(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
<ガスセンサの概要>
図1は、本発明の実施の形態の一例であるガスセンサ100の構成を概略的に示す断面模式図である。
図1(a)は、ガスセンサ100の主たる構成要素であるセンサ素子101の長手方向に沿った垂直断面図である。また、
図1(b)は、
図1(a)のA−A’位置におけるセンサ素子101の長手方向に垂直な断面を含む図である。
【0017】
ガスセンサ100は、いわゆる混成電位型のガスセンサである。ガスセンサ100は、概略的にいえば、ジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性固体電解質たるセラミックスを主たる構成材料とするセンサ素子101の表面に設けた外部電極である検知電極10と、該センサ素子101の内部に設けた基準電極20との間に、混成電位の原理に基づいて両電極近傍における測定対象たるガス成分の濃度の相違に起因して電位差が生じることを利用して、被測定ガス中の当該ガス成分の濃度を求めるものである。
【0018】
より具体的には、ガスセンサ100は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンなどの内燃機関の排気管内に存在する排ガスを被測定ガスとし、該被測定ガス中の検知対象ガス成分を、好適に求めるためのものである。検知対象ガス成分としては、例えば、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、アンモニア(NH
3)ガスなどが例示される。好ましくは、ガスセンサ100は、検知電極10の組成や、ガスセンサ100の構造(例えば保護層の気孔率)や制御態様(例えば温度制御態様)などを違えることで、特定の検知対象ガス成分のみを好適に検知できるように構成される。
【0019】
また、センサ素子101には、上述した検知電極10および基準電極20に加えて、絶縁層11と、電極蒸発抑止膜12と、基準ガス導入層30と、基準ガス導入空間40と、保護層50とが主に設けられてなる。
【0020】
なお、本実施の形態においては、センサ素子101が、それぞれが酸素イオン伝導性固体電解質からなる第1固体電解質層1と、第2固体電解質層2と、第3固体電解質層3と、第4固体電解質層4と、第5固体電解質層5と、第6固体電解質層6との6つの層を、図面視で下側からこの順に積層した構造を有し、かつ、主としてそれらの層間あるいは素子外周面に他の構成要素を設けてなるものとする。なお、それら6つの層を形成する固体電界質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0021】
ただし、ガスセンサ100がセンサ素子101をこのような6つの層の積層体として備えることは必須の態様ではない。センサ素子101は、より多数あるいは少数の層の積層体として構成されていてもよいし、あるいは積層構造を有していなくともよい。
【0022】
以下の説明においては、便宜上、図面視で第6固体電解質層6の上側に位置する面をセンサ素子101の表面Saと称し、第1固体電解質層1の下側に位置する面をセンサ素子101の裏面Sbと称する。また、ガスセンサ100を使用して被測定ガス中の検知対象ガス成分の濃度を求める際には、センサ素子101の一方端部である先端部E1から少なくとも検知電極10を含む所定の範囲が、被測定ガス雰囲気中に配置され、他方端部である基端部E2を含むその他の部分は、被測定ガス雰囲気と接触しないように配置されるものとする。
【0023】
検知電極10は、被測定ガスを検知するための電極である。検知電極10は、Auを所定の比率で含むPt、つまりはPt−Au合金と、ジルコニアとの多孔質サーメット電極として形成されてなる。係る検知電極10は、センサ素子101の表面Saであって、長手方向の一方端部たる先端部E1寄りの位置に、平面視略矩形状に、かつ5μm以上30μm以下の厚みにて、設けられてなる。
【0024】
なお、ガスセンサ100が使用される際には、少なくとも係る検知電極10が設けられている部分までが、被測定ガス中に露出する態様にて配置される。より詳細には、ガスセンサ100においては、
図1においては図示を省略する保護カバー102(
図2参照)がセンサ素子101の周囲を囲繞してなるが、保護カバー102には被測定ガスを保護カバー102内外で流通させるためのガス導入孔(先端部ガス導入孔H1および側部ガス導入孔H2(
図2参照))が設けられており、該保護カバー102内で検知電極10は被測定ガスと接触する。
【0025】
また、検知電極10は、その構成材料たるPt−Au合金の組成を好適に定めることによって、所定の濃度範囲について、検知対象ガス成分に対する触媒活性が不能化されてなる。つまりは、検知電極10での検知対象ガス成分の分解反応を抑制させられてなる。これにより、ガスセンサ100においては、検知電極10の電位が、当該濃度範囲の検知対象ガス成分に対して選択的に、その濃度に応じて変動する(相関を有する)ようになっている。換言すれば、検知電極10は、当該濃度範囲の検知対象ガス成分に対しては、電位の濃度依存性が高い一方で、他の被測定ガスの成分に対しては電位の濃度依存性が小さいという特性を有するように、設けられてなる。
【0026】
より詳細には、本実施の形態に係るガスセンサ100のセンサ素子101においては、検知電極10を構成するPt−Au合金粒子の表面におけるAu存在比を好適に定めることで、所定濃度範囲において、検知対象ガス成分の濃度に対する電位の依存性が顕著であるように、検知電極10が設けられてなる。
【0027】
なお、本明細書において、Au存在比とは、検知電極10を構成する貴金属粒子の表面のうち、Ptが露出している部分に対する、Auが被覆している部分の面積比率を意味している。本明細書においては、貴金属粒子の表面に対しAES(オージェ電子分光法)分析を行うことでより得られるオージェスペクトルにおけるAuとPtとについての検出値を用い、
Au存在比=Au検出値/Pt検出値・・・(1)
なる式にてAu存在比を算出する。Ptが露出している部分の面積と、Auによって被覆されてなる部分の面積が等しいときに、Au存在比は1となる。
【0028】
