【実施例】
【0067】
以下、本開示を実施例により具体的に説明するが、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【0068】
[実施例1]
抗ヒトIL-31RA抗体の調製
WO2010/064697にも記載されている抗ヒトIL-31RA抗体であるCIM331(H鎖、配列番号:9;L鎖、配列番号:10)を、前記特許文献の記載に従って、当業者公知の方法で作製した。WO2010/064697にも記載の通り、CIM331はヒトIL-31RA及びカニクイザルIL-31RAに対して中和活性を有する。
【0069】
[実施例2]
抗体のアミノ酸残基の改変
抗体の等電点(pI)が低下するように抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基が改変されている、抗体(以下、「pI低下抗体」ともいう)は、例えば、WO2009/041643に記載または示唆されるように、細胞内への抗体の取り込みが低下し得、あるいは、血漿中からの抗体の消失を遅延し得る。抗ヒトIL-31RA抗体であるCIM331は、WO2009/041643に記載のpIを増減可能なCDRのアミノ酸残基のうち複数の部位を置換して作製した(例えば、H鎖可変領域においてK62Q、K64Q、G65D;L鎖可変領域においてR24Q、N27aD、L54E(Kabatナンバリング))。
【0070】
pIを増減させる方法としては、抗体定常領域に対するアミノ酸残基の置換によっても可能であることが最近見出されている。そのような方法は、例えばWO2014/145159に記載されている。
【0071】
抗体定常領域に対するアミノ酸残基の置換によるpIへの影響を確認するために、抗ヒトIgE抗体を参考実施例1の方法により作製した。具体的には、重鎖としてAb1H(配列番号:12)、軽鎖としてAb1L(配列番号:13)からなる、通常型の抗体であるAb1を作製した。
かかる作製した抗体の理論等電点(pI)の算出を、GENETYX-SV/RC Ver9.1.0 (GENETYX CORPORATION)を用いて、当業者に公知の方法によって行った(Skoog, B. and Wichman, A. 1986. Calculation of the isoelectric points of polypeptides from the amino acid composition. trends in analytical chemistry, vol.5, No.4.,82-83)。なお、抗体分子内において、全てのシステインの側鎖はジスルフィド結合を形成しているものとし、システイン側鎖のpKaの寄与は除外して計算を実施した。Ab1の理論pIは6.77であった。
【0072】
作製されたAb1は、定常領域としてヒト天然型IgG1を有する抗体である。ここで、Ab1の重鎖であるAb1HのFc領域において、EUナンバリング238番目のプロリンをアスパラギン酸に、同じく298番目のセリンをアラニンに改変することで、Ab1H-P600を作成した。さらに、Ab1H-P600のFc領域で、電荷を有さないアミノ酸から、正電荷を有するアミノ酸への置換である、Q419K(EUナンバリング)の変異を導入することで、Fc改変体を参考実施例1の方法で作製した(Ab1H-P850)。軽鎖としてはAb1L(配列番号:13)を使用した。
【0073】
作製されたFc改変体(Ab1H-P850)を含む抗体に関して、Biacore T200(GE Healthcare)を用いて、可溶型ヒトFcγR2b(「ヒトFcγRIIb」または「hFcγR2b」ともいう)と抗原-抗体複合体との結合実験を行った。可溶型ヒトFcγR2bは、当業者に公知の方法でHisタグを付与した分子形として作製した。センサーチップCM5(GE Healthcare)上にHis capture kit(GE Healthcare)を用いてアミンカップリング法で抗His抗体を適当量固定化し、そこへヒトFcγR2bを捕捉させた。次に、抗体-抗原複合体とランニングバッファー(参照溶液として)をインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させたヒトFcγR2bと相互作用させた。ランニングバッファーには20 mM N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸、150 mM NaCl、1.2 mM CaCl
2、0.05% (w/v) Tween20、pH7.4を用い、可溶型ヒトFcγRIIbの希釈にも当該バッファーが使用された。センサーチップの再生には10 mMグリシン-HCl, pH1.5が用いられた。測定は全て25 ℃で実施された。測定で得られたセンサーグラムから算出されたbinding(RU)をもとに解析を行い、P600での結合量を1.00とした際の相対値で表した。パラメータの算出には Biacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
【0074】
その結果、Ab1H-P600とAb1H-P850とを比較すると、Biacoreのセンサーチップ上に固定されたhFcγR2bに対する結合性がAb1H-P850で増大していることが示された(Ab1H-P600での値を1.00とした場合に、Ab1H-P850での値は2.22となった)。なお、Ab1H-P850のhFcγR2bそれ自体に対する親和性はAb1H-P600のhFcγR2bそれ自体に対する親和性と同等(comparable)であることをBiacoreを用いて確認していた(データ示さず。)。
【0075】
特定の理論に拘束されるわけではないが、この結果を以下のように説明することも可能である。
Biacoreのセンサーチップは負電荷を帯びていることが知られており、その電荷的な状態は細胞膜表面にも類似していると考えることができる。つまり、負電荷を帯びたBiacoreのセンサーチップ上に固定されたhFcγR2bに対する、抗原-抗体複合体の結合性は、同じく負電荷を帯びた細胞膜表面に存在するhFcγR2bに対して、抗原-抗体複合体が結合する様式と類似していることが推察される。
ここで、Fc領域の419位に対してpIを上昇させる改変を導入した、Fc改変体(Ab1H-P850)を含む抗体は、改変を導入する前(Ab1H-P600を含む抗体)と比較して、Fc領域が有している電荷がより正電荷側に偏っている。そのため、Fc領域(正電荷)とセンサーチップ上(負電荷)のクーロン相互作用が、pIを上昇させるアミノ酸改変によって強まったと考えることが可能である。さらに、その効果は、同じく負電荷を有する細胞膜表面においても同様に起こることが期待されることから、生体内においても細胞内への取り込み速度を加速する効果を示すことが期待される。
