特許第6655897号(P6655897)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6655897
(24)【登録日】2020年2月6日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】点火手段とそれを使用したガス発生器
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/264 20060101AFI20200220BHJP
【FI】
   B60R21/264
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-134086(P2015-134086)
(22)【出願日】2015年7月3日
(65)【公開番号】特開2017-24429(P2017-24429A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年3月9日
【審判番号】不服2019-3633(P2019-3633/J1)
【審判請求日】2019年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】猪妻 利広
【合議体】
【審判長】 藤井 昇
【審判官】 一ノ瀬 覚
【審判官】 氏原 康宏
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭53−29304(JP,Y2)
【文献】 特開2012−86839(JP,A)
【文献】 特開2000−292100(JP,A)
【文献】 特開2005−280585(JP,A)
【文献】 特開2001−353438(JP,A)
【文献】 特開平8−48130(JP,A)
【文献】 実開昭60−101289(JP,U)
【文献】 特開平10−59437(JP,A)
【文献】 特開平7−164998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16 - 21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス排出口を有するハウジング内に、点火手段とガス発生剤が充填された燃焼室を有しているガス発生器であって、
前記点火手段として
点火器カラーに固定された点火器と、内部にガス発生成分が充填されている第1カップ部材と、第2カップ部材を有している点火手段であって、
前記第1カップ部材が、底面部、周壁部および底面部と軸方向に対向する位置にある開口部を有しているもので、前記点火器の着火部を含む部分を包囲して前記点火器カラーに被せられており、
前記第2カップ部材が、底面部、周壁部および底面部と軸方向に対向する位置にある開口部を有しているもので、前記第1カップ部材を包囲して前記点火器カラーに被せられており、
前記第1カップ部材の底面部および周壁部の外表面と前記第2カップ部材の底面部および周壁部の内表面の間には断熱層として機能する間隙が形成されており、
前記第1カップ部材が第1開口手段を有し、前記第2カップ部材が第2開口手段を有しており、
前記第1開口手段と前記第2開口手段のいずれか一方が、作動前は閉塞され、前記ガス発生成分からガスが発生したときのみ開口するものである、点火手段を使用している、ガス発生器。
【請求項2】
ガス排出口を有するハウジング内に、点火手段と第1ガス発生剤が充填された第1燃焼室と第2ガス発生剤が充填された第2燃焼室を有しており、
前記第2燃焼室として、
点火器カラーに固定された点火器と、内部にガス発生成分が充填されている第1カップ部材と、第2カップ部材を有している点火手段であって、
前記第1カップ部材が、底面部、周壁部および底面部と軸方向に対向する位置にある開口部を有しているもので、前記点火器の着火部を含む部分を包囲して前記点火器カラーに被せられており、
前記第2カップ部材が、底面部、周壁部および底面部と軸方向に対向する位置にある開口部を有しているもので、前記第1カップ部材を包囲して前記点火器カラーに被せられており、
前記第1カップ部材の底面部および周壁部の外表面と前記第2カップ部材の底面部および周壁部の内表面の間には断熱層として機能する間隙が形成されており、