なお、Au存在比は、貴金属粒子の表面に対しXPS(X線光電子分光法)分析を行うことにより得られるAuとPtとについての検出ピークのピーク強度から、相対感度係数法を用いて算出することも可能である。係る手法に得られるAu存在比の値と、AES分析の結果に基づいて算出されるAu存在比の値とは、実質的に同じとみなせる。
【0029】
基準電極20は、センサ素子101の内部に設けられた、被測定ガスの濃度を求める際に基準となる平面視略矩形状の電極である。基準電極20は、Ptとジルコニアとの多孔質サーメット電極として形成されてなる。
【0030】
なお、基準電極20は、気孔率が10%以上30%以下であり、厚みが5μm以上15μm以下であるように形成されればよい。また、基準電極20の平面サイズは、
図1に例示するように検知電極10に比して小さくてもよいし、検知電極10と同程度でもよい。
【0031】
絶縁層11と電極蒸発抑止膜12とは、センサ素子101の表面Saに、この順に積層形成されてなる。
【0032】
絶縁層11は、アルミナからなり、電極蒸発抑止膜12をセンサ素子101の他の部位との間の電気的絶縁を確保する目的で設けられる、電極蒸発抑止膜12の下地層である。なお、絶縁層11を設けることなく電極蒸発抑止膜12を第6固体電解質層6に接触させて設けることは、電極蒸発抑止膜12が検知電極10と同様の電極として作用してしまうため好ましくない。また、電極蒸発抑止膜12が検知電極10と接触してしまうと、一体の電極となってしまうことから、これを避けるべく、絶縁層11(および電極蒸発抑止膜12)は、検知電極10と離隔させて設けられる。係る絶縁層11は、10μm以上35μm以下の厚みに形成されればよい。
【0033】
電極蒸発抑止膜12は、検知電極10からのAuの蒸発を抑止する目的で設けられる。電極蒸発抑止膜12は、検知電極10を構成するPt−Au合金と同じ組成あるいはそれ以上にAuリッチな(Au組成比が大きい)Pt−Au合金、もしくはAuからなり、絶縁層11の上に形成される。電極蒸発抑止膜12は、絶縁層11と略同一の平面形状にて、5μm以上30μm以下の厚みに形成される。
【0034】
好ましくは、電極蒸発抑止膜12を構成するPt−Au合金は、検知電極10を構成するPt−Au合金よりも20wt%以上Auリッチであるように設けられる。係る場合、検知電極10からのAuの蒸発がより確実に抑止される。すなわち、電極蒸発抑止膜12を構成するPt−Au合金のAu組成比(以下、単に電極蒸発抑止膜12のAu組成とも称する)の上限は、Auにて設けられる場合の100wt%である。それゆえ、本実施の形態においては、実際にはAuのみからなる場合も含め、電極蒸発抑止膜12がPt−Au合金からなるとする場合がある。
【0035】
ただし、検知電極10と電極蒸発抑止膜12とを、後述するように、スクリーン印刷と、その後の固体電解質層と電極との一体焼成(共焼成)とによって形成する場合、少なくとも、電極蒸発抑止膜12のAu組成は60wt%以下とするのが好ましい。Auの融点(1064℃)が焼成温度よりも低いために、Au組成が過度に大きいと、焼成途中において検知電極10および電極蒸発抑止膜12が融解してしまい、好ましくないからである。なお、電極蒸発抑止膜12は検知電極10と同じ組成か20wt%以上Auリッチな組成にて形成されるので、電極蒸発抑止膜12が好適に形成される組成範囲にあれば、検知電極10も好適に形成される。
【0036】
なお、
図1(a)においては電極蒸発抑止膜12(および絶縁層11)が、図面視左右方向である素子長手方向において検知電極10よりも先端部E1側に所定距離だけ離隔した位置に設けられているが、これはあくまで例示に過ぎない。
【0037】
電極蒸発抑止膜12の詳細については後述する。
【0038】
基準ガス導入層30は、センサ素子101の内部において基準電極20を覆うように設けられた、多孔質のアルミナからなる層であり、基準ガス導入空間40は、センサ素子101の基端部E2側に設けられた内部空間である。基準ガス導入空間40には、検知対象ガス成分の濃度を求める際の基準ガスとしての大気(酸素)が外部より導入される。
【0039】
これら基準ガス導入空間40と基準ガス導入層30は互いに連通しているので、ガスセンサ100が使用される際には基準ガス導入空間40および基準ガス導入層30を通じて基準電極20の周囲が絶えず大気(酸素)で満たされるようになっている。それゆえ、ガスセンサ100の使用時、基準電極20は、常に一定の電位を有してなる。
【0040】
なお、基準ガス導入空間40および基準ガス導入層30は周囲の固体電解質によって被測定ガスと接触しないようになっているので、検知電極10が被測定ガスに曝されている状態であっても、基準電極20が被測定ガスと接触することはない。
【0041】
図1に例示する場合であれば、センサ素子101の基端部E2の側において第5固体電解質層5の一部が外部と連通する空間とされる態様にて基準ガス導入空間40が設けられてなる。また、第5固体電解質層5と第6固体電解質層6との間においてセンサ素子101の長手方向に延在させる態様にて基準ガス導入層30が設けられてなる。
【0042】
保護層50は、センサ素子101の表面Saにおいて少なくとも検知電極10を被覆する態様にて設けられた、絶縁性材料たるアルミナからなる多孔質層である。保護層50は、ガスセンサ100の使用時に被測定ガスに連続的に曝されることによる検知電極10の劣化を抑制する電極保護層として設けられてなる。
図1に例示する場合においては、保護層50は、検知電極10のみならず、電極蒸発抑止膜12(および絶縁層11)を覆う態様にて設けられてなる。
【0043】
係る保護層50は、10μm〜50μmの厚みに設けられればよく、また、その気孔径は1μm以下であればよい。気孔率は5%以上40%以下であるのが好適である。気孔率は5%未満であると、被測定ガスが検知電極10に好適に到達せず、ガスセンサ100の応答性が悪くなるため好ましくない。また、後述する電極蒸発抑止膜12からのAuの蒸発によるAu飽和蒸気圧場の形成が阻害されるという点からも好ましくない。気孔率が40%を上回ると、検知電極10および電極蒸発抑止膜12に対する被毒物質の付着などが生じやすくなり、検知電極10および電極蒸発抑止膜12を保護する機能が十分に果たせなくなるため好ましくない。
【0044】
