(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関の排気経路に設けられて前記内燃機関からの排ガスに含まれる炭化水素ガスおよび一酸化炭素ガスの少なくとも一方を含む対象ガスを酸化もしくは吸着する触媒の状態を診断する、触媒診断システムであって、
前記排気経路において前記触媒よりも下流側に設けられた、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガスセンサと、
前記触媒の温度を出力する温度センサと、
前記触媒診断システムを制御する制御手段と、
を備え、
前記触媒の劣化診断に用いる閾値条件を記述してなる閾値データが、あらかじめ定められたうえで所定の記憶部に保持されてなり、
前記内燃機関を始動させた時点から、前記センサ素子の少なくとも前記HCセンサ部を前記ヒータによって前記第1の温度に加熱した状態で、前記混成電位セルにおいて前記外側ポンプ電極と前記基準電極との間に生じる電位差を経時的に測定し、前記電位差に前記閾値条件をみたす減少が生じたときの、前記温度センサから出力される前記触媒の温度を、前記触媒についてのライトオフ温度として認定し、
前記ライトオフ温度に基づいて、前記触媒の劣化の程度を診断する、
ことを特徴とする触媒診断システム。
内燃機関の排気経路に設けられて前記内燃機関からの排ガスに含まれる炭化水素ガスおよび一酸化炭素ガスの少なくとも一方を含む対象ガスを酸化もしくは吸着する触媒の状態を診断する方法であって、
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガスセンサを、前記排気経路の前記触媒よりも下流側に設けておき、
前記内燃機関を始動させた時点から、前記センサ素子の少なくとも前記HCセンサ部を前記ヒータによって前記第1の温度に加熱した状態で、前記混成電位セルにおいて前記外側ポンプ電極と前記基準電極との間に生じる電位差を経時的に測定し、前記電位差にあらかじめ定めた閾値条件をみたす減少が生じたときの前記触媒の温度を、前記触媒についてのライトオフ温度として認定し、
前記ライトオフ温度に基づいて、前記触媒の劣化の程度を診断する、
ことを特徴とする触媒診断方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<ガスセンサの概略構成>
本実施の形態に係るガスセンサ100の概略構成について説明する。
図1は、ガスセンサ100の主たる構成要素であるセンサ素子101の長手方向に沿った垂直断面図を含む、ガスセンサ100の構成の一例を概略的に示す図である。センサ素子101は、それぞれがジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0020】
センサ素子101の一先端部であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0021】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
【0022】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第2内部空所40に至る部位をガス流通部とも称する。
【0023】
また、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には基準ガスとして大気が導入される。
【0024】
大気導入層48は、多孔質アルミナからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスたる大気が導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0025】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内や第2内部空所40内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
【0026】
ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。
【0027】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0028】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0029】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0030】
被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0031】
第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0032】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0033】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
【0034】
内側ポンプ電極22は、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO
2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0035】
一方、外側ポンプ電極23も同様に、Auを所定の比率で含むPt、つまりはPt−Au合金と、ジルコニアとの多孔質サーメット電極として形成される。ただし、外側ポンプ電極23は、所定の濃度範囲について、HC(炭化水素)ガスおよびCO(一酸化炭素)ガス(以下、代表してHCガスまたは単にHCと称することがある)に対する触媒活性が不能化されるように、つまりは、HCガスの分解反応が抑制されるように、形成される。これにより、ガスセンサ100においては、外側ポンプ電極23の電位が、当該濃度範囲のHCに対して選択的に、その濃度に応じて変動する(相関を有する)ようになっている。換言すれば、外側ポンプ電極23は、当該濃度範囲のHCガスに対しては、電位の濃度依存性が高い一方で、他の被測定ガスの成分に対しては電位の濃度依存性が小さいという特性を有するように、設けられてなる。この点についての詳細は後述する。
【0036】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に可変電源24によって所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
【0037】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
【0038】
