特許第6655249号(P6655249)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6655249
(24)【登録日】2020年2月5日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】HIV−1感染細胞殺傷剤及びその用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4406 20060101AFI20200217BHJP
   A61K 31/472 20060101ALI20200217BHJP
   A61K 31/4725 20060101ALI20200217BHJP
   A61K 31/635 20060101ALI20200217BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20200217BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200217BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20200217BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
   A61K31/4406
   A61K31/472
   A61K31/4725
   A61K31/635
   A61K45/00
   A61P43/00 105
   A61P43/00 121
   A61P37/00
   A61P31/18
【請求項の数】16
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-570711(P2016-570711)
(86)(22)【出願日】2016年1月22日
(86)【国際出願番号】JP2016051768
(87)【国際公開番号】WO2016117666
(87)【国際公開日】20160728
【審査請求日】2019年1月16日
(31)【優先権主張番号】特願2015-11506(P2015-11506)
(32)【優先日】2015年1月23日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-119111(P2015-119111)
(32)【優先日】2015年6月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 実佳
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第104069106(CN,A)
【文献】 国際公開第2014/189648(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/097654(WO,A1)
【文献】 Nature,2012年,487(7408),pp.439-440
【文献】 AIDS,2013年,27(18),pp.2853-2862
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61K 45/00
A61P 31/18
A61P 37/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】
(式中、Arは置換又は無置換のピリジル基であり、Arは少なくともアミノ基で置換されているフェニル基であり、Xは−CHO−又は−CH=CH−である。)
で示される化合物、その塩又はそれらの溶媒和物を含有するHIV−1感染細胞殺傷剤。
【請求項2】
前記式(I)において、Arはピリジル基であり、Arはアミノ基で置換されているフェニル基、又はアミノ基及びハロゲン原子で置換されているフェニル基である請求項1記載のHIV−1感染細胞殺傷剤。
【請求項3】
HIV−1感染者であって、がんに罹患していない者を投与対象とする請求項1又は2記載のHIV−1感染細胞殺傷剤。
【請求項4】
前記式(I)においてXが−CHO−である請求項1〜のいずれか1項に記載のHIV−1感染細胞殺傷剤。
【請求項5】
HIV−1感染の慢性感染期に投与されるように用いられる請求項1〜のいずれか1項に記載のHIV−1感染細胞殺傷剤。
【請求項6】
HIV−1が感染した末梢リンパ球を慢性感染期に選択的に殺傷するために用いられる請求項記載のHIV−1感染細胞殺傷剤。
【請求項7】
更に、HIV−1プロテアーゼ阻害剤を含有する請求項1〜のいずれか1項に記載のHIV−1感染細胞殺傷剤。
【請求項8】
HIV−1プロテアーゼ阻害剤が、前記式(I)で示される化合物によるHIV−1産生活性化による二次感染を抑制しながらHIV−1感染細胞数を減少させるために用いられる請求項記載のHIV−1感染細胞殺傷剤。
【請求項9】
HIV−1プロテアーゼ阻害剤がネルフィナビル、サキナビル及びダルナビルから選ばれる少なくとも1種である請求項又は記載のHIV−1感染細胞殺傷剤。
【請求項10】
請求項1に記載の式(I)で示される化合物がエンチノスタットであり、HIV−1プロテアーゼ阻害剤がダルナビルである請求項又は記載のHIV−1感染細胞殺傷剤。
【請求項11】
HIV−1感染細胞の殺傷のために、同時に、別々に、又は順次に投与される組み合わせ製剤であって、2つの別個の製剤:
(a)請求項1に記載の式(I)で示される化合物、その塩又はそれらの溶媒和物を含有する製剤、及び
(b)HIV−1プロテアーゼ阻害剤を含有する製剤
を含む組み合わせ製剤。
【請求項12】
前記式(I)においてXが−CHO−である請求項11記載の組み合わせ製剤。
【請求項13】
HIV−1感染の慢性感染期に投与されるように用いられる請求項11又は12記載の組み合わせ製剤。
【請求項14】
HIV−1が感染した末梢リンパ球を慢性感染期に選択的に殺傷するために用いられる請求項13記載の組み合わせ製剤。
【請求項15】
HIV−1プロテアーゼ阻害剤がネルフィナビル、サキナビル及びダルナビルから選ばれる少なくとも1種である請求項1114のいずれか1項に記載の組み合わせ製剤。
【請求項16】
請求項1に記載の式(I)で示される化合物がエンチノスタットであり、HIV−1プロテアーゼ阻害剤がダルナビルである請求項1113及び14のいずれか1項に記載の組み合わせ製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HIV−1感染を治療又は予防するために用いられる薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