なお、ガスセンサ100をアンモニアガスセンサとして用いる場合に、保護層50の気孔率を40%以下とすると、アンモニアガス以外の他のガス成分の干渉の影響を抑制できるという効果もある。
【0045】
なお、本実施の形態においては、気孔率を、断面SEM像(2次電子像)の拡大像を画像解析することによって評価するものとする(水谷惟恭他著「セラミックプロセシング」(技報堂出版)の記載を参考にしている)。
【0046】
また、
図1(b)に示すように、ガスセンサ100においては、検知電極10と基準電極20との間の電位差を測定可能な電位差計60が備わっている。なお、
図1(b)においては検知電極10および基準電極20と電位差計60との間の配線を簡略化して示しているが、実際のセンサ素子101においては、基端部E2側の表面Saもしくは裏面Sbに図示しない接続端子がそれぞれの電極に対応させて設けられてなるとともに、それぞれの電極と対応する接続端子とを結ぶ図示しない配線パターンが表面Saおよび素子内部に形成されてなる。そして、検知電極10および基準電極20と電位差計60とは配線パターンおよび接続端子を通じて電気的に接続されてなる。以降、電位差計60で測定される検知電極10と基準電極20との間の電位差をセンサ出力とも称する。
【0047】
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74、圧力放散孔75とを備えている。
【0048】
ヒータ電極71は、センサ素子101の裏面Sb(
図1においては第1固体電解質層1の下面)に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータ電極71は外部電源80と電気的に接続され、外部電源80からヒータ電極71を通じてヒータ部70へ給電することができるようになっている。
【0049】
ヒータ72は、センサ素子101の内部に設けられた電気抵抗体である。ヒータ72は、スルーホール73を介してヒータ電極71と接続されており、該ヒータ電極71を通して外部電源80より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0050】
図1に例示する場合であれば、ヒータ72は第2固体電解質層2と第3固体電解質層3とに上下から挟まれた態様にて、かつ、基端部E2から先端部E1近傍の検知電極10の下方の位置に渡って埋設されてなる。図示しない制御手段によって外部電源80がヒータ72に印加する電圧値を適宜に制御して、所望される温度に応じたヒータ電流を流すことにより、センサ素子101全体を固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
【0051】
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2固体電解質層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3固体電解質層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0052】
圧力放散孔75は、第3固体電解質層3を貫通し、基準ガス導入空間40に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
【0053】
以上のような構成を有するガスセンサ100を用いて被測定ガスにおける検知対象ガス成分の濃度を求める際には、上述したように、センサ素子101のうち先端部E1から少なくとも検知電極10を含む所定の範囲のみを、保護カバー102内の被測定ガスが存在する空間に配置する一方で、基端部E2の側は当該空間とは隔絶させて配置し、基準ガス導入空間40に対し大気(酸素)を供給する。また、ヒータ72によりセンサ素子101を検知対象ガス成分の種類に応じて定められる400℃以上800℃以下の所定温度に加熱する。なお、ヒータ72により加熱される際のセンサ素子101の温度を、素子制御温度とも称する。本実施の形態においては、検知電極10の表面温度により素子制御温度を評価する。検知電極10の表面温度は、赤外線サーモグラフィにより評価可能である。
【0054】
上述した状態においては、被測定ガスに曝されてなる検知電極10と大気中に配置されてなる基準電極20との間に電位差が生じる。ただし、上述のように、大気(酸素濃度一定)雰囲気下に配置されてなる基準電極20の電位は一定に保たれている一方で、検知電極10の電位は、被測定ガス中の検知対象ガス成分に対して選択的に濃度依存性を有するものとなっているので、その電位差(センサ出力)は実質的に、検知電極10の周囲に存在する被測定ガスの組成に応じた値となる。それゆえ、検知対象ガス成分の濃度と、センサ出力との間には一定の関数関係(これを感度特性と称する)が成り立つ。以降の説明においては、係る感度特性につき、検知電極10についての感度特性などと称することがある。
【0055】
実際に濃度を求めるにあたっては、あらかじめ、それぞれの検知対象ガス成分の濃度が既知である相異なる複数の混合ガスを被測定ガスとしてセンサ出力を測定することで、感度特性を実験的に特定しておく。これにより、ガスセンサ100を実使用する際には、被測定ガス中の検知対象ガス成分の濃度に応じて時々刻々変化するセンサ出力を、図示しない演算処理部において感度特性に基づき濃度に換算することによって、被測定ガス中の検知対象ガス成分の濃度をほぼリアルタイムで求めることができる。
【0056】
<電極蒸発抑止膜によるAuの蒸発抑制>
図2は、センサ素子101が電極蒸発抑止膜12を備えることによって実現される、検知電極10からのAuの蒸発抑制について説明する図である。
図2(a)は、センサ素子101に電極蒸発抑止膜12を備えていないガスセンサ100を高温(例えば900℃程度)の被測定ガス雰囲気下に配置した場合の断面模式図であり、
図2(b)は、センサ素子101に電極蒸発抑止膜12を備える本実施の形態に係るガスセンサ100についての同様の断面模式図である。ただし、説明の簡単のため、保護層50は省略している。また、いずれの場合においても、センサ素子101自体も内部に備わるヒータ72により400℃以上800℃以下の素子制御温度に加熱されてなる。
【0057】
図2(a)および