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。
【0039】
さらに、起電力V0が一定となるようにVp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これにより、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保たれるようになっている。
【0040】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0041】
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の特定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の特定は、主として、補助ポンプセル50により酸素濃度が調整された第2内部空所40において、さらに、測定用ポンプセル41が動作することによりなされる。
【0042】
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度の特定が可能となる。
【0043】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101と外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0044】
補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。
【0045】
なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0046】
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0047】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
【0048】
この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの検出に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0049】
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0050】
測定用ポンプセル41は、第2内部空所40内において、被測定ガス中のNOxの検出を担う。測定用ポンプセル41は、第2内部空所40に面する第1固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられたNOx測定電極(以下、単に測定電極)44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
【0051】
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第2内部空所40内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。さらに、測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。
【0052】
第4拡散律速部45は、アルミナ(Al
2O
3)を主成分とする多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担うとともに、測定電極44の保護膜(測定電極保護層)としても機能する。
【0053】
測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0054】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0055】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部45を通じて測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N
2+O
2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された制御電圧V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中のNOx濃度が算出できることとなる。
【0056】
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx濃度を求めることも可能である。
【0057】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0058】
以上において説明した、センサ素子101のうち、素子長手方向においてガス導入口10から第2内部空所40に至る部分、および当該部分に備わる電極、ポンプセルおよびセンサセル等は、主として限界電流方式に基づくNOx濃度の測定に関係する部位であることから、本実施の形態においてはこれらの部位を、センサ素子101のNOxセンサ部とも称する。
【0059】
一方で、上述のように、センサ素子101においては、外側ポンプ電極23が、HCガスに対する触媒活性が不能化されるように、形成されてなる。これにより、センサ素子101においては、係る外側ポンプ電極23と、基準電極42と、両電極の間に存在する固体電解質層とによって、混成電位セル61が構成されてなる。すなわち、ガスセンサ100においては、混成電位の原理に基づき両電極近傍におけるHCの濃度の相違に起因して電位差が生じることを利用して、被測定ガス中のHCの濃度を求めることができるようになっている。ただし、係るHC濃度の特定を好適に行うには、センサ素子101が所定の温度条件を満たす必要がある。なお、本実施の形態においては、センサ素子101のうち、混成電位セル61を構成する部分を、HCセンサ部とも称する。また、基準電極42は、係るHCセンサ部のみならず、上述したようにNOxセンサ部においても用いられることから、共通基準電極とも称される。
【0060】
より詳細には、センサ素子101においては、外側ポンプ電極23を構成するPt−Au合金粒子の表面におけるAu存在比を好適に定めることで、0ppm〜500ppmという濃度範囲において、少なくとも、0ppm〜100ppmという濃度範囲において、外側ポンプ電極23の電位のHC濃度に対する依存性が顕著であるように、外側ポンプ電極23が設けられてなる。
【0061】
なお、本明細書において、Au存在比とは、外側ポンプ電極23を構成する貴金属粒子の表面のうち、Ptが露出している部分に対する、Auが被覆している部分の面積比率を意味している。本明細書においては、貴金属粒子の表面に対しAES(オージェ電子分光法)分析を行うことでより得られるオージェスペクトルにおけるAuとPtとについての検出値を用い、
