特許第6656253号(P6656253)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6656253-制電性樹脂組成物 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6656253
(24)【登録日】2020年2月6日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】制電性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20200220BHJP
【FI】
   C08L67/02
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-532555(P2017-532555)
(86)(22)【出願日】2016年7月28日
(86)【国際出願番号】JP2016072211
(87)【国際公開番号】WO2017022637
(87)【国際公開日】20170209
【審査請求日】2019年1月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-154830(P2015-154830)
(32)【優先日】2015年8月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】猪 俣 さゆり
(72)【発明者】
【氏名】小 林 和香子
【審査官】 久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−001618(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/061429(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/127831(WO,A1)
【文献】 特表2008−544022(JP,A)
【文献】 特開平07−089720(JP,A)
【文献】 特開平08−112866(JP,A)
【文献】 特開2006−077217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00−101/14
C08K3/00−13/08
C08G63/00−64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記特性(a1)、及び(a2)を有するポリエステル系樹脂 100質量部;及び、
(B)スルホン酸塩基で置換された芳香族多価カルボン酸に由来する構造単位を有するポリエーテルエステル樹脂 7〜25質量部;
を含む制電性樹脂組成物。
(a1)多価カルボン酸に由来する構造単位の総和を100モル%として、テレフタル酸に由来する構造単位90〜100モル%、及びイソフタル酸に由来する構造単位10〜0モル%を含む。
(a2)多価オールに由来する構造単位の総和を100モル%として、1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位50〜90モル%、及び2,2,4,4,−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールに由来する構造単位50〜10モル%を含む。
【請求項2】
上記成分(B)が、
(b1)テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、及びこれらのエステル形成性誘導体からなる群から選択される1種以上の芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位;
(b2)下記式(1)で表される、スルホン酸塩基で置換された芳香族多価カルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体に由来する構造単位;
(b3)数平均分子量200〜50000のポリアルキレングリコールに由来する構造単位;及び、
(b4)炭素数2〜10のグリコールに由来する構造単位;
を含み、
ここで上記成分(b1)に由来する構造単位の含有量と上記成分(b2)に由来する構造単位の含有量との和を100モル%として、
上記成分(b1)に由来する構造単位を98〜70モル%、
上記成分(b2)に由来する構造単位を2〜30モル%となる量で含み;
上記成分(b1)に由来する構造単位の含有量、上記成分(b2)に由来する構造単位の含有量、上記成分(b3)に由来する構造単位の含有量、及び上記成分(b4)に由来する構造単位の含有量の和を100質量%として、
上記成分(b3)に由来する構造単位の含有量が10〜60質量%である;
ポリエーテルエステル樹脂である
請求項1に記載の制電性樹脂組成物。
【化1】
式(1)中、
Arは少なくとも3つの水素原子が置換された芳香環構造を有する基;
R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基;
は金属イオン、テトラアルキルホスホニウムイオン又はテトラアルキルアンモニウムイオンを表す。
【請求項3】
更に(C)イオン性界面活性剤を、上記成分(A)100質量部に対して、0.5〜5質量部含有する請求項1又は2に記載の制電性樹脂組成物。
【請求項4】
体積抵抗率が10の9乗〜10の10乗Ω・cmである請求項1〜3の何れか1項に記載の制電性樹脂組成物。
【請求項5】
制電性樹脂組成物から、型締め力120tonの射出成形機を使用して、シリンダー温度240〜260℃、金型温度50℃、冷却時間5分の条件にて成形した厚み0.5mmの射出成形シートを、JIS K 7136:2000に準拠して測定したヘイズ値が50%未満である、請求項1〜4の何れか1項に記載の制電性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜の何れか1項に記載の制電性樹脂組成物を含む物品。
【請求項7】
請求項1〜の何れか1項に記載の制電性樹脂組成物を含む精密電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性樹脂組成物に関する。更に詳しくは、制電性を有するポリエステル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
精密電子部品、例えば、半導体ウエハー、半導体素子、及び集積回路などは、僅かな帯電で機能が損なわれる(所謂、静電破壊。)おそれがあるため、これらの運搬用トレイ、包装資材、収納保管具、及び外装部材などに用いる材料は、体積抵抗値が10の9乗〜10の10乗Ω・cmであることが要求される。また上記包装資材には、しばしば少なくとも内容物の存在が視認できる程度の透明性(ヘーズ値で50%以下)、好ましくは目視により製品検査を行ったり、内容物に添付されている識別マーク等を確認したりできる程度の透明性(ヘーズ値で15%以下)が要求される。更に精密電子部品の製造時における乾燥工程等でかかる熱;精密電子部品の組み込まれた物品を製造する際の乾燥工程等でかかる熱;精密電子機器(精密電子部品の組み込まれた物品)、例えば、音響機器、情報通信機器などの車載用機器の輸送、保管、及び実使用時の環境温度;及び上記機器の動作時に発生する熱;に耐えられることが必要であり、そのためには少なくとも温度80℃に耐えることが要求される。