2013年における全世界のHIV−1感染者数は約3,500万人、HIV−1新規感染者は約210万人であり、HIV−1感染症は、依然として、世界的に公衆衛生上の大きな問題となっている。
【0003】
しかし、現在の抗HIV−1薬は、HIV−1増殖を抑制することはできるが、HIV−1感染細胞を感染者体内より排除することはできない。よって、HIV−1感染者は生涯にわたり抗HIV−1薬を服用しなければならず、長期服用による抗HIV−1薬の慢性毒性や薬剤耐性HIV−1の出現が問題になっている。そのため、現在、HIV−1感染症に対する根治療法開発の必要性が高まっている。また、治療期間を約40年間と暫定した場合、HIV−1感染者一人あたり医療費は約1億円かかるとされる高額な医療費は社会的に大きな問題となっており、HIV−1根治療法の開発は世界中から望まれている。
【0004】
HIV−1感染症の完治が困難となっている主な原因はHIV−1潜伏感染細胞の存在である。潜伏感染細胞は、主に寿命期間の長い休止期メモリーCD4T細胞のHIV−1感染細胞であり、それらの細胞においてHIV−1はゲノムDNAの中にプロウイルスDNAとして存在し、増殖刺激など細胞活性化刺激のない状態ではHIV−1粒子やHIV−1蛋白はほとんど産生されないが、活性化刺激を受けるとHIV−1産生を開始する。現在の抗HIV−1薬のほとんどはHIV−1由来の酵素をターゲットとしているので、HIV−1産生を抑えることはできるが、HIV−1潜伏感染細胞数を減少させることはできない。そのため、HIV−1根治療法の確立には、HIV−1潜伏感染細胞をターゲットとした治療法の開発が必要である。
【0005】
ヒストンデアセチラーゼの働きを抑えて、ヒストンの高アセチル化を引き起こすことにより遺伝子発現に影響するヒストンデアセチラーゼ(histone deacetylase, HDAC)阻害剤は、がん遺伝子あるいはがん抑制因子の発現を変化させることにより、抗腫瘍効果を発揮する。すでに、いくつかのHDAC阻害剤は、固形及び血液学的腫瘍に対する治療法として、単独あるいは併用療法として、臨床開発の初期段階にある。
【0006】
一方、C型肝炎ウイルス感染症と肝細胞がん、ピロリ菌感染と胃がんなど、慢性感染症と発がんには関連性があることが知られている。これには、炎症性シグナル伝達系の活性化や各種遺伝子の発現誘導など、慢性炎症としてがんと共通する分子メカニズムを持つことが関与していると考えられている。
【0007】
最近、エンチノスタット(entinostat)、ボリノスタット(vorinostat)等のいくつかのHDAC阻害剤はHIV−1潜伏感染細胞(リザーバー細胞)を活性化して、HIV−1産生を誘導することが報告された(非特許文献1)。
【0008】
特許文献1及び2、並びに非特許文献2には、HDAC阻害剤であるエンチノスタット、チダミド(chidamide)等のベンズアミド誘導体が悪性腫瘍、自己免疫疾患、皮膚病、寄生虫感染症の治療・改善剤として有用であることが記載されている。
【0009】
これまで、エンチノスタットによるHIV−1感染ヒト単核球に対する特異的細胞死誘導効果に関する報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−152462号公報
【特許文献2】特表2007−527362号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Ricky W. Johnstone, Nature Reviews Drug Discovery 1, 287-299 (1 April 2002)
【非特許文献2】Qing-Wei Zhang and Jian-Qi Li, Bull. Korean Chem. Soc. 2012, Vol. 33, No. 2 535 (http://dx.doi.org/10.5012/bkcs.2012.33.2.535)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、HIV−1潜伏感染細胞に対し特異的に細胞死を誘導できる薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、HDAC阻害剤は、慢性感染細胞であるHIV−1潜伏感染細胞に対し特異的に細胞死を誘導できる可能性があるのではないかと着想した。
【0014】
そこで、in vitroにおいて、ヒト末梢血単核球HIV−1慢性感染細胞モデルを作製し、HDAC阻害剤であるエンチノスタットを作用させた結果、HIV−1感染ヒト末梢血単核球に対して特異的、選択的に細胞死を誘導した。
【0015】
しかし、エンチノスタットは感染細胞においてHIV−1産生を活性化させ、二次感染を引き起こす可能性がある。そのため、エンチノスタット単独使用では、新たなHIV−1感染細胞を産生してしまう。そこで、HDAC阻害剤とは作用点が異なり、HIV−1複製の後期課程に作用してHIV−1の複製を抑制するプロテアーゼ阻害剤との併用試験を行ったところ、HIV−1プロテアーゼ阻害剤であるネルフィナビル(nelfinavir, NFV)及びサキナビル(saquinavir, SQV)は、いずれも、エンチノスタット存在下において、濃度依存性にHIV−1産生を抑制したが、エンチノスタットによるHIV−1感染細胞特異的な細胞死誘導効果には影響を与えなかった。これらの結果から、エンチノスタットと、HIV−1プロテアーゼ阻害剤等の抗HIV−1薬との併用により、エンチノスタットによるHIV−1産生活性化による二次感染を抑制しながらHIV−1感染細胞数を減少させることにより、HIV−1感染症を根治できる可能性があると考えられた。
【0016】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)下記式(I):
【化1】
(式中、Ar及びArは同一又は異なり、置換又は無置換の芳香族基であり、Xは−CHO−又は−CH=CH−である。)
で示される化合物、その塩又はそれらの溶媒和物を含有するHIV−1感染細胞殺傷剤。
(2)前記式(I)において、Ar及びArは同一又は異なり、フェニル基又はピリジル基を表し、当該フェニル基又はピリジル基はアミノ基、C1−6−アルキル基及びハロゲン原子から選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい前記(1)に記載のHIV−1感染細胞殺傷剤。