前記第1カップ部材が第1開口手段を有し、前記第2カップ部材が第2開口手段を有しており、
前記第1開口手段と前記第2開口手段のいずれか一方が、作動前は閉塞され、前記ガス発生成分からガスが発生したときのみ開口するものである、点火手段を使用している、ガス発生器。
【請求項3】
前記点火手段が、
前記第1カップ部材と前記第2カップ部材が、
前記第1カップ部材の外表面に形成された第1突起部と前記第2カップ部材の内表面が当接されているか、または
前記第2カップ部材の内表面に形成された第2突起部と前記第1カップ部材の外表面が当接されているものである、請求項1または2記載のガス発生器
【請求項4】
前記点火手段が、前記第1カップ部材が前記第2カップ部材よりも熱伝導性の小さい材料からなるものである、請求項1または2記載のガス発生器
【請求項5】
前記点火手段が、前記点火器カラーが金属部と前記金属部の金属よりも熱伝導性の低い材料からなる低熱伝導部を有しており、
前記低熱伝導部に第1カップ部材の開口部および開口部側の内周壁部が当接されているものである、請求項1または2記載のガス発生器。
【請求項6】
前記点火手段が、前記点火器カラーが着火部側から外径の小さな順に小径部、中間径部および大径部を有しており、
前記大径部が金属からなり、少なくとも前記小径部が前記金属部の金属よりも熱伝導性の低い材料からなる低熱伝導部からなり、
前記小径部と前記中間径部の間には、それらの外径の差による第1環状面が形成され、前記中間径部と前記大径部の間には、それらの外径の差による第2環状面が形成されているものであり、
前記第1カップ部材が、開口部が第1環状面に当接され、前記開口部側の内周壁が前記小径部に圧入されているものである、請求項1または2記載のガス発生器
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ガス発生器の点火器として使用できる点火手段と、それを使用したガス発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス源としてガス発生剤を使用したガス発生器として、それぞれガス発生剤が収容された二つの燃焼室と、前記ガス発生剤を着火燃焼させるための二つの点火器を有しているものが使用されている。
このようなガス発生器の場合には、一方の点火器が作動して一方の燃焼室内に収容されたガス発生剤が着火燃焼したとき、前記燃焼熱が他方の燃焼室内のガス発生剤を着火させないことが必要になる。
【0003】
特許文献1には、ベース部14とディフューザキャップ16とからなるハウジング12内に、第1点火器組立体54と、第2点火器90を有したデュアルタイプのガス発生器が開示されている。
第2点火器90を有する第2燃焼室82は、第1燃焼室34内に配置されたカップ部材84内に位置しており、内部には第2ガス発生剤86が充填されている。またカップ部材84の外側(周壁部)の一部には、絶縁バリア106が配置されている。
【0004】
絶縁バリア106は、第2燃焼室82に配置された第2ガス発生剤86が、第1ガス発生剤36の燃焼生成物と接触しないようにすること(接触によって第2ガス発生剤が燃焼開始しないようにすること)と同時に、第2ガス発生剤86が燃焼したときには開裂して、その燃焼生成物を第1燃焼室34側に供給するように機能する。
絶縁バリア106の具体的な材質として、ガラスファイバを含む粘着フォイルテープが記載されている。
【0005】
カップ部材84が第1ガス発生剤36の燃焼生成物と接触しないようにするためには、カップ部材84の全面を絶縁バリア106で覆うことが望ましいが、上記のガラスファイバを含む粘着フォイルテープで全面を覆うことは難しい。
このため、図1に示すように周壁面のみをガラスファイバを含む粘着フォイルテープで覆う方法を採用せざるを得ず、絶縁バリア機能は十分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,032,979号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、組み立てが簡単で、外部雰囲気からの熱的影響も受けにくい点火手段と、それを使用したガス発生器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、点火器カラーに固定された点火器と、内部にガス発生成分が充填されている第1カップ部材と、第2カップ部材を有している点火手段であって、
