(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
(3.)上記(1.)または上記(2.)に記載の化合物、および少なくとも1つの薬学的に許容される添加剤を含む医薬組成物。
【0029】
(4.)静脈内投与に適している、上記(3.)に記載の医薬組成物。
【0030】
(5.)約4〜約6のpHを有する、上記(3.)または上記(4.)に記載の医薬組成物。
【0031】
(6.)約4〜約5のpHを有する、上記(3.)から(5.)のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0032】
(7.)約4のpHを有する、上記(3.)から(6.)のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0033】
(8.)有効量の上記(1.)もしくは上記(2.)に記載の化合物、または上記(3.)から(7.)のいずれか1つに記載の医薬組成物を、それを必要とする患者に投与するステップを含む、心血管疾患を処置する方法。
【0034】
(9.)前記心血管疾患が心不全である、上記(8.)に記載の方法。
【0035】
(10.)前記心血管疾患が、急性非代償性心不全である、上記(8.)または上記(9.)に記載の方法。
【0036】
(11.)前記化合物または医薬組成物が、静脈内投与される、上記(8.)から(10.)のいずれか1つに記載の方法。
【0037】
(12.)式(1)または(2)の化合物約20μg/kg/分から式(1)または(2)の化合物約40μg/kg/分の用量で、前記化合物または医薬組成物が投与される、上記(8.)から(11.)のいずれか1つに記載の方法。
【0038】
(13.)前記化合物または医薬組成物が、経口投与される、上記(8.)から(10.)のいずれか1つに記載の方法。
【0039】
(14.)乾燥形態の上記(1.)もしくは上記(2.)に記載の化合物、または乾燥形態の上記(3.)から(7.)のいずれか1つに記載の医薬組成物、および
薬学的に許容される液状賦形剤を含むキット。
【0040】
(15.)心血管疾患を処置するのに有用な医薬品を製造するための、上記(1.)もしくは上記(2.)に記載の化合物の使用、または上記(3.)から(7.)のいずれか1つに記載の医薬組成物の使用。
【0041】
(16.)心不全を処置するのに有用な医薬品を製造するための、上記(1.)もしくは上記(2.)に記載の化合物の使用、または上記(3.)から(7.)のいずれか1つに記載の医薬組成物の使用。
【0042】
(17.)急性非代償性心不全を処置するのに有用な医薬品を製造するための、上記(1.)もしくは上記(2.)に記載の化合物の使用、または上記(3.)から(7.)のいずれか1つに記載の医薬組成物の使用。
【0043】
(18.)心血管疾患の処置に使用するための、上記(1.)もしくは上記(2.)に記載の化合物、または上記(3.)から(7.)のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0044】
(19.)心不全の処置に使用するための、上記(1.)もしくは上記(2.)に記載の化合物、または上記(3.)から(7.)のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0045】
(20.)急性非代償性心不全の処置に使用するための、上記(1.)もしくは上記(2.)に記載の化合物、または上記(3.)から(7.)のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0046】
4.1.定義
特に明確に示さない限り、本明細書で使用する以下の用語は、以下に示されている意味を有する。
【0047】
「薬学的に許容される塩」とは、本明細書において開示されている任意の治療剤の塩を指し、その塩は、当分野で公知の様々な有機および無機の対イオンのいずれかを含むことができ、その塩は薬学的に許容されるものである。治療剤が酸性官能基を含有する場合、対イオンの様々な例示的実施形態は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、テトラアルキルアンモニウムなどである。治療剤が塩基性官能基を含有する場合、薬学的に許容される塩は、例えば、塩酸、臭化水素酸、酒石酸、メシル酸、酢酸、マレイン酸、シュウ酸などの有機酸または無機酸を、対イオンとして含むことができる。例示的な塩には、以下に限定されないが、硫酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、オレイン酸塩、タンニン酸塩、パントテン酸塩、酒石酸水素塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ベシル酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルカロネート(glucaronate)、サッカリン酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩およびp−トルエンスルホン酸塩が含まれる。したがって、塩は、カルボン酸官能基などの酸性官能基を有する、本明細書において開示されている式のいずれか1つの化合物および薬学的に許容される無機塩基または有機塩基から調製することができる。適切な塩基には、以下に限定されないが、ナトリウム、カリウムおよびリチウムなどのアルカリ金属水酸化物、カルシウムおよびマグネシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、アルミニウムおよび亜鉛などの他の金属の水酸化物、アンモニア、ならびに無置換またはヒドロキシ置換されているモノ、ジもしくはトリアルキルアミンなどの有機アミン、ジシクロヘキシルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、N−メチル−N−エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノ−、ビス−もしくはトリス−(2−ヒドロキシエチル)アミン、2−ヒドロキシ−tert−ブチルアミン、もしくはトリス−(ヒドロキシメチル)メチルアミンなどのモノ−、ビス−またはトリス−(2−ヒドロキシ−低級−アルキルアミン)、N,N−ジメチル−N−(2−ヒドロキシエチル)アミンもしくはトリ−(2−ヒドロキシエチル)アミンなどのN,N−ジ−低級−アルキル−N−(ヒドロキシ−低級−アルキル)−アミン、N−メチル−D−グルカミン、およびアルギニン、リシンなどのアミノ酸などが含まれる。塩はまた、アミノ官能基などの塩基性官能基を有する、本明細書において開示されている式のいずれか1つの化合物および薬学的に許容される無機酸または有機酸から調製することもできる。適切な酸には、硫化水素塩、クエン酸、酢酸、塩酸(HCl)、臭化水素(HBr)、ヨウ化水素(HI)、硝酸、リン酸、乳酸、サリチル酸、酒石酸、アスコルビン酸、コハク酸、マレイン酸、ベシル酸、フマル酸、グルコン酸、グルカロン酸、ギ酸、安息香酸、グルタミン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、およびp−トルエンスルホン酸が含まれる。
【0048】
「薬学的に許容される添加剤」とは、患者に治療剤を送達するために、担体、賦形剤、アジュバント、結合剤、および/もしくはビヒクルとして使用されるか、あるいはその取り扱い特性もしくは保管特性を改善するために医薬組成物に加えられるか、あるいは化合物もしくは医薬組成物の投与向け単位剤形への形成を可能にするかまたは容易にする、それ自体が治療剤ではない、任意の物質を指す。薬学的に許容される添加剤は、医薬分野では公知であり、例えば、Gennaro, Ed., Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20
th Ed. (Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore, MD, 2000) and Handbook of Pharmaceutical Excipients, American Pharmaceutical Association, Washington, D.C.(例えば、第1版、第2版および第3版は、それぞれ1986年、1994年および2000年)において開示されている。当業者に公知の通り、薬学的に許容される添加剤は、様々な機能をもたらすことができ、湿潤剤、緩衝化剤、懸濁化剤、滑沢剤、乳化剤、崩壊剤、吸収剤、保存剤、界面活性剤、着色剤、着香剤、および甘味剤として記載することができる。薬学的に許容される添加剤の例には、非限定的に、(1)ラクトース、グルコースおよびスクロースなどの糖、(2)トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプンなどのデンプン、(3)カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロースおよびその誘導体、(4)粉末トラガカント、(5)麦芽、(6)ゼラチン、(7)タルク、(8)ココアバターおよび座剤用ワックスなどの添加剤、(9)ラッカセイ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油などの油、(10)プロピレングリコールなどのグリコール、(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコールなどのポリオール、(12)オレイン酸エチルおよびラウリル酸エチルなどのエステル、(13)寒天、(14)水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝化剤、(15)アルギン酸、(16)発熱物質不含水、(17)等張性生理食塩水、(18)リンゲル溶液、(19)エチルアルコール、(20)pH緩衝溶液、(21)ポリエステル、ポリカーボネートおよび/またはポリ無水物、ならびに(22)医薬製剤において使用される、他の非毒性の適合性物質が含まれる。
【0049】
「単位剤形」とは、ヒトまたは動物向けの単位投与量として適している物理的に個別の単位を指す。各単位剤形は、所望の効果を生み出すために計算された所定量の治療剤を含有することができる。
【0050】
特に明確に示さない限り、「患者」とは、以下に限定されないが、ヒトを含む、哺乳動物などの動物を指す。したがって、本明細書において開示されている方法は、ヒトの療法および獣医学的用途に有用となり得る。特定の実施形態では、患者は哺乳動物である。ある種の実施形態では、患者はヒトである。
【0051】
「有効量」とは、その効力パラメータおよび潜在的毒性と組み合わせて、および開業専門医の知識に基づいて、所与の治療形態において有効となるべき、治療剤または薬学的に許容されるその塩のこうした量を指す。当分野で理解される通り、有効量は、1つまたは複数の用量で投与することができる。
【0052】
「処置」、「処置する」などは、臨床的な結果を含めた、有益な結果または所望の結果を得るための手法である。本開示の目的に関すると、有益な結果または所望の結果には、以下に限定されないが、ある状態の発症および/もしくは発生の阻害ならびに/または抑制、あるいはその状態に関連する症状の数および/もしくは重症度の軽減などのこうした状態の重症度の軽減、その状態を患っているヒトの生活の質の向上、その状態を処置するために必要な他の医薬の用量の低減、その状態のために患者が服用している別の医薬の効果の増強、ならびに/あるいはその状態を有する患者の生存の延長が含まれる。
【0053】
「予防する」、「予防」などは、ある状態を有してはいないが、それが発生するリスクのある患者における、状態が発生する可能性を低減することを指す。「リスクのある」患者は、検出可能な状態を有していてもよく、または有していなくてもよく、本明細書において開示されている処置方法の前に、検出可能な状態を示したことがあるか、または示したことがなくてもよい。「リスクのある」とは、患者が、ある状態の発生と相関があり、かつ当分野で公知の測定可能なパラメータである、1種または複数のいわゆるリスク要因を有することを意味する。これらのリスク要因の1種または複数を有する患者は、こうしたリスク要因のない患者よりも、状態が発生する可能性が高い。
【0054】
「陽性変力体(positive inotrope)」とは、心筋収縮機能の向上を引き起こす作用剤を指す。例示的な陽性変力体は、ベータ−アドレナリン作動性受容体アゴニスト、ホスホジエステラーゼ活性の阻害剤、およびカルシウム増感剤である。ベータ−アドレナリン作動性受容体アゴニストには、とりわけ、ドーパミン、ドブタミン、テルブタリン、およびイソプロテレノールが含まれる。こうした化合物のアナログおよび誘導体も意図される。例えば、米国特許第4,663,351号は、経口投与され得るドブタミンプロドラッグを開示している。
【0055】
「ニトロキシル療法に応答する」状態には、生理的条件下、有効量のニトロキシルを供与する化合物の投与により、それらの用語が本明細書において定義されている状態が処置および/または予防される任意の状態が含まれる。その症状が、ニトロキシル供与体の投与時に、抑制されるかまたは軽減される状態は、ニトロキシル療法に応答する状態である。
【0056】
「肺高血圧症」または「PH」とは、肺動脈圧が上昇する状態を指す。PHの現在の血行動態的な定義は、25mgHg以上の安静時における、平均肺動脈血圧(MPAP)である。Badesch et al., J. Amer. Coll. Cardiol. 54(Suppl.):S55-S66 (2009)。
【0058】
「(C
1〜C
6)アルキル」とは、1個、2個、3個、4個、5個または6個の炭素原子を有する、線状および分岐の飽和炭化水素構造を指す。特定の炭素数を有するアルキル残基が命名される場合、その炭素数を有する幾何異性体のすべてが包含されているものと意図される。したがって、例えば、「プロピル」には、n−プロピルおよびイソ−プロピルが含まれ、「ブチル」には、n−ブチル、sec−ブチル、イソ−ブチルおよびtert−ブチルが含まれる。(C
1〜C
6)アルキル基の例には、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、tert−ブチル、n−ヘキシルなどが含まれる。
【0059】
「(C
1〜C
4)アルキル」とは、1個、2個、3個または4個の炭素原子を有する、線状および分岐の飽和炭化水素構造を指す。(C
1〜C
4)アルキル基の例には、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、およびtert−ブチルが含まれる。
【0060】
「(C
3〜C
5)アルキル」とは、3個、4個または5個の炭素原子を有する、線状および分岐の飽和炭化水素構造を指す。特定の炭素数を有するアルキル残基が命名される場合、その炭素数を有する幾何異性体のすべてが包含されているものと意図される。したがって、例えば、「プロピル」には、n−プロピルおよびイソ−プロピルが含まれ、「ブチル」には、n−ブチル、sec−ブチル、イソ−ブチル、およびtert−ブチルが含まれる。(C
