(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一局面に従う管状体の電解研磨装置、及び電解研磨装置用のアノード導電性部材について、管状体として医療用のステントを例として実施の一形態について図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
図8は、本発明の一局面に従う管状体の電解研磨装置の構成の一例を示す概略図である。
図8に示す管状体の電解研磨装置1は、主に電源11、アノード導電性部材13、カソード16、及び液槽15で構成されている。液槽15には、電解液17が満たされている。アノード導電性部材13は、管状体を、実質的に均等に拡径した状態で、管状体の内面を支持する。アノード導電性部材13は、電解研磨装置用のアノード導電性部材の一例に相当している。電解研磨装置1の構成の詳細については後述する。
【0015】
本発明の一局面に従う管状体の電解研磨装置を用いることによって、均一化された電流密度分布下で電解研磨処理できるため、表面の平滑性の優れた管状体を製造することができる。
【0016】
具体的には、電解研磨のためのアノードであるアノード導電性部材は、管状体を、その内側から拡径するように管状体の内側に接触することによって支持するので、管状体を内側から拡径するために複数箇所でアノード導電性部材と管状体とが接触する。その結果、アノード導電性部材と管状体との接触面積を増大させることが容易となり、電解研磨のために供給される電流の電流密度を均一化させることが容易となる。また、管状体を内側から拡径するので、管状体の内側へ、電解研磨のための電解液が流入、流出しやすくなる結果、電解液の濃度ムラを低減することが容易となる。このように、電流密度の均一化や電解液の濃度ムラを低減することが容易となる結果、本発明の一局面に係る管状体の電解研磨装置、電解研磨装置用のアノード導電性部材、及び管状体の電解研磨方法によれば、研磨のムラを減少させ、研磨を均一化することが容易となる。
<管状体>
【0017】
管状体、特に医療用の管状体には、例えば、(イ)1本の線状の金属もしくは高分子材料からなるコイル状のタイプ、(ロ)金属チューブをレーザーなどによって網目状に切り抜き加工したタイプ、(ハ)線状の部材をレーザーなどで溶接して組み立てたタイプ、(ニ)複数の線状金属を織って作ったタイプ等がある。このような管状体は、管状の形状を有し、拡径又は縮径可能にされ、すなわち径方向に変形可能とされている。
【0018】
本発明に係る医療用管状体(以下、管状体と称することがある。)としては、例えば、体内管腔構造に挿入される大きさである第1の径から、管状体の外表面の少なくとも一部が血管壁に接触する第2の径まで拡径する管状体が挙げられる。特に、血管、尿管、胆管等の体内管腔構造の形成術に用いられる医療用管状体としては、ステントを好ましく用いることが出来る。
【0019】
ステントに用いられる材料としては、拡径、縮径などの変形時や留置時に耐えうる材料であれば特に限定されないが、医療用ステンレスである316Lステンレス、タンタル、Co−Cr(コバルトクロム)合金、Ni−Ti(ニッケルチタン)合金等を好ましく用いることができる。
【0020】
金属製のステントを製造する方法としては、チューブ状材料をレーザーで網目状に切り抜き加工した後、電解研磨を行う方法を好ましく用いることができる。
【0021】
電解研磨は、ステントの屈曲した線状部分であるストラット部分のレーザー加工、あるいはレーザー加工後の熱処理等により生成した表面酸化皮膜の除去や、ストラットの断面の鋭利なエッジの丸め(ラウンド形状)加工等を目的として行われる。電解研磨は、金属溶出の低減、疲労特性の向上、清潔性の向上等の様々な目的のために特に最終の仕上げの工程として施されることが好ましい。
<アノード導電性部材>
【0022】
図2は、電解研磨装置用のアノード導電性部材の一例であるアノード導電性部材13と、アノード導電性部材13によって支持されるステント14との構成を説明するための説明図である。
図3は、
図2に示すステント14をアノード導電性部材13に取り付けた状態を説明するための説明図である。
図10は、
図2に示すアノード導電性部材13の斜視図である。
【0023】
アノード導電性部材13の形状は、電解研磨時に、管状体を実質的に円形になるようにほぼ均等に拡径した状態で、管状体の内面を支持することができれば特に限定されない。管状体を円形に拡径できることが特に好ましいが、実質的に円形に拡径できれば問題なく、必ずしもその断面が真円に拡径されなくてもよい。実質的に円形とは、例えば、多角形状に変形された円形や、楕円状等、円形に近似した形状を含み、その径が、最も長い長径と最も短い短径の比が1.2:1.0や、1.3:1.0のような形状であっても構わない。このような実質的な円形形状は、長径を短径で割った値が、1.0〜1.2の実質的な円形であることが好ましく、1.0〜1.1の実質的な円形であることが特に好ましく、1.00〜1.05の実質的な円形であることが更に好ましい。
