(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6656418
(24)【登録日】2020年2月6日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】アイソレーティング・デカップラ
(51)【国際特許分類】
F16H 55/36 20060101AFI20200220BHJP
F16D 41/06 20060101ALI20200220BHJP
F16D 41/20 20060101ALI20200220BHJP
F16F 1/12 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
F16H55/36 H
F16D41/06 F
F16D41/20 A
F16F1/12 K
F16H55/36 Z
【請求項の数】11
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-557348(P2018-557348)
(86)(22)【出願日】2017年5月1日
(65)【公表番号】特表2019-515217(P2019-515217A)
(43)【公表日】2019年6月6日
(86)【国際出願番号】US2017030437
(87)【国際公開番号】WO2017196575
(87)【国際公開日】20171116
【審査請求日】2018年11月1日
(31)【優先権主張番号】15/154,713
(32)【優先日】2016年5月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504005091
【氏名又は名称】ゲイツ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】サーク,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ホジャート,ヤーヤ
(72)【発明者】
【氏名】クレイマン,イリヤ
(72)【発明者】
【氏名】ラダー,エシー
【審査官】
岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特表2015−518946(JP,A)
【文献】
特表2018−510304(JP,A)
【文献】
特表2013−504028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/36
F16D 41/06
F16D 41/20
F16F 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、
前記シャフトに軸支されるプーリと、
トーションスプリングとを備え、前記トーションスプリングは、前記トーションスプリングの各端部において回転軸A−Aに垂直な面内にある平坦面を有し、
前記トーションスプリングと前記シャフトの間に係合するワンウェイクラッチと、
トーションスプリング端部を前記ワンウェイクラッチに連結する溶接ビードと、
前記トーションスプリングの他端を前記プーリに結合する溶接ビードとを備える
アイソレーティング・デカップラ。
【請求項2】
前記プーリがベアリングにより前記シャフトに軸支される請求項1に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項3】
前記ワンウェイクラッチに係合するクラッチキャリアをさらに備え、
前記トーションスプリング端部が前記クラッチキャリアに溶接される請求項1に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項4】
前記プーリに溶接されるスプリングリテーナをさらに備え、
前記トーションスプリングの他端が前記スプリングリテーナに溶接される請求項1に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項5】
前記トーションスプリングの径方向の内側に配設されるリングをさらに備え、
前記トーションスプリングの他端が前記リングに溶接され、
前記トーションスプリングが前記プーリに溶接される請求項1に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項6】
各平坦面が360度より小さい角度で円周方向に延びる請求項1に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項7】
前記トーションスプリング端部を前記ワンウェイクラッチに結合する前記溶接ビードの長さが、角α、β、Δを有し、かつ合計長さα+β+Δを有する部分を備え、αはアクティブトーションスプリングコイルに隣接し、βはトーションスプリング端部に隣接し、Δはαとβの間にある請求項1に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項8】
前記トーションスプリング端部を前記ワンウェイクラッチに結合する前記溶接ビードの長さが、360°より小さい長さである請求項7に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項9】
前記トーションスプリングの他部を前記プーリに結合する前記溶接ビードの長さが360°より小さい長さである請求項1に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項10】
前記スプリングリテーナが前記プーリに溶接され、
前記プーリに溶接された前記スプリングリテーナの熱影響区域が、前記トーションスプリングの他端と前記スプリングリテーナの間における溶接の熱影響区域に径方向に重ならない請求項4に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項11】