3〜C
5)アルキル基の例には、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチルなどが含まれる。
【0061】
「(C
2〜C
4)アルケニル」とは、2個、3個または4個の炭素原子、および任意の位置に二重結合を有する、直鎖または分岐の不飽和炭化水素基、例えば、エテニル、1−プロペニル、2−プロペニル(アリル)、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、1−メチルエテニル、1−メチル−1−プロペニル、2−メチル−2−プロペニル、2−メチル−1−プロペニル、1−メチル−2−プロペニルなどを指す。
【0062】
「(C
2〜C
3)アルキニル」とは、2個または3個の炭素原子を有しており、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含む、直鎖の非環式炭化水素を指す。(C
2〜C
3)アルケニルの例には、−ビニル、−アリルおよび1−プロパ−1−エニルが含まれる。
【0063】
「(C
5〜C
7)ヘテロシクロアルキル」とは、1個、2個、3個または4個の環ヘテロ原子を含有する、5員、6員または7員の飽和または不飽和の、架橋、単環式または二環式複素環を指し、環ヘテロ原子の各々は、窒素、酸素および硫黄から独立して選択される。(C
5〜C
7)ヘテロシクロアルキル基の例には、ピラゾリル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、テトラヒドロ−オキサジニル、テトラヒドロフラン、チオラン、ジチオラン、ピロリン、ピロリジン、ピラゾリン、ピラゾリジン、イミダゾリン、イミダゾリジン、テトラゾール、ピペリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、テトラヒドロフラノン、γ−ブチロラクトン、α−ピラン、γ−ピラン、ジオキソラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、ジヒドロチオフェン、ピペラジン、トリアジン、テトラジン、モルホリン、チオモルホリン、ジアゼパン、オキサジン、テトラヒドロ−オキサジニル、イソチアゾール、ピラゾリジンなどが含まれる。
【0064】
「(5員または6員の)ヘテロアリール」とは、5員または6員の単環式芳香族複素環を指し、すなわち、単環式芳香族環は、少なくとも1個の環ヘテロ原子、例えば1個、2個、3個または4個の環ヘテロ原子を含んでおり、環ヘテロ原子の各々は、窒素、酸素および硫黄から独立して選択される。(5員または6員の)ヘテロアリールの例には、ピリジル、ピロリル、フリル、イミダゾリル、オキサゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、イソオキサゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、1,3,4−オキサジアゾリル、1,2,5−オキサジアゾリル、1,2,3−トリアゾリル、ピラゾリル、イソチアゾリル、ピリダジニル、ピリミジル、ピラジニル、1,2,3−チアジアゾリル、1,3,4−チアジアゾリル、1,2,5−チアジアゾリル、1,3,5−トリアジニル、およびチオフェニルが含まれる。
【0065】
「ハロ」とは、−F、−Cl、−Brまたは−Iを指す。
【0066】
「β−シクロデキストリンのスルホ−n−ブチルエーテル誘導体」とは、その水素原子が、−(CH
2)
4−S(O)
2−OHまたは−(CH
2)
4−S(O)
2−O
−Z
+により置きかえられて、それぞれ−O−(CH
2)
4−S(O)
2−OHまたは−O−(CH
2)
4−S(O)
2−O
−Z
+基を与えることにより誘導体化される、少なくとも1つの−OH基を有するβ−シクロデキストリンを指し、ここで、Z
+は、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、テトラメチルアンモニウムなどの陽イオンである。一実施形態では、各Zは、ナトリウムである。
【0067】
4.2 治療指数の改善されたニトロキシル供与性化合物
一態様では、本開示は、心血管疾患(例えば、心不全)を処置するのに適した新規化合物を提供する。特に、本開示は、ヒト治療薬として使用するのに適したものにする特性の組合せを有する、ニトロキシル供与性化合物を提供する。特に、本開示のニトロキシル供与性化合物は、有利な治療指数である適切な半減期を有しており、水溶性が高く、かつ固体状態での十分な安定性を有する。表1は、こうした望ましい特性を有し、したがって、ヒトへの治療的投与に適している、本開示の2つの特定のN−ヒドロキシスルホンアミドニトロキシル供与性化合物を提供する。
【0069】
特定の実施形態では、表1におけるニトロキシル供与性化合物は、薬学的に許容されるその塩として利用することができる。
【0070】
他の実施形態では、表1に列挙されている化合物のN−ヒドロキシ基をエステル化して、該化合物のプロドラッグを得ることができる。
【0072】
【化7】
(式中、Rは、水素、−(C
1〜C
6)アルキル、−(C
2〜C
4)アルケニル、フェニル、ベンジル、シクロペンチル、シクロヘキシル、−(C
5〜C
7)ヘテロシクロアルキル、ベンジルオキシ、−O−(C
1〜C
6)アルキル、−NH
2、−NH−(C
1〜C
4)アルキル、または−N((C
1〜C
4)アルキル)
2であり、前記−(C
1〜C
6)アルキル、−(C
2〜C
4)アルケニル、フェニル、ベンジル、シクロペンチル、シクロヘキシル、−(C
5〜C
7)ヘテロシクロアルキル、ベンジルオキシ、−O−(C
1〜C
6)アルキル、−NH−(C
1〜C
4)アルキルまたは−N((C
1〜C
4)アルキル)
2は、無置換とすることができるか、またはハロ、−(C
1〜C
6)アルキル、−(C
2〜C
4)アルケニル、−(C
2〜C
3)アルキニル、−(5員または6員)ヘテロアリール、−O−(C
1〜C
6)アルキル、−S−(C
1〜C
6)アルキル、−C(ハロ)
3、−CH(ハロ)
2、−CH
2(ハロ)、−CN、−NO
2、−NH
2、−NH−(C
1〜C
4)アルキル、−N(−(C
1〜C
4)アルキル)
2、−C(=O)(C
1〜C
4)アルキル、−C(=O)O(C
1〜C
4)アルキル、−OC(=O)(C
1〜C
4)アルキル、−OC(=O)NH
2、−S(=O)(C
1〜C
4)アルキル、または−S(=O)
2(C
1〜C
4)アルキルから選択される1つまたは複数の置換基により置換され得る)を提供する。特定の実施形態では、Rは、メチル、エチル、ベンジルまたはフェニルである。
【0073】
本開示の化合物が式(3)の化合物である特定の実施形態では、Rはメチルである。本化合物が式(3)を有する他の実施形態では、Rはエチルである。本開示の化合物が式(3)の化合物であるある種の実施形態では、Rはメチルまたはエチルである。本化合物が式(3)を有する他の実施形態では、Rはフェニルである。本化合物が式(3)を有する他の実施形態では、Rはベンジルである。本開示の化合物が式(3)の化合物である特定の実施形態では、Rはベンジルまたはフェニルである。本化合物が式(3)を有する他の実施形態では、Rは−NH
2である。この段落中の上記の実施形態の各々では、Rは、一実施形態では無置換であり、別の実施形態では一置換であり、追加的な実施形態では、独立して選択される2つの置換基により二置換されており、またはさらなる実施形態では、独立して選択される3つの置換基により三置換されている。この段落の上記の実施形態の各々の様々な実施形態では、置換基は、−ハロ、−NH
2、−NHCH
3、−CF
3もしくは−OCH
3であるか、または置換基は、−ハロ、−NH
2、−NHCH
3、−CF
3、および−OCH
3から独立して選択される。
【0075】
【化8】
(式中、Rおよびその任意選択の置換基は、式(3)の化合物に関して、上で定義した通りである)を提供する。
【0076】
本開示の化合物が式(4)の化合物である特定の実施形態では、Rはメチルである。本化合物が式(4)を有する他の実施形態では、Rはエチルである。本開示の化合物が式(4)の化合物であるある種の実施形態では、Rはメチルまたはエチルである。本化合物が式(4)を有する他の実施形態では、Rはフェニルである。本化合物が式(4)を有する他の実施形態では、Rはベンジルである。本開示の化合物が式(4)の化合物である特定の実施形態では、Rはベンジルまたはフェニルである。本化合物が式(4)を有する他の実施形態では、Rは−NH
2である。この段落中の上記の実施形態の各々では、Rは、一実施形態では無置換であり、別の実施形態では一置換であり、追加的な実施形態では、独立して選択される2つの置換基により二置換されており、またはさらなる実施形態では、独立して選択される3つの置換基により三置換されている。この段落の上記の実施形態の各々の様々な実施形態では、置換基は、−ハロ、−NH
2、−NHCH
3、−CF
3もしくは−OCH
3であるか、または置換基は、−ハロ、−NH
2、−NHCH
3、−CF
3、および−OCH
3から独立して選択される。
【0077】
予想外のことに、本開示のニトロキシル供与性化合物は、ヒト患者に投与した場合、CXL−1020と類似した効力レベルを実現するが、副作用、とりわけ局所副作用(例えば、刺激および/または炎症)の有意な軽減を伴う(実施例8および9を参照されたい)ことが発見された。さらに、本開示のニトロキシル供与性化合物は、1時間以内に、臨床的観点から望ましい、血行動態作用の発現をもたらす。
【0078】
理論に拘泥するものではないが、本開示の実施例において報告されている実験により、PBSまたはヒト血漿中で測定すると(実施例4を参照されたい)、半減期が15分より実質的に短い、CXL−1020などのニトロキシル供与体により、投与時にニトロキシルの高い局所濃度が生じること、およびそのニトロキシルの高い局所濃度は、観察される望ましくない副作用の原因であることが示唆される。高濃度でニトロキシルは二量化することが知られており、ヒドロキシルラジカルを生成することができる、次亜硝酸を形成する。あるいは、またはさらには、白血球から発散されるペルオキシドがニトロキシルと反応して、ヒドロキシルラジカルを形成することができる。ヒドロキシルラジカルは、内皮細胞に毒性があり、炎症および/または不耐性をもたらし得る。より長い半減期を有するニトロキシル化合物は、理論的には、類似のメカニズムにより、ヒドロキシルラジカルを生成することができるが、こうしたラジカルの形成は、ニトロキシルが低濃度であるために、低下することが予期され、こうして、ニトロキシルが二量化するかまたはペルオキシドと反応する能力が低下する。したがって、非常に長い半減期(例えば、実施例4において記載されている方法に従って、ヒト血漿中で測定すると、95分を超える)を有する化合物は、有利な毒性学的プロファイルを有することが予期される。しかし、これらの化合物は、実質的なニトロキシルの形成前に、循環からクリアランスされ、かつ/または希釈されると思われるので、こうした化合物の効力は低いことが予期される。
【0079】
実施例4において記載されている通り、式(1)および(2)の化合物は、pH7.4の通気済みリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液中で測定すると、および抗凝固剤(例えば、ヘパリンまたはクエン酸ナトリウム)の存在下、pH7.4のヒト血漿中で測定すると、約10分超かつ95分未満の半減期を有する(各々は、実施例4において指定されている条件下で測定した)。特に、式(1)の化合物は、pH7.4の通気済みリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液中で測定すると、およそ68分、および抗凝固剤(例えば、ヘパリンまたはクエン酸ナトリウム)の存在下、pH7.4のヒト血漿中で測定すると、およそ65分の半減期を有する(各々は、実施例4において指定されている条件下で測定した)。式(2)の化合物は、pH7.4の通気済みリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液中で測定すると、およそ50分、および抗凝固剤(例えば、ヘパリンまたはクエン酸ナトリウム)の存在下、pH7.4のヒト血漿中で測定すると、およそ37分の半減期を有する(各々は、実施例4において指定されている条件下で測定した)。
【0080】
さらに、実施例5に記載されている通り、式(1)および(2)の化合物の各々は、水溶性が高く、したがって、非経口投与または経口投与に適している。本化合物は、溶解補助剤を添加することなく、製剤化することができる。さらに、実施例10〜12に実証されている通り、式(1)および式(2)の化合物は、非経口(例えば、静脈内)投与用医薬組成物において、優れた安定性を有する。
【0081】
4.3 ニトロキシル供与能の測定
化合物は、日常的な実験によりニトロキシル供与について容易に試験される。ニトロキシルが供与されるかどうかを直接測定することは、通常、現実的ではないが、化合物がニトロキシルを供与するかどうかを決定するために適切であるとして、いくつかの分析的手法が受け入れられている。例えば、対象とする化合物は、密封した容器内で、溶液中、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中またはpH約7.4のリン酸緩衝溶液中に入れることができる。数分〜数時間などの、解離するのに十分な時間が経過した後、ヘッドスペースのガスを抜き取り、ガスクロマトグラフィーおよび/または質量分析法などにより分析してその組成を決定する。N
2Oガスが形成されると(HNOの二量化により起こる)、試験はニトロキシル供与に陽性であり、この化合物は、ニトロキシル供与体とみなされる。
【0082】
ニトロキシル供与能のレベルは、化合物の理論的な化学量論量の最大値の割合として表すことができる。「有意なニトロキシルのレベル」を供与する化合物とは、様々な実施形態では、そのニトロキシルの理論最大量の約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、または約95%以上を供与する、化合物を意味する。特定の実施形態では、本明細書における本開示の化合物のニトロキシル供与体は、そのニトロキシルの理論最大量の約70%〜約90%を供与する。特定の実施形態では、本明細書における本開示の化合物のニトロキシル供与体は、そのニトロキシルの理論最大量の約85%〜約95%を供与する。特定の実施形態では、本明細書における本開示の化合物のニトロキシル供与体は、そのニトロキシルの理論最大量の約90%〜約95%を供与する。そのニトロキシルの理論最大量の約40%未満または約50%未満を供与する化合物は、依然として、ニトロキシル供与体であり、開示されている方法において使用することができる。そのニトロキシルの理論量の約50%未満を供与する、化合物は、開示されている方法において使用することができるが、より高いレベルのニトロキシルを供与する化合物と比べて、高い投与量レベルを必要とすることがある。