図2(b)に示すように、ガスセンサ100においては、センサ素子101の周囲は筒状の(例えば円筒状の)保護カバー102で囲繞されている。係る保護カバー102には、
図2(a)および
図2(b)においてはセンサ素子101の先端部E1よりも図面視左側の先端部に設けられた先端部ガス導入孔H1と、センサ素子101の図面視上下に位置する側部に設けられた側部ガス導入孔H2とが備わっており、これらのガス導入孔を通じて被測定ガスGが保護カバー102の内部へと流入し、あるいは保護カバー102内から外部へと流出できるようになっている。
【0058】
なお、
図2(a)および
図2(b)においては図示の簡単のため、保護カバー102の左側が開放された状態となっているが、実際には、保護カバー102は有底であり、その底部の一部に先端部ガス導入孔H1が設けられる。また、側部ガス導入孔H2は通常、保護カバー102の周方向に沿って等間隔な複数の箇所に設けられる。あるいはさらに、長手方向(図面視左右方向)に多段に設けられる態様であってもよい。
【0059】
図2(a)に示すように、センサ素子101が電極蒸発抑止膜12を備えていない場合、高温の被測定ガスGと接触した検知電極10から、矢印AR1にて示すAuの蒸発が生じ、検知電極10の近傍にAu飽和蒸気場が形成される一方で、検知電極10の組成はPtリッチになる。ただし、保護カバー102内には被測定ガスGが絶えず流入し、それゆえ保護カバー102内の雰囲気は連続的に少しずつ置換され続けるので、Auの蒸発も連続的に生じる。それゆえ、いったんAu飽和蒸気場が形成されたからといってAuの蒸発が抑制されることはない。
【0060】
これに対し、
図2(b)に示す本実施の形態に係るガスセンサ100の場合、検知電極10のみならず、電極蒸発抑止膜12についても、高温の被測定ガスGと接触する。上述のように、電極蒸発抑止膜12は、少なくとも検知電極10と同じ組成か、あるいはそれ以上にAuリッチなPt−Au合金にて形成されている。それゆえ、ガスセンサ100の場合、Auの蒸発は、矢印AR2にて示すように電極蒸発抑止膜12からも生じる。係る電極蒸発抑止膜12からの蒸発は、電極蒸発抑止膜12がAuリッチであるほど、矢印AR3にて示す検知電極10からのAuの蒸発よりも支配的となる。ガスセンサ100の場合も、これら電極蒸発抑止膜12と検知電極10からのAuの蒸発により、検知電極10の近傍にAu飽和蒸気場が形成されることになるが、
図2(a)に示す場合と異なり、電極蒸発抑止膜12から蒸発するAuがAu飽和蒸気場の形成に寄与することから、
図2(a)に示す場合に比して、検知電極10からのAuの蒸発は抑制される。すなわち、電極蒸発抑止膜12からのAuの蒸発によってAu飽和蒸気場が形成されることにより、検知電極10からのAuの蒸発は抑制される。特に、電極蒸発抑止膜12がAuリッチであるほど、その抑制の効果は顕著となる。
【0061】
係るAuの蒸発抑制の効果は、例えば、センサ出力を経時的に測定することで確認される。すなわち、Auの蒸発が好適に抑制されていれば、被測定ガスにおける対象ガス成分の濃度が同じである限り、センサ出力には時間経過に伴う変動は生じないが、Auの蒸発が進行する場合、センサ出力には経時的に低下することになる。あるいは、係る効果の確認を目的とした加速劣化試験を行うとともに、当該試験前後における感度特性を比較することによっても、効果の有無の判定は可能である。
【0062】
また、センサ素子101に保護層50を設けない場合は、XPSなどの表面分析手法によって、検知電極10の表面におけるAuの存在比率を評価することによっても、効果の確認は可能である。
【0063】
なお、
図2においては保護層50を省略しているが、保護層50が設けられてなる構成においても、センサ素子101が電極蒸発抑止膜12を備えていなければ検知電極10からのAuの蒸発およびAu飽和蒸気場の形成は生じ、センサ素子101が電極蒸発抑止膜12を備えていれば電極蒸発抑止膜12からのAuの蒸発がAu飽和蒸気場の形成に寄与することで検知電極10からのAuの蒸発は抑制されることについては上述の場合と同様である。なお、保護層50が設けられてなる場合、Au飽和蒸気場は保護層50内の気孔内から保護層50の外側にかけて形成される。
【0064】
以上が、センサ素子101に電極蒸発抑止膜12を備えることで実現される、本実施の形態に係るガスセンサ100における検知電極10からのAuの蒸発抑制のメカニズムである。
【0065】
<電極蒸発抑止膜のバリエーション>
図3は、センサ素子101における電極蒸発抑止膜12のサイズ、形状、および配置のバリエーションを例示する図である。より具体的には、
図3(a)、(b)、(c)、(d)、および(e)はそれぞれ、検知電極10の配置位置を同じとした場合の、電極蒸発抑止膜12の配置バリエーションを示すセンサ素子101の上面図である。ただし、保護層50は省略している。なお、いずれの場合も、電極蒸発抑止膜12の直下には、電極蒸発抑止膜12と平面形状が同じ絶縁層11が設けられているものとする。
【0066】
図3(a)、(b)、(c)はそれぞれ、平面視矩形状の電極蒸発抑止膜12が素子長手方向において検知電極10よりも先端部E1側に設けられる場合であって、電極蒸発抑止膜12の面積が検知電極10の面積のそれぞれ1/2倍、等倍、2倍である場合を示している。ただし、電極蒸発抑止膜12と検知電極10との距離(面内距離)は一定としている。このうち、
図3(b)は、
図1に例示した場合に相当する。ここで、面内距離は、センサ素子101の面内における電極蒸発抑止膜12と検知電極10との最短距離を意味する。すなわち、両者の重心位置についての距離を表すものではない。
【0067】
一方、
図3(d)は、平面視において電極蒸発抑止膜12が検知電極10の周囲を囲繞する態様にて設けられる場合を示している。
図3(d)に示す場合においては電極蒸発抑止膜12と検知電極10の面内距離と、検知電極10に対する電極蒸発抑止膜12の面積比のいずれも、
図3(a)、(b)、(c)に示す場合よりも小さくなっている。
【0068】
また、
図3(e)は、
図3(b)に示した場合と面積が同じ平面視矩形状の電極蒸発抑止膜12が、素子長手方向において検知電極10に関し先端部E1と反対側に(つまりは基端部E2側に)配置されており、かつ、電極蒸発抑止膜12と検知電極10との面内距離が