【0003】
熱可塑性樹脂は優れた諸特性を有するため、一般的には電気絶縁性の高い材料であるにも係わらず、精密電子部品に関する分野においてもこれを使用するべく、その体積抵抗値を10の9乗〜10の10乗Ω・cmにするための技術が数多く提案され、実用にも供されている。
【0004】
上記技術としては、例えば、熱可塑性樹脂と;アルキルスルホン酸塩、及びアルキルベンゼンスルホン酸塩などのイオン性界面活性剤、特にアルキル(アリール)スルホン酸塩系の界面活性剤との樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1及び2)。しかし、これらの技術は、低分子量の界面活性剤を成形品の表面に染み出させることにより電気抵抗値を低くするものであるため、表面の界面活性剤が拭取られたり、洗浄されたりすることにより制電性が低下(電気抵抗値が上昇)するという問題やアウトガスが発生するという問題がある。
【0005】
上記技術としては、例えば、制電性を有する熱可塑性樹脂(例えば、ポリエーテルエステルアミド(特許文献3)、幹ポリマーがポリアミド、枝ポリマーがポリアルキレンエーテルと熱可塑性ポリエステルとのブロックポリマーから構成されるグラフトポリマー(特許文献4)、特定のポリアミドイミドエラストマー(特許文献5)、及び、特定のポリエチレングリコール、特定の非ヒンダードジイソシアネート、及び特定の脂肪族連鎖延長剤グリコールの反応生成物(特許文献6)など。)を含む樹脂組成物が提案されている。しかし、これらの技術では、十分な制電性を得るために制電性を有する熱可塑性樹脂を多量に配合する必要がある。またその耐熱性や透明性は満足できるものではない。またこれらの制電性を有する熱可塑性樹脂には、ポリエステル系樹脂の劣化/低分子量化を促進する性質があり、ポリエステル系樹脂とこれらの制電性を有する熱可塑性樹脂との樹脂組成物は、例えば射出成型品にバリやヒケなどの成型不良が発生し易いという問題がある。
【0006】
また、上記制電性を有する熱可塑性樹脂としてポリエーテルエステル(例えば、特定分子量のポリ(アルキレンオキシド)グリコール、炭素原子数2〜8のグリコール、及び炭素原子数4〜20の多価カルボン酸等を縮合して得られるポリエーテルエステル(特許文献7)、炭素数4〜20の芳香族ジカルボン酸等、特定分子量のポリ(アルキレンオキシド)グリコール、及び炭素数4〜10のグリコールを重縮合して得られるポリエーテルエステル(特許文献8)、特定スルホン酸塩基で置換された芳香族ジカルボン酸を特定量含有する炭素数6〜20の芳香族ジカルボン酸、特定分子量のポリ(アルキレンオキシド)グリコール、及び炭素数2〜10のグリコール、を重縮合して得られるポリエーテルエステル(特許文献9)、及び炭素数4〜20の芳香族ジカルボン酸等、特定分子量のポリ(アルキレンオキシド)グリコール、及び炭素数4〜10のグリコール、を重縮合して得られるポリエーテルエステル(特許文献10)など。)を用いることが提案されている。しかしポリエーテルエステル単独では制電性が十分ではない。
【0007】
そこでイオン性界面活性剤を併用すること(例えば、特許文献7の段落0031、特許文献11)が提案されているが、これらの技術では、水洗や拭取りによる制電性の低下や、アウトガス発生の問題がある。
【0008】
そこで特許文献12には、ベース樹脂として、溶融状態からの結晶化半時間が少なくとも5分のポリエステル系樹脂を用いることが提案されている。しかし、ベース樹脂がこのような特性のものでは、耐熱性の高いものにはならない。
【0009】
制電性、特に制電性の持続性、耐熱性、及び透明性に優れ、かつアウトガスの問題のない制電性樹脂組成物は未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−222241号公報
【特許文献2】特開昭62−230835号公報
【特許文献3】特開昭62−273252号公報
【特許文献4】特開平5−97984号公報
【特許文献5】特開平3−255161号公報
【特許文献6】特開平5−222289号公報
【特許文献7】特開平6−57153号公報
【特許文献8】特開平8−283548号公報
【特許文献9】特開平10−219095号公報
【特許文献10】特開2006−022232号公報
【特許文献11】特開平8−283548号公報
【特許文献12】特開2009−001618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、制電性、特に制電性の持続性、耐熱性、及び透明性に優れ、かつアウトガスの問題のない制電性樹脂組成物を提供することにある。本発明の更なる課題は、体積抵抗率が10の9乗〜10の10乗Ω・cmであり、水洗いしたり拭取りを行ったりしても上記制電性が維持され、耐熱性、透明性、及び成形性に優れ、かつアウトガスの問題のない制電性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意研究した結果、特定のポリエステル系樹脂と特定のポリエーテルエステルとの樹脂組成物により、上記課題を達成できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、
(A)下記特性(a1)、及び(a2)を有するポリエステル系樹脂 100質量部;及び、
(B)スルホン酸塩基で置換された芳香族多価カルボン酸に由来する構造単位を有するポリエーテルエステル樹脂 7〜25質量部;
を含む制電性樹脂組成物である。
(a1)多価カルボン酸に由来する構造単位の総和を100モル%として、テレフタル酸に由来する構造単位90〜100モル%、及びイソフタル酸に由来する構造単位10〜0モル%を含む。
(a2)多価オールに由来する構造単位の総和を100モル%として、1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位50〜90モル%、及び2,2,4,4,−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールに由来する構造単位50〜10モル%を含む。
【0014】
第2の発明は、上記成分(B)が、
(b1)テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、及びこれらのエステル形成性誘導体からなる群から選択される1種以上の芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位;
(b2)下記式(1)で表される、スルホン酸塩基で置換された芳香族多価カルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体に由来する構造単位;
(b3)数平均分子量200〜50000のポリアルキレングリコールに由来する構造単位;及び、