【0083】
所望の場合、ニトロキシル供与は、試験化合物をメトミオグロビン(Mb
3+)に曝露することにより検出することもできる。Bazylinski et al., J. Amer. Chem. Soc. 107(26):7982-7986 (1985)を参照されたい。ニトロキシルはMb
3+と反応して、Mb
2+−NO錯体を形成し、これを紫外線/可視光スペクトルの変化により、または電子常磁性共鳴(EPR)により検出することができる。Mb
2+−NO錯体は、g値約2を中心とするEPRシグナルを有する。一方、一酸化窒素は、Mb
3+と反応して、Mb
3+−NO錯体を形成し、この錯体は、もしあれば、ごく小さなEPRシグナルを有する。したがって、ある化合物がMb
3+と反応して、紫外線/可視光またはEPRなどの一般的な方法により検出可能な錯体を形成する場合、この試験は、ニトロキシル供与に陽性である。
【0084】
ニトロキシル供与に関する試験は、生理的に関連性のあるpHで行うことができる。本開示のニトロキシル供与性化合物は、生理的pH(すなわち、pH約7.4)および生理的温度(すなわち、温度約37℃)(一緒にして、「生理的条件」)において、ニトロキシルを供与することができる。特定の実施形態では、本開示のニトロキシル供与性化合物は、生理的条件下、そのニトロキシルの理論最大(すなわち、100%)量の約40%以上を供与することができる。特定の実施形態では、本開示のニトロキシル供与性化合物は、生理的条件下、そのニトロキシルの理論最大量の約50%以上を供与することができる。特定の実施形態では、本開示のニトロキシル供与性化合物は、生理的条件下、そのニトロキシルの理論最大量の約60%以上を供与することができる。特定の実施形態では、本開示のニトロキシル供与性化合物は、生理的条件下、そのニトロキシルの理論最大量の約70%以上を供与することができる。特定の実施形態では、本開示のニトロキシル供与性化合物は、生理的条件下、そのニトロキシルの理論最大量の約80%以上を供与することができる。特定の実施形態では、本開示のニトロキシル供与性化合物は、生理的条件下、そのニトロキシルの理論最大量の約90%以上を供与することができる。
【0085】
本開示のニトロキシル供与性化合物はまた、ニトロキシル供与量が一酸化窒素の供与量を超える限り、限定量の一酸化窒素を供与することもできることが理解されよう。ある種の実施形態では、ニトロキシル供与性化合物は、生理的条件下で、約25モル%以下の一酸化窒素を供与することができる。特定の実施形態では、ニトロキシル供与性化合物は、生理的条件下で、約20モル%以下の一酸化窒素を供与することができる。特定の実施形態では、ニトロキシル供与性化合物は、生理的条件下で、約15モル%以下の一酸化窒素を供与することができる。特定の実施形態では、ニトロキシル供与性化合物は、生理的条件下で、約10モル%以下の一酸化窒素を供与することができる。特定の実施形態では、ニトロキシル供与性化合物は、生理的条件下で、約5モル%以下の一酸化窒素を供与することができる。特定の実施形態では、ニトロキシル供与性化合物は、生理的条件下で、約2モル%以下の一酸化窒素を供与することができる。特定の実施形態では、ニトロキシル供与性化合物は、生理的条件下で、わずかな量(例えば、約1モル%以下)の一酸化窒素を供与することができる。
【0086】
4.4 医薬組成物
本開示はまた、式(1)、(2)、(3)または(4)のニトロキシル供与性化合物および少なくとも1種の薬学的に許容される添加剤を含む医薬組成物を包含する。薬学的に許容される添加剤の例には、担体、表面活性剤、増粘剤または乳化剤、固体結合剤、分散または懸濁助剤、可溶化剤、着色剤、着香剤、コーティング剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、保存剤、等張剤、およびそれらの任意の組合せなどの、上記のものが含まれる。薬学的に許容される添加剤の選択および使用は、例えば、Troy, Ed., Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21
st Ed. (Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore, MD, 2005)において教示されている。
【0087】
様々な実施形態では、少なくとも1種の薬学的に許容される添加剤は、少なくとも1つのシクロデキストリン種を含む。特定の実施形態では、シクロデキストリンは、α(1−4)連結により連結されているグルコース単位を有する環式構造である。別の実施形態では、シクロデキストリンは、β−シクロデキストリン、すなわちα(1−4)連結により連結されている7つのグルコース単位を有する環式構造である。別の実施形態では、シクロデキストリンは、その各グルコピラノース単位の3つの利用可能なヒドロキシル基の任意の組合せを誘導体化することにより、化学修飾されている。
【0088】
薬学的に許容される添加剤が少なくとも1つのシクロデキストリン種を含む、一部の実施形態では、シクロデキストリンは、β−シクロデキストリンのスルホ(C
1〜C
6)アルキルエーテル誘導体である。これらの実施形態のいくつかでは、シクロデキストリンは、シクロデキストリン1分子あたり約6つ〜約7つのスルホ(C
1〜C
6)アルキルエーテル基を有するβ−シクロデキストリンのスルホ(C
1〜C
6)アルキルエーテル誘導体である。様々な実施形態では、シクロデキストリンは、シクロデキストリン1分子あたり平均が約6つ〜約7つのスルホ(C
1〜C
6)アルキルエーテル基を有するβ−シクロデキストリンのスルホ(C
1〜C
6)アルキルエーテル誘導体である。別のこうした実施形態では、シクロデキストリンは、シクロデキストリン1分子あたり6つまたは7つのスルホ(C
1〜C
6)アルキルエーテル基を有するβ−シクロデキストリンのスルホ(C
1〜C
6)アルキルエーテル誘導体である。
【0089】
薬学的に許容される添加剤が少なくとも1つのシクロデキストリン種を含む、一連の特定の実施形態では、シクロデキストリンは、β−シクロデキストリンのスルホ(C
3〜C
5)アルキルエーテル誘導体である。こうした一実施形態では、シクロデキストリンは、シクロデキストリン1分子あたり約6つ〜約7つのスルホ(C
3〜C
5)アルキルエーテル基を有するβ−シクロデキストリンのスルホ(C
3〜C
5)アルキルエーテル誘導体である。様々なこうした実施形態では、シクロデキストリンは、シクロデキストリン1分子あたり平均が約6つ〜約7つのスルホ(C
3〜C
5)アルキルエーテル基を有するβ−シクロデキストリンのスルホ(C
3〜C
5)アルキルエーテル誘導体である。別のこうした実施形態では、シクロデキストリンは、シクロデキストリン1分子あたり6つまたは7つのスルホ(C
3〜C
5)アルキルエーテル基を有するβ−シクロデキストリンのスルホ(C
3〜C
5)アルキルエーテル誘導体である。
【0090】
薬学的に許容される添加剤が少なくとも1つのシクロデキストリン種を含む、特定の実施形態では、シクロデキストリンは、β−シクロデキストリンのスルホブチルエーテル誘導体である。これらの実施形態のいくつかでは、シクロデキストリンは、シクロデキストリン1分子あたり約6つ〜約7つのスルホブチルエーテル基を有する、β−シクロデキストリンのスルホブチルエーテル誘導体である。別のこうした実施形態では、シクロデキストリンは、シクロデキストリン1分子あたり平均が約6つ〜約7つのスルホブチルエーテル基を有する、β−シクロデキストリンのスルホブチルエーテル誘導体である。別のこうした実施形態では、シクロデキストリンは、シクロデキストリン1分子あたり6つまたは7つのスルホブチルエーテル基を有する、β−シクロデキストリンのスルホブチルエーテル誘導体である。
【0091】
薬学的に許容される添加剤が少なくとも1つのシクロデキストリン種を含む、ある種の実施形態では、シクロデキストリンは、β−シクロデキストリンのスルホ−n−ブチルエーテル誘導体である。こうした一実施形態では、シクロデキストリンは、シクロデキストリン1分子あたり約6つ〜約7つのスルホ−n−ブチルエーテル基を有するβ−シクロデキストリンのスルホ−n−ブチルエーテル誘導体である。別のこうした実施形態では、シクロデキストリンは、シクロデキストリン1分子あたり平均が約6つ〜約7つのスルホ−n−ブチルエーテル基を有するβ−シクロデキストリンのスルホ−n−ブチルエーテル誘導体である。別のこうした実施形態では、シクロデキストリンは、シクロデキストリン1分子あたり6つまたは7つのスルホ−n−ブチルエーテル基を有するβ−シクロデキストリンのスルホ−n−ブチルエーテル誘導体である。
【0092】
薬学的に許容される添加剤が少なくとも1つのシクロデキストリン種を含む、様々な特定の実施形態では、シクロデキストリンは、生理的に適合可能なpH値において、例えば、一部の実施形態ではpH約5.0〜約6.8、一部の実施形態では約5.5〜約6.5、一部の実施形態では約5.7〜約6.3、一部の実施形態では約5.8〜約6.2、一部の実施形態では約5.9〜約6.1、および特定の実施形態では約6.0において、複数の負電荷を含む。こうした一実施形態では、少なくとも1種の薬学的に許容される添加剤は、CAPTISOL(登録商標)シクロデキストリン(Ligand Pharmaceuticals、La Jolla、CA)を含む。
【0093】
本医薬組成物は、以下:(1)例えば、ドレンチ剤(例えば、水性または非水性溶液剤または懸濁液剤)、錠剤(例えば、頬側、舌下および全身性吸収向けのもの)、カプレット剤、ボーラス剤、散剤、顆粒剤、舌への適用向けペースト剤、硬質ゼラチンカプセル剤、軟質ゼラチンカプセル剤、口腔用スプレー剤、トローチ剤、ロゼンジ剤、ペレット剤、シロップ剤、懸濁液剤、エリキシル剤、液剤、エマルション剤およびマイクロエマルション剤としての経口投与向け、または(2)例えば、滅菌液剤または懸濁液剤として、例えば、皮下、筋肉内、静脈内または硬膜外への注射による非経口投与向けに適応させたものを含めた、固体または液体形態で投与するために製剤化され得る。本医薬組成物は、即時放出、持続放出または制御放出用とすることができる。
【0094】
特定の一実施形態では、本医薬組成物は、静脈内投与用に製剤化される。別の実施形態では、本医薬組成物は、連続注入による静脈内投与用に製剤化される。
【0095】
別の実施形態では、医薬組成物は、経口投与用に製剤化することができる。経口投与向け化合物は、液体または固形剤形として製剤化することができる。ニトロキシル供与性化合物が経口液体剤形として製剤化される特定の実施形態では、ポリエチレングリコール300(PEG300)が、添加剤として有用に働き得る。
【0096】
本明細書において開示されている化合物および医薬組成物は、カプセル剤、サシェ剤、錠剤、散剤、顆粒剤、液剤、水性液体中の懸濁液剤、非水性液体中の懸濁液剤、水中油型液状エマルション剤、油中水型液状エマルション剤、リポソーム剤またはボーラス剤などの、任意の適切な単位剤形として調製することができる。
【0097】
錠剤は、場合により、1種または複数の副成分と共に、圧縮または成形により作製することができる。圧縮錠剤は、適切な機械で、場合により、結合剤、滑沢剤、不活性賦形剤、保存剤、表面活性剤または分散化剤と混合して、粉末または顆粒などの自由流動形態の治療剤(単数または複数)を圧縮することにより調製することができる。成形された錠剤は、適切な機械で、不活性液状賦形剤により湿潤させた粉末化合物の混合物を成形することにより作製することができる。錠剤は、場合によりコーティングするか、または切れ目を入れることができ、この中の活性成分の遅延または制御放出をもたらすよう、製剤化することができる。本明細書における治療剤および当分野で公知の他の化合物などの、薬学的に活性な成分のこうした遅延または制御放出組成物を製剤化する方法は、当分野で公知であり、交付されている米国特許において開示されており、それらの一部は、以下に限定されないが、米国特許第4,369,174号、同第4,842,866号、およびそこで引用されている参照文献を含む。化合物を腸に送達するために、コーティング剤を使用することができる(例えば、米国特許第6,638,534号、同第5,217,720号、同第6,569,457号、およびそこで引用されている参照文献を参照されたい)。熟練者であれば、活性成分の遅延または制御放出をもたらすために、錠剤の他に、他の剤形に製剤化することができることを認識するであろう。こうした剤形には、以下に限定されないが、カプセル剤、造粒剤、およびゲル−キャップ剤が含まれる。
【0098】
局所投与に適した医薬組成物には、非限定的に、スクロース、アカシアおよびトラガカントなどのフレーバー基剤中に成分を含むロゼンジ剤、ならびにフレーバー基剤中、またはゼラチンおよびグリセリンなどの不活性基剤中に活性成分を含むパステル剤が含まれる。
【0099】
非経口投与に適した医薬組成物の様々な実施形態には、非限定的に、水性注射用滅菌液剤か非水性注射用滅菌液剤のどちらか(それぞれ、例えば、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および意図されるレシピエントの血液との等張性を製剤に付与する溶質剤を含有する)、ならびに水性滅菌懸濁液剤および非水性滅菌懸濁液剤(それぞれ、例えば、懸濁化剤および増粘剤を含有する)が含まれる。製剤は、単位用量または多回用量用容器、例えば密封アンプルまたはバイアル中で提供することができ、使用直前に水などの滅菌液体担体の添加しか必要としないフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保管することができる。
【0100】
非経口投与される医薬組成物は、酸性、中性、または塩基性溶液中で投与することができる。一実施形態では、本開示のニトロキシル供与性化合物を含む医薬組成物は、pH約4〜約5、例えば、pH約4、約4.5、約4.8または約5(それらの間の値を含む)を有する酸性溶液中で製剤化することができる。化合物の適度な安定性を実現するために、ニトロキシル供与性組成物を製剤化するには、pH約4が一般に最適と考えられているが、こうした酸性条件下での製剤化は、非経口投与後に、潜在的に静脈刺激を引き起こすか、または悪化させる恐れがあることが発見された。刺激の量は、酸性のより低いまたは中性の溶液中にニトロキシル供与性化合物を製剤化することにより、弱めることができる(
図4を参照されたい)。したがって、特定の実施形態では、本開示のニトロキシル供与性化合物は、pH約5〜約6.2(例えば、それらの間の値を含めて、pH約5、約5.5、約5.8、約6、または約6.2)で非経口用途向けに製剤化することができる。
【0101】
4.5 本開示の化合物および医薬組成物を使用する方法
一態様では、本開示は、in vivoでのニトロキシルレベルを向上する方法であって、それを必要とする患者に、有効量の本明細書において開示されている化合物または医薬組成物を投与するステップを含む、方法を提供する。様々な実施形態では、患者は、ニトロキシル療法に応答する状態を有している、その状態を有していることが疑われる、またはその状態を有するか発生するリスクがある。