前記トーションスプリングが、トランジッションコイルと、前記トーションスプリング端部を前記ワンウェイクラッチに結合する前記溶接ビードの端部との間に配置される保護コイル部分を備える請求項1に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアイソレーティング・デカップラに関し、特に、トーションスプリング端部をワンウェイクラッチに結合する溶接と、トーションスプリングの他端をプーリに結合する溶接とを備えるアイソレーティング・デカップラに関する。
【背景技術】
【0002】
旅客用車両のアプリケーションに用いられるディーゼルエンジンは、燃費が良いという利点のため、増加している。さらに、ガソリンエンジンは燃費を改善するために圧縮比を増加させている。この結果、ディーゼルおよびガソリンエンジンのアクセサリ駆動システムは、エンジンにおける上述した変化による、クランクシャフトからのより大きな振動に打ち勝たなければならない。
【0003】
増加したクランクシャフト振動に加えて、高い加減速比および高いオルタネータの慣性のため、エンジンアクセサリ駆動システムはしばしば、ベルトスリップによるベルトの軋み音を経験する。これは、ベルトの作動寿命も短縮させる。
【0004】
クランクシャフトのアイソレータ・デカップラおよびオルタネータのデカップラ・アイソレータは、エンジン作動回転範囲における振動を除去するため、およびベルトの軋みを制御するため、高い角振動を伴うエンジンに広く用いられてきた。
【0005】
この技術の代表は米国特許第8,931,610号明細書であり、この明細書は、プーリと、シャフトとを備え、プーリは低摩擦ブッシュによりシャフトに軸支され、スプリングキャリアを備え、プーリは低摩擦ブッシュによりスプリングキャリアに軸支され、スプリングキャリアは低摩擦ブッシュによりシャフトに軸支され、プーリとスプリングキャリアの間に接続されたトーションスプリングと、シャフトに摩擦的に係合するワンウェイクラッチスプリングとを備え、ワンウェイクラッチスプリングはスプリングキャリアに接続され、ワンウェイクラッチスプリングはトーションスプリングの径方向の内側に配置され、プーリはワンウェイクラッチスプリングの端部に一時的に係合可能であり、これによりワンウェイクラッチスプリングのシャフトに対する摩擦的係合が一時的に減少する、アイソレータ・デカップラを開示する。
【0006】
必要なものは、トーションスプリング端部をワンウェイクラッチに結合する溶接と、トーションスプリングの他端をプーリに結合する溶接とを備えるアイソレーティング・デカップラである。本発明はこの必要性に合致する。
【発明の概要】
【0007】
本発明の主な特徴は、トーションスプリング端部をワンウェイクラッチに結合する溶接と、トーションスプリングの他端をプーリに結合する溶接とを備えるアイソレーティング・デカップラである。
【0008】
本発明の他の特徴は、本発明の次の記載と添付した図面により示され、明らかになる。
【0009】
本発明は、シャフトと、シャフトに軸支されるプーリと、トーションスプリングとを備え、トーションスプリングは、トーションスプリングの各端部において回転軸A−Aに垂直な面内にある平坦面を有し、トーションスプリングとシャフトの間に係合するワンウェイクラッチと、トーションスプリング端部をワンウェイクラッチに結合する溶接ビードと、トーションスプリングの他端をプーリに結合する溶接ビードとを備えるアイソレーティング・デカップラである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
この明細書に組み込まれその一部を構成する添付図面は、本発明の好ましい実施形態を示し、説明とともに本発明の原理を説明するために用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明装置の断面図である。オルタネータのアイソレーティング・デカップラはプーリ1とトーションスプリング2とシャフト3とベアリング4とローラワンウェイクラッチ5とクラッチキャリア6とジャーナルベアリング7とカバー8とスプリングリテーナ9とを備える。
【0012】
プーリ1は、ベアリング4、7を介してシャフト3に取付けられる。ワンウェイクラッチ5はクラッチキャリア6に圧入される。トーションスプリング2はクラッチキャリア6をプーリ1に接続する。トーションスプリング2は溶接によりクラッチキャリア6とスプリングリテーナ9に接続される。スプリングリテーナ9は溶接によりプーリ1に接続される。組み立ての前、トーションスプリング2は、クラッチキャリア6およびプーリ1の両方に対して相対的に、負荷方向に自由に回転できる。
【0013】
要素の接続のためにレーザー溶接を使用することにより、溶接棒を用いることが不要になる。レーザー溶接では、各部分の母材が融解して結合し、単一の溶接ビードを形成する。他の実施形態では、溶接ビードを形成して要素を結合させるために、溶接工程において適当な溶接棒材料が用いられてもよい。工程の例はTIG溶接またはMIG溶接を含む。
【0014】
負荷がベルト(図示せず)によってプーリ1にかけられるとき、スプリング2は、スプリングリテーナ9に取り付けられた端部によって巻取り方向に負荷をかけられる。ワンウェイクラッチ5がシャフト3にロックされるので、クラッチキャリア6に取り付けられたトーションスプリング2の他端は負荷に抵抗する。
【0015】
所定のトルクにおいて、スプリング2は径方向に収縮して均一形状になり、これにより各スプリングコイルは略同じ径になる。トランジッションコイル300は収縮して、クラッチキャリア6の周りに巻き付いた連続的な螺旋構造を形成する。全てのコイルは通常、キャリア6とスプリングリテーナ9に係合する。所定のトルクの大きさはアプリケーションに依り、例えば約20Nmである。
【0016】
トランジッション300は半径R2を有する。トーションスプリング21、22の各端部は半径R1を有する。半径R2は半径R1より大きい。この明細書における数値は一例に過ぎず、本発明の範囲を制限することを意図していない。
