(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6656013
(24)【登録日】2020年2月6日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】低熱膨張鋳鋼品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20200220BHJP
C22C 38/10 20060101ALI20200220BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
C22C38/00 302R
C22C38/10
C21D6/00 101H
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-28006(P2016-28006)
(22)【出願日】2016年2月17日
(65)【公開番号】特開2017-145456(P2017-145456A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2019年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】591274299
【氏名又は名称】新報国製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(72)【発明者】
【氏名】大野 晴康
(72)【発明者】
【氏名】小奈 浩太郎
【審査官】
太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】
韓国公開特許第10−2016−0004194(KR,A)
【文献】
特開平04−289149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 − 38/60
C21D 6/00 − 6/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低熱膨張鋳鋼品の成分組成が、質量%で、
C :0.04%以下、
Si:0.3%以下、
Mn:0.5%以下、
Al:0.2%以下、
Ni:31〜34%、及び
Co:2〜6%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物である
ことを特徴とする主相が平均結晶粒径が200μm以下のオーステナイトであり、
面積率で0.2〜3%のマルテンサイト組織を含み
18〜28℃における熱膨張係数が±0.2×10-6/℃である
ことを特徴とする低熱膨張鋳鋼品。
【請求項2】
重量が10kg以上であることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張鋳鋼品。
【請求項3】
最大肉厚が35mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の低熱膨張鋳鋼品。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の低熱膨張鋳鋼品を製造する方法であって、
C :0.04%以下、
Si:0.3%以下、
Mn:0.5%以下、
Al:0.2%以下、
Ni:31〜34%、及び
Co:2〜6%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物である鋳鋼品をMs点以下まで冷却して、Ms点以下の温度で0.5〜3hr保持した後室温まで昇温する工程、
上記鋳鋼品を800〜1100℃に加熱し、0.5〜5hr保持する工程、
上記鋳鋼品を650〜300℃の間における冷却速度を30℃/min以上で急冷する工程
を順に含む方法により18〜28℃における熱膨張係数が−0.2×10-6/℃以下である鋳鋼品を300〜450℃に0.5〜24時間保持し、その後、−30〜0℃に0.5〜24h保持する工程を備えることを特徴とする低熱膨張鋳鋼品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゼロに限りなく近い熱膨張係数を有する低熱膨張鋳鋼品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクスや半導体関連機器、レーザー加工機、超精密加工機器の部品材料として、熱的に安定なインバー合金が広く使用されている。
【0003】
特許文献1には、Ni:29.5〜35%、Co:2.0〜7.0%、Cr:0.001〜2.0%を含有する、熱膨張係数が0.5×10
-6/℃〜2.0×10
-6/℃の低熱膨張合金が開示されている。この合金は、均質溶体化処理後、焼入れするかあるいは1℃/sec以下の速度で冷却して焼鈍を行った後、10%以上の冷間圧延加工を行うことで得られる。
【0004】
特許文献2には、C:0.1%以下、Ni:30〜34%、Co:4〜6%を含む鉄基合金からなり、さらに、MnSを含有し、固溶Sが実質的に存在しない被削性に優れた低熱膨張鋳物用合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2796966号公報
【特許文献2】特開2002−206142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、複雑な形状を有する部材には、製造の容易さから、機械加工や溶接ではなく、鋳鋼品が用いられる。鋳鋼品は鋳型に溶湯を流し込むことにより、小型の部品から大型の部品まで任意の形状が得られるので、製造が容易であるという利点がある。
【0007】
