(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6655813
(24)【登録日】2020年2月6日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】鋼管杭の打撃騒音低減方法
(51)【国際特許分類】
E02D 13/00 20060101AFI20200217BHJP
E02D 7/10 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
E02D13/00 A
E02D7/10
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-43563(P2016-43563)
(22)【出願日】2016年3月7日
(65)【公開番号】特開2017-160615(P2017-160615A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 理太
(74)【代理人】
【識別番号】100089886
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 雅雄
(72)【発明者】
【氏名】前田 一成
(72)【発明者】
【氏名】中川 智史
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 敏弘
【審査官】
富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−159218(JP,A)
【文献】
特開平01−235719(JP,A)
【文献】
特開平10−044984(JP,A)
【文献】
特開2012−197612(JP,A)
【文献】
実開平03−111631(JP,U)
【文献】
特開平01−142123(JP,A)
【文献】
特開平08−128041(JP,A)
【文献】
特公昭35−016818(JP,B1)
【文献】
実開昭60−151940(JP,U)
【文献】
特開2017−125317(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0006478(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D7/00−13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管杭の頂部を打撃した際に生じる騒音を低減する鋼管杭の打撃騒音低減方法において、
前記鋼管杭の上端開口から膨縮可能な中空部材を挿入し、該中空部材を前記鋼管杭内の杭頭部近傍に配置させ、その位置で内部に空気を注入して前記中空部材を膨張させ、前記中空部材に前記鋼管杭の内周面を押圧させた状態で前記鋼管杭の頂部を打撃することを特徴とする鋼管杭の打撃騒音低減方法。
【請求項2】
前記中空部材は、織布の両面にゴム材を貼り合わせて形成された強強度ゴムからなる基布層と、該基布層の表面を覆う被覆ゴム層とを備えてなる多層ゴム材をもって構成されている請求項1に記載の鋼管杭の打撃騒音低減方法。
【請求項3】
前記中空部材は、中空俵状又は中空円柱状に形成されている請求項1又は2に記載の鋼管杭の打撃騒音低減方法。
【請求項4】
前記鋼管杭を所望の深さ分打設する毎に前記中空部材を収縮させた状態で杭頭部側の所望の位置まで移動させる工程と、その位置で中空部材を膨張させて鋼管杭の内周面に接触させる工程とを繰り返す請求項1〜3の何れか1に記載の鋼管杭の打撃騒音低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ハンマやドロップハンマ等の打撃手段によって鋼管杭を打設する際に生じる騒音を低減するための鋼管杭の打撃騒音低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、岸壁等の構造物の支持杭を成す鋼管杭の杭打ち作業には、油圧ハンマやドロップハンマ等の打撃手段を備えた杭打ち装置が広く使用されている。
【0003】
この杭打ち装置は、例えば、
図4に示すように、クレーン船等のクレーン1に吊り持ちさせた油圧ハンマ2を備え、油圧ハンマ2を杭頭部3aに設置し、油圧ハンマ2によって杭頭部3aを下向きに打撃することにより杭3を打設するようになっている。
【0004】
油圧ハンマを用いた杭打ち作業では、杭頭部を打撃する際にその打撃衝撃による騒音を発生するため、従来では、油圧ハンマの下端部から杭頭部に亘って防音カバーで取り囲み、油圧ハンマによる鋼管杭打撃時の騒音を低減する方法が用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
また、他の騒音低減方法には、鋼管杭内に吸音部材からなる円柱状ブロックを挿入した状態で鋼管杭の頭部を油圧ハンマによって打撃するもの等も知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−087525号公報