前記第1カップ部材が、前記点火器の着火部を含む部分を包囲して前記点火器カラーに被せられており、
前記第2カップ部材が、前記第1カップ部材を包囲して前記点火器カラーに被せられており、
前記第1カップ部材の外表面と前記第2カップ部材の内表面の間には断熱層として機能する間隙が形成されており、
前記第1カップ部材が第1開口手段を有し、前記第2カップ部材が第2開口手段を有しており、
前記第1開口手段と前記第2開口手段のいずれか一方が、作動前は閉塞され、前記ガス発生成分からガスが発生したときのみ開口するものである、点火手段と、それを使用したガス発生器を提供する。
【0009】
点火器は、公知のエアバッグ装置用のガス発生器で使用している電気式点火器を使用することができる。
点火器は、着火部を含む点火器本体と、前記点火器本体から突き出されている導電ピンを有しているものである。
点火器は、点火器本体の一部が金属製の点火器カラーで固定されているものである。
【0010】
第1カップ部材は、底面部、周壁部および底面部に対向する位置にある開口部を有しているものである。
第1カップ部材内部には、ガス発生成分が収容されている。
ガス発生成分は、公知のエアバッグ装置用のガス発生器の点火器で使用されている伝火薬、前記ガス発生器で使用されているガス発生剤、その他として、公知の黒色火薬、無煙火薬なども使用することができる。
【0011】
第2カップ部材は、底面部、周壁部および底面部に対向する位置にある開口部を有しているものである。
第2カップ部材は、第1カップ部材よりも大きなものであり、第1カップ部材が内側で第2カップ部材が外側になるように点火器に被せられているため、それらの底面部と周壁部の間には間隙(空気層)が形成されている。
空気は断熱効果が高いため、前記間隙は断熱層として機能するものである。
【0012】
第1カップ部材は第1開口手段を有している。第1開口手段は、周壁部に形成されていることが好ましいが、底面部に形成されていてもよいし、周壁部と底面部の両方に形成されていてもよい。
第2カップ部材は第2開口手段を有している。第2開口手段は、周壁部に形成されていることが好ましいが、底面部に形成されていてもよいし、周壁部と底面部の両方に形成されていてもよい。
第1カップ部材の第1開口手段と第2カップ部材の第2開口手段は、それぞれが対向する位置に形成されていてもよいし、異なる位置に形成されていてもよい。
【0013】
第1カップ部材内部にはガス発生成分が収容されているため、外部からの熱的影響を受けにくくするため、前記第1開口手段と前記第2開口手段のいずれか一方は、作動前は閉塞され、前記ガス発生成分からガスが発生したときのみ開口するものである。
前記のガス発生時のみ開口するものとしては、
カップ部材(第1カップ部材または第2カップ部材)が厚さ方向への貫通孔を有しており、前記貫通孔が金属製のシールテープなどの閉塞部材で閉塞されているもの、
カップ部材(第1カップ部材または第2カップ部材)に形成された脆弱部(例えば、ノッチが形成された部分や薄肉部)などを使用することができる。
本発明では、第1カップ部材の第1開口手段と第2カップ部材の第2開口手段の両方をガス発生時のみ開口するものにすることができるが、第2カップ部材の第2開口手段はガス発生時のみ開口するものであることが好ましい。
【0014】
本発明の点火手段は、公知のエアバッグ装置用のガス発生器の点火手段として使用できる。
また本発明の点火手段は、それ自体を独立してガス発生器としても使用することができ、例えば、シートベルトリトラクタ用ガス発生器として使用することができる。
【0015】
本発明の点火手段は、
前記第1カップ部材と前記第2カップ部材が、
前記第1カップ部材の外表面に形成された第1突起部と前記第2カップ部材の内表面が当接されているか、または
前記第2カップ部材の内表面に形成された第2突起部と前記第1カップ部材の外表面が当接されているものにすることができる。
【0016】
