特許第6656413号(P6656413)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6656413
(24)【登録日】2020年2月6日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】波形のスリーブを備えるアンカー
(51)【国際特許分類】
   F16B 13/06 20060101AFI20200220BHJP
【FI】
   F16B13/06 A
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-555944(P2018-555944)
(86)(22)【出願日】2017年4月25日
(65)【公表番号】特表2019-515207(P2019-515207A)
(43)【公表日】2019年6月6日
(86)【国際出願番号】EP2017059722
(87)【国際公開番号】WO2017186674
(87)【国際公開日】20171102
【審査請求日】2018年10月25日
(31)【優先権主張番号】16167176.3
(32)【優先日】2016年4月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】特許業務法人ナガトアンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】フェルテン, シモン
(72)【発明者】
【氏名】シェーファー, マルク
【審査官】 杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第00937039(US,A)
【文献】 特開平06−193151(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1198514(CN,A)
【文献】 特開平07−144269(JP,A)
【文献】 特表2014−513248(JP,A)
【文献】 特表2005−515381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリーブ(20)と、
前記スリーブ(20)を貫通するボルト(10)と、
軸方向において前記スリーブ(20)の前方に位置すると共に前記スリーブ(20)に軸方向に支持されている少なくとも1つの拡張要素(30)と、
を備えるアンカーであって、
前記ボルト(10)は前記拡張要素(30)のための拡張領域(15)を備え、
前記スリーブ(20)は、前記スリーブ(20)の外半径(ra)及び内半径(ri)がそれぞれ最大値を示す軸方向に延びる波の山(21)と、前記スリーブ(20)の外半径(ra)及び内半径(ri)がそれぞれ最小値を示す軸方向に延びる波の谷(22)と、を備える波形を有し、
少なくとも1つの前記拡張要素(30)は、軸方向において波の山(21)の前方に位置する拡張タブであることを特徴とするアンカー。
【請求項2】
前記スリーブ(20)は、特にその外面の少なくとも90%において一定の壁厚(d)を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のアンカー。
【請求項3】
前記波形は、前記スリーブ(20)の前記拡張要素(30)とは反対側を向いた後面(71)まで延びている、及び/又は、前記波形は、前記スリーブ(20)の全体を覆っている、ことを特徴とする請求項1または2に記載のアンカー。
【請求項4】
前記アンカーは、拡張タブとして形成された多数の拡張要素(30)を備え、1つの拡張タブはそれぞれの波の山(21)の前方に位置している、ことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のアンカー。
【請求項5】
少なくとも1つの前記拡張要素(30)は、前記スリーブ(20)と一体に形成されている、ことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のアンカー。
【請求項6】
前記スリーブ(20)には、軸方向に延びるスリット(28)が設けられており、前記スリット(28)は前記スリーブ(20)を分割すると共に、1つの波の谷(22)に配置されている、ことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のアンカー。
【請求項7】
前記ボルト(10)には少なくとも1つの突出部(11)が設けられており、前記突出部(11)は、波の山(21)において回り止めを形成する際、前記スリーブ(20)に嵌り込む、ことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のアンカー。
【請求項8】
前記突出部(11)は、少なくともある領域において、前記拡張領域(15)に対して軸方向において後方へオフセットして前記ボルト(10)に配置されている、ことを特徴とする請求項に記載のアンカー。