【特許文献2】特開2012−197612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の如き従来の技術では、防音カバーや杭内部の吸音部材によって打撃衝撃音を低減することができるが、近隣に住宅地が存在する施工現場等では、周辺環境を考慮してさらなる騒音の低減が求められている。
【0008】
また、油圧ハンマ等による鋼管杭打設で生じる騒音は、ハンマによる打撃衝撃音のみならず、打撃により鋼管杭が共振することに伴う振動音も大きな原因となっていた。
【0009】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、油圧ハンマやドロップハンマ等の打撃手段によって鋼管杭を打設する際に生じる騒音を低減することができる鋼管杭の打撃騒音低減方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、鋼管杭の頂部を打撃した際に生じる騒音を低減する鋼管杭の打撃騒音低減方法において、前記鋼管杭の上端開口から膨縮可能な中空部材を挿入し、該中空部材を前記鋼管杭内の杭頭部近傍に配置させ、その位置で内部に空気を注入して前記中空部材を膨張させ、前記中空部材に前記鋼管杭の内周面を押圧させた状態で前記鋼管杭の頂部を打撃することにある。
【0011】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記中空部材は、
織布の両面にゴム材を貼り合わせて形成された強強度ゴムからなる基布層と、該基布層の表面を覆う被覆ゴム層とを備えてなる多層ゴム材をもって構成されていることにある。
【0012】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記中空部材は、中空俵状又は中空円柱状に形成されていることにある。
【0013】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項1〜3の何れか1の構成に加え、前記鋼管杭を所望の深さ分打設する毎に前記中空部材を収縮させた状態で杭頭部側の所望の位置まで移動させる工程と、その位置で中空部材を膨張させて鋼管杭の内周面に接触させる工程とを繰り返すことにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る鋼管杭の打撃騒音低減方法は、上述したように、鋼管杭の頂部を打撃した際に生じる騒音を低減する鋼管杭の打撃騒音低減方法において、前記鋼管杭の上端開口から膨縮可能な中空部材を挿入し、該中空部材を前記鋼管杭内の杭頭部近傍に配置させ、その位置で内部に空気を注入して前記中空部材を膨張させ、前記中空部材に前記鋼管杭の内周面を押圧させた状態で前記鋼管杭の頂部を打撃することにより、鋼管杭内を伝播する油圧ハンマの打撃衝撃音を中空部材によって吸収するとともに、鋼管杭の共振を防止しその振動音を低減することができる。
【0015】
また、本発明において、前記中空部材は、
織布の両面にゴム材を貼り合わせて形成された強強度ゴムからなる基布層と、該基布層の表面を覆う被覆ゴム層とを備えてなる多層ゴム材をもって構成されていることにより、打撃衝撃に耐え、衝撃音を吸収することができ、騒音を低減することができる。
【0016】
更に、本発明において、前記中空部材は、中空俵状又は中空円柱状に形成されていることにより、鋼管杭の内周面に対し一定の接触面積を確保することができ、好適に静的圧力を付与することができる。
【0017】
更にまた、本発明において、前記鋼管杭を所望の深さ分打設する毎に前記中空部材を収縮させた状態で杭頭部側の所望の位置まで移動させる工程と、その位置で中空部材を膨張させて鋼管杭の内周面に接触させる工程とを繰り返すことにより、中空部材を常に騒音低減に最も効果的な位置に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る鋼管杭の打撃騒音低減方法の実施態様を示す杭頭部分の部分拡大断面図である。
【
図3】(a)〜(c)は中空部材及び油圧ハンマの設置作業の状態を示す断面図である。
【
図4】従来の杭打ち装置の一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係る鋼管杭の打撃騒音低減方法の実施態様を
図1〜
図3に示した実施例に基づいて説明する。尚、上述の従来例と同様の構成には同一符号を付して説明し、図中符号2は打撃手段である油圧ハンマ、符号3は鋼管杭である。
【0020】
鋼管杭3の打設に使用する打撃手段には、例えば、
図4に示す従来例と同様の油圧ハンマ2を使用し、クレーン船等のクレーン1に吊り持ちさせたハンマ本体2aと、ハンマ本体2aの下端に支持されたアンビル2b及びパイルスリーブ2cからなる杭接続部とを備え、鋼管杭2に接続された状態でアンビル2bに向けてハンマ本体2aに内蔵されたラムを落下させることにより鋼管杭3を打撃するようになっている。
【0021】
本願発明は、油圧ハンマ2等の打撃手段で鋼管杭3を打撃した際に生じる騒音を低減するものであり、鋼管杭3の上端開口から杭頭部3a近傍位置に膨縮可能な中空部材4を挿入し、その位置で内部に空気を注入して中空部材4を膨張させ、中空部材4に鋼管杭3の内周面を押圧させた状態で鋼管杭3の頂部を油圧ハンマ2等の打撃手段で打撃することにより、中空部材4で打撃衝撃音を吸収するとともに、鋼管杭3の振動音を抑制するようになっている。