(b4)炭素数2〜10のグリコールに由来する構造単位;
を含み、
ここで上記成分(b1)に由来する構造単位の含有量と上記成分(b2)に由来する構造単位の含有量との和を100モル%として、
上記成分(b1)に由来する構造単位を98〜70モル%、
上記成分(b2)に由来する構造単位を2〜30モル%となる量で含み;
上記成分(b1)に由来する構造単位の含有量、上記成分(b2)に由来する構造単位の含有量、 上記成分(b3)に由来する構造単位の含有量、及び上記成分(b4)に由来する構造単位の含有量の和を100質量%として、
上記成分(b3)に由来する構造単位の含有量が10〜60質量%である;
ポリエーテルエステル樹脂である
第1の発明に記載の制電性樹脂組成物である。
【化1】
式(1)中、
Arは少なくとも3つの水素原子が置換された芳香環構造を有する基;
R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基;
は金属イオン、テトラアルキルホスホニウムイオン又はテトラアルキルアンモニウムイオンを表す。
【0015】
第3の発明は、更に(C)イオン性界面活性剤を、上記成分(A)100質量部に対して、0.5〜5質量部含有する第1の発明又は第2の発明に記載の制電性樹脂組成物である。
【0016】
第4の発明は、体積抵抗率が10の9乗〜10の10乗Ω・cmである第1〜3の発明の何れか1に記載の制電性樹脂組成物である。
【0017】
第5の発明は、第1〜4の発明の何れか1に記載の制電性樹脂組成物を含む物品である。
【0018】
第6の発明は、第1〜4の発明の何れか1に記載の制電性樹脂組成物を含む精密電子機器である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の制電性樹脂組成物は制電性、特に制電性の持続性、耐熱性、及び透明性に優れ、かつアウトガスの問題がない。本発明の好ましい制電性樹脂組成物は体積抵抗率が10の9乗〜10の10乗Ω・cmであり、水洗いしたり拭取りを行ったりしても上記制電性が維持され、耐熱性、透明性、及び成形性に優れ、かつアウトガスの問題がない。精密電子部品、例えば、半導体ウエハー、半導体素子、及び集積回路などの運搬用トレイ、包装資材、収納保管具、及び外装部材などの材料として、精密電子部品の組み込まれた精密電子機器の外装部材などとして好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ポリエステル系樹脂のH−NMRの測定例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の制電性樹脂組成物は、(A)下記特性(a1)、及び(a2)を有するポリエステル系樹脂 100質量部;及び、(B)スルホン酸塩基で置換された芳香族多価カルボン酸に由来する構造単位を有するポリエーテルエステル樹脂 7〜25質量部;を含む。
(a1)多価カルボン酸に由来する構造単位の総和を100モル%として、テレフタル酸に由来する構造単位90〜100モル%、及びイソフタル酸に由来する構造単位10〜0モル%を含む。
(a2)多価オールに由来する構造単位の総和を100モル%として、1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位50〜90モル%、及び2,2,4,4,−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールに由来する構造単位50〜10モル%を含む。
【0022】
(A)ポリエステル系樹脂:
上記成分(A)は、(a1)多価カルボン酸に由来する構造単位の総和を100モル%として、テレフタル酸に由来する構造単位90〜100モル%、及びイソフタル酸に由来する構造単位10〜0モル%;を含み、(a2)多価オールに由来する構造単位の総和を100モル%として、1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位50〜90モル%、好ましくは55〜85モル%、より好ましくは60〜80モル%、及び2,2,4,4,−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールに由来する構造単位50〜10モル%、好ましくは45〜15モル%、より好ましくは40〜20モル%;を含むポリエステル系樹脂である。ここで多価カルボン酸は、そのエステル形成性誘導体を含む。即ち、テレフタル酸は、そのエステル形成性誘導体を含む。同様にイソフタル酸は、そのエステル形成性誘導体を含む。ここで多価オールは、そのエステル形成性誘導体を含む。即ち、1,4−シクロヘキサンジメタノールは、そのエステル形成性誘導体を含む。同様に2,2,4,4,−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールは、そのエステル形成性誘導体を含む。
【0023】
上記成分(A)は、本発明の目的に反しない限度において、テレフタル酸及びイソフタル酸以外のその他の多価カルボン酸に由来する構造単位を含んでいてもよい。上記その他の多価カルボン酸としては、例えば、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル−4、4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニル−3、3’−ジカルボン酸、ジフェニル−4、4’−ジカルボン酸、及びアントラセンジカルボン酸などの芳香族多価カルボン酸;1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、及び1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式多価カルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、及びセバシン酸などの脂肪族多価カルボン酸;及びこれらのエステル形成性誘導体などをあげることができる。上記その他の多価カルボン酸としてはこれらの1種以上を用いることができる。
【0024】
上記成分(A)は、本発明の目的に反しない限度において、1,4−シクロヘキサンジメタノール及び2,2,4,4,−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール以外のその他の多価オールに由来する構造単位を含んでいてもよい。上記その他の多価オールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、グリセリン、及びトリメチロールプロパンなどの脂肪族多価アルコール;キシリレングリコール、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物などの芳香族多価オール;及びこれらのエステル形成性誘導体などをあげることができる。上記多価オールとしてはこれらの1種以上を用いることができる。
【0025】
