【実施例1】
【0014】
まず、本発明の第1の実施形態として、ウレタンパッドと表皮部材とを一体成型する場合に、ウレタンパッドと表皮部材との間にウレタンと反応しない(接着しない)材料で形成されたフィルムを介在させて形成する構成とした場合について説明する。
【0015】
一体成型後にウレタンパッドに不具合が見つかり、表皮部材をウレタンパッドからはがして表皮部材を再生する場合がある。本実施例では、この場合、ウレタンパッドと表皮部材との間にウレタンと反応しない(接着しない)材料で形成されたフィルムを介在させることによりウレタンパッドと表皮部材との接着面積を少なくして表皮部材をはがしやすくした。その結果、ウレタンパッドからはがすことにより表皮部材が破れたり傷ついたりすることをなくし、表皮部材を再生することを可能にした。
【0016】
図1は、本発明で対象とする車両用シート1の基本的な構成を示す。車両用シート1は、搭乗者が着座するシートクッション2、シートクッションに着座した搭乗者が背中をもたれ掛けるシートバック3、搭乗者の頭部を支えるヘッドレスト4を備えている。
【0017】
シートクッション2及びシートバック3、ヘッドレスト4は、それぞれ、内部に発泡成形したウレタンパッドを備え、その表面を表皮部材で覆うようにして構成されている(
図9参照)。
【0018】
本実施例におけるシートクッション2及びシートバック3、ヘッドレスト4の表面を覆う表皮部材200の構成を
図2に示す。表皮部材200は、表面の表皮材201、その下のポリウレタンで形成されたクッション材202、クッション材202の裏面を覆う裏生地203で形成されている。表皮材201と裏生地203とは、粘着剤でクッション材202に貼り合わされている。
【0019】
210はフィルムで、ウレタンパッド170(
図9参照)と表皮部材200との間のセパレータの役目を果たすものである。フィルム210は、例えばポリプロピレン又はポリエチレンにフッ素(F)、シリコン(Si)を添加して形成した厚さが0.2mm以下のものであって、ウレタンと反応しない性質を持っている。
【0020】
フィルム210としては、このほかに、ポリプロピレン又はポリエチレンの薄いフィルムに、無機物質(例えば、無機ガラス粉末体カート)又は非晶質樹脂、又はフッ素、又はシリコン等をコーティングしたものを用いてもよい。
【0021】
フィルム210は、表皮部材200の裏生地203に貼り合せられていてもよいし、貼り合されていなくてもよい。
【0022】
表皮部材200とウレタンパッド170とを一体成型する手順を図を用いて説明する。
【0023】
図3は、ウレタンパッド170を成型するための金型である下型100の断面を示す。下型100は、ウレタンパッド160の形状に対応した断面形状を有して形成されている。
【0024】
図4Aは、下型100に表皮部材200を載せた状態を示す。下型100に対して、表皮部材200は
図2に示した構成と上下を逆にした状態、即ち表皮材201が下型100と接する側に向けて載せる。この状態で、フィルム210が上側になる。
【0025】
フィルム210には、
図4Aの丸で囲んだA点において、その拡大図を
図4Bに示すように、切欠き部211が形成されている。この切欠き部211において、表皮部材200の最上面の裏生地203が露出した状態になっている。この切欠き部211は、
図4Aに示した断面では4か所あり、それらが
図4Aの紙面に垂直な方向に所定の長さを有して離散的に複数形成されている。
【0026】
図5は、下型100の上に表皮部材200を載せた後に、上型150を下型100の上に載せた状態を示している。上型150には、下型100との間の空間に発泡ウレタンを注入するための導入口151が形成されている。
【0027】
図6は、上型150の導入口151から、図示していない手段で上型150と下型100とで形成された空間に発泡ウレタン材料161を注入している状態を示す。注入された発泡ウレタン素材161は上型150と下型100とで形成された空間内で発泡する。
【0028】
