(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記量子システムを前記初期量子状態から前記最終ハミルトニアンの前記基底状態に向けて移行させるステップが、量子アニーリングによって前記量子システムの初期ハミルトニアンから前記最終ハミルトニアンに移行するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の量子処理方法。
前記量子システムを前記初期ハミルトニアンの基底状態に向けて冷却することにより、前記初期量子状態の前記量子システムを初期化するステップを更に含むことを特徴とする請求項2に記載の量子処理方法。
前記複数のキュービットが2次元格子に沿って配置され、前記短距離ハミルトニアンが、前記2次元格子のプラケットに対応する4つのキュービットからなるグループ間での相互作用を伴うことを特徴とする請求項1から8の何れかに記載の量子処理方法。
前記長距離スピンモデルにおけるスピンの複数の閉ループから前記短距離ハミルトニアンを決定するステップを更に含むことを特徴とする請求項12に記載の量子処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、様々な例の実施形態を詳しく参照する。そのうちの1以上の例については、各図に図示している。各例は、説明のために提示しているのであって、本発明はその例に限定されるものではない。例えば、1つの実施形態の一部として図示されている又は記載されている特徴は、他の実施形態にも使用できる、又は他の実施形態と共に使用することで新たな実施形態を作り出すことが可能である。本明細書の開示は、そのような改良やバリエーションを含むことを意図している。
【0013】
下記の図面に関する記載において、同一の参照符号は同一の構成要素を意味する。概して、各実施形態については相違点のみを述べる。図面に示す構造は、必ずしも実際の縮尺通りに描写しているわけではなく、実施形態を理解し易くするために誇張された描写を含む場合がある。
【0014】
実施形態は、複数のキュービットを有する量子システムに関する。本明細書に記載のキュービットは、量子力学2準位システム(quantum mechanical two-level system)とも称される。キュービットは、起こり得るキュービットの量子状態を表した2つの量子基本状態(quantum basis states)|0>及び|1>を有する。量子力学の重ね合わせの原理によれば、a|0>+b|1>の式である全ての重ね合わせがキュービットに起こり得る量子状態である。上記のa及びbは複素数である。数学的には、キュービットは2次元のベクトル空間で表すことができる。複数のキュービットは、複数のキュービットのそれぞれが量子状態|0>又は量子状態|1>の何れかである形態に対応する量子基本状態を有する。例えば、キュービットが5つあるとすれば、5つのキュービットの量子基本状態は|00101>となり得る。量子状態|00101>は、第1、第2及び第4キュービットが量子状態|0>であり、第3及び第5キュービットが量子状態|1>である形態を表している。キュービットが複数のm個ある場合、2
m通りの量子基本状態が存在する。重ね合わせの原理からして、複数のキュービットに対し2通りの量子状態を考えると、量子基本状態の重ね合わせは複数のキュービットの量子状態でもある。例えば、a、b及びcが複素数である式a|00101>+b|11110>+c|11111>の重ね合わせは、複数のキュービットの量子状態である。数学的には、複数のm個のキュービットからなる量子システムは、2
m次元のベクトル空間で表すことができる。
【0015】
複数のキュービットは、複数の超電導キュービット(例えば、トランスモン(transmon)キュービット又は磁束キュービット)を含んでいてもよいし、又は複数の超電導キュービットから構成されていてもよい。超電導キュービットは第1次及び第2次超電導ループを含んでいてもよい。第1次超電導ループで時計回り及び反時計回りにそれぞれ伝搬する超電導電流は、超電導キュービットの量子基本状態|1>及び|0>を形成可能である。さらに、第2次超電導ループを通る磁束バイアスは、量子基本状態|0>及び|1>を結合可能である。
【0016】
別の態様として、量子システムは、トラップイオンのシステムを利用して実現してもよい。この場合、キュービットの量子基本状態|0>及び|1>は、ゼーマン若しくは超微細マニホールドの2段階で形成されるか、又はCa40+等のアルカリ土類イオン若しくはアルカリ土類のように正電荷を帯びたイオンの禁制光学遷移(forbidden optical transition)のいたるところで形成される。
【0017】
更に別の態様として、量子システムは、レーザフィールドから光格子又は間隔の広い格子に捕獲された極低温の中性アルカリ原子等の極低温原子を利用して実現してもよい。上記の原子は、レーザ冷却により基底状態に向けて進行可能である。キュービットの量子基本状態は、原子の基底状態及び高位リュードベリ状態(high-lying Rydberg state)によって形成される。キュービットはレーザ光によって扱うことができる。
【0018】
更に別の態様として、量子システムは、量子ドットを用いて実現してもよい。量子ドットキュービットは、GaAs/AlGaAsヘテロ構造で組み立てられてもよい。キュービットは、単一井戸型から二重井戸型へポテンシャルを断熱的に調整することによって準備可能なスピン状態でコード化される。
【0019】
更に別の態様として、量子システムは、ダイヤモンド結晶の点欠陥であるNVセンター等の固体結晶の不純物を用いて実現してもよい。他の不純物、例えば、クロム不純物に関係する着色中心、固体結晶の希土類イオン、又は炭化ケイ素の欠陥中心については研究中である。NVセンターは、2つの不対電子を有し、場合によっては周囲の核スピンと共に、キュービットを実現するために使用可能な長寿命の2つの著しい欠陥レベルの特定を可能にするスピン−1基底状態(spin-1 ground state)を与える。
【0020】
実施形態によれば、量子システムは、1つ以上又は複数の個別のq段階量子システムを有していてもよい。qは定数である。例えば、qは2〜8の範囲内(例えば、3、4、5又は6)である。個別のq段階量子システムは、q状態|0>,|1>,・・・|q−1>からなる基底を有する。個別の3段階量子システムは、「キュートリット」と称される。
【0021】
量子システムのハミルトニアンは、量子システムの単一の相互作用又は複数の相互作用を表すことができる。ハミルトニアンは、量子システムに作用する演算子である。ハミルトニアンの固有値は、量子システムのエネルギースペクトルに対応する。ハミルトニアンの基底状態は、最少エネルギーを有する量子システムの量子状態である。ハミルトニアンの基底状態は、零度の量子状態であってもよい。
【0022】
本明細書に記載の古典的計算システムは、古典的ビットで作動する計算システムを意味する。古典的計算システムは、古典的ビットで情報を処理するための中央処理装置(CPU)、及び/又は古典的ビットで情報を記憶する記憶装置を有していてもよい。古典的計算システムは、パーソナルコンピュータ(PC)等の1つ以上の従来型コンピュータ、及び/又は従来型コンピュータのネットワークを有していてもよい。
【0023】
実施形態の詳細を述べる前に、本開示事項のいくつかの側面について、
図1を参照して説明する。
図1は、実施形態に係る計算問題の解を計算する装置400の一例を示している。
【0024】
図1に示す装置400は、量子システム420を利用して計算問題の解を計算するのに適している。量子システム420は、
図1において黒色点で表された複数のキュービット100を有する。
図1に示す実施形態によれば、複数のキュービット100は2次元格子120、具体的には2次元正方格子に沿って配置されている。
【0025】
図1は、量子システム420を冷却するように構成された冷却ユニット410を更に示す。冷却ユニット410は、量子システム420を動作温度まで冷却することができる。
【0026】
図1は、古典的計算システム450を更に示す。古典的計算システム450は、解くべき計算問題452を入力として受信するように構成されている。計算問題452は、巡回セールスマン問題やイジングスピンモデル問題等のNP困難問題であってもよい。ここでのNPは、「非決定性多項式時間(nondeterministic polynomial time)」の略称である。
【0027】
古典的計算システム450は、更に、計算問題452を量子システム420の問題ハミルトニアン(problem Hamiltonian)472にコード化するように構成されている。
図1に例示した実施形態によれば、問題ハミルトニアン472は、式H
prob=Σ
kJ
kσ
z(k)を有する。σ
z(k)は、複数のキュービット100のうちk番目のキュービットに作用するパウリ演算子である。各J
kは、1つ以上の外部実体(external entities)によって決定される調整可能なパラメータであり、キュービットk毎に個別に調整可能な磁場を例示できる。例えば、J
kは、k番目のキュービットに影響する調整可能な磁場の強度であってもよい。磁場等の複数の調整可能な外部実体が与えられてもよい。この場合、各調整可能な外部実体が複数のキュービットのうちの1つのキュービットに影響する。外部実体を調整することにより、計算問題452に応じてパラメータJ
kを調整可能である。
【0028】
古典的計算システム450によって実行される問題ハミルトニアン472での計算問題452をコード化するステップは、計算問題452から、複数の調整可能なパラメータJ
kに対する問題コード化の設定(problem-encoding configuration)を決定するステップを含む。各調整可能なパラメータJ
kに対して、パラメータの値は計算問題452に応じて決定される。したがって、問題コード化設定は、計算問題に依存する。
【0029】
図1は、プログラム可能な量子アニーリングユニット430を更に示す。量子アニーリングユニット430は、量子システム420の初期ハミルトニアンから量子システム420の最終ハミルトニアンに移行することで量子アニーリングを実行するのに適している。
【0030】
図1に関して述べた実施形態によれば、初期ハミルトニアンは式H
init=Σ
ka
kσ
x(k)を有する。a
kは係数であり、σ
x(k)は複数のキュービット100のk番目のキュービットに作用するパウリ演算子である。パウリ演算子σ
z(k)及びσ
x(k)は非可換のパウリ演算子、特に反可換のパウリ演算子でもよい。初期ハミルトニアンH
initは計算問題452から独立していてもよい。
【0031】
最終ハミルトニアンは、問題ハミルトニアン472及び短距離ハミルトニアン(short-range Hamiltonian)474の総和である。例示した実施形態によれば、短距離ハミルトニアン474は、プラケットに対応する複数のキュービットからなるグループ間の相互作用を表すプラケットハミルトニアン(plaquette Hamiltonian)である。プラケットは、例えば、キュービットが配置される2次元正方格子の複数の単純な正方形であってもよい。後で詳しく説明する
図7は、実施形態に係る2次元格子のプラケット370の例を示す。短距離ハミルトニアンは、例えば、4体プラケットハミルトニアン等のd体ハミルトニアンであり、dは計算問題452から独立している。実施形態によれば、短距離ハミルトニアン474は、計算問題452から独立していてもよい。
【0032】
上記のように、計算問題452は、問題ハミルトニアン472でコード化される。特に、調整可能なパラメータJ
kの問題コード化設定でコード化される。実施形態によれば、問題ハミルトニアン472及び短距離ハミルトニアン474の総和である最終ハミルトニアン470が、計算問題452の解に関する情報を含む基底状態を有するようにコード化が行われる。したがって、量子システム420が最終ハミルトニアン470の基底状態にある場合、量子システム420を測定することにより、計算問題に関する情報が明らかになり得る。
【0033】
実施形態によれば、
図1の矢符499で示すように、量子システム420は、最終ハミルトニアン470の基底状態に向けて進行する。このとき、問題ハミルトニアン472の複数の調整可能なパラメータは、問題コード化設定に存在する。
図1に示す実施形態によれば、量子アニーリングユニット430が量子アニーリングを実行することにより、量子システム420は、最終ハミルトニアン470の基底状態に向けて進行する。量子アニーリングの実行は、初期ハミルトニアンから最終ハミルトニアン470に移行するステップを含む。
【0034】
例示した実施形態によれば、量子システム420は、量子システム420を初期ハミルトニアンの基底状態に向けて冷却することにより、初期量子状態で初期化される。さらに、プログラム可能な量子アニーリングユニット430は、量子アニーリングを実行することにより、量子システム420を初期時間での初期量子状態から最終時間での最終量子状態に進行させるのに適している。量子アニーリングは、量子システム420を初期量子状態から最終量子状態に進行させるために、初期時間での初期ハミルトニアンから最終時間での最終ハミルトニアン470に移行するステップを含む。量子アニーリングは、量子システム420が冷却ユニット410によって実質的な動作温度に維持されている間に実行してもよい。
