(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記周波数特性曲線では、周波数3kHzから5kHzまでの範囲の音圧レベル差が4.0dB以下であり、かつ周波数5kHzから8kHzまでの範囲の音圧レベル差が9.0dB以下である請求項1〜3のいずれかに記載の防水通音カバー。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタルカメラ、携帯音楽再生機等の電気製品には、スピーカーやマイクロフォンを含む音響ユニットが備わっている。この音響ユニットは、音波の発信を行うスピーカーや音波の受信を行うマイクロフォンなどの音波電気変換装置が、筐体(ハウジング)に収納されており、この筐体内部の音響空間と筐体の外部との間に、音波を通過させるための開口部を有する。電気製品の使用時に、筐体の開口部から筐体内部へ水やその他の液体が流入したり粉じん等の異物が混入すると、上記音波電気変換装置の故障を招いたり雑音が発生する原因となる。よって一般に、上記開口部には多孔質材料からなるカバーが設けられる。
【0003】
上記水等の混入を十分防ぐために上記多孔質材料の孔径を小さくすると、音響ユニットの防水・防塵等の保護性は高まるが、音波の減衰が大きくなるなど音響特性が低下する。反対に、音響特性を高めるために上記多孔質材料の孔径を大きくすると、音響ユニットの保護性が低下する。これらのことから、上記開口部に設けられるカバーには、優れた保護性と優れた音響特性の両立が求められる。
【0004】
例えば特許文献1には、通音性と耐水性を兼ね備えた防水通音材として、微細透孔が多数分散形成されたシート状体であって、フラジール型試験機によって測定される通気量が0.1cc/cm
2・秒以上で、かつ耐水圧が30cmaq以上に設定された防水通音材が示されている。
【0005】
特許文献2には、防塵性および通気性に優れるとともに、通音性および耐水性にも優れるPTFE多孔質膜として、周波数300以上3000Hz以下の音の音圧変化量が1dB以下であり、周波数3000を超え10000Hz以下の音の音圧変化量が5dB以下であり、JIS L1092A法(静水圧法)により測定される耐水圧が30cm以上であるポリテトラフルオロエチレン多孔質膜が示されている。
【0006】
また特許文献3には、防水性および通音特性に優れる防水通音膜として、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成された、非多孔質の樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの主面上に形成された、前記複数の貫通孔と対応する位置に開口を有する撥液層と、を備え、前記貫通孔は、直線状に延びるとともに15μm以下の径を有し、前記樹脂フィルムにおける前記貫通孔の孔密度は、1×10
3個/cm
2以上1×10
9個/cm
2以下であり、前記樹脂フィルムは、当該フィルムの主面に垂直な方向に対して傾いた方向に延びる前記貫通孔を有し、当該傾いて延びる方向が異なる前記貫通孔が前記樹脂フィルムに混在している防水通気膜が提案されている。
【0007】
特許文献4には、生活防水レベル以上の防水性確保と、音割れの発生の抑制とを実現し得た防水通音膜として、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜からなる通音領域を有し、JIS L1096に規定されている通気性測定法のA法(フラジール法)に準拠して測定した前記多孔質膜の厚さ方向の通気度が2cm
3/cm
2/s以上であり、JIS L1092に規定されている防水性試験方法のB法(高水圧法)に準拠して測定した前記多孔質膜の耐水圧が3kPa以上である防水通音膜が提案されている。
【0008】
しかしながら近年では、優れた防水性と共に、従来品よりもより高い音響特性を示す防水通音膜が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者らは、優れた防水性と従来品よりもより高い音響特性、具体的には音圧レベルが一定以上であると共に、特に、周波数が例えば100〜10000Hzの広い周波数領域にわたって、周波数による音圧レベルの違いが十分に抑えられた防水通音カバーを得るべく、鋭意研究を重ねた。
【0023】