(3)前記式(I)において、Arはピリジル基であり、Arはアミノ基及びハロゲン原子から選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよいフェニル基である前記(1)に記載のHIV−1感染細胞殺傷剤。
(4)HIV−1感染者であって、がんに罹患していない者を投与対象とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のHIV−1感染細胞殺傷剤。
(5)前記(1)に記載の式(I)で示される化合物、その塩又はそれらの溶媒和物と、抗HIV−1薬とを含有するHIV−1感染の治療又は予防用組成物。
(6)抗HIV−1薬がHIV−1プロテアーゼ阻害剤から選ばれる少なくとも1種である前記(5)に記載のHIV−1感染の治療又は予防用組成物。
(7)HIV−1感染の治療又は予防において同時に、別々に、又は順次に投与するための組み合わせ製剤であって、2つの別個の製剤:
(a)前記(1)に記載の式(I)で示される化合物、その塩又はそれらの溶媒和物を含有する製剤、及び
(b)抗HIV−1薬を含有する製剤
を含む組み合わせ製剤。
(8)抗HIV−1薬がHIV−1プロテアーゼ阻害剤から選ばれる少なくとも1種である前記(7)に記載の組み合わせ製剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明のHIV−1感染細胞殺傷剤によれば、HIV−1潜伏感染細胞に対し特異的に細胞死を誘導できる。また、本発明のHIV−1感染細胞殺傷剤と、HIV−1プロテアーゼ阻害剤等の抗HIV−1薬との併用により、前記式(I)で示される化合物によるHIV−1産生活性化による二次感染を抑制しながらHIV−1感染細胞数を減少させることにより、HIV−1感染症を根治できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例2で採用した実験手順を示す。
図2】各濃度のネルフィナビル(NFV)で処理されたHIV−1感染(「HIV」)及び非感染(「Mock」)ヒト末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell, PBMC)におけるエンチノスタット(entinostat)又はボリノスタット(vorinostat)の作用を示すグラフである。
図3】各濃度のサキナビル(SQV)で処理されたHIV−1感染(「HIV」)及び非感染(「Mock」)ヒト末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell, PBMC)におけるエンチノスタット(entinostat)又はボリノスタット(vorinostat)の作用を示すグラフである。
図4】各濃度のネルフィナビル(NFV)で処理されたHIV−1感染(「HIV」)及び非感染(「Mock」)ヒト末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell, PBMC)における各濃度のエンチノスタット(entinostat)の作用を示すグラフである。
図5】実施例3で採用した実験手順を示す。
図6】プロテアーゼ阻害剤による前処理なしで行ったHIV−1感染(「HIV」)及び非感染(「Mock」)ヒト末梢血単核球におけるネルフィナビル(NFV)とエンチノスタットの併用投与の結果を示すグラフである。
図7】プロテアーゼ阻害剤による前処理なしで行ったHIV−1感染(「HIV」)及び非感染(「Mock」)ヒト末梢血単核球におけるダルナビル(DRV)とエンチノスタットの併用投与の結果を示すグラフである。
図8】実施例4で採用した実験手順を示す。
図9】HIV−1感染(「HIV」)及び非感染(「Mock」)ヒト末梢血単核球におけるエンチノスタット又はチダミドによる処理の結果を示すグラフである。
図10】実施例5で採用した実験手順を示す。
図11】実施例5の実験(1)の結果を示す。
図12】実施例5の実験(2)の結果を示す。
図13】実施例6で採用した実験手順を示す。
図14】実施例6の結果を示す。
図15】実施例6(ドルテグラビル(DTG)を使用)で採用した実験手順を示す。
図16】実施例6において、ドルテグラビル(DTG)を使用した場合の結果を示す。
図17】HIV−1感染(「HIV」)及び非感染(「Mock」)CD4陽性Tリンパ球(CD4T)におけるエンチノスタットによる処理の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
前記式(I)においてAr又はArで表される芳香族基としては、例えばフェニル基、トリル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;フリル基、チエニル基、ピロリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピラジニル基、キノリル基、イソキノリル基等の芳香族複素環基が挙げられる。
【0021】
前記式(I)においてAr又はArで表される芳香族基における置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC1−6−アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等のC1−6−アルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基、シクロプロピルオキシカルボニル基、シクロブチルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基等のC1−6−アルコキシ−カルボニル基;水酸基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基(プロパノイル基)、ブチリル基(ブタノイル基)、バレリル基(ペンタノイル基)、ヘキサノイル基等のC1−6−脂肪族アシル基;ベンゾイル基、トルオイル基等の芳香族アシル基(アロイル基);アラルキルオキシ基、カルボキシル基、アミノ基、C1−6−アルキルアミノ基、ジC1−6−アルキルアミノ基が挙げられる。
【0022】
Ar又はArで表される芳香族基としては、置換又は無置換のフェニル基及びピリジル基(2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基)が好ましい。
【0023】