逆に言うと、Fc領域の419位に対してpIを低下させるアミノ酸(例えば、アスパラギン酸もしくはグルタミン酸)を導入したFc改変体を利用することで、改変を導入する前と比較して、Fc領域が有している電荷がより負電荷側に偏り、Fc領域(負電荷)と細胞膜表面上(負電荷)のクーロン相互作用が、pIを低下させるアミノ酸改変によって弱まり、生体内においても細胞内への取り込み速度を遅延させ、抗体の血漿中半減期を増大させる効果を示すことが期待されよう。なお、Ab1は、定常領域としてヒト天然型IgG1を有する抗体であるところ、419位(EUナンバリング)は、ヒト天然型IgG1〜IgG4のいずれにおいてもアミノ酸残基はグルタミン(Q)であることから、IgGの種類に関わらず、当該結果は同様に観察され得ることが当業者には理解できよう。
CIM331のアミノ酸配列は、Gln(Q)419Glu(E)に置換されたアミノ酸変異を有する。
【0076】
CIM331の臨床試験に先立つ非臨床試験に関連して、特筆すべき重大な事実が見出された。すなわち、CIM331の、マウス、ラット、ウサギの各IL-31RAとの抗原-抗体相互作用を当業者公知の方法を用いてBiacore(Biacore T100 (GE Healthcare))で評価した。その結果、CIM331はマウス、ラット、ウサギのIL-31RAに交差反応性を示さないことが判明した(Sakurai T, Esaki K. Cross-reactivity of CH5427227 with NR10 (IL-31RA) from mice, rats and rabbits (Study No. TOX08-0198S). Chugai Pharmaceutical Co., Ltd. In-house report, 2010.)。
したがって、CIM331のヒトにおける投与量と投与間隔に関する後述する効果としては、当業者といえども、CIM331を実際にヒトに投与して確認するか、あるいは、交差反応性を示すヒトモデル(例えば、カニクイザル)に投与した上でその結果をヒトに対して外挿することで効果を予測しなければならなかった。
【0077】
[実施例3A]
カニクイザルにおけるIL-31誘発そう痒に対するCIM331皮下投与の抑制効果
カニクイザルにカニクイザルIL-31を静脈内投与して誘発されるそう痒に対するCIM331皮下投与の影響を検討した。そう痒に対する反応性の指標として、そう痒行動回数を測定した。そう痒行動回数は、ビデオカメラにて記録したサルの行動(2時間)を目視で観察し、前肢又は後肢で体の一部を引っ掻く動作をそう痒行動1回として計測した。ただし、1回及び2回で終了するそう痒行動は偶発的なものであると考え、そう痒行動の回数から除外した。
まずCIM331投与前に、カニクイザルIL-31非投与時の個体行動をビデオカメラで撮影した(2時間)。その後、ビデオ再生により観察し、上記の方法を用いてカニクイザルIL-31非投与時のそう痒行動回数を測定した。
カニクイザルにCIM331 0.2又は1 mg/kgを単回皮下投与し、以下のようにカニクイザルIL-31投与後のそう痒行動回数の測定を行い、CIM331皮下投与の影響を評価した。カニクイザルに0.2 mg/kgのCIM331を単回皮下投与し、CIM331皮下投与前及び皮下投与後3, 15, 28, 42, 56, 93日後に1 μg/kgのカニクイザルIL-31を静脈内投与した。カニクイザルIL-31投与後、ビデオカメラを用いて個体行動を撮影した(2時間)。同様に、カニクイザルに1 mg/kgのCIM331を単回皮下投与し、CIM331皮下投与前及び皮下投与後28, 42, 56, 77, 79, 81, 84, 93日後に1 μg/kgのカニクイザルIL-31を静脈内投与した。カニクイザルIL-31投与後、ビデオカメラを用いて個体行動を撮影した(2時間)。その後、ビデオ再生により観察し、前述の方法を用いて、カニクイザルIL-31投与後のそう痒行動回数を測定した。
【0078】
CIM331投与前にはカニクイザルIL-31投与により、カニクイザルIL-31投与前と比較して、そう痒行動回数が増加しており、そう痒が誘発されていることが確認された。また、カニクイザルにCIM331を単回皮下投与することにより、カニクイザルIL-31投与後のそう痒行動回数の減少が確認された。
カニクイザルに0.2 mg/kgのCIM331を単回皮下投与することにより、CIM331の投与前に比較し、CIM331投与3日後の評価においてカニクイザルIL-31投与後のそう痒行動回数の平均値の減少が認められ、42日後においてもカニクイザルIL-31投与後のそう痒行動回数の平均値の減少が認められた(
図6)。また1 mg/kgのCIM331単回皮下投与ではCIM331投与77日後においても、カニクイザルIL-31投与後のそう痒行動回数の平均値の減少が認められた(
図7)。
【0079】
ヒトへの投与量設定に当たり、CIM331の有効血漿中濃度を、カニクイザルにカニクイザルIL-31を投与することにより全身性のそう痒を誘発するin vivoカニクイザルIL-31誘発そう痒モデルを用いた試験成績より求めた。この試験では、同一のカニクイザル個体に対し、CIM331を静脈内投与し、その投与量を3 μg/kgから100 μg/kgまで段階的に増加(3, 10, 40, 60, 100 μg/kg)させることにより血漿中濃度を増加させた。各段階でのCIM331投与翌日に血漿中CIM331濃度を測定するために採血するとともに、1 μg/kgのカニクイザルIL-31を静脈内投与することにより誘発される投与後2時間のそう痒行動をビデオ撮影し、そのそう痒行動回数を計測した。そう痒行動回数は、ビデオカメラにて記録したサルの行動(2時間)を目視で観察し、前肢又は後肢で体の一部を引っ掻く動作をそう痒行動1回として計測した。ただし、1回及び2回で終了するそう痒行動は偶発的なものであると考え、そう痒行動の回数から除外した。CIM331を静脈内投与し、その投与量を段階的に増加させることにより、CIM331投与翌日の平均血漿中CIM331濃度は投与量に依存して段階的に増加した。CIM331は、このカニクイザルIL-31誘発性そう痒に対して、40 μg/kg投与後(投与翌日の平均血漿中濃度は670 ng/mL)以降で明らかな抑制効果を示した。この平均血漿中濃度670 ng/mLをヒトにおけるCIM331の有効血清中推定濃度とした。ヒトとカニクイザルにおける抗体の体内動態は類似していることが報告されている(Jennifer Q. Dong et al., Quantitative Prediction of Human Pharmacokinetics for Monoclonal Antibodies. Clin Pharmacokinet 2011;50(2):131-142; Jie Ling et al., Interspecies Scaling of Therapeutic Monoclonal Antibodies: Initial Look. J Clin Pharmacol 2009:49(12):1382-1402; Rong Deng et al., Projecting human pharmacokinetics of therapeutic antibodies from nonclinical data. mAbs 2011:3(1):61-66)。そのため、カニクイザルPK試験における血漿中CIM331濃度推移データの非線形解析によって得られたPKパラメータを、ヒトにおけるPKパラメータ予測値とした。非線形解析には、
