特許第6656337号(P6656337)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6656337-酢酸吸着フィルム 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6656337
(24)【登録日】2020年2月6日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】酢酸吸着フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20200220BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20200220BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20200220BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20200220BHJP
   B65D 30/02 20060101ALI20200220BHJP
   B65D 77/04 20060101ALI20200220BHJP
   B65D 81/26 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
   C08L23/08
   C08K3/10
   C08K3/36
   C08J5/18CES
   B65D30/02
   B65D77/04 E
   B65D81/26 K
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-202075(P2018-202075)
(22)【出願日】2018年10月26日
(62)【分割の表示】特願2014-77934(P2014-77934)の分割
【原出願日】2014年4月4日
(65)【公開番号】特開2019-59938(P2019-59938A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2018年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼田 晶子
(72)【発明者】
【氏名】池田 雅史
【審査官】 今井 督
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−19180(JP,A)
【文献】 特開平06−313071(JP,A)
【文献】 特開平05−163390(JP,A)
【文献】 特開昭61−98703(JP,A)
【文献】 特表2001−505951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00− 23/36
C08K 3/00− 13/08
C08J 5/00− 5/24
B65D 30/00− 30/28
B65D 77/00− 77/40
B65D 81/00− 81/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体を含むバインダー、及び前記バインダーに分散している酢酸吸着剤を含有する、酢酸吸着フィルムであって、
前記バインダー100質量部に対して、前記酢酸吸着剤を5質量部以上100質量部以下で含み
前記酢酸吸着剤が、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、酸化アルミニウム、生石灰、シリカゲル及びこれらの組み合わせからなる群より選択され、かつ
前記バインダー100質量部のうち、70質量部以上がエチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体であり、かつ10質量部以上がエチレン−α−オレフィン共重合体、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン又はこれらの混合物である、
酢酸吸着フィルム。
【請求項2】
前記酢酸吸着剤が、酢酸を化学的に吸着する無機吸着剤である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記酢酸吸着剤が、酸化マグネシウムを含む、請求項2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記エチレン−α−オレフィン共重合体の密度が、0.910g/cm未満である、請求項1〜のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載のフィルムを含む、包装袋。
【請求項6】
過酢酸入りのボトルを、酢酸吸着フィルムと共に袋に収納している、過酢酸ボトル収容袋であって、
前記酢酸吸着フィルムが、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、及びこれらの混合物からなる群より選択される樹脂を含むバインダー、並びに前記バインダーに分散している酢酸吸着剤を含有する、酢酸吸着フィルムであって、
前記バインダー100質量部に対して、前記酢酸吸着剤を5質量部以上100質量部以下で含み、かつ