【請求項9】
前記スリーブ(20)は、前方へ向かって次第に細くなっている、ことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のアンカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念によるアンカーに関する。そのようなアンカーは、スリーブと、スリーブを貫通するボルトと、軸方向においてスリーブの前方に位置し且つスリーブに軸方向に支持されている拡張要素とを備えており、ボルトは拡張要素のための拡張領域を備えている。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、天然の石材から成る外装パネルを基礎構造に固定するためのアンダーカットアンカーを提示している。このアンカーは、拡張要素として、波形の閉じた拡張リングを備えている。
【0003】
特許文献2から、石板をコンクリート板と結合するための拡張アンカーが知られており、当該拡張アンカーは、拡張ボディの上へ押し開くことによって拡張可能な要素を備えている。拡張アンカーは、さらに、力を伝達する要素を備えており、当該要素によって、拡張可能な要素を押し開くための力が拡張ボディに伝達される。その際、力を伝達する要素は、力の伝達方向において、これを横切る方向と比較してより硬い。例えば、力を伝達する要素は、円柱状の中心孔と周方向において波形の外周とを備えるスリーブであり得る。
【0004】
特許文献3は、圧縮ゾーンとしてプラスチックスリーブを備える拡張ダボ(Spreizduebel)を提示しており、当該プラスチックスリーブは、共回り防止のために外面に細長いリブを備えている。外面にリブを備える別の圧縮可能なスリーブが、特許文献4から知られている。
【0005】
特許文献5は、スリットによって分割された拡張タブが拡張要素として設けられた拡張アンカーを提示している。スリットに形成された拡張タブの縁には、拡張要素がアンカーの長手軸に対して接線方向に延びている。すなわち、拡張要素は、そこで外側へ突き出ている。
【0006】
特許文献6は、拡張タブとして形成された拡張要素に、スリーブの内部へ突出すると共に局所的な壁厚の増大を形成する少なくとも1つのウェブを設けると共に、ボルトに、拡張タブを拡張する前に少なくとも部分的にウェブを収容する対応する溝を設けることを提案している。壁厚がウェブにおいて局所的に増大しているので、拡張の際、拡張要素の特に大きな最大の径方向の広がり、及び、それによって特に良好な固定が、達成され得る。
【0007】
特許文献7から、付加的な拡張スリーブを備える打ち込みアンカーが知られている。この拡張スリーブは、径方向にダボ体(Duebelkoerper)を貫通して延びるウェブを備えている。打ち込みアンカーの据え付けの際、打ち込み工具がウェブの上に載せられ、ウェブ上への打ち込み工具の作用を通じて、拡張スリーブが軸方向において前方へ移動する。ダボ体の内部に配置されたウェブは、安定化のために、波形に形成され得る。
【0008】
特許文献8は、クランプダボ(Spannduebel)を提示しており、当該クランプダボのクランプ領域の外面には、波形起伏(Riffelung)が設けられ得る。波形起伏によって、より高い摩擦係数が生じるので、クランプダボがあまりにも容易に壁から抜け出ることが防止され得る。代替的に、波形起伏に代えて、ダボを環状に取り巻く波構造を有する波形も設けられ得る。
【0009】
特許文献9は、ロックボルト用の2つの部分から成る拡張スリーブを提示しており、当該拡張スリーブは、これを環状に取り巻く波構造を有する波形を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国実用新案第202009013641号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102007060956号明細書
【特許文献3】独国実用新案第8416683号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第102006053226号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第102004010727号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第2848825号明細書
【特許文献7】独国特許発明第19538898号明細書
【特許文献8】独国特許発明第3336168号明細書
【特許文献9】米国特許第4753559号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、一方では信頼性が高く適用性が容易でありながら、製造コストが特に低く、好ましくは横荷重においても特に良好な荷重値を示すアンカーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
