【文献】
三木伸介、岡澤周,“66/77kV系特別高圧受配電設備絶縁物の余寿命推定技術”,検査技術,日本,日本工業出版株式会社,2013年 1月 1日,Vol.18,No.1,pp.34−39
【文献】
三木伸介、岡澤周,“受配電機器の絶縁余寿命推定技術”,電気評論,日本,株式会社電気評論社,2011年 6月30日,Vol.96,臨時増刊号,pp.64−67
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記判断するステップにより、算出された前記絶縁体の表面抵抗率が前記絶縁体の放電が発生する表面抵抗率以下の場合には、前記放電が発生する表面抵抗率よりも大きくなる、前記絶縁体の別の領域の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、前記絶縁体の色パラメータを測定し、前記絶縁体の表面抵抗率を算出するステップをさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の受配電機器の短絡余寿命診断方法。
あらかじめ定められた環境条件における湿度データから放電発生時間を算出するステップは、公的機関から発表されている各地域の湿度データを用いて放電が発生する放電発生時間を算出することを特徴とする請求項1に記載の受配電機器の短絡余寿命診断方法。
算出された前記放電発生時間から放電による硝酸イオン付着量を算出するステップは、湿度および放電発生時間に対する、前記絶縁体に付着する硝酸イオン付着量の相関式を導出するステップと、
前記相関式に対する前記放電発生時間および前記湿度から放電による硝酸イオン付着量を算出するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の受配電機器の短絡余寿命診断方法。
前記相関式は、前記絶縁体に対してあらかじめ硝酸曝露試験と短絡加速試験による放電実験を実行することにより、測定された硝酸イオン付着量に基づいて導出されることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の受配電機器の短絡余寿命診断方法。
前記測定するステップは、受配電機器の高劣化部位を選択して前記絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、前記絶縁体の色パラメータを測定することを特徴とする請求項1に記載の受配電機器の短絡余寿命診断方法。
前記受配電機器は複数の単位スイッチギヤユニットが横方向に複数並置して構成されたスイッチギヤであることを特徴とする請求項10に記載の受配電機器の短絡余寿命診断方法。
受配電機器の前記高劣化部位は、複数の前記単位スイッチギヤユニットが横方向に複数並置しで構成された前記スイッチギヤにおける最両側及び中央の単位スイッチギヤユニットにあるとみなして、前記絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、前記絶縁体の色パラメータを測定することを特徴とする請求項11に記載の受配電機器の短絡余寿命診断方法。
前記高劣化部位は、選定された複数の各単位スイッチギヤユニットに収納された収納機器及び絶縁支持物であるとみなして、前記絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、前記絶縁体の色パラメータを測定することを特徴とする請求項12に記載の受配電機器の短絡余寿命診断方法。
選定された複数の各単位スイッチギヤユニットが収納機器を2段積み以上の複数段の段積み構造にて収納する場合において、前記高劣化部位は前記複数段のうち最下段にあるとみなして、前記絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、前記絶縁体の色パラメータを測定することを特徴とする請求項12または請求項13に記載の受配電機器の短絡余寿命診断方法。
前記各単位スイッチギヤユニットの三相用主回路導体が互いに間隔をおいて同一平面上に配置されるものにおいて、収納機器及び絶縁支持物の高劣化部位は三相のうち中央相用であるとみなして、前記絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、前記絶縁体の色パラメータを測定することを特徴とする請求項13または請求項14に記載の受配電機器の短絡余寿命診断方法。
前記絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、前記絶縁体の色パラメータの測定におけるサンプル採取場所は、前記複数の単位スイッチギヤユニットを横方向に複数並置して構成された前記スイッチギヤにおける最両側及び中央の他に、診断中に新たに発見した絶縁性能劣化の場所も加えることを特徴とする請求項12から請求項15のいずれか一項に記載の受配電機器の短絡余寿命診断方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、その説明は繰返さない。
【0019】
実施の形態1.
本実施の形態1に係る短絡余寿命診断方法は、絶縁体を含む受配電機器の短絡余寿命を診断する方法である。
【0020】
ここでいう診断対象の絶縁体とは、受配電機器が備える絶縁体のうち、絶縁劣化を診断したい絶縁体、例えば、絶縁劣化が激しく、受配電機器の寿命において重要となる絶縁体である。絶縁体の一例として、不飽和ポリエステル絶縁物、フェノール絶縁物、エポキシ絶縁物等があるが、本発明はこれらに限定されるものでない。
【0021】
図1は、本実施の形態1における受配電機器の短絡余寿命診断方法のフロー図である。
【0022】
まず、診断対象である受配電機器の使用条件および受配電機器の絶縁体のパラメータ条件に基づいて、絶縁体の放電が発生する表面抵抗率を求める(ステップS1)。
【0023】
具体的には、診断対象である受配電機器の定格電圧、使用周波数および受配電機器に含まれている絶縁体の厚さ、沿面距離、誘電率の条件に基づいて、あらかじめ定められた所定の演算式に基づいて、放電が発生する表面抵抗率を求める。
【0024】
次に、診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データを測定する(ステップS2)。
【0025】
そして、測定結果を取得する(ステップS3)。
【0026】
次表1は、硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データ(色パラメータともいう)の測定結果を説明する表である。
【0028】
なお、測定する項目は硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データに限定されるものではなく、湿度や電磁波のような外来ノイズの影響を受けず絶縁体の表面抵抗率を求められるものであれば良い。なお、ここで、ここで色彩データは絶縁体を色彩計等で測定し、絶縁体の色彩をRGB(RGBカラーモデル)やLab(Lab色空間)などの表色系で数値により表したデータを示す。
【0029】