その結果、上記特性を実現し得た本発明の防水通音カバーは、下記の(1)および(2)を満たす多孔質膜を有するものであって、かつ、周波数3kHzから8kHzまでの範囲の最大音圧レベルと最小音圧レベルの差(音圧レベル差)が13.0dB以下を満たす周波数特性曲線を有し、更に周波数1kHzにおける挿入損失が14.0dB未満を満たすことを見出した。以下、まず本発明の防水通音カバーを構成する多孔質膜の下記(1)および(2)の特性について説明する。尚、本発明において、音圧レベルの単位「dB」は、20μPaを基準としている。
(1)JIS L1092の耐水度試験B法(高水圧法)に基づいて測定される耐水圧が20kPa以上であると共に、JIS L1096のA法(フラジール形法)に基づいて測定される通気量が3.0cc/cm
2・sec以上である。
(2)ASTM D412に基づいて測定される引張強度が5.5N以上である。
【0024】
(多孔質膜の耐水圧および通気量)
本発明の防水通音カバーを構成する多孔質膜は、上記(1)に示す通り、上記方法で測定される耐水圧が20kPa以上であると共に、上記方法で測定される通気量が3.0cc/cm
2・sec以上である。後記の実施例に示す通り、特に通気度を高めることによって、周波数1kHzにおける挿入損失を十分に抑制することができる。上記耐水圧は、好ましくは25kPa以上、より好ましくは30kPa以上である。また上記通気量は、好ましくは5.0cc/cm
2・sec以上、より好ましくは7.0cc/cm
2・sec以上である。
【0025】
上記耐水圧と通気量は、後述する
図1の●で示す通り反比例の関係にある。例えば後述する
図1から、上述した通気量3.0cc/cm
2・sec以上を達成させるには、耐水圧を90kPa以下に抑えることが好ましい。耐水圧は、より好ましくは55kPa以下である。また後述する
図1から、上述した耐水圧20kPa以上を達成させるには、通気量を25cc/cm
2・sec以下とすることが好ましい。通気量は、より好ましくは17cc/cm
2・sec以下、更に好ましくは10cc/cm
2・sec以下である。
【0026】
(多孔質膜の引張強度)
上記多孔質膜は、更に、ASTM D412に基づいて測定される引張強度が5.5N以上を満たす。上記引張強度は、好ましくは6.0N以上、より好ましくは7.0N以上、更に好ましくは10.0N以上である。一方、上記引張強度が高すぎても、高周波域での挿入損失が大きくなると考えられることから、引張強度は、好ましくは30N以下、より好ましくは20N以下である。
【0027】
前記多孔質膜の耐水圧、通気量および引張強度の詳細な測定条件は、後記の実施例に記載の通りである。
【0028】
(本発明の多孔質膜に適用可能な、材質、形態、製造方法)
本発明の多孔質膜は、上記特性を満たせばよく材質は限定されない。該多孔質膜の材質として、以下の樹脂で形成された多孔質フィルムが挙げられる。例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレン−(ペルフルオロアルキル)ビニルエーテルコポリマー(PFA)等の防水性に優れたフッ素樹脂;が挙げられる。
【0029】
上記多孔質膜の材質として、好ましくは多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜や多孔質の高分子量ポリエチレン膜が挙げられる。より好ましくは多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜である。更に好ましくは、複数の結節と該結節間に形成される複数のフィブリルを有し、かつ前記結節の長さ/直径で表されるアスペクト比が25以上である多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜である。
【0030】
前記多孔質膜の形態として、1種の多孔質樹脂フィルムからなる単層と;2種以上の多孔質樹脂フィルムからなる積層(ラミネート)と;これらと、不織布、織物や編物等のネット、メッシュ等、伸縮性を持つ通気性の補強層との積層と;が挙げられる。前記積層の場合、上記耐水圧、通気量および引張強度は、積層の状態で測定される。この多孔質膜の好ましい形態として、前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を含む形態、つまり前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の単層や、前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を含む積層が挙げられる。該積層の例として、複数の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の積層や、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜と前記補強層(例えば不織ポリエステル布等の不織布)との積層が挙げられる。多孔質膜のより好ましい形態は、前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の単層である。