図7は、発泡したウレタンが、上型150と下型100とで形成された空間内に充満した状態を示す。この状態で所定の時間放置すると、発泡したウレタン160が固化する。この時、下型100に載置した表皮部材200は、ウレタンと反応しない(接着しない)材料で形成されたフィルム210で覆われているために、発泡したウレタン160とは接着しない。
【0029】
一方、フィルム210に形成された切欠き部211では、発泡したウレタン160と表皮部材200の最上面の裏生地203が接触して発泡したウレタン160と裏生地203が接着する。この結果、発泡したウレタン160と表皮部材200とは、複数の箇所で部分的に接着した状態となる。
【0030】
図8は、固化した発泡ウレタン160により形成されたウレタンパッド170とこのウレタンパッド170に部分的に接着した表皮部材200とを下型100から取り出した状態を示している。
【0031】
このようにして製造されたシートバック3の例を
図9に示す。表面を覆う表皮部材200は、その下側のウレタンパッド170と、領域212で接着している。すなわち、ウレタンパッド170と表皮部材200との間に介在するフィルム210を間にはさんだ部分
ではウレタンパッド170と表皮部材200とは接着していない。一方、フィルム210の切欠き部211に対応する領域212ではウレタンパッド170と表皮部材200とが接着している。
【0032】
図9に示したような表面を表皮部材200で覆った状態で発泡ウレタン160により発泡成形して製造したウレタンパッド170に、発泡量の不足や形状の不良などの不良があった場合、表面を覆う表皮部材200をウレタンパッド170から引きはがして、ウレタンパッド170を廃棄して、表皮部材200を再利用する場合がある。
【0033】
この場合、本実施例によれば、ウレタンパッド170と表皮部材200とが接着している部分は、フィルム210の切欠き部211に対応する接着された領域212だけであり、ウレタンパッド170と表皮部材200とを全面で接着する場合に対して大幅に小さくすることができる。
【0034】
その結果、表皮部材200をウレタンパッド170から引きはがすのに要する時間が短くて済む。更に、引きはがす面積も従来技術の全面を接着した場合と比べて大幅に小さいので、引きはがすことにより表皮部材200に破れが発生する割合を格段に小さくすることができる。
【0035】
なお、上記に説明した実施例では、ウレタンと反応しない(接着しない)材料で形成されたフィルム210をウレタンパッド170と表皮部材200との間に挟む構成を説明したが、フィルム210を用いずに、表皮部材200の裏生地203のウレタンパッド170と接する側にフッ素、又はシリコン、無機物質(例えば、無機ガラス粉末体カート)又は非晶質樹脂等のウレタンと反応しない材料をコーティングしてもよい。この場合も、裏生地203で、フィルム210の切欠き部211に相当する位置に、上記したウレタンと反応しない材料をコーティングしない領域を設ければよい。
【実施例2】
【0036】
実施例1では、フィルム210をウレタンパッド170と表皮部材200との間に挟む構成を説明したが、本実施例では、ウレタンパッドを成型後にフィルムを除去してシートクッション2及びシートバック3、ヘッドレスト4を形成する例を説明する。
【0037】
図10は、下型300に表皮部材200を載せ、その上に分割したフィルム(セパレータ)401,402,403を、隙間421,422を開けて配置した状態を示す。隙間421,422は表皮部材200を露出させて発泡ウレタンと接着させるためのもので、幅は1〜2cmである。
【0038】
ここで、表皮部材200は実施例1で説明したものと同じ構成をしている。フィルム(セパレータ)401,402,403は、ポリプロピレン又はポリエチレンにフッ素(F)、シリコン(Si)を添加して形成したものであって、厚さが実施例1の場合と比べて厚く、2〜3mmで、ウレタンと反応しない性質を持っている。
【0039】
フィルム401,402,403としては、このほかに、ポリプロピレン又はポリエチレンのフィルムに、無機物質(例えば、無機ガラス粉末体カート)又は非晶質樹脂、又はフッ素、又はシリコン等をコーティングしたものを用いてもよい。
【0040】