次に、ステップS3で取得した硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データの測定結果から診断対象である受配電機器の絶縁体の表面抵抗率を算出する(ステップS4)。
【0030】
上述したように、受配電機器の絶縁体の経年劣化による短絡は、表面抵抗率の低下が起因であるので、絶縁体の劣化度として表面抵抗率を求めることは適切である。
【0031】
本実施の形態1においては、硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データから診断対象である受配電機器の絶縁体の表面抵抗率を以下の如く算出する。
【0032】
図2は、マハラノビスの距離と表面抵抗率との相関関係を説明する図である。
【0033】
図2において、縦軸は、表面抵抗率であり、横軸として、絶縁体の初期状態を基準とした基準からのマハラノビスの距離を劣化の指標とした相関図が示されている。
【0034】
具体的には、予め、絶縁体の初期状態と所定時間後の状態の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データを測定し、測定のばらつきや相関を考慮にいれた1つの指標、本実施の形態1においてはマハラノビスの距離で絶縁体の劣化度を表し、その指標と表面抵抗率の実測値との相関関係に従って例えば特許第4121430号公報に示す所定の相関式を算出する。
【0035】
そして、本実施の形態1においては、測定した診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データから劣化の指標であるマハラノビスの距離を求め、
図2で説明した特許第4121430号公報に示す所定の相関式に基づいて、診断対象である受配電機器の絶縁体の表面抵抗率を算出する。
【0036】
そして、次に、診断対象である受配電機器の絶縁体について放電が発生する表面抵抗率と、ステップS4で算出した表面抵抗率とを比較し、ステップS4で算出した表面抵抗率が放電が発生する表面抵抗率よりも大きいか否かを判断する(ステップS5)。
【0037】
ステップS5においては、放電が発生する表面抵抗率以下である場合には、既に放電が生じている可能性がある。すなわち、既に放電が発生していれば測定した硝酸イオン付着量には、放電要因による付着量が含まれているため環境要因による硝酸イオン量を求めることができない。したがって、別の放電が生じていない箇所から硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データを測定する必要がある。
【0038】
したがって、ステップS5において、ステップS4で算出した表面抵抗率が放電が発生する表面抵抗率以下である場合には、放電が発生していない領域すなわち放電が発生する表面抵抗率よりも大きい別の領域で硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データを測定し、測定結果に基づいて表面抵抗率を算出する(ステップS6)。
【0039】
具体的には、ステップS2〜S4の処理を再度繰り返し実行する。
【0040】
そして、次に、測定結果に基づいて算出した表面抵抗率が放電が発生する表面抵抗率よりも大きいか否かを判断する(ステップS7)。
【0041】
ステップS7の処理において、別の領域においても算出した表面抵抗率の方が、放電が発生する表面抵抗率以下である場合には、受配電機器の絶縁体の経年劣化がかなり進んでいると判断されるため処理を終了するものとする(エンド)。この場合には、絶縁劣化による電気的トラブルが生じる可能性が高いとして、メンテナンスが必要であると判断することが可能である。
【0042】
なお、別の領域は、別の一箇所の領域あるいは複数箇所の領域であっても良い。
【0043】
一方、ステップS7の処理において、別の領域において放電が発生する表面抵抗率よりも大きい場合には、ステップS8に進む。
【0044】
次に、算出した表面抵抗率が放電が発生する表面抵抗率よりも大きい場合には、次に、硝酸イオンに対する硫酸イオンおよび色彩データの比を算出する(ステップS8)。
【0045】
表1には、一例として、測定した絶縁体の硝酸イオン付着量に対する硫酸イオン付着量および色彩データの比を示している。表1の色彩は絶縁体を色彩計で測定し、CIE 1976(L*、a*、b*)色空間で表した色彩データの中の色彩b*である。
【0046】
受配電機器の交換推奨時期は25〜30年であり、長期間にわたる環境劣化の結果が硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データの測定値となる。
【0047】
したがって、短絡までの数年間の間に、環境要因によるこれらの測定値の比は変わらないと考えられる。それゆえ、環境要因による硝酸イオン付着量の時間依存性は、硫酸イオン付着量の時間依存性および色彩データの時間依存性と同様であると考えられる。
【0048】
すなわち、当該算出した比に基づいて、硝酸イオン付着量の時間依存性から環境要因による硫酸イオン付着量および色彩データの時間依存性を算出することが可能である。
【0049】
次に、環境要因による硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量および色彩データの時間依存性式を導出する(ステップS9)。
【0050】
図3は、硝酸イオン付着量の時間依存性式を導出するための実験装置を説明する図である。
【0051】
図3では、新品の絶縁体1aと適当な容器に収容された硝酸2をデシケータ3に入れて、温度60℃により曝露する実験装置が示されている。そして、一定時間後の硝酸イオン付着量の測定結果を反応速度論により解析して次式(1)に示される時間依存性式が導出される。
【0053】
式(1)中のtは時間(hr)、f(t)は機器の設置からt時間後の硝酸イオン付着量(mg/cm
2)、Aは見かけの大気中のNOx濃度を表す。
【0054】
診断対象である受配電機器の使用年数と硝酸イオン付着量の実測値を上式(1)のtとf(t)にそれぞれ代入することにより、診断対象である受配電機器が設置されている環境の見かけの大気中のNOx濃度Aを求めることができる。
【0055】
そして、求めた環境の見かけの大気中NOx濃度Aを上式(1)に代入した式が診断対象である受配電機器の絶縁体の環境要因による硝酸イオン付着量の時間依存性式として導出することが可能である。
【0056】
そして、環境要因による硝酸イオン付着量の時間依存性式に基づいて、上記算出した硝酸イオン付着量に対する硫酸イオン付着量および色彩データの比を用いて、環境要因による硫酸イオン付着量の時間依存性式および環境要因による色彩データの時間依存性式を導出する。
【0057】
これにより、放電が発生していない絶縁体について、大気中のNOx、SOx、塵埃や汚染物からの影響を受ける環境要因による劣化度合を診断することが可能である。
【0058】
再び
図1を参照して、次に、環境要因による表面抵抗率の時間依存性曲線を導出する(ステップS10)。
【0059】
図4は、環境要因による受配電機器に含まれる絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線を説明する図である。
