(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6654966
(24)【登録日】2020年2月4日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】高糖度果実を栽培するための灌水制御システム、およびこれに用いる灌水制御装置、灌水制御方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20200217BHJP
A01G 27/00 20060101ALI20200217BHJP
A01G 22/05 20180101ALI20200217BHJP
【FI】
A01G7/00 601Z
A01G27/00 504B
A01G22/05 Z
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-97900(P2016-97900)
(22)【出願日】2016年5月16日
(65)【公開番号】特開2017-205028(P2017-205028A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年3月18日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年11月17日〜18日、豊洲IHIビルで開催されたIHIフォーラム2015において発表 平成28年3月1日、IHI技報 第56巻 第1号 第22〜23頁において公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】000107653
【氏名又は名称】株式会社IHIスター
(73)【特許権者】
【識別番号】514253699
【氏名又は名称】株式会社北海道興農社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】村山 浩
(72)【発明者】
【氏名】永田 宏一郎
(72)【発明者】
【氏名】徳江 和典
(72)【発明者】
【氏名】大熊 孝一
(72)【発明者】
【氏名】川村 靖
(72)【発明者】
【氏名】中田 章子
(72)【発明者】
【氏名】河原林 主一
(72)【発明者】
【氏名】三木 大輔
【審査官】
門 良成
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−117219(JP,A)
【文献】
特開2012−100595(JP,A)
【文献】
特開2001−186824(JP,A)
【文献】
特開2014−39530(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2007−0010266(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 22/00
A01G 24/00
A01G 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培対象の果実のなる作物が栽植された土壌の水分量を計測する土壌センサと、
前記作物近傍の照度を計測する照度センサと、
1日の中で定められた第1時間帯内の複数の定時刻に、所定量の灌水を行う定時灌水制御部と、
前記第1時間帯の終了後の第2時間帯内に、前記第1時間帯内に計測された土壌の水分量の最大値と最小値との差分と、前記照度センサで計測された照度とに基づいて、灌水の要否を判断するための土壌水分量の閾値を算出し、前記土壌センサで計測された土壌水分量が、算出した閾値以下のときに、所定量の灌水を行う自動灌水制御部と
を備えることを特徴とする高糖度果実を栽培するための灌水制御システム。
【請求項2】
前記土壌センサで計測された土壌の水分量の計測値、前記照度センサで計測された照度の計測値、前記定時灌水制御部で実行される灌水の動作、または、前記自動灌水制御部で実行される灌水の動作に異常を検知すると、異常通知情報を出力するリモート監視装置をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の高糖度果実を栽培するための灌水制御システム。
【請求項3】
栽培対象の果実のなる作物が栽植された土壌の水分量を計測する土壌センサと、前記作物近傍の照度を計測する照度センサとに接続された灌水制御装置において、
1日の中で定められた第1時間帯内の複数の定時刻に、所定量の灌水を行う定時灌水制御部と、
前記第1時間帯の終了後の第2時間帯内に、前記第1時間帯内に計測された土壌の水分量の最大値と最小値との差分と、前記照度センサで計測された照度とに基づいて、灌水の要否を判断するための土壌水分量の閾値を算出し、前記土壌センサで計測された土壌水分量が、算出した閾値以下のときに、所定量の灌水を行う自動灌水制御部と
を備えることを特徴とする高糖度果実を栽培するための灌水制御装置。
【請求項4】
