特許第6656356号(P6656356)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6656356食品包装用熱収縮性フィルム及び食品包装用熱収縮フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6656356
(24)【登録日】2020年2月6日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】食品包装用熱収縮性フィルム及び食品包装用熱収縮フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 61/06 20060101AFI20200220BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20200220BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20200220BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20200220BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20200220BHJP
   B29C 48/21 20190101ALI20200220BHJP
   B29C 48/88 20190101ALI20200220BHJP
   B29K 105/02 20060101ALN20200220BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20200220BHJP
   B29L 23/00 20060101ALN20200220BHJP
【FI】
   B29C61/06
   B65D65/40
   B32B27/28 101
   B32B27/32 101
   B29C48/08
   B29C48/21
   B29C48/88
   B29K105:02
   B29L9:00
   B29L23:00
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-508536(P2018-508536)
(86)(22)【出願日】2017年2月14日
(86)【国際出願番号】JP2017005303
(87)【国際公開番号】WO2017169208
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2018年7月4日
(31)【優先権主張番号】特願2016-72741(P2016-72741)
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】南部 翔太
(72)【発明者】
【氏名】北田 一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 忠良
【審査官】 今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−012033(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/178379(WO,A1)
【文献】 特開平10−034800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 61/06
B32B 27/28
B32B 27/32
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填物に接する内表面層、バリア層、及び当該内表面層と当該バリア層との間にある中間層の少なくとも3層を含む食品包装用熱収縮性フィルムであって、
上記内表面層と上記中間層とは隣接し、
上記中間層の厚みは、上記内表面層の厚みの1.0倍以上1.4倍以下であり、
上記内表面層は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体アイオノマー樹脂との混合物からなり
上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の含有量と上記アイオノマー樹脂の含有量との合計を100重量%としたときに、
上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の含有量が70重量%以上95重量%以下であり、
上記アイオノマー樹脂の含有量が5重量%以上30重量%以下であり、
75℃の熱水中に10秒間浸漬した際の上記食品包装用熱収縮性フィルムの面積収縮率が55%以上90%以下であることを特徴とする食品包装用熱収縮性フィルム。
【請求項2】
上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、エチレン−アクリル酸共重合体又はエチレン−メタクリル酸共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の食品包装用熱収縮性フィルム。
【請求項3】
上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、エチレン−メタクリル酸共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の食品包装用熱収縮性フィルム。
【請求項4】
上記内表面層の厚みが上記食品包装用熱収縮性フィルム全体の厚みの5%以上20%以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の食品包装用熱収縮性フィルム。
【請求項5】
上記エチレン−メタクリル酸共重合体のメルトマスフローレートは、2.5g/10min以上25g/10min以下であることを特徴とする請求項2又は3に記載の食品包装用熱収縮性フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5に記載された食品包装用熱収縮性フィルムの製造方法であって