【0060】
図4に示される環境要因による受配電機器に含まれる絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線は、上述した硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データの時間依存性式に基づいて、硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量および色彩データを算出する。そして、算出した硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量および色彩データに基づいて、マハラノビスの距離を算出する。そして、
図2で説明した表面抵抗率とマハラノビスの距離との所定の相関式に基づいて表面抵抗率を算出することにより環境要因による受配電機器に含まれる絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線を導出することが可能である。
【0061】
次に、放電要因による絶縁体の劣化度合を診断する方法について説明する。
【0062】
図5は、相対湿度(RH%)と表面抵抗率との関係を説明する図である。
【0063】
図5に示されるように表面抵抗率は相対湿度により変化する。複数の曲線を記載しているが、上方の曲線は劣化が少ないもの、下方の曲線は劣化が進展したものを示す。
図5から、同じ相対湿度でも劣化が進展した物ほど表面抵抗率が低くなることがわかる。
【0064】
ここで、相対湿度が高くなると表面抵抗率が下がる傾向にある。
例えば、
図5で湿度50%RH(
図5中のP)の表面抵抗率は約1×10
+11Ωであるが、湿度が
図5中のQ%RHに上昇すると表面抵抗率は1×10
+9Ω(
図5中のR
s)に低下する。
【0065】
したがって、一定湿度以上となって、絶縁体の表面抵抗率が下がり、算出した放電が発生する表面抵抗率以下となった場合に放電が発生し、湿度が低くなると絶縁体の表面抵抗率が上がり、算出した放電が発生する表面抵抗率よりも大きくなり、放電が発生しなくなる。
【0066】
本実施の形態1においては、相対湿度に応じて設置環境で放電が発生する時間を求めることで、放電による硝酸イオン付着量を求める。
【0067】
再び、
図1に示すフローにおいて、本実施の形態1においては、当該相対湿度(RH%)と表面抵抗率との所定の関係式に基づいて、上述した放電が発生する表面抵抗率から放電が発生する相対湿度を算出する(ステップS11)。
【0068】
次に、所定の環境条件として一例として受配電機器が設けられた電気室の湿度データ(相対湿度)から放電が発生する年間時間を算出する(ステップS12)。
【0069】
図6は、電気室の湿度モニター結果を説明する図である。
【0070】
図6を参照して、本実施の形態1においては、7月〜11月の期間中における湿度データと累積時間との関係が示されており、受配電機器の設置環境では湿度が変化する。
【0071】
当該
図6の曲線は次式(2)で表される。
【0073】
ここで、h(≧50%)は相対湿度を示す。
【0074】
ここで、ある絶縁体において、湿度80%以上で放電が発生するのであれば、上式(2)に基づいて年間の放電発生時間を計算すると約1時間となる。
【0075】
再び
図1に示すフローにおいて、次に、算出した放電発生時間に基づいて硝酸イオン付着量を算出する(ステップS13)。
【0076】
図7は、本実施の形態1における短絡加速試験装置を説明する図である。
【0077】
図7に示されるように、本実施の形態1における短絡加速試験装置は、トランス4と、デジタルオシロスコープ5と、恒温・恒湿槽6とで構成される。そして、恒温・恒湿槽6に絶縁体1bが配置され、絶縁体1bに電圧を印加することにより放電が発生するように構成される。
【0078】
図8は、恒温・恒湿槽6内に設けられた絶縁体1bを説明する図である。
【0079】
図8に示すように、ここでは、予め劣化させたポリエステルの絶縁体1bが設けられ、トランス4により変圧された電圧が印加される高電圧電極7が絶縁体1bに取り付けられる。また、接地電極8が絶縁体1bに取り付けられ、トランス4を介して高電圧を印加することで放電が発生するように構成されている。
【0080】
そして、劣化させた絶縁体1bに定格電圧、湿度60〜90%、温度60℃の条件で放電を発生させ、短絡までの硝酸イオン付着量の変化を測定した。
【0081】
硝酸イオン付着量の測定は、純水を含ませたろ紙を絶縁体に押し当てることによりイオンを回収し、その回収したイオンをイオンクロマトグラフで測定した。
【0082】
図9は、放電による絶縁体に付着する硝酸イオン付着量の時間変化を説明する図である。
【0083】
図
9に示すように、本実施の形態1においては、湿度90%、80%、60%の3種類の湿度で実験した場合の硝酸イオン付着量の時間変化が示されている。
【0084】
ここで、いずれの湿度でも試験時間が増加するとともにイオン付着量が増加した。イオン付着量は試験時の湿度の影響を受け、湿度が高いほど増加した。
【0085】
放電により絶縁体に付着する硝酸イオン付着量P(t)は、時間と湿度との関数として次式(3)の如く表される。
【0087】
ここで、aは定数であり以下の値をとる。tは放電発生時間、hは湿度を表す。50≦h≦60;a=5、60<h≦70;a=10、70≦h;a=15。
【0088】
上式(3)で表される硝酸イオン付着量は常時放電が発生しているときに付着する量であるが、前述のとおり実際の機器の設置環境では常に湿度が変化しているため、一定湿度以上になると放電が発生し、湿度が低くなると放電が発生しなくなる。
【0089】
したがって、上記の式(2)および式(3)に従って、受配電機器の設置現場での放電による硝酸イオン付着量を求めることができる。
【0090】
再び
図1に示すフローにおいて、次に、放電発生後の表面抵抗率を算出する(ステップS14)。
【0091】
具体的には、環境要因による硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データと、放電による硝酸イオン付着量とに基づいて、放電発生以降の絶縁体の表面抵抗率を算出する。
【0092】
そして、放電発生後の表面抵抗率の時間依存曲線を導出する(ステップS15)。
【0093】
図10は、環境要因および放電要因による受配電機器に含まれる絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線を説明する図である。
【0094】
図10においては、環境要因による絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線が点線で示され、放電要因による絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線が実線で示されている。
【0095】
具体的には、上式に基づく年毎の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データからマハラノビスの距離を算出する。そして、