図3(a)、(b)、(c)に示す場合より大きいという態様にて設けられる場合を示している。
【0069】
図3に示すように、電極蒸発抑止膜12の面積、形状、検知電極10に対する電極蒸発抑止膜12の面積比、および、電極蒸発抑止膜12と検知電極10との面内距離は、種々に違えられてよく、検知電極10からAuの蒸発が好適に抑制される限り、それらは限定されない。なお、図示は省略するが、検知電極10の面積はガスセンサ100に求められる特性等に応じて違えられてよいことから、電極蒸発抑止膜12の面積は、これに応じて適宜に定められればよい。
【0070】
なお、
図3に示すいずれの場合も、検知電極10と電極蒸発抑止膜12とは保護層50によって被覆されるが、例えば
図3(e)に示す場合のように、検知電極10と電極蒸発抑止膜12とが比較的大きな面内距離で離隔しているような場合は、両者は別個の保護層50によって被覆される態様であってもよい。
【0071】
図4および
図5はそれぞれ、電極蒸発抑止膜12のさらに異なるバリエーションを例示する図である。ただし、
図5においては絶縁層11の図示を省略している。実際には、センサ素子101と電極蒸発抑止膜12の間に絶縁層11が介在する。
【0072】
図4に長手方向に沿った垂直断面図が示されたセンサ素子101においては、検知電極10を保護するべく検知電極10を被覆してなる保護層50の上に、電極蒸発抑止膜12が設けられてなる。それゆえ、この場合、電極蒸発抑止膜12と検知電極10の面内距離は0となっている。なお、電極蒸発抑止膜12と検知電極10の最短距離は、保護層50の厚みと等しくなっている。
【0073】
図4に示す場合も、電極蒸発抑止膜12からのAuの蒸発が検知電極10からのAuの蒸発よりも生じやすくなっており、係る電極蒸発抑止膜12からのAuの蒸発が主となって、検知電極10の周りに、Au飽和蒸気場が形成される。それゆえ、検知電極10からのAuの蒸発は抑制される。なお、保護層50は絶縁材料であるアルミナにて形成されることから、絶縁層11の役割を兼ねている。すなわち、
図4に示す場合においては、絶縁層11の形成は不要となる。
【0074】
一方、
図5(a)に長手方向に沿った垂直断面図が示されたセンサ素子101においては、電極蒸発抑止膜12がセンサ素子101の裏面Sbに形成されてなる。このような配置も採用可能である。この場合も、電極蒸発抑止膜12の面積、形状、検知電極10に対する電極蒸発抑止膜12の面積比、および、電極蒸発抑止膜12と検知電極10との面内距離は、電極蒸発抑止膜12からのAuの蒸発が主となったAu飽和蒸気場の形成により検知電極10からのAuの蒸発が好適に抑制できる限りにおいて、適宜に定められてよい。なお、
図5(a)においては保護層50を省略しているが、この場合は、電極蒸発抑止膜12と検知電極10とは両者は別個の保護層50によって被覆されればよい。
【0075】
あるいは、
図5(b)に示すように、電極蒸発抑止膜12と検知電極10とは、センサ素子101の先端部E1側に設けられた先端保護膜51によって一括して被覆される態様であってもよい。
【0076】
あるいは、
図1においては第6固体電解質層6の上面をガスセンサ100の表面Saとし、該表面Saに外部電極としての検知電極10と電極蒸発抑止膜12とが設けられているが、ガスセンサ100の下面Sbあるいは側面にPt−Au合金からなる外部電極が設けられる場合であれば、係る外部電極に対応させて電極蒸発抑止膜12が設けられればよい。
【0077】
<センサ素子の製造プロセス>
次に、
図1に例示する構成を例として、センサ素子101を製造するプロセスについて説明する。概略的にいえば、
図1に例示するセンサ素子101は、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含むグリーンシートからなる積層体を形成し、該積層体を切断・焼成することによって作製される。酸素イオン伝導性固体電解質としては、例えば、イットリウム部分安定化ジルコニア(YSZ)などが例示される。
【0078】
図6は、センサ素子101を作製する際の処理の流れを示す図である。センサ素子101を作製する場合、まず、パターンが形成されていないグリーンシートであるブランクシート(図示せず)を用意する(ステップS1)。具体的には、第1ないし第6固体電解質層1〜6に対応する6枚のブランクシートが用意される。ブランクシートには、印刷時や積層時の位置決めに用いる複数のシート穴が設けられている。係るシート穴は、パンチング装置による打ち抜き処理などで、あらかじめ形成されている。なお、対応する層が内部空間を構成するグリーンシートの場合、該内部空間に対応する貫通部も、同様の打ち抜き処理などによってあらかじめ設けられる。また、センサ素子101の各層に対応するそれぞれのブランクシートの厚みは、全て同じである必要はない。
【0079】
各層に対応したブランクシートが用意できると、それぞれのブランクシートに対して種々のパターンを形成するパターン印刷・乾燥処理を行う(ステップS2)。具体的には、検知電極10、基準電極20などの電極パターンや、絶縁層11および電極蒸発抑止膜12のパターンや、基準ガス導入層30や、ヒータ72およびヒータ絶縁層74のパターンや、図示を省略している内部配線などが形成される。係る場合において、絶縁層11および電極蒸発抑止膜12のパターンは、
図3ないし
図5に例示した種々の配置態様に応じて定められればよい。
【0080】
各々のパターンの印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してブランクシートに塗布することにより行う。印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0081】
パターン印刷が終わると、各層に対応するグリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う(ステップS3)。接着用ペーストの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を利用可能であり、印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0082】