これまで、試験片レベルのインバー合金については、前記のとおり、種々の発明がされている。しかしながら、すべての部位について熱膨張係数が低い値を示す、特に重量が10kg以上となるような大型の鋳鋼品については報告されていない。これは、鋳型による凝固では、鋳型壁面にほぼ垂直な方向に温度勾配が生じて壁面から中心に向けて凝固が進行するが、特に大型であったり、形状が複雑であったりする場合に、鋳鋼品全体を一様な組織とするのが難しいためであると考えられる。
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決した、重量が10kg以上となるような大型であっても、すべての部位において低い熱膨張係数を有する鋳鋼品及びその製造方法に関する発明をし、特許出願をした。
【0009】
しかしながら、近年、さらに熱膨張係数の絶対値が狭い範囲、たとえば、18〜28℃における熱膨張係数が±0.2×10
-6/℃となるような鋳鋼品が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、特に重量が10kg以上となるような大型であっても、すべての部位について熱膨張係数の絶対値が小さい値を示す、鋳鋼品を製造する方法について鋭意検討した。その結果、熱膨張係数が小さい鋳鋼品に対して適切な熱処理を施すことにより熱膨張係数を制御することが可能であり、熱膨張係数の絶対値が小さい鋳鋼品が得られることを見出した。本発明は上記の知見に基づきなされたものであって、その要旨は以下のとおりである。
【0011】
(1)主相が平均結晶粒径が200μm以下のオーステナイトであり、面積率で0〜3%のマルテンサイト組織を含み、18〜28℃における熱膨張係数が±0.2×10
-6/℃であることを特徴とする低熱膨張鋳鋼品。
【0012】
(2)前記低熱膨張鋳鋼品の成分組成が、質量%で、C:0.04%以下、Si:0.3%以下、Mn:0.5%以下、Al:0.2%以下、Ni:31〜34%、及びCo:2〜6%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であることを特徴とする前記(1)の低熱膨張鋳鋼品。
【0013】
(3)重量が10kg以上であることを特徴とする前記(1)又は(2)の低熱膨張鋳鋼品。
【0014】
(4)最大肉厚が35mm以上であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかの低熱膨張鋳鋼品。
【0015】
(5)18〜28℃における熱膨張係数が−0.2×10
-6/℃以下である鋳鋼品を300〜450℃に0.5〜24時間保持する工程を備えることを特徴とする低熱膨張鋳鋼品の製造方法。
【0016】
(6)前記18〜28℃における熱膨張係数が−0.2×10
-6/℃以下である鋳鋼品は、
鋳鋼品をMs点以下まで冷却して、Ms点以下の温度で0.5〜3hr保持した後室温まで昇温する工程、上記鋳鋼品を800〜1100℃に加熱し、0.5〜5hr保持する工程、上記鋳鋼品を650〜300℃の間における冷却速度を30℃/min以上で急冷する工程を順に含む方法により製造されることを特徴とする前記(5)の低熱膨張鋳鋼品の製造方法。
【0017】
前記鋳鋼品の成分組成が、質量%で、C:0.04%以下、Si:0.3%以下、Mn:0.5%以下、Al:0.2%以下、Ni:31〜34%、及びCo:2〜6%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であることを特徴とする前記(5)又は(6)の低熱膨張鋳鋼品の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鋳造後の鋳鋼品に適切な熱処理を施すことにより、すべての部位で熱膨張係数の絶対値が小さい鋳鋼品が得られるので、熱的に安定でありかつ複雑な形状が必要となる大型の部品などに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の鋳鋼品の組織の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。以下、成分組成に関する「%」は特に断りのない限り「質量%」を表すものとする。はじめに、本発明の鋳鋼品の組織と成分組成について説明する。
【0021】
本発明の低熱膨張鋳鋼品は、主相が平均結晶粒径が200μm以下のオーステナイトであり、面積率で0〜3%、好ましくは0%超3%以下のマルテンサイト組織を含み、18〜28℃における熱膨張係数が±0.2×10
-6/℃であれば、成分組成は特に限定されない。
【0022】
低い熱膨張係数を得るための成分組成として、たとえば、C:0.04%以下、Si:0.3%以下、Mn:0.5%以下、Al:0.2%以下、Ni:31〜34%、及びCo:2〜6%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であることが好ましい。上記の好ましい成分組成において、Ni、Co以外の元素は、含有しなくてもかまわない。
【0023】
Niは、熱膨張係数を低下させる元素である。特に大型の鋳鋼品全体にわたり熱膨張係数を低い値とする場合には、Ni量を狭い範囲に制御する必要がある。具体的には、Niは31〜34%の範囲が好ましい。
【0024】
Coは、Niとの組み合わせにより熱膨張係数の低下に寄与する。所望の低い熱膨張係数を得るためには、Coの範囲は2〜6%が好ましい。
【0025】
Cは、オーステナイトに固溶し強度の上昇に寄与する。しかしながら、Cは再結晶処理工程でマトリックスに固溶し、冷却時に析出し、熱膨張係数を大きくする。熱膨張係数を±0.2×10