【0024】
例えば、アノード導電性部材13の形状は、板状、ワイヤ状、ロッド状、芯状であっても良いし、
図2に示したような、複数のワイヤあるいはロッドを組み合わせた形状であってもよい。アノード導電性部材13としては、円形、楕円形、半円形、矩形、扁平形状、その他種々の断面形状を有する棒状の部材を好適に用いることができる。
【0025】
特に、作業性に優れる点や、均一な電流密度分布が得られやすい点から、複数のワイヤ状あるいはロッド状である棒状の部材を組み合わせて用いることが好ましい。例えば、
図10に示すように、アノード導電性部材13は、棒状の形状を有すると共に円周C上に互いに離間して配置された複数の細長部材21を備えることが好ましい。複数の細長部材21は、実質的に平行に配置されることが好ましい。
【0026】
また、アノード導電性部材13は、ワイヤ状あるいはロッド状の1つの部材で構成されていても良い。しかしながら、電解液の濃度勾配を抑制できる点や均等に拡径しやすい点、あるいは、作業性に優れる点で、円周C上に実質的に等間隔に配置された複数の細長部材21から構成され、細長部材21で形成される外接円の直径すなわちアノード導電性部材13の外径D
1が管状体の内径よりも大きい部材であることが好ましい。アノード導電性部材13の外径D
1は、ステント14等の管状体を均等に拡径するために、少なくともステント14の基準内径D
2より大きいことが好ましい。
【0027】
外径D
1は、安定的に管状体を固定しやすい点で、基準内径D
2よりも大きくかつ基準内径D
2との差が、0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましく、0.3mm以上であることが特に好ましい。また外径D
1は、管状体に挿通させやすい点で、基準内径D
2よりも大きくかつ基準内径D
2との差が、2.0mm以下であることが好ましく、1.9mm以下であることがより好ましく、1.8mm以下であることが特に好ましい。アノード導電性部材13により、ステント14を均等に拡径することで、例えば、ステント14の網目状加工部のような電解液の浸潤しにくい構造部位に対しても、均一に電解液が浸潤することで研磨ムラを生じにくくなる。
【0028】
すなわち、外径D
1と、基準内径D
2との差は、0.1mm以上2.0mm以下の範囲内であることが好ましい。
【0029】
尚、本発明における基準内径とは、管状体の製造における研磨前であって、かつアノード導電性部材によって拡径されていないときの内径を示す。
【0030】
アノード導電性部材13において、細長部材21は、各部材に同時に実質的に同じ電圧が印加できる点で、部材の上端または下端の少なくとも一端に、各細長部材21が第一連結桿23又は第二連結桿24によって一点で接合された頂点(第一接合点25又は第二接合点26)を有していることが好ましく、上端と下端の両端で第一連結桿23及び第二連結桿24によってそれぞれ一点で接合された頂点(第一接合点25及び第二接合点26)を有していることが特に好ましい。
【0031】
尚、各細長部材21の上端と下端間の長さL
1、すなわち実質的に直線状の各細長部材21の長さL
1は、被研磨物であるステント14等の管状体の基準長さL
2より長いことが好ましい。
【0032】
各細長部材21と、各第一連結桿23及び各第二連結桿24との接合方法は、接合できれば特に限定されない。このような接合方法としては、接着剤による接合や嵌合構造による接合、あるいは溶接による接合等が挙げられるが、各細長部材21と、各第一連結桿23及び各第二連結桿24とを電気的に良好に導通できる点や接合力に優れる点で溶接による接合が好ましい。
【0033】
アノード導電性部材13は、ステント14等の管状体を押し広げるように管状体の内側に挿通されるため、各細長部材21が各第一連結桿23及び各第二連結桿24によって連結されて頂点状になる第一接合点25及び第二接合点26のうち少なくとも一方が流線形状になっていることが好ましい。アノード導電性部材13の細長部材21の接合点を流線形状にすることで、ステント14のアノード導電性部材13への挿通を容易にし、ステント14を段階的に拡張することでステント14の破損を防止することができる。
【0034】
図4は、
図3に示すアノード導電性部材13とステント14の切断面IV−IVにおける端面形状の一例を示す端面図である。