【0017】
スプリング2は各端部21、22においてコイルを有する。各端部コイル21、22は、クラッチキャリア6およびスプリングリテーナ9との摩擦接触のために、トランジッションコイル300より小さい半径を有する。両端部コイル21、22は
図1に示されるように平坦である。面100を参照。
【0018】
図2は
図1の断面である。端部22の面100aは位置400と位置401の間を延びる。端部21には平面100bがある。平面100aは、スプリング端部22がキャリア6に溶接される環状縁部を提供する。平面100bは、端部21がリテーナ9に溶接される環状縁部を提供する。各平面100a、100bは回転軸A−Aに垂直な平面である。
【0019】
溶接のビード200は、コイルの端部において位置400で始まり、スプリング2のアクティブコイルの始まりである位置401で終わる。ビード200はスプリング2をキャリア6に溶接する。ビード200の円周方向長さは360度より小さい。
【0020】
アクティブコイルの原点は、スプリングコイルが本装置の他の要素に接触しない点、すなわち位置401により定義される。位置400は位置401から円弧角βの範囲内の位置にあってもよい。位置401は円弧角αの範囲内の位置にあってもよい。位置401において始まり、トランジッションコイル300の前に終わるコイル部分23は、本装置の動作において、トーションスプリング2がその残部の位置まで巻かれ、巻き戻されるときに、複数方向における動的負荷を防止するために用いられる。コイル部分23の内径はスプリングリテーナ9またはクラッチキャリア6に接触する。したがってトーションスプリング2の溶接部分の端部22は撓まない。保護的なコイル部分23の長さは、溶接されたコイルが動作中に経験する動的負荷を決定する。保護的なコイル部分23が長くなるほど、スプリング2の溶接部分、すなわち溶接200に接触するスプリングの部分に作用する負荷が小さくなる。したがってコイル部分23の長さは、特別なアプリケーションの動的な必要性に基づいて調節されてもよい。溶接部分200は短くしてもよく、これは、延いては保護的なコイル部分を長くし、これは溶接200によって経験される動的負荷を低減させる。
【0021】
角α、βを調節することにより、つまりスプリング保護コイル23の長さにより、本装置は、溶接200において特定の負荷を有するように調節されることができる。調節により、使用者は部品公差による製造ばらつきを補償することができる。これは延いては、一定のシステムのために本装置を設計および製造するときに、多様な機能を本装置に付加することとなる。あるアプリケーションでは、αとβの両方ともゼロに等しい。
【0022】
次の表は、保護コイル部分23の長さがどのように変化しうるかを示す例である。βの最小値は0°、すなわち溶接200はスプリングの端部において始まる。αの最大値は、閉じたコイルスプリングであり、溶接200がコイル全体の円周長さに延びるのであれば、360°である。表における保護コイル23の長さの値は、4.6mm×4.6mmのコイル断面を有するスプリングの一例である。断面が変化すると、保護コイル23の長さがαとβの値により変わる。
【0024】
スプリング端部21の捻り負荷は、溶接201の端部の位置401において始まる。角αはゼロ以上である。角βはゼロ以上である。角Δは角αと角βの間に配置される。角Δは90度から140度の範囲にある。したがって溶接ビード200の全円周長さは
α+β+Δ<360°
である。
【0025】
図3は
図1の断面である。溶接ビード201はスプリングリテーナ9をスプリング端部21に溶接する。溶接201は端部403、404の間の角γにより区画される部分の範囲内にある。溶接ビード202は端部405、406の間において、スプリングリテーナ9とプーリ1の間にある。
【0026】
溶接201は熱影響区域(HAZ)を生じさせる。溶接202は、溶接202のための溶接作業による溶接201からのHAZの影響を避け、またHAZを可能な限り低下させるために、角γにより区画される部分に対して周方向の外側にある。溶接201の角γは60度から120度の範囲にある。ビード202とビード201の合計した円周方向長さは360度よりも小さい。
【0027】
端部406は、HAZが影響されないように、端部404、406の間の径方向距離「d」に従って端部404に対して僅かに径方向に重なってもよいが、端部406は約5度の円周方向の間隙「a」を残すことによって端部404に達しない。HAZが影響されないように、403、405の間の径方向距離「d」に従って端部405、403の間に僅かな径方向の重なりがあり得るが、端部405は約5度の隙間「b」を残すことによって端部403に達しない。
【0028】
図4は本発明装置の分解図である。カバー8はプーリ1にスナップフィットされる。リテーナ6はワンウェイクラッチ5に圧入される。
【0029】
図5は他の実施形態の断面図である。この実施形態においてスプリング2は、ビード502によってスプリングリテーナリング21に、またビード501によってプーリ1に溶接される。2つのベアリング22、24を用いた、より堅牢な設計を考慮してもよい。特に、溶接ビード500はスプリング端部210をキャリア6に溶接する。溶接ビード501は端部220をプーリ1に溶接する。溶接ビード502はスプリングリテーナリング21を端部220に溶接する。リング21はトーションスプリング2の内側にある。
【0030】
この図に別段の記載がない限り、スプリング20の平らな端部はこの明細書における他の図に記載されたように準備される。
【0031】
図6は
図5における他の実施形態の分解図である。
【0032】
本発明の形態が説明されたが、当業者がここに記載された発明の精神と範囲から逸脱することなく、構成と部分の関係と方法において変形を施すことは自明である。