図8に示すミカエリス・メンテン式を導入した非線形解析モデルを用いた。
【0080】
カニクイザルに0.04 mg/kg、0.2 mg/kg、1.0 mg/kgでCIM331を静脈内及び皮下投与後の血漿中CIM331濃度推移の各群の平均値を上記モデルに同時当てはめし、最適なパラメータを算出した。得られたパラメータを用い、CIM331をヒトに投与した場合の血清中濃度推移を予測した。ヒトに1 mg/kgで投与した場合、CIM331のヒトにおける有効血清中推定濃度である670 ng/mL以上の血清中濃度を56日間維持すると予測された(
図9)。CIM331が確実に1ヶ月間以上IL-31シグナルを阻害する効果を維持できると想定される1 mg/kgを、予想臨床至適用量とした。
【0081】
[実施例3B]
アトピー性皮膚炎患者を対象とした単回皮下投与
第I相単回投与試験の被験薬群において、以下の基準に合致するアトピー性皮膚炎患者36名に対して、体重あたりCIM331投与量0.3 mg/kg、1 mg/kg、3 mg/kgあるいはプラセボのいずれかを、1群あたり9名に対してそれぞれ、腹部に単回で皮下投与した。
CIM331を投与する対象患者としては、外用ステロイド剤による治療を12週以上継続して実施しているにも関わらず以下の基準を満たすアトピー性皮膚炎患者を選択した。
・Eczema Area Severity Indexが10以上、かつ強い炎症を伴う皮疹が体表面積の5%以上
・白取の重症度分類に基づいた日中及び夜間の痒みの程度の評価の合計が4以上
・そう痒VAS平均値≧50mm
なお、治験薬は、1 mL中に100 mgのCIM331抗体を含有する液1 mLを充填したもの、あるいは希釈により目的の投与濃度にしたものを用いた。プラセボは生理食塩水を用いた。
【0082】
(3−1)評価項目:そう痒
そう痒の強さの評価は、Visual Analog Scale (VAS)により行った。VASは100 mmの直線で、0 mmを痒みなし、100 mmを患者がアトピー性皮膚炎で過去に経験した最も強い痒みとした場合に、起床時及び就寝時におけるかゆみの強さを患者自身が0〜100 mmの間に線で示すものである。患者は試験期間中毎日記録を行った。
その結果、プラセボ群では20%程度の低下でVASが推移したのに対し、CIM331投与群ではいずれの用量群においても投与1週後からVASが低下し、投与4週後以降も50%程度の低下が維持された(
図1)。
【0083】
(3−2)評価項目:皮膚炎
Eczema Area Severity Index(EASI)スコアは、アトピー性皮膚炎の重症度及び範囲を測定するためのツールである。代表的な患部の湿疹の程度及び占める割合を、頭頸部、上肢、体幹及び下肢の4領域のそれぞれについて、発赤(紅斑)、厚さ(硬結、丘疹、浮腫)、ひっかき傷(掻破痕)及び苔癬化の程度を、なし(0)、軽度(1)、中等度(2)、高度(3)で評価した。治験期間中、1週間又は2週間に1回の頻度で医師が判定を行った。投与4週後時点のベースラインからのEASIスコアの平均変化量を、投与4週後におけるそう痒VASスコアの減少率別(すなわち、減少率が50%未満の群と、50%以上の群)に解析した。
その結果、そう痒VASスコアの減少率が50%以上の群では、EASIスコアの平均変化量は-11.5ポイントであり、50%未満の群又はプラセボ群と比較した場合に、EASIスコアの減少量が大きかった(
図2)。
【0084】
(3−3)評価項目:生活の質(QOL)
(3−3−1)睡眠
Actiwatch(登録商標)は、手首に装着し、全身の動きの指標となる手首の動きを自由行動下で捕捉し、記録及び保存するように設計された非侵襲型測定機器である。投与4週後(Week 4)まで被験者はこの機器を装着した。入眠から覚醒までの実際の時間、睡眠潜時、睡眠効率を含むその他のパラメータを客観的な方法で測定した。睡眠効率は以下の式で算出した。
【数1】
その結果、睡眠効率は、全群において、投与前は60%程度であったが、CIM331投与群ではいずれの用量群においても、投与1週後から睡眠効率の改善が認められ、投与4週後(Week4)には80%程度まで改善した(
図3)。
(3−3−2)DLQI
Dermatology Life Quality Indexは、皮膚科用のQOL評価ツールDLQI(Finlay et al. 1994)であり、10の質問で構成される。DLQIの質問は以下の6項目に分けられる:症状・感情、日常活動、余暇、労働・学校、人間関係、治療。全質問項目のスコアを合計してDLQIを求める。最大は30、最小は0である。スコアが高いほどQOLが低下している。
患者は2週毎あるいは4週毎に記録を行った。その結果、投与4週後における変化はプラセボ群では平均0.7ポイントの低下であったのに対し、CIM331群では平均5.4-6.3ポイントの低下が認められた。
【0085】
(3−4)評価項目:外用ステロイドの使用量
外用ステロイド(ロコイド(登録商標);ヒドロコルチゾン酪酸エステル)はいずれの患者でも併用した。また、外用ステロイドの使用量は、患者の状態により適宜増減可能とした。
その結果、ロコイドの使用量は、プラセボ投与群では増加傾向であったのに対して、CIM331投与群ではいずれの用量群においても投与1週後から減少傾向を示した(
図4)。
【0086】
(3−5)評価項目:CIM331の血清中の濃度推移と薬物動態パラメータ値
日本人アトピー性皮膚炎患者の血清中CIM331濃度の推移を
図5に、薬物動態パラメータ値を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
その結果、CIM331の投与4.46〜5.66日後(平均値、以下同様)に、CIM331は最高血清中濃度に達し、その後、血清中消失半減期(t
1/2)12.6〜14.6日で緩やかな消失を示した。0.3mg/kg群、1mg/kg群及び3mg/kg群のC
maxは、それぞれ、2.20、6.50及び19.4μg/mLであり、AUC
infは、それぞれ、49.2、161及び489日*μg/mLであった。また、CIM331単回皮下投与時のAUC
inf、AUC