第1カップ部材と第2カップ部材の間には、断熱層として機能する間隙(空気層)が形成されている。
しかし、外部からの熱を含む圧力を受けたとき、第2カップ部材が傾いて第1カップ部材と接触してしまうと、前記断熱層としての機能が十分に果たせなくなることが考えられる。
しかし、上記のとおり、第1突起部または第2突起部のいずれかを有していると、上記の問題が生じたような場合でも、前記断熱層としての機能を維持することができる。
第1突起部と第2突起部は、いずれも複数の独立突起の組み合わせ、1または2以上の環状突起を使用することができる、第2カップ部材から第1カップ部材への伝熱を小さくする観点からは、複数の独立突起の組み合わせが好ましい。
複数の独立突起の組み合わせにするときは、周方向に等間隔に形成された2〜8個程度の突起を使用することができるほか、前記2〜8個程度の突起を高さ方向に複数段形成することもできる。第1突起部または第2突起部は、それぞれ第1カップ部材、または第2カップ部材の底面部寄りの周壁部に形成することができる。
【0017】
本発明の点火手段は、前記第1カップ部材が、前記第2カップ部材よりも熱伝導性の小さい材料からなるものであるものにすることができる。
前記第1カップ部材は樹脂からなるものであり、前記第2カップ部材は金属からなるものにすることができる。
第1カップ部材と第2カップ部材を上記の組み合わせにすることで、外部からの熱的影響を受けたときでも、外側の第2カップ部材は熱変形し難くなり、さらに間隙(空気層)と第1カップ部材の両方による断熱作用によって、第1カップ部材内部に収容されているガス発生成分の誤着火を防止する機能が高められる。
なお、第1カップ部材が樹脂、第2カップ部材が金属であるときは、第1カップ部材の損傷を防止するため、第1カップ部材側にのみ第1突起部を形成して、間隙(空気層)を維持することが好ましい。
【0018】
本発明の点火手段は、前記点火器カラーが、金属部と、前記金属部の金属よりも熱伝導性の低い材料からなる低熱伝導部を有しており、
前記低熱伝導部に第1カップ部材の開口部および開口部側の内周壁部が当接されているものにすることができる。
【0019】
上記したとおり、第1カップ部材と第2カップ部材の間には間隙(空気層)が形成されているため、それらは接触していないが、それぞれの開口部が金属製の点火器カラーに接触しているため、金属製の点火器カラーを介して間接的に接触している。
このため、外部の熱的影響を受けた第2カップ部材の熱(温度上昇)が金属製の点火器カラーを介して第1カップ部材に伝熱されることになる。
そこで上記のように点火器カラーに低熱伝導部を形成して、低熱伝導部に第1カップ部材の開口部および開口部側の内周壁部を当接させれば、第2カップ部材の熱(温度上昇)は第1カップ部材に伝熱され難くなる
低熱伝導部は、樹脂、セラミックス、シリコーンゴムなどのゴムから形成されるものが好ましい。
【0020】
本発明の点火手段は、
前記点火器カラーが、
着火部側から外径の小さな順に小径部、中間径部および大径部を有しており、
前記大径部が金属からなり、少なくとも前記小径部が前記金属部の金属よりも熱伝導性の低い材料からなる低熱伝導部からなり、
前記小径部と前記中間径部の間には、それらの外径の差による第1環状面が形成され、前記中間径部と前記大径部の間には、それらの外径の差による第2環状面が形成されているものであり、
前記第1カップ部材が、開口部が第1環状面に当接され、前記開口部側の内周壁が前記小径部に圧入されているものにすることができる。
【0021】
点火器カラーとして、着火部側から外径の小さな順に小径部、中間径部および大径部を有しているものを使用し、前記小径部が金属部の金属よりも熱伝導性の低い材料からなる低熱伝導部からなるものにすることで、第1カップ部材の取り付け作業が簡単になり、さらに断熱作用も高めることができる。
また、断熱作用を高める観点からは、小径部と中間径部の両方が、金属部の金属よりも熱伝導性の低い材料からなる低熱伝導部からなるものにするが好ましい。
なお、第2カップ部材の取り付けは、点火器カラーの中間径部に圧入する方法、前記大径部を利用してかしめることで固定する方法のほか、第1カップ部材の周壁部、または底面部と周壁部に被せたり、圧入したり、貼り付けたりする方法を適用することができる。