前記自動灌水制御部には、前記第1時間帯内に計測された土壌の水分量の最大値と最小値との差分に基づいて、前記照度センサで計測された照度に対応して前記閾値を算出するための算出式が、月別に設定される
ことを特徴とする請求項3に記載の高糖度果実を栽培するための灌水制御装置。
【請求項5】
前記定時灌水制御部により1日の中で行われる灌水の回数、および前記自動灌水制御部により1日の中で行われる灌水の回数の上限値が、月別に設定される
ことを特徴とする請求項3または4に記載の高糖度果実を栽培するための灌水制御装置。
【請求項6】
前記定時灌水制御部は、前日の灌水回数が所定値よりも少なく、且つ前記照度センサによる現在の照度の計測値が所定値よりも高いときには、当該日の前記第1時間帯内の灌水を所定回数追加する
ことを特徴とする請求項3〜5いずれか1項に記載の高糖度果実を栽培するための灌水制御装置。
【請求項7】
前記自動灌水制御部には複数の土壌センサが接続され、
前記土壌水分量の閾値を土壌センサごとに算出し、各土壌センサで計測された土壌水分量が、該当する閾値以下のときに、該当する土壌に対し灌水を行う
ことを特徴とする請求項3〜6いずれか1項に記載の高糖度果実を栽培するための灌水制御装置。
【請求項8】
栽培対象の果実のなる作物が栽植された土壌の水分量を計測する土壌センサと、前記作物近傍の照度を計測する照度センサとに接続された灌水制御装置が、
1日の中で定められた第1時間帯内の複数の定時刻に、所定量の灌水を行うステップと、
前記第1時間帯の終了後の第2時間帯に、前記第1時間帯内に計測された土壌の水分量の最大値と最小値との差分と、前記照度センサで計測された照度とに基づいて、灌水の要否を判断するための土壌水分量の閾値を算出するステップと、
前記土壌センサで計測された土壌水分量が、算出した閾値以下のときに、所定量の灌水を行うステップと
を有することを特徴とする高糖度果実を栽培するための灌水制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高糖度果実を栽培するための灌水制御システム、およびこれに用いる灌水制御装置、灌水制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果実の栽培に関しては周知のとおり、栽培過程において灌水量を制御することで、品質を向上させることができる。これに鑑み、作物への灌水量を自動調整する機能を有した灌水装置を用いることにより、適宜必要な量の灌水を作物に供給して、安定的に高品質の果実を栽培する灌水制御システムが広く利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4036638号公報
【特許文献2】特許第5559897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
果実の中でも特に、トマトに関しては、極力少ない灌水量で栽培することにより糖度が上がることが知られている。しかし、土壌の水分が少なすぎては枯れてしまうため、灌水量のコントロールが非常に難しく、灌水制御システムによる制御が困難であるという問題があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、効率良く、高い精度で高糖度果実を栽培するための灌水制御システム、およびこれに用いる灌水制御装置、灌水制御方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の高糖度果実を栽培するための灌水制御システムは、栽培対象の果実のなる作物が栽植された土壌の水分量を計測する土壌センサと、前記作物近傍の照度を計測する照度センサと、1日の中で定められた第1時間帯内の複数の定時刻に、所定量の灌水を行う定時灌水制御部と、前記第1時間帯の終了後の第2時間帯内に、前記第1時間帯内に計測された土壌の水分量の最大値と最小値との差分と、前記照度センサで計測された照度とに基づいて、灌水の要否を判断するための土壌水分量の閾値を算出し、前記土壌センサで計測された土壌水分量が、算出した閾値以下のときに、所定量の灌水を行う自動灌水制御部とを備えることを特徴とする。
【0007】
また本発明の高糖度果実を栽培するための灌水制御装置は、栽培対象の果実のなる作物が栽植された土壌の水分量を計測する土壌センサと、前記作物近傍の照度を計測する照度センサとに接続された灌水制御装置において、1日の中で定められた第1時間帯内の複数の定時刻に、所定量の灌水を行う定時灌水制御部と、前記第1時間帯の終了後の第2時間帯内に、前記第1時間帯内に計測された土壌の水分量の最大値と最小値との差分と、前記照度センサで計測された照度とに基づいて、灌水の要否を判断するための土壌水分量の閾値を算出し、前記土壌センサで計測された土壌水分量が、算出した閾値以下のときに、所定量の灌水を行う自動灌水制御部とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