置換されたフェニル基としては、例えば4−アミノフェニル基、3−アミノフェニル基、2−アミノフェニル基、2−アミノ−4−フルオロフェニル基、2−アミノ−4−クロロフェニル基、2−アミノ−5−フルオロフェニル基、2−アミノ−5−クロロフェニル基、4−メチルフェニル基(p−トリル基)、3−メチルフェニル基(m−トリル基)、2−メチルフェニル基(o−トリル基)、4−エチルフェニル基、3−エチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−n−プロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、4−n−ブチルフェニル基、4−イソブチルフェニル基、4−sec−ブチルフェニル基、2−sec−ブチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、3−tert−ブチルフェニル基、2−tert−ブチルフェニル基、4−n−ペンチルフェニル基、4−イソペンチルフェニル基、2−ネオペンチルフェニル基、4−tert−ペンチルフェニル基、4−n−ヘキシルフェニル基、4−(2−エチルブチル)フェニル基、4−n−ヘプチルフェニル基、4−n−オクチルフェニル基、4−(2−エチルヘキシル)フェニル基、4−tert−オクチルフェニル基、4−n−デシルフェニル基、4−n−ドデシルフェニル基、4−n−テトラデシルフェニル基、4−シクロペンチルフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、4−(4−メチルシクロヘキシル)フェニル基、4−(4−tert−ブチルシクロヘキシル)フェニル基、3−シクロヘキシルフェニル基、2−シクロヘキシルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2,4−ジエチルフェニル基、2,3,5−トリメチルフェニル基、2,3,6−トリメチルフェニル基、3,4,5−トリメチルフェニル基、2,6−ジエチルフェニル基、2,5−ジイソプロピルフェニル基、2,6−ジイソブチルフェニル基、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル基、2,5−ジ−tert−ブチルフェニル基、4,6−ジ−tert−ブチル−2−メチルフェニル基、5−tert−ブチル−2−メチルフェニル基、4−tert−ブチル−2,6−ジメチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、3−エトキシフェニル基、2−エトキシフェニル基、4−n−プロポキシフェニル基、3−n−プロポキシフェニル基、4−イソプロポキシフェニル基、2−イソプロポキシフェニル基、4−n−ブトキシフェニル基、4−イソブトキシフェニル基、2−sec−ブトキシフェニル基、4−n−ペンチルオキシフェニル基、4−イソペンチルオキシフェニル基、2−イソペンチルオキシフェニル基、4−ネオペンチルオキシフェニル基、2−ネオペンチルオキシフェニル基、4−n−ヘキシルオキシフェニル基、2−(2−エチルブチル)オキシフェニル基、4−n−オクチルオキシフェニル基、4−n−デシルオキシフェニル基、4−n−ドデシルオキシフェニル基、4−n−テトラデシルオキシフェニル基、4−シクロヘキシルオキシフェニル基、2−シクロヘキシルオキシフェニル基、2−メチル−4−メトキシフェニル基、2−メチル−5−メトキシフェニル基、3−メチル−4−メトキシフェニル基、3−メチル−5−メトキシフェニル基、3−エチル−5−メトキシフェニル基、2−メトキシ−4−メチルフェニル基、3−メトキシ−4−メチルフェニル基、2,4−ジメトキシフェニル基、2,5−ジメトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基、3,4−ジメトキシフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、3,5−ジエトキシフェニル基、3,5−ジ−n−ブトキシフェニル基、2−メトキシ−4−エトキシフェニル基、2−メトキシ−6−エトキシフェニル基、3,4,5−トリメトキシフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、3−ヒドロキシフェニル基、2−ヒドロキシフェニル基、4−メトキシカルボニルフェニル基、3−メトキシカルボニルフェニル基、2−メトキシカルボニルフェニル基、4−ビフェニリル基、3−ビフェニリル基、2−ビフェニリル基、4−(4−メチルフェニル)フェニル基、4−(3−メチルフェニル)フェニル基、4−(4−メトキシフェニル)フェニル基、4−(4−n−ブトキシフェニル)フェニル基、2−(2−メトキシフェニル)フェニル基、4−(4−クロロフェニル)フェニル基、3−メチル−4−フェニルフェニル基、3−メトキシ−4−フェニルフェニル基、ターフェニル基、3,5−ジフェニルフェニル基、4−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、2−フルオロフェニル基、4−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、2−クロロフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−ブロモフェニル基、2,3−ジフルオロフェニル基、2,4−ジフルオロフェニル基、2,5−ジフルオロフェニル基、2,6−ジフルオロフェニル基、3,4−ジフルオロフェニル基、3,5−ジフルオロフェニル基、2,3−ジクロロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2,5−ジクロロフェニル基、3,4−ジクロロフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、2,5−ジブロモフェニル基、2,4,6−トリクロロフェニル基、2−フルオロ−4−メチルフェニル基、2−フルオロ−5−メチルフェニル基、3−フルオロ−2−メチルフェニル基、3−フルオロ−4−メチルフェニル基、2−メチル−4−フルオロフェニル基、2−メチル−5−フルオロフェニル基、3−メチル−4−フルオロフェニル基、2−クロロ−4−メチルフェニル基、2−クロロ−5−メチルフェニル基、2−クロロ−6−メチルフェニル基、2−メチル−3−クロロフェニル基、2−メチル−4−クロロフェニル基、3−クロロ−4−メチルフェニル基、3−メチル−4−クロロフェニル基、2−クロロ−4,6−ジメチルフェニル基、2−メトキシ−4−フルオロフェニル基、2−フルオロ−4−メトキシフェニル基、2−フルオロ−4−エトキシフェニル基、2−フルオロ−6−メトキシフェニル基、3−フルオロ−4−エトキシフェニル基、3−クロロ−4−メトキシフェニル基、2−メトキシ−5−クロロフェニル基、3−メトキシ−6−クロロフェニル基、5−クロロ−2,4−ジメトキシフェニル基等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