-6/℃にするためにはCの含有量を低くするのが好ましく、0.04%以下とするのが好ましい。
【0026】
Si、Mn、及びAlは、通常、脱酸剤として添加される。本発明の低熱膨張鋳鋼品においては、吹かれの無い健全な鋳鋼品をつくるため、脱酸に必要な最小限の量をそれぞれ添加すればよい。添加量はそれぞれ、Si:0.3%以下、Mn:0.5%以下、及びAl:0.2%以下が好ましい。
【0027】
成分組成の残部は、Fe及び不可避的不純物である。不可避的不純物とは、本発明で規定する成分組成を有する鋼を工業的に製造する際に、原料や製造環境等から、意図的に鋼に含有させたものではなく、不可避的に混入するものをいう。
【0028】
具体的には、S、P、Cu、Crなどが挙げられる。なお、C、Si、Mn及びAlも、含有を意図しなくとも不可避的不純物として混入する場合があるが、上述した含有量の範囲であれば特に問題はない。
【0029】
本発明の鋳鋼品の組織の主相は、平均粒径が200μm以下のオーステナイト組織である。組織は、微細な等軸晶を中心とするのが好ましい。組織のすべてが等軸晶である必要はないが、等軸晶の割合が面積率で60%以上であることが好ましい。等軸晶の割合が面積率で90%以上であればより好ましく、95%以上であればさらに好ましい。
【0030】
大型の鋳鋼品の場合、鋳鋼品のすべての組織の主相について、平均粒径が200μm以下のオーステナイト組織となることが重要である。これを満たさない組織が存在すると、鋳鋼品全体で低い熱膨張係数を得ることができなくなる。
【0031】
さらに、本発明の鋳鋼品の組織は、面積率で0〜3%のマルテンサイトを含む。本発明におけるマルテンサイトの面積率は、光学顕微鏡を用いて、観察倍率を100倍として、15×30mmの視野で、5箇所について求めた化学腐食により着色されたマルテンサイト組織の面積率の平均値とする。
【0032】
図1に、組織の観察例を示す。化学腐食により着色されたマルテンサイトサイト組織(11)が確認できる。
【0033】
次に、本発明の低熱膨張鋳鋼品の製造方法について説明する。
【0034】
本発明の低熱膨張鋳鋼品の製造方法は、18〜28℃における熱膨張係数が−0.2×10
-6/℃以下である鋳鋼品に熱処理を施すことを特徴としている。
【0035】
18〜28℃における熱膨張係数が−0.2×10
-6/℃以下である鋳鋼品は、たとえば、以下の方法で製造することができる。
【0036】
鋳造に用いる鋳型や、鋳型への溶鋼の注入装置、注入方法は特に限定されるものではなく、公知の装置、方法を用い、鋳鋼品を得ればよい。
【0037】
はじめに、得られた鋳鋼品を、Ms点以下まで急冷し、Ms点以下の温度で0.5〜3hr保持した後、室温まで昇温する。冷却の方法は特に限定されない。一般的に、Ms点は鋼の成分を用いて、下記の式で推定できる。
【0038】
Ms=521−353C−22Si−24.3Mn−7.7Cu−17.3Ni
−17.7Cr−25.8Mo
ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Moは各元素の含有量(質量%)である。含有しない元素は0とする。
【0039】
次に、鋳鋼品を800〜1100℃まで再加熱し、800〜1100℃で0.5〜5hr保持する。その後、650〜300℃の間の冷却速度を30℃/min以上とし、鋳鋼品を冷却する。これにより、等軸晶を中心とした平均粒径が200μm以下の微細なオーステナイト組織を得ることができる。
【0040】
上記の工程の間に、必要に応じて、他の熱処理を含んでもよい。熱膨張係数は650〜300℃の間の冷却速度を制御することによって制御され、熱膨張係数の小さい鋳鋼品を得ることができる。しかしながら、上記冷却は冷却速度が30℃/min以上の急冷であるので、熱膨張係数を、たとえば、±0.2×10
-6/℃のような狭い範囲に制御することは難しい。
【0041】
本発明によれば、18〜28℃における熱膨張係数が−0.2×10
-6/℃以下である鋳鋼品に熱処理を施すことにより、熱膨張係数を大きくし、18〜28℃における熱膨張係数を、たとえば、±0.2×10
-6/℃に調整することが可能である。
【0042】
具体的には、はじめに、18〜28℃における熱膨張係数が−0.2×10
-6/℃以下である鋳鋼品に、300〜450℃で0.5〜24時間保持する熱処理を施す。熱処理の温度は、熱処理前の熱膨張係数や鋳鋼品の大きさに応じて、上記の範囲で適宜調整すればよい。
【0043】
続いて、−30〜0℃で0.5〜24時間保持する熱処理を施す。熱処理の温度は、熱膨張係数や鋳鋼品の大きさに応じて、上記の範囲で適宜調整すればよい。初めの熱処理からの冷却速度や方法は、特に限定されない。
【0044】
これらの処理により、組織中にわずかにマルテンサイトが生じ、残留応力が除去されることにより熱膨張係数が大きくなる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【0046】
表1に示す成分組成となるように調整した溶湯を鋳型に注湯し、−196℃まで急冷後1時間保持し、次いで、830℃まで加熱して1時間保持し、平均冷却速度が200〜400℃/minとなるように冷却して、表1に記載の重量、最大肉厚を有する鋳鋼品を製造した。記載のないFe以外の元素の含有量は、不可避的不純物レベルであることを確認した。
【0047】
【表1】
【0048】
得られた鋳鋼品に、表2に示す2段階の熱処理を施した。本発明の方法により、熱膨張係数がゼロに限りなく近づき、±0.2×10
-6/℃の範囲内とできることが確認できた。
【0049】
【表2】
【符号の説明】
【0050】
11 マルテンサイト