図2で説明した表面抵抗率とマハラノビスの距離との所定の相関式に基づいて表面抵抗率を算出することにより環境要因および放電要因による受配電機器に含まれる絶縁体の表面抵抗率の時間依存曲線を導出することが可能である。
【0096】
そして、再び
図1に示すフローにおいて、導出した絶縁体の表面抵抗率の時間依存曲線に従って、短絡余寿命を診断する(ステップS16)。
【0097】
具体的には、放電発生以降の絶縁体の表面抵抗率の時間依存曲線とあらかじめ定められた短絡閾値とから短絡余寿命を判断する。
【0098】
短絡閾値は、短絡加速試験により短絡時の表面抵抗率を実測した値を用いることとした。一例として、湿度90%での短絡加速試験において、短絡時の硝酸イオン付着量は1.5mg/cm
2であった。
【0099】
上述したように、環境要因による硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データと、放電による硝酸イオン付着量とに基づいてマハラノビスの距離を算出して、
図2で説明した所定の相関式に基づいて絶縁体の表面抵抗率を算出した結果、湿度90%での表面抵抗率は2.5×10
4Ωであり、湿度50%では2.5×10
6Ωであった。よって、短絡閾値となる表面抵抗率は2.5×10
6Ωとした。上記はあくまでも一例であり、実際には絶縁体の形状や現地の環境調査結果によって閾値は決定される。
【0100】
再び
図10を参照して、当該短絡閾値に従って、放電発生以降の絶縁体の表面抵抗率の時間依存曲線から短絡寿命を算出することにより、受配電機器に含まれる絶縁体の短絡余寿命を精度よく診断することが可能である。
【0101】
本実施の形態1における短絡余寿命診断方法によれば、環境要因と放電要因との両者による劣化を考慮しているので、放電の発生の有無や、絶縁体の劣化度に係らず診断が可能であり、湿度の影響を受けないイオン量や色彩データの化学的評価を行っているので高精度な診断が可能になり、受配電機器に含まれる絶縁体の短絡余寿命を精度よく診断できるようになり、その絶縁体の劣化による電気的トラブルを未然に防ぐことができる。
【0102】
なお、上記においては、絶縁体の表面抵抗率を求めるための化学的な評価項目として硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データを用いる方式について説明したが、絶縁体の種類や設置環境によっては塩化物イオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオンのようなイオン付着量や色彩データ、光沢やエステル、フェノール、エポキシ、炭化水素、ケイ酸塩のような絶縁体の成分を用いる方式とすることも可能である。また、上記のステップS9では硝酸イオン付着量の時間依存性式を求めたが、用いた評価項目に応じて適切な加速試験を行い、その評価項目の変化を解析することでその評価項目の測定量の時間依存性を求めることも可能である。
【0103】
なお、上記においては、ステップS12において、放電が発生する年間時間を算出するために電気室の湿度データを用いたが、電気室の湿度データを取得しない場合においても、例えば、公的機関から発表されている各地域の湿度データを用いて、年間の湿度データから放電が発生する年間時間を算出することも可能である。実際には現地の環境調査結果によって決定される値であるが、一例として、これまで取得したデータから屋外の湿度と電気室内の湿度とを比較すると屋外の湿度の方が30%程度高くなっている。このことを考慮して放電が発生する年間時間を算出することも可能である。
【0104】
実施の形態2.
次に、上述した短絡余寿命診断方法を使用して受配電機器の短絡余寿命診断を実現するためのシステムについて説明する。
【0105】
図11は、この発明の実施の形態2における受配電機器の短絡余寿命診断システムの概略構成図である。
【0106】
この発明の実施の形態2における短絡余寿命診断システムは、受配電機器に含まれる絶縁体を対象として短絡余寿命を診断するものであり、磁気ディスク等の記録媒体に記録されたプログラムによってその動作が制御されるコンピュータによって構成される。
【0107】
図11に示されるように、この発明の実施の形態
2おける受配電機器の短絡余寿命診断システム100は、入力部111、記憶部112、制御部113および出力部114を備える。
【0108】
入力部111は、例えばキーボードやマウス、タブレットなどを含む入力デバイスからなり、絶縁体の短絡余寿命の診断に必要な各種データの入力を行う。
【0109】
記憶部112は、例えばROM、RAMなどを含むメモリデバイスからなり、この発明を実現するためのプログラムの他、短絡余寿命の診断に必要な各種データを記憶する。
【0110】
制御部113は、マイクロプロセッサ(CPU)からなり、記憶部112に記憶されたプログラムを読み込むことにより、そのプログラムに記述された手順に従って短絡余寿命の診断に関する処理を実行する。
【0111】
出力部114は、例えば表示デバイスからなり、短絡余寿命の診断結果を出力する。
【0112】
このような構成において、記憶部112には、
図2で説明した表面抵抗率とマハラビノスの距離との所定の相関式が格納されているものとする。
【0113】
また、記憶部112には、マハラビノスの距離を算出演算する式も格納されているものとする。
【0114】
また、記憶部112には、
図3で説明した硝酸イオン付着量の時間依存性式である式(1)、
図5の相対湿度と表面抵抗率との所定の相関式、
図6で説明した電気室の湿度モニター結果に基づく式(2)、
図7で説明した短絡加速試験装置で試験にて得られた
図9の測定データに基づく式(3)の演算処理が可能なデータが格納されているものとする。
【0115】
まず、診断対象である受配電機器の定格電圧、使用周波数および受配電機器に含まれている絶縁体の厚さ、沿面距離、誘電率の設定条件を入力部111により入力する。
【0116】
また、受配電機器の絶縁体に関する各パラメータとして、診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データの実測データを入力部111により入力する。
【0117】
また、受配電機器の使用年数を入力部111により入力する。
【0118】
また、受配電機器に使用されている絶縁体のあらかじめ定められた短絡閾値を入力部111により入力する。
【0119】
これらのデータが記憶部112に保持された後、制御部113によって以下のような手順で受配電機器の短絡余寿命診断が実行される。
(1)まず、入力部111によりデータ入力された、診断対象である受配電機器の定格電圧、使用周波数および受配電機器に含まれている絶縁体の厚さ、沿面距離、誘電率に基づいて、放電が発生する表面抵抗率を算出する。
(2)次に、入力部111によりパラメータとして入力された、診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データに基づいてマハラノビスの距離が演算されて、
図2で説明した表面抵抗率とマハラビノスの距離との所定の相関式に基づいて表面抵抗率を算出する。