食品包装用熱収縮性フィルムの各層を形成するための樹脂の種類の数に応じた少なくとも3つ以上の押出機で、それぞれの樹脂を溶融押出しする溶融押出工程と、
溶融押出ししたそれぞれの樹脂を、ダイに導入して共押出しする共押出工程と、
共押出ししたものを、上記バリア層、上記中間層及び上記内表面層を備える管状体とし、当該管状体における各層に含まれる樹脂の融点以下に水冷却する冷却工程と、
冷却後の上記管状体を85℃以上89℃以下の温水により加熱する加熱工程と、
加熱後の上記管状体の内部に流体を入れながら当該管状体を垂直方向に引出しつつ、縦方向(MD)の延伸倍率2.5倍以上4.0倍以下、横方向(TD)の延伸倍率2.6倍以上3.8倍以下で延伸する延伸工程と、を含ことを特徴とする食品包装用熱収縮性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品包装に用いられる熱収縮性フィルム及び熱収縮フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱収縮性フィルムを備える袋及びパウチ等の包装材料は、食品包装に用いられている。例えば、熱収縮性フィルムを備える包装材料は、包装材料中に、内容物を充填し、真空包装し、次いで真空包装した製品を熱水シャワーに通すか、熱水中に浸漬することにより、包装材料を熱収縮させ、食品包装体を得るのに用いられている。
【0003】
ここで、生肉及び加工肉等の食肉を真空包装した場合には、食肉から肉汁(ドリップ)が発生することが知られている。また、食肉をフィルムで包装する場合、収縮後の包装材料の余剰部分(以下、「耳部」と記載する)の見栄えが悪いと消費者に好まれない。そこで、包装後の食肉から発生するドリップを目立たせないために、包装材料の耳部において、食肉等の充填物に接する内表面層を熱収縮させるときの加熱によって、対向する内表面層同士を融着させること(以下、「セルフウエルド」と記載する)が行われている。しかし、セルフウエルド性が劣る場合、すなわち熱収縮後に耳部の融着がないか、ほとんど融着しない場合、包装後の保存中にドリップが耳部に溜まり、見栄えが悪くなることが問題となる。
【0004】
一般的に内表面層におけるセルフウエルド性を高めるには、内表面層にアイオノマー樹脂を含ませることが知られている。内表面層にアイオノマー樹脂を含む包装用積層体又は熱収縮性樹脂フィルムとしては、例えば、特許文献1に、内容物に接する内表面層、それに隣接する中間層、及び外表面層の少なくとも3層からなり、内表面層が無機系滑剤及び有機系滑剤を有し、中間層が有機系滑剤を有し、内表面層が、シングルサイト触媒系ポリエチレン及びLLDPE等から選択される包装用積層体が記載されている。特許文献2には、外側樹脂層と内側シール層との間にガスバリア性樹脂層及び中間樹脂層を有する熱可塑性多層フィルムであり、内側シール性樹脂層が、アイオノマー樹脂層であり、直接的に隣接して中間樹脂層が積層されており、中間樹脂層の厚みがアイオノマー樹脂層の厚みよりも大きい熱可塑性多層フィルムが記載されている。特許文献3には、2つのポリマー層を有するフィルム積層体において、第一のポリマー層の厚みが、フィルム全体の厚みの0.3倍以上であることを特徴とする、包装用フィルム積層体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO00/47406号(2000年8月17日公開)
【特許文献2】日本国公開特許公報「特開平11−207886号公報(1999年8月3日公開)」
【特許文献3】日本国公開特許公報「特開2006−264334号公報(2006年10月5日公開)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本願発明者が検討を行った結果、特許文献1及び2に開示されているような、内表面層としてアイオノマー樹脂のみを使用しているフィルムは、セルフウエルド性は保てるものの、フィルムの耳部において、対向する内表面層同士を加熱融着したとき、当該融着した箇所の低温での強度(以下、「シール強度」と記載する)が十分ではないことがわかった。
【0007】
また、特許文献3には、エチレン/アクリル酸コポリマー又はエチレン/メタクリル酸コポリマー等のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体及びアイオノマー樹脂を含む第一ポリマー層について記載されているものの、これらが第一ポリマー層に対して含まれる割合については記載されておらず、セルフウエルド性及び低温でのシール強度については言及されてない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、セルフウエルド性に優れ、且つ、低温でのシール強度が高い熱収縮性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明者が鋭意検討した結果、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体及びアイオノマー樹脂を特定の割合で内表面層に含ませることによって、セルフウエルド性に優れ、且つ、低温でのシール強度が強くなることを見出し、以下の本発明に達した。
【0010】
