して前進させる。この操作により、第二硬性部28は前進するが、柔軟部27は柔軟であるため前進操作は伝わらず前進しない。第一硬性部26の基端と第二硬性部28の先端との距離が柔軟部27の長さよりも短くなると、柔軟部27は図3に示すように、血管内で非直線状にたるんだ状態となる。術者は、X線透視下でリード部25を観察し、柔軟部27がたるんだ状態になったことを確認したところでリード部25と血管との位置関係を決定する。柔軟部27は、たるんでさえいれば留置後に神経刺激電極20に作用する外力を吸収できるため、たるんだ状態の形状には特に制限はない。したがって柔軟部27は、図3に示すようなループを形成するような形状であってもよいし、蛇行状等の他の形状であってもよい。
【0041】
ここまでの手順で、神経刺激電極20の各部の留置位置決めが完了する。術者は、操作シース40を神経刺激電極20から取り外す。上述のように操作シース40が手で引き裂き可能な構成であれば、手で引き裂いて除去し、そうでない場合は、ハサミなどで長手方向に切り裂いて除去すればよい。その後イントロデューサーを除去する。
【0042】
操作シース40の除去後、術者は締め込みノブ58のハブ52に対する螺入量を調節して抜去シース50とリード部25とを相対移動可能にし、抜去シース50を前進させて遠位側端部から血管内に挿入する。このとき、神経刺激電極20が移動しないように注意する。抜去シースの挿入は、イントロデューサーの除去と同時に行ってもよい。この場合、イントロデューサーの内腔を利用して抜去シースを挿入することができる。
ハブ52が患者の皮膚の近くまで移動したら、締め込みノブ58を締め込んで、抜去シース50とリード部25とを相対移動しないように固定する。その後、術者は羽部57を患者の皮膚に固定する。固定には、糸と糸掛け穴57aや糸掛け溝52aとを用いてもよいし、糸以外の手段、例えば粘着テープなどで固定してもよい。
以上で神経刺激電極20の留置が完了する。必要に応じて抜去シース50のハブ52経由でヘパリン加生理食塩水などの薬液投与が行われてもよい。刺激発生装置10は所望の位置、例えば患者の体表等に位置決めする。
【0043】
留置完了後は、刺激対象の神経に対して所定の期間電気刺激治療を行う。治療期間は適宜設定されるが、上大静脈から迷走神経を刺激する場合は、例えば三日から一週間程度の短期間が一般的である。治療中、患者の体動等により神経刺激電極20に力が作用しても、力の大部分はたるんだ柔軟部27が変形することにより吸収され、留置部21には作用しない。その結果、留置部21および刺激電極23A、23Bの位置ずれは著しく抑制される。
【0044】
留置中、たるんでいる柔軟部27はある程度形状変化できるため、図4に示すように、一部が血流に流されて留置部21に接近することがあるが、柔軟部27の長さが第一硬性部26の長さの2倍以下であるため、第二硬性部28の先端が第一硬性部26の基端よりも付勢部21から遠い限り、流された柔軟部27の一部が留置部21内に進入することは構造的に起こりえない。なぜなら、柔軟部27の先端および基端が、それぞれ第一硬性部26の基端および第二硬性部28の先端に固定されているため、柔軟部27の一部が留置部21内に進入するためには、少なくとも柔軟部27の長さが第一硬性部27の長さの2倍以上必要となるからである。
【0045】
治療期間が終了したら、刺激発生装置10を停止して神経刺激電極20を抜去する。
まず術者は、抜去シース50のハブ52と皮膚との固定を解除する。次に、締め込みノブ58を緩め、抜去シース50とリード部25とを相対移動可能にする。術者は抜去シース50が血管から抜けないように保持しつつ、リード部25を把持して神経刺激電極20を引く。この操作により、留置部21は、血管内を移動して抜去シース50に接近し、本体51の遠位側端部開口から抜去シース50内に収容され、径方向の寸法が減少する。術者は、留置部21が抜去シース50内に収容された状態で抜去シース50および神経刺激電極20を血管から引き抜く。このような手順で抜去することで、留置部21が拡張したまま血管内を移動する量を少なくし、神経刺激電極20を血管内に導入する際に形成した開口に対して、広げるような負荷を与えることもない。その結果、血管に与える負荷を低減することができる。抜去シース50および神経刺激電極20の抜去後、術者は導入部位の皮膚に対し、縫合や圧迫などの必要な処置を行って治療を終了する。以上が本実施形態に係る神経刺激電極の留置から抜去までの流れである。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の神経刺激電極20によれば、リード部25が、遠位端側から順に、第一硬性部26、柔軟部27、および第二硬性部28を有するように構成されている。このため、第一硬性部26と第二硬性部28とを所定の位置関係に保持して留置すれば、柔軟部27は、患者の胎動等を好適に吸収して留置部21のずれ等を抑制しながらも、血流等による形状変化で留置部21内に進入することがない。