Au存在比=Au検出値/Pt検出値・・・(1)
なる式にてAu存在比を算出する。Ptが露出している部分の面積と、Auによって被覆されてなる部分の面積が等しいときに、Au存在比は1となる。
【0062】
具体的には、外側ポンプ電極23のAu存在比が0.25以上2.30以下であれば、外側ポンプ電極23の電位は0ppmC〜4000ppmCという濃度範囲においてHC濃度に対して顕著な依存性を示す。なお、Au存在比が2.30を上回るように外側ポンプ電極23を設けることも可能ではあるが、この場合、後述する第2素子制御温度の上限である900℃に近い融点(1064℃)のAuの含有比率が高くなり、ガスセンサ100の使用時に外側ポンプ電極23が劣化しやすくなるため好ましくない。
【0063】
なお、Au存在比は、貴金属粒子の表面に対しXPS(X線光電子分光法)分析を行うことにより得られるAuとPtとについての検出ピークのピーク強度から、相対感度係数法を用いて算出することも可能である。係る手法に得られるAu存在比の値と、AES分析の結果に基づいて算出されるAu存在比の値とは、実質的に同じとみなせる。
【0064】
また、(1)式で表されるAu存在比は、外側ポンプ電極23以外の電極においても観念することが可能である。特に、内側ポンプ電極22および補助ポンプ電極51は、Au存在比が0.01以上0.3以下となるように設けられるのが好ましい。係る場合、内側ポンプ電極22および補助ポンプ電極51においては酸素以外に対する触媒活性が低減され、酸素に対する選択的分解能が高められる。より好ましくは、0.1以上0.25以下とされ、さらに好ましくは、0.2以上0.25以下とされる。
【0065】
一方、基準電極42は、上述したように、その周囲を基準ガス導入空間43につながる大気導入層48にて覆われているので、ガスセンサ100が使用される際には基準電極42の周囲は絶えず大気(酸素)で満たされるようになっている。それゆえ、ガスセンサ100の使用時、基準電極42は、常に一定の電位を有してなる。
【0066】
これにより、ガスセンサ100の使用時、混成電位セル61においては、外側ポンプ電極23と大気導入層48内に位置されており常に酸素濃度一定の大気と接触している基準電極42との間に、被測定ガス中のHCの濃度に応じた電位差(起電力)EMFが、少なくとも0ppmC〜4000ppmCというHCの濃度範囲について、安定的に生じるようになっている。
【0067】
しかも、ガスセンサ100においては、NOxセンサ部とHCセンサ部とが基準電極42を共有することで、それぞれが個別に基準電極を有する従来のマルチガスセンサに比して、センサ素子101の内部構造が単純化され、かつ、省スペース化も実現されている。
【0068】
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74、圧力放散孔75とを備えている。ヒータ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータ電極71を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
【0069】
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、スルーホール73を介してヒータ電極71と接続されており、該ヒータ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0070】
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第2内部空所40の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
【0071】
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0072】
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
【0073】
ガスセンサ100においては、NOxセンサ部およびHCセンサ部においてNOxおよびHCの濃度を求める際、ヒータ72が発熱することによって、各部が動作に適した温度に加熱、保温されるようになっている。すなわち、各ポンプセルおよびセンサセルと混成電位セル61の配置箇所について、それぞれが好適に動作する温度に加熱される。
【0074】
ただし、それぞれが好適に動作する温度範囲は異なっている。具体的には、HCセンサ部は、400℃以上650℃以下の所定温度である第1の温度(第1素子制御温度)に加熱されることで好適に動作する。一方、NOxセンサ部は、600℃以上900℃以下の所定温度であって第1の温度よりも高い第2の温度(第2素子制御温度)に加熱されることで好適に動作する。
【0075】
それゆえ、ガスセンサ100においては、HCセンサ部を動作させる場合にはセンサ素子101が(より詳細には、HCセンサ部を構成する混成電位セル61およびその付近が)ヒータ72によって第1素子制御温度に加熱される。一方、NOxセンサ部を動作させる場合にはセンサ素子101が(より詳細には、NOxセンサ部を構成する内側ポンプ電極22および外側ポンプ電極23を含む主ポンプセル21などが備わる、第3拡散律速部30よりも先端部側(
図1において図面視左側)が)ヒータ72によって第2素子制御温度に加熱される。これらの加熱が好適に実現されるように、各セルの配置位置やヒータの存在範囲、さらにはヒータ72による加熱制御の内容が、定められる。
【0076】
すなわち、本実施の形態に係るガスセンサ100は、従来の限界電流型のNOxセンサと同様の構成要素を有するにも関わらず、センサ素子101の制御温度を違えるのみで、NOx濃度の測定とHC濃度の測定とを選択的に実行できるものとなっている。換言すれば、本実施の形態に係るガスセンサ100は、従来のNOxセンサに対しHCセンサとして機能させるための追加的な構成要素を設けることなく、単に外側ポンプ電極23の組成を違えることのみによって、NOx濃度の測定とHC濃度の測定とを選択的に行うことが可能とされてなる。すなわち、本実施の形態においては、従来のNOxセンサに比して何ら構成上の複雑化を要することなく、NOx濃度の測定とHC濃度の測定とを選択的に行えるガスセンサが実現されてなる。
【0077】
以降においては、センサ素子101を第1素子制御温度に加熱することによってガスセンサ100をHCセンサとして使用することを、HCモードと称し、センサ素子101を第2素子制御温度に加熱することによってガスセンサ100をNOxセンサとして使用することを、NOxモードと称する。
【0078】