上記成分(A)はガラス転移温度が高い(通常90℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上。)ため、本発明の制電性樹脂組成物は耐熱性に優れたものになる。また上記成分(A)は高度に透明であり、かつ非晶性又は低結晶性であり、上記成分(B)との混和性が良好であるため、本発明の制電性樹脂組成物は透明性に優れたものになる。
【0026】
本明細書では、株式会社パーキンエルマージャパンのDiamond DSC型示差走査熱量計を使用し、試料を320℃で5分間保持した後、20℃/分の降温速度で−50℃まで冷却し、−50℃で5分間保持した後、20℃/分の昇温速度で320℃まで加熱するという温度プログラムで測定されるセカンド融解曲線(最後の昇温過程において測定される融解曲線)の融解熱量が、10J/g以下のポリエステル系樹脂を非結晶性、10J/gを超えて60J/g以下のポリエステル系樹脂を低結晶性と定義した。
【0027】
本明細書において、ガラス転移温度は、株式会社パーキンエルマージャパンのDiamond DSC型示差走査熱量計を使用し、試料を50℃/分の昇温速度で200℃まで昇温し、200℃で10分間保持した後、20℃/分の降温速度で50℃まで冷却し、50℃で10分間保持した後、20℃/分の昇温速度で200℃まで加熱するという温度プログラムにおける最後の昇温過程において測定される曲線に現れるガラス転移について、ASTM D3418の図2に従い作図して算出した中間点ガラス転移温度である。
【0028】
上記ポリエステル系樹脂中の各成分に由来する構成単位の割合は13C−NMRやH−NMRを使用して求めることができる。H−NMRの測定例を図1に示す。
【0029】
13C−NMRスペクトルは、例えば、試料20mgをクロロホルム−d溶媒0.6mLに溶解し、125MHzの核磁気共鳴装置を使用し、以下の条件で測定することができる。
ケミカルシフト基準 クロロホルム−d:77ppm
測定モード シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング
パルス幅 45°(5.00μ秒)
ポイント数 64K
観測範囲 250ppm(−25〜225ppm)
繰り返し時間 5.5秒
積算回数 256回
測定温度 23℃
ウインドウ関数 exponential(BF:1.0Hz)
【0030】
H−NMRスペクトルは、例えば、試料20mgをクロロホルム−d溶媒0.6mLに溶解し、400MHzの核磁気共鳴装置を使用し、以下の条件で測定することができる。
ケミカルシフト基準 クロロホルム:7.24ppm
測定モード シングルパルス
パルス幅 45°(5.14μ秒)
ポイント数 16k
測定範囲 15ppm(−2.5〜12.5ppm)
繰り返し時間 7.8秒
積算回数 64回
測定温度 23℃
ウインドウ関数 exponential(BF:0.18Hz)
【0031】
ピークの帰属は、「高分子分析ハンドブック(2008年9月20日初版第1刷、社団法人日本分析化学会高分子分析研究懇談会編、株式会社朝倉書店)の特に496〜503頁」や「独立行政法人物質・材料研究機構材料情報ステーションのNMRデータベース(http://polymer.nims.go.jp/NMR/)」を参考に行い、ピーク面積比から上記成分(a)中の各成分の割合を算出することができる。なお13C−NMRやH−NMRの測定は、株式会社三井化学分析センターなどの分析機関において行うこともできる。
【0032】
(B)ポリエーテルエステル樹脂:
上記成分(B)は、スルホン酸塩基で置換された芳香族多価カルボン酸に由来する構造単位を有するポリエーテルエステル樹脂である。上記成分(B)は、制電性、及び透明性の観点から、好ましくは、
(b1)テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、及びこれらのエステル形成性誘導体からなる群から選択される1種以上の芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位;
(b2)下記式(1)で表される、スルホン酸塩基で置換された芳香族多価カルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体に由来する構造単位;
(b3)数平均分子量200〜50000のポリアルキレングリコールに由来する構造単位;及び、
(b4)炭素数2〜10のグリコールに由来する構造単位;
を含み、ここで上記成分(b1)に由来する構造単位の含有量と上記成分(b2)に由来する構造単位の含有量との和を100モル%として、上記成分(b1)に由来する構造単位を98〜70モル%、上記成分(b2)に由来する構造単位を2〜30モル%となる量で含み;上記成分(b1)に由来する構造単位の含有量、上記成分(b2)に由来する構造単位の含有量、上記成分(b3)に由来する構造単位の含有量、及び上記成分(b4)に由来する構造単位の含有量の和を100質量%として、上記成分(b3)に由来する構造単位の含有量が10〜60質量%である;ポリエーテルエステル樹脂である。
【0033】
【化2】
式(1)中、Arは少なくとも3つの水素原子が置換された芳香環構造を有する基;R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基;Mは金属イオン、テトラアルキルホスホニウムイオン又はテトラアルキルアンモニウムイオンを表す。
【0034】
上記成分(B)が、上記(b1)テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、及びこれらのエステル形成性誘導体からなる群から選択される1種以上の芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を含むものであると、耐熱性が更に良好になるため好ましい。
【0035】
上記成分(B)が、上記(b2)下記式(1)で表される、スルホン酸塩基で置換された芳香族多価カルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体に由来する構造単位を含むものであると、制電性が更に良好になるため好ましい。
【0036】
上記式(1)中のArは、Arは少なくとも3つの水素原子が置換された芳香環構造を有する基である。上記式(1)中のArとしては例えば、少なくとも3つの水素原子が置換されたベンゼン環構造を有する基、及び少なくとも3つの水素原子が置換されたナフタレン環構造を有する基をあげることができる。これらは3つの水素原子が上記式(1)により特定される3つの置換基により置換されるだけでなく、更に1つ以上の水素原子がアルキル基、フェニル基、ハロゲン基、及びアルコキシ基などの置換基により置換されたものであってよい。置換位置は制限されず、任意に選択することができる。上記式(1)中のArは好ましくは、重合性、機械特性、及び色調の観点から、水素原子3つが置換されたベンゼン環構造を有する基である。
【0037】