置換されたピリジル基としては、例えば3−クロロ−2−ピリジル基、4−クロロ−2−ピリジル基、5−クロロ−2−ピリジル基、6−クロロ−2−ピリジル基、3−メチル−2−ピリジル基、4−メチル−2−ピリジル基、5−メチル−2−ピリジル基、6−メチル−2−ピリジル基、2−アミノ−3−ピリジル基、2−アミノ−6−クロロ−3−ピリジル基、2−アミノ−6−フルオロ−3−ピリジル基、2−アミノ−5−クロロ−3−ピリジル基、2−アミノ−5−フルオロ−3−ピリジル基等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
Arで表される芳香族基としては、置換又は無置換の含窒素芳香族複素環基(例えば、ピロリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピラジニル基、キノリル基、イソキノリル基)が好ましく、置換又は無置換のピリジル基、特に置換又は無置換の3−ピリジル基が更に好ましい。
【0026】
Arで表される芳香族基としては、少なくともアミノ基で置換されているフェニル基又はピリジル基が好ましく、少なくとも2位がアミノ基で置換されているフェニル基(例えば2−アミノ−4−フルオロフェニル基、2−アミノ−4−クロロフェニル基)、2−アミノ−3−ピリジル基、2−アミノ−6−クロロ−3−ピリジル基、2−アミノ−6−フルオロ−3−ピリジル基が更に好ましい。
【0027】
前記式(I)で示される化合物がアミノ基、ピリジル基等の塩基性置換基、又はフェノール性水酸基、カルボキシル基等の酸性置換基を有する場合には、塩、好ましくは薬学的に許容される塩、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、ピロ硫酸、メタリン酸等の無機酸、又はクエン酸、安息香酸、酢酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、スルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸)等の有機酸との塩;又はナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩として用いることもできる。
【0028】
前記式(I)で示される化合物の溶媒和物としては、例えば水和物が挙げられる。
【0029】
前記式(I)で示される化合物のうち、前記式(I)においてXが−CHO−である化合物(Ia)は、公知の方法、例えば、特開平10−152462号公報(特許文献1)に記載の方法に従って、以下に示すようにして製造することができる。
【化2】
(式中、Ar及びArは前記と同義である。)
【0030】
すなわち、前記式(II)で示される化合物と前記式(III)で示される化合物を、N,N’−カルボニルジイミダゾール、ホスゲン等のカルボニル試薬を用いて縮合反応に付すことにより、前記式(I)で示される化合物を得ることができる。
【0031】
前記式(I)で示される化合物の溶媒和物としては、例えば水和物が挙げられる。
【0032】
前記式(I)で示される化合物のうち、前記式(I)においてXが−CH=CH−である化合物(Ib)は、公知の方法、例えば、特表2007−527362号公報(特許文献2)に記載の方法に従って、以下に示すようにして製造することができる。
【化3】
(式中、Ar及びArは前記と同義である。)
【0033】
すなわち、前記式(IV)で示される化合物と前記式(V)で示される化合物を、ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−カルボニルジイミダゾール、ジフェニルホスホリックアジド、ジエチルホスホリルシアニド等のペプチド縮合試薬を用いて縮合反応に付すことにより、前記式(Ib)で示される化合物を得ることができる。
【0034】
前記式(Ia)及び(Ib)においてAr又はArで表される芳香族基がアミノ基で置換されている場合には、tert−ブトキシカルボニル基などの通常のペプチド形成反応に用いられる保護基で保護し、反応後、脱保護する。Ar又はArで表される芳香族基が水酸基で置換されている場合には、ベンジル基などの通常のペプチド形成反応に用いられる保護基で保護し、反応後、脱保護する。
【0035】
前記式(I)で示される化合物のうち、例えば、次式(1):
【化4】
で示されるエンチノスタット、次式(2):
【化5】
で示されるチダミド等のように市販されているものがあり、これらについては市販品を用いることができる。
【0036】
前記のようにして得られる生成物を精製するには、通常用いられる手法、例えばシリカゲル等を担体として用いたカラムクロマトグラフィーやメタノール、エタノール、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、n−ヘキサン−酢酸エチル、水等を用いた再結晶法によればよい。カラムクロマトグラフィーの溶出溶媒としては、メタノール、エタノール、クロロホルム、アセトン、ヘキサン、ジクロロメタン、酢酸エチル、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0037】
前記式(I)で示される化合物は、HIV−1感染細胞殺傷剤として、慣用の製剤担体と組み合わせて製剤化することができる。投与形態としては、特に限定はなく、必要に応じ適宜選択して使用され、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、徐放性製剤、液剤、懸濁剤、エマルジョン剤、シロップ剤、エリキシル剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤が挙げられる。
【0038】
経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。また、これらに加えて、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を適宜添加することができる。
【0039】
結合剤としては、例えばデンプン、デキストリン、アラビアゴム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が挙げられる。