図4に示したように、アノード導電性部材13は、管状体であるステント14を実質的に均等に拡張する観点と、そして、電流密度分布の均一化の観点から、ステント14と細長部材21とが3点以上の電気接点で接するように、3本以上の細長部材21を有していることが好ましい。更に、各細長部材21がステント14の長手方向全長に亘って延在しており、その横断面において電気接点18を3点以上形成していることが、特に好ましい。
【0035】
更に、ステント基準内径D
2が4mm以上の場合は、電気接点18が4点以上となるように4本以上の細長部材21を有していることが好ましく、ステント基準内径D
2が9mm以上の場合は、電気接点18が8点以上となるように8本以上の細長部材を有していることがさらに好ましい。
【0036】
各電気接点18を多くして分散させ、ステント14と細長部材21との接触面の合計面積を大きくとることで、1箇所に極大電流が生じることを抑制し、ステント14周辺の電解液の電流密度を均一化することが容易になる。その結果、研磨ムラの少ない優れた平滑性を有する研磨面や、ムラの少ない均一な寸法のステントを得ることが出来る。
【0037】
アノード導電性部材13を構成する細長部材21の形状は、ステント14内面と曲面で滑らかに接触できる形状であることが好ましい。例えば、細長部材21は、
図4に示したような断面が円形で、外径D
3の円柱状の形状や、断面が楕円形の形状や、
図5に示したような扁平な断面形状等であることが好ましい。
図5に示す細長部材21は、ステント14の内面に沿うように湾曲した曲面を有している。この曲面がステント14の内面に接触することで、電気接点18の接触面積が増大されるようになっている。
【0038】
特に、加工の容易さの観点から、細長部材21は、円形状断面の円柱状部材が特に好ましい。
【0039】
円柱状等の、ステント14等の管状体と接触する部分が曲面である細長部材21は、外表面が曲面であり、被研磨物のステント14の内面と滑らかに接触でき、ステント14の内面と細長部材21の表面が互いに傷付けあうことなく、且つ、隙間を生じずに接触することができ、電解液がステント内面にも均一に浸潤しやすく研磨ムラを生じにくくなる。
【0040】
アノード導電性部材13を構成する細長部材21の材料は、十分な導電性を有していればよく、特に限定されない。細長部材21の材料としては、例えば、ステンレス鋼、チタン、銅、アルミニウム、白金、金等の金属あるいはそれらの合金を挙げることができる。特に、電解研磨により影響を受けにくい点で白金、金等の不溶性金属、あるいは、バネ性がありステント14を固定させやすく比較的安価な材料である点で、ステンレス鋼が好ましい。
【0041】
アノード導電性部材13を構成する細長部材21の外径D
3は、剛性の点で、0.5mm以上が好ましい。
図4および
図5に示した、細長部材内側径D
4については、内部空間に電解液が十分な量に満たされて研磨ムラを生じにくい点で、細長部材内側径D
4は2.0mm以上であることが好ましい。
【0042】
図2に示したように、アノード導電性部材13には、第一連結桿23同士が接合された接合点である第一接合点25から外側へ延在する延長部22が接合されていることが好ましい。接合方法としては、第一接合点25と延長部22とが接合できれば特に限定されないが、強度と導電性の両立から、溶接が好ましい。延長部22の構造としては、細長部材21と同様の線径を有するワイヤ形状(棒状)が好ましいが、延長部22が細長部材21を束ねて支持可能であれば、これらの構造に限定されるものではない。
【0043】
延長部22が設けられていることによって、アノード導電性部材13を電解研磨装置1に取り付けることが容易となる。また、延長部22が第一接合点25から外側へ延在するように設けられているので、アノード導電性部材13へのステント14の取り付け取り外しの邪魔になるおそれが低減される。
【0044】
また、延長部22は、本発明における電解研磨装置における、回転機構等の他の部材に対し着脱可能に構成されていることが好ましい。延長部22を電解研磨装置本体に対して着脱可能とすることによって、径や長さの異なる管状体に対応したアノード導電性部材13に取り替えることが容易となる。
【0045】
アノード導電性部材13を構成する延長部22の材料としては、十分な導電性を有していればよく、特に限定されない。延長部22の材料としては、例えば、ステンレス鋼、チタン、銅、アルミニウム、白金、金等の金属あるいはそれらの合金を挙げることができる。特に、電解研磨により影響を受けにくい点で白金、金等の不溶性の金属が好ましく、比較的安価な点でステンレス鋼が特に好ましい。
【0046】
図6は、支持リング61を備えたアノード導電性部材13の一例を示す側面図である。