前記酢酸吸着剤が、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、酸化アルミニウム、生石灰、シリカゲル及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、
酢酸吸着フィルムである、
過酢酸ボトル収容袋
【請求項7】
過酢酸入りのボトルを、酢酸吸着フィルムを含む包装袋に収容している、過酢酸ボトル収容袋であって、
前記酢酸吸着フィルムが、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、及びこれらの混合物からなる群より選択される樹脂を含むバインダー、並びに前記バインダーに分散している酢酸吸着剤を含有する、酢酸吸着フィルムであって、
前記バインダー100質量部に対して、前記酢酸吸着剤を5質量部以上100質量部以下で含み、かつ
前記酢酸吸着剤が、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、酸化アルミニウム、生石灰、シリカゲル及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、
酢酸吸着フィルムである、
過酢酸ボトル収容袋
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸吸着フィルムに関する。また本発明は、そのフィルムを含む包装袋、及びその包装袋を用いた医療器材袋に関する。特に、本発明は、医薬分野等の酢酸ガスが発生する場所で用いるのに適切な酢酸吸着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から医療器具の消毒液として、過酢酸が使用されている(例えば、特許文献1)。この場合、過酢酸は分解しやすいため、ガス抜き構造を有する容器に過酢酸を収容している。したがって、分解によって発生した酢酸ガスは、ガス抜き構造を通して容器外に漏れ出るため、生産後から使用されるまでの間、酢酸臭が問題となっている。
【0003】
このため現在は、過酢酸が入っているボトル容器と、酢酸吸着剤を収容したパックとを一緒にチャック付き袋に入れて収納している。ボトル容器からは酢酸ガスが発生し続けるため、酢酸吸着剤には、長期的に酢酸ガスを吸着する能力が求められていた。さらに、このような使用態様では、酢酸吸着剤を収容したパックが、医療現場において異物となる可能性があった。
【0004】
また、美術館に展示される美術品を設置する木製架台から酢酸ガスが微量に長期的に発生し、美術品を腐食させてしまう問題があることも分かっている。
【0005】
同様の課題は、アセテートフィルムを用いた記録材料においても存在しており、特許文献2及び3では、これらのフィルムから発生する酢酸ガスを除去するための成形品を開示している。ここでは、フィルムの吸湿による劣化を避けるための調湿剤と、吸ガス剤とを熱可塑性樹脂に混練して、プレート状の成形品を得ている。特許文献2及び3では、このような構成とすることで、長期間にわたって調湿・吸ガス能力が持続し、遅効性を与えることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−350742号公報
【特許文献2】特開平08−217913号公報
【特許文献3】特開2013−104030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2及び3に記載の酢酸吸着用成形品では、酢酸の吸着容量が不十分な場合があった。また、これらの文献に記載されている酢酸吸着用成形品は、基本的にフィルム状ではないために使用法に制限がある場合があった。そこで、本発明は、長期的かつ高い吸着容量で、酢酸を吸着でき、かつ成形が容易な酢酸吸着フィルムを与えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は以下のとおりである:
[1] エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、及びこれらの混合物からなる群より選択される樹脂を含むバインダー、並びに前記バインダーに分散している酢酸吸着剤を含有する、酢酸吸着フィルム。
[2] 前記酢酸吸着剤が、酢酸を化学的に吸着する無機吸着剤である、[1]に記載のフィルム。
[3] 前記酢酸吸着剤が、酸化マグネシウムを含む、[2]に記載のフィルム。
[4] 前記バインダーが、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体、及びエチレン−α−オレフィン共重合体のうちの少なくとも2種類の樹脂を含む、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のフィルム。
[5] 前記バインダーが、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体、及びエチレン−α−オレフィン共重合体のうちの少なくとも1種類の樹脂と、それ以外の樹脂とを含む、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のフィルム。
[6] 前記バインダー100質量部のうち、80質量部以上がエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、及びこれらの混合物からなる群より選択される樹脂である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のフィルム。