【0040】
崩壊剤としては、例えばデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0041】
界面活性剤としては、例えばラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート80等が挙げられる。
【0042】
滑沢剤としては、例えばタルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0043】
流動性促進剤としては、例えば軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。
【0044】
注射剤は、常法に従って製造され、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、オリーブ油、ゴマ油、ラッカセイ油、ダイズ油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等を用いることができる。更に必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤、等張化剤、無痛化剤等を加えてもよい。また、注射剤は、安定性の観点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥技術により水分を除去し、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。前記式(I)の化合物の注射剤中における割合は、5〜50重量%の間で変動させ得るが、これに限定されるものではない。
【0045】
その他の非経口剤としては、直腸内投与のための坐剤等が挙げられ、常法に従って製造される。
【0046】
製剤化したHIV−1感染細胞殺傷剤は、剤形、投与経路等により異なるが、例えば、1日1〜4回を1週間から3ヶ月の期間、投与することが可能である。
【0047】
経口剤として所期の効果を発揮するためには、患者の年令、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人の場合、前記式(I)の化合物の重量として、例えば0.1〜1000mg、好ましくは1〜500mgを、1日1回又は数回に分けて服用することが適当である。
【0048】
非経口剤として所期の効果を発揮するためには、患者の年令、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人の場合、前記式(I)の化合物の重量として、例えば0.1〜1000mg、好ましくは1〜500mgを、静注、点滴静注、皮下注射、筋肉注射により投与することが適当である。
【0049】
また、前記式(I)の化合物は、HIV−1感染に対して有効な他の薬剤と組み合わせて使用してもよい。これらは、治療の過程において別々に投与されるか、例えば錠剤、静脈用溶液、又はカプセルのような単一の剤形において、前記式(I)の化合物と組み合わせられる。
【0050】
前記式(I)の化合物は感染細胞においてHIV−1産生を活性化させ、二次感染を引き起こす可能性がある。そのため、前記式(I)の化合物単独使用では、新たなHIV−1感染細胞を産生してしまう。
【0051】
そこで、HDAC阻害剤とは作用点が異なり、HIV−1複製の後期課程に作用してHIV−1の複製を抑制するHIV−1プロテアーゼ阻害剤との併用により、前記式(I)の化合物によるHIV−1産生活性化による二次感染を抑制しながらHIV−1感染細胞数を減少させることにより、HIV−1感染症を根治できる。
【0052】
前記HIV−1プロテアーゼ阻害剤としては、例えばネルフィナビル、サキナビル、アタザナビル、ロピナビル、リトナビル、インジナビル、ダルナビル、アンプレナビル、ホスアンプレナビル及びチプラナビル等の市販のHIV−1プロテアーゼ阻害剤、並びにこれらの化合物のいずれかの誘導体及び類似体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
HDAC阻害剤とHIV−1プロテアーゼ阻害剤との好ましい組み合わせとしては、例えば、ダルナビルとエンチノスタットとの組み合わせが挙げられる。
【0054】
一実施形態において、HIV−1プロテアーゼ阻害剤は、200mg〜2500mgの1日総用量で被験体に投与される。好ましい実施形態では、HIV−1プロテアーゼ阻害剤が、500mg〜2250mgの1日総用量で被験体に投与される。最も好ましい実施形態では、HIV−1プロテアーゼ阻害剤が、1日総用量750mg〜2250mg、又は750mgで、又はおよそ750mg、又は1250mgで、又はおよそ1250mg、又は1500mgで、又はおよそ1500mg、又は2250mgで、又はおよそ2250mgで被験体に投与される。
【0055】
前記式(I)の化合物は、HIV−1が感染した末梢リンパ球を慢性感染期に選択的に殺傷する効果を有する。
【0056】
したがって、本発明の医薬組成物は、HIV−1感染の慢性感染期に投与することが好ましい。慢性感染期は、HIV−1に対する複数の抗体及び限定的なTh1/CTL応答によって特徴付けられる。
【0057】
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2015−11506及び特願2015−119111の明細書に記載される内容を包含する。
【実施例】
【0058】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0059】
以下の実施例において、前記式(I)で示される化合物としては、市販されており、入手しやすいことから、エンチノスタットを用いた。
【0060】
(実施例1)HIV−1感染細胞特異的な細胞死誘導効果(ヒト末梢血単核球)
HIV−1 III株を、in vitroで健常人由来の末梢血単核球に感染させて、ヒト末梢血単核球HIV−1慢性感染細胞モデルを作製し、HDAC阻害剤であるエンチノスタットを作用させた。
【0061】
HIV−1感染後期において、エンチノスタットは0.25〜0.5μMで、HIV−1感染ヒト末梢血単核球に対して特異的、選択的に細胞死を誘導した。0.5μMの濃度でHIV−1感染細胞の生細胞率が偽感染(非感染)細胞の生細胞率の約50%に減少した。
【0062】
(実施例2)HIV−1プロテアーゼ阻害剤とHDAC阻害剤の併用効果