【0120】
(3)そして、次に、放電が発生する表面抵抗率と、診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データに基づいて算出された表面抵抗率とを比較演算して、診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データに基づく算出された表面抵抗率の方が、放電が発生する表面抵抗率よりも大きいか否かを判断する。
(4)比較演算結果に従って、診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データに基づく算出された表面抵抗率の方が、放電が発生する表面抵抗率よりも大きい場合には、硝酸イオン付着量に対する硫酸イオン付着量、色彩データの比を算出する。
【0121】
(5)そして、次に、入力部111によりパラメータとして入力された診断対象である受配電機器の使用年数と硝酸イオン付着量の実測データとに基づいて、硝酸イオン付着量の時間依存性式である式(1)のデータを用いて、診断対象である受配電機器が設置されている環境の見かけの大気中のNOx濃度Aを算出する。
(6)そして、算出した環境の見かけの大気中NOx濃度Aを式(1)に代入した受配電機器の絶縁体の環境要因による硝酸イオン付着量の時間依存性式を導出する。
【0122】
(7)環境要因による硝酸イオン付着量の時間依存性式に基づいて、上記算出した硝酸イオン付着量に対する硫酸イオン付着量および色彩データの比を用いて、環境要因による硫酸イオン付着量の時間依存性式および環境要因による色彩データの時間依存性式を導出する。
(8)そして、次に、上述した硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データの時間依存性式に基づいて、
図4で説明したように環境要因による受配電機器に含まれる絶縁体の表面変化率の時間依存性曲線を導出する。
【0123】
(9)そして、次に、
図5で説明した相対湿度と表面抵抗率との所定の相関式に基づいて、算出した放電が発生する表面抵抗率から放電が発生する相対湿度を算出する。
(10)そして、次に、
図6で説明した電気室の湿度モニター結果に基づく式(2)に従って、相対湿度に応じた年間の放電発生時間を算出する。
【0124】
(11)そして、次に、
図7で説明した短絡加速試験装置で試験により取得された
図9の測定データに基づく式(3)に従って、年間の放電発生時間に基づく受配電機器の設置現場での放電による硝酸イオン付着量を算出する。
(12)そして、次に、前述した手順に従って、環境要因による硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データと、放電による硝酸イオン付着量とに基づいて、放電発生後の表面抵抗率を算出する。
【0125】
(13)そして、前述した手順に従って、環境要因および放電要因による受配電機器に含まれる絶縁体の表面抵抗率の時間依存曲線を導出する。
(14)そして、導出した絶縁体の表面抵抗率の時間依存曲線と入力部111により入力データとして入力されたあらかじめ定められた短絡閾値とから短絡余寿命を演算する。
(15)そして、演算結果を例えば表示デバイスである出力部114に出力する。
【0126】
即ち、本実施の形態2における受配電機器の短絡余寿命を診断する短絡余寿命診断システムにあっては、診断対象である受配電機器の使用条件および受配電機器の絶縁体のパラメータ条件および測定された絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、絶縁体の色パラメータを入力する手段と、短絡余寿命を診断するための制御手段を備え、制御手段は、入力された使用条件およびパラメータ条件に基づいて絶縁体の放電が発生する表面抵抗率を算出する手段と、測定された絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、絶縁体の色パラメータに応じて、絶縁体の表面抵抗率を算出する手段と、算出された絶縁体の表面抵抗率が絶縁体の放電が発生する表面抵抗率よりも大きいか否かを判断する手段と、判断する手段により、算出した絶縁体の表面抵抗率が絶縁体の放電が発生する表面抵抗率よりも大きいと判断した場合には、絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量および前記絶縁体の色パラメータに対する時間依存性式を導出する手段と、導出された前記時間依存性式に基づいて、環境要因による絶縁体の表面変化率の第1の時間依存性曲線を導出する手段と、あらかじめ定められた環境条件における湿度データから放電発生時間を算出する手段と、算出された放電発生時間から放電による硝酸イオン付着量を算出する手段と、算出された放電による硝酸イオン付着量と環境による硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量および絶縁体の色パラメータに基づいて、絶縁体の表面抵抗率の第2の時間依存性曲線を導出する手段と、第2の時間依存性曲線に基づいて、算出された絶縁体の表面抵抗率とあらかじめ定められた短絡閾値とから短絡余寿命を算出する手段とにより構成される。
【0127】
本実施の形態2で示した受配電機器の短絡余寿命診断システムによれば、データを持ち帰らずに機器の設置現場で迅速に診断結果が得られるため、絶縁体のメンテナンスや更新計画をより容易に迅速に実施することができる。また、精度の高い診断が可能であるため、信頼性、安定性を確保しつつ受配電機器の長期間の使用が可能である。
【0128】
なお、前述の手順(3)において、放電が発生する表面抵抗率と、診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データに基づいて算出された表面抵抗率とを比較演算して、診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データに基づき算出された表面抵抗率の方が、放電が発生する表面抵抗率よりも大きいか否かを判断する。この判断結果において、診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データに基づき算出された表面抵抗率の方が、放電が発生する表面抵抗率以下の場合には、再度、入力部111により診断対象である受配電機器の絶縁体の別の領域での硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データのデータ入力を促すことも可能である。また、別の領域においても診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データに基づき算出された表面抵抗率の方が、放電が発生する表面抵抗率以下の場合には、受配電機器の絶縁体の経年劣化がかなり進んでいると判断されるため処理を終了するものとする。この場合には、絶縁劣化による電気的トラブルが生じる可能性が高いとして、メンテナンスが必要であると判断することが可能である。
【0129】
実施の形態3.