【0035】
量子アニーリングは、徐々に、例えば断熱的に、初期ハミルトニアンH
initから最終ハミルトニアンH
final=H
prob+H
SRに移行するステップを含む。H
SRは、補間ハミルトニアンH(t)を経由した短距離ハミルトニアンである。
図1に例示した実施形態によれば、補間ハミルトニアンは、式H(t)=A(t)H
init+B(t)H
prob+C(t)H
SRを有する。H
initは初期ハミルトニアン、H
finalは最終ハミルトニアンを表し、tは時間パラメータで、A(t)、B(t)及びC(t)は時間パラメータtに応じた補間係数である。tが初期時間t
0の場合、補間係数A(t
0)は初期値1に等しくてもよく、補間係数B(t
0)は初期値0に等しくてもよい。或いは、tが初期時間t
0の場合、補間係数A(t
0)は補間係数B(t
0)よりはるかに大きくてもよい。tが最終時間t
finの場合、補間係数A(t
fin)は最終値0に等しくてもよく、B(t
fin)及びC(t
fin)はそれぞれ最終値1に等しくてもよい。これにより、補間ハミルトニアンH(t
fin)がH
finalに等しくなる。或いは、tが最終時間t
finの場合、補間係数A(t
fin)は補間係数B(t
fin)及びC(t
fin)よりもはるかに小さい。量子アニーリングの実行は、徐々に、例えば断熱的に、補間係数A(t)、B(t)及びC(t)を初期時間での初期値から最終時間での最終値へ変換するステップを含んでいてもよい。したがって、補間ハミルトニアンは、初期時間での初期ハミルトニアンから最終時間での最終ハミルトニアンに徐々に変換される。特に、上述の量子アニーリングの手順は、常にC(t)=B(t)を満たすように行われる。
【0036】
特定の理論に縛られることなく量子力学の断熱定理等を考慮すると、初期ハミルトニアンから最終ハミルトニアン470への移行が十分に時間をかけて実行される場合、初期時間から最終時間までの範囲の時間パラメータtの全ての値に対し、量子システム420の量子状態は、基底状態になるか、又は少なくとも補間ハミルトニアンH(t)の基底状態にうまく近似される。したがって、量子アニーリングは、初期時間での初期量子状態を最終時間での最終量子状態に進行させる。最終量子状態は、最終ハミルトニアンの基底状態であるか、又は少なくとも最終ハミルトニアン470の基底状態にうまく近似される。
【0037】
図1は、量子システム420の測定に適した測定装置440を更に示す。図示のように、測定装置440は、複数のキュービット100のうちの一部分425を測定するのに適するものであってもよい。測定装置440を使用して前記一部分425を測定することで、最終量子状態の読み出しを取得することができる。最終ハミルトニアンの基底状態にうまく近似される最終量子状態は、計算問題452の解に関する情報を含む。最終量子状態の読み出しが、解に関する情報を明らかにすることができる。
図1に示す実施形態によれば、
図1に矢符445で示すように、読み出しは測定装置440から古典的計算システム450に提供される。古典的計算システム450は、その読み出しから計算問題の解490を決定することができる。古典的計算システム450は、少なくとも計算問題の試行解(trial solution)を決定し、その試行解が実際に計算問題の解になっているのかを検証する。NP問題の場合、その検証は多項式時間で実行可能な計算であり、通常容易に計算できる。計算問題の解が見つからないことが分かると、計算問題の解が見つかるまでそのプロセスが繰り返される。
【0038】
上記の観点から、一つの実施形態によれば、複数のキュービットを含む量子システムを用いて計算問題の解を計算する方法を提供する。前記方法は、
図8にボックス510で示すように、計算問題を量子システムの問題ハミルトニアンにコード化するステップを含む。問題ハミルトニアンは、複数の調整可能なパラメータを含む単体ハミルトニアンであり、コード化ステップは、計算問題から複数の調整可能なパラメータに対する問題コード化設定を決定するステップを含む。前記方法は、
図8にボックス520で示すように、量子システムを初期量子状態から量子システムの最終ハミルトニアンの基底状態に向けて移行させるステップを更に含む。最終ハミルトニアンは、問題ハミルトニアン及び短距離ハミルトニアンの総和であり、問題ハミルトニアンの複数の調整可能なパラメータは、問題コード化設定に存在する。いくつかの実施形態において、短距離ハミルトニアンは、dが計算問題から独立しているd体ハミルトニアンである。前記方法は、
図8にボックス530で示すように、複数のキュービットの少なくとも一部分を測定することで、量子システムの読み出しを取得するステップを更に含む。前記方法は、
図8にボックス540で示すように、その読み出しから計算問題の解を決定するステップを更に含む。
【0039】
したがって、実施形態によれば、量子システムを用いて、NP困難問題等の計算問題の解を決定することが可能になる。古典的計算システムのみを用いて計算問題の解を決定する、つまり量子システムを用いずに計算問題の解を決定する場合と比較すると、実施形態では、計算問題を解くのに必要な計算時間が短縮される。換言すれば、古典的計算システムと比較すると、実施形態では、計算問題をより速く解くことが可能になり、又は古典的計算システムで計算するには時間がかかり過ぎるような解であっても見つけることが可能となるかもしれない。
【0040】
更なる利点は、問題ハミルトニアンが単体ハミルトニアンである側面に関する。他の種類の問題ハミルトニアン、特にキュービットの大きなグループ間での相互作用を伴う、又は遠く離れたキュービット間での相互作用(長距離の相互作用)を伴う問題ハミルトニアンは、実行不可能であるか、又は少なくとも量子システム及び量子計算を行う構成要素の非常に複雑なセットアップを必要とする。一方、上述の単体の問題ハミルトニアンは、もっと単純なセットアップ、つまりもっと単純な量子処理装置を用いることにより実現可能である。さらに、実施形態の調整可能なパラメータを有する問題ハミルトニアンは、幅広い計算問題をコード化することができる完全にプログラム可能なシステムを提供する。したがって、実施形態に係る装置及び方法は、NP困難問題等の幅広い計算問題の解を計算することができる。問題ハミルトニアンが必要とする特定の相互作用がシステムのハードウェアに組み込まれているため、限られた数の問題しかコード化できないシステムと比較すると、柔軟性が増した非常に強力な装置及び方法が提供される。
【0041】
更なる利点は、最終ハミルトニアンが問題ハミルトニアン及び短距離ハミルトニアンの総和である側面に関する。短距離ハミルトニアンは、被加数ハミルトニアン(summand Hamiltonian)の総和であってもよい。本明細書に記載のように、被加数ハミルトニアンは制約ハミルトニアン(constraint Hamiltonian)であってもよい。短距離ハミルトニアンを有することで、遠く離れたキュービット間の相互作用を操作する必要が無いという利点が得られる。これは、量子システムで実現するには実行不可能な、又は少なくとも非常に複雑な量子処理装置のセットアップを必要とするような長距離の相互作用を必要とするハミルトニアンと大いに異なる。
【0042】
短距離d体ハミルトニアンのパラメータdが計算問題から独立している場合、これは、どの計算問題をコード化するかに関わらず、同じ量子処理装置で計算可能であることを意味する。短距離ハミルトニアンが計算問題から独立している場合、異なる計算問題に対し、短距離ハミルトニアンによって決定されるキュービット間の相互作用を変更する必要が無いという更なる利点が得られる。
【0043】
実施形態は、計算問題の解の計算に対し拡張可能なアーキテクチャを提供する。所定の量子システムでは、特定の最大サイズの多種多様な計算問題の解を計算することができる。最大サイズは、量子システムのキュービットの数により決定される。この最大サイズを超える計算問題の解を計算するために、より大きな量子システム、つまり数多くのキュービットを有する量子システムを、実施形態の対応する問題ハミルトニアン、短距離ハミルトニアン及び最終ハミルトニアンと共に提供することで、より大きなサイズの計算問題を処理することができる。適度に多くのキュービットを有する量子システムを選択することにより、どのような所望サイズの計算問題でもその解を計算できる。実施形態によれば、量子システムのキュービットの数に関わらず、問題ハミルトニアンは単体ハミルトニアンであり、最終ハミルトニアンは問題ハミルトニアン及び短距離ハミルトニアンの総和である。したがって、計算問題の解を計算するために拡張可能なアーキテクチャが提供される。
【0044】
いくつかの実施形態によれば、計算問題は決定問題であってもよい。決定問題とは、イエスかノーかを問う質問が定式化された計算問題のことをいう。決定問題の解は、「イエス」か「ノー」かのいずれかである。或いは、決定問題の解は、1つの古典ビット、つまり0か1のいずれかであってもよい。他の実施形態によれば、計算問題は決定問題と異なる態様で定式化されてもよい。
【0045】
計算問題は、例えば、コンピュータ科学、物理、化学又は工学の分野で考えられる種々の計算問題のいずれか1つであってもよい。範囲を限定する意図ではなく、説明目的で、以下の3つの計算問題の例について検討する。以下に検討する3つの例は決定問題の例である。
【0046】
実施形態の計算問題の第1の例は「巡回セールスマン問題」である。巡回セールスマン問題は、都市の第1リスト、及びその第1リストに挙げられた各2都市間の距離の第2リストを伴う。巡回セールスマン問題では、次の問題について質問される。「第1リスト、第2リスト及び定数Kが与えられた場合に、セールスマンが(i)第1リストに挙げられた各都市を必ず1回ずつ巡回し、(ii)巡回開始時の都市に戻るという条件で、最大Kの巡回距離は存在するのか?」
【0047】
実施形態の計算問題の第2の例は、数学的グラフの彩色に関する「3彩色問題」である。数学的グラフは頂点のセットと2つの頂点を結ぶ辺のセットとを含む。数学的グラフの3彩色では、数学的グラフの各頂点が3色(例えば「赤」、「緑」、「青」)のうちの1色に割り当てられる。この際、辺で結ばれるいずれの2つの頂点にも異なる色が割り当てられる。いくつかの数学的グラフでは、3彩色は存在しないかもしれない。3彩色問題では、次の問題について質問される。「数学的グラフが与えられた場合に、3彩色は存在するのか?」
【0048】
実施形態の計算問題の第3の例は、イジングスピンモデルに関する。イジングスピンモデルは、複数のスピンs
1,s
2,・・・,s
n間の相互作用を表す物理モデルである。各スピンs
iは1か−1のどちらかの値を有する変数であり、iは1からnまでの値である。複数のスピンについては、イジングエネルギー関数H(s
1,s
2,・・・s
n)が考えられ、このイジングエネルギー関数は次の式を有する。
H(s
1,s
2,・・・s
n)=Σ
ijc
ijs
is
j+Σ
ic
is
i
【0049】
各c
ijは結合係数で、各c
iはフィールド係数である。イジングエネルギー関数は、対相互作用(pair-wise interactions)を伴う。スピンs
i及びs
j間の対相互作用はイジングエネルギー関数中の項c
ijs
is
jで表される。結合係数c
ijの絶対値は、スピンs
i及びs
j間の対相互作用の強さを反映する。結合係数c
ijの符号は、例えば強磁性の又は反強磁性の相互作用等の対相互作用の特性を反映する。イジングスピンモデルは、長距離イジングスピンモデルであってもよい。長距離イジングスピンモデルは、距離測度に応じて互いに離れた一対のスピン同士の相互作用を含んでもよい。長距離イジングスピンモデルは、少なくとも2つのスピン間の最大距離の対数である距離を隔てて互いに離れたスピン対間の相互作用を含んでもよい。全対全イジングスピンモデル(all-to-all Ising spin model)等のいくつかの長距離イジングスピンモデルは、全てのスピン対間での相互作用を伴ってもよい。例えば、各結合係数c
ijが零でないイジングスピンモデルが長距離イジングスピンモデルであると考えられる。
【0050】
イジングエネルギー関数は、スピンs
i及びスピンs
iに影響するが他のスピンには影響しない外部フィールドとの相互作用を表す項c
is
iを更に含む。スピンs
iに影響するフィールドの強さと方向は、それぞれフィールド係数c
iの絶対値と符号で表される。イジングスピンモデルに関係する計算問題(ここでは、イジングスピンモデル問題という)は、次のように定式化できる。「結合係数c
ijのセット、フィールド係数c
iのセット及び定数Kを与えた場合に、H(s
1,s
2,・・・s
n)がKより小さくなるようなスピンの形態(s
1,s
2,・・・s
n)は存在するのか?」
【0051】
実施形態によれば、計算問題は複数の入力変数を含んでいてもよい。その複数の入力変数は、解くべき計算問題に関する情報を表してもよい。例えば、上述の3つの計算問題の例を参照すると、複数の入力変数は、巡回セールスマン問題の場合、都市の第1リスト及び距離の第2リストであり、3彩色問題の場合、グラフの頂点及び辺のセットであり、イジングスピンモデル問題の場合、結合係数c
ijとフィールド係数c
iのセットである。
【0052】