last及びC
maxは、投与量に比例して増加した。血清中のCIM331濃度は、用量依存的に、ある一定以上の濃度を維持する期間の延長傾向が認められた。また、CIM331投与によるそう痒の抑制効果は、本試験では曝露との関連性が明瞭にはならなかった。
なお、表中、各用語はそれぞれ以下を意味する。
AUC
inf: 時間0から無限時間まで外挿したAUC
AUC
last: 時間0から血漿中濃度定量可能最終時点までのAUC
CL/F: みかけのクリアランス
C
max: 最高血中濃度
MRT: 平均滞留時間
t
1/2: 消失半減期 T
max: 最高血中濃度到達時間
【0089】
(3−6)探索的評価項目:有効性
これらの結果により、CIM331は、アトピー性皮膚炎患者のそう痒、皮膚炎、及びQOLを改善したことが見出された。本試験は、IL-31アンタゴニストがアトピー性皮膚炎によって生じるそう痒に対して有効であることを示した初の臨床試験成績報告である。これにより、CIM331が、Itch Scratch Cycleの遮断という新しい作用機序に基づき、アトピー性皮膚によって生じるそう痒のみならず、皮膚炎及びQOLの改善をももたらし得ることが期待できる。なお、そう痒を伴うそう破は、皮疹を悪化させる増悪因子であることが知られており、そう破により皮膚が機械的障害を受けてバリア機能が低下し、表皮を通過して侵入した外来抗原により炎症反応が増強され、皮膚炎の悪化及びそう痒の増悪をきたす。このようなそう破−皮膚炎悪化−そう痒悪化の悪循環は、Itch Scratch Cycleとして知られている(例えば、Wahlgren CF. J Dermatol 1999;26:770-9; Homey B, et al. J Allergy Clin Immunol 2006;118:178-89)。
【0090】
[実施例4]
アトピー性皮膚炎患者を対象とした反復皮下投与
(4−1)第II相反復投与試験
第II相反復投与試験の被験薬群において、外用治療に効果不十分もしくは忍容性のない、中等症及び重症のアトピー性皮膚炎患者約250名を対象に、以下の要領でCIM331又はプラセボのいずれかを腹部に皮下投与する。CIM331の体重あたりの投与量及び投与液濃度は以下の通りとし、体重あたり20μL/kgの液量でゆっくりと投与する。被験者の体重が120kgを超える場合には体重を120 kgとして治験薬を調製する。なお、治験薬は、1 mL中に100 mgのCIM331抗体を含有する液を1バイアルにつき1.53 mL充填し凍結乾燥させた製剤を、注射用水で溶解して投与液とし、別に溶解させたプラセボ溶液を使用してさらに希釈して目的の投与濃度にする。
【0091】
【表2】
【0092】
CIM331を投与する対象患者としては、外用ステロイド剤又は外用カルシニューリン阻害剤を、固定の用法で4週間以上継続して実施しても十分な効果が得られなかった、あるいは、標準的な外用治療に対して忍容性がない患者、または標準的な外用治療を実施することができない患者(禁忌等)で、以下の基準を満たすアトピー性皮膚炎患者を選択した。
・Eczema Area Severity Indexが10以上
・sIGAスコアが3以上
・そう痒VAS≧50mm
【0093】
本治験は2つのパートで構成される。Part Aは、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間比較試験である(Week 0〜Week 12)。Part Bは、二重盲検投与継続期間であり、更に52週間にわたり被験者へのCIM331投与が継続される(Week 12〜Week 64)。Part Aでの被験者約250名を1:1:1:1:1の比で4つの被験薬群(各群約50名)及びプラセボ群(約50名)のいずれかにランダムに割り付けた。
Part A
・CIM331(0.1 mg/kg)、4週間ごとに皮下投与(Day 1、Week 4及びWeek 8に投与)
・CIM331(0.5 mg/kg)、4週間ごとに皮下投与(Day 1、Week 4及びWeek 8に投与)
・CIM331(2.0 mg/kg)、4週間ごとに皮下投与(Day 1、Week 4及びWeek 8に投与)
・CIM331(2.0 mg/kg)、8週間ごとに皮下投与(Day 1及びWeek 8に投与、さらにWeek 4にプラセボを投与)
・プラセボを4週間ごとに皮下投与(Day 1、Week 4及びWeek 8に投与)
より具体的には、Part Aにおいて、治験薬あるいはプラセボの投与を1回以上受けた患者は264例で、プラセボ、0.1mg/kg、0.5mg/kg、2.0mg/kgの4週間ごとに皮下投与する群、及び2.0mg/kgを8週間ごとに皮下投与する群で、それぞれ53例、53例、54例、52例及び52例であった。
Part B
Part Aでプラセボ群に割り付けられた被験者は、Part BにおいてCIM331(0.1 mg/kg、0.5 mg/kg、2.0 mg/kg)を4週間ごとに皮下投与する群に再度ランダムに割り付けられる。
Part Aで被験薬群にランダムに割り付けられた被験者は、Part Aと同じ用量群に再度割り付けられ、Week 12以降も同じ治療を継続する。
・CIM331(0.1 mg/kg)、4週間ごとに皮下投与、計52週間
・CIM331(0.5 mg/kg)、4週間ごとに皮下投与、計52週間
・CIM331(2.0 mg/kg)、4週間ごとに皮下投与、計52週間
・CIM331(2.0 mg/kg)、8週間ごとに皮下投与、計52週間(この群の被験者にはCIM331とプラセボを4週毎に交互に投与する。)
【0094】
(4−2)救済治療
そう痒VAS又は皮膚症状の改善が認められない被験者に対し、初回投与4週以後は医師の判断で外用薬を救済治療として使用することを認める。「改善が認められない」の定義は、(1)ベースライン時からsIGAスコアに改善が認められない、
(2)sIGAスコアが3以上、
(3)ベースライン時からのそう痒VAS改善率が10%未満、直近のそう痒VAS が50 mm以上
のすべてを満たす場合とする。
【0095】
(4−3)評価項目:
・そう痒の強さの評価は、Visual Analog Scale (VAS)(Furue et al.2013)により行う。VASは100 mmの直線で、0 mmを痒みなし、100 mmを想像され得る最悪の痒みとした場合に、過去24時間におけるかゆみの強さを患者自身が0〜100 mmの間に線で示すものである。
・そう痒Verbal rating scale(VRS)は、かゆみなし(0)、軽いかゆみ(1)、中等度のかゆみ(2)、ひどいかゆみ(3)、又は、非常にひどいかゆみ(4)の5段階のVRS(Reich et al. 2012)で過去24時間中のそう痒の程度を被験者が評価する。