なお、センサ素子101は、第2固体電解質層6の上面に、外側ポンプ電極23を被覆する態様にて設けられた図示しない表面保護層を備えていてもよい。表面保護層は、被測定ガス中に含まれる被毒物質が外側ポンプ電極23に付着することを防止する目的で設けられる。係る表面保護層は、多孔質のアルミナにて形成されるのが好適な一例である。ただし、表面保護層は、外側ポンプ電極23と素子外部との間におけるガスの流通を律速することのない気孔径および気孔サイズを有するように設けられる。
【0079】
ガスセンサ100の各部の動作、例えば、可変電源によるポンプセルへの電圧の印加や、ヒータ72による加熱などは、各部と電気的に接続されたコントローラ(制御手段)102によって制御される。加えて、コントローラ102は、測定用ポンプセル41を流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を特定する。また、センサ素子101の混成電位セル61に生じる起電力EMFに基づいて、被測定ガス中のHC濃度を特定する。すなわち、コントローラ102は、NOx濃度さらにはHC濃度を特定する濃度特定手段としても機能する。なお、
図1においては起電力EMFとポンプ電流Ip2のみがコントローラ102と矢印にて結ばれているが、これはあくまで図示の都合であり、他の電位差値やポンプ電流値などもコントローラ102に供されることは言うまでもない。コントローラ102には、汎用のパーソナルコンピュータが適用可能である。
【0080】
<センサ素子の製造プロセス>
次に、
図1に例示するセンサ素子101を製造するプロセスについて説明する。概略的にいえば、
図1に例示するセンサ素子101は、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含むグリーンシートからなる積層体を形成し、該積層体を切断・焼成することによって作製される。酸素イオン伝導性固体電解質としては、例えば、ジルコニアに3mol%以上の比率でイットリアが内添加されたイットリウム部分安定化ジルコニア(YSZ)などが例示される。
【0081】
図2は、センサ素子101を作製する際の処理の流れを示す図である。センサ素子101を作製する場合、まず、パターンが形成されていないグリーンシートであるブランクシート(図示せず)を用意する(ステップS1)。具体的には第1基板層1、第2基板層2、第3基板層3、第1固体電解質層4、スペーサ層5、および第2固体電解質層6に対応する6枚のブランクシートが用意される。ブランクシートには、印刷時や積層時の位置決めに用いる複数のシート穴が設けられている。係るシート穴は、パンチング装置による打ち抜き処理などで、あらかじめ形成されている。なお、対応する層が内部空間を構成するグリーンシートの場合、該内部空間に対応する貫通部も、同様の打ち抜き処理などによってあらかじめ設けられる。また、センサ素子101の各層に対応するそれぞれのブランクシートの厚みは、全て同じである必要はない。
【0082】
各層に対応したブランクシートが用意できると、それぞれのブランクシートに対して種々のパターンを形成するパターン印刷・乾燥処理を行う(ステップS2)。具体的には、各ポンプ電極の電極パターンや、ヒータ72のパターンや、大気導入層48や、図示を省略している内部配線などが形成される。さらには、表面保護層のパターンが印刷されてもよい。なお、第1基板層1に対しては、後工程において積層体を切断するときに切断位置の基準とされるカットマークも印刷される。
【0083】
各々のパターンの印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してブランクシートに塗布することにより行う。印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0084】
パターン印刷が終わると、各層に対応するグリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う(ステップS3)。接着用ペーストの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を利用可能であり、印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0085】
続いて、接着剤が塗布されたグリーンシートを所定の順序に積み重ねて、所定の温度・圧力条件を与えることで圧着させ、一の積層体とする圧着処理を行う(ステップS4)。具体的には、図示しない所定の積層治具に積層対象となるグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ積み重ねて保持し、公知の油圧プレス機などの積層機によって積層治具ごと加熱・加圧することによって行う。加熱・加圧を行う圧力・温度・時間については、用いる積層機にも依存するものであるが、良好な積層が実現できるよう、適宜の条件が定められればよい。なお、係る態様にて得られた積層体に対して表面保護層が形成される態様であってもよい。
【0086】
上述のようにして積層体が得られると、続いて、係る積層体の複数個所を切断してセンサ素子101の個々の単位(素子体と称する)に切り出す(ステップS5)。切り出された素子体を、所定の条件下で焼成することにより、上述のようなセンサ素子101が生成される(ステップS6)。すなわち、センサ素子101は、固体電解質層と電極との一体焼成(共焼成)によって生成されるものである。その際の焼成温度は、1200℃以上1500℃以下(例えば1400℃)が好適である。なお、係る態様にて一体焼成がなされることで、センサ素子101においては、各電極が十分な密着強度を有するものとなっている。これはセンサ素子101の耐久性の向上に資するものである。
【0087】
このようにして得られたセンサ素子101は、所定のハウジングに収容され、ガスセンサ100の本体(図示せず)に組み込まれる。
【0088】
なお、外側ポンプ電極23を印刷により形成する際に用いるパターン形成用ペースト(導電性ペースト)は、Auの出発原料としてAuイオン含有液体を用い、該Auイオン含有液体を、Pt粉末と、ジルコニア粉末と、バインダーとを混合することによって作製することができる。なお、バインダーとしては、他の原料を印刷可能な程度に分散させることができ、焼成によりすべて焼失するものを適宜選べばよい。
【0089】
Auイオン含有液体とは、Auイオンを含む塩もしくは有機金属錯体を、溶媒へ溶解させたものである。Auイオンを含む塩としては、例えばテトラクロロ金(III)酸(HAuCl
4)、塩化金(III)ナトリウム(NaAuCl
4)、二シアノ金(I)カリウム(KAu(CN)
2)などを用いることができる。Auイオンを含む有機金属錯体としては、ジエチレンジアミン金(III)塩化物([Au(en)
2]Cl