実施形態によれば、計算問題の解の計算は、計算問題に対する試行解の計算を含んでいてもよい。試行解は、計算問題の実際の解かもしれないし、そうでないかもしれない。複雑性クラスNP(complexity class NP)に属する計算問題に係る実施形態の場合、以下に記載するように、計算問題の解の計算が証拠変数のセットの計算を含んでいてもよい。
【0053】
実施形態によれば、計算問題の解は、複数のキュービットを有する量子システムを用いて計算される。複数のキュービットは、少なくとも8つのキュービットであり、特に少なくとも3つのキュービットであってもよい。更に、又は或いは、複数のキュービットは、N個のキュービットを含んでいてもよい。Nは、100〜10000で、好ましくは、これよりも大きい。図示されている複数のキュービット100は、図で表現及び説明する目的で示しているだけであって、キュービットの実際の数はそれとは異なることが理解できるであろう。
【0054】
量子システムのキュービットは、平面又は曲面を含む2次元表面又は3次元表面に配置されてもよい。
図2〜4は、実施形態の複数のキュービット100の異なる空間的配置を示す。これらの空間的配置は、例えばキュービット及び/又は他の異なる量子システム(キュートリットのようなq段階システム)が統合された量子チップ等の量子計算装置のレイアウトであってもよい。
図2に示すように、複数のキュービット100は、
図2に破線で示す2次元の平面的な表面110に沿って配置されてもよい。
図2に示す2次元表面110は、複数のキュービットの2次元の空間的配置を視覚的に表現することが目的であって、2次元表面110は複数のキュービット100が配置される物理的に触れることのできる表面である必要がないことを理解できるであろう。以下に記載する2次元格子又は3次元格子に沿って配置された複数のキュービットの実施形態にも同様の考えが適用される。
【0055】
図3に示す更なる実施形態によれば、複数のキュービット100は、破線で示すような2次元格子120に沿って配置される。2次元格子又は3次元格子等の格子は、規則的なグリッドに沿って空間的に配置された複数のノードを含んでいてもよい。
図3では、複数の黒色点で表わされた複数のキュービット100が、2次元格子120のノードに対応する。
図3のように、複数のキュービット100の各キュービットは、2次元格子120のノードに配置されてもよい。
図3に示す実施形態の例では、2次元格子120は2次元正方格子である。別の実施形態によれば、2次元格子120は、例えば六方格子若しくは三角格子、又は他の如何なる種類の2次元格子であってもよい。
【0056】
実施形態によれば、複数のキュービットは3次元格子に沿って配置されてもよい。
図3に関して上述したことと同様に、複数のキュービットは3次元格子のノードに対応していてもよい。複数のキュービットの各キュービットは、3次元格子のノードに配置されてもよい。3次元格子は3次元正方格子であってもよい。2次元格子の場合と同様に、他の種類の3次元格子も考えることができる。
【0057】
2次元格子は平面的な構造であるので、3次元格子や他の不規則な空間的配置等に比べて、キュービットのより単純な空間的配置を提供できる。
【0058】
実施形態によれば、複数のキュービットは2次元格子の一部分、又は3次元格子の一部分に沿って配置される。
図4は、2次元格子の三角形部分121に沿って配置された複数のキュービット100の実施形態の例を表している。
図4は、三角形部分121の上面図である。三角形部分は、実施形態の方法を実行するように構成された実施形態に係る量子計算装置のレイアウトに対応する。異なる形状を有する格子の一部分も考えることができる。
【0059】
問題ハミルトニアンは、複数の調整可能なパラメータを有する単体ハミルトニアンである。実施形態の量子システムの単体ハミルトニアンは、2つ以上のキュービットからなるグループ間で相互作用が生じないハミルトニアンであってもよい。単体ハミルトニアンは、複数の被加数ハミルトニアンの総和であってもよい。各被加数ハミルトニアンは、複数のキュービットのうちの1つのキュービットに作用する。単体ハミルトニアンは、式H=Σ
iH
iを有していてもよい。各H
iはi番目のキュービットのみに作用する被加数ハミルトニアンである。単体ハミルトニアンは、複数のキュービットと磁場又は電場等の外部実体との間の相互作用を表してもよい。この場合、各キュービットは外部実体に個別に作用する。
【0060】
図5は、実施形態の単体ハミルトニアンの概略図である。範囲を限定することなく具体性を持たせるため、
図5に示す複数のキュービットは、
図4に示すものと同様に、三角形を成す2次元正方格子の一部分に配置された10個のキュービット、すなわちキュービット201〜210を含む。
図5を参照して説明する単体ハミルトニアンは、10個の被加数ハミルトニアン221〜230の総和である。
図5において、各被加数ハミルトニアン221〜230は、各被加数ハミルトニアンが1つのキュービットに作用することを示すため、1つのキュービットを囲む正方形として概略的に図示している。例えば、被加数ハミルトニアン221がキュービット201には作用するが、残りのキュービット202〜210には作用しないことを示すため、被加数ハミルトニアン221は、キュービット201を囲む正方形及びキュービット201で表わされる。
【0061】
単体ハミルトニアンである問題ハミルトニアンは、上述の被加数ハミルトニアンの総和であってもよい。問題ハミルトニアンの複数の調整可能なパラメータは、被加数ハミルトニアンの複数の調整可能なパラメータを含んでいてもよい。単体ハミルトニアンの1つ以上の被加数ハミルトニアン、特に各被加数ハミルトニアンは、1つ以上の調整可能なパラメータを含んでいてもよい。
【0062】
実施形態の問題ハミルトニアンの調整可能なパラメータは、複数のキュービットのうちの1つのキュービットと外部実体との相互作用の強さ及び/又は方向を表すパラメータであってもよい。外部実体は、1つ以上の磁場、1つ以上の電場、及び/又は1つ以上のレーザフィールド、マイクロ波、機械的変形からの位相シフトのうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。外部実体を調整することにより、及び/又はキュービットと外部実体との相互作用の強さ及び/又は種類を調整することにより、問題ハミルトニアンの調整可能なパラメータを調整することを実現できる。したがって、調整可能なパラメータとは、量子システムのハードウェアに組み込まれていない相互作用等の調整可能な相互作用を表してもよい。
【0063】
他の実施形態と組み合わせ可能な実施形態によれば、問題ハミルトニアンの複数の調整可能なパラメータは、複数のキュービットに作用する単体フィールドの複数のフィールド強度及び/又は複数のフィールド方向を含んでもよい。複数のキュービットに作用する前記フィールドは、例えば、超電導キュービットに関する実施形態では、1つ以上の磁場及び/又は1つ以上の電場を含んでいてもよい。
【0064】
単体フィールドとは、複数のキュービットのうちの1つのキュービットに影響するフィールドである。実施形態によれば、複数の単体フィールドは、異なり得るフィールド強度及び/又は異なり得るフィールド方向に従った対応するキュービットに影響を与える異なる単体フィールドを含んでいてもよい。例えば、第1の単体フィールドと第2の単体フィールドは、それぞれ複数のキュービットのうちの第1のキュービットと第2のキュービットに影響する。この場合、第1の単体フィールドと第2の単体フィールドは、両方とも磁場等であり、異なるフィールド強度及び/又はフィールド方向を有していてもよい。
【0065】
他の実施形態と組み合わせ可能な実施形態によれば、単体ハミルトニアンは式Σ
kJ
kσ
z(k)を有する。σ
z(k)は複数のキュービットのk番目のキュービットのパウリ演算子であり、各J
kは係数であり、係数J
kは単体ハミルトニアンの複数の調整可能なパラメータを形成する。いくつかの実施形態によれば、パウリ演算子σ
z(k)は第1の空間方向に関連するパウリ演算子であってもよい。
【0066】
複数の超電導キュービットを有する量子システムの場合、問題ハミルトニアン等の単体ハミルトニアンは、複数の超電導キュービットと相互に作用する複数の磁束により実現できる。磁束又は磁束バイアスは、超電導キュービットの一次超電導ループを通過し、二次超電導ループも通過して広がる。問題ハミルトニアンの複数の調整可能なパラメータは、複数の磁束又は磁束バイアスを調整することにより調整可能である。
【0067】
トラップイオンで実現される量子システムの場合、各イオンを空間的に分離するか、エネルギーで分離することにより対処可能である。空間的分離の場合は、音響光学偏向器、音響光学変調器、マイクロミラーデバイス等を通過した及び/又はこれらから反射したレーザビームの使用を伴う。エネルギーでの分離は、内部遷移周波数を変化させる磁場勾配の使用を伴い、そうすることで、印加フィールドの離調(detuning)等のエネルギーの相違を通じて選択が可能になる。単体ハミルトニアンは、内部遷移とのレーザフィールド若しくはマイクロ波の共鳴又は無共鳴によって、又は空間的な磁場の相違によって実現できる。
【0068】
量子ドットで実現される量子システムの場合、単体ハミルトニアンは電場で実現できる。
【0069】
NVセンターで実現される量子システムの場合、マイクロ波パルスを適用した磁気共鳴を用いて、キュービットの状態をナノ秒の時間尺度でコヒーレントに操作可能である。キュービットの状態の選択的な操作は、すぐ近くの核スピンの状態次第で達成できる。
【0070】
計算問題は、問題コード化設定上にマッピングされてもよい。問題コード化設定は、計算問題に関する情報に依存していてもよいし、及び/又は、その情報を含んでいてもよい。問題コード化設定を決定する動作は、複数の調整可能なパラメータのそれぞれの値を決定する及び/又は計算することを含んでいてもよい。それぞれの値は、計算問題から決定及び/又は計算される。
【0071】
実施形態によれば、異なる計算問題は、対応する異なる問題コード化設定を決定することにより問題ハミルトニアンにコード化される。例えば、第1の計算問題及び第2の計算問題は、問題ハミルトニアンにコード化され、これらは、複数の調整可能なパラメータに対する第1の問題コード化設定と第2の問題コード化設定となる。第2の計算問題が第1の計算問題と異なる場合、調整可能なパラメータの第2の問題コード化設定は第1の問題コード化設定と異なってもよい。
【0072】
実施形態によれば、上記方法は計算問題又は少なくともその計算問題に関する情報を、
図1に示す古典的計算システム450等の古典的計算システムに提供することを含んでもよい。例えば、上述の計算問題の複数の入力変数は、古典的計算システムに提供されてもよい。実施形態によれば、計算問題は、古典的計算システムによって問題コード化設定にコード化されてもよい。古典的計算システムは、計算問題、例えば、計算問題の複数の入力変数から問題コード化設定を計算するように構成されていてもよい。
【0073】
本明細書で使用する用語「短距離ハミルトニアン」は、複数のキュービットの相互作用を表すハミルトニアンのことである。短距離ハミルトニアンでは、相互作用遮断距離よりも長い距離で互いに離れているキュービット間で相互作用が生じない。相互作用遮断距離は一定の距離であってもよい。相互作用遮断距離は、複数のキュービットの中のキュービット間の最大キュービット距離と比べて非常に短くてもよい。例えば、相互作用遮断距離は、最大キュービット距離の30%以下、具体的には20%以下、より具体的には10%以下であってもよい。格子に沿って配置された複数のキュービットの場合、短距離ハミルトニアンはr範囲のハミルトニアンであってもよい。r範囲のハミルトニアンでは、格子の基本距離(格子定数)のr倍よりも長い距離で互いに離れているキュービット間で相互作用が生じない。rは1〜5であり、例えばr=2
1/2,2,3,4又は5である。実施形態の格子の基本距離についての考え方は、
図6及び7等を参照して以下に説明する。
【0074】
量子システムのキュービットの数に関わらず、量子システムのプラケットハミルトニアン及び最近接対ハミルトニアン(pairwise nearest-neighbor Hamiltonian)は、短距離ハミルトニアンと見なされる。
【0075】
短距離ハミルトニアンの例としては、単体ハミルトニアンが挙げられる。単体ハミルトニアンの場合、2つ以上のキュービットからなるグループ間では相互作用が生じず、各キュービットと磁場や電場等の外部実体との間でしか相互作用が生じないため、相互作用遮断距離は零であると考えられる。
【0076】
図6及び7は、複数のキュービット100が、2次元正方格子120に沿って配置され、2次元正方格子の三角形部分を成す2次元正方格子のノードの位置に位置する実施形態について、短距離ハミルトニアンの更なる例を示す。範囲を限定することなく具体性を持たせるため、
図6及び7で例示される2次元正方格子120は、10行10列からなる10×10正方格子内に三角形状に配置された55個のキュービットを含む。例えば、点線で示す行391のように、X方向310に沿った2次元正方格子120のキュービットのいずれかの行を検討した場合、その行において連続するキュービットは、互いに基本距離D分だけ離れて配置される。これをX方向の格子定数ともいう。基本距離Dは、符号350で示される。同様に、例えば、点線で示す列392のように、Y方向320に沿った2次元正方格子120のキュービットのいずれかの列を検討した場合、その列において連続するキュービットは、互いに基本距離分だけ離れて配置される。これをY方向の格子定数ともいう。