【0031】
前記多孔質膜は、表面張力の低い液体による漏れを十分抑制するために、撥液処理が施されていてもよい。撥液処理として、多孔質膜表面に撥液剤をコーティングする場合の他、多孔質膜中に疎水性ナノ粒子を混和することが挙げられる。この場合の「撥液」とは、液体をはじくことをいい撥水および/または撥油を意味する。前記多孔質膜に撥液性を持たせることで、体脂や機械油、水滴などの音響特性等の機能を低下させる様々な汚染物が、多孔質膜の細孔内に浸透若しくは保持されるのを抑制できる。撥液処理に用いる材料および方法として、例えば、米国特許第5,116,650号、同第5,286,279号、同第5,342,434号、同第5,376,441号等に開示された材料および方法を使用することができる。特に撥液処理として、フッ素含有ポリマーのコーティングが挙げられる。上記フッ素含有ポリマーとして、例えば、米国特許第5,385,694号および同第5,460,872号の各明細書に教示されているジオキソル/TFEコポリマー、米国特許第5,462,586号に教示されているペルフルオロアルキルアクリレートおよびペルフルオロアルキルメタクリレート、そしてフルオロオレフィン、フルオロシリコーンなどが挙げられる。この中でも、ジオキソル/TFEコポリマーおよびペルフルオロアルキルアクリレートポリマーで処理することが好ましい。
【0032】
前記多孔質膜は、カーボンブラックのような顔料または見栄えをよくする目的で着色に使用される染料等の着色剤を、塗布または含有する等の着色処理が施されていてもよい。
【0033】
上記多孔質膜は、例えば相分離法;高分子や有機物、無機物を用いた抽出法;酸・アルカリ処理等による化学処理法;延伸法;照射エッチング法;融着法;機械的、物理的または化学的な手段による発泡法;プラズマ処理またはグラフト処理等の表面処理法;または、これらの技術を複数組み合わせた複合法;等の公知の方法で得ることができる。複数の結節と該結節間に形成される複数のフィブリルを有する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を得るには、例えば、米国特許第3,953,566号、同第4,187,390号、同第4,110,392号、同第5,814,405号のそれぞれの明細書に記載の材料やプロセスを用い、例えば延伸倍率や加熱温度を調整することが挙げられる。この中でも米国特許第5,814,405号に記載の方法を参照することで、前記結節と複数のフィブリルを有し、かつ前記結節の長さ/直径で表されるアスペクト比が25以上の延伸膨脹ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)を得ることができる。
【0034】
上記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を得る場合の製造方法の一例を次に挙げる。PTFEのファインパウダーと成形助剤を混合成形し、成形助剤を除去した後、高温高速度で延伸し、さらに必要に応じて焼成する工程によって得ることができる。前記延伸は、1軸延伸であってもよいし、2軸延伸であってもよい。また、例えば米国特許第5,814,405号に記載の様に、PTFE樹脂パウダーを用い、押出・圧延等により得られるテープを、PTFE樹脂の結晶融点(343℃)より低い温度で長手方向に延伸膨張させ、まず微細多孔質延伸膨張PTFE(ePTFE)を得る。次いで前記PTFEの結晶融点を上回る例えば343〜375℃に加熱し、アモルファス固定する。そして更に存在する最も高い融点のPTFEの結晶融点を上回る温度まで加熱してから、前記延伸の方向と例えば直角な方向に伸長することで得ることができる。
【0035】
本発明で規定する耐水圧、通気度および引張強度を満たす多孔質膜を得るには、上記製造方法において、例えばアモルファス固定前後の延伸倍率を制御することが挙げられる。