3)、ジクロロ(1,10-フェナントロリン)金(III)塩化物([Au(phen)Cl
2]Cl)、ジメチル(トリフルオロアセチルアセトナト)金あるいはジメチル(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)金などを用いることができる。なお、NaやKなどの不純物が電極中に残留しない、取り扱いが容易である、あるいは溶媒へ溶解しやすい、などの観点からは、テトラクロロ金(III)酸やジエチレンジアミン金(III)塩化物([Au(en)
2]Cl
3)を用いることが好ましい。また、溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類の他、アセトン、アセトニトリル、ホルムアミドなどを用いることができる。
【0090】
なお、混合は、滴下などの公知の手段を用いて行うことができる。また、得られた導電性ペースト中においては、Auはイオン(もしくは錯イオン)の状態で存在しているが、上述した作製プロセスを経て得られたセンサ素子101に備わる外側ポンプ電極23においては、Auは主として単体あるいはPtとの合金の状態で存在している。
【0091】
あるいは、外側ポンプ電極23用の導電性ペーストは、Ptの粉末にAuをコーティングしたコーティング粉末をAuの出発原料として作製するようにしてもよい。係る場合、当該コーティング粉末と、ジルコニア粉末と、バインダーとを混合することによって、検知電極用の導電性ペーストを作製する。ここで、コーティング粉末としては、Pt粉末の粒子表面をAu膜にて被覆してなる態様のものを用いるようにしてもよいし、Pt粉末粒子にAu粒子を付着させてなる態様のものを用いるようにしてもよい。
【0092】
<エンジンシステムへの適用>
次に、上述したガスセンサ100を、ディーゼル酸化触媒(DOC、以下、酸化触媒とも称する)を含むディーゼルエンジンシステム(以下、単にエンジンシステムとも称する)に適用した例について説明する。
【0093】
図3は、ガスセンサ100を備えた酸化触媒診断システムDS1を含んで構成されるエンジンシステム1000の概略構成を模式的に示す図である。
【0094】
酸化触媒診断システムDS1は主として、ガスセンサ100と、温度センサ110と、エンジンシステム1000全体の動作を制御する制御装置である電子制御装置200とを備える。
【0095】
エンジンシステム1000は、酸化触媒診断システムDS1のほか、内燃機関の一種たるディーゼル機関であるエンジン本体部300と、エンジン本体部300に燃料を噴射する複数の燃料噴射弁301と、燃料噴射弁301に対し燃料噴射を指示するための燃料噴射指示部400と、エンジン本体部300で生じた排ガス(エンジン排気)Gを外部へと排出する排気経路をなす排気管500と、排気管500の途中に設けられ、排ガスG中の未燃HCガスを酸化もしくは吸着させる白金やパラジウムなどの酸化触媒600とを、主として備える。なお、本実施の形態においては、相対的な意味において、排気管500においてその一方端側であるエンジン本体部300に近い位置を上流側と称し、エンジン本体部300と反対側に備わる排気口510に近い位置を下流側と称する。
【0096】
エンジンシステム1000は、典型的には自動車に搭載されるものであり、係る場合において、燃料噴射指示部400はアクセルペダルである。
【0097】
エンジンシステム1000においては、電子制御装置200が燃料噴射弁301に対し、燃料噴射指示信号sg1を発するようになっている。燃料噴射指示信号sg1は通常、エンジンシステム1000の動作時(運転時)に、燃料噴射指示部400から電子制御装置200に対し与えられる、所定量の燃料の噴射を要求する燃料噴射要求信号sg2に応じて発せられる(例えば、アクセルペダルが踏み込まれて、アクセル開度、吸気酸素量、エンジン回転数およびトルク等の多数のパラメーターを勘案した最適な燃料噴射が要求される)が、これに加えて、酸化触媒診断システムDS1の動作のために、燃料噴射指示信号sg1が発せられる場合もある。
【0098】
また、エンジン本体部300から電子制御装置200に対しては、エンジン本体部300の内部における種々の状況をモニタするモニタ信号sg3が、与えられるようになっている。
【0099】
電子制御装置200は、例えばメモリやHDDなどからなる図示しない記憶部を有してなり、係る記憶部には、エンジンシステム1000および酸化触媒診断システムDS1の動作を制御するプログラムの他、後述する酸化触媒600の劣化の程度を診断する際に使用される閾値データなどが記憶されてなる。
【0100】
なお、エンジンシステム1000において、ディーゼル機関であるエンジン本体部300から排出される排ガスGは、酸素濃度が10%程度であるO
2(酸素)過剰雰囲気のガスである。係る排ガスGは、具体的には、酸素および未燃HCガスのほか、NOxや、すす(黒鉛)などを含んでいる。なお、本明細書において、未燃HCガスには、C
2H
4、C
3H
6、n−C8などの典型的な炭化水素ガス(化学式上、炭化水素に分類されるもの)に加えて、一酸化炭素(CO)も含むものとする。また、ガスセンサ100は、COを含め、対象ガスを好適に検知できるものである。ただし、CH
4は除外される。
【0101】
なお、エンジンシステム1000においては、酸化触媒600以外にも、排気管500の途中に一または複数の他の浄化装置700を備えていてもよい。
【0102】
酸化触媒診断システムDS1は、酸化触媒600の劣化の程度(より詳細には、酸化触媒600の触媒能の劣化の程度)を診断対象とするものである。酸化触媒600は、上流側から流れてきた排ガスG中の未燃HCガスやNOxを酸化もしくは吸着することで、該未燃HCガスやNOxが排気管500先端の排気口510から流出することを抑制するべく設けられてなるが、その触媒能(具体的には酸化能および吸着能)は経時的に劣化する。係る劣化が生じると、酸化触媒600で捕捉されずに下流側へと流れる未燃HCガスやNOxの量が増えてしまい好ましくない。
【0103】
酸化触媒診断システムDS1においては、電子制御装置200が、ガスセンサ100から(より詳細にはそのコントローラ102から)発せられた検知信号sg11と、温度センサ110から発せられた排気温度検知信号sg12とに基づいて、酸化触媒600の状態を診断するようになっている。
【0104】
ガスセンサ100は排気管500において酸化触媒600よりも下流側に配設され、素子制御温度に応じて当該箇所におけるHCもしくはNOxを検知する。一方、温度センサ110は酸化触媒600よりも上流側に配設されて当該箇所における排ガスGの温度(排気温度)を検知する。ただし、本実施の形態においては、係る温度センサ110が検知する温度を、酸化触媒600の温度とみなして劣化診断を行う。なお、ガスセンサ100と、温度センサ110とはいずれも、一方端部が排気管500内に挿入される態様にて配設されてなる。
