【課題を解決するための手段】
【0012】
当該課題は、本発明に従って、請求項1の特徴を具備するアンカーによって解決される。有利な実施形態は、従属請求項において提示される。
【0013】
本発明によるアンカーは、スリーブが、スリーブの外半径及び内半径がそれぞれ最大値を示す軸方向に延びる波の山と、スリーブの外半径及び内半径がそれぞれ最小値を示す軸方向に延びる波の谷と、を備える波形を備えることを特徴としている。
【0014】
本発明の根本的な着想は、スリーブが波形を備え、当該波形においては、波の山と波の谷が、スリーブの周方向に見て交互に存在するという点に見ることができる。その際、波形は、特に同位相で、スリーブ内面にもスリーブ外面にも付与される。すなわち、波の山においては、スリーブの内半径も外半径も最大、特に局所的に最大であり、波の谷においては、スリーブの内半径も外半径も最小、特に局所的に最小である。
【0015】
この波形によって、本発明によるスリーブは、中実材(Vollmaterial)から成るスリーブと比較して本質的に材料費が安いにもかかわらず、これと同一の環状空間を覆うことができる。特に、本発明によるスリーブにおいては、ボルトをスリーブで支持するための接触点が波の谷に、スリーブを穴の壁で支持するための接触点が波の山に、それぞれ形成され得る。それによって、本発明によれば、機能性を本質的に損なうことなく、特に安価なスリーブを得ることができる。好ましくは、そのようなスリーブは、例えば金属板の変形プロセスにおいて製作され得る。それによって製造コストがさらに低減され得る。
【0016】
さらに、本発明による波形のスリーブによって、アンカーの荷重値、特に例えば地震の際に発生し得る横荷重における荷重値が、改善され得る。というのは、本発明による波形は、横方向におけるスリーブの狙い通りの変形を可能にすることができるからである。このことは、さらに以下で図面と関連して詳細に説明されるように、特に剪断力の代わりに軸方向の力成分が生成され得るという理由から、横荷重の受容を考慮した場合に有利であり得る。
【0017】
本発明によれば、波の谷及び波の山は軸方向に延びており、これは特に、スリーブの軸方向に隔たった断面において、波の山と波の谷がそれぞれ重なり合って存在することを含み得る。特に、スリーブは、少なくともある領域において、スリーブに沿って一定の断面を備え得る。すなわち、波の山及び波の谷の径方向の広がりは、長手軸に沿って変化しない。特に、波の谷及び/又は波の山は、長手軸に平行に延び得る。
【0018】
ここで、軸方向、径方向及び/又は周方向を話題にする限り、これは特に、ボルトの長手軸、スリーブの長手軸及び/又はアンカーの長手軸に関連し、これらの軸は、好ましくは一致する。また、外半径及び内半径は長手軸を起点として計測される。
【0019】
好ましくは、波形は周期的であり、これは特に、波の山及び波の谷が規則的な距離をもって繰り返されることを含み得る。これによって、特に高水準の対称性が達成され得る。このことは、力の伝達を考慮した場合に、有利であり得る。
【0020】
スリーブは、ボルトを、特に環状に取り巻いている。拡張領域は、特に、ボルトの前端の領域に設けられ得る。スリーブは、好ましくは、ボルトの拡張領域に対して、少なくともある領域において後方へオフセットしてボルトに配置されている。ボルトは、その後端の領域に、好ましくは、張力をボルトに導入するための荷重導入領域を備えている。例えば、荷重導入領域は、外ねじとして具現され得る。しかしながら、荷重導入領域を、バヨネット機構として、または、単純な断面拡張ヘッドとして具現することも考えられる。
【0021】
ボルトの拡張領域には、ボルトと拡張要素の間に、くさびギア(Keilgetriebe)が形成されており、当該くさびギアは、ボルトに軸方向の張力が作用する際、拡張要素を径方向外側へ押しやり、それによって、アンカーを穴の中に固定することができる。特に、拡張領域には、ボルトの傾斜面が設けられることができ、当該傾斜面において、ボルトの半径は、ボルトの後側に向かって減少し、すなわち、傾斜面はボルトの前側に向かって発散している。好ましくは、拡張領域は、拡張円錐である。アンカーは、特に、アンダーカットされた穴に固定されるアンダーカットアンカーであり得る。この場合、拡張要素は、固定の際、穴のアンダーカット部に嵌り込む。本発明によるアンカーは、好ましくは、外装パネルを基礎構造に固定するために用いられ得る。