【0022】
尚、図中符号5は、防音カバーであって、この防音カバー5で油圧ハンマ2等の打撃手段の下端部から鋼管杭3の杭頭部3aに亘って取り囲むことにより、周囲に向けた油圧ハンマ2等の打撃手段の打撃衝撃音を遮蔽し、騒音を低減できるようになっている。
【0023】
中空部材4は、
図2に示すように、強強度ゴムからなる基布層10と、基布層10の表面を覆う被覆ゴム層11とを備えてなる多層ゴム材をもって構成され、中空俵状又は中空円柱状に形成されている。
【0024】
強強度ゴムは、ナイロン繊維からなる織布の両面にゴム材を貼り合わせて形成され、高い強度を備えている。
【0025】
また、この中空部材4は、一方の端部に開閉可能な空気注入口12を備え、この空気注入口12に給排気ホース13を介してコンプレッサーからなる給排気手段14が接続できるようになっている。
【0026】
また、中空部材4は、少なくとも一方の端部側に複数の玉掛け用ワイヤ15,15...を備え、特に図示しないが、各玉掛け用ワイヤ15,15...の端部にクレーン1のフック等に係合する玉掛け係合部が備えられ、クレーン1等によって吊り持ちできるようになっている。
【0027】
本願発明の具体的態様は、まず、
図3(a)に示すように、杭頭部3aと油圧ハンマ2とを接続する前に、中空部材4を収縮させた状態で、上端開口より鋼管杭3内に挿入し、杭頭部3a近傍位置に吊り下ろし、
図3(b)に示すように、その位置で給排気手段14より圧縮空気を送り込み膨張させる。
【0028】
この杭頭部3a近傍位置は、鋼管杭3頂部より一定の距離Hだけ低い位置であって、具体的には、鋼管杭3に生じる振動音の低減に効果的な位置に設定し、特には、鋼管杭3の打撃に伴う振動の腹(最大振り幅)となる位置に設定する。
【0029】
膨張した中空部材4は、そのゴム弾性と空気の圧縮弾性とによって、鋼管杭3の内周面の打撃振動の腹(最大振り幅)となる位置を押圧して鋼管杭3に静的圧力を加え、その押圧力によって鋼管杭3内に固定される。
【0030】
そして、
図3(c)に示すように、油圧ハンマ2を杭頭部3aに接続し、その油圧ハンマ2の下端部と杭頭部3aに亘って防音カバー5で取り囲み、この状態でハンマ本体2aに内蔵されたラムをアンビル2bに向けて落下させて鋼管杭3を打撃する作業を繰り返す。
【0031】
その際、杭頭部3a近傍(杭頂面より距離H低い位置)に中空部材4を配置し、鋼管杭3の内周面を押圧させたことによって、鋼管杭3内部が閉鎖されるので、油圧ハンマ2による打撃衝撃音が鋼管杭3内部を伝播しないようにできる。
【0032】
その場合、中空部材4が強強度ゴムからなる基布層10と、基布層10の表面を覆う被覆ゴム層11とを備えてなる多層ゴム材をもって構成されているので、鋼管杭3内を伝播する打撃衝撃波に対抗でき、破裂することなく打撃衝撃音を吸収することができる。
【0033】
更に、杭頭部3a近傍に中空部材4を配置し、鋼管杭3の内周面を押圧させたことによって、鋼管杭3に節が形成されて固有振動数が変化するので、打撃に伴う鋼管杭3の振動の共振による増幅を防止し、振動音を低減することができる。
【0034】
また、防音カバー5を併用し、中空部材4を防音カバー5の下側に配置することによって、杭頭部3aより周囲に向けた打撃騒音を防音カバー5で遮蔽するとともに、防音カバー5より下側に向かう打撃衝撃音及び振動音を中空部材4によって低減できるので、杭全体に亘って鋼管杭3の打撃騒音を低減することができる。
【0035】
次に、振動音の低減に効果的な位置は、鋼管杭3の地盤より突出した部分(未打設部)の長さによって変動するので、鋼管杭3を所望の深さ分だけ打設した後、防音カバー5及び油圧ハンマ2を杭頭より取り外し、空気を抜いて収縮させた中空部材4を吊り上げ、杭頭部3a側の振動音の低減に効果的な新たな位置に移動させ、その位置で中空部材4を
図3(b)と同様に再度膨張させて鋼管杭3の内周面に接触させる。
【0036】
そして、鋼管杭3を所望の深さ分だけ打設する毎に中空部材4の移動を繰り返しつつ油圧ハンマ2による打撃を行う。
【0037】
尚、上述の実施例では、打撃手段として油圧ハンマ2を使用する例について説明したが、打撃手段はこれに限定されず、例えば、ドロップハンマ、ディーゼルハンマ、気動ハンマ等を使用してもよい。
【0038】
また、上述の実施例では、油圧ハンマ2をクレーン船等のクレーン1で吊り上げて用いた例を説明したが、本願発明は、クローラ移動式の装置本体に鉛直に支持された支柱(リーダー)に沿って油圧ハンマ2が昇降するようにした杭打機にも適用できる。
【0039】
また、上述の実施例では、中空部材4が多層ゴム材をもって構成された例について説明したが、中空部材4の構成材料は、これに限定されず、油圧ハンマ2の打撃衝撃に耐えうるものであればよい。
【符号の説明】
【0040】
1 クレーン
2 油圧ハンマ
3 鋼管杭
4 中空部材
5 防音カバー
10 基布層
11 被覆ゴム層
12 空気注入口
13 給排気ホース
14 給排気手段
15 玉掛け用ワイヤ