当該課題は、本発明に従って、請求項1の特徴を具備するアンカーによって解決される。有利な実施形態は、従属請求項において提示される。
【0013】
本発明によるアンカーは、スリーブが、スリーブの外半径及び内半径がそれぞれ最大値を示す軸方向に延びる波の山と、スリーブの外半径及び内半径がそれぞれ最小値を示す軸方向に延びる波の谷と、を備える波形を備えることを特徴としている。
【0014】
本発明の根本的な着想は、スリーブが波形を備え、当該波形においては、波の山と波の谷が、スリーブの周方向に見て交互に存在するという点に見ることができる。その際、波形は、特に同位相で、スリーブ内面にもスリーブ外面にも付与される。すなわち、波の山においては、スリーブの内半径も外半径も最大、特に局所的に最大であり、波の谷においては、スリーブの内半径も外半径も最小、特に局所的に最小である。
【0015】
この波形によって、本発明によるスリーブは、中実材(Vollmaterial)から成るスリーブと比較して本質的に材料費が安いにもかかわらず、これと同一の環状空間を覆うことができる。特に、本発明によるスリーブにおいては、ボルトをスリーブで支持するための接触点が波の谷に、スリーブを穴の壁で支持するための接触点が波の山に、それぞれ形成され得る。それによって、本発明によれば、機能性を本質的に損なうことなく、特に安価なスリーブを得ることができる。好ましくは、そのようなスリーブは、例えば金属板の変形プロセスにおいて製作され得る。それによって製造コストがさらに低減され得る。
【0016】
さらに、本発明による波形のスリーブによって、アンカーの荷重値、特に例えば地震の際に発生し得る横荷重における荷重値が、改善され得る。というのは、本発明による波形は、横方向におけるスリーブの狙い通りの変形を可能にすることができるからである。このことは、さらに以下で図面と関連して詳細に説明されるように、特に剪断力の代わりに軸方向の力成分が生成され得るという理由から、横荷重の受容を考慮した場合に有利であり得る。
【0017】
本発明によれば、波の谷及び波の山は軸方向に延びており、これは特に、スリーブの軸方向に隔たった断面において、波の山と波の谷がそれぞれ重なり合って存在することを含み得る。特に、スリーブは、少なくともある領域において、スリーブに沿って一定の断面を備え得る。すなわち、波の山及び波の谷の径方向の広がりは、長手軸に沿って変化しない。特に、波の谷及び/又は波の山は、長手軸に平行に延び得る。
【0018】
ここで、軸方向、径方向及び/又は周方向を話題にする限り、これは特に、ボルトの長手軸、スリーブの長手軸及び/又はアンカーの長手軸に関連し、これらの軸は、好ましくは一致する。また、外半径及び内半径は長手軸を起点として計測される。
【0019】
好ましくは、波形は周期的であり、これは特に、波の山及び波の谷が規則的な距離をもって繰り返されることを含み得る。これによって、特に高水準の対称性が達成され得る。このことは、力の伝達を考慮した場合に、有利であり得る。
【0020】
スリーブは、ボルトを、特に環状に取り巻いている。拡張領域は、特に、ボルトの前端の領域に設けられ得る。スリーブは、好ましくは、ボルトの拡張領域に対して、少なくともある領域において後方へオフセットしてボルトに配置されている。ボルトは、その後端の領域に、好ましくは、張力をボルトに導入するための荷重導入領域を備えている。例えば、荷重導入領域は、外ねじとして具現され得る。しかしながら、荷重導入領域を、バヨネット機構として、または、単純な断面拡張ヘッドとして具現することも考えられる。
【0021】
ボルトの拡張領域には、ボルトと拡張要素の間に、くさびギア(Keilgetriebe)が形成されており、当該くさびギアは、ボルトに軸方向の張力が作用する際、拡張要素を径方向外側へ押しやり、それによって、アンカーを穴の中に固定することができる。特に、拡張領域には、ボルトの傾斜面が設けられることができ、当該傾斜面において、ボルトの半径は、ボルトの後側に向かって減少し、すなわち、傾斜面はボルトの前側に向かって発散している。好ましくは、拡張領域は、拡張円錐である。アンカーは、特に、アンダーカットされた穴に固定されるアンダーカットアンカーであり得る。この場合、拡張要素は、固定の際、穴のアンダーカット部に嵌り込む。本発明によるアンカーは、好ましくは、外装パネルを基礎構造に固定するために用いられ得る。
【0022】
拡張要素は、軸方向においてスリーブに支持される。それによって、スリーブは、拡張要素のための受け部(Widerlager)を形成することができ、これによって、ボルトに軸方向の張力が作用している状態でボルトの拡張領域が拡張要素に対して作用する際に、拡張要素が後方へ退くことが阻止される。他方、スリーブは、その後面、例えば取り付け具(Anbauteil)において支持され得る。スリーブは、特に拡張スリーブとの区別において、スペーサスリーブとも称され得る。