上記式(1)中のR1は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基である。好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、及びプロピル基などの炭素数1〜3のアルキル基である。これらの中で、上記式(1)中のR1としては、重合性、機械特性、及び色調の観点から、メチル基及びエチル基が好ましい。
【0038】
上記式(1)中のR2は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基である。好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、及びプロピル基などの炭素数1〜3のアルキル基である。これらの中で上記式(1)中のR2としては、重合性、機械特性、及び色調の観点から、メチル基及びエチル基が好ましい。
【0039】
上記式(1)中のR1とR2とは同じ構造であってもよく、違う構造であってもよい。上記式(1)中のR1とR2とは、それぞれ独立して、上記範囲内において任意の構造を取り得る。
【0040】
上記式(1)中のMは金属イオン、テトラアルキルホスホニウムイオン又はテトラアルキルアンモニウムイオンである。なお上記式(1)中のMが多価である場合には、これに対応する数のスルホン酸基(上記式(1)中のM以外の部分)が対応する。例えば、上記式(1)中のMが2価の金属イオンである場合には、1個の金属イオンに対して2個のスルホン酸基(上記式(1)中のM以外の部分)が対応する。
【0041】
上記金属イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びリチウムイオンなどのアルカリ金属イオン;カルシウムイオン、及びマグネシウムイオンなどのアルカリ土類金属イオン;及び亜鉛イオンなどをあげることができる。上記テトラアルキルホスホニウムイオンとしては、テトラブチルホスホニウムイオン、及びテトラメチルホスホニウムイオンなどをあげることができる。上記テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、テトラブチルアンモニウムイオン、及びテトラメチルアンモニウムイオンなどをあげることができる。これらの中で上記式(1)中のMとしては、重合性、機械特性、制電性及び色調の観点から、アルカリ金属イオン、テトラブチルアンモニウムイオン、及びテトラブチルホスホニウムイオンが好ましい。より好ましくはアルカリ金属イオン及びテトラブチルホスホニウムイオンである。
【0042】
上記成分(b2)、即ち上記式(1)で表される、スルホン酸塩基で置換された芳香族多価カルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体としては、例えば、4−ナトリウムスルホ−イソフタル酸、5−ナトリウムスルホ−イソフタル酸、4−カリウムスルホ−イソフタル酸、5−カリウムスルホ−イソフタル酸、2−ナトリウムスルホ−テレフタル酸、2−カリウムスルホ−テレフタル酸、4−スルホ−イソフタル酸亜鉛、5−スルホ−イソフタル酸亜鉛、2−スルホ−テレフタル酸亜鉛、4−スルホ−イソフタル酸テトラアルキルホスホニウム塩、5−スルホ−イソフタル酸テトラアルキルホスホニウム塩、4−スルホ−イソフタル酸テトラアルキルアンモニウム塩、5−スルホ−イソフタル酸テトラアルキルアンモニウム塩、2−スルホ−テレフタル酸テトラアルキルホスホニウム塩、2−スルホ−テレフタル酸テトラアルキルアンモニウム塩、4−ナトリウムスルホ−2、6−ナフタレンジカルボン酸、4−ナトリウムスルホ−2、7−ナフタレンジカルボン酸、4−カリウムスルホ−2、6−ナフタレンジカルボン酸、4−スルホ−2、6−ナフタレンジカルボン酸亜鉛塩、4−スルホ−2、6−ナフタレンジカルボン酸テトラアルキルホスホニウム塩、4−スルホ−2、7−ナフタレンジカルボン酸テトラアルキルホスホニウム塩、これらのジメチルエステル、及びこれらのジエチルエステルなどをあげることができる。
【0043】
これらの中で上記成分(b2)としては、重合性、機械特性、及び色調の観点から、4−ナトリウムスルホ−イソフタル酸ジメチル、5−ナトリウムスルホ−イソフタル酸ジメチル、4−カリウムスルホ−イソフタル酸ジメチル、5−カリウムスルホ−イソフタル酸ジメチル、2−ナトリウムスルホ−テレフタル酸ジメチル、及び2−カリウムスルホ−テレフタル酸ジメチルが好ましい。
【0044】
上記成分(B)が、上記成分(b1)に由来する構造単位の含有量と上記成分(b2)に由来する構造単位の含有量との和を100モル%として、上記成分(b1)に由来する構造単位を98〜70モル%、好ましくは97〜71モル%、より好ましくは95〜73モル%、更に好ましくは91〜75モル%となる量で含み、上記成分(b2)に由来する構造単位を2〜30モル%、好ましくは3〜29モル%、より好ましくは5〜27モル%、更に好ましくは9〜25モル%となる量で含むものであることは好ましい。
【0045】
上記成分(B)が、上記成分(b1)に由来する構造単位と上記成分(b2)に由来する構造単位を、上記範囲内となるように含むと、本発明の制電性樹脂組成物は、制電性が更に良好なものになる。また水洗いしたり拭取りを行ったりしても、良好な制電性を維持することができる。また十分な分子量と結晶性を有し、取扱性の良好なものになる。
【0046】
上記成分(B)が、(b3)数平均分子量200〜50000のポリアルキレングリコールに由来する構造単位を含むと、制電特性が更に良好になるため好ましい。
【0047】
上記成分(b3)、即ち数平均分子量200〜50000のポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールを主モノマー(通常60モル%以上、好ましくは80モル%以上)としてプロピレングリコールなどをコモノマーとする共重合体、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルキレングリコールを主モノマーとして少量(通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下。)の芳香族多価オールをコモノマーとする共重合体、及びこれらの混合物などをあげることができる。
【0048】
上記成分(b3)の数平均分子量は、制電性、分散性、及び耐熱性の観点から、200〜50000、好ましくは500〜30000、より好ましくは1000〜20000である。
【0049】
上記成分(B)の上記成分(b3)に由来する構造単位の含有量は、制電性、取扱性、及び耐熱性の観点から、10〜60質量%、好ましくは15〜55質量%、より好ましくは20〜50質量%である。ここで上記成分(b1)に由来する構造単位の含有量、上記成分(b2)に由来する構造単位の含有量、上記成分(b3)に由来する構造単位の含有量、及び上記成分(b4)に由来する構造単位の含有量の和は100質量%である。
【0050】
上記成分(B)が、(b4)炭素数2〜10のグリコールに由来する構造単位を含むと、制電性、取扱性、及び耐熱性が更に良好になるため好ましい。
【0051】