エンチノスタットは感染細胞においてHIV−1産生を活性化させ、二次感染を引き起こす可能性があるため、HDAC阻害剤とは作用点が異なり、HIV−1複製の後期課程に作用してHIV−1の複製を抑制するHIV−1プロテアーゼ阻害剤との併用試験を図1に示す実験手順に従って行った。
【0063】
HIV−1 III株を、in vitroで健常人由来の末梢血単核球に感染させて、ヒト末梢血単核球HIV−1慢性感染細胞モデルを作製し、HIV−1プロテアーゼ阻害剤(NFV、SQV)とHDAC阻害剤(エンチノスタット、ボリノスタット)の併用効果を検討した。
【0064】
HIV−1感染、又は偽感染(=非感染)後、7日間培養し、各種濃度のHIV−1プロテアーゼ阻害剤で3日間処理した。その後3日間、同濃度のHIV−1プロテアーゼ阻害剤と各種HDAC阻害剤の併用処理を行った。各サンプルの生細胞率は色素法で、また、HIV−1産生量はELISA法(HIV−1 p24 Antigen ELISA)で測定した。
【0065】
結果を図2〜4に示す。
【0066】
HIV−1プロテアーゼ阻害剤であるNFV及びSQVは、いずれも、エンチノスタット0.5μM存在下において、濃度依存性にHIV−1産生を抑制したが、エンチノスタットによるHIV−1感染細胞特異的な細胞死誘導効果には影響を与えなかった。
【0067】
これらの結果から、エンチノスタットとHIV−1プロテアーゼ阻害剤との併用により、エンチノスタットによるHIV−1産生活性化による二次感染を抑制しながらHIV−1感染細胞数を減少させることにより、HIV−1感染症を根治できる可能性があると考えられた。
【0068】
(実施例3)HIV−1プロテアーゼ阻害剤とHDAC阻害剤の併用効果
実施例2では、HIV−1プロテアーゼ阻害剤で前処理した後、HIV−1プロテアーゼ阻害剤とHDAC阻害剤とを併用することにより、HIV−1産生を抑制しながら感染細胞に細胞死を誘導できることを確認した。
【0069】
本実施例では、HIV−1プロテアーゼ阻害剤とHDAC阻害剤との同時投与のみにより同様の効果が得られるかどうかについて、HIV−1プロテアーゼ阻害剤としてネルフィナビル(NFV)及びダルナビル(DRV)を用いて、エンチノスタットとの併用試験を図5に示す実験手順に従って行った。
【0070】
HIV−1 III株を、in vitroで健常人由来の末梢血単核球に感染させて、ヒト末梢血単核球HIV−1慢性感染細胞モデルを作製し、HIV−1プロテアーゼ阻害剤(NFV、DRV)とHDAC阻害剤(エンチノスタット)の併用効果を検討した。
【0071】
HIV−1感染、又は偽感染(=非感染)後、11日間培養し、12日目から3日間、各濃度のHIV−1プロテアーゼ阻害剤とHDAC阻害剤の併用投与を行った。各サンプルの生細胞率は色素法で、また、HIV−1産生量はELISA法(HIV−1 p24 Antigen ELISA)で測定した。
【0072】
結果を図6及び7に示す。
【0073】
エンチノスタットは、in vitroにおけるヒト末梢血単核球を用いたHIV−1慢性感染細胞モデルにおいて、HIV−1プロテアーゼ阻害剤であるネルフィナビルあるいはダルナビルとの同時投与により、HIV−1産生を抑制しながら感染細胞に細胞死を誘導できることが明らかとなった。
【0074】
特にダルナビルは1μMまで非感染細胞に対する毒性がなく、更にエンチノスタットによるHIV−1感染細胞特異的細胞死誘導効果にも全く影響することなく、100nM以上でエンチノスタットによるHIV−1産生増加を強力に抑制した。これらの結果から、特にダルナビルとエンチノスタットとの併用投与は、効率よくかつ安全に、エンチノスタットによる二次感染を予防しながらHIV−1感染細胞数を減らすことでHIV−1感染症を根治できる可能性があると考えられた。
【0075】
(実施例4)エンチノスタット誘導体チダミドのHIV−1感染細胞特異的な細胞死誘導効果
図8に示す実験手順に従ってエンチノスタット誘導体チダミドのHIV−1感染細胞特異的な細胞死誘導効果を検討した。
【0076】
HIV−1 III株を、in vitroで健常人由来の末梢血単核球に感染させて、ヒト末梢血単核球HIV−1慢性感染細胞モデルを作製し、各種HDAC阻害剤(エンチノスタット、チダミド)を作用させた。
【0077】
HIV−1感染、又は偽感染(=非感染)後、11日間培養し、各種濃度の各種HDAC阻害剤で処理した。各サンプルの生細胞率は色素法で、また、HIV−1産生量はELISA法(HIV−1 p24 Antigen ELISA)で測定した。
【0078】
結果を図9に示す。
【0079】
チダミドはエンチノスタットと同様にHIV−1感染細胞特異的な細胞死誘導効果を示した。チダミドはエンチノスタットより非感染細胞に対する毒性は低いが、感染細胞に対する細胞死誘導効果も弱かった。
【0080】
前記式(I)におけるAr又はArがエンチノスタット、チダミドと異なる他の誘導体、例えば、Arが2位にアミノ基を有しないフェニル基である誘導体ではHIV−1感染細胞特異的な細胞死誘導効果が低下した。
【0081】
(実施例5)HIV−1感染細胞特異的な細胞死誘導効果(CD4T)
ヒト末梢血単核球においてHIV−1が主に感染する細胞はCD4陽性Tリンパ球(CD4T)である。
【0082】
本実施例では、ヒト末梢血単核球から精製したCD4Tを用いて、HIV−1感染CD4Tに対する各種HDAC阻害剤の作用について解析を行った。
【0083】
HIV−1 III株を、in vitroで健常人由来のCD4Tに感染させて、CD4T HIV−1慢性感染細胞モデルを作製し、各種HDAC阻害剤(エンチノスタット、チダミド、ボリノスタット(SAHA))を作用させた。
【0084】
HIV−1感染、又は偽感染(=非感染)後、実験(1)では3日目から4日間、実験(2)では7日目から4日間、各濃度の各種HDAC阻害剤で処理した。各サンプルの生細胞率は色素法で、また、HIV−1産生量はELISA法(HIV−1 p24 Antigen ELISA)で測定した。実験手順を図10に示す。
【0085】
実験(1)の結果を図11に、実験(2)の結果を図12に示す。
【0086】
末梢血単核球の結果と同様にCD4Tにおいても、エンチノスタット及びチダミドは、HIV−1感染細胞特異的な細胞死誘導効果を示した。その効果はHIV−1感染3〜7日目の感染後早期から認められた。
【0087】
チダミドはエンチノスタットと比較して、非感染細胞に対する毒性は低いが、感染細胞に対する細胞死誘導効果も弱かった。
【0088】
一方、ボリノスタット(SAHA)はCD4Tにおいても、HIV−1感染細胞特異的な細胞死誘導効果を示さなかった。
【0089】