【0022】
本発明は、ガス排出口を有するハウジング内に、点火手段とガス発生剤が充填された燃焼室を有しているガス発生器であって、
前記点火手段として上記の点火手段を使用している、ガス発生器を提供する。
【0023】
また本発明は、ガス排出口を有するハウジング内に、点火手段と第1ガス発生剤が充填された第1燃焼室と第2ガス発生剤が充填された第2燃焼室を有しており、
前記第2燃焼室として上記の点火手段を使用している、ガス発生器を提供する。
【0024】
本発明の点火手段の効果がより顕著に発現されるのは、第1燃焼室と第2燃焼室を有するデュアル型ガス発生器であるが、燃焼室が一つのシングル型ガス発生器にも適用することができる。
本発明の点火手段をデュアル型ガス発生器に適用するときは、第2燃焼室として使用する。
このとき、点火手段の第1カップ部材内部に収容されたガス発生成分としてガス発生剤を使用し、それが第2燃焼室の第2ガス発生剤になる。
本発明の点火手段を第2燃焼室として使用すると、第1燃焼室内の第1ガス発生剤が先に燃焼してハウジング内が高温状態になったときでも、間隙(空気層)の断熱作用が発揮されるため、第2燃焼室内部(点火手段の第1カップ部材内部)のガス発生剤が誤着火することがなくなる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の点火手段は、ガス発生成分が充填された第1カップ部材と、その外側にある第2カップ部材の間に間隙(空気層)を有している。
このため、外部から熱が加えられたときでも、前記間隙の断熱作用によって第1カップ部材内部への伝熱が抑制されるため、第1カップ部材内部のガス発生成分が外部からの熱により誤着火することが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】(a)は、本発明の点火手段の軸方向断面図、(b)は、(a)における点火器と点火器カラーの軸方向断面図。
図2】(a)は、図1(a)の点火手段で使用している第1カップ部材の正面図、(b)、(c)は、別実施形態の第1カップ部材の正面図。
図3】(a)、(b)は、図1(a)とは別実施形態である第2カップ部材の正面図。
図4図1(a)とは別実施形態である点火手段の軸方向断面図。
図5】本発明の点火手段を使用したデュアル型ガス発生器の軸方向断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1の点火手段>
図1(a)に示す点火手段1は、点火器10、第1カップ部材20、第2カップ部材30を有している。
点火器10は、着火部11を含む点火器本体と、点火器本体から突き出されている導電ピン12を有しているものである。
点火器10は、着火部11を含む点火器本体の一部が点火器カラー13で固定されているものである。
【0028】
図1(a)、(b)に示すとおり、点火器カラー13は、着火部11側から外径の小さな順に小径部14、中間径部15および大径部16を有している。
小径部14と中間径部15は樹脂からなるものであり、大径部16は金属からなるものであるから、小径部14と中間径部15は大径部16よりも熱伝導性が小さくなっている。
小径部14と中間径部15は、内側が大径部16と一体になった金属からなり、外側が樹脂で被覆されたものでもよい。
樹脂としてはポリアミド系樹脂(例えばナイロン6−12)やポリイミド系樹脂などを使用することができ、金属としてはアルミニウム、鉄、ステンレスなどを使用することができる。
【0029】
小径部14は、着火部11が突き出された平面部14aと第1環状壁面部14bを有している。
中間径部15は、小径部14との外径の差による第1環状平面部17と、第1環状平面部17から下方に(導電ピン12側に)垂設された第2環状壁面部15aを有している。
大径部16は、中間径部15との外径の差による第2環状平面部18と、第2環状壁面部18から下方に(導電ピン12側に)垂設された第3環状壁面部16aを有している。
大径部16は、第2環状平面部18の第3環状壁面部16a側に環状突出部(かしめ部)18aを有している。
【0030】
図1図2(a)に示すとおり、第1カップ部材20は、底面部21、周壁部22、底面部21と軸方向に対向する位置にある開口部23を有している。底面部21は周壁部22とは別の部材であってもよい。