上記成分(b4)、即ち炭素数2〜10のグリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、及び1,4−シクロヘキサンジオールなどの脂肪族グリコール;ジエチレングリコールなどのエーテル結合を有するグリコール;及びチオジエタノールなどのチオエーテル結合を有するグリコールなどをあげることができる。上記成分(b4)としては、制電性、結晶性、及び取扱性の観点から、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、及びジエチレングリコールが好ましい。上記成分(b4)としてはこれらの1種以上を用いることができる。
【0052】
上記成分(B)のJIS K7367−1:2002に準拠し、当該規格図2のDINウベローデ形粘度計(毛細管直径0.63mm)、フェノール/テトラクロロエタン(質量比60/40)の混合溶媒を用い、濃度1.2g/dl、温度35℃の条件で測定した還元粘度は、制電性、耐熱性、及び機械物性の観点から、好ましくは0.2cm/g以上、より好ましくは0.25cm/g以上、更に好ましくは0.3cm/g以上、一方、制電性の観点から、1.8cm/g以下であってよい。
【0053】
上記成分(B)を、上記成分(b1)〜(b4)を用いて得る方法は特に制限されず、任意の方法で行うことができる。例えば、上記成分(B)は、上記成分(b1)〜(b4)をエステル交換触媒の存在下、150〜300℃に加熱溶融し、重縮合反応させることにより得ることができる。
【0054】
上記エステル交換触媒としては、特に制限されず、任意のエステル交換触媒を用いることができる。上記エステル交換触媒としては、例えば、三酸化ニアンチモンなどアンチモン化合物;酢酸第一錫、ジブチル錫オキサイド、及びジブチル錫ジアセテートなどの錫化合物;テトラブチルチタネートなどのチタン化合物;酢酸亜鉛などの亜鉛化合物;酢酸カルシウムなどのカルシウム化合物;炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムなどのアルカリ金属塩などをあげることができる。これら中でテトラブチルチタネートが好ましい。上記エステル交換触媒としては、これらの1種以上を用いることができる。
【0055】
上記エステル交換触媒の使用量は、特に制限されないが、上記成分(b1)1モルに対し、通常0.01〜0.5モル%、好ましくは0.03〜0.3モル%である。
【0056】
また、上記重縮合反応時に酸化防止剤などの各種安定剤を併用することは好ましい。
【0057】
上記重縮合反応は、留出物を留去しながら150〜250℃、好ましくは150〜200℃で1〜20時間程度行った後、温度を180〜300℃、好ましくは200〜280℃、より好ましくは220〜260℃に上げて更に1〜20時間程度行うことが好ましい。上記成分(B)を、好ましい範囲の還元粘度を有するものにすることができる。
【0058】
上記成分(B)の市販例としては、竹本油脂株式会社の「エレカットR02(商品名)」等をあげることができる。
【0059】
上記成分(B)の配合量は、上記成分(A)100質量部に対して、制電性の観点から、7質量部以上、好ましくは9質量部以上、より好ましくは12質量部以上である。一方、耐アウトガス性、及び透明性の観点から25質量部以下、好ましくは22質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。
【0060】
(C)イオン性界面活性剤(任意成分):
本発明の制電性樹脂組成物は、上述したように、イオン性界面活性剤を使用しなくても十分な制電性を発現するものであるが、イオン性界面活性剤を使用することを排除するものではない。制電性樹脂組成物を、例えば、初期の制電性が特に重視される用途や、アウトガスやブリードアウトの問題を考慮する必要性が低い用途に用いる場合には、本発明の制電性樹脂組成物はイオン性界面活性剤を含むものであってよい。
【0061】
成分(C)イオン性界面活性剤を用いる場合の配合量は、任意成分で有るから特に制限されないが、上記成分(A)100質量部に対して、0.5〜5質量部であってよい。
【0062】
上記成分(C)としては、例えば、有機スルホン酸と塩基からなる有機スルホン酸型界面活性剤をあげることができる。
【0063】
上記有機スルホン酸としては、例えば、オクチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジブチルベンゼンスルホン酸、及びジノニルベンゼンスルホン酸等のアルキル基の炭素数が6〜18のアルキルベンゼンスルホン酸;及び、ジメチルナフタレンスルホン酸、ジイソプロピルナフタレンスルホン酸、及びジブチルナフタレンスルホン酸等のアルキル基の炭素数が2〜18のアルキルナフタレンスルホン酸;などをあげることができる。これらの中で、ドデシルベンゼンスルホン酸、及びジメチルナフタレンスルホン酸が好ましい。上記有機スルホン酸としてはこれらの1種以上を用いることができる。
【0064】
上記塩基としては、例えば、リチウム、ナトリウム、及びカリウム等のアルカリ金属;テトラブチルホスホニウム、トリブチルベンジルホスホニウム、トリエチルヘキサデシルホスホニウム、及びテトラフェニルホスホニウム等のホスホニウム化合物;及び、テトラブチルアンモニウム、トリブチルベンジルアンモニウム、及びトリフェニルベンジルアンモニウム等のアンモニウム化合物などをあげることができる。これらの中で、ナトリウム、カリウム、テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラヘキシルホスホニウム、テトラオクチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、トリブチルベンジルホスホニウム、トリエチルヘキサデシルホスホニウム、及びテトラフェニルホスホニウムが好ましい。上記塩基としてはこれらの1種以上を用いることができる。
【0065】
上記成分(C)の好ましいものとしては、アウトガスの抑制効果と制電性の観点から、上記塩基がホスホニウム化合物であるもの、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウムなどをあげることができる。
【0066】
本発明の制電性樹脂組成物の体積抵抗率は、好ましくは10の10乗Ω・cm以下であり、より好ましくは10の9乗〜10の10乗Ω・cmである。更に好ましくは、体積抵抗率が10の9乗〜10の10乗Ω・cmであり、水洗いしたり拭取りを行ったりしても上記制電性が維持される。
【0067】
本明細書において、体積抵抗率は、下記試験(2)に従い測定した値である。
【0068】
本発明の制電性樹脂組成物のアウトガス量は、好ましくは2μg/g以下、より好ましくは1μg/g以下である。通常の用途であれば、アウトガス量が2μg/g以下であることにより、好ましく用いることができる。精密電子機器など特にアウトガス量の低いことが求められる用途であっても、アウトガス量が1μg/g以下であることにより、好ましく用いることができる。本明細書においてアウトガス量は、下記試験(5)に従い測定した、試料1gから発生するアウトガスの量(μg)である。