図6及び7において、正方格子の格子並びにX方向及びY方向の基本距離(格子定数)は同じである。しかしながら、X方向及びY方向の格子定数は異なることもある。図示のように、X方向310はY方向320に対して直交している。
図6及び
図7に示す複数のキュービット100の最大キュービット距離は、キュービット301及び302の間の距離である。最大キュービット距離は、(9√2)Dに等しい。
【0077】
図6を参照して説明する短距離ハミルトニアンの例は、最近接対ハミルトニアンである。最近接対ハミルトニアンは、2次元格子120上の対の近接するキュービット間での相互作用のみを伴う。一対の近接するキュービットとは、基本距離D分だけ互いに離れた一対のキュービットのことをいう。
図6に示すキュービット362及び364は、一対の近接するキュービットの例になっている。最近接対ハミルトニアンは、複数の被加数ハミルトニアンの総和であってもよく、この場合、各被加数ハミルトニアンは、一対の近接するキュービット間の相互作用を表す。
図6を参照して説明する最近接対ハミルトニアンの場合、相互作用遮断距離は基本距離Dに等しい。したがって、相互作用遮断距離は、最大キュービット距離に比べると非常に短い。すなわち、相互作用遮断距離Dは、最大キュービット距離の10%未満である。
【0078】
図7を参照して説明する短距離ハミルトニアンの例は、プラケットハミルトニアンである。
図7において、黒色円で示す55個のキュービットが再び2次元正方格子120に配置され、三角形を形成する。
図7において符号370で示すように、2次元正方格子120のプラケットは、2次元正方格子120の基本の正方形である。プラケット370は、キュービット371、372、373及び374を有する。キュービット371は、キュービット372及び374から基本距離D分だけ離れて配置され、キュービット373もまた、キュービット372及び374から基本距離D分だけ離れて配置されている。さらに、キュービットのプラケットを完成させるために、黒色の矩形で示す予備キュービット(auxiliary qubit)が新たな線上に追加される。例えば、予備キュービット305は、キュービット302、303及び304のプラケットを完成させる。予備キュービットは、特定の量子状態、例えば|1>で準備できる。この格子の形状では、プラケットハミルトニアンは、2次元正方格子120のプラケットに対応する4つのキュービットからなるグループ間、又は3つのキュービット及び1つの予備キュービットからなるグループ間での相互作用のみを伴う。プラケットハミルトニアンは、複数の被加数ハミルトニアンの総和であってもよい。各被加数ハミルトニアンは、格子上のキュービットのプラケットに対応する相互作用、又はキュービット及び予備キュービットのプラケットに対応する相互作用を表してもよい。或いは、予備キュービットを1つも使用せず、プラケットハミルトニアンが3つのキュービットのみの間での相互作用を示す被加数ハミルトニアンを含む。
図7を参照して説明するプラケットハミルトニアンでは、プラケットの2つのキュービット間の最大距離が√2Dであるため、相互作用遮断距離は√2Dである。例えば、キュービット371及び373の間の距離は√2Dである。したがって、相互作用遮断距離は、最大キュービット距離に比べると非常に短い。すなわち、相互作用遮断距離√2Dは、最大キュービット距離の12%未満である。
【0079】
複数の超電導キュービットを有する量子システムの場合、プラケットハミルトニアンは、複数の補助キュービット(ancillary qubit)を用いることで実現できる。補助キュービットは、例えば各プラケットの中央等、各プラケットの内側に配置される。式K
kmσ
z(k)σ
z(m)のキュービット間の相互作用は、誘導結合ユニット等の結合ユニットにより実現できる。結合ユニットは、超電導量子干渉装置を含む。調整可能な磁束バイアスを超電導量子干渉装置に適用することで、係数K
kmを調整することが可能になる。そして、プラケットハミルトニアンの被加数ハミルトニアンが、量子基本状態の|0>及び|1>間の強制エネルギーの差異に対応する式σ
z(k)σ
z(m)と単体のσ
z(1)の対相互作用のみを含むH
sr,p=C(σ
z(1)+σ
z(2)+σ
z(3)+σ
z(4)−2σ
z(p)−1)
2により実現可能である。σ
z(p)は補助キュービットを表す。短距離ハミルトニアンは、被加数ハミルトニアンH
sr,pの総和である。補助キュービットを伴う実施形態では、複数の補助キュービットに対し、式hΣ
pσ
x(p)の単体ハミルトニアンが初期ハミルトニアンに追加される。
【0080】
或いは、プラケットハミルトニアンは、補助キュービットを用いることなく、例えばトランズモンキュービットとして3島型超伝導装置(three-island superconducting devices)を用いて実現可能である。2つの追加の超伝導量子干渉装置を結合ユニットに統合し、プラケットの4つのキュービットをコプレーナ共振器に容量的に結合することにより、式−Cσ
z(1)σ
z(2)σ
z(3)σ
z(4)の被加数ハミルトニアンが実現可能である。結合係数Cは、2つの追加の超伝導量子干渉装置を通じて、時間依存性の磁束バイアスにより調整可能である。
【0081】
トラップイオンにより実現される量子システムの場合、2つのイオン間の相互作用はフォノンバスで送信される。この場合、レーザ又はマイクロ波が使用され、フォノンのブルーサイドバンド遷移及び/又はレッドサイドバンド遷移で離調される。レーザの強度及び離調によって、相互作用強度が調整可能になる。リュードベリ励起を通じた直接相互作用も利用可能である。
【0082】
低温原子により実現される量子システムの場合、キュービット間の相互作用は、d原子を励起するレーザの離調によって制御可能である。この場合、ハミルトニアンはd体ハミルトニアンである。プラケットハミルトニアンは、d体相互作用又は2体相互作用を有する補助キュービットのいずれから実行されてもよい。
【0083】
量子ドットにより実現される量子システムの場合、2つのキュービット間の相互作用は、電場勾配及び磁場により調整される。短距離ハミルトニアンは、パルスシーケンス及び磁場により実現可能である。プラケットハミルトニアンは、追加の補助キュービットを、プラケットの全ての対に作用する短距離ハミルトニアンと共に用いることで実現される。
【0084】
NVセンターにより実現される量子システムの場合、NVセンター間の相互作用は、これらを光照射野(light field)に結合することにより伝送される。
【0085】
他の実施形態と組み合わせ可能な実施形態によれば、複数のキュービットは、2次元格子に沿って配置される。短距離ハミルトニアンは、2次元格子のプラケットに対応する4つのキュービットのグループ間での相互作用を伴う。実施形態によれば、短距離ハミルトニアンはプラケットハミルトニアンであってもよい。
【0086】
他の実施形態と組み合わせ可能ないくつかの実施形態によれば、短距離ハミルトニアンはd体ハミルトニアンである。dは2、3、4、5、6、7又は8である。d体ハミルトニアンは、複数のキュービットの相互作用を表すハミルトニアンであってもよい。この場合、d+1以上のキュービットからなるグループ間での共同相互作用(joint interactions)は生じない。d体ハミルトニアンは、d以下のキュービットからなるグループ間での相互作用を伴ってもよい。d体ハミルトニアンは、複数の被加数ハミルトニアンの総和であってもよい。この場合、各被加数ハミルトニアンは、d以下のキュービットからなるグループ間での共同相互作用を表す。
【0087】
例えば、単体ハミルトニアンは、d=1であるd体ハミルトニアンと考えることができる。更なる例として、最近接対ハミルトニアンは、d=2であるd体ハミルトニアンと見なされてもよい。更なる例として、プラケットハミルトニアンは、d=4であるd体ハミルトニアンと見なされてもよい。他の実施形態と組み合わせ可能な実施形態によれば、短距離ハミルトニアンは、d=4であるd体ハミルトニアンであってもよい。dの値は格子の形状に依存してもよい。例えば、六方格子の場合、プラケットは6つのキュービットを伴い、プラケットハミルトニアンは6体ハミルトニアンとなり得る。
【0088】
d=4等の小さな値のdを有するd体ハミルトニアンである短距離ハミルトニアンを有することは有利である。より大きな値のdを有するd体ハミルトニアンに比べて、対応するキュービット間の相互作用をより容易に設計できるからである。
【0089】
計算問題のサイズは、計算問題を特定するのに必要とされる古典的情報単位の数の大きさであってもよい。計算問題のサイズは、計算問題の入力変数の数に依存してもよい。計算問題のサイズは、入力変数の数が増えるに従い増加してもよい。計算問題のサイズは、入力変数の数と等しくてもよい。例えば、巡回セールスマン問題の場合、前記サイズは、第1リスト及び第2リストの長さの総和である。更なる例として、イジングスピンモデル問題の場合、前記サイズは、スピンS
iの数nである。
【0090】
第1のサイズを有する第1の計算問題の場合、対応する最終ハミルトニアンは、第1の問題ハミルトニアン及び第1の短距離ハミルトニアンの総和であってもよい。第2のサイズを有する第2の計算問題の場合、対応する最終ハミルトニアンは、第2の問題ハミルトニアン及び第2の短距離ハミルトニアンの総和であってもよい。第2のサイズが第1のサイズと同じである場合、第2の短距離ハミルトニアンは第1の短距離ハミルトニアンと同じであってもよい。第2のサイズが第1のサイズと異なる場合、第2の短距離ハミルトニアンは第1の短距離ハミルトニアンと異なってもよい。例えば、イジングスピンモデルに関し、第1の計算問題は、結合係数及びフィールド係数の第1セットを有するNスピンに対する第1のイジングスピンモデル問題であり、第2の計算問題は、第1セットの結合係数及びフィールド係数とは異なる結合係数とフィールド係数の第2セットを有するNスピンに対する第2のイジングスピンモデル問題である。この場合、第1及び第2の双方のイジングスピンモデル問題が、数Nに等しいと考えられる。実施形態によれば、第1のイジングスピンモデル問題の短距離ハミルトニアンは、第2のイジングスピンモデル問題の短距離ハミルトニアンと同じである。
【0091】
他の実施形態と組み合わせ可能な実施形態によれば、短距離ハミルトニアンは、d体ハミルトニアンであってもよい。この場合、dは計算問題から独立していてもよい。更に、相互作用遮断距離は、計算問題から独立していてもよい。他の実施形態と組み合わせ可能な実施形態によれば、短距離ハミルトニアンは、計算問題から独立していてもよい。
【0092】
実施形態によれば、前記方法は、量子システムを初期量子状態から最終ハミルトニアンの基底状態に向けて進行させるステップを含む。最終ハミルトニアンの基底状態は、最終ハミルトニアンに対しエネルギーを最小化する量子システムの量子状態である。最終ハミルトニアンの基底状態は、最終ハミルトニアンの固有状態であり、特に最小固有値を有する固有状態である。計算問題は問題ハミルトニアンにおいてコード化されるため、且つ、最終ハミルトニアンは問題ハミルトニアン及び短距離ハミルトニアンの総和であるため、最終ハミルトニアンの基底状態は、計算問題の情報を含み、及び/又は計算問題の解をコード化することができる。
【0093】
最終ハミルトニアンの基底状態は、零度での量子システムの状態であってもよい。特定の理論に縛られることなく量子物理学分野の考え方に従えば、量子システムが絶対零度に達することは不可能であると考えられる。それでもやはり、量子システムを動作温度T
maxに冷却する等、初期量子状態から最終ハミルトニアンの基底状態に向けて進行させるステップは、最終ハミルトニアンの基底状態に近づくことを可能にする。動作温度T
maxは、量子システムに使用されるキュービットの種類に強く依存する。例えば、超電導キュービットの場合、T
maxは50mK以下であり、好ましくは1mK以下であってもよい。最終ハミルトニアンの基底状態に近づけるため、量子システムを初期量子状態から最終量子状態に進行させてもよい。最終量子状態は、動作温度T
max又はより低温度にある量子システムの状態であってもよい。すなわち、最終量子状態は、動作温度又はより低温度にある最終ハミルトニアンの熱状態であってもよい。したがって、最終量子状態は、最終ハミルトニアンの基底状態を近似する。最終量子状態は、最終ハミルトニアンの基底状態に関する情報を含んでいてもよい。最終量子状態は、計算問題の解に関する情報を含んでいてもよい。
【0094】
量子システムは、冷却ユニット等により動作温度T
max又はより低温度に冷却されてもよい。動作温度は、零度でない温度であってもよい。
【0095】
他の実施形態と組み合わせ可能な実施形態によれば、前記方法は、量子システムを初期ハミルトニアンの基底状態に向けて冷却することにより、量子システムを初期量子状態に初期化するステップを含む。初期ハミルトニアンの基底状態は、初期ハミルトニアンに対するエネルギーを最小化する量子システムの量子状態である。初期ハミルトニアンの基底状態は、初期ハミルトニアンの固有状態であり、特に最小固有値を有する固有状態である。初期ハミルトニアンの基底状態は、零度での量子システムの状態である。初期ハミルトニアンの基底状態に向けて量子システムを冷却することで、初期ハミルトニアンの基底状態に近づくことが可能になる。初期量子状態は、初期ハミルトニアンの基底状態を近似する。