【0023】
好ましくは、ボルトは一体に、特にモノリシックに形成されている。しかしながら、ボルトは複数の部分から成るものとしても形成され得る。その際、特に荷重導入領域と拡張領域は、ボルトの異なる部分に配置され得る。スリーブ及び/又はボルトは、好ましくは金属材料、特にスチールから成る。
【0024】
特に、スリーブの高さは、その外周の直径の少なくとも0.5倍、好ましくは少なくとも1倍であることが企図され得る。高さの大きなスリーブでは、本発明による材料節減効果が特に明確に認められ得る。
【0025】
波形が特に効率的に作用し得るよう、好ましくは、波の山と隣接する波の谷との間におけるスリーブの内半径の差は、少なくともある領域において、この領域でのスリーブの壁厚の少なくとも0.5倍、特に少なくとも1倍である。同じ理由から、好ましくは、波の山と隣接する波の谷との間におけるスリーブの外半径の差は、少なくともある領域において、この領域でのスリーブの壁厚の少なくとも0.5倍、特に少なくとも1倍である。山と谷の隔たりは、したがって、壁厚の少なくとも0.5倍である。
【0026】
スリーブが、その表面の特に少なくとも75%、好ましくは少なくとも90%において、一定の壁厚を有すると、特に有利である。これは、製造を考慮すると、有利であり得る。なぜなら、出発材料として金属板を用いて加工され得るからである。そのうえ、これは、力の伝達を考慮すると、有利であり得る。一定の壁厚からの逸脱は、例えば、局所的なフック要素において付与され得る。これは、スリーブと穴の壁との固定に役立つ。通例のごとく、一定の壁厚は、3%までの壁厚の変動を含み得る。
【0027】
さらに、スリーブの波形が完全に後方まで達している、すなわち波形が拡張要素とは反対側のスリーブの後面まで達していると、実用的である。特に、これによって、固定されたアンカーの波形が、穴の出口の格別近くにまで達することが保障され、これは、荷重の受容を考慮すると有利であり得る。波形がスリーブの全体を覆っていること、すなわち波の山と波の谷が、スリーブ全体に沿って、その前面から後面まで延びていることが、特に有利である。そのようなスリーブは、特に容易に製造されることができ、さらに、穴の内部での特に良好な芯出しをもたらす。
【0028】
少なくとも1つの拡張要素は、例えば、ボルトを取り巻くワイヤ製のリングであり得る。しかしながら、少なくとも1つの拡張要素が拡張タブであると、特に有利である。拡張タブは、特に、周方向にも軸方向にも平坦に延びる要素であると解釈され得る。拡張タブは、好ましくはボルトの外周の最大1/4を覆っている。すなわち、長手軸に関して計測された拡張タブの角度の広がりは、好ましくは90°より小さい。これによって、特に複数のそのような拡張タブが設けられる場合に、特に確実な拡張及び特に均等な力の導入が可能となる。拡張タブは、例えば曲げ特性に狙い通りの影響を及ぼすために、1つ以上の径方向に延びる凹部、好ましくは貫通開口を備え得る。
【0029】
拡張タブが、軸方向において波の山の前方に位置していると、特に実用的である。これは特に、拡張タブ及び波の山が、一方では、長手軸に関して共通の角度領域を覆い、すなわち拡張タブ及び波の山が、長手軸の方向で見た場合に、少なくともある領域で重なっており、他方では、拡張タブが、少なくともある領域で、軸方向において波の山よりもさらに前方に位置していることを含み得る。拡張タブは、それによって、少なくともある領域において波の山を延長し、及び/又は、少なくともある領域において波の山と一直線に並んでいる。波の山は、径方向において比較的はるか外側に位置しているので、本実施形態によれば、拡張タブも径方向において比較的はるか外側に位置し、それによって、波の山は、拡張領域に起因する小さな曲げ角度においても既に、特に効果的に穴の壁に対して作用し得る。それによって、製造コストが低いにもかかわらず、特に確実な固定がもたらされ得る。
【0030】
特に、アンカーが拡張タブとして形成された多数の拡張要素を備え、軸方向においてそれぞれの波の山の前方に拡張タブが位置していることが、企図され得る。これによって、付加的に、特に均等な力の伝達がもたらされ得る。複数の拡張タブが設けられている限り、これらの拡張タブのうち少なくとも1つ、好ましくは全てが、以上において1つの拡張タブに関連して説明されたように、具現され得る。複数の拡張タブが協働して1つの拡張スリーブを形成し得るが、これは必須ではない。
【0031】
本発明の別の有利な構成は、少なくとも1つの拡張要素がスリーブと一体に形成されている点にある。拡張要素とスリーブを統合することによって、特に扱いやすいアンカーを得ることができる。特に、少なくとも1つの拡張要素がスリーブと共にモノリシックに形成されていることが企図され得る。その際、モノリシックな具現は、特に、拡張要素とスリーブが接合箇所なしに繋がっていることを含み得る。これによって、製造が容易でありながら、アンカーの固定の信頼性がさらに高められ得る。これは、特に、拡張要素が特に確実に位置付けられるからである。
【0032】
さらに、スリーブに、当該スリーブを分割すると共に軸方向に延びるスリットが設けられていることが、特に有利である。スリットはスリーブを分割している。すなわち、スリットは、スリーブの前面から後面まで延びている。それに応じて、スリーブはボルトをC字状に取り囲んでいる。この構成は、スリーブの金属片からの特に容易な製造を可能にする。
【0033】
実用的には、スリットは波の谷に配置される。このことは、特に拡張要素が軸方向において全ての波の山の前方に位置している場合に、製造をさらに容易化し、力の導入をさらに均等化することを可能にする。
【0034】
本発明の別の有利な展開は、ボルトに少なくとも1つの突出部を設ける点にあり、当該突出部は、波の山との回り止めの形成の際に、スリーブに嵌り込む。それに応じて、突出部は、スリーブの内側において波の山に嵌り込み、それによって、長手軸の周りのボルトに対する回転に対して、スリーブを形状結合により固定する。それによって、波形は、特に容易な態様で、回り止めの機能をも果たし得る。好ましくは、突出部は、軸方向に延びるウェブである。これによって、軸方向に延びる形状結合、及び、それによって特に確実な回り止めが実現され得る。有利には、周方向に隔てられて複数の突出部が、特に軸方向に延びる複数のウェブがボルトに設けられ、それらは、それぞれ1つの波の山との回り止めの形成の際に、スリーブに嵌り込む。
【0035】
特に、突出部が、少なくともある領域で、軸方向において拡張領域に対して後方にオフセットしてボルトに配置されていることが企図され得る。それによって、拡張領域は、軸方向の移動がブロックされることによりスリーブが誤って位置付けられた際に、拡張挙動に対して潜在的にネガティブな影響を及ぼし得る隆起が無いままとされる。すなわち、この実施形態によって、特に容易な態様で、信頼性がさらに高められ得る。
【0036】
本発明の有利な構成は、スリーブが前方へ向かって次第に細くなっている点にある。縮径(Verjuengung)は、特に波の山に設けられることができる。すなわち、波の山は、前方へ長手軸に向かって延びている。このように構成されたスリーブによって、特に容易な態様で穴の直径の逸脱が補償されることができ、穴の内部での特に良好な座りを得ることができる。好ましくは、スリーブは、円錐状に前方へ向かって次第に細くなっている。これは、特に、波の山が円錐の母線を定義することを含み得る。
【0037】
本発明が、以下において、添付の図面に概略的に示された有利な実施例に基づいて詳細に説明される。その際、以下で示される実施例の個々の特徴は、本発明の枠内において、単独であるいは任意の組み合わせにおいて実現され得る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明によるアンカーの透視図である。
図2図1のアンカーの別の透視図であって、この場合、アンカーは基礎の穴の中に配置されている。
図3図1及び2のアンカーのスリーブの平面図である。
図4図1及び2のアンカーの縦断面図である。
図5】横荷重の下での図1及び2のアンカーの、スリーブの高さにおける横断面図である。
図6】横荷重の下での図1及び2のアンカーの縦断面図である。
図7図1及び2のアンカーの変形例の、スリーブの高さにおける横断面図である。
図8図1及び2のアンカーの変形例の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
同様に作用する要素は、図において、同一の参照符号によって示されている。
【0040】
図1〜6は、本発明によるアンカーの実施形態を示している。アンカーは縦長のボルト10を備えており、当該ボルト10は、外ねじとして形成された荷重導入領域19を後端の領域に、少なくとも近似的に円錐状の拡張領域15を前端の領域に、それぞれ備えている。拡張領域15において、ボルト10の断面は、前方へ向かって拡大している。
【0041】
アンカーは、さらに、ボルト10を環状に取り巻くスリーブ20を備えている。スリーブ20の前側には、複数の、例えば6個の拡張要素30が配置されている。これらの拡張要素30は、円筒の外殻の断片のような拡張タブとして形成されており、スリーブ20と共に一体にモノリシックに具現されている。拡張要素30は、少なくとも近似的に等間隔に、ボルト10の周りに配置されている。特に図1に示されているように、拡張要素30は、スリーブ20への移行部に、それぞれ1つの貫通開口31として形成された凹部を備えており、当該凹部によって曲げ特性が調整され得る。
【0042】
図2に示されたアンカーの意図される適用において、アンカーは、その前側から先に基礎9の穴の中へ挿入される。ボルト10に張力が発生したら、ボルト10の拡張領域15が軸方向に拡張要素30の内部へ引き込まれる。ボルト10は拡張領域15において前方へ拡大しているので、ボルト10の張力は、拡張要素30への径方向の力成分に変換される。それによって、拡張要素30は穴の壁98に押し付けられ、アンカーが基礎9の中に固定される。スリーブ20は、拡張要素30のための軸方向の受け部を形成し、それによって、拡張要素30が後方へ退くことが阻止される。他方、スリーブ20は、スリーブ20の後面71において、図6にのみ示されている取り付け具8によって保持される。
【0043】
スリーブ20は、スリーブ20の周方向において交互に並んだ多数の波の山21及び波の谷22を備える波形を有している。波の山21及び波の谷22は、それぞれスリーブ20に沿って軸方向に、すなわち長手軸99の方向に延びている。その際、波の山21及び波の谷22はスリーブ20全体を覆っており、特にスリーブ20の後面71まで延びている。特に図3において認識され得るように、長手軸99を起点として計測したスリーブ20の内半径rも、長手軸99を起点として計測したスリーブ20の外半径rも、それぞれ波の山21において局所的な最大値を示している。それとは反対に、スリーブ20の内半径rも、スリーブ20の外半径rも、それぞれ波の谷22において局所的な最小値を示している。スリーブ20の壁厚dは、波形上で実質的に一定である。
【0044】
拡張要素30は、それぞれ波の山21の前に位置しており、軸方向において当該波の山21と一直線に並んでいる。それによって、特に各拡張要素30の内半径r及び外半径rは、それぞれ隣接する波の山21に続いている。このことは、特に図3において認識され得る。
【0045】
スリーブ20はスリット28を備えており、当該スリット28は、軸方向においてスリーブ20全体に亘って延び、スリーブ20を分割している。それによって、スリーブ20は、ボルト10を包み込むC形状を有している。スリット28は波の谷22に配置されており、それにより、周方向において拡張要素30からオフセットしている。
【0046】
特に図4に示されているように、スリーブ20は、前方へ向かって、すなわちボルト10の拡張領域15に向かって僅かに次第に細くなる形状を有している。特に円錐状であり得る縮径は、特に波の山21に付与されている。すなわち、波の山21は、前方へ長手軸99に向かって延びている。スリーブ20の次第に細くなる形状及びその波形によって、当該スリーブ20は、特に正確に円形ではない穴の内部においても、自らセンタリングされ得る。縮径の開角(Oeffnungswinkel)は、好ましくは10°より小さく、特に5°より小さい。
【0047】
特に図3に示されているように、山と谷の隔たり、すなわち波の山21と隣接する波の谷22の間のスリーブ20の内半径r及び/又はスリーブ20の外半径rの差は、壁厚dより大きい。ボルト10と穴の壁98の間の環状の隙間がスリーブ20の壁厚dより大きいにもかかわらず、波形のゆえに、スリーブ20は、穴の壁98においても、すなわち波の山21においても、ボルト10においても、すなわち波の谷22においても、支持され得る。
【0048】
さらに、波形によって、例えば地震によって生成される横荷重が作用する場合にも、格別優れた負荷挙動が得られる。これは、特に図5及び6に示されている。これらの図は、取り付け具8を介してボルト10に横荷重が作用する場合を示している。この場合、横荷重の方向においてボルト10の前方に位置する波形の領域(図5の下部)は、ボルト10によって平坦に圧され得る。すなわち、地震荷重の下では、特定の変形経路が許容され、その結果、硬くて撓みにくいスリーブと比較して、荷重挙動の改善がもたらされ得る。
【0049】
特に、スリーブ20の変形は、図6に示されているように、ボルト10の(図6において左方への)僅かな傾斜を結果として伴い、当該変形によって、横荷重の方向とは反対側(図6において右側)の拡張領域15が軸方向においてスリーブ20に向かって引っ張られ、それによって、主荷重方向の荷重がアンカーに負荷され得る。主荷重方向に対して横向きに作用する横荷重は、このメカニズムを通じて、主荷重方向の荷重成分に変換され得る。
【0050】
図7及び8は、図1〜6のアンカーの変形例を示している。図7及び8の変形例によれば、ボルト10は、径方向外側へ突き出す突出部11を備え、当該突出部11は、軸方向に互いに平行に延びるウェブとして具現されている。突出部11は、それぞれ内側から波の山21に嵌り込んでおり、それによって、スリーブ20とボルト10を相互回転不能に連結している。すなわち、突出部11は、スリーブ20とボルト10の間の回り止めを形成している。特に図8に示されているように、突出部11は、その際、拡張領域15に対して軸方向において後方へ、すなわち荷重導入領域19に向かってオフセットしている。その結果、突出部11が拡張要素30の拡張挙動を損なうことはない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8