図6は、アノード導電性部材13にステント14が取り付けられた状態を示している。
図7は、
図6に示すアノード導電性部材13とステント14の切断面VII−VIIにおける端面形状の一例を示す端面図である。
【0047】
図6、
図7に示すように、アノード導電性部材13は、各細長部材21を内側から支持する支持リング61を有していてもよい。具体的には、支持リング61は、複数の細長部材21に内接するように接合された内接円状の形状を有していてもよい。支持リング61は、細長部材21の剛性を高めることができるためステント14の拡径を安定的に行うことが出来る。電解研磨の際に、細長部材21もステント14と同時に電解研磨される場合は特に好適に用いることができる。
【0048】
支持リング61の構造としては、
図7に示したように、各細長部材21を内側から支持できれば寸法形状は、特に制限されないが、各細長部材21を支持するための支持強度の観点から、各細長部材21の軸方向に間隔を空けて支持リング61が複数個設けられる構造が好ましい。
図6に示す例では、支持リング61が三個設けられている。
【0049】
支持リング61の材料は、特に限定されない。しかしながら、電解研磨により影響を受けにくい樹脂を用いることが好ましく、支持リング61の材料として、例えば、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、または、PTFEに代表されるようなフッ素樹脂等を挙げることができる。
【0050】
第一接合点25及び第二接合点26の具体例について、
図10を参照しつつ説明する。アノード導電性部材13は、一端が第一接合点25で互いに接合されると共に第一接合点25から放射状に延びる複数の第一連結桿23を備えている。複数の第一連結桿23の他端は、複数の細長部材21の一端にそれぞれ接合されている。これにより、複数の細長部材21を、円周C上に実質的に等間隔に保持することができる。
【0051】
また、アノード導電性部材13は、第一接合点25とは反対側で、一端が第一接合点25とは異なる第二接合点26で互いに接合されると共に第二接合点26から放射状に延びる複数の第二連結桿24を備えている。複数の第二連結桿24の他端は、複数の細長部材21の他端にそれぞれ接合されている。これにより、複数の細長部材21を、実質的に互いに平行に配置させつつ円周C上に実質的に等間隔に保持することが容易であり、かつアノード導電性部材13の強度を高めることができる。
【0052】
なお、アノード導電性部材13は、必ずしも複数の第二連結桿24を備えていなくてもよい。複数の第二連結桿24を備えず、複数の第一連結桿23のみによって複数の細長部材21を保持する構成であってもよい。
【0053】
複数の第一連結桿23、及び複数の第二連結桿24は、それぞれ外側に向かって曲線状に湾曲した形状を有している。これにより、ステント14の内側にアノード導電性部材13を挿入する際に、ステント14の入口が第一連結桿23又は第二連結桿24の湾曲形状によって徐々に拡径され、アノード導電性部材13の挿入に伴ってステント14が拡径されつつアノード導電性部材13が挿入される。その結果、ステント14へのアノード導電性部材13の挿入が容易となり、かつ第一連結桿23又は第二連結桿24の湾曲形状によりアノード導電性部材13とステント14の内面とが滑らかに滑るので、ステント14が破損するおそれを低減することができる。
【0054】
なお、第一連結桿23及び第二連結桿24は、必ずしも両方とも曲線状に湾曲した形状を有している例に限らない。第一連結桿23及び第二連結桿24のうちいずれか一方が曲線状に湾曲した形状を有する構成であってもよい。その場合、曲線状に湾曲した形状を有している側からアノード導電性部材13をステント14に挿入することによって、同様の効果が得られる。
<カソード>
【0055】
本発明におけるカソード16の材料としては、十分な導電性を有していれば特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼、チタン、銅、アルミニウム、白金、金等の金属あるいはそれらの合金を挙げることができる。
【0056】
カソード16の形状としては、ステント14が電解研磨可能であれば特に限定されないが、例えば、板状、芯状、ロッド状、ワイヤ状等を挙げる事ができ、カソード16の表面積を大きくとるために、また電解研磨時に発生した気泡、温度変化や液中イオンの濃度勾配を抑制する目的で、カソード16にメッシュ形状やパンチング形状を形成させてもよい。
<電解研磨装置および電解研磨方法>
【0057】
まず、従来の電解研磨装置について説明する。
図1には、ステントに電極を接触させて電解研磨する際に用いることの出来る、従来の一般的なステントの電解研磨装置を示している。