【0102】
特定の実施形態では、本開示は、ある状態の発症および/もしくは発生を処置する、予防する、または遅延させる方法であって、患者(こうした処置、予防または遅延の必要があると特定された患者を含む)に、有効量の本明細書において開示されている化合物または医薬組成物を投与するステップを含む、方法を提供する。それを必要とする患者の特定は、医師、臨床スタッフ、救急救命士または他のヘルスケア専門医の判断にあるとすることができ、主観的(例えば、意見)、または客観的(例えば、試験または診断方法により測定可能)とすることができる。
【0103】
本明細書において開示されている方法により包含される特定の状態には、非限定的に、心血管疾患、虚血/再灌流傷害、および肺高血圧症(PH)が含まれる。
【0104】
4.5.1 心血管疾患
一実施形態では、本開示は、心血管疾患を処置する方法であって、それを必要とする患者に、有効量の本明細書において開示されている化合物または医薬組成物を投与するステップを含む、方法を提供する。
【0105】
本明細書において開示されている化合物および組成物により有用に処置することができる心血管疾患および症状の例には、ニトロキシル療法に応答する心血管疾患、冠動脈閉塞、冠動脈疾患(CAD)、狭心症、心臓発作、心筋梗塞、高血圧、虚血性心筋症および梗塞、肺うっ血、肺浮腫、心臓線維症、心臓弁膜症、心膜疾患、うっ血性循環状態、末梢性浮腫、腹水症、シャーガス病、心室肥大、心臓弁疾患(heart valve disease)、心不全、拡張期心不全、収縮期心不全、うっ血性心不全、急性うっ血性心不全、急性非代償性心不全、および心臓肥大が含まれる。
【0106】
4.5.1.1 心不全
本開示のニトロキシル供与性化合物および組成物は、心不全を患う患者を処置するために使用することができる。心不全は、本明細書において開示されているどのような心不全も含めた、任意のタイプまたは形態とすることができる。心不全の非限定例には、早期段階の心不全、クラスI、II、IIIおよびIVの心不全、急性心不全、うっ血性心不全(CHF)、および急性うっ血性心不全が含まれる。一実施形態では、本開示の化合物および組成物は、急性非代償性心不全を処置するために使用することができる。
【0107】
本開示のニトロキシル供与性化合物および組成物が、心不全を患う患者を処置するために使用される実施形態では、心不全を処置する別の活性剤を投与することもできる。こうした一実施形態では、ニトロキシル供与体は、ベータ−アゴニストなどの陽性変力体と組み合わせて投与することができる。ベータ−アゴニストの例には、非限定的に、ドーパミン、ドブタミン、イソプロテレノール、こうした化合物のアナログ、およびこうした化合物の誘導体が含まれる。別の実施形態では、ニトロキシル供与体は、ベータ−アドレナリン作動性受容体アンタゴニスト(本明細書では、ベータ−アンタゴニストまたはベータ−遮断薬とも呼ばれる)と組み合わせて投与することができる。ベータ−アンタゴニストの例には、非限定的に、プロプラノロール、メトプロロール、ビソプロロール、ブシンドロール、およびカルベジロールが含まれる。
【0108】
実施例6および7に記載されている通り、本開示のニトロキシル供与性化合物のいくつかの血行動態プロファイルを評価するために、様々な心不全モデルが使用された。実施例6および7において考察されている
図1〜3において示されている通り、式(1)および式(2)の化合物により、例えば、変力作用および心筋弛緩の有意な増強、ならびに頻拍のない血圧の適度な低下が生じた。さらに、有意な血行動態作用の発現は、迅速(例えば、1時間以内)であり、ほぼ最大の作用が2時間以内に達成された。
【0109】
式(1)および式(2)の化合物の血行動態活性は、静脈内投与した場合、ニトロキシル供与体CXL−1020を含む組成物に類似しているが、CXL−1020よりも半減期が長い式(1)および式(2)の化合物の毒性学的プロファイルは、CXL−1020を含む組成物と比べて、有意に改善される(実施例9、ならびに
図2および
図5を参照されたい)。例えば、式(1)および式(2)の化合物の「無毒性量」(No Observed Adverse Effect Levels:NOAEL)は、CXL−1020に関するNOAELよりも実質的に高かった(NOAEL決定の説明に関しては、実施例9を参照されたい)。特に、式(1)の化合物は、これまで試験されたすべてのN−ヒドロキシスルホンアミド型ニトロキシル供与体のなかで、最も有利な毒性学的プロファイルを有しており、少なくとも30μg/kg/分という高い濃度で静脈内投与した場合、炎症の臨床マーカーに対して有害作用を示さない(
図4)。対照的に、CXL−1020は、0.3μg/kg/分という低い濃度において、望ましくない副作用を示し始める。
【0110】
4.5.1.2 虚血/再灌流傷害
別の実施形態では、開示されている主題は、虚血/再灌流傷害の発症および/または発生を処置する、予防する、または遅延させる方法であって、それを必要としている対象に、有効量の本明細書において開示されている化合物または医薬組成物を投与するステップを含む方法を提供する。
【0111】
特定の実施形態では、本方法は、虚血/再灌流傷害を予防するためのものである。特定の実施形態では、本開示の化合物または医薬組成物は、虚血の発症前に投与される。特定の実施形態では、本開示の医薬組成物は、心筋虚血が起こる恐れがある手順、例えば、冠状動脈バイパス移植手術などの血管形成術または手術の前に投与される。特定の実施形態では、本開示の医薬組成物は、虚血後であるが、再灌流前に投与される。特定の実施形態では、本開示の医薬組成物は、虚血および再灌流後に投与される。
【0112】
別の実施形態では、本開示の医薬組成物は、虚血事象に関するリスクのある患者に投与することができる。特定の実施形態では、本開示の医薬組成物は、将来の虚血事象に関するリスクのある患者ではあるが、虚血のエビデンスが現在ない患者に投与される。虚血事象に関するリスクのある患者であるかどうかの決定は、患者または患者の医療歴を調べることによるなどの当分野で公知の任意の方法により行うことができる。特定の実施形態では、患者は、以前に虚血事象を有している。したがって、その患者は、最初または後続する虚血事象のリスクがある恐れがある。虚血事象に関するリスクのある患者の例には、公知の高コレステロール血症、虚血(例えば、適切な臨床状況における、T波の増高もしくは逆転、またはST部の上昇もしくは降下)を伴うEKG変化、活動中の虚血に関連しない異常なEKG、CKMBの上昇、虚血の臨床的エビデンス(例えば、圧迫する胸骨下胸痛または腕の疼痛、息切れ、および/または多汗)、心筋梗塞の既歴、血清コレステロールの上昇、セデンタリーライフスタイル、部分的な冠動脈閉塞の血管造影によるエビデンス、心筋損傷の心エコーによるエビデンス、または将来の虚血事象に関するリスクの任意の他のエビデンスを有する患者が含まれる。虚血事象の例には、非限定的に、心筋梗塞(MI)、および脳血管発作(CVA)などの神経血管性虚血が含まれる。
【0113】
別の実施形態では、処置の対象は、移植される臓器である。特定の実施形態では、本開示の医薬組成物は、移植レシピエントにおける臓器の再灌流前に投与することができる。特定の実施形態では、本開示の医薬組成物は、ドナーからの臓器の取り出し前に、例えば、臓器の取り出し過程において使用される灌流カニューレにより、投与することができる。臓器ドナーが、生存ドナー、例えば腎臓のドナーである場合、本開示の化合物または医薬組成物は、臓器ドナーに投与することができる。特定の実施形態では、本開示の化合物または医薬組成物は、本化合物または医薬組成物を含む溶液中で臓器を保管することにより投与される。例えば、本開示の化合物または医薬組成物は、エチレングリコール、エチレンクロロヒドリンおよびアセトンが実質的に不含のヒドロキシエチルデンプンを含む溶液である、University of Wisconsinの「UW」溶液(米国特許第4,798,824号を参照されたい)などの臓器保存用溶液中に含ませることができる。特定の実施形態では、投与される本開示の医薬組成物により、移植臓器のレシピエントにおいて再灌流する際に、臓器組織への虚血/再灌流傷害が低減される。特定の実施形態では、本方法は、リスクのある組織における組織の壊死(梗塞のサイズ)を低減する。
【0114】
虚血/再灌流傷害は、心筋の組織以外の組織を損傷する恐れがあり、開示されている主題は、こうした損傷を処置または予防する方法を包含する。様々な実施形態では、虚血/再灌流傷害は、非心筋性である。特定の実施形態では、本方法は、脳、肝臓、消化管、腎臓、腸、または心筋以外の身体の任意の部分の組織における虚血/再灌流に起因する損傷を低減する。別の実施形態では、患者は、こうした損傷に関するリスクがある。非心筋性虚血に関するリスクのあるヒトの選択には、心筋性虚血に関するリスクを評価するために使用される指標の決定が含まれ得る。しかし、他の要因が、他の組織における虚血/再灌流に関するリスクを示し得る。例えば、手術患者は、手術に関連する虚血を経験することが多い。したがって、手術の予定がある患者は、虚血事象に関するリスクがあるとみなし得る。発作に関する以下のリスク要因(または、これらのリスク要因の部分集合)は、脳組織の虚血に関する患者のリスク、高血圧症、喫煙、頸動脈狭窄、身体不活動、糖尿病、高脂血症、一過性脳虚血発作、心房細動、冠動脈疾患、うっ血性心不全、過去の心筋梗塞、壁在血栓による左心室機能不全、および僧帽弁狭窄を実証し得る。Ingall, Postgrad. Med. 107(6):34-50 (2000)。さらに、老齢者の未処置の伝染性下痢の合併症は、心筋性、腎性、脳血管性、および腸の虚血を含み得る。Slotwiner-Nie et al., Gastroenterol. Clin. N. Amer. 30(3):625-635 (2001)。あるいは、患者は、虚血性の腸、腎臓および/または肝臓疾患に関するリスク要因に基づいて選択することができる。例えば、処置は、低血圧エピソード(手術による血液喪失など)のリスクのある老齢患者において始められると思われる。したがって、こうした適応症を示す患者は、虚血事象に関するリスクがあるとみなされると思われる。別の実施形態では、患者は、糖尿病および高血圧症などの、本明細書で列挙されている1つまたは複数の任意の状態を有する。脳動静脈奇形など、虚血をもたらす恐れがある他の状態が、虚血事象に関する患者のリスクを実証し得る。
【0115】
4.5.2 肺高血圧症
別の実施形態では、本開示の化合物または医薬組成物は、肺高血圧症の発症および/または発生を予防するかまたは遅延させるために使用することができる。こうした一実施形態では、本開示の化合物または医薬組成物は、肺動脈性肺高血圧症(PAH)の発症および/または発生を予防するかまたは遅延させるために使用することができる。
【0116】
別の実施形態では、開示されている主題は、平均肺動脈血圧(MPAP)を低下させる方法であって、それを必要とする患者に、有効量の本明細書において開示されている化合物または医薬組成物を投与するステップを含む、方法を提供する。別の実施形態では、MPAPは最大約50%低下する。別の実施形態では、MPAPは最大約25%低下する。別の実施形態では、MPAPは最大約20%低下する。別の実施形態では、MPAPは最大約15%低下する。別の実施形態では、MPAPは最大10%低下する。別の実施形態では、MPAPは最大約5%低下する。別の実施形態では、MPAPは、約12mmHg〜約16mmHgに低下する。別の実施形態では、MPAPは、約15mmHgに低下する。
【0117】
4.6 投与形式、レジメン、および用量レベル
本開示の化合物および医薬組成物は、非経口(例えば、皮下、筋肉内、静脈内、または皮内)投与により投与することができる。ある種の実施形態では、化合物または医薬組成物は、静脈内注入により投与される。他の実施形態では、本開示の化合物および医薬組成物は、経口投与により投与することができる。
【0118】
本開示の化合物を含む医薬組成物を投与する場合、投与量は、活性な医薬成分の量、すなわち本医薬組成物中に存在する、本開示のニトロキシル供与体化合物の量に基づいて表される。
【0119】
静脈内投与の場合、用量は、有用なことに、単位時間あたりの固定量として、または単位時間あたりの重量を基準とする量のどちらかとして、単位時間あたりで表すことができる。
【0120】
様々な実施形態では、本開示の化合物または医薬組成物は、少なくとも約0.1μg/kg/分、少なくとも約0.2μg/kg/分、少なくとも約0.3μg/kg/分、少なくとも約0.4μg/kg/分、少なくとも約0.5μg/kg/分、少なくとも約1μg/kg/分、少なくとも約2.5μg/kg/分、少なくとも約5μg/kg/分、少なくとも約7.5μg/kg/分、少なくとも約10μg/kg/分、少なくとも約11μg/kg/分、少なくとも約12μg/kg/分、少なくとも約13μg/kg/分、少なくとも約14μg/kg/分、少なくとも約15μg/kg/分、少なくとも約16μg/kg/分、少なくとも約17μg/kg/分、少なくとも約18μg/kg/分、少なくとも約19μg/kg/分、少なくとも約20μg/kg/分、少なくとも約21μg/kg/分、少なくとも約22μg/kg/分、少なくとも約23μg/kg/分、少なくとも約24μg/kg/分、少なくとも約25μg/kg/分、少なくとも約26μg/kg/分、少なくとも約27μg/kg/分、少なくとも約28μg/kg/分、少なくとも約29μg/kg/分、少なくとも約30μg/kg/分、少なくとも約31μg/kg/分、少なくとも約32μg/kg/分、少なくとも約33μg/kg/分、少なくとも約34μg/kg/分、少なくとも約35μg/kg/分、少なくとも約36μg/kg/分、少なくとも約37μg/kg/分、少なくとも約38μg/kg/分、少なくとも約39μg/kg/分、または少なくとも約40μg/kg/分の量で、静脈内投与される。
【0121】
様々な実施形態では、本開示の化合物または医薬組成物は、約100μg/kg/分以下、約90μg/kg/分以下、約80μg/kg/分以下、約70μg/kg/分以下、約60μg/kg/分以下、約50μg/kg/分以下、約49μg/kg/分以下、約48μg/kg/分以下、約47μg/kg/分以下、約46μg/kg/分以下、約45μg/kg/分以下、約44μg/kg/分以下、約43μg/kg/分以下、約42μg/kg/分以下、約41μg/kg/分以下、約40μg/kg/分以下、約39μg/kg/分以下、約38μg/kg/分以下、約37μg/kg/分以下、約36μg/kg/分以下、約35μg/kg/分以下、約34μg/kg/分以下、約33μg/kg/分以下、約32μg/kg/分以下、約31μg/kg/分以下、または約30μg/kg/分以下の量で、静脈内投与される。
【0122】