【0036】
(防水通音カバーの膜厚)
本発明の防水通音カバーの膜厚は、10μm以上300μm以下の範囲内とすることが好ましい。前記膜厚は、より好ましくは15μm以上、更に好ましくは18μm以上、より更に好ましくは20μm以上であり、より好ましくは250μm以下、更に好ましくは220μm以下、より更に好ましくは200μm以下である。前記防水通音カバーの膜厚は、単層の場合は単層の膜厚を示し、積層の場合は合計膜厚を示す。前記防水通音カバーが多孔質膜のみから形成されている場合、この防水通音カバーの膜厚は多孔質膜の膜厚を意味する。前記防水通音カバーが単層の多孔質膜で形成されている場合、前記膜厚は50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。
【0037】
本発明の防水通音カバーの形状は特に限定されない。防水通音カバーにおける音波が通過する領域(有効領域)に応じた形状とすればよい。形状として、例えば円状、楕円状、矩形状、多角形状が挙げられる。
【0038】
(防水通音カバーの音響特性)
本発明の防水通音カバーは、上記多孔質膜を含むものであって、後記する実施例に示す装置を用い、かつ後記する実施例に示す条件で音響特性を評価したときに、次の特性を示すものである。即ち、後記する実施例で求められる横軸が周波数、縦軸が音圧レベルで表される周波数特性曲線において、周波数3kHzから8kHzまでの範囲の最大音圧レベルと最小音圧レベルの差(音圧レベル差)が13.0dB以下の平坦な曲線を示す。上記音圧レベル差は、好ましくは10dB以下、より好ましくは5dB以下、更に好ましくは3dB以下である。
【0039】
従来のカバーを用いると、周波数3kHzから8kHzのあたりでピークが生じる(後記する
図7を参照)。ピークが生じると、周波数による音圧レベルの違いが大きくなり音質の低下を招く。また、後記の
図7に示す通りこのピークはばらつきやすい。これに対して本発明の防水通音カバーは、上述の通り周波数3kHzから8kHzまでの範囲の最大音圧レベルと最小音圧レベルの差が十分に抑制されているため、音質の向上を期待できる。
【0040】
更に本発明の防水通音カバーは、前記周波数特性曲線において、周波数1kHzでの挿入損失が14.0dB未満であり音損失が少ない。上記挿入損失は、より好ましくは10dB以下、更に好ましくは8.0dB以下、より更に好ましくは6.5dB以下、最も好ましくは5.0dB以下である。
【0041】
前記挿入損失とは、後記する実施例に示す通り、
図3においてパーツサンプル4のみ取り付けていない状態で測定した、周波数1kHzでの音圧レベル(94dB)を基準とし、この基準からの音圧レベルの低下量(dB)をいう。
【0042】
また、本発明の防水通音カバーは、前記周波数特性曲線における周波数3kHzから5kHzまでの範囲の音圧レベル差(3k−5kHz音圧レベル差)が4.0dB以下であり、かつ周波数5kHzから8kHzまでの範囲の音圧レベル差(5k−8kHz音圧レベル差)が9.0dB以下であることが好ましい。つまり、上記3kHzから8kHzまでの周波数帯域の上記各狭帯域においても、周波数による音圧レベルの違いが抑えられ、より平坦な周波数特性曲線を示すことが好ましい。前記3k−5kHz音圧レベル差は、より好ましくは3.0dB以下、更に好ましくは2.0dB以下、より更に好ましくは1.0dB以下である。前記5k−8kHz音圧レベル差は、より好ましくは6.0dB以下、更に好ましくは4.0dB以下、より更に好ましくは3.5dB以下である。
【0043】
更に本発明の防水通音カバーは、前記周波数特性曲線において、周波数1kHzの音圧レベルよりも周波数8kHzの音圧レベルの方が小さく、音圧レベルの変化が抑えられていることが好ましい。
【0044】
(防水通音カバー部材)
本発明には、前述の防水通音カバーと;該防水通音カバーの少なくとも片面に、支持層が形成された点に特徴を有する防水通音カバー部材を含む。上記支持層として、上述した音響特性を損なわない範囲で、特開2009−303279号公報に示された種々の構造の接着支持システムを採用することができる。好ましくは、防水通音カバーの周縁部に支持層を有する形態である。上記支持層の厚さは例えば1〜500μmとすることができる。
【0045】