本発明に係る熱収縮性フィルムは、充填物に接する内表面層がエチレン−不飽和カルボン酸共重合体及びアイオノマー樹脂を含む熱収縮性フィルムであって、上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の含有量と上記アイオノマー樹脂の含有量との合計を100重量%としたときに、上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の含有量が70重量%以上95重量%以下であり、上記アイオノマー樹脂の含有量が5重量%以上30重量%以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る熱収縮性フィルムの製造方法は、充填物に接する内表面層がエチレン−不飽和カルボン酸共重合体及びアイオノマー樹脂を含み、当該内表面層、バリア層、及び、当該内表面層と当該バリア層との間にある中間層の少なくとも3層を含む熱収縮性フィルムの製造方法であって、上記熱収縮性フィルムの各層を形成するための樹脂の種類の数に応じた少なくとも3つ以上の押出機で、それぞれの樹脂を溶融押出しする溶融押出工程と、溶融押出ししたそれぞれの樹脂を、ダイに導入して共押出しする共押出工程と、共押出ししたものを、上記バリア層、上記中間層及び上記内表面層を備える管状体とし、当該管状体における各層に含まれる樹脂の融点以下に水冷却する冷却工程と、冷却後の上記管状体を85℃以上89℃以下の温水により加熱する加熱工程と、加熱後の上記管状体の内部に流体を入れながら当該管状体を垂直方向に引出しつつ、縦方向(MD)の延伸倍率2.5倍以上4.0倍以下、横方向(TD)の延伸倍率2.6倍以上3.8倍以下で延伸する延伸工程と、を含み、上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の含有量と上記アイオノマー樹脂の含有量との合計を100重量%としたときに、上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の含有量が70重量%以上95重量%以下であり、上記アイオノマー樹脂の含有量が5重量%以上30重量%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る熱収縮性フィルムは、セルフウエルド性に優れ、且つ、低温でのシール強度が高いという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る熱収縮性フィルムの一実施形態について詳細に説明する。
【0014】
<熱収縮性フィルム>
本実施形態に係る熱収縮性フィルムは、充填物に接する内表面層がエチレン−不飽和カルボン酸共重合体及びアイオノマー樹脂を含む熱収縮性フィルムであって、上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の含有量と上記アイオノマー樹脂の含有量との合計を100重量%としたときに、上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の含有量が70重量%以上95重量%以下であり、上記アイオノマー樹脂の含有量が5重量%以上30重量%以下であるものである。これにより、セルフウエルド性に優れ、且つ、熱水中に浸漬した際の面積収縮率及び低温でのシール強度が高くなる。その結果、熱収縮性フィルムを備える包装材料において、真空包装を行った際に生じる包装材料の耳部にドリップが溜まることを防ぐことができるため見栄えが良くなり、且つ、輸送をするとき等に破損しにくくなる。
【0015】
本実施形態において、セルフウエルド性に優れるとは、例えば、包装材料を22℃以上24℃以下、相対湿度45%以上55%以下の部屋で一日放置したときの、包装材料の耳部の内表面層同士の接着力が0.5N/15mm以上であることを言う。接着力は、公知の引張試験機を用いて測定することができる。
【0016】
熱収縮性フィルムの内表面層の融点が、熱収縮させるときの加熱温度付近、すなわち75℃以上95℃以下の範囲内であれば、セルフウエルド性に優れる。なお、熱収縮させるときの加熱温度としては、70℃以上90℃以下であることが好ましく、75℃以上85℃以下であることがより好ましい。
【0017】
また、本実施形態に係る熱収縮性フィルムは、75℃の熱水中に10秒間浸漬した際の面積収縮率が55%以上90%以下であることが好ましく、60%以上90%以下であることがより好ましい。なお、ここでいう面積収縮率は[1−(収縮後の熱収縮性フィルムの縦方向(MD)の長さ×収縮後の横方向(TD)の長さ)/(収縮前のMDの長さ×収縮前のTDの長さ)]×100のことを指す。
【0018】
75℃の熱水中に10秒間浸漬した際の面積収縮率が55%以上であることにより、収縮後の包装材料の耳部を少なくし、熱収縮性フィルムの内表面層と充填物とを密着させることで、食肉包装体におけるドリップの流出量を低減することができる。また、面積収縮率が90%以下であることにより、熱収縮性フィルムが過度に収縮せず、充填物を締め付ける圧迫作用によりドリップの流出を促進しないため、できるだけ充填物を圧迫せずに熱収縮性フィルムと充填物とを密着させることができ、ドリップの流出量を低減することができる。
【0019】
また、本実施形態において、低温でのシール強度が高いとは、包装材料の耳部において、対向する内表面層同士を加熱融着した部分の0℃以上10℃以下での強度が高いことをいう。低温でのシール強度は、例えば、包装材料の耳部のうちの片方を加熱融着した部分(以下、「シール部分」と記載する)に、当該シール部分から70cm上の位置である、包装材料の耳部のうちの加熱融着されていない開放側から5.5kgのボールを一つの試料につき最大5回落下させて、試料10枚についてこの処理を行い、シール部分が破裂する個数を測定することによって確かめることができる。この場合、シール部分が破裂する個数が少ないほど、シール強度が高いことを意味する。
【0020】
本実施形態に係る熱収縮性フィルムは、充填物に接する内表面層を含めばよいが、当該内表面層、バリア層、及び、内表面層とバリア層との間にある中間層の少なくとも3層を含む多層フィルムであることが好ましく、必要に応じて、バリア層の外側に接する外層、熱収縮性フィルムのうちの最も外側にある最外層、及び、各層同士を接着する接着層等を有していてもよい。内表面層、バリア層及び中間層の少なくとも3層を含むことにより、包装材料として適するという効果がある。
【0021】
また、熱収縮性フィルムの厚さとしては、フィルムの種類によっても異なるが、通常は5μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上150μmである。また、フィルムが多層で形成される場合には、各層は、通常は0.1μm以上200μm以下であり、好ましくは0.5μm以上100μm以下である。以下、本実施形態に係る熱収縮性フィルムを構成する、それぞれの層について詳細に説明する。