上記実施の形態1では短絡余寿命診断方法を、実施の形態2では短絡余寿命の診断システムについて説明したが、実施の形態1で述べた診断方法を受配電機器内で使用する絶縁物の全てを対象に適用する場合、実施の形態1において説明したステップS2における診断用データの採取対象箇所が多いため診断作業が大掛かりになる。このため診断対象の受配電機器の診断用データの採取箇所を限定することができれば受配電機器の診断作業を効率よく実施することができる。本実施の形態3において、受配電機器の診断箇所を限定して診断作業を効率化する方法を
図12〜
図15を用いて説明する。
【0130】
図12は受配電機器の一種である電気室内に設置される一般的なスイッチギヤの構成を示す三相方式主回路の単線接続図である。さらに、遮断器などの収納機器を2段の段積み状態に収納した状態を示すものである。
図12に示すように、主回路の分岐・開閉の機能を持ち電気室内に設置されるスイッチギヤ130は、スイッチギヤ130の電源あるいは負荷回路毎に各筺体単位に分割された複数の単位スイッチギヤユニット131が横方向に一列に並べて配列されて構成している。
図12においては、横方向に一列に並べて配列された個々の単位スイッチギヤユニット131に対して、図の左から右方向にU1番〜U8番の番号を付与しており、合計8個の単位スイッチギヤユニット131を並置することで、スイッチギヤ130を構成している。
【0131】
各単位スイッチギヤユニット131内を水平横方向に貫通する形で三相の給電母線132が配置されており、この給電母線132を介して各単位スイッチギヤユニット131に給電する。なお、給電母線132は各単位スイッチギヤユニット131の幅程度に分割されており、分割された各給電母線132の相互間を接続して、
図12に示すようなスイッチギヤ130内において水平横方向に延在する給電母線132を形成する。各単位スイッチギヤユニット131内には、真空遮断器(VCB)133、変流器(CT)134、零相変流器(ZCT)135、計器用変圧器(VT)136、接地形計器用変圧器(EVT)137、避雷器(SAR)138等の収納機器を設置しており、
図12の単線結線図に示すように給電母線132から分岐する形で収納機器を主回路に接続している。なお、図中のB/Dはバスダクトの接続部を示し、他の受配電機器と接続するための接続箇所を示している。
【0132】
図13は、
図12のスイッチギヤ130のA−A部における側面断面図であり、図において左が前面側、右が裏面側である。図において、各単位スイッチギヤユニット131の筺体140は、前面側は点検用に開放構造(開放部)としている。筺体140の前記開放部は、扉141で開閉可能に覆われている。
各単位スイッチギヤユニット131のほぼ中央部には、スイッチギヤ130の水平横方向(
図13では紙面の奥行方向)に給電母線132が配置されている。給電母線132は三相であり、上下方向に並置して配置された3本の各相母線(132a、132b、132c)で構成されている。3本の各相母線(132a、132b、132c)は、それぞれ各相の略称としてR相、S相、T相と称する。
【0133】
また、上下2段に配置された真空遮断器133は、各単位スイッチギヤユニット131の裏面側に向けて上部端子162及び下部端子163を水平方向に突出して配置している。さらに、電源側あるいは負荷側に接続されるケーブル142は、各単位スイッチギヤユニット131の基礎内から上方に向けて各真空遮断器133に対応して各単位スイッチギヤユニット131内に導入している。各真空遮断器133の上部端子162及び下部端子163はそれぞれ給電母線132あるいはケーブル142に接続される。
【0134】
図13においては、上側の真空遮断器133の下部端子163と下側の真空遮断器133の上部端子162とをU字形に形成された第1の接続導体143で接続し、さらに給電母線132と第1の接続導体143との間を第2の接続導体144にて接続することで、給電母線132と各真空遮断器133の一方の端子間との間を接続する。また、上側の真空遮断器133の上部端子162とケーブル142との間を第3の接続導体145で接続し、下側の真空遮断器133の下部端子163とケーブル142との間を第4の接続導体146で接続する。
【0135】
断路部147は、真空遮断器133の上部端子162又は下部端子163と第1の接続導体143、第3の接続導体145、第4の接続導体146との接続部及び切り離し(断路)部となる。この断路部147は、絶縁物製の筒状体であり、この絶縁物製の筒状体の内部に、真空遮断器133の上部端子162又は下部端子163の端部と第1の接続導体143、第3の接続導体145、第4の接続導体146のいずれかの各端部がそれぞれ導入され、
後述する接続部材164(
図14参照)を介して双方の導体端部が接続あるいは断路される。
また、絶縁碍子148は、第1、第3、第4の各接続導体143、145、146を接地部位に対して絶縁状態に支持している。また、支持部材149は絶縁碍子148などを筺体140内の所定位置に支持する。さらに、仕切板150は、給電母線132、第1の接続導体143、第2の接続導体144を囲うように母線室151を形成する。
【0136】
図14、
図15は、真空遮断器133の外形を示し、
図14は側面図、
図15は
図14の右方向から見た背面図である。真空遮断器133は、真空バルブ161を内蔵し外周を絶縁筒で囲った筺体状の遮断部160、真空バルブ161の一端に電気的に接続されて遮断部160から背面水平方向に突出して配置した上部端子162、真空バルブ161の他端に電気的に接続されて上部端子162の下方において遮断部160から背面水平方向に突出して配置した下部端子163を有している。接続部材164は多数の棒状の接触子片を円筒状に配置しリング状ばねで保持した構成であり、上部端子162及び下部端子163の端部に装着され、絶縁筒状の断路部147の内部において、第1の接続導体143、第3の接続導体145、第4の接続導体146のいずれかの端部と接続あるいは断路する。また、操作機構165は遮断部160内の真空バルブ161の開閉操作を行う。遮断部160及び前記操作機構165を載置する台車166は、車輪167により真空遮断器133の移動を可能としている。また、正面板168は、真空遮断器133の幅及び高さに相当するサイズを有し、真空遮断器133が
図13に示す単位スイッチギヤユニット131の所定位置に配置されたときに遮断器収納空間の前面開口部を覆い、受配電機器の運転員が主回路充電部あるいは操作機構165に誤って触れることを防止するものである。
【0137】