【0069】
本発明の制電性樹脂組成物には、所望に応じて、上記の成分の他に、更に上記成分(A)及び上記成分(B)以外の熱可塑性樹脂、上記成分(C)以外の界面活性剤、熱安定剤、酸化防止剤、加水分解防止剤、金属不活性剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、及び着色剤などを含ませることができる。
【0070】
本発明の制電性樹脂組成物に、熱安定剤類や酸化防止剤を含ませることは好ましい。大きな成形品を成形する際にも着色や焼けなどの成形トラブルを防止することができる。本発明の制電性樹脂組成物に、金属不活性剤を含ませることは好ましい。金属と接触する部品に用いられた場合でも、当該接触部分の腐食・変色を防止することができる。
【0071】
上記酸化防止剤としては、例えば、2,6‐ジ‐tert‐p‐ブチル‐p‐クレゾール、2,6‐ジ‐tert‐ブチルフェノール、2,4‐ジメチル‐6‐tert‐ブチルフェノール、4,4‐ジヒドロキシジフェニル、及びトリス(2‐メチル‐4‐ヒドロキシ‐5‐tert‐ブチルフェニル)ブタンなどのフェノール系酸化防止剤;ホスファイト系酸化防止剤;及び、チオエーテル系酸化防止剤などをあげることができる。これらの中で、フェノール系酸化防止剤、及びホスファイト系酸化防止剤が好ましい。
【0072】
本発明の制電性樹脂組成物は、上記成分(A)、上記成分(B)、及び任意成分を、任意の順序で、又は同時に、溶融混練することにより製造することができる。溶融混練の方法は特に制限はなく、公知の方法を使用し得る。例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ミキサー又は各種のニーダー等を使用し得る。ミキサーやニーダーを使用する場合には、例えば、排出温度240〜260℃の条件で溶融混練を行うことが好ましい。二軸混練機を使用する場合には、例えば、スクリュー回転数50〜500rpm、混練温度240〜260℃で溶融混練を行うことが好ましい。
【0073】
本発明の制電性樹脂組成物は、公知の成形方法を使用して、任意の成形品に成形加工することができる。上記成形方法としては、例えば、一般的な射出成形法、インサート成形法、二色成形法、サンドイッチ成形法、ガスインジェクション法、異型押出成形法、二色押出成形法、被覆成形法、及びシート・フイルム押出成形法などをあげることができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
測定方法
(1)成形性:
型締め力120tonの射出成形機を使用し、縦64.4mmm、横64.4mm、厚み3mmの射出成形プレートを、シリンダー温度240〜260℃、金型温度50℃、冷却時間5分の条件で成形した。得られたプレートを目視観察し、以下の基準で評価した。
○:ヒケ及び反りは認められない。
×:ヒケ若しくは反り、又はヒケ及び反りが認められる
【0076】
(2)体積抵抗率(制電性):
ASTM D257規格(1987年版)に準拠し、二重リングプローブ法(リングプローブ法)により測定した。即ち、上記試験(1)の方法で得た射出成形プレートを試験片とし、温度23±2 ℃、相対湿度50±5%の試験室において40時間以上状態調整を行った後、株式会社三菱化学アナリテックの抵抗率計「ハイレスタ UP MCP-HT450型(商品名)」、株式会社三菱化学アナリテックの二重リングプローブ(リング形状は、主電極外径0.59cm、ガード電極内径1.1cm。)「URSプローブ(商品名)」、及び株式会社三菱化学アナリテックのレジテーブル「UFL(商品名」を使用し、印加電圧500V、測定時間60秒の条件で測定した。測定は1つの試験片について2箇所の測定位置において行い、これを3つの試験片について行い、合計6個の測定値の平均値を、このサンプルの体積抵抗率とした。
なお電気抵抗率測定方法及びその理論については、株式会社三菱化学アナリテックのホームページ(http://www.mccat.co.jp/3seihin/genri/ghlup2.htm)などを参照することができる。
【0077】
(3)水洗浄後の体積抵抗率(制電性の耐久性1):
上記試験(1)の方法で得た射出成形プレートを、25℃の蒸留水を充填した水槽中で、プレートの表面をガーゼ(川本産業株式会社の医療用タイプ1ガーゼ)で10分間洗浄し、清浄な紙で水分を拭き取った後、温度23±2 ℃、相対湿度50±5%の試験室にて24時間以上乾燥し、上記試験(2)の方法に従い体積抵抗率を測定した。
【0078】
(4)払拭後の体積抵抗率(制電性の耐久性2):
上記試験(1)の方法で得た射出成形プレートを、JIS L 0849の学振試験機に置き、学振試験機の摩擦端子に、4枚重ねのガーゼ(川本産業株式会社の医療用タイプ1ガーゼ)で覆ったステンレス板(縦10mm、横10mm、厚み1mm)を取付け、該ステンレス板の縦横面が試験片と接触するようにセットし、350g荷重を載せ、試験片を、摩擦端子の移動距離60mm、速度1往復/秒の条件で往復300回払拭した後、上記試験(2)の方法に従い、試験片の払拭箇所の体積抵抗率を測定した。
【0079】
(5)アウトガス量:
測定には、パーキンエルマー社の加熱脱着式ガスクロマトグラフ質量分析装置を使用した。
(5−1)加熱脱着法によるアウトガスの捕集:
樹脂組成物を冷凍粉砕して2mm角以下の粉砕物とし、上記で得た粉砕物0.1gを、上記装置の捕集ユニットのサンプルホルダに入れ、120℃で10分間加熱し、発生した揮発性物質を、キャリアガスとしてヘリウムガスを使用して、5℃に保たれた冷却トラップ管に捕集した。
(5−2)揮発性物質(アウトガス)の定量:
上記(5−1)で揮発性物質をトラップした冷却トラップ管を昇温速度40℃/秒で300℃まで加熱し、離脱するガスを上記装置のガスクロマトグラフ質量分析ユニットに供給し、その発生量を定量した。このとき標準サンプル(所定量のn−デカンを、ジーエルサイエンス株式会社の2,6‐ジフェニル‐パラ‐フェニレンオキサイドをベースにした弱極性のポーラスポリマービーズ吸着剤「TenaxTA(商品名)」に含浸させたもの)を用いて、上記の方法と同様に測定して作成した検量線を使用した。
【0080】
(6)ヘーズ(透明性):
型締め力120tonの射出成形機を使用し、縦60mm、横60mm、厚み0.5mmの射出成形シートを、シリンダー温度240〜260℃、金型温度50℃、冷却時間5分の条件で成形し、得られた射出成形シートのヘーズを、JIS K 7136:2000に従い、日本電色工業株式会社の濁度計「NDH2000(商品名)」を用いて測定した。以下の基準で評価した。
◎:5%未満
○:5%以上50%未満
×:50%超
【0081】
(7)熱変形温度(耐熱性):
ASTM D648−07に準拠し、型締め力120tonの射出成形機を使用し、シリンダー温度240〜260℃、金型温度50℃、冷却時間5分の条件で成形した長さ127mm、高さ13mm、厚み6mmの試験片を用い、支点間距離100.0mm(B法)、荷重1.82MPa 、昇温速度2℃の条件で測定した。