【0096】
初期ハミルトニアンは、計算問題から独立していてもよい。初期ハミルトニアンは、dが1、2、3又は4のd体ハミルトニアンであってもよい。初期ハミルトニアンは、単体ハミルトニアンであってもよい。単体ハミルトニアンである初期ハミルトニアンを有することで、超電導キュービットの量子システム等、初期ハミルトニアンを実現するための単純なセットアップが可能になる。
【0097】
初期ハミルトニアンは、式H
init=Σ
ka
kσ
x(k)を有する単体ハミルトニアンであってもよい。a
kは複数のキュービットのk番目のキュービットの係数であり、σ
x(k)はk番目のキュービットに作用するパウリ演算子であってもよい。特に、σ
x(k)は、第2の空間方向に対応するパウリ演算子であってもよい。第2の空間方向は、第1の空間方向に対して直交していてもよい。パウリ演算子σ
x(k)及びパウリ演算子σ
z(k)は、非可換、特に反可換の演算子であってもよい。実施形態によれば、各係数a
kは単一の共通の係数hに等しい。初期ハミルトニアンは、式H
init=hΣ
kσ
x(k)を有する単体ハミルトニアンであってもよい。
【0098】
超電導キュービットの場合、超電導キュービットの1次超伝導ループを通過する磁束バイアスは、基本状態の|0>及び|1>が同じエネルギーを有するように、つまり、これらの基本状態のエネルギーの差異が零になるように、設定されてもよい。更に、2次超伝導ループを通過する磁束バイアスは、基本状態の|0>及び|1>を結合可能である。したがって、超電導キュービットに対して、式hσ
x(k)の被加数ハミルトニアンが実現可能である。したがって、複数の超電導キュービットに対して、式H
init=hΣ
kσ
x(k)の初期ハミルトニアンが実現可能である。初期ハミルトニアンの基底状態は、係数hを量子システムの温度で決定されるエネルギー尺度よりも大きな値に設定することにより、ほぼ確実なものにすることができる。
【0099】
トラップイオンで実現される量子システムの場合、イオンはレーザを用いた光ポンピングにより初期化できるので、イオンはキュービットの2つの量子基本状態のうちの1つに確実に移動する。これによりエントロピーが減少し、内部状態が冷却される。
【0100】
低温原子で実現される量子システムの場合、初期量子状態は、大きな離調で基底状態にある原子をリュードベリ状態に励起することにより準備されてもよい。
【0101】
NVセンターで実現される量子システムの場合、NVセンターは、標準共焦点光学顕微鏡技術(standard optical confocal microscopy technics)を用いて個別に対処してもよい。初期化及び測定は、非共鳴又は共鳴光学励起により実行される。
【0102】
実施形態によれば、量子システムは、初期量子状態から最終ハミルトニアンの基底状態に向けて進行する。実施形態によれば、量子システムを進行させるステップは、量子アニーリングを実行するステップを含む。量子アニーリングは、プログラム可能な量子アニーリングユニットにより実行される。
【0103】
量子アニーリングを実行するステップは、量子システムの初期ハミルトニアンから最終ハミルトニアンに移行するステップを含んでもよい。量子アニーリングを実行するステップは、補間ハミルトニアンを経由して初期ハミルトニアンから最終ハミルトニアンに移行するステップを含んでもよい。補間ハミルトニアンは、時間依存性のハミルトニアンであってもよい。補間ハミルトニアンは、初期ハミルトニアン及び最終ハミルトニアンの間を補間するために、1つ以上の補間パラメータを有してもよい。例えば、補間ハミルトニアンは、式H(t)=A(t)H
init+B(t)H
finalを有してもよい。H
initは初期ハミルトニアンであり、H
finalは最終ハミルトニアンであり、tは時間パラメータであり、A(t)及びB(t)は時間パラメータtに依存する補間係数であってもよい。
【0104】
量子アニーリングを実行するステップは、初期時間での初期ハミルトニアンから最終時間での最終ハミルトニアンに移行するステップを含んでもよい。初期時間では、補間ハミルトニアンの1つ以上の補間パラメータがそれぞれ1つ以上の初期値に設定されてもよい。初期時間では、補間ハミルトニアンは初期ハミルトニアンに等しくてもよい。例えば、補間ハミルトニアンが式H(t)=A(t)H
init+B(t)H
finalを有する実施形態では、補間パラメータA(t)は初期時間での初期値1に設定され、補間パラメータB(t)は、初期時間での初期値0に設定されてもよい。したがって、補間ハミルトニアンは初期時間でのH
initに等しい。
【0105】
量子アニーリングを実行するステップは、初期ハミルトニアンから最終ハミルトニアンに徐々に移行するステップを含む。量子アニーリングを実行するステップは、補間ハミルトニアンの1つ以上の補間パラメータを徐々に変化させるステップを含む。初期時間及び最終時間の間にある中間時間では、補間ハミルトニアンは、初期ハミルトニアン及び/又は最終ハミルトニアンと異なる。補間ハミルトニアンの補間パラメータは、初期時間等の初期値から最終時間等の最終値に徐々に変化してよい。最終時間では、補間ハミルトニアンは最終ハミルトニアンに等しい。例えば、補間ハミルトニアンが式H(t)=A(t)H
init+B(t)H
finalを有する実施形態の場合、補間パラメータA(t)は、初期時間での初期値1から最終時間での最終値0に徐々に変化してよい。同様に、補間パラメータB(t)は、初期時間での初期値0から最終時間での最終値1に徐々に変化してよい。したがって、補間ハミルトニアンH(t)は、最終時間での最終ハミルトニアンに等しい。
【0106】
他の実施形態と組み合わせ可能な実施形態によれば、量子システムは、量子アニーリングを実行している間、50mK以下、特に1mK以下の動作温度に維持される。
【0107】
他の実施形態と組み合わせ可能な実施形態によれば、初期ハミルトニアンから最終ハミルトニアンへ量子アニーリングを実行するステップは、初期ハミルトニアンを最終ハミルトニアンへ断熱的に移行させるステップを含む。
【0108】
式hΣ
kσ
x(k)の初期ハミルトニアン、式Σ
kJ
kσ
z(k)の問題ハミルトニアン、及びプラケットに対応する被加数ハミルトニアンC
lを用いた式CΣ
lC
lの短距離ハミルトニアンを有する複数の超電導キュービットを含む量子システムの場合、量子アニーリングは以下のように実行される。C=J
k=0である初期化の後、係数aをa=0になるまで徐々に下げる間、C及びJ
kを徐々に大きくする。
【0109】
量子アニーリングを伴う実施形態に代えて、又はこれに付け加えて、最終ハミルトニアンの初期量子状態から基底状態に向けて量子システムを移行させるステップは、量子システムを初期量子状態から最終量子状態に冷却するステップを含む。初期量子状態は、初期温度での量子システムの状態であってもよい。最終量子状態は、最終温度での量子システムの状態であってもよい。最終温度は初期温度よりも低い。初期温度での初期量子状態から最終温度での最終量子状態に量子システムを冷却するステップは、初期温度から最終温度へ温度を下げる、例えば徐々に下げることを含んでもよい。他の実施形態と組み合わせ可能な実施形態によれば、最終温度は50mK以下、特に1mK以下であってもよい。他の実施形態と組み合わせ可能な実施形態によれば、初期温度は室温以下、特に200ケルビン以下であってもよい。
【0110】
実施形態によれば、前記方法は、複数のキュービットの少なくとも一部分を測定することで最終量子状態の読み出しを取得するステップを含む。いくつかの実施形態によれば、複数のキュービットの一部分が測定され、複数のキュービットの全てが測定されるわけではない。複数のキュービットの一部分は、複数のキュービットの70%以下であってもよく、具体的には60%以下、より具体的には50%以下であってもよい。いくつかの実施形態によれば、複数のキュービットの総数をNとすると、一部分に含まれるキュービットの数は√Nとなる。
【0111】
複数のキュービットの少なくとも一部分を測定するステップは、その少なくとも一部分における各キュービットを個別に測定するステップを含んでもよい。少なくとも一部分を測定するステップは、キュービットの少なくとも一部分における各キュービットに対するパウリ演算子σ
z等のパウリ演算子を測定するステップを含んでもよい。少なくとも一部分を測定するステップは、複数のキュービットの少なくとも一部分における各キュービットに対し2通りの成果測定(two-outcome measurement)を行うステップを含んでもよい。2通りの成果測定は、0又は1など、2通り生じ得る結果の1つを提供する。キュービットの少なくとも一部分は、測定装置により測定される。
【0112】
少なくとも一部分を測定するステップは、最終量子状態の読み出しを与える。読み出しは、複数の古典ビットで表される古典的な情報の式を有してもよい。読み出しは、最終量子状態及び/又は最終ハミルトニアンの基底状態に関する情報を明らかにできる。読み出しは、計算問題の試行解、実際の解、又は証拠変数のセット等、解に関する情報を提供できる。読み出しは、計算問題の解であってもよい。
【0113】
複数のN個の超電導キュービットを有する量子システムの場合、複数のキュービットにおけるキュービットの状態|0>及び|1>を、複数の超電動量子干渉装置、特にN個のヒステリシスDC超電動量子干渉装置、及び数が√Nであるバイアス線で制御されるN個のRF超電動量子干渉装置ラッチを有する測定装置を用いて、高精度に測定可能である。
【0114】
トラップイオンで実現される量子システムの場合、量子システムの測定を蛍光分光法により実行可能である。この場合、イオンが2つのスピン状態のうちの1つにあると、イオンは短い寿命で遷移する。その結果、駆動された状態のイオンは、他のイオンが暗いままいる間に、多くのフォトンを放出する。放出されたフォトンは、市販のCCDカメラで記録可能である。蛍光分光前の適切な単一キュービットパルス(single-qubit pulse)により、ブロッホ球の任意の方向の測定が可能である。
【0115】
低温原子で実現される量子システムの場合、キュービットは、基底状態の原子の選択的一掃(selective sweep)及び単一の位置分解能(single site resolution)での蛍光撮像を実行することで測定可能である。
【0116】
量子ドットで実現される量子システムの場合、キュービットは、高速断熱通過(rapid adiabatic passage)によるパルスシーケンスから読み出し可能である。
【0117】
実施形態によれば、前記方法は、読み出しから計算問題の解を決定するステップを含んでもよい。上記方法は、読み出しから解を計算するステップを含んでもよい。読み出しは、古典的計算システムに提供されてもよい。古典的計算システムは、その読み出しから計算問題の解を決定又は計算してもよい。
【0118】
計算問題は、コンピュータ科学の分野で考えられる複雑性クラスNPに関連してもよい。「NP」は、「非決定性多項式時間」の略称である。他の実施形態と組み合わせ可能な実施形態によれば、計算問題は複雑性クラスNPに属する。複雑性クラスNPは、決定問題を含む。口語的に言えば、複雑性クラスNPに属する計算問題の場合、計算問題の解が「イエス」だということを検証可能であることに基づく証拠変数のセットが存在する。NPの計算問題の場合、解が「イエス」であることの検証プロセスは、計算問題のサイズによって多項式的にのみ変化する実行時間を有する検証アルゴリズムによって実行可能である。換言すれば、証拠変数のセットは解に関する情報を含み、その情報は、解が「イエス」であることを検証するための検証アルゴリズムによって多項式実行時間で処理される。複雑性クラスNPの正式な定義に関しては、関連するコンピュータ科学の文献を参照して頂きたい。
【0119】
例えば、巡回セールスマン問題、3彩色問題及びイジングスピンモデル問題は、複雑性クラスNPの決定問題の例である。例えば、イジングスピンモデル問題を検討してみる。結合係数及びフィールド係数の所定のセット、及び定数Kについてのイジングスピンモデル問題の解が「イエス」である場合、イジングエネルギー関数H(s
1,s
2,・・・,s
n)に関連するスピン(s
1,s
2,・・・,s
n)がKよりも小さくなる形態は、証拠変数のセットと見なすことができる。証拠変数(s
1,s
2,・・・,s
n)が与えられると、エネルギーH(s
1,s
2,・・・,s
n)は、H(s
1,s
2,・・・,s
n)の数を計算しKと比較することにより、確かにKよりも小さいということが多項式時間で検証される。したがって、イジングスピンモデル問題は複雑性クラスNPに含まれる。
【0120】
検証アルゴリズムが多項式実行時間を有するのに対して、決定問題で「イエス」又は「ノー」である解を決定するタスクは、NPのいくつかの計算問題に対し多項式時間アルゴリズムを有していなくてもよく、指数関数的な実行時間を有しさえすればよい。複雑性クラスNPのいくつかの計算問題は、古典的計算システムではコンピュータ的に解決困難であると考えられる。「コンピュータ的に解決困難である」計算問題とは、計算問題の解が「イエス」であるか「ノー」であるかを決定するための多項式実行時間を有する古典的計算システムで実行されるアルゴリズムが存在しない計算問題である。具体的には、巡回セールスマン問題、3彩色問題及びイジングスピンモデル問題は、古典的計算システムでは解決困難であると考えられ、少なくともこれらの問題を多項式実行時間で解けるアルゴリズムは知られていない。