・Eczema Area Severity Index(EASI)スコアは、アトピー性皮膚炎の重症度及び範囲を測定するためのツールである。代表的な患部の湿疹の程度及び占める割合を、頭頸部、上肢、体幹及び下肢の4領域のそれぞれについて、発赤(紅斑)、厚さ(硬結、丘疹、浮腫)、ひっかき傷(掻破痕)及び苔癬化の程度を、なし(0)、軽度(1)、中等度(2)、高度(3)で評価する。
・SCORing Atopic dermatitis(SCORAD)は湿疹の範囲及び重症度を評価するための臨床ツールである(European Task Force on Atopic Dermatitis 1993)。
・static Investigator's Global Assessment (sIGA)は、clear からvery severe disease までの6段階(0 = clear, 1 = almost clear, 2 = mild disease, 3= moderate disease, 4 = severe disease, 5 = very severe disease)で、紅斑,浸潤,丘疹,滲出及び痂皮の臨床特性を用いて、評価時点の総合的な重症度を評価する。
・アトピー性皮膚炎病変部のBody surface area(BSA)は全身のうち病変部の占める割合を示す。
・睡眠障害VASは、「睡眠の問題なし」(0)から「全く眠ることができなかった」(10)までのVAS(Furue et al. 2013)で過去24時間中の睡眠障害の程度を被験者が評価する。
・Dermatology Life Quality Indexは、皮膚科用のQOL評価ツールDLQI(Finlay et al. 1994)であり、10の質問で構成される。DLQIの質問は以下の6項目に分けられる:
症状・感情、日常活動、余暇、労働・学校、人間関係、治療。全質問項目のスコアを合計してDLQIを求める。最大は30,最小は0である。スコアが高いほどQOLが低下している。
・アクティグラフィ
Actiwatchは、手首に装着し、全身の動きの指標となる手首の動きを自由行動下で捕捉し、記録及び保存するように設計された非侵襲型測定機器である。前観察期間開始時からWeek 4まで被験者はこの機器を装着する。入眠から覚醒までの実際の時間、睡眠潜時,睡眠効率を含むその他のパラメータを客観的な方法で測定する。
【0096】
(4−4)解析手段、解析方法等:
CIM331を4週間ごとに皮下投与する群において、主要評価項目は、投与開始12週後のそう痒VASの投与開始時と比較した改善率とし、4週間に1回CIM331投与の各用量群のプラセボに対する優越性・有効性を確認する。主要な解析方法としては、共分散分析(Analysis of covariance,ANCOVA)を用いる。具体的には、投与開始12週後のそう痒VASの投与開始時と比較した改善率を応答変数とし、治療群を固定効果、投与開始時のそう痒VAS及び地域(日本、欧州、米国)を共変量としたモデルをあてはめる。主要解析では、検定の有意水準は片側0.025を用い、閉検定手順の原理に基づいて高用量から逐次的に2群比較を行うことで、検定の繰り返しによる多重性を考慮する。主要な解析対象集団として、治験実施計画書からの重大な逸脱が認められた被験者の一部、早期に治験を中止した被験者、及び割付けと異なる治験薬を投与された被験者等を除いたper-protocol(PP)集団を用いる。救済治療を受けた後に測定したデータをすべて除外し、欠損値をLOCF(Last Observation value Carrying Forward after baseline)により補完する。
【0097】
Part Aで治験薬あるいはプラセボの投与を受けた患者のうち、主要な解析対象集団はプラセボ、0.1mg/kg、0.5mg/kg、2.0mg/kgの4週間ごとに皮下投与する群、及び2.0mg/kgを8週間ごとに皮下投与する群で、ぞれぞれ46例、46例、45例、47例及び45例であった。
4週間ごとの投与群において、主要評価項目である、投与開始12週後のそう痒VASの開始時からの改善率(最小二乗平均)のプラセボとの差は、0.1mg/kg、0.5mg/kg、2.0mg/kgでそれぞれ-21.39%(p=0.0027)、-41.16%(p<0.0001)、-40.39%(p<0.0001)であった。
また、本事例は探索的な用量設定試験であるため、主要な解析以外にも副次的な解析を実施し、総合的に投与量を検討することができる。その際は、探索的な検討ではあるものの、検定の有意水準は片側0.025を目安とする。限定は意図しないが、具体的には,ANCOVA以外に、Mixed-effects model repeated measures approach(MMRM)の利用や、モデルに依らない要約統計量の集計、治験薬投与後の規定観測時点で得られる利用可能なすべてのデータを用いたIntent-to-Treat(ITT)解析対象集団の利用、救済治療を受けた後に測定したデータの利用、あるいは欠損値を補完しない解析の結果を適宜確認し、包括的に検討してよい。また、そう痒VASに対して、投与開始12週後以外の時点の利用、あるいは、投与開始時と比較した改善率に対応する変化量または各時点の値を利用して、それらの連続量またはある閾値を基準とした改善した症例の割合を応答変数としたモデル解析も評価対象としてよい。このような解析に対し、重要な部分集団を考慮することができる。そう痒VAS以外の副次的有効性評価項目も同様に解析してよい。
CIM331を8週間ごとに皮下投与する群についても同様に探索的な比較を行うことができる。
【0098】
・改善した被験者の割合:そう痒VAS、EASI、SCORAD
項目ごとにベースライン時から各時点までに25%,50%及び75%の改善を認めた被験者の割合を算出する。
Part Aの4週間ごとの投与群における結果は、PP集団において救済治療を受けた後に測定したデータを全て除外し欠損値をLOCFして補完した場合、投与開始12週後においてそう痒VASの50%の改善を認めた被験者の割合は、プラセボ群で21%であった一方、0.1mg/kg群、0.5mg/kg群、2.0mg/kg群でそれぞれ41%、67%、59%であった。75%の改善を認めた被験者の割合は、プラセボ群で12%であった一方、0.1mg/kg群、0.5mg/kg群、2.0mg/kg群でそれぞれ14%、49%、44%であった。
同様に、投与開始12週後においてEASIの50%の改善を認めた被験者の割合は、プラセボ群で33%であった一方、0.1mg/kg群、0.5mg/kg群、2.0mg/kg群でそれぞれ43%、51%、41%であった。75%の改善を認めた被験者の割合は、プラセボ群で14%であった一方、0.1mg/kg群、0.5mg/kg群、2.0mg/kg群でそれぞれ23%、37%、22%であった。