【0022】
拡張要素は、軸方向においてスリーブに支持される。それによって、スリーブは、拡張要素のための受け部(Widerlager)を形成することができ、これによって、ボルトに軸方向の張力が作用している状態でボルトの拡張領域が拡張要素に対して作用する際に、拡張要素が後方へ退くことが阻止される。他方、スリーブは、その後面、例えば取り付け具(Anbauteil)において支持され得る。スリーブは、特に拡張スリーブとの区別において、スペーサスリーブとも称され得る。
【0023】
好ましくは、ボルトは一体に、特にモノリシックに形成されている。しかしながら、ボルトは複数の部分から成るものとしても形成され得る。その際、特に荷重導入領域と拡張領域は、ボルトの異なる部分に配置され得る。スリーブ及び/又はボルトは、好ましくは金属材料、特にスチールから成る。
【0024】
特に、スリーブの高さは、その外周の直径の少なくとも0.5倍、好ましくは少なくとも1倍であることが企図され得る。高さの大きなスリーブでは、本発明による材料節減効果が特に明確に認められ得る。
【0025】
波形が特に効率的に作用し得るよう、好ましくは、波の山と隣接する波の谷との間におけるスリーブの内半径の差は、少なくともある領域において、この領域でのスリーブの壁厚の少なくとも0.5倍、特に少なくとも1倍である。同じ理由から、好ましくは、波の山と隣接する波の谷との間におけるスリーブの外半径の差は、少なくともある領域において、この領域でのスリーブの壁厚の少なくとも0.5倍、特に少なくとも1倍である。山と谷の隔たりは、したがって、壁厚の少なくとも0.5倍である。
【0026】
スリーブが、その表面の特に少なくとも75%、好ましくは少なくとも90%において、一定の壁厚を有すると、特に有利である。これは、製造を考慮すると、有利であり得る。なぜなら、出発材料として金属板を用いて加工され得るからである。そのうえ、これは、力の伝達を考慮すると、有利であり得る。一定の壁厚からの逸脱は、例えば、局所的なフック要素において付与され得る。これは、スリーブと穴の壁との固定に役立つ。通例のごとく、一定の壁厚は、3%までの壁厚の変動を含み得る。
【0027】
さらに、スリーブの波形が完全に後方まで達している、すなわち波形が拡張要素とは反対側のスリーブの後面まで達していると、実用的である。特に、これによって、固定されたアンカーの波形が、穴の出口の格別近くにまで達することが保障され、これは、荷重の受容を考慮すると有利であり得る。波形がスリーブの全体を覆っていること、すなわち波の山と波の谷が、スリーブ全体に沿って、その前面から後面まで延びていることが、特に有利である。そのようなスリーブは、特に容易に製造されることができ、さらに、穴の内部での特に良好な芯出しをもたらす。
【0028】
少なくとも1つの拡張要素は、例えば、ボルトを取り巻くワイヤ製のリングであり得る。しかしながら、少なくとも1つの拡張要素が拡張タブであると、特に有利である。拡張タブは、特に、周方向にも軸方向にも平坦に延びる要素であると解釈され得る。拡張タブは、好ましくはボルトの外周の最大1/4を覆っている。すなわち、長手軸に関して計測された拡張タブの角度の広がりは、好ましくは90°より小さい。これによって、特に複数のそのような拡張タブが設けられる場合に、特に確実な拡張及び特に均等な力の導入が可能となる。拡張タブは、例えば曲げ特性に狙い通りの影響を及ぼすために、1つ以上の径方向に延びる凹部、好ましくは貫通開口を備え得る。
【0029】
拡張タブが、軸方向において波の山の前方に位置していると、特に実用的である。これは特に、拡張タブ及び波の山が、一方では、長手軸に関して共通の角度領域を覆い、すなわち拡張タブ及び波の山が、長手軸の方向で見た場合に、少なくともある領域で重なっており、他方では、拡張タブが、少なくともある領域で、軸方向において波の山よりもさらに前方に位置していることを含み得る。拡張タブは、それによって、少なくともある領域において波の山を延長し、及び/又は、少なくともある領域において波の山と一直線に並んでいる。波の山は、径方向において比較的はるか外側に位置しているので、本実施形態によれば、拡張タブも径方向において比較的はるか外側に位置し、それによって、波の山は、拡張領域に起因する小さな曲げ角度においても既に、特に効果的に穴の壁に対して作用し得る。それによって、製造コストが低いにもかかわらず、特に確実な固定がもたらされ得る。