該支持層を構成する材料として、例えば樹脂や金属が挙げられる。樹脂として、例えばアクリル、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリシリコンなどを含む分類から選択された、液体状または固体状の、熱可塑性タイプ、熱硬化性タイプまたは反応性硬化タイプのものが挙げられる。または、ステンレスやアルミニウム等の金属、または該金属と上記樹脂との複合材料であってもよい。上記防水通音カバーと支持層の接着方法として、例えば加熱接着、超音波接着、接着剤による接着、両面テープによる接着が挙げられる。防水通音カバーに直接的に被着する場合は、例えばスクリーン印刷、グラビア印刷、スプレーコーティング、粉末コーティング等を行うことが挙げられる。上記支持層として、両面粘着テープを使用することもできる。両面粘着テープには、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ナイロン不織布等を芯材とした不織布基材両面粘着テープ、PET基材両面粘着テープ、ポリイミド基材両面粘着テープ、ナイロン基材両面粘着テープ、発泡体(例えば、ウレタンフォーム、シリコーンフォーム、アクリルフォーム、ポリエチレンフォーム)基材両面粘着テープ、基材レス両面粘着テープなど様々なタイプのものを用いることができる。
【0046】
また特開2009−303279号公報に示された様な音響ガスケットを設けて、音波電気変換装置との距離等を調整することもできる。音響ガスケット材料として、当業者に知られている市販の材料を用いることができる。例えば、軟質のエラストマー系材料または発泡エラストマー、例えばシリコーンゴムやシリコーンゴムフォームを使用することができる。
【0047】
(音響装置)
本発明には、上記防水通音カバー部材を用いた音響装置も含まれる。該音響装置は、音波の発信および/または受信を行うものであって、
音波が通過するための開口部を有する筐体と;
前記筐体の内部に配置された音波電気変換装置と;
前記筐体の開口部を覆う、前述の防水通音カバー部材と;を有する点に特徴がある。
【0048】
上記音響装置として、スピーカー、マイクロフォン、レシーバー等の電気音響変換装置を装備する、上述したスマートフォンを含む携帯電話や、小型ラジオ、携帯音楽プレーヤー、携帯ゲーム機などの携帯音楽再生機、トランシーバー、ヘッドホン、イヤホン、屋外マイク、ビデオカメラ、デジタルカメラ、タブレットPC、ノートPC等の、音声機能を有する電気製品;や、これらの電気製品における、上記スピーカー、マイクロフォン、レシーバー等の音波電気変換装置、前記筐体、および前記音響カバーを有する音響ユニット;が挙げられる。
【0049】
音響装置は、上述の通り、筐体の外部と筐体内部に構成される音響空間との間で音波を通過させる開口部を有する筐体と;前記筐体の内部に配置されて、音波を発信するスピーカーやブザー等または音波を受信するマイク等の音波電気変換装置と;を有し、前記開口部が、前記防水通音カバーを含む防水通音カバー部材で覆われている。音響装置における上記構成以外は特に限定されず、上述した各音響装置で通常用いられている構成を採用することができる。即ち、上記筐体のサイズ・形状・材質や、筐体に設けられた開口部の形状・サイズ、音波電気変換装置の種類は、上記各音響装置で一般に用いられている仕様のものを適用すればよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。即ち、以下の実施例では、防水通音カバーとして単層の多孔質膜を用いて評価しているが、本発明はこれに限定されず、上述した種々の態様を採用することができる。
【0051】
多孔質膜として、表1に示す種々の単層の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を準備した。
【0052】
表1に示す種々の単層の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜のうち、No.1〜4は、米国特許第5,814,405号公報の教示内容に従って、多孔質の延伸膨脹ポリテトラフルオロエチレン(多孔質ePTFE)膜を調製した。またNo.5〜9は、米国特許第3,953,566号公報、同第4,187,390号公報、同第4,110,392号公報の教示内容に従って、多孔質の延伸膨脹ポリテトラフルオロエチレン(多孔質ePTFE)膜を調製した。上記教示内容において、延伸倍率や加熱温度を調整することにより、特性が種々の多孔質ePTFE膜を得た。
【0053】
得られた各多孔質ePTFE膜の膜厚や特性を下記の通り評価した。
【0054】
(1)膜厚