【0121】
他の実施形態と組み合わせ可能な実施形態によれば、量子システムを用いて解を計算できる計算問題は、NP完全問題又はNP困難問題である。NP完全問題は、クラスNPに属しており、古典的計算システムではコンピュータ的に解決困難であると考えられる。全てのNP困難問題がNPに属するわけではないが、NP困難問題もまた古典的計算システムではコンピュータ的に解決困難であると考えられる。
【0122】
NP完全問題のような複雑性クラスNPに属する計算問題についての実施形態によれば、測定の読み出しは計算問題の証拠変数のセット、又は少なくともこのセットの一部分を含んでもよい。
【0123】
他の実施形態と組み合わせ可能な実施形態によれば、問題コード化設定を決定するステップは、予備の計算問題に計算問題をマッピングするステップを含んでもよい。この場合、予備の計算問題は、長距離スピンモデルの基底状態を決定するステップを含む。予備の計算問題は計算問題に依存する。計算問題を予備の計算問題にマッピングするステップは、計算問題の入力パラメータを予備の計算問題の入力パラメータにマッピングするステップを含んでもよい。計算問題を予備の計算問題にマッピングするステップは、計算問題の解が予備の計算問題の解から決定されるものであってもよい。
【0124】
実施形態によれば、予備の計算問題は、イジングスピンモデル問題であってもよい。更なる実施形態によれば、計算問題は、例えば巡回セールスマン問題等の複雑性クラスNPの問題であってもよい。イジングスピンモデル問題はNP完全問題であるため、巡回セールスマン問題等の複雑性クラスNPの全ての問題がイジングスピンモデル問題にマッピングされてもよい。例えば、第1リスト及び第2リストを含む巡回セールスマン問題の場合、第1リスト及び第2リストがイジングスピンモデル問題の結合係数及びフィールド係数のセットにマッピングされてもよい。巡回セールスマン問題の解は、対応する結合係数及びフィールド係数を有するイジングスピンモデル問題の解から計算されてもよい。このようなマッピングは既知である。
【0125】
実施形態によれば、問題コード化設定を決定するステップは、イジングスピンモデル等の長距離スピンモデルから問題コード化設定を決定するステップを含んでもよい。
図9〜
図16を参照して、この決定を実行する具体的な方法について詳細に説明する。
【0126】
他の実施形態と組み合わせ可能な実施形態によれば、長距離スピンモデルは、mが1、2又は3のm体相互作用を有する長距離スピンモデルであってもよい。
【0127】
他の実施形態と組み合わせ可能な実施形態によれば、前記方法は、長距離スピンモデルのスピンの複数の閉ループから短距離ハミルトニアンを決定するステップを含んでもよい。
【0128】
更なる実施形態によれば、複数のキュービットを有する量子システムを用いて計算問題の解を計算する方法が提供される。
【0129】
前記方法は、計算問題を量子システムの問題ハミルトニアンにコード化するステップを含む。問題ハミルトニアンは、複数の調整可能なパラメータを含む単体ハミルトニアンである。上記のコード化するステップは、計算問題から、複数の調整可能なパラメータに対する問題コード化設定を決定するステップを含む。
【0130】
前記方法は、初期量子状態の量子システムを初期化するステップを更に含む。前記方法は、量子アニーリングを実行することにより、量子システムを初期量子状態から最終量子状態に移行させるステップを更に含む。量子アニーリングを実行するステップは、量子システムの初期ハミルトニアンから量子システムの最終ハミルトニアンに移行するステップを含む。最終ハミルトニアンは、問題ハミルトニアン及び短距離ハミルトニアンの総和である。この場合、問題ハミルトニアンの複数の調整可能なパラメータは問題コード化設定に存在し、短距離ハミルトニアンはd体ハミルトニアンであり、dは計算問題から独立している。
【0131】
前記方法は、複数のキュービットの少なくとも一部分を測定することで最終量子状態の読み出しを取得するステップを更に含む。
【0132】
前記方法は、読み出しから計算問題の解を決定するステップを更に含む。
【0133】
更なる実施形態によれば、
図1に示す装置400等のような計算問題の解を計算する装置が提供される。
【0134】
前記装置は、複数のキュービットを備えた量子システムを有する。
【0135】
前記装置は、
図1に示す冷却ユニット410等のような、量子システムをその基底状態に向けて冷却するのに適した冷却ユニットを更に有する。冷却ユニットは、初期量子状態の量子システムを初期化するために、量子システムを初期ハミルトニアンの基底状態に向けて冷却するように構成されてもよい。冷却ユニットは、量子システムが、前記装置に使用されるキュービットの種類に強く依存する動作温度に維持されるように構成されてもよい。例えば、超電導キュービットの場合、動作温度は50mK以下で、特に1mK以下である。
【0136】
前記装置は、
図1に示すプログラム可能な量子アニーリングユニット430等のような、量子アニーリングによって量子システムの初期ハミルトニアンを量子システムの最終ハミルトニアンに移行させるのに適したプログラム可能な量子アニーリングユニットを更に有する。最終ハミルトニアンは、問題ハミルトニアン及び短距離ハミルトニアンの総和である。
【0137】
冷却ユニットは、プログラム可能な量子アニーリングユニットにより、量子アニーリングを行っている間、量子システムを動作温度に維持するように構成されてもよい。
【0138】
前記装置は、
図1に示す測定装置440等のような、複数のキュービットの少なくとも一部分を測定するのに適した測定装置を更に有する。
【0139】
前記装置は、
図1に示す古典的計算システム450等のような、プログラム可能な量子アニーリングユニット及び測定装置に接続された古典的計算システムを更に有する。古典的計算システムは、計算問題を入力として受信するように構成されてもよい。古典的計算システムは、計算問題を問題ハミルトニアンにコード化するように更に構成されてもよい。この場合、コード化は、問題ハミルトニアンの複数の調整可能なパラメータに対する問題コード化設定を、計算問題から決定することを含んでもよい。古典的計算システムは、問題コード化設定を量子アニーリングユニットに伝達するように更に構成されてもよい。
【0140】
プログラム可能な量子アニーリングユニットは、古典的計算システムから問題コード化設定を受信するように構成されてもよい。プログラム可能な量子アニーリングユニットは、量子アニーリングによって、初期ハミルトニアンから最終ハミルトニアンに移行するように構成されてもよい。この場合、問題ハミルトニアンの複数の調整可能なパラメータは問題コード化設定に存在する。
【0141】
古典的計算システムは、測定装置から量子システムの読み出しを受信するように更に構成されてもよい。古典的計算システムは、読み出しから計算問題の解を決定するように更に構成されてもよい。
【0142】
更なる実施形態によれば、計算問題の解を計算するためのプログラム可能な量子アニーリング装置が提供される。プログラム可能な量子アニーリング装置は、2次元格子に沿って配置された複数の超電導キュービットを含む量子システムを有する。
【0143】
プログラム可能な量子アニーリング装置は、複数の調整可能な磁束を生成するように構成された複数の磁束バイアスユニットを含む磁束バイアスアセンブリを更に有する。各調整可能な磁束は、複数の超電導キュービットのうちの単一の超電導キュービットに作用する。
【0144】
プログラム可能な量子アニーリング装置は、プラケットハミルトニアンに従い複数の超電導キュービットを結合するように構成された少なくとも1つの超電導量子干渉装置を含む結合ユニットを更に有する。
【0145】
プログラム可能な量子アニーリング装置は、磁束バイアスユニット及び結合ユニットに接続された制御装置を更に有する。制御装置は、量子システムの問題ハミルトニアンの複数の調整可能なパラメータに対する問題コード化設定を受信するように構成される。この場合、問題ハミルトニアンは単体ハミルトニアンであり、問題コード化設定は計算問題をコード化する。制御装置はさらに、量子アニーリングにより量子システムの初期ハミルトニアンを量子システムの最終ハミルトニアンに展開するために、磁束バイアスアセンブリ及び結合ユニットを制御するよう構成される。最終ハミルトニアンは、プラケットハミルトニアン及び問題ハミルトニアンの合計である。その場合、問題ハミルトニアンの複数の調整可能なパラメータは、問題コード化設定に存在する。
【0146】
本明細書において、「プログラム可能な量子アニーリングユニット」は、「プログラム可能な量子アニーリング装置」の同意語として使用される。
【0147】
図9〜
図16を参照して、本開示事項の更なる側面について説明する。計算問題から問題ハミルトニアンへ、そして対応する最終ハミルトニアンへの具体的なコード化について説明する。すなわち、長距離相互作用を有するイジングスピンモデル問題から、単体の問題ハミルトニアン及びプラケットハミルトニアンの総和である最終量子ハミルトニアンへのコード化である。長距離相互作用を有する(古典的)イジングスピンモデル問題は、NP完全であり、その量子化は些細なものなので、ここでは古典的な量子イジングスピンとそうでないものとを区別しない。他の古典的計算問題をイジングスピンモデル問題へマッピングすることは公知である。したがって、最終量子ハミルトニアンの基底状態、又は低い動作温度での熱状態は、イジングスピンモデル問題の解、及び逆マッピングを実行することで多くの古典的でNP困難な計算問題の解に関する情報を含むことができる。最終量子ハミルトニアンへの具体的なマッピングは、イジングスピンモデル問題がdが2以下のd体相互作用のみを含む場合、2次元表面、特に2次元格子での量子処理装置(量子プロセッサ)の実現を可能にし、イジングスピンモデル問題がdが3以下のd体相互作用のみを含む場合、3次元空間、特に3次元格子での量子処理装置の実現を可能にする。マッピングは、d体相互作用および任意のdを有するイジングスピンモデル問題に拡大適用することができる。量子処理装置は、単体の問題ハミルトニアンを通じて完全にプログラム可能であり、拡張性のあるアーキテクチャである。
【0148】
最初に、dが2以下のd体相互作用のみを含むイジングスピンモデル問題について考える。具体的なコード化は、最大2体相互作用とこれに対応する結合係数c
ijを有する、n個のスピンに対するイジングスピンモデル問題から開始される。指数i及びjは1〜nの範囲で、jはiよりも小さい。この最初のケースでは、全てのフィールド係数c
iは零に等しい。
図9は、n=6のスピンに対するイジングスピンモデル問題を示す。図中、スピンには1〜6の符号が付されている。
図9においてスピン対を結ぶ線で示すように、スピン間にはn(n−1)/2=15対の対相互作用がある。例えば、線12はスピン1及び2の間の対相互作用を示す。15対の対相互作用は15個の結合係数c
ijに対応する。相互作用は長距離相互作用である。
【0149】
イジングスピンモデルにおける全てのスピン対に対し、対応する量子システムのキュービットが与えられる。例えば、
図9に示す15対の対相互作用を有する6つのスピンの場合、対応する量子システムは15個のキュービットを有する。イジングスピンモデルのスピンの設定は、対応するキュービットの設定にマッピングされる。この際、キュービットの設定は、スピンの相対的な方向に依存する。同じ方向を向く一対のスピン(平行配列)は、量子基本状態「|1>」のキュービットにマッピングされる。反対方向を向く一対のスピン(逆平行配列)は、量子基本状態「|0>」のキュービットにマッピングされる。このマッピングを
図10に示す。
図10で、符号0及び1はそれぞれ、量子基本状態の|0>及び|1>に対応する。
【0150】
結合係数c
ijは、計算問題(この場合は、イジングスピンモデル問題)をコード化する問題ハミルトニアンの複数の調整可能なパラメータJ
kにマッピングされる。問題ハミルトニアンは、式Σ
kJ
kσ
z(k)を有する。k=n
*i+jであり、kはM=n(n−1)/2である1〜Mの範囲である。イジングスピンモデル問題は、問題ハミルトニアンの調整可能なパラメータJ
kが、結合係数c
ijに対応するイジングスピンモデルのスピン間の相互作用を表すように、問題ハミルトニアンにマッピングされる。
【0151】
イジングスピンモデル問題を問題ハミルトニアンにコード化するのに必要なキュービットの数は、n個のスピンに対するイジングスピンモデル問題に比べて二次的に増大する。なぜなら、スピン間の2体相互作用の数がM=n(n−1)/2と等しいからである。いくつかの実施形態によれば、追加の自由度が考慮される。量子システムにおけるキュービットの総数は、M+n−2以上であってもよい。この場合、n−2個の追加の補助キュービット及び/又は追加の予備キュービットが後述の理由で追加される。したがって、キュービットの数はスピンの数nより大きい。具体的には、キュービットの数はスピンの数nにM−2の追加の自由度を付加した数でもよい。問題ハミルトニアンは、ローカル相互作用のみで、具体的には外部フィールドとの単体相互作用で、量子処理装置のプログラミングを可能にする。