第1カップ部材20は、開口部23側の内周面が第1環状壁面部14bに圧入され、開口部23の環状端部23aが第1環状平面部17に当接されている。
第1カップ部材20の内部には、ガス発生成分となる公知のガス発生剤40が密に充填されている。
点火器10の着火部11は、第1カップ部材20により包囲されており、ガス発生剤40と接触している。
【0031】
図1(a)、図2(a)に示すとおり、第1カップ部材20は、周壁部22に第1開口手段となる複数の貫通孔24を有している。開口部24は、周壁部22が厚さ方向に貫通されており、開放状態にある。
複数の貫通孔24は、周方向に等間隔で形成されているものを一群の貫通孔として、かつ高さ方向に間隔をおいて複数群の貫通孔が形成されている。
【0032】
第1カップ部材20は、図1(a)、図2(a)に示す貫通孔24を有する実施形態に代えて、図2(b)、(c)に示す実施形態にすることができる。
図2(b)に示す第1カップ部材20Aは、図2(a)に示す第1カップ部材20において複数の貫通孔24が外側からシールテープ25で閉塞されているものである。なお、図2(b)では全ての貫通孔24が1枚のシールテープ25で閉塞されているが、複数枚のシールテープを使用してもよい。作動時、シールテープ25は開裂して、貫通孔24が開口される。
図2(c)に示す第1カップ部材20Bは、図2(a)、(b)に示す貫通孔24に代えて、複数の脆弱部24Bを有しているものである。複数の脆弱部24Bは、ノッチが形成された部分や薄肉部分からなるものであり、作動前は閉塞され、作動時には開裂することで開口される。図2(c)では線状に脆弱部が形成されているが、円形の脆弱部(円周部分に脆弱部を形成したり、円の内側全体が薄肉に形成されたりしているもの)でもよい。
【0033】
第2カップ部材30は、図3および図4のように、底面部31、周壁部32、底面部31と軸方向に対向する位置にある開口部33を有しており、開口部33にはフランジ部34を有している。底面部31は周壁部32とは別の部材であってもよい。
第2カップ部材30は、開口部33側の内周面が第2環状壁面部15aに当接され、フランジ部34が第2環状平面部18に当接された状態で、環状突出部(かしめ部)18aが折り曲げられることでフランジ部34が固定されている。
第2カップ部材30は、フランジ部34を形成せず、第1カップ部材20と同様にして、開口部33側の内周面が第2環状壁面部15aに当接され、開口部の環状面が第2環状平面部18に当接された状態で圧入して固定することもできる(図5)。
【0034】
図1(a)に示すとおり、第2カップ部材30は、周壁部32に第2開口手段となる複数の貫通孔35を有している。
貫通孔35は、周壁部32が厚さ方向に貫通されており、内側からシールテープ36で閉塞されている。シールテープ36は、外側から貼り付けられていてもよい。作動時、シールテープ36は開裂して、貫通孔35が開口される。
【0035】
第2カップ部材30は、図1(a)に示す貫通孔35を有する実施形態に代えて、図3(a)、(b)に示す実施形態にすることができる。
図3(a)に示す第2カップ部材30Aは、図1(a)に示す第2カップ部材30において、シールテープ36に代えて、シールカップ37を使用した実施形態である。作動時、シールカップ37は、開裂したり変形したりすることで貫通孔35が開口される。シールカップ37としては、例えば特開2007-131077の図4で示されるようなカップ状薄膜部材147に相当するものや、特開2007-118788でのカップ状薄膜部材147に相当するものが使用できる。
図3(b)に示す第2カップ部材30Bは、図1(a)、図3(a)に示す貫通孔35に代えて、複数の脆弱部38を有している。複数の脆弱部38は、ノッチが形成された部分や薄肉部分からなるものであり、作動前は閉塞され、作動時には開裂することで開口される。図1(a)や図4いずれの場合も、貫通孔35および脆弱部38は、それらが開口したときに第1カップ部材の貫通孔24と重ならない位置に形成することが出来る。
【0036】