【0022】
〔内表面層〕
本実施形態に係る熱収縮性フィルムに含まれる内表面層は、充填物に接する層である。
【0023】
内表面層は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体及びアイオノマー樹脂を含む。本明細書では、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体とアイオノマー樹脂との混合物を単に「ブレンド物」とも称する。
【0024】
内表面層中のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体及びアイオノマー樹脂の含有量は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の含有量とアイオノマー樹脂の含有量との合計を100重量%としたときに、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の含有量が70重量%以上95重量%以下であり、アイオノマー樹脂の含有量が5重量%以上30重量%以下である。また、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の含有量が75重量%以上85重量%以下であり、アイオノマー樹脂の含有量が15重量%以上25重量%以下であることが好ましく、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の含有量が78重量%以上82重量%以下であり、アイオノマー樹脂の含有量が18重量%以上22重量%以下であることがより好ましい。エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の含有量及びアイオノマー樹脂の含有量が上述の好ましい範囲にあることにより、従来の熱収縮性フィルムよりも軽量で、高強度であり、且つ、セルフウエルド性に優れた熱収縮性フィルムを得ることができる。
【0025】
また、内表面層の厚みは、熱収縮性フィルム全体の厚みに対して通常5%以上35%以下であり、10%以上30%以下であることが好ましく、15%以上25%以下であることがより好ましい。
【0026】
内表面層の厚みを上述の好ましい範囲に設定することにより、軽量且つ、十分な強度の熱収縮性フィルムを得ることができる。
【0027】
なお、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体とアイオノマー樹脂とを混合する方法は、一般的な手法であれば特に限定されるものではなく、例えば、溶融混合、機械混合及び単純混合等の手法が挙げられる。
【0028】
(エチレン−不飽和カルボン酸共重合体)
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸の重合体である。
【0029】
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体としては、例えば、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)及びエチレン−マレイン酸共重合体(EMAH)等を挙げることができ、EAA及びEMAAが好ましく、EMAAがより好ましい。
【0030】
なお、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体としては、特に限定されるものではなく、市場で入手し得るもののうちから適宜選択して用いることができるが、以下の範囲の密度、メルトマスフローレート(MFR)及び融点を有しているものが好ましい。
【0031】
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の密度としては、透明性の観点から、0.90g/cm以上0.98g/cm以下が好ましく、0.91g/cm以上0.97g/cm以下がより好ましく、0.92g/cm以上0.96g/cm以下がさらに好ましい。
【0032】
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体のMFRとしては、2.5g/10min以上25g/10min以下が好ましく、2.5g/10min以上20g/10min以下がより好ましく、2.5g/10min以上15g/10min以下がさらに好ましい。上述の好ましい範囲であることにより、熱収縮性フィルムの低温でのシール強度が高くなる。
【0033】
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の融点としては、80℃以上110℃以下が好ましく、85℃以上106℃以下がより好ましく、90℃以上102℃以下がさらに好ましい。上述の好ましい範囲であることにより、セルフウエルド性に優れる熱収縮性フィルムを得ることができる。
【0034】
(アイオノマー樹脂)
アイオノマー樹脂は、ベースポリマーとして、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体又はエチレン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体を用い、これら共重合体中のカルボキシル基を陽イオンで中和した樹脂である。
【0035】
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体又はエチレン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体における不飽和カルボン酸としては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸及びフマル酸等が好ましく、メタクリル酸、アクリル酸及びマレイン酸等がより好ましく、メタクリル酸及びアクリル酸がより好ましい。
【0036】