図1に示す電解研磨装置の各部については、
図8に示す電解研磨装置1の各部と機能的におおよそ対応する構成部分には、
図8に示す電解研磨装置1とは構成が異なる部分についても同じ符号を付して説明する。
【0058】
一般的な、電解研磨装置は、主に電源11、電解液17、アノード導電性部材13、カソード16、液槽15で構成され、アノード導電性部材13とカソード16は、導電性ワイヤ12a、12bで電源11に接続される。
図1に示すアノード導電性部材13としては、いわゆるクリップが用いられている。電解液槽15に貯留された電解液17中において、導電性ワイヤ12aで電源11のプラス極と接続されたアノード導電性部材13が被研磨物であるステント14に接している。また、導電性ワイヤ12bで電源11のマイナス極と接続されたカソード16がステント14から離間して設置される。このような配置状態において、アノード導電性部材13とカソード16との間に電圧が印加されると、アノードとして作用するステント14において表面の金属元素が電解液17中に溶解する。これにより、ステントは、電解研磨され、表面に光沢を生じさせることができる。
【0059】
しかしながら、
図1に示す従来の一般的な電解研磨装置では、クリップ状のアノード導電性部材13によってステント14が挟み込まれて保持されている。そのため、アノード導電性部材13とステント14とが接触する電気接点18は、クリップ状のアノード導電性部材13によって覆われるため、電気接点18の領域は研磨されない。また、液槽15内において電気接点18の周辺領域は、他の領域と比べて電流密度が大きく増大するため、液槽内の電流密度が不均一となり、その結果、研磨不均一(研磨ムラ)が発生してしまう傾向があった。
【0060】
一方、本発明に係る電解研磨装置1は、管状体を均等に拡径した状態で、管状体の内面を支持するアノード導電性部材13を用いる点に特徴がある。すなわち、本発明に係る電解研磨装置1は、
図1に記載の電解研磨装置におけるクリップ状のアノード導電性部材13の代わりに、例えば
図2〜
図7、及び
図10に記載されているような、ステント14を、その内側から拡径するようにステント14の内側に接触することによって支持するアノード導電性部材13を備えた構成とすることができる。この構成によれば、
図1に示す電解研磨装置とは異なり、ステント14がアノード導電性部材13によって挟み込まれて覆われることがない。その結果、研磨されない領域が減少する。
【0061】
図3〜
図7に示したように、アノード導電性部材13をステント14の内側に挿通してステントを固定する。このとき、ステント14は、アノード導電性部材13の外径D
1と等しくなるように、各細長部材21により拡径される。また、ステント14とアノード導電性部材13の細長部材21とが接する電気接点18が形成される。
【0062】
電解研磨中にステント14を塑性変形や破断を生じることなく固定させやすく、電流密度の局所ムラも生じにくいという観点で、アノード導電性部材13の細長部材21とステント14を接触させる際に、ステント14を基準内径D
2から径方向に均等に拡張された状態となる様に接触させることが好ましい。ステント14は均等に拡張されることで、その各電気接点18の接合が均質で強固となり、そのため各電気接点18において均等に小さい接触抵抗を実現でき、局所的な過電流の発生を抑制することができる。
【0063】
図8および
図9には、本発明の実施の一形態である複数個のアノード導電性部材を有する電解研磨装置を示している。
図8に示す電解研磨装置1は、例えば、電源11、導電性ワイヤ12a,12b、アノード導電性部材13、カソード16、液槽15、アノード接続部81、アノード回転部82、アノード支持部83、アノード全体回転部84、循環水入口85、循環水出口86、スターラーバー87、及びマグネチックスターラー88を備える。液槽15には、電解液17が満たされている。
【0064】
電源11、導電性ワイヤ12a,12b、アノード導電性部材13、カソード16、液槽15、及び電解液17に係る構成については、
図1に示す電解研磨装置と同様であるのでその説明を省略し、以下、
図8に示す電解研磨装置1の特徴的な構成について説明する。
【0065】
以下、主に
図8および
図9に基づいて本発明の一実施形態に係る電解研磨装置と電解研磨方法を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0066】
図8および
図9に記載のアノードは、主に複数のアノード導電性部材13、アノード接続部81、アノード回転部82、アノード支持部83、及びアノード全体回転部84で構成されている。
【0067】