第1カップ部材20の貫通孔24と第2カップ部材30の貫通孔35(または脆弱部38)は、第1カップ部材20内部に密に充填されたガス発生剤40の防湿のため、いずれか一方または両方が作動前の状態において閉塞されているものである。
このため、例えば、第1カップ部材20として図2(b)、(c)に示すものを使用したときは、第2カップ部材30として貫通孔35が閉塞されておらず、開放されたものを使用することもできる。
【0037】
第1カップ部材20の周壁部22の外表面と第2カップ部材30の周壁部32の内表面の間には、断熱層として機能する間隙28が形成されている。
間隙28の間隔は、均等間隔であることが好ましいが、例えば、本発明の点火手段1をガス発生器に適用したとき、底面部31(底面部21)側がガス発生器のハウジングと接触していたり、近接していたりして、熱的影響を受け難いような場合には、周壁部22と周壁部32の間隔を相対的に大きく、底面部21と底面部31の間隔を相対的に小さくすることができる。
間隙28の間隔は、例えば0.5〜2mmの範囲で調整することができる。
【0038】
図1(a)に示す点火手段は、それ自体をシートベルトリトラクタ用ガス発生器のようなガス発生器として使用することができるほか、公知のエアバッグ装置のガス発生器において、点火手段、または点火器とガス発生剤を備えた燃焼室としても使用することができる。
本発明の点火手段1は、外部から熱的影響を受けたとき、断熱層として機能する間隙28を有している。
さらに図1(a)に示す実施形態のように、第1カップ部材20が樹脂からなる小径部14と中間径部15に当接され、金属からなる大径部16に当接されていないため、大径部16からの熱伝導による第1カップ部材20の温度上昇も防止される。
このため、外部から熱的影響を受けたときにも、第1カップ部材20内部のガス発生剤40が誤着火することが防止される。
【0039】
図4の点火手段>
図4の点火手段1Aは、第1カップ20Aと図1(a)に示す点火手段1の第1カップ部材20の一部とシールテープ36の貼り付け位置が異なっているほかは、同じものである。
第1カップ部材20Aは、底面部21に近い位置の周壁部22において、周方向に等間隔で、複数の独立した突起部27が半径方向外側に突き出されている。
複数の独立した突起部27は、先端部が第2カップ部材30の周壁部32の内側面に当接されている。
複数の独立した突起部27は、軸方向に異なる高さ位置に形成されていてもよい。
独立した突起部27は図4では4個形成されているが、3〜6個程度あればよく、また独立した突起部27に代えて連続した環状突起を使用することもできる。
第1カップ部材20Aが樹脂からなるものであるときは、第1カップ部材20Aと突起部27は一体成形されたものを使用することができる。
【0040】
図4では、独立した突起部27は第1カップ部材20のみに形成されているが、第2カップ30の周壁部32の内側面から半径方向内側に突き出され、第1カップ部材20の周壁部22の外表面に当接されたものでもよい。
さらに第1カップ部材20と第2カップ部材30の両方から突き出された突起部が互いに当接されたものでもよい。
【0041】
図4に示すように、第1カップ部材20と第2カップ部材30の下部は、点火器カラー13の作用により間隙(空気層)28の間隔が維持されるが、第1カップ部材20が複数の独立した突起部27を有していることで、第1カップ部材20と第2カップ部材30の上部も間隙(空気層)28の間隔が維持される。
このため、外部からの熱を含む圧力を受けて第2カップ部材30が傾いたようなときでも、間隙(空気層)28の間隔が維持され、断熱機能が発揮される。
【0042】
図5のガス発生器>
図5のガス発生器100は、本願発明の点火手段を使用していることを除いて、公知のパイロ式デュアル型ガス発生器(例えば特開2011-207326の図1)と同じものである。
ハウジング101は、ガス排出口105を有するディフューザシェル102とクロージャシェル103が溶接一体化されたものである。
ガス排出口105は、内側からシールテープ106で閉塞されている。
【0043】
ハウジング101内には、ガス排出口105の間に間隔をおいて、筒状のクーラントフィルタ108が配置されている。
クーラントフィルタ108の内側は、第1ガス発生剤111が充填された第1燃焼室110となっている。