投与開始12週後においてSCORADの50%の改善を認めた被験者の割合は、プラセボ群で15%であった一方、0.1mg/kg群、0.5mg/kg群、2.0mg/kg群でそれぞれ18%、39%、31%であった。75%の改善を認めた被験者の割合は、プラセボ群で3%であった一方、0.1mg/kg群、0.5mg/kg群、2.0mg/kg群でそれぞれ0%、15%、17%であった。
【0099】
・2点以上改善した被験者の割合:sIGA、そう痒VRS
各項目のベースライン時から各時点までに2点以上改善した被験者の割合を算出する。
Part Aの4週間ごとの投与群における結果は、投与開始12週後において、sIGAが2点以上改善した被験者の割合は、プラセボ群で12%であった一方、0.1mg/kg群、0.5mg/kg群、2.0mg/kg群でそれぞれ21%、30%、22%であった。
投与開始12週後において、そう痒VRSが2点以上改善した被験者の割合は、プラセボ群で5%であった一方、0.1mg/kg群、0.5mg/kg群、2.0mg/kg群でそれぞれ14%、47%、30%であった。
【0100】
・改善度:そう痒VAS、EASI、SCORAD、sIGA、アトピー性皮膚炎病変部のBSA、そう痒VRS、睡眠障害VAS
各項目のベースライン時から各時点までの改善度を記述統計により要約する。
Part Aの4週間ごとの投与群における結果は、PP集団で救済治療を受けた後に測定したデータを全て除外した場合、そう痒VASの改善率は、投与4週後でプラセボ群で12%であった一方、0.1mg/kg群で39%、0.5mg/kg群で55%、2.0mg/kg群で46%の改善を示した。投与12週後ではプラセボ群で24%であった一方、0.1mg/kg群で47%、0.5mg/kg群で68%、2.0mg/kg群で67%の改善率であった。
同様に、EASIの投与12週後の改善率はプラセボ群38%に対し、0.1mg/kg群で34%、0.5mg/kg群で54%、2.0mg/kg群で48%であった。SCORADの投与12週後の改善率は、プラセボ群22%に対し、0.1mg/kg群で37%、0.5mg/kg群で45%、2.0mg/kg群で47%であった。sIGAの投与12週後の改善率はプラセボ群13%に対し、0.1mg/kg群で25%、0.5mg/kg群で34%、2.0mg/kg群で28%であった。BSAの投与12週後の改善率はプラセボ群31%に対し、0.1mg/kg群で25%、0.5mg/kg群で26%、2.0mg/kg群で33%であった。そう痒VRSの投与12週後の改善率はプラセボ群18%に対し、0.1mg/kg群で42%、0.5mg/kg群で58%、2.0mg/kg群で58%であった。睡眠障害VASの投与12週後の改善率はプラセボ群31%に対し、0.1mg/kg群で57%、0.5mg/kg群で65%、2.0mg/kg群で67%であった。
【0101】
・反応までの時間:そう痒VAS、EASI、SCORAD、sIGA
そう痒VAS、EASI及びSCORADにおいて、ベースライン時から25%、50%、75%改善に達するまでの時間、並びに、sIGAにおいてベースライン時から2点改善するまでの時間をKaplan-Meier推定値を用いて経時的な累積発生率として要約する。
Part Aの4週間ごとの投与群における結果は、そう痒VASにおいて、50%の患者がベースライン時から25%、50%、75%改善に達するまでの時間はプラセボ群でそれぞれ11週間、達成せず、達成せずであった一方、0.1mg/kg群でそれぞれ2週間、4週間、達成せず、0.5mg/kg群でそれぞれ2週間、2週間、5週間、2.0mg/kg群でそれぞれ2週間、4週間、達成せずであった。また、Kaplan-Meier推定値を用いた投与開始後12週におけるベースライン時から25%、50%、75%改善の達成率は、プラセボ群でそれぞれ52%、38%、22%であった一方、0.1mg/kg群でそれぞれ84%、66%、38%、0.5mg/kg群でそれぞれ95%、80%、68%、2.0mg/kg群でそれぞれ94%、71%、48%であった。
同様に、EASIにおいて、50%の患者がベースライン時から25%、50%、75%改善に達するまでの時間はプラセボ群でそれぞれ6週間、12週間、達成せずであった一方、0.1mg/kg群でそれぞれ2週間、4週間、達成せず、0.5mg/kg群でそれぞれ2週間、4週間、12週間、2.0mg/kg群でそれぞれ2週間、6週間、達成せずであった。また,Kaplan-Meier推定値を用いた投与開始後12週後におけるベースライン時から25%、50%、75%改善の達成率は、プラセボ群でそれぞれ68%、51%、23%であった一方、0.1mg/kg群でそれぞれ71%、66%、37%、0.5mg/kg群でそれぞれ84%、73%、53%、2.0mg/kg群でそれぞれ93%、67%、28%であった。
SCORADにおいて、50%の患者がベースライン時から25%、50%、75%改善に達するまでの時間はプラセボ群でそれぞれ6週間、達成せず、達成せずであった一方、0.1mg/kg群でそれぞれ2週間、達成せず、達成せず、0.5mg/kg群でそれぞれ3週間、10週間、達成せず、2.0mg/kg群でそれぞれ2週間、達成せず、達成せずであった。また、Kaplan-Meier推定値を用いた投与開始後12週後におけるベースライン時から25%、50%、75%改善の達成率は、プラセボ群でそれぞれ57%、40%、6%であった一方、0.1mg/kg群でそれぞれ78%、46%、9%、0.5mg/kg群でそれぞれ78%、55%、30%、2.0mg/kg群でそれぞれNE(算出できず)、46%、25%であった。
sIGAにおいて、50%の患者がベースライン時から2点改善するまでの時間はプラセボ群、0.1mg/kg群、0.5mg/kg群及び2.0mg/kg群のいずれも12週後までに達成されなかった。また、Kaplan-Meier推定値を用いた投与開始後12週後におけるベースライン時から2点改善の達成率は、プラセボ群で30%であった一方、0.1mg/kg群で36%、0.5mg/kg群で47%、2.0mg/kg群で38%であった。
【0102】
・救済治療を受けるまでの期間
救済治療を受けるまでの期間をKaplan-Meier推定値を用いて経時的な累積発生率として要約する。救済治療を受けなかった被験者は、Part AのWeek 12での来院(又はPart BのWeek 64での来院)、あるいは治験の早期中止時のいずれか早い方で打ち切りとする。
Part Aの4週間ごとの投与群における結果は、50%の患者がベースライン時から救済治療を受けるまでの時間はプラセボ群、0.1mg/kg群、0.5mg/kg群及び2.0mg/kg群のいずれも12週後までに到達しなかった。また25%の患者がベースライン時から救済治療を受けるまでの時間はプラセボ群、0.1mg/kg群、0.5mg/kg群、及び2.0mg/kg群でそれぞれ5週間、9週間、到達せず、及び9週間であった。