【0105】
より具体的には、酸化触媒診断システムDS1は、エンジンシステム1000が始動され定常動作に至るまでの間において、ガスセンサ100からの出力(検知信号sg11)に基づき、酸化触媒600のライトオフのタイミングを特定できるようになっている。そして、係るライトオフのタイミングでの温度センサ110からの出力(排気温度検知信号sg12)に基づいて酸化触媒600のライトオフ温度を特定できるようになっている。さらには、係るライトオフ温度の高低に基づいて、酸化触媒600の触媒能の劣化の程度を診断できるようになっている。
【0106】
ここで、酸化触媒600のライトオフとは、エンジン本体部300の停止時には大気温と同程度の温度となっている酸化触媒600が、エンジンシステム1000がキーオンされることでコールドスタートされたエンジン本体部300において発生する排ガスGによって加熱されることにより、酸化能を発揮し始めることをいい、ライトオフ温度とは、酸化触媒600が係るライトオフの状態に至ったときの温度である。
【0107】
酸化触媒600は、ライトオフ温度よりも低温の状態にある間は、排ガスG中に含まれる未燃HCガスを酸化しないので、エンジン本体部300において発生した排ガスG中の未燃HCガスは、一部は酸化触媒600に吸着するものの、大部分はそのまま下流側へと排出される。酸化触媒600が排ガスGによって加熱されてライトオフ温度に到達すれば、酸化触媒600に酸化能が生じて排ガスG中の未燃HCガスが酸化されるので、下流側へと排出される未燃HCガスは減少する。それゆえ、エンジンシステム1000がキーオンされた後の酸化触媒600の下流側における未燃HCガスの濃度をモニタすれば、顕著な濃度変動が生じたときをライトオフのタイミングと認定することができる。そして、酸化触媒600の温度も併せてモニタしておけば、このときの酸化触媒600の温度を、ライトオフ温度と認定することができる。
【0108】
しかも、酸化触媒600は、累積使用時間が長くなるほどライトオフ温度が高くなることが、経験的にわかっている。それゆえ、ライトオフ温度を特定することで、当該酸化触媒600の劣化の程度を知ることが可能である。
【0109】
本実施の形態に係るガスセンサ100は、未燃HCガスの濃度を特定可能なHCモードでの使用が可能であることから、ライトオフ温度の特定に好適に使用することができる。
【0110】
これに加えて、本実施の形態に係るガスセンサ100の場合、ライトオフ温度が特定された後、エンジンシステム1000が定常動作する際に、NOxモードにて使用することで、酸化触媒600の下流側におけるNOx濃度を測定(モニタ)することができる。すなわち、本実施の形態に係るガスセンサ100が、単一のセンサでありながら、相異なる局面で相異なる機能を果たすことができるようになっている。
【0111】
なお、温度センサ110については、一般的なエンジンシステムにおいて排気温度の測定に用いられるような、従来公知のものを使用すればよい。
【0112】
図4は、エンジンシステム1000が始動される際の、酸化触媒診断システムDS1における具体的な処理の流れを例示する図である。
【0113】
まず、停止状態にあり、それゆえ酸化触媒600が大気温と同程度の温度となっているエンジンシステム1000がキーオンされ、エンジン本体部300がコールドスタートされる(ステップS101)。これにより、エンジン本体部300においては排ガスGが発生する。係る排ガスGは排気管500を経て酸化触媒600に到達し、酸化触媒600を加熱し始める。
【0114】
また、エンジンシステム1000がキーオンされて始動することによって酸化触媒診断システムDS1も動作を開始する。その一構成要素であるガスセンサ100においては、ヒータ72によるセンサ素子101の昇温加熱が開始される。センサ素子101は、ガスセンサ100のHCモードでの使用を可能とするべく、少なくともそのHCセンサ部が、400℃以上650℃以下の所定温度でありかつHCセンサ部が好適に動作する第1素子制御温度に到達するまで昇温される(ステップS102でNO)。なお、ヒータ72によるセンサ素子101の第1素子制御温度への加熱は、酸化触媒600がライトオフ温度に到達するよりも十分早くなるように制御される。
【0115】
センサ素子101が第1素子制御温度に到達すると(ステップS102でYES)、電子制御装置200において、酸化触媒600のライトオフ温度を特定するためのライトオフ判定の実行が開始される(ステップS103)。以降、後述するライトオフ温度の認定がなされるまで、センサ素子101の温度は第1素子制御温度に維持される。このとき、HCモードにあるガスセンサ100から発せられる検知信号sg11の内容は、HCセンサ部の混成電位セル61において生じる起電力EMFの値に応じたものとなっている。
【0116】
具体的には、電子制御装置200は、ガスセンサ100から検知信号sg11を連続的もしくは断続的に取得するとともに、係る検知信号sg11の取得タイミングに合わせて温度センサ110から排気温度検知信号sg12を取得する。このときに排気温度検知信号sg12から特定される温度は、排気温度検知信号sg12を取得した時点での酸化触媒600の温度(DOC温度)とみなされる。
【0117】
そして、電子制御装置200は、酸化触媒600の下流側において未燃HCガスの顕著な濃度変動が生じたか否かを判断するべく、取得した混成電位セル61の出力値が閾値データとしてあらかじめ記憶してなる所定の閾値条件をみたすか否かを判定する(ステップS104)。混成電位セル61の出力値が閾値条件をみたさない場合(ステップS104でNO)、酸化触媒600はライトオフには至っていないことになるため、係る判定が繰り返し行われる。
【0118】
具体的な閾値条件は、未燃HCガスの濃度変動に基づくライトオフ温度の特定が好適に行われる限り、適宜に定められてよい。例えば、混成電位セル61の出力値が所定の絶対値以下となる場合に閾値条件をみたすと定められてもよいし、電子制御装置200において連続的もしくは断続的に取得される出力値の、初期値との差分値(変化量)や、1つ前の取得タイミングでの出力値との差分値が、所定の大きさ以上となった場合に、閾値条件をみたすと定められてもよい。
【0119】
混成電位セル61の出力値が閾値条件をみたす場合(ステップS104でYES)、酸化触媒600はライトオフに至ったものと判断される。そして、その時点での排気温度検知信号sg12から特定される温度が、ライトオフ温度として認定される(ステップS105)。このとき認定されたライトオフ温度に基づいて、酸化触媒600の劣化の程度が診断される。
【0120】