アノード導電性部材13は、電解研磨装置本体にアノード導電性部材13を固定するためのアノード接続部81に、電気的に導通して接続される。アノード接続部81の構造としては、例えば、簡便且つアノード導電性部材13が着脱できる構造が好ましく、いわゆるピンバイスと同様の保持構造を好ましく用いることができる。アノード導電性部材13が着脱可能であれば、アノード導電性部材13を交換することによって、被研磨物である様々な形状の医療用管状体ステント14に適用することができる。アノード接続部81は、アノード導電性部材13の延長部22を保持するようにされている。
【0068】
本発明の電解研磨装置は、より均一に研磨するために、電解研磨中にステント回転させるため、アノード接続部81上にアノード回転部82を有していても良い。さらに、アノード支持部83全体を回転させるため、アノード支持部83の上にアノード全体回転部84を有していてもよい。尚、本発明に係る電解研磨装置において、回転と電力の供給のため、アノード全体回転部84ならびにアノード回転部82にはロータリーコネクタが好適に用いられる。
【0069】
具体的には、アノード全体回転部84及びアノード回転部82は、それぞれ、例えばモータとロータリーコネクタとを備える。ロータリーコネクタは、いわゆる回転接続用コネクタであり、回転対象物との間で電気的導通を確保しつつ、当該回転対象物を回転させることができる接続機構である。アノード接続部81は、ロータリーコネクタに取り付けられている。
【0070】
アノード全体回転部84は、電解研磨装置1の図略のフレームに取り付けられている。アノード全体回転部84のロータリーコネクタに、アノード支持部83の上面側が取り付けられている。アノード支持部83は、例えば金属などの導電性の材料で構成された板状、例えば円盤状の部材である。アノード全体回転部84は、アノード支持部83の面方向が略水平になるように、アノード支持部83を支持する。これにより、アノード全体回転部84は、モータの駆動力によって、ロータリーコネクタを介してアノード支持部83を略水平に回転させる。
【0071】
アノード支持部83の下面側には、複数のアノード回転部82が、互いに離間して取り付けられている。各アノード回転部82のロータリーコネクタには、アノード接続部81が取り付けられている。アノード接続部81は、アノード導電性部材13の延長部22の軸方向が鉛直方向に沿うようにアノード導電性部材13を保持し、アノード導電性部材13を電解液17に浸漬させる。各アノード回転部82は、モータの駆動力によって、ロータリーコネクタを介してアノード導電性部材13を、延長部22の軸を中心に回転させる。
【0072】
これにより、複数のアノード導電性部材13が、それぞれそれら延長部22の軸を中心に回転され、かつアノード支持部83の回転に伴い、複数のアノード導電性部材13全体が、延長部22の軸方向すなわちアノード導電性部材13に取り付けられたステント14の軸方向と平行な軸を中心に回転される。
【0073】
また、アノード全体回転部84のロータリーコネクタに導電性ワイヤ12aが接続されており、これにより、電源11のプラス側電圧が、導電性ワイヤ12a、アノード全体回転部84のロータリーコネクタ、アノード支持部83、各アノード回転部82のロータリーコネクタ、及び各アノード接続部81を介して各アノード導電性部材13へ供給される。これにより、電解液17中で、各アノード導電性部材13に取り付けられたステント14にプラス側電圧が印加され、カソード16にマイナス側電圧が印加されることによって、各ステント14が電解研磨される。
【0074】
なお、各アノード導電性部材13へプラス側電圧を印加することができればよく、必ずしもロータリーコネクタを備える構成に限らない。
【0075】
アノード全体回転部84及び各アノード回転部82によるアノード導電性部材13の回転は、電解研磨時に発生する気泡の分散、温度変化や液中イオンの濃度勾配を抑制する効果があるため好ましく実施される。アノード導電性部材13を回転させる場合は、その回転速度は、好適な電流密度分布が得られやすく、液中イオン濃度を均一にしやすい等の点で、10〜200rpmの範囲が好ましく、20〜60rpmがさらに好ましい。
【0076】
特に、各アノード回転部82による、各アノード導電性部材13の軸を中心にそれぞれ回転させる回転運動と、アノード全体回転部84による、各アノード導電性部材13を液槽15で移動させながら大きく回転させる回転運動とが組み合わされることによる相乗効果により、気泡の分散、温度変化や液中イオンの濃度勾配を抑制する効果がより向上する。なお、電解研磨装置1は、必ずしもアノード全体回転部84と各アノード回転部82とを両方備える必要はなく、アノード全体回転部84と各アノード回転部82とのうちいずれか一方を備える構成であってもよい。