【0152】
イジングスピンモデルに比べて、量子システムの増加した自由度は、M−n個の4体被加数ハミルトニアンC
lの総和である短距離ハミルトニアンにより相殺される。これを制約ハミルトニアンと称し、キュービットの一部分を固定するための制約を表す。短距離ハミルトニアンは式Σ
lC
lを有する。指数lの範囲は1〜(n
2−3n)/2であり、各被加数ハミルトニアンC
lは下記の式を有する制約ハミルトニアンである。
【数1】
【0153】
上記式を参照して、制約ハミルトニアンの2通りの可能な実行について考える。上記式の総和は、補助に基づく実行を表す。この総和は、キュービットが配置される2次元格子のプラケットの4つの要素(北、東、南、西)を実行する。さらに、各S
zlは量子システムに含まれる補助キュートリットに作用する演算子である。補助キュートリットには、3つの基本状態からなる基準があり、本実施形態では、|0>、|2>及び|4>と表す。短距離ハミルトニアンの2つ目の実行は、補助キュートリットを必要としない相互作用に基づく実行である。相互作用に基づく実行では、C
lは格子のプラケットを形成するキュービット間の4体相互作用である。さらに、上記式中、Cは一定の制約強度等の制約強度を表す。
【0154】
上述のように、問題ハミルトニアンでのイジングスピンモデルのコード化は、イジングスピンモデルのスピンの設定を量子システムのキュービットの設定にマッピングすることを伴う。この場合、キュービットの設定は、対応するスピンの設定のスピン対の相対的な方向に依存する。一貫性のあるマッピングを提供するために、後述のようなイジングスピンモデルにおける閉ループに関わる側面が検討される。イジングスピンモデルにおけるスピンの各閉ループで、逆平行配列を有するスピン対の数は偶数である。例えば、
図9を参照して、破線で示される連結部14、24、23及び13で形成された閉ループ等について考える。この閉ループは、スピン1、2、3及び4を含む。スピン1、2、3及び4のいずれの設定も零対、2対又は4対の逆平行スピンを含む。スピン1、2、3及び4のいずれの設定も1対又は3対の逆平行スピンを含まない。したがって、スピン1、2、3及び4の全ての設定は、偶数の逆平行スピンを有する。
【0155】
逆平行のスピン対が量子基本状態|0>にあるキュービットにマッピングされるため、イジングスピンモデルのスピンの閉ループに対応する量子システムのキュービットの全てのセットは、偶数個の量子基本状態|0>を有する。これにより、量子システムのキュービットの少なくとも一部分に対する制約のセットが提供される。例えば、
図9に関する上記の閉ループの場合、対応する4つのキュービットのグループを、イジングモデルのスピン対と量子システムのキュービット間の対応関係を考慮して、参照符号14、24、23及び13を付して
図11に示す。
図11に示すように、キュービット14、24、23及び13は、2次元格子120のプラケットに対応する。前述のような閉ループの制約を考慮すると、キュービット14、24、23及び13に対する量子基本状態のいずれの設定も、
図12に示すように、零、2つ又は4つのいずれかの量子基本状態|0>を含む。
【0156】
全ての閉ループに対応する制約が確実に満たされるには、適切な閉ループのサブセットに関連する制約を実行することで十分である。本実施形態によれば、最大4つのスピンからなるグループを含む閉ループの特定の構成要素(building blocks of closed loops)が、全ての制約が確実に満たされるのに十分であるため、イジングスピンモデルから量子システムへ一貫性のあるマッピングが提供される。前記構成要素は、4つの連結部によって連結された4つのスピンからなる閉ループを伴う。1つの連結部は指標距離(index distance)sを有し、2つの連結部は指標距離s+1を有し、もう1つの連結部は指標距離s+2を有する。sは1〜N−2の範囲であり、スピンs
i及びs
j間の「指標距離」は、|i−j|である。s=1の閉ループ構成要素のセットは、n−2個の制約を提供する。例えば、
図9に示すようにスピン1、2、3及び4の連結部14、24、23及び13を含む閉ループが、s=1の閉ループ構成要素である。
【0157】
更なる側面は、量子システムの境界に関する。いくつかの閉ループ構成要素は、4つの連結部で連結された4つのスピンではなく、3つの連結部で連結された3つのスピンからなるグループを伴う。この点に関し、例えば
図9を参照すれば、スピン1、2及び3の連結部12、23及び13を含む閉ループが考えられる。量子システムにおける対応するキュービットのグループは、2次元格子の3角形状のプラケットに沿って配置された3つのキュービット12、23及び13を含む。3つのスピンの閉ループに対応する制約を実行するために、3体制約ハミルトニアンC
lが、対応する3つのキュービットからなるグループに作用すると考えられる。或いは、
図11に破線の円で示すような、量子基本状態|1>で固定されたn−2個の予備キュービットの追加の列が量子システムに含まれていてもよい。例えばキュービット12、23及び13に対応する閉ループ等のように、3つのスピンの閉ループに対応する制約を実行するために、制約ハミルトニアンC
lが対応する3つのキュービットと、予備キュービットの1つ(すなわち、
図11に示す予備キュービット1101)に作用すると考えられる。したがって、制約ハミルトニアンC
lは、前述と同じ式を有する拡大された2次元格子のプラケットに作用する4体ハミルトニアンである。全ての制約ハミルトニアンが2次元格子のプラケットに対応する4体ハミルトニアンであるため、後者の実現には、全ての制約ハミルトニアンを同じ条件で処置できるという利点がある。
【0158】
制約ハミルトニアンC
lは、閉ループ構成要素に対応する制約、ひいては全ての閉ループに対応する制約が満たされることを確実にする。したがって、短距離ハミルトニアンは、イジングスピンモデルにおけるスピンの制約から量子システムに課される制約への一貫性のあるマッピングを提供する。
【0159】
読み出しを与えるために、
図11で示す一部分425等のようにキュービットの一部分を測定可能である。量子システムが最終ハミルトニアンの基底状態にある場合、一部分425のキュービットは、イジングスピンモデルの基底状態にあるスピンの設定に対応する量子基本状態の設定に存在する。量子システムが基底状態に近い最終ハミルトニアンの熱状態、つまり十分に低い温度にある場合、これが高確率に当てはまる。したがって、一部分425を測定することにより、少なくとも高確率でイジングスピンモデル問題の解を決定することが可能になる。量子システムが最終ハミルトニアンの基底状態にうまく近似された最終状態にある場合、一部分425を測定することで、試行解を計算できるイジングモデルの基底状態に関する情報が少なくとも提供される。そして、その試行解が実際の解であるかどうか、多項式時間の古典的計算で分析できる。もし試行解が実際の解でなければ、実際の解が見つかるまで計算を繰り返すことができる。
【0160】
実施形態の更なる利点として、イジングスピンモデルに関する情報は量子システムで冗長的にコード化されるため、計算問題の解が決定される読み出しを提供するためにキュービットの生じ得る様々なグループを測定可能である。
【0161】
上記の観点から、本実施形態に係る短距離ハミルトニアンの構造は、(i)制約がスピン間の全ての相互作用を網羅し、(ii)制約の数が(n
2−3n)/2で、(iii)短距離ハミルトニアンが、d体相互作用を有する単純な2次元形状で実現可能である。この場合、d=4であり、相互作用は2次元格子のプラケットに対応する。さらに、イジングスピンモデルに1つのスピンを追加することは量子システムにn個のスピンの一列を追加するのと同等であるため、本実施形態は拡張性のある実行を可能にする。
【0162】
図9〜
図12を参照して説明する実施形態は、n個のスピン間の対相互作用を伴うイジングスピンモデルに関する。この場合のフィールド係数は零である。零でないフィールド係数を有するイジングスピンモデルに対して同様のコード化が考えられる。+1の値に固定された追加のスピンs
n+1をイジングモデルに含めることができる。そして、零でないフィールド係数は、n個のスピンと追加のスピンs
n+1との間の結合係数として再定式化される。零でないフィールド係数を有するイジングスピンモデルは、フィールド係数が零のイジングスピンモデルにマッピングされる。したがって、上述の方法によって量子システムへのマッピングが適用される。追加スピンs
n+1を追加することは、量子システムに追加のn個のキュービットの一列を含めることを伴う。
【0163】
更に、3つのスピンからなるグループ間の相互作用を伴うイジングスピンモデルに対するコード化が考えられる。この場合、イジングエネルギー関数は下記の式を有していてもよい。
H(s
1,s
2,・・・,s
n)=Σ
ijkc
ijks
is
js
k
ここで、係数c
ijkは、スピンs
i、s
j及びs
k間の3体相互作用を表し、i>j>kである。このような3体イジングモデルを量子システムにマッピングするステップ、及び対応するイジングスピンモデル問題を量子システムの問題ハミルトニアンへコード化するステップを
図13〜
図16に示す。本実施形態では、量子システムのキュービットは、3体イジングモデルの3つのスピンの組に対応する。3体イジングモデルでは、R=n(n−1)(n−2)/6組の3つのスピンが存在する。したがって、キュービットの数はR以上である。この場合、前述の2体イジングスピンモデルのマッピングと同様に、補助キュービット及び/又は予備キュービット等の追加のキュービットが含まれてもよい。本実施形態では、
図16に示すように、複数のキュービットが3次元正方格子1601に沿って配置される。問題ハミルトニアンは、スピン間で最大2体相互作用を伴うイジングスピンモデルの場合と同様に、式Σ
kJ
kσ
z(k)を有してもよい。短距離ハミルトニアンは、式Σ
lC
lを有していてもよい。この場合、制約ハミルトニアンC
lは3次元正方格子のプラケットに対応する。制約ハミルトニアンの数は、2(R−n)個であってもよい。3体制約ハミルトニアンを伴う、及び/又は、補助キュービット及び/又は予備キュービットの含有を伴う量子システムの境界に関する同様の考えが本実施形態にも当てはまる。
【0164】
実施形態の更なる利点は、量子システムにおける誤差の防止及び/又は訂正である。例えば、4つのキュービットを有する小型の量子システムでは、J=max(|c
ij|)であるCが1.5Jよりも大きい場合、特にCが約1.5Jである場合、静誤差が減少し、零になることもある。一般的に、Cが(n−2)max(|c
ij|)よりも大きい場合、静誤差は減少、又はゼロになり得る。上記のnはイジングスピンモデルのスピンの数を表す。更に、量子システムにおけるキュービットの数Nは、例えばNがn(n−1)/2以上の場合のように、イジングスピンモデルにおけるスピンの数よりも大きくなる。したがって、イジングスピンモデルに関する情報は、量子システムにおいて冗長的にコード化される。この冗長さによって、デコヒーレンスによる誤差に対し、低感度の誤差訂正測定の実行が可能になる。トポロジカル量子メモリの誤差訂正スキームと同様に、キュービットの多様な生じ得る組み合わせを測定することで、量子システムのデコヒーレンスを検知して訂正することが可能になる。
図17は、量子システムにおける誤差の防止及び/又は訂正に関する実施形態の利点を示す。
図17では、軸1701はスピンの数nに関する。軸1702は誤差の大きさに関する。更に、曲線1710、1720及び1730はそれぞれ、誤差の変動、情報損失、及びスピンの反転の数を示す。挿入図の軸1703はスピンの数に関し、軸1703は読み出しの数に関する。
【0165】
更なる実施形態によれば、量子処理ユニット[QPU]が提供される。量子処理ユニットは、計算問題の解を計算する装置の中央処理装置として作動するのに適している。量子処理ユニット[QPU]は、量子システムを有する。量子システム[QS]は、複数のキュービットを有する。量子処理ユニットは、実施形態に係る方法を実行するのに適している。
【0166】
量子処理ユニットは、初期時間t=t
0での初期ハミルトニアンH
initを統合するのに適していてもよい。量子処理ユニットは、最終時間t=t
finでの最終ハミルトニアンH
finalを統合するのに更に適していてもよい。ここで、「ハミルトニアンを統合する」とは、本発明の量子計算機能に関連する量子システム[QS]の量子状態が、量子物理学の枠組みに従った各ハミルトニアンで主に決定されることを意味する。つまり、前記ハミルトニアンによって量子システム[QS]の量子計算特性が十分に判定され、量子システム[QS]の実際のハミルトニアンで考えられる更なる数式の項は、本発明の機能的な原理に関して無視できるほどである。
【0167】
最終ハミルトニアンH
finalは、問題ハミルトニアンH
prob及び短距離ハミルトニアンH
SRの総和、つまり、H
final=H
prob+H
SRであってもよい。この場合、問題ハミルトニアンH
probは、複数の調整可能なパラメータJ
kを有する、つまりはその関数である単体ハミルトニアンであってもよい。調整可能なパラメータJ
kは、計算問題のコード化に適した方法で個別に調整可能であってもよい。