エチレン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体における不飽和カルボン酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜6のアルキルエステルが好ましい。
【0037】
本実施形態では、アイオノマー樹脂として、エチレン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体のカルボキシル基を陽イオンで中和した樹脂を用いることが好ましい。当該三元共重合体としては、エチレン−メタクリル酸−アクリル酸イソブチルエステル等のエチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0038】
中和に使用する陽イオンとしては、Na、K、Li、Cs、Ag、Hg、Cu、Mg2+、Zn2+、Be2+、Ca2+、Ba2+、Cu2+、Cd2+、Hg2+、Sn2+、Pb2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Al3+、Sc3+、Fe3+及びY3+等の金属イオン並びに有機アミン等を挙げることができる。これらの中で、通常、Na、K、Ca2+及びZn2+等が好ましく用いられる。
【0039】
アイオノマー樹脂としては、一般的なものであれば特に限定されるものではなく、市場で入手し得るもののうちから適宜選択して用いることができるが、以下の範囲の密度、MFR及び融点を有しているものが好ましい。
【0040】
アイオノマー樹脂の密度としては、押出性の観点から、0.90g/cm以上1.00g/cm以下が好ましく、0.92g/cm以上0.98g/cm以下がより好ましく、0.94g/cm以上0.96g/cm以下がさらに好ましい。
【0041】
アイオノマー樹脂のMFRとしては、押出性の観点から、0.5g/10min以上2.5g/10min以下が好ましく、0.6g/10min以上2.0g/10min以下がより好ましく、0.7g/10min以上1.5g/10min以下がさらに好ましい。
【0042】
アイオノマー樹脂の融点としては、70℃以上98℃以下が好ましく、72℃以上96℃以下がより好ましく、74℃以上94℃以下がさらに好ましい。上述の好ましい範囲であることにより、セルフウエルド性に優れる熱収縮性フィルムを得ることができる。
【0043】
〔中間層〕
中間層は、充填物に接する内表面層に隣接しており、内表面層とバリア層との間にある層である。中間層は、一層構造であっても多層構造であってもよい。
【0044】
中間層を構成する樹脂としては、一般的な樹脂であれば特に限定されるものではないが、収縮率を確保することができる柔軟な樹脂であって、熱収縮性フィルムにあまり影響がないものが好ましい。
【0045】
中間層の厚みは、内表面層の厚みの1.4倍以下であることが好ましく、1.2倍以下であることがより好ましく、1.0倍以下であることがさらに好ましい。内表面層と、中間層とバリア層とを含む熱収縮性フィルムの延伸性は、中間層と、内表面層とのバランスが重要な因子である。中間層は一般的に柔軟な樹脂が多いため、割合が増えると延伸が進みインフレーションバブルを不安定にする。そこで、中間層の厚みが内表面層の厚みの1.4倍以下であることにより、延伸しすぎず、製造が困難にならない。つまり、延伸時のインフレーションバブルが安定するという効果がある。
【0046】
中間層としては、例えば、エチレン−αオレフィン共重合体(SSC−LLDPE)等の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、直鎖状超低密度ポリエチレン(SSC−VLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、EAA、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、EMAA、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体及びエチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。これらの中間層を構成する架橋性樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0047】
このような架橋性樹脂を含む中間層を備えることによって、本実施形態に係る熱収縮性フィルムは、耐メルトホール性、耐熱性及び機械的強度に優れたものとなる。
【0048】
〔バリア層〕
バリア層は熱収縮性フィルムにおいて、ガスバリア性を有するものである。
【0049】
バリア層を構成する樹脂としては、例えば、塩化ビニリデン系樹脂(PVDC)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)及びポリアミド系樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、特に高収縮性付与の観点からPVDCが好ましい。
【0050】
これらのバリア層を構成する樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0051】
〔その他の層〕
本実施形態に係る熱収縮性フィルムは、内表面層、中間層及びバリア層以外にも、その他の層をさらに有していてもよい。その他の層としては、バリア層の外側に隣接する外層、外層の外側に隣接する最外層、及び、各層同士を接着する接着層が挙げられる。なお、接着層は、層と層との間に適宜設けることができる。
【0052】
その他の層を構成する樹脂としては、一般的な樹脂であれば特に限定されるものではなく、例えば、VLDPE、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、LLDPE及びポリプロピレン等のポリオレフィン;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6−66、ナイロンMXD及びナイロン6I6T(但し、Iはイソフタル酸、Tはテレフタル酸を表す)等のポリアミド;ポリエチレンテレフタレート、及び、イソフタル酸とエチレンテレフタレートとの共重合体である共重合ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;エチレン−アクリル酸メチル共重合体;ポリ塩化ビニリデン(PVDC);EVOH;EVA;並びにアイオノマー等が挙げられる。