【0103】
・救済治療を受けている被験者の割合
各時点で救済治療を受けている被験者の割合を算出する。
Part Aの4週間ごとの投与群における結果は、救済治療を受けた被験者の割合は、プラセボ群で39.1%であったのに対し、0.1mg/kg群で26.1%、0.5mg/kg群で24.4%、2.0mg/kg群で29.8%であった。
・アクティグラフィ
Part Aの4週間ごとの投与群におけるアクティグラフィの結果から、入眠から覚醒までの実際の時間は、投与4週後において、プラセボ群で7.3分増加であったのに対し、0.1mg/kg群で49.5分増加、0.5mg/kg群で53.1分増加、2.0mg/kg群で48.2分増加した。睡眠潜時(着床後睡眠までの時間)は、投与4週後において、プラセボ群で4.3分短縮であったのに対し、0.1mg/kg群で17.6分短縮、0.5mg/kg群で14.8分短縮、2.0mg/kg群で12.7分短縮した。
【0104】
また、PartAのCIM331を8週に1回投与する群においては、救済治療を受けた後に測定したデータをすべて除外した投与12週後のそう痒VASの開始時からの改善率の平均値は70%であった。
【0105】
プライマリーエンドポイントである投与12週時のそう痒VASの結果、EASI、及びsIGA等の皮膚炎指標に関するPart Aのこれらの結果から、0.5mg/kg/4週の投与群でそう痒及び皮膚炎への効果は最大に達していると考えられた。
【0106】
・至適投与量のシミュレーション
投与量について、更なる利便性の改善の観点から、体重当たりの投与量から固定用量での至適用法用量をモデリング&シミュレーションを実施し評価した。
はじめに体重当たりの用量と固定用量の曝露比較を行い、薬物動態の観点から至適用法用量を検討した。CIM331の血清中薬物濃度は1次吸収過程を伴う1コンパートメントモデルに良くあてはまった。また体重を共変量としてallometry式を用いてモデルパラメータに組み込んだ。モデルパラメータを以下に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
前記1コンパートメントモデルを用いてシミュレーションを実施し、体重と曝露の関係性を
図10に示した。図中のAは0.5mg/kgまたは2mg/kg投与時の想定される曝露を示し、図中のB、C及びDはそれぞれ50、75及び100mg/body投与時の想定される曝露を示し、図中の参照線は2mg/kgの想定される曝露の上限(1060μg*day/mL)及び0.5mg/kgの曝露の下限(44μg*day/mL)を示す。
投与量が50mg固定の場合は体重100kg未満で概ね0.5 mg/kgでの曝露の下限を超えると想定され、また100mg固定の場合は低体重時に2mg/kgの曝露の上限を超えると想定された。また、75mg固定の場合は0.5mg/kgまたは2mg/kgで得られる曝露の範囲に入ると想定された。これらのことより、50mg固定(ただし体重100kg超の場合は100mg)あるいは75mg固定で4週に1度投与することにより、第II相試験で得られた曝露と同様の曝露が得られると考えられた。
【0109】
続いて、PK-PD解析により、そう痒VASについてモデリング&シミュレーションを実施した。そう痒VASの部分にはindirect turnover modelを用い、スケール変換を行った。モデル予測値は実測値を良く模倣していることが確認された。算出されたモデルパラメータを以下に示す。
【0110】
【表4】
【0111】
モデルを用いてシミュレーションを実施した。想定されるCIM331投与1年後のそう痒VASを
図11に示す。
4週あたりの固定投与量が25mg/body以上、好ましくは50mg/body以上の場合には、そう痒VASは0.5mg/kgまたは2mg/kgと同様の値を示すものと想定された。
【0112】
(4−5)CIM331と外用ステロイド剤等との併用投与の効果
PartAでは保湿剤以外のアトピー性皮膚炎に対する治療薬の併用が許容されていないが、PartBではMildに分類される外用ステロイド剤(ヒドロコルチゾン、デソニド、プレドニゾロンなど)、外用カルシニューリン阻害剤(ピメクロリムス、タクロリムスなど)及び抗ヒスタミン剤(例えばフェキソフェナジンなど)の併用が許容された。外用ステロイド剤のランク分類は、NICE Guideline CG57 "Atopic eczema in children: management of atopic eczema in children from birth up to the age of 12 years"を基に日本、米国のみで使用されている製剤も追加し基準を設けた。PartA期間にはCIM331の投与によりそう痒改善効果が十分認められたにもかかわらず、皮膚炎改善効果が十分ではなかった患者において、PartB開始後にCIM331に加えて、短期間あるいは必要期間の外用ステロイド剤等の併用により、継続的かつ顕著な皮膚炎改善効果が認められた。
第II相反復投与試験では、CIM331の投与により、そう痒を抑制することで、そう破によるバリア機能低下→外来抗原の侵入による炎症反応の増強→皮膚炎悪化→そう痒の増悪の悪循環を断ち切ることができ、皮膚炎の改善効果が得られた。また、CIM331の投与により十分なそう痒改善効果が認められても皮膚炎改善効果が十分でない患者については、CIM331の投与に加え短期間の外用ステロイド剤等の併用により皮膚炎の持続的な改善が得られた。従って、CIM331によりそう痒を持続的に抑制しながら、外用ステロイド剤の併用によって現存の炎症反応を抑制すればItch-Scratch Cycleによる新たなアトピー性皮膚炎の増悪を防ぎ、より効果的な皮膚炎改善が得られることが示唆された。
【0113】
(4−6)予想される結果と有利な効果
4週毎あるいは8週毎のCIM331の反復投与により、血清中CIM331濃度は定常状態になり、持続的に、アトピー性皮膚炎患者のそう痒に対する効果を発揮できる。また、そう痒改善効果の維持、すなわちItch Scratch Cycle遮断に伴い、皮膚炎が改善可能となり、また、QOLの改善が可能となる。合計64週間における長期の有効性プロファイルが確認できる。
さらに、例えば、4週毎あるいは8週毎のCIM331の反復投与といった治療態様は、アトピー性皮膚炎の現状の全身治療方法が、1日数回、薬を飲んだり、薬を患部に塗布しなければならず、あるいは、紫外線療法の場合には週に1〜2回もの通院が必要となり得ることに鑑みても、患者の薬の服用負担や通院負担等を著しく軽減し得ることが期待でき、患者のQOLの向上に一層貢献し得る。
【0114】
(4−7)承認後のCIM331の一実施態様
限定はされないが、CIM331は、外用治療に効果不十分もしくは忍容性のない中等症及び重症のアトピー性皮膚炎患者に投与されてよい。