ライトオフ温度が認定されると、再びセンサ素子101に対する昇温が再開される(ステップS106)。センサ素子101は、600℃以上900℃以下の所定温度であって第1の温度よりも高い所定温度である第2素子制御温度に到達するまで昇温される(ステップS107でNO)。
【0121】
センサ素子101が第2素子制御温度に到達すると(ステップS107でYES)、センサ素子101においてはNOxセンサ部によるNOx濃度の連続的な測定(モニタ)の実行が開始される(ステップS108)。以降、エンジンシステム1000が動作している間は、センサ素子101の温度は第2素子制御温度に維持される。
【0122】
以上、説明したように、本実施の形態においては、ガスセンサのセンサ素子が、限界電流型のNOxセンサとして機能するNOxセンサ部と、混成電位型のHCセンサとして機能するHCセンサ部とを有するようにしている。しかも、NOxセンサ部において外側ポンプ電極として機能する電極を、Au存在比が0.25以上2.30以下であるPt−Au合金とジルコニアとのサーメット電極として設けることで、HCセンサ部において混成電位を生じさせる検知電極としても兼用するようにし、かつ、基準電極をNOxセンサ部とHCセンサ部とで共通にしている。これにより、本実施の形態によれば、従来のNOxセンサに比して構成上何ら複雑化されることなく、単に制御温度を違えることのみによって、HCセンサとしてもNOxセンサとしても機能するガスセンサ(マルチガスセンサ)が、実現される。
【0123】
そして、係るガスセンサをエンジンシステムに備わる酸化触媒の下流側に設けた場合には、エンジンシステムの始動時に、HCセンサ部が好適に動作する第1素子制御温度にセンサ素子を加熱してガスセンサをHCモードとしたうえで係るガスセンサからの出力値の変化をモニタすれば、係る出力値の変動に基づいて酸化触媒のライトオフのタイミングを特定することができる。また、係るライトオフのタイミングでの温度センサからの出力に基づいて、酸化触媒のライトオフ温度を特定することができる。さらには、係るライトオフ温度の高低により、酸化触媒の劣化の程度を診断することができる。
【0124】
しかも、係る診断の後には、NOxセンサ部が好適に動作する第2素子制御温度にセンサ素子を加熱することで、定常動作しているエンジンシステムにおける酸化触媒下流でのNOx濃度をモニタすることもできる。すなわち、本実施の形態においては、従来のNOxセンサと同様の構成を有しつつもHCセンサ部とNOxセンサ部とを備え、HCモードでの使用とNOxモードでの使用を選択的に行える一のガスセンサを用いることにより、エンジンシステムの始動時にはHCモードによる酸化触媒の劣化診断が、定常動作時にはNOxモードによるNOx濃度のモニタが、それぞれ行えるようになっている。
【実施例】
【0125】
(実施例1)
本実施例では、外側ポンプ電極23を混成電位セル61の検知電極としても機能するように設けることに起因した、外側ポンプ電極23を含む各ポンプセルにおける酸素ポンピング能への影響の有無を確認した。
【0126】
具体的には、外側ポンプ電極23を構成するPt−Au合金におけるAu存在比を1.05としたガスセンサ100を作製し、以下の条件のモデルガスを用いてNOxセンサ部におけるNO濃度とポンプ電流Ip2との関数関係(感度特性)の評価を行った。センサ素子101の温度(第2素子制御温度)は800℃とした。
【0127】
[モデルガス条件]
流量:200L/min;
ガス温度:120℃;
ガス組成:
O
2=10%;
H
2O=5%;
NO=0ppm、100ppm、200ppm、300ppm、400ppm、500ppm;
N
2=残余。
【0128】
図5は、得られた感度特性を示す図である。
図5からは、NO濃度とポンプ電流Ip2とが比例関係にあることがわかる。すなわち、ガスセンサ100においては、外側ポンプ電極23をNOxセンサ部とHCセンサ部とが共有してはいるものの、NOxセンサ部は良好な感度特性を有していることが確認された。
【0129】
なお、係る評価は直接的には測定用ポンプセル41における酸素ポンピング能を対象とするものではあるが、感度特性が良好に得られるためには、その前提として、測定用ポンプセル41が好適に動作するのみならず、測定用ポンプセル41と外側ポンプ電極23を共用する主ポンプセル21と補助ポンプセル50とが良好に動作することによって測定電極44に到達するまでの間に被測定ガス中の酸素が十分に汲み出されていることが必要である。それゆえ、
図5に示した結果は間接的には、測定用ポンプセル41のみならず主ポンプセル21および補助ポンプセル50においても、外側ポンプ電極23が好適に動作するものであることを意味している。
【0130】
(実施例2)
本実施例では、ガスセンサ100を備えた酸化触媒診断システムDS1を用いて行う、酸化触媒600のライトオフ温度に基づく酸化触媒600の劣化診断の可否を確認した。
【0131】
具体的には、劣化の程度が異なる3つの酸化触媒600についてそれぞれ、
図3に示したエンジンシステム1000に取り付けた状態で、エンジンシステム1000をキーオンしてエンジン本体部300をコールドスタートさせて、HCモードでのガスセンサ100からの出力である混成電位セル61からの出力と、温度センサ110の出力値から特定される酸化触媒600の温度との経時変化を調べた。加えて、あらかじめ酸化触媒600の上流側および下流側にFID分析計(ベスト測器製Bex−5101D)を取り付けておき、それぞれの箇所における排ガスG中の未燃HCガスの濃度変化も併せて確認した。そして、これらの結果から、混成電位セル61からの出力に基づくライトオフ温度の認定の妥当性を評価した。
【0132】
エンジン本体部300としては、排気量2.0Lのディーゼルエンジンを使用した。また、センサ素子101の外側ポンプ電極23におけるAu存在比は1.05とした。
【0133】
診断の対象とした酸化触媒600は、従前に排ガスGに接触したことのない未使用品である「新品」と、使用により触媒能の劣化が進行している使用済み品と同等の状態を実現するべく未使用品に対し相異なる条件でエージング処理を行った「650℃エージング品」および「850℃エージング品」の3種類である。
【0134】
表1に、エージング処理の内容を一覧にして示している。
【0135】
【表1】
【0136】
すなわち、「650℃エージング品」とは、もともとは未使用品であった酸化触媒600に対し、空気(大気)に46℃において体積比で10%のH
2Oを添加したエージング雰囲気(加湿雰囲気)が500ccmの流量で流れる配管内において、最高温度650℃で2時間キープするというエージング処理を施したものである。なお、室温から650℃までの昇温速度および650℃から室温までの降温速度はいずれも、200℃/hとした。
【0137】