【0082】
使用した原材料
(A)ポリエステル系樹脂:
(A−1)多価カルボン酸に由来する構造単位の総和を100モル%として、テレフタル酸に由来する構造単位100モル%、多価オールに由来する構造単位の総和を100モル%として、1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位77モル%、及び2,2,4,4,−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールに由来する構造単位23モル%を含むポリエステル系樹脂。ガラス転移温度108℃、融解熱量0J/g(DSCセカンド融解曲線に明瞭な融解ピークなし)。
(A−2)多価カルボン酸に由来する構造単位の総和を100モル%として、テレフタル酸に由来する構造単位100モル%、多価オールに由来する構造単位の総和を100モル%として、1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位64モル%、及び2,2,4,4,−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールに由来する構成単位36モル%を含むポリエステル系樹脂。ガラス転移温度119℃、融解熱量0J/g(DSCセカンド融解曲線に明瞭な融解ピークなし)。
【0083】
(A’)比較樹脂:
(A’−1)多価カルボン酸に由来する構造単位の総和を100モル%として、テレフタル酸に由来する構造単位100モル%、多価オールに由来する構造単位の総和を100モル%として、1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位34モル%、及びエチレングリコールに由来する構造単位66モル%を含むポリエステル系樹脂。ガラス転移温度81℃、融解熱量0J/g(DSCセカンド融解曲線に明瞭な融解ピークなし)。
(A’−2)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社のポリカーボネート系樹脂「ユーピロン3000(商品名)」。ガラス転移温度143℃。
【0084】
(B)ポリエーテルエステル樹脂:
(B−1)特開平8−283548号公報の段落0063、参考例1の記載に従い、得たポリエーテルエステル樹脂。上記成分(b1)はジメチルテレフタレート、上記成分(b2)は5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル、上記成分(b3)はポリエチレングリコール(数平均分子量20000)、上記成分(b4)は1,4−ブタンジオール。上記成分(b1)に由来する構造単位の含有量と上記成分(b2)に由来する構造単位の含有量との和を100モル%として、上記成分(b1)に由来する構造単位75モル%、上記成分(b2)に由来する構造単位を25モル%。上記成分(b1)に由来する構造単位の含有量、上記成分(b2)に由来する構造単位の含有量、上記成分(b3)に由来する構造単位の含有量、及び上記成分(b4)に由来する構造単位の含有量の和を100質量%として、上記成分(b3)に由来する構造単位の含有量が11質量%。
(B−2)特開平8−283548号公報の段落0064、参考例2の記載に従い、得たポリエーテルエステル樹脂。上記成分(b1)はジメチルテレフタレート、上記成分(b2)は5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル、上記成分(b3)はポリエチレングリコール(数平均分子量20000)、上記成分(b4)は1,4−ブタンジオール。上記成分(b1)に由来する構造単位の含有量と上記成分(b2)に由来する構造単位の含有量との和を100モル%として、上記成分(b1)に由来する構造単位85モル%、上記成分(b2)に由来する構造単位を15モル%。上記成分(b1)に由来する構造単位の含有量、上記成分(b2)に由来する構造単位の含有量、上記成分(b3)に由来する構造単位の含有量、及び上記成分(b4)に由来する構造単位の含有量の和を100質量%として、上記成分(b3)に由来する構造単位の含有量20質量%。
(B−3)特開平8−283548号公報の段落0065、参考例3の記載に従い、得たポリエーテルエステル樹脂。上記成分(b1)はジメチルテレフタレート、上記成分(b2)は5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル、上記成分(b3)はポリエチレングリコール(数平均分子量20000)、上記成分(b4)は1,4−ブタンジオール。上記成分(b1)に由来する構造単位の含有量と上記成分(b2)に由来する構造単位の含有量との和を100モル%として、上記成分(b1)に由来する構造単位75モル%、上記成分(b2)に由来する構造単位を25モル%。上記成分(b1)に由来する構造単位の含有量、上記成分(b2)に由来する構造単位の含有量、上記成分(b3)に由来する構造単位の含有量、及び上記成分(b4)に由来する構造単位の含有量の和を100質量%として、上記成分(b3)に由来する構造単位の含有量20質量%。
(B−4)特開平8−283548号公報の段落0066、参考例4の記載に従い、得たポリエーテルエステル樹脂。上記成分(b1)はジメチルテレフタレート、上記成分(b2)は5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル、上記成分(b3)はポリエチレングリコール(数平均分子量4000)、上記成分(b4)は1,4−ブタンジオール。上記成分(b1)に由来する構造単位の含有量と上記成分(b2)に由来する構造単位の含有量との和を100モル%として、上記成分(b1)に由来する構造単位75モル%、上記成分(b2)に由来する構造単位を25モル%。上記成分(b1)に由来する構造単位の含有量、上記成分(b2)に由来する構造単位の含有量、上記成分(b3)に由来する構造単位の含有量、及び上記成分(b4)に由来する構造単位の含有量の和を100質量%として、上記成分(b3)に由来する構造単位の含有量20質量%。
【0085】
(B’)比較ポリエーテルエステル樹脂:
(B’−1)三洋化成株式会社のポリエーテルエステルアミド樹脂「ペレスタット6321NC(商品名)」。スルホン酸塩基で置換された芳香族多価カルボン酸に由来する構造単位を有しない。
【0086】
(C)イオン性界面活性剤
(C−1)関東化学株式会社のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム。
【0087】
例1〜11、例1C〜7C
20mmφの同方向二軸混練機を使用し、表1〜3の何れか1に示す配合比の配合物を、設定温度240〜260℃で溶融混練し、樹脂組成物を得た。上記試験(1)〜(7)を行った。結果を表1〜3の何れか1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
本発明の樹脂組成物は、成形性、制電性、制電性の耐久性、低アウトガス性、透明性、及び耐熱性に優れている。
図1