の高糖度果実を栽培するための灌水制御方法は、栽培対象の果実のなる作物が栽植された土壌の水分量を計測する土壌センサと、前記作物近傍の照度を計測する照度センサとに接続された灌水制御装置が、1日の中で定められた第1時間帯内の複数の定時刻に、所定量の灌水を行うステップと、前記第1時間帯の終了後の第2時間帯に、前記第1時間帯内に計測された土壌の水分量の最大値と最小値との差分と、前記照度センサで計測された照度とに基づいて、灌水の要否を判断するための土壌水分量の閾値を算出するステップと、前記土壌センサで計測された土壌水分量が、算出した閾値以下のときに、所定量の灌水を行うステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の灌水制御システム、およびこれに用いる灌水制御装置、灌水制御方法によれば、効率良く、高い精度で高糖度果実を栽培することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態による灌水制御システムの構成を示す全体図である。
【
図2】一実施形態による灌水制御システムに利用する灌水制御装置の構成示すブロック図である。
【
図3】一実施形態による灌水制御システムに利用する灌水制御装置の動作を示すフローチャートである。
【
図4】一実施形態による灌水制御システムに利用する灌水制御装置で計測された土壌水分量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態として、施設内において、灌水量を抑えて糖度8以上の高糖度トマトを栽培するために搭載する灌水制御システムについて説明する。
〈一実施形態による灌水制御システムの構成〉
本発明の一実施形態による灌水制御システムの構成について、
図1および2を参照して説明する。
【0012】
本実施形態による灌水制御システム1は、トマト苗T1、T2、およびT3が栽植された土壌にそれぞれ設置された土壌センサ10−1、10−2、10−3と、土壌センサ10−2に接続された第1中継器20−1と、土壌センサ10−2および10−3に接続されるとともに第1中継器20−1に接続された第2中継器20−2と、トマト苗T1、T2、およびT3の近傍に設置された照度センサ30と、第1中継器20−1および照度センサ30に接続された灌水制御装置40と、灌水制御装置40に接続された灌水装置50と、灌水制御装置40に無線接続されたリモート監視サーバ60とを備える。
【0013】
土壌センサ10−1、10−2、および10−3はそれぞれ、栽培対象のトマト苗T1、T2、およびT3が栽植された土壌の水分量を所定時間間隔(例えば数分〜数十分間隔)で計測する。
【0014】
第1中継器20−1は、土壌センサ10−1で計測された土壌の水分量の計測値を取得し、灌水制御装置40に送信する。第2中継器20−2は、土壌センサ10−2および10−3で計測された土壌の水分量の計測値を取得し、灌水制御装置40に送信する。
【0015】
照度センサ30は、栽植されたトマト苗T1、T2、およびT3の近傍の照度を所定時間間隔(例えば、数分〜数十分間隔)で計測する。
【0016】
灌水制御装置40は、
図2に示すように、計時部41と、計測値取得部42と、灌水制御部43と、パラメータ設定部44と、入出力部45と、監視情報送信部46とを有する。
【0017】
計時部41は、灌水制御装置40の内部時計であり、現在年月日および時刻を計時する。計測値取得部42は、第1中継器20−1から送信された土壌センサ10−1による土壌水分量の計測値、第2中継器20−2から送信された土壌センサ10−2および10−3による土壌水分量の計測値と、照度センサ30による照度計測値とを取得する。
【0018】
灌水制御部43は、強制灌水制御部431と、定時灌水制御部432と、自動灌水制御部433とを有する。強制灌水制御部431は、日の出時刻付近の予め設定された時刻、および日の入り時刻付近の予め設定された時刻に、灌水装置50から所定量の灌水を実行させる。定時灌水制御部432は、日の出時刻付近の強制灌水後の第1時間帯内であり、予め設定された複数の定時刻に、灌水装置50から所定量の灌水を実行させる。自動灌水制御部433は、第1時間帯の終了から日の入時刻付近の強制灌水前の第2時間帯内に、第1時間帯内に計測された土壌の水分量の最大値と最小値との差分と照度センサ30で計測された照度とに基づいて、灌水の要否を判断するための土壌水分量の閾値を算出する。そして、土壌センサ10−1〜10−3のいずれかで計測された土壌水分量が、算出した閾値以下のときに、該当する土壌に対し所定量の灌水を行う。
【0019】