したがって、留置後の電極の位置ずれ抑制と、血流を妨げることの抑制とを好適に両立させることができる。
【0047】
次に、本発明の第二実施形態について、図5および図6を参照して説明する。本実施形態と第一実施形態との異なるところは、硬性部と柔軟部との境界に指標部を備える点である。なお、以降の説明において、すでに説明したものと共通する構成等については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0048】
図5は、本実施形態における神経刺激電極70を示す図である。第一硬性部26と柔軟部27との境界部である第一硬性部26の基端部には、第一マーカー71が設けられている。柔軟部27と第二硬性部28との境界部である第二硬性部26の先端部には、第二マーカー72が設けられている。
【0049】
第一マーカー71および第二マーカー72は、X線を透過しないように構成されている。したがって、第一マーカー71および第二マーカー72は、X線透視下で術者によって認識可能である。第一マーカー71および第二マーカー72は、公知のX線不透過材料等を用いて形成し、リード部25に接着する等により形成できる。或いは、上述の補強部材に金属製のワッシャ状部材を固定したり、二色成型等により絶縁性チューブの一部をX線不透過性材料で形成したりしてマーカーが形成されてもよい。
【0050】
図6は、X線透視下における神経刺激電極70のリード部25の模式図である。通常は、リード部25のうち、樹脂製の絶縁被覆は殆ど視認できず、リード部25内に配置された配線75のみが視認できる。このようなX線透視像では、湾曲している部分が柔軟部27であることは把握できるが、柔軟部27と、第一硬性部26および第二硬性部28との境界部の正確な位置を特定することは容易ではない。
【0051】
しかし、本実施形態の神経刺激電極70は、第一マーカー71および第二マーカー72を備えるため、術者はX線透視下で、図6に示すように、柔軟部27と第一硬性部26の境界部、および柔軟部27と第二硬性部28の境界部の正確な位置を、第一マーカー71および第二マーカー72により容易に認識することができる。したがって、第一実施形態で説明した、柔軟部27を留置部21内に進入させないために第一硬性部26と第二硬性部28とが所定の位置関係となっているか否かを容易に把握して、好適に位置決めを行うことができる。
【0052】
本実施形態において、硬性部と柔軟部との境界部をX線透視下で認識可能に構成する態様は、上述したものには限られない。
例えば、第一硬性部の全長にわたり第一マーカーを設けてもよい。このようにすると、第一マーカーと第二マーカーとの識別が容易になり、第一硬性部と第二硬性部の位置関係の把握がさらに容易になる。また、柔軟部の絶縁被覆を全長にわたりX線透視下で視認可能に構成してもよい。この場合、柔軟部の両端部の位置をX線透視下で確認できるため、第一マーカーおよび第二マーカーを用いなくても、硬性部と柔軟部との境界部をX線透視下で認識可能である。このように、様々な態様で、硬性部と柔軟部との境界部をX線透視下で認識可能とすることができる。
また、2つある硬性部と柔軟部との境界の一方のみがX線透視下で認識可能に構成されてもよい。
【0053】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成要素の組み合わせを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
【0054】
例えば、第一硬性部と柔軟部との長さの関係は、上述した態様には限定されない。図7に示す変形例では、柔軟部27の長さL1が、第一硬性部26の長さL2以下に設定されている。この場合、第二硬性部28の先端が第一硬性部26の先端よりも留置部21に接近しない限り、柔軟部27が留置部21内に進入することはないが、柔軟部27が切れない限りそのような位置関係にはなりえないため、より確実に柔軟部27の進入を防止することができる。
また、柔軟部27が留置部21に進入し得なくなる第一硬性部と第二硬性部の所定の位置関係が存在しない場合でも、本発明の神経刺激電極は、第二硬性部の先端を適切に位置決めして留置することで、柔軟部27の進入を防止することができる。
【0055】
また、図8に示す変形例のように、第二硬性部の近位側に第二柔軟部81や第三硬性部82等が設けられてもよい。第一硬性部、柔軟部および第二硬性部さえ備えれば、留置部の位置ずれ防止と血流の妨げ抑制の両立は可能であるため、第二硬性部の近位側の構成は自由に設定することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 刺激発生装置
20、70 神経刺激電極
21 留置部
22 付勢部材
23A、23B 刺激電極
25 リード部
26 第一硬性部
27 柔軟部
28 第二硬性部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8