一部の実施形態では、本開示の化合物または医薬組成物は、約0.1μg/kg/分〜約100μg/kg/分、約1μg/kg/分〜約100μg/kg/分、約2.5μg/kg/分〜約100μg/kg/分、約5μg/kg/分〜約100μg/kg/分、約10μg/kg/分〜約100μg/kg/分、約1.0μg/kg/分〜約80μg/kg/分、約10.0μg/kg/分〜約70μg/kg/分、約20μg/kg/分〜約60μg/kg/分、約15μg/kg/分〜約50μg/kg/分、約0.01μg/kg/分〜約1.0μg/kg/分、約0.01μg/kg/分〜約10μg/kg/分、約0.1μg/kg/分〜約1.0μg/kg/分、約0.1μg/kg/分〜約10μg/kg/分、約1.0μg/kg/分〜約5μg/kg/分、約70μg/kg/分〜約100μg/kg/分、または約80μg/kg/分〜約90μg/kg/分の範囲の量で、静脈内投与される。
【0123】
特定の実施形態では、本開示の化合物または医薬組成物は、約10μg/kg/分〜約50μg/kg/分、約20μg/kg/分〜約40μg/kg/分、約25μg/kg/分〜約35μg/kg/分、または約30μg/kg/分〜約40μg/kg/分の範囲の量で静脈内投与される。特定の実施形態では、本開示の化合物または医薬組成物は、約20μg/kg/分〜約30μg/kg/分の量で、静脈内投与される。
【0124】
様々な経口投与の実施形態を含めた、様々な実施形態では、本開示の化合物または医薬組成物は、単回1日用量(QD)として、または例えば、1日2回(BID)、1日3回(TID)もしくは1日4回(QID)で投与される多回分割用量のどちらで、重量を基準とする1日投与レジメンに従って、投与される。
【0125】
ある種の実施形態では、本開示のニトロキシル供与性化合物または医薬組成物は、少なくとも約0.5mg/kg/d、少なくとも約0.75mg/kg/d、少なくとも約1.0mg/kg/d、少なくとも約1.5mg/kg/d、少なくとも約2mg/kg/d、少なくとも約2.5mg/kg/d、少なくとも約3mg/kg/d、少なくとも約4mg/kg/d、少なくとも約5mg/kg/d、少なくとも約7.5mg/kg/d、少なくとも約10mg/kg/d、少なくとも約12.5mg/kg/d、少なくとも約15mg/kg/d、少なくとも約17.5mg/kg/d、少なくとも約20mg/kg/d、少なくとも約25mg/kg/d、少なくとも約30mg/kg/d、少なくとも約35mg/kg/d、少なくとも約40mg/kg/d、少なくとも約45mg/kg/d、少なくとも約50mg/kg/d、少なくとも約60mg/kg/d、少なくとも約70mg/kg/d、少なくとも約80mg/kg/d、少なくとも約90mg/kg/d、または少なくとも約100mg/kg/dの用量で投与される。
【0126】
ある種の実施形態では、本開示のニトロキシル供与性化合物または医薬組成物は、約100mg/kg/d以下、約100mg/kg/d以下、約90mg/kg/d以下、約80mg/kg/d以下、約80mg/kg/d以下、約75mg/kg/d以下、約70mg/kg/d以下、約60mg/kg/d以下、約50mg/kg/d以下、約45mg/kg/d以下、約40mg/kg/d以下、約35mg/kg/d以下、約30mg/kg/d以下の用量で投与される。
【0127】
様々な実施形態では、用量は、約0.001mg/kg/d〜約10,000mg/kg/dである。ある種の実施形態では、用量は、約0.01mg/kg/d〜約1,000mg/kg/dである。ある種の実施形態では、用量は、約0.01mg/kg/d〜約100mg/kg/dである。ある種の実施形態では、用量は、約0.01mg/kg/d〜約10mg/kg/dである。ある種の実施形態では、用量は、約0.1mg/kg/d〜約1mg/kg/dである。ある種の実施形態では、用量は、約1g/kg/d未満である。
【0128】
ある種の実施形態では、本開示の化合物または医薬組成物に有用なN−ヒドロキシスルホンアミド型ニトロキシル供与体は、範囲の下端が、約0.1mg/kg/日〜約90mg/kg/日の任意の量であり、範囲の上端が、約1mg/kg/日〜約100mg/kg/日(例えば、一連の実施形態では約0.5mg/kg/日〜約2mg/kg/日、別の一連の実施形態では、約5mg/kg/日〜約20mg/kg/日)の任意の量である、用量範囲で投与される。
【0129】
特定の実施形態では、本開示の化合物または医薬組成物に有用なN−ヒドロキシスルホンアミド型ニトロキシル供与体は、1日1回(QD)から1日3回(TID)で投与される、約3〜約30mg/kgの用量範囲で投与される。
【0130】
ある種の実施形態では、本開示の化合物または医薬組成物は、単回1日用量(QD)として、または例えば、1日2回(BID)、1日3回(TID)もしくは1日4回(QID)で投与される多回分割用量のどちらかで、一定(すなわち、非重量基準)投与レジメンに従って投与される。
【0131】
様々な実施形態では、本開示の化合物または医薬組成物は、少なくとも約0.01グラム/日(g/d)、少なくとも約0.05g/d、少なくとも約0.1g/d、少なくとも約0.5g/d、少なくとも約1g/d、少なくとも約1.5g/d、少なくとも約2.0g/d、少なくとも約2.5g/d、少なくとも約3.0g/d、または少なくとも約3.5g/dの用量で投与される。
【0132】
様々な実施形態では、本開示の化合物または医薬組成物は、約5g/d以下、約4.5g/d以下、約4g/d以下、約3.5g/d以下、約3g/d以下、約2.5g/d以下、または約2g/d以下の用量で投与される。
【0133】
ある種の実施形態では、本開示の化合物または医薬組成物は、1日あたり約0.01グラム〜1日あたり約4.0グラムの用量で投与される。ある種の実施形態では、本開示の化合物または医薬組成物は、範囲の下端が約0.1mg/日〜約400mg/日の任意の量であり、範囲の上端が約1mg/日〜約4000mg/日の任意の量である、用量で投与することができる。ある種の実施形態では、化合物または医薬組成物は、約5mg/日〜約100mg/日の用量で投与される。様々な実施形態では、化合物または医薬組成物は、約150mg/日〜約500mg/日の用量で投与される。
【0134】
非経口または経口投与に関する投与間隔は、患者の必要性に応じて調整することができる。投与の間がより長い間隔である場合、徐放放出またはデポー製剤を使用することができる。
【0135】
本明細書において開示されている化合物または医薬組成物は、追加の治療剤の投与前、実質的にそれと同時に、またはその後に投与することができる。この投与レジメンは、追加の治療剤による予備処置および/または共投与を含み得る。こうした場合、化合物または医薬組成物、および追加の治療剤は、同時、個別、または逐次投与することができる。
【0136】
投与レジメンの例には、非限定的に、各化合物、医薬組成物または治療剤の逐次投与、および各化合物、医薬組成物もしくは治療剤の実質的に同時(例えば、単一単位剤形中として)の共投与、または各化合物、医薬組成物もしくは治療剤についての多回個別単位剤形での共投与が含まれる。
【0137】
「有効量」または「用量」(「用量レベル」)は、選択される特定の投与形式、投与レジメン、化合物および医薬組成物、ならびに処置される特定の状態および患者などの様々な要因に依存することになることは、当業者により理解されよう。例えば、適切な用量レベルは、使用される化合物または医薬組成物の活性、排出速度および潜在毒性、処置される患者の年齢、体重、一般的な健康、性別および食事、投与頻度、共投与される他の治療剤、ならびに状態のタイプおよび重症度に応じて、様々となり得る。
【0138】
4.7 化合物または医薬組成物を含むキット
本開示物は、本明細書において開示されている化合物または医薬組成物を含む、キットを提供する。特定の実施形態では、本キットは、各々が乾燥形態にある、本明細書において開示されている化合物または医薬組成物、および薬学的に許容される液状賦形剤を含む。
【0139】
特定の実施形態では、乾燥形態の化合物または乾燥形態の医薬組成物のどちらか一方は、約2.0重量%以下の水、約1.5重量%以下の水、約1.0重量%以下の水、約0.5重量%以下の水、約0.3重量%以下の水、約0.2重量%以下の水、約0.1重量%以下の水、約0.05重量%以下の水、約0.03重量%以下の水、または約0.01重量%以下の水を含有する。
【0140】
薬学的に許容される液状賦形剤は、当分野で公知であり、以下に限定されないが、滅菌水、生理食塩溶液、水性デキストロース、グリセロール、グリセロール溶液などを含む。適切な液状賦形剤の他の例は、Nairn, "Solutions, Emulsions, Suspensions and Extracts," pp. 721-752 in Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Ed. (Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore, MD, 2000)により開示されている。
【0141】
一実施形態では、本キットは、本化合物または医薬組成物を使用するための指示書をさらに含む。この指示書は、文書形態または電子形態などの任意の適切な形態にすることができる。別の実施形態では、この指示書は、文書の指示書とすることができる。別の実施形態では、この指示書は、電子保存媒体(例えば、磁気ディスケットまたは光学ディスク)に入っている。別の実施形態では、この指示書には、本化合物または医薬組成物および本化合物または医薬組成物の患者への投与方法に関する情報が含まれている。別の実施形態では、この指示書は、本明細書において開示されている使用方法(例えば、心血管疾患、虚血/再灌流傷害、肺高血圧症、およびニトロキシル療法に応答する他の状態から選択される状態の発症および/または発生の処置、予防および/または遅延)に関する。
【0142】
別の実施形態では、本キットは、適切な包装をさらに含む。本キットが、2つ以上の化合物または医薬組成物を含む場合、該化合物または医薬組成物は、個別の容器中に、または交差反応性および貯蔵寿命が許される場合、1つの容器中に一緒にして、患者ごとに(patiently)包装することができる。
(実施例)
【0143】
以下の実施例は、例示の目的で提示されており、開示されている主題の範囲を限定するように働くべきではない。
【0144】
5.1 化合物の合成
本明細書において開示されている化合物は、以下に開示されている方法に従って、または当分野で公知の手順によって作製することができる。反応用の出発原料は市販され得るか、または公知の手順もしくはその明白な改良により調製することができる。例えば、出発原料の一部は、Sigma−Aldrich(St.Louis、MO)などの商業的供給元から入手可能である。他には、March's Advanced Organic Chemistry (John Wiley and Sons)およびLarock's Comprehensive Organic Transformations (VCH Publishers)などの、標準的な参照図書において開示されている、手順またはその明白な改良により調製することができる。
【実施例1】
【0145】
N−ヒドロキシ−5−メチルフラン−2−スルホンアミド(1)の調製
0℃に冷却したTHF(6mL)および水(2mL)中のヒドロキシルアミン(50%水溶液0.92mL、13.8mmol)の溶液に、5−メチルフラン−2−スルホニルクロリド(1g、5.5mmol)をTHF(6mL)中の溶液として、温度を10℃未満に維持するよう滴下して加えた。この反応物を5分間撹拌し、その後、TLC(1:1ヘキサン:酢酸エチル(H:EA))は、スルホニルクロリドの実質的に完全な消費を示した。この反応物を50mLジクロロメタン(DCM)により2回希釈し、有機部分を分離して、水(10mL)により洗浄した。有機部分を硫酸ナトリウムで脱水してろ過し、減圧下で濃縮した。ヘプタン:EtOAcにより溶出したシリカゲルクロマトグラフィーにより生成物をクロマトグラフィーにかけ、次いでヘプタンにより粉末化すると、表題化合物が黄色固体(0.59g、収率61%)として得られた。LC−MS t
R=0.91分;
1H NMR (DMSO, 500 MHz)δppm 9.82 (1H, d, J=3.1Hz), 9.64 (1H, d, J=3.2Hz), 7.10 (1H, d, J=3.4Hz), 6.36 (1H, d, J=3.4Hz), 2.36 (3H, s).
【実施例2】
【0146】
N−ヒドロキシ−3−メタンスルホニルベンゼン−1−スルホンアミド(2)の調製
3−メタンスルホニルベンゼン−1−スルホニルクロリド
中間体である3−メタンスルホニルベンゼン−1−スルホニルクロリドは、Park et al., J. Med. Chem. 51(21):6902-6915 (2008)において開示されている方法に従って合成した。具体的には、メチルスルホニルベンゼン(110g、0.7mol)をクロロスルホン酸(450mL、6.7mol)中、90℃で18時間加熱し、その後、この反応混合物を温度約21℃に冷却した後、砕いた氷上にゆっくりと注ぎ入れた。得られたスラリーをEtOAc(各抽出に2L)に2回抽出した。有機部分を合わせてブライン(50mL)により洗浄した後、硫酸ナトリウムで脱水してろ過し、減圧下で濃縮すると、中間体のスルホニルクロリドがオフホワイト色固体(125g、75%収率)として得られた。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3)δppm 8.61 (1 h, t, J=1.7Hz), 8.35-8.31 (2H, m), 7.90 (1H, t, J=7.9Hz), 3.15 (3H, s).
【0147】
N−ヒドロキシ−3−メタンスルホニルベンゼン−1−スルホンアミド
−5℃に冷却したTHF(150mL)および水(25mL)中の水性ヒドロキシルアミン(50%水溶液16mL、245mmol)の溶液に、反応温度を10℃未満に維持しながら、3−メタンスルホニルベンゼン−1−スルホニルクロリド(25g、98mmol)をゆっくりと加えた。スルホニルクロリドの実質的に完全な消費が観察されるまで(約5分)、この反応をこの温度に維持し、その後、この反応物をDCM(250mL)により希釈し、有機部分を分離して、水50mLにより2回洗浄した。水性抽出物を合わせ、DCM(各洗浄に250mL)により2回再洗浄した。有機部分をすべて合わせ、硫酸ナトリウムで脱水してろ過し、減圧下で濃縮すると、表題化合物がベージュ色固体として得られた。ヘプタン:EtOAc(1:1;v:v)を用いて粉末化を行うと、表題化合物がベージュ色固体(14g、56%収率)として得られた。LC−MS t
R=0.90分;高分解能質量分析(HRMS):理論値(C
7H
9NO
5S
2)=249.9844、測定値=249.9833;
1H NMR (500 MHz, DMSO-d
6)δppm 9.85 (2H, q, J=3.3Hz), 8.31 (1H, t, J=1.6Hz), 8.28 (1H, dt, J=7.8, 1.3Hz), 8.14-8.19 (1H, m), 7.93 (1H, t, J=7.9Hz), 3.32 (3H, s).