[7] 前記バインダー100質量部のうち、50質量部以上がエチレン−酢酸ビニル共重合体及び/又はエチレン−(メタ)アクリル系共重合体であり、かつ10質量部以上がその他の樹脂である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のフィルム。
[8] 前記バインダー100質量部のうち、50質量部以上がエチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体であり、かつ10質量部以上がエチレン−α−オレフィン共重合体、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン又はこれらの混合物である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のフィルム。
[9] 前記バインダー100質量部のうち、10質量部以上がエチレン−α−オレフィン共重合体であり、かつ50質量部以上が前記エチレン−α−オレフィン共重合体よりも密度が高いポリエチレンである、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のフィルム。
[10] 前記エチレン−α−オレフィン共重合体の密度が、0.910g/cm未満である、[1]〜[9]のいずれか一項に記載のフィルム。
[11] [1]〜[10]のいずれか一項に記載のフィルムを含む、包装袋。
[12] 過酢酸入りのボトルを、[1]〜[10]のいずれか一項に記載のフィルムと共に袋に収納している、又は[11]に記載の包装袋に収容している、過酢酸ボトル収容袋。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酢酸吸着フィルムによれば、長期的かつ高い吸着容量で酢酸を吸着できる。また、このフィルムは、樹脂組成物から容易に成形することができ、かつ様々な用途で用いることができる。さらに、このフィルムを含む包装袋を用いることで、医療現場で有用な過酢酸ボトル収容袋を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】過酢酸ボトル収容袋の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<酢酸吸着フィルム>
本発明のフィルムは、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、及びこれらの混合物からなる群より選択される含むバインダー、並びにバインダーに分散している酢酸吸着剤を含む。
【0012】
通常、吸着剤を樹脂中に分散させると、樹脂のガス透過性の低さに起因して、吸着剤の吸着性能は大きく低下する。しかしながら、本発明者らは、本発明の構成のフィルムにおいては、酢酸の吸着容量に関して、予想外にも一定程度その性能が維持できることを発見した。この理由としては、理論に拘束されるものではないが、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体については、そのカルボン酸基又はそのエステル部分の存在が酢酸との親和性を高めており、かつ/又はそれらの分子構造が比較的嵩高い立体構造を有していることによって、これにより酢酸のバインダーへの透過性が高いことに起因していると推測される。さらに、エチレン−α−オレフィン共重合体については、α−オレフィンに由来する分岐に起因してポリマーマトリクス中に大きな空間が生じていることによって、酢酸分子が空間的に侵入しやすく、バインダーへの透過性が高いことに起因していると推測される。
【0013】
(バインダー)
本発明のフィルムに用いられるバインダーには、 エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体、及びエチレン−α−オレフィン共重合体の一種以上の樹脂が含まれる。これらの樹脂は、上述の通り、酢酸の透過性が高いと推測されるだけではなく、フィルムへの加工が比較的容易であるために好ましい。
【0014】
(バインダー:エチレン−酢酸ビニル共重合体)
エチレン−酢酸ビニル共重合体は、エチレンと酢酸ビニルとを少なくとも含む単量体組成物を共重合して得られる樹脂である。単量体組成物中の酢酸ビニル含有量は、2重量%以上、3重量%以上、5重量%以上、又は10重量%以上であり、50重量%以下、40重量%以下、又は30重量%以下とすることができる。一般に、酢酸ビニル含有量が高い場合、得られる樹脂の結晶化度が低くなり、酢酸ビニル含有量が低い場合、得られる樹脂の密度が低くなる。最終の用途によって、適切な酢酸ビニル含有量の樹脂を選択することができる。
【0015】
好ましいエチレン−酢酸ビニル共重合体の熱特性としては、例えば、そのメルトマスフローレートが、温度190℃かつ荷重21.18Nの条件の下で、JIS K6924−1に準拠して測定した場合に、好ましくは0.1g/10min以上、0.5g/10min以上、1.0g以上、3.0g/10min以上、又は5.0g/10min以上であり、3000g/10min以下、100g/10min以下、50g/10min以下、又は30g/10min以下である。
【0016】