続いて、接着剤が塗布されたグリーンシートを所定の順序に積み重ねて、所定の温度・圧力条件を与えることで圧着させ、一の積層体とする圧着処理を行う(ステップS4)。具体的には、図示しない所定の積層治具に積層対象となるグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ積み重ねて保持し、公知の油圧プレス機などの積層機によって積層治具ごと加熱・加圧することによって行う。加熱・加圧を行う圧力・温度・時間については、用いる積層機にも依存するものであるが、良好な積層が実現できるよう、適宜の条件が定められればよい。
【0083】
上述のようにして積層体が得られると、続いて、係る積層体の複数個所を切断してセンサ素子101の個々の単位(素子体と称する)に切り出す(ステップS5)。切り出された素子体を、所定の条件下で焼成することにより、上述のようなセンサ素子101が生成される(ステップS6)。すなわち、センサ素子101は、固体電解質層と電極との一体焼成(共焼成)によって生成されるものである。その際の焼成温度は、1200℃以上1500℃以下(例えば1400℃)が好適である。なお、係る態様にて一体焼成がなされることで、センサ素子101においては、各電極が十分な密着強度を有するものとなっている。
【0084】
このようにして得られたセンサ素子101は、所定のハウジングに収容され、ガスセンサ100の本体(図示せず)に組み込まれる。さらには、保護カバー102その他の組み付け等がなされることで、ガスセンサ100が得られる。
【0085】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、Pt−Au合金にて形成された検知電極からのAuの蒸発が抑制されており、高温雰囲気下での使用を継続しても劣化が生じにくいガスセンサが実現される。
【0086】
<変形例>
上述したように、Pt−Au合金からなる電極蒸発抑止膜12をスクリーン印刷と共焼成によって形成する場合、Auの融点との兼ね合いから、Au組成は60wt%以下とするのが好ましいが、他の手法により形成する場合は、Au組成が60wt%を上回る電極蒸発抑止膜12の形成も可能である。具体的には、電極蒸発抑止膜12の形成を除いた積層体さらには焼成体の作製を行った後、かかる焼成体に対して電極蒸発抑止膜12を形成する態様が考えられる。例えば、電極蒸発抑止膜のパターンをスクリーン印刷によって形成し、再び焼成を行う、いわゆる2次焼成の手法が採用されてもよいし、めっきによって形成される態様であってもよい。
【0087】
また、上述の実施の形態においては、混成電位型のガスセンサを例として、そのセンサ素子の表面に設けられる電極からのAuの蒸発を抑制する態様を説明しているが、電極蒸発抑止膜の配置による電極からのAuの蒸発抑制は、他のタイプのガスセンサ、例えば、限界電流型のガスセンサ(NOxセンサなど)にも適用が可能である。
【0088】
また、上述の実施の形態においては、ガスセンサ100がPt−Au合金からなる外部電極として一の検知電極10のみを備える態様について説明しているが、ガスセンサ100が係る外部電極を複数備える態様であってもよい。係る場合、電極蒸発抑止膜12はそれぞれの外部電極に応じて個別に設けられてもよいし、複数の外部電極におけるAuの蒸発抑制を一の電極蒸発抑止膜12によって実現する態様であってもよい。
【実施例】
【0089】
(実施例1)
電極蒸発抑止膜12の形成にスクリーン印刷と共焼成の手法を用いたセンサ素子101の作製を試みた。具体的には、電極蒸発抑止膜12のAu組成比を100wt%、60wt%、50wt%、30wt%、10wt%の5水準に違え、かつ、電極蒸発抑止膜12の面積を3.9mm
2、7.8mm
2、15.6mm
2の3水準に違えることで電極蒸発抑止膜12の配置態様をそれぞれ
図3(a)、(b)、(c)に示す場合のようにした全15通りのセンサ素子101(No.1〜15)について、作製を試みた。ただし、保護層50の形成は省略した。
【0090】
センサ素子101の全体のサイズは、長さ(
図1(a)における図面視左右方向のサイズ)を97.5mm、幅(
図1(b)における図面視左右方向のサイズ)を4.25mm、厚み(
図1(a)、(b)における図面視上下方向のサイズ)を1.2mmとした。
【0091】
検知電極10は、全てのセンサ素子101において、Pt−Au合金中のAu組成が10wt%でかつ面積が7.8mm
2の平面視矩形状とした。その配置位置は、重心位置が先端部E1から8.0mmのところに位置するように定めた。また、電極蒸発抑止膜12と検知電極10との距離(面内距離)も全てのセンサ素子101において0.46mmで一定とした。焼成体を得る際の焼成温度は1400℃とした。
【0092】
表1は、全15通りのセンサ素子101(No.1〜15)についての、電極蒸発抑止膜(表1においては単に蒸発抑止膜と記載、以降の表においても同様)の主な形成条件と、検知電極の面積に対する蒸発抑止膜の面積の比率(蒸発抑止膜/検知電極面積比)と、当該センサ素子における検知電極と電極蒸発抑止膜の配置例を示す図の番号と、共焼成の可否(可:○印、否:×印)とを一覧に示したものである。なお、共焼成の可否は、焼成によって得られたそれぞれのセンサ素子101について断面観察を行うことにより判定した。具体的には、電極蒸発抑止膜12のAuが絶縁層11内部に浸透して固体電解質にまで達していない場合に、係るセンサ素子101についての形成条件を、共焼成による電極蒸発抑止膜12の形成が可能な条件であると判定した。
【0093】
【表1】
【0094】
表1に示すように、電極蒸発抑止膜12のAu組成比を100wt%としたNo.1〜3の場合、共焼成による電極蒸発抑止膜12の形成は行い得なかったが、Au組成比を60wt%以下としたNo.4〜15の場合には、電極蒸発抑止膜12は好適に形成された。
【0095】
(実施例2)
実施例1において電極蒸発抑止膜12が好適に形成されていることが確認されたNo.4〜15のセンサ素子101を用いてガスセンサ100を構成した。なお、保護カバー102の内径は7.5mmであった。得られたそれぞれのガスセンサ100について、加速劣化試験と当該試験前後での感度特性の評価を行い、その2つの感度特性の比較により、Auの蒸発抑制の程度(蒸発抑止度)を評価した。また、比較例として、電極蒸発抑止膜12を設けないガスセンサも作製し、同様に加速劣化試験と蒸発抑止度の評価を行った。