【実施例3】
【0148】
5.2 実施例3:N
2Oを定量することにより決定したニトロキシル生成
亜酸化窒素(N
2O)は、HNOの二量化および脱水により生成し、ニトロキシル生成の最も一般的なマーカーである(Fukuto et al., Chem. Res. Toxicol. 18:790-801 (2005))。しかし、ニトロキシルはまた、酸素により一部失活し、N
2Oを生成しない生成物も与えることができる(Mincione et al., J. Enzyme Inhibition 13:267-284 (1998)およびScozzafava et al., J. Med. Chem. 43:3677-3687 (2000)を参照されたい)。標準品として、亜酸化窒素ガスまたはアンジェリ塩(AS)のどちらかを使用し、本開示の化合物から放出されるN
2Oの相対量を、ガスクロマトグラフィー(GC)ヘッドスペース分析により検査した。
【0149】
本開示の化合物から放出されるN
2Oの相対量を決定する手順は、以下の通りである。GCは、スプリット注入器(スプリット比10:1)、マイクロ電子捕獲検出器、およびHP−MOLSIV 30m×0.32mm×25μmモレキュラーシーブキャピラリーカラムを装備した、Agilentガスクロマトグラフで行った。ヘリウムを担体(4mL/分)ガスとして使用し、窒素をメイクアップ(20mL/分)ガスとして使用した。注入器オーブンおよび検出器オーブンは、それぞれ200℃および325℃に維持した。すべての亜酸化窒素の分析は、一定温度200℃に保持したカラムオーブンで実施した。
【0150】
ガス注入はすべて、自動ヘッドスペース分析器を使用して行った。バイアルの加圧は、15psiとした。分析器のサンプル用オーブン、サンプリング用バルブ、および移送ラインは、それぞれ、40℃、45℃および50℃に維持した。オーブンの安定化、バイアルの加圧、ループ充填、ループの平衡化、およびサンプルの注入時間は、それぞれ、1.00分、0.20分、0.20分、0.05分および1.00分とした。
【0151】
決定はすべて、サンプルの均質性について、事前に測定した体積を有する、一回分の名目上20mLのヘッドスペースバイアルを使用した(実際のバイアル体積は相対標準偏差≦2.0%で変動した(n=6))。この回分に関する平均バイアル体積は、無作為に選択した6個のバイアルから、脱イオン水の既知の密度を使用し、キャップをして密封した空(すなわち空気充填)のバイアルとキャップをして密封した脱イオン水充填バイアルとの間の重量差を計算し、次に、平均をとることにより決定した。ブランクは、2個のバイアルを密封してキャップをし、次に穏やかなアルゴン気流により、各々を20秒間、パージすることによって調製した。ニトロキシル標準品は、4個のバイアルを密封してキャップをし、次に、ガスシリンダーから、3000ppmのニトロキシル標準品の穏やかな気流を用いて、各々1分間パージすることにより調製した。
【0152】
CXL−1020(N−ヒドロキシ−2−メタンスルホニルベンゼン−1−スルホンアミド)「標準品」は、2回反復で、CXL−1020 10±0.5mgを正確に秤量して、これを各4mLバイアルに加えることにより調製した。オートピペットを使用し、アルゴンパージした無水DMF(Sigma−Aldrich)1mLを各4mLバイアルに加えて、各サンプルに関するCXL−1020保存溶液をつくり、これらのバイアルにキャップをして、振とうおよび/または音波処理して、目視観察時に、完全な溶解を確実にした。オートピペットを使用し、20mLバイアルにPBS5mL(使用前に、少なくとも30分間、アルゴンによりパージした)を投入し、少なくとも20秒間アルゴンによりパージし、ラバーセプタムを用いて密封した。50μLシリンジを使用し、PBS含有20mLバイアルの各々に、CXL−1020保存溶液50μLを注入した。
【0153】
サンプルは以下の通り、調製した。2回反復で、各サンプル18±1mgを正確に秤量して、各4mLバイアルに入れた。オートピペットを使用し、アルゴンパージした無水DMF1mLを各4mLバイアルに加えて、各サンプルに関するサンプルの保存溶液をつくり、これらのバイアルにキャップをして振とうおよび/または音波処理して、目視観察時に、サンプルの完全な溶解を確実にした。オートピペットを使用し、20mLバイアルにPBS5mL(使用前に、少なくとも30分間、アルゴンによりパージした)を投入し、少なくとも20秒間アルゴンによりパージし、ラバーセプタムを用いて密封した。これらのバイアルを37℃で少なくとも10分間、乾燥ブロックヒーター中で平衡にした。その後、50μLシリンジを使用し、PBS含有20mLバイアルの各々に、サンプルの保存溶液50μLを注入した。次に、これらのバイアルを乾燥ブロックヒーター中、37℃で、この乾燥ブロックヒーター中で費やした時間とサンプル注入前の自動ヘッドスペース分析器オーブン中で費やした時間の合計が、所望の温置時間に等しくなる時間、保持した。
【0154】
自動注入の順序は、以下の通りであった。ブランクの反復1、ブランクの反復2、N
2O標準品の反復1、N
2Oの標準品の反復2、CXL−1020標準品の反復1、CXL−1020標準品の反復2、サンプル1の反復1、サンプル1の反復2、サンプル2の反復1、サンプル2の反復2など、終わりにN
2Oの標準品の反復3、およびN
2Oの標準品の反復4。こうして決定したデータを入力して、各サンプルについて、相対N
2O収率を各温置時間に対する百分率で算出するため、EXCELスプレッドシートを使用する。得られた結果が表2に示されている。
【0155】
【表2】
【0156】
式(3)および(4)の化合物に関して、決定は、酵素により活性化したサンプルをやはり以下の通り調製した以外、上記の通りである。(i)ブタ肝臓エステラーゼ(PLE、E3019−20KU、粗製品、Sigma−Aldrich)50mgを正確に秤量して、20mLのヘッドスペースバイアルに入れる、(ii)オートピペットを使用し、アルゴンパージした無水PBS5mLを加え、PLE保存溶液をつくる、(iii)このバイアルにキャップをして振とうし、目視観察時に、完全な溶解を確実にする、(iv)ニトロキシル供与体のサンプルを、PBSを5mLの代わりに4.75mLを加える以外、上記の開示通り調製する、および(v)次に、オートピペットを使用し、サンプルの添加前に、20mLバイアルにPLE保存溶液250μmLを投入する。自動注入の順序は、以下の通りである。ブランクの反復1、ブランクの反復2、N
2O標準品の反復1、N
2Oの標準品の反復2、CXL−1020標準品の反復1、CXL−1020標準品の反復2、サンプル1(PLEなし)の反復1、サンプル1(PLEなし)の反復2、サンプル1(PLE含有)の反復1、サンプル1(PLE含有)の反復2、サンプル2(PLEなし)の反復1、サンプル2(PLEなし)の反復2、サンプル2(PLE含有)の反復1、サンプル2(PLE含有)の反復2など、終わりにN
2Oの標準品の反復3、およびN
2Oの標準品の反復4。
【0157】
本開示の化合物から放出されるN
2Oの相対量を決定する別の手順は、以下の通りである。GCは、1041マニュアル注入器、電子捕獲検出器、および25m 5Åモレキュラーシーブキャピラリーカラムを装備した、Varian CP−3800機器で行う。グレード5.0の窒素を、担体(8mL/分)とメイクアップ(22mL/分)ガスの両方として使用する。注入器オーブンおよび検出器オーブンは、それぞれ200℃および300℃に維持する。亜酸化窒素の分析はすべて、一定温度150℃に保持したカラムオーブンで実施する。ガス注入はすべて、サンプルロック付き100μLガスタイトシリンジを使用して行う。サンプルの均質性に関して、事前に測定した体積(実際のバイアル体積は、15.19〜15.20mLの範囲である)を有する、こはく色の15mLのヘッドスペースバイアル中でサンプルを調製する。バイアルに、ジエチレントリアミン五酢酸無水物(DTPA)を含有するPBS5mLを投入し、アルゴンによりパージしてラバーセプタムにより密封した。これらのバイアルを37℃で少なくとも10分間、乾燥ブロックヒーター中で平衡にする。ASの保存溶液10mMを10mM水酸化ナトリウム中で調製し、アセトニトリルまたはメタノール中のどちらかでニトロキシル供与体の溶液を調製し、調製後、直ちに使用する。これらの保存溶液から50μLを、サンプルロック付き100μLガスタイトシリンジを使用して、個々に熱平衡化したヘッドスペースバイアルに導入し、最終基質濃度0.1mMを得る。次に、基質を90分間または360分間、温置する。次に、ヘッドスペース(60μL)をサンプリングし、サンプルロック付きガスタイトシリンジを使用して、5回連続してGC装置に注入する。この手順を供与体あたり、2個以上のバイアルについて繰り返す。
【実施例4】
【0158】
5.3 実施例4:血漿中のニトロキシル供与体のin vitro安定性
化合物(1)、化合物(2)、およびCXL−1020を、血漿中で、それらの安定性について試験した。アッセイ系は、(i)pH7.4のPBS、またはラット、イヌもしくはヒト由来の血漿(少なくとも、3つの雄のドナーであり、貯留したもの)、および(ii)血漿中で実施する試験の場合、抗凝固剤(ヘパリンナトリウムまたはクエン酸ナトリウム)を含んだ。各試験化合物(5μM)を、振とうしながら、PBSまたは血漿中、37℃で、THERMOMIXER(登録商標)で温置した。7回のサンプリング時間点:0、10、30、60、90、180および360分のそれぞれで、3つのサンプル(n=3)を採取した。サンプルを、反応を終わらせるための1%ギ酸および内部標準を含有しているアセトニトリル3体積(すなわち、PBSまたは血漿の3倍体積)と直ちに混合した。試験化合物のAB SCIEX API 3000 LC−MS/MS分析を、標準曲線なしで行った。ピーク面積の応答比を使用して残留値百分率のグラフから、試験化合物の半減期(T
1/2)を求めた。求めた半減期が表3に示されている。
【0159】
【表3】
【0160】
式(3)または式(4)の化合物の半減期を測定する場合、ブタ肝臓エステラーゼ(PLE)の保存溶液を、前記化合物の添加前に、PBSまたは血漿に加える。
【実施例5】
【0161】
5.4. 実施例5:ニトロキシル供与体の溶解度
最初に、式(1)および式(2)の化合物の溶解度を、pH4の緩衝液中、100μg/mLおよび1000μg/mLで、目視評価により測定した。この緩衝液は、溶液A(クエン酸10.5023gを水1Lに溶解する)660mLと溶液B(第三クエン酸ナトリウム二水和物14.7010gを水1Lに溶解する)450mLとを混合することにより調製した。この緩衝液のpHは、pHメータにより測定したところ、3.98であった。
【0162】
2種の濃度点(100μg/mLおよび1000μg/mL)において上記で調製したpH4の緩衝溶液中で、各化合物を約5分間振とうし、溶解度を目視で観察した。得られた結果が表4に示されている。
【0163】
【表4】
【0164】
さらに、式(1)の化合物のサンプルを水中で調製し、添加剤(例えば、CAPTISOL(登録商標))の非存在下、化合物のおおよその溶解度を決定した。およそ300mg/mLの濃度を達成し、本化合物の体積寄与分を占めていない。このサンプルのpHは、2.8と求まり、0.1N NaOHを使用して4.0の目標に調整した。pH調整の際に、少量の固体の沈殿が観察された。この濁りのない溶液をアセトニトリル中で希釈し、HPLCにより分析すると、溶液濃度268mg/mLと観察された。同様の分析を式(2)の化合物について実施した。式(2)の化合物は、およそ10mg/mL溶解度を有している。
【実施例6】
【0165】
5.5 実施例6:正常および心不全のイヌにおけるニトロキシル供与体の血行動態効力(頻拍ペーシングモデル)
5.5.1 材料および方法
ニトロキシル供与体の心血管作用は、ひもにより抑制した意識のあるビーグル犬において、圧−容積(PV)曲線(ループ)分析により検査した。動物は、標準的な実験室条件下、飲水および市販のイヌ用餌を自由摂取することができた。1日あたりおよそ12時間、自動タイマーにより、蛍光照明を与えた。時々、研究に関連する作業のために、暗周期を断続的に中断した。温度および湿度をモニタリングして毎日記録し、それぞれ64°F〜84°Fの間、および30%〜70%の間で最大限、維持した。イヌは、手術前の少なくとも1週間の期間、慣れさせた。手術および回復後、動物は、最大4.5時間、ひもによる抑制に慣れさせた。動物は、手術前に、一晩、断食させた。
【0166】
手術手順
麻酔
麻酔薬の投与のために、留置静脈カテーテルを末梢静脈(例えば、橈側皮)に入れた。ブプレノルフィン(約0.015mg/kg)を静脈内(ボーラス投与)に、次いでプロポホール(約6mg/kg)の静脈内ボーラス投与により、全身麻酔を誘発した。さらに、予防用の抗生剤(セファゾリン20〜50mg/kgをi.v.により)を誘発時に与えた。生理的な範囲内にPaCO
2値を維持するため、カフ付き気管チューブを入れて、動物用従量式人工呼吸装置を介して100%O
2により機械的に肺換気(1回換気量約12.5mL/kgを伴う約12呼吸/分)させるために使用した。イソフルラン(1%〜3%)の吸入により麻酔を維持した。
【0167】
心血管用機器の設置
麻酔の安定(手術の)水準が確立すると、左開胸術を行い(厳密な無菌条件下)、各動物にソノ−マイクロメータ結晶を長期にわたり設置し、左心室(LV)の寸法/容積を得た。さらに、圧をモニタリングするために、液体充填カテーテルおよびソリッドステートマノメータ(solid-state monometer)を左心室に取り付けた。圧モニタリング/試験品投与のために、液体充填カテーテルを右心室(RV)および大動脈(Ao)に入れた。異尺性自己調節の間、LV圧−容積曲線を作製するためのその狭窄制御を可能にするため、下大静脈(IVC)の周辺に、水圧式(In−Vivo Metrics)オクルダーを設置/固定した。カテーテル/ワイヤを、肩甲骨の間に無菌で貫通させて、外に出した。血餅形成および細菌の増殖の両方を予防するため、研究の間、液体充填カテーテルを定期的(少なくとも1週間に1回)に、ロッキング溶液により洗い流した(タウロリジン−クエン酸溶液2〜3mL、TCS−04;Access Technologies)。
【0168】
ペースメーカーの埋め込み
心血管用機器の設置後、右頸静脈を注意深くむき出しにして、双極ペーシングリード/カテーテル(CAPSUREFIX(登録商標)Novus;Medtronic)でカニューレ処置した。蛍光透視下、このペーシングリードを順行方向で右心室に入れ、心内膜の先端に能動的に取り付けた(ねじ込み)。このリードの近位端部をペーシング装置に固定した(Kappa900;Medtronic)。続いて、ペースメーカーを頸部の皮下ポケットに設置/固定した。
【0169】
心臓が開胸によりむき出しになっていることを考慮し、双極ペーシングワイヤを右心室の心筋中央部に固定した。このペーシングリードを肩甲骨の間に貫通させ/外に出し、外部インパルス発生器/ペースメーカーと接続して使用した。埋め込んだ心内膜のペースメーカーは、外部/心外膜ペースメーカーへのバックアップとして使用した。
【0170】
回復
開胸から胸を閉じる前に、手術手順から蓄積する任意の液体および/またはガスを排出するための胸腔チューブを取り付けた。除去される液体の量が、およそ24時間後の吸引1回あたり35mL未満になるまで、このチューブを1日2回、吸引した。次に、この胸腔チューブを除去した。
【0171】
動物すべてに、予防用の抗生剤(セファゾリン20〜50mg/kgをi.v.により)および疼痛用医薬(約0.2mg/kgのメロキシカムをi.v.により)を投与した。必要に応じて、追加の麻酔薬も投与し、これは、フェンタニルパッチ(25〜50mcg/時間)を含んだ。手術の切開部はすべて、重ねて閉じた。下層の筋肉組織を吸収性縫合糸により閉じ、皮膚をステープルにより閉じた。
【0172】