(バインダー:エチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体)
エチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体は、エチレンと(メタ)アクリル系モノマーとを少なくとも含む単量体組成物を共重合して得られる樹脂である。単量体組成物中の(メタ)アクリル系モノマーの含有量は、2重量%以上、3重量%以上、5重量%以上、又は10重量%以上であり、50重量%以下、40重量%以下、又は30重量%以下とすることができる。一般に、(メタ)アクリル系モノマーの含有量が高い場合、得られる樹脂の軟化温度が低くなり、(メタ)アクリル系モノマーの含有量が低い場合、得られる樹脂の密度が低くなる。最終の用途によって、適切な(メタ)アクリル系モノマー含有量の樹脂を選択することができる。
【0017】
ここで、適切な(メタ)アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチルアクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0018】
具体的なエチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体の例としては、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン−メタクリレート共重合体(EMMA)等を挙げることができる。
【0019】
好ましいエチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体の熱特性としては、例えば、そのメルトマスフローレートが、温度190℃かつ荷重21.18Nの条件の下で、JIS K7210−1999に準拠して測定した場合に、好ましくは0.1g/10min以上、0.5g/10min以上、1.0g以上、3.0g/10min以上、又は5.0g/10min以上であり、500g/10min以下、100g/10min以下、50g/10min以下、又は30g/10min以下である。
【0020】
(バインダー:エチレン−α−オレフィン共重合体)
エチレン−α−オレフィン共重合体は、α−オレフィンに起因する短鎖の分岐鎖を有し、その分岐鎖も含めてメチレン基の繰返し単位を60mol%以上、70mol%以上、80mol%以上、90mol%以上、95mol%以上、又は98mol%以上含む樹脂である。エチレン−α−オレフィン共重合体は、好ましくは密度が0.910g/cm未満の超低密度ポリエチレンである。
【0021】
特に、エチレン−α−オレフィン共重合体は長鎖分岐を実質的に有していない直鎖状低密度ポリエチレンであり、低圧法でポリエチレンを製造する際にα−オレフィンを特定の割合で共重合させることによって得られる。したがって、特に、エチレン−α−オレフィン共重合体は、エチレンと少なくとも1種のα−オレフィンとを含む単量体組成物を、メタロセン触媒、チーグラー・ナッタ触媒等を用いて低圧法で重合した共重合体である。α−オレフィンとしては、炭素原子数4〜18、4〜10、又は4〜8のα−オレフィンが挙げられ、例えば1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチルペンテン−1、1−オクテンを挙げることができる。また、この共重合体には、プロピレンが共重合させてもよい。
【0022】
具体的なエチレン−α−オレフィン共重合体の例としては、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ヘキセン共重合体等を挙げることができる。
【0023】
このエチレン−α−オレフィン共重合体は、好ましくは0.870g/cm以上、0.875g/cm以上、又は0.880g/cm以上の密度を有し、0.905g/cm以下の密度を有する。なお、本明細書において、密度とは、JIS K7112−1999に準拠して測定した値をいう。
【0024】
好ましいエチレン−α−オレフィン共重合体の熱特性としては、例えば、そのメルトマスフローレートが、温度190℃かつ荷重21.18Nの条件の下で、JIS K7210−1999に準拠して測定した場合に、好ましくは0.1g/10min以上、0.5g/10min以上、1.0g以上、3.0g/10min以上、又は5.0g/10min以上であり、100g/10min以下、50g/10min以下、30g/10min以下、又は20g/10min以下である。
【0025】
(バインダー:組成)
バインダーは、上記のエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体、及びエチレン−α−オレフィン共重合体のみから構成される必要はない。特に、バインダー100質量部のうち、上記のエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、又はこれらの混合物は、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上、30質量部以上、50質量部以上、60質量部以上、70質量部以上、80質量部以上、90質量部以上、又は95質量部以上であってもよい。
【0026】