【0168】
短距離ハミルトニアンH
SRは、dが2以上のd体ハミルトニアンであってもよく、dは計算問題から独立していてもよい。この場合、「短距離ハミルトニアン」という語句は、複数のキュービットの相互作用を表すハミルトニアンを意味してもよい。この場合、相互作用遮断距離L
cutよりも長い距離で互いに離れたキュービット間で相互作用は生じない。「d体ハミルトニアン」という語句は、複数のキュービットの相互作用を表すハミルトニアンを意味してもよい。この場合、d+1個以上のキュービットからなるグループ間で共有の相互作用(joint interactions)は生じない。
【0169】
量子処理ユニット[QPU]は、時間t=t
fin後の、量子システム[QS]の複数のキュービットの少なくとも一部分の量子状態を測定するのに適していてもよい。
【0170】
量子処理ユニット[QPU]は、式H(t)=A(t)・H
0+B(t)・H
prob+C(t)・H
SRの補間ハミルトニアンH(t)を統合するのに適していてもよい。式中、A(t)、B(t)及びC(t)は時間パラメータtに依存する補間係数であり、H
0は所望の計算プロセスに対し量子システムを初期化するのに適した初期化ハミルトニアンである。この場合、A(t)、B(t)及びC(t)は、H(t
0)=H
init=H
0+C(t
0)・H
SR及びH(t
fin)=H
fin=H
prob+H
SRとなるように、A(t
0)=1、A(t
fin)=0、B(t
0)=0、B(t
fin)=1、C(t
fin)=1の条件を満たす。C(t
0)は任意であり、0又は1であってもよい。
【0171】
複数のキュービットにおけるキュービットは、2次元格子又は3次元格子に沿って配置されてもよい。
【0172】
複数のキュービットにおけるキュービットは、各格子のプラケットの角に位置していてもよく、「プラケット」という語句は各格子のメッシュを意味してもよい。
【0173】
問題ハミルトニアンは、式H
prob=Σ
k[J
k・σ
z(k)]を有してもよい。式中、σ
z(k)は第1空間方向z(r
k)に関連し、複数のキュービットのk番目のキュービットに作用するパウリ演算子であってもよい。zは前記第1空間方向の方向ベクトルを意味してもよく、r
kはk番目のキュービットの位置ベクトルを示す。
【0174】
初期化ハミルトニアンH
0は、所望の計算プロセスに対し量子システムを初期化するのに適し、且つ好ましくはそれを容易に実施できる式を有してもよい。例えば、初期化ハミルトニアンは、式H
0=hΣ
k[σ
x(k)]を有してもよい。式中、hは係数で、σ
x(k)は第2空間方向x(r
k)に関連し、複数のキュービットのk番目のキュービットに作用するパウリ演算子で、xは前記第2空間方向の方向ベクトルを示し、r
kはk番目のキュービットの位置ベクトルを示す。この場合、z(r
k)及びx(r
k)は互いに直交していることが好ましく、パウリ演算子σ
z(k)及びσ
x(k)は非可換の演算子、特に反可換の演算子であることが好ましい。
【0175】
短距離ハミルトニアンH
SRは、式H
SR=H
P:=Σ
l[C
l(σ
z(l,1),・・・,σ
z(l,m),・・・,σ
z(l,M[l]))]を有するプラケットハミルトニアンH
Pであってもよい。式中、lはl番目のプラケットの数を示し、(l,1)はl番目のプラケットの第1の角に位置するキュービットを示し、(l,m)はl番目のプラケットのm番目の角に位置するキュービットを示し、(l,M[l])はl番目のプラケットの最後(つまり、M[l]番目)の角に位置するキュービットを示す。式中、σ
z(l,m)は各キュービットのパウリ演算子を示し、各M[l]体被加数C
l(σ
z(l,1),・・・,σ
z(l,m),・・・,σ
z(l,M[l]))はプラケットハミルトニアンH
Pへのl番目のプラケットの寄与度を示す。
【0176】
短距離ハミルトニアンH
SRは、各キュービット−格子のプラケットを形成するキュービットのグループのみが被加数をH
SR=H
Pに寄与させるような方法で実行されてもよい。そして、例えば、三角形のプラケットのみからなるキュービット−格子の場合、H
SR=H
Pはd=M=3であるd体ハミルトニアンであり、三角形及び四角形のプラケットからなるキュービット−格子の場合、H
Pは3体及び4体の被加数からなるハミルトニアンであり、したがってそれは4体ハミルトニアンである。
【0177】
量子処理ユニット[QPU]は、量子システムの所望の特徴、特に短距離ハミルトニアンH
SR及びプラケットハミルトニアンのそれぞれの所望の特徴を実行するのに適した追加のキュービット及び/又はキュートリット及び/又はq段階量子システム及び/又は更なる構成要素及び装置を含んでもよい。
【0178】
キュービットが配置される格子は、実質的に平面的な2次元格子、又は実質的に互いに平行で3次元的に積み重ねられた実質的に平面的な2次元副格子からなる3次元格子であってもよい。
【0179】
キュービットは、それぞれ2次元格子の実質的に三角形の部分に配置されてもよいし、各2次元副格子の基本的に三角形の部分に配置されてもよい。
【0180】
各キュービットの配置により形成された複数のプラケットは、(多数の)四角形のプラケットのセット、及び(少数の)三角形のプラケットのセットから構成されてもよい。或いは又は更に、各キュービットの配置により形成された複数のプラケットは、例えば、全てのプラケットを四角形にするために量子システムに更なるキュービットを追加することにより、四角形のプラケットのみから構成されてもよい。
【0181】
プラケットハミルトニアンH
P=Σ
l[C
l]の被加数C
lは、下記2つの式のうちの1つであってもよい。
【数2】
【0182】
量子システムのキュービットの空間的配置、及び/又は問題ハミルトニアンH
probの係数J
kを量子システムのキュービットの空間的座標へ割り当てること、及び/又は短距離ハミルトニアンの実行、及び/又は読み出しを提供するために測定されるキュービットの一部分の有利な決定は、公知の2体量子相互作用モデル、又は公知の3体量子相互作用モデル(例えば、2体又は3体の全対全イジングスピンモデル等)を量子システム[QS]にマッピングするステップに従い実行可能である。特に、前記のマッピングから推論できる制約(例えば、閉ループの制約等)に従い実行可能である。
【0183】
量子処理ユニットは、量子システム[QS]をH
init:=H(t
0)の基底状態に向けて冷却するのに適していてもよい。
【0184】
量子処理ユニットは、量子システム[QS]をH
fin:=H(t
fin)の基底状態に向けて冷却するのに適していてもよい。
【0185】
量子処理ユニットは、t=t
0とt=t
finの間の任意の時間において又は全ての時間において、量子システム[QS]をH(t)の基底状態に向けて冷却するのに適していてもよい。
【0186】
量子処理ユニットは、補間ハミルトニアンH(t)をH
initからH
finに徐々に移行させる、特にその移行を断熱的量子アニーリングプロトコルに従い実行するのに適していてもよい。
【0187】
量子処理ユニットは、2次元格子に沿って配置された複数の超電導キュービットを有してもよい。
【0188】
量子処理ユニットは、複数の調整可能な磁束を生成するように構成された複数の磁束バイアスユニットを含む磁束バイアスアセンブリを有してもよい。この場合、各調整可能な磁束は複数の超電導キュービットのうちの単一の超電導キュービットに作用する。
【0189】
量子処理ユニットは、プラケットハミルトニアンH
Pに従い複数の超電導キュービットを結合するように構成された少なくとも1つの超電導量子干渉装置を含む結合ユニットを有してもよい。
【0190】
量子処理ユニットは、磁束バイアスユニット及び結合ユニットに接続された制御装置を有してもよい。
【0191】
制御装置は、量子システムの問題ハミルトニアンH
Pの複数の調整可能なパラメータに対して問題コード化設定を受信するように構成されてもよい。この場合、問題ハミルトニアンは単体ハミルトニアンであり、問題コード化設定は計算問題をコード化する。
【0192】
制御装置は、磁束バイアスアセンブリ及び結合ユニットを制御して、量子アニーリングによって量子システムの初期ハミルトニアンH
initを量子システムの最終ハミルトニアンH
finに移行させるように構成されてもよい。この場合、最終ハミルトニアンH
finは、プラケットハミルトニアンH
P及び問題ハミルトニアンH
probの総和であり、問題ハミルトニアンH
probの複数の調整可能なパラメータJ
kは問題コード化設定に存在する。
【0193】
実施形態によれば、前記装置は、実施形態に係る方法を実施するのに適している。
【0194】
更なる実施形態によれば、量子処理装置が提供される。量子処理装置は、計算問題の解を計算するように構成されていてもよい。量子処理装置は、量子処理ユニット(QPU)を有する。量子処理ユニットは、キュービットのプラケットを有する。プラケットは、2次元又は3次元格子の基本セルであってもよい。プラケットは、最大4つ又は最大3つのキュービットを含んでもよい。量子処理ユニットは、キュービット及び1つ以上の補助キュービット(例えば、特定の量子状態で準備された1つの補助キュービット等)を含むプラケットを有してもよい。キュービット又は場合によってはキュービット及び補助キュービットは、プラケットの角に配置されてもよい。量子処理装置は、プラケットのいくつか又は全てに配置された補助キュートリット等の補助q段階システムを有してもよい。補助q段階システムは、プラケットのキュービット間又はキュービット及び補助キュービット間の相互作用を仲介してもよい。プラケットは、正方格子又はその一部を成すように配置されてもよい。特に、プラケットは、正方格子の三角形部分を成すように配置されてもよい。
【0195】
量子処理装置は、単一のキュービット又は補助キュービットと相互作用するユニットを有する第1装置、及びプラケットのキュービット又はプラケットのキュービット及び補助キュービットと相互作用するユニットを有する第2装置を更に有してもよい。第1装置は、プラケットのキュービット又はプラケットのキュービット及び補助キュービットに単体ハミルトニアンを実行するように構成されてもよい。第2装置は、プラケットのキュービット又はプラケットのキュービット及び補助キュービットにプラケットハミルトニアンを実行するように構成されてもよい。
【0196】
いくつかの実施形態によれば、キュービットは超電導キュービットである。補助キュービットが存在するのであれば、補助キュービットも超電導キュービットであってもよい。プラケットは、2次元正方格子又はその一部を形成するように、特にその三角形部分を形成するように配置される。量子処理ユニットは、複数の調整可能な磁束を生成するように構成された複数の磁束バイアスユニットを備えた磁束バイアスアセンブリを有する。この場合、各調整可能な磁束は、プラケットの単一の超電導キュービットに作用する。磁束バイアスアセンブリは、2次元又は3次元格子のプラケットの超電導キュービット又は超電導キュービット及び超電導補助キュービットに単体ハミルトニアンを実行するように構成されてもよい。量子処理ユニットは、超電導量子干渉装置を有する。この場合、各超電導量子干渉装置はプラケットの超電導キュービット又はプラケットの超電導キュービット及び超電導補助キュービットを結合する。量子干渉装置は、プラケットの超電導キュービット又はプラケットの超電導キュービット及び超電導補助キュービットの制御された相互作用を提供する。量子干渉装置は、2次元又は3次元格子のプラケットにプラケットハミルトニアンを実行するように構成された量子結合ユニットの構成要素であってもよい。
【0197】
量子処理ユニット(QPU)は、計算問題の解を計算する方法を実行するように構成されてもよい。量子処理装置は、冷却ユニット、古典的計算装置、及び制御装置等の構成要素を有してもよい。例えば、制御装置は、磁束バイアスユニット及び結合ユニットに接続されてもよく、(i)量子システムの問題ハミルトニアンの複数の調整可能なパラメータに対する問題コード化設定を受信するように構成されてもよい。この場合、問題ハミルトニアンは単体ハミルトニアンであり、問題コード化設定は計算問題をコード化する。そして、(ii)量子アニーリングによって量子システムの初期ハミルトニアンを量子システムの最終ハミルトニアンに移行させるために磁束バイアスアセンブリ及び結合ユニットを制御するように構成されてもよい。この場合、最終ハミルトニアンはプラケットハミルトニアン及び問題ハミルトニアンの総和であり、問題ハミルトニアンの複数の調整可能なパラメータは問題コード化設定に存在する。
【0198】
実施形態は、キュービット(つまり、2段階量子ビット)のみでなく、キュートリットやqが任意であるq段階量子システムで実現されてもよい。超電導キュービット、トラップイオン、量子ドット、及びNVセンター等を用いて量子システムが実現される別の態様は、2つ以上の状態を考慮することによって、q段階システム、特にキュートリットシステムに拡張可能である。q段階システムの操作及び読み出し、及びこれらの相互作用は、上述の実施形態を拡張させることにより実現できる。
【0199】
上述の内容は本発明のいくつかの実施形態を対象にしているが、それ以外の更なる実施形態についても、特許請求の範囲によって決まる範囲から逸脱することなく創出されてもよい。