【0096】
加速劣化試験は、それぞれのガスセンサ100をガソリンエンジン(排気量1.8L)の排気管に取り付け、30分1サイクルで60時間、ガソリンエンジンを周期的な運転条件で連続して運転することにより行った。なお、λ=1とした。また、ガスセンサ100の素子制御温度は500℃とした。
【0097】
図7は、加速劣化試験に用いるガソリンエンジンの運転の1サイクル分についての、排ガス温度の時間変化を示す図である。
図7からわかるように、排ガス温度は、400℃〜850℃の範囲で周期的に変化した。
【0098】
感度特性の評価は、濃度既知のC
2H
4ガスを検知対象ガス成分として含む(ただし、0ppmの場合もあり)複数種類のモデルガスを用い、以下の条件で行った。
【0099】
素子制御温度:600℃;
ガス雰囲気:O
2=10%;
H
2O=5%;
C
2H
4=0ppm、50ppm、70ppm、100ppm、200ppm、300ppm、500ppm、700ppm、または1000ppm;
N
2=残余;
ガス流量:5L/min。
【0100】
蒸発抑止度の評価は、C
2H
4の濃度が300ppmである場合の、加速劣化試験前のセンサ出力に対する加速劣化試験後のセンサ出力の比が、(ア)90%以上、(イ)70%以上(90%未満)、(ウ)70%未満のいずれに該当するかを判定することにより行った。
【0101】
また、蒸発抑止度の妥当性を確認するべく、No.4〜6、13〜15のガスセンサ100と比較例に係るガスセンサの検知電極10と電極蒸発抑止膜12(比較例除く)とについて、試験前後にXPSにより表面分析を行い、それぞれの表面におけるPt−Au合金中のAu比率(Au/Au+Pt、単位at%)の評価を行った。
【0102】
図8ないし
図11は、本実施例に係るNo.4〜15のガスセンサ100、および、比較例のガスセンサについての、加速劣化試験前後において得られた感度特性を示す図である。なお、比較例については、各図に共通に示している。
【0103】
また、表2は、本実施例に係る全12通りのガスセンサ100(No.4〜15)と比較例に係るガスセンサについての、蒸発抑止膜の主な形成条件および蒸発抑止膜/検知電極面積比(これらは比較例を除き表1に示した同じである)と、蒸発抑止度の判定結果と、検知電極10と電極蒸発抑止膜12についての試験前後のAu比率とを、一覧に示したものである。なお、表2の「蒸発抑止度判定」欄には、上述の判定において(ア)に該当する場合には「◎」(二重丸印)を、(イ)に該当する場合には「○」(○印)を、(ウ)に該当する場合には「×」(バツ印)を付している。
【0104】
【表2】
【0105】
まず、比較例については、
図8ないし
図11からわかるように、試験前の感度特性はNo.4〜15とおおよそ同程度であったのに対し、試験後は全く感度特性が得られなかった。当然ながら、表2に示すように、比較例のガスセンサ100の蒸発抑止度は70%未満と判定された。
【0106】
これに対し、
図8ないし
図10からわかるように、電極蒸発抑止膜12のAu組成が、検知電極10のAu組成の10wt%よりも20wt%以上大きい30wt%以上である、No.4〜12のガスセンサ100については、加速劣化試験の前後において、感度特性にほとんど相違が見られなかった。表2に示すように、これらのガスセンサ100の蒸発抑止度は90%以上と判定された。
【0107】
また、
図11に示した、電極蒸発抑止膜12のAu組成が検知電極10のAu組成と同じであるNo.13〜15のガスセンサ100については、試験後の感度特性が試験前の感度特性から多少劣化していたが、表2に示すように、これらのガスセンサ100の蒸発抑止度は70%以上と判定された。
【0108】
一方、検知電極10と電極蒸発抑止膜12のAu比率についてみれば、蒸発抑止度が90%以上と判定されたNo.4〜6のガスセンサ100の場合、検知電極10の表面のAu比率に、試験前後で変化はみられなかった。すなわち、検知電極10からのAuの蒸発は、完全に抑制されていた。電極蒸発抑止膜12の表面のAu比率のみ、No.4〜6のいずれにおいても試験後に小さくなっていた。
【0109】
これに対し、No.13〜15のガスセンサ100については、検知電極10、電極蒸発抑止膜12ともに、表面のAu比率が試験後に小さくなっていた。また、比較例についても検知電極10の表面について試験後のみ評価を試みたが、Auは検出されなかった。
【0110】
これらAu比率の評価結果と、上述した蒸発抑止度の判定結果とを併せ考えると、少なくとも検知電極10と同じ組成か、あるいはそれ以上にAuリッチな組成を有する電極蒸発抑止膜12を配置することは、検知電極10からのAuの蒸発抑制に効果がある、ということができる。また、蒸発抑止度の大小と、検知電極10についてのAu比率の変化との間には対応関係がみられる。このことは、蒸発抑止度によりAuの蒸発抑制の程度を評価することが妥当であることを意味している。
【0111】
また、電極蒸発抑止膜12の面積が検知電極10の面積の1/2であれば十分にAuの蒸発抑制の効果を得ることが可能であることもわかる。
【0112】
(実施例3)
センサ素子101における検知電極10および電極蒸発抑止膜12の配置態様を実施例2とは違えるようにしたほかは実施例1および実施例2と同様に、4通りのガスセンサ100(No.16〜19)を作製した。得られたそれぞれのガスセンサ100について、実施例2と同様に加速劣化試験と当該試験前後での感度特性の評価を行い、蒸発抑止度を評価した。
【0113】
具体的には、実施例1および実施例2のNo.8のガスセンサ100と同様の、Au組成がそれぞれ10wt%、50wt%の検知電極10と電極蒸発抑止膜12を、
図3(b)に示すように検知電極10と電極蒸発抑止膜12とを同じ面積の平面視矩形状に設け、かつ両者の面内距離についてもNo.8のガスセンサ100と同じ0.46mmとしつつも、その面積値をNo.8のガスセンサ100よりも小さい0.4mm
2、3mm
2とした2通りのガスセンサ100(No.16、17)を作製した。
【0114】