【0053】
また、適宜設けることが可能な接着層は、PVDC等を含むバリア層とその他の樹脂層との間、ポリオレフィン系樹脂層同士の間等に用いることも可能であり、中間層とバリア層との間にさらに設けてもよい。接着層を形成する樹脂としては、例えば、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。
【0054】
なお、熱収縮性フィルムを構成する層には、樹脂以外の成分が含まれていてもよい。樹脂以外の成分としては、各種の添加剤が挙げられ、例えば滑剤、防曇剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、染料及び顔料等が挙げられる。
【0055】
本実施形態に係る熱収縮性フィルムの層構成は、内表面層がエチレン−不飽和カルボン酸共重合体とアイオノマー樹脂とを上述の割合で含めば、特に限定はないが、外表面を構成する層から、食品等の充填物と接触する層(内表面層)へ順に記載すると、例えば、VLDPE/EVA/エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)/PVDC/ブレンド物をそれぞれ各層に含む層構成の熱収縮性フィルム、VLDPE/EVA/EMA/PVDC/EMA/EVA/ブレンド物をそれぞれ各層に含む層構成の熱収縮性フィルム、EVA/PVDC/ブレンド物をそれぞれ各層に含む層構成の熱収縮性フィルム、ナイロン/EVA/PVDC/ブレンド物をそれぞれ各層に含む層構成の熱収縮性フィルム、共重合ポリエチレンテレフタレート/接着層/ナイロン/EVOH/接着層/ブレンド物をそれぞれ各層の含む層構成の熱収縮性フィルム等が挙げられる。
【0056】
〔充填物〕
本実施形態の熱収縮性フィルムは、充填物を包装するものである。本実施形態において、充填物としては特に限定されないが、例えば、畜産肉等の食肉が挙げられ、より具体的には、牛、豚、羊及び鳥(例えば鶏、七面鳥及び鴨)等の肉が挙げられる。
【0057】
それぞれの食肉の形状は問わないが、例えば牛肉、豚肉又は羊肉の場合、カット(枝肉から切断した5kg以上15kg以下の肉塊)、ブロック(枝肉から切断した5kg未満の肉塊)、スライス及びミンチ等が挙げられ、鳥肉の場合、ホール(頭部、羽根及び内臓を除去したもの)、ブロック、スライス並びにミンチ等が挙げられる。
【0058】
<熱収縮性フィルムの製造方法>
本実施形態に係る熱収縮性フィルムは、上述の熱収縮性フィルムを製造する製造方法であって、熱収縮性フィルムの各層を形成するための樹脂の種類の数に応じた少なくとも3つ以上の押出機で、それぞれの樹脂を溶融押出しする溶融押出工程と、溶融押出ししたそれぞれの樹脂を、ダイに導入して共押出しする共押出工程と、共押出ししたものを、バリア層、中間層及び内表面層を備える管状体とし、当該管状体における各層に含まれる樹脂の融点以下に水冷却する冷却工程と、冷却後の管状体を85℃以上89℃以下の温水により加熱する加熱工程と、加熱後の管状体の内部に流体を入れながら当該管状体を垂直方向に引出しつつ、縦方向(MD)の延伸倍率2.5倍以上4.0倍以下、横方向(TD)の延伸倍率2.6倍以上3.8倍以下で延伸する延伸工程と、を含む。
【0059】
溶融押出工程において、溶融押出しするときの温度は、各層に含まれる樹脂が溶融する温度であれば特に限定されず、任意の温度を取ることができるが、例えば、内表面層を形成するためのエチレン−不飽和カルボン酸共重合体及びアイオノマー樹脂のブレンド物の場合、150℃以上195℃以下であることが好ましく、160℃以上185℃以下であることがより好ましい。中間層を形成するための樹脂の場合、160℃以上195℃以下であることが好ましく、170℃以上185℃以下であることがより好ましい。バリア層を形成するための樹脂の場合、130℃以上175℃以下であることが好ましく、140℃以上165℃以下であることがより好ましい。
【0060】
共押出工程において、環状ダイで共押出しする温度としては、155℃以上190℃以下であることが好ましく、165℃以上180℃以下であることがより好ましい。
【0061】
冷却工程において、共押出しして得られた環状体は、水浴中で冷却される。冷却温度としては、各層を構成する樹脂の融点以下の温度であればよく、例えば、3℃以上15℃以下であることが好ましく、5℃以上11℃以下であることがより好ましい。
【0062】
また、水浴中で冷却した後の環状体を、電子線照射装置の中で放射線を照射してもよい。このような形態により、各層に含まれる樹脂同士を架橋させることによって、延伸性、耐熱性及び機械的強度等を未照射のものに比べて向上させることができる。
【0063】
放射線としては、α線、β線、電子線、γ線及びX線等公知の放射線を使用することができるが、照射前後での架橋効果の観点から、電子線及びγ線が好ましく、なかでも電子線が、熱収縮性フィルムを製造する上での作業性及び生産能力の高さ等の点でより好ましい。放射線の放射条件は、目的とする用途に応じて、適宜設定すればよく、一例を挙げるならば、電子線の場合は、加速電圧が150以上500キロエレクトロンボルト(以下、「keV」と記載する)以下の範囲、照射線量が10以上200キログレイ(以下、「kGy」と記載する)以下の範囲が好ましく、γ線の場合は、線量率が0.05以上3kGy/時間の範囲が好ましい。
【0064】
また、加熱工程において、冷却後の環状体又は電子線照射後の環状体を、加熱した後、管状体とし、延伸する。
【0065】
加熱は、例えば、温水中を通過させる等によって行い、延伸する。再加熱の温度としては、延伸性の観点から、85℃以上89℃以下であることが好ましく、85℃以上87℃以下であることがより好ましい。
【0066】