上記のように構成されたスイッチギヤ130において、スイッチギヤ130の絶縁物の短絡余寿命診断を行う場合、実施の形態1で説明したように、受配電機器の診断対象とする絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データを測定する(
図1におけるステップS2)ことが必要である。
【0138】
多数のユーザにおけるスイッチギヤ130の使用状態と絶縁物の絶縁性能劣化状態を調査した結果、
図12のように多数の単位スイッチギヤユニット131を横方向に並列して配置している場合、スイッチギヤ130内の絶縁物は全てが一様に劣化するものではなく、スイッチギヤ130内の特定の部位の絶縁物が他の部位に比べて絶縁性能劣化の進行が速いことが見出された。
ここでは、他の部位に比べて絶縁性能劣化の進行が速い部位を高劣化部位と称し、以下の説明でもこの用語を使用する。
この絶縁性能劣化の進行は、スイッチギヤの構造(内部換気構造、ケーブル引込構造等)と関連があり、湿気等の絶縁性能劣化因子をもつ外気がスイッチギヤ130内に侵入しやすい箇所が他の箇所と比べて絶縁劣化進行が速い傾向があることを見出した。
湿気等の絶縁性能劣化因子をもつ外気がスイッチギヤ130内に侵入しやすい箇所としては、スイッチギヤ130内に外気を取り込む換気口の設置箇所、あるいはスイッチギヤ130内へのケーブル引込箇所がある。これらの場所に近い絶縁物は、他の位置の絶縁物に比べて絶縁性能劣化速度が速いということを見出した。
【0139】
なお、同一の単位スイッチギヤユニット131においては、単位スイッチギヤユニット131内の上方よりも下方の方が絶縁劣化の進行が速い傾向にあり、さらに内部の収納機器が2段以上の複数段に段積みした場合は、最下段の収納機器が上方の収納機器に比べて絶縁劣化の進行が早いことがわかった。すなわち、下段の収納機器が高劣化部位と成りやすいと言える。
【0140】
さらに、
図14、
図15の真空遮断器133のような接続端子162、163を有する機器の場合、上部接続端子162よりも下部接続端子163の方が絶縁劣化の進行が速く、また、三相対応で3本の接続端子162、163を並置した場合には、両側相(R相、T相)のものに比べて中央相(S相)の絶縁劣化の進行が速いことも見出した。
なお、上記の説明では、下部接続端子163のうちの中央相(S相)が高劣化部位となり、他の部位(R相、T相)に比べて絶縁劣化の進行が速いことを見出したが、実施の形態1のステップS2におけるサンプル採取では、比較のために同一の真空遮断器133の上部接続端子162の中央相(S相)のサンプルも採取する。
なお、上記は真空遮断器133の事例で説明したが、真空遮断器133のような3本の接続端子を有するものであれば、真空電磁接触器(VCS)あるいはその他の収納機器であっても同様の効果を得ることが出来る。
【0141】
また、診断対象であるスイッチギヤ130全体における絶縁劣化状況は、絶縁劣化の速い箇所だけではなく、スイッチギヤ全体における他の部位と比較できる形で絶縁劣化の状況を把握することで、当該スイッチギヤ130全体における絶縁劣化状況をより正確に把握できることも見出した。
【0142】
以上のような検討の結果、スイッチギヤ130の短絡余寿命診断における測定箇所を、絶縁性能劣化が比較的早い箇所すなわち高劣化部位(後述するP1〜P3)と絶縁性能劣化が比較的遅い箇所(後述するP4〜P6)に絞り込み、当該箇所で診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データを測定する(
図1におけるステップS2)ことで、当該スイッチギヤの絶縁物の短絡余寿命の診断を実用的に実施可能であることを見出した。
[絶縁性能劣化が比較的早い箇所(高劣化部位)]
P1:単位スイッチギヤユニットの下部
P2:上記P1において、接続端子(上部、下部)を有する収納機器の場合は下部端子側
P3:上記P2において、三相対応で3本の導体を並置するものは中央相
[絶縁性能劣化が比較的遅い箇所]
P4:単位スイッチギヤユニットの最上段
P5:上記P4において、接続端子(上部、下部)を有する収納機器の場合は上部端子側
P6:上記P5において、三相対応で3本の導体を並置するものは中央相(同一相で比較)
【0143】
なお、スイッチギヤ130における各単位スイッチギヤユニット131の特定の配列位置(スイッチギヤ130の両端、スイッチギヤ130の中央等)に対応した絶縁性能低下の速さについての有意性は認められないが、スイッチギヤ130の両端及びスイッチギヤ130の中央の3位置においてサンプル採取をすることで、スイッチギヤ130を構成する各単位スイッチギヤユニット131の配列における絶縁劣化進行度合いの傾向を把握することができ、これに基づいて絶縁性能劣化の進んでいる単位スイッチギヤユニット131の位置を推定できることを見出した。
【0144】
上記をまとめれば、
図12におけるスイッチギヤ130の最両側及び中央部の単位スイッチギヤユニット131を選定し、最両側の単位スイッチギヤユニット131のS1、S2、S3、S4と、中央部の単位スイッチギヤユニット131のS5の位置をサンプル採取位置とし、各サンプル採取位置S1〜S5の各位置において、上記P1〜P3(高劣化部位)及び上記P4〜P6の観点にてサンプル採取箇所を各1箇所選定し、診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データの測定(
図1におけるステップS2すなわちサンプル採取)を行うということである。なお、高劣化部位としては、母線支持碍子(絶縁碍子)あるいは母線支持絶縁板等の絶縁支持物であってもよい。
上記のような方法で、サンプル採取位置(S1〜S5)及びサンプル採取箇所(P1〜P6、すなわち上下位置、サンプル採取相等)を選定し、診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量、硫酸イオン付着量、色彩データの測定(
図1におけるステップS2すなわちサンプル採取)を上記のP1〜P6の位置にて行うことで、余寿命診断のためのサンプル採取の作業が大幅に効率化でき、絶縁物の短絡余寿命診断を効率良く実施することが可能になるという効果がある。
【0145】
また、サンプルの採取位置を、絶縁性能劣化の早い箇所(高劣化部位)と絶縁性能劣化の遅い箇所とを選択し、双方を比較可能とすることで、当該スイッチギヤ130の全体的な絶縁劣化状況の把握が容易となる。さらに、当該スイッチギヤ130の全体的な絶縁劣化状況の把握を容易にすることで、上記所定のサンプル採取位置(S1〜S5、P1〜P6)以外における隠れた絶縁性能劣化の早い箇所の存在を推定することが可能となり、サンプル採取位置を絞ることによる劣化診断の効率化と、劣化診断の信頼性を向上させることが可能となる。
【0146】
実施の形態4.