本発明者らは、上記の樹脂のうちの少なくとも2種類の樹脂を組み合わせることで、又は上記の樹脂のうちの少なくとも1種類の樹脂とその他の樹脂を組み合わせることで、酢酸吸着性能及び/又はフィルムへの加工性を高められることを見出した。
【0027】
具体的には、本発明者らは、上記のエチレン−酢酸ビニル共重合体及び/又はエチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体と共に、その他の樹脂を組み合わせて用いることで、それらを単独で用いる場合よりも、本発明の組成物の酢酸吸着性能を向上できることを予想外にも見出した。これは、理論に拘束されないが、ポリマーブレンドによって生じる海島構造に起因して、酢酸の透過性が高まるためと考えられる。
【0028】
この場合、バインダー100質量部のうち、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体、又はこれらの混合物は、50質量部以上、60質量部以上、70質量部以上、80質量部以上、90質量部以上、又は95質量部以上であり、残部がその他の樹脂である。
【0029】
エチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体以外にバインダーとして用いることができるその他の樹脂としては、特に限定されるものではないが、特に上記のエチレン−α−オレフィン共重合体、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等を挙げることができる。理論に限定されないが、これらの樹脂とブレンドした場合に、海島構造を少なくとも部分的に形成できる樹脂であることが好ましいと考えられる。
【0030】
本明細書中で、低密度ポリエチレンとは、分岐鎖を含めて、メチレン基の繰返し単位を80mol%以上、90mol%以上、95mol%以上、若しくは98mol%以上含み、又は実質的にすべての繰返し単位がメチレン基である、密度が0.910g/cm以上0.930g/cm未満のポリエチレンをいう。これは特に、長鎖の分岐構造を有し、エチレンを高圧法によってラジカル重合することによって得られる。
【0031】
好ましい低密度ポリエチレンの熱特性としては、例えば、そのメルトマスフローレートが、温度190℃かつ荷重21.18Nの条件の下で、JIS K6922−1に準拠して測定した場合に、好ましくは0.1g/10min以上、0.5g/10min以上、1.0g以上、3.0g/10min以上、又は5.0g/10min以上であり、100g/10min以下、50g/10min以下、30g/10min以下、又は20g/10min以下である。
【0032】
本明細書中で、高密度ポリエチレンとは、分岐鎖を有する場合その分岐差を含め、メチレン基の繰返し単位を80mol%以上、90mol%以上、95mol%以上、若しくは98mol%以上含み、又は実質的にすべての繰返し単位がメチレン基である、密度が0.930g/cm以上のポリエチレンをいう。これは特に、0.942g/cm以上の密度を有し、長鎖の分岐構造を実質的に有しておらず、エチレンを低圧法によってラジカル重合することによって得られる。
【0033】
好ましい高密度ポリエチレンの熱特性としては、例えば、そのメルトマスフローレートが、温度190℃かつ荷重21.18Nの条件の下で、JIS K6922−2に準拠して測定した場合に、好ましくは0.1g/10min以上、0.5g/10min以上、1.0g以上、3.0g/10min以上、又は5.0g/10min以上であり、100g/10min以下、50g/10min以下、30g/10min以下、又は20g/10min以下である。
【0034】
さらに、本発明者らは、特にエチレン−α−オレフィン共重合体をバインダーに用いた場合には、それよりも密度が高い樹脂を組み合わせて用いることで、酢酸吸着性能を一定程度維持しながら、その追加的に用いた樹脂と同程度の加工性を、本発明のフィルムにおいて達成できることを見出した。
【0035】
この場合、バインダー100質量部のうち、10質量部以上、20質量部以上、30質量部以上、50質量部以上、60質量部以上、80質量部以上、又は90質量部以上が、エチレン−α−オレフィン共重合体よりも密度が高い樹脂であってよい。
【0036】
ここで、エチレン−α−オレフィン共重合体よりも密度が高い樹脂としては、特に低密度ポリエチレン又は高密度ポリエチレンを挙げることができる。
【0037】
(酢酸吸着剤)
本発明で用いる酢酸吸着剤は、酢酸を吸着することができれば特に限定されず、化学吸着剤であっても物理吸着剤であってもよい。また、本発明で用いる吸着剤は、無機吸着剤であっても有機吸着剤であってもよく、有機−無機ハイブリッドの吸着剤であってもよい。好ましくは、本発明で用いる吸着剤は、酢酸を化学的に吸着する無機吸着剤である。
【0038】
具体的には、本発明で用いる無機吸着剤としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、酸化アルミニウム、生石灰、シリカゲル、無機の分子篩等を挙げることができる。その中でも特に、酸化マグネシウムを挙げることができ、これを含む物質、例えばハイドロタルサイトも有用である。有機吸着剤としては、上記特許文献3に記載のカルボン酸塩を挙げることができる。
【0039】