【0077】
図8において、カソード16は、電解研磨の際、ステント14とアノード導電性部材13が接触している面に対し、逆の面側にステント14から離間して配置される。例えば、複数のステント14を電解研磨する際は、カソード16は各ステント14の外周の周囲を囲むようにステント14から離間して配置される。
【0078】
さらに、カソード16は、ステント14に連続的に一定の電場を与えやすい点で、ステント14との距離(以下、電極間距離と称することがある。)が一定となるように各ステント14の外周の周囲を囲むように湾曲した形状を有していることが好ましい。
【0079】
ステント14とカソード16の電極間距離は、電解研磨時に発生した気泡、温度変化や液中イオンの濃度勾配等の影響を受けにくく平滑な処理表面が得られやすい点、電極同士の接触を防止する点、あるいは、単位時間当たりの電解研磨における研磨量をコントロールしやすい点などから、10〜100mmが好ましく、40〜60mmがより好ましい。カソード16の個数は、特に限定されないが、ステント14の全周を覆うように1つで構成されてもよいし、分割されて構成されていてもよい。
【0080】
カソード16の表面積は、電子授受の観点から、ステント14の表面積に対して少なくとも2倍以上の表面積を有していることが好ましい。
【0081】
電解液17は、電解研磨ができれば、特に限定されるものではなく、例えば、Ni−Ti(ニッケルチタン)合金の場合、公知のアルコール系または硫酸系の水溶液が挙げられる。
【0082】
液槽15の材料は、電解液を貯留できれば特に限定されないが、電解液17によって腐食等しない材料で形成されことが好ましい。
【0083】
電解液の温度変化は電解研磨の効果に大きく影響することから、電解液温度を一定に保持するために、液槽15は、循環水入口85および循環水出口86を有していてもよい。マグネチックスターラー88は、スターラーバー87を回転させ、電解液を撹拌することができる。電解液は、電解研磨時に発生する気泡の分散、温度変化や液中イオンの濃度勾配を抑制できる点で、電解研磨中は撹拌することが好ましい。
【0084】
撹拌の回転速度は、電解液を十分撹拌できると共に好適な電解密度を得られる点で、10〜1200rpmの範囲が好ましく、100〜800rpmがさらに好ましい。アノード導電性部材13とステント14を含むアノードは、スターラーバー87の起こした撹拌液中において、撹拌中心から外れた液流中に配置することが好ましい。撹拌中心に配置すると、いわゆる台風の目の状態となるため、撹拌の効果が得られにくい。
【0085】
電源11により、電圧がアノードとしてのステント14及びカソード16に印加されて、ステント14を所望の滑らかさに電解研磨することができる。なお、本発明においては、電圧を印加している時間を電解研磨時間と称する。
【0086】
電解研磨の好ましい電圧値は、平滑な表面が得られれば特に限定されず、使用する金属材料、電解液に適した電圧値を選択すれば良いが、例えば、Ni−Ti(ニッケルチタン)合金の場合、10〜30Vの範囲が好ましい。
【0087】
電解研磨の条件は、3〜60秒の間隔で電圧を印加する条件が好ましく、20〜30秒の間隔で電圧を印加する条件がより好ましい。
【0088】
より均一な電解研磨ができる点で、電解研磨は、数回に分けて行うことが好ましく、更に、各電解研磨工程ごとにステント14とアノード導電性部材13の細長部材21との電気接点18を変えることが好ましい。
【0089】
電解液17は撹拌されていたとしても、電解液17の上方と下方では撹拌状態に差が出ることがあるため、電気接点18を変更する際には、ステント14の上下を逆様にしてアノード導電性部材13に固定することが好ましい。
【0090】
電解研磨の回数は、平滑な表面が得られれば特に限定されないが、より均一な電解研磨ができる点で、2〜30回繰り返すことが好ましい。また、工程ごとにステント14を一旦、電解液17から取り出し、アルコール、水、硝酸、またはそれらを組み合わせた溶液でステント14を洗浄することが好ましく、更に、電解研磨を数回繰り返した後、超音波浴中に室温で1〜30分間浸漬して洗浄するのが好ましい。
【0091】
本発明の管状体の電解研磨装置および電解研磨方法は、簡便に平滑な表面が得られやすいため、医療用の管状体に好ましく用いることが出来る。以上のように構成された電解研磨装置を用いて被研磨物を電解研磨するための電解研磨方法は、電解研磨のためのアノードであって、ステント14を、その内側から拡径するようにステント14の内側に接触可能なアノード導電性部材13を準備する工程と、アノード導電性部材13を、ステント14の内側に挿入することによって、ステント14をその内側から拡径させると共にアノード導電性部材13をステント14の内側に接触させてアノード導電性部材13によってステント14を支持させる工程とを含んでいる。