CIM331は、例えば、2週〜12週毎、具体的には、例えば、2週毎、3週毎、4週毎、5週毎、6週毎、7週毎、8週毎、9週毎、10週毎、11週毎、もしくは12週毎に1回、あるいは、1月毎、2月毎、もしくは3月毎に1回、皮下に等量の投与量でかつ同一の投与間隔で反復投与されてよい。
CIM331の体重あたりの投与量及び投与液濃度は、第II相反復投与試験結果やそれ以外の試験結果等に基づいて適宜決定してもよい。例えば、アトピー性皮膚炎患者の体重が120kgを超える場合には体重を120kgとして治験薬を調製してもよい。また、CIM331をアトピー性皮膚炎患者に対してmg/bodyで投与することが意図される場合には、第II相反復投与試験結果等から、CIM331の投与量を、mg/kgからmg/bodyへ換算し、適切かつ妥当な投与量(mg/body)を選定して、投与されてもよい。この際、mg/kgからmg/bodyへの換算ロジックとしては、限定はされないが、以下のロジックを用いて当業者が適宜決定できることが理解されよう。
CIM331の最低有効血清中濃度と最大忍容(経験)血清中濃度が存在すると仮定し、この濃度範囲に血清中CIM331濃度が体重にかかわらず得られるよう、mg/kgの投与量からmg/bodyの投与量への変更を第II相試験の結果から検討する。また、低体重の小児用の投与量はmg/bodyでは曝露が著しく増大する可能性があるため、その場合はmg/kgでの投与を検討する。現在実施している第II相試験の結果から、最低有効血清中濃度と最大忍容血清中濃度を決定し、上記のように曝露をそろえることにより、mg/bodyへの変換を行い得る。
非限定的な一実施態様において、成人又は小児のアトピー性皮膚炎患者には、0.1mg〜1000mg/body、例えば0.2mg〜360mg/body、好ましくは10mg〜200mg/body、10mg〜100mg/body、25mg〜100mg/body、50mg〜100mg/body、又は50mg〜75mg/bodyの中から選択される投与量を一点選択して、上述した投与間隔で皮下に等量かつ同一の投与間隔で反復投与してよい。なお、疑義を避けるために明記するが、例えば、0.1mg〜1000mg/bodyと記載される場合、0.1mg/body、0.2mg/body、0.3mg/body、0.4mg/body、・・・49.9mg/body、50mg/body、50.1mg/body、50.2mg/body、・・・99.8mg/body、99.9mg/body、100mg/body、100.1mg/body、100.2mg/body、・・・・199.9mg/body、200mg/body、200.1mg/body、・・・359.8mg/body、359.9mg/body、360mg/body、360.1mg/body、・・・999.8mg/body、999.9mg/body、1000mg/bodyといったように、0.1mg/bodyの変動量で、0.1mg〜1000mg/bodyの間に包含されるあらゆる投与量が、個別具体的に記載されていることが意図されている。したがって、本記載に触れた当業者は、例えば、0.1mg〜1000mg/bodyの記載から、直接かつ一義的に、例えば、55mg/bodyや56.5mg/body等の値が個別具体的に本実施例に記載されていることを当然に理解する。
あるいは、非限定的な別の実施態様において、小児のアトピー性皮膚炎患者には、0.01mg〜10mg/kg、例えば、0.1mg〜3mg/kg、好ましくは0.2mg〜2mg/kgの中から選択される投与量を一点選択して、上述した投与間隔で皮下に等量かつ同一の投与間隔で反復投与してよい。なお、疑義を避けるために明記するが、例えば、0.01mg〜10mg/kgと記載される場合、0.01mg/kg、0.015mg/kg、0.02mg/kg、0.025mg/kg、0.03mg/kg、0.035mg/kg、0.04mg/kg、・・・0.125mg/kg、・・・0.49mg/kg、0.495mg/kg、0.5mg/kg、0.505mg/kg、0.51mg/kg、・・・0.98mg/kg、0.985mg/kg、0.99mg/kg、0.995mg/kg、1mg/kg、1.005mg/kg、1.01mg/kg、・・・1.49mg/kg、1.495mg/kg、1.5mg/kg、1.505mg/kg、1.51mg/kg、・・・1.98mg/kg、1.985mg/kg、1.99mg/kg、1.995mg/kg、2mg/kg、2.005mg/kg、2.01mg/kg、・・・2.99mg/kg、2.995mg/kg、3mg/kg、3.005mg/kg、3.01mg/kg、・・・9.98mg/kg、9.985mg/kg、9.99mg/kg、9.995mg/kg、10mg/kgといったように、0.005mg/kgの変動量で、0.01mg〜10mg/kgの間に包含されるあらゆる投与量が、個別具体的に記載されていることが意図されている。したがって、本記載に触れた当業者は、例えば、0.01mg〜10mg/kgの記載から、直接かつ一義的に、例えば、0.75mg/kgや1.245mg/kg等の値が個別具体的に本実施例に記載されていることを当然に理解する。
【0115】
[参考実施例1]
IgG抗体の発現と精製
抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)を10 % Fetal Bovine Serum(Invitrogen)を含むDMEM培地(Invitrogen)へ懸濁し、5〜6 × 10
5細胞/mLの細胞密度で接着細胞用ディッシュ(直径10 cm, CORNING)の各ディッシュへ10 mLずつ蒔きこみCO2インキュベーター(37℃、5 % CO2)内で一昼夜培養した後に、培地を吸引除去し、CHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地6.9 mLを添加した。調製したプラスミドをlipofection法により細胞へ導入した。得られた培養上清を回収した後、遠心分離(約2000 g、5分間、室温)して細胞を除去し、さらに0.22μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)を通して滅菌して培養上清を得た。得られた培養上清にrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者に公知の方法で精製した。精製抗体の濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定した。得られた値からProtein Science 1995;4:2411-2423に記された方法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した。