上記の実施の形態3では、接続端子を有する収納機器を有するものについて説明したが、実施の形態4では、給電母線132あるいは関連する導体を絶縁支持する絶縁支持体に係る短絡余寿命診断のためのサンプル採取の効率的な方法について、
図16乃至
図19を用いて説明する。
図16は、電気室内に設置される他の一般的なスイッチギヤの構成を示す三相主回路の単線接続図である。また、
図16は
図12とは別構成のスイッチギヤの構成を示すものであるが、基本的な図面の見方については
図12と同様である。
【0147】
図16において、主回路の分岐、開閉の機能を持つスイッチギヤ130は、電源あるいは負荷回路毎に各筺体単位に分割された複数の単位スイッチギヤユニット131が横方向に一列に並べて配列されて構成している。
図16においては、横方向に一列に並べて配列された個々の単位スイッチギヤユニット131に対して、図の左から右方向にU1番〜U5番の番号を付与しており、合計5個の単位スイッチギヤユニット131を並置している。
各単位スイッチギヤユニット131内を貫通する形で横方向に配置された三相の給電母線132は、各単位スイッチギヤユニット131に給電をする。なお、給電母線132は各単位スイッチギヤユニット131の幅程度に分割されており、分割された各給電母線132の相互間を接続して、
図16に示すようなスイッチギヤ130内において横方向に延在する給電母線132を形成する。各単位スイッチギヤユニット131内に収納する収納機器は
図12と同様であるため、説明を省略する。
【0148】
また
図17〜
図19において、
図17は
図16に示すスイッチギヤのB−B部における側面断面図である。
図18は
図17のC−C方向に見た裏面図であり、
図16に示すスイッチギヤ130の正面から見て左右の複数の単位スイッチギヤユニット131に給電する給電母線132の相互間を接続する箇所に設置する連絡母線の三相各相導体の配置を示している。単位スイッチギヤユニットU1番〜U2番の給電母線132と単位スイッチギヤユニットU4番〜U5番の給電母線132の相互間を接続する連絡母線は、水平連絡母線170と垂直連絡母線171から構成されている。また、
図19は
図18のD−D方向に見た側面断面図を示し、特に水平連絡母線170と垂直連絡母線171の配置を示している。
特に、
図18、
図19に示すように、三相各相の導体は
互いに平行しかつ所定の仮想平面上に並べて配置し、
図17〜
図19に示すように水平連絡母線170と垂直連絡母線171は絶縁碍子148にて支持している。
上記のようなスイッチギヤ130の構成において、実施の形態3と同様に、多数のユーザにおけるスイッチギヤの使用状態と絶縁物の劣化状態を調査した結果、このように三相各相の導体を互いに平行しかつ所定の仮想平面上に並べて配置した場合には、絶縁碍子148の絶縁劣化進行は、両側相に比べて中央相の方が速いことを見出した。これは、両側相に比べて中央相の電界ストレスが高くなるためと推定される。
【0149】
また、実施の形態3にて、スイッチギヤ130の短絡余寿命診断における測定箇所を、絶縁性能劣化が比較的早い箇所すなわち高劣化部位(P1〜P3)と絶縁性能劣化が比較的遅い箇所(P4〜P6)に絞り込むことで、絶縁性能劣化診断におけるサンプル採取の効率化を図ることについて説明したが、本実施の形態4においても同様に適用できる。
【0150】
以上のように、
図18の例でも示すように
、中央相すなわちS6、S7の位置のサンプルを採取すれば、当該スイッチギヤ130の絶縁支持物(絶縁碍子、絶縁板等)の絶縁劣化状況把握と絶縁物の短絡余寿命診断を実用的なレベルで実施することが可能となり、絶縁物の短絡余寿命診断のためのサンプル採取の作業を大幅に効率化して実施することが可能になるという効果がある。
【0151】
なお、上記実施の形態4の説明では絶縁支持部材として絶縁碍子148を例に説明したが、例えば板状の絶縁支持部材など絶縁碍子148以外の絶縁支持部材にも適応可能であり、同等の効果が得られるものである。
【0152】
なお、実施の形態3あるいは実施の形態4ではサンプル採取位置(S1〜S7)や採取箇所(P1〜P6)をあらかじめ設定する診断方法について説明したが、診断中に新たな絶縁性能劣化の場所(高劣化部位)を発見した場合には、その場所も診断対象に追加することで、より精度の高い絶縁物の短絡余寿命診断を行うことが可能となる。診断中に新たに発見される可能性が高い絶縁性能劣化箇所(高劣化部位)としては、実施の形態3で説明したように、湿気等の絶縁性能劣化因子をもつ外気がスイッチギヤ130内に侵入しやすい箇所がある。
また、実施の形態3、実施の形態4における短絡余寿命診断方法は、実施の形態2で説明したシステムを適応することによって実施可能である。
【0153】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することができる。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。