【0092】
以上のように、本発明の実施の形態にかかるステントの電解研磨装置および電解研磨方法について具体例を用いて説明したが、本発明は上記実施の形態によって制限を受けるものでなく、前・後記の主旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0093】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明する。尚、以下の実施例及び比較例はすべて、
図8および
図9に示した本発明の電解研磨装置を用いて、電解研磨を行った。なお、比較例1は、
図1に示すクリップ形状のアノード導電性部材を使用し、比較例2は、
図11および
図12に示すアノード導電性部材を使用した。
(実施例1)
【0094】
内径D
2が8.0mmのニッケルチタン合金製のステント14を用意した。ステント14を外径D
1が8.5mmのSUS304製のアノード導電性部材13に対して、ステント14が均等に拡径するようにステント14にアノード導電性部材13を挿通して、ステント14の全長の断面においてステント14の内面がアノード導電性部材13の細長部材21と4点で電気接点18を形成するように固定した。アノード導電性部材13の細長部材21の外径D
3が1.2mmの円柱状の部材を用いた。
【0095】
液槽15内には、市販されているTi合金用の電解研磨溶液である電解液17を貯留し、ステント14との電極間距離が45mm〜55mmに実質的に等距離になるように湾曲形状のSUS304製のカソード16を設置した。
【0096】
電圧20Vで30秒間、電解液17に対して電力供給し、この電解液17にステント14が浸されることで、ステント14の外表面の電解研磨が行われた。電力供給完了後、ステント14を水で洗浄して乾燥させ、ステント14とアノード導電性部材13の電気接点18を変更した。これらの工程を10回繰り返し実施した。
(比較例1)
【0097】
内径D
2が8.0mmのニッケルチタン合金製のステント14を用意した。ステント14を
図1に示した様なクリップ形状のSUS304製のアノード導電性部材13で固定した。それ以外は、実施例1の工程と同様の方法でステントが拡径していない状態で電解研磨を実施した。
(比較例2)
【0098】
内径D
2が8.0mmのニッケルチタン合金製のステント14を用意した。ステント14を細長部材間外側距離D
1’が8.5mmのSUS304製のアノード導電性部材13に対して、ステント14が偏平な角丸長方形となるようにステント14にアノード導電性部材13を挿通して、ステント14の全長の断面においてステント14の内面がアノード導電性部材13の細長部材21と2点で電気接点18を形成するように固定した。アノード導電性部材13の細長部材21の外径D
3が1.2mmの円柱状の部材を用いた。
(結果)
【0099】
実施例1、比較例1、及び比較例2の電解研磨の結果、いずれの例においても電解研磨は行えた。実体顕微鏡(Nikon製 MM−400)を用いて、50倍の倍率で表面外観を観察することにより外観評価を行った。なお、実施例1及び比較例2については、実体顕微鏡にデジタル一眼レフカメラ(Canon製 EOS Kiss X5)を接続して拡大写真を撮影した。実施例1での撮影結果を
図13に、比較例2での撮影結果を
図14に示した。また、実施例1及び比較例2については、ステント検査装置(Visicon製 FineScan FS−85)を用いて、円筒形のステントを展開図にして取り込み、ステントを構成するすべてのストラット幅寸法を計測した。その結果を表1に示した。
【表1】
【0100】
実施例1では、
図13からわかるように、外面も内面もステント14の表面が均一に光沢を示すまで研磨できた。比較例1では、ステント14の表面の電解研磨は行えているものの、全体的に研磨ムラが見られた。比較例2では、
図14からわかるように、ステント14の表面の電解研磨は行えているものの、ステントが局所的に細くなっている破断寸前の箇所が確認された。また、表1から、実施例1はステントのストラット幅寸法のばらつきが小さいことから均一に研磨できていることがわかる。一方で、比較例2はステントのストラット幅寸法のばらつきが大きいことから、均一に研磨できていないことがわかる。
【0101】
このことから、本発明は、管状体の電解研磨において、簡易な方法及び装置を用いて、ムラなく均一に電解研磨を達成できる管状体の電解研磨装置、電解研磨装置用のアノード導電性部材、ならびに電解研磨方法であることがわかる。