一方、「850℃エージング品」とは、もともとは未使用品であった酸化触媒600に対し、最高温度を850℃とし、キープ時間を850℃としたほかは「650℃エージング品」と同じ条件でエージング処理を施したものである。
【0138】
図6は、エージング処理の効果を確認するべく、それぞれの酸化触媒600を粉砕した試料を対象に行った、COパルス吸着法によるCO吸着量の評価結果を示す図である。より詳細には、
図6においては、「新品」の酸化触媒600におけるCO吸着量を1としたときの比率(CO吸着量比)を示している。
【0139】
COパルス吸着法においては、酸化触媒600を構成する貴金属(具体的にはPt)1原子に対してはCO1分子が吸着するので、CO吸着量を測定することにより、酸化触媒600の表面におけるPt比率を測定することができる。すなわち、CO吸着量が小さいほど表面に露出しているPt原子が少ないこと、つまりは酸化触媒600が劣化していることを示している。
【0140】
図6に示した結果によれば、「新品」よりも「650℃エージング品」の方が、そして、「650℃エージング品」よりも「850℃エージング品」の方が、CO吸着量比は小さい。それゆえ、「850℃エージング品」が3つのうちで最も劣化の進んだ酸化触媒600に該当し、次いで、「650℃エージング品」、「新品」の順に、触媒能の劣化が進でいるものとして、位置づけられることになる。
【0141】
図7、
図8、および
図9はそれぞれ、「新品」、「650℃エージング品」、「850℃エージング品」についての、(a)混成電位セル61の出力値および酸化触媒(DOC)600の温度と、(b)酸化触媒600の上流側と下流側における未燃HCガスの濃度のキーオンからの経時変化(より詳細には、THC(トータルハイドロカーボン)濃度とCO濃度の総和の経時変化)を示す図である。実際には、キーオン後、センサ素子101が第1素子制御温度に到達し、混成電位セル61から出力が得られるまでには多少の時間を要するが、係る時間は無視できる程度であるので、以降の説明においては、センサ素子101が第1素子制御温度に到達したときをキーオンのときであるとする。
【0142】
図7(a)に示すように、「新品」においては、初期値が380mV程度であった混成電位セル出力の値が、キーオンから1分経過した時点で230mW程度にまで急落し、以降の低下は係る急落に比べればわずかとなっている。
【0143】
一方で、
図7(b)に示すガス濃度変化についてみれば、1分経過した時点で上流側では濃度値が急激に増大しているにも関わらず、下流側では濃度値が大きく低下(500ppmC→200ppmC)し、以降はほぼ横ばいとなっている。すなわち、
図7(a)に示した混成電位セル61の出力値の急落と、
図7(b)に示した酸化触媒600の下流側での未燃HCガスの濃度低下のタイミングとは、一致している。
【0144】
上流側での濃度値の増大は、エンジン本体部300における回転数およびトルクの増大に対応するものであるが、上流側でこのような上昇が生じているにも関わらず、下流側で濃度値が低下しているということは、酸化触媒600が酸化能を発揮し始めたことによって上流側に存在していた未燃HCガスが酸化され始めた結果であると考えられる。これはすなわち、「新品」の酸化触媒600は、キーオン後、1分が経過した時点において、ライトオフしたことを意味している。
【0145】
そして、係るライトオフのタイミングと、混成電位セル61の出力値の急落のタイミングが一致しているということはすなわち、キーオン後、混成電位セル61の出力値を経時的に測定しておけば、混成電位セル61の出力値が所定の閾値条件を満たす程度に低下するタイミングを、ライトオフのタイミングとして捉えることができるということを意味する。
【0146】
さらには、
図7(a)によれば、この時点における酸化触媒600の温度は、約170℃であることから、「新品」の酸化触媒600についてはライトオフ温度が約170℃であると認定される。これはすなわち、キーオン後、混成電位セル61の出力値に加えて、酸化触媒600の温度についても経時的に測定しておけば、ライトオフ温度を認定できるということを意味する。
【0147】
一方、「650℃エージング品」に係る結果を示す
図8についてみれば、キーオン後、3分経過したところで、混成電位セル61の出力値の低下(330mV→200mV)と、酸化触媒600の下流側での未燃HCガス濃度の低下(300ppmC→100ppmC以下)が生じていること、および、それ以降、両者の値はほぼ横ばいで推移することが、確認される。これはすなわち、「新品」の場合と同様、混成電位セル61の出力値の経時変化からライトオフのタイミングを知ることができるということを意味する。具体的には、「650℃エージング品」についてはキーオン後、3分経過した時点でライトオフしたものと判断される。
図8(a)によれば、この時点での酸化触媒600の温度は約210℃であることから、ライトオフ温度は約210℃と認定される。
【0148】
なお、
図8(b)によれば、酸化触媒600の下流側の未燃HCガスの濃度は、キーオン後、1分半から2分にかけても大きく減少している。しかしながら、これはあくまで、キーオン後30秒経過時から2分経過時にかけての酸化触媒600の上流側の未燃HCガスの濃度の変動に追随したものに過ぎず、ライトオフに対応するものではない。ちなみに、
図8(a)に示すように、混成電位セル61からの出力値にも、キーオン後30秒経過時から2分経過時にかけて増大と減少が生じている。このことも、混成電位セル61からの出力値の減少に基づくライトオフのタイミングの特定の妥当性を示唆している。
【0149】
また、
図9に示す、「850℃エージング品」に係る結果も、
図8に示した「650℃エージング品」に係る結果と概ね同様となっている。すなわち、「850℃エージング品」についても、キーオン後、3分経過した時点で混成電位セル61の出力値の急激な低下(410mV→220mV)が生じていることから、このタイミングでライトオフしたものと判断される。なお、酸化触媒600の下流側での未燃HCガス濃度も急激に低下(750ppmC→100ppmC)している。ただし、ライトオフ温度は「650℃エージング品」よりもやや高い230℃と認定される。
【0150】
図7、
図8、および
図9に示した結果からは、HCモードにあるガスセンサ100からの出力(混成電位セル61の出力)の変動(急落)に基づいて、酸化触媒600のライトオフのタイミングが特定できること、および、係るタイミングでの酸化触媒600の温度を、ライトオフ温度として認定できることがわかる。
【0151】
さらには、「新品」→「650℃エージング品」→「850℃エージング品」と劣化が進んだ酸化触媒600ほど、170℃→210℃→230℃とライトオフ温度が高くなることもわかる。このことは、ライトオフ温度の高低に基づいて、酸化触媒600の劣化の程度を診断できることを意味する。