得られた各多孔質ePTFE膜の膜厚は、目盛0.001mm、測定子の径10mmのダイヤルゲージを使用して測定した。その結果を表1に示す。
【0055】
(2)耐水圧(iWEP)
JIS L1092(2009)の耐水度試験B法(高水圧法)に基づき、耐水圧を測定した。上記耐水度試験B法において、昇圧は0.98kPa/秒とした。また、膜の変形を抑えるために、膜の加圧面の反対側にステンレス製のメッシュ(メッシュサイズ120)を設置して上記測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0056】
(3)通気量
JIS L1096(2010)のA法(フラジール形法)に基づいて、通気量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0057】
そして上記(3)で測定した通気量が3.0cc/cm
2・sec以上であると共に、上記(2)で測定した耐水圧が20kPa以上である場合を合格とした。上記表1のNo.1〜7の通気量と耐水圧の関係を
図1に示す。前記
図1には、前記特許文献1〜4に示されたデータも併せて示した。
【0058】
(4)引張強度
ASTM D412に基づいて引張試験を行い、引張強度を求めた。該引張試験において、試験片はFタイプを使用し、試験速度は77.2mm/minとした。この引張試験は、上記多孔質膜の長手方向(MD方向)と、長手方向に直交する幅方向(TD方向)のそれぞれについて行い、これらの平均値を引張強度とした。測定結果を表1に示す。この引張強度が5.5N以上の場合を合格とした。
【0059】
(5)膜構造の観察
走査型電子顕微鏡において、倍率1000倍で、各多孔質ePTFE膜を観察した。その結果、いずれの膜も、複数の結節と該結節間に形成される複数のフィブリルを有することを確認した。
【0060】
また前記結節の長さ/直径で表されるアスペクト比は、次の通り測定した。走査型電子顕微鏡において、倍率は、1視野内に両端を観察できる結節が少なくとも1本示されるようにした。そして、上記結節の長さとその結節の幅(直径)を測定しアスペクト比を求めた。任意の5視野で該アスペクト比を求め、その値を平均して結節のアスペクト比とした。該方法で確認したところ、後記の表1におけるNo.1〜4は、前記結節の長さ/直径で表されるアスペクト比が25以上であったが、No.5〜9は、上記アスペクト比が25を下回った。
【0061】
(6)音響特性
(音響評価装置)
音響特性の評価は、
図2および
図3に模式的に示す、音響装置を模擬した音響評価装置を用いて行った。
【0062】
まず、
図2に示す音響評価装置を用いてスピーカーのキャリブレーションを行った。詳細は次の通りである。
図2に示す通り、無響箱1(B&K製、Anechoic Test Box 4232)の中に、リファレンスマイク2A(B&K製、1/4インチ Pressure−Field Microphone 4938−A−011)をセットした。マイク2Aと無響箱1に内蔵されているスピーカー3との距離は60mmとした。そして、スピーカー3からの音圧レベルが100〜10000Hzの全周波数で94dBになるようにスピーカー3のキャリブレーションを行った。
【0063】
その後、前記リファレンスマイク2Aを、
図3に示す通り、測定用マイク2B(MEMSマイク:Knowles製、Zero−Height SiSonicTM Microphone SPU0410LR5H)と、防水通音カバー部材に相当するパーツサンプル4とが、筐体に相当するパーツサンプル固定用治具5に取り付けられたものに交換し、実測定を行った。この場合もマイク2Bとスピーカー3との距離を60mmとした。この実測定では、上記の通り測定用マイクとして、携帯電話などでよく使用されるMEMSマイクを使用した。
図2および
図3において、6はコンディショニングアンプ、7はパワーアンプ、8はコンピューターを示す。
【0064】
前記
図3の領域Rの拡大断面図を
図4に示す。前記測定用マイク2Bと前記パーツサンプル4とは、この
図4に示す通り筐体に相当するプラスチック製のパーツサンプル固定用治具5に取り付けられている。
図4のXで示されるパーツサンプル固定用治具5のチャネル部分は直径0.8mmで長さが2.0mmであり、
図4のYで示されるパーツサンプル固定用治具5のキャビティ部分は直径6.0mmで長さが1.0mmである。
図4において、9はフレキシブル基板、10は基板固定用両面テープを示す。
【0065】