【0030】
特に、アンカーが拡張タブとして形成された多数の拡張要素を備え、軸方向においてそれぞれの波の山の前方に拡張タブが位置していることが、企図され得る。これによって、付加的に、特に均等な力の伝達がもたらされ得る。複数の拡張タブが設けられている限り、これらの拡張タブのうち少なくとも1つ、好ましくは全てが、以上において1つの拡張タブに関連して説明されたように、具現され得る。複数の拡張タブが協働して1つの拡張スリーブを形成し得るが、これは必須ではない。
【0031】
本発明の別の有利な構成は、少なくとも1つの拡張要素がスリーブと一体に形成されている点にある。拡張要素とスリーブを統合することによって、特に扱いやすいアンカーを得ることができる。特に、少なくとも1つの拡張要素がスリーブと共にモノリシックに形成されていることが企図され得る。その際、モノリシックな具現は、特に、拡張要素とスリーブが接合箇所なしに繋がっていることを含み得る。これによって、製造が容易でありながら、アンカーの固定の信頼性がさらに高められ得る。これは、特に、拡張要素が特に確実に位置付けられるからである。
【0032】
さらに、スリーブに、当該スリーブを分割すると共に軸方向に延びるスリットが設けられていることが、特に有利である。スリットはスリーブを分割している。すなわち、スリットは、スリーブの前面から後面まで延びている。それに応じて、スリーブはボルトをC字状に取り囲んでいる。この構成は、スリーブの金属片からの特に容易な製造を可能にする。
【0033】
実用的には、スリットは波の谷に配置される。このことは、特に拡張要素が軸方向において全ての波の山の前方に位置している場合に、製造をさらに容易化し、力の導入をさらに均等化することを可能にする。
【0034】
本発明の別の有利な展開は、ボルトに少なくとも1つの突出部を設ける点にあり、当該突出部は、波の山との回り止めの形成の際に、スリーブに嵌り込む。それに応じて、突出部は、スリーブの内側において波の山に嵌り込み、それによって、長手軸の周りのボルトに対する回転に対して、スリーブを形状結合により固定する。それによって、波形は、特に容易な態様で、回り止めの機能をも果たし得る。好ましくは、突出部は、軸方向に延びるウェブである。これによって、軸方向に延びる形状結合、及び、それによって特に確実な回り止めが実現され得る。有利には、周方向に隔てられて複数の突出部が、特に軸方向に延びる複数のウェブがボルトに設けられ、それらは、それぞれ1つの波の山との回り止めの形成の際に、スリーブに嵌り込む。
【0035】
特に、突出部が、少なくともある領域で、軸方向において拡張領域に対して後方にオフセットしてボルトに配置されていることが企図され得る。それによって、拡張領域は、軸方向の移動がブロックされることによりスリーブが誤って位置付けられた際に、拡張挙動に対して潜在的にネガティブな影響を及ぼし得る隆起が無いままとされる。すなわち、この実施形態によって、特に容易な態様で、信頼性がさらに高められ得る。
【0036】
本発明の有利な構成は、スリーブが前方へ向かって次第に細くなっている点にある。縮径(Verjuengung)は、特に波の山に設けられることができる。すなわち、波の山は、前方へ長手軸に向かって延びている。このように構成されたスリーブによって、特に容易な態様で穴の直径の逸脱が補償されることができ、穴の内部での特に良好な座りを得ることができる。好ましくは、スリーブは、円錐状に前方へ向かって次第に細くなっている。これは、特に、波の山が円錐の母線を定義することを含み得る。
【0037】
本発明が、以下において、添付の図面に概略的に示された有利な実施例に基づいて詳細に説明される。その際、以下で示される実施例の個々の特徴は、本発明の枠内において、単独であるいは任意の組み合わせにおいて実現され得る。