以上の結果から、エンチノスタット及びチダミドは、CD4Tでは感染後早期からHIV−1感染細胞特異的な細胞死誘導効果を示すことが明らかとなった。このことは、末梢血単核球と比較してCD4TではHIV−1感染がより効率的に行われることと関連する可能性があると考えられた。
【0090】
(実施例6)HIV−1プロテアーゼ阻害剤、HIV−1逆転写酵素阻害剤又はHIV−1インテグラーゼ阻害剤とHDAC阻害剤の併用
HDAC阻害剤であるエンチノスタット及びチダミド(エンチノスタット誘導体)は、in vitroにおけるヒト末梢血単核球を用いたHIV−1慢性感染細胞モデルにおいて、感染細胞特異的に細胞死誘導することが明らかとなった。
【0091】
また、ダルナビルなどのHIV−1プロテアーゼ阻害剤との併用により、エンチノスタットにより活性化されたHIV−1産生を抑制しながら感染細胞に細胞死を誘導できることを確認した。
【0092】
本実施例では、HIV−1逆転写酵素阻害剤との併用により同様の効果が得られるかどうかについて、現在臨床において最も使用されているものの一つであるテノフォビル(TFV)を用いて図13に示す実験手順に従ってエンチノスタットとの併用試験を行い検討した。
【0093】
結果を図14に示す。
【0094】
in vitroにおけるヒトCD4陽性Tリンパ球(CD4T)を用いたHIV−1慢性感染細胞モデルにおいて、HIV−1プロテアーゼ阻害剤であるダルナビル(DRV)は100nMの濃度において、エンチノスタットとの同時投与により、エンチノスタットによるHIV−1産生活性化を強力に抑制しながら感染細胞に特異的に細胞死を誘導できることが明らかとなった。
【0095】
しかし、テノフォビル(TFV)はエンチノスタットによるHIV−1感染細胞特異的細胞死誘導効果には影響しないものの、1μMの濃度においても、エンチノスタット存在、非存在に関わらず、HIV−1産生を抑制することはなかった。このことから、(1)感染後7日目においてHIV−1感染CD4Tはすでに慢性感染細胞の状態であり、また(2)エンチノスタットはゲノム遺伝子にインテグレートしているHIV−1遺伝子の転写活性化させるため、HIV−1逆転写酵素阻害剤であるテノフォビルはHIV−1産生を抑制できなかったと示唆される。
【0096】
次に、HIV−1インテグラーゼ阻害剤との併用により同様の効果が得られるかどうかについて、現在臨床において最も使用されているものの一つであるドルテグラビル(DTG)を用いて図15に示す実験手順に従ってエンチノスタットとの併用試験を行い検討した。
【0097】
結果を図16に示す。
【0098】
in vitroにおけるヒトCD4陽性Tリンパ球(CD4T)を用いたHIV−1慢性感染細胞モデルにおいて、HIV−1インテグラーゼ阻害剤であるドルテグラビル(DTG)はエンチノスタット非存在下ではほとんど抗HIV−1効果を示さなかった。またエンチノスタット存在下では、エンチノスタットによるHIV−1感染細胞特異的細胞死誘導効果には影響しないものの、1μMの濃度においてもHIV−1産生を抑制することはなかった。このことから、(1)感染後7日目においてHIV−1感染CD4Tはすでにほとんど慢性感染細胞の状態であり、また(2)エンチノスタットはゲノム遺伝子にインテグレートしているHIV−1遺伝子の転写活性化させるため、HIV−1インテグラーゼ阻害剤であるドルテグラビル(DTG)はHIV−1産生を抑制できなかったと示唆される。
【0099】
これらの結果から、エンチノスタットによる二次感染を予防しながらHIV−1感染細胞数を減らすためにはHIV−1プロテアーゼ阻害剤など慢性感染細胞からのHIV−1産生を抑制可能な抗HIV−1薬との併用が必要であると考えられた。
【0100】
更に、HIV−1逆転写酵素阻害剤及びHIV−1インテグラーゼ阻害剤は慢性感染細胞においてエンチノスタットによって活性化されたHIV−1産生は抑制できないが、臨床においては、HDAC阻害剤であるエンチノスタット及びチダミド(エンチノスタット誘導体)に、ダルナビルなどのHIV−1プロテアーゼ阻害剤を併用するとともに、HIV−1逆転写酵素阻害剤やHIV−1インテグラーゼ阻害剤を併用することにより、より強力に二次感染を予防できると考えられる(これらの薬剤は別の非感染細胞で働く)。
【0101】
(実施例7)細胞死誘導メカニズムの解析
ヒト末梢血単核球においてHIV−1が主に感染する細胞はCD4陽性Tリンパ球(CD4T)である。
【0102】
本実施例では、ヒト末梢血単核球から精製したCD4Tを用いて、細胞死誘導メカニズムについて解析を行った。
【0103】
HIV−1 III株を、in vitroで健常人由来のCD4Tに感染させて、CD4T HIV−1慢性感染細胞モデルを作製し、HDAC阻害剤(エンチノスタット)を作用させた。
【0104】
HIV−1感染、又は偽感染(=非感染)後、7日目から24又は48時間、0.5μMのHDAC阻害剤(エンチノスタット)で処理した。抽出した蛋白をウェスタンブロット法で解析した。結果を図17に示す。
【0105】
Cleaved caspase-3及びCleaved PARPの発現をそれぞれ内部コントロールであるβ-tublinの発現で補正してグラフにした。
【0106】
0.5μMのエンチノスタットで24時間処理したことにより、偽感染CD4T(Mock)及びHIV−1感染CD4T(HIV)において、アポトーシスを誘導する蛋白分解酵素であるcaspase-3の活性化型(cleaved caspase-3)の増加が認められたが、その増加はHIV−1感染CD4T(HIV)においてより顕著であった。0.5μMのエンチノスタット48時間処理では、偽感染CD4T及びHIV−1感染CD4Tにおいて、エンチノスタット処理による活性化型caspase-3の発現の増加は認められなかったが、これは細胞死による活性化型caspase-3の分解が進んだためと考えられる。
【0107】
また、活性化したcaspase群により切断されたPARP(cleaved PARP)はアポトーシスの後期ステージにおいても発現が持続する。0.5μMのエンチノスタットで偽感染CD4T及びHIV−1感染CD4Tを24時間処理すると、切断されたPARPの増加が認められた。更に、エンチノスタットで48時間処理されたHIV−1感染CD4Tでは、PARP発現が著しく増加していた。
【0108】
これらの結果から、エンチノスタットはアポトーシスを介してHIV−1感染CD4Tに特異的に細胞死を誘導していると考えられた。
【0109】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17