パラメータ設定部44は、当該灌水制御システム1が設置された場所に関する月毎の平均日の出時刻および平均日の入り時刻と、月毎の平均日射角度と、強制灌水制御部431により強制灌水させるタイミングを設定するための情報(日の出からの経過時間および日の入りから遡る時間の情報)とを保持し、これらの保持した情報に基づいて、強制灌水制御部431により強制灌水させる時刻と、定時灌水制御部432により定時灌水させる回数および時刻と、強制灌水制御部431により強制灌水の要否を判断する際に利用する、照度ごとの土壌水分量の閾値を示す情報および自動灌水回数の上限値とを、灌水制御のパラメータとして灌水制御部43に月毎に設定する。
【0020】
入出力部45は、タッチパネル等で構成され、パラメータ設定部44に設定された情報を表示するとともに、監視員の操作に基づいて設定された情報の変更情報を入力する。
【0021】
監視情報送信部46は、計測値取得部42で取得された土壌水分量の計測値や照度計測値、または、灌水制御部43で実行される灌水の動作に異常を検知すると、無線通信にて外部のリモート監視サーバ60に異常通知情報を送信する。
【0022】
灌水装置50は、灌水制御装置40の制御により、管51からトマト苗T1、T2、およびT3への灌水を行う。リモート監視サーバ60は、灌水制御装置40から異常通知情報を受信すると、必要に応じて、接続されたメンテナンスシステムや顧客側の管理システムにアラーム通知の送信を行う。
【0023】
尚、当該灌水制御システム1は、作物の生育に適した内部の温度環境を適切に保つために、窓71の開閉や、遮光や保温のためのカーテン72の開閉、クーラー73、暖房器74、扇風機75、照明76等を制御する装置や、これらの制御に用いる温度・湿度・CO
2濃度を計測するセンサ77等を有している(
図1参照)。
〈一実施形態による灌水制御システムの動作〉
次に、本実施形態による灌水制御システム1の動作について説明する。本実施形態において灌水制御システム1の灌水制御装置40のパラメータ設定部44には、当該灌水制御システム1が設置された場所に関する月毎の平均日の出時刻および平均日の入り時刻と、月毎の平均日射角度と、強制灌水制御部431により強制灌水させるタイミングを設定するための情報(日の出からの経過時間、および日の入りから遡る時間の情報)とが予め保持されている。
【0024】
そして、保持された情報に基づいて、各月に関し、強制灌水制御部431により強制灌水させる時刻と、定時灌水制御部432により定時灌水させる回数および時刻と、自動灌水制御部433により自動灌水の要否を判断する際に利用する、照度ごとの土壌水分量の閾値の算出式および自動灌水回数の上限値とが、灌水制御のパラメータとしてパラメータ設定部44により灌水制御部43に設定される。
【0025】
具体的には、強制灌水制御部431により強制灌水させる時刻は、日の出時刻から予め設定された時間が経過した時刻、および、日の入り時刻から予め設定された時間分遡った時刻の2つが設定される。
【0026】
また、定時灌水制御部432により定時灌水させる回数および時刻は、該当月の平均日の出時刻および平均日の入り時刻に基づいて、適した値が設定される。例えば、冬は日の出時刻が遅く日の入り時刻が早く日照時間が短いため、定時灌水させる回数を減らすとともに日照時間に合わせた適切な灌水時刻が設定され、夏は日照時間が長いため定時灌水させる回数を増やすとともに日照時間に合わせた適切な灌水時刻が設定される。
【0027】
また、自動灌水制御部433により自動灌水の要否を判断する際に利用する、照度ごとの土壌水分量の閾値の算出式および自動灌水回数の上限値は、月毎の平均日射角度に基づいて、適した値が設定される。例えば、冬は日射角度が小さいため、土壌水分量の閾値は低い値の照度範囲ごとに設定されるとともに自動灌水回数の上限値は低く設定され、夏は日射角度が大きいため、土壌水分量の閾値は高い値の照度範囲ごとに設定されるとともに自動灌水回数の上限値は高く設定される。
【0028】
照度ごとの土壌水分量の閾値は、例えば下記式(1)〜(4)で算出するように設定される。
[数1]
20000 lux ≦ 照度計測値 のとき、
閾値=最小値+(最大値−最小値)×0.52 (1)
10000 lux ≦ 照度計測値 < 20000 luxのとき、
閾値=最小値+(最大値−最小値)×0.48 (2)
5000 lux ≦ 照度計測値 < 10000 luxのとき、
閾値=最小値+(最大値−最小値)×0.45 (3)
0 lux ≦ 照度計測値 < 5000 luxのとき、
閾値=最小値+(最大値−最小値)×0.42 (4)
上記式(1)〜(4)において、「最小値」とは、第1時間帯内における土壌水分量の最小値であり、「最大値」は第1時間帯内における土壌水分量の最大値である。また、この式(1)〜(4)内の、最大値と最小値との差分に掛け合わせられる割合を示す値(%)や、照度の範囲を示す値は、栽培環境に応じて管理者の入出力部45からの操作により適宜変更可能である。
【0029】