手術後、動物は、少なくとも14日間、回復させた。手術後、セファレキシン(20〜50mg/kg)をBIDで少なくとも7日間、経口投与し、メロキシカム(0.1mg/kg)をSIDで少なくとも2日間、経口または皮下投与した。回復期全体を通して、回復の日常的な徴候に関して毎日、動物を観察し、感染可能性のなんらかの徴候について、傷の部位を観察した。疼痛、苦痛および/または感染を受けている動物には、選任獣医師および研究責任者の注意を向けた。皮膚切開部のステープルは、手術後、少なくとも7日間、除去しなかった。
【0173】
心不全の誘発
手術からの回復および/またはニトロキシル供与体による投与からの十分なウオッシュアウト期間の後、動物に、心不全症候群と一致する左心室機能不全/リモデリングを引き起こすことを目的とした、3週間の高頻度駆動ぺ一シング(210ppm)プロトコルを施した。手短に言うと、埋込みペースメーカー/右心室リードを介して、心室を、非同期かつ継続的に1分あたり210拍(bpm)でペーシングした。およそ3週間のペーシング後、左心室リモデリング(および心不全誘発)は、心エコー(例えば、駆出率(EF)は、約60%から目標とする約35%に低下する。左心室(LV)の拡張)および神経液(例えば、N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT proBNP)が上昇して、ベースライン約300pM/Lから1800pM/Lを超える)の変化の両方により確認した。ペーシングの非存在下で、心エコー図および血液サンプルを収集した(少なくとも15分間)。
【0174】
5.5.2 結果
血行動態効力の評価
動物(正常または心不全)は、ビヒクル(対照)およびニトロキシル供与体(CXL−1020、式(1)の化合物、または式(2)の化合物のいずれか)の両方により処置している間に研究した。各投与期間に、ひもで抑制した意識のある動物を、最大2〜3時間、連続的にモニタリングした。血行動態の安定化後、ビヒクルの注入を開始した。その直後に、圧−容積曲線/ループのファミリーを発生させるために、左心室の前負荷を短時間の大静脈閉塞(血管オクルダーの一過性拡張)により急激に低下させた。最大3回の閉塞を行い、各試験間に血行動態を回復させた。ビヒクルの注入を継続し、30分後、別の(ベースライン)の血行動態データ一式を収集した。ベースラインの血行動態データを収集後、試験するニトロキシル供与体化合物の注入を開始し、ビヒクル/試験化合物の注入の開始後の30、60、90、120および180分時から選択される最大4つの時間点で、血行動態タイプ/機能パラメータを得た/実施した。プラセボまたは時間対照処置群の場合、各動物に、最大180分間、適切なプラセボの注入を行った。すべての場合において、試験化合物を、一定の静脈内注入速度1mL/kg/時で送達し、モル当量用量で比較した。
【0175】
心筋の収縮期状態とエネルギー状態を表す関係を発生させるために、得られた左心室圧および容積データを解析した。収縮期血圧(SAP)、拡張期血圧(DAP)、および平均動脈血圧(MAP)を収集した。圧(ESP、EDP、dP/dt最大/分、弛緩の時定数−タウ[非ゼロ漸近線を伴う単一指数関数的減衰に基づく])および容積(収縮末期容積(ESV)、拡張末期容積(EDV)、1回心拍出量(SV))のシグナルから、左心室の機械的および/または幾何学的指標を得た。さらに、以下の測定値は、短期間の前負荷低下の間に生じる左心室の圧−容積データ(PVループ)からのタイプであった。圧容積面積(PVA)および1回心仕事量(SW)、収縮末期血圧容積関係(ESPVR)および拡張末期血圧容積関係(EDPVR)、ならびに収縮末期血圧と1回心拍出量の関係(大動脈弾性率(Ea))。正常イヌおよび心不全イヌの研究から得られた代表的なデータが、表5および表6にそれぞれ示されている。SVR(全末梢血管抵抗)の低下は、血管拡張と相関関係がある。
【0176】
【表5】
【0177】
【表6】
【0178】
図1は、心不全の頻拍ペーシングモデルを使用して、CXL−1020および本開示の2つの化合物(式(1)および式(2)の化合物)の投与の180分後の血行動態プロファイルを示す。各化合物は、100μg/kg/分の量で静脈内投与した。
図2は、心不全の頻拍ペーシングモデルを使用する、様々な投与量における式(1)の化合物の血行動態プロファイルを示す。これらの結果により、式(1)および(2)の化合物は、正常および不全イヌモデルの両方において、CXL−1020と同等の血行動態活性を有することが実証される。特に、式(1)および(2)の化合物により、変力作用および心筋弛緩の有意な増強、ならびに血圧の適度な低下が生じる。
【実施例7】
【0179】
5.6 実施例7:心不全イヌ(イヌの微小塞栓心不全モデル)におけるニトロキシル供与体の血行動態効力
5.6.1 材料および方法
心不全は、微小塞栓の逐次モデルを使用して、健常で、コンディションの整っている、目的繁殖された雑種イヌ(20〜26kg)を使用して発生させた。LV−駆出率(麻酔下、血管造影により決定した)がおよそ30%以下となるまで、冠動脈の微小塞栓形成を行った。次に、実験を開始する前に各動物が安定することを確実とするため、最後の微小塞栓形成後に2週間を与えた。
【0180】
初期用量設定研究(40分間で2〜100μg/kg/分)を3匹のイヌで行い、式(1)の化合物の治療関連用量を特定した。これらのデータに基づき、4時間にわたり3または10μg/kg/分の式(1)の化合物、次いで1時間のウオッシュアウトを受けた、6匹の動物の主要群を研究した。所与の1日に1つの用量だけ、その他を少なくとも1週間後に研究し、その順番は無作為にした。血行動態、心室造影、および心エコーの測定は、麻酔をかけたイヌ(誘発:ヒドロモルホン(0.22mg/kg i.v.)およびジアゼパム(0.17mg/kg i.v.)、維持:1〜2%イソフルラン(isofluorane))における、左心および右心のカテーテル処置の間に行った。
【0181】
LV収縮末期容積(ESV)および拡張末期容積(EDV)は、面積長さ法を使用する心室造影図から算出した。ピーク出力指数(PPI)を測定するため、フロードップラーを使用して、上行大動脈における大動脈のピーク血流速度を得た。2次元心エコー図から得られた、乳頭筋レベルにおけるLV短軸像からLV面積短縮率(fractional area of shortening)(FAS)を測定した。LV拡張機能の測定指数には、僧帽弁流入血流速度の減速時間(DT)、早期僧帽弁流入血流速度の積分値(Ei)と心房収縮期の血流速度(Ai)との比(Ei/Ai)、およびLV拡張末期円周方向壁応力(EDWS)が含まれた。
【0182】
心筋酸素消費量の測定は、ベースライン時、および10μg/kg/分の注入4時間後において行った。具体的には、冠動脈および冠静脈洞血のサンプルをベースライン時、および各研究時間点の終点時に、同時に抜き取った。酸素含有量は、ヘモキシメータにより求めた。冠動脈血流速度は、第1縁枝の近位部にある左冠動脈回旋枝、または第1対角枝の直近位にある左冠動脈前下行枝に設置した、ドップラーフロー速度ワイヤを用いて測定した。血流量は、冠動造影法から、速度測定部位における冠動脈の断面積を算出することにより見積もった。全冠動脈血流量は、冠動脈回旋枝または左冠動脈前下行枝において測定される流量の2倍と仮定した。左心室の酸素消費量(MVO2)は、全冠動脈血流量と、冠動脈と冠静脈洞血との間の酸素含有量の差との積として算出した。
【0183】
5.6.2 結果
血行動態効力の評価
ビヒクルとニトロキシル供与体の両方を用いた処置の間、動物を研究した。
図3は、イヌの微小塞栓心不全モデルを使用して評価した、イヌにおける心不全の誘発後の、式(1)の化合物の血行動態プロファイルを示す。データは、2種の注入量で注入している間の最終時間点に関して示されている。これらの結果により、式(1)の化合物は、CXL−1020と同等の血行動態活性を有することが実証された。
【0184】
5.7 ニトロキシル供与体による毒性学研究
【実施例8】
【0185】
5.7.1 実施例8:CXL−1020によるin vivo試験
ニトロキシル供与体であるCXL−1020(N−ヒドロキシ−2−メタンスルホニルベンゼン−1−スルホンアミド)のin vivo試験の間に、最大90μg/kg/分の用量のCXL−1020を連続注入することにより処置したイヌにおける耐容性を評価する、14日間の研究を実施した。この最初の研究により、CXL−1020は、60μg/kg/分の用量で投与した場合、耐容性があることが見いだされた。しかし、予想外なことに、用量60μg/kg/分において、炎症の臨床病理学的マーカーの変化に反映される、炎症過程と一致する臨床病理学的変化が観察された。この望ましくない副作用をさらに調査するため、イヌにおいて、14日間の追跡研究を開始した。この追跡研究は、他の望ましくない副作用の出現により、わずか4日後に終了する必要があった:正常な脚の機能を時として妨げる、注入カテーテルを手術により埋め込んだイヌの後脚におけるかなりの腫れおよび炎症という予想外の発生;鼠径部の皮膚の退色;活動の低下;食欲不振(inappetance);および最高用量群では、触ると冷たい皮膚。
【0186】
炎症および後脚の腫れの原因を決定するため、一連の72時間連続注入の探索的研究を、次の6か月にわたり実施した。それらの研究の結果により、CXL−1020は、5%デキストロース水溶液に希釈した、CXL−1020:CAPTISOL(登録商標)のモル比1:1のpH4の製剤中で投与すると、イヌにおいて、0.03μg/kg/分以上の用量における炎症過程と一致する臨床病理学的変化を引き起こすことが示された。大腿静脈(カテーテル先端から15cm上流)へのカテーテルの挿入部位周辺、カテーテル先端、およびカテーテル先端から下流において、血管炎症が観察された。炎症の最初の部位である、カテーテル挿入部位は、イヌの後脚の腫れ、および早期に終了した追跡研究において観察された炎症を引き起こした。注入物のpHを4から6に増加させると、炎症が軽減し、炎症プロファイルがおよそ3倍改善された。しかし、CXL−1020をイヌにおいて3μg/kg/分以上の用量で投与した場合、かなり望ましくない副作用が依然として実証された。
【0187】
カテーテル挿入部位に関連する副作用を回避し、かつ血管炎症が、埋込みカテーテルの設計によるものかどうかを評価するため、イヌにおいて、末梢(橈側皮)静脈に入れた経皮カテーテルを使用して、24時間の連続注入研究を実施した。注入の6時間後、カテーテル先端から下流の、前肢の上部にかなりの浮腫が観察された。注入の24時間後、埋込み中心カテーテルを使用した、先の研究において観察されたものと類似した臨床病理学的変化が検出された。同様に、カテーテル先端における重症な血栓性静脈炎を示し、カテーテル先端から下流に重症度の軽減勾配が進んだ顕微鏡的病理も検出された。
【0188】
より長期間の投与時に、局所静脈炎がヒトに起こるかどうかを決定するため、より長期間の研究を健常志願者で実施した。より長期間の研究は、10名の志願者のコホートに、各コホート間の安全性評価を含めた、用量10、20および30μg/kg/分でCXL−1020の24時間連続注入が逐次行われることになる、用量漸増研究を含んだ。各コホートは、1名の能動的処置および1名のプラセボ処置のセンチネルペアを含む、2名のプラセボおよび8名の能動的処置、その後に、1名のプラセボおよび7名の能動的処置の主群からなった。注入は、前腕の静脈に挿入した経皮カテーテルを介した。このカテーテルを注入の12時間後、反対側の腕に変更した。24時間の用量10μg/kg/分は、十分耐容性があることがわかった。24時間、用量20μg/kg/分を投与した第2のコホートでは、2名のプラセボ処置志願者において有害知見はなかったが、8名の対象すべてにおいて、注入部位の静脈炎と一致する、軽度の知見(臨床徴候および/または臨床病理の変化)があった。これらの結果に基づき、より長期間の安全性研究は停止した。
【0189】
より多いが、依然として臨床的に望ましい用量のCXL−1020の望ましくない副作用の原因を決定するため、探索的研究を継続した。ニトロキシル供与後に残留する部分である、CXL−1020の副生成物を用いて行った研究は陰性であり、CXL−1020の副作用は、親化合物であるCXL−1020またはそこから生成したHNOのいずれかに起因することが示された。CXL−1020とは構造的に無関係であるが、ニトロキシル供与について類似する半減期(約2分の半減期)を有する代わりのニトロキシル供与体を用いて研究を実施した。これらの供与体の場合、ニトロキシルは、カテーテル先端、およびカテーテルを挿入した静脈の直ぐ下流において、最も高い血管内濃度にあった。すべての場合において、カテーテル先端における、血管の局所副作用が観察された。これらの結果は、炎症は、短い半減期のニトロキシル供与体から急速に放出されるニトロキシルにより引き起こされることを示唆した。
【実施例9】
【0190】
5.7.2 実施例9:本開示の化合物は、CXL−1020と比べて、毒性学的プロファイルが改善される
雄および雌のビーグル犬において、研究を実施した。動物は、標準的な実験室条件下、飲水および市販のイヌ用餌を自由摂取することができた。研究プロトコルにより示された時点で、血液サンプルの収集前に動物に断食させた。1日あたりおよそ12時間、自動タイマーにより、蛍光照明を与えた。時々、研究に関連する活動のために、暗周期を断続的に中断した。温度および湿度をモニタリングして毎日記録して、それぞれ64°F〜84°Fの間、および30%〜70%の間で最大限、維持した。イヌは、少なくとも1週間の期間、慣れさせた。この期間の間に、動物を毎週秤量し、一般的健康および疾患のなんらかの徴候について観察した。これらの動物は、用量投与前に、少なくとも3日間、ジャケット着用に慣れさせた。さらに、これらの動物は、ジャケット着用の慣れ期間の間に、エリザベスカラー(e−カラー)を着用することにも慣れさせた。
【0191】
手術手順および投与手順
動物は、用量投与前の当日に、カテーテル処置した。経皮カテーテルを、肘の遠位部の橈側皮静脈に入れた(無菌技法および滅菌包帯法を使用)。連続注入用量投与の間、ケージ中で、これらの動物に自由運動させた。連続注入用量投与を容易にするため、末梢カテーテルをイヌのジャケット下に通じる拡張装置につなげ、次に、テザー注入系につなげた。動物が、末梢に入れた経皮カテーテルに触る/外すのを防止するため、カテーテル処置部位をVet Wrapを用いて包帯処置し、処置の間(すなわち、カテーテル処置期間)、e−カラーを動物に取り付けた。予備処置期間の間、注射用の0.9%塩化ナトリウム、米国薬局方(生理食塩水)を、およそ2〜4mL/時の速度で、静脈カテーテルに連続的に注入して、カテーテルの開通性を維持した。投与前に、この注入系を事前に各投与溶液により充填(ゆっくりとしたボーラス注入)して、注入用ポンプが開始したら直ちに投与が開始するのを確実とした。注入ラインを、対照または試験化合物を含有するレザバーに連結し、注入を開始した。試験組成物を、所定の一定注入速度(1または2mL/kg/時)で24時間、連続的に注入し、モル当量用量で比較した。
【0192】
臨床観察、臨床病理、および顕微鏡的病理
各動物の詳細な臨床検査は、1日2回行い、体温測定、および臨床病理のための血液サンプルは、投与前、ならびに組成物注入の開始後6時間、12時間、24時間および72時間に、すべての動物から収集した。研究の終了時に、予定した解剖時に、すべての動物を安楽死させ、全解剖検査を行った。選択した組織を集めて固定し、将来に顕微鏡検査をする可能性のために保管した。注入カテーテルを含有する橈側皮静脈を、腕頭静脈に沿って、傷を付けないように切開し、その全長に沿って検査した。非固定検体上の、カテーテル先端の位置に印を付けた。固定後、検体を切り取り、スライドに加工して、カテーテル先端、ならびにカテーテル先端の近位部および遠位部の両方(すなわち、カテーテル先端の1cm遠位部、カテーテル先端、およびカテーテル先端の1、5、10、15、および20cm近位部)の周辺組織を表す、横断的組織切片を得た。カテーテル先端に対して、「近位部」とは、心臓により近いと定義され、「遠位部」とは、心臓から遠いと定義された。
【0193】
安全性評価
炎症症候群と一致する臨床病理学的変化が、いくつかの用量の式(1)、式(2)の化合物、およびCXL−1020において観察された。各化合物は、pH4の滅菌水中で、CAPTISOL(登録商標)(7%w/v)と共に製剤化した。炎症の最も敏感なバイオマーカーは、(1)白血球数(WBC、