また、検知電極10と電極蒸発抑止膜12のAu組成はNo.8、16、17のガスセンサと同じとし、面積値はNo.17のガスセンサ100と同じ3mm
2とし、かつ検知電極10は平面視矩形状に設けつつも、電極蒸発抑止膜12の配置態様を
図3(d)、(e)に示すようにした2通りのガスセンサ100(No.18、19)も作製した。No.18および19のガスセンサ100における検知電極10と電極蒸発抑止膜12の面内距離は、それぞれ、0.15mm、4.5mmとした。なお、No.19のガスセンサ100における電極蒸発抑止膜12の配置位置は、他部材との接触が生じてしまうためにそれよりも検知電極10から電極蒸発抑止膜12を離隔させようとすることがガスセンサ100の構造上困難な、基端部E2側についての限界配置位置であった。
【0115】
No.16〜19のガスセンサ100を作製する際にも、電極蒸発抑止膜12はスクリーン印刷と共焼成の手法にて形成したが、電極蒸発抑止膜12は良好に作製された。
【0116】
図12は、本実施例に係る全4通りのガスセンサ100(No.16〜19)のガスセンサ100、および、比較のために示すNo.8のガスセンサ100についての、加速劣化試験前後において得られた感度特性を示す図である。
【0117】
また、表3は、本実施例に係るガスセンサ100(No.16〜19)と、比較のために示すNo.8のガスセンサ100とについての、検知電極10と電極蒸発抑止膜12の面積と、両者の面内距離と、検知電極と電極蒸発抑止膜の配置例を示す図の番号と、蒸発抑止度の判定結果とを、一覧に示したものである。
【0118】
【表3】
【0119】
図12からわかるように、No.8も含め、全てのガスセンサ100について、加速劣化試験の前後において、感度特性にほとんど相違が見られなかった。それゆえ、表3に示すように、いずれのガスセンサ100についても、蒸発抑止度は90%以上と判定された。
【0120】
係る結果は、検知電極10の面積に応じた面積を有する電極蒸発抑止膜12を設けることでAuの蒸発抑制を行い得ること、および、電極蒸発抑止膜12の形状や配置位置を種々に違えてもAuの蒸発抑制を行い得ることを、示している。特に、No.19のガスセンサ100についての結果によれば、少なくとも検知電極10から4.5mm離れた位置までは、電極蒸発抑止膜12を設けることでAuの蒸発抑制効果が得られることがわかる。
【0121】
(実施例4)
センサ素子101に保護層50を設けるとともに、電極蒸発抑止膜12の配置態様を保護層50との関係で違えるようにしたほかは実施例1ないし実施例3と同様に、ガスセンサ100を作製した。得られたそれぞれのガスセンサ100について、実施例2および実施例3と同様に加速劣化試験と当該試験前後での感度特性の評価を行い、蒸発抑止度を評価した。
【0122】
具体的には、検知電極10と電極蒸発抑止膜12のAu組成および両者の面積はいずれも、実施例1および実施例2のNo.8のガスセンサ100と同じとした。すなわち、それぞれ10wt%、50wt%、7.8mm
2、0.46mmとした。
【0123】
一方で、保護層50の形成条件については、気孔率を12%、20%、40%の3水準に違え、厚みを15μm、30μmの2水準に違えた。また、電極蒸発抑止膜12の配置については、
図4に例示する、検知電極10を被覆するように形成した保護層50の上に露出させて配置する場合と、
図3(b)に例示する、No.8のガスセンサ100と同様の配置としたうえで、
図1に示すように検知電極10ともども保護層50にて被覆する態様の2通りとした。なお、前者の配置の場合、検知電極10と電極蒸発抑止膜12とは保護層50を介して図面視上下に存在するが、面内距離は0mmとなる。一方、後者の配置における面内距離はNo.8のガスセンサと同じ4.6mmとした。
【0124】
以上により、全12通りのガスセンサ100(No.20〜31)を作製した。なお、No.20〜31のガスセンサ100を作製する際にも、電極蒸発抑止膜12はスクリーン印刷と共焼成の手法にて形成したが、電極蒸発抑止膜12は良好に作製された。
【0125】
図13ないし
図15は、本実施例に係るNo.20〜31のガスセンサ100、および、比較のために示すNo.8のガスセンサ100についての、加速劣化試験前後において得られた感度特性を示す図である。なお、No.8のガスセンサ100についての結果は、各図に共通に示している。
【0126】
また、表4は、本実施例に係るガスセンサ100(No.20〜31)と、比較のために示すNo.8のガスセンサ100とについての、保護層の主な形成条件(気孔率、厚み)と、電極蒸発抑止膜12の配置態様と、検知電極10と電極蒸発抑止膜12の面内距離と、蒸発抑止度の判定結果とを、一覧に示したものである。
【0127】
【表4】
【0128】
図13ないし
図15からわかるように、No.8のガスセンサ100も含め、いずれのガスセンサ100においても、加速劣化試験の前後において、感度特性にほとんど相違が見られなかった。それゆえ、表4に示すように、いずれのガスセンサ100についても、蒸発抑止度は90%以上と判定された。
【0129】
一方で、感度特性自体にはガスセンサ100の間で相違がみられた。まず、
図15に示した、保護層50の気孔率が40%であるNo.28〜31のガスセンサについては、保護層50を設けなかったNo.8のガスセンサ100と同様の感度特性が得られた。これに対し、
図13に示した、保護層50の気孔率が12%であるNo.20〜23のガスセンサと、
図14に示した保護層50の気孔率が20%であるNo.24〜27のガスセンサ100についてはいずれも、No.8のガスセンサ100と比べると感度特性はやや劣っていた。より詳細には、保護層50の厚みを15μmとし、電極蒸発抑止膜12を該保護層50の上に設けたガスセンサ100(No.20、24)についてのみ、他に比してNo.8のガスセンサ100に近い感度特性が得られた。なお、
図15に示した場合も含め、他の条件が同じであれば、保護層50の気孔率が大きいほど感度特性が優れているということができる。
【0130】
以上の結果は、保護層50の形成条件および電極蒸発抑止膜12の配置が適切であれば、保護層50の存在はAuの蒸発抑制の効果を妨げるものではないこと、それゆえ、保護層50の形成条件は、所望する感度特性に応じて定められれば良いことを示している。