フィルム401及び403は表皮部材200よりも長く、表皮部材200よりも飛び出している部分(端部)411及び413は、下型300の壁部301,302の上面に延びている。
【0041】
図11は、下型300の上に表皮部材200とフィルム(セパレータ)401,402,403を載せた後に、上型310を下型300の上に載せた状態を示している。上型310には、下型300との間の空間に発泡ウレタンを注入するための導入口320が形成されている。この状態で、フィルム401及び403の下型300の壁部301,302の上面に延びている部分(端部)411及び413は、上型310で押えられている。
【0042】
図12は、上型310の導入口320から、図示していない手段で上型310と下型300とで形成された空間に発泡ウレタン材料181を注入している状態を示す。注入された発泡ウレタン素材181は上型310と下型300とで形成された空間内で発泡する。
【0043】
図13は、発泡したウレタンが、上型310と下型300とで形成された空間内に充満した状態を示す。この状態で所定の時間放置すると、発泡したウレタン180が固化する。この時、下型300に載置した表皮部材200のウレタンと反応しない(接着しない)材料で形成されたフィルム401,402,403で覆われた部分は、発泡したウレタン180とは接着しない。
【0044】
一方、フィルム401,402,403の間の隙間421,422では、発泡したウレタン180と表皮部材200の最上面の裏生地203が接触して発泡したウレタン180と裏生地203が接着する。この結果、発泡したウレタン180と表皮部材200とは、隙間421,422に対応する箇所で部分的に接着した状態となる。
【0045】
図14は、固化した発泡ウレタン180により形成されたウレタンパッド190とこのウレタンパッド190に部分的に接着した表皮部材200とを下型300から取り出した状態を示している。
【0046】
ウレタンパッド190と表皮部材200との間に挟まれたフィルム401,402,403は、端部411及び413がウレタンパッド190と表皮部材200との間からはみ出している状態になっている。この状態で、フィルム401,402,403を挟んだ部分ではウレタンパッド190と表皮部材200とは接着されておらず、端部411及び413を引っ張ってフィルム401,402,403をウレタンパッド190と表皮部材200との間から引き出すことにより、
図15に示すように、ウレタンパッド190の表面を表皮部材200で覆った状態になる。
【0047】
このようにして製造されたシートバック3の例を
図16に示す。表面を覆う表皮部材200は、その下側のウレタンパッド190と、点線で示した領域431,432で接着している。これにより、シートバック3を使用中に、表皮部材200がウレタンパッド190に対して大きくずれることがなく、快適に使用することができる。
【0048】
一方、
図16に示したような表面を表皮部材200で覆った状態で発泡ウレタン180により発泡成形して製造したウレタンパッド190に、発泡量の不足や形状の不良などの不良があった場合、表面を覆う表皮部材200をウレタンパッド190から引きはがして、ウレタンパッド190を廃棄して、表皮部材200を再利用する場合がある。
【0049】
この場合、本実施例によれば、ウレタンパッド190と表皮部材200とが接着している部分は、領域431と432だけであり、従来技術のウレタンパッド190と表皮部材200とを全面で接着する場合に対して大幅に小さくすることができる。
【0050】
その結果、表皮部材200をウレタンパッド190から引きはがすのに要する時間が短くて済む。更に、引きはがす面積も従来の全面を接着した場合と比べて大幅に小さいので、引きはがすことにより表皮部材200に破れが発生する割合を格段に小さくすることができる。
【0051】
なお、上記に説明した実施例では、ウレタンと反応しない(接着しない)材料で形成されたフィルム401,402,403をウレタンパッド190と表皮部材200との間に挟む構成を説明したが、フィルム401,402,403の数はこれに限定されず、表皮部材200とウレタンパッド190とを接着する位置に応じて増減してもよい。