上記パーツサンプル4は次の通り用意した。まず、両面テープに打ち抜き加工を施して内径1.5mmの穴をあけた。この両面テープ4Aと、防水通音カバーとしての多孔質膜4Bとを積層させた後、外径が7mmになるように穴の周りを打ち抜いて、
図5に示すリング状のパーツサンプル4を作製した。
図5では、パーツサンプルの多孔質膜側からの上面図と直径位置での断面図を示す。
【0066】
(評価方法)
上記装置を用いて次の通り評価した。まずブランクとして、
図3においてパーツサンプル4のみ取り付けていない状態で、周波数100〜10000Hzでの音圧レベルを測定した。その後、
図3に示す通りパーツサンプル4を取り付けた状態で、周波数100〜10000Hzでの音圧レベルを測定した。そして、横軸が周波数で縦軸が音圧レベルである周波数特性曲線を得た。上記パーツサンプル4を取り付けた状態での測定は繰り返し5回行った。これらの測定結果の一例として、表1のNo.4とNo.5の周波数特性曲線をそれぞれ
図6、
図7に示す。得られた周波数特性曲線から、下記(a)〜(e)を求め、更に、周波数1kHzにおける挿入損失、即ち[前記ブランク状態での周波数1kHzの音圧レベル:94dB]−[周波数1kHzにおける音圧レベル]の値を求めた。これらの測定結果を表1に示す。
(a)1kHzでの音圧レベル
(b)8kHzでの音圧レベル
(c)3kHzから8kHzまでの範囲の音圧レベル差(3k−8kHz音圧レベル差)
(d)3kHzから5kHzまでの範囲の音圧レベル差(3k−5kHz音圧レベル差)
(e)5kHzから8kHzまでの範囲の音圧レベル差(5k−8kHz音圧レベル差)
【0067】
そして、3k−8kHz音圧レベル差が13.0dB以下を満たし、かつ1kHzにおける挿入損失が14.0dB未満の場合を合格とした。また3k−5kHz音圧レベル差は、4.0dB以下であることが好ましく、5k−8kHz音圧レベル差は9.0dB以下であることが好ましいと評価した。No.1〜7のデータを用いて作成した、通気度と上記1kHzにおける挿入損失との関係を示したグラフを
図8に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1、
図1および
図8から次のことがわかる。No.2〜4の多孔質膜は、規定する高い耐水圧を満たすと共に通気量を満たし、かつ引張強度も一定以上である。特に
図8から、通気量を十分に高めることによって1kHzにおける挿入損失を十分かつ確実に抑制できることがわかる。また
図1から、No.2〜4のいずれの多孔質膜も、従来の多孔質膜よりもより高い耐水圧とより高い通気量の両立を達成できたことがわかる。この多孔質膜を用いた防水通音カバーは、表1に示す通り優れた音響特性を示した。具体的には、音圧レベルの損失が抑制され、かつ、周波数広帯域において周波数による音圧レベルの違いが抑えられ、安定した音響特性を示した。
【0070】
これに対し、No.1やNo.8では通気量が小さく、1kHzでの挿入損失が大きくなった。また周波数3kHzから8kHzまでの広帯域において周波数による音圧レベルの違いが大きくなった。No.5〜7は、引張強度が小さく、周波数3kHzから8kHzまでの広帯域において周波数による音圧レベルの違いが大きくなった。またNo.9は、膜厚が薄く、耐水圧はかなり高いが通気量は小さい膜である。この膜では、特に周波数3kHzから8kHzまでの広帯域において周波数による音圧レベルの違いが大きくなった。
【0071】
また、上記
図6、
図7はそれぞれ、同じ条件で繰り返し5回測定した結果を重ね合わせたものである。本発明の要件を外れる多孔質膜を用いた
図7では、ピークが大きく、かつピークの最大値にばらつきがあった。これに対し、本発明の要件を満たす多孔質膜を用いた
図6では、ピークが十分低く抑えられているかほとんど生じておらず、かつ、わずかにピークが生じている場合であっても、その最大値は周波数約8kHzで一定であり、バラツキがほとんど生じていないことがわかる。
【0072】
以上の結果から、優れた防水性と共に、従来品よりもより高い音響特性、特には広い周波数領域にわたり、周波数による音圧レベルの違いが十分に抑えられた防水通音カバーを得るには、前記耐水圧と共に、通気量と引張強度の両方が一定以上の値を示す多孔質膜が備わっていることが有効であることがわかる。この防水通音カバーを音響装置に用いれば、優れた防水性を発揮して音響装置を保護できると共に、安定して優れた音響特性を示す音響装置を実現できる。