加熱により延伸した管状体は、所定のサイズに止めて、インフレーションバブルを安定させるため、冷却する。冷却温度としては、6℃以上14℃以下であることが好ましく、8℃以上12℃以下であることがより好ましい。
【0067】
延伸工程において、延伸する方法としては、管状体の内部に流体を入れながら当該管状体を垂直方向に引出すインフレーション法を用いる。一軸延伸又は二軸延伸し製造することが好ましい。
【0068】
一軸又は二軸延伸を適当に行うことにより、熱収縮性フィルムの面積収縮率を上述の好ましい範囲とすることができる。また、一般的には二軸延伸すると、分子が配向するので、透明性、バリア性及び強度の観点から二軸延伸することがより好ましい。
【0069】
延伸倍率としては、特に限定されないが、縦方向(MD)の延伸倍率としては、2.5倍以上4.0倍以下であることが好ましく、2.7倍以上3.8倍以下であることがより好ましい。また、横方向(TD)の延伸倍率としては、2.6倍以上3.8倍以下であることが好ましく、2.8倍以上3.6倍以下であることがより好ましい。
【0070】
なお、一般に延伸された熱収縮性フィルムは、延伸する際にかけた温度を超える熱量がかかると収縮する。熱収縮性フィルムの収縮率は、熱収縮性フィルムを構成する材料だけではなく、延伸倍率等の製造条件によっても適宜調製することができる。
【0071】
〔まとめ〕
本発明に係る熱収縮性フィルムは、充填物に接する内表面層がエチレン−不飽和カルボン酸共重合体及びアイオノマー樹脂を含む熱収縮性フィルムであって、上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の含有量と上記アイオノマー樹脂の含有量との合計を100重量%としたときに、上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の含有量が70重量%以上95重量%以下であり、上記アイオノマー樹脂の含有量が5重量%以上30重量%以下であることを特徴とする。
【0072】
また、本発明に係る熱収縮性フィルムにおいて、上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、エチレン−アクリル酸共重合体又はエチレン−メタクリル酸共重合体であることが好ましい。
【0073】
また、本発明に係る熱収縮性フィルムにおいて、上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、エチレン−メタクリル酸共重合体であることが好ましい。
【0074】
また、本発明に係る熱収縮性フィルムにおいて、上記内表面層の厚みが上記熱収縮性フィルム全体の厚みの20%以下であることが好ましい。
【0075】
また、本発明に係る熱収縮性フィルムにおいて、上記エチレン−メタクリル酸共重合体のメルトマスフローレートは、2.5g/10min以上25g/10min以下であることが好ましい。
【0076】
また、本発明に係る熱収縮性フィルムにおいて、上記内表面層、バリア層、及び、当該内表面層と当該バリア層との間にある中間層の少なくとも3層を含み、上記中間層の厚みは、上記内表面層の厚みの1.4倍以下であることが好ましい。
【0077】
また、本発明に係る熱収縮性フィルムの製造方法は、充填物に接する内表面層がエチレン−不飽和カルボン酸共重合体及びアイオノマー樹脂を含み、当該内表面層、バリア層、及び、当該内表面層と当該バリア層との間にある中間層の少なくとも3層を含む熱収縮性フィルムの製造方法であって、上記熱収縮性フィルムの各層を形成するための樹脂の種類の数に応じた少なくとも3つ以上の押出機で、それぞれの樹脂を溶融押出しする溶融押出工程と、溶融押出ししたそれぞれの樹脂を、ダイに導入して共押出しする共押出工程と、共押出ししたものを、上記バリア層、上記中間層及び上記内表面層を備える管状体とし、当該管状体における各層に含まれる樹脂の融点以下に水冷却する冷却工程と、冷却後の上記管状体を85℃以上89℃以下の温水により加熱する加熱工程と、加熱後の上記管状体の内部に流体を入れながら当該管状体を垂直方向に引出しつつ、縦方向(MD)の延伸倍率2.5倍以上4.0倍以下、横方向(TD)の延伸倍率2.6倍以上3.8倍以下で延伸する延伸工程と、を含み、上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の含有量と上記アイオノマー樹脂の含有量との合計を100重量%としたときに、上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の含有量が70重量%以上95重量%以下であり、上記アイオノマー樹脂の含有量が5重量%以上30重量%以下であることを特徴とする。
【0078】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。また、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0079】
本発明の実施例及び比較例において内表面層に含まれるアイオノマー樹脂(IO)及びEMAAの量、並びに各種評価結果を下記表1にまとめて示す。また、以下に、実施例及び比較例の熱収縮性フィルムの各層に含まれる樹脂材料を示す。
【0080】
(樹脂材料)
(1)アイオノマー樹脂(IO)
・三井・デュポンポリケミカル(株)製のサーリン1707(以下、「IO−1」と記載する。エチレン及び不飽和カルボン酸の共重合体中のカルボキシル基を中和する陽イオン:Na、密度:0.95g/cm、MFR:0.9g/10min、融点:92℃)
・三井・デュポンポリケミカル(株)製のサーリン1706(以下、「IO−2」と記載する。エチレン及び不飽和カルボン酸の共重合体中のカルボキシル基を中和する陽イオン:Zn、密度:0.95g/cm、MFR:0.7g/10min、融点:90℃)
(2)エチレンメタクリル酸樹脂(EMAA)
・三井・デュポンポリケミカル(株)製のニュクレル0903HC(以下、「EMAA−1」と記載する。密度:0.93g/cm、MFR:2.5g/10min、融点:102℃)