図4の右端部の値を103で乗数することによる(白血球数)/μLとして得られる)、(2)フィブリノゲン濃度(
図4の右端部におけるmg/dLで与えられる)、および(3)C反応性タンパク質(CRP)濃度(
図4の右端部におけるmg/Lで与えられる)であった。変化の重症度は、化合物そのもの、および化合物が投与される速度に依存した(
図4)。
図4では、この図中の右端部に従って、0(低い重症度)〜2(高い重症度)の範囲のスコアをこれらの炎症のバイオマーカーのそれぞれに割り当てた。これらのマーカースコアの合計から、累積スコアを算出した。これらの臨床病理学的マーカーに基づいて決定した、CXL−1020に対するモル当量用量(μg/kg/分)で表される、NOAELが表7に示されている。
【0194】
【表7】
【0195】
CXL−1020に関すると、0.03μg/kg/分という低い濃度でさえも、WBC、フィブリノゲンおよびCRPの有意な上昇が観察された。式(1)の化合物、および式(2)の化合物はそれぞれ、CXL−1020よりも有意に多い用量のNOAELを有している。式(1)の化合物が最も有利な毒性学的プロファイルを有しており、少なくとも20μg/kg/分という多い用量でも有害作用を示さない。このことは、CXL−1020と比べて、660倍を超える改善を表す。
【0196】
まとめると、これらの知見は、CXL−1020注入は炎症症候群を引き起こし、この症候群は式(1)の化合物および式(2)の化合物を用いることにより、実質的に軽減されることを示唆している。
【0197】
これらの知見により、カテーテル先端、カテーテル先端の下流、およびある種の状況では、カテーテル先端の上流における、CXL−1020に関連する望ましくない血管の副作用は、ニトロキシル放出により引き起こされる局所炎症によるものであることが示唆された。さらに、炎症は、半減期のより長いニトロキシル供与体を使用すると、これらの部位において有意に軽減され得ることが仮定された。確認は、カテーテル先端方向のカテーテル沿い、および先端を超えて下流20cmのところで、大腿静脈(カテーテル先端の15cm遠位部)に挿入した部位における、血管構造の詳細な組織病理検査により、ニトロキシル供与体を評価することにより得られた。浮腫、出血、血管炎症および血管周囲炎の顕微鏡法による病理学的知見は、ニトロキシル供与体の特定の用量で決定した。
【0198】
図5は、顕微鏡法による病理学的知見の集成実験室スコアを示す、「ヒートマップ」を図示しており、この場合、血管炎症、出血、血栓および血管変性/再生の重症度を、上記の血管構造の切片においてスコア化した。(1)浮腫、(2)血管炎症および血管周囲炎、ならびに(3)出血の知見を、カテーテル先端から1cm遠位部(上流)から始まり、カテーテル先端から20cm近位部(下流)まで進んだ血管の切片において、スコア化した(0=正常範囲内、1=最小、2=軽度、3=中度、4=重度から選択される値をそれぞれ割り当てた)。これらの知見スコアの合計から、集成実験室スコアを算出した。
図5において累積組織学的集成実験室スコアは、0〜2(低い重症度)から11〜12(高い重症度)の範囲である。顕微鏡的変化の重症度、およびそれらが検出されるカテーテル先端からの距離は、ニトロキシル供与体そのもの、およびニトロキシル供与体が投与される速度に依存していることが観察された。CXL−1020に対するモル当量用量(μg/kg/分)で表される、一連のニトロキシル供与体に対するこれらの顕微鏡的病理マーカーに基づいて決定されたNOAEL値が表8に示されている。
【0199】
【表8】
【0200】
表8に示されている知見は、式(1)および(2)の化合物は、CXL−1020に比べて、実質的に改善された毒性学的プロファイルを有するというさらなるエビデンスを提示している。任意の用量における血管の副作用は、カテーテル先端からの距離の関数として、重症度が低下し、またそのような血管の副作用の重症度は、用量の低下と共に低下した。これらの知見により、式(1)および(2)の化合物に関して、大きな安全域が確認され、このことは、ヒトにおける実質的な治療指数、ならびに治療有効用量および投与量で静脈内投与するのに適しているということにつながる。
【0201】
5.8 静脈内投与用溶液の安定性
【実施例10】
【0202】
5.8.1 実施例10:式(1)の化合物−25℃で保管した投与用溶液
市販のIV用賦形剤に希釈したCAPTISOL(登録商標)濃縮物から調製した、式(1)の化合物の投与用溶液の安定性を、希釈後、25℃で48時間かけ、0、8、12、16、24および48時間の分析点で評価した。必要な分析点のために、別々の組の投与用溶液を用いて、2つの研究を実行した。第1(群A)は、16時間時を除き、すべての時間点を含んだ。第2(群B)は、0および16時間時だけの分析を伴った。二組の投与用溶液を調製するために使用した濃縮物は、同一ロットの凍結乾燥済み薬物生成物(24mg/mLの式(1)の化合物/30%CAPTISOL(登録商標))からなる2つの個別のバイアルから調製した。
【0203】
濃縮物の調製
凍結乾燥済み薬物生成物(24mg/mLの式(1)の化合物/30%CAPTISOL(登録商標)、pH4)の1つのバイアルを注射用の水(WFI)品質水10mLにより再構成し、各濃縮物を調製した(群AおよびBの投与用溶液)。得られた溶液のpH値を測定し、両バイアルについて、およそ3.9と求まった。pH調整は行わなかった。濃縮物を希釈して、HPLC(XBridgeフェニルカラム(Waters);272nmのUV吸光度検出器;移動相は、0.1%(v/v)ギ酸を含有している水性アセトニトリルの段階グラジエント)により分析し、見かけ上、該溶液の全体積に対する溶解APIおよびCAPTISOL(登録商標)の寄与のために、両バイアルとも、式(1)の化合物は、名目上の値24mg/mLではなく、20〜21mg/mL含有していると求まった。
【0204】
賦形剤の調製
市販の酢酸カリウムおよびリン酸カリウム溶液を評価用に選択した。酢酸カリウムは商業的に入手し、米国薬局方のリン酸カリウム溶液は、市販品について、Hospiraの製品説明書きに従って調製した。各溶液を、5%デキストロース(D5W)および2.5%デキストロース(D2.5W)中で10mMに希釈した。市販のD5WをWFI品質の水により2倍に希釈し、D2.5W溶液を生成した。濃縮して希釈した各溶液のpHを測定した。これらの結果を表9に示している。
【0205】
【表9】
【0206】
投与用溶液の調製
式(1)の化合物の濃縮物を、5mLスケールで10mM賦形剤溶液に、容量希釈して、表10にまとめられている通り、8、1および0.1mg/mLの式(1)の化合物の濃度を達成した。各サンプルは、2回反復で調製した。10%CAPTISOL(登録商標)溶液中のデキストロース含有量を低下させて、投与用溶液が実質的に等張性となるのを確実にした。各溶液を25℃で保管した。
【0207】
【表10】
【0208】
サンプル分析
調製時、および25℃での保管の8、12、16、24および48時間後にサンプルを分析した。各サンプルの目視による外観に注目して、pHを測定し、以下に図示されている、HNO基の放出後に形成される主な分解物である式(5)の化合物の濃度および存在について、各サンプルをHPLCにより分析した。
【0209】
【化9】
【0210】
結果
安定性評価の結果を表11、表12および表13に示している。サンプル中の分解物(式(5)の化合物)に相当するピークの存在は、「X」によって表している。
【0211】
これらの結果は、一般に、各反復品について、ペア内、ならびに群AおよびBにおいて調製した対応する投与用溶液間で一致していた。回収の差異は、リン酸塩中で式(1)の化合物を0.1mg/mL含有するよう調製したサンプルについて、24および48時間の時間点における反復品間で観察された。
【0212】
酢酸塩およびリン酸塩をベースとする賦形剤中、式(1)の化合物が8mg/mLとなるよう調製されたサンプルについて、完全回収(HPLC法の精度内)および検出可能な量の式(5)の化合物ピークの不在が、48時間にわたり維持された。これらのサンプルは、実際に、式(1)の化合物をおよそ7mg/mL含有しており、濃縮物中の式(1)の化合物の濃度が20〜21mg/mLであることと一致していた。両方の賦形剤において、式(1)の化合物8mg/mLとなるよう調製されたサンプル中の方が、より低い濃度となるよう調製されたサンプル中よりも、安定性に優れていた。理論に拘泥するものではないが、式(1)の化合物がより低い濃度となるよう調製されたものと比べて、これらのサンプルの安定性が優れているのは、より高い濃度のCAPTISOL(登録商標)(希釈溶液中、10%)に起因し得ると思われる。
【0213】
サンプルはすべて、48時間の保管にわたり、濁りがなく無色のままであった。すべてのサンプルのpHは、経時的に低下した。既知の分解物(式(5)の化合物)は、式(1)の化合物を0.1mg/mL含有するよう調製したすべてのサンプルにおいてt0時(サンプルの調製直後)において、および式(1)の化合物を0.1mg/mLおよび1mg/mL含有するよう調製されたすべてのサンプルにおいて後続するすべての時間点において観察された。
【0214】
一般に、安定性は、式(1)の化合物の濃度が低下するにつれて低下した。理論に拘泥するものではないが、安定性の低下は、投与用溶液中のCAPTISOL(登録商標)の比率が低いことによる可能性が高かった。最初の分解程度(16時間まで)は、酢酸塩およびリン酸塩をベースとする賦形剤中に式(1)の化合物を0.1mg/mL含有するよう調製したサンプルと同様であった。しかし、1mg/mL含有するよう調製したサンプルの安定性は、リン酸塩中よりも酢酸塩中で、有意に良好な安定性を実証した。
【0215】
【表11】
【0216】
【表12】
【0217】
【表13】
【実施例11】
【0218】
5.8.2 実施例11:式(1)の化合物−2℃〜8℃において保管し、次いで25℃で保管した投与用溶液
市販のIV用賦形剤に希釈したCAPTISOL(登録商標)濃縮物から調製した式(1)の化合物の投与用溶液の安定性は、実施例10において記載した通り調製した。この溶液を24時間にわたり2℃〜8℃で、次いで、48時間にわたり25℃で保管して評価した。表14に示されている通り、式(1)の化合物の回収は、一般に、すべての投与用溶液について、25℃で保管した対応するサンプルの場合よりも高く(前の実施例からの表12を参照されたい)、このことは、調製して、25℃で保管する前に、2℃〜8℃で保管した投与用溶液の場合に、安定性が改善されていることを示唆している。
【0219】
【表14】
【実施例12】
【0220】
5.8.3 実施例12:式(2)の化合物−25℃で保管した投与用溶液
IV投与用の一連の式(2)の化合物の投与用溶液を評価した。pH4.0の30%CAPTISOL(登録商標)のビヒクル中、30mg/mLで調製した、式(2)の化合物の選択した濃縮物を、低、中、および高濃度(それぞれ、0.1、1および5mg/mL)で、様々な投与用溶液に希釈して評価した。式(2)の化合物を0.1および1mg/mLに希釈した場合、3種の投与用溶液、(1)D5W、(2)5mM K−リン酸塩(pH=6)を含むD5W、および(3)20mM K−リン酸塩(pH=6)を含むD5Wを評価した。式(2)の化合物を5mg/mLに希釈した場合の等モル浸透圧濃度を維持するため、投与用溶液中のデキストロースの濃度を2.5%(w/v)に低下させた。したがって、評価した投与用溶液は、(1)D2.5W、(2)5mM K−リン酸塩(pH=6)を含むD2.5W、および(3)20mM K−リン酸塩(pH=6)を含むD2.5Wであった。
【0221】
25℃でおよそ0、16、24および48時間、保管した後に、潜在的な投与用溶液を、目視による外観、pH、モル浸透圧濃度、ならびにHPLC(XBridgeフェニルカラム(Waters);272nmのUV吸光度検出器;移動相は、0.1%(v/v)ギ酸を含有している水性アセトニトリルの段階グラジエント)による濃度および純度について評価した。25℃で48時間後に濁りのない、薄黄色の外観を有した、5mMリン酸塩を含むD2.5W中の式(2)の化合物5mg/mLを唯一の例外として、サンプルはすべて濁りのない無色溶液であった。およそ350mOsm/kgのモル浸透圧濃度を有した、20mMリン酸塩を含むD5W中の式(2)の化合物1mg/mLを唯一の例外として、溶液はすべて、等モル浸透圧濃度(290±50mOsm/kg)であった。さらに、5mMリン酸塩を含むD2.5W中の式(2)の化合物5mg/mLを唯一の例外として、他のすべての投与用溶液は、48時間にわたり、目標濃度0.1、1および5mg/mLで式(2)の化合物を維持した。
【0222】
さらに、活性なニトロキシル基の放出後に形成される、既知の分解物である下に示す式(6)の化合物は、リン酸緩衝液を含有する投与用溶液中、25℃で16時間後、HPLCにより少量観察された。
【0223】
【化10】
式(6)の化合物の観測量は、本方法の検出限界の程度であった。
【0224】
式(2)の化合物5mg/mLの投与用溶液の安定性を、pHおよび緩衝液の関数として、さらに評価した。pH4.0の30%CAPTISOL(登録商標)のビヒクル中、30mg/mLで調製した、式(2)の化合物の濃縮溶液を5mg/mLに希釈して、4種の潜在的な投与用溶液にした。この4種の投与用溶液、(1)D2.5W、5mM K−リン酸塩(pH=6.0)、(2)5mM K−クエン酸塩(pH=6.0)を含むD2.5W、(3)D2.5W、5mM K−クエン酸塩(pH=5.0)、および(4)D2.5W、5mM K−酢酸塩(pH=5.0)を評価した。式(2)の化合物の投与用溶液すべてが、等モル浸透圧濃度(290±50mOsm/kg)であった。25℃でおよそ24および48時間、保管した後、投与用溶液を、目視による外観、pH、ならびにHPLCにより濃度および純度を評価した。非リン酸塩の投与用溶液は濁りがなく、無色であり、48時間にわたり、式(2)の化合物を目標濃度5mg/mLに維持した。5mMリン酸塩(pH6.0)を含むD2.5W中の式(2)の化合物5mg/mLの投与用溶液は、投与用溶液の選別と一致したが、48時間後、式(2)の化合物はわずか60%の回収率で、濁りのない、薄黄色の外観であった。さらに、既知の分解物である式(6)の化合物は、D2.5W、5mMクエン酸塩(pH5.0)中の式(2)の化合物5mg/mLを除くすべてのサンプルにおいて、HPLCにより少量観察された。
【0225】
25℃で7日間、保管した後でも、非リン酸塩の投与用溶液は、外観が依然として濁りがなく無色であった。7日間で酸性の向上が最も小さいのは、pH6.0のD2.5W、5mMクエン酸塩の投与用溶液中の式(2)の化合物5mg/mLの場合に測定される一方、pH5.0のD2.5W、5mMクエン酸塩の投与用溶液は、最初の24〜48時間にわたりpH変化が最も小さかった。さらに、25℃で14日間の保管後、5mMクエン酸塩を含有するpH6.0の投与用溶液を含むサンプルは、依然として濁りのない無色溶液である一方、5mMクエン酸塩または5mM酢酸塩のどちらか一方を含有する、pH5.0の投与用溶液は、濁りのない黄色溶液であった。結果を表15にまとめている。
【0226】
【表15】
【0227】
開示されている主題の特定の実施形態は、上記および下記に示す実施形態の1つまたは複数を任意の組合せで対象にすることができることが、当業者には明らかであろう。
【0228】
本発明は、理解を明瞭にするため、例示および実施例により、一部詳細に開示されているが、本発明の真の主旨および範囲から逸脱することなく、様々な変更を行い得ること、および均等物を置きかえることができることは、当業者に明らかである。したがって、本説明および実施例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈すべきではない。
【0229】
本明細書において開示されている参考文献、刊行物、特許および特許出願はすべて、それらの全体が参照により、本明細書に組み込まれている。