本発明で用いる吸着剤は、バインダー樹脂100質量部に対して、混練性及び吸着性能を考慮して、0.1質量部以上、1質量部以上、3質量部以上、5質量部以上又は10質量部以上含むことが好ましく、500質量部以下、300質量部以下、100質量部以下、50質量部以下、40質量部以下、又は30質量部以下で含むことが好ましい。
【0040】
<酢酸吸着フィルムの製造方法>
本発明の酢酸吸着フィルムは、上記のバインダー及び吸着剤を混練して樹脂組成物を得て、これをフィルム化することによって製造することができる。混練は、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、ミキシングロールコニカルミキサー、などのバッチ式混練機や、2軸混練機などの連続混練機などが用いられる。この際には、使用する材料に応じて、100℃以上、120℃以上、又は140℃以上で、かつ220℃以下、200℃以下、又は180℃以下の温度で混練することができる。
【0041】
上記の混練した樹脂組成物をフィルムに成形して、本発明の酢酸吸着フィルムを得ることができる。例えば、上記の混練した樹脂組成物を、プレス成型、インフレーション法、Tダイ法、共押出等の押出成型又は射出成型等することによりフィルム状に成形することができ、他のフィルムとの積層体として得ることもできる。
【0042】
<包装袋>
上記の酢酸吸着フィルムを通常の方法で本発明の包装袋に形成することができる(参照:「包装用フィルム概論 改訂版」,改訂第3版,株式会社東洋紡パッケージング・プラン・サービス)。この場合、酢酸吸着フィルムを、包装袋の最内層として用いることが好ましい。
【0043】
<過酢酸ボトル収容袋>
本発明は、さらに上記の包装袋に過酢酸入りのボトルを収容した、医療器材消毒用の過酢酸ボトル収容袋に関する。上述のように医療器材、例えば内視鏡を消毒するために過酢酸が用いられており、医療現場では、医療器材の消毒に使うまでの間、過酢酸はガス抜き構造を有するボトルに入れられ、そのボトルが図1のように収納袋に入れられている。本発明の過酢酸ボトル収容袋(10)には、過酢酸入りのボトル(30)が、通常用いられる袋内(10a)に上記の酢酸吸着フィルム(20)が入れられており、又は袋自体が上記の包装袋で構成されている。袋自体が上記の包装袋で構成されている場合には、酢酸吸着フィルム(20)が、本発明の過酢酸ボトル収容袋(10)に収納されなくてもよい。
【実施例】
【0044】
実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0045】
表1に記載のポリマーを用いて、表2のような組成で樹脂組成物を調製した。ここでは、酢酸吸着能を有する吸着剤として、ハイドロタルサイトを含むキョーワード2200(協和化学株式会社製)を用いた。表2の組成中、各数値は質量部である。
【0046】
これらの樹脂組成物をコニカルミキサーで回転数100rpm、温度140℃で5分混練し、この混練体を、プレス機で温度140℃圧力20MPaで30秒間プレスして、厚さ50μmの実施例1〜11及び比較例1〜2の酢酸吸着フィルムを得た。
【0047】
これらのフィルムを20mm×20mmにトリミングして20mLのバイアル瓶に入れ, 1日後に5μL、8日後には8μLの氷酢酸をそのバイアル瓶に注入した。そして、一定時間後のバイアル瓶中の酢酸ガス量をガスクロマトグラフィーで測定することにより吸着量を得た。
【0048】
これらの結果を表2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
実施例1〜5と比較例1及び2とを比較すると、本発明のフィルム、高い酢酸吸着性能を与えることがわかる。特に、8日後の吸着量において、実施例1〜5と比較例1及び2では顕著に差が出ていることがわかる。
【0052】
また、実施例2と、実施例6〜8とを比較すると、エチレン−(メタ)アクリル系モノマー共重合体(EMMA)を単独で用いた実施例2よりも、これとポリエチレンとを混合して用いている実施例6〜8の方が、高い酢酸吸着性能を与えていることがわかる。
【0053】
実施例4と、実施例9〜13とを比較すると、エチレン−α−オレフィン共重合体と低密度ポリエチレンとを配合してバインダーとして用いることで、酢酸吸着性能を一定程度維持することがわかる。
【0054】
ところで、フィルム化した際、フィルムがタック性を有すると、フィルム同士が張り付いてしまい、フィルムの巻き取りや他のフィルムとの積層等、フィルム化後の加工(加工性)に問題が生じてしまう。そこで、フィルムの加工性を、同種のフィルム同士を用いて、一方のフィルムを台上に載せ、もう一方のフィルムを重ねあわせることで、それらが引き剥がせるか否か(タック性の有無)で判断した。実施例1及び3はフィルム同士の張り付きはなく、タック性が無いため、加工性に優れていた。実施例2と実施例6〜8を比較すると、実施例2ではフィルム同士の張り付きがみられ、若干のタック性を有していたが、実施例6〜8では、フィルム同士の張り付きは見られず、タック性はなく、実施例6〜8の方が、加工性が向上していることが分かった。また、実施例4と実施例9〜12とを比較すると、実施例4では、フィルム同士が容易に引き剥がせる程度に若干の張り付きがみられたが、実施例9〜12では、フィルム同士の張り付きは見られず、タック性が抑制され、フィルムとしての加工性が向上していることが分かった。また、実施例5及び13は、実施例4と略同程度のタック性であり、加工性を有することも確認された。
図1