これらの情報が設定された状態で灌水制御システム1が稼働すると、土壌センサ10−1において、栽培対象のトマト苗T1が栽植された土壌の水分量が所定時間間隔(例えば数分〜数十分間隔)で計測され、計測値が第1中継器20−1を介して灌水制御装置40に順次送信される。また、土壌センサ10−2および10−2において、栽培対象のトマト苗T2およびT3が栽植された土壌の水分量が所定時間間隔で計測され、計測値が第2中継器20−2を介して灌水制御装置40に順次送信される。また、照度センサ30において、栽植されたトマト苗T1、T2、およびT3の近傍の照度が所定時間間隔(例えば、数分〜数十分間隔)で計測され、計測値が灌水制御装置40に順次送信される。
【0030】
灌水制御システム1の稼働中に、1日の中で灌水制御装置40により実行される処理について、
図3のフローチャートを参照して説明する。
【0031】
灌水制御装置40では、所定時間間隔で受信される土壌水分量の計測値および照度計測値が、灌水制御装置40の計測値取得部42で順次取得される(S1)。また、計時部41の計時により、日の出時刻付近で設定された強制灌水の時刻が到来したか否かが、灌水制御部43により判定される(S2)。
【0032】
強制灌水の時刻が到来したと判定されると(S2の「YES」)、強制灌水制御部431により、強制灌水のために予め設定された量の灌水指示が生成され、灌水装置50に送信される。灌水装置50では、受信した灌水指示に基づいて、トマト苗T1、T2、およびT3への強制灌水が実行される(S3)。
【0033】
次に、強制灌水後に設定された第1時間帯が到来すると(S4の「YES」)、定時灌水制御部432により、予め設定された複数の定時刻にそれぞれ、定時灌水のために設定された量の灌水指示が生成され、灌水装置50に送信される。灌水装置50では、灌水指示を受信する都度、トマト苗T1、T2、およびT3への灌水が実行される(S5)。
【0034】
次に、第1時間帯終了から日の入り時刻付近の強制灌水前に設定された第2時間帯が到来すると(S6の「YES」)、自動灌水制御部433により上述した式(1)〜(4)と、第1時間帯内の土壌水分量の最大値および最小値と、現在の照度計測値とに基づいて、土壌水分量の閾値が算出され、土壌センサ10−1〜10−3のいずれかで計測された土壌水分量が、算出された閾値以下であるか否かが判定される(S7)。
【0035】
例えば、
図4に示すように、第1時間帯の土壌水分量の最大値が15.5%であり、最小値が11.0%であり、現在の照度計測値が19000 luxであるときには、該当する式(2)に基づいて土壌水分量の閾値が、11.0+(15.5−11.0)×0.48=13.16%と算出される。そして、現在の土壌水分量が、算出された閾値13.16%以下であるか否かが判定される。
【0036】
ここで、現在の土壌水分量が算出された閾値以下であると判定された土壌があるとき(S7の「YES」)には、該当するトマト苗に対する所定量の灌水指示が生成され、灌水装置50に送信される。灌水装置50では、灌水指示を受信すると、該当するトマト苗への灌水が行われる(S8)。
【0037】
上述したステップS7、S8の処理による自動灌水は、第2時間帯が終了するまで所定時間間隔で繰り返される。その際、自動灌水の回数が、パラメータ設定部44により設定された自動灌水回数の上限値となったときには、自動灌水制御が停止される。
【0038】
第2時間帯が終了し、日の入り時刻付近に設定された強制灌水の時刻が到来すると(S9の「YES」)、強制灌水制御部431により、所定量の灌水指示が生成され、灌水装置50に送信される。灌水装置50では、受信した灌水指示に基づいて、トマト苗T1、T2、およびT3への強制灌水が実行される(S10)。
【0039】
以上の本実施形態によれば、月ごとの日照時間、計測時の照度、土壌水分量等に応じて、きめ細やかな灌水制御を行うことで、効率よく、高い精度で高糖度果実を栽培することができる。
【0040】
また上述した実施形態において、灌水制御部43による前日の灌水回数が所定値よりも少なく、且つ照度センサ30による現在の照度の計測値が所定値よりも高いときには、トマト苗が多く水分を吸収するため、当該日の定時灌水制御部432による第1時間帯内の灌水を所定回数追加するようにしてもよい。
【0041】
なお、上述した実施形態においては、灌水制御システムによりトマト苗への灌水を制御する場合について説明したが、対象とする作物はトマトに限定されず、灌水を制御することにより果実の糖度が増す作物であれば、当該システムを適用することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 灌水制御システム
10−1、10−2、10−3 土壌センサ
20−1 第1中継器
20−2 第2中継器
30 照度センサ
40 灌水制御装置
41 計時部
42 計測値取得部
43 灌水制御部
44 パラメータ設定部
45 入出力部
46 監視情報送信部
50 灌水装置
51 管
60 リモート監視サーバ
431 強制灌水制御部
432 定時灌水制御部
433 自動灌水制御部