第1燃焼室110内には、周面に貫通孔113aを有する第1点火手段室カップ113が配置されている。第1点火手段室カップ113内には、第1点火器112と伝火薬としても機能する点火手段用ガス発生剤114が収容されている。
【0044】
第1燃焼室110内の第1点火手段室カップ113と第1ガス発生剤111を除いた空間内には、本発明の点火手段1Aが第2燃焼室として配置されている。
点火手段1Aは、図1(a)に示す点火手段1とは、点火器カラーを含む第2カップ部材の取り付け構造が異なっていることを除いて同じものである。
【0045】
点火手段1Aは、点火器140の着火部141を包囲して、第1カップ部材120が配置され、さらにその外側に間隙(空気層)138をおいて第2カップ部材130が配置されている。
第1カップ部材120は、点火器カラーの小径部142に圧入されている。
第2カップ部材130は、点火器カラーの中間径部143に圧入され、開口部側がクロージャシェル103の底板部130aに当接されている。
図5では、図1(a)の点火器カラー13の大径部16に相当する部分が、クロージャシェル103の底板部103aとなっている。
第1カップ部材120内部は第2燃焼室となるものであり、第2ガス発生剤150が充填されている。
第1カップ部材120の第1開口手段は、図1(a)、図2(b)、(c)のいずれかにすることができ、第2カップ部材130の第2開口手段は、図1(a)、図3(a)、(b)のいずれかにすることができる。
【0046】
次に、図5のガス発生器100を自動車のエアバッグ装置用ガス発生器として使用したときであって、第1点火器112が先に作動して、遅れて第2点火器140が作動するときの動作を説明する。
第1点火器112が作動すると、第1点火手段室カップ113内の点火手段用ガス発生剤114が着火燃焼され、燃焼ガスが発生する。
高温の燃焼ガスは貫通孔113aから第1燃焼室110内に流入して、第1ガス発生剤111を着火燃焼させて燃焼ガスが発生する。
第1燃焼室111内で発生した燃焼ガスは、クーラントフィルタ108を通った後、シールテープ106を開裂させ、ガス排出口105から排出されてエアバッグを膨張させる。
【0047】
第1ガス発生剤111が着火燃焼して燃焼ガスが発生したとき、第1燃焼室110内は高温状態になるため、点火手段1Aの周囲も高温状態になり、特に燃焼ガスや燃焼残渣と接する第2カップ部材130は高温状態になる。このとき、第2カップ部材130の第2開口手段は、外側からシールテープやシールカップなどで閉塞されているため、開裂することはない。
しかし、第2カップ部材130と第1カップ部材120の間にある間隙(空気層)138の断熱作用によって、第2カップ部材130の熱は第1カップ部材120には伝熱し難くなっている。
このため、第1カップ部材120内部の温度上昇は抑制され、内部の第2ガス発生剤150が誤着火することが防止される。
そして、第1点火器112の作動から僅かに遅れて第2点火器140が作動すると、第2ガス発生剤150が着火燃焼して燃焼ガスが発生する。
第1カップ部材120内で発生した燃焼ガスは、第1カップ部材120の貫通孔を通って間隙(空気層)138に流入した後、第2カップ部材130の貫通孔を通って第1燃焼室110内に流入する。
その後、クーラントフィルタ108を通り、開口しているガス排出口105から排出されてエアバッグをさらに膨張させる。このようにパイロ式デュアル型ガス発生器の第2燃焼室として本発明の点火手段を使用する場合は、第2ガス発生剤150の燃焼圧力が掛かったときのみ第2開口手段(貫通孔)35が開口するように、シールカップ37やシールテープ36は、周壁部32の外側から配置する。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の点火手段は、シートベルトリトラクタ用ガス発生器と使用できるほか、ガス発生器の点火手段、ガス発生器の燃焼室としても使用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 点火手段
10 点火器
20 第1カップ部材
24 貫通孔
28 間隙(空気層)
30 第2カップ部材
40 ガス発生成分(ガス発生剤)
図1
図2
図3
図4
図5