・三井・デュポンポリケミカル(株)製のニュクレル925(以下、「EMAA−2」と記載する。密度:0.94g/cm、MFR:25g/10min、融点:93℃)
(3)VLDPE
・プライムポリマー(株)製のモアテックV0398CN(密度:0.907g/cm、MFR:3.3g/10min、融点:122℃)
(4)PVDC
・クレハ(株)製のクレハロン(密度:1.71g/cm、融点:140℃)
(5)EMA
・三井・デュポンポリケミカル(株)製のエルバロイ1218AC(密度:0.94g/cm3、MFR:2.0g/10min、融点:94℃)と、エルバロイ1209AC(密度:0.927g/cm、MFR:2.0g/10min、融点:101℃)とを、それぞれ33重量%:67重量%の割合で混合した接着層樹脂
(6)EVA
・TPI Polene(株)製のPolene N8038F(以下、「EVA−1」と記載する)
・TPI Polene(株)製のPolene N8036(以下、「EVA−2」と記載する)
<実施例1>
IO−2 20重量%とEMAA−1 80重量%とを溶融混合した。積層体の構成としては、外側から内側へ順に、括弧内に示す厚み(単位:μm)のVLDPE(2.0)/EVA−1(24)/EMA(1.5)/PVDC(7)/EMA(1.5)/EVA−2(9.5)/IO−2 20重量%+EMAA−1 80重量%(9.5)をそれぞれ各層に含む層構成とした。当該層構成の熱収縮性フィルムとなるように、各樹脂を複数の押し出し機でそれぞれ溶融押出しし、溶融された樹脂を環状ダイに導入し、環状ダイで上述の層構成となるように溶融された樹脂を溶融接合し、共押出し加工を行った。ダイ出口から流出した温度180℃の溶融環状体を水浴中で10℃に冷却し、扁平幅約135mmの扁平環状体とした。次に、得られた扁平環状体を加速電圧275keVの電子線照射装置の中で扁平環状体の外側から電子線を照射して100kGyの照射線量を与え、最外層に含まれるVLDPEとその内側の層に含まれるEVA−1とを架橋させた。この扁平環状体を約86℃の温水中を通過させながら加熱した後、管状体とし、10℃のエアリングを用いて管状体を冷却しながらインフレーション法により縦方向(MD)に3.1倍、横方向(TD)に3.2倍の延伸倍率で同時に二軸延伸して、扁平幅約428mmの環状二軸延伸フィルムを得た。
【0081】
<実施例2>
内表面層の樹脂の組成を表1に示した通りに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る二軸延伸フィルム(熱収縮性フィルム)を得た。
【0082】
<比較例1〜5>
内表面層の樹脂の組成を表1に示した通りに変更した以外は実施例1と同様にして、比較例1〜5に係る二軸延伸フィルム(熱収縮性フィルム)を得た。
【0083】
<熱収縮性フィルムの諸特性の評価>
以下、実施例1、2及び比較例1〜5で作製した熱収縮性フィルムの諸特性の評価方法及び評価結果を示す。
【0084】
〔面積収縮率の評価〕
熱収縮性フィルムの面積収縮率を以下の方法で測定した。
【0085】
100mm(縦方向:MD)×100mm(横方向:TD)に切り出した熱収縮性フィルムを、75℃の熱水中に10秒間浸漬した後、取り出し、常温の水中で冷却した。
【0086】
浸漬し、冷却した後の熱収縮性フィルムについて、MDの長さ及びTDの長さを定規で測定し、浸漬前のMDの長さ及びTDの長さから、MDの収縮率、TDの収縮率をそれぞれ求め、これを元に面積収縮率を算出した。
【0087】
面積収縮率は[1−(収縮後のMDの長さ×収縮後のTDの長さ)/(収縮前のMDの長さ×収縮前のTDの長さ)]×100で求めた。
【0088】
面積収縮率の判定は、以下の基準で行った。
○:面積収縮率が55%以上、90%以下
×:面積収縮率が55%未満又は90%よりも大きい
なお、表1の面積収縮率における括弧内の数値は各フィルムの面積収縮率である。
【0089】
〔セルフウエルド性の評価〕
(試料の作製)
袋状に加工した熱収縮性フィルムに充填物を詰めた。このとき、耳部の長さ(真空包装後の融着箇所(シールライン)から充填物の端までの距離)を耳部の内面同士の接着力の測定が可能な充分な長さ、例えば200mm以上とし、耳部に皺が生じないように留意する。充填物を包装した包装体を、80℃の熱水中に10秒間浸漬した後、取り出し、直ちに常温の水中で冷却した。
【0090】
(内面の接着力測定)
得られた試料を、温度23℃、相対湿度50%の部屋で一日放置した後、試料の耳部の内表面層同士の接着力を以下条件で測定した。測定値は、5回測定したときの平均強度とした。
・測定機器:オリエンテック(株)製の引張試験機テンシロンRTM−100
・つかみ具間距離:20mm
・つかみ具速度:300mm/分
・試料幅:15mm
・雰囲気温度:23℃
・雰囲気相対湿度:50%
内表面層同士の接着力の結果から、セルフウエルド性の評価を以下の基準で行った。
○:接着力が0.5N/15mm以上
×:接着力が0.5N/15mm未満
〔低温でのシール強度の評価〕
円筒状の試料の耳部のうちの片方を、240℃に加熱されたシールバーで熱融着して、袋状のシール強度測定用試料を作製した。当該試料を23℃の恒温室で1日間放置した後、5℃の恒温室に移し、3時間以上放置した。その後、試料を固定し、試料の耳部のうちの加熱融着されていない開放側から、5.5kgのボールをシール部分に落下させた。ボールを落下させる高さは、試料のシール部分から70cm上の位置とし、ボール落下試験回数は、一つの試料に対して最大5回とした。試料10枚についてこの処理を行い、シール部分の破袋した個数でシール強度を表した。シール強度の評価方法は、以下の基準に基づいて行った。
◎:1袋も破裂した袋が無く、高いシール強度を有している。
○:破裂した袋が1個以上6個以下であり、実用上、十分なシール強度を有している。
×:破裂した袋が7個以上であり、シール強度が十分ではない。
【0091】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、食肉